以下、本発明を図示する実施形態に基づいて説明する。
<<< §1. 第1の実施形態(2軸発電型) >>>
図1は、本発明の第1の実施形態に係る発電素子を構成する基本構造体の平面図(上段の図(a) )および側面図(下段の図(b) )である。図1(a) に示すとおり、この基本構造体は、固定部10、板状橋梁部20、重錘体30によって構成されている。図1(b) の側面図には、この固定部10の下面が、装置筐体の底板40の上面に固定されている状態が示されている。なお、ここでは便宜上、装置筐体については詳細な図示は省略し、図1(b) において、底板40の一部分をハッチングを施して示すにとどめるが、実際には、この基本構造体の全体を収容するような装置筐体が設けられる。
板状橋梁部20は、図の左端が固定部10によって固定されており、右端には重錘体30が接続されている。この板状橋梁部20は片持ち梁として機能し、重錘体30を装置筐体の底板40の上方に宙吊り状態に保持する役割を果たす。以下、板状橋梁部20の固定部10側の端(図の左端)を根端部と呼び、重錘体30側の端(図の右端)を先端部と呼ぶことにする。
この板状橋梁部20は、可撓性を有しているため、外力の作用により撓みが生じる。このため、外部から装置筐体に振動が加えられると、この振動エネルギーによって重錘体30に力が加わり、この力は板状橋梁部20の先端部に作用する。板状橋梁部20の根端部は固定されているため、板状橋梁部20には撓みが生じ、重錘体30が装置筐体内で振動することになる。
ここでは、振動方向を説明する便宜上、装置筐体が静止した状態において、重錘体30の重心位置に原点Oをとり、図示のとおり、XYZ三次元座標系を定義する。すなわち、図1(a) の平面図においては、図の下方にX軸、図の右方にY軸、紙面垂直上方にZ軸を定義する。図1(b) の側面図においては、図の上方にZ軸、図の右方にY軸、紙面垂直上方にX軸がそれぞれ定義されることになる。本願における以降の各図においても、同様の方向に各座標軸を定義することにする。
また、説明の便宜上、上述した三次元座標系のXY平面が水平面となり、Z軸が鉛直軸となるような向きに、装置筐体が振動源(たとえば、車両)に取り付けられているものとしよう。したがって、本願において、基本構造体に関して、一般に「上」と言った場合はZ軸正方向を意味し、一般に「下」と言った場合はZ軸負方向を意味する(もちろん、「図の上方」や「図の下方」と言った場合は、当該図における上方や下方を意味する)。
図2(a) は、図1に示す基本構造体において、固定部10の位置を基準として、重錘体30がX軸正方向の変位Δx(+)を生じたときの変形状態を示す平面図である。このような変位は、重錘体30に対してX軸正方向の加速度が作用したときに生じることになる。重錘体30は図の下方に変位するため、板状橋梁部20の図における上辺側はY軸方向に関して伸び、板状橋梁部20の図における下辺側はY軸方向に関して縮むことになる。別言すれば、図に破線で示す中心線より図における上側部分はY軸方向に関して伸び、図における下側部分はY軸方向に関して縮むことになる。
図2(a) は、X軸正方向の変位Δx(+)が生じたときの状態であるが、X軸負方向の変位Δx(−)が生じたときときは、重錘体30は図の上方に変位することになり、板状橋梁部20の各部の伸縮状態は図2(a) に示す状態を反転したものになる。したがって、装置筐体に対して、X軸方向の振動成分をもった振動エネルギーが加わると、基本構造体の形状は、図2(a) に示す状態とその反転状態とを交互に繰り返しながら変形し、重錘体30は装置筐体内でX軸方向(水平方向)に振動することになる。
一方、図2(b) は、図1に示す基本構造体において、固定部10の位置を基準として、重錘体30がZ軸正方向の変位Δz(+)を生じたときの変形状態を示す側面図である。このような変位は、重錘体30に対してZ軸正方向の加速度が作用したときに生じることになる。重錘体30は図の上方に変位するため、板状橋梁部20の図における上面側はY軸方向に関して縮み、板状橋梁部20の図における下面側はY軸方向に関して伸びることになる。別言すれば、板状橋梁部20の上層部分はY軸方向に関して縮み、下層部分はY軸方向に関して伸びることになる。
図2(b) は、Z軸正方向の変位Δz(+)が生じたときの状態であるが、Z軸負方向の変位Δz(−)が生じたときときは、重錘体30は図の下方に変位することになり、板状橋梁部20の各部の伸縮状態は図2(b) に示す状態を反転したものになる。したがって、装置筐体に対して、Z軸方向の振動成分をもった振動エネルギーが加わると、基本構造体の形状は、図2(b) に示す状態とその反転状態とを交互に繰り返しながら変形し、重錘体30は装置筐体内でZ軸方向(上下方向)に振動することになる。
なお、ここでは、Y軸方向の変位Δy(+),Δy(−)が生じたときの変形状態の図示は省略する。もちろん、重錘体30に対してY軸方向の加速度が作用すると、板状橋梁部20は全体的にY軸方向に伸びたり、あるいは縮んだりし、重錘体30はY軸方向に変位することになる。ただ、加えられる振動エネルギーの量が同じ場合、Y軸方向の変位Δy(+),Δy(−)の量は、X軸方向の変位Δx(+),Δx(−)の量やZ軸方向の変位Δz(+),Δz(−)の量に比べて小さい。すなわち、Y軸方向の振動エネルギーによって生じる板状橋梁部20の伸縮の量は、X軸もしくはZ軸方向の振動エネルギーによって生じる板状橋梁部20の伸縮の量に比べて小さい。
これは、重錘体30のX軸方向の振動やZ軸方向の振動が、図2(a) ,(b) に示すように、板状橋梁部20を所定方向に曲げる変形動作によって行われるのに対し、Y軸方向の振動は、板状橋梁部20を全体的に引き伸ばしたり圧縮したりする変形動作によって行われるため、機械的な変形効率が低いためと考えられる。
このような理由から、この第1の実施形態に係る発電素子は、重錘体30のX軸方向の振動やZ軸方向の振動に基づいて発電を行う2軸発電型の素子として設計されており、Y軸方向の振動については考慮していない。もちろん、実際には、Y軸方向の振動エネルギーが加わった場合にも発電は可能であるが、その発電効率は、X軸やZ軸方向の振動エネルギーが加わった場合に比べてかなり低いものになる。
なお、ここに示す実施例の場合、固定部10、板状橋梁部20、重錘体30からなる基本構造体は、いずれもシリコン基板から切り出した一体構造体によって構成している。この実施例の場合、板状橋梁部20はX軸方向の幅が1mm、Y軸方向の長さが4mm、Z軸方向の厚みが0.5mm程度のビーム構造を有している。また、重錘体30は、X軸方向の幅が5mm、Y軸方向の幅が3mm、Z軸方向の厚みが0.5mm、固定部10は、X軸方向の幅が5mm、Y軸方向の幅が2mm、Z軸方向の厚みが1mmである。
もちろん、各部の寸法は任意に設定することができる。要するに、板状橋梁部20は、図2に示すような変形が可能な可撓性を有するのに適した寸法に設定すればよく、重錘体30は、外部からの振動エネルギーによって板状橋梁部20に図2に示すような変形を生じさせるのに十分な質量を有する寸法に設定すればよく、固定部10は、この基本構造体全体を装置筐体の底板40に堅固に固着できる寸法に設定すればよい。
なお、図2(b) に示すように、固定部10の厚みは、板状橋梁部20および重錘体30の厚みよりも大きく設定し、重錘体30が装置筐体内で宙吊り状態となり、上下方向に振動できる空間が確保されるようにする。前述したように、この基本構造体は、装置筐体内に収容されることになるが、装置筐体の内壁面(たとえば、図2(b) に示す底板40の上面)と重錘体30との間の空隙寸法を所定値に設定し、装置筐体の内壁面が重錘体30の過度の変位を制限する制御部材として機能するようにするのが好ましい。そうすれば、重錘体30に過度の加速度(板状橋梁部20が破損するような加速度)が加わった場合でも、重錘体30の過度の変位を制限することができ、板状橋梁部20が破損する事態を避けることができる。但し、空隙寸法が狭すぎると、エアーダンピングの影響を受け、発電効率が低下するので注意を要する。
以上、図1および図2を参照しながら、第1の実施形態に係る発電素子の構成要素となる基本構造体の構造および変形動作を説明したが、発電素子は、この基本構造体に、更に、いくつかの要素を付加することにより構成される。
図3(a) は、この第1の実施形態に係る発電素子の平面図、図3(b) は、これをYZ平面で切断した側断面図である。図3(b) の側断面図に示すとおり、図1(b) に示す基本構造体(固定部10,板状橋梁部20,重錘体30)の上面には、全面にわたって層状の下層電極E0が形成され、更にその上面には、全面にわたって層状の圧電素子50が形成されている。そして、この圧電素子50の上面には、局在的に形成された複数の上層電極からなる上層電極群が形成されている。
ここに示す実施例の場合、上層電極群は、図3(a) に示すとおり、6枚の上層電極E11〜E23(図におけるハッチングは、電極形成領域を明瞭に示すために付したものであり、断面を示すものではない)によって構成されている。図3(b) の側断面図では、このうち、YZ切断面に位置する上層電極E12,E22のみが現れている。なお、図3(a) は、この発電素子を上方から見た平面図であるため、基本構造体の全面を覆う圧電素子50が見えていることになるが、便宜上、この図3(a) には、固定部10,板状橋梁部20,重錘体30の位置を括弧書きの符号で示してある。
ここでは、図3(a) に示されている6枚の上層電極E11〜E23のうち、重錘体30側に形成された3枚の電極E11,E12,E13を重錘体側電極群と呼び、固定部10側に形成された3枚の電極E21,E22,E23を固定部側電極群と呼ぶことにする。更に、重錘体側電極群については、中央に配置された電極E12を中央電極、その両脇に配置された電極E11,E13をそれぞれ右脇電極,左脇電極と呼ぶことにする。同様に、固定部側電極群についても、中央に配置された電極E22を中央電極、その両脇に配置された電極E21,E23をそれぞれ右脇電極,左脇電極と呼ぶことにする。
なお、本願における「右脇」,「左脇」なる文言は、中央電極の両脇に配置された一対の電極を相互に区別するために用いているものであり、便宜上、板状橋梁部の上面をその根端部側から見た場合の左右を意味している。もちろん、板状橋梁部の上面をその先端部側から見ると左右は逆転することになるが、本願では、常に板状橋梁部の上面を根端部側から見た場合の左右を基準として、「右脇」,「左脇」なる文言を用いることにする。
ここに示す実施例の場合、基本構造体(固定部10,板状橋梁部20,重錘体30)は、シリコン基板によって構成されている。また、下層電極E0や上層電極E11〜E23としては、金属などの一般的な導電材料を用いて形成すればよい。ここに示す実施例の場合、厚み300nm程度の薄膜状の金属層(チタン膜と白金膜との二層からなる金属層)により下層電極E0および上層電極E11〜E23を形成している。一方、圧電素子50としては、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)やKNN(ニオブ酸カリウムナトリウム)などを薄膜状にしたものを用いればよい。ここに示す実施例の場合、厚み2μm程度の薄膜状の圧電素子を形成している。
図3(b) に示すとおり、この発電素子には、更に、発電回路60が備わっている。図3(b) では、この発電回路60を単なるブロックで示すが、具体的な回路図は後述する。図示のとおり、この発電回路60と、下層電極E0および6枚の上層電極E11〜E23との間には配線が施されており、各上層電極E11〜E23で発生した電荷は、この配線を介して発電回路60によって取り出される。実際には、各配線は、各上層電極E11〜E23とともに、圧電素子50の上面に形成された導電性パターンによって形成することができる。また、基本構造体をシリコン基板によって構成した場合、発電回路60は、このシリコン基板上(たとえば、固定部10の部分)に形成することが可能である。
なお、図3では、装置筐体の図示は省略されているが(図3(b) に示す底板40が装置筐体の一部を構成することになる)、実際には、図3(b) に示されている構造体全体は、図示されていない装置筐体内に収容されている。
結局、この第1の実施形態に係る発電素子は、振動エネルギーを電気エネルギーに変換することにより発電を行う機能をもった発電素子であり、所定の長手方向軸(図示の例の場合はY軸)に沿って伸び、可撓性を有する板状橋梁部20と、この板状橋梁部20の一端(先端部)に接続された重錘体30と、板状橋梁部20および重錘体30を収容する装置筐体と、板状橋梁部20の他端(根端部)を装置筐体(図示の例の場合は底板40の上面)に固定する固定部10と、板状橋梁部20の表面に層状に形成された下層電極E0と、この下層電極E0の表面に層状に形成された圧電素子50と、この圧電素子50の表面に局在的に形成された複数の上層電極E11〜E23からなる上層電極群と、上層電極E11〜E23および下層電極E0に発生した電荷に基づいて生じる電流を整流して電力を取り出す発電回路60と、を備えていることになる。
前述したとおり、このような構造をもった発電素子では、装置筐体を振動させる外力が作用すると、板状橋梁部20の撓みにより重錘体30が装置筐体内で振動する。そして、この板状橋梁部20の撓みは、圧電素子50に伝達され、圧電素子50にも同様の撓みが生じることになる。ここで、圧電素子50は、層方向に伸縮する応力の作用により、厚み方向に分極を生じる性質を有しているため、その上面および下面に電荷が発生することになる。発生した電荷は上層電極E11〜E23および下層電極E0から取り出される。
