JP2015167475A - 転写制御因子manR及びxlnRを二重強制発現させた麹菌を用いる多糖類の分解方法 - Google Patents

転写制御因子manR及びxlnRを二重強制発現させた麹菌を用いる多糖類の分解方法 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明は、転写制御因子manR及びxlnRを同時に強制発現させた麹菌を用いることで、多糖類の分解方法、延いては諸味粘度を低下させ圧搾性をより向上させた醤油の製造法を提供することを目的とする。【解決手段】本発明は、manR遺伝子又はその相同遺伝子及びxlnR遺伝子又はその相同遺伝子を強制発現させた形質転換体用いて多糖類を分解する方法を提供する。【選択図】図15

Description

本発明は、転写制御因子manR及びxlnRを二重強制発現させた醤油麹菌を用いる多糖類の分解方法、延いては当該方法を用いた醤油の製造方法に関する。
醤油麹菌アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)及び麹菌アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)は、古くから日本の食品製造に用いられてきた醸造微生物であり、ともに産業上非常に重要な糸状菌である (例えば、非特許文献1参照)。
醤油醸造において麹カビの生産する数多くの酵素は、原料分解という重要な役割を担っている。なかでも糖質加水分解酵素は、原料由来のセルロース、ヘミセルロース及びペクチン類などの多糖成分を分解することで、醤油醸造における諸味粘度を低下させ、圧搾を容易にする働きをしていると考えられる。
糖質分解酵素のうち、カルボキシメチルセルロース糖化酵素(CMCase)や、ペクチン液化酵素(ペクチナーゼ)、ペクチンリアーゼ、及びβ−グルカナーゼなどの麹菌酵素は、醤油醸造における諸味粘度の低下とろ過性の向上、及び醤油諸味の圧搾性の向上に重要な働きをすることが知られている(例えば、非特許文献2参照)。
CMCaseに関しては、大豆細胞壁のキシログルカン分解に関与し、これが圧搾性の向上につながっていると考えられている(例えば、非特許文献2参照)。
上記のように、醤油醸造における糖質分解酵素群の働きは、諸味粘度の低下と圧搾性の向上に大きな影響を及ぼす要因である。そのため、醤油醸造時に麹菌の生産する糖質加水分解酵素群の働きが弱かった場合には、諸味粘度が増加することにより圧搾性の低下が生じ、諸味より回収できる液汁の量が減少するという問題が発生する。
この問題を防ぐする手段としては、CMCaseなどのセルラーゼや、ヘミセルラーゼ及びペクチナーゼをコードしている遺伝子を強制発現することにより、糖質分解酵素の生産量を増強した麹菌を醤油醸造に用いることが考えられる。しかし、複数の糖質分解酵素遺伝子を同時に強制発現し麹菌酵素の増強を行っていくことには限界がある。特に、二種類の転送制御因子が必ずしも相加効果を発揮するとは限らず、ましてや、相乗効果を生じさせることは当業者でも予測できない。
また、原料由来の多糖類については、その構造が複雑であるがゆえ、効率的な分解には複数の性質の異なる酵素群が協調して作用する必要がある。例えば、ヘミセルロースの1つである4−−メチルグルクロノアラビノキシランを効率的に分解するためには、キシランの主鎖を分解するエンドキシラナーゼやβ−キシロシダーゼだけでなく、側鎖分解酵素であるα−L-アラビノフラノシダーゼ、α−グルクロニダーゼ、アセチルキシランエステラーゼ等、複数の酵素の働きが必要である(例えば、非特許文献3参照)。
そのため、糖質分解酵素の制御因子の遺伝子を強制発現させることで、目的とする糖質分解酵素群の生産を包括的に増大させるという方法が、原料由来の多糖類の分解を促進するのに有効であると考えられる。
これまでに麹菌アスペルギルス・オリゼーでは、キシラン加水分解酵素遺伝子群及びセルロース加水分解酵素群の正の転写制御因子であるXlnRが発見されている(例えば、非特許文献4、非特許文献5及び特許文献1参照)。
また、本菌株では、近年、マンナン加水分解酵素遺伝子群及びセルロース加水分解酵素遺伝子群の正の転写制御因子であるManR(例えば、非特許文献6、非特許文献7及び特許文献2参照)が見出されている。
麹学 第5版 村上英也 編著 醤油の科学と技術、栃倉辰六郎編集 Hemicellulose and Hemicellulases, Edited by M.P. Coughlan and G.P.Hazlewood Fungal Genet. Biol.; 35、157−169(2002) FEBS Lett.528、279−282(2002) Fungal Genet. Biol.; 49、987−995(2012) Biosci. Biotechnol. Biochem.;77、426−429(2013)
特開2001−095581号公報 WO2010/101129号公報
本発明は、転写制御因子manR及びxlnRを同時に強制発現させた麹菌を用いることで、麹中の糖質分解酵素の活性を増大させ、多糖類の分解を増強し、延いては諸味粘度を低下させた醤油の製造法を提供することを目的とする。
従来、転写制御因子manR及びxlnRを同時に強制発現させた場合にセルラーゼ及びヘミセルラーゼ生産への影響が相加的もしくは相乗的に表れるかは、醤油麹菌アスペルギルス・ソーヤに限らず、麹菌であるアスペルギルス・オリゼー、黒かびであるアスペルギルス・ニガーなどの他のアスペルギルス属糸状菌でも調べられた例は無い。
このような状況下において、本発明者等は、菌類においてアスペルギルス・ソーヤ由来の転写制御因子manR遺伝子およびおよびxlnRを強制発現させることで多糖類の分解が増強されることを見出し、さらに本強制発現株を醤油醸造に用いることで、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本願は以下の発明を提供する:
第1の発明は、manR遺伝子又はその相同遺伝子及びxlnR遺伝子又はその相同遺伝子を強制発現させた形質転換体用いて多糖類を分解する方法に関する。より具体的には、下記の遺伝子(a)(manR遺伝子又はその相同遺伝子)及び遺伝子(b)(xlnR遺伝子又はその相同遺伝子)が強制発現される。
(a) 下記(a-1)〜(a-5)のいずれかの遺伝子:
(a-1) 配列番号1記載の塩基配列から成る遺伝子、
(a-2) 配列番号3記載のアミノ酸配列をコードする遺伝子、
(a-3) 配列番号1記載の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列から成る、糖質加水分解酵素の転写制御因子をコードする遺伝子、
(a-4) 配列番号3記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列から成る、糖質加水分解酵素の転写制御因子をコードする遺伝子、あるいは
(a-5) 配列番号3記載のアミノ酸配列の1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列から成る、糖質加水分解酵素の転写制御因子をコードする遺伝子、並びに
(b) 下記(b-1)〜(b-5)のいずれかの遺伝子:
(b-1) 配列番号2記載の塩基配列から成る遺伝子、
(b-2) 配列番号4記載のアミノ酸配列をコードする遺伝子、
(b-3) 配列番号2記載の塩基配列から成る遺伝子と90%以上の同一性を有する塩基配列から成る、糖質加水分解酵素の転写制御因子をコードする遺伝子、
(b-4) 配列番号4記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列から成る、糖質加水分解酵素の転写制御因子をコードする遺伝子、あるいは
(b-5) 配列番号4記載のアミノ酸配列の1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列から成る、糖質加水分解酵素の転写制御因子をコードする遺伝子。
