JP2015086083A - (炭酸)ヒドロキシアパタイトおよびその微粒子の製造方法 - Google Patents

(炭酸)ヒドロキシアパタイトおよびその微粒子の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】一段階の反応により低結晶性の(炭酸)ヒドロキシアパタイトを高純度で得るための、簡便で生産性の良好な(炭酸)ヒドロキシアパタイトの製造方法、およびコーティング用途に好適な低結晶性の(炭酸)ヒドロキシアパタイト微粒子の製造方法を与えること。
【解決手段】水中に於いて、カルシウム塩とリン酸塩、および炭酸塩または炭酸水素塩を、反応系のpHが5〜10の範囲において、これらを特定のモル比率の範囲で混合し、反応を行う(炭酸)ヒドロキシアパタイトの製造方法、およびこれより得られた炭酸ヒドロキシアパタイトをメディアミルを使用して湿式分散処理を行う(炭酸)ヒドロキシアパタイト微粒子の製造方法を用いる。
【選択図】なし

Description

本発明は一段階の反応により低結晶性の(炭酸)ヒドロキシアパタイトを高純度で得るための、簡便で生産性の良好な(炭酸)ヒドロキシアパタイトの製造方法、およびコーティング用途に好適な低結晶性の(炭酸)ヒドロキシアパタイト微粒子の製造方法に関する。
骨や歯などの生体硬組織を構成する成分としてヒドロキシアパタイトに関する研究やその医用材料としての利用についての技術開発が広範囲にかつ精力的に行われている。例えば骨の欠損部を補填し、骨の再生を促進する目的で、従来は患者自身の腸骨などから骨を採取して移植する自家骨移植が行われてきたが、近年では、人工的に合成された結晶性の高いヒドロキシアパタイトからなる成型材料を骨の代換えに使用することも広く行われている。しかしながら合成されたヒドロキシアパタイトは堅くて脆い性質を有し、力学的強度に劣ることから、移植部に過剰な負荷が掛かると破壊する問題や、生体内において炎症反応を惹起し易い問題、或いは高結晶性のヒドロキシアパタイトが破骨細胞によって吸収されず、骨の修復過程に於いて重要であるリモデリング過程に於いてむしろ不利に働く場合があることが知られている。この場合、改善策として生体内に於いてより溶解性、吸収性の高いβ−TCP(リン酸三カルシウム)を併用、もしくはこれを単独で用いることで骨の修復が促進されることが知られている。しかしながら、ヒドロキシアパタイトはオステオカルシンやオステオポンチン、骨シアロ蛋白等の様々な蛋白質と特異的に相互作用し、このことがインテグリンを介して骨芽細胞や破骨細胞の増殖と活性に直接的な影響を与えていることから、単純にヒドロキシアパタイトの機能を、他のリン酸カルシウム塩に肩代わりさせることは困難である。従って、生体内での吸収性を高めるとの観点から、ヒドロキシアパタイト自体の結晶性を低下させることが有用と考えられる。実際の生体骨はX線回折パターンでは非常にブロードなアパタイト特有のパターンを示していることから、低結晶性ヒドロキシアパタイトとして同様な回折パターンを示す素材が求められている。
さらに、近年、ヒドロキシアパタイト中のリン酸基の一部が炭酸イオンに置き換わった炭酸ヒドロキシアパタイトが優れた生体内吸収性材料の候補として注目を集めている。即ち、生体骨ミネラル成分の組成により近い組成を有する炭酸ヒドロキシアパタイトを利用することで、該アパタイトの結晶性が比較的低く、生体内において該アパタイトの溶解、吸収性が一段と向上し、このことから骨の修復治療に好適に利用することが出来ることが期待される。こうした利点のため、低結晶性の炭酸ヒドロキシアパタイトを高純度で簡便に得ることを目的に、その製造方法について従来から様々な検討が行われている。
上記の様な、医用材料として好適に使用出来るヒドロキシアパタイトや炭酸ヒドロキシアパタイトの製造方法としては、従来から湿式法として知られる水溶液中からのアパタイトの析出を利用する方法が盛んに用いられてきた。ヒドロキシアパタイトの湿式法による合成例として、非特許文献1には、リン酸水素カルシウム二水和物(ブルシャイト)を加水分解してヒドロキシアパタイトを合成する方法が示されている。この方法ではヒドロキシアパタイトを得るために、前駆体としてあらかじめリン酸水素カルシウム二水和物を合成しておく必要があり、該前駆体中に不純物が存在すると、最終的に得られるヒドロキシアパタイト中にも不純物が取り込まれるため、前駆体の合成に於いても極めて純度の高い品質が求められることから、その原料の入手先に制限があった。更には、こうした方法で作製されるヒドロキシアパタイト中にはナトリウムなどのアルカリ金属イオンが取り込まれることでカルシウム欠損型アパタイトを生じる場合があり、必ずしも標準的な組成のヒドロキシアパタイトを与えるものではなかった。
