本発明は、シースルーの状態での表示が可能であり、表面保護用のハードコート層を設けつつ、導光部分での導光及び外界光の視認性能を良好な状態に維持できる導光装置、導光装置を用いた虚像表示装置及び導光装置の製造方法を提供することを目的とする。
本発明に係る導光装置は、映像光を内面側で反射させて導光する導光部材と、導光部材に貼り合せることで外界光と映像光とを重複して視認させる光透過部材と、導光部材となるべき第1基材に設けた第1接合面と光透過部材となるべき第2基材に設けた第2接合面とを貼り合せることにより形成され、光学面に隣接する接合箇所を有する接合部と、コート液を塗布することにより、導光部材の表面部分を形成するハードコート層と、を備える導光装置であって、接合箇所のうち、少なくともハードコート層の成膜される接合箇所において、第1基材と第2基材とを並べた配列方向に垂直な方向に関して、第1基材を第2基材よりも突き出して形成される接合段差部を有する。
ここで、光学面とは、導光部材や光透過部材において、光学的な機能を有する面であり、内面側で反射させて導光する面や、外界光を透過させる面を意味する。
上記導光装置では、導光部材と光透過部材とが接合されていることで、映像光と外界光とを重畳させるシースルーを実現できるものとなっている。両部材間に設けられた接合個所において形成される接合段差部が、導光部材と光透過部材とを並べた方向に垂直な方向に関して、光透過部材側よりも導光部材側において突き出ている。これにより、液溜りが生じやすい接合箇所でコート液の滞留を抑制でき、液垂れの問題を回避しつつ露出部分の表面保護用のハードコート層を光学部品の表面に設けることができる。すなわち、上記導光装置は、導光部材の導光部分における導光や、光透過部材における外界光の視認の性能を、良好な状態に維持できるものとなっている。
本発明の具体的な側面では、接合箇所のうち、接合段差部を有する接合箇所は、ハードコート層の成膜に際する治具固定位置から最も離間した位置に配置される。ここで、治具固定位置とは、ハードコート層の成膜をするハードコート工程時において、接合された第1又は第2基材を、治具に固定させるための取付位置を意味する。言い換えると、接合部において接合された第1及び第2基材は、治具固定位置で治具によって固定され吊るされた状態となって、ハードコート層の成膜を施される。この場合、接合された第1及び第2基材のうち、治具固定位置から遠い位置ほど、例えば重力の影響等によってコート液が溜まりやすくなり、光学面での液垂れの問題が生じやすくなる。すなわち、治具固定位置から遠い位置における接合段差部におけるコート液の制御が特に重要になる。この場合、導光部材と光透過部材との間に設けられた接合箇所のうち、最も液垂れの問題が生じやすい治具固定位置から遠い位置にある接合箇所において接合段差部が形成されていることで、特に液溜りが生じやすい接合箇所でコート液の滞留を抑制できる。
本発明の別の側面では、接合段差部における高低差は、0.5mm以下である。この場合、接合段差部における高低差が目立ってシースルーの状態に影響するといった事態を回避できる。
本発明のさらに別の側面では、導光部材を構成する複数面のうち第1面と第3面とは、対向するように配置され、映像素子からの映像光は、第3面で反射され、第1面で反射され、第2面で反射された後、第1面を透過して、観察側に到達する。
本発明のさらに別の側面では、接合部によって貼り合わされる第1基材の第1接合面と第2基材の第2接合面との間に、導光部材の第2面が形成され、第2面は、非軸対称な形状を有する自由曲面である。この場合、例えば第1面や第3面が、平面或いは略平面に近く第1面や第3面では収差の補正を図りにくいような場合であっても、第2面において収差を十分に補正できるような構成とすることができる。また、この場合、導光部分を比較的小型な光学系で構成しつつ、広画角な画像を形成させることが可能となる。
本発明のさらに別の側面では、接合段差部は、導光部材において対向するように配置される第1面と第3面とのうち、少なくとも第1面側の接合箇所に形成される。この場合、ハードコート層の成膜状態を良好にしつつ、接合段差部が目立つことを回避させることができる。
本発明のさらに別の側面では、接合段差部は、導光部材において対向するように配置される第1面と第3面とに関して、第1面側の第1接合箇所に形成される第1接合段差部と、第3面側の第2接合箇所に形成される第2接合段差部とを含む。この場合、治具固定位置からの距離が異なる第1面側と第3面側とにおいて、ハードコート層の成膜状態を良好にすることができる。
本発明のさらに別の側面では、導光部材は、接合部よりも相対的に治具固定位置に近い側に、映像光を射出する他の部材と当該他の部材からの映像光を入射させる光入射部との相対的な位置決めを行う位置決め部を有する。この場合、位置決め部が多少複雑な形状を有していても、その周辺にある映像光の入射側において、ハードコート層の成膜による導光の劣化を回避することができる。また、例えばディップ処理によって成膜をする場合に、位置決め部に近い側から引き上げることでハードコートにおける液溜りを発生しにくくすることができ、形状追従性が良くなり、映像光の入射側においてハードコート層の成膜による導光の劣化を回避することができる。
本発明のさらに別の側面では、位置決め部は、第1基材と第2基材との配列方向に対応する方向に延びる板状の部材である。この場合、ハードコートが板状の部材の組付け精度に影響を与えることを回避して、板状の部材により位置決め精度を高い状態に維持できる。
上記目的を達成するため、本発明に係る虚像表示装置は、映像光を生じさせる映像素子と、映像素子からの映像光を内面側で反射させつつ導く上記いずれかに記載の導光装置と、を備える。
上記虚像表示装置では、上述した導光装置を用いることにより、導光部材の導光部分における導光や、光透過部材における外界光の視認の性能を、良好な状態に維持できる。
上記目的を達成するため、本発明に係る導光装置の製造方法は、映像光を内面側で反射させて導光する導光部材と、導光部材に貼り合せることで外界光と映像光とを重複して視認させる光透過部材と、導光部材となるべき第1基材に設けた第1接合面と光透過部材となるべき第2基材に設けた第2接合面とを貼り合せることにより形成され、光学面に隣接する接合箇所を有する接合部と、コート液を塗布することにより導光部材の表面部分を形成するハードコート層と、を備える導光装置の製造方法であって、接合箇所のうち、少なくともハードコート層の成膜される接合箇所において、第1基材と第2基材とを並べた配列方向に垂直な方向に関して、第1基材を第2基材よりも突き出した接合段差部を有するように接合部を形成する接合工程と、接合工程において接合部で接合された状態にある第1基材と第2基材とについて、治具固定位置で固定した状態でコート液を塗布してハードコート層を成膜するハードコート工程と、を有する。
