JP6350396B2 - 抗菌性再生シルクの製造方法 - Google Patents
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Description
シルクを脱セリシン処理して得たフィブロインを、チオシアン酸イオンを有する可溶化液に溶解させ(溶解処理)、
可溶化液を減少させて固形のフィブロインを生成し(固形化処理)、
生成したフィブロインを有機溶媒に溶解させ(再溶解処理)、
溶解したフィブロインを所定形状に成形し(成形処理)、
成形したフィブロインを加熱し(加熱処理)、
加熱後のフィブロインを水洗する(水洗処理)
ことを特徴とする。
まず、チオシアン酸イオン(SCN−)が、フィブロインに水素結合することにより、HSCNとして安定的に存続する。そのHSCNには抗菌性があると考えられる。しかも、その結合先がβシート構造(直鎖構造)であることにより、HSCNによる抗菌性が発揮されやすくなると考えられる。
また、加熱処理時に分子鎖が切断または加水分解され、親水性が向上していると考えられる。
これに加えて、最後に行う水洗により再生シルクが親水化され、菌にダメージを与えると考えられる。
原料であるシルクは、特に限定されないが、シルク製の衣料品等の廃品や端材等から得られたものや、蚕の繭から得られたもの等を例示できる。蚕は家蚕でも野蚕でもよい。
チオシアン酸イオンを有する可溶化液としては、チオシアン酸塩の水溶液を例示でき、チオシアン酸塩以外の不純物を実質的に含まないことが好ましい。不純物を含むほど、HSCNによる抗菌性が妨げられると考えられるからである。チオシアン酸塩としては、特に限定されないが、チオシアン酸リチウム(LiSCN)を例示できる。
水溶液のチオシアン酸塩濃度は、特に限定されないが、質量比で水の1〜1.3倍、すなわち、水100gに対してチオシアン酸塩100〜130gを例示できる。
フィブロインに対する水溶液の量は、特に限定されないが、質量比でフィブロインの30〜100倍、すなわち、フィブロイン1gに対して水溶液30〜100gを例示できる。
水溶液の液温は、特に限定されないが、20〜40℃を例示できる。
可溶化液を減少させるには、特に限定されないが、チオシアン酸塩を減少させてから、水を減少させて行う態様を例示できる。
チオシアン酸塩を減少させる方法としては、透析、限外ろ過、ゲルろ過クロマトグラフィー、脱塩カラム等を例示でき、処理量によって使い分けることができることから、透析が好ましい。
水を減少させる方法としては、凍結乾燥、熱風乾燥等を例示でき、多孔質状の乾燥フィブロインが得られる(後で有機溶媒に溶け易い)ことから、凍結乾燥が好ましい。
有機溶媒としては、特に限定されないが、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)、フルオロアセトン(HFA)等を例示でき、フィブロインの溶解性が高く、高濃度のフィブロイン有機溶液が得やすいことから、HFIPが好ましい。
フィブロインに対する有機溶媒の量は、特に限定されないが、乾燥フィブロイン1gに対して有機溶媒6〜20mLを例示できる。
有機溶媒の液温は、特に限定されないが、30〜60℃を例示できる。
成形する所定形状としては、特に限定されないが、糸状、フィルム状等を例示できる。糸状は中実糸でも中空糸でもよい。
糸状に成形する方法としては、溶解したフィブロインをアルコール中に押し出す方法を例示できる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等を例示できる。
加熱の方法としては、特に限定されないが、オートクレーブによる高温高圧水蒸気処理を例示できる。
水洗の方法としては、特に限定されないが、次の方法を例示できる。
(1)容器に所定量溜めた水中でフィブロインを水洗した後、水を入れ替え、新たな水中で再び水洗する、いわゆる溜めすすぎの繰り返し
(2)水が少しずつ溢れ出るように容器に注水し続けている水中でフィブロインを水洗する、いわゆる注水すすぎ
(3)流れる水にフィブロインを流れないように接触させて水洗する方法
その後、この処理水から不溶分のフィブロインをろ別し、ろ別で得られたフィブロインを蒸留水で洗浄した後、30℃の恒温槽中に約半日間静置して乾燥し、6.7gのフィブロインを得た。
表1に水洗条件を示すように、糸を、ビーカーに溜めた常温の超純水に浸漬し(糸1gに対し超純水300mL使用)、約1日静置した。超純水としては、メルク株式会社メルクミリポアの超純水装置で作られたいわゆる「ミリQ水」を用いた(以下同じ)。その後、ビーカー内の超純水を新たな超純水に入れ替えて浸漬を再開し、約1日静置した。この超純水の入れ替えを2回したものと、5回したものと、8回したものとを行い、最後に超純水から取り出した糸を乾燥した。水洗回数は、最初の超純水での水洗を1回目とし、これに、超純水を入れ替えて水洗した回数(水入替回数)を加えた合計回数である。
また、比較例として、上記加熱後のままの糸、すなわち上記水洗をしないものを設定した。
表2に上から順に示す第1〜第4の水洗条件で、それぞれ糸を水洗した。これらの水洗条件は、上記(1)の水洗条件に対して、次の点で相違し、その余は共通するものである。
第1の水洗条件では、超純水の入替回数を1回とし、入れ替えの前も後も超純水の水温を50℃にして維持した。
第2の水洗条件では、超純水の入替回数を1回とし、入れ替えの前も後も浸漬の間中、スターラーで超純水を攪拌状態にした。
第3の水洗条件では、超純水の入替回数を1回とし、入れ替えの前も後も界面活性剤としてのポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート(tween80)を0.03質量%添加した超純水を用いた。
第4の水洗条件では、超純水の入替回数を1回とし、入れ替えの前も後も超音波洗浄機を用いて20分×3回超音波をかけた。
上記の製造方法で得られた糸(抗菌性再生シルク)について、JIS L1902:2008(繊維製品の抗菌性試験方法及び抗菌効果)に準拠して抗菌性試験した。また、標準布としての綿(無加工)についても、同様に抗菌性試験した。
定量試験:菌液吸収法
生菌数の測定法:混釈平板培養法
試験菌種:大腸菌(NBRC3301、グラム陰性の桿菌で通性嫌気性菌)
検体数:各試料3検体
検体重さ:0.2g
接種菌液量:0.1mL
試験菌懸濁液:非イオン界面活性剤0.05%添加
バイアル瓶中に検体(0.2g)を入れ、菌液(0.1mL)を検体に接種した後、バイアル瓶のキャップを締める。その後、37℃で18時間培養した。その後、検体から菌を洗い出して、生菌数を測定した。
各試料とも接種直後の生菌対数は4である(すなわち1.0×104個)。
そして、各試料ごとに培養後の生菌数の常用対数値(以下「生菌対数値」という。)の3検体の値とその平均値を求めた。
本明細書では、培養後の生菌対数値が6未満であった場合を広義の抗菌性があると評価し、6以上であった場合を広義の抗菌性がないと評価した。広義の抗菌性とは、培養後に生菌対数値が4未満である(すなわち生菌が減少する)狭義の抗菌性と、培養後に生菌対数値が4以上6未満である(すなわち生菌の増加が抑制される)静菌性とを含むものである。
標準布としての綿(無加工)は、培養後の生菌対数値(平均値)が7.4であったから、抗菌性はない。
(1)水洗回数の影響を調べるための水洗をしたもの
表1及び図1に示すとおり、水洗しなかったもので培養後の生菌対数値(平均値)は6.7であり、標準布と比べると生菌の増加が少なかった。これは、上述したHSCNによる作用と考えられる。そして、水洗したもので生菌対数値(平均値)が5.2以下となったのは、上述した再生シルクの親水化による作用が加わったためと考えられ、水洗回数が多いものほど値が小さいのは、その親水化がより進んだためと考えられる。この結果から、上記製造後の抗菌性再生シルクを、使用者が水洗(洗濯)しても、抗菌性が低下しないことが推認できる。
表2に示すとおり、超純水の水温を50℃に第1の水洗条件では、上記(1)で水洗回数が6回の場合と、培養後の生菌対数値(平均値)が同程度であった。水温を高くすると、親水化が早く進むと考えられる。
攪拌状態にした第2の水洗条件では、上記(1)で水洗回数が9回の場合と比べても、培養後の生菌対数値(平均値)が小さかった。攪拌すると、親水化が早く進むと考えられる。
界面活性剤を添加した第3の水洗条件では、界面活性剤を添加しない場合と比べて、あまり差異はなかった。
超音波をかけた第4の水洗条件では、界面活性剤をかけない場合と比べて、あまり差異はなかった。
また、上記の製造方法で得られた糸(抗菌性再生シルク)は、再溶解時に含まれたはずの有機溶媒がほとんど残留していない。よって、この抗菌性再生シルクは、生体適合性、無毒性及び安全性があり、人体に触れる箇所(例えば体内や皮膚表面など)でも使用することができる。
Claims (1)
- シルクを脱セリシン処理して得たフィブロインを、チオシアン酸イオンを有する可溶化液に溶解させ、
可溶化液を減少させて固形のフィブロインを生成し、
生成したフィブロインを有機溶媒に溶解させて所定形状に成形し、
成形したフィブロインを加熱し、
加熱後のフィブロインを水洗する
ことを特徴とする抗菌性再生シルクの製造方法。
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JP2015110326A JP6350396B2 (ja) | 2015-05-29 | 2015-05-29 | 抗菌性再生シルクの製造方法 |
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JP2015110326A JP6350396B2 (ja) | 2015-05-29 | 2015-05-29 | 抗菌性再生シルクの製造方法 |
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