前駆体を用いず、一段階の湿式法でヒドロキシアパタイトを得る方法として、従来から行われている代表的な方法は、例えば特許文献1などに示されるように、水酸化カルシウムの水へのスラリー中にpHを調整しながらリン酸を加えて行き、低結晶性もしくはアモルファスに近いヒドロキシアパタイトを得る方法が知られている。或いは、非特許文献2に示されるように、pHを10〜10.2の間に調節しながら、硝酸カルシウム水溶液中にリン酸水素二アンモニウム水溶液をカルシウムとリンの元素比がアパタイトの化学量論比になるように滴下してヒドロキシアパタイトを合成する方法が示されている。このようにして得られたヒドロキシアパタイトは、X線回折測定において非常にブロードな回折パターンを示しており、この状態は必ずしも安定ではないことが知られている。従って、得られたヒドロキシアパタイトは、更に水熱処理等の加熱処理を施すことで結晶成長し、熱力学的に安定なヒドロキシアパタイトが得られる。同様に、非特許文献3には、硝酸カルシウム水溶液をリン酸三ナトリウム水溶液中に70℃の温度で滴下し、その後室温で24時間静置することでヒドロキシアパタイトを合成している。これら上記何れの湿式法で得られたヒドロキシアパタイトは合成直後の状態では非常に結晶性が低く回折ピークもブロードで殆どアモルファスに近い状態であるが、水熱処理等の加熱処理を行うと、徐々に結晶成長し、最終的に結晶性の高いヒドロキシアパタイトに変化するため、低結晶性のヒドロキシアパタイトとして安定にこれを得ることが困難であった。更には、上記の何れの方法で得られるヒドロキシアパタイトも種々の無機イオンが生成物中に取り込まれて精製が困難である場合があり、高純度のヒドロキシアパタイトを得ることが困難であった。また、従来の湿式法では、上記のようなカルシウムイオンやリン酸イオンを含む水溶液を混合して反応を行う場合の、混合の速度や攪拌条件、反応系の温度やpHなどの変化が生成物の性状(結晶性、純度、反応系の粘度等)に非常に大きな影響を与えることから、高純度のヒドロキシアパタイトを安定的に合成することが極めて困難であった。
炭酸ヒドロキシアパタイトの合成方法についても同様に従来から多数の報告があり、例えば、非特許文献4および非特許文献5に示されるように、無水リン酸水素カルシウム(モネタイト)に炭酸ナトリウムなどの炭酸塩を加えて加熱する方法が知られている。この方法では、反応条件として高温で数日間という極めて長時間の反応時間を必要とするため、工業的に効率よく炭酸ヒドロキシアパタイトを得ることが出来ないという問題がある。また、生成物中には微量の炭酸カルシウムが副成して不純物として含まれ、これ以外にも相当量の結晶水が取り込まれており、乾燥時間を長くしても十分に脱水出来ず、こうしたことから純度の高い炭酸ヒドロキシアパタイトを得ることが出来なかった。更には、上記の方法で得られた炭酸ヒドロキシアパタイトは微粒子として得ることが極めて困難であり、粉砕して液中に分散させたコーティング液を作製して様々な基材表面にコーティングを行おうとしても、炭酸ヒドロキシアパタイト粒子が凝集し、均一なコート面を得ることが出来ないことから、コーティング用途には用いることが出来ないと言う問題があった。
非特許文献6には、炭酸ヒドロキシアパタイトの合成方法として、無水リン酸水素カルシウム(モネタイト)を炭酸カルシウム(カルサイト)と共に加熱することで低結晶性炭酸ヒドロキシアパタイトを合成する方法が示されている。この場合も高温で数日以上の極めて長い反応時間を必要とし、さらには生成物中に未反応の炭酸カルシウムが混在する場合があるため、高純度の低結晶性炭酸ヒドロキシアパタイトを効率よく製造する方法ではなかった。更には、こうした方法で得られた低結晶性炭酸アパタイトは微粒子として得ることが極めて困難であり、また均一なコート面を得ることが困難であった。
