以下、本発明の一実施態様に係るイオン伝導性複合体(以下、単に「複合体」と記載する場合がある。)を、図1〜7に基づいて説明する。
図1に示すように、複合体1Aは、多孔性配位高分子ナノ粒子(以下、単に「ナノ粒子」と記載する場合がある。)2と、第1のイオン液体3とから構成されている多孔性配位高分子ナノ粒子−イオン液体複合体であり、第1のイオン液体3は多孔性配位高分子が備える第1の細孔21内に保持されている。
多孔性配位高分子ナノ粒子2は多孔性配位高分子で構成されている。多孔性配位高分子は絶縁性であり、MOF(Metal-Organic Framework)またはPCP(Porous Coordination Polymer)とも呼ばれる。多孔性配位高分子は、マイクロ孔領域の第1の細孔21を多数有している上に、第1の細孔21の直径が結晶構造に由来して決定されるために均一である。したがって、第1の細孔21内に保持されている第1のイオン液体3の融点やイオン伝導率などの物性が均一になる。さらに、多孔性配位高分子の第1の細孔21は、上記のように結晶格子に由来する。そのため、マイクロ孔領域で、均一な細孔径の第1の細孔21を有する多孔性配位高分子ナノ粒子2を再現良く製造することができる。
多孔性配位高分子としては、例えば、
Zn(MeIM)2(以下、ZIF−8と記載する。)
Al(OH)(BDC)(以下、Al−MIL−53と記載する。)
Cr(OH)(BDC)(以下、Cr−MIL−53と記載する。)
Fe(OH)(BDC)(以下、Fe−MIL−53と記載する。)
VO(BDC)(以下、V−MIL−47と記載する。)
Zn2(DOBDC)(以下、Zn−MOF−74と記載する。)
Mg2(DOBDC)(以下、Mg−MOF−74と記載する。)
Al(OH)(1,4−NDC)
Cr3O(F,OH)(BDC)3(以下、Cr−MIL−101と記載する。)
Al8(OH)15(BTC)3(以下、Al−MIL−110と記載する。)
Cu3(BTC)2(以下、HKUST−1と記載する。)
Zr6O4(OH)4(BDC)6またはZr6O6(BDC)6(以下、UiO−66と記載する。)
Zr6O4(OH)4(BPDC)6またはZr6O6(BPDC)6(以下、UiO−67と記載する。)
Zr6O4(OH)4(TPDC)6またはZr6O6(TPDC)6(以下、UiO−68と記載する。)
ZrO(BDC)(以下、MIL−140と記載する。)
などが挙げられる。
上記化学式で用いた略号は、
H(MeIM):2−メチルイミダゾール
H2(BDC):テレフタル酸
H4(DOBDC):2,5−ジヒドロキシテレフタル酸
H2(1,4−NDC):1,4−ナフタレンジカルボン酸
H3(BTC):1,3,5−ベンゼントリカルボン酸
H2(BPDC):4,4’−ビフェニルジカルボン酸
H2(TPDC):4,4’’−p−テルフェニルジカルボン酸
においてH+が解離した残基を表わす。
多孔性配位高分子は金属イオンに有機配位子を配位結合させることによって主鎖を形成している。多孔性配位高分子を構成する有機配位子の全部または一部が、適当な官能基を有する配位子に置換されていてもよい(例えば、テレフタル酸を2−ヒドロキシテレフタル酸に置換するなど)。官能基としては例えば−OH、−COOH、−NH2、−SO3H、−SO3Li、−SO3Naなどが挙げられる。−SO3Li、−SO3Naが特に望ましい。複合体1Aを電池用の電解質として用いた際にリチウムイオン、ナトリウムイオンを供給して、イオン伝導度を向上できるからである。また、多孔性配位高分子を構成する金属イオンの全部または一部が、他の金属イオンに置換されていてもよい。金属イオンの価数は同じであることが望ましい。
さらに、多孔性配位高分子には、第1のイオン液体3に対する耐久性が要求される。金属イオンに有機配位子を配位結合させることによって主鎖を形成している多孔性配位高分子は、その金属イオンをルイス酸、有機配位子をルイス塩基とした場合、同程度の硬さを有する酸および塩基を組み合わせると、第1のイオン液体3と接触しても多孔性配位高分子の結晶構造を維持できる。HSAB則によれば、一般的に硬い酸と硬い塩基とは結合が強く、軟らかい酸と軟らかい塩基とは結合が強い。多孔性配位高分子においては、金属イオンがルイス酸、有機配位子がルイス塩基であり、これらの結合の強さが多孔性配位高分子の第1のイオン液体3への耐性を支配している。
硬い酸、硬い塩基、軟らかい酸、軟らかい塩基、中間的な酸、および中間的な塩基の例は、例えばThomas, G. Medicinal Chemistry: An Introduction, 2nd edition; Wiley: New York, 2007.などに記されている。
例えば、テレフタル酸、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸などは、分子中にRCOO-の構造を有する硬い塩基である。そのため、これらの化合物と硬い酸である金属イオン(例えば、Al3+、Cr3+、Mg2+、Fe3+、Zr4+など)とから得られる多孔性配位高分子は、第1のイオン液体3に対して優れた耐性を有する。このような多孔性配位高分子としては、具体的には、金属イオンがAl3+のAl−MIL−53、Al(OH)(1,4−NDC)、Al−MIL−110、金属イオンがCr3+のCr−MIL−53、Cr−MIL−101、金属イオンがMg2+のMg−MOF−74、金属イオンがFe3+のFe−MIL−53、金属イオンがZr4+のUiO−66、UiO−67、UiO−68などが挙げられる。
一方、硬い塩基である化合物と、中間的な硬さを有する酸である金属イオン(例えば、Fe2+、Co2+、Zn2+、Cu2+など)とから得られる多孔性配位高分子は、硬い塩基と硬い酸とから得られる多孔性配位高分子と比べると、第1のイオン液体3に対する耐性が若干低くなる。このような多孔性配位高分子としては、具体的には、金属イオンがZn2+のMOF−74(Zn)、金属イオンがCu2+のHKUST−1などが挙げられる。
例えば、イミダゾールは中間的な硬さを有する塩基である。したがって、イミダゾール系配位子と中間的な硬さを有する酸である金属イオンとから得られる多孔性配位高分子は、第1のイオン液体3に対して優れた耐性を有する。例えば、Fe2+、Co2+、またはZn2+からなるZIF(Zeolitic Imidazolate Frameworks)系の多孔性配位高分子は全て該当し、代表的なものはZIF−8である。
多孔性配位高分子は、その金属イオンが配位不飽和サイトを有していないことが好ましい。金属イオンが配位不飽和サイトを有していると、第1のイオン液体3のアニオンが多孔性配位高分子の金属イオンに近接することが容易となる。その結果、金属イオンと有機配位子の結合を弱め、多孔性配位高分子が破壊されることがある。すなわち、配位不飽和サイトを有さないAl−MIL−53、Al(OH)(1,4−NDC)、Cr−MIL−53、Fe−MIL−53、およびZIF系(ZIF−8など)は、第1のイオン液体3に対して優れた耐性を有する。
逆に、配位不飽和サイトを有するCr−MIL−101、Mg−MOF−74、Zn−MOF−74、HKUST−1は、第1のイオン液体3に対する耐性が若干低くなる。ただし、UiO−66、UiO−67、およびUiO−68は配位不飽和サイトを有するものの、例外的に第1のイオン液体3への耐性が極めて高い。なぜなら、これらの多孔性配位高分子の主鎖を構成する金属イオンはZr4+であるが、このZr原子は周囲の原子に8配位、配位不飽和サイトを形成した場合でも7配位と、他の多孔性配位高分子よりも大きな配位数を有しているためである。配位数が多いと、第1のイオン液体3のアニオンが容易にZr4+に近づくことができず、多孔性配位高分子は破壊されにくい。
一方、先に述べたようにCr−MIL−101、Mg−MOF−74、Zn−MOF−74、HKUST−1は、主鎖を構成する金属イオンが周囲の原子に6配位、配位不飽和サイトを形成した場合は5配位と、配位数が小さい。ゆえに、第1のイオン液体3のアニオンが金属イオンに容易に接近でき、多孔性配位高分子を破壊してしまう。
