本発明の焼成物はアノーサイトを20〜70質量%、オージャイト、ダイオプサイド、ヘデンバージャイトを合算して10〜50質量%含む。なおアノーサイト(灰長石)はCaAl2Si2O8で表される三斜晶系の、オージャイト(普通輝石)は(Ca,Mg,Fe)2Si2O6で表される単斜晶系の、ダイオプサイド(透輝石)はCaMgSi2O6で表される単斜晶系の、ヘデンバージャイト(灰鉄輝石)はCaFeSi2O6で表される単斜晶系の鉱物である。
本発明において、焼成物中のアノーサイトの含有率は好ましくは25〜60質量%である。またオージャイト、ダイオプサイド及びヘデンバージャイトは合算して10〜25質量%であることが好ましい。
さらにアノーサイトの含有率が、オージャイト、ダイオプサイド及びヘデンバージャイトを合算した含有率よりも多いことが好ましい。アノーサイトと、オージャイト、ダイオプサイド及びヘデンバージャイトを合算した含有率は50〜100質量%であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。
本発明の焼成物においては、非晶質相(ガラス相)含有量が20質量%以下でなくてはならない。非晶質相が多いと該非晶質相が水と反応して体積膨張を起こしたり、あるいは化学抵抗性を低下させたりするなどの問題を生じる。好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
上記本発明の焼成物は、その成分として、950℃での強熱後の残分が、CaOを10〜25質量%、Al2O3を10〜30質量%、SiO2を40〜65質量%、MgOを2〜7質量%の範囲に調製した原料を用い、これを焼成することにより好適に製造できる。この範囲とすることにより、目的とする鉱物が十分に生じ、また非晶質相の量を少なくすることができ、セメント混合材や細骨材等として適当な物性を有するものとなる。
ここで、950℃での強熱後の残分とするのは、例えば石炭灰等の廃棄物・副産物を原料の一部として用いた場合、これら原料が水分や可燃成分(未燃カーボンなど)を含むことが多くある。よって、原料が含む該水分や未燃カーボンなどを除去し、1000〜1400℃の温度で焼成した場合の化学組成に、より正確に反映させるためのものである。例えば、石炭灰によっては、上記水分や未燃カーボンがほとんど含まれていないものから、30質量%近く含むものまである。また原料の一部として石灰石を用いた場合には、焼成により脱離する二酸化炭素の質量を考慮する必要がある。そのため、これらを除いた化学組成でなくては、十分に目的とする鉱物を生じさせる組成か否かを決定することはできない。
上記組成を有する原料としては、廃棄物の有効利用という観点から石炭灰を主原料とすることが好ましい。但し、一般的な石炭灰は前記範囲と比較するとCaOおよびMgO含有率が低いため、副原料として当該石炭灰よりもCaOおよびを用いることが望ましい。
CaO含有率の高い原料としては代表的には、石灰石、貝殻、生石灰、消石灰が挙げられ、またMgO含有率の高い原料としては、高炉徐冷スラグ、高炉水砕スラグ、廃煉瓦等が挙げられる。
また本発明においては、上記以外の副原料として、フライアッシュ、シリカフューム、建設発生土、下水汚泥、都市ゴミ焼却灰、下水汚泥焼却灰、等を使用することができる。さらにはポルトランドセメントクリンカー原料として公知の他の原料を用いることもできる。
なお、原料の強熱残分の化学組成が上記範囲に入っているか否かについては、当該原料をJIS R5202「ポルトランドセメントの化学分析法」やJIS R5204「セメントの蛍光X線分析法」などに準拠した方法により測定、確認すれば良い。また、950℃での強熱はJIS R5202中の「5.強熱減量の定量方法」に準じて行う。
本発明において、上記焼成物の原料の焼成温度は1000℃以上とすることが好ましい。焼成温度が1000℃未満の場合には上記鉱物の生成が不十分となる場合がある。より好ましい焼成温度は1100℃以上である。また、焼成温度が1400℃を上回る場合には、原料が溶融、ガラス化する傾向があるため、上記鉱物の生成が困難となる場合がある。従って、焼成時の最高温度は1400℃以下が好ましく、1350℃以下がより好ましい。
焼成時間は、焼成温度にもよるが、一般的には0.5〜10時間、好ましくは1〜5時間である。
焼成に際しては各原料を粉末にしておくことが望ましい。粉末度としては、セメントクリンカー焼成原料と同程度でよく、一般には90ミクロン篩残が20〜30%程度である。
焼成方法は特に限定されず、上記温度と時間を得られる装置であれば特に限定されないが、既存のポルトランドセメント製造設備を使用できるという観点からNSPキルンや、SPキルンに代表されるセメントキルン等の高温加熱が可能な装置が好適に使用できる。また、大量生産あるいは大量処理の観点からも当該セメント製造設備を用いることが好ましい。
本発明で得られる焼成物には上記鉱物以外の鉱物が存在していても良く、具体的にはゲーレナイト、ムライト、ウォラストナイト、クオーツ、ビーライト等が挙げられる。
本発明の焼成物は、ポルトランドセメントクリンカーおよび石膏と共に粉砕、または個別に粉砕した後、混合することにより水硬性組成物とすることができる。該焼成物の混合割合は、一般的にはポルトランドセメントクリンカー100質量部に対して1〜50質量部、好ましくは1〜30質量部である。使用する石膏については、二水石膏、半水石膏、無水石膏等のセメント製造として公知の石膏が特に制限なく使用できる。石膏の添加量は、水硬性組成物中のSO3量が1.5〜5.0質量%となるように添加することが好ましく、1.8〜3.0質量%となるような添加量がより好ましい。本発明による焼成物、ポルトランドセメントクリンカーおよび石膏の粉砕方法については、公知の技術が特に制限なく使用できる。ポルトランドセメントクリンカーは、その製造方法、組成に特に制限なく公知のものが使用できる。
また、当該水硬性組成物には、さらに高炉スラグ、シリカ質混合材、フライアッシュ、炭酸カルシウム、石灰石等の混合材や粉砕助剤を適宜、添加混合、混合粉砕してもよい。また、塩素バイパスダスト等を混合してもよい。
当該水硬性組成物の粉末度は、特に制限されないが、2800〜4500cm2/gに調整されることが望ましい。
さらに必要に応じ、粉砕後に高炉スラグ、フライアッシュ等を混合し、高炉スラグセメント、フライアッシュセメント等にすることも可能である。
本発明による焼成物は、JIS規格外のセメント製造原料や、セメント系固化材等の原料としてもよい。
さらに本発明で得られた焼成物は、ふるい法で粒径2.5mm以下になるまで粉砕することにより、モルタルやコンクリートを製造する際の細骨材とすることも可能である。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
用いた石炭灰は3種類で、いずれも日本国内の火力発電所から排出されたものである。これらの石炭灰と高炉徐冷スラグを混合し、表1に示す化学組成の原料1〜3を得た。また、表1に示す石炭灰1〜3は、原料1〜3の調合に用いた石炭灰である。化学組成は蛍光X線分析により求めた。
実施例として、原料1〜3をそれぞれ1150℃で1時間焼成し、焼成物を得た。得られた焼成物を粉末X線回折における内部標準法を用いたリートベルト解析により、含有されるアノーサイト等の鉱物の定量および非晶質相の定量を実施した。また、参考例として石炭灰1〜3を同条件において単独で焼成し、分析した。その結果を表2に示す。
上記組成を有する原料としては、廃棄物の有効利用という観点から石炭灰を主原料とすることが好ましい。但し、一般的な石炭灰は前記範囲と比較するとCaOおよびMgO含有率が低いため、副原料として当該石炭灰よりもCaOおよびMgO含有率の高い原料を用いることが望ましい。