上記導光装置の製造方法では、映像光と外界光とを重畳させるシースルーを実現するための導光部材と光透過部材との接合に際して、導光部材となるべき第1基材と光透過部材となるべき第2基材とを並べた方向に垂直な方向に関して、第1基材側が第2基材側よりも突き出した状態となるような接合段差部を有するものとなっている。これにより、ハードコート工程でのハードコート層の成膜において、液溜りが生じやすい箇所で発生する液垂れの問題を回避することができる。すなわち、上記導光装置の製造方法によって作製される導光装置は、導光部材の導光部分における導光や、光透過部材における外界光の視認の性能を、良好な状態に維持できるものとなっている。
本発明の具体的な側面では、接合箇所のうち、接合段差部を有する接合箇所は、ハードコート層の成膜に際する治具固定位置から最も離間した位置に配置される。この場合、導光部材と光透過部材との間に設けられた接合箇所のうち、最も液垂れの問題が生じやすい治具固定位置から遠い位置にある接合箇所において接合段差部が形成されていることで、特に液溜りが生じやすい接合箇所でコート液の滞留を抑制できる。
本発明の別の側面では、ハードコート工程において、接合された状態にある第1基材と第2基材とは、重力方向に関して第1基材を相対的に上部側に配置し、第2基材を相対的に下部側に配置されている。この場合、確実に液垂れの問題を回避することができる。
本発明のさらに別の側面では、ハードコート工程において、コート液はディップ処理によって塗布される。この場合、成膜対象が複雑な形状を有していても、ハードコート工程において、ハードコート層を確実に一様に成膜させることができる。
以下、図1等を参照しつつ、本発明に係る導光装置及び導光装置を含む虚像表示装置の一実施形態について詳細に説明する。
図1に示すように、本実施形態の導光装置を含む虚像表示装置100は、眼鏡のような外観を有するヘッドマウントディスプレイであり、この虚像表示装置100を装着した観察者又は使用者に対して虚像による画像光(映像光)を視認させることができるとともに、観察者に外界像をシースルーで視認又は観察させることができる。虚像表示装置100は、観察者の眼前を透視可能に覆う第1及び第2光学部材101a,101bと、両光学部材101a,101bを支持する枠部102と、枠部102の左右両端から後方のつる部分(テンプル)104にかけての部分に付加された第1及び第2像形成本体部105a,105bとを備える。ここで、図面上で左側の第1光学部材101aと第1像形成本体部105aとを組み合わせた第1表示装置100Aは、右眼用の虚像を形成する部分であり、単独でも虚像表示装置として機能する。また、図面上で右側の第2光学部材101bと第2像形成本体部105bとを組み合わせた第2表示装置100Bは、左眼用の虚像を形成する部分であり、単独でも虚像表示装置として機能する。
図1及び図2に示すように、虚像表示装置100に設けた枠部102は、上側に配置されるフレーム107を備える。なお、下側については、枠状の部分のない構成となっている。枠部102を構成するフレーム107は、XZ面内でU字状に折れ曲がった細長い板状の部材であり、左右の横方向(X方向)に延びる正面部107aと、前後の奥行き方向(Z方向)に延びる一対の側面部107b,107cとを備える。フレーム107、すなわち正面部107aと側面部107b,107cとは、アルミダイカストその他の各種金属材料で形成された金属製の一体部品である。正面部107aの奥行き方向(Z方向)の幅は、第1及び第2光学部材101a,101bに対応する導光装置20の厚み又は幅よりも十分に厚いものとなっている。フレーム107の左側方、具体的には正面部107aにおける向かって左端部から側面部107bにかけての部分には、第1光学部材101aと第1像形成本体部105aとがアライメントされ例えばネジ止めによって直接固定されることにより、支持されている。また、フレーム107の右側方、具体的には正面部107aにおける向かって右端部から側面部107cにかけての部分には、第2光学部材101bと第2像形成本体部105bとがアライメントされ例えばネジ止めにより直接固定されることによって、支持されている。なお、第1光学部材101aと第1像形成本体部105aとは、嵌合によって互いにアライメントされ、第2光学部材101bと第2像形成本体部105bとは、嵌合によって互いにアライメントされる。
フレーム107は、第1及び第2像形成本体部105a,105bを支持するだけでなく、これらを覆うカバー状の外装部材105dと協働して第1及び第2像形成本体部105a,105bの内部を保護する役割を有する。なお、フレーム107は、第1及び第2像形成本体部105a,105bに連結される根元側を除いた導光装置20の上側部分と離間するか又は緩く接している。このため、中央の導光装置20と、フレーム107を含む枠部102との間に熱膨張率の差があっても、枠部102内での導光装置20の膨張が許容され、導光装置20に歪み、変形、破損が生じることを防止できる。
フレーム107に付随して、鼻受部40が設けられている。鼻受部40は、観察者の鼻に当接することによって枠部102を支持する役割を有する。つまり、枠部102は、鼻に支持される鼻受部40と耳に支持される一対のテンプル部104とによって、観察者の顔前に配置されることになる。鼻受部40は、枠部102を構成する一方のフレーム107の正面部107aにおいて、ねじ止めによって固定されている。なお、以上のように図1を参照して示す外観は、一例であり、例えばねじ止めによって固定される機構等に関して、光学的機構として直接関与しない箇所等については、適宜設計を変更することが可能である。
図2(A)に示すように、第1表示装置100Aは、投影用の光学系である投射透視装置70と、映像光を形成する画像表示装置80とを備えると見ることができる。投射透視装置70は、第1像形成本体部105aによって形成された画像を虚像として観察者の眼に投射する役割を有する。投射透視装置70は、導光及び透視用の導光部材10と、透視用の光透過部材50と、結像用の投射レンズ30とを備える。つまり、第1光学部材101a又は導光装置20は、導光部材10と光透過部材50とで構成され、第1像形成本体部105aは、画像表示装置80と投射レンズ30とで構成される。