ここに示す実施例の場合、層方向に伸ばす応力が作用すると、上面側に正電荷、下面側に負電荷が生じ、逆に、層方向に縮める応力が作用すると、上面側に負電荷、下面側に正電荷が生じる圧電素子50を用いている。もちろん、圧電素子によっては、これと全く逆の分極特性を有するものもあり、本発明に係る発電素子には、いずれの分極特性を有する圧電素子を用いてもかまわない。
続いて、この発電素子の具体的な発電動作をみてみよう。図3(a) に示す実施例の場合、上層電極群は、板状橋梁部20の重錘体30との接続部分近傍に配置された重錘体側電極群E11〜E13と、板状橋梁部20の固定部10との接続部分近傍に配置された固定部側電極群E21〜E23とに分けられる。そして、重錘体側電極群は、中央電極E12、右脇電極E11、左脇電極E13という3種類の電極によって構成され、固定部側電極群も、中央電極E22、右脇電極E21、左脇電極E23という3種類の電極によって構成されている。
この6枚の上層電極E11〜E23は、いずれも板状橋梁部20の長手方向軸(Y軸)に沿って伸びるように配置され、圧電素子50を挟んで下層電極E0の所定領域に対向している。別言すれば、下層電極E0および圧電素子50は共通であるが、6枚の上層電極E11〜E23は、それぞれ局在的に個別に配置されているため、6個の個別の発電体がそれぞれ特定の位置に配置されていることになる。
ここで、中央電極E12,E22は、板状橋梁部20の上面側の、長手方向軸(Y軸)に沿った中心線の位置(Y軸を圧電素子50の上面まで平行移動した線の位置)に配置されており、重錘体30がZ軸方向に振動しているときに効率的に電荷を取り出すことを意図して設けられた電極である。
また、右脇電極E11は、中央電極E12の一方の脇(根端部側から見たときに右脇)に配置されており、左脇電極E13は、中央電極E12の他方の脇(根端部側から見たときに左脇)に配置されている。同様に、右脇電極E21は、中央電極E22の一方の脇(根端部側から見たときに右脇)に配置されており、左脇電極E23は、中央電極E22の他方の脇(根端部側から見たときに左脇)に配置されている。これらの各脇電極は、重錘体30がX軸方向に振動しているときに効率的に電荷を取り出すことを意図して設けられた電極である。
図4は、図3に示す発電素子において、下層電極E0を共通電極として、重錘体30に各座標軸方向の変位が生じたときに、各上層電極E11〜E23および下層電極E0に生じる電荷の極性を示す表である。表における符号「+」は正電荷の発生を示し、符号「−」は負電荷の発生を示している。また、符号「0」は、電荷の発生が全くないか、もしくは、符号「+」や符号「−」で示す場合に比べて少量の電荷しか発生しない状態を示している。実用上、符号「0」に相当する欄における発生電荷は有意な量ではないため、以下の説明では無視することにする。
重錘体30に各座標軸方向の変位が生じると、板状橋梁部20に図2(a) ,(b) に示すような撓みが生じる。一方、圧電素子50は、上述したとおり、層方向に伸ばす応力が作用すると、上面側に正電荷、下面側に負電荷が生じ、層方向に縮める応力が作用すると、上面側に負電荷、下面側に正電荷が生じる分極特性を有している。これらの点を踏まえれば、図4に示す表が得られることは容易に理解できよう。
たとえば、X軸正方向の変位Δx(+)が生じたときは、図2(a) に示すような変形が生じるため、右脇電極E11,E21の直下の圧電素子は長手方向に縮み、右脇電極E11,E21には負電荷が発生する。一方、左脇電極E13,E23の直下の圧電素子は長手方向に伸び、左脇電極E13,E23には正電荷が発生する。このとき、中心線上に配置されている中央電極E12,E22の直下の圧電素子は、その半身が伸び半身が縮むため、発生電荷は相殺され、中央電極E12,E22に電荷は発生しない。これに対して、下層電極E0には、各上層電極E11,E13,E21,E23に発生した電荷と逆極性の電荷が発生することになるが、これら各上層電極の発生電荷の総和は0になるため、下層電極E0の発生電荷も0になる。
また、Z軸正方向の変位Δz(+)が生じたときは、図2(b) に示すような変形が生じるため、6枚の上層電極E11〜E23の直下のすべての圧電素子は長手方向に縮み、すべての上層電極に負電荷が発生する。これに対して、下層電極E0には、各上層電極E11〜E23に発生した電荷(負電荷)の総和に等しい逆極性の電荷(正電荷)が発生することになる。図4の表において、変位Δz(+)の行の下層電極E0の欄に記されている「++++++」なる符号は、このような状態を示すものである。
一方、Y軸正方向の変位Δy(+)が生じたときは、6枚の上層電極E11〜E23の直下のすべての圧電素子は長手方向に伸びるため、すべての上層電極に正電荷が生じる。ただ、前述したとおり、重錘体30に対してY軸方向の加速度が作用したときのY軸方向の変位Δy(+)の量は、X軸方向の加速度が作用したときのX軸方向の変位Δx(+)の量やZ軸方向の加速度が作用したときのZ軸方向の変位Δz(+)の量に比べると小さいため、正電荷の発生量も僅かなものになる。そこで、図4の表では、Δy(+)の欄すべてに符号「0」を記し、有意な発電が行われないことを示してある。
なお、図4の表は、重錘体30に対して、各座標軸の正方向への変位Δx(+),Δy(+),Δz(+)が生じたときの各上層電極の発生電荷を示すものであるが、各座標軸の負方向への変位Δx(−),Δy(−),Δz(−)が生じたときは、図4の表の符号を逆転させた結果が得られる。通常、外部から振動エネルギーが与えられると、重錘体30は装置筐体内で振動することになるので、当該振動の周期に同期して、図4に示す表の符号は反転し、また、電荷の発生量も周期的に増減することになる。
実際には、外部から与えられる振動エネルギーは、XYZ三次元座標系における各座標軸方向成分を有するものになるので、重錘体30の変位は、Δx(±),Δy(±),Δz(±)を合成したものになり、しかも時々刻々と変化してゆくことになる。このため、たとえば、変位Δx(+)とΔz(+)とが同時に生じると、図4の表に示すとおり、上層電極E13やE23には、正電荷と負電荷との双方が発生することになり、上層電極E13やE23に発生した一部の電荷は相殺されてしまい、有効に取り出すことはできない。
このように、重錘体30の振動形態によっては、必ずしも100%効率的な発電が行われるわけではないが、全体としてみれば、重錘体30のX軸方向の振動エネルギーとZ軸方向の振動エネルギーとの双方を取り出して発電が可能になる。このように、重錘体30の振動エネルギーのうち、2軸方向成分を利用した発電が可能になる点が、本発明の第1の実施形態に係る発電素子の特徴であり、そのような特徴により、様々な方向成分を含んだ振動エネルギーをできるだけ無駄なく電気エネルギーに変換し、高い発電効率を得る、という目的が達成されることになる。
発電回路60は、これら上層電極E11〜E23および下層電極E0に発生した電荷に基づいて生じる電流を整流して電力を取り出す役割を果たす。ここに示す実施例の場合、下層電極E0は共通電極として基準電位を確保する機能を果たすことになるので、実際は、上層電極E11〜E23から流れ出る電流と、上層電極E11〜E23に流れ込む電流とを別個に集めて蓄電を行えばよい。
図5は、図3に示す発電素子に用いられている発電回路60の具体的な構成を示す回路図である。ここで、P11〜P23は、圧電素子50の一部分を示しており、それぞれ上層電極E11〜E23の直下に位置する部分に相当する。また、回路図上に白丸で示すE0は下層電極,E11〜E23は上層電極に対応する。D11(+)〜D13(−)は、整流素子(ダイオード)であり、符号(+)が付された各整流素子は、各上層電極に発生した正電荷を取り出す役割を果たし、符号(−)が付された各整流素子は、各上層電極に発生した負電荷を取り出す役割を果たす。同様に、D0(+)およびD0(−)も、整流素子(ダイオード)であり、下層電極E0に発生した正および負電荷を取り出す役割を果たす。
一方、Cfは平滑用の容量素子(コンデンサ)であり、その正極端子(図の上方端子)には取り出された正電荷が供給され、負極端子(図の下方端子)には取り出された負電荷が供給される。上述したとおり、重錘体30の振動により発生する電荷の量は振動に応じた周期で増減するため、各整流素子を流れる電流は脈流になる。容量素子Cfは、この脈流を平滑化する役割を果たす。重錘体30の振動が安定した定常時には、容量素子Cfのインピーダンスはほとんど無視しうる。
容量素子Cfに並列接続されているZLは、本発電素子によって発電された電力の供給を受ける機器の負荷を示している。発電効率を向上させるためには、負荷ZLのインピーダンスと圧電素子50の内部インピーダンスとを整合させておくのが好ましい。したがって、電力供給を受ける機器が予め想定されている場合は、当該機器の負荷ZLのインピーダンスに整合した内部インピーダンスをもつ圧電素子を採用して本発電素子の設計を行うようにするのが好ましい。
結局、発電回路60は、容量素子Cfと、各上層電極E11〜E23に発生した正電荷を容量素子Cfの正極側へ導くために各上層電極E11〜E23から容量素子Cfの正極側へ向かう方向を順方向とする正電荷用整流素子D11(+)〜D23(+)と、各上層電極E11〜E23に発生した負電荷を容量素子Cfの負極側へ導くために容量素子Cfの負極側から各上層電極E11〜E23へ向かう方向を順方向とする負電荷用整流素子D11(−)〜D23(−)と、を有し、振動エネルギーから変換された電気エネルギーを容量素子Cfにより平滑化して負荷ZLに供給する機能を果たすことになる。
なお、図5の回路図を見ればわかるように、負荷ZLには、正電荷用整流素子D11(+)〜D13(+)で取り出された正電荷と、負電荷用整流素子D11(−)〜D13(−)で取り出された負電荷とが供給されることになる。したがって、原理的には、個々の瞬間において、各上層電極E11〜E23に発生する正電荷の総量と負電荷の総量とが等しくなるようにすれば、最も効率的な発電が可能になる。別言すれば、ある瞬間において発生する正電荷の総量と負電荷の総量とが不均衡な場合、両者の等しい分だけが負荷ZLで電力として利用される。
もちろん、実際には、圧電素子で発生した電荷は平滑用容量素子Cfに一時的に蓄積されるので、実際に行われる発電動作の挙動は、瞬時の現象ではなく、時間平均をとった現象として捉えるべきものになり、正確な解析を行うには複雑なパラメータ設定が必要になる。ただ、一般論としては、個々の瞬間において、各上層電極E11〜E23に発生する正電荷の総量と負電荷の総量とが等しくなるようにするのが、効率的な発電を行う上で好ましい。
ここに示す実施例の場合、図3に示す上層電極において、右脇電極E11と左脇電極E13は、YZ平面に関して面対称をなし、同様に、右脇電極E21と左脇電極E23は、YZ平面に関して面対称をなしている。このような対称構造を採用すれば、重錘体30がX軸方向に振動した場合、これら4枚の上層電極に関しては、発生する正電荷の総量と負電荷の総量とが等しくなることを意味する。右脇電極と左脇電極という一対の電極を中央電極の両脇に配置するメリットは、このように、X軸方向の振動に関しては、正電荷の総量と負電荷の総量とを等しくする効果が得られる点にある。
最後にもうひとつ、外部から与えられる振動に基づいて効率的な発電を行うための条件を挙げておく。それは、重錘体30の共振周波数を外部から与えられる振動周波数と一致させることである。一般に、振動系には、その固有の構造に応じて一義的に定まる共振周波数が存在し、外部から与えられる振動の周波数が当該共振周波数に一致していると、振動子を最も効率的に振動させることができるようになり、その振幅も最大になる。したがって、外部から与えられる振動の周波数が予め想定されている場合(たとえば、特定の車両に搭載して用いることが予め定まっており、当該車両から加えられる周波数が既知である場合)、発電素子の構造設計の段階で、当該周波数に共振周波数が合致するような設計を行うのが好ましい。
<<< §2. 第1の実施形態の変形例 >>>
ここでは、§1で述べた第1の実施形態に係る2軸発電型の発電素子の変形例をいくつか述べておく。
<2−1 上層電極の数の変形例>
図6は、図3に示す発電素子の変形例を示す平面図である。両者の相違は上層電極の数およびその長さのみである。すなわち、図3に示す発電素子の場合、前述したとおり、合計6組の上層電極E11〜E23が形成されていたのに対して、図6に示す発電素子の場合、合計3組の上層電極E31〜E33のみが形成されている。その他の構造についての相違はないため、図6の変形例についての詳細な構造説明は省略する(もちろん、発電回路は図5に示すものの代わりに、3組の上層電極E31〜E33に対して整流素子を接続して電力を取り出すものを用いることになる)。
ここで、図3に示す発電素子の場合、上層電極群は、板状橋梁部20の重錘体30との接続部分近傍に配置された重錘体側電極群E11〜E13と、板状橋梁部20の固定部10との接続部分近傍に配置された固定部側電極群E21〜E23とによって構成されており、その長手方向(Y軸方向)に関する長さは、接続部分近傍に配置するのに必要な長さに設定されている。これに対して、図6に示す変形例における3組の上層電極E31〜E33は、図3に示す例における重錘体側電極群E11〜E13と固定部側電極群E21〜E23とをそれぞれ相手側方向に伸ばして連結し融合したものに相当する。このため、上層電極E31〜E33は、板状橋梁部20と同じ長さを有している。
図7は、図6に示す発電素子の重錘体30に各座標軸方向の変位が生じたときに、各上層電極E31〜E33に生じる電荷の極性を示す表である。図3に示す発電素子について図4の表が得られることを考えれば、図6に示す発電素子について図7の表が得られることは、容易に理解できよう。したがって、図6に示す発電素子についても、図5に示す回路に準じた発電回路を用意しておけば、各上層電極E31〜E33に発生した電荷を電力として取り出すことができる。