多孔性配位高分子が配位不飽和サイトを有するか否かは、多孔性配位高分子の結晶構造によって判断することができる。多孔性配位高分子の結晶構造は、例えばX線回折、赤外分光法などによって調べることができる。配位不飽和サイトの数は、多孔性配位高分子の種類によって決定される。例えば、Cr−MIL−101、Mg−MOF−74、Zn−MOF−74、HKUST−1は、配位不飽和サイトの数と金属イオンの数とが同じである。UiO−66、UiO−67、UiO−68は金属イオン3個あたり1個の配位不飽和サイトを有している。
Cr−MIL−101、Mg−MOF−74、Zn−MOF−74、およびHKUST−1は、各金属イオンが6個の酸素原子と配位結合している。6個のうち5個は有機配位子の酸素原子であり、残りの1個は溶媒(例えばDMFや水など)分子の酸素原子である。このような多孔性配位高分子を、例えば真空引きしながら加熱することによって、金属イオンに配位している溶媒分子を除去することができる。その結果、金属イオンの配位サイト6個のうち1個が空き、配位不飽和サイトが形成される。
UiO−66、UiO−67、およびUiO−68において、各Zr4+は8個の酸素原子と配位結合している。8個のうち4個は有機配位子の酸素原子であり、2個はμ3−Oに由来する酸素原子であり、残りの2個はμ3−OHに由来する酸素原子である。このような多孔性配位高分子を、例えば真空引きしながら加熱することによって、各Zr4+に配位している酸素原子が、有機配位子の4個の酸素原子とμ3−Oに由来する3個の酸素原子に変化する。その結果、配位不飽和サイトが1個形成される。
ほとんどの多孔性配位高分子は、有機配位子の酸素原子や窒素原子で金属イオンの配位サイトが全て占有されているため、配位不飽和サイトが存在しない。なお、多孔性配位高分子と第1のイオン液体3とからなる複合体1Aの場合、第1のイオン液体3のアニオンが、金属イオンの配位不飽和サイトに容易に配位して、配位不飽和サイトが消滅していると考えられる。本明細書においては、多孔性配位高分子内の第1の細孔21内の第1のイオン液体3を除去し、さらに真空引きしながら加熱などを行うことによって、配位不飽和サイトを形成することが可能な場合、「多孔性配位高分子が配位不飽和サイトを有する」と定義する。
第1の細孔21内の第1のイオン液体3を除去し、真空引きしながら加熱などを行うことによって、配位不飽和サイトが形成されたか否かは、例えば赤外分光法、元素分析、X線回折などによって確認することができる。溶媒を吸着させたときの光学特性の変化によって評価してもよい。
多孔性配位高分子は、金属イオンが典型金属元素であることが好ましい。典型金属元素とは、金属元素のうち、遷移金属の系列にない、例えば周期表の1族、2族および12族から18族に属する金属元素のことをいう。すなわち、電子が最外殻のs軌道またはp軌道に順次配置され、その上に金属としての特有の性質を持つものである。典型金属元素は価数が変動しにくいため、これらを主鎖に含む多孔性配位高分子は、第1のイオン液体3と接触しても多孔性配位高分子の結晶構造を維持することができる。一方、主鎖に含まれる金属元素が遷移金属元素の場合、第1のイオン液体3との接触によってその価数が変化し、多孔性配位高分子の結晶構造が破壊されることがある。この観点から、好ましい多孔性配位高分子としては、Al−MIL−53、Al(OH)(1,4−NDC)、ZIF−8、およびZIF系のうち金属イオンがZn2+のものが挙げられる。
多孔性配位高分子ナノ粒子2は、原料として金属化合物および有機化合物を使用し、これらを反応溶剤中で反応させることで合成される。これにより、金属イオンと有機配位子とが反応し、配位結合して、多孔性配位高分子が形成される。金属化合物は金属イオンの供給源であり、例えば金属硝酸化物、金属塩化物、金属酸化物などが挙げられる。有機化合物は有機配位子の供給源であり、例えばテレフタル酸、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2−メチルイミダゾール、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸、シュウ酸、フマル酸などが挙げられる。
反応溶剤としては、金属化合物および有機化合物を溶解し得るものであれば特に限定されず、例えば水、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)、エタノール、メタノールなどが挙げられる。これらを2種類以上混合したものを反応溶剤として用いてもよい。また、イオン液体を反応溶剤として用いてもよい。また、pHを調整するために、適当な酸または塩基を加えてもよい。酸としては例えば氷酢酸、フッ酸などを用いることができる。塩基としては例えばトリエチルアミンなどを用いることができる。
反応溶剤に、金属化合物および有機化合物を溶解させ、保持または撹拌すれば多孔性配位高分子を合成できる。反応は室温またはそれより低温でもよい。溶液に超音波を与えながら合成を行ってもよい。反応は、原料の変質を防ぐため、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。金属化合物および有機化合物を溶解させた溶液を、減圧雰囲気下で噴霧するスプレードライ法によって多孔性配位高分子を合成してもよい。
ここで、多孔性配位高分子ナノ粒子2は、一次粒子の平均粒径が50nm以下である。これにより、多孔性配位高分子の第1の細孔21内への第1のイオン液体3の充填率を向上させることができる。すなわち、第1のイオン液体3が多孔性配位高分子の第1の細孔21中を拡散する速度は極めて遅い。そのため、図2および図3に示すように、後述する比較例に係る粗大粒子の複合体100では、第1のイオン液体3は粒子の表面近傍にとどまっていると考えられる。一次粒子の平均粒径を50nm以下にすると、第1の細孔21内に第1のイオン液体3を注入するときに多孔性配位高分子が第1のイオン液体3によって分解されるのを抑制しつつ、第1のイオン液体3が粒子2の中心部に達するまでの移動距離を短くできる。その結果、第1のイオン液体3の充填率を向上させることができる。これらの点については、後述において詳細に説明する。一次粒子の平均粒径は、5〜50nmが望ましく、5〜25nmがより望ましい。
粒径の小さい多孔性配位高分子ナノ粒子2を得るには、反応は低温かつ短時間が特に望ましい。高温で長時間反応させると、溶液中に析出した粒子の核が、粗大粒子に成長しやすくなるためである。反応温度は、具体的には室温(23℃)またはそれ以下が望ましい。溶剤を入れた容器を氷水などに浸して冷却しながら行ってもよい。
反応時間は1時間以下が望ましく、15分以内がより望ましく、5分以内が特に望ましい。金属化合物を溶かした溶液と、有機化合物を溶かした溶液をそれぞれ別個に用意しておき、これらを混ぜ合わせる手法が望ましい。溶液を混ぜ合わせた時点で、金属イオンと有機配位子の反応が迅速に完了するためである。反応を迅速に完了させるためには、金属化合物および有機化合物が溶液中でほぼ完全に電離していることが望ましい。一般的に有機化合物は電離度が低いため、有機化合物の溶液に塩基を加え、有機化合物からプロトンを引き抜いてイオン化しておくことが望ましい。塩基のモル当量は、引き抜くプロトンのモル当量以上であることが望ましく、2倍以上過剰であることが特に望ましい。塩基としてはトリエチルアミンが望ましい。反応を迅速に完了させるためには、金属イオンまたは有機配位子のどちらか一方が、多孔性配位高分子の化学量論比よりも過剰量存在していることが望ましい。具体的には2倍以上、より望ましくは3倍以上過剰に存在していることが望ましい。また、前述したように有機化合物の電離度は低いため、反応可能な配位子を十分に用意しておくため、有機配位子の方が金属イオンよりも過剰になるようにしておくことが望ましい。
また、金属化合物を溶かした溶液と、有機化合物を溶かした溶液をそれぞれ別個に用意しておき、溶液のうち一方をスターラーなどで強く撹拌しながら、もう一方の溶液を全て一気に注ぎ入れる手法が特に望ましい。金属イオンと有機配位子の反応を一瞬で完了させられるため、より微細な多孔性配位高分子ナノ粒子2が得られるだけでなく、図4に示すように、ナノ粒子2の表面に微細な凹凸22を形成できる。これは反応を高速で完了させたことによる。
このようにナノ粒子2の表面に微細な凹凸22を形成しておくことは、多孔性配位高分子への第1のイオン液体3の導入を容易にできるため望ましい。すなわち、金属イオン23に有機配位子24を配位結合させることによって主鎖を形成している多孔性配位高分子において、その表面に微細な凹凸22を形成しておくと、図5に示すように、第1のイオン液体3はまずこの凹部に溜まり、そこから多孔性配位高分子の第1の細孔21内へと拡散していく。凹部に溜まった第1のイオン液体3の表面は曲率が大きい。すなわち表面エネルギーが大きい状態にある。この曲率は第1の細孔21内に取り込まれたときの曲率と比較的近い。すなわち、第1の細孔21内へ第1のイオン液体3が導入されたときの表面エネルギーの増加が小さいため、第1の細孔21内への第1のイオン液体3の導入が容易になる。一方、図6のように平滑な表面の場合、第1のイオン液体3が溜まる場所が存在しないため、ナノ粒子2外の第1のイオン液体3は曲率が非常に大きく、表面エネルギーが非常に小さい。そのため、第1のイオン液体3を第1の細孔21内に導入する際、図7のようにイオン液体の曲率低下は極めて大きい。すなわち、表面エネルギーがはるかに大きい状態へと変化しなければならない。そのため、表面が平滑な多孔性配位高分子に第1のイオン液体3を導入することは困難を伴う。
反応後、反応溶剤中に沈殿または分散した多孔性配位高分子ナノ粒子2を、例えばろ過、自然沈降、遠心分離などの手法で回収する。多孔性配位高分子ナノ粒子2はろ紙の目を容易に通過するため、自然沈降または遠心分離が望ましい。
多孔性配位高分子ナノ粒子2の表面や第1の細孔21内に残存している未反応物質や不純物を除去しておくことが望ましい。未反応物質や不純物が残存していると、多孔性配位高分子と第1のイオン液体3を複合化する際、それらの未反応物質や不純物によって第1の細孔21が狭められたり完全に塞がれたりして、第1のイオン液体3を第1の細孔21内に注入しにくくなる。また、不純物の混入により第1のイオン液体3の物性が変化して融点の制御が困難となる懸念がある。さらに、複合体1Aを電気化学デバイスの電解質として用いた際、金属の析出、ガスの発生、サイクル特性の低下といった不具合の原因となる。
未反応物質や不純物を除去する方法としては、溶剤で多孔性配位高分子を洗浄すればよい。洗浄に用いる溶剤は水、メタノール、THF、DMFが望ましい。特に水、メタノールが望ましい。水、メタノールは分子サイズが小さいため、多孔性配位高分子の第1の細孔21内に容易に入り込み、第1の細孔21内の未反応物質や不純物を容易に除去できるためである。溶剤に多孔性配位高分子を長時間浸漬してもよい。浸漬時間は12時間以上が望ましく、24時間以上がより望ましい。
未反応物質や不純物を除去する他の方法としては、加熱処理によって吸着した分子やイオンを脱離させる方法がある。有機物を除去したい場合は、空気中または酸素雰囲気中で加熱処理を行うことが望ましい。揮発性物質の場合は真空加熱処理が望ましい。加熱温度は100〜300℃が望ましい。
表面に上記の微細な凹凸22が形成されていることは、ガス吸着測定によって確認できる。ガスは多孔性配位高分子に対して不活性なものであればよく、特に限定されるものではないが、窒素ガスが好適に用いられる。表面に凹凸22が形成されていると、図4から明らかなように、多孔性配位高分子の重量あたりのマイクロ孔の容積が減少する。そのため、ガス吸着測定によってマイクロ孔の容積を調べることによって、表面の凹凸形成を知ることができる。なお、凹凸形成は、SEMやTEMによって確認してもよい。
多孔性配位高分子が形成されているか否かは、得られた多孔性配位高分子の粉末X線回折(XRD)測定を行い、得られた回折パターンを解析することで確認できる。また、得られた回折パターンの中から適当なピークを選び出して半値幅を測定し、シェラーの式を適用することによって多孔性配位高分子の粒子サイズ、すなわち一次粒子の平均粒径を評価することができる。SEMやTEMで粒子を観察し、一次粒子の平均粒径を評価してもよい。
このような多孔性配位高分子からなる多孔性配位高分子ナノ粒子2を絶縁性、すなわち電子伝導性を有さない絶縁材とし、その第1の細孔21内部に第1のイオン液体3を保持させる。これにより、複合体1Aは、イオン伝導性を有するが電子伝導性を有さないものとなり、電池や電気二重層キャパシタの電解質として用いることができる。
第1の細孔21をマイクロ孔領域の大きさとすることにより、多孔質ガラスなどのメソ孔にイオン液体を充填した場合(例えば、特許文献1を参照)のイオン液体の融点や、さらにマイクロ孔相当の直径を有する細孔にイオン液体を充填した場合に予想されるイオン液体の融点と比較して、第1のイオン液体3を実質的に凝固させず、常に液体状態を保つことができるようになる。
これは、第1のイオン液体3を保持する細孔の大きさがマイクロ孔の領域になると、細孔内に存在できるイオン対の数は、細孔の直径方向に10対(つい)オーダー以下にまで減少することに起因する。第1のイオン液体3は凝固するときに、第1のイオン液体3を構成するカチオンとアニオンとが水素結合によって規則的に配列する必要がある。しかし、細孔の大きさがマイクロ孔の領域になると、細孔内に存在するイオンの数が極端に少なくなる。そのため、イオンが極性の異なる他のイオンを容易に見つけられず、イオン対の形成が困難になる。さらに、カチオンとアニオンが規則的に配列した結晶構造を取ることが実質的に不可能になり、第1のイオン液体3の凝固が起こらなくなる。その結果、第1のイオン液体3が常に液体状態を保つことができるようになると考えられる。
また、多孔性配位高分子によっては、第1の細孔21内に存在する分子によって、第1の細孔21の大きさが膨張あるいは収縮する性質を有するものがある。このような多孔性配位高分子からなる多孔性配位高分子ナノ粒子2の第1の細孔21に第1のイオン液体3を充填すると、カチオンとアニオンとが規則的に配列しやすくなるように、第1の細孔21が最適な大きさに変形する。そのため、第1のイオン液体3は結晶状態が安定となり、融点が上昇すると考えられる。第1の細孔21の大きさが膨張あるいは収縮する性質を有する多孔性配位高分子としては、例えばAl−MIL−53、Cr−MIL−53、Fe−MIL−53などが挙げられる。
国際純正応用化学連合(IUPAC)の触媒分野において、マイクロ孔とは直径2nm以下の細孔で定義され、同様に直径2〜50nmの細孔をメソ孔、直径50nm以上の細孔をマクロ孔と定義されている。また、イオン液体とは、一般に100℃以下の融点を有する塩のことを意味する。しかし、本明細書では、第1の細孔21内に保持することにより融点が100℃以下になる塩を含めてイオン液体と称する。
第1の細孔21の直径は、1.5nm以下であることが好ましく、これにより第1のイオン液体3の融点をさらに大きく低下させることができる。また、第1の細孔21の直径は0.3nm以上であることが好ましい。0.3nmより小さい第1の細孔21の中には、第1のイオン液体3を構成するイオンを存在させにくくなるためである。第1の細孔21の直径は、例えばガス吸着法で測定したり、X線構造解析により得られた結晶構造から求めたりできる。ガス吸着法で測定する場合は、複合体1Aを水やメタノールなどで洗浄するなどして、第1の細孔21内の第1のイオン液体3や吸着物を除去し、真空中で加熱処理するなどして、洗浄に用いた溶媒を除去した後に測定すればよい。
本明細書においては、第1の細孔21の直径を、測定した細孔径分布の平均値(平均細孔径)、または多孔性配位高分子ナノ粒子2が結晶構造に由来する第1の細孔21を有する場合には、第1の細孔21の内壁に内接する球の直径とし、第1の細孔21の直径が2nm以下である場合を、第1の細孔21がマイクロ孔の領域であるとした。
第1の細孔21の形状は1次元、2次元および3次元のいずれでもよいが、3次元であることが特に好ましい。第1の細孔21の形状が3次元であると、イオン伝導のパスが最も確実に構築される。すなわち、イオン伝導のパスが等方的に形成されるとともに相互接続が容易になり、イオン伝導率が高くなるからである。
多孔性配位高分子ナノ粒子2の形状は特に限定されず、例えば、球形、立方体、直方体、正八面体、その他多面体、樹状、針状、ロッド状、板状など、いずれの形状であってもよい。すなわち、多孔性配位高分子ナノ粒子2における粒子とは、球形のみに限定されるものではなく、その効果を損なわない限りにおいて、球形以外の形状をも含む概念である。
第1の細孔21内に第1のイオン液体3を注入する方法としては、例えば粒子2と第1のイオン液体3との混合物を静置しておく方法などが挙げられる。第1のイオン液体3の第1の細孔21への拡散を促進するため、混合物を加熱することが望ましい。加熱温度は100〜200℃が望ましい。温度が高いほど第1のイオン液体3の拡散速度が大きくなる一方、温度が高すぎると多孔性配位高分子が第1のイオン液体3によって分解されやすくなるためである。多孔性配位高分子と第1のイオン液体3との組み合わせにより、静置温度は適宜調整される。
加熱時間は25時間以内であることが望ましい。加熱時間が長すぎると、多孔性配位高分子が第1のイオン液体3によって分解されやすくなるためである。第1のイオン液体3が第1の細孔21を通じて多孔性配位高分子ナノ粒子2の中心部に達するまでの移動距離が短いほど、より確実に第1のイオン液体3をナノ粒子2の内部の第1の細孔21内まで注入することが可能になる。200℃に加熱した場合であっても、第1のイオン液体3が多孔性配位高分子の第1の細孔21中を拡散する速度は1nm/h(時間)程度と見積もられる。先述したように加熱時間は25時間以内が望ましいため、多孔性配位高分子ナノ粒子2の一次粒子の平均粒径は50nm以下である。
また、第1の細孔21や第1のイオン液体3へのガス、特に水分の吸着を防ぐため、多孔性配位高分子への第1のイオン液体3の注入処理は、例えば真空中や、露点−20℃以下の乾燥雰囲気中で行うことが好ましい。さらに、多孔性配位高分子やイオン液体の酸化還元などの化学反応を防止するため、真空中や、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気中で注入処理することがさらに好ましい。
第1のイオン液体3としては、例えばイミダゾリウム塩、ピロリジニウム塩、ピリジニウム塩、4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩、スルホニウム塩などが挙げられる。リチウム塩、ナトリウム塩などのアルカリ金属塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩を用いてもよい。これらの中でも、カチオンのサイズが比較的小さく、融点が低く、イオン伝導性の高いイミダゾリウム塩が特に好適に用いられる。
アニオンとしては、例えばCl、Brなどのハロゲン、BF4、PF6、CF3SO3、FSO2NSO2F(FSI)、CF3SO2NSO2CF3(TFSI)、C2F5SO2NSO2C2F5(BETI)、SCN、ClO4、SO3C6H4CH3(p−トルエンスルホナート)などが挙げられる。これらの中でも、融点を低くでき、イオン伝導性の高いTFSIが特に好適に用いられる。
これらのイオン液体は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。電池の電解質としては、リチウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩を溶解させたものが特に好適に用いられる。特にリチウム塩が望ましい。言い換えれば、第1のイオン液体3が、リチウムを含有するのが望ましい。文献(例えばY. Umebayashi et al., J. Phys. Chem. B 2007, 111, 13028.)に示されているように、イオン液体単独の場合、リチウムイオンはアニオンが複数個配位した分子として存在している。この状態では分子のサイズが大きいため、リチウムイオンの移動度は低下してしまう。しかし、第1の細孔21内に第1のイオン液体3を導入すると、リチウムイオンに配位しているアニオンと、第1の細孔21の内壁との間に相互作用が働き、リチウムイオンとアニオンとの相互作用が弱まる。その結果、リチウムイオンとアニオンとの結合・解離が容易になり、リチウムイオンはアニオン間を跳び移るように移動することが可能となる。この伝導機構では、カチオンのサイズが小さい方が、多孔性配位高分子ナノ粒子2の第1の細孔21内をスムーズに移動できる。リチウムイオンはイオン半径が小さいため、多孔性配位高分子ナノ粒子2の第1の細孔21内をスムーズに移動することができる。そのため、イオン伝導性複合体1Aをリチウムイオン電池の電解質として好適に用いることができる。イオン液体中のカチオンに占めるリチウムイオンの割合は、モル比で10〜50%が望ましく、10〜30%がより望ましい。リチウムイオンの量が少なすぎると、電池の電解質として機能しにくくなる。リチウムイオンの量が多すぎると、リチウムイオンとアニオンの相互作用が大きくなってしまい、リチウムイオンの伝導度が極端に低下する傾向がある。
このような第1のイオン液体3を、多孔性配位高分子ナノ粒子2の第1の細孔21内に注入することにより、複合体1Aが得られる。このとき、上述のような第1のイオン液体3に対する耐性が若干低い多孔性配位高分子は、解離度が高くカチオンとアニオンが個別に運動しやすい第1のイオン液体3、例えば1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(EMI−TFSI)などを用いると破壊されることがある。このような多孔性配位高分子を用いて複合体1Aを形成する場合は、解離度が低い第1のイオン液体3、例えばカチオンとしてピロリジニウムイオン、ピペリジニウムイオン、ピリジニウムイオン、脂肪族四級アンモニウムイオン、脂肪族四級ホスホニウムイオン、脂肪族三級スルホニウムイオンを含むもの、あるいはアニオンとしてCl-、Br-などのハロゲン、BF4 -、PF6 -、ClO4 -、SO3C6H4CH3 -(p−トルエンスルホナート)、SCN-を含むものなどを用いればよい。
多孔性配位高分子と第1のイオン液体3との混合比率は、多孔性配位高分子に含まれる第1の細孔21の全容積と第1のイオン液体3の体積とが等しくなるように混合することが好ましいが、第1のイオン液体3が過少・過剰となるような比率で混合しても構わない。ただし、第1のイオン液体3が過少となる場合でも、第1の細孔21の全容積に対する第1のイオン液体3の体積は、20%以上であることが好ましく、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは75%以上である。第1のイオン液体3の量が少ないほど第1のイオン液体3のパスが途切れやすく、イオン伝導が遮断される可能性がある。また、第1のイオン液体3が過剰となる場合には、第1の細孔21の全容積に対する第1のイオン液体3の体積は、200%(2倍)未満であることが好ましい。特に、融点低下を目的とする場合、200%(2倍)以上になると、余剰の第1のイオン液体3が多孔性配位高分子の外周を覆ってしまい、複合体1Aのイオン伝導度は、第1の細孔21外に存在する第1のイオン液体3により律速されることになる。この場合、特に、第1の細孔21内の第1のイオン液体3が液体状であっても、第1の細孔21外に存在する余剰の第1のイオン液体3が固体状となる温度域では、複合体1Aのイオン伝導度が、固体状の第1のイオン液体3により律速されることになる。そのため、マイクロ孔領域の第1の細孔21内に第1のイオン液体3を保持することによる第1のイオン液体3の融点低下の効果が得られないおそれがある。
多孔性配位高分子の第1の細孔21内部に第1のイオン液体3が保持されていることは、例えば、第1のイオン液体3単独および複合体1Aの示差走査熱量分析(DSC)を行い、発熱または吸熱を示すピークの出現温度が、第1のイオン液体3単独の場合と複合体1Aの場合とで異なるか否かを確認すればよい。複合体1Aが一切の発熱または吸熱ピークを示さない場合もある。あるいは、多孔性配位高分子の第1の細孔21の容積に対して第1のイオン液体3が過剰に存在する場合は、第1のイオン液体3単独の場合と同じ融点を示すこともある。このような場合には、複合体1Aを、固体核磁気共鳴(NMR)分析法、交流インピーダンス法などの手法で測定温度を変えながら評価し、第1のイオン液体3単独の場合の融点よりも低温における相転移挙動の有無を確認することで、多孔性配位高分子の第1の細孔21内に第1のイオン液体3が存在するか否かを判断できる。