以下、図2(A)を参照して、第1像形成本体部105a(図1参照)を構成する画像表示装置80と投射レンズ30とについて説明する。
画像表示装置80は、照明光を射出する照明装置81と、透過型の空間光変調装置である映像表示素子82と、照明装置81及び映像表示素子82の動作を制御する駆動制御部84とを有する。
画像表示装置80の照明装置81は、赤、緑、及び青の3色を含む光を発生する光源81aと、この光源からの光を拡散させて矩形断面の光束にするバックライト導光部81bとを有する。映像表示素子(映像素子)82は、例えば液晶表示デバイスで形成され、複数の画素で構成されており、照明装置81からの照明光を空間的に変調して動画像等の表示対象となるべき画像光を形成する。駆動制御部84は、光源駆動回路84aと、液晶駆動回路84bとを備える。光源駆動回路84aは、照明装置81に電力を供給して安定した輝度の照明光を射出させる。液晶駆動回路84bは、映像表示素子(映像素子)82に対して画像信号又は駆動信号を出力することにより、透過率パターンとして動画や静止画の元になるカラーの映像光又は画像光を形成する。なお、液晶駆動回路84bに画像処理機能を持たせることができるが、外付けの制御回路に画像処理機能を持たせることもできる。
投射レンズ30は、構成要素として、入射側光軸AXIに沿って3つの光学素子(レンズ)31〜33を備える投射光学系であり、これらの光学素子31〜33を収納して支持する鏡筒(図示省略)を含む。光学素子31〜33は、非軸対称な非球面(非軸対称非球面)と軸対称な非球面(軸対称非球面)との双方を含む非球面レンズであり、導光部材10の一部と協働して導光部材10の内部に映像表示素子82の表示像に対応する中間像を形成する。なお、各レンズ(光学素子)31〜33のうち、第1レンズ31の光の射出面であるレンズ面31aは、非軸対称非球面となっており、レンズ面31a以外のレンズ面については、軸対称非球面となっている。
以下、投射透視装置70等について説明する。投射透視装置70のうち、プリズム型の導光装置20の一部である導光部材10は、平面視において、鼻に近い中央側(眼前側)の部分が直線状となっている。導光部材10のうち、第1導光部分11は、鼻に近い中央側つまり光射出側に配置され、光学的な機能を有する側面として、第1面S11と、第2面S12と、第3面S13とを有し、第2導光部分12は、鼻から離れた周辺側つまり光入射側に配置され、光学的な機能を有する側面として、第4面S14と、第5面S15とを有する。このうち、第1面S11と第4面S14とが連続的に隣接し、第3面S13と第5面S15とが連続的に隣接する。また、第1面S11と第3面S13との間に第2面S12が配置され、第4面S14と第5面S15とは大きな角度を成して隣接している。さらに、ここでは、対向した配置となっている第1面S11と第3面S13とが互いに略平行な平面形状となっている。一方、光学的な機能を有する他の面、すなわち第2面S12、第4面S14及び第5面S15は、非軸対称な曲面(自由曲面)となっている。また、導光装置20において、導光部材10は、光透過部材50と、接着層CCを介して接合されている。なお、導光部材10及び光透過部材50の接合面と、接着層CCとで構成される部分を接合部CNとする。例えば、導光装置20を正面側から見た図2(B)等に示すように、この接合部CNは、導光装置20の外観に沿って見ると、導光部材10と光透過部材50との間における4つの接合箇所P1〜P4で導光部材10及び光透過部材50を接合していると捉えることができる。具体的には、接合箇所P1は、導光部材10の第1面S11と光透過部材50の第1透過面S51とを接合する箇所であり、接合箇所P2は、導光部材10の第3面S13と光透過部材50の第3透過面S53とを接合する箇所である。また、接合箇所P3は、導光部材10と光透過部材50との上面部分を接合する箇所であり、接合箇所P4は、導光部材10と光透過部材50との下面部分を接合する箇所である。この場合、特に、接合箇所P1と接合箇所P2とは、光学面に隣接する接合箇所となっている。また、詳しくは後述するが、本実施形態では、接合部CNにおけるこれら複数の接合箇所P1〜P4のうち、特に、接合箇所P1において、接合段差部を有する構成とすることで、表面保護用のハードコート層を設けつつ、映像光の導光や外界光の視認の性能を良好に維持するものとなっている。
以下、図2(A)に戻って、導光部材10を構成する各面について説明する。導光部材10において、第1面S11は、Z軸に平行な射出側光軸AXOをローカルz軸とする平面であり、第2面S12は、XZ面に平行な基準面(図示の断面)に含まれZ軸に対して傾斜した光軸AX1をローカルz軸とする自由曲面であり、第3面S13は、射出側光軸AXOをローカルz軸とする平面である。第4面S14は、XZ面に平行な上記基準面に含まれZ軸に対して傾斜した一対の光軸AX3,AX4の2等分線に平行な光軸をローカルz軸とする自由曲面であり、第5面S15は、XZ面に平行な上記基準面に含まれるとともにZ軸に対して傾斜した一対の光軸AX4,AX5の2等分線に平行な光軸をローカルz軸とする自由曲面である。光軸AX5の第5面S15側の延長上には、入射側光軸AXIが配置されている。なお、以上の第1〜第5面S11〜S15は、水平(又は横)に延びXZ面に平行で光軸AX1〜AX5等が通る基準面(図示の断面)を挟んで、鉛直(又は縦)のY軸方向に関して対称な形状を有している。
なお、導光部材10を構成する複数の面のうち、第1面S11から第3面S13までの面以外の面S14,S15のうち、少なくとも1つの自由曲面について、方向によって曲率の符号が異なっている点を少なくとも1つ含むものとなっている。これにより、映像光の導光を精密に制御しつつ、導光部材10の小型化を可能にしている。
導光部材10のうち本体10sは、可視域で高い光透過性を示す樹脂材料で形成されており、例えば金型内に熱可塑性樹脂を注入・固化させることにより成形する。なお、本体10sの材料としては、例えばシクロオレフィンポリマー等を用いることができる。本体10sは、一体形成品とされているが、導光部材10は、既に説明したように機能的に第1導光部分11と第2導光部分12とに分けて考えることができる。第1導光部分11は、映像光GLの導波及び射出を可能にするとともに、外界光HLの透視を可能にする。第2導光部分12は、映像光GLの入射及び導波を可能にする。
第1導光部分11において、第1面S11は、映像光GLを第1導光部分11外に射出させる屈折面として機能するとともに、映像光GLを内面側で全反射させる全反射面として機能する。第1面S11は、眼EYの正面に配されるものであり、既述のように、平面形状を成している。なお、第1面S11は、本体10sの表面に施されたハードコート層27によって形成される面である。
第2面S12は、本体10sの表面であり、当該表面にハーフミラー層15が付随している。このハーフミラー層15は、光透過性を有する反射膜(すなわち半透過反射膜)である。ハーフミラー層(半透過反射膜)15は、第2面S12の全体ではなく、第2面S12を主にY軸に沿った鉛直方向に関して狭めた部分領域PA上に形成されている(図2(B)参照)。ハーフミラー層15は、本体10sの下地面のうち部分領域PA上に、金属反射膜や誘電体多層膜を成膜することにより形成される。ハーフミラー層15の映像光GLに対する反射率は、シースルーによる外界光HLの観察を容易にする観点で、想定される映像光GLの入射角範囲において10%以上50%以下とする。具体的な実施例のハーフミラー層15の映像光GLに対する反射率は、例えば20%に設定され、映像光GLに対する透過率は、例えば80%に設定される。
第3面S13は、映像光GLを内面側で全反射させる全反射面として機能する。第3面S13は、眼EYの正面に配されるものであり、第1面S11と同様に、平面形状を成しており、かつ、第1面S11と第3面S13とが互いに平行な面であることにより、第1面S11と第3面S13とを通過させて外界光HLを見たときに、視度が0になっており、特に、変倍も生じさせないものとなっている。なお、第3面S13は、本体10sの表面に施されたハードコート層27によって形成される面である。
第2導光部分12において、第4面S14は、映像光GLを内面側で全反射させる全反射面として機能する。第4面S14は、映像光GLを第2導光部分12内に入射させる屈折面としても機能する。すなわち、第4面S14は、外部から導光部材10に映像光GLを入射させる光入射面と、導光部材10の内部において映像光GLを伝搬させる反射面としての機能を兼用している。なお、第4面S14は、本体10sの表面に施されたハードコート層27によって形成される面である。
第2導光部分12において、第5面S15は、本体10sの表面上に無機材料で形成される光反射膜RMを成膜することで形成され、反射面として機能する。
以上のように、本実施形態では、導光部材10の内部において、映像表示素子82からの映像光を、少なくとも2回の全反射を含む第1面S11から第5面S15までにおける5回の反射によって導光している。これにより、映像光GLの表示と外界光HLの視認させるシースルーとを両立させ、かつ、映像光GLの収差の補正を行うことが可能になる。
光透過部材50は、既述のように導光部材10と一体的に固定され1つの導光装置20となっている。光透過部材50は、導光部材10の透視機能を補助する部材(補助光学ブロック)であり、光学的な機能を有する側面として、第1透過面S51と、第2透過面S52と、第3透過面S53とを有する。ここで、第1透過面S51と第3透過面S53との間に第2透過面S52が配置されている。第1透過面S51は、導光部材10の第1面S11を延長した面上にあり、第2透過面S52は、当該第2面S12に対して接着層CCによって接合され一体化されている曲面であり、第3透過面S53は、導光部材10の第3面S13を延長した面上にある。このうち第2透過面S52と導光部材10の第2面S12とは、薄い接着層CCを介しての接合によって一体化されるため、略同じ曲率の形状を有する。
光透過部材(補助光学ブロック)50は、可視域で高い光透過性を示し、光透過部材50の本体部分は、導光部材10の本体10sと略同一の屈折率を有する熱可塑性樹脂材料で形成されている。なお、光透過部材50は、本体部分を導光部材10の本体10sに接合した後、接合された状態で本体10sとともにハードコートによる成膜がなされて形成されるものである。つまり、光透過部材50は、導光部材10と同様、本体部分の表面にハードコート層27が施されたものとなっている。第1透過面S51と第3透過面S53とは、本体部分の表面に施されたハードコート層27によって形成される面である。
以下、虚像表示装置100における映像光GL等の光路について説明する。映像表示素子(映像素子)82から射出された映像光GLは、投射レンズ30を構成する各レンズ31〜33を通過することによって、収束されつつ、所期の非点収差が与えられ導光部材10に設けた正の屈折力を有する第4面S14に入射する。なお、この非点収差は、導光部材10の各面を経る間に相殺されるものとなっており、最終的に初期の状態で観察者の眼に向けて映像光が射出される。
導光部材10の第4面S14に入射してこれを通過した映像光GLは、収束しつつ進み、第2導光部分12を経由する際に、比較的弱い正の屈折力を有する第5面S15で反射され、第4面S14に内側から再度入射して反射される。
第2導光部分12の第4面S14で反射された映像光GLは、第1導光部分11において、実質的に屈折力を有しない第3面S13に入射して全反射され、実質的に屈折力を有しない第1面S11に入射して全反射される。
ここで、映像光GLは、第3面S13を通過する前後において、導光部材10中に中間像を形成する。この中間像の像面IIは、映像表示素子82の像面OIに対応するものである。なお、図示の中間像の像面IIは、第3面S13から第4面S14までにかけての映像光の光路上において形成されるが、これ以外の位置に形成される場合もあり、本実施形態では、第3面S13から第5面S15までにかけての映像光の光路上において形成されるものとする。
第1面S11で全反射された映像光GLは、第2面S12に入射するが、特にハーフミラー層15に入射した映像光GLは、このハーフミラー層15を部分的に透過しつつも部分的に反射されて第1面S11に再度入射して通過する。なお、ハーフミラー層15は、ここで反射される映像光GLに対して比較的強い正の屈折力を有するものとして作用する。また、第1面S11は、これを通過する映像光GLに対して屈折力を有しないものとして作用する。
第1面S11を通過した映像光GLは、観察者の眼EYの瞳又はその等価位置に略平行光束として入射する。つまり、観察者は、虚像としての映像光GLにより、映像表示素子(映像素子)82上に形成された画像を観察することになる。
一方、外界光HLのうち、導光部材10の第2面S12よりも+X側に入射するものは、第1導光部分11の第3面S13と第1面S11とを通過するが、この際、第3面S13と第1面S11とが互いに略平行な平面となっていることで、収差等をほとんど生じない。つまり、観察者は、導光部材10越しに歪みのない外界像を観察することになる。同様に、外界光HLのうち、導光部材10の第2面S12よりも−X側に入射するもの、つまり、光透過部材50に入射したものは、これに設けた第3透過面S53と第1透過面S51とを通過する際に、第3透過面S53と第1透過面S51とが互いに略平行な平面となっていることで、収差等を生じない。つまり、観察者は、光透過部材50越しに歪みのない外界像を観察することになる。さらに、外界光HLのうち、導光部材10の第2面S12に対応する光透過部材50に入射するものは、第3透過面S53と第1面S11とを通過する際に、第3透過面S53と第1面S11とが互いに略平行な平面となっていることで、収差等をほとんど生じない。つまり、観察者は、光透過部材50越しに歪みの少ない外界像を観察することになる。なお、導光部材10の第2面S12と光透過部材50の第2透過面S52とは、略同一の曲面形状をともに有し、略同一の屈折率をともに有し、両者の隙間が略同一の屈折率の接着層CCで充填されている。つまり、導光部材10の第2面S12や光透過部材50の第2透過面S52は、外界光HLに対して屈折面として作用しない。
ただし、ハーフミラー層15に入射した外界光HLは、このハーフミラー層15を部分的に透過しつつも部分的に反射されるので、ハーフミラー層15に対応する方向からの外界光HLは、ハーフミラー層15の透過率に弱められる。その一方で、ハーフミラー層15に対応する方向からは、映像光GLが入射するので、観察者は、ハーフミラー層15の方向に映像表示素子(映像素子)82上に形成された画像とともに外界像を観察することになる。
導光部材10内で伝搬されて第2面S12に入射した映像光GLのうち、ハーフミラー層15で反射されなかったものは、光透過部材50内に入射するが、光透過部材50に設けた不図示の反射防止部によって導光部材10に戻ることが防止される。つまり、第2面S12を通過した映像光GLが光路上に戻されて迷光となることが防止される。また、光透過部材50側から入射してハーフミラー層15で反射された外界光HLは、光透過部材50に戻されるが、光透過部材50に設けた上述の不図示の反射防止部によって導光部材10に射出されることが防止される。つまり、ハーフミラー層15で反射された外界光HLが光路上に戻されて迷光となることが防止される。
以上のようなシースルー型の構成を有する虚像表示装置100では、光を透過させる露出部分が多くなるため、導光部材10や光透過部材50の表面にシースルーを良好な状態に保つためのハードコート層27を設けることがより重要となる。しかしながら、上記のように、導光部材10や光透過部材50は、複雑な形状を有しており、例えば導光部材10の導光部分に満遍なくコーティングを実施することは、必ずしも容易ではない。具体的には、導光部材10や光透過部材50となるべき基材にハードコート層27を成膜する場合に、原料となるコート液が意図しない箇所で液垂れを生じてしまうことが考えられる。本実施形態では、特にコート液の液垂れを生じさせやすい導光部材10と光透過部材50との接合箇所において、液垂れの発生を抑制する構造を有することで、良好な状態でハードコート層27の成膜を可能としている。
図3及び図4は、虚像表示装置100のうち、導光装置20の構成や作製工程について説明するための図である。
各図のうち、図3(A)は、導光装置20の構造等について概要を説明するための模式的な図である。図示のように、導光装置20は、既述の導光部材10及び光透過部材50のうち、導光部材10に付随する位置決め部CPを有している。位置決め部CPは、導光部材10とともに一体的に形成される板状の部材であり、後述する導光部材10及び光透過部材50を配置する配列方向D1に沿って延びている。位置決め部CPは、例えば互いに平行な一対の板状の部材であることで、投射レンズ30を収納する筐体部(図示略)に対して高い組み付け精度を有するものとなっている。位置決め部CPは、導光装置20のうち、映像光GLを入射させる根元部側に設けられ、導光装置20を投射レンズ30と連結させるための部材である。すなわち、位置決め部CPは、投射レンズ30に対する相対的なアライメントを可能にする部材であり、投射レンズ30との間で嵌合を利用した係止または係合によって姿勢のアライメントを可能にする嵌合部である。すなわち、位置決め部CPは、映像光GLを導光装置20に向けて射出する他の部材である投射レンズ30と、投射レンズ30からの映像光GLを入射させる光入射部である導光部材10との相対的な位置決めを行う部材である。この位置決め部CPやその周辺においても、ハードコート層27の成膜による劣化が回避されるものとしておくことは、重要である。
以下、図3等により、導光装置20の構成や作製工程の詳細について説明する。例えば、図3(A)に示すように、導光装置20では、導光部材10の第1面S11や第3面S13等が、映像光GLを導光する光学面として機能している。また、光透過部材50の第1透過面S51や第3透過面S53等が、外界光HLを透過させる光学面として機能している。これらの光学面は、シースルーを実現させるための露出部分となっており、ハードコート層27を設けることが必要であるとともに、光学面として機能するために、面形状の精度が保たれている必要がある。しかしながら、特に、接合部CNによって接合された導光部材10と光透過部材50との間には、接合による多少の段差が不可避的に生じることがある。特に、導光部材10や光透過部材50となるべき基材の厚みを略平行にするような場合には、段差が生じやすい。これに対して、本実施形態では、図3(A)の一部拡大図に示すように、接合において接合箇所P1側すなわち第1面S11側に形成される接合段差部JDが、導光部材10側において、光透過部材50側よりも突き出させた(飛び出させた)ように形成されている。これにより、導光装置の製造の際に、ハードコート層27の成膜において、コート液の液垂れを防止し、良好な状態に維持されるものとなっている。
以下、図3(B)等を参照して、導光装置の製造工程について説明する。図3(B)及び3(C)は、導光装置の製造工程のうち、導光部材10となるべき第1基材B1と、光透過部材50となるべき第2基材B2とを接合する接合工程について説明するための図である。また、図4は、ハードコート層27を設けるためのディップ処理の工程について説明するための図である。
まず、図3(B)は、図3(A)に示す導光装置20に対して、導光部材10となるべき第1基材B1と、光透過部材50となるべき第2基材B2とを、接合のために配置させた様子を示すものである。すなわち、第1基材B1の接合面である第1接合面BS1と、第2基材B2の接合面である第2接合面BS2とが対向した状態となるように、第1基材B1と第2基材B2とが並べられる。ここでは、図示のように、第1基材B1と第2基材B2とが並ぶ方向を配列方向D1とする。なお、配列方向D1は、図3(A)に示す通り、導光部材10と光透過部材50とが並ぶ方向でもある。また、この際、接合が高精度に維持されるように、第1基材B1と第2基材B2との配置において、第3面S13となるべき平面F1や、第3透過面S53となるべき平面F2を基準としている。より具体的には、第1基材B1を構成する平面F1や第2基材B2を構成する平面F2のうち、平坦度が高く、かつ、光学的には利用されない部分(光学面以外の部分)を、取付け用の治具の基準面(不図示)に当接させることで、第1基材B1と第2基材B2との位置合わせを行っている。
次に、図3(C)は、上記のようにして配列方向D1に沿って並べられた第1基材B1と第2基材B2との接合の様子を示すものである。既述のように、平面F1,F2を基準として高い位置精度で配列方向D1に沿って並べられた第1基材B1と第2基材B2とは、例えば、不図示の取付け治具によって第1基材B1と第2基材B2とのうちの一方が配列方向D1に沿って移動することで接合される(接合工程)。なお、接合に際して、例えば図示のように重力方向Gが、配列方向D1に対して垂直な方向であるようにする場合、重力方向Gに関して下側の面となる第2基材B2の第2接合面BS2上に接着層CCとなるべき接着剤を塗布しておくことで、第1基材B1と第2基材B2とを接合できる。この接合に際しては、図2(B)を参照して説明したように、複数の接合箇所P1〜P4において、各面の接合がなされる。例えば、第1面S11側すなわち第1面S11となるべき平面FF1と第1透過面S51となるべき平面FF2との接合箇所が接合箇所P1であり、第3面S13側すなわち平面F1と平面F2との接合箇所が接合箇所P2である。ここでは、一例として、これらの接合箇所のうち、光入射側から最も遠い位置である平面FF1と平面FF2との接合箇所P1において、接合段差部JDが形成されるものとなっている。特に、この接合段差部JDは、図示のように、配列方向D1に垂直な方向DDに関して、第1基材B1のほうが第2基材B2よりも出っ張った状態となっている。これにより、図4を参照して後述するディップ処理において、当該箇所でのハードコート層27となるべきコート液の制御を所望のものとしている。なお、以上のようにして第1基材B1と第2基材B2とを接合して作製された部材を第3基材BTとする。すなわち、第3基材BTは、第1基材B1と第2基材B2と接合部CNとで構成され、ハードコート層27が成膜されることで、導光装置20となるべき部材である。
以下、図4等を参照して、ハードコート層27を形成するためのコート液のディップ処理を含むハードコート工程について説明する。
図示のように、第3基材BTを吊るした状態とするとともに、コート液CLを満たした処理槽DTを準備する。なお、ここでは、第3基材BTを吊るすための治具の図示を省略するが、第3基材BTは、例えば図示のように、光入射側の位置である取付け位置APで治具に固定されて、吊るされるものとする。また、ここで、第3基材BTを治具に固定させるための取付け位置APを、治具固定位置と呼ぶものとする。言い換えると、接合部CNにおいて接合された第1基材B1及び第2基材B2は、取付け位置AP(治具固定位置)で治具によって固定され吊るされた状態となって、ハードコート層27の成膜を施される、ということになる。この場合、接合された第1基材B1及び第2基材B2(第3基材BT)のうち、取付け位置APから遠い位置ほど、コート液が溜まりやすく、光学面での液垂れの問題が生じやすくなる。すなわち、複数の接合箇所のうち、取付け位置APから最も遠い位置(接合箇所P1)にある接合段差部JDにおいてコート液CLの制御が的確になされることが特に重要になる。なお、この場合、導光装置20の位置決め部CPは、接合部CNよりも相対的に取付け位置APに近い側にあることになる。
取付け位置APから吊るされた場合、第3基材BTにおいて、第1基材B1及び第2基材B2の配列方向D1が、重力方向Gに平行又は略平行となる。見方を変えると、配列方向D1に垂直な方向DDが重力方向Gに対して垂直又は略垂直となる。さらに、第3基材BTのうち、第1基材B1が、重力方向Gに対して相対的に上側となり、第2基材B2が重力方向Gに対して相対的に下側となる。以上の状態において、第3基材BTは、重力方向Gに引き下げられ、処理槽DTに浸り、コート液CLが塗布された状態となった後に、重力方向Gと反対方向に引き上げられる(ディップ処理工程)。ディップ処理の後、コート液CLが流れ落ち、表面を乾燥させることで、ハードコート層27が形成される(ハードコート工程)。
図5(A)は、導光装置20の作製のうち、上記のディップ処理工程によって塗布された後のコート液CLの流れについて説明するための図である。また、図5(B)は、図5(A)の一部拡大図である。なお、図5(A)等において、複数の接合箇所P1〜P4(図2(B)参照)のうち、接合箇所P1や接合箇所P2について示すものとするが、ここでは、上述のように、接合段差部JDは、最も取付け位置APから遠い接合箇所P1に示す箇所にのみ設けられているものとする。接合箇所P2においては、平面F1と平面F2とを接合時の位置合わせの基準面としていることで、段差部が生じないものとなっている。
既述のように、ここでは、第1基材B1と第2基材B2とを並べた方向を配列方向D1としており、図示の状態では、配列方向D1は、重力方向Gに対して平行又は略平行なものとなっている。また、配列方向D1に垂直な方向を、方向DDとしており、方向DDは、重力方向Gに対して垂直又は略垂直なものとなっている。この際に、図5(A)に例示する接合箇所P1や接合箇所P2のうち、最も取付け位置APから遠い側、すなわち図示において最も下方側に位置し、液溜りに伴う液垂れの発生がしやすい接合箇所P1に既述の接合段差部JDが設けられていることになる。
この場合、図5(B)に示す一部拡大図のように、接合段差部JDにおいて、重力方向Gについて第1基材B1が相対的に上部側に位置し、第2基材B2が相対的に下部側に位置しており、かつ、この接合段差部JDが、重力方向Gに垂直又は略垂直な方向DDに関して、第1基材B1(上部基材)を第2基材B2(下部基材)よりも突き出した状態で形成されている。この場合、コート液CLは、矢印A1に示すように第1基材B1の表面である平面FF1から第2基材B2の表面である平面FF2に沿って流動することになる。従って、接合段差部JDによって液溜りとなる部分が形成されないものとなる。つまり、導光装置20の作製に際して、最もコート液CLの液垂れが生じやすくなる接合段差部JDにおいて、液垂れの発生を抑制できる。このことは、図6に示す比較例を見るとさらに良く分かる。
図6に示す比較例のように、図5に示す場合と異なり、接合段差部JDが、重力方向Gに垂直な方向DDに関して、第1基材B1を第2基材B2よりも突き出した状態で形成されるものとすると、重力方向に関して相対的に下側に位置する第2基材B2側において、突出部PPが形成されることになる。この場合、コート液CLは、まず矢印A2に示すように、第1基材B1側から流れ落ちてきたコート液CLが、一旦突出部PPに溜り、その後、矢印A3に示すように、突出部PPが流れ出ることになる。すなわち、突出部PPにおいて、液垂れが発生することになる。これに対して、本実施形態では、図5に示すように、接合段差部JDにおいて、液溜りとなる部分を生じさせない構造となっていることで、液垂れの発生が抑制される。さらに言うと、接合段差部JDが第1基材B1や第2基材B2の表面にコート液CLが溜まったり、垂れたりして、ムラなどを生じさせないための防止構造や逃げ溝といったコート液CLの逃げ代として機能している。以上のように、本実施形態の場合、重力方向Gの反対方向に引き上げることで、接合段差部JDに余剰なコート液CLを溜めることなく落としてコート液CLを薄く均一に塗布した状態にし、液垂れの発生を抑制することができる。これにより、コート液CLが意図しない箇所に溜まること等が防止され、シースルーにおける視野を良好にすることができる。
図5(B)に戻って、接合段差部JDの大きさ、すなわち接合段差部JDにおける高低差dは、0.5mm以下であるものとすることができる。これにより、接合段差部JDにおける高低差が観察者の眼EYにおいて視認されてシースルーの状態に影響してしまう、といった事態を回避できる。なお、接合時の公差として数十ミクロン程度の誤差が生じる可能性が考えられる。これに対して、高低差dの下限を数十ミクロン以上(例えば50ミクロン)とすることで、誤差がある場合であっても、接合段差部JDにおいて、第1基材B1側が突き出した状態を維持できる。なお、ハードコート層27の成膜によって、接合段差部JDの段差形状が、成膜前よりも滑らかになることで、シースルーへの影響を低減させることが可能である。
また、接合に際して、配列方向D1に沿った方向に関する各接合箇所での第1基材B1と第2基材B2との隙間として、図5(B)に例示するギャップg1,g2の大きさを、例えば0.2mm以下、より好ましくは、0.1mm以下とすることができる。これにより、観察者の眼EYにおいて、導光部材10と光透過部材50との隙間が視認されてシースルーに影響を及ぼすことを回避できる。
以上のように、本実施形態では、導光装置20において、導光部材10と光透過部材50とが接合されていることで、映像光GLと外界光HLとを重畳させるシースルーを実現できるものとなっている。この際に、複数の接合箇所P1〜P4のうち、最も液垂れの問題が生じやすい取付け位置AP(治具固定位置)から遠い位置にある接合箇所P1において形成される接合段差部JDが、導光部材10と光透過部材50とを並べた配列方向D1に垂直な方向DDに関して、光透過部材50側よりも導光部材10側において突き出た状態となっている。これにより、最も液溜りが生じやすい箇所で発生する液垂れの問題を回避しつつ、保護用のハードコート層27を光学部品の表面に設けることができる。すなわち、導光装置20は、導光部材10の導光部分における導光や、光透過部材50における外界光HLの視認の性能を、良好な状態に維持できるものとなっている。
また、上述の虚像表示装置100では、映像光GLの入射側の位置決めを行う位置決め部CPは、液溜り等の影響を受けない位置にあるものとなっている。このため、映像光GLの入射側において、ハードコート層27の成膜による導光の劣化を回避することができる。特に、位置決め部CPは、第1基材B1と第2基材B2との配列方向D1に対応するように、これに平行な方向に延びる板状の部材である。位置決め部CPが板状の部材であることで、上述したディップ処理において、位置決め部CPおよびその周辺で液溜り等が生じないものとすることができる。具体的には、位置決め部CPがハードコート時のコート液CLの流れる方向に対して平行又は略平行な状態となることで、光入射側において液溜り等を発生させず、形状精度(形状追従性)を良好に維持し、延いては位置決め精度を高い状態に維持できるものとなっている。
また、上述の虚像表示装置100では、導光部材10において、第1面S11と第3面S13とが互いに略平行な平面とすることによって、外界光について視度誤差を略ゼロとすることができ、特に、見かけの倍率誤差を略ゼロとし、裸眼状態と異ならない状態にすることができる。ここで、倍率誤差は、導光部材のような光透過性の部材を通して外界像を見ると、実際の外界像の大きさよりも拡大又は縮小されて見えてしまうときの誤差を言う。光透過性の部材を通過して観察される外界光は、当該部材が有限の曲率の曲面を有することや、厚さ、屈折率等の影響により、完全な平面である場合を除いて、多かれ少なかれ倍率誤差が生じるものとなる。上記の場合、第1面S11及び第3面S13が平面であることで、見かけの倍率誤差をゼロとすることができるものとなっている。
また、本実施形態の虚像表示装置100では、投射レンズ30等によって導光部材10の内部に中間像が形成されるとともに、第3面S13、第1面S11、及び第2面S12の順に2面以上で全反射された映像光GLが、第1面S11を透過して観察者の眼EYに到達するので、例えば横方向に偏って延びる導光部材10を薄型にして光学系全体を小型で軽量なものにしつつ、広画角で明るい高性能の表示を実現することができる。また、外界光HLについては、例えば第1面S11と第3面S13とを通過させて観察することができ、その際の視度を略0とするので、シースルーで外界光HLを観察する際の外界光HLのデフォーカスや歪みを低減できる。また、導光部材10の形状を、観察者の顔に沿う形とでき、重心も顔に近く、デザインにも優れたものとできる。特に、第1面S11及び第3面S13以外の面である第4面S14等が、面に沿った方向によって曲率が異なっている点が存在する曲面となっていることにより、導光部材10を小型のものとし、延いては虚像表示装置100全体の小型化、軽量化を図ることができるものとなっている。
図7は、本実施形態の一変形例の導光装置20の作製について説明する図である。図5(A)等に示す一例では、複数の接合箇所のうち、最も取付け位置APから遠い接合箇所P1に示す箇所にのみ接合段差部JDが設けられているものとしているが、これに限らず複数の接合箇所に接合段差部を設けるものとしてもよい。本変形例では、接合箇所P1や接合箇所P2との双方について接合段差部を設ける構成としている。具体的には、本変形例では、図7(A)及び7(B)に示すように、接合箇所P1と接合箇所P2のうち、最も遠い側である接合箇所P1には、第1接合段差部JD1が形成され、接合箇所P1には、第2接合段差部JD2が形成されているものとする。なお、接合箇所P1に設けられた第1接合段差部JD1については、図5(A)等に示す接合段差部JDの場合と同様であるので、詳しい説明を省略する。接合箇所P2は、図示のように、第3面S13となるべき平面F1と第3透過面S53となるべき平面F2との間の接合箇所である。すなわち、第2接合段差部JD2は、第1基材B1側の平面F1と第2基材B2側の平面F2との間にできる段差部である。図示のように、第2接合段差部JD2も、第1基材B1(導光部材10)と第2基材B2(光透過部材50)とを並べた配列方向D1に垂直な方向DDに関して、光透過部材50側よりも導光部材10側において突き出た状態となっている。この場合、コート液CLは、矢印A4に示すように第1基材B1の表面である平面F1から第2基材B2の表面である平面F2に沿って流動することになる。本変形例の場合も、導光装置20は、導光部材10の導光部分における導光や、光透過部材50における外界光HLの視認の性能を、良好な状態に維持できるものとなっている。図5(A)等に示す例では、接合箇所P2においては、平面F1と平面F2とを接合時の位置合わせの基準面としていることで、段差が生じないものとしているが、このような態様としない、或いはすることができない、といった場合であっても、上記のように複数の箇所において接合段差部を設けることができる。
〔その他〕
以上各実施形態に即して本発明を説明したが、本発明は、上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
上記実施形態では、ハードコート層27は、ディップ処理によって成膜されるものとしているが、所定の膜厚で成膜でき、各光学面の精度が維持できるものであれば、成膜方法については、ディップ処理に限らず、通常のコート方式やスプレー方式、スピンコート方式、ロールコート方式、湿式・乾式のコート方式等も適用可能である。上記の場合、接合段差部JDがコート液CLの防止構造や逃げ溝といった逃げ代として機能することで、ハードコート層27を所定の膜厚に成膜しやすくなる。
上記の説明では、投射レンズが有する非軸対称非球面を1面としているが、投射レンズが2面以上の非軸対称非球面を有するものとすることも可能である。
また、上記の説明では、外界光について視度誤差を略ゼロとし、見かけの倍率誤差を略ゼロとして裸眼状態と異ならない状態にするために、第1面S11と第3面S13とが互いに略平行な平面とするものとしているが、第1面S11や第3面S13を曲面形状で構成するものとしてもよい。
上記の説明では、ハーフミラー層(半透過反射膜)15が横長の矩形領域に形成されるとしたが、ハーフミラー層15の輪郭は用途その他の仕様に応じて適宜変更することができる。また、ハーフミラー層15の透過率や反射率も用途その他に応じて変更することができる。
上記の説明では、映像表示素子82における表示輝度の分布を特に調整していないが、位置によって輝度差が生じる場合等においては、表示輝度の分布を不均等に調整することができる。
上記の説明では、画像表示装置80として、透過型の液晶表示デバイス等からなる映像表示素子82を用いているが、画像表示装置80としては、透過型の液晶表示デバイス等からなる映像表示素子82に限らず種々のものを利用可能である。例えば、反射型の液晶表示デバイスを用いた構成も可能であり、液晶表示デバイス等からなる映像表示素子82に代えてデジタル・マイクロミラー・デバイス等を用いることもできる。また、画像表示装置80として、LEDアレイやOLED(有機EL)などに代表される自発光型素子を用いることもできる。
上記実施形態では、透過型の液晶表示デバイス等からなる画像表示装置80を用いているが、これに代えて走査型の画像表示装置を用いることもできる。
また、上記実施形態では、導光部材10と補助光学ブロックである光透過部材50とが装着者の眼EYの前全体を覆うような構成となっているが、これに限らず、ハーフミラー層15を有する曲面形状である第2面S12を含んだ部分が眼EYの一部のみを覆っている、すなわち眼前の一部を覆い、覆わない部分も存在する小型の構成としてもよい。
上記の説明では、一対の表示装置100A,100Bを備える虚像表示装置100について説明しているが、単一の表示装置とできる。つまり、右眼及び左眼の双方に対応して、一組ずつ投射透視装置70及び画像表示装置80を設けるのではなく、右眼又は左眼のいずれか一方に対してのみ投射透視装置70及び画像表示装置80を設け、画像を片眼視する構成にしてもよい。
上記の説明では、ハーフミラー層15が単なる半透過性の膜(例えば金属反射膜や誘電体多層膜)であるとしたが、ハーフミラー層15は、平面又は曲面のホログラム素子に置き換えることができる。
上記の説明では、導光部材10等が眼EYの並ぶ横方向に延びているが、導光部材10を縦方向に延びるように配置することもできる。この場合、導光部材10は、直列的ではなく並列的に平行配置された構造を有することになる。