実際には、重錘体30が図2(a) に示すようにX軸方向に振動した場合や図2(b) に示すようにZ軸方向に振動した場合、板状橋梁部20に生じる長手方向(Y軸方向)に関する伸縮応力は、図2に「伸」や「縮」の文字が記載されている部分、すなわち、重錘体30との接続部分近傍および固定部10との接続部分近傍に集中することになる。図3に示す実施例は、これらの応力集中部にのみ上層電極E11〜E23を配置した例であり、最も効率的な電極配置を行った例ということになる。これに対して、図6に示す実施例は、応力が集中しない部分も含めた全域にわたって上層電極を配置した例であり、単位電極面積に対する発電量は必ずしも効率的なものになっていないが、電極数を低減することが可能になる。
いずれの実施例も、上層電極は、中央電極、右脇電極、左脇電極なる3種類の電極によって構成されており、§1で述べたとおり、重錘体30のZ軸方向に関する振動エネルギーとX軸方向に関する振動エネルギーに基づく発電が可能になり、しかもX軸方向に関する振動に関しては、発生する正電荷の総量と負電荷の総量とをできるだけ均衡に保つ効果が得られる。
<2−2 上層電極を側面配置する変形例>
図3に示す実施例も図5に示す実施例も、いずれも下層電極E0が板状橋梁部20の上面に形成され、圧電素子50がこの下層電極E0の上面に形成され、更に、中央電極、右脇電極および左脇電極という3種類の上層電極が、板状橋梁部20の上面に下層電極E0および圧電素子50を介して形成されているが、上層電極のうち、右脇電極および左脇電極については、その全部もしくは一部を、板状橋梁部20の側面に下層電極E0および圧電素子50を介して形成するようにしてもよい。
図8は、本発明に係る発電素子における上層電極の配置態様のバリエーションを示す正断面図である。図8(a) は、図3に示す実施例の板状橋梁部20を、図の切断線8−8に沿って切った断面を示す正断面図である。図示のとおり、板状橋梁部20の上面に下層電極E0および圧電素子50が積層され、更にその上面に、3種類の上層電極E21,E22,E23が配置されている。したがって、圧電素子50の分極現象は、図の上下方向に生じることになる。図5に示す実施例の上層電極の配置も同様である。
これに対して、図8(b) に示す実施例は、右脇電極および左脇電極を側面に配置したものである。すなわち、この実施例では、下層電極E0Bが板状橋梁部20の上面とともに側面にも形成され、圧電素子50Bがこの下層電極E0Bの表面に形成されている。すなわち、正断面図において、下層電極E0Bも圧電素子50Bも「コ」の字型の形状をなし、板状橋梁部20の上面から左右両側面にかけて一体形成されている。そして、上層電極群を構成する3種類の電極の配置は、中央電極E22Bが、板状橋梁部20の上面に下層電極E0Bおよび圧電素子50Bを介して形成されている点に変わりはないが、右脇電極E21Bおよび左脇電極E23Bは、板状橋梁部20の側面に下層電極E0Bおよび圧電素子50Bを介して形成されている。図8(b) には、固定部側電極群E21B〜E23Bのみが示されているが、重錘体側電極群E11B〜E13Bの配置も同様である。
この場合、圧電素子50Bの各部分は、その厚み方向に分極現象を生じることになるので、板状橋梁部20の上面に形成された部分については図の上下方向に分極現象が生じ、板状橋梁部20の側面に形成された部分については図の左右方向に分極現象が生じる。したがって、板状橋梁部20の各部に生じた応力により、6枚の上層電極E11B〜E13B,E21B〜E23Bのいずれにも所定極性の電荷が発生することになる。図2(a) に示す板状橋梁部20の各部の伸縮状態は、その側面においても変わりはないので、結局、図5に示す発電回路60と同様の回路を用意しておけば、発生した電荷に基づく電力の取り出しが可能である。
図8(a) に示す実施例に比べて、図8(b) に示す実施例は、各上層電極の面積が広くなるため、上層電極群に発生する電荷の量も多くなる。したがって、前者に比べて後者の方が、発電効率は高まるが、後者の場合、板状橋梁部20の上面だけでなく側面にも下層電極、圧電素子、上層電極を形成する必要があるため、製造コストは高騰することになる。
一方、図8(c) に示す実施例は、右脇電極および左脇電極を、上面から側面にかけて連続するように配置したものである。この実施例でも、図8(b) に示す実施例と同様に、下層電極E0Cが板状橋梁部20の上面とともに側面にも形成され、圧電素子50Cがこの下層電極E0Cの表面に形成されている。したがって、正断面図において、下層電極E0Cおよび圧電素子50Cは「コ」の字型の形状をなし、板状橋梁部20の上面から左右両側面にかけて一体形成されている。
ここで、上層電極群を構成する3種類の電極の配置は、中央電極E22Cが、板状橋梁部20の上面に下層電極E0Cおよび圧電素子50Cを介して形成されている点に変わりはないが、右脇電極E21Cおよび左脇電極E23Cは、板状橋梁部20の上面から側面にかけて下層電極E0Cおよび圧電素子50Cを介して形成されている。図8(c) には、固定部側電極群E21C〜E23Cのみが示されているが、重錘体側電極群E11C〜E13Cの配置も同様である。
上述したとおり、圧電素子50Bの各部分は、その厚み方向に分極現象を生じることになるので、図8(c) に示す実施例の場合も、板状橋梁部20の各部に生じた応力により、6枚の上層電極E11C〜E13C,E21C〜E23Cのいずれにも所定極性の電荷が発生することになり、図5に示す発電回路60と同様の回路を用意しておけば、発生した電荷に基づく電力の取り出しが可能である。
図8(b) に示す実施例に比べて、図8(c) に示す実施例では、右脇電極および左脇電極の面積を更に広く確保することができるため、上層電極群に発生する電荷の量もそれだけ多くなり、発電効率を更に高めることができる。ただ、右脇電極および左脇電極を、上面から側面にかけて形成する必要があるため、製造コストは更に高騰することになる。
もちろん、図8(a) 〜図8(c) に示す実施例における上層電極の配置形態を部分ごとに組み合わせることも可能である。図8(d) は、右半分については図8(b) に示す配置形態を採用し、左半分については図8(c) に示す配置形態を採用したものである。また、この実施例では、圧電素子を一体構造とせずに2つの部分51D,52Dに分けて形成している。
具体的には、この図8(d) に示す実施例では、下層電極E0Dが板状橋梁部20の上面とともに側面にも形成され、その表面に、圧電素子51D,52Dが形成されている。圧電素子51Dは、下層電極E0Dの右側面を覆う位置に形成され、圧電素子52Dは、下層電極E0Dの上面および左側面を覆う位置に形成されている。そして、上層電極群を構成する3種類の電極の配置は、中央電極E22Dが、板状橋梁部20の上面に下層電極E0Dおよび圧電素子52Dを介して形成されおり、右脇電極E21Dは、板状橋梁部20の右側面に下層電極E0Dおよび圧電素子51Dを介して形成されており、左脇電極E23Dは、板状橋梁部20の上面から側面にかけて下層電極E0Dおよび圧電素子52Dを介して形成されている。
このように、右脇電極および左脇電極は、必ずしも左右対称となるようにする必要はないが、X軸方向に関する振動に関して発生する正電荷の総量と負電荷の総量とをできるだけ均衡に保つためには、図8(a) 〜(c) に示す実施例のように、左右対称となるようにするのが好ましい。
また、圧電素子は、必ずしも一体構造にする必要はなく、図8(d) に示すように、各上層電極に応じた位置にそれぞれ別個独立したものを配置するようにしてもかまわないが、実用上は、一体構造とした方が製造プロセスは容易になる。同様に、下層電極も、各上層電極に応じた位置にそれぞれ別個独立したものを配置するようにしてもかまわないが、実用上は、一体構造とした方が製造プロセスは容易になる。
以上、図3に示す実施例(正断面図が図8(a) に相当)についてのバリエーションとして、図8(b) 〜(d) の実施例を述べたが、もちろん、図5に示す実施例についても同様のバリエーションが可能である。また、後述する第2の実施形態についても、上層電極の配置態様に関して、同様のバリエーションが可能である。
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続いて、本発明の第2の実施形態を説明する。§1で述べた第1の実施形態は、重錘体30に作用したX軸方向の振動エネルギーとZ軸方向の振動エネルギーとを電気エネルギーに変換することにより発電を行う2軸発電型の発電素子であるが、ここで述べる第2の実施形態は、更に、Y軸方向の振動エネルギーを電気エネルギーに変換する機能をもった3軸発電型の発電素子である。
もちろん、第1の実施形態の場合も、Y軸方向の振動エネルギーを電気エネルギーに変換することは可能であるが、前述したとおり、その変換効率は非常に低く、X軸もしくはZ軸方向の振動エネルギーの変換効率に比べると無視しうる程度のものである。ここで述べる第2の実施形態は、基本的に、第1の実施形態における板状橋梁部を2組用意し、これらを互いに直交する方向に組み合わせることにより、重錘体がX軸,Y軸,Z軸のいずれの方向に振動した場合でも、その振動エネルギーを効率的に電気エネルギーに変換できるようにしたものである。
図9は、本発明の第2の実施形態に係る発電素子を構成する基本構造体100の平面図(上段の図(a) )および側断面図(下段の図(b) )である。図9(a) に示すとおり、この基本構造体100は、固定部用板状部材110、第1の板状橋梁部120、中間接続部125、第2の板状橋梁部130、重錘接続部140、重錘体150という各部分を有している渦巻型の構造体である。
ここでは、振動方向を説明する便宜上、重錘体150が静止している状態において、この重錘体150の重心位置に原点Oをとり、図示のとおり、XYZ三次元座標系を定義する。すなわち、図9(a) の平面図においては、図の下方にX軸、図の右方にY軸、紙面垂直上方にZ軸を定義する。図9(b) の側断面図においては、図の上方にZ軸、図の右方にY軸、紙面垂直上方にX軸がそれぞれ定義されることになる。図9(b) の側断面図は、図9(a) の平面図に示されている基本構造体100を、YZ平面で切断した図に相当する。なお、図9(a) では図示が省略されているが、実際には、この基本構造体100は、装置筐体内に収容される。図9(b) には、この装置筐体の一部をなす底板200が描かれており、固定部用板状部材110の下面が底板200の上面に固着されている状態が示されている。
固定部用板状部材110は、第1の実施形態における固定部10と同等の機能を果たし、第1の板状橋梁部120の根端部(図の左端)を装置筐体の底板200に固定する構成要素である。一方、第1の板状橋梁部120の先端部(図の右端)には、中間接続部125を介して、第2の板状橋梁部130の根端部が接続され、第2の板状橋梁部130の先端部には、重錘接続部140を介して重錘体150が接続されている。重錘体150は、図9(a) に示すとおり、振動子として機能する十分な質量をもった矩形状の構造体であり、渦巻き状に配置された構成要素110,120,125,130,140によって支持された状態になっている。
図9(b) には、第1の板状橋梁部120および中間接続部125は現れていないが、第1の板状橋梁部120、中間接続部125、第2の板状橋梁部130、重錘接続部140、重錘体150は、いずれも同じ厚み(Z軸方向の寸法)を有している。これに対して、固定部用板状部材110は、下方に余分な厚み部分を有している。このため、図9(b) に示すように、固定部用板状部材110の下面を底板200の上面に固定した状態において、第1の板状橋梁部120、中間接続部125、第2の板状橋梁部130、重錘接続部140、重錘体150は、いずれも底板200の上面から浮き上がった状態となり、重錘体150は宙吊り状態に保持される。
ここで、少なくとも第1の板状橋梁部120および第2の板状橋梁部130は、可撓性を有しているため、外力の作用により撓みが生じる。このため、外部から装置筐体に振動が加えられると、この振動エネルギーによって重錘体150に力が加わり、重錘体150が装置筐体内で振動することになる。たとえば、装置筐体を、XY平面が水平面となり、Z軸が鉛直軸となるような向きに、車両等の振動源に取り付ければ、振動源から加わる垂直方向および水平方向の振動により、重錘体150に対して、XYZ各座標軸方向の振動エネルギーが加えられることになる。
結局、図9に示す基本構造体100は、それぞれ可撓性をもった第1の板状橋梁部120と第2の板状橋梁部130とがL字状に配置されるように、第1の板状橋梁部120の先端部と第2の板状橋梁部130の根端部とが中間接続部125を介して接続され、更に、第2の板状橋梁部130の脇に重錘体150が配置されるように、第2の板状橋梁部130の先端部と重錘体150の隅部とが重錘接続部140を介して接続された構造を有している。しかも、第1の板状橋梁部120の根端部は、固定部として機能する固定部用板状部材110によって装置筐体の底板200の上面に固定されているため、第1の板状橋梁部120、第2の板状橋梁部130および重錘体150は、外力が作用しない状態において、装置筐体の底板200の上方に浮いた宙吊り状態になっている。
特に、図9に示す基本構造体100では、固定部が、X軸に平行な固定部用長手方向軸L0に沿って伸びる固定部用板状部材110によって構成され、この固定部用板状部材110の一端に第1の板状橋梁部120の根端部が固定されている。しかも、第1の板状橋梁部120は、Y軸に平行な第1の長手方向軸Lyを中心としてY軸方向に伸びるように配置され、第2の板状橋梁部130は、X軸に平行な第2の長手方向軸Lxを中心としてX軸方向に伸びるように配置されている。このため、固定部用板状部材110、第1の板状橋梁部120および第2の板状橋梁部130によって構成される構造体が、XY平面上への投影像が「コ」の字状になるようなコの字状構造体をなし、このコの字状構造体によって囲まれた内部領域に板状の重錘体150が配置された構造になっている。