非特許文献7には、炭酸ヒドロキシアパタイトの合成方法として、水酸化カルシウムの水懸濁液中に炭酸ガスを導入しながら、攪拌下にリン酸水溶液を徐々に添加して合成する方法が示されている。この場合、炭酸ガスの導入量やリン酸水溶液の添加速度および反応温度等の様々なパラメータの変化により、生成する炭酸ヒドロキシアパタイトの性質が大きく異なる問題があり、炭酸ヒドロキシアパタイト中に導入される炭酸イオンの割合を制御することが困難であった。更には、こうした方法で得られた炭酸アパタイトは微粒子として得ることが極めて困難であり、また均一なコート面を得ることが困難であった。
特許文献2には、炭酸ヒドロキシアパタイトの合成方法として、リン酸水素カルシウム二水和物(ブルシャイト)を炭酸カルシウム(カルサイト)と共に加熱して合成する方法が示されている。この方法で得られる炭酸ヒドロキシアパタイトは粒子径が10μm以上の大きさである粗大粒子として得られ、液中において均一な分散液を得ることが出来ないことから、コーティング用途には用いることが出来ないと言う問題があった。また、生成する炭酸ヒドロキシアパタイト中に、原料である炭酸カルシウムが残存し易いという問題もあり、加えて、炭酸ヒドロキシアパタイト中に導入される炭酸イオンの比率が比較的小さく、またその導入率も制御が困難である問題があった。
特許文献3には炭酸カルシウムにリン酸を加えて反応を行うことで炭酸ヒドロキシアパタイトを合成する方法が開示されているが、この方法では生成物中に炭酸カルシウムが残存し、高純度の炭酸ヒドロキシアパタイトを効率よく製造する方法ではなかった。更には、こうした方法で得られた炭酸アパタイトは微粒子として得ることが極めて困難であり、また均一なコート面を得ることが困難であった。
特許文献4には、酢酸カルシウム水溶液中に、炭酸アンモニウム塩とリン酸二水素アンモニウム塩を溶解した水溶液を、pH7.4±0.2、および温度60±1℃の条件で攪拌しながら添加することで、低結晶性の炭酸ヒドロキシアパタイトを合成する方法が開示されている。しかしながら、こうした合成方法で得られる炭酸ヒドロキシアパタイト中には、炭酸イオンの導入率が極めて低く、導入率を増加するため炭酸アンモニウム塩の添加量を増大すると炭酸カルシウムなどの副生成物が不純物として含まれる場合や、炭酸イオンの導入率を制御することも困難であることから、高純度の炭酸ヒドロキシアパタイトを効率よく製造する方法ではなかった。更には、こうした方法で得られた炭酸アパタイトは微粒子として得ることが極めて困難であり、また均一なコート面を得ることが困難であった。
特開平5−170413号公報 特表2008−501643号公報 特開平10−36106号公報 特開2013−10010号公報
H. Monma and T. Kamiya, J. Materials Sci., 22, pp. 4247-4250 (1987) 井奥ら、日本化学会誌、9,pp.1565-1570 (1988) J. Wei, et al., J. Mater. Sci. Technol., 20(6), pp.665-667 (2004) E.A.P. De Maeyer, et al., Inorg. Chem., 32, 5709-5714 (1993) R.M. Wilson et al., Biomaterials, 27, 4682-4692 (2006) H. Morgan, et al., Biomaterials, 21, 617-627 (2000) E. Landi, et al., Biomaterials, 25, 1763-1770 (2004)
本発明は一段階の反応により低結晶性の(炭酸)ヒドロキシアパタイトを高純度で得るための、簡便で生産性の良好な(炭酸)ヒドロキシアパタイトの製造方法、およびコーティング用途に好適な低結晶性の(炭酸)ヒドロキシアパタイト微粒子の製造方法を与えることを課題とする。
本発明の課題は、下記の製造方法を用いることで基本的に解決される。
1.水中に於いて、カルシウム塩とリン酸塩、および炭酸塩または炭酸水素塩を混合し、反応を行う(炭酸)ヒドロキシアパタイトの製造方法であって、カルシウム塩のモル比率をA、リン酸塩のモル比率をB、および炭酸塩または炭酸水素塩のモル比率をCとした場合、下記(i)もしくは(ii)の要件を満たし、かつ反応系のpHが5〜10の範囲にある(炭酸)ヒドロキシアパタイトの製造方法。
