JP2015086437A - 方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】焼鈍分離剤にアルカリ金属化合物を添加したときに発生するコイル外巻部の形状不良を解消し、被膜性状に優れる方向性電磁鋼板を製造する方法を提案する。【解決手段】mass%で、C:0.002〜0.10%、Si:2.0〜8.0%、Mn:0.005〜1.0%を含有する鋼素材を熱間圧延し、冷間圧延し、一次再結晶焼鈍又は脱炭焼鈍を兼ねた一次再結晶焼鈍を施し、MgOを主剤とし、アルカリ金属化合物を含有する焼鈍分離剤を鋼板表面に塗布し、仕上焼鈍して方向性電磁鋼板の製造する際、上記一次再結晶焼鈍の加熱過程における500〜700℃間の昇温速度Sを40〜250℃/sとし、上記焼鈍分離剤におけるMgO100質量部に対するアルカリ金属化合物の合計含有量Wを0.01〜1.0質量部とするとともに、上記Wに対するSの比(S/W)が100〜4000の範囲となるよう、Sおよび/またはWを制御する。【選択図】図2

Description

本発明は、方向性電磁鋼板の製造方法に関し、具体的には、優れた被膜特性を有しかつ仕上焼鈍後のコイル形状に優れる方向性電磁鋼板の製造方法に関するものである。
方向性電磁鋼板は、主にトランスの鉄心材料として用いられており、磁気特性に優れていること、特に鉄損特性に優れていることが求められる。そこで、方向性電磁鋼板は、二次再結晶焼鈍を施すことにより、鋼板中の結晶粒の方位を{110}<001>方位、いわゆるGoss方位に高度に揃えている。上記二次再結晶焼鈍は、それに続いて最高温度で1200℃付近まで加熱する純化焼鈍と合せると、10日程度の焼鈍時間を要するため、コイルに巻いた状態で、バッチ炉で焼鈍するのが普通である。なお、上記二次再結晶焼鈍と純化焼鈍を纏めて、一般に、「仕上焼鈍」と称している。
また、上記仕上焼鈍では、焼鈍中にフォルステライト質の被膜を形成させるのが普通である。上記フォルステライト質被膜は、一次再結晶焼鈍(脱炭焼鈍)時に鋼板表面に形成されるSiOを主体としたサブスケールと、一次再結晶焼鈍(脱炭焼鈍)後に鋼板表面に塗布したMgOを主剤とする焼鈍分離剤とが、下記式;
2MgO+SiO→MgSiO
の反応を起こすことにより形成される。このフォルステライト質被膜は、鋼板表面に引張応力を付与して磁気特性を改善する効果を発現させるため、また、絶縁性や耐食性を確保するため、高い密着性を有するとともに均一で欠陥の無いことが求められている。
このようなフォルステライト質被膜を得る方法については、これまで多くの提案がなされている。例えば、特許文献1には、鋼素材中に副インヒビター成分を含有させた場合に生じる被膜欠陥を防止するために、焼鈍分離剤中にアルカリ金属化合物を含有させる技術が開示されている。また、特許文献2には、脱炭焼鈍後における酸化膜の(Fe,Mn)−Oを所定の範囲に制御するとともに、焼鈍分離剤中に、融点が1000℃以下の塩素化合物と、アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物を含有させることにより、磁気特性と被膜特性を両立させる技術が開示されている。
しかし、発明者らの調査によれば、上記技術のように、焼鈍分離剤中にアルカリ金属化合物を含有させると、仕上焼鈍後のコイルに変形が生じるという問題があることが明らかになってきた。このコイル変形は、図1に示したように、コイル外巻(外周)の数巻分の鋼板がずり落ち、下部の鋼板端部が座屈して膨れたような形状となる現象である(以降、この現象を「バックリング」という)。このバックリングが発生すると、コイルを巻き戻して次工程の平坦化焼鈍ラインに通板する際、座屈した鋼板端部に亀裂が入り、破断を起こすことがある。したがって、バックリングが生じたコイルは、事前にバックリング部分を除去する必要があり、歩留り低下や作業能率の低下を招く原因となっている。
なお、仕上焼鈍時に起こるコイル形状不良には、コイル側縁部の側歪や外巻に発生するしわ状の形状不良など種々あり、それぞれについて特許文献3や特許文献4などに解決策が提案されている。
特開2003−342642号公報 特開平08−143961号公報 特開平05−051643号公報 特開2006−257486号公報
しかしながら、上記特許文献3や特許文献4の技術は、上記のバックリングに対しては、有効な対策とはなっていない。
本発明は、従来技術が抱える上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、焼鈍分離剤にアルカリ金属化合物を添加したときに発生する仕上焼鈍時のコイル外巻部の形状不良(バックリング)を解消するとともに、被膜性状の改善を図ることにより、製品歩留まりの向上と作業能率の向上を達成する方向性電磁鋼板の製造方法を提案することにある。
発明者らは、上記課題の解決に向けて鋭意検討を重ねた。その結果、焼鈍分離剤にアルカリ金属化合物を添加したときのコイル外巻部に発生するバックリングの発生を抑制するためには、アルカリ金属化合物の添加量に応じて、一次再結晶焼鈍(脱炭焼鈍)の加熱過程における昇温速度を制御することが有効であることを見出し、本発明を開発するに至った。
すなわち、本発明は、C:0.002〜0.10mass%、Si:2.0〜8.0mass%、Mn:0.005〜1.0mass%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼素材を熱間圧延して熱延板とし、熱延板焼鈍を施すことなくあるいは施した後、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延により最終板厚の冷延板とし、一次再結晶焼鈍あるいは脱炭焼鈍を兼ねた一次再結晶焼鈍を施した後、MgOを主剤とし、1種または2種以上のアルカリ金属化合物を含有する焼鈍分離剤を鋼板表面に塗布し、仕上焼鈍する一連の工程からなる方向性電磁鋼板の製造方法において、上記一次再結晶焼鈍の加熱過程における500〜700℃間の昇温速度をS、上記焼鈍分離剤中に含まれるMgO100質量部に対するアルカリ金属化合物の合計含有量をWとするとき、Sを40〜250℃/sとし、Wを0.01〜1.0質量部とし、上記Wに対するSの比(S/W)を100〜4000の範囲となるよう、Sおよび/またはWを制御することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法を提案する。
本発明の方向性電磁鋼板の製造方法に用いる上記焼鈍分離剤中に含まれるアルカリ金属化合物は、Li,Na,Kのいずれかの化合物であることを特徴とする。
また、本発明の方向性電磁鋼板の製造方法に用いる上記鋼素材は、上記成分組成に加えて、Al:0.010〜0.050mass%およびN:0.003〜0.020mass%を含有することを特徴とする。
また、本発明の方向性電磁鋼板の製造方法に用いる上記鋼素材は、上記成分組成に加えて、Al:0.010〜0.050mass%およびN:0.003〜0.020mass%、Se:0.003〜0.030mass%および/またはS:0.002〜0.03mass%を含有することを特徴とする。
また、本発明の方向性電磁鋼板の製造方法に用いる上記鋼素材は、不可避的不純物として、Al,N,SおよびSeをそれぞれAl:0.01mass%未満、N:0.0050mass%未満、S:0.0050mass%未満およびSe:0.0030mass%未満含有することを特徴とする。
また、本発明の方向性電磁鋼板の製造方法に用いる上記鋼素材は、上記成分組成に加えてさらに、Ni:0.001〜1.50mass%、Cr:0.01〜0.50mass%、Cu:0.01〜0.50mass%、P:0.005〜0.50mass%、Sb:0.005〜0.50mass%、Sn:0.005〜0.50mass%、Bi:0.005〜0.50mass%、Mo:0.005〜0.100mass%、B:0.0002〜0.0025mass%、Te:0.0005〜0.0100mass%、Nb:0.0010〜0.0100mass%、V:0.001〜0.010mass%およびTa:0.001〜0.010mass%のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする。
本発明によれば、焼鈍分離剤中にアルカリ金属化合物を添加するときの仕上焼鈍時に発生する形状不良を防止することができるので、良好な被膜特性を有するとともに、良好なコイル形状を達成し、高い歩留まりと生産能率を達成することができる。
バックリングが発生したときのコイルの形状を模式的に説明する図である。 焼鈍分離剤への水酸化カリウムの添加量と一次再結晶焼鈍の昇温速度が被膜の外観品質とバックリングに及ぼす影響を示すグラフである。
まず、本発明を開発する契機となった実験について説明する。
C:0.065mass%、Si:3.44mass%、Mn:0.08mass%を含有する鋼を溶製し、連続鋳造法で鋼スラブとした後、1410℃に再加熱し、熱間圧延して板厚2.4mmの熱延板とし、1050℃×60秒の熱延板焼鈍を施した後、一次冷間圧延して中間板厚の1.8mmとし、1120℃×80秒の中間焼鈍を施した後、200℃の温度で温間圧延して最終板厚0.23mmの冷延板とした。
次いで、50vol%H−50vol%N、露点55℃の湿潤雰囲気下で、840℃で100秒間保持する脱炭焼鈍を兼ねた一次再結晶焼鈍を施した。このとき、上記一次再結晶焼鈍は、840℃までの加熱過程における500〜700℃間の昇温速度を20〜300℃/sの間で種々に変化させた。
その後、MgO100質量部に対して、酸化チタンを5質量部、水酸化ストロンチウムを3質量部添加し、さらに、水酸化カリウムを0.005〜2.0質量部の範囲で種々に変えて添加した焼鈍分離剤をスラリー状にして鋼板表面に塗布し、乾燥した後、コイルに巻き取り、二次再結晶焼鈍と水素雰囲気下で1200℃×7時間の純化焼鈍からなる仕上焼鈍を施した。
次いで、上記仕上焼鈍後のコイルについて、図1に示したように、外巻下部に発生したバックリングによるコイル外径の拡大量tを測定し、そのバックリングの大きさを、上記tをコイル径Rで除した値(t/R×100(%))で評価した。なお、(t/R)の値が1%以上となると、平坦化焼鈍ラインへの通板が困難となるので、「バックリング不良」と評価し、1%未満であれば「バックリング無し」と判定した。
また、上記仕上焼鈍後のコイルを平坦化焼鈍ラインに通板する際、出側にて鋼板表面を目視観察し、被膜欠陥の発生率(被膜欠陥発生長さ/コイル全長×100(%))を調査した。
上記の結果を図2に示した。この図から、一次再結晶焼鈍時の昇温速度と焼鈍分離剤中の水酸化カリウムの添加量(MgO100質量部に対する水酸化カリウムの添加量(質量部))を適正範囲に制御すれば、被膜性状が良好で、バックリングの発生のない鋼板を得ることができることがわかった。すなわち、水酸化カリウムの添加量が多くなり過ぎると、バックリング、被膜の外観品質のいずれも劣化し、一方、水酸化カリウムの添加量が少な過ぎると、バックリングは発生しないが、被膜の外観品質が劣化するようになり、水酸化カリウムの添加量がMgO100質量部に対して0.01〜1.0質量部の範囲内で、バックリングと被膜の外観品質が良好となる。
また、上記範囲内でも、バックリングと被膜の外観品質は一次再結晶焼鈍の昇温速度に依存し、昇温速度が高くなると被膜の外観品質が低下し、昇温速度が低くなるとバックリングが発生するようになり、40〜250℃/sの範囲内でバックリングと被膜の外観品質が良好となる。
さらに、水酸化カリウムの添加量が0.01〜1.0質量部でかつ昇温速度が40〜250℃/sの範囲内でも、両者のバランスによってバックリングが発生したり被膜外観が劣化したりし、上記一次再結晶焼鈍における昇温速度をS、アルカリ金属化合物の合計含有量をWとしたとき、上記Wに対するSの比(S/W)を100〜4000の範囲に収めれば、バックリングと被膜の外観品質を両立させることができることがわかった。
このように、一次再結晶焼鈍の昇温速度Sと、焼鈍分離剤中のアルカリ金属化合物の含有量Wとのバランスが、バックリングおよび被膜の外観品質に大きな影響を及ぼすことについて、発明者らは以下のように考えている。
アルカリ金属化合物を焼鈍分離剤に含有させると、被膜性状が改善されることは、従来から知られている。ただし、これには適正量があり、少な過ぎると効果がなく、多過ぎると被膜が形成され過ぎ、被膜が剥離を起こすようになる。
また、アルカリ金属化合物を添加すると、二次再結晶挙動にも影響を及ぼすことが考えられる。すなわち、アルカリ金属イオンが鋼板表面に存在すると、インヒビター成分であるAlNやMnSなどの析出物が仕上焼鈍の初期に分解して、インヒビターの抑制力が低下して、一次再結晶粒が粗大化し、二次再結晶の駆動力が低下して二次再結晶温度が高温化する。
一方、仕上焼鈍中のコイルは、加熱や冷却に伴って、熱膨張と熱収縮を起こすため、コイル下部と炉床材との問に滑りが生じ、コイルの円周方向に内部応力が発生する。コイル外巻の変形は、このときの応力に起因するが、焼鈍途中におけるクリープ変形は、結晶粒が小さいほど変形量が大きくなるので、二次再結晶温度が高まると、高温まで小さな結晶粒が存在することになるので、変形量も大きくなる。つまり、アルカリ金属化合物を添加すると、二次再結晶温度が上昇し、コイル変形が大きくなって、バッグリングが発生しやすくなると考えられる。
これに対して、一次再結晶焼鈍(脱炭焼鈍)時の昇温速度を速めると、一次再結晶粒におけるGoss方位粒の密度が高まることが知られている。Goss粒が増えると、仕上焼鈍の低温域で粒成長を開始するGoss粒が出現し、結果的に、二次再結晶温度を低下する効果をもたらす。そのため、焼鈍分離剤中へのアルカリ金属の添加量に合わせて、一次再結晶焼鈍の昇温速度を速めることで、二次再結晶温度が一定に保たれるので、バックリングが抑制される。
ただし、昇温速度を速めると、一次再結晶焼鈍で形成されるサブスケールの構造が変化し、被膜劣化が起こり易くなる。これは、通常、焼鈍分離剤中へのアルカリ金属化合物の添加で解消される。その理由は、サブスケール構造の劣化による仕上焼鈍時の雰囲気保護性の低下を、アルカリ金属化合物添加による被膜形成の促進で補うためである。その効果を得るためには、昇温速度を上げるのに伴って、アルカリ金属化合物の添加量を増大させる必要がある。
本発明は、これら二つの理由から、アルカリ金属化合物の添加量と一次再結晶焼鈍の昇温速度との関係を、所定の範囲に制御している。
次に、本発明の方向性電磁鋼板の製造に用いる鋼素材(スラブ)が有すべき成分組成について説明する。
C:0.002〜0.10mass%
Cは、0.002mass%に満たないと、Cの粒界強化効果が失われ、スラブに割れが生じるなど、製造に支障を来たす欠陥を生ずるようになる。一方、0.10mass%を超えると、脱炭焼鈍で、磁気時効の起こらない0.005mass%以下に低減することが困難となる。よって、Cは0.002〜0.10mass%の範囲とするのが好ましい。より好ましくは0.010〜0.080mass%の範囲である。
Si:2.0〜8.0mass%
Siは、鋼の比抵抗を高め、鉄損を低減するのに必要な元素である。上記効果は、2.0mass%未満では十分ではなく、一方、8.0mass%を超えると、加工性が低下し、圧延して製造することが困難となる。よって、Siは2.0〜8.0mass%の範囲とするのが好ましい。より好ましくは2.5〜4.5mass%の範囲である。
Mn:0.005〜1.0mass%
Mnは、鋼の熱間加工性を改善するために必要な元素である。上記効果は、0.005mass%未満では十分ではなく、一方、1.0mass%を超えると、製品板の磁束密度が低下するようになる。よって、Mnは0.005〜1.0mass%の範囲とするのが好ましい。より好ましくは0.02〜0.20mass%の範囲である。
上記C,SiおよびMn以外の成分は、二次再結晶を生じさせるために、インヒビターを利用する場合と、しない場合とで異なる。
まず、二次再結晶を生じさせるためにインヒビターを利用する場合で、例えば、AlN系インヒビターを利用するときには、AlおよびNを、それぞれAl:0.010〜0.050mass%、N:0.003〜0.020mass%の範囲で含有させるのが好ましい。また、MnS・MnSe系インヒビターを利用する場合には、前述した量のMnの外に、S:0.002〜0.030mass%およびSe:0.003〜0.030mass%のうちの1種または2種を含有させることが好ましい。それぞれの添加量が、上記下限値より少ないと、インヒビター効果が十分に得られず、一方、上限値を超えると、インヒビター成分がスラブ加熱時に未固溶のまま残存し、磁気特性の低下をもたらす。なお、AlN系とMnS・MnSe系のインヒビターは併用してもよい。
一方、二次再結晶を生じさせるためにインヒビターを利用しない場合には、上述したインヒビター生成成分であるAl,N,SおよびSeの含有量を極力低減し、Al:0.01mass%未満、N:0.0050mass%未満、S:0.0050mass%未満およびSe:0.0030mass%未満に低減した鋼素材を用いるのが好ましい。
本発明の方向性電磁鋼板に用いる鋼素材は、上記成分以外の残部はFeおよび不可避的不純物であるが、磁気特性の改善を目的として、Ni:0.001〜1.50mass%、Cr:0.01〜0.50mass%、Cu:0.01〜0.50mass%、P:0.005〜0.50mass%、Sb:0.005〜0.50mass%、Sn:0.005〜0.50mass%、Bi:0.005〜0.50mass%、Mo:0.005〜0.100mass%、B:0.0002〜0.0025mass%、Te:0.0005〜0.010mass%、Nb:0.0010〜0.010mass%、V:0.001〜0.010mass%およびTa:0.001〜0.010mass%のうちから選ばれる1種または2種以上を適宜添加してもよい。
次に、本発明の方向性電磁鋼板の製造方法について説明する。
本発明の方向性電磁鋼板に用いる鋼素材は、前述した成分組成を有する鋼を常法の精錬プロセスで溶製した後、従来公知の造塊−分塊圧延法または連続鋳造法で鋼素材(スラブ)としてもよいし、直接鋳造法で100mm以下の厚さの薄鋳片としてもよい。上記スラブは、常法に従い加熱炉等に装入して、インヒビター成分を含有する場合には1400℃程度の温度に再加熱し、一方、インヒビター成分を含有しない場合には1300℃以下の温度に再加熱した後、熱間圧延に供する。なお、インヒビター成分を含有しない場合には、鋳造後、再加熱することなく直ちに熱間圧延に供してもよい。また、薄鋳片の場合には、上記熱間圧延を省略し、そのまま以後の工程に進めてもよい。
次いで、熱間圧延して得た熱延板は、必要に応じて熱延板焼鈍を施す。この熱延板焼鈍の温度は、良好な磁気特性を得るためには、800〜1150℃の範囲とするのが好ましい。800℃未満では、熱間圧延で形成されたバンド組織が残留し、整粒の一次再結晶組織を得ることが難しくなり、二次再結晶粒の発達が阻害される。一方、1150℃を超えると、熱延板焼鈍後の粒径が粗大化し過ぎて、やはり、整粒の一次再結晶組織を得ることが難しくなるからである。
熱延後あるいは熱延板焼鈍後の熱延板は、1回の冷間圧延または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延により最終板厚の冷延板とする。上記中間焼鈍の焼鈍温度は、900〜1200℃の範囲とするのが好ましい。900℃未満では、中間焼鈍後の再結晶粒が細かくなり、さらに、一次再結晶組織におけるGoss核が減少して製品板の磁気特性が低下する。一方、1200℃を超えると、熱延板焼鈍と同様、結晶粒が粗大化し過ぎて、整粒の一次再結晶組織を得ることが難しくなるからである。
また、最終板厚とする冷間圧延(最終冷間圧延)は、一次再結晶集合組織を改善し、磁気特性を向上するためには、冷間圧延時の鋼板温度を100〜300℃に上昇させて行う、いわゆる温間圧延としたり、冷間圧延の途中で100〜300℃の温度で時効処理を1回または複数回施したりすることが有効である。
最終板厚とした冷延板は、その後、一次再結晶焼鈍あるいは脱炭焼鈍を兼ねた一次再結晶焼鈍を施した後、鋼板表面にMgOを主体とする焼鈍分離剤を塗布する。
この工程は、本発明において最も重要な工程であり、上記一次再結晶焼鈍あるいは脱炭焼鈍を兼ねた一次再結晶焼鈍の加熱過程における500〜700℃間の昇温速度は40〜250℃/sで急速加熱する必要がある。前述したように、昇温速度が40℃/sより低いと、アルカリ金属化合物を添加した焼鈍分離剤を用いる場合にはバックリングが発生し、一方、250℃/sを超えると被膜性状が劣化するからである。なお、上記一次再結晶焼鈍の焼鈍温度は700〜950℃の範囲とするのが望ましく、脱炭焼鈍を兼ねて行う場合は、脱炭性を確保する観点から750〜900℃の範囲とするのが望ましい。
なお、上記一次再結晶焼鈍において脱炭焼鈍を行う場合には、以下の技術を組み合わせることも可能である。
(1)脱炭焼鈍を複数段に分け、最終段を還元雰囲気として表層の酸化物を還元し、被膜の保護性を高めて磁気特性や被膜を改善する。
(2)脱炭焼鈍の途中もしくは脱炭焼鈍後に窒化処理を組み合わせて、インヒビターの抑制力を補強し、磁気特性を改善する。
また、鋼板表面に塗布するMgOを主体とする焼鈍分離剤には、MgO100質量部に対して1種または2種以上のアルカリ金属化合物を合計で0.01〜1質量部含有させることが重要である。アルカリ金属化合物の合計含有量が0.01質量部より少ないと、被膜性状を改善する効果が小さく、一方、1質量部より多いと、被膜が形成され過ぎて剥落するようになり、いずれも良好な被膜が得られないからである。
さらに、上記一次再結晶焼鈍における昇温速度をS、アルカリ金属化合物の合計含有量をWとしたとき、Wに対するSの比(S/W)を100〜4000の範囲に収めるよう、アルカリ金属化合物の添加量Wに応じて昇温速度Sを調整する、あるいは、昇温速度Sに応じてアルカリ金属化合物の添加量Wを調整することが重要である。(S/W)が100より小さいと、バックリングが発生し易くなり、一方、S/Wが4000より大きいと、被膜性状を改善する効果が得られないからである。
ここで、本発明において用いるアルカリ金属化合物とは、アルカリ金属(Li,Na,K,Rb,Cs,Fr)の酸化物、水酸化物、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、ホウ酸塩、塩化物、硫化物等のことをいい、特に、Li,Na,Kの化合物である、水酸化リチウム、炭酸リチウム、水酸化ナトリウム、硫酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、硫酸カリウム等を好適に用いることができる。
なお、本発明で用いる焼鈍分離剤は、上記MgOとアルカリ金属化合物の外に、被膜性状のさらなる改善を目的として、従来公知の種々の添加物、例えば、Ca,Sr,Ba,Ti,Mn,Mo,Fe,Cu,Zn,Ni,Alの酸化物、水酸化物、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、ホウ酸塩、塩化物、硫化物等である。これらは1種のみの添加でもよいし、2種以上複合添加してもよい。
鋼板表面にMgOを主体とする焼鈍分離剤を塗布した鋼板は、その後、コイルに巻き取った後、仕上焼鈍を施し、Goss方位に高度に集積した二次再結晶組織を発達させるとともに、フォルステライト被膜を形成させる。
上記仕上焼鈍では、二次再結晶を発現させるためには800℃以上の温度に、また、二次再結晶を完了させるためには、1100℃の温度まで加熱することが好ましい。さらに、その後、フォルステライト被膜を形成し、純化処理を施すためには、引き続き1200℃程度の温度まで加熱するのが好ましい。
上記仕上焼鈍後の鋼板は、その後、鋼板表面に付着した未反応の焼鈍分離剤を除去する水洗やブラッシング、酸洗等を行った後、形状矯正のための平坦化焼鈍を施すことが、鉄損の低減には有効である。これはコイルの巻き癖やバックリングなどの形状不良が原因で、鉄損特性が劣化する場合があるためである。
なお、平坦化焼鈍では、焼鈍温度や鋼板に付与する張力が低過ぎたりすると、形状矯正が不十分となり、形状不良が解消されなかったり、磁気特性が改善されなかったりする。逆に、焼鈍温度や鋼板に付与する張力を高くし過ぎると、鋼板がクリープ変形を起こして磁気特性が劣化する。しかし、本発明においては、コイルの変形量を抑制できるので、軽度の形状矯正で済むため、低温、低張力で平坦化焼鈍することができ、クリープ変形も小さくなるので、磁気特性の劣化も少なくすることができる。
また、本発明の方向性電磁鋼板を積層して使用する場合には、上記平坦化焼鈍と同時に、あるいは、その前もしくはその後で、鋼板表面に絶縁被膜を被成することが有効である。特に、鉄損の低減を図るためには、絶縁被膜は、鋼板に張力を付与することができる張力付与被膜を適用するのが好ましい。なお、張力付与被膜の形成には、バインダーを介して張力被膜を塗布する方法や、物理蒸着法や化学蒸着法で無機物の被膜を鋼板表層に形成する方法を採用すると、被膜密着性に優れかつ著しく鉄損低減効果が大きい絶縁被膜を形成することができるので好ましい。
また、本発明の方向性電磁鋼板の鉄損をより低減するためには、磁区細分化処理を施すことが好ましい。処理方法としては、一般的に実施されている、最終製品板に溝を形成したり、レーザー照射やプラズマ照射により、線状または点状に熱歪や衝撃歪を導入する方法、最終板厚に冷間圧延した後の中間工程において、鋼板表面にエッチング加工を施して溝を形成したりする方法等を用いることができる。
C:0.070mass%、Si:3.43mass%、Mn:0.08mass%、Al:0.025mass%、Se:0.025mass%およびN:0.01mass%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを連続鋳造法で製造し、1420℃の温度に再加熱した後、熱間圧延して、板厚2.4mmの熱延板とし、1000℃c×50秒の熱延板焼鈍を施した。その後、一次冷間圧延して1.8mmの中間板厚とし、1100℃×20秒の中間焼鈍を施し、二次冷間圧延して最終板厚が0.23mmの冷延板に仕上げた後、脱炭焼鈍を兼ねた一次再結晶焼鈍を施した。なお、上記一次再結晶焼鈍における加熱過程の500〜700℃間の昇温速度は50〜240℃/sの範囲で種々に変化させた。
次いで、上記一次再結晶焼鈍後の鋼板表面に、焼鈍分離剤としてMgO100質量部に対して、TiOを5質量部と、表1に示した各種アルカリ金属化合物を添加した粉体をスラリー状にして塗布、乾燥した後、二次再結晶焼鈍と1200℃×10時間の純化焼鈍からなる仕上焼鈍を施した。上記仕上焼鈍における雰囲気は、1200℃保定時はHガス、昇温時(二次再結晶時を含む)および降温時はNガスとした。
上記のようにして得た仕上焼鈍後のコイルについて、バックリングの発生量を図1に従って測定し、バックリング率((バックリング量t/コイル半径R)×100(%))を求めた。
また、仕上焼鈍後のコイルを巻き戻して平坦化焼鈍ラインに通板する際、鋼板表面の被膜外観を目視で観察し、被膜不良の発生率((不良発生長さ/コイル長さ)×100(%))を調査した。
上記の結果を表1に併記して示した。この表から、一次再結晶焼鈍における昇温速度と焼鈍分離剤に添加するアルカリ金属化合物の添加量を適正範囲に制御することにより、バッグリングの発生を抑制しつつ、効果的に被膜の性状を改善できることがわかる。
Figure 2015086437
表2に記載の成分組成を有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを連続鋳造法で製造し、1380℃の温度に再加熱した後、熱間圧延して板厚2.0mmの熱延板とし、1030℃×10秒の熱延板焼鈍を施した後、冷間圧延し、最終板厚が0.23mmの冷延板に仕上げた。
その後、上記冷延板に脱炭焼鈍を兼ねた一次再結晶焼鈍を施した。この際、840℃までの加熱過程における500〜700℃間の昇温速度を75℃/sとした。
次いで、MgO100質量部に対して、硫酸ストロンチウムを2質量部、水酸化リチウムを0.2質量部添加した焼鈍分離剤をスラリー状にして鋼板表面に塗布、乾燥した後、二次再結晶焼鈍と1220℃×4時間の純化焼鈍からなる仕上焼鈍を施した。上記仕上焼鈍における雰囲気は、1220℃保定時はHガス、昇温時(二次再結晶時を含む)および降温時はArガスとした。
上記のようにして得た仕上焼鈍後のコイルについて、実施例1と同様にして、バックリング率と被膜不良の発生率を測定し、その結果を表2に併記した。同表から、本発明に適合する成分組成を有する鋼素材を用い、一次再結晶焼鈍における昇温速度と焼鈍分離剤に添加するアルカリ金属化合物の添加量を適正範囲に制御して製造した方向性電磁鋼板は、いずれもバックリングが発生することなく優れた外観品質の被膜を有していることがわかる。
Figure 2015086437

Claims (6)

  1. C:0.002〜0.10mass%、Si:2.0〜8.0mass%、Mn:0.005〜1.0mass%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼素材を熱間圧延して熱延板とし、熱延板焼鈍を施すことなくあるいは施した後、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延により最終板厚の冷延板とし、一次再結晶焼鈍あるいは脱炭焼鈍を兼ねた一次再結晶焼鈍を施した後、MgOを主剤とし、1種または2種以上のアルカリ金属化合物を含有する焼鈍分離剤を鋼板表面に塗布し、仕上焼鈍する一連の工程からなる方向性電磁鋼板の製造方法において、
    上記一次再結晶焼鈍の加熱過程における500〜700℃間の昇温速度をS、
    上記焼鈍分離剤中に含まれるMgO100質量部に対するアルカリ金属化合物の合計含有量をWとするとき、
    Sを40〜250℃/sとし、Wを0.01〜1.0質量部とし、上記Wに対するSの比(S/W)を100〜4000の範囲となるよう、Sおよび/またはWを制御することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
  2. 上記焼鈍分離剤中に含まれるアルカリ金属化合物は、Li,Na,Kのいずれかの化合物であることを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
  3. 上記鋼素材は、上記成分組成に加えて、Al:0.010〜0.050mass%およびN:0.003〜0.020mass%を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
  4. 上記鋼素材は、上記成分組成に加えて、Al:0.010〜0.050mass%およびN:0.003〜0.020mass%、Se:0.003〜0.030mass%および/またはS:0.002〜0.03mass%を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
  5. 上記鋼素材は、不可避的不純物として、Al,N,SおよびSeをそれぞれAl:0.01mass%未満、N:0.0050mass%未満、S:0.0050mass%未満およびSe:0.0030mass%未満含有することを特徴とする請求項1または2に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
  6. 上記鋼素材は、上記成分組成に加えてさらに、Ni:0.001〜1.50mass%、Cr:0.01〜0.50mass%、Cu:0.01〜0.50mass%、P:0.005〜0.50mass%、Sb:0.005〜0.50mass%、Sn:0.005〜0.50mass%、Bi:0.005〜0.50mass%、Mo:0.005〜0.100mass%、B:0.0002〜0.0025mass%、Te:0.0005〜0.0100mass%、Nb:0.0010〜0.0100mass%、V:0.001〜0.010mass%およびTa:0.001〜0.010mass%のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
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