このような基本構造体100は、量産化に適した構造を有している。すなわち、図9(a) の平面図を見ればわかるとおり、この基本構造体100は、平面的には、矩形の板状部材に「コ」の字状の空隙部Vをエッチングなどによって形成し、全体的に渦巻き型の構造体を作成する工程により量産可能である。
たとえば、ここに示す実施例は、一辺5mm角のシリコン基板を用意し、0.3mm程度の幅をもった溝をエッチングにより形成することにより「コ」の字状の空隙部Vを形成し、0.5mm程度の幅をもった「コ」の字状の構造体により、固定部用板状部材110、第1の板状橋梁部120、中間接続部125、第2の板状橋梁部130、重錘接続部140を形成したものである。また、各部の厚みに関しては、第1の板状橋梁部120、中間接続部125、第2の板状橋梁部130、重錘接続部140、重錘体150については、厚みを0.5mmとし、固定部用板状部材110については、厚みを1mmとした。
もちろん、各部の寸法は任意に設定することができる。要するに、第1の板状橋梁部120および第2の板状橋梁部130は、重錘体150がある程度の振幅をもって各座標軸方向に振動可能になるような可撓性を有する寸法に設定すればよく、重錘体150は、外部からの振動エネルギーによって発電に必要な振動を生じるのに十分な質量を有する寸法に設定すればよく、固定部用板状部材110は、この基本構造体100全体を装置筐体の底板200に堅固に固着できる寸法に設定すればよい。
以上、図9を参照しながら、第2の実施形態に係る発電素子の構成要素となる基本構造体100の構造を説明したが、発電素子は、この基本構造体100に、更に、いくつかの要素を付加することにより構成される。
図10(a) は、この第2の実施形態に係る発電素子の平面図(装置筐体については図示を省略した)、図10(b) は、これをYZ平面で切断した側断面図である(装置筐体も図示した)。図10(b) に示すとおり、基本構造体100の上面には、全面にわたって層状の下層電極E00が形成され、更にその上面には、全面にわたって層状の圧電素子300が形成されている。そして、この圧電素子300の上面には、局在的に形成された複数の上層電極からなる上層電極群が形成されている(図10(b) は、YZ平面での断面図であるので、切断面の奥に配置されている3枚の上層電極Ex1,Ex2,Ez1のみが図に現れている)。
下層電極や上層電極としては、第1の実施形態と同様に、金属などの一般的な導電材料を用いて形成すればよい。ここに示す実施例の場合、厚み300nm程度の薄膜状の金属層(チタン膜と白金膜との二層からなる金属層)により下層電極E00および上層電極群を形成している。また、圧電素子300としては、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)やKNN(ニオブ酸カリウムナトリウム)などを厚み2μm程度の薄膜状にしたものを用いている。
図10(b) に示されているとおり、この実施例の場合、底板200とカバー400とによって装置筐体が構成され、基本構造体100は、この装置筐体内に収容されている。上述したとおり、基本構造体100は、固定部用板状部材110によって、底板200の上面に固定されており、重錘体150は、装置筐体内で宙吊り状態になっている。カバー400は、天板410と側板420とによって構成され、重錘体150は、このカバー400の内部空間内で変位し、振動することになる。
なお、重錘体150の上面と天板410の下面との距離、重錘体150の下面と底板200の上面との距離を、適切な寸法に設定しておけば、天板410および底板200をストッパ部材として機能させることができる。すなわち、装置筐体の内壁面が重錘体150の過度の変位を制限する制御部材として機能するので、重錘体150に過度の加速度(各板状橋梁部120,130が破損するような加速度)が加わった場合でも、重錘体150の過度の変位を制限することができ、板状橋梁部120,130が破損する事態を避けることができる。但し、天板410と重錘体150との空隙寸法や、底板200と重錘体150との空隙寸法が狭すぎると、エアーダンピングの影響を受け、発電効率が低下するので注意を要する。
ここに示す実施例の場合、上層電極群は、図10(a) に示すとおり、12枚の上層電極Ex1〜Ex4,Ey1〜Ey4,Ez1〜Ez4(図におけるハッチングは、電極形成領域を明瞭に示すために付したものであり、断面を示すものではない)によって構成されている。なお、図10(a) は、この発電素子を上方から見た平面図であるため、基本構造体の全面を覆う圧電素子300が見えていることになるが、便宜上、この図10(a) には、固定部用板状部材110,第1の板状橋梁部120,第2の板状橋梁部130,重錘接続部140,重錘体150の位置を括弧書きの符号で示してある。
第1の板状橋梁部120の上方に配置されている6枚の上層電極の役割は、基本的には、図3に示す板状橋梁部20の上方に配置されている6枚の上層電極の役割と同じである。同様に、第2の板状橋梁部130の上方に配置されている6枚の上層電極の役割も、基本的には、図3に示す板状橋梁部20の上方に配置されている6枚の上層電極の役割と同じである。
ここで、符号xを含んだ4枚の上層電極Ex1〜Ex4(第2の板状橋梁部130上に第2の長手方向軸Lxに沿って伸びるように配置された左右の脇電極)と、符号yを含んだ4枚の上層電極Ey1〜Ey4(第1の板状橋梁部120上に第1の長手方向軸Lyに沿って伸びるように配置された左右の脇電極)は、主として、重錘体150の水平方向(X軸およびY軸方向)の振動エネルギーに基づいて発生する電荷を取り出す役割を果たすために設けられた電極であり、符号zを含んだ4枚の上層電極Ez1〜Ez4(第1の板状橋梁部120の第1の長手方向軸Ly上および第2の板状橋梁部130の第2の長手方向軸Lx上に配置された中央電極)は、主として、重錘体150の垂直方向(Z軸方向)の振動エネルギーに基づいて発生する電荷を取り出す役割を果たすために設けられた電極である。
ここでは、図10(a) に示されている12枚の上層電極のうち、第1の板状橋梁部120の先端部に形成された3枚の電極を、それぞれ第1の先端部側右脇電極Ey1,第1の先端部側中央電極Ez3,第1の先端部側左脇電極Ey2と呼び、第1の板状橋梁部120の根端部に形成された3枚の電極を、それぞれ第1の根端部側右脇電極Ey3,第1の根端部側中央電極Ez4,第1の根端部側左脇電極Ey4と呼び、第2の板状橋梁部130の先端部に形成された3枚の電極を、それぞれ第2の先端部側右脇電極Ex1,第2の先端部側中央電極Ez1,第2の先端部側左脇電極Ex2と呼び、第2の板状橋梁部130の根端部に形成された3枚の電極を、それぞれ第2の根端部側右脇電極Ex3,第2の根端部側中央電極Ez2,第2の根端部側左脇電極Ex4と呼ぶことにする。
ここでも、「右脇」,「左脇」なる文言は、各板状橋梁部120,130の上面をその根端部側から見た場合の左右を意味するものである。中央電極Ez3,Ez4は、第1の板状橋梁部120の中心線をなす第1の長手方向軸Ly(Y軸に平行な中心軸)上に配置されており、左右の脇電極Ey1〜Ey4は、その左右両脇に第1の長手方向軸Lyに関して対称をなすように配置されている。同様に、中央電極Ez1,Ez2は、第2の板状橋梁部130の中心線をなす第2の長手方向軸Lx(X軸に平行な中心軸)上に配置されており、左右の脇電極Ex1〜Ex4は、その左右両脇に第2の長手方向軸Lxに関して対称をなすように配置されている。
図10(b) に示すとおり、この発電素子には、更に、発電回路500が備わっている。図10(b) では、この発電回路500を単なるブロックで示すが、具体的な回路図は後述する。図示のとおり、この発電回路500と、下層電極E00および12枚の上層電極Ex1〜Ex4,Ey1〜Ey4,Ez1〜Ez4との間には配線が施されており、各上層電極で発生した電荷は、この配線を介して発電回路500によって取り出される。実際には、各配線は、各上層電極とともに、圧電素子300の上面に形成された導電性パターンによって形成することができる。また、基本構造体をシリコン基板によって構成した場合、発電回路500は、このシリコン基板上(たとえば、固定部用板状部材110の部分)に形成することが可能である。
結局、この第2の実施形態に係る発電素子は、XYZ三次元座標系における各座標軸方向の振動エネルギーを電気エネルギーに変換することにより発電を行う発電素子であり、Y軸に平行な第1の長手方向軸Lyに沿って伸び、可撓性を有する第1の板状橋梁部120と、この第1の板状橋梁部120に(中間接続部125を介して)接続され、X軸に平行な第2の長手方向軸Lxに沿って伸び、可撓性を有する第2の板状橋梁部130と、この第2の板状橋梁部130に(重錘接続部140を介して)接続された重錘体150と、第1の板状橋梁部120、第2の板状橋梁部130および重錘体150を収容する装置筐体400と、第1の板状橋梁部120の一端を装置筐体400に固定する固定部(固定部用板状部材110)と、第1の板状橋梁部120および第2の板状橋梁部130の表面に層状に形成された下層電極E00と、この下層電極E00の表面に層状に形成された圧電素子300と、この圧電素子300の表面に局在的に形成された複数の上層電極からなる上層電極群Ex1〜Ex4,Ey1〜Ey4,Ez1〜Ez4と、各上層電極および下層電極に発生した電荷に基づいて生じる電流を整流して電力を取り出す発電回路500と、を備えていることになる。
前述したとおり、このような構造をもった発電素子では、装置筐体400を振動させる外力が作用すると、各板状橋梁部120,130の撓みにより重錘体150が装置筐体400内で振動する。そして、この各板状橋梁部120,130の撓みは、圧電素子300に伝達され、圧電素子300にも同様の撓みが生じる。圧電素子300は、層方向に伸縮する応力の作用により、厚み方向に分極を生じる性質を有しているため、その上面および下面に電荷が発生し、発生した電荷は上層電極Ex1〜Ex4,Ey1〜Ey4,Ez1〜Ez4および下層電極E00から取り出される。
ここに示す実施例の場合、§1で述べた実施例と同様に、層方向に伸ばす応力が作用すると、上面側に正電荷、下面側に負電荷が生じ、逆に、層方向に縮める応力が作用すると、上面側に負電荷、下面側に正電荷が生じる圧電素子300を用いている。もちろん、この第2の実施形態の場合も、どのような分極特性を有する圧電素子を用いてもかまわない。
続いて、この発電素子の具体的な発電動作をみてみよう。図11は、図9に示す基本構造体100の重錘体150がX軸正方向の変位Δx(+)を生じたときの各上層電極形成位置の伸縮状態を示す平面図である。同様に、図12は、Y軸正方向の変位Δy(+)を生じたときの伸縮状態を示す平面図、図13は、Z軸正方向の変位Δz(+)を生じたときの伸縮状態を示す平面図である。このような変位は、重錘体150に対して各座標軸の正方向の加速度が作用したときに生じることになり、当該変位により、各板状橋梁部120,130は撓みを生じて、基本構造体100は変形する。ただ、図11〜図13では、図示の便宜上、基本構造体100の変位状態の描写は省略し、各上層電極形成位置の伸縮状態を矢印で示す(両端に矢が付された矢印は伸びる状態、互いに向かい合う一対の矢印は縮む状態を示している)。
重錘体150がX軸正方向の変位Δx(+)を生じた場合、図11に示すとおり、渦巻き状の基本構造体100の外側に配置された第2の先端部側右脇電極Ex1,第2の根端部側右脇電極Ex3,第1の先端部側右脇電極Ey1には、いずれも長手方向に伸びる応力が作用するが、第1の根端部側右脇電極Ey3には、長手方向に縮む応力が作用する。一方、渦巻き状の基本構造体100の内側に配置された第2の先端部側左脇電極Ex2,第2の根端部側左脇電極Ex4,第1の先端部側左脇電極Ey2には、いずれも長手方向に縮む応力が作用するが、第1の根端部側左脇電極Ey4には、長手方向に伸びる応力が作用する。
第1の根端部側右脇電極Ey3は、渦巻き状の基本構造体100の外側に位置する電極であるにもかかわらず、他の外側に位置する右脇電極Ex1,Ex3,Ey1とは伸縮状態が逆転し、第1の根端部側右脇電極Ey4は、渦巻き状の基本構造体100の内側に位置する電極であるにもかかわらず、他の内側に位置する左脇電極Ex2,Ex4,Ey2とは伸縮状態が逆転している。この第1の板状橋梁部120の根端部おいて伸縮逆転が生じる理由を説明するには、複雑な理論展開が必要になるため、ここでは説明を省略するが、本願発明者は、コンピュータを用いた構造力学上のシミュレーションを実行することにより、図示のような伸縮応力が発生することを確認している(後述する図19参照)。
なお、中心線上に配置された4枚の中央電極Ez1〜Ez4については、右半分と左半分とでわずかな逆の応力が作用することになるので、全体としては応力が均衡して伸縮は生じないものと考えることができる。
図11は、X軸正方向の変位Δx(+)が生じたときの状態であるが、X軸負方向の変位Δx(−)が生じたときときは、重錘体150は逆方向に変位することになり、各部の伸縮状態は図11に示す状態を反転したものになる。したがって、装置筐体400に対して、X軸方向の振動成分をもった振動エネルギーが加わると、基本構造体100の各部には、図11に示す伸縮状態とその反転状態とが交互に繰り返し生じることになる。