(i)リン酸塩がリン酸水素塩の場合
A:B:C=1:(0.6〜1.2)α:p(0.3〜0.6)α。
(ii)リン酸塩がリン酸二水素塩の場合
A:B:C=1:(0.6〜1.2)α:p(0.7〜1.2)α。
式中、αは0.1≦α≦10の実数を表す。pは係数を表し、炭酸塩の場合は1、炭酸水素塩の場合は2を表す。
2.炭酸塩または炭酸水素塩のモル比率が、前記した炭酸塩または炭酸水素塩のモル比率の下限値に0.1pαを加えたモル比率未満である、前記1記載のヒドロキシアパタイトの製造方法。
3.炭酸塩または炭酸水素塩のモル比率が、前記した炭酸塩または炭酸水素塩のモル比率の下限値に0.1pαを加えたモル比率以上である、前記1記載の炭酸ヒドロキシアパタイトの製造方法。
4.前記1〜3の何れかに記載の製造方法により得られた(炭酸)ヒドロキシアパタイトを、メディアミルを使用して湿式分散処理を行う(炭酸)ヒドロキシアパタイト微粒子の製造方法。
5.前記湿式分散処理を行う際に、ポリリン酸(塩)を加えて湿式分散処理を行う、前記4に記載の(炭酸)ヒドロキシアパタイト微粒子の製造方法。
本発明により、一段階の反応により低結晶性の(炭酸)ヒドロキシアパタイトを高純度で得るための、簡便で生産性の良好な(炭酸)ヒドロキシアパタイトの製造方法、およびコーティング用途に好適な低結晶性の(炭酸)ヒドロキシアパタイト微粒子の製造方法を与えることが出来る。
実施例1で得られたヒドロキシアパタイトの広角X線回折パターン。 実施例1で得られたヒドロキシアパタイトのFT−IRスペクトルチャート。 実施例1で得られたヒドロキシアパタイトを分散剤を使用せず湿式分散処理を行って得られたヒドロキシアパタイト微粒子分散物の粒子径分布曲線。 実施例1で得られたヒドロキシアパタイトを分散剤としてポリリン酸(塩)を使用して湿式分散処理を行って得られたヒドロキシアパタイト微粒子分散物の粒子径分布曲線。 実施例2で得られたヒドロキシアパタイトの広角X線回折パターン。 実施例2で得られたヒドロキシアパタイトのFT−IRスペクトルチャート。 実施例3で得られた炭酸ヒドロキシアパタイトの広角X線回折パターン。 実施例3で得られた炭酸ヒドロキシアパタイトのFT−IRスペクトルチャート。 実施例4で得られた炭酸ヒドロキシアパタイトの広角X線回折パターン。 実施例4で得られた炭酸ヒドロキシアパタイトのFT−IRスペクトルチャート。 実施例5で得られたヒドロキシアパタイトの広角X線回折パターン。 実施例5で得られたヒドロキシアパタイトのFT−IRスペクトルチャート。 実施例8で得られたヒドロキシアパタイトの広角X線回折パターン。 実施例8で得られたヒドロキシアパタイトのFT−IRスペクトルチャート。 比較例1で得られたヒドロキシアパタイトの広角X線回折パターン。 比較例2で得られた炭酸ヒドロキシアパタイトの広角X線回折パターン。
最初に、本発明が目的とする低結晶性の(炭酸)ヒドロキシアパタイトについて説明を行う。本発明に於いて(炭酸)ヒドロキシアパタイトとの用語は、ヒドロキシアパタイト、或いは、炭酸ヒドロキシアパタイトを指す。本発明により得られる低結晶性の(炭酸)ヒドロキシアパタイトの低結晶性とは、従来技術を用いて作製される結晶性のヒドロキシアパタイトとの比較に於いて相対的に区別されるものである。即ち、結晶性の比較に於いて、それぞれの広角X線回折測定により、各々について観察される回折ピークの強度と半値幅に明確な差異が認められる場合を意味し、本発明の(炭酸)ヒドロキシアパタイトでは、各々の回折ピークの強度がバックグラウンドのノイズと重なって相対的に低く観察され、さらに回折ピークの半値幅が相対的に広がった形で観察されるものである。回折ピークの半値幅として、特に2θ=26°付近に観察される(002)面からの回折ピークの半値幅を結晶性の目安として捉え、この回折ピークの半値幅が0.35°〜2.0°の範囲にある場合について本発明では低結晶性と称し、この(002)面からの回折ピークの半値幅が0.35°未満である場合を高結晶性とし、半値幅が2°を超える場合には不定型(アモルファス)とした。即ち、本発明で得られる低結晶性の(炭酸)ヒドロキシアパタイトとは、2θ=26°付近に観察される(002)面からの回折ピークの半値幅が0.35〜2°の範囲にあることが特徴である。さらに本発明の(炭酸)ヒドロキシアパタイトは、近接する回折ピーク同士の分離が悪く、生体骨において観察されるブロードなX線回折パターンに近似した回折パターンを示すものである。
