JP2015108102A - 抗菌性再生シルク及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
特許文献3には、効果の程度は不明であるが、絹フィブロインが抗菌性を持つことの記載がある。
特許文献4には、尿素とメルカプトエタノールとを含む水溶液を用いて繭からセリシンを除去してフィブロインを得ることの記載がある。
特許文献5には、セリシンとフィブロインとをヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に溶解した溶液を用いて静電紡糸して、繊維を得ることの記載がある。
本発明の抗菌性再生シルクは、チオシアン酸イオンが水素結合したβシート構造を含むフィブロインよりなることを特徴とする。βシート構造(直鎖構造)には、平行βシートと逆平行βシートがある。
(B1)第1方法
本発明の第1の抗菌性再生シルクの製造方法は、シルクを脱セリシン処理して得たフィブロインを、チオシアン酸イオンを有するpH5以下の可溶化液に溶解させてから、可溶化液を減少させて固形のフィブロインを生成し、
生成したフィブロインを有機溶媒に溶解させて所定形状に成形し、
成形したフィブロインを加熱して、抗菌性が発現するまで有機溶媒の残存量を減少させることを特徴とする。
本発明の第2の抗菌性再生シルクの製造方法は、シルクを脱セリシン処理して得た糸状のフィブロインに、チオシアン酸塩の水溶液を接触させることを特徴とする。
原料であるシルクは、特に限定されないが、シルク製の衣料品等の廃品や端材等から得られたものや、蚕の繭から得られたもの等を例示できる。蚕は、特に限定されないが、家蚕であってもよいし、野蚕であってもよい。
可溶化液は、チオシアン酸塩の水溶液であり、チオシアン酸塩以外の不純物を実質的に含まないことが好ましい。不純物を含むほど、HSCNによる抗菌性が妨げられると考えられるからである。
チオシアン酸塩としては、特に限定されないが、チオシアン酸リチウム(LiSCN)を例示できる。
水溶液のチオシアン酸塩濃度は、特に限定されないが、質量比で水の1〜1.3倍、すなわち、水100gに対してチオシアン酸塩100〜130gを例示できる。
フィブロインに対する水溶液の量は、特に限定されないが、質量比でフィブロインの30〜100倍、すなわち、フィブロイン1gに対して水溶液30〜100gを例示できる。
水溶液の液温は、特に限定されないが、20〜40℃を例示できる。
チオシアン酸塩を減少させる方法としては、透析、限外ろ過、ゲルろ過クロマトグラフィー、脱塩カラム等を例示でき、処理量によって使い分けることができることから、透析が好ましい。
水を減少させる方法としては、凍結乾燥、熱風乾燥等を例示でき、多孔質状の乾燥フィブロインが得られる(後で有機溶媒に溶け易い)ことから、凍結乾燥が好ましい。
フィブロインに対する有機溶媒の量は、特に限定されないが、乾燥フィブロイン1gに対して有機溶媒6〜20mLを例示できる。
有機溶媒の液温は、特に限定されないが、30〜60℃を例示できる。
チオシアン酸塩としては、特に限定されないが、チオシアン酸アンモニウム(NH4SCN)、チオシアン酸カリウム(KSCN)等を例示できる。
水溶液のチオシアン酸塩濃度は、特に限定されないが、質量比で水の0.05〜0.5倍、すなわち、水100gに対してチオシアン酸塩5〜50gを例示できる。
フィブロインに対する水溶液の量は、特に限定されないが、質量比でフィブロインの10〜20倍、すなわち、フィブロイン1gに対して水溶液10〜20gを例示できる。
水溶液の液温は、特に限定されないが、20〜40℃を例示できる。
1.脱セリシン処理・洗浄工程
家蚕の繭20個を切りきざんで得た9.0gの原料繭を、尿素、メルカプトエタノール及びトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris)を水に溶かした400mLの処理水(尿素濃度が8M、メルカプトエタノール濃度が2体積%、Tris濃度が50mM)に入れ、80℃で8時間攪拌して、原料繭に含まれているセリシンを処理水中に溶解させた。
その後、この処理水から不溶分のシルク(フィブロイン)をろ別し、ろ別で得られたフィブロインを蒸留水で洗浄した後、30℃の恒温槽中に約半日間静置して乾燥し、6.7gのフィブロインを得た。
表1に示すとおり、チオシアン酸リチウムとして、キシダ化学株式会社の旧品(以下「キシダ旧品」という。)と、キシダ化学株式会社の現行品(以下「キシダ現行品」という。)と、三津和化学薬品株式会社の現行品(以下「三津和品」という。)の3種を130gずつ100mLの水に溶かし、次に述べる水不溶物質(浮遊物)をろ過により除去して、3種の水溶液を作成した。なお、後述する表3〜表5の再生シルクは、キシダ旧品を使用したものである。
また、各水溶液のろ液のpHを、pHメータ(堀場製作所製、D−51)により測定した。
また、各水溶液の不純物を、イオンクロマトグラフィー(日本ダイオネクス社製、DX−100、DX−500,ICS−3000)、核磁気共鳴装置(NMR)(Bruker BioSpin社製、AVANCE500型、温度27℃、積算32回、Cyroプローブ)により測定した。
これらの測定結果を表1、表2(三津和品のpH)に示すとおり、チオシアン酸リチウム塩は、メーカーが異なると、また同一メーカーでもロットが異なると、水不溶物質(浮遊物)の有無と種類、pH、不純物の種類と量が異なる。なお、表1の抗菌性(大腸菌生菌対数)の欄については後述する。
上記で得られた約200mLのフィブロイン水溶液を、再生セルロースからなる10本の透析チューブに約20mLずつ入れた後、処理されるフィブロイン水溶液の約50〜65倍の量(体積)の蒸留水が入れられた容器に各透析チューブを4〜6日間浸して、透析によりチオシアン酸リチウムを除去した。なお、各透析チューブを蒸留水に浸している期間中、各容器中の蒸留水を1日に2回入れ替えた。
上記で得られた、チオシアン酸リチウムが除去された各フィブロイン水溶液を、四等分し、それぞれを−50℃のエタノール浴中に約1時間静置して予備凍結を行った後、1〜2日間凍結乾燥を行い、6.0gの多孔質状の乾燥フィブロインを得た。
上記で得られた乾燥フィブロインを1gにつき、10mLのヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に入れ、すなわち、HFIPに対してフィブロインを約10質量%入れ、密閉し、50℃で2日間攪拌して、フィブロインHFIP溶液を得た。
また、上記「2.チオシアン酸塩水溶解処理」でキシダ旧品を使用したものの一部については、HFIPに対してフィブロインを約30質量%入れ、同様の方法でHFIP溶液を得た。このフィブロインの質量%は、後述する表3の繊維種類の欄に括弧書きした。
上記で得られたフィブロインHFIP溶液を、内径0.25mm、長さ10mmのノズルが付けられた2.5mLのシリンジに入れ、ノズルの先端部をエタノール中につけた状態で、フィブロインHFIP溶液をノズルの先端開口からエタノール中に吐出し、糸中のHFIP量を減少させて、フィブロインを糸状に成形してなる、直径が約120μmの再生シルクを得た。
また、上記「2.チオシアン酸塩水溶解処理」でキシダ旧品を使用したものの一部については、直径が約45μmの再生シルクも、同様の方法で作成した。この直径約45μmは、後述する表3の繊維種類の欄に但し書きした。但し書きのないものは直径約120μmである。
上記で得られた糸状の再生シルクを、3種のオートクレーブの内部に置き、それぞれ121℃、100kPa、15分の条件で高温高圧蒸気処理をした。3種のオートクレーブは下記の場所に設置されているものであり、後述する表3のオートクレーブ先の欄には下記の略号を記載した。
N:日本食品分析センターに設置のオートクレーブ
Q:日本繊維製品評価センターに設置のオートクレーブ
TG:豊田合成社(本出願人)に設置のオートクレーブ
上記「2.チオシアン酸塩水溶解処理」でキシダ旧品を使用したもののについて、HFIPの残存量の測定結果を、表3(No.1,2,4〜9)に示す。なお、表3のNo.10は、No.1と同様に得られた再生シルクをアセトンで洗浄処理してからオートクレーブ処理したものである。
上記「2.チオシアン酸塩水溶解処理」で三津和化学品を使用したものは、オートクレーブ先がTG(上記略号)であり、HFIPの残存量が約100ppmであった。
上記の製造方法で得られた糸状再生シルクを、JIS L1902:2008(繊維製品の抗菌性試験方法及び抗菌効果)に準拠して抗菌性試験した。標準布には綿(無加工)を用いた。
定量試験:菌液吸収法
生菌数の測定法:混釈平板培養法
試験菌種:大腸菌(NBRC3301、グラム陰性の桿菌で通性嫌気性菌)
:黄色ぶどう球菌(NBRC12732、グラム陽性の球菌で通性嫌気性菌)
:ミュータンス菌(IFO13955、グラム陽性の連鎖球菌で通性嫌気性菌)
:カンジダ(NBRC1594、真菌に属する無色の不完全酵母)
検体数:各試料3
検体重さ:0.2g
接種菌液量:0.1mL
試験菌懸濁液:非イオン界面活性剤0.05%添加
バイアル瓶中に検体(0.2g)を入れ、菌液(0.1mL)を検体に接種した後、バイアル瓶のキャップを締める。その後、37℃で18時間培養した。その後、検体から菌を洗い出して、生菌数を測定した。
各試料ごとに生菌数の常用対数値の平均値(以下「生菌対数」という。)を求めた。各試料とも接種直後の生菌対数は4であり(すなわち1.0×104個)、培養後の生菌対数が4未満であった場合を抗菌性あり、4以上であった場合を抗菌性なしと評価した。
(1)抗菌性試験結果その1(チオシアン酸リチウム塩の影響)
表1の抗菌性(大腸菌生菌対数)の欄に示すように、上記「2.チオシアン酸塩水溶解処理」でキシダ旧品を使用した再生シルク(表2のNo.9)は、生菌対数が1.3未満であり、顕著な抗菌性があった。これは、チオシアン酸塩水溶液がpH5以下であったことにより、フィブロインのβシート構造が多くなり、そのβシート構造にチオシアン酸イオンが水素結合し、HSCNによる抗菌性が発揮されたためと考えられる。また、水溶液の不純物の種類と量が少なかったことにより、不純物が再生シルクに付着してHSCNによる抗菌性を阻害するようなこともなかったためと考えられる(図1、図2参照)。
上述のとおり、表3のNo.1,2,4〜10の再生シルクは、「2.チオシアン酸塩水溶解処理」でキシダ旧品を使用したものであり、そのうちNo.10はオートクレーブ処理前にアセトン処理したものである。
表3に示すとおり、まず、HFIPの残存量が10000ppm以上と極端に多いNo.1,2の再生シルクは、大腸菌と黄色ぶどう球菌に対して抗菌性があり、ミュータンス菌とカンジダ菌に対しては抗菌性がなかった。これは、HFIPによる特定の菌に対する抗菌作用であると考えられる(表6参照)。
次に、HFIPの残存量が650ppm以下と少ないNo.7〜9の再生シルクは、抗菌性があった。これは、上述したとおり、βシート構造におけるHSCNによる抗菌性が、HFIPにより阻害されずに発揮されたためであると考えられる。なお、各菌に対する抗菌性については、次の(3)で他繊維と比較説明する。
次に、アセトン処理したNo.10の再生シルクは、抗菌性がなかった。これは、アセトン処理によりαヘリックス構造が増大したためではないかと考えられる。
なお、参考例としての、HFIPを接触させてからオートクレーブ処理したNo.3の天然シルクは、抗菌性がなかった。また、標準布の綿(無加工)にも、抗菌性はなかった。
さらに、比較例として、次の各繊維についても上記と同様の抗菌性試験を行った。表4及び図4に各繊維の生菌対数を示すとともに、表3の標準布(綿)とNo.8の再生シルクの測定結果を並記した。
・繭繊維(上記「1.脱セリシン処理・洗浄工程」を行う前の繊維)
・脱セリシン繭繊維(上記「1.脱セリシン処理・洗浄工程」のみ行って得た繊維)
・ポリエステル繊維(PET繊維)
・ナイロン繊維
表3のNo.1,4,8,10の再生シルクについて、図5に示すようにして水のなじみ(疎水性)を調べた。すなわち、微小な水滴を注射針の先端に作製し、注射針ごと再生シルクに近付け、その水滴を横方向にピンと張った再生シルクに接触させて10秒程度静置した後、注射針をゆっくり遠ざけていった場合に、図5(a)に示すように水が再生シルクにくっついていたときは、水のなじみが強い(○)と評価し、図5(b)に示すように水が注射針側にくっついていったときは、水のなじみが弱い(×)と評価した。
そこで次に、表3の抗菌性があるNo.7の再生シルクと、アセトン洗浄処理して抗菌性がないNo.10の再生シルクと、No.3の天然シルクについて、FT−IR(Varian社製、Varian−700、ATR法 積算回数512回)により、タンパク質の構造分析をした。その分析結果(ピークの面積比)を表5に示す。
以上から、上述した本発明の抗菌性発現のメカニズム(βシート構造にチオシアン酸イオンが水素結合し、HSCNによる抗菌性が発揮される)は、妥当なものと考えられる。
水にHFIPを加え、各種濃度のHFIP水溶液を調整した。この水溶液の抗菌性試験を、一般細菌数評価SCDLP寒天平板培養法(日本食品分析センター)に準拠して行った結果を表6に示す。
一般に菌の細胞膜表面はマイナス電荷であり、一般的な市販抗菌剤はプラス電荷(例Ag+)をもっているために抗菌性を発現していると考えられる。そこで、本発明の再生シルクも表面電荷が関係している可能性があると考えて、その検証をした。
1.脱セリシン処理・洗浄工程
実施例1と同じである。
チオシアン酸アンモニウム1.93gを7.2mLの水に溶かし、その水溶液(pH4.8)に上記「1.脱セリシン処理・洗浄工程」で得られた糸状のフィブロイン0.5gを24時間浸漬した。
また、チオシアン酸カリウム0.37gを7.2mLの水に溶かし、その水溶液(pH5.7)に上記「1.脱セリシン処理・洗浄工程」で得られた糸状のフィブロイン0.5gを24時間浸漬した。
チオシアン酸アンモニウム水溶液に浸漬した後の糸状のフィブロインは、水中で30分、手もみして洗浄した。
チオシアン酸カリウム水溶液に浸漬した後の糸状のフィブロインは、水中で40分、スターラー撹拌して洗浄した。
上記糸状のフィブロインを、オートクレーブに入れ、それぞれ121℃、100kPa、15分の条件で高温高圧蒸気処理した。
抗菌性試験方法は実施例1と同じである。接種直後の生菌対数は4であり、培養後の生菌対数が4未満であった場合を抗菌性あり、4以上であった場合を抗菌性なしと評価できる。
Claims (13)
- チオシアン酸イオンが水素結合したβシート構造を含むフィブロインよりなることを特徴とする抗菌性再生シルク。
- フィブロインは、αヘリックス構造とβシート構造とを含み、αヘリックス構造よりもβシート構造が多い請求項1記載の抗菌性再生シルク。
- フィブロインは、有機溶媒に溶解させて所定形状に成形したものであり、有機溶媒の残存量が650ppm以下である請求項1又は2記載の抗菌性再生シルク。
- フィブロインは、有機溶媒を含まない請求項1又は2記載の抗菌性再生シルク。
- グラム陰性菌及びグラム陽性菌に対して抗菌性を有する請求項1〜4のいずれか一項に記載の抗菌性再生シルク。
- 真菌に対しても抗菌性を有する請求項5記載の抗菌性再生シルク。
- シルクを脱セリシン処理して得たフィブロインを、チオシアン酸イオンを有するpH5以下の可溶化液に溶解させてから、可溶化液を減少させて固形のフィブロインを生成し、
生成したフィブロインを有機溶媒に溶解させて所定形状に成形し、
成形したフィブロインを加熱して、抗菌性が発現するまで有機溶媒の残存量を減少させることを特徴とする抗菌性再生シルクの製造方法。 - 可溶化液は、チオシアン酸塩の水溶液であり、チオシアン酸塩以外の不純物を実質的に含まない請求項7記載の抗菌性再生シルクの製造方法。
- 可溶化液を減少させるには、チオシアン酸塩を減少させてから、水を減少させて行う請求項8記載の抗菌性再生シルクの製造方法。
- 有機溶媒は、ヘキサフルオロイソプロパノールである請求項7〜9のいずれか一項に記載の抗菌性再生シルクの製造方法。
- 所定形状は、糸状又はフィルム状である請求項7〜10のいずれか一項に記載の抗菌性再生シルクの製造方法。
- 加熱は、オートクレーブによる高温高圧水蒸気処理である請求項7〜11のいずれか一項に記載の抗菌性再生シルクの製造方法。
- シルクを脱セリシン処理して得た糸状のフィブロインに、チオシアン酸塩の水溶液を接触させることを特徴とする抗菌性再生シルクの製造方法。
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