上記遺伝子は、それぞれ適切な強制発現用プロモーター制御下になるように連結したベクターに配置される。例えば、遺伝子(a)はトランスレーションエロンゲーションファクターのプロモーターの支配下、そして、遺伝子(b)はアルカリプロテアーゼのプロモーターの支配下に置かれるのが好ましい。このようなベクターを作製したのち、これを、宿主に導入することで所望の形質転換体(manRxlnR二重強制発現株)が作製される。宿主の例として糸状菌、好ましくはアスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)が挙げられるが、これらの限定されることを意図していない。分解される多糖類は大豆および小麦等の醤油原料由来の多糖類であってもよい。
第2の発明は、上記多糖類の分解方法を用いた醤油の製造法に関する。
第3の発明は、上記遺伝子(a)及び(b)を含む組換えベクターに関する。
第4の発明は、上記組換えベクターを含む形質転換体に関する
本発明により、醤油原料中の多糖類の分解が促進され、延いては諸味粘度を低下させた醤油製造法を提供することができる。その結果、諸味からの自然だれによる液汁回収量が増加する。また、諸味粘度が低下していることから、本製法で作製した諸味は圧搾性が向上していることが期待される。尚、2つの転写制御因子遺伝子manR及びxlnRを二重強制発現させた菌類が、多糖類の分解増強や、醤油醸造において諸味粘度低下や圧搾性の向上のなどの有用な性質を示すかどうかについては、本出願より前の時点には全く知見が無い状態であった。
アスペルギルス・ソーヤ KP―del株作製過程 アスペルギルス・ソーヤKP―del株からのadeA 遺伝子除去方法 DNAシーケンス解析による adeA 遺伝子欠失領域の確認 KPA−del−S2−5R株の栄養要求性の確認結果 アスペルギルス・ソーヤ KP―del株の pyrG 復元確認結果 xlnR遺伝子強制発現用カセットの構造と宿主への組込み位置 xlnR―OE (ΔpyrG)株のPCRによる確認結果 manR遺伝子強制発現用カセットの構造と宿主への組込み位置 manR-xlnR-OE株のPCRによる確認結果 manR 単独強制発現株のPCRによる確認結果 PCRによる xlnR−OE (ΔpyrG) 株の pyrG 遺伝子復元確認結果 アスペルギルス・ソーヤでのmanRxlnR二重強制発現によるマンナン加水分解酵素群生産への影響 アスペルギルス・ソーヤでのmanRxlnR二重強制発現によるキシラン加水分解酵素群生産への影響 アスペルギルス・ソーヤでのmanRxlnR二重強制発現によるセルロース加水分解酵素群生産への影響 manRxlnR二重強制発現株を用いた醤油原料短期間分解試験における麹及び諸味の状態 manRxlnR二重強制発現株を用いた醤油原料短期間分解試験における諸味粘度測定結果 manR―xlnR二重強制発現株を用いた醤油原料短期間分解試験における自然だれによる回収液汁量測定結果 アスペルギルス・ソーヤNBRC4241株系統でのmanRxlnR二重強制発現株 (MXOE―N2株)の作製 MXOE―N2 株を用いた醤油原料短期間分解試験結果 MXOE―N2株を用いた醤油小規模醸造試験における諸味の状態 MXOE―N2株を用いた醤油小規模醸造試験における諸味粘度測定結果 MXOE―N2株を用いた醤油小規模醸造試験における自然だれによる回収液汁量測定結果
本発明にて利用するmanRxlnR二重強制発現株は、配列番号1(manR遺伝子)及び配列番号2(xlnR遺伝子)を単離後、適当なプロモーターに連結したベクターを作製した後、これを宿主とする醤油麹菌等の糸状菌に導入することで得ることができる。このようにして得られた形質転換体を用いて、多糖類の分解、延いては醤油醸造を行うことで、本発明を実施することが可能である。
配列番号1の塩基配列から成るmanR遺伝子及び配列番号2の塩基配列から成るxlnR遺伝子に代えて、糖質加水分解酵素の転写制御因子をコードする、それらの相同遺伝子を利用してもよい。相同遺伝子は、例えば、各遺伝子と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上の同一性を有することが好ましい。各遺伝子をコードするタンパク質についても、その相同タンパク質が糖質加水分解酵素の転写制御因子である限り、当該タンパク質をコードする遺伝子を利用することができる。本明細書で使用する場合、「同一性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つの塩基配列又はアミノ酸配列をアラインさせた場合の、最適なアラインメントにおける、オーバーラップする全塩基又は全アミノ酸残基に対する、同一塩基又はアミノ酸残基の割合(%)を意味する。好ましくは、当該アルゴリズムは最適なアラインメントのために配列の一方もしくは両方へのギャップの導入を考慮し得るものである。
本発明のmanR-xlnR二重強制発現株の作製は、本明細書の開示内容に基づき当業者であれば容易に実施することができる。例えば、アスペルギルス・ソーヤ、さらに具体的には、アスペルギルス・ソーヤNBRC4239株(寄託機関:独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジー本部、寄託番号ID:NBRC4239)が挙げられる。
manR-xlnR二重強制発現株で産生が増強される糖質加水分解酵素の例として、セルロース、ヘミセルロース及びペクチン類などの多糖成分を分解する酵素が挙げられる。本発明の二重強制発現株は特に、セルラーゼ及びヘミセルラーゼの産生を増強させることができるため、セルロース及びヘミセルロースの分解に好適に使用することができる。
形質転換体の作製方法
本発明の組換えベクターは、manR遺伝子及びxlnR遺伝子を適当なベクター上に連結することにより得ることができる。ベクターとしては、形質転換する宿主中で該2種転写制御因子を強制発現であればどのようなものでも用いることができ、例えば、染色体組み込み型に限らず、糸状菌において保持可能な自立複製型プラスミドなどのベクターを用いることもできる。
宿主染色体上に強制発現用ベクターを導入する場合、ベクターに搭載されている遺伝子が正しく強制発現される状態であるならば、その導入様式は限定されない。例えば、染色体にベクターを組み込ませる場合には、目的とする染色体上の領域に対応する配列を組み込もうとするベクターの両端に付加し、相同組換えを利用し組み込ませても良い。また、外来DNAの宿主染色体上への非相同組換えによる取り込みを利用し、ベクターを宿主染色体上にランダムに組み込んでも良い。
ベクターには、形質転換された細胞を選択することを可能にするためのマーカー遺伝子が含まれていてもよい。
マーカー遺伝子としては、例えば、adeApyrGargBtrpCniaDsC、のような、宿主の栄養要求性を相補する遺伝子や、ピリチアミンやオーレオバシジンなどの薬剤に対する抵抗遺伝子などが挙げられる。
対象転写制御因子の強制発現に用いるプロモーターとしては、例えば、アルカリプロテアーゼプロモーター(alpプロモーター)、トランスレーションエロンゲーションファクタープロモーター(tef1プロモーター)、α―アミラーゼプロモーター等が挙げられる。
本発明の形質転換体は、宿主を、組換えベクターで形質転換することにより得られる。宿主としては、多糖類の分解に適した菌類であれば特に限定はされず、例えば、アスペルギルス・ソーヤ、アスペルギルス・オリゼー等の醤油醸造に用いることができる糸状菌類が挙げられる。
形質転換は、宿主に応じて公知の方法で行うことができる。糸状菌を用いる場合は、例えば、プロトプラスト化した後ポリエチレングリコール及び塩化カルシウムを用いるMol.Gen.Genet.,218:99−104,1989に記載の方法が利用できる。
以下、実施例に即して本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの記載によって、なんら制限されるものではない。
・醤油麹菌アスペルギルス・ソーヤのmanR遺伝子及びxlnR遺伝子の推定
アスペルギルス・ソーヤNBRC4239株については、そのドラフトゲノム解析の結果が2011年に公開されており(DNA Research;18, 165−176、2011)、本菌のスキャッフォールドの塩基配列は、DDBJ/ENA/Genbankアクセッション番号DF093557からDF093585として登録・公開されている。