次に、本発明で言う高純度の基準について説明を行う。本発明で得られる低結晶性の(炭酸)ヒドロキシアパタイトは医療用途への適用を前提に、極めて安全性の高い、高品質の材料を提供することを意図している。従って、特に実質的に有機物を含まず、無機物であっても生体に対する安全性が懸念されるような成分が含まれないことが望ましい。本発明で高純度とする基準として、安全性に懸念のない塩類などの無機成分であれば、本発明で得られる(炭酸)ヒドロキシアパタイト中に微量であれば含まれている場合であっても許容され、無機成分は5質量%未満であることが好ましく、更に好ましくは1質量%未満である。本発明において実質的に有機物を含まないとは、(炭酸)ヒドロキシアパタイトに対して有機物が1質量%未満であることを意味する。より好ましくは0.1質量%未満である。これら以外に、安全性に懸念のある不純物が本発明で得られる(炭酸)ヒドロキシアパタイト中に含まれないことが重要である。尚、本発明で得られる(炭酸)ヒドロキシアパタイト中には、炭酸イオン(および場合によってはナトリウムイオン等のアルカリ金属イオン或いは結晶水等)が結晶内部に閉じ込められた形で含まれている場合があるが、これらは不純物ではなく、(炭酸)ヒドロキシアパタイトの構成成分として見なす。
本発明で得られる(炭酸)ヒドロキシアパタイトは高純度であることと共に、微粒子として製造出来ることが特徴である。本発明で得られる(炭酸)ヒドロキシアパタイト微粒子の大きさは、体積平均粒子径に於いて40nmから10μmの範囲にあり、体積平均粒子径が小さいほど、均一性に優れたコーティング膜が形成されることからより好ましい。さらに、本発明に於いてコーティング用途に好適であるための条件として、(炭酸)ヒドロキシアパタイト微粒子を分散した分散液において、該微粒子の分散安定性が良好であり、長期間(例えば室温に於いて1週間の保管期間)の保存に際しても微粒子の凝集や沈降が発生しないことが好ましい。
本発明で与えられる(炭酸)ヒドロキシアパタイトの製造方法を構成する要素として、水中に於いてカルシウム塩とリン酸塩、および炭酸塩または炭酸水素塩を混合することで反応を行うことが基本である。以下に各々の構成要素について説明を行う。
カルシウム塩として本発明で好ましく用いることの出来る化合物としては、水溶性のカルシウム塩であれば任意のカルシウム塩を用いることが出来るが、好ましい例として、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウムおよびこれら各々の水和物を好ましく用いることが出来る。なお本発明に於いて水溶性とは、10℃の水に対する溶解性が1質量%以上であることを意味する。水溶性のカルシウム塩として本発明で用いることの出来る化合物は一般に市販品として入手可能な化合物であり、その純度が少なくとも95質量%以上の比率で含まれている場合に、本発明で好ましく用いることが出来る。特に好ましく用いることの出来る市販品としては、含まれる金属イオンとしてカルシウム以外の金属イオンが含まれていない水溶性のカルシウム塩が好ましく、含まれる場合であってもカルシウム塩に対して1質量%以下の比率であることが好ましい。また生体に対して有害性が懸念される成分を含まないことが好ましい。
リン酸塩として好適である原料の例としては、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二リチウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素リチウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸リチウム、リン酸アンモニウムおよびこれら各々の水和物等が特に好ましい例として挙げられる。これらについても、10℃の水に対する溶解性が1質量%以上である水溶性のリン酸塩が好ましく用いられる。上記のようにリン酸塩にはリン酸水素塩(HPO ――)、リン酸二水素塩(HPO )および第三リン酸塩(PO ―――)の三種類が存在するが、それぞれについて以下に述べる適切な反応条件を選択することで、何れも本発明に好ましく用いることが出来る。これらのリン酸塩中には不純物が可能な限り含まれていないことが好ましく、純度としては少なくとも95質量%以上の純度でリン酸塩およびその水和物が含まれていることが好ましく、さらに98質量%以上の純度であることが好ましい。
