JP2015149978A - 2,3ブタンジオール及びアセトインを生産する方法 - Google Patents

2,3ブタンジオール及びアセトインを生産する方法 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明は、生産濃度の高い、大腸菌を用いた2,3-ブタンジオール(BDOH)及び/又はアセトインの生産方法の提供を目的とする。
【解決手段】大腸菌に、アセト乳酸合成酵素(acetolactate synthase)をコードする遺伝子及びアセト乳酸脱炭酸酵素(acetolactate decarboxylase)をコードする遺伝子が導入されているか、あるいはさらにブタンジオール脱水素酵素(butanediol dehydrogenase)をコードする遺伝子が導入されている、アセトイン及び/又は2,3-ブタンジオールを生産することができる遺伝子組換え大腸菌。
【選択図】なし

Description

本発明は、2,3ブタンジオール及びアセトイン産生細胞、並びに当該細胞を用いた2,3ブタンジオール及びアセトインの生産方法に関する。
2,3-ブタンジオール(以下、BDOH)は工業上有用な物質で、合成ゴム、航空燃料、香料、印刷用インクなどの原料に利用されている、あるいは利用が期待されている(非特許文献1、及び特許文献1)。現在、工業上利用されるBDOHは専ら、原油を原料とした有機化学的プロセスによって製造されており、市場価格は、1600米ドル/トンとされている(非特許文献2)。一方で、BDOHを発酵などによって生物に生産せしめる方法(バイオプロセス)も古くから存在していた。天然にBDOHを生産するBacillus属細菌、Lactococcus属細菌、Klebsiella属細菌、Paenibacillus polymyxaなどは、糖を解糖しピルビン酸を生産し、ピルビン酸を2-アセト乳酸、アセトイン、BDOHと逐次変換している(非特許文献3)(図1)。BDOHの前駆物質であるアセトインもまた工業上有用な物質で、食品添加物や化粧品原料として利用されている(非特許文献4、及び特許文献2)。日本国内でのアセトインの価格は、工業用が2500円/kg、香料用が10000円/kg(2012年度版16112の科学商品、化学工業日報社)である。工業上では、有機化学的プロセスとバイオプロセスの両方で生産されているとされる(非特許文献5)。
原油価格の高騰・供給不安、温室効果ガス排出削減の観点から、現在原油から製造されているBDOHやアセトインなどの化学品を、バイオマス資源などからのバイオプロセス製造によって生産する必要性が叫ばれている。また、BDOHについては、バイオプロセスが有機化学的プロセスより有利な点として、その3種類の光学異性体、(2R, 3R)-、(2S,3S)-、(2R,3S)-体を選択的にそれぞれ生産することが容易であることが挙げられる(非特許文献3)。しかし、バイオプロセスによる化学品製造は、未だ技術的に困難でコスト競争力に乏しく、実用化の妨げになっている。
大腸菌は世界で最も研究が進んでいる微生物の一つで、有用物質を生産させるための宿主として頻繁に利用される。大腸菌は扱いも容易で、安全にかつ安価に培養できることから、もし安価なバイオマス資源を原料として大腸菌で大量にBDOHやアセトインを生産することが出来たなら、その生産コストを下げることに貢献すると考えられる。大腸菌は、天然にはBDOHやアセトインをほとんど生産しないが、遺伝子組換え技術によって外来遺伝子をいくつか導入し、代謝経路を改変することで、BDOHを10 g/L(非特許文献6)、14.5 g/L(非特許文献7)、17.7 g/L(非特許文献8)、アセトインを9-10 g/L(非特許文献9及び10)の濃度で生産させた例がある。しかし、その生産濃度は充分とは言えず、さらなる大腸菌の改変が必要であった。
WO2013/054874公報 特開2012-105582号公報
Ji et al., 2009, Bioresour. Technol., 100:5214- Shrivastav et al., 2013, J. Microbiol. Biotechnol., 23:885- Ji et al., 2009, Biotechnol. Adv., 29:351- Chen et al., 2013, J. Biotechnol., doi: 10.1016/j.jbiotec.2013.09.020. Zhang et al., 2011, World J. Microbiol. Biotechnol., 27:2785- Yan et al., 2009, Org. Biomol. Chem., 7:3914- Li et al., 2010, Appl. Microbiol. Biotechnol., 87:2001- Ui et al., 1997, J. Ferm. Bioeng., 84:185- Ui et al., 1998, Lett. Appl. Microbiol. 26:275- Xiao et al., 2007, Appl. Microbiol. Biotechnol., 74:61-
本発明の目的は、生産濃度の高い大腸菌でのBDOHとアセトインの生産方法を提供することにある。
本発明者は、大腸菌を宿主としてBDOHとアセトインを生産する方法において、どのような外来遺伝子を組み合わせて移入し、代謝経路を改変すれば多く生産されるかについて鋭意検討を行った。大腸菌はピルビン酸を天然に生産する能力があるので(Causey et al., 2004, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101:2235-)、それを出発物質とすることが最も妥当だと思われた。事実、大腸菌を用いてBDOHやアセトインの生産を検討した他の研究でも、ピルビン酸を出発物質と考えて遺伝子の移入などの代謝経路改変を行っている(Yan et al., 2009, Org. Biomol. Chem., 7:3914-、Li et al., 2010, Appl. Microbiol. Biotechnol., 87:2001-)。すなわち、以下の3酵素の反応を、遺伝子組換え技術によって大腸菌に付加すればBDOHやアセトインを生産することができる。
第一の反応は、acetolactate synthaseによる、ピルビン酸から2-アセト乳酸への変換である。この反応では、2分子のピルビン酸(炭素数3)から1分子の2-アセト乳酸(炭素数5)と1分子の二酸化炭素(炭素数1)が生じる。この酵素は、最も代表的な大腸菌株の1つである、大腸菌K12MG1655株も天然にI,II,III型と3種類存在しており、コードする遺伝子はそれぞれilvBN, ilvGM, ilvIHであることが知られている(Wek et al., 1985, Nucleic Acids Res., 13:3995-)。ただし、ilvG遺伝子は、MG1655株では変異によって偽遺伝子となっていることが知られており、実際には機能しておらず(Favre et al., 1976, Mol. Gen. Genet., 143:243-)、さらに残りの2酵素もあまり効率的に反応を触媒することができない。そこで、一般には、この反応を効率よく大腸菌で触媒させるために、Bacillus subtilis由来の当該酵素遺伝子alsS(以下、B.s.alsSと記載する)を移入することが多い(Atsumi et al., 2008, Nature 451:86-)。よって、本発明でも当該遺伝子を移入することとした。なお、天然の大腸菌では、この経路はバリンなどの物質を生合成するために用いている(図1)。
第二の反応では、acetolactate decarboxylaseの触媒により、1分子の2-アセト乳酸から1分子のアセトイン(炭素数4)と1分子の二酸化炭素が生じる。この反応を効率よく触媒する酵素が、大腸菌に存在することは報告されていない。そこで本発明では、B. subtilis由来の当該酵素遺伝子alsDを移入することとした。その理由として、上記B.s.alsSとオペロンを成しており(以下、併せてB.s.alsSDと記載する)扱いが容易であることが挙げられる。
第三の反応では、butanediol dehydrogenase(あるいはdiacetyl reductaseとも呼ばれる)の作用によって、1分子のアセトインからNAD(P)H依存的に1分子のBDOH(炭素数4)が生じる。この反応を効率よく触媒する酵素が、大腸菌に存在することは報告されていない。本反応に関する情報は上記2つの反応に比べて少なく、幾つか候補となる酵素遺伝子は存在するが(Ji et al., 2009, Biotechnol. Adv., 29:351-)、大腸菌内でどの遺伝子を発現させると効率よくBDOHを生産することができるか不明であった。このことから、butanediol dehydrogenaseについて複数遺伝子を分離して、B.s.alsSDと組み合わせて大腸菌に移入して、BDOHの生産性を確かめる必要があった。過去の大腸菌の例ではKlebsiella pneumoniae budCが専ら利用されていた(Yan et al., 2009, Org. Biomol. Chem., 7:3914-、Li et al., 2010, Appl. Microbiol. Biotechnol., 87:2001-、Ui et al., 1997, J. Ferm. Bioeng., 84:185-)。
そこで本発明者は、butanediol dehydrogenaseとして、B. subtilis168株由来bdhA遺伝子(以下、B.s.bdhAと記載する)、Lactococcus lactisNBRC100933株由来butA遺伝子(以下、L.l.butAと記載する)、Saccharomyces cerevisiaeW303株(Takeuchi and Tamura, 2004, FEBS Lett., 565:39-)由来bdh1遺伝子(以下、S.c.bdh1と記載する)の3つをそれぞれゲノムDNAから分離した。そして、B.s.alsSDと組み合わせて大腸菌に移入したところ、B.s.alsSDL.l.butAを同時に発現させた時に最も高い生産性(56 g/L)が得られた。さらに、B.s.alsSDL.l.butAを発現させた時には(2R,3S)-体のみの生産が確認され、光学異性体の選択的な生産が可能であった。アセトインに関しては、B.s.alsSDのみを発現する細胞で生産性が高かった(31 g/L)。
以上のように、本発明者は、B. subtilisL. lactisS. cerevisiaeから、ピルビン酸からBDOHやアセトインを生産するための酵素をコードする遺伝子群を大腸菌に移入した。これによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] 大腸菌に、アセト乳酸合成酵素(acetolactate synthase)をコードする遺伝子及びアセト乳酸脱炭酸酵素(acetolactate decarboxylase)をコードする遺伝子が導入されている、アセトインを生産することができる遺伝子組換え大腸菌。
[1−2] 2,3-ブタンジオール及びアセトインを合成する能力を本来有していない大腸菌に、アセト乳酸合成酵素(acetolactate synthase)をコードする遺伝子及びアセト乳酸脱炭酸酵素(acetolactate decarboxylase)をコードする遺伝子が導入されている、アセトインを生産することができる遺伝子組換え大腸菌。
[2] アセト乳酸合成酵素(acetolactate synthase)をコードする遺伝子がBacillus subtilis由来のアセト乳酸合成酵素遺伝子alsSB.s.alsS)である、[1]又は[1−2]の遺伝子組換え大腸菌。
[3] アセト乳酸脱炭酸酵素(acetolactate decarboxylase)をコードする遺伝子がBacillus subtilis由来のアセト乳酸脱炭酸酵素遺伝子alsDである、[1]、[1−2]又は[2]の遺伝子組換え大腸菌。
[4] アセト乳酸合成酵素(acetolactate synthase)及びアセト乳酸脱炭酸酵素(acetolactate decarboxylase)がオペロンを形成している、[1]〜[3]のいずれかの遺伝子組換え大腸菌。
[5] アセト乳酸合成酵素(acetolactate synthase)をコードする遺伝子及びアセト乳酸脱炭酸酵素(acetolactate decarboxylase)をコードする遺伝子が大腸菌ゲノムに導入されている、[1]〜[4]のいずれかの遺伝子組換え大腸菌。
[6] 大腸菌に、アセト乳酸合成酵素(acetolactate synthase)をコードする遺伝子、アセト乳酸脱炭酸酵素(acetolactate decarboxylase)をコードする遺伝子及びブタンジオール脱水素酵素(butanediol dehydrogenase)をコードする遺伝子が導入されている、2,3-ブタンジオールを生産することができる遺伝子組換え大腸菌。
[6−2] 2,3-ブタンジオール及びアセトインを合成する能力を本来有していない大腸菌に、アセト乳酸合成酵素(acetolactate synthase)をコードする遺伝子、アセト乳酸脱炭酸酵素(acetolactate decarboxylase)をコードする遺伝子及びブタンジオール脱水素酵素(butanediol dehydrogenase)をコードする遺伝子が導入されている、2,3-ブタンジオールを生産することができる遺伝子組換え大腸菌。
[7] アセト乳酸合成酵素(acetolactate synthase)をコードする遺伝子がBacillus subtilis由来のアセト乳酸合成酵素遺伝子alsSB.s.alsS)である、[6]又は[6−2]の遺伝子組換え大腸菌。
[8] アセト乳酸脱炭酸酵素(acetolactate decarboxylase)をコードする遺伝子がBacillus subtilis由来のアセト乳酸脱炭酸酵素遺伝子alsDである、[6]、[6−2]又は[7]の遺伝子組換え大腸菌。
[9] ブタンジオール脱水素酵素(butanediol dehydrogenase)をコードする遺伝子が、B. subtilis168株由来bdhA遺伝子(B.s.bdhA)、Lactococcus lactisNBRC100933株由来butA遺伝子(L.l.butA)及びSaccharomyces cerevisiaeW303株由来bdh1遺伝子(S.c.bdh1)からなる群から選択される、[6]〜[8]のいずれかの遺伝子組換え大腸菌。
[10] アセト乳酸合成酵素(acetolactate synthase)及びアセト乳酸脱炭酸酵素(acetolactate decarboxylase)がオペロンを形成している、[6]〜[9]のいずれかの遺伝子組換え大腸菌。
[11] アセト乳酸合成酵素(acetolactate synthase)をコードする遺伝子、アセト乳酸脱炭酸酵素(acetolactate decarboxylase)をコードする遺伝子及びブタンジオール脱水素酵素(butanediol dehydrogenase)をコードする遺伝子が大腸菌ゲノムに導入されている、[6]〜[10]のいずれかの遺伝子組換え大腸菌。
[12] ブタンジオール脱水素酵素(butanediol dehydrogenase)をコードする遺伝子がLactococcus lactisNBRC100933株由来butA遺伝子(L.l.butA)である、2,3-ブタンジオールの光学異性体(2R, 3S)-BDOHを生産することができる、[9]〜[11]のいずれかの大腸菌。
[13] ブタンジオール脱水素酵素(butanediol dehydrogenase)をコードする遺伝子がSaccharomyces cerevisiaeW303株由来bdh1遺伝子(S.c.bdh1)又はB. subtilis168株由来bdhA遺伝子(B.s.bdhA)である、2,3-ブタンジオールの光学異性体(2S, 3S)-BDOH若しくは(2R, 3R)-BDOH、あるいは(2S, 3S)-BDOHと(2R, 3R)-BDOHの混合体を生産することができる、[9]〜[11]のいずれかの大腸菌。
[14] [1]〜[5]のいずれかの遺伝子組換え大腸菌を培養する工程、及び該工程の培養物からアセトインを回収する工程を含む、アセトインを製造する方法。
[15] [6]〜[13]のいずれかの遺伝子組換え大腸菌を培養する工程、及び該工程の培養物から2,3-ブタンジオールを回収する工程を含む、2,3-ブタンジオールを製造する方法。
実施例に示すように、本発明は、大腸菌にBDOHやアセトインを高濃度で生産させることを特徴とする。バイオマス等を原料として、大量にかつ低コストで生産することができる。
大腸菌でBDOHとアセトインを生産させる代謝経路を示す図である。灰色の矢印は大腸菌が天然に持つ代謝経路。白矢印は大腸菌が天然に持たないか、あるいは持つかどうか不明な代謝経路を示す。 プラスミドベクターを用いた場合のBDOH(各光学異性体)とアセトインの生産を示す図である。(A)はMG1655mlc*XT7LAFCにpHN1984(空ベクター)を導入した株を用いて培養したもの、(B)はMG1655mlc*XT7LAFCにpHN2027(B.s.alsSDをもつ)を導入した株を用いて培養したもの、(C)はMG1655mlc*XT7LAFCにpHN2027(B.s.alsSDをもつ)とpHN2159(L.l.butAをもつ)の両方を導入した株を用いて培養したもの、(D)はMG1655mlc*XT7LAFCにpHN2027(B.s.alsSDをもつ)とpHN2160(S.c.bdh1をもつ)の両方を導入した株を用いて培養したもの、(E)はMG1655mlc*XT7LAFCにpHN2027(B.s.alsSDをもつ)とpHN2161(B.s.bdhAをもつ)の両方を導入した株を用いて培養したものの結果を示す。各グラフの左の縦軸はアセトイン、BDOHの生産量を示し、右の縦軸は消費グルコース量を示す。 プラスミドベクターを用いない場合のBDOH(各光学異性体)とアセトインの生産を示す図である。(A)、(B)、(C)及び(D)は、それぞれ、MG1655mlc*XT7LAFCalsSD、MG1655mlc*XT7LAFCalsSDbutA、MG1655mlc*XT7LAFCalsSDbdh1、MG1655mlc*XT7LAFCalsSDbdhA株を用いて培養したものの結果を示す。各グラフの左の縦軸はアセトイン、BDOHの生産量を示し、右の縦軸は消費グルコース量を示す。 Bacillus subtilis由来のアセト乳酸合成酵素遺伝子alsSB.s.alsS)とBacillus subtilis由来のアセト乳酸脱炭酸酵素遺伝子alsDのオペロン(B.s.alsSD)の塩基配列におけるalsS遺伝子の位置及びalsD遺伝子の位置を示す図である。alsS遺伝子のORFを一重下線で示し、alsD遺伝子のORFを二重下線で示す。alsS遺伝子のORFはgtgが開始コドンである。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、外来の酵素をコードする遺伝子を導入した遺伝子組換え大腸菌を用いてBDOH(2,3-ブタンジオール)及び/又はアセトインを生産する方法である。また、本発明はBDOH(2,3-ブタンジオール)及び/又はアセトインを産生し得る外来の酵素をコードする遺伝子を導入した遺伝子組換え大腸菌である。
大腸菌は2,3-ブタンジオール及びアセトインを合成する能力を有しているという報告はなく、本発明においては、大腸菌又は2,3-ブタンジオール及びアセトインを合成する能力を本来有していない大腸菌に2,3-ブタンジオールやアセトインの合成に関与する酵素をコードする遺伝子を導入し、大腸菌を用いて2,3-ブタンジオールやアセトインを合成する。ここで、「本来有していない」とは、野生型の大腸菌が天然状態で有していないことをいう。
本発明においては、大腸菌細胞内のピルビン酸を出発物質として、大腸菌に導入したBDOH及び/又はアセトインの合成に関与した外来遺伝子がコードする酵素によりBDOH及び/又はアセトインを生産する。大腸菌は本来BDOH及び/又はアセトインを合成する能力を有していない。アセト乳酸合成酵素(acetolactate synthase)により、1分子のピルビン酸(C3H4O3)から1分子の2-アセト乳酸(C5H8O4)が合成され、アセト乳酸脱炭酸酵素(acetolactate decarboxylase)により1分子の2-アセト乳酸から1分子のアセトイン(C4H8O2)が合成される。さらに、ブタンジオール脱水素酵素(butanediol dehydrogenase)により1分子のアセトインからNAD(P)H依存的に1分子のBDOH(C4H10O2)合成される。ブタンジオール脱水素酵素はジアセチルレダクターゼ(diacetyl reductase)とも呼ぶ。
従って、大腸菌内でアセト乳酸合成酵素とアセト乳酸脱炭酸酵素を作用させることにより大腸菌内でアセトインが合成され、さらにブタンジオール脱水素酵素を作用させることにより大腸菌内でBDOHが合成される。
大腸菌は、アセト乳酸合成酵素を固有に有しているが、その酵素活性は弱い。従って、他の生物のアセト乳酸合成酵素をコードする遺伝子を大腸菌に導入すればよい。他の生物のアセト乳酸合成酵素をコードする遺伝子として、例えばBacillus subtilis由来のアセト乳酸合成酵素遺伝子alsSB.s.alsS)が挙げられる。
また、大腸菌はアセト乳酸脱炭酸酵素に相当する酵素を有しているという報告はない。従って、他の生物のアセト乳酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子を大腸菌に導入すればよい。他の生物のアセト乳酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子として、例えばBacillus subtilis由来のアセト乳酸脱炭酸酵素遺伝子alsDが挙げられる。Bacillus subtilis由来のアセト乳酸合成酵素をコードする遺伝子とアセト乳酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子はオペロンを形成しており、1つの転写因子により両方の酵素の発現が制御されている。そこで、大腸菌にはBacillus subtilis由来のアセト乳酸合成酵素遺伝子alsSB.s.alsS)及びBacillus subtilis由来のアセト乳酸脱炭酸酵素遺伝子alsDを導入するのが望ましい。本発明において、Bacillus subtilis由来のアセト乳酸合成酵素遺伝子alsSB.s.alsS)及びBacillus subtilis由来のアセト乳酸脱炭酸酵素遺伝子alsDを併せて連結され、オペロンを形成する遺伝子をB.s.alsSDと呼ぶ。