一方、重錘体150がY軸正方向の変位Δy(+)を生じた場合、図12に示すとおり、渦巻き状の基本構造体100の外側に配置された第2の根端部側右脇電極Ex3,第1の先端部側右脇電極Ey1,第1の根端部側右脇電極Ey3には、いずれも長手方向に縮む応力が作用するが、第2の先端部側右脇電極Ex1には、長手方向に伸びる応力が作用する。一方、渦巻き状の基本構造体100の内側に配置された第2の根端部側左脇電極Ex4,第1の先端部側左脇電極Ey2,第1の根端部側左脇電極Ey4には、いずれも長手方向に伸びる応力が作用するが、第2の先端部側左脇電極Ex2には、長手方向に縮む応力が作用する。
第2の先端部側右脇電極Ex1は、渦巻き状の基本構造体100の外側に位置する電極であるにもかかわらず、他の外側に位置する右脇電極Ex3,Ey1,Ey3とは伸縮状態が逆転し、第2の先端部側左脇電極Ex2は、渦巻き状の基本構造体100の内側に位置する電極であるにもかかわらず、他の内側に位置する左脇電極Ex4,Ey2,Ey4とは伸縮状態が逆転している。この第2の板状橋梁部130の先端部おいて伸縮逆転が生じる理由を説明するには、複雑な理論展開が必要になるため、ここでは説明を省略するが、本願発明者は、コンピュータを用いた構造力学上のシミュレーションを実行することにより、図示のような伸縮応力が発生することを確認している(後述する図20参照)。
この場合も、中心線上に配置された4枚の中央電極Ez1〜Ez4については、右半分と左半分とでわずかな逆の応力が作用することになるので、全体としては応力が均衡して伸縮は生じないものと考えることができる。
図12は、Y軸正方向の変位Δy(+)が生じたときの状態であるが、Y軸負方向の変位Δy(−)が生じたときときは、重錘体150は逆方向に変位することになり、各部の伸縮状態は図12に示す状態を反転したものになる。したがって、装置筐体400に対して、Y軸方向の振動成分をもった振動エネルギーが加わると、基本構造体100の各部には、図12に示す伸縮状態とその反転状態とが交互に繰り返し生じることになる。
最後に、重錘体150がZ軸正方向の変位Δz(+)を生じた場合は、図13に示すとおり、第1の板状橋梁部120の先端部側の3枚の電極Ey1,Ey2,Ez3および第2の板状橋梁部130の先端部側の3枚の電極Ex1,Ex2,Ez1には、長手方向に伸びる応力が作用するが、第1の板状橋梁部120の根端部側の3枚の電極Ey3,Ey4,Ez4および第2の板状橋梁部130の根端部側の3枚の電極Ex3,Ex4,Ez2には、長手方向に縮む応力が作用する。このような応力が作用する理由についての詳細な説明は省略するが、本願発明者は、コンピュータを用いた構造力学上のシミュレーションを実行することにより、図示のような伸縮応力が発生することを確認している(後述する図21参照)。
図13は、Z軸正方向の変位Δz(+)が生じたときの状態であるが、Z軸負方向の変位Δz(−)が生じたときときは、重錘体150は逆方向に変位することになり、各部の伸縮状態は図13に示す状態を反転したものになる。したがって、装置筐体400に対して、Z軸方向の振動成分をもった振動エネルギーが加わると、基本構造体100の各部には、図13に示す伸縮状態とその反転状態とが交互に繰り返し生じることになる。
図14は、図10に示す発電素子において、下層電極E00を基準電位にして、重錘体150に各座標軸方向の変位が生じたときに、各上層電極Ex1〜Ex4,Ey1〜Ey4,Ez1〜Ez4に生じる電荷の極性を示す表である。表における符号「+」は正電荷の発生を示し、符号「−」は負電荷の発生を示している。また、符号「0」は、電荷の発生が全くないか、もしくは、符号「+」や符号「−」で示す場合に比べて少量の電荷しか発生しない状態を示している。実用上、符号「0」に相当する欄における発生電荷は有意な量ではないため、以下の説明では無視することにする。
上述したとおり、重錘体150に各座標軸方向の変位が生じると、各板状橋梁部120,130の各部には、図11〜図13に示すような伸縮応力が加わることになる。一方、圧電素子300は、層方向に伸ばす応力が作用すると、上面側に正電荷、下面側に負電荷が生じ、層方向に縮める応力が作用すると、上面側に負電荷、下面側に正電荷が生じる分極特性を有している。これらの点を踏まえれば、図14に示す表が得られることは容易に理解できよう。
たとえば、図14の第1行目の「変位Δx(+)」の各欄の結果は、図11に示す伸縮分布において、伸びる部分の上層電極欄に「+」、縮む部分の上層電極欄に「−」、全体としては伸縮が生じない部分の上層電極欄に「0」を記したものである。同様に、第2行目の「変位Δy(+)」の各欄の結果は、図12に示す伸縮分布に応じたものになっており、第3行目の「変位Δz(+)」の各欄の結果は、図13に示す伸縮分布に応じたものになっている。
この図14の表は、重錘体150に対して、各座標軸の正方向への変位Δx(+),Δy(+),Δz(+)が生じたときの各上層電極の発生電荷を示すものであるが、各座標軸の負方向への変位Δx(−),Δy(−),Δz(−)が生じたときは、図14の表の符号を逆転させた結果が得られる。通常、外部から振動エネルギーが与えられると、重錘体150は装置筐体400内で振動することになるので、当該振動の周期に同期して、図14に示す表の符号は反転し、また、電荷の発生量も周期的に増減することになる。
実際には、外部から与えられる振動エネルギーは、XYZ三次元座標系における各座標軸方向成分を有するものになるので、重錘体150の変位は、Δx(±),Δy(±),Δz(±)を合成したものになり、しかも時々刻々と変化してゆくことになる。このため、たとえば、変位Δx(+)とΔy(+)とが同時に生じたり、変位Δx(+)とΔz(+)とが同時に生じたりすると、図14の表に示すとおり、上層電極Ex3やEy2には、正電荷と負電荷との双方が発生することになり、一部の電荷は相殺されてしまい、有効に取り出すことはできない。
このように、重錘体150の振動形態によっては、必ずしも100%効率的な発電が行われるわけではないが、全体としてみれば、重錘体150のX軸方向の振動エネルギー、Y軸方向の振動エネルギー、Z軸方向の振動エネルギーという3軸方向のエネルギーを取り出して発電が可能になる。このように、重錘体150の3軸すべての振動エネルギーを利用した発電が可能になる点が、本発明の第2の実施形態に係る発電素子の特徴であり、そのような特徴により、様々な方向成分を含んだ振動エネルギーをできるだけ無駄なく電気エネルギーに変換し、高い発電効率を得る、という目的が達成されることになる。
発電回路500は、各上層電極Ex1〜Ez4および下層電極E00に発生した電荷に基づいて生じる電流を整流して電力を取り出す役割を果たす。ここに示す実施例の場合、下層電極E00は共通電極として基準電位を確保する機能を果たすことになるので、実際は、各上層電極Ex1〜Ez4から流れ出る電流と、各上層電極Ex1〜Ez4に流れ込む電流とを別個に集めて蓄電を行えばよい。
図15は、図10に示す発電素子に用いられている発電回路500の具体的な構成を示す回路図である。基本的な回路構成は、図5に示す発電回路60と同様である。すなわち、Px1〜Px4,Py1〜Py4,Pz1〜Pz4は、圧電素子300の一部分を示しており、それぞれ上層電極Ex1〜Ex4,Ey1〜Ey4,Ez1〜Ez4の直下に位置する部分に相当する。また、回路図上に白丸で示すE00は下層電極,Ex1〜Ex4,Ey1〜Ey4,Ez1〜Ez4は上層電極に対応する。
Dx1(+)〜Dz34(−)は、整流素子(ダイオード)であり、符号(+)が付された各整流素子は、各上層電極に発生した正電荷を取り出す役割を果たし、符号(−)が付された各整流素子は、各上層電極に発生した負電荷を取り出す役割を果たす。
なお、上層電極Ex1〜Ex4,Ey1〜Ey4には、それぞれ独立した正負一対の整流素子Dx1(+),Dx1(−)等が接続されているのに対して、上層電極Ez1,Ez3には、両者に共通した正負一対の整流素子Dz13(+),Dz13(−)が接続され、上層電極Ez2,Ez4には、両者に共通した正負一対の整流素子Dz24(+),Dz24(−)が接続されている。これは、図14の表を見ればわかるとおり、上層電極Ez1,Ez3には常に同じ極性の電荷しか発生することがなく、上層電極Ez2,Ez4にも常に同じ極性の電荷しか発生することがないため、それぞれ共通した整流素子を利用できるためである。
一方、Cfは平滑用の容量素子(コンデンサ)であり、その正極端子(図の上方端子)には取り出された正電荷が供給され、負極端子(図の下方端子)には取り出された負電荷が供給される。図5に示す発電回路60と同様に、容量素子Cfは、発生電荷に基づく脈流を平滑化する役割を果たし、重錘体150の振動が安定した定常時には、容量素子Cfのインピーダンスはほとんど無視しうる。なお、図5に示す発電回路60では、下層電極E0に発生した電荷を取り出すために、整流素子D0(+)およびD0(−)を用いているが、図15に示す発電回路500では、容量素子Cfの両端子を、抵抗素子Rd1,Rd2を介して下層電極E00に接続する構成を採用している。このような構成でも、上下両層電極に発生した電荷の取り出しが可能である。
ここでも、容量素子Cfに並列接続されているZLは、本発電素子によって発電された電力の供給を受ける機器の負荷を示している。抵抗素子Rd1,Rd2の抵抗値は、この負荷ZLのインピーダンスに比べて十分に大きくなるように設定する。図5に示す発電回路60と同様に、発電効率を向上させるためには、負荷ZLのインピーダンスと圧電素子300の内部インピーダンスとを整合させておくのが好ましい。したがって、電力供給を受ける機器が予め想定されている場合は、当該機器の負荷ZLのインピーダンスに整合した内部インピーダンスをもつ圧電素子を採用して本発電素子の設計を行うようにするのが好ましい。
結局、発電回路500は、容量素子Cfと、各上層電極Ex1〜Ez4に発生した正電荷を容量素子Cfの正極側へ導くために各上層電極Ex1〜Ez4から容量素子Cfの正極側へ向かう方向を順方向とする正電荷用整流素子Dx1(+)〜Dz34(+)と、各上層電極Ex1〜Ez4に発生した負電荷を容量素子Cfの負極側へ導くために容量素子Cfの負極側から各上層電極Ex1〜Ez4へ向かう方向を順方向とする負電荷用整流素子Dx1(−)〜Dz34(−)と、を有し、振動エネルギーから変換された電気エネルギーを容量素子Cfにより平滑化して負荷ZLに供給する機能を果たすことになる。
なお、この図15に示す回路においても、負荷ZLには、正電荷用整流素子Dx1(+)〜Dz24(+)で取り出された正電荷と、負電荷用整流素子Dx1(−)〜Dz24(−)で取り出された負電荷とが供給されることになる。したがって、原理的には、個々の瞬間において、各上層電極Ex1〜Ez4に発生する正電荷の総量と負電荷の総量とが等しくなるようにすれば、最も効率的な発電が可能になる。
前述したとおり、図10に示す上層電極のうち、左右の脇電極はいずれも長手方向軸LxもしくはLyを中心軸として対称となるように配置されている。このような対称構造を採用すれば、重錘体150がX軸方向に振動した場合は、図11に示すように、同一箇所に配置された一対の左右脇電極に発生する正電荷の総量と負電荷の総量とがほぼ等しくなる。同様に、重錘体150がY軸方向に振動した場合も、図12に示すように、同一箇所に配置された一対の左右脇電極に発生する正電荷の総量と負電荷の総量とがほぼ等しくなる。このように、右脇電極と左脇電極という一対の電極を中央電極の両脇に配置するメリットは、X軸方向の振動およびY軸方向の振動に関しては、正電荷の総量と負電荷の総量とを等しくする効果が得られる点にある。
もちろん、この第2の実施形態においても、基本構造体100の固有の構造に基づいて定まる重錘体150の共振周波数が、外部から与えられる振動周波数に一致した場合に最も効率的な発電が可能になる。したがって、外部から与えられる振動の周波数が予め想定されている場合、基本構造体100の構造設計の段階で、当該周波数に共振周波数が合致するような設計を行うのが好ましい。
<<< §4. 第2の実施形態を利用した発電装置 >>>
ここでは、§3で述べた第2の実施形態に係る発電素子(図10に示す素子)を複数組用意することにより、更に効率的な発電を可能にする実施形態を述べる。なお、本願では、用語として区別する便宜上、§1で述べた第1の実施形態、§2で述べたその変形例、§3で述べた第2の実施形態に示す1組の装置を「発電素子」と呼び、この「発電素子」を複数組用い、個々の発電素子によって取り出された電力を外部に供給する機能をもった装置を「発電装置」と呼ぶことにする。
図16は、図10に示す発電素子を4組用いた発電装置の基本構造体1000の構造を示す平面図である(平面形状を明確に示すため、構造体内部の部分にハッチングを施して示す)。この基本構造体1000は、4組の基本構造体100A,100B,100C,100Dを融合させたものである。個々の基本構造体100A,100B,100C,100Dは、いずれも図9に示す基本構造体100と同等の構造をなし、それぞれ固定部用板状部材110,第1の板状橋梁部120,第2の板状橋梁部130,重錘体150の各部を有している。
図16では、基本構造体100A,100B,100C,100Dの各部についても、それぞれ符号の末尾にA〜Dを付して示してある。たとえば、基本構造体100Aは、固定部用板状部材110A,第1の板状橋梁部120A,第2の板状橋梁部130A,重錘体150Aの各部を有している。ただ、図の上下に隣接する基本構造体については、一対の固定部用板状部材110を融合した構造としている。このため、基本構造体100Aの固定部用板状部材110Aと基本構造体100Bの固定部用板状部材110Bとは、実際には融合して1つの固定部用板状部材110ABを構成しており、同様に、基本構造体100Cの固定部用板状部材110Cと基本構造体100Dの固定部用板状部材110Dとは、実際には融合して1つの固定部用板状部材110CDを構成している。
もちろん、実際の発電装置は、図16に示す基本構造体1000に、更に、下層電極、圧電素子、上層電極、発電回路を付加することによって実現される。具体的には、たとえば、この基本構造体1000の上面全面に共通の下層電極を形成し、その上面全面に共通の圧電素子を形成し、更にその上面の所定箇所に局在的に複数の個別上層電極を形成すればよい(もちろん、下層電極や圧電素子を部分ごとに独立した構成にしてもかまわない)。
ここで、発電回路については、4組の発電素子を融合した回路とし、4組の発電素子から取り出した発生電荷をまとめて出力できるようにすればよい。具体的には、図15に示す発電回路500において、整流素子は個々の発電素子の上層電極にそれぞれ接続するようにするが、容量素子Cfについては、4組の発電素子について共通するものを1つ設けるようにし、すべての発電素子から得られた電力エネルギーをここに蓄積できるようにする。また、4組の発電素子の下層電極E00は相互に接続して、同電位となるようにしておく。もちろん、抵抗素子Rd1,Rd2も、4組の発電素子で共通のものを用いればよい。
図10に示す1組の発電素子は、12枚の上層電極から集めた電荷に基づいて発電を行うことになるが、これを4組用いて構成される発電装置は、合計48枚の上層電極から集めた電荷に基づいて発電を行うことができる。
なお、複数組の発電素子を組み合わせて発電装置を構成する際には、一部の発電素子におけるX軸方向もしくはY軸方向またはその双方が、別な一部の発電素子におけるこれらの方向と異なる向きに配置されているようにするのが好ましい。そのような配置を採用すれば、個々の瞬間において、各上層電極に発生する正電荷の総量と負電荷の総量とをできるだけ等しくする効果が得られ、より効率的な発電が可能になる。
たとえば、図16に示す基本構造体1000の場合、図に個々の基本構造体100A〜100Dについての座標軸(図9に示す基本構造体100として定義されたX軸およびY軸)が描かれているが、それぞれ向きの組み合わせが異なっていることがわかる。
すなわち、基本構造体100Aは、図9に示す基本構造体100を反時計回りに90°回転させたものに対応し、この基本構造体100Aを基準にすると、基本構造体100Bは、図の上下方向に関する鏡像体になっている。また、図の左半分に示されている基本構造体100A,Bを基準にすると、図の右半分に示されている基本構造体100C,Dは、図の左右方向に関する鏡像体になっている。
結局、図16に示す基本構造体1000を用いて構成された発電装置は、4組の発電素子を有し、第1の発電素子(基本構造体100Aを用いた素子)のX軸方向およびY軸方向を基準としたときに、第2の発電素子(基本構造体100Bを用いた素子)はY軸方向が逆転する向きに配置され、第3の発電素子(基本構造体100Dを用いた素子)はX軸方向が逆転する向きに配置され、第4の発電素子(基本構造体100Cを用いた素子)はX軸方向およびY軸方向の双方が逆転する向きに配置されていることになる。結果的に、第1の発電素子および第4の発電素子のZ軸方向は、紙面垂直上方に向かう方向になるのに対して、第2の発電素子および第3の発電素子のZ軸方向は、紙面垂直下方に向かう方向になる。
このように、4組の発電素子について相補的な配置を採用して発電装置を構成しておけば、ある特定方向に加速度が作用して、各発電素子の重錘体が当該特定方向に変位した場合でも、個々の発電素子について定義された座標系の向きが異なるため、各座標系に関する変位方向は相補的なものになる。このため、ある1つの発電素子の特定の上層電極に正電荷が生成された場合、別な1つの発電素子の対応する上層電極には負電荷が生成されることになる。したがって、4組の発電素子全体として見れば、発生する正電荷の総量と負電荷の総量とを等しくする効果が得られることになる。
ところで、既に述べたとおり、外部から与えられる振動に基づいて効率的な発電を行うためには、重錘体150の共振周波数を外部から与えられる振動周波数と一致させるのが好ましい。したがって、本発明に係る発電素子を、たとえば、特定の車両に搭載して用いることが予め定まっており、当該車両から加えられる周波数fが既知である場合には、基本構造体100の構造設計を行う段階で、重錘体150の共振周波数が当該車両から加えられる周波数fに合致するような設計を行っておくのが好ましい。
しかしながら、本発明に係る発電素子を一般的な汎用品として提供する場合には、そのような専用品としての設計を行うことはできないので、最も一般的と考えられる振動周波数fを定め、共振周波数が当該周波数fに一致するような設計を行わざるを得ない。実際の利用環境においては、この共振周波数fに近い周波数をもった振動が加えられれば効率的な発電が可能であるが、外部振動の周波数が共振周波数fから離れれば離れるほど、発電効率が低下することは否めない。
そこで、幅広い振動周波数に対応した発電を可能にするためには、上述したように、複数組の発電素子を組み合わせて発電装置を構成するようにし、かつ、複数の発電素子の重錘体が、それぞれ異なる共振周波数を有するようなアプローチを採用することが可能である。
発電素子ごとに共振周波数を変える具体的な方法のひとつは、それぞれの重錘体の質量を変えることである。図17は、図16に示す発電装置の変形例に係る発電装置の基本構造体の構造を示す平面図である(平面形状を明確に示すため、構造体内部の部分にハッチングを施して示す)。この変形例では、4組の発電素子の各重錘体の質量に、その平面的な面積を変えることによりバリエーションをもたせている。
この図17に示す基本構造体2000は、4組の基本構造体100E,100F,100G,100Hを融合させたものである。個々の基本構造体100E,100F,100G,100Hは、いずれも基本的には図9に示す基本構造体100と同等の構造をなすので、ここではその各部についても、それぞれ符号110,120,130,150の末尾にE〜Hを付して示してある(図16に示す例と同様に、固定部用板状部材110EFおよび110GHは共用になっている)。
図16に示す基本構造体1000の場合、4組の基本構造体の各重錘体150A,150B,150C,150Dの大きさ(質量)は同じであるが、図17に示す基本構造体2000の場合、4組の基本構造体の各重錘体150E,150F,150G,150Hの大きさ(質量)は、150E>150F>150G>150Hの順に小さくなっている。具体的には、各重錘体150E,150F,150G,150Hは、いずれも同じ厚みをもった板状部材であるが、図17に示すとおり、XY平面への投影像の面積は互いに異なるように設定されており、それぞれの質量は異なる。
もちろん、各重錘体の厚み(Z軸方向の寸法)を変えることにより、それぞれの質量を変えるようにしてもかまわない。要するに、重錘体のXY平面への投影像の面積が互いに異なるように設定するか、Z軸方向に関する厚みが互いに異なるように設定するか、または、その双方の設定を行うことにより、複数の発電素子の重錘体の質量が異なるようにすればよい。
重錘体の共振周波数は、その質量に応じて異なる。したがって、重錘体150E,150F,150G,150Hの質量をそれぞれmE,mF,mG,mHとすれば(図17の例の場合は、mE>mF>mG>mH)、その共振周波数fE,fF,fG,fHはそれぞれ異なることになる。
発電素子ごとに重錘体の共振周波数を変える別な方法は、それぞれの板状橋梁部の構造を変えることである。具体的には、複数の発電素子の第1の板状橋梁部もしくは第2の板状橋梁部またはその双方について、XY平面への投影像の面積が互いに異なるように設定するか、Z軸方向に関する厚みが互いに異なるように設定するか、または、その双方の設定を行うようにすればよい。そのような設定を行っても、重錘体150E,150F,150G,150Hの共振周波数fE,fF,fG,fHをそれぞれ異ならせることができる。
このように、4組の発電素子の各重錘体の共振周波数をそれぞれ異ならせると、幅広い振動周波数に対応した発電が可能になる。たとえば、上例の場合、4通りの共振周波数fE,fF,fG,fHが設定されるため、外部から与えられる振動の周波数がこれらのうちのいずれかに近接していれば、当該近接周波数を共振周波数とする発電素子に関しては効率的な発電が期待できる。
もちろん、特定の車両に搭載して利用することが予め決まっており、当該車両から加えられる周波数fが既知である場合は、4組の発電素子の各重錘体の共振周波数をいずれもfに設定するのが最も好ましい。しかしながら、一般的な汎用品として提供する発電装置の場合は、どのような振動環境で利用されるかを特定することはできない。その場合は、最も一般的と考えられる振動周波数の予想範囲を設定し、当該予想範囲内に4通りの共振周波数fE,fF,fG,fHが分布するように、各発電素子の基本構造体を設計すればよい。
<<< §5. 第2の実施形態の変形例 >>>
ここでは、§3で述べた第2の実施形態に係る3軸発電型の発電素子の変形例をいくつか述べておく。
<5−1 上層電極の数の変形例>
§2−1では、図3に示す2軸発電型の発電素子における6枚の上層電極E11〜E23の代わりに、図6に示すような3枚の上層電極E31〜E33を用いる変形例を示した。このように、上層電極の数を変える変形例は、図10に示す3軸発電型の発電素子についても可能である。
具体的には、図10(a) において、第1の板状橋梁部120に形成されている6枚の上層電極のうち、第1の長手方向軸Ly上に配置されている一対の中央電極Ez3,Ez4を細長い1本の中央電極に融合し、その右脇に配置されている一対の右脇電極Ey1,Ey3を細長い1本の右脇電極に融合し、左脇に配置されている一対の左脇電極Ey2,Ey4を細長い1本の左脇電極に融合すればよい。そうすれば、第1の板状橋梁部120には、図6に示す変形例の板状橋梁部20に形成されている上層電極と同様に、Y軸に平行な方向に伸びる3本の細長い上層電極が配置されることになる。同じように、図10(a) において、第2の板状橋梁部130に形成されている6枚の上層電極についても、X軸に平行な方向に伸びる3本の細長い上層電極に置き換えることができる。
結局、このような変形例では、上層電極の数は6枚にまで減らされることになるが、基本構造体100の構成に変わりはない。すなわち、この変形例における基本構造体100においても、固定部として機能する固定部用板状部材110により、第1の板状橋梁部120の根端部が装置筐体の底板200に固定され、第1の板状橋梁部120の先端部は第2の板状橋梁部130の根端部に接続され、第2の板状橋梁部130の先端部には重錘体150が接続されることになり、装置筐体を振動させる外力が作用したときに、第1の板状橋梁部120および第2の板状橋梁部130の撓みにより重錘体150が装置筐体内で各座標軸方向に振動する点は、図10に示す発電素子と全く同じである。
しかも、圧電素子300は、層方向に伸縮する応力の作用により、厚み方向に分極を生じる性質を有しており、上層電極群の構成は、第1の板状橋梁部120の表面に下層電極E00および圧電素子300を介して形成された第1の上層電極群と、第2の板状橋梁部130の表面に下層電極E00および圧電素子300を介して形成された第2の上層電極群と、を有している点も、図10に示す発電素子と全く同じである。
ここで、第1の板状橋梁部120に形成された第1の上層電極群は、第1の中央電極(図10(a) に示す電極Ez3とEz4を融合させたもの)、第1の右脇電極(図10(a) に示す電極Ey1とEy3を融合させたもの)、第1の左脇電極(図10(a) に示す電極Ey2とEy4を融合させたもの)、という3種類の上層電極を有し、これら上層電極のそれぞれは、第1の長手方向軸Lyに沿って伸びるように配置され、圧電素子300を挟んで下層電極E00の所定領域に対向しており、第1の中央電極は、第1の板状橋梁部120の上面側の、第1の長手方向軸Lyに沿った中心線の位置に配置されており、第1の右脇電極は、第1の中央電極の一方の脇に配置されており、第1の左脇電極は、第1の中央電極の他方の脇に配置されていることになる。
また、第2の板状橋梁部130に形成された第2の上層電極群は、第2の中央電極(図10(a) に示す電極Ez1とEz2を融合させたもの)、第2の右脇電極(図10(a) に示す電極Ex1とEx3を融合させたもの)、第2の左脇電極(図10(a) に示す電極Ex2とEx4を融合させたもの)、という3種類の上層電極を有し、これら上層電極のそれぞれは、第2の長手方向軸Lxに沿って伸びるように配置され、圧電素子300を挟んで下層電極E00の所定領域に対向しており、第2の中央電極は、第2の板状橋梁部130の上面側の、第2の長手方向軸Lxに沿った中心線の位置に配置されており、第2の右脇電極は、第2の中央電極の一方の脇に配置されており、第2の左脇電極は、第2の中央電極の他方の脇に配置されていることになる。
このように、図10に示す3軸発電型の発電素子における12枚の上層電極を融合して、6枚の上層電極に置き換えた変形例においても、上層電極は、中央電極、右脇電極、左脇電極なる3種類の電極によって構成されているため、X軸方向もしくはY軸方向に関する振動に関しては、発生する正電荷の総量と負電荷の総量とをできるだけ均衡に保つ効果が得られる。
もっとも、実用上は、図10に示すように12枚の上層電極を用いる実施例を採用する方が、上述した6枚の上層電極を用いる変形例を採用するよりも好ましい。これは、前者の方が後者に比べて高い発電効率が得られるためである。以下にその理由を説明する。
図10に示す12枚の上層電極を用いる実施例では、互いに直交するようにL字型に配置された2組の板状橋梁部120,130が用いられている。これら板状橋梁部120,130は、いずれも単体として捉えれば、図3に示す板状橋梁部20と同等の構成をなし、上面側に配置された6枚の上層電極を有する。しかしながら、重錘体が変位したときに各部に生じる伸縮応力の挙動は若干異なってくる。