本NBRC4239株のゲノム配列中に、アスペルギルス・オリゼーRIB40株にて公開されているxlnR遺伝子(DOGAN遺伝子番号:AO090012000267、(http://www.nbrc.nite.go.jp/dogan/)及びmanR遺伝子(DDBJ/ENA/Genbankアクセッション番号:AB701764)に相当する遺伝子が存在するか、BLASTプログラム(Nucleic Acids Res.,25、3389?402、1997)を利用して検索を行った。
その結果、アスペルギルス・ソーヤのゲノムDNA上には、配列番号1に示すアスペルギルス・ソーヤmanR遺伝子(スキャッフォールド11番、DDBJアクセッション番号DF093563.1:591177―588691)及び、配列番号2に示すアスペルギルス・ソーヤxlnR遺伝子(スキャッフォールド48番、DDBJアクセッション番号DF093577.1:2111489−2114520)が存在していることを確認できた。
また、アスペルギルス・オリゼーにおけるそれぞれの転写制御因子遺伝子のエクソン−イントロン構造を基に、アスペルギルス・ソーヤにおけるmanR及びxlnR遺伝子のエクソン−イントロン構造の予測を行った。そのデータを基に各遺伝子がコードしているアミノ酸の配列を、GENETYXソフトウエアー・バージョン11(株式会社ジェネティクス製)を用いて推定した。
その結果、配列番号1のmanR遺伝子は、配列番号3に示すアミノ酸配列を、配列番号2のxlnR遺伝子は配列番号4に示すアミノ酸配列をそれぞれコードしていることが予想された。なお、アスペルギルス・ソーヤのManR(配列番号3)とアスペルギルス・オリゼーのManR(AB701764)の同一性は、98%であり、8個のアミノ酸の相違が見られた(763/771)。また、アスペルギルス・ソーヤのXlnR(配列番号4)と、アスペルギルス・オリゼーのXlnR(AO090012000267)の同一性は、97%であり、27個のアミノ酸の相違が見られた(922/949)。このことから、ManR及びXlnRに関しては、アスペルギルス・ソーヤとアスペルギルス・オリゼーで異なった配列のものを有していると考えられる。
・醤油麹菌アスペルギルス・ソーヤにおけるmanRxlnR二重強制発現株の作製
配列番号1番及び配列番号2番に示す遺伝子を、醤油麹菌にて同時に強制発現させた場合に、本菌のセルラーゼ・ヘミセルラーゼ生産能を増強させる効果があるか検証した。
・強制発現株の作製時に使用した培地
アスペルギルス・ソーヤの液体培養用培地としては、デキストリン−ペプトン培地(ポリペプトン 1%、デキストリン 2%、リン酸二水素カリウム 0.5%、硝酸ナトリウム 0.1%、硫酸マグネシウム 0.05%、カザミノ酸 0.1%、pH 6.0)を使用した。
また、本菌を培養する際の最少寒天培地には、Czapek−Dox最少培地(3.0% glucose,0.05% KCl,0.2 % NaNO3,0.1% KH2PO4,0.05% MgSO4,0.001% FeSO4,pH 6.0)を用いた。
また、本菌の分生子を形成させる際には、マルツ寒天培地(麦芽エキス8%、硫酸銅 0.0002%、四ほう酸ナトリウム0.00004%、リン酸第二鉄0.00087%、硫酸マンガン0.00095%、 モリブデン酸ナトリウム 0.0008%、硫酸亜鉛 0.0008%、寒天1.5%、pH6.0)を用いた。
栄養要求性株培養する場合には、ウリジン要求性株では終濃度15mMのウリジンを、アデニン要求性株では終濃度0.01%のアデニンを使用する培地に添加した。
・醤油麹菌アスペルギルス・ソーヤの菌体からのゲノムDNAの調製方法
ベクター作製時のFusion PCRの鋳型DNAなどに使用する麹菌アスペルギルス・ソーヤNBRC4239株のゲノムDNAは、下記の手順にて抽出・精製を行った。糸状菌菌体又は分生子を、150ml容の三角フラスコに入った40mlのデキストリン−ペプトン培地に植え、30℃、150rpmで3日間培養した。培養終了後、ろ過により菌体を回収し、ペーパータオルで挟み、水分を除いた後、液体窒素を用いて急速に凍結させた。
次に、液体窒素を注いで冷却してある乳鉢に凍結した菌体を入れ、液体窒素で冷却してある乳棒を用いて念入りに粉砕した。この粉砕から、Genomic DNA extraction Kit(プロメガ社製)を用いて全DNAを抽出したのち、DNase free のRNase(ニッポンジーン社製)にて検体を処理し、混入していたRNAを分解し以降の実験に用いた。
・醤油麹菌アスペルギルス・ソーヤの分生子からのゲノムDNAの調製
菌体をマルツ寒天培地にて30℃、7日間培養し分生子を形成させた。この分生子を、プレート1枚あたり5mLの滅菌済み0.01% Tween溶液に懸濁後して回収した。得られた分生子懸濁液500 μLを遠心分離後、沈殿を800μLのNuclei Lysis Solution (Promega社製) に再懸濁したのち、これを直径0.5mmのガラスビーズ(500μL分)を入れたスクリューキャップ付き2.0mLに移し、ビーズショッカー(安井機器社製)により破砕した。破砕液を650μL分取後、300μLのProtein Precipitation Solution(Promega社製)を加えて混合したのち、12,000xで15分間遠心分離し、上清を650μL分取した。ここに650μLのフェノール・クロロフォルム・イソアミルアルコール(ニッポンジーン社製)を加えた後、ボルテックスミキサーにより激しく混合し、12,000xで10分間遠心分離した。水層を600μL分取し、2−propanol沈殿により濃縮後、沈殿を50μLのTEバッファーにより溶解し、これをゲノムDNAとした。
・本実施例2にて用いた宿主株作製とその作製経緯
実施例2に記載するmanR−xlnR二重強制発現株は、アスペルギルス・ソーヤ KPA−del−S2−5R株(ΔpyrG,ΔadeA、Δku70)(アスペルギルス・ソーヤNBRC4239株誘導体)を宿主として作製した。
なお、アスペルギルス・ソーヤ KPA−del−S2−5R株は、アスペルギルス・ソーヤKP−del株(ΔpyrG、Δku70)(NBRC4239株誘導体)(キッコーマン株式会社 真中純子氏より供与)を親株として作製した株である。
アスペルギルス・ソーヤKP−del株(ΔpyrG、Δku70)は、次の手順を経て得られた株である(図1)。
アスペルギルス・ソーヤNBRC4239株を、過塩素酸を含む培地上で培養することにより、niaD遺伝子に自然変異が導入され不活性化された株(アスペルギルス・ソーヤΔniaD株)を取得した。このΔniaD株のpyrG遺伝子座に、変異の導入されていないniaD遺伝子を導入することにより、アスペルギルス・ソーヤΔpyrGniaD+株を作製した。
このΔpyrGniaD+株のku70遺伝子を、pyrG遺伝子により破壊したのち、pyrG遺伝子の除去を行い、Δku70、ΔpyrG株であるアスペルギルス・ソーヤP6−1−12株を得た。
次に、このP6−1−12株のpyrG遺伝子座に導入されているniaD遺伝子を除去しΔku70、ΔpyrG、ΔniaD株であるND−del株を取得した。ND−del株に存在する変異型niaD遺伝子を、変異が導入されていないniaD遺伝子に置き換え、niaD遺伝子が野生型に復帰した状態の株であるアスペルギルス・ソーヤKP−del株(Δku70、ΔpyrG株)を得た。
アスペルギルス・ソーヤ KPA−del−S2−5R株(ΔpyrG,ΔadeA、Δku70)は、以下に示す工程を経て作製した株である(図2)。
アスペルギルス・ソーヤKP−del株に、pyrGをループアウトにより除去可能な状態で、adeA遺伝子座に導入した。adeA除去用ベクターはFusion PCR法を用いて調製した。
PCR用酵素には、TOYOBO社のKOD Plus Neoを、鋳型にはアスペルギルス・ソーヤNBRC4239株由来のゲノム(1反応あたり20ng)を使用し、全量40μLにて反応を実施した。また、使用したプライマーの配列は、表1〜4に示した通りである。1st PCRの温度サイクルの条件は、94℃、2分間の加熱ののち、98℃ 10秒間、60℃10秒間、68℃ 5分間を35サイクルとした。
得られたPCR産物全量を電気泳動後、QIAGEN社のゲル抽出キットを用い精製した。この精製DNAフラグメントを各20μLずつ混合し、そのうち16μLをFusion PCR用の鋳型として使用した。Fusion PCR実施時のプライマーセットとしては、配列番号5と配列番号12を使用した。PCR用酵素は、1st PCRと同様にKOD Plus neoを使用し、全量320μLで反応を行った。Fusion PCRの温度サイクルの条件は、94℃、2分間の加熱ののち、98℃10秒間、68℃10分間を35サイクルとした。増幅したadeA破壊用ベクターを、2−プロパノール沈殿により濃縮し、10μLのTEバッファーに溶解した。これをプロトプラスト−PEG法を用いてアスペルギルス・ソーヤKP−del株に導入した。
なお、本形質転換では、ベクターにpyrGマーカーがついているため、得られる株は、pyrG+株となるが、adeAが破壊された状態となるため、選択培地には終濃度で0.01%になるようアデニンを添加した1.2Mソルビトール入りのCzapek−Dox最少培地を用いた。得られた形質転換体を、アデニンを含むCzapek−Dox最少培地にて2回植え継いだのちマルツ寒天培地に植え、分生子を形成させた。この分生子を、プレート1枚あたり5mLの滅菌済み0.01% Tween溶液に懸濁後して回収し、ゲノムDNAを抽出・精製した。このゲノムDNAを鋳型とし、配列番号5と配列番号12をオリゴヌクレオチドプライマーとして使用したPCRを行い、目的とする領域にベクターが導入されているかを確認した。なお、ネガティブコントロールには、アスペルギルス・ソーヤKP−del株を使用した。
その結果、正しくベクターが導入されていた株が4株得られていた。また、これら4株はいずれもアデニン要求性を示す株であった。本形質転換体をアスペルギルス・ソーヤKA−del(Δku70、ΔadeApyrG+)と名づけた。
アスペルギルス・ソーヤKA−delをマルツ寒天培地に植え、30℃で7日間培養したのち、分生子を回収した。この分生子を滅菌済み0.01%Tween溶液にて、2.5×105/mLになるように希釈した。この希釈液200μLを終濃度1.5mg/mLの5−フルオロオロチン酸(5−FOA)と15mMウリジン及び0.01%アデニンを含む、ツアペックCzapek−Dox最少培地にスプレッダーによりまき、30℃で4日間した。得られた5−FOA耐性株を再度マルツ寒天培地で培養後、分生子よりゲノムDNAを抽出した。このゲノムDNAを鋳型とし、配列番号13及び配列番号14に示すオリゴヌクレオチドプライマー(いずれも欠失領域の外側に設計したプライマー)を用いたPCRを行うことにより、pyrG遺伝子の脱落を含むループアウト型組み換えが生じているかを確認した。その結果、複数の株において、目的とする組換え体が得られていることがわかった(図3A)。
その中の1株であるS2−5R株について、ゲノムの欠失領域とその周辺領域のDNA配列の解析をおこなった(図3A)。その結果、本株では当初設計していた通りの組換えが生じていることが確認できた。また、本株の栄養要求性を調べたところアデニン、ウリジン二重栄養要求性株であることが確認された(図3B)。
この株を、アスペルギルス・ソーヤKPA−del−S2−5R(Δku70、ΔpyrG、ΔadeA株)と名づけ、manRxlnR二重強制発現株作製用の宿主として用いることとした。
また、アスペルギルス・ソーヤKP−del株のpyrG遺伝子を野生型と同じものに回復させた株についても作製した。アスペルギルス・ソーヤNBRC4239株のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号15及び16に示したオリゴヌクレオチドプライマーを用い、pyrG遺伝子全長を含む6.6kbのDNAフラグメントを導入しpyrG遺伝子を復元した株を作製した。本株のpyrG遺伝子の復元をPCRにより確認した結果を図4に示した。
なお、確認時のPCR用のプライマーには配列番号15及び配列番号16を使用した。電気泳動の結果、pyrG遺伝子が復元された宿主株が複数取得できていることが確認された。この形質転換体をアスペルギルス・ソーヤNBRC4239Δku70株とし、manR及びxlnR強制発現の効果の確認のを行う際のネガティブコントロールとして使用した。
xlnR強制発現カセット導入株の作製
xlnR強制発現用ベクターの概要を図5に記した。
今回強制発現させるターゲット遺伝子は転写制御因子であるため、ベクターのコピー数の増加を実施すると、菌体に負荷がかかりすぎ、悪影響を生じることが懸念される。そのため、もともとあったxlnRのプロモーターをより強力なアルカリプロテアーゼ遺伝子のプロモーターに置換し、固体培養時にのみxlnRが高発現されるようにした。
xlnR強制発現用ベクターはFusion PCR法を用いて調製した。PCR用酵素にはTOYOBO社のKOD Plus Neoを、鋳型にはアスペルギルス・ソーヤNBRC4239株由来のゲノム(1反応あたり20ng)を使用し、全量40 μLにて反応を実施した。
また、使用したプライマーの配列は、表7〜10に示した通りである。1st PCRの温度サイクルの条件は、94℃ 2分間の加熱ののち、98℃ 10秒間、60℃10秒間、68℃ 5分間を35サイクルとした。
得られたPCR産物全量を電気泳動後、QIAGEN社のゲル抽出キットを用い精製した。この精製DNAフラグメントを各20 μLずつ混合し、そのうち16 μLをFusion PCR用の鋳型として使用した。Fusion PCR実施時のプライマーセットとしては、配列番号17と配列番号24を使用した。PCR用酵素は、1st PCRと同様にKOD Plus neoを使用し、全量40μLで反応を行った。Fusion PCRの温度サイクルの条件は、94℃ 2分間の加熱ののち、98℃10秒間、68℃10分間を35サイクルとした。
Fusion PCRの産物をアガロースゲル電気泳動により確認したところ、強制発現用ベクターは微量にしか得られなかった。そこで、増幅したFusion PCR産物をゲル抽出により精製後これを鋳型とし、表11に示したプライマーを使用しnested PCRを実施した。
その結果、対象とする強制発現用ベクターを良好に増幅することができた(反応条件は、反応液量を320μLに増やした以外は、Fusion PCRと同じである)。
増幅したxlnR強制発現用ベクターを、2−プロパノール沈殿により濃縮し、10μLのTEバッファーに溶解した。これをプロトプラスト−PEG法を用いてアスペルギルス・ソーヤKPA−del−S2−5R株に導入した。なお、本形質転換では、ベクターにadeAマーカーがついているため、得られる株はadeA+株となるが、pyrGについては破壊されたままとなるため、選択培地には終濃度で15mMになるようウリジンを添加した1.2Mソルビトール入りのCzapek−Dox最少培地を用いた。このゲノムDNAを鋳型とし、配列番号25と配列番号26に記したオリゴヌクレオチドプライマーを使用したPCRを行い、目的とする領域にベクターが導入されているかを確認した。なお、ネガティブコントロールには、宿主であるアスペルギルス・ソーヤKPA−del−S2−5R株を使用した。PCRによる形質転換体の確認結果を図6に記した。得られた形質転換体にはベクターが正しく導入されており核も純化された状態であった。この形質転換体をアスペルギルス・ソーヤxlnR−OEΔpyrG株とした。
xlnR強制発現株へのmanR強制発現用カセットの導入
次に、xlnR−OEΔpyrG株を宿主とし、manRxlnR二重強制発現株を作製した。manR強制発現用ベクターの構造を図7に記した。manRについてもxlnRと同様に転写制御因子遺伝子であるため、コピー数の増加を伴う強制発現を行った場合、菌体に悪影響があることが懸念された。そのため、manR遺伝子のもともとのプロモーターを、トランスレーションエロンゲーションファクターのプロモーターであるプロモーターに置換する方法での遺伝子強制発現を行った。
manR強制発現用ベクターはxlnR強制発現用ベクターと同様に、Fusion PCR法を用いて調製した。manR強制発現用ベクターの作製に用いたPCR用プライマーは表12〜15に示した通りであり、それ以外の反応条件についてはxlnR強制発現用ベクターの構築と同じである。
得られたPCR産物を精製後、20 μLずつ等量で混合し、そのうち16μLをFusion PCR用の鋳型として使用した。Fusion PCR実施時のプライマーセットとしては、配列番号27と配列番号34を使用した。PCR用の酵素にはTOYOBO社のKOD Plus neoを使用し、全量320μLで反応を行った。Fusion PCRの温度サイクルの条件は、94℃ 2分間の加熱ののち、98℃ 10秒間 68℃10分間を35サイクルとした。
得られたFusion PCRの産物をアガロースゲル電気泳動により確認したところ、目的とするPCR産物が良好に得られていた。そこで、これをアルコール沈殿により濃縮したのち、xlnR−OEΔpyrG株(Δku70、ΔpyrGadeA+株) に導入した。manR強制発現用ベクターにpyrGマーカーが搭載されているため、manRxlnR二重強制発現株は栄養要求性の無い株となる。得られた形質転換体については、アスペルギルス・ソーヤxlnR−OEΔpyrG株と同様、PCR法にて確認した。プライマーとしては、配列番号27と配列番号34を用いた。また、得られたmanRxlnR二重強制発現株については、表11に記載した配列番号25と配列番号26を使用し、PCRによりxlnR強制発現カセットが正しく維持されているかについても確認を行った。
形質転換体の確認の結果を図8に記した。なおネガティブコントロールにはアスペルギルス・ソーヤNBRC4239株を使用した。取得された複数の形質転換体において、manRの強制発現用ベクターカセット及びxlnR強制発現ベクターカセットが正しく導入され、核も純化されている状態であることが確認されたできた。この形質転換体をアスペルギルス・ソーヤmanRxlnR−OE株とした。
manRを単独で強制発現させたアスペルギルス・ソーヤの作製
manR単独強制発現株については、manRxlnR−OE株のゲノムを鋳型とし、manR強制発現用カセットをPCRにより増幅し、アスペルギルス・ソーヤKP−del(Δku70、ΔpyrG)株へ導入することで作製した。PCR用のオリゴヌクレオチドプライマーには、配列番号27及び配列番号34を使用し、PCR用酵素にはTOYOBO社のKOD Plus Neoを使用した。
形質転換体の確認を図9に示した。ネガティブコントロールには、アスペルギルス・ソーヤKP−del株を使用した。核純化されかつ栄養要求性の無いmanR単独強制発現株を複数株得ることができた。このmanR単独強制発現株をアスペルギルス・ソーヤmanR−OE株とした。
・栄養要求性の無いxlnR単独強制発現株の作製
xlnR−OEΔpyrG株は栄養要求性があるため、この株をmanRxlnR−OE株の比較対照として用いることは適切でないと思われる。そこでxlnR―OEΔpyrG株のpyrG遺伝子を復元させた株を作製した。アスペルギルス・ソーヤNBRC4239株のゲノムDNAを鋳型とし、表6に示したオリゴヌクレオチドプライマー(配列番号15及び配列番号16)を用いたPCRを行い、pyrG遺伝子全長を含む6.6kbのDNAフラグメントを増幅した。PCRの温度サイクルの条件は、94℃ 2分間の加熱ののち、98℃ 10秒間 68℃9分間を35サイクルとした。得られたDNAフラグメントを2−プロパノール沈殿により濃縮したのち、xlnR―OEΔpyrG株に導入し、1.2Mソルビトールを含む最少培地で選抜することで形質転換体を得た。本形質転換体をxlnR―OEΔpyrG株作製時と同様の方法にて確認した。
形質転換体の確認を図10に示した。ネガティブコントロールには、xlnR―OEΔpyrGを使用した。核純化されかつ栄養要求性の無いxlnR単独強制発現株を複数株得ることができた。このxlnR単独強制発現株をアスペルギルス・ソーヤxlnR―OE株とした。
・転写制御因子遺伝子強制発現株の各種糖質分解酵素酵素活性の測定
実施例2において作製した形質転換体において、目的とする転写制御因子が正しく強制発現され、各種糖質分解酵素の生産量の増加が生じているかを検証した。
(1)醤油麹作製と菌体外酵素抽出液の調製
各形質転換体をマルツ寒天培地に接種し、30℃にて7日間培養し分生子を形成させた。この分生子を、滅菌済み0.01% Tween溶液を用いて回収し、滅菌済み70μmメッシュのセルストレーナー(BDファルコン社製)に通して混入してきた菌糸を除去したのち、血球計算盤を用いて各懸濁液中の分生子数をカウントした。この計測値をもとに各懸濁液の分生子数が5.0x107/mLになるよう0.01% Tween溶液を用いて希釈した。7gの原料(脱脂大豆:小麦:水=1:1:1.3)を150mL容三角フラスコに入れ、オートクレーブにより滅菌した。これに上記希釈済み分生子を200μLずつ接種し、30℃で40時間培養した。培養が終了した150mL容三角フラスコに、20mMリン酸ナトリウム緩衝液pH7.0を20mL加えてゴム栓をし、100回激しく撹拌した。これを4℃にて一晩静置し、ADVANTEC社のNo.5Cのろ紙にてろ過し、ろ液を酵素活性測定に使用した。
(2)各種加水分解酵素活性測定手順
β―マンナナーゼ活性測定
50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)に2%になるようアゾ−カロブガラクトマンナン(メガザイム)を溶解させた基質溶液150μLに、75μLの50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)及び、50mM酢酸ナトリウム緩衝液により適宜希釈した粗酵素溶液75μLを加え、40℃にて30分間インキュベートした。ここに800μLの100%エタノールを加え10分間静置後、1,500xで15分間遠心分離したのち、上清のOD590nmを測定することによりマンナナーゼ活性を測定した。なおブランクとしては、酵素溶液より前に反応停止用の100%エタノールを添加したものを使用した。また、各検体のOD590nmからブランクのOD590nmを差し引いたものをΔOD590nmとし、コントロール(NBRC4239Δku70)におけるΔOD590nmの平均値を1倍とし、各検体の相対活性を求めた。
キシラナーゼ活性測定
50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)に0.25%となるようにRBBキシランを溶解させた基質溶液250μLに、50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)により希釈した粗酵素溶液50μLを添加し、40℃にて20分間インキュベートした。ここに、1,000μLの100%エタノールを添加し、10分間室温にて静置したのち、15,000xにて10分間遠心分離を行った。この遠心分離後の上清のOD595nmを測定することで、キシラナーゼ活性を求めた。なおブランクとしては、酵素溶液より前に反応停止用の100%エタノールを添加したものを使用した。また、各検体のOD595 nmからブランクのOD595nmを差し引いたものをΔOD595nmとし、コントロール(NBRC4239Δku70)におけるΔOD595nm平均値を1倍とし、各検体の相対活性を求めた。
エンドグルカナーゼ活性測定(CMCase活性)
50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)に2.0%となるようにアゾ−カルボキシメチルセルロース(メガザイム社製)を溶解させた基質液150μLに、緩衝液により5倍希釈した粗酵素溶液を150μL添加し、40℃にて20分間インキュベートした。反応液に反応停止液(2%酢酸ナトリウム−0.2%酢酸亜鉛溶液pH5.0と99.5%エタノールを1:4で混合したもの)を800μL加えたのち、1,500xにて10分間遠心分離を行った。この上清のOD590nmを測定することによりエンドグルカナーゼ活性を測定した。なおブランクとしては、酵素溶液より前に反応停止液を添加したものを使用した。また、各検体のOD590nmからブランクのOD590nmを差し引いたものをΔOD590nmとし、コントロール(NBRC4239Δku70)におけるΔOD590nm平均値を1倍とし、各検体の相対活性を求めた。
セロビオハイドロラーゼ活性測定 (Avicelase)
50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)に6.0%となるようにアゾ−アビセル(メガザイム社製)を均一に分散させた基質液300μLに、粗酵素溶液原液を300μL添加し、40℃にて24時間、180rpmにて振盪しながらインキュベートした。反応液を95℃15分間処理し反応停止後、1,500xにて10分間遠心分離した。この遠心分離後の上清のOD590nmを測定することで、セロビオハイドロラーゼ活性を求めた。なおブランクとしては、酵素溶液を添加後直ちに95℃、15分間処理したものを使用した。また、各検体のOD590nmからブランクのOD590nmを差し引いたものをΔOD590nmとし、コントロール(NBRC4239Δku70)におけるΔOD590nm平均値を1倍とし、各検体の相対活性を求めた。
−ニトロフェニル (NP) 誘導体基質を用いた活性測定法
(α−ガラクトシダーゼ、及び β−キシロシダーゼ)
1.25mMになるように50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)に溶解した合成基質溶液(各糖質の−ニトロフェニル−誘導体)400μLに、緩衝液により適宜希釈した菌体外酵素液を100μL加え、40℃で15分間インキュベートした。ここに、500μLの0.5M炭酸ナトリウム溶液を加えることで反応を停止したのち、加水分解反応により遊離した−ニトロフェノールの吸収極大である405nmにおける吸光度(OD405nm)を測定することで、各種加水分解酵素活性を測定した。また、1.25 mM合成基質溶液に0.5M炭酸ナトリウムを先に添加したのち、希釈済み酵素溶液を加えた系列をブランクとした。酵素反応を行った系列のOD405nm値からブランクのOD405を引いた値をΔOD405nmとし、コントロール(NBRC4239Δku70)におけるΔOD405nmの平均値を1倍として、各検体の相対活性を求めた。
(3)菌体外酵素活性測定結果
各検体のβ−マンノシダーゼ及びα−ガラクトシダーゼの活性測定結果を図11に示した。manR−OE株では、β−マンナナーゼ及びα−ガラクトシダーゼ活性がコントロール株(NBRC4239Δku70)と比較し、顕著に上昇していた。これは、ManRが醤油麹菌アスペルギルス・ソーヤでもマンナン加水分解酵素群の正の制御因子として機能していることを示すも結果であった。これは、以前アスペルギルス・オリゼーにおいて観測されていたのと同様の現象である(Fungal Genet. Biol.; 49、987−995、2012)。また、manRxlnR−OE株では、β−マンナナーゼについては顕著に増大する傾向が見られ、α−ガラクトシダーゼについても上昇する傾向が見られた。
XlnRにより制御される酵素であるキシラナーゼ及びβ−キシロシダーゼの活性測定を図12に示した。
xlnR−OE株では、キシラナーゼ及びβ−キシロシダーゼ活性の上昇が確認された。XlnRについても、アスペルギルス・ソーヤにおいてでも、アスペルギルス・オリゼーのXlnRと同様に(Fungal Genet. Biol.; 35、157−169、2002)、キシラン加水分解酵素群の正の転写制御因子として機能していることがわかった。また、manR単独強制発現株では、キシラナーゼ活性が若干上昇する傾向が見られ、manRxlnR−OE株ではxlnR−OE株よりもより高いキシラナーゼ活性を示した。これは、アスペルギルス・ソーヤでは一部のキシラナーゼ遺伝子が、ManRによって制御されていることを示唆するものである。また、β−キシロシダーゼ活性については、manR単独強制発現株では活性の上昇がみられなかった。
しかし、manRxlnR−OE株では、xlnR単独強制発現株よりも高い活性が確認された。ManRは、単独ではβ−キシロシダーゼの生産を制御することができないが、XlnRと共存している状態ではβ−キシロシダーゼを正に制御する可能性が考えられる。本実施例では、manRxlnR−OE株において、β―マンナナーゼ活性及びキシラナーゼ活性の顕著な上昇が確認されたことから、本形質転換体中ではmanR及びxlnRが正しく強制発現されていると判断した。
過去のアスペルギルス・オリゼーにおける解析事例では、ManR及びXlnRはいずれもセルラーゼ遺伝子の発現を制御することが公知となっている(Biosci. Biotechnol. Biochem.;77、426−429、2013;FEBS Lett.528、279−282、2002)。そのため、manRxlnRを二重強制発現させたアスペルギルス・ソーヤは高いセルラーゼ生産能を有していることが期待される。manRxlnR−OEのセルラーゼ生産性を評価した(図13)。
エンドグルカナーゼ活性については、manRxlnR−OE株が最も高い活性を示し、コントロール株の5倍以上の活性を有していた。また、セロビオハイドロラーゼ活性については基質であるアビセルが結晶性セルロースであるために、分解がしにくいため活性としてはエンドグルカナーゼよりも弱いものであったが、manRxlnR−OE株で最も高い活性が見られた。
以上の通り、アスペルギルス・ソーヤにおけるmanRxlnR二重強制発現は、本菌のセルラーゼ生産量を顕著に増加させることが確認できた。これは、本二重強制発現株は、植物由来の多糖類分解に有用であることを示すものである。また、本実施例では、強制発現株の宿主としてアスペルギルス・ソーヤを用いたが、本実施例のデータから考えると2種転写制御因子、ManR及びXlnRのそれぞれの機能は醤油麹菌アスペルギルス・ソーヤと麹菌アスペルギルス・オリゼーの間で保存されていると考えられる。
このことから、これら2菌株ではセルラーゼ及びヘミセルラーゼの生産制御システムについても高度に保存されることが予想される。したがって、manR及びxlnRを強制発現させる宿主に、アスペルギルス・オリゼーを用いたとしても、アスペルギルス・ソーヤを宿主とした場合と同様の効果が得られると考えられる。
manRxlnR二重発現株を用いた醤油原料短期間分解試験
実施例2にて示したとおり、アスペルギルス・ソーヤにおけるmanRxlnR二重強制発現では、本菌のセルラーゼ・ヘミセラーゼの生産能が大幅に向上していることが確認された。そこで、本菌を用いた醤油原料の短期間分解試験を行い、本菌株が醤油製造における原料由来の多糖成分の分解促進に有効であるか検討を行った。
(1)manRxlnR二重発現の醤油原料短期間分解試験における諸味粘度への影響
脱脂大豆、小麦及び水を1:1:1.3の割合で混合したのち、15g秤量し、150mL容の三角フラスコにいれ、綿栓をしてオートクレーブにより滅菌した。これに、2.7 x 107個のmanRxlnR−OE株、manR−OE株、xlnR−OE株又はNBRC4239 Δku70株(ネガティブコントロール)の分生子をそれぞれ接種し、よくまぜた(盛込み)。これを30℃で培養し盛込みから46時間を経過したところで出麹とした。なお、それぞれの実験は3反復で行った。
出麹サンプルを滅菌した薬匙を用いてよくほぐしたのち、ここにオートクレーブにより滅菌処理を行った28%食塩水を15mL加えよく混ぜて諸味としたのち、品包装用ラップフィルムと輪ゴムを用いて蓋をした。これを30℃、180 rpmにて振盪しながら36時間分解を行った。分解反応終了後、サンプルを25 mL容のポリプロピレンチューブに移し、回転粘度計(TOKIMEC Viscometer BLII)により諸味粘度を測定した。
各検体を用いて作製した醤油麹の出麹時の状態を図14Aに示した。いずれの検体も麹菌の菌糸が表面まで生えているのが確認できる状態であり、本試験の条件では大きな生育阻害等は発生していなかった。また、各遺伝子発現株では醤油麹菌の分生子形成が遅れる傾向があり、manR−OE株及びmanRxlnR−OE株ではその傾向が顕著であった。また、短期間分解試験終了時の各検体の諸味の状態を図14Bに示した。
各転写制御因子強制発現株では、コントロールと比較し諸味の液汁部分が多くなり、諸味の粘度が低下する傾向が見られた。manRxlnR−OE株も諸味では、その傾向が最も顕著であった。
各検体の諸味の粘度測定結果を図15に示した。
manR−OE株及びxlnR−OE株では、コントロールと3連の平均値で比較した場合、若干粘度が低下していることが確認された。しかし、これら2系列では強制発現の効果が顕著に現れるサンプルと効果がほとんど見られないサンプルが混在している状態であった。一方、manRxlnR−OE株では、コントロールと比較して顕著に諸味の粘度が低下し、実験反復間での差も単独強制発現株と比較して小さくなる傾向が見られた。
以上のことから、manRxlnR−OE株を用いた場合、醤油原料由来の多糖成分の分解が安定的に促進され、諸味の粘度を低下させることが可能であると考えられる。
(2)manRxlnR二重発現の醤油原料短期間分解試験における自然だれによる液汁回収量への影響
脱脂大豆、小麦及び水を1:1:1.3の割合で混合したのち、15g秤量し、150mL容の三角フラスコにいれ、綿栓をしてオートクレーブにより滅菌した。これに、2.7 x 107個のmanRxlnR−OE株、manR−OE株、xlnR−OE株又はNBRC4239 Δku70株(ネガティブコントロール)の分生子をそれぞれ接種し、よくまぜた(盛込み)。これを30℃で培養し盛込みから46時間を経過したところで出麹とした。なお、それぞれの実験は3反復で行った。
出麹サンプルを滅菌した薬匙を用いてよくほぐしたのち、ここにオートクレーブにより滅菌処理を行った28%食塩水を15mL加えよく混ぜて諸味としたのち、食品包装用ラップフィルムと輪ゴムを用いて蓋をした。これを30℃、180 rpmにて振盪しながら48時間分解を行った。この諸味を、漏斗にセットした110mm径のワットマンNo.1のろ紙上に約24g分取し、その量を天秤にて測定した。そしてろ過により得られた液汁を、あらかじめ重量を測定しておいた15mL容ポリプロピレンチューブにより回収し、その全体重量を経時的に測定することで、諸味から自然だれにより回収される液汁(原料分解液)の量を計測した。そしてこの回収される液汁の重量をろ紙上にアプライした諸味重量(g)で割ることで、諸味1gあたりから得られる液汁量を求めた。
原料短期間分解試験にて自然だれにて回収される液汁の量の経時変化を測定した結果を図16Aに示した。なお、本グラフは3連の液量測定値の平均をそれぞれプロットした図である。manR―OE株及びxlnR―OE株では、回収される液汁の量がコントロール株よりも多なった。また、manRxlnR−OEでは、manR−OE株及びxlnR−OE株よりもさらに多い液汁が回収された。
このことから、manRxlnRの二重強制発現は、醤油原料の短期間分解において自然だれにより回収される液汁の量に対して、効果があることが確認された。また、回収液汁量が増加しない状態となった、ろ過開始から4時間後における回収液重量を図16Bに示した。この結果によると、諸味粘度と同様に、manR−OE株及びxlnR−OE株では、転写制御因子強制発現の効果が顕著に出る検体と、あまり効果の無い検体の両者が観測されるが、manRxlnR−OE株では、安定的に回収液重量が増加していた。
本実施例のデータは、高濃度の塩が存在する状況にて、醤油の原料である脱脂大豆及び小麦の分解を直接的に調べたものであり、これにより有効性が確認されたということは、実際の醤油製造工程においても有効である可能性が高いと考えられる。また、本データからすると、食塩存在下で植物由来の材料を短期間で分解し、醤油様調味液を製造する場合にも、manRxlnROE株は有用であると考えられる。
・アスペルギルス・ソーヤNBRC4241株系統でのmanRxlnR二重強制発現の効果の検証
実施例2から3までに示したデータは、いずれもアスペルギルス・ソーヤNBRC4239株の誘導体にて取得したデータである。アスペルギルス属状菌の場合、同じ属種であっても系列の異なる株で遺伝子強制発現を行っ場合に効果が現れないこともありうる。
そこで、NBRC4239株とは異なる系列のである、アスペルギルス・ソーヤNBRC4241株の系統を宿主とした場合でも、manRxlnR二重強制発現の効果があるか検証を行った。
醤油麹菌アスペルギルス・ソーヤDKuAP−1株(ΔKu70、ΔadeA、ΔpyrG株;アスペルギルス・ソーヤNBRC4241株を親株とする変異株)を宿主とし、xlnR単独強制発現株であるXROE−N2株及びmanRxlnR二重強制発現株であるMXOE−N2株を作製した。また、manR単独強制発現株であるMXOE−N2株については、醤油麹菌アスペルギルス・ソーヤDKuP−1株(ΔKu70、ΔpyrG株;アスペルギルス・ソーヤDkuAP−1株のアデニン要求性が無い株)を宿主とし作製した。
これら形質転換体については、実施例2に記載したアスペルギルス・ソーヤNBRC4239株系統での、各種強制発現株の作製と同じ手順にて作製を行った。なお、本実施例4にて使用した形質転換体はいずれも、ベクターが正しく導入されかつ核が純化された状態であることを確認したものである(図17)。
また、コントロールとしては、宿主株であるアスペルギルス・ソーヤDKuAP−1株のadeApyrGが破壊されていない株である、アスペルギルス・ソーヤDKu株(Δku70)を利用した。
・MXOE−N2株を用いた醤油原料短期間分解試験
上記形質転換体が、醤油原料の分解に有効であるか、短期間分解試験を実施し評価した。脱脂大豆、小麦及び水を1:1:1.3の割合で混合したのち、15g秤量し、150mL容の三角フラスコにいれ、綿栓をしてオートクレーブにより滅菌した。これに、2.7 x 107個のXROE−N2株、MROE−N2株、MXOE−N2株又はアスペルギルス・ソーヤDku株(コントロール)の分生子をそれぞれ接種し、よくまぜた(盛込み)。これを30℃で培養し盛込みから43時間を経過したところで出麹とした。なお、それぞれの実験は3反復で行った。
出麹サンプルを滅菌した薬匙を用いてよくほぐしたのち、ここにオートクレーブにより滅菌処理を行った28%食塩水を15mL加えよく混ぜて諸味としたのち、食品包装用ラップフィルムと輪ゴムを用いて蓋をした。これを30℃、180rpmにて振盪しながら64時間分解を行った。
・諸味粘度測定
分解反応終了後、サンプルを25 mL容のポリプロピレンチューブに移し、回転粘度計(TOKIMEC Viscometer BLII) により粘度を測定した。
・自然だれによる液汁量測定
短期間分解反応終了後の諸味を、漏斗にセットした110mm径のワットマンNo.1のろ紙上に約25g分取し、その量を天秤にて測定した。ろ過により得られた液汁を、あらかじめ重量を測定しておいた15mL容ポリプロピレンチューブにより回収し、その全体重量を経時適に測定することで、諸味から自然だれにより回収される液汁(原料分解液)の量を計測した。この回収される液汁の重量をろ紙上にアプライした諸味重量(g)で割ることで、諸味1gあたりから得られる液汁量を求めた。
・原料短期間分解試験の結果
図18Aは、諸味粘度を測定した結果である。manRxlnR二重強制発現株であるMXOE−N2株では諸味粘度が他の検体と比較して顕著に低下していた。
図18Bには短期間分解試験の諸味をろ過して得られる液汁量の経時変化を示したものである。
なお、グラフは3連で行った分解試験の平均値をプロットしたものである。MXOE−N2株用いた時の諸味をろ過したときが、最も多い量の液汁を回収することができた。
以上データから、manRxlnR二重強制発現の効果は、アスペルギルス・ソーヤNBRC4239株の系列を宿主とした時にだけに限定されるものでなはく、他のアスペルギルス・ソーヤを宿主として利用した場合にも表れるものであると考えられる。
・MXOE−N2株を用いた醤油小規模試醸造試験
manRxlnR二重強制発現株であるMXOE−N2株を用いて醤油を試醸した際に、諸味粘度の低下と自然だれによる液汁の回収量の増加が見られるか確認を行った。
・製麹
脱脂大豆と小麦及び水を1:1:1.3の比率で混合した醤油原料55gをフェルンバッハフラスコに入れ、オートクレーブにより滅菌し室温まで冷却した。ここに、4.0 x 107/mLに希釈したXROE−N2株、MROE−N2株、MXOE−N2株及びコントロール株(Dku株)の分生子を2.5 mLずつ接種しよく混合した(盛込み)。これを30℃で18時間インキュベート後一手入れを行ってほぐしたのち、30℃でさらに6時間インキュベートし二手入れを行って再度ほぐした。二手入れ後、温度を25℃に下げたのち19時間培養し、盛込みから43時間経過した時点で出麹とした。
・仕込み・乳酸発酵・酵母発酵
出麹サンプル40gを滅菌済みの100mLプラスチックボトルに移し、ここに35mLの30%食塩水(w/v)を加えて混合し諸味とした。これに、純粋培養した醤油乳酸菌テトラジェノコッカス・ハロフィルス及び醤油酵母ジゴサッカロミセス・ルキシーを添加し、15℃から30℃にて90日間発酵させた。