第1の細孔21内部に吸蔵している分子の種類によって多孔性配位高分子の結晶構造が変化する場合は、複合体1AのX線回折(XRD)パターンの解析から、第1の細孔21内に第1のイオン液体3が保持されていることを確認することもできる。例えば、多孔性配位高分子としてAl−MIL−53を用いた場合、Al−MIL−53単独で第1の細孔21内に水分のみが吸着している場合は単斜晶の構造を有する。一方、Al−MIL−53の第1の細孔21内に第1のイオン液体3であるEMI−TFSIが存在する場合は斜方晶の構造を有する。そのため、X線回折(XRD)パターンの解析から第1の細孔21内部に吸蔵している物質の有無および種類を判別できる。
なお、使用する多孔性配位高分子や第1のイオン液体3の種類および組成は、例えば元素分析、X線回折(XRD)測定、核磁気共鳴(NMR)分析、赤外吸光分析(IR)などにより特定すればよい。
なお、上述した第1のイオン液体3として、プラスチッククリスタル相(柔粘性結晶相)を示すイオン液体を用いてもよい。プラスチッククリスタルは柔粘性結晶とも呼ばれ、固体でありながら高いイオン伝導性を示す材料群である。イオンがほぼ完全に固定されてしまう結晶状態と異なり、プラスチッククリスタル相の中では、イオンがある程度自由に運動できる。そのため、結晶中の欠陥をイオンがホッピング伝導し、高いイオン伝導性を示すと言われている。
多孔性配位高分子ナノ粒子2の第1の細孔21中に、プラスチッククリスタル相を示すイオン液体を導入すると、第1の細孔21中のイオン液体は、乱れた構造を有するプラスチッククリスタル相を形成する。すなわち欠陥が高密度に導入されるため、イオンのホッピング伝導が容易になる。加えて、多孔性配位高分子をナノ粒子化したことによって、イオン液体を高密度に充填できる。この2つの効果によって、プラスチッククリスタル相を示すイオン液体を多孔性配位高分子と複合化すると、イオン伝導性を高くできる。
プラスチッククリスタル相を示すイオン液体も、加熱すれば通常のイオン液体と同様に液体になるため、先述したのと同様の方法で、多孔性配位高分子と複合化することができる。
イオン液体単独でプラスチッククリスタル相を示すイオン液体であれば、第1のイオン液体3として特に制限なく用いることができるが、例えばピロリジニウム塩、四級アンモニウム塩が好適に用いられる。特にピロリジニウム塩はカチオンのサイズが比較的小さいため、多孔性配位高分子の第1の細孔21中を拡散しやすく、充填量を向上させられる、すなわちイオン伝導度が高くなるため好ましい。
また、複合体1Aが有機溶媒を含有していてもよい。すなわち、複合体1Aが、第1の細孔21内に、さらに有機溶媒を含んでいてもよい。有機溶媒が第1のイオン液体3に溶け込むことによって、第1のイオン液体3の解離度が向上し、イオン伝導性が向上する。これは、有機溶媒が第1のイオン液体3を構成するイオンに配位して溶媒和を形成し、カチオンとアニオンの解離を容易にするためである。
有機溶媒としては、分子中に酸素原子を含むものが望ましい。酸素原子を含む有機分子は極性が大きいため、イオンと溶媒和を作りやすく、イオン伝導度を特に向上させるためである。エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、エチルカルビトール、酢酸セロソルブはイオンと溶媒和を作りやすく、イオン伝導度を特に向上させるため望ましい。多孔性配位高分子の第1の細孔21に導入しやすいため、直鎖状の分子構造を持つものが望ましく、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、エチルカルビトール、酢酸セロソルブが特に望ましい。
次に、本発明の他の実施態様に係る複合体を、図8〜10に基づいて説明する。
図8に示すように、複合体1Bは、多孔性配位高分子ナノ粒子2、2間に、多孔性配位高分子の結晶構造に由来する第1の細孔21よりも大きい平均細孔径を有する第2の細孔4を形成している。すなわち、複合体1Bにおいて、複数の多孔性配位高分子ナノ粒子2は、互いに隣接するナノ粒子2、2同士が部分的に結合してナノ粒子2、2間に設けられた第2の細孔4を備える集合体を構成している。そして、第2の細孔4の平均細孔径は、第1の細孔21の平均細孔径(直径)よりも大きい。本実施態様において、第1の細孔21はマイクロ孔であり、第2の細孔4はメソ孔である。
この複合体1Bにおいて、多孔性配位高分子ナノ粒子2、2同士は結晶が連続的につながって一体化している。これにより、ナノサイズ化によるイオン液体導入の容易化はそのままに、多孔性配位高分子ナノ粒子2、2間のイオンの移動がスムーズになるとともに、複合体1Bの強度が向上する。また、図8においては第2の細孔4が空隙になっているが、この一部もしくは全てを後述するイオン伝導性物質で満たしてもよく、全てを第1のイオン液体3で満たすことが特に望ましい。第2の細孔4を第1のイオン液体3等のイオン伝導性物質で満たすことによって、ナノ粒子2、2間のイオンの伝導がよりスムーズになる。また、第2の細孔4内に、有機溶媒を含んでいてもよい。有機溶媒としては、上述した実施態様で例示したのと同じ有機溶媒が挙げられる。第2の細孔4内に有機溶媒を含むとき、第1の細孔21内に含まれている有機溶媒と同一の有機溶媒を含むのが好ましい。
第2の細孔4の平均細孔径は、5〜50nmが望ましい。第2の細孔4が小さすぎると、そこに繋がる第1の細孔21の数が少なすぎるため、第2の細孔4がイオン伝導にほとんど寄与しなくなる。また、第2の細孔4の平均細孔径を50nm以下とすることで、複合体1Bを圧縮成形した場合に、複合体1Aを単純に圧縮成型した場合と比べてナノ粒子2、2間のスペースが小さくなるため、圧縮成形体中における複合体1Bの占有体積が大きくなる。複合化した第1のイオン液体3は凝固しにくくなるため、複合体1Bの占有体積が大きいと、低温でのイオン伝導率が高くなる。第2の細孔4の平均細孔径は、ガス吸着法または水銀圧入法によって測定できる。第2の細孔4がメソ孔の場合はガス吸着法が、マクロ孔(直径50nm以上)の場合は水銀圧入法が望ましい。
第2の細孔4を有する複合体1Bを作製するには、多孔性配位高分子ナノ粒子2の製造方法に工夫を加えればよい。例えば、溶液中で多孔性配位高分子ナノ粒子2が生成した後も、溶液を撹拌または静置しつづければよい。この操作によって、生成したナノ粒子2の表面が溶解と析出を繰り返すうちに、隣接するナノ粒子2と結合してくる。撹拌または静置の温度は室温、低温、高温いずれでもよい。ナノ粒子2、2同士の結合を促進するため、原料を追加で投入してもよい。
第2の細孔4が形成されていることを確認するには、先述した方法で洗浄によって第1のイオン液体3などを除去した後、ガス吸着測定を行えばよい。例えば、メソ孔である第2の細孔4が形成されている場合、通常、相対圧力(ガス圧力を飽和蒸気圧で割った値)0.2〜0.95で吸着が見られる。また、吸着と脱離でヒステリシスが見られる。他の方法としては、SEMやTEMで粒子を観察することによって、第2の細孔4の形成を確認してもよい。
なお、ナノ粒子2、2同士が結合している集合体におけるナノ粒子2の結晶粒径、すなわち一次粒子の平均粒径は、XRDからシェラーの式によって求めた値で定義すればよい。SEMやTEM観察によって求める場合は、図8のdのように、一次粒子の粒子形状を外挿によって求めて一次粒子の粒径とすればよい。なお、図8の集合体は、多孔性配位高分子ナノ粒子2が不規則に配列したものを例示しているが、ナノ粒子2は規則的に配列していてもよい。また、集合体の形状は特に限定されず、例えば球状、立方体、直方体、正八面体、その他多面体、樹状、針状、ロッド状、板状など、所望の形状が採用される。
一方、図9に示すように、複合体1Cは、多孔性配位高分子ナノ粒子2をシート状に圧縮成形して得られた構造体である。構造体は、シート状に代えて、膜状にすることもできる。また、構造体は、ナノ粒子2の集合体から構成されていてもよいし、ナノ粒子2とナノ粒子2の集合体が混在したもので構成されていてもよい。すなわち、構造体は、複数のナノ粒子2および上述した集合体のうち少なくとも一方により成形されていればよい。本実施態様では、複数のナノ粒子2、すなわち複合体1Aにより成形されている。このような構造体である複合体1Cは、電池や電気二重層キャパシタの電解質として用いられた場合、構造体1Cが緻密な構造を有するため、ナノ粒子2、2間のイオン伝導パスがつながりやすくなる。したがって、このような複合体1Cは、イオンの良伝導体となる。
多孔性配位高分子ナノ粒子2を圧縮成形して得られた構造体には、多孔性配位高分子のナノ粒子2、2間および集合体間のうち少なくとも一方に間隙6が形成される。本実施態様では、ナノ粒子2、2間に間隙6が形成される。そして、この間隙6には、図10に示すように、好ましくはイオン伝導性物質5が存在している。間隙6にイオン伝導性物質5が存在することによって、イオン伝導パスが構築される。
イオン伝導性物質5としては、例えば水、有機電解液、イオン液体、イオン伝導性高分子などが挙げられる。これらの中でも、イオン伝導性が高く蒸気圧が低い点から、イオン液体(第2のイオン液体)をイオン伝導性物質5が含むことが好ましい。蒸気圧が低いイオン液体は、通常の有機電解液と異なり、蒸発によって失われることがない。特に、多孔性配位高分子の第1の細孔21内に保持されている第1のイオン液体3と同一の物質(イオン液体)を用いた場合には、複合体1Cのナノ粒子2内外のイオン伝導がよりスムーズになり好ましい。
また、イオン伝導性物質5が、有機溶媒を含むことが好ましい。有機溶媒としては、上述した実施態様で例示したのと同じ有機溶媒が挙げられる。また、イオン伝導性物質5が有機溶媒を含むとき、第1の細孔21内および第2の細孔4内に含まれている有機溶媒と同一の有機溶媒を含むのが好ましい。
イオン伝導性物質5として、固体のイオン伝導性物質を用いてもよい。固体のイオン伝導性物質としては、イオン伝導性高分子の粒子、無機イオン伝導性物質の粒子などが挙げられる。一般に固体のイオン伝導性物質はイオン伝導度が低いものの、主たるイオン伝導パスを複合体1Cが担い、イオン伝導性物質5は補助的な位置づけであるため、イオン伝導度が低くてもその影響は小さい。固体のイオン伝導性物質の中でも、構造体の形状を保持し易いという点から、イオン伝導性高分子を間隙6に充填することが特に好ましい。
構造体は、例えば多孔性配位高分子ナノ粒子2を、一軸プレス、静水圧プレス、ローラー圧延、押出成形など、周知の方法で加圧成形して得られる。あるいは、構造体は、例えば多孔性配位高分子ナノ粒子2を溶剤に分散したスラリーを、テープキャスティング、スリップキャスティング、スピンコーティングなどの周知のシート成形法で成形し、乾燥することによっても得られる。これらについては、集合体単独または集合体を含む場合にも同様である。
このようにして得られた構造体の多孔性配位高分子の第1の細孔21に、第1のイオン液体3が注入される。なお、注入方法は、上述の通りである。また、イオン伝導性物質5を用いる場合は、通常、第1のイオン液体3の注入後に、間隙6にイオン伝導性物質5が注入される。例えば、イオン伝導性物質5は、ナノ粒子2やナノ粒子2の集合体と固体(粉末)のイオン伝導性物質5とを混合したり、ナノ粒子2やナノ粒子2の集合体に液状のイオン伝導性物質5を溶剤として使用したりして成形することにより、間隙6に存在させてもよい。また、ナノ粒子2やナノ粒子2の集合体である多孔性配位高分子の第1の細孔21に第1のイオン液体3を注入した後、注入後の複合体1Aや複合体1Bを所望の形状に成形してもよい。そして、間隙6にイオン伝導性物質5を存在させてもよい。
例示したイオン伝導性物質5を間隙6に注入する方法をまとめると、以下の(i)〜(iii)になる。
(i)成形して第1のイオン液体3を注入した後、液状のイオン伝導性物質5を間隙6に注入する。
(ii)第1のイオン液体3を注入して複合体1A、1Bを成形した後、液状のイオン伝導性物質5を間隙6に注入する。
(iii)第1のイオン液体3を注入した後、複合体1A、1Bを固体(粉末)のイオン伝導性物質5とともに成形することによって、イオン伝導性物質5を間隙6に注入する。
なお、上述した図9〜10の構造体1Cは、多孔性配位高分子のナノ粒子2が不規則に配列したものを例示しているが、ナノ粒子2は規則的に配列していてもよい。この点、集合体単独または集合体を含む場合にも同様である。また、構造体または複合体1Cの形状は、特に限定されず、例えば球形、立方体、直方体、正八面体、その他多面体、樹状、針状、ロッド状、板状など、所望の形状が採用される。
さらに、複合体1B、1Cは、本発明の効果を阻害しない範囲で、例えばバインダなどの添加剤を含有していてもよい。
上述した本発明の各実施態様に係る複合体1A〜1Cは、例えば電池やキャパシタなど電気化学デバイスの用途に使用することができる。このような電気化学デバイスは、各実施態様の複合体1A〜1Cを含む電解質層を、一対の電極間に配置し、外装体に封入することによって得られる。
電極としては、活物質を含有する電極、例えば金属酸化物、複合酸化物などの活物質の焼結体、活物質を導電剤とともに結着材で固めたもの、金属、炭素系材料などを用いればよい。電極と複合体1A〜1Cとは、電解液などを介して接触していてもよいが、直接接触させれば、電極と複合体1A〜1C内部のイオン液体(またはイオン伝導性物質)との間で直接イオンの授受が可能となるため好ましい。
外装体としては、一般に用いられる形態、材料のものを用いればよいが、絶縁樹脂などで被覆するだけでも構わない。
各実施態様に係る複合体1A〜1Cにおけるイオン液体の融点が、イオン液体単体の融点よりも上昇する場合、複合体1A〜1Cは、イオン液体の吸収剤として液漏れ防止などの用途に使用することができる。一般的な多孔質吸収剤は、吸収したイオン液体が再度漏れ出る可能性がある。一方、特定の多孔性配位高分子を吸着剤として用い、各実施態様の複合体1A〜1Cを形成すると、吸収されたイオン液体はすぐに凝固するため、より確実にイオン液体の液漏れを防止することができる。
さらに、各実施態様に係る複合体1A〜1Cにおけるイオン液体の融点が、イオン液体単体の融点よりも上昇する場合、イオン液体中のリチウムイオンなどを濃縮することも可能である。
例えば、Al−MIL−53とEMI−TFSIの複合体におけるEMI−TFSIの融点は56℃であり、EMI−TFSI単体の融点は−17℃である。リチウム塩を溶解したイオン液体の中に、Al−MIL−53粉末を入れて65℃程度を維持すると、Al−MIL−53の細孔内にリチウムイオンが入ったときのみ、細孔内のイオン液体が凝固する(リチウム塩を多量に溶解すると、イオン液体の融点は上昇するため)。したがって、Al−MIL−53の細孔内にリチウムイオン濃度が高められたイオン液体を充填することができる。
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1および比較例]
第1の細孔を有する絶縁性の多孔性配位高分子の結晶粒子として、市販のZIF−8(以下 ZIF−8−bulkと記載する。)、ならびに以下の方法で合成したZIF−8(以下 ZIF−8−nanoと記載する。)を用いた。これらは全て、直径2nm以下のマイクロ孔領域の第1の細孔を有する。
<ZIF−8−bulk>
ZIF−8−bulkの粉末はメタノールで洗浄して乾燥を行い、第1の細孔内部に吸着した分子を除去した。X線回折(XRD)測定を行い、ZIF−8−bulkがZIF−8の結晶構造を有していることを確認した。また、シェラーの式より、ZIF−8−bulkの結晶子サイズ、すなわち一次粒子の平均粒径は200nmであることを確認した。
<ZIF−8−nano>
有機配位子供給源としてH(MeIM)、金属イオン供給源としてZn(NO3)2・6H2O、および反応溶媒としてメタノールを用いた。75mLのメタノールに、14.8mmol(ミリモル)のH(MeIM)、29.6mmolのトリエチルアミンを溶かした溶液Aを作製した。また、75mLのメタノールに、3.7mmolのZn(NO3)2・6H2Oを溶かした溶液Bを作製した。溶液Bをマグネティックスターラーで撹拌しながら、溶液A全てを素早く注ぎ入れた。反応温度は、室温(23℃)にした。そのまま1時間撹拌をつづけ、ZIF−8−nano粒子を得た。次いで、遠心分離によりZIF−8−nano粒子を分離し、メタノールを用いて洗浄、遠心分離を行い室温で1時間乾燥させることにより、ZIF−8−nano粉末を得た。
X線回折(XRD)測定を行い、ZIF−8−nanoがZIF−8の結晶構造を有していることを確認した。また、シェラーの式より、ZIF−8−nanoの結晶子サイズ、すなわち一次粒子の平均粒径は12nmであることを確認した。
ZIF−8−bulk、ZIF−8−nanoのそれぞれの第1の細孔内に第1のイオン液体を注入した。具体的に説明すると、第1のイオン液体としては、イミダゾリウム塩である1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(以下、EMI−TFSIと記載する場合がある。)を用いた。
次いで、ZIF−8−bulk、ZIF−8−nanoをそれぞれ150℃で12時間真空乾燥処理を行い、第1の細孔内の吸着分子を除去した。アルゴンガスを満たした露点−20℃以下のグローブボックス内に多孔性配位高分子(ZIF−8−bulk、ZIF−8−nano)を持ち込んだ。多孔性配位高分子の粉末と第1のイオン液体とを混合し、アルゴンガス雰囲気下で200℃にて加熱処理を行った。加熱時間は25時間、75時間の二通りである。混合比率は、多孔性配位高分子の第1の細孔容積に対して、第1のイオン液体の体積占有率が0〜125%となるような任意の比率とした。なお、ZIF−8の細孔容積を0.64cm3/g、EMI−TFSIの密度を1.52g/cm3として計算した。
75時間加熱処理した試料は、ZIF−8−bulk、ZIF−8−nanoいずれの場合も試料が黄色に変色した。なお、ZIF−8は白色粉末で、EMI−TFSIは無色透明の液体であり、加熱前の混合物は白色であった。この変色は、ZIF−8−bulk、ZIF−8−nanoがEMI−TFSIによって分解されたためと考えられる。
25時間加熱処理した試料は白色のままだった。またXRD測定を行ったところ、いずれもZIF−8の結晶構造に由来するXRDパターンが得られた。つまり、ZIF−8の結晶構造は25時間加熱処理後も保持されている。よって、25時間の熱処理ではZIF−8−bulk、ZIF−8−nanoは分解されず、結晶構造を保持している。
以上の結果より、以後、25時間加熱処理して作製した複合体について評価を進める。
得られた複合体の窒素ガス吸着測定結果を図11、12に示す。測定温度は77Kである。横軸は窒素ガスの圧力を窒素の77Kにおける飽和蒸気圧で規格化したものである。縦軸は吸着した窒素ガスの体積を、多孔性配位高分子の重量(第1のイオン液体の重量は含まない)で規格化したものである。
図11によると、第1の細孔容積に対してEMI−TFSI充填率が0、25、50%と増加するにつれ、窒素ガス吸着量は連続的に減少している。すなわち、EMI−TFSIがZIF−8−nanoの第1の細孔内に取り込まれたことによって、第1の細孔内に窒素ガスを吸着できるスペースが減少していることを示している。
一方、図12によると、EMI−TFSI充填率が25%のときは、第1の細孔容積もおよそ25%減少している。しかし50%になるとほとんど窒素ガスを吸着できなくなる。この原因を、図2、3を用いて説明する。
図2に示すように、第1のイオン液体3が多孔性配位高分子の第1の細孔21中を拡散する速度は極めて遅いため、ZIF−8−bulkのような粗大粒子の場合、第1のイオン液体3は粒子の表面近傍にとどまっていると考えられる。それゆえ、充填率が25%のときは図2のように、第1のイオン液体3が存在しない空の第1の細孔21が表面近傍に多く残存している。そのため、窒素ガスは多孔性配位高分子の第1の細孔21へ自由にアクセスでき、第1の細孔21の容積は第1のイオン液体3の体積分だけ減少する。
しかし、充填率50%になると、図3のように粒子の表面近傍の第1の細孔21が、全て第1のイオン液体3によって埋め尽くされてしまう。上述のとおり、第1のイオン液体3の拡散が遅いため、粒子内部には窒素ガスがアクセスできない、閉じた第1の細孔21が形成される。そのため、窒素ガスがほとんど吸着できなくなる。
また、図11、12の低圧側に着目する。一般的にマイクロ孔への吸着は、0.1以下の低圧領域に現れる。EMI−TFSIの充填率0%の場合を比較すると、ZIF−8−bulkはガス圧力0.1における吸着量が380cm3/gだが、ZIF−8−nanoは344cm3/gと大きく減少している。
これは図4、6を用いて説明できる。ZIF−8−bulk粒子の表面は図6のようになっていると考えられる。金属イオン23と有機配位子24が規則的に配列した、平滑な表面である。一方、ZIF−8−nanoの表面は図4のようになっていると考えられる。表面の凹凸が多くなっているため、単位重量当たりの金属イオン23および有機配位子24が形成する第1の細孔21の量が少なくなる。よって、ZIF−8−nanoでは、図11のように、多孔性配位高分子の重量あたりのガス吸着量が減少する。
また、図11によると、ZIF−8−nanoおよびこれをEMI−TFSIと複合化した試料は、相対圧力(P/P0)0.2〜0.95でも窒素ガスを吸着しており、吸着過程と脱離過程でヒステリシスが生じている。これはメソ孔を有する物質に特有の挙動である。すなわち、ZIF−8−nanoはメソ孔(第2の細孔)を有している。一方、図12に示したZIF−8−bulkはマイクロ孔のみ存在し、メソ孔が存在していないことがわかる。
TEM観察を行い、ZIF−8−nanoが、図8のように、ナノ粒子同士が結合した構造を有する集合体であることを確認した。ナノ粒子同士が結合したのは、ZIF−8−nano合成の際、2液を混合した後、1時間撹拌を続け、徐々に粒子同士を結合させたためと考えられる。
得られた複合体および参考例であるEMI−TFSI単独の示差走査熱量分析(DSC)を図13、14に示す。温度範囲は−100〜200℃、加熱および冷却速度は5℃/分である。なお、100〜200℃においては全試料において一切のピークが観察されなかったため、図13、14では省略した。
図13に示したように、ZIF−8−nanoとEMI−TFSIの複合体は、充填率50〜100%において一切の吸熱・発熱ピークを示さない。すなわち、ZIF−8−nanoの第1の細孔に取り込まれたEMI−TFSIは、明確な融解・凝固を示さない。125%のときは微小な吸熱および発熱のピークが出現しているが、これは参考例であるEMI−TFSI単独の場合とほぼ同じ温度である。すなわち、充填率125%のときに出現しているピークは、第1の細孔内に入りきらず、ZIF−8−nano粒子外に残存しているEMI−TFSIの融解および凝固に由来すると考えられる。
一方、図14に示したZIF−8−bulkとEMI−TFSIの複合体は、充填率25〜50%のときは吸熱・発熱ピークが出現しない。これは第1の細孔中にEMI−TFSIが取り込まれたことに起因する。しかし、充填率を100%に増やすと吸熱・発熱のピークが出現する。すなわち、ZIF−8−bulkは第1の細孔内に取り込むことのできるEMI−TFSIが、ZIF−8−nanoの場合よりも少ない。
ZIF−8−bulkとEMI−TFSIの複合体のうち充填率50%のものは、DSCでピークが一切出現しないため、EMI−TFSIは全て第1の細孔内に取り込まれていると考えられる。なおかつ、窒素ガス吸着測定の結果より、EMI−TFSIはZIF−8−bulk粒子の表面近傍にとどまっていると考えられる。すなわち、図15のような状態にあると考えられる。図15中、100はZIF−8−bulkとEMI−TFSIの複合体、S1はEMI−TFSIが充填された領域、S2はEMI−TFSIが充填されていない領域をそれぞれ示す。
ZIF−8−bulkの一次粒子の平均粒径が200nmで、25時間でこの状態までEMI−TFSIが拡散したことから計算すると、EMI−TFSIの拡散速度はおよそ1nm/h(時間)と見積もられる。先述したように、複合化の際に加熱時間が長すぎると、ZIF−8が分解されてしまうので、加熱時間は25時間が限度である。よって、EMI−TFSIの拡散距離は25nmが限度のため、ZIF−8の一次粒子の平均粒径は50nm以下でなくてはならない。
次に、試料のイオン伝導率を評価した。図16にZIF−8−nanoとEMI−TFSIの複合体のイオン伝導率の温度依存性を示す。充填率は50、75、100%である。試料をプレス成型してステンレス鋼(SUS)製の電極で挟み込み、乾燥アルゴンガス雰囲気下で交流インピーダンス法によってイオン伝導率を評価した。測定周波数は1Hz〜1MHzである。