すなわち、図3に示す板状橋梁部20の場合、重錘体30がX軸正方向に変位すると、図2(a) に示すように、板状橋梁部20の左脇(図の上方側)は、固定部10側も重錘体30側も伸びており、板状橋梁部20の右脇(図の下方側)は、固定部10側も重錘体30側も縮んでいる。このように、板状橋梁部20の同じ側面の伸縮状態が、固定部10側と重錘体30側とで同じであるため、図3(a) に示す一対の右脇電極E11,E21を融合して、図6に示す右脇電極E31に置き換え、図3(a) に示す一対の左脇電極E13,E23を融合して、図6に示す左脇電極E33に置き換えても、融合対象となる一対の電極の発生電荷の極性が同じであるため、電荷が相殺されて消滅することはない。
ところが、図10に示す2組の板状橋梁部120,130の場合、重錘体150がX軸正方向に変位すると、図11に示すように、第1の板状橋梁部120の右脇に配置された第1の先端部側右脇電極Ey1および第1の根端部側右脇電極Ey3は、互いに伸縮状態が逆転している。このため、両者を融合して細長い1本の電極に置き換えてしまうと、異なる極性の電荷による相互相殺が起こってしまう。第1の板状橋梁部120の左脇に配置された第1の先端部側左脇電極Ey2および第1の根端部側左脇電極Ey4についても同様である。
また、図10に示す2組の板状橋梁部120,130の場合、重錘体150がY軸正方向に変位すると、図12に示すように、第2の板状橋梁部130の右脇に配置された第2の先端部側右脇電極Ex1および第2の根端部側右脇電極Ex3は、互いに伸縮状態が逆転している。このため、両者を融合して細長い1本の電極に置き換えてしまうと、異なる極性の電荷による相互相殺が起こってしまう。第2の板状橋梁部130の左脇に配置された第2の先端部側左脇電極Ex2および第2の根端部側左脇電極Ex4についても同様である。
このような点から、実用上は、図10(a) に示す実施例のように、合計12枚の電気的に独立した上層電極を配置し、第1の上層電極群を、第1の板状橋梁部120の根端部近傍に配置された第1の根端部側電極群(Ey3,Ey4,Ez4)と、第1の板状橋梁部120の先端部近傍に配置された第1の先端部側電極群(Ey1,Ey2,Ez3)とによって構成し、第2の上層電極群を、第2の板状橋梁部130の根端部近傍に配置された第2の根端部側電極群(Ex3,Ex4,Ez2)と、第2の板状橋梁部130の先端部近傍に配置された第2の先端部側電極群(Ex1,Ex2,Ez1)とによって構成し、第1の根端部側電極群、第1の先端部側電極群、第2の根端部側電極群、第2の先端部側電極群のそれぞれが、中央電極、右脇電極、左脇電極なる3種類の上層電極を有するようにするのが好ましい。
このように、図10に示す3軸発電型の発電素子の動作挙動は、図3に示す2軸発電型の発電素子の動作挙動とは若干異なっており、図3に示す板状橋梁部20を単に2本組み合わせたものではない。すなわち、図11および図12に示すように、重錘体のX軸方向およびY軸方向の変位に対して、板状橋梁部の同じ脇側であるのに、伸縮態様が逆転する部分が存在する。
また、図3に示す2軸発電型の発電素子では、Y軸方向の振動エネルギーが加わった場合、X軸方向もしくはZ軸方向の振動エネルギーが加わった場合に比べて、発電効率は極めて小さくなってしまうが(前述したとおり、Y軸方向の振動は、板状橋梁部20を全体的に引き伸ばしたり圧縮したりする変形動作によって行われるため、機械的な変形効率が低いためと考えられる)、図10に示す3軸発電型の発電素子では、図11および図12に示すとおり、X軸方向もしくはY軸方向の振動エネルギーが加わった場合、いずれの場合も、8枚の上層電極Ex1〜Ex4,Ey1〜Ey4のすべてから、十分な効率で電荷の抽出が可能になる。
このような点から、図10に示す12枚の上層電極を用いる3軸発電型の発電素子は、非常に発電効率の高い発電素子ということができる。
<5−2 上層電極を側面配置する変形例>
§2−2では、図8を参照しながら、図3に示す第1の実施形態に係る発電素子における上層電極の配置態様のバリエーションを説明した。これらのバリエーションは、図10に示す第2の実施形態に係る発電素子についても同様に適用可能である。
図10(b) の側断面図には、第2の板状橋梁部130の上面に下層電極E00を配置し、その上面に圧電素子300を配置し、その上面に右脇電極Ex1,中央電極Ez1,左脇電極Ex2を配置した実施例が示されている。この実施例は、図8(a) に示すバリエーションを採用したものである。
すなわち、この実施例では、下層電極E00が第1の板状橋梁部120および第2の板状橋梁部130の上面に形成され(実際には、下層電極E00は、基本構造体100の上面全面に形成されている)、圧電素子300がこの下層電極E00の上面に形成されている。そして、更に、第1の中央電極Ez3,Ez4、第1の右脇電極Ey1,Ey3および第1の左脇電極Ey2,Ey4が、第1の板状橋梁部120の上面に下層電極E00および圧電素子300を介して形成されており、第2の中央電極Ez1,Ez2、第2の右脇電極Ex1,Ex3および第2の左脇電極Ex2,Ex4が、第2の板状橋梁部130の上面に下層電極E00および圧電素子300を介して形成されている。
これに対して、図8(b) に示すバリエーションを採用した場合は、下層電極E00を第1の板状橋梁部120および第2の板状橋梁部130の上面とともに側面にも形成するようにし、圧電素子300をこの下層電極E00の表面に形成するようにする。そして、第1の中央電極Ez3,Ez4を、第1の板状橋梁部120の上面に下層電極E00および圧電素子300を介して形成し、第1の右脇電極Ey1,Ey3および第1の左脇電極Ey2,Ey4を、第1の板状橋梁部120の側面に下層電極E00および圧電素子300を介して形成すればよい。同様に、第2の中央電極Ez1,Ez2を、第2の板状橋梁部130の上面に下層電極E00および圧電素子300を介して形成し、第2の右脇電極Ex1,Ex3および第2の左脇電極Ex2,Ex4を、第2の板状橋梁部130の側面に下層電極E00および圧電素子300を介して形成すればよい。
一方、図8(c) に示すバリエーションを採用した場合は、下層電極E00を第1の板状橋梁部120および第2の板状橋梁部130の上面とともに側面にも形成するようにし、圧電素子300を、この下層電極E00の表面に形成するようにする。そして、第1の中央電極Ez3,Ez4を、第1の板状橋梁部120の上面に下層電極E00および圧電素子300を介して形成し、第1の右脇電極Ey1,Ey3および第1の左脇電極Ey2,Ey4を、第1の板状橋梁部120の上面から側面にかけて下層電極E00および圧電素子300を介して形成すればよい。同様に、第2の中央電極Ez1,Ez2を、第2の板状橋梁部130の上面に下層電極E00および圧電素子300を介して形成し、第2の右脇電極Ex1,Ex3および第2の左脇電極Ex2,Ex4を、第2の板状橋梁部130の上面から側面にかけて下層電極E00および圧電素子300を介して形成すればよい。
もちろん、この第2の実施形態に係る発電素子について、図8(a) 〜図8(c) に示す実施例における上層電極の配置形態を部分ごとに組み合わせることも可能であり、たとえば、図8(d) に例示するような形態を採用することも可能である。
また、圧電素子300は、必ずしも一体構造にする必要はなく、各上層電極に応じた位置にそれぞれ別個独立したものを配置するようにしてもかまわない。ただ、実用上は、一体構造とした方が製造プロセスは容易になる。同様に、下層電極E00も、各上層電極に応じた位置にそれぞれ別個独立したものを配置するようにしてもかまわないが、実用上は、一体構造とした方が製造プロセスは容易になる。
<5−3 環状構造体からなる固定部>
ここでは、§3で述べた図10に示す変形例として、固定部を環状構造体によって構成した例を述べる。図18は、この変形例に係る発電装置の基本構造体100Iの構造を示す平面図およびこれをYZ平面で切断した側断面図(図(b) )である。図18(a) は平面図であるが、平面形状を明確に示すため、構造体内部の部分にハッチングを施して示し、12枚の上層電極の位置を矩形で示す。
図10に示す実施例では、第1の板状橋梁部120の一端を装置筐体の底板200に固定する固定部として、X軸に平行な長手方向軸L0に沿って伸びる固定部用板状部材110を用いていた。これに対して、図18に示す変形例では、環状構造体110Iを固定部として用いている。この環状構造体110Iは、図示のとおり、左辺110I1,下辺110I2,右辺110I3,上辺110I4という4辺をもった矩形枠状の構造体であり、図18(b) に示すように、その下面全面が装置筐体の底板200Iの上面に固着されている。
一方、環状構造体110Iの左辺110I1の図の下端近傍には、第1の板状橋梁部120Iの根端部が接続されている。そして、この第1の板状橋梁部120Iの先端部は、中間接続部125Iを介して、第2の板状橋梁部130Iの根端部に接続されており、第2の板状橋梁部130Iの先端部は重錘接続部140Iを介して重錘体150Iに接続されている。結局、この変形例の場合、固定部が、環状構造体110Iによって構成されており、この環状構造体110Iによって囲まれた内部領域に、第1の板状橋梁部120I、第2の板状橋梁部130Iおよび重錘体150Iが配置された構造となっている。
このように、第1の板状橋梁部120I、第2の板状橋梁部130I、重錘体150Iの周囲を、環状構造体110Iが所定距離を維持して取り囲む構造を採用すると、環状構造体110Iが、第1の板状橋梁部120I、第2の板状橋梁部130I、重錘体150Iの過剰な変位を制御するストッパ部材としての役割を果たすことになる。すなわち、重錘体150に過度の加速度(各板状橋梁部120I,130Iが破損するような加速度)が加わった場合でも、各部の過度の変位を制限することができるので、板状橋梁部120I,130Iが破損する事態を避けることができる。
<5−4 庇構造部の付加>
図18に示す変形例のもう一つの特徴は、中間接続部125Iが、第1の板状橋梁部120Iの先端部の側面よりも外側に突き出した庇構造部α1と第2の板状橋梁部130Iの根端部の側面よりも外側に突き出した庇構造部α2とを有し、重錘接続部140Iが、第2の板状橋梁部130Iの先端部の側面よりも外側に突き出した庇構造部α3を有する点である。なお、これら庇構造部α1,α2,α3を設けたため、環状構造体110Iの内側部分には、これら庇構造部α1,α2,α3に対応した位置に凹部が形成されている。
本願発明者は、図示のような庇構造部α1,α2,α3を設けた構造を採用すると、発電素子の発電効率を更に向上させることができることを発見した。これは、この庇構造部α1,α2,α3を設けた構造を採用すると、各上層電極の形成位置における伸縮応力を更に高めることができるためである。これを、コンピュータを用いた構造力学上のシミュレーション結果に基づいて示そう。
図19(a) は、図10に示す発電素子の基本構造体について、重錘体150がX軸正方向の変位Δx(+)を生じたときの各板状橋梁部120,130に生じる応力の大きさを示す応力分布図である。一方、図19(b) は、図18に示す発電素子(庇構造部α1,α2,α3を設けた構造を採用する素子)の基本構造体について、重錘体150がX軸正方向の変位Δx(+)を生じたときの各板状橋梁部に生じる応力の大きさを示す応力分布図である。いずれの分布図も、所定の変位量が生じたときに、中程度の伸張応力、強い伸張応力、中程度の収縮応力、強い収縮応力が作用する領域に、それぞれ固有のハッチングを施して示したものである(各図右上の凡例参照)。
同様に、図20は、図10に示す発電素子の基本構造体(図(a) )および図18に示す発電素子の基本構造体(図(b) )について、重錘体150がY軸正方向の変位Δy(+)を生じたときの各板状橋梁部に生じる応力の大きさを示す応力分布図であり、図21は、図10に示す発電素子の基本構造体(図(a) )および図18に示す発電素子の基本構造体(図(b) )について、重錘体150がZ軸正方向の変位Δz(+)を生じたときの各板状橋梁部に生じる応力の大きさを示す応力分布図である。
図19(a) ,(b) および図20(a) ,(b) の応力分布図を参照すると、重錘体150が、X軸方向やY軸方向に変位したときには、左右の脇電極Ex1〜Ex4,Ey1〜Ey4の形成位置に比較的大きな伸縮応力が発生していることがわかる。一方、図21(a) ,(b) の応力分布図を参照すると、重錘体150がZ軸方向に変位したときには、すべての上層電極Ex1〜Ex4,Ey1〜Ey4,Ez1〜Ez4の形成位置に比較的大きな伸縮応力が発生していることがわかる。したがって、図10に示す12枚の上層電極の配置が理想的な配置になっていることが理解できよう。
しかも、図19〜図21において、上段の図(a) と下段の図(b) とを比較すると、概して、下段の図(b) に示す応力分布図の方が比較的大きな伸縮応力が発生していることがわかる。これは、図18(a) に示すように、庇構造部α1,α2,α3を設けた構造を採用すると、第1の板状橋梁部120Iの根端部および先端部ならびに第2の板状橋梁部130Iの根端部および先端部に効率的に応力を集中させることができ、発電素子の発電効率を更に向上させることができることを意味する。したがって、実用上は、図18(a) に示すように、庇構造部α1,α2,α3を設けた構造を採用するのが好ましい。
<5−5 環状重錘体>
続いて、重錘体を外側に設け、環状構造とした変形例を述べておく。この変形例は、図18に示した変形例における固定部(環状構造体110I)と重錘体(150I)との役割を逆転させたものである。すなわち、図18に示した変形例において固定部として機能していた環状構造体110Iを重錘体として機能させ、重錘体150Iとして機能していた板状体を固定部として機能させるようにしたものである。そのためには、図18において重錘体150Iとして機能していた板状体の下面を装置筐体の底板の上面に固定し、図18において固定部として機能していた環状構造体110Iが、外力が作用しない状態において、装置筐体の底板の上方に浮いた宙吊り状態になるようにすればよい。
図22に、このような役割を逆転させた変形例に係る発電素子の基本構造体100Jの構造を示す平面図(図(a) )およびこれをYZ平面で切断した側断面図(図(b) )を示す。それぞれ上段に図(a) として示す平面図だけを比較すると、図18に示す基本構造体100Iと図22に示す基本構造体100Jとは、全く同じ構造のように見えるが、下段に図(b) として示す側断面図を比較すると、両者の構造の違いがよく理解できよう。
図22に示す基本構造体100Jの場合、中央に配置された板状の部材150Jが板状固定部となり、他の部分に比べて厚みが大きい部分になる。そして、この板状固定部150Jの下面が、装置筐体の底板200Jの上面に固着される。一方、図22(a) に示すように、この板状固定部150Jの右上隅部には、固定端接続部140Jを介して、第1の板状橋梁部130Jの根端部(図の上端)が接続されている。また、この第1の板状橋梁部130Jの先端部(図の下端)には、中間接続部125Jを介して、第2の板状橋梁部120Jの根端部(図の右端)が接続されており、更に、この第2の板状橋梁部120Jの先端部(図の左端)には、環状重錘体110Jが接続されている。
環状重錘体110Jは、図22(a) に示すとおり、左辺110J1,下辺110J2,右辺110J3,上辺110J4という4辺をもった矩形枠状の構造体であり、図22(b) に示すように、装置筐体の底板200Jの上方に浮いた状態となるように宙吊りになっている。
これまで述べてきた実施例では、重錘体が基本構造体の内側位置に配置されていたが、図22に示す変形例の場合、環状重錘体110Jが基本構造体100Jの外側位置に配置されることになる。このように外側に環状重錘体を配置する構造を採ると、一般的に、重錘体の質量を大きく確保することが容易になるので、重錘体の質量を大きくして発電効率を高める上では有利である。
<5−6 渦巻状の構造体>
ここでは、板状橋梁部の数を更に増やし、渦巻状の構造体を構成した変形例を述べておく。図23は、この変形例に係る発電装置の基本構造体100Kの構造を示す平面図である。この図においても、平面形状を明確に示すため、構造体内部の部分にハッチングを施して示し、24枚の上層電極の位置を矩形で示す。この変形例は、図18に示す変形例における重錘接続部140Iの代わりに、第3の板状橋梁部140K,中間接続部145K,第4の板状橋梁部150K,重錘接続部160Kを介して重錘体170Kを支持する構造が採用されている。
具体的には、図示のとおり、左辺110K1,下辺110K2,右辺110K3,上辺110K4という4辺をもった矩形枠状の環状構造体110Kが固定部として用いられており、その下面全面が装置筐体の底板の上面に固着されている。一方、環状構造体110Kの左辺110K1の図の下端近傍には、第1の板状橋梁部120Kの根端部が接続されている。そして、この第1の板状橋梁部120Kの先端部は、中間接続部125Kを介して、第2の板状橋梁部130Kの根端部に接続されており、第2の板状橋梁部130Kの先端部は中間接続部135Kを介して第3の板状橋梁部140Kの根端部に接続されており、第3の板状橋梁部140Kの先端部は中間接続部145Kを介して第4の板状橋梁部150Kの根端部に接続されており、第4の板状橋梁部150Kの先端部は重錘接続部160Kを介して重錘体170Kに接続されている。
結局、この変形例の場合、固定部が、環状構造体110Kによって構成されており、この環状構造体110Kによって囲まれた内部領域に、第1の板状橋梁部120K、第2の板状橋梁部130K、第3の板状橋梁部140K、第4の板状橋梁部150K、重錘体170Kが配置された構造となっている。ここで、第1の板状橋梁部120Kおよび第3の板状橋梁部140Kは、Y軸に平行な第1および第3の長手方向軸に沿って伸びており、第2の板状橋梁部130Kおよび第4の板状橋梁部150Kは、X軸に平行な第2および第4の長手方向軸に沿って伸びている。かくして、重錘体170Kは、4本の板状橋梁部120K,130K,140K,150Kを渦巻状に連結させて構成される構造体によって支持されることになる。
この4本の板状橋梁部120K,130K,140K,150Kの上面に下層電極を形成し、その上面に圧電素子を配置し、更にその上面の所定箇所に局在的に上層電極群を設ける点は、これまでの実施例と同様である。図示の例の場合、4本の板状橋梁部120K,130K,140K,150Kのそれぞれについて、根端部および先端部に3枚の上層電極を配置しており、合計24枚の上層電極が形成されている。
これまで述べてきた実施例よりも構造が複雑になるが、この変形例では、発電回路が、合計24枚の上層電極および共通の下層電極に発生した電荷から電力を取り出すことができるため、発電効率を向上させることができる。
図23には、4本の板状橋梁部120K,130K,140K,150Kを設ける例を示したが、もちろん、3本の板状橋梁部120K,130K,140Kのみを設けて、第3の板状橋梁部140Kの先端部に、直接もしくは間接的に重錘体を接続するようにしてもかまわない。また、5本以上の板状橋梁部を連結した先に重錘体を接続するようにしてもかまわない。
一般論として述べれば、基本的な実施例として述べた第1の板状橋梁部および第2の板状橋梁部を有する構造体において、第2の板状橋梁部と重錘体との間に、更に、第3の板状橋梁部〜第Kの板状橋梁部を設け、合計K本の板状橋梁部を連結した先に重錘体を接続するようにしてもかまわない(但し、K≧3)。このとき、第iの板状橋梁部(但し、1≦i≦K−1)の先端部が第(i+1)の板状橋梁部の根端部に直接もしくは間接的に接続され、第Kの板状橋梁部の先端部が重錘体に直接もしくは間接的に接続されており、第jの板状橋梁部(但し、1≦j≦K)は、jが奇数の場合はY軸に平行な第jの長手方向軸に沿って伸び、jが偶数の場合はX軸に平行な第jの長手方向軸に沿って伸びているようにする。
また、第1の板状橋梁部の根端部から第Kの板状橋梁部の先端部に至るまでの構造体が渦巻状の経路をなし、重錘体がこの渦巻状の経路に囲まれた中心位置に配置されているようにすれば、図23に示す例のように、限られた空間内に効率的にK本の板状橋梁部と重錘体とを配置することができるようになる。図23に示す例は、上述の一般論において、K=4に設定した例ということになる。
この図23に示す例のように、固定部を環状構造体110Kによって構成し、この環状構造体110Kによって囲まれた内部領域に第1の板状橋梁部〜第Kの板状橋梁部および重錘体が配置されている構成を採れば、すべての構造を環状構造体110K内に効率的に収容することができる。
このような構造体を利用し、第3の板状橋梁部〜第Kの板状橋梁部の表面にも、下層電極、圧電素子、上層電極群を設けるようにすれば、発電回路は、これら上層電極および下層電極に発生した電荷からも電力を取り出すことができ、発電効率を向上させることができる。
なお、図23に示す変形例においても、各中間接続部125K,135K,145Kおよび重錘接続部160Kが、各板状橋梁部120K,130K,140Kおよび150Kの先端部の側面よりも外側に突き出した庇構造部を有する構造を採っているため、各上層電極の形成位置における伸縮応力を高める効果が得られる。
すなわち、一般論で述べれば、第iの板状橋梁部(但し、1≦i≦K−1)の先端部と第(i+1)の板状橋梁部の根端部とが第iの中間接続部を介して接続されており、第Kの板状橋梁部の先端部と重錘体とが重錘接続部を介して接続されている構造を採用した場合、第iの中間接続部が、第iの板状橋梁部の先端部の側面よりも外側に突き出した庇構造部を有し、重錘接続部が、第Kの板状橋梁部の先端部の側面よりも外側に突き出した庇構造部を有するようにすれば、各上層電極の形成位置における伸縮応力を高める効果が得られ、より効率的な発電を行うことが可能になる。
もちろん、この図23に示す変形例においても、§5−5で述べた変形例と同様に、環状構造体110Kを重錘体として用い、重錘体170Kを固定部として用い、役割を逆転させることも可能である。
<5−7 補助重錘体の付加>
最後に、重錘体の質量を調整するための工夫を施した変形例を述べておく。既に述べたとおり、外部から与えられる振動に基づいて効率的な発電を行う上では、重錘体の共振周波数を外部から与えられる振動周波数に一致させておくのが好ましい。たとえば、特定の車両に搭載して用いるための専用の発電素子の場合は、構造設計の段階から、当該車両から加えられる周波数に共振周波数が合致するような設計を行うのが好ましい。発電素子の共振周波数を変えるには、重錘体の質量を調整する方法を採るのが最も簡単である。ここでは、個々の発電素子の重錘体の質量を調整するために、補助重錘体を付加する実施例を述べておく。
図24は、図18に示す発電素子の基本構造体100Iに補助重錘体150Lを付加することにより、重錘体全体の質量を調整した変形例を示す平面図(図(a) )およびこれをYZ平面で切断した側断面図(図(b) )である。図24(a) の平面図に示すとおり、この変形例に係る基本構造体100Lを上方から見たときの構造は、図18(a) に示す基本構造体100Iの構造と全く同じであり、ここでは、各部に図18(a) に示す基本構造体100Iの各部と同じ符号を付して示してある。
一方、図24(b) の側断面図を見ればわかるとおり、この変形例に係る基本構造体100Lでは、重錘体150Iの下面に補助重錘体150Lが固着されており、重錘体150Iと補助重錘体150Lとの集合体が、この基本構造体100Lにおける重錘体として機能することになる。別言すれば、補助重錘体150Lを付加することにより、この基本構造体100Lにおける重錘体の質量を増加させ、共振周波数を下げることが可能になる。補助重錘体150Lの質量は、材質(比重)や寸法(Z軸方向の厚みやXY平面への投影像の面積)を変えることにより調整することが可能であるので、補助重錘体150Lの材質や寸法を適宜決めてやれば、この基本構造体100Lの共振周波数を任意の値に調整することが可能になる。
このように、補助重錘体を付加して共振周波数を調整する方法は、もちろん、これまで述べてきたいずれの実施例についても適用可能である。図25は、図22に示す発電素子の基本構造体に補助重錘体110M1〜110M4を付加することにより、重錘体全体の質量を調整した変形例を示す平面図(図(a) )およびこれをYZ平面で切断した側断面図(図(b) )である。図25(a) の平面図に示すとおり、この変形例に係る基本構造体100Mを上方から見たときの構造は、図22(a) に示す基本構造体100Jの構造と全く同じであり、ここでは、各部に図22(a) に示す基本構造体100Jの各部と同じ符号を付して示してある。
この図25に示す実施例の場合、中央の板状部材150Jが装置筐体に固定された固定部となり、周囲の環状構造体110J(4辺110J1〜110J4からなる矩形状の枠)が重錘体として機能する。ここでは、この環状構造体110Jの下面に補助重錘体を固着することにより質量を増加させている。すなわち、図25(b) の側断面図を見ればわかるとおり、この変形例に係る基本構造体100Mでは、環状構造体の各辺110J1〜110J4の下面に、それぞれ補助重錘体110M1〜110M4が固着されており、環状重錘体110Jと補助重錘体110M1〜110M4との集合体が、この基本構造体100Mにおける重錘体として機能することになる。したがって、やはり重錘体の質量を増加させ、共振周波数を下げることが可能になる。
図示の例の場合、環状重錘体110Jの4辺110J1〜110J4のすべてに補助重錘体110M1〜110M4を設けているが、特定の辺の下面のみに補助重錘体を設けるようにしてもかまわない。ただ、重錘体全体の重心を原点Oの近傍に位置させ、バランスよい安定した振動を行わせる上では、図示の例のように、4辺110J1〜110J4のすべてに均等に補助重錘体を付加するのが好ましい。補助重錘体の質量の調整は、Z軸方向の厚みを変えることにより行うことができる。
補助重錘体としては、様々な材料のものを用いることができるので、質量調整の必要性に応じて適切な材料を選択することが可能である。たとえば、微調整を行う必要がある場合は、アルミニウムやガラスなど、比重の小さな材料を利用すればよいし、大幅に質量を増加させる必要がある場合は、タングステンなど、比重の大きな材料を利用すればよい。
実用上は、図18に示す基本構造体100Iや図22に示す基本構造体100Jを用いて、最も一般的な利用環境に適した標準的な共振周波数を有する汎用製品を量産しておき、この汎用製品に、それぞれ適切な質量をもった補助重錘体を付加して、図24に示す基本構造体100Lや図25に示す基本構造体100Mを構成して、個々の利用環境に最適な共振周波数をもったオーダーメイド製品を提供するようにすればよい。そうすれば、汎用製品の量産化によりコストダウンを図りつつ、個々の利用環境に最適なオーダーメイド製品を提供することができる。
なお、図24および図25に示す例では、いずれも元の重錘体の下面に補助重錘体を設けた例を示したが、補助重錘体は元の重錘体の上面や側面に設けることも可能である。ただ、補助重錘体を元の重錘体の下面に設けるようにすれば、装置筐体の底板との間に形成された空間内に収容することができるので、省スペース化を図る上では、図示の例のように、元の重錘体の下面に設けるのが好ましい。
以上、重錘体に補助重錘体を付加し、共振周波数を利用環境の周波数に合わせることにより発電効率を向上させる方法を示したが、非共振で利用する場合であっても、補助重錘体を付加することにより重錘体全体の質量が増加することになるので、やはり発電効率を向上させる効果が得られる。