また、ブタンジオール脱水素酵素に相当する酵素としては、例えば、B. subtilis168株由来bdhA遺伝子(B.s.bdhA)、Lactococcus lactisNBRC100933株由来butA遺伝子(L.l.butA)又はSaccharomyces cerevisiaeW303株(Takeuchi and Tamura, 2004, FEBS Lett., 565:39-)由来bdh1遺伝子(S.c.bdh1)のいずれかが挙げられる。
Bacillus subtilis由来のアセト乳酸合成酵素遺伝子alsSB.s.alsS)及びBacillus subtilis由来のアセト乳酸脱炭酸酵素遺伝子alsDを導入した大腸菌は酵素活性を考慮するとアセトインの産生量が多くなると期待され、Bacillus subtilis由来のアセト乳酸合成酵素遺伝子alsSB.s.alsS)及びBacillus subtilis由来のアセト乳酸脱炭酸酵素遺伝子alsDを導入し、さらにB. subtilis168株由来bdhA遺伝子(B.s.bdhA)、Lactococcus lactisNBRC100933株由来butA遺伝子(L.l.butA)又はSaccharomyces cerevisiaeW303株由来bdh1遺伝子(S.c.bdh1)のいずれかを導入した大腸菌はBDOHの産生量が多くなると期待される。
酵素反応を考慮すると、Bacillus subtilis由来のアセト乳酸合成酵素遺伝子alsSB.s.alsS)及びBacillus subtilis由来のアセト乳酸脱炭酸酵素遺伝子alsDを導入し、さらにB. subtilis168株由来bdhA遺伝子(B.s.bdhA)、Lactococcus lactisNBRC100933株由来butA遺伝子(L.l.butA)又はSaccharomyces cerevisiaeW303株由来bdh1遺伝子(S.c.bdh1)のいずれかを導入した大腸菌はBDOHの産生量は多くなるが、アセトインの産生量は少なくなると考えられるが、ブタンジオール脱水素酵素に相当する酵素はNAD(P)H依存的に作用し、ブタンジオール脱水素酵素の働きにより大腸菌内のNAD(P)HとNAD(P)+の比が最適化されることがあり、この場合、ブタンジオール脱水素酵素をコードする遺伝子を導入した大腸菌において、BDOHよりもアセトインの産生量が多くなるという現象が認められ得る。この現象は酵素をコードする遺伝子を含むプラスミドベクター含む大腸菌で認められ得るが、酵素をコードする遺伝子をゲノムに挿入した大腸菌ではアセトインのみが産生される。
従って、Bacillus subtilis由来のアセト乳酸合成酵素遺伝子alsSB.s.alsS)及びBacillus subtilis由来のアセト乳酸脱炭酸酵素遺伝子alsDを導入し、さらにB. subtilis168株由来bdhA遺伝子(B.s.bdhA)、Lactococcus lactisNBRC100933株由来butA遺伝子(L.l.butA)又はSaccharomyces cerevisiaeW303株由来bdh1遺伝子(S.c.bdh1)のいずれかを導入した大腸菌は、BDOH及び/又はアセトインを効率的に生産し得る。
ブタンジオール脱水素酵素に相当する酵素をコードする遺伝子としては、BDOH生産性の観点からBDOH生産性が高くなるL.l.butAが好ましい。
また、BDOHには、(2R, 3S)-BDOH、(2S, 3S)-BDOH及び(2R, 3R)-BDOHの3種類の光学異性体が存在する。本発明の方法において、ブタンジオール脱水素酵素に相当する酵素をコードする遺伝子としてB. subtilis168株由来bdhA遺伝子(B.s.bdhA)、Lactococcus lactisNBRC100933株由来butA遺伝子(L.l.butA)又はSaccharomyces cerevisiaeW303株由来bdh1遺伝子(S.c.bdh1)のどれを用いるかにより、特定の光学異性体のBDOHを生産することができる。なお、(2S, 3S)-BDOHと(2R, 3S)-BDOH及び(2R, 3R)-BDOHと(2R, 3S)-BDOHは互いにHPLCで分離することができ、区別することができる。一方、(2S, 3S)-BDOHと(2R, 3R)-BDOHはHPLCで互いに分離することができないので、HPLCを用いた区別は困難である。従って、実際に各酵素を用いたときの生産物をHPLCにより測定した場合にわかるのは、ある酵素を用いたときに、(2R, 3S)-BDOHが生産されるか、あるいは、(2S, 3S)-BDOHと(2R, 3R)-BDOHのいずれか、又は(2S, 3S)-BDOHと(2R, 3R)-BDOHの混合体が生産されるかということである。本発明の方法において、(2S, 3S)-BDOHと(2R, 3R)-BDOHのいずれか、又は(2S, 3S)-BDOHと(2R, 3R)-BDOHの混合体を(2S, 3S)/(2R, 3R)-BDOHと表す。本発明の方法において、(2R, 3S)-BDOHと(2S, 3S)/(2R, 3R)-BDOHが同時に生産されることはない。
ブタンジオール脱水素酵素に相当する酵素をコードする遺伝子としてLactococcus lactisNBRC100933株由来butA遺伝子(L.l.butA)を用いた場合、(2R, 3S)-BDOHが選択的に産生され、B. subtilis168株由来bdhA遺伝子(B.s.bdhA)又はSaccharomyces cerevisiaeW303株由来bdh1遺伝子(S.c.bdh1)を用いた場合、(2S, 3S)/(2R, 3R)-BDOHが選択的に産生される。
以上より、大腸菌にBacillus subtilis由来のアセト乳酸合成酵素遺伝子alsSB.s.alsS)、及びBacillus subtilis由来のアセト乳酸脱炭酸酵素遺伝子alsDを導入することにより、該大腸菌を用いてアセトインを生産することができる。
また、大腸菌にBacillus subtilis由来のアセト乳酸合成酵素遺伝子alsSB.s.alsS)、Bacillus subtilis由来のアセト乳酸脱炭酸酵素遺伝子alsD、及びLactococcus lactisNBRC100933株由来butA遺伝子(L.l.butA)を導入することにより、該大腸菌を用いて(2R, 3S)-BDOHを生産することができる。
さらに、大腸菌にBacillus subtilis由来のアセト乳酸合成酵素遺伝子alsSB.s.alsS)、Bacillus subtilis由来のアセト乳酸脱炭酸酵素遺伝子alsD、及びSaccharomyces cerevisiaeW303株由来bdh1遺伝子(S.c.bdh1)を導入することにより、該大腸菌を用いて(2S, 3S)/(2R, 3R)-BDOHを生産することができる。
さらに、大腸菌にBacillus subtilis由来のアセト乳酸合成酵素遺伝子alsSB.s.alsS)、Bacillus subtilis由来のアセト乳酸脱炭酸酵素遺伝子alsD、及びB. subtilis168株由来bdhA遺伝子(B.s.bdhA)を導入することにより、該大腸菌を用いて(2S, 3S)/(2R, 3R)-BDOH及びアセトインを生産することができる。
なお、Bacillus subtilis由来のアセト乳酸合成酵素遺伝子alsSB.s.alsS)、及びBacillus subtilis由来のアセト乳酸脱炭酸酵素遺伝子alsDは、両遺伝子が連結してオペロンを形成していてもよい。ここで「オペロン」とは、同一のプロモーターの制御下に転写される1又はそれ以上の遺伝子から構成される核酸配列単位をいう。
本発明は、上記遺伝子を導入した大腸菌を包含する。
Bacillus subtilis由来のアセト乳酸合成酵素遺伝子alsSB.s.alsS)とBacillus subtilis由来のアセト乳酸脱炭酸酵素遺伝子alsDのオペロン(B.s.alsSD)、B. subtilis168株由来bdhA遺伝子(B.s.bdhA)、Lactococcus lactisNBRC100933株由来butA遺伝子(L.l.butA)及びSaccharomyces cerevisiaeW303株由来bdh1遺伝子(S.c.bdh1)の遺伝子のDNA配列を、それぞれ、配列番号1、2、3及び4に表す。なお、図4にBacillus subtilis由来のアセト乳酸合成酵素遺伝子alsSB.s.alsS)とBacillus subtilis由来のアセト乳酸脱炭酸酵素遺伝子alsDのオペロン(B.s.alsSD)の塩基配列におけるalsS遺伝子の位置を1重下線で、alsD遺伝子の位置を2重下線で示す。als遺伝子のORFはgtgが開始コドンとなっている。
大腸菌への遺伝子の導入は、環状プラスミド等のベクターに上記遺伝子を挿入し、これを大腸菌に導入することにより行うことができる。この場合、大腸菌内に遺伝子を導入したベクターが存在し、該遺伝子の発現により酵素が産生され、産生された酵素の働きにより、大腸菌細胞内のピルビン酸を出発物質として、BDOH及び/又はアセトインが産生される。この場合、例えば、発現させたい上記遺伝子の上流に適当なプロモーターを配した遺伝子カセット(プロモーター-標的遺伝子カセット)を作成し、該カセットをベクターに挿入すればよい。
環状プラスミド等のベクターに酵素をコードする遺伝子を挿入し、これを大腸菌に導入するには、前記の発現カセットを含むベクターを用いて大腸菌を形質転換すればよい。該発現カセットにおいては、プロモーター、上記酵素をコードする遺伝子のほか、ターミネーター、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、イントロンの5’末端側に存在するスプライス供与部位及びイントロンの3’末端側に存在するスプライス受容部位からなるスプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、リボソーム結合配列(SD配列)などを含有するものを作動可能に連結して用いればよい。該発現カセットにおいては、発現させようとする酵素をコードするDNAを挿入する部位は、マルチクローニングサイトとして存在してもよい。この場合、発現させようとする酵素をコードするDNAをマルチクローニングサイト(挿入部位)に制限酵素が認識する配列を利用して挿入すればよい。
発現ベクターに酵素をコードする遺伝子を挿入するには、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入して発現ベクターに連結する方法などを用いればよい。
本発明においては、上記の3種類の酵素をコードする遺伝子を1種類の大腸菌に導入し、3種類の酵素をコードする遺伝子を含む組換え大腸菌を作製する。
組換え大腸菌は、上記の酵素をコードする遺伝子を発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを用いて大腸菌を形質転換すればよい。
3種類の酵素をコードする遺伝子を発現ベクターに挿入する組合せとしては以下の組合せがあり、いずれの組合せも取り得る。
(1)3種類の酵素をコードする遺伝子をそれぞれ、別々に3つの発現ベクターに挿入する。
(2)3種類の酵素をコードする遺伝子のうち、2種類の遺伝子を1つの発現ベクターに同時に挿入し(2遺伝子発現ベクター)、残りの1種類の遺伝子を別の発現ベクターに挿入する。
(3)3種類の酵素をコードする遺伝子を1つの発現ベクターに挿入する(3遺伝子発現ベクター)。
1つの発現ベクターに複数の遺伝子を挿入する際、別々のプロモーターで発現を制御してもよいし、1つのプロモーターの下流に複数の遺伝子を連結し、1つのプロモーターの制御により複数の遺伝子を発現させてもよい。好ましくは、Bacillus subtilis由来のアセト乳酸合成酵素遺伝子alsSB.s.alsS)、及びBacillus subtilis由来のアセト乳酸脱炭酸酵素遺伝子alsDは、両遺伝子が連結してオペロンを形成させ1つのプロモーターで2つの遺伝子の発現を制御する。
大腸菌への組換えベクターの導入方法は、限定されず、例えばカルシウムイオンを用いる方法[Cohen, S.N.et al.:Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 69:2110(1972)]、エレクトロポレーション法等が挙げられる。用いるベクターも限定されず、例えば、プラスミドDNA、ファージDNA等の公知の大腸菌用の発現ベクターを利用することができる。複数の遺伝子を別々のベクターに挿入して、大腸菌に導入してもよいし、複数の遺伝子を1つのベクターに挿入して、大腸菌に導入してもよい。この場合、複数のマルチクローニングサイトを含む発現カセットを含むベクターを用いればよい。
また、大腸菌ゲノムに上記遺伝子を導入してもよい。ゲノムに外来遺伝子を導入することをノックイン又はインテグレーションと呼ぶ。この場合、上記のプロモーター、上記酵素をコードする遺伝子のほか、ターミネーター、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、イントロンの5’末端側に存在するスプライス供与部位及びイントロンの3’末端側に存在するスプライス受容部位からなるスプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、リボソーム結合配列(SD配列)、マルチクローニングサイトを含む遺伝子カセットを大腸菌ゲノムに導入すればよい。ノックインは、ファージ、トランスポゾン、attP-attB部位特異的組換えなどによって可能である。DNAを大腸菌のゲノム中にノックインする具体的な方法として、例えば、ラムダレッドとFLP-FRTリコンビナーゼを組合せた方法(Sukhija et al., Mol. Biotechnol. (2012) 51:109-118)や本発明者らが開発した方法(Nakashima and Tamura J. Biosci. Bioeng. (2012) 114:38-44)を挙げることができる。
外来遺伝子の発現に用いるプロモーターは、限定されず、構成性プロモーターも、IPTG誘導性、アラビノース誘導性、キシロース誘導性、テトラサイクリン・ドキシサイクリン誘導性、熱誘導性、培養後期(定常期)誘導性等の誘導性プロモーターも用いることができる。また、遺伝子分離元の生物由来のまま(ネイティブプロモーター)用いてもよい。
この中でも、任意に発現を誘導することができる誘導性のプロモーターが好ましく、さらに、バイオマス中に多量に含まれるキシロース又はアラビノースで発現誘導することができるキシロース誘導性プロモーター又はアラビノース誘導性プロモーターを好適に用いることができる。キシロース誘導性のプロモーターとして、xylFプロモーター、xylAプロモーター、xylBプロモーター等が挙げられ、この中でもxylFプロモーターが好ましい。アラビノース誘導性プロモーターとして、araBADプロモーター、araBプロモーター等が挙げられる。
この際、導入する遺伝子をT7プロモーターT3プロモーター、SP6プロモーター等の強力なプロモーターと連結しておき、キシロース又はアラビノースによりRNAポリメラーゼが発現するようにする。この際、酵素をコードするDNAに連結したプロモーターがT7プロモーターの場合、T7プロモーター-T7 RNAポリメラーゼ(T7RNAP)系と組み合わせればよい。また、プロモーターがT3プロモーターやSP6プロモーターの場合、T3プロモーター-T3 RNAポリメラーゼ系やSP6プロモーター-SP6 RNAポリメラーゼ系と組合せればよい。キシロース又はアラビノースの存在下で、キシロース誘導性プロモーター又はアラビノース誘導性のプロモーターとT7 RNAポリメラーゼをコードするDNAを連結した構築物とT7プロモーターとポリペプチド又はRNAをコードするDNAを連結した構築物を含む大腸菌を培養した場合、キシロース又はアラビノースにより、T7 RNAポリメラーゼが産生する。産生されたT7 RNAポリメラーゼがT7プロモーターを認識し結合することにより、T7プロモーターが作動し、酵素をコードするDNAが発現し、酵素が産生される。こうすることにより、キシロース又はアラビノースによる誘導によって、導入した酵素が発現しBODH及び/又はアセトインを生産することができる。
さらに、キシロースやアラビノースを発現誘導に用いる場合、グルコース等の他の糖が混在していると炭素カタボライト抑制(CCR)によりキシロースやアラビノースによってxylFプロモーターやaraBADプロモーターからの発現が抑制されてしまう。本発明においては、用いる大腸菌においてCCRを抑制し、キシロースやアラビノースを効率的に利用できるようにする。CCRは、培地中にブドウ糖などの優先的に代謝される炭素源があるとそれを消費するまで、それ以外の炭素源の分解系の遺伝子発現を抑制する機構である。そこで、本発明でポリペプチド又はRNAを生産するために用いる大腸菌のCCRを抑制しておくことが望ましい。大腸菌のCCRの抑制は、例えば特開2013-005764号公報、Nakashima and Tamura J. Biosci. Bioeng. (2012) 114:38-44等の記載に従って達成することができる。具体的には、CCRの解除は、例えばMlc(making large colonies)タンパク質の過剰発現により行うことができる。Mlcタンパク質は、炭化水素代謝の調節因子として、いくつかの遺伝子やオペロンの発現を調節することが知られている44kDaのDNA結合タンパク質である(Hosono, K., et al., Biosci, Biotechnol. Biochem., 59, 256-261 (1995))。一例として、ptsG遺伝子の発現はMlcタンパク質によって負に制御されていることが知られている(Plumbridge, J. Curr. Opin. Microbiol. 5:187-193(2002))。Mlcタンパク質の過剰発現は、PtsGタンパク質の不足を引き起こし、CCRが解除される。Mlcタンパク質の過剰発現は、例えば、mlc遺伝子が導入されMlcを発現し得るベクターを大腸菌に導入することにより行うことができる。また、ゲノム上のmlcプロモーターDNAの塩基配列にmlcプロモーターが高活性型になるような変異(mlc *)を入れてもよい。このような変異として、例えば、mlcプロモーターの-10配列のcaccatからtattatへの変異が挙げられる。
さらに、anmKslyBslyAydhI又はydhJ遺伝子の1つ、2つ、3つ、4つ又は5つの遺伝子の過剰発現によっても部分的な又は完全なCCRの解除を行うことができる。ここで、部分的な解除とは、不完全なCCRの解除をいう。ただし、このようなCCRの解除であっても、優先的に代謝される糖とそれ以外の糖を同時に利用することが可能になるので、有用である。本発明において、CCRの解除とは完全な解除だけでなく、部分的な解除も含む。上記5つの遺伝子のうち、特にslyA遺伝子の過剰発現が好ましい。これらの遺伝子の過剰発現は、これらの遺伝子が導入されこれらの遺伝子を発現し得るベクターを大腸菌に導入することにより行うことができる。あるいは、ブドウ糖の取り込みから解糖の初期段階に関わる一連の遺伝子群ptsGpgifbpのうちの1つの遺伝子破壊あるいは、crpの変異crp * によってもCCRは解除されることが知られているので、これらのどれかを用いてもよい。これによって、ブドウ糖とキシロース若しくはアラビノースの共存下であっても(つまりバイオマスの存在する状況下で)、xylFプロモーター又はaraBADプロモーターから発現誘導することができる。
上記の酵素を大腸菌ゲノムに導入する場合、遺伝子は、好ましくは偽遺伝子にノックインする。偽遺伝子とは、既知の正常遺伝子と塩基配列の上で高度の類似性があり、配列の相同性が明確に認められるのにもかかわらず、遺伝子としての機能を失っているDNAの領域をいう。偽遺伝子は元の機能を有する配列に突然変異が生じた結果生まれたと考えられている。具体的には、ストップコドンが生じてタンパク質のペプチド鎖が短くなりタンパク質の機能を失う場合、又は正常な転写に必要な調節配列が機能を失った場合等により偽遺伝子が出現する。元の正常な遺伝子が別に残っている場合が多いが、単独でそのまま偽遺伝子になったものもある。偽遺伝子として、遺伝子配列の特徴により3タイプの偽遺伝子が挙げられる。第1のタイプとして、mRNAからレトロトランスポゾンの逆転写酵素により合成されたDNAがゲノムに挿入されて偽遺伝子となるタイプが挙げられ、このタイプの偽遺伝子をプロセス型偽遺伝子と呼ぶ。第2のタイプとして、ゲノム内で元の遺伝子配列が重複し、そのコピーのうちの1部が突然変異等により機能を喪失して偽遺伝子となるタイプが挙げられ、このタイプの偽遺伝子を重複偽遺伝子又は非プロセス型偽遺伝子と呼ぶ。第3のタイプとして、ゲノム内の遺伝子が、重複遺伝子がなく単独の遺伝子のまま機能を失うことにより偽遺伝子になるタイプが挙げられる。本発明においては、上記の3タイプのいずれの偽遺伝子も含まれる。
偽遺伝子は、遺伝子としての機能を失っているため、大腸菌のゲノム中の偽遺伝子中に酵素をコードするDNAをノックインして偽遺伝子が分断等により破壊されても、大腸菌の生育や代謝には影響しないので、偽遺伝子中にノックインした酵素をコードするDNAが発現し、酵素が効率的に発現され、酵素反応が起こり、BODH及び/又はアセトインを生産することができる。
本発明で利用する大腸菌の株は限定されないが、研究や有用物資の生産に通常利用されているK-12株(NBRC 3301)及びB株(NBRC 13168)、あるいはこれらの株から派生した亜株を好適に用いることができる。K-12株及びB株並びにそれらの亜株として、MG1655株、W3110株、W2637株、W1485株、WG1株、58株、679株、MB408株、AG1株、Hfr3000株、5K株、H1443株、DP50株、W945株、PA309株、58-161株、P678株、HB101株(K-12株とB株のハイブリッド)、XL1-Blue株、XLOLR株、SURE株、YN2980株、AB311株、Hfr 3000 X74株、Cavalli Hfr株、W208株、AB284株、EMG2株、Y10株、WA704株、JC9387株、BB4株、BL21株、BM25.5株、BMH71-18mutS株、BW313株、C-Ia株、C600株、CJ236株、DH1株、DH5株、DH5α株、DH10B株、DP50supF株、ED8654株、ED8767株、ER1647株、ER2508株、HB101株、HMS174株、HST02株、HMS174株、HST02株、HST04 dam-/dcm-株、HST08 Premium株、JM83株、JM101株、JM105株、JM106株、JM107株、JM108株、JM109株、JM110株、K802株、K803株、LE392株、MC1061株、MV1184株、MN1193株、NovaBlue株、RR1株、TAP90株、TG1株、TG2株、TH2株、χ1776株、Y-1088株、Y-1099株、Y-1090株、REL606株等が挙げられる。これらのうち、MG1655株、W3110株、W2637株、W1485株、WG1株、58株、679株、MB408株、AG1株、Hfr3000株、5K株、H1443株、DP50株、W945株、PA309株、58-161株、P678株、HB101株(K-12株とB株のハイブリッド)、XL1-Blue株、XLOLR株、SURE株、YN2980株、AB311株、Hfr 3000 X74株、Cavalli Hfr株、W208株、AB284株、EMG2株、Y10株、WA704株、JC9387株等はK-12株由来の株としてよく利用されている株であり、REL606株及びBL21株等はB株由来の株としてよく利用されている株である。
大腸菌の偽遺伝子としては、データベースPec Profiling of E.coli Chromosome(http://www.shigen.nig.ac.jp/ecoli/pec/index.jsp)、Kato and hashimoto, Mol. Syst. Biol. (2007) 3:132)、Homma et al., Gene (2002) 294:25-33)やYoon et al., Genome Biology (2012), 13: R37等に記載の偽遺伝子から選択することができる。
本発明の方法においては、大腸菌が合成したピルビン酸を出発物質としてBDOH及び/又はアセトインを生産するため、好ましくは用いる大腸菌のピルビン酸代謝に関与する遺伝子を破壊しておく。ピルビン酸代謝に関与する遺伝子として、ldhA, adhE, pflB, pta-ackA遺伝子等が挙げられる。遺伝子の破壊は公知の方法で行うことができ、例えば、相同組換えや本発明者らが開発した方法(Nakashima and Tamura, 2012, J. Biosci. Bioeng., 114:38-)等により行うことができる。
本発明によって作成した酵素をコードする遺伝子を導入した大腸菌を培養して、BDOHやアセトインを生産することができる。主原料たる炭素源としては、各種バイオマスから得られた糖化液、精製されたグルコースやキシロースなどの糖などが挙げられる。これらにさらに、窒素源としてアンモニウム塩化合物、リン源としてリン酸塩化合物、硫黄源として硫酸塩化合物、カルシウムやナトリウムやカリウムなどの各種金属イオン、塩化物イオン、などの無機化合物を添加することで大腸菌培養のための培地が完成する。必要ならば、生育補助のため、ペプトン、酵母エキス、コーンスティープリカー、ビタミン類、pH緩衝剤などを添加しても良い。大腸菌の培養は公知の方法に従い行うことができる。例えば、培養液として、M9YGX、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDM等を使用することができ、牛胎児血清(FCS)等の血清補液やその他のサプリメント試薬等を添加して用いてもよい。さらに、形質転換した大腸菌を固定化して、有機物質を生産することもできる。固定化は、包括法、架橋法、担体結合法等により行うことができ、固定化に用いられる固定化担体としては、ガラスビーズ、シリカゲル、ポリウレタン、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、カラギーナン、アルギン酸、寒天、ゼラチン等がある。
培養は、例えば25℃〜35℃、好ましくは30℃前後で行い、10時間から1週間程度行えばよい。培養の途中で、グルコースやキシロース等を追加添加してもよい。
本発明の大腸菌を培養すると、その培養物である培養上清にBDOHやアセトインが生産されてくるので、培養上清を回収して公知の方法を単独で又は組合せて用いて精製の操作をすれば、純品が得られる。また、BDOHやアセトインが大腸菌体内に生成、蓄積される場合には、培養終了後、培養物から菌体を回収した後、機械的又は化学的方法等の適切な方法で菌体を破砕し、該菌体破砕物から、公知の方法を単独で又は組合わせて有機物質を単離、精製することができる。
生産されたBDOHやアセトインは例えばHPLCを用いて分離し、refractive index indicator(屈折率測定器)を用いて定量することができる。
本発明の方法により、BDOH、アセトインの合成に関与する酵素をコードする遺伝子を導入した大腸菌を培養することにより、好適な条件下で、培養上清中に5g/L以上、好ましくは10g/L以上、さらに15g/L以上のアセトインが産生され、10g/L以上、好ましくは15g/L以上、さらに好ましくは20g/L以上のBDOHが産生される。ここで、好適な条件とは、例えば後記の実施例に記載の条件である。
例えば、Bacillus subtilis由来のアセト乳酸合成酵素遺伝子alsSB.s.alsS)、及びBacillus subtilis由来のアセト乳酸脱炭酸酵素遺伝子alsDを含むベクターを導入した大腸菌を用いて5g/L以上の濃度でアセトインを生産することができる。
また、Bacillus subtilis由来のアセト乳酸合成酵素遺伝子alsSB.s.alsS)、Bacillus subtilis由来のアセト乳酸脱炭酸酵素遺伝子alsD、及びLactococcus lactisNBRC100933株由来butA遺伝子(L.l.butA)を含むベクターを導入した大腸菌を用いて20g/L以上、好ましくは30g/L以上、さらに好ましくは40g/L以上の濃度で(2R, 3S)-BDOHを生産することができる。
さらに、Bacillus subtilis由来のアセト乳酸合成酵素遺伝子alsSB.s.alsS)、Bacillus subtilis由来のアセト乳酸脱炭酸酵素遺伝子alsD、及びSaccharomyces cerevisiaeW303株由来bdh1遺伝子(S.c.bdh1)を含むベクターを導入した大腸菌を用いて5g/L以上、好ましくは10g/L以上、さらに好ましくは15g/L以上の濃度で(2S, 3S)/(2R, 3R)-BDOHを生産することができる。
さらに、Bacillus subtilis由来のアセト乳酸合成酵素遺伝子alsSB.s.alsS)、Bacillus subtilis由来のアセト乳酸脱炭酸酵素遺伝子alsD、及びB. subtilis168株由来bdhA遺伝子(B.s.bdhA)を含むベクターを導入した大腸菌を用いて10g/L以上、好ましくは15g/L以上の濃度で(2S, 3S)/(2R, 3R)-BDOHを産生し、さらに10g/L以上、好ましくは15g/L以上の濃度でアセトインを生産することができる。
また、Bacillus subtilis由来のアセト乳酸合成酵素遺伝子alsSB.s.alsS)、及びBacillus subtilis由来のアセト乳酸脱炭酸酵素遺伝子alsDをゲノムに導入した大腸菌を用いて10g/L以上、好ましくは20g/L以上、さらに好ましくは30g/L以上の濃度でアセトインを生産することができる。
また、Bacillus subtilis由来のアセト乳酸合成酵素遺伝子alsSB.s.alsS)、Bacillus subtilis由来のアセト乳酸脱炭酸酵素遺伝子alsD、及びLactococcus lactisNBRC100933株由来butA遺伝子(L.l.butA)をゲノムに導入した大腸菌を用いて30g/L以上、好ましくは40g/L以上、さらに好ましくは50g/L以上の濃度で(2R, 3S)-BDOHを生産することができる。
さらに、Bacillus subtilis由来のアセト乳酸合成酵素遺伝子alsSB.s.alsS)、Bacillus subtilis由来のアセト乳酸脱炭酸酵素遺伝子alsD、及びSaccharomyces cerevisiaeW303株由来bdh1遺伝子(S.c.bdh1)をゲノムに導入した大腸菌を用いて10g/L以上、好ましくは15g/L以上の濃度で(2S, 3S)/(2R, 3R)-BDOHを生産することができる。
さらに、Bacillus subtilis由来のアセト乳酸合成酵素遺伝子alsSB.s.alsS)、Bacillus subtilis由来のアセト乳酸脱炭酸酵素遺伝子alsD、及びB. subtilis168株由来bdhA遺伝子(B.s.bdhA)を含むベクターを導入した大腸菌を用いて5g/L以上、好ましくは9g/L以上の濃度で(2S, 3S)/(2R, 3R)-BDOHを産生することができる。
以上の結果からは、アセトインの生産には、Bacillus subtilis由来のアセト乳酸合成酵素遺伝子alsSB.s.alsS)、及びBacillus subtilis由来のアセト乳酸脱炭酸酵素遺伝子alsD、好ましくはオペロンを形成しているB.s.alsSDをゲノムに導入した大腸菌が適しており、BDOHの生産には、acillus subtilis由来のアセト乳酸合成酵素遺伝子alsSB.s.alsS)、Bacillus subtilis由来のアセト乳酸脱炭酸酵素遺伝子alsD、好ましくはオペロンを形成しているB.s.alsSD、及びLactococcus lactisNBRC100933株由来butA遺伝子(L.l.butA)をゲノムに導入した大腸菌が適している。
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
〔実施例1〕
キシロース誘導発現にかかる基本ベクターの作成と大腸菌株の作成
まず実験手法について述べる。以下に記載の実施例において、大腸菌の培養、遺伝子組換え操作等は、本発明者らの論文及び特許(Nakashima and Tamura, 2004, Biotechnol. Bioeng., 86:136-、Nakashima and Tamura, 2004, Appl. Environ. Microbiol., 70:5557-、Nakashima et al., 2006, Nucleic Acids Res., 34:e138、Nakashima and Tamura, 2009, Nucleic Acids Res. 37:e103、特許第3793812号、特許3944577号)に基づいて行った。DNA断片の切断は、New England Biolab社の制限酵素を用いて行い、切断後はアガロースゲル電気泳動で分離し、必要なDNA断片のみを回収した。ゲルからのDNA断片回収はPromega社のWizard SV Gel and PCR Clean-Up Systemで行い、ライゲーション反応はタカラバイオ株式会社のDNA Ligation Kit <Mighty Mix>を用いた。ライゲーション後の形質転換にはXL-1Blue大腸菌(recA1 endA1 gyrA96 thi-1 hsdR17 supE44 relA1 lac [F'proAB lacI q ZΔM15 Tn10])を用い、井上ら(Inoue et al., 1990, Gene, 96:23-)の方法に従った。PCR反応は東洋紡社製のKOD FX neo polymeraseかKOD plus neo polymeraseを用いた。オリゴヌクレオチドはオペロンバイオテクノロジー株式会社に合成を委託した。特に断らない限り、PCR反応のためのゲノムDNAには、野生型大腸菌K12MG1655株(F- lambda- ilvG - rfb-50 rph-1)を用いた。特に断りがない限り、大腸菌の培養はLB(1(w/v)% Difco Bacto Tryptone、0.5(w/v)% Difco Yeast Extract、1(w/v)%塩化ナトリウム)を用いて37度で行った。寒天培地による培養の場合、寒天濃度は1.6(w/v)%で、9 cm直径のプラスチックシャーレに入れたものを使った。また、環状プラスミドを含む大腸菌を培養する場合は対応する抗生物質を加えて行った。抗生物質の終濃度は、アンピシリン:50μg/mL、クロラムフェニコール:34μg/mL(原液は100%エタノールを溶媒として34 mg/mLの濃度で作成)、カナマイシン:20μg/mL、アプラマイシン:50μg/mLである。グルコース、キシロース、アラビノースを培養液に加える場合は32(w/v)%の原液を作成しておき、それをザルトリウス社製ミニザルトフィルター0.22μM(商品コード16534K)で滅菌したものを用いた。B. subtilis 168株はLBで、L. lactis NBRC100933は、No.802培地(1(w/v)% Difco Bacto Tryptone、0.2(w/v)% Difco Yeast Extract、0.1(w/v)%硫酸マグネシウム七水和物)で、S. cerevisiaeW303はYPD培地(2(w/v)% Difco Bacto Tryptone、1(w/v)% Difco Yeast Extract、2(w/v)%グルコース)で培養した。
PCRのテンプレートに使用する大腸菌MG1655、B. subtilis 168、L. lactis NBRC100933、S. cerevisiae W303株ゲノムDNAは以下のように調製した。5mlの培養液にて適温で培養した細菌株を500 μlのSETバッファー(75 mM 塩化ナトリウム、25 mM EDTA (pH8.0)、20 mM Tris-HCl (pH7.5))に懸濁した。そこに、5 μlのリゾチーム溶液(100 mg/ml)を加え、37 ℃で30分インキュベートした。そして、14 μlのプロテアーゼK溶液(20 mg/ml)と60 μlの硫酸ドデシルナトリウム溶液(10%)を加え、よく混合した後55 ℃で2時間インキュベートした。その後、200 μlの塩化ナトリウム溶液(5 M)と500 μlのPhenol/Chloroform/Isoamyl alcohol (25:24:1)溶液(ニッポンジーン社製)を加え、20分間室温で回転撹拌した。遠心分離し、700 μlの上清をとった。これをイソプロパノール沈殿後、乾燥させ、50 μlの水に溶解した。
本発明では一貫して、大腸菌由来キシロース誘導性プロモーター(Pxyl)とT7ファージ由来RNAポリメラーゼ(T7RNAP)を組み合わせたキシロース誘導発現系(特願2013-087756)によって外来遺伝子を発現させた。
Pxylはプロモーターとしての強度が弱く、Pxyl下流に直接、発現させたい外来遺伝子を連結しても、多くの遺伝子発現量が見込めない。そこで、Pxyl下流にはT7RNAP遺伝子を連結し、外来遺伝子は別途、T7プロモーター(Pt7)の下流に連結したものを用意する。Pt7はtaatacgactcactatagggからなる配列で、大腸菌のRNAポリメラーゼによってはほどんど認識されないが、T7RNAPによって特異的に認識され、転写が開始される。ごく少量のT7RNAPで大量のRNAを転写できるとされており、転写速度も大腸菌のRNAポリメラーゼより8倍早い(Makarova et al., 1995, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92:12250-)。よって、これら、Pxyl-T7RNAPカセットとPt7-外来遺伝子カセットを大腸菌に移入すれば、外来遺伝子を大量に発現させることができる。ただし、Pxylは、キシロースが培地中に存在していても、グルコースが共存しているとCCRによって、そこからの遺伝子発現が抑制されてしまう。よって、これを回避する策を講じる必要がある。本発明者はこれまでに、CCRが、mlcの優性点突然変異mlc * によって解除されることを明らかにしているので(Nakashima and Tamura, 2012, J. Biosci. Bioeng., 114:38-)、ゲノム上のmlcmlc * に人為的に変更すれば良い。その方法論も本発明者らが発表済みで(Nakashima and Tamura, 2012, J. Biosci. Bioeng., 114:38-)、任意の大腸菌株で実施可能である。これによって、グルコースとキシロースの共存下であっても、Pxylから遺伝子の発現を誘導することができる。
Pxyl配列を大腸菌MG1655株のゲノムからPCRにて増幅した。その際のオリゴヌクレオチドプライマーはsSN1691R(aaactgcagtgcatgcgttaacgaacgcgatcgagctggtcaaaatagg(配列番号5))とsSN1692(ttccatggtgtagggccttctgtagttaga(配列番号6))であった。増幅した断片をPstIとNcoIで切断し、pHN1850(Nakashima and Tamura, 2013, Lett. Appl. Microbiol., 56:436-)をPstIとNcoIで切断したものとライゲーションし、できたプラスミドにpHN1946と名前をつけた。
lacZYA座位のうちlacZ近傍に遺伝子をノックインするベクターを作成するために、sSN1700(gctatgcattaactatccgctggatgaccagg(配列番号7))とsSN1701(tggtctagaaggcctctgcagcctggggtgcctaatgagtgagctaactc(配列番号8))の2つのオリゴヌクレオチドプライマーを作成し、野生型MG1655株のゲノムを鋳型としてPCR反応を行った。その際、sSN1701はその末端をT4ポリヌクレオチドキナーゼ(New England BioLabs社製)を用いてリン酸化しておいた。得られた断片の末端をNsiIで処理した。一方、sSN1702(tggctcgagggatccatgcatcagccgctacagtcaacagcaactgatgg(配列番号9))とsSN1703(tttacatgtctgaacagttccagtgccagct(配列番号10))の2つのオリゴヌクレオチドプライマーを作成し、野生型MG1655株のゲノムを鋳型としてPCR反応を行った。得られた断片の末端をPciIで処理した。これら2つの断片とプラスミドベクターpHN1234(Nakashima and Tamura J. Biosci. Bioeng., 2012, 114:38-)をPstIとNcoIで切断したものを同時にライゲーションした。できたプラスミドにpHN1931と名付けた。
Pxyl-T7RNAP遺伝子カセットを含む断片をpHN1946からPstIとSpeIで切り出し、pHN1931をNsiIとXbaIで切断したベクターにライゲーションした。できたプラスミドにpHN1950と名付けた。pHN1950はPxyl-T7RNAP遺伝子カセットをlacZYA遺伝子領域配列に挟まれるようにして持つ。
pHN678(Nakashima et al., 2006, Nucleic Acids Res., 34:e138)を鋳型として、sSN1011(aaaggtaccgtggaggtaataattgacgatatga(配列番号11))とsSN1173(ggggtacctgagcaaactggcctca(配列番号12))の2つのオリゴヌクレオチドプライマーによって、PCR反応を行い、得られた断片の末端をKpnIで処理し自己ライゲーションした。できたプラスミドにpHN1932と名付けた。オペロンバイオテクノロジー株式会社に依頼し、以下の配列のDNA断片を合成した。
gctagcctgcagatataggcgccagcaaccgcacctgtggcgccggtgatgccggccacgatgcgtccggcgtagaggatcgagatctcgatcccgcgaaattaatacgactcactataggggttcccctctagaaataattttgtttaactttaagaaggagatataccatgggccaccatcaccatcaccatatgggaattctacgtagcggccgcggatccaagcttagatctctcgagaactagtccaccgctgagcaataactagcataaccccttggggcctctaaacgggtcttgaggggttttttgctgaaaggaggaaggtacc(配列番号13)
この配列は、Pt7とそのターミネーターを含み、さらにマルチプルクローニング部位を持つ。この配列を持つDNA断片をPstIとKpnIで切り出し、pHN1932の同サイトにクローニングした。できたプラスミドにpHN1944と名付けた。次いで、pHN678を鋳型として、sSN1726(cttctgcagaatgcatctgtcaaacatgagaattacaacttatatcg(配列番号14))とsSN1079(cgactagtgcgtcgggtgatgctgccaact(配列番号15))の2つのオリゴヌクレオチドプライマーによって、PCR反応を行い、得られた断片をPstIとNheIで消化し、pHN1944の同サイトにクローニングした。できたプラスミドにpHN1948と名付けた。pHN1948はPt7とターミネーターを含み、それらのあいだにマルチプルクローニング部位を持つT7発現ベクターである。
以下、pHN1950を用いて野生型MG1655株にPxyl-T7RNAP遺伝子カセットを導入する過程を述べるが、その方法論は本発明者らがすでに発表している(Nakashima and Tamura, 2013, Lett. Appl. Microbiol., 56:436-)。pHN1950はpSC101自律複製起点をもつプラスミドであるが、一箇所の点突然変異(GenBank登録番号X01654の、5439番目の塩基がシトシンからチミンに変化)により、温度感受性のプラスミドとなっており(pSC101ts 自律複製起点)、37℃を越える温度で培養されると、環状プラスミドとして細胞内で維持されない(Armstrong et al., 1984, J. Mol. Biol., 175:331-)。よって、37℃を越える温度では、pHN1950は脱落するか、相同組換えあるいは非相同組換えによって大腸菌のゲノム内に挿入されるかのどちらかとなる。相同組換えでゲノムに挿入されるのであれば、lacZYA座位に対する相同配列を持っていることから、かなりの高確率でこの座位にノックインされることなる。さらに、pHN1950はカウンター選択マーカーであるsacBをもつことから、スクロースの10(w/v)%入ったLB中で培養すると、Pxyl-T7RNAP遺伝子カセットのみをゲノム内に残して、それ以外の部分はゲノム内相同組換えによって脱落することになる。ただし、必ずしも想定通りに脱落するとは限らないので、コロニーPCR法などによって周辺の遺伝子構成を調べなくてはならない。
まずMG1655株をpHN1950で形質転換し(ただし30℃培養)、形質転換体のコロニーを爪楊枝でLB寒天培地に塗布、42℃で培養した。純化するために、出てきたコロニーをもう一度爪楊枝でLB寒天培地に塗布し、37℃で培養した。出てきたコロニーを1 mLの液体LBで一晩30℃で培養し、爪楊枝の先をその培養液に浸し、スクロースの10%入ったLB寒天培地に塗布し、一晩30℃で培養した。出てきたコロニーをコロニーPCR法で、想定通りノックインされているかどうか確認した。できた株にMG1655XT7と名付けた。
次いで、CCRを解除された株を作成するために、以下の操作を行った。ゲノム上の野生型mlcmlc * に変異させる方法は、本発明者らが発表済みである(Nakashima and Tamura, 2012, J. Biosci. Bioeng., 114:38-、Emmerson et al., 2006, Biol. Proced. Online, 8:153-)。その方法によってMG1655の当該遺伝子を変異させた株を作成し、名称をMG1655mlc*とした。そして、MG1655mlc*株のlacZYA座位に、上述と全く同じ方法で、Pxyl-T7RNAP遺伝子カセットのノックインを行った。できた株にMG1655mlc*XT7と名付けた。
さらにBDOHやアセトインの生産性を高める目的で、MG1655mlc*XT7からピルビン酸代謝に関与するldhA, adhE, pflB, pta-ackA遺伝子を破壊した。破壊する方法は本発明者らが発表済みである(Nakashima and Tamura, 2012, J. Biosci. Bioeng., 114:38-)。得られた株にはMG1655mlc*XT7LAFCと名づけた。
〔実施例2〕
プラスミドベクターを用いたBDOHとアセトインの生産
B. subtilis 168株ゲノムを鋳型としてB.s.alsSD配列をPCRにて増幅した。その際のオリゴヌクレオチドプライマーはsSN1343R(aaccatggtgacaaaagcaacaaaagaacaaaaatcccttgtga(配列番号16))とsSN1366(ttctcgagttattcagggcttccttcagttgtttcgatatct(配列番号17))であった。増幅した断片をNcoIとXhoIで切断し、pHN1948をNcoIとXhoIで切断したものとライゲーションし、できたプラスミドにpHN2027と名前をつけた。これはPt7の下流にB.s.alsSD配列を持つ発現ベクターで、他にpACYCの自律複製起点とクロラムフェニコール耐性遺伝子を持つ。
Pt7、マルチプルクローニング部位、ターミネーター配列を含む断片をpHN1948からNsiIとKpnIで切り出し、pHN1257(Nakashima and Tamura, 2009, Nucleic Acids Res. 37:e103)をNsiIとKpnIで切断したベクターにライゲーションした。できたプラスミドにpHN2115と名付けた。このベクターのNcoIとSpeI部位の間に、PCRで増幅したL.l.butAS.c.bdh1B.s.bdhA配列を含む断片を挿入し、それぞれpHN2159、pHN2160、pHN2161を得た。PCRに用いたオリゴヌクレオチドはそれぞれ、sSN1940(taccatggctaaaattgcagcagttactggagc(配列番号18))とsSN1924(aaactagttaatggaattgcattcctccatcaacaataattg(配列番号19))のセット、sSN1942(taatcatgagagctttggcatatttcaagaag(配列番号20))とsSN1928(aaactagttacttcatttcaccgtgattgttaggc(配列番号21))のセット、sSN1944(atccatggaggcagcaagatggcataaccaaaag(配列番号22))とsSN1368(aaactagttagttaggtctaacaaggattttgacttgg(配列番号23))のセットで、L.l.butAB.s.bdhAの断片はNcoIとSpeIで、S.c.bdh1の断片はBspHIとSpeIで末端を処理して挿入した。pHN2159、pHN2160、pHN2161は、Pt7の下流にL.l.butAS.c.bdh1B.s.bdhA配列をそれぞれ持つ発現ベクターで、他にpSC101Hの自律複製起点(変異によるpSC101自律複製起点の高コピー型、Nakashima and Tamura, 2009, Nucleic Acids Res. 37:e103)とカナマイシン耐性遺伝子を持つ。従って、上述のpHN1948やpHN2027と共形質転換が可能である。
MG1655mlc*XT7LAFCをpHN1948のみ、pHN2027のみ、pHN2027とpHN2159の両方、pHN2027とpHN2160の両方、pHN2027とpHN2161の両方で形質転換あるいは共形質転換した株を作成した。これらをLBで一晩前培養し、それをM9YGX培地(17 g/L Na2HPO4-12H2O, 3 g/L KH2PO4, 0.5 g/L NaCl, 1 g/L NH4Cl, 0.24 g/L MgSO4, 0.011 g/L CaCl2, 5 g/L Difco Yeast Extract, 72 g/L グルコース, 10 g/L キシロース)に1/100希釈することでBDOHとアセトイン生産の本培養を開始した。培養には、250 mL容積のスクリューキャップ付きプラスチック製三角フラスコを用い、培地は25 mLで、30℃の恒温槽の中で回転撹拌した。さらに72時間後に32 g/L(培養開始から総計で104 g/L)のグルコースと8 g/L(培養開始から総計で18 g/L)のキシロースを追加添加した。
一定時間後に培養液の一部を分取し、遠心処理によって菌体を除き、その上清を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供した。HPLCでは、Cationic Exchange Column Aminex HPX-87HとMicro-Guard Column, Aminex 85H (共にBio-Rad Labs社製)を用い、解析条件は、4 mM H2SO4の溶媒相、流速0.5 mL/min、カラム温度45℃で、糖、BDOH、アセトインはrefractive index indicator、有機酸は UV indicator (210 nm 波長)で検出した。なお、BDOHの(2R,3S)-体と(2S,3S)-体、あるいは(2R,3S)-体と(2R,3R)-体はこのHPLCで独立したピークとして検出が可能で、それぞれの定量が可能であるが、(2S,3S)-体と(2R,3R)-体は分離して検出することが出来ない。よって、本発明で生産したBDOHでは、(2S,3S)-体と(2R,3R)-体は、それらのいずれか、あるいはその混合物として扱い、以下(2S,3S)/(2R,3R)-体と表記する。アセトイン、(2R,3S)-BDOH、(2S,3S)-BDOH、(2R,3R)-BDOHはSigma-Aldrich社より純品を購入し、それらをHPLCに供することで、濃度の定量を行った。
その結果を図2に示す。
アセトインについては、B.s.alsSDのみを発現する株(図2のB)で最大7 g/Lの生産が見られた。しかし、B.s.alsSDB.s.bdhAを共発現する株(図2のE)でも、最大18 g/Lの生産が見られた(ただし、BDOHとの共生産)。予想とは異なり、後者の方がアセトインの生産性が高かったが、B.s.bdhA が発現していることで細胞内のNAD(P)H/NAD(P)+比が適正に保たれているのかもしれない。
BDOHについては、B.s.alsSDL.l.butAを共発現する株(図2のC)では41 g/Lの(2R,3S)-BDOH、B.s.alsSDS.c.bdh1を共発現する株(図2のD)では20 g/Lの(2S,3S)/(2R,3R)-BDOH、B.s.alsSDB.s.bdhAを共発現する株(図2のE)では18 g/Lの(2S,3S)/(2R,3R)-BDOHが最大で生産された。いずれの株においても、(2R,3S)-BDOHと(2S,3S)/(2R,3R)-BDOHを同時に生産することはなかった。
〔実施例3〕
プラスミドベクターを用いないBDOHとアセトインの生産
次に、実施例2で用いた外来遺伝子を全て、大腸菌のゲノムに部位特異的組換えによって導入(ノックイン)して、生産性を解析した。
lacZYA座位のうちlacY近傍に遺伝子をノックインするベクターを作成するために、sSN1712(cgcatgcattaccagttggtctggtgtcaa(配列番号24))とsSN1713(tggtctagaaggcctctgcaggaaacgccaataacatacagtgacaaaaacc(配列番号25))の2つのオリゴヌクレオチドプライマーを作成し、野生型MG1655株のゲノムを鋳型としてPCR反応を行った。その際、sSN1713はその末端をT4ポリヌクレオチドキナーゼ(New England BioLabs社製)を用いてリン酸化しておいた。得られた断片の末端をNsiIで処理した。一方、sSN1714(tggctcgagggatccatgcatcggtgggaaaaacgccctgctgctggc(配列番号26))とsSN1715(tatacatgttggaaccgtaagagaaatagac(配列番号27))の2つのオリゴヌクレオチドプライマーを作成し、野生型MG1655株のゲノムを鋳型としてPCR反応を行った。得られた断片の末端をPciIで処理した。これら2つの断片とプラスミドベクターpHN1234をPstIとNcoIで切断したものを同時にライゲーションした。できたプラスミドにpHN1936と名付けた。このベクターでは、pHN1931でノックインされるlacZYA座位の部位よりも3’領域側にノックインされる。
pHN1948からPt7配列を含む断片をNsiIとNcoIで切り出し、一方、pHN2027からB.s.alsSDを含む断片をNcoIとXhoIで切り出した。これら2つ断片を同時にpHN1936(Nakashima and Tamura, 2009, Nucleic Acids Res. 37:e103)をPstIとXhoIで切断したベクターにライゲーションした。できたプラスミドにpHN2146と名付けた。このベクターを用いて、実施例1と同様にMG1655mlc*XT7LAFCに対してノックインの操作を行い、MG1655mlc*XT7LAFCalsSD株を得た。
MG1655ゲノムを鋳型、sSN1730(aagatgcatacgcttcaggctttggtcgaggc(配列番号28))とsSN1731R(tggtctagaaggcctctgcagcaaatcaaacaacgctaatgccgtcatc(配列番号29))をオリゴヌクレオチドプライマーとして用いて、yghX遺伝子5’領域をPCR増幅した。なお、このPCRに先立って、sSN1731RはT4ポリヌクレオチドキナーゼを用いて5’末端をリン酸化した。の断片の末端をNsiIで処理した。一方、MG1655ゲノムを鋳型として、sSN1732(tggctcgagggatccatgcatgagaatcgtggactgaatccgtatatc(配列番号30))とsSN1733(tttacatgtcctttgccaggcaagatcggcg(配列番号31))をプライマーとして用いて、yghX遺伝子3’領域をPCR増幅した。の断片の末端をPciIで処理した。増幅した両断片を、pHN1234をPstIとNcoIで切断したベクター断片に同時にライゲーションし、pHN1975を得た。このベクターのマルチプルクローニング部位に、標的遺伝子をクローニングすれば、yghX座位に標的遺伝子をノックインすることができる。yghXは偽遺伝子であり、その機能が失われても大腸菌の生育にはほとんど影響が無いと考えられる。
赤色の蛍光を示すmCherryタンパク質をコードする遺伝子を人工合成した。配列は以下のとおりである。
atggttagcaaaggtgaagaggacaacatggcgattatcaaagagtttatgcgtttcaaggtgcacatggaaggctcggtaaatggtcacgaatttgagattgaaggtgagggcgagggtcgtccgtacgagggaacccagacggccaagctgaaagtgaccaaaggtggtccgctgccgttcgcgtgggacatcttgagcccgcagtttatgtacggctctaaagcgtacgtcaagcatccggcggacattccggactatctgaagctgagcttcccggaaggctttaagtgggagcgtgttatgaacttcgaagatggtggtgttgtcaccgtcacccaggatagcagcctgcaagatggcgaatttatctataaagtgaagctgcgtggcacgaattttccgtccgatggcccagttatgcagaagaaaacaatgggttgggaagcatccagcgagcgcatgtaccctgaggatggtgcactgaagggcgagatcaagcaacgcttgaaactgaaagatggcggtcactatgacgccgaggttaagacgacctataaggctaaaaagccggtgcaactgccgggtgcgtataatgtgaacatcaaactggacattacgagccataacgaggactacactattgtcgaacaatacgagcgcgcagaaggccgtcacagcaccggtggtatggacgagctgtacaaataa(配列番号32)
この配列を含むDNA断片をsSN1743(acccatggttagcaaaggtgaagaggacaa(配列番号33))とsSN1744(tgctcgagaaagcttcgaattcttatttgtacag(配列番号34))を用いてPCR増幅し、末端をNcoIとHindIIIで処理し、pHN1948の同一制限酵素部位にクローニングした。できたプラスミドにpHN1984と名付けた。pHN1984からPt7-mCherry遺伝子カセットをNsiIとSpeIで切り出し、pHN1975をPstIとXbaIで切断したベクター断片にライゲーションした。できたプラスミドにpHN1998と名付けた。このベクターのNcoIとNsiI部位の間に、PCRで増幅したL.l.butAS.c.bdh1B.s.bdhA配列を含む断片を挿入し、それぞれpHN2149、pHN2150、pHN2151を得た。PCRに用いたオリゴヌクレオチドはそれぞれ、sSN1940(taccatggctaaaattgcagcagttactggagc(配列番号18))とsSN1941(tttatgcattaatggaattgcattcctccatcaac(配列番号35))のセット、sSN1942(taatcatgagagctttggcatatttcaagaag(配列番号20))とsSN1943(tttatgcattacttcatttcaccgtgattgttag(配列番号36))のセット、sSN1944(atccatggaggcagcaagatggcataaccaaaag(配列番号22))とsSN1945(tttatgcattagttaggtctaacaaggattttgac(配列番号37))のセットで、L.l.butAB.s.bdhAの断片はNcoIとNsiIで、S.c.bdh1の断片はBspHIとNsiIで末端を処理して挿入した。pHN2149、pHN2150、pHN2151は、Pt7の下流にL.l.butAS.c.bdh1B.s.bdhA配列をそれぞれ持ち、他にpSC101tsの自律複製起点とクロラムフェニコール耐性遺伝子、sacB遺伝子、yghXの周辺配列を持つ。
pHN2149、pHN2150、pHN2151を用いて、実施例1と同様にMG1655mlc*XT7LAFCalsSDに対してノックインの操作を行い、MG1655mlc*XT7LAFCalsSDbutA、MG1655mlc*XT7LAFCalsSDbdh1、MG1655mlc*XT7LAFCalsSDbdhA株それぞれを得た。
培養と高速液体クロマトグラフィー解析を実施例2と同様に行った。その結果を図3に示す。
アセトインについては、B.s.alsSDのみを発現する株(図3のA)で最も多い、31 g/Lの生産が見られた。これは実施例2での、プラスミドベクターを用いた結果とは異なる。ゲノムから発現させる株の方が、生産性が多くかつBDOHの副生産も少ないことから、アセトインの生産にはこの株(図2のA)が最も適していると考えられた。
BDOHについては、B.s.alsSDL.l.butAを共発現する株(図3のB)では56 g/Lの(2R,3S)-BDOH、B.s.alsSDS.c.bdh1を共発現する株(図3のC)では18 g/Lの(2S,3S)/(2R,3R)-BDOH、B.s.alsSDB.s.bdhAを共発現する株(図3のD)では10 g/Lの(2S,3S)/(2R,3R)-BDOHが最大で生産された。いずれの株においても、(2R,3S)-BDOHと(2S,3S)/(2R,3R)-BDOHを同時に生産することはなかった。よってBDOHの生産には、B.s.alsSDL.l.butAをゲノムから共発現する株(図3のB)が最も適していると考えられた。
配列番号5〜12、14〜31、33〜37 プライマー

Claims (15)

  1. 大腸菌に、アセト乳酸合成酵素(acetolactate synthase)をコードする遺伝子及びアセト乳酸脱炭酸酵素(acetolactate decarboxylase)をコードする遺伝子が導入されている、アセトインを生産することができる遺伝子組換え大腸菌。
  2. アセト乳酸合成酵素(acetolactate synthase)をコードする遺伝子がBacillus subtilis由来のアセト乳酸合成酵素遺伝子alsSB.s.alsS)である、請求項1記載の遺伝子組換え大腸菌。
  3. アセト乳酸脱炭酸酵素(acetolactate decarboxylase)をコードする遺伝子がBacillus subtilis由来のアセト乳酸脱炭酸酵素遺伝子alsDである、請求項1又は2に記載の遺伝子組換え大腸菌。
  4. アセト乳酸合成酵素(acetolactate synthase)及びアセト乳酸脱炭酸酵素(acetolactate decarboxylase)がオペロンを形成している、請求項1〜3のいずれか1項に記載の遺伝子組換え大腸菌。
  5. アセト乳酸合成酵素(acetolactate synthase)をコードする遺伝子及びアセト乳酸脱炭酸酵素(acetolactate decarboxylase)をコードする遺伝子が大腸菌ゲノムに導入されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の遺伝子組換え大腸菌。
  6. 大腸菌に、アセト乳酸合成酵素(acetolactate synthase)をコードする遺伝子、アセト乳酸脱炭酸酵素(acetolactate decarboxylase)をコードする遺伝子及びブタンジオール脱水素酵素(butanediol dehydrogenase)をコードする遺伝子が導入されている、2,3-ブタンジオールを生産することができる遺伝子組換え大腸菌。
  7. アセト乳酸合成酵素(acetolactate synthase)をコードする遺伝子がBacillus subtilis由来のアセト乳酸合成酵素遺伝子alsSB.s.alsS)である、請求項6記載の遺伝子組換え大腸菌。
  8. アセト乳酸脱炭酸酵素(acetolactate decarboxylase)をコードする遺伝子がBacillus subtilis由来のアセト乳酸脱炭酸酵素遺伝子alsDである、請求項6又は7に記載の遺伝子組換え大腸菌。
  9. ブタンジオール脱水素酵素(butanediol dehydrogenase)をコードする遺伝子が、B. subtilis168株由来bdhA遺伝子(B.s.bdhA)、Lactococcus lactisNBRC100933株由来butA遺伝子(L.l.butA)及びSaccharomyces cerevisiaeW303株(由来bdh1遺伝子(S.c.bdh1)からなる群から選択される、請求項6〜8のいずれか1項に記載の遺伝子組換え大腸菌。
  10. アセト乳酸合成酵素(acetolactate synthase)及びアセト乳酸脱炭酸酵素(acetolactate decarboxylase)がオペロンを形成している、請求項6〜9のいずれか1項に記載の遺伝子組換え大腸菌。
  11. アセト乳酸合成酵素(acetolactate synthase)をコードする遺伝子、アセト乳酸脱炭酸酵素(acetolactate decarboxylase)をコードする遺伝子及びブタンジオール脱水素酵素(butanediol dehydrogenase)をコードする遺伝子が大腸菌ゲノムに導入されている、請求項6〜10のいずれか1項に記載の遺伝子組換え大腸菌。
  12. ブタンジオール脱水素酵素(butanediol dehydrogenase)をコードする遺伝子がLactococcus lactisNBRC100933株由来butA遺伝子(L.l.butA)である、2,3-ブタンジオールの光学異性体(2R, 3S)-BDOHを生産することができる、請求項9〜11のいずれか1項に記載の大腸菌。
  13. ブタンジオール脱水素酵素(butanediol dehydrogenase)をコードする遺伝子がSaccharomyces cerevisiaeW303株由来bdh1遺伝子(S.c.bdh1)又はB. subtilis168株由来bdhA遺伝子(B.s.bdhA)である、2,3-ブタンジオールの光学異性体(2S, 3S)-BDOH若しくは(2R, 3R)-BDOH、あるいは(2S, 3S)-BDOHと(2R, 3R)-BDOHの混合体を生産することができる、請求項9〜11のいずれか1項に記載の大腸菌。
  14. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の遺伝子組換え大腸菌を培養する工程、及び該工程の培養物からアセトインを回収する工程を含む、アセトインを製造する方法。
  15. 請求項6〜13のいずれか1項に記載の遺伝子組換え大腸菌を培養する工程、及び該工程の培養物から2,3-ブタンジオールを回収する工程を含む、2,3-ブタンジオールを製造する方法。
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