また、参考例としてEMI−TFSI単独のイオン伝導率も評価した。SUS製の電極上にカプトン製のリング(内径3mm、厚さ0.1mm)を置き、リングの内側に1μLのEMI−TFSIを滴下し、もう一つのSUS製電極を上から挟み込んだ。乾燥アルゴンガス雰囲気下で交流インピーダンス法によってイオン伝導率を評価した。
図16から明らかなように、充填率が25%ずつ高くなるにつれ、イオン伝導率は2桁以上ずつ上昇した。イオン伝導率はキャリア量に比例するため、通常の系であれば、イオン伝導率は充填率に比例するはずである。この異常な伝導率向上効果は、以下のように説明できる。
充填率が50%のように低い場合、第1の細孔内の第1のイオン液体のネットワークは頻繁に途切れてしまっている。ゆえに、イオン伝導率は極めて低くなる。一方、充填率を100%にまで高めると、第1のイオン液体のネットワークは途切れることなく第1の細孔内に広がるので、イオン伝導率は大幅に向上する。
ZIF−8−bulkでは充填率は50%が限度なので、このイオン伝導率向上はZIF−8を一次粒子の平均粒径が50nm以下にまでナノサイズ化したことによる効果である。
参考例であるEMI−TFSI単独の場合は、低温においてイオン伝導率の急激な低下が見られた。EMI−TFSI単独の融点は−17℃のため、この急激な低下は、EMI−TFSIの凝固によるものと考えられる。一方、複合体の場合はイオン伝導率に不連続な変化が見られなかった。さらに、充填率100%の複合体は、低温においてEMI−TFSI単独の場合よりも高いイオン伝導率を示した。EMI−TFSI単独では凝固して、イオン伝導性を示さなくなるような低温であっても、複合体ではEMI−TFSIの明確な相転移が起こらず、常に液体状態を保っているためと考えられる。すなわち、ZIF−8のナノサイズ化によってEMI−TFSIの充填率を向上させた効果と、EMI−TFSIが常に液体状態を保っている効果の2つの相乗効果によって、複合体は低温においてEMI−TFSI単独の場合よりも高いイオン伝導率を示した。
[実施例2]
<プラスチッククリスタル相を示すイオン液体の場合>
イオン液体としてピロリジニウム塩であるN−エチル−N−メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(以下、Py12TFSIと記載する。)を用いた場合の評価も行った。なお、Py12TFSIは室温でプラスチッククリスタル相を示す。Py12TFSI単独をプレス成型し、実施例1と同様にしてイオン伝導率を評価したところ、室温(23℃)で1×10-7S/cmだった。
Py12TFSIをZIF−8−nanoと複合化した場合の評価も行った。充填率は100%で、複合化の手法はEMI−TFSIの場合と同じである。この複合体は室温(23℃)で8×10-7S/cmのイオン伝導率を示した。すなわち、ZIF−8−nanoと複合化すると、Py12TFSI単独の場合よりもイオン伝導度が向上した。
一方、ZIF−8−nanoとEMI−TFSIの複合体(充填率100%)のイオン伝導率は、室温(23℃)で4×10-7S/cmだった。また、EMI−TFSI単独のイオン伝導率は、文献(S. Seki et al., J. Phys. Chem. B, 2006, 110(21), 10228)によると2×10-2S/cmである。すなわち、ZIF−8−nanoと複合化すると、EMI−TFSI単独の場合よりも3桁近くイオン伝導率が低下した。
以上の結果より、多孔性配位高分子ナノ粒子と、プラスチッククリスタル相を示すイオン液体を複合化することによって、高いイオン伝導性が得られた。
多孔性配位高分子ナノ粒子の第1の細孔中に、プラスチッククリスタル相を示すイオン液体を導入すると、第1の細孔中のイオン液体は、乱れた構造を有するプラスチッククリスタル相を形成する。すなわち欠陥が高密度に導入されるため、イオンのホッピング伝導が容易になる。加えて、多孔性配位高分子をナノ粒子化したことによって、イオン液体を高密度に充填できる。この2つの効果によって、プラスチッククリスタル相を示すイオン液体を多孔性配位高分子と複合化すると、イオン伝導性が高くなったと考えられる。
[実施例3]
<有機溶媒を添加した場合>
ZIF−8−nanoとEMI−TFSIの複合体(充填率50%)を蓋の無い容器に入れ、同じくエチルカルビトールを蓋の無い容器に入れ、それらを同一の容器に入れて蓋を閉めて密閉した。この状態で12時間放置することによって、エチルカルビトールの蒸気を複合体に吸引させ、有機溶媒を含有する複合体を得た。
この複合体をプレス成型し、実施例1と同様にしてイオン伝導率を評価したところ、図17(a)の結果になった。エチルカルビトールと複合化する前のイオン伝導率は図17(b)である。すなわち、エチルカルビトールと複合化することによって、イオン伝導率を4桁程度上昇させることができた。
以上の結果より、複合体が有機溶媒を含有していてもよいことがわかる。有機溶媒がイオン液体に溶け込むことによって、イオン液体の解離度が向上し、イオン伝導性が向上する。これは、有機溶媒がイオン液体を構成するイオンに配位して溶媒和を形成し、カチオンとアニオンの解離を容易にしたためと考えられる。
[実施例4]
<リチウム塩を添加した場合>
イオン液体として、EMI−TFSIとリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(以下、LiTFSIと記載する場合がある。)を8:2のモル比で混合したもの(以下、(EMI0.8Li0.2)TFSIと記載する場合がある。)を用いた場合の評価も行った。(EMI0.8Li0.2)TFSI中のカチオンに占めるリチウムイオンの割合は、モル比で20%である。
ZIF−8の細孔容積を0.64cm3/g、(EMI0.8Li0.2)TFSIの密度を1.52g/cm3として、ZIF−8−nanoの第1の細孔容積に対して、第1のイオン液体の体積占有率が100%となるような比率とした。実施例1と同様にしてイオン伝導率を評価した。また、参考例として(EMI0.8Li0.2)TFSI単独のイオン伝導率も評価した。評価方法はEMI−TFSI単独の場合と同じである。
イオン伝導率の評価結果を図18に示す。参考例である(EMI0.8Li0.2)TFSI単独の場合は、低温においてイオン伝導率の急激な低下が見られた。(EMI0.8Li0.2)TFSI単独では−81℃でガラス転移を起こす。すなわち、イオン伝導率の急激な低下は、(EMI0.8Li0.2)TFSIのガラス化によるものと考えられる。一方、複合体のイオン伝導率は、低温においても急激な変化は見られなかった。複合体では(EMI0.8Li0.2)TFSIの明確な相転移が起こらず、常に液体状態を保っているためと考えられる。複合体は温度によるイオン伝導率の変化が小さいため、より幅広い温度域でイオン伝導体として用いることができる。
さらに、パルス磁場勾配NMR測定によって、リチウムイオンの拡散係数を評価した。乾燥アルゴン雰囲気下にて試料をパイレックス(登録商標)ガラスに封入した。測定は磁場9.4T、周波数155.5MHzにて、7Li核を対象に行った。パルスシーケンスはstimulated−echoパルスシーケンス(例えばTanner, J. E., J. Chem. Phys. 1970, 52, 2523.を参照)を用いた。パルス磁場勾配の印加時間は1ミリ秒、2つのパルス磁場勾配の間隔は40ミリ秒である。
(EMI0.8Li0.2)TFSI単独の拡散係数は300℃において8.0×10-12m2/s、複合体は350℃において1.8×10-12m2/sであった。ZIF−8は直径12Åの細孔が、直径3Åの開口部で3次元的につながった構造を有している。リチウムイオンがこの細孔ネットワークに閉じ込められているにも関わらず、(EMI0.8Li0.2)TFSI単独と同オーダーの拡散係数を示したのは、リチウムイオンとアニオンとの相互作用がZIF−8の内壁との相互作用によって弱められ、リチウムイオンがアニオン間を跳び移るように移動できるようになったためと考えられる。さらに、リチウムイオンのサイズが小さいため、ZIF−8の細孔内をスムーズに移動できるためだと考えられる。