本発明に於いて用いることの出来る炭酸塩または炭酸水素塩としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム等の10℃の水に対する溶解性が1質量%以上である、水溶性の炭酸塩または炭酸水素塩が特に好ましい。これらの炭酸塩または炭酸水素塩中には不純物が可能な限り含まれていないことが好ましく、純度としては少なくとも95質量%以上であることが好ましく、さらに98質量%以上の純度であることが好ましい。炭酸塩と炭酸水素塩では本発明の(炭酸)ヒドロキシアパタイトを得るために用いることの出来るモル比率が異なるため炭酸塩または炭酸水素塩はそれぞれ個別に本文中で説明を行う。
本発明の(炭酸)ヒドロキシアパタイトの製造方法は、基本的には水中に於いて、カルシウム塩とリン酸塩、および炭酸塩または炭酸水素塩が後述する各々のモル比率の範囲内で互いに混合される方法であればそれらの添加方法に依らない。このように混合する1段階の反応で低結晶性の(炭酸)ヒドロキシアパタイトが製造できることが本発明の最も大きな特徴である。混合方法として、例えば、各々の塩を固体(分散状態)或いは水溶液の状態で、各々独立して水中に添加し、水中に於いて各々の塩が均一に混合するよう攪拌を行う添加方法を行っても良い。或いは、リン酸塩と、炭酸塩または炭酸水素塩を共に溶解した水溶液をあらかじめ作製しておき、これを用いてカルシウム塩を溶解した水溶液中に添加する方法や、或いは、リン酸塩と、炭酸塩または炭酸水素塩を共に溶解した水溶液中にカルシウム塩を溶解した水溶液を添加する方法を行っても良い。本発明に於いて重要なポイントは、リン酸塩と炭酸塩または炭酸水素塩が共に適切なモル比率を維持した状態でカルシウム塩と混合されることである。本発明に於いて最も好ましく利用出来る添加方法としては、カルシウム塩を溶解した水溶液中に、リン酸塩と、炭酸塩または炭酸水素塩の両方を溶解した水溶液を添加し、混合する方法が挙げられる。
カルシウム塩を水中に溶解した際の水溶液のpHは特に調整する必要はなく、この場合通常、水溶液のpHは6〜7前後である。上記の好ましい添加方法に従い、このカルシウム塩を溶解した水溶液に対してリン酸塩および炭酸塩または炭酸水素塩の両方を含有する水溶液を混合する場合、後者の水溶液のpHは7〜11の範囲にあることが好ましい。カルシウム塩とリン酸塩、および炭酸塩または炭酸水素塩の組み合わせによる反応で、後述する反応式に従って(炭酸)ヒドロキシアパタイトが生成するが、その際、反応に伴って酸が発生するため、反応系は酸性側に偏ろうとするが、反応系中に添加する炭酸塩または炭酸水素塩が発生する酸を中和することから、反応系のpHは強酸性側に偏ることが防止される。反応が進行するためのpH範囲として、カルシウム塩、リン酸塩、および炭酸塩または炭酸水素塩の各成分が混合された際に、pHが5〜10の範囲にあることが必要である。
カルシウム塩と、リン酸塩、および炭酸塩または炭酸水素塩を用いて水中でこれらを混合して反応を行う際の反応温度としては、0〜100℃の範囲が好ましく、より好ましくは20〜70℃の範囲である。これらの温度範囲から外れた反応温度でカルシウム塩とリン酸塩、および炭酸塩または炭酸水素塩を水中で混合して反応を行った場合、目的とする(炭酸)ヒドロキシアパタイトの収率が低下し、これ以外の化合物が副成する場合もあることから、生成物の収率と純度が低下する場合がある。また、本発明に於いて水中とは、少なくとも水を50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更には80質量%以上含む媒体中において上述した反応を行うことを意味し、必要に応じて水以外に、水に混和する各種有機溶剤や、或いは窒素、ヘリウム、炭酸ガス、その他の気体を導入した状態で反応を行っても良い。
次に、本発明で用いることの出来るリン酸塩について更に詳しく説明を行う。本発明に用いることの出来るリン酸塩として第三リン酸塩を使用した場合について説明する。第三リン酸塩を溶解した水溶液のpHