本発明は、以下に説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。
また、本明細書にて「A〜B」と記載した場合、当該記載は「A以上B以下」を意図するものとする。
〔1.電気泳動へ供するための試料の作製方法〕
本実施の形態の電気泳動(例えば、レーザー誘導蛍光検出と組み合わされた電気泳動(例えば、レーザー誘導蛍光検出と組み合わされたキャピラリー電気泳動))へ供するための試料の作製方法は、ポリヌクレオチド(例えば、オリゴヌクレオチド)および蛍光標識された内部標準物質とを含むサンプル溶液と、有機溶媒とを混合して、混合後の水相を得る工程を含んでいる。サンプル溶液と有機溶媒とを混合すれば、当該有機溶媒を主成分とする有機相と、水相とが分離する。そして、当該水相にはポリヌクレオチドおよび内部標準物質の両方が含まれており、当該水相が、電気泳動へ供するための試料となる。つまり、上記水相は、アルコール沈殿(例えば、エタノールまたはイソプロパノールなどのアルコールを用いた沈殿)の処理を受ける事無く、当該水相が、電気泳動へ供されることになる。
換言すれば、本実施の形態の電気泳動へ供するための試料の作製方法は、水相に対して濃縮処理(例えば、アルコール沈殿処理)を行う事の無い、電気泳動へ供するための試料の作製方法である。
上記電気泳動の具体的な形態は特に限定されず、例えば、キャピラリー電気泳動、または、板状のゲルを用いた電気泳動であってもよい。
なお、本明細書において「ヌクレオチド」とは、ヌクレオシドにリン酸基がエステル結合したものを意図する。「ヌクレオシド」とは、プリン塩基またはピリミジン塩基と糖とが結合したものを指し、プリン塩基はプリン塩基の修飾体であってもよく、ピリミジン塩基はピリミジン塩基の修飾体であってもよく、糖は糖の修飾体であってもよい。
本明細書において「ポリヌクレオチド」とは、同一または異なるヌクレオシドが、リン酸ジエステル結合を介して連なったものを意図する。リン酸ジエステル結合の部分は、チオエート化されていてもよい。また、本明細書における「ポリヌクレオチド」には、DNAまたはRNAによって構成されたポリヌクレオチドが包含され、単に核酸という場合もある。また、本明細書における「ポリヌクレオチド」は、2個以上のヌクレオチドが連結しているポリマーを意図し、ポリマーを構成するヌクレオチドの数の上限値は限定されない。
本明細書において「オリゴヌクレオチド」とは、ポリヌクレオチドの中でも、特に2個以上100個未満のヌクレオチドが連結しているポリマーを意図する。
上記サンプル溶液は、少なくとも、定量対象であるポリヌクレオチドと内部標準物質とを含んでいればよく、具体的な構成は特に限定されない。
例えば、所望の水溶液(例えば、蒸留水、生理的食塩水、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液など)に対してポリヌクレオチドおよび内部標準物質を加えることによってサンプル溶液を作製することができる。
あるいは、生体試料(例えば、細胞、組織、尿、糞便、血液、喀痰、膿汁、微生物、ウイルス、培養液など)、または、工業製品(例えば、飲料水、食品、医薬品、化粧品)を液状化した上で、当該液状化された生体試料または工業製品に対して内部標準物質を加えることによってサンプル溶液を作製することができる。この場合には、生体試料または工業製品中に含有されているポリヌクレオチドが、定量対象となる。
上記生体試料の由来は特に限定されず、ヒトであってもよいし、非ヒト動物であってもよいし、ヒトを除く脊椎動物(例えば、ブタ、ウシ、ヒツジ、ニワトリなど)であってもよいし、微生物であってもよいし、ウイルスであってもよい。
生体試料または工業製品を液状化する方法は特に限定されないが、例えば、生体試料または工業製品に対して所望の水溶液(例えば、蒸留水、生理的食塩水、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液など)を加えてもよいし、生体試料または工業製品に対して所望の水溶液を加えた上で、ミキサー等で固形物を破砕してもよい。
上記蛍光標識された内部標準物質は、上記水相を得る工程において、混合後の水相へ移行するものであればよい。上記構成によれば、電気泳動へ供するための試料中に、ポリヌクレオチドおよび蛍光標識された内部標準物質の両方が存在するので、当該内部標準物質に基づいて、実測されたポリヌクレオチドの量を正確に補正することができる。
更に具体的に、蛍光標識された内部標準物質の全質量(換言すれば、水相に含まれている内部標準物質の質量と、有機相に含まれている内部標準物質の質量との合計)に対する、水相へ移行する蛍光標識された内部標準物質の質量の比率は、ポリヌクレオチドの全質量(換言すれば、水相に含まれているポリヌクレオチドの質量と、有機相に含まれているポリヌクレオチドの質量との合計)に対する、上記水相へ移行する上記ポリヌクレオチドの質量の比率と、略同一であってもよい。勿論、上記2つの比率は、同一であってもよい。
例えば、蛍光標識された内部標準物質の全質量に対する、水相へ移行する蛍光標識された内部標準物質の質量の比率をA(%)とし、ポリヌクレオチドの全質量に対する、上記水相へ移行する上記ポリヌクレオチドの質量の比率をB(%)とする。
この場合、上記A(%)は、0.50×B(%)〜1.50×B(%)であることが好ましく、0.60×B(%)〜1.40×B(%)であることが更に好ましく、0.70×B(%)〜1.30×B(%)であることが更に好ましく、0.80×B(%)〜1.20×B(%)であることが更に好ましく、0.90×B(%)〜1.10×B(%)であることが好ましく、0.91×B(%)〜1.09×B(%)であることが更に好ましく、0.92×B(%)〜1.08×B(%)であることが更に好ましく、0.93×B(%)〜1.07×B(%)であることが更に好ましく、0.94×B(%)〜1.06×B(%)であることが更に好ましく、0.95×B(%)〜1.05×B(%)であることが更に好ましく、0.96×B(%)〜1.04×B(%)であることが更に好ましく、0.97×B(%)〜1.03×B(%)であることが更に好ましく、0.98×B(%)〜1.02×B(%)であることが更に好ましく、0.99×B(%)〜1.01×B(%)であることが更に好ましく、1.00×B(%)であることが最も好ましい。
上記蛍光標識された内部標準物質は、上記水相を得る工程において、混合される前のサンプル溶液に含まれる内部標準物質の10重量%以上が、より好ましくは20重量%以上が、より好ましくは30重量%以上が、より好ましくは40重量%以上が、より好ましくは50重量%以上が、より好ましくは60重量%以上が、より好ましくは67重量%以上が、より好ましくは70重量%以上が、より好ましくは80重量%以上が、より好ましくは81重量%以上が、より好ましくは90重量%以上が、より好ましくは95重量%以上が、混合後の水相へ移行するものであることが好ましい。
ポリヌクレオチドは、有機相ではなく、水相へ移行する。それ故に、ポリヌクレオチドと同等に水相へ移行する内部標準物質、換言すれば、水相へ移行する割合が高い内部標準物質であるほど、より精度高くポリヌクレオチドを定量することができる。
上記蛍光標識された内部標準物質は、フルオレセイン若しくはフルオレセイン骨格を有する類縁体(例えば、Oregon Green(登録商標)488、Alexa Fluor(登録商標)488、ローダミン)、BODIPY(登録商標)若しくはDipyrromethene骨格を有する類縁体、蛍光標識されたヌクレオチド、蛍光標識されたデオキシヌクレオチド、または、蛍光標識されたポリヌクレオチドであってもよい。これらの中では、蛍光標識されたヌクレオチド、または、蛍光標識されたデオキシヌクレオチドを用いることが好ましい。
なお、「フルオレセイン骨格」とは、3H−キサンテン骨格の9位にベンゼン環が結合した骨格を意図する。上記「フルオレセイン骨格を有する類縁体」は、キサンテン骨格内の酸素原子が、炭素原子、ケイ素原子、ゲルマニウム原子、スズ原子、または、鉛原子に置換された化合物があり得る。
また、上記「Dipyrromethene骨格を有する類縁体」は、Dipyrromethene骨格を有する化合物が意図され、具体例として、BODIPY FL(登録商標)、および、BODIPY TMR(登録商標)を挙げることができる。
蛍光標識されたヌクレオチド、および、蛍光標識されたデオキシヌクレオチドは、定量対象であるポリヌクレオチドと分子構造が似ているので、ポリヌクレオチドを定量するための一連の工程(例えば、有機溶媒による精製、電気泳動による泳動、レーザー誘導蛍光検出による検出)において、定量対象であるポリヌクレオチドと同等の挙動を示す。それ故に、上記構成であれば、より精度高くポリヌクレオチドを定量することができる。
また、蛍光標識されたヌクレオチド、および、蛍光標識されたデオキシヌクレオチドは、定量対象であるポリヌクレオチド、および、当該ポリヌクレオチドにハイブリダイズするプローブに対して、非特異的に結合することがない。それ故に、上記構成であれば、より精度高くポリヌクレオチドを定量することができる。
上記蛍光標識されたヌクレオチドの具体的な構成は特に限定されないが、ヌクレオチド(例えば、アデノシン三リン酸、シチジン三リン酸、チミジン三リン酸、グアノシン三リン酸、ウリジン三リン酸、アデノシン二リン酸、シチジン二リン酸、チミジン二リン酸、グアノシン二リン酸、ウリジン二リン酸、アデノシン一リン酸、シチジン一リン酸、チミジン一リン酸、グアノシン一リン酸、ウリジン一リン酸、若しくは、これらの類縁体)、または、デオキシヌクレオチドが蛍光標識されたものであり得る。
上記類縁体としては、以下のものを挙げることができる。つまり、
(i)リン酸ジエステル結合部分が、チオエート、ジチオエート、アミデート、ホルムアセタール、3’−アミン、カルバメート、または、ボラノフォスフェートによって修飾されたヌクレオチド。
(ii)ヌクレオチド内の糖部分の修飾は特に限定されないが、例えば、2’位、3’位、4’位、および/または、5’位の酸素原子が他の原子に置換されたヌクレオチド。
例えば、ハロゲン化、O−アルキル化(例えば、O−メチル化、O−エチル化、O−メトキシエチル化、O−アリル化)、O−アリール化、S−アルキル化(例えば、S−メチル化、S−エチル化、S−アリル化)、S−アリール化、または、アミノ化(−NH2)されたヌクレオチド。なお、「アリール」とは、共役π電子系を有する環を少なくとも1つ有する芳香族の基を指し、炭素環式アリール、複素環式アリール及び二アリール基を含み、そのいずれもが場合により置換されていてもよい。アリール基に付く好ましい置換基は、ハロゲン、トリハロメチル、ヒドロキシル、SH、シアノ、アルコキシ、アルキル、アルケニル、アルキニル及びアミノ基を挙げることできる。
(iii)4’位の酸素原子が硫黄に置換されたヌクレオチド、2’位と4’位とがメチレンを介して修飾されたヌクレオチド、3’位と4’位とがメチレンを介して修飾されたヌクレオチド、3’位または5’位の水酸基がアミノ基に置換されたヌクレオチド、5’位の水酸基がアミノ基へ置換されるとともに3’位と5’位とがメチレンを介して修飾されたヌクレオチド、糖部分がリボースから他の糖(例えば、グリセロール、シクロヘキセン、または、スレオース)に置換されたヌクレオチド。
(iv)ヌクレオチド内の塩基の修飾は特に限定されないが、例えば、5位ピリミジン改変、6位、7位および/または8位プリン改変(例えばO−メチル修飾)を受けたヌクレオチド、環外アミンでの改変を受けたヌクレオチド、4−チオウリジンへの置換が施されたヌクレオチド、5−ブロモ修飾されたヌクレオチド、5−ヨードウラシル修飾されたヌクレオチド、5−メチルシトシン修飾されたヌクレオチド。
内部標準物質を蛍光標識する方法は特に限定されないが、例えば、周知の方法によって、市販の蛍光色素(例えば、フルオレセイン、BODIPY(登録商標)、Alexa488(登録商標)など)を所望の内部標準物質へ連結させればよい。
上記蛍光色素としては、ポリヌクレオチドの定量に用いるプローブの標識に用いられる蛍光色素と同じものを用いることが好ましい。換言すれば、蛍光標識された内部標準物質と、ポリヌクレオチドの定量に用いられる蛍光標識されたプローブとは、同じ波長で蛍光を示すものであることが好ましい。
上記構成によれば、ポリヌクレオチドの定量時に、蛍光標識された内部標準物質と、蛍光標識されたプローブとを、簡便な装置によって同時に検出および定量することができる。
例えば、上記蛍光標識された内部標準物質は、470nm〜700nm(例えば、520nm、560nm、655nm、または、675nm)の波長において蛍光を示すものであってもよい。勿論、上記蛍光標識された内部標準物質は、上述した波長以外において蛍光を示すものであってもよい。
上記サンプル溶液は、タンパク質変性剤(具体的には、ドデシル硫酸ナトリウム、または、プロテアーゼ)を含んでいてもよい。上記構成によれば、定量を阻害するタンパク質の活性を低下、または、定量を阻害するタンパク質を除去することができるので、より精度高くポリヌクレオチドを定量することができる。
サンプル溶液中におけるタンパク質変性剤の濃度としては特に限定されないが、例えば、1.5%(w/v)〜2%(w/v)であってもよい。上記構成によれば、定量を阻害することなく、より精度高くポリヌクレオチドを定量することができる。
上記サンプル溶液は、ハイブリダイゼーションバッファー(50mM Tris−Acetate(pH8.0)、50mM 塩化ナトリウム、10mM EDTA)を含んでいてもよい。当該構成によれば、最適な塩濃度およびpHにて、ハイブリダイゼーションを行うことができる。
サンプル溶液の精製に用いる有機溶媒としては特に限定されず、例えば、フェノールを含む有機溶媒であり得る。例えば、有機溶媒としては、「フェノール」、「フェノールとクロロホルムとの混合物」、「フェノールとイソアミルアルコールとの混合物」、または、「フェノールとクロロホルムとイソアミルアルコールとの混合物」を用いることが可能である。
上記有機溶媒のpHは特に限定されないが、例えば、pH7〜pH8であることが好ましく、pH8.0程度が最も好ましい。上記構成によれば、DNAおよびRNAの両方を、同等に水相へ移行させることができ、その結果、同じ方法にてDNAおよびRNAの両方を定量することができる。
〔2.電気泳動法〕
本実施の形態の電気泳動法は、本発明の電気泳動へ供するための試料の作製方法にて作製された試料を用いる方法である。
電気泳動の具体的な形態は特に限定されず、例えば、キャピラリー電気泳動、または、板状のゲルを用いた電気泳動であってもよい。
分離に用いるゲルとしては特に限定されず、適宜、市販のゲル(例えば、アガロースゲル、ポリアクリルアミドゲルなど)を用いることが可能である。
また、電気泳動は、市販の電気泳動装置を用いて行うことが可能である。
〔3.ポリヌクレオチドの定量方法〕
本実施の形態のポリヌクレオチドの定量方法は、本発明の電気泳動法を用いればよく、その具体的な構成は、特に限定されない。
例えば、本実施の形態のポリヌクレオチドの定量方法は、本発明の電気泳動法と、周知のレーザー誘導蛍光検出とを組み合わせて構成することも可能である。
以下に、本実施の形態のポリヌクレオチドの定量方法の一例を示すが、本発明は、以下の構成に限定されない。
本実施の形態のポリヌクレオチドの定量方法は、上述した本発明の方法にて作製された電気泳動に供するための試料へ、上記ポリヌクレオチドにハイブリダイズする蛍光標識されたプローブを加えて混合物を作製する混合工程と、上記混合物を電気泳動に供するとともに、該電気泳動中に、上記蛍光標識された内部標準物質に由来する蛍光シグナルと、上記ポリヌクレオチドにハイブリダイズしたプローブに由来する蛍光シグナルと、を検出する検出工程と、上記蛍光標識された内部標準物質に由来する蛍光シグナルのエリア値に対する上記ポリヌクレオチドにハイブリダイズしたプローブに由来する蛍光シグナルのエリア値の比と、予め作製されている検量線とに基づいて、上記サンプル溶液中に含まれるポリヌクレオチドの量を算出する算出工程と、を含んでいる。
以下に、各工程について説明する。なお、〔1.電気泳動へ供するための試料の作製方法〕の欄にて既に説明した構成については、以下ではその説明を省略する。
〔3−1.混合工程〕
混合工程は、本発明の方法にて作製された電気泳動に供するための試料へ、ポリヌクレオチドにハイブリダイズする蛍光標識されたプローブを加えて混合物を作製する工程である。本発明では、当該混合工程において、ポリヌクレオチドとプローブとがハイブリダイズすることになる。
上記プローブは、ポリヌクレオチドにハイブリダイズするものであればよく、その具体的な構成は特に限定されない。
例えば、上記プローブとして、定量対象であるポリヌクレオチドに相補的なDNAまたはRNAを用いることができる。更に具体的に、上記プローブは、定量対象であるポリヌクレオチドの全長または部分長に対して相補的なDNAまたはRNAを用いることができる。
プローブを蛍光標識する方法は特に限定されないが、例えば、周知の方法によって、市販の蛍光色素(例えば、フルオレセイン、BODIPY(登録商標)、Alexa488(登録商標)など)を所望のプローブへ連結させればよい。
上記蛍光色素としては、上述した内部標準物質の標識に用いられる蛍光色素と同じものを用いることが好ましい。換言すれば、蛍光標識された内部標準物質と、蛍光標識されたプローブとは、同じ波長で蛍光を示すものであることが好ましい。
上記構成によれば、ポリヌクレオチドの定量時に、蛍光標識された内部標準物質と、蛍光標識されたプローブとを、簡便な装置によって同時に検出および定量することができる。
例えば、上記蛍光標識されたプローブは、470nm〜700nm(例えば、520nm、560nm、655nm、または、675nm)の波長において蛍光を示すものであってもよい。勿論、上記蛍光標識されたプローブは、上述した波長以外において蛍光を示すものであってもよい。
当該混合工程における混合物の温度は特に限定されないが、非特異的なハイブリゼーションを阻害できる温度に設定することも可能である。この場合、プローブの塩基配列に応じて当該温度を設定すればよい。具体的には、プローブの塩基数、プローブのGC含量、プローブのTm値などに基づいて設定することが可能である。
例えば、44℃〜48℃に設定することも可能であり、52℃〜60℃に設定することも可能である。勿論、本発明は、当該温度に限定されない。
〔3−2.検出工程〕
検出工程は、上述した混合物を電気泳動に供するとともに、該電気泳動中に、蛍光標識された内部標準物質に由来する蛍光シグナルと、ポリヌクレオチドにハイブリダイズしたプローブに由来する蛍光シグナルと、を検出する工程である。
電気泳動、および、レーザー誘導蛍光検出の具体的な方法は特に限定されず、適宜、市販の装置と、当該装置に添付のプロトコールとを用いて行えばよい。
〔3−3.算出工程〕
算出工程は、蛍光標識された内部標準物質に由来する蛍光シグナルのエリア値に対するポリヌクレオチドにハイブリダイズしたプローブに由来する蛍光シグナルのエリア値の比と、予め作製されている検量線とに基づいて、初発の試料であるサンプル溶液中に含まれるポリヌクレオチドの量を算出する工程である。
つまり、算出工程では、まず、最終的に検出される内部標準物質の量に対する最終的に検出されるポリヌクレオチドの量の比が計算されることになる。そして、当該比を、予め作製されている検量線の関数(例えば、初発の試料であるサンプル溶液中に含まれるポリヌクレオチドの濃度(既知の濃度)と、比(実際に測定された蛍光シグナルのエリア値から算出した比)との関係を示す関数)へ代入することによって、初発の試料であるサンプル溶液中に含まれるポリヌクレオチドの量が算出される。
この時、上述した比と検量線とを用いて初発の試料であるサンプル溶液中に含まれるポリヌクレオチドの量が算出されるので、ポリヌクレオチドを定量するための一連の工程(例えば、有機溶媒による精製、電気泳動による泳動、レーザー誘導蛍光検出による検出)で発生する様々な誤差が補正された状態で、初発の試料であるサンプル溶液中に含まれるポリヌクレオチドの量が算出されることになる。その結果、より精度高くポリヌクレオチドを定量することができる。
なお、蛍光シグナルは、蛍光の測定時間に対して、当該時間における蛍光強度がプロットされたクロマトグラム(換言すれば、クロマトグラム中のピーク)として示され得る(例えば、図1および2参照)。そして「蛍光シグナルのエリア値」とは、当該ピークと、蛍光強度のベースラインとで囲まれた領域の面積が意図される。
上記検量線の具体的な構成は特に限定されないが、例えば、既知の濃度のポリヌクレオチドおよび既知の濃度の蛍光標識された内部標準物質を含むサンプル溶液を用いて得られる、蛍光標識された内部標準物質に由来する蛍光シグナルのエリア値に対する上記ポリヌクレオチドにハイブリダイズしたプローブに由来する蛍光シグナルのエリア値の比と、上記ポリヌクレオチドの既知の濃度との、関数であってもよい。以下に、当該検量線の作製方法について更に説明する。
まず、様々な濃度であって、かつ、既知の濃度のポリヌクレオチドと、一定の濃度の蛍光標識された内部標準物質と、を含む複数のサンプル溶液を作製する。
次いで、当該複数のサンプル溶液を、上述した混合工程および検出工程にかけて、各サンプル溶液について、蛍光標識された内部標準物質に由来する蛍光シグナルと、ポリヌクレオチドにハイブリダイズしたプローブに由来する蛍光シグナルと、を検出する。そして、蛍光標識された内部標準物質に由来する蛍光シグナルのエリア値に対するポリヌクレオチドにハイブリダイズしたプローブに由来する蛍光シグナルのエリア値の比を算出する。
以上により、初発の試料であるサンプル溶液の各々に関して、サンプル溶液中のポリヌクレオチドの既知の濃度と、実際に測定された比との対応関係が明らかになる。
次いで、上記ポリヌクレオチドの既知の濃度をX軸、上記比をY軸として、各サンプル溶液のデータをXY平面上にプロットする。
更に、周知の方法(例えば、最小二乗法など)によって上記データに近似する関数(例えば、Y=aX+b、aおよびbは、実験によって決定される定数)を特定し、当該関数を検量線として用いることができる。
実際の定量では、算出工程において、実際に測定されたデータに基づいて比(Yの値)が決定されるので、当該比を上述した関数に代入すれば、ポリヌクレオチドを定量するための一連の工程(例えば、有機溶媒による精製、電気泳動による泳動、レーザー誘導蛍光検出による検出)で発生する様々な誤差が補正された状態で、初発の試料であるサンプル溶液中のポリヌクレオチドの量(濃度)が算出されることになる。
なお、以上に検量線の一例を説明したが、本発明は、勿論当該検量線に限定されず、適宜、所望の検量線を用いることが可能である。
本実施の形態のポリヌクレオチドの定量方法は、以下のように構成することが可能である。
実施の形態のポリヌクレオチドの定量方法は、本発明の方法にて作製された電気泳動に供するための試料へ、上記ポリヌクレオチドにハイブリダイズする蛍光標識されたプローブを加えて混合物を作製する混合工程と、上記混合物を電気泳動に供するとともに、該電気泳動中に、上記蛍光標識された内部標準物質に由来する蛍光シグナルと、上記ポリヌクレオチドにハイブリダイズしたプローブに由来する蛍光シグナルと、を検出する検出工程と、上記蛍光標識された内部標準物質に由来する蛍光シグナルのエリア値に対する上記ポリヌクレオチドにハイブリダイズしたプローブに由来する蛍光シグナルのエリア値の比と、予め作製されている検量線とに基づいて、上記サンプル溶液中に含まれるポリヌクレオチドの量を算出する算出工程と、を含み得る。
上記検量線は、既知の濃度の上記ポリヌクレオチドおよび上記蛍光標識された内部標準物質を含むサンプル溶液を用いて得られる、上記蛍光標識された内部標準物質に由来する蛍光シグナルのエリア値に対する上記ポリヌクレオチドにハイブリダイズしたプローブに由来する蛍光シグナルのエリア値の比と、上記既知の濃度との、関数であってもよい。
上記蛍光標識されたプローブは、470nm〜700nm(例えば、520nm、560nm、655nm、または、675nm)の波長で蛍光を示すものであってもよい。
〔4.装置〕
本実施の形態の装置は、本発明の電気泳動へ供するための試料の作製方法によって作製された試料の分離分析を行うことを特徴としている。換言すれば、本実施の形態の装置は、本発明の電気泳動へ供するための試料の作製方法を用いて、試料の分離分析を行うことを特徴としている。
上記構成によれば、微量のポリヌクレオチドを、短時間にて、低コストにて、かつ、高精度にて、分離分析することができる。また、上記構成によれば、同じ構成の装置を用いて、DNAおよびRNAの各々を分離分析することができる。
本実施の形態の装置は、例えば、電気泳動装置であり得る。
本実施の形態の装置の具体的な構成は特に限定されないが、例えば、本発明の電気泳動へ供するための試料の作製方法を実施するための構成、換言すれば、本発明の電気泳動へ供するための試料の作製方法にしたがって試料を作製するための試料作製部を備えていてもよい。
また、本実施の形態の装置は、上記試料作製部を備えること無く、本発明の電気泳動へ供するための試料の作製方法にしたがって作製された試料を装置内へ導入するための試料導入部を備えていてもよい。
上記試料作製部は、例えば、ポリヌクレオチドおよび蛍光標識された内部標準物質を含むサンプル溶液と有機溶媒とを混合するための混合部、および、混合後の水相を回収するための回収部を備え得る。
上記混合部は、例えば、サンプル溶液と有機溶媒とを収容するための容器、および、当該容器内のサンプル溶液と有機溶媒とを混合するためのブレード、を備えるものであってもよい。
上記容器およびブレードは特に限定されず、適宜、周知の容器およびブレードを用いることができる。例えば、上記容器およびブレードは、有機溶媒によって劣化しない材料によって形成されているものであることが好ましい。
また、上記混合部は、例えば、サンプル溶液と有機溶媒とを収容するための容器、および、当該容器を振動させるための振動部(例えば、当該容器に対して、上下方向への運動、左右方向への運動、および/または、回転運動を生じさせる振動部)、を備えるものであってもよい。
上記容器および振動部の具体的な構成は特に限定されず、周知の容器および振動部を用いることができる。例えば、上記容器は、有機溶媒によって劣化しない材料によって形成されているものであることが好ましい。
上記回収部は、水相を回収できるものであればよく、具体的な構成は、特に限定されない。例えば、上記回収部は、各種注射器であってもよい。混合部にて混合された溶液を所定の時間静置すれば、水相と有機相とに分離する。そして、各種注射器によって、水相のみを回収すればよい。この場合、各種注射器によって回収された水相を、装置内に配置されている電気泳動用のゲルへ供すればよい。
上記試料導入部は、本発明の電気泳動へ供するための試料の作製方法にしたがって作製された試料を装置内へ導入することができるものであればよい。
例えば、試料導入部は、装置の表面に設けられた開口、および、当該開口から装置内に導入された試料を格納するための格納部(換言すれば、空間)を備えていてもよい。
この場合、上記格納部が、装置内に配置されている電気泳動用のゲルへと連結されており、当該格納部に格納された試料が、電気泳動用のゲルに供されてもよい。
本実施の形態の装置は、470nm〜700nmの波長の蛍光を検出するための検出部を備えていてもよい。
上記検出部の具体的な構成は特に限定されず、適宜、周知の検出機器を検出部として用いることができる。
本実施の形態の装置は、上述した構成以外に、周知の装置、または、周知の電気泳動装置が備えている各種構成を備えることも可能である。
〔実施例1〕DNAの精製
160μLのヒト血漿に、20%(w/v)の濃度にてSDS(sodium dodecyl sulfate)を含む水溶液を20μL添加して、ヒト血漿に含まれる成分が可溶化された水溶液を作製した。
21塩基からなるDNA(Integrated DNA Technologies, Inc)をTE溶液(pH8.0(ナカライテスク株式会社))に溶解し、当該水溶液を、更にハイブリダイゼーションバッファーで希釈して、21塩基からなるDNAを含む水溶液を作製した。なお、当該DNAの塩基配列は、以下のとおりである。つまり、
DNA:5’−GCGTTTGCTCTTCTTCTTGCG−3’・・・・(配列番号1)。
ヒト血漿に含まれる成分が可溶化された水溶液に対して、21塩基からなるDNAを含む水溶液を10μL添加し、更に、内部標準物質であるフルオレセインを500nMの濃度にて含む水溶液を10μL添加して、混合溶液を作製した。
上記混合溶液に対して、TE溶液(pH8.0)にて飽和された有機溶媒の混合物(フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール=25:24:1)(Sigma-Aldrich Co. LLC.)を200μL添加し、撹拌および混合した後、室温で10000rpmにて5分間遠心分離した。
遠心分離によって分離された上清90μLを回収して、DNAを含有する試料溶液とした。
〔実施例2〕microRNAの精製
160μLのヒト血漿に、20%(w/v)の濃度にてSDSを含む水溶液を20μL添加して、ヒト血漿に含まれる成分が可溶化された水溶液を作製した。
21塩基からなるmicroRNA(Integrated DNA Technologies, Inc)をTE溶液(pH8.0(ナカライテスク株式会社))に溶解し、当該水溶液を、更にハイブリダイゼーションバッファーで希釈して、21塩基からなるmicroRNAを含む水溶液を作製した。なお、当該microRNAの塩基配列は、以下のとおりである。つまり、
microRNA:5’−UUAAGACUUGCAGUGAUGUUU−3’・・・・(配列番号2)。
ヒト血漿に含まれる成分が可溶化された水溶液に対して、21塩基からなるmicroRNAを含む水溶液を10μL添加し、更に、内部標準物質であるBODIPY(登録商標) FL ATP(Life Technologies Corporation.)を500nMの濃度にて含む水溶液を10μL添加して、混合溶液を作製した。
上記混合溶液に対して、TE溶液(pH8.0)にて飽和された有機溶媒の混合物(フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール=25:24:1)(Sigma-Aldrich Co. LLC.)を200μL添加し、撹拌および混合した後、室温で10000rpmにて5分間遠心分離した。
遠心分離によって分離された上清90μLを回収して、microRNAを含有する試料溶液とした。
〔実施例3〕プローブと、DNAまたはmicroRNAとのハイブリダイゼーション反応
実施例1に記載した21塩基からなるDNAに対して相補的な3’−FAM標識オリゴヌクレオチド(以下、オリゴヌクレオチド1と呼ぶ)、および、実施例2に記載した21塩基からなるmicroRNAに対して相補的な3’−FAM標識オリゴヌクレオチド(以下、オリゴヌクレオチド2と呼ぶ)をIntegrated DNA Technologies,Incより購入した(FAM:Ex/Em=488nm/520nm)。なお、各オリゴヌクレオチドの塩基配列は、以下のとおりである。つまり、
オリゴヌクレオチド1:5’−CGCAAGAAGAAGAGCAAACGC−3’・・・・(配列番号3);
オリゴヌクレオチド2:5’−AAACATCACTGCAAGTCTTAA−3’・・・・(配列番号4)。
実施例1にて作製した90μLの試料溶液に対して、10μLのプローブ1(プローブの量は、50nM)を加え、全量を100μLとした。そして、当該混合物を最適な温度にて30分間インキュベートして、21塩基からなるDNAとプローブ1とをハイブリダイズさせた。
また、実施例2にて作製した90μLの試料溶液に対して、10μLのプローブ2(プローブの量は、50nM)を加え、全量を100μLとした。そして、当該混合物を最適な温度にて30分間インキュベートして、21塩基からなるmicroRNAとプローブ2とをハイブリダイズさせた。
以上のようにしてハイブリダイズさせた試料を、後述する実施例に用いた。
〔実施例4〕CE−LIF(Capillary Electrophoresis − Laser Induced Fluorescence)による検出
実施例3にて作製したハイブリダイズさせた試料を、下記の条件にてキャピラリー電気泳動するとともに、レーザー誘導蛍光検出法によって検出した。
・キャピラリー電気泳動装置:PA 800 plus(ベックマン・コールター株式会社製)、
・キャピラリー:20.0cm(有効長)、30.2cm(全長)、75μm(内径)(GLサイエンス株式会社製)、
・キャピラリー温度:30℃、
・ランニングバッファー:25mM 四ホウ素酸ナトリウム(pH9.2)、
・検出:レーザー誘導蛍光検出、
・分離条件(21塩基からなるDNAとプローブ1とをハイブリダイズさせた試料の場合):0分から10分にかけて21kV、
・分離条件(21塩基からなるmicroRNAとプローブ2とをハイブリダイズさせた試料の場合):0分から10分にかけて12kV、10分から12分は12kV。
図1に、21塩基からなるDNAとプローブ1とをハイブリダイズさせた試料の検出結果を示し、図2に、21塩基からなるmicroRNAとプローブ2とをハイブリダイズさせた試料の検出結果を示す。
具体的に、図1において、「IS」は、内部標準物質であるフルオレセインを示し、「未反応プローブ」は、21塩基からなるDNAとハイブリダイズしていないプローブ1を示し、「DNA−DNA hybrid」は、21塩基からなるDNAとハイブリダイズしているプローブ1を示している。
一方、図2において、「IS」は、内部標準物質であるBODIPY(登録商標) FL ATPを示し、「未反応プローブ」は、21塩基からなるmicroRNAとハイブリダイズしていないプローブ2を示し、「miRNA−DNA hybrid」は、21塩基からなるmicroRNAとハイブリダイズしているプローブ2を示している。
図1から、内部標準物質であるフルオレセインと21塩基からなるDNAとは、TE溶液(pH8.0)にて飽和された有機溶媒の混合物にて処理した場合、同等に水相(換言すれば、上述した「DNAを含有する試料溶液」)へ移行することが明らかになった。
また、上述した「DNAを含有する試料溶液」には若干の有機溶媒(例えば、フェノール)が残存するが、このような有機溶媒が存在しても、21塩基からなるDNAとプローブ1とのハイブリダイゼーションには影響がないことが明らかになった。
一方、図2から、内部標準物質であるBODIPY(登録商標) FL ATPと21塩基からなるmicroRNAとは、TE溶液(pH8.0)にて飽和された有機溶媒の混合物にて処理した場合、同等に水相(換言すれば、上述した「microRNAを含有する試料溶液」)へ移行することが明らかになった。
また、上述した「microRNAを含有する試料溶液」には若干の有機溶媒(例えば、フェノール)が残存するが、このような有機溶媒が存在しても、21塩基からなるmicroRNAとプローブ2とのハイブリダイゼーションには影響がないことが明らかになった。
〔実施例5〕CE−LIFによる検出データの直線性の確認
21塩基からなるDNAをTE溶液(pH8.0(ナカライテスク株式会社))に溶解し、更にハイブリダイゼーションバッファーで希釈して、21塩基からなるDNAを様々な濃度にて含有する水溶液を作製した。
具体的には、0pM、50pM、100pM、250pM、500pM、1000pM、2000pM、3000pM、4000pM、または、5000pMにてDNAを含む、複数の混合溶液を作製した。
また、21塩基からなるmicroRNAをTE溶液(pH8.0(ナカライテスク株式会社))に溶解し、更にハイブリダイゼーションバッファーで希釈して、21塩基からなるmicroRNAを様々な濃度にて含有する水溶液を作製した。
具体的には、0pM、50pM、100pM、1000pM、2000pM、3000pM、4000pM、または、5000pMにてmicroRNAを含む、複数の混合溶液を作製した。
上述した各濃度の水溶液を実施例1〜3の方法で処理し、実施例4に記載の条件にてキャピラリー電気泳動するとともに、レーザー誘導蛍光検出法によって検出した。
上述したように、本実施例では、レーザー誘導蛍光検出を行うためにベックマン・コールター株式会社製のキャピラリー電気泳動装置を用いている。そして本実施例では、当該キャピラリー電気泳動装置に組み込まれたプログラムによって、検出された蛍光シグナルのエリア値から、ポリヌクレオチドの量(換言すれば、濃度)を算出している。
簡単に言えば、21塩基からなるDNAにハイブリダイズしたプローブ1が示す蛍光シグナルのエリア値から、混合溶液中のDNAの濃度を算出し、21塩基からなるmicroRNAにハイブリダイズしたプローブ2が示す蛍光シグナルのエリア値から、混合溶液中のmicroRNAの濃度を算出した。
そして、混合溶液に実際に含まれているDNAまたはmicroRNAの濃度と、算出された濃度とを比較して、算出されたデータの直線性を確認した。
表1に、DNAを含む混合溶液に関する試験データを示し、表2に、microRNAを含む混合溶液の試験データを示す。なお、表1および表2において、「Nominal concentration」とは、試験に用いた混合溶液に実際に含まれているDNAまたはmicroRNAの理論濃度を示している。また、「Determined concentration」とは、検出された蛍光の強度と蛍光が検出された時間とから算出された、混合溶液に含まれるDNAまたはmicroRNAの濃度を示している。また、「Accuracy」とは、「Nominal concentration」と「Determined concentration」とのズレを示している。また、「S1」〜「S9」は、各混合溶液に付された名前である。
表1および表2に示すように、混合溶液に実際に含まれているDNAまたはmicroRNAの濃度と、算出された濃度とは非常に近似しており、算出されたデータが直線性を有していることが確認された。
〔実施例6〕生体試料中へのポリヌクレオチドの添加回収
160μLのヒト血漿に、20%(w/v)の濃度にてSDS(sodium dodecyl sulfate)を含む水溶液を20μL添加して、ヒト血漿に含まれる成分が可溶化された水溶液を作製した。
21塩基からなるDNAをTE溶液(pH8.0(ナカライテスク株式会社))に溶解し、21塩基からなるDNAを様々な濃度にて含有する水溶液を作製した。また、21塩基からなるmicroRNAをTE溶液(pH8.0(ナカライテスク株式会社))に溶解し、21塩基からなるmicroRNAを様々な濃度にて含有する水溶液を作製した。そして、各水溶液を、更にハイブリダイゼーションバッファーで希釈して、21塩基からなるDNAを含む水溶液、または、21塩基からなるmicroRNAを含む水溶液を作製した。
ヒト血漿に含まれる成分が可溶化された水溶液に対して、21塩基からなるDNAを含む水溶液を10μL添加し、更に、内部標準物質であるフルオレセインを500nMの濃度にて含む水溶液を10μL添加して、複数の混合溶液を作製した(n=5)。なお、各混合溶液におけるDNAの添加濃度を、50pM、150pM、2500pM、4000pMおよび5000pMとした。
また、ヒト血漿に含まれる成分が可溶化された水溶液に対して、21塩基からなるmicroRNAを含む水溶液を10μL添加し、更に、内部標準物質であるBODIPY(登録商標) FL ATP(Life Technologies Corporation.)を500nMの濃度にて含む水溶液を10μL添加して、複数の混合溶液を作製した(n=5)。なお、各混合溶液におけるmicroRNAの添加濃度を、50pM、150pM、2500pM、4000pMおよび5000pMとした。
上記混合溶液の各々に対して、TE溶液(pH8.0)にて飽和された有機溶媒の混合物(フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール=25:24:1)(Sigma-Aldrich Co. LLC.)を200μL添加し、撹拌および混合した後、室温で10000rpmにて5分間遠心分離した。
遠心分離によって分離された上清90μLを回収して、DNA、または、microRNAを含有する試料溶液とした。
DNAを含有する90μLの試料溶液の各々に対して、10μLのプローブ1(プローブの量は、50nM)を加え、全量を100μLとした。そして、当該混合物を最適な温度にて30分間インキュベートして、21塩基からなるDNAとプローブ1とをハイブリダイズさせた。
また、microRNAを含有する90μLの試料溶液の各々に対して、10μLのプローブ2(プローブの量は、50nM)を加え、全量を100μLとした。そして、当該混合物を最適な温度にて30分間インキュベートして、21塩基からなるmicroRNAとプローブ2とをハイブリダイズさせた。
ハイブリダイズさせた試料を、実施例4と同じ条件にてキャピラリー電気泳動するとともに、レーザー誘導蛍光検出法によって検出した。試料中の濃度算出には、実施例5の検量線を使用した。
表3に、DNAを含む混合溶液に関する試験データを示し、表4に、microRNAを含む混合溶液の試験データを示す。なお、表3および表4において、「Nominal concentration」とは、試験に用いた混合溶液に実際に含まれているDNAまたはmicroRNAの理論濃度を示している。また、「Average Determined concentration」とは、検出された蛍光の強度と蛍光が検出された時間とから算出された、混合溶液に含まれるDNAまたはmicroRNAのn=5測定の平均濃度を示している。また、「Accuracy」とは、「Nominal concentration」と「Determined concentration」とのズレを示している。また、「Precision」とは、n=5測定のバラツキを示している。また、「LLOQ」、「L」、「M」、「H」および「ULOQ」は、各混合溶液に付された名前である。
表3および表4に示すように、血漿に由来する様々な不純物を含んだ混合液を用いた場合であっても、混合溶液に実際に含まれているDNAまたはmicroRNAの濃度と、算出された濃度とは非常に近似しており、算出されたデータから、良好な添加回収であることが確認された。
〔実施例7〕有機溶媒の混合物を用いた精製における、DNAまたはmicroRNAと、内部標準物質との精製効率の比較
実施例1および実施例2では、有機溶媒の混合物を用いて混合溶液を精製している。そこで、本実施例7では、当該精製における内部標準物質の精製効率と、ポリヌクレオチドの精製効率とを比較した。なお、ポリヌクレオチドの精製は、上述したプローブ1を用いて確認した。
320μLの超純水に、20%(w/v)の濃度にてSDS(sodium dodecyl sulfate)を含む水溶液を40μL添加し、更に、20nMの濃度にてプローブ1を含む溶液20μL、および、20nMの濃度にて内部標準物質(フルオレセイン、BODIPY FL ATP、BODIPY FL GTP、BODIPY FL GDP、Oregon Green、Rhodamine Green、Alexa Fluor 488−dUTP、Alexa Fluor 488)を含む溶液20μL、を添加した。
次いで、上述した溶液200μLを採取し、TE溶液(pH8.0)にて飽和された有機溶媒の混合物(フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール=25:24:1)(Sigma-Aldrich Co. LLC.)を200μL添加し、撹拌および混合した後、室温で10000rpmにて5分間遠心分離した。
遠心分離によって分離された上清100μLを回収した。
有機溶媒によって精製する前の水溶液、および、精製後に得られた上清の各々を、実施例4と同じ条件にてキャピラリー電気泳動するとともに、レーザー誘導蛍光検出法によって検出した。
検出された内部標準物質およびプローブ1の蛍光のエリア値から、内部標準物質のエリア値に対するプローブ1のエリア値を算出した(有機溶媒の混合物処理前:Ratio1、有機溶媒の混合物処理後:Ratio2)。
更に、Ratio2に対するRatio1の比を算出することで、ポリヌクレオチドおよび内部標準物質の、水相への移行の差を確認した。つまり、当該比が1よりも大きい場合は、ポリヌクレオチドよりも内標準物質の方が水相への移行性が高く、当該比が1の場合は、水相への移行性が同等、当該比が1よりも小さい場合は、内標準物質はポリヌクレオチドよりも水相への移行性が低いことを示している。試験データを表5に示す。
表5に示すように、有機溶媒で精製した場合、内部標準物質はポリヌクレオチドと同等の水相への移行性を有していることが明らかになった。