発酵試験期間中、最も早くに諸味の粘性が低下した系列はMXOE−N2株の系列であった。90日間発酵を行った諸味の状態を図19に示した。
各遺伝子強制発現株ではコントロールと比較して液汁部分が多くなる傾向がみられ、MXOE−N2株ではその傾向が最も顕著であった。
・諸味粘度の測定
90日間発酵の諸味を25mL容のポリプロピレンチューブに移し、25℃にて1時間保温した。この保温済みの諸味の粘度を、回転粘度計(TOKIMEC Viscometer BLII)により測定した。
諸味粘度の測定結果を、図20に示した。
なお、本表は3連で行った仕込みサンプルの平均測定値と標準偏差を示したものである。粘度の平均から見ると、各遺伝子強制発現株ではコントロールと比較して諸味粘度が低下する傾向が見られた。なかでもXROE−N2株とMXOE−N2株では、顕著に諸味粘度が低下する傾向が見られ、最も諸味粘度が低くなったのは二重強制発現株であるMXOE−N2株の系列であった。
一方、MROE−N2株の系列では、系列間での諸味粘度のばらつきが大きい状態であった。以上のことから、manRxlnRの二重強制発現は、実際の醤油仕込み条件においても、諸味粘度の低下に効果があることが判った。
・自然だれによる液汁量測定
発酵試験が終了した醤油諸味を、漏斗にセットした110mm径のワットマンNo.1のろ紙上に約24g分取し、その量を天秤にて測定した。ろ過により得られた液汁を、あらかじめ重量を測定しておいた15mL容ポリプロピレンチューブにより回収し、その全体重量を経時的に測定することで、諸味から自然だれにより回収される液汁(原料分解液)の量を計測した。この回収される液汁の重量をろ紙上にアプライした諸味重量(g)で割ることで、諸味1gあたりから得られる液汁量を求めた。
醤油諸味より自然だれにて回収される液汁の量の経時変化を測定した結果を図21Aに示し、ろ過開始から6時間が経過し液量に変化が見られくなった時点の各検体の回収液汁量を図21Bに示した。なお本試験は、3連にて行った発酵試験の検体についてそれぞれ自然だれを測定し、そのデータを集計したものである。その結果、XROE−N2株とMX−OE株では回収される液汁量がコントロールと比較して顕著に増大した。また、XROE−N2株では多いものではMXOE−N2株と同レベルの液が回収されるが、少ないものではコントロール株と変わらないレベルのものまで、仕込みロットごとのばらつきが大きくなる傾向が見られた。一方、MXOE−N2株では仕込みロットごとの差が少なく、安定的に回収液汁量が増加していた。
このように、manRxlnRをアスペルギルス・ソーヤにて二重強制発現させると、乳酸発酵・酵母発酵を行った場合でも、安定的に諸味粘度の低下と自然だれによる回収液汁量の増加が引き起こされることが確認された。
本発明のmanRxlnR二重強制発現株を用いた多糖類の分解方法は、manR及びxlnRの単独強制発現株を用いた場合と比較しても、多糖類の分解を著しく促進する。特に、このような多糖類の分解方法を醤油の製造方法に適用した場合、諸味粘度が低下し自然だれによる液汁の回収量が増加することが確認された。以上の実施例にて示した結果は、本発明に係る多糖類の分解方法、そして醤油の製造方法が従来の株を用いた方法よりも優れた方法であり、産業上の利用可能性が高いことを示すものである。

Claims (8)

  1. 多糖類を分解する方法であって、
    下記の遺伝子(a)及び(b)を強制発現させた形質転換体を用いることを特徴とする方法:
    (a) 下記(a-1)〜(a-5)のいずれかの遺伝子:
    (a-1) 配列番号1記載の塩基配列から成る遺伝子、
    (a-2) 配列番号3記載のアミノ酸配列をコードする遺伝子、
    (a-3) 配列番号1記載の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列から成る、糖質加水分解酵素の転写制御因子をコードする遺伝子、
    (a-4) 配列番号3記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列から成る、糖質加水分解酵素の転写制御因子をコードする遺伝子、あるいは
    (a-5) 配列番号3記載のアミノ酸配列の1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列から成る、糖質加水分解酵素の転写制御因子をコードする遺伝子、並びに
    (b) 下記(b-1)〜(b-5)のいずれかの遺伝子:
    (b-1) 配列番号2記載の塩基配列から成る遺伝子、
    (b-2) 配列番号4記載のアミノ酸配列をコードする遺伝子、
    (b-3) 配列番号2記載の塩基配列から成る遺伝子と90%以上の同一性を有する塩基配列から成る、糖質加水分解酵素の転写制御因子をコードする遺伝子、
    (b-4) 配列番号4記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列から成る、糖質加水分解酵素の転写制御因子をコードする遺伝子、あるいは
    (b-5) 配列番号4記載のアミノ酸配列の1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列から成る、糖質加水分解酵素の転写制御因子をコードする遺伝子。
  2. 前記遺伝子(a)がトランスレーションエロンゲーションファクターのプロモーターの支配下、そして、前記遺伝子(b)がアルカリプロテアーゼのプロモーターの支配下にある、請求項1に記載の方法。
  3. 宿主が糸状菌である、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記糸状菌がアスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)である、請求項3に記載の方法。
  5. 前記多糖類が醤油原料由来である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
  6. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法に従い、醤油原料由来の多糖類を分解する工程を含む、醤油の製造方法。
  7. 以下の遺伝子を含む組換えベクター。
    (a) 下記(a-1)〜(a-5)のいずれかの遺伝子:
    (a-1) 配列番号1記載の塩基配列から成る遺伝子、
    (a-2) 配列番号3記載のアミノ酸配列をコードする遺伝子、
    (a-3) 配列番号1記載の塩基配列から成る遺伝子と90%以上の同一性を有する塩基配列から成る、糖質加水分解酵素の転写制御因子をコードする遺伝子、
    (a-4) 配列番号3記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列から成る、糖質加水分解酵素の転写制御因子をコードする遺伝子、あるいは
    (a-5) 配列番号3記載のアミノ酸配列の1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列から成る、糖質加水分解酵素の転写制御因子をコードする遺伝子、並びに
    (b) 下記(b-1)〜(b-5)のいずれかの遺伝子:
    (b-1) 配列番号2記載の塩基配列から成る遺伝子、
    (b-2) 配列番号4記載のアミノ酸配列をコードする遺伝子、
    (b-3) 配列番号2記載の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列から成る、糖質加水分解酵素の転写制御因子をコードする遺伝子、
    (b-4) 配列番号4記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列から成る、糖質加水分解酵素の転写制御因子をコードする遺伝子、あるいは
    (b-5) 配列番号4記載のアミノ酸配列の1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列から成る、糖質加水分解酵素の転写制御因子をコードする遺伝子。
  8. 請求項7に記載の組換えベクターを含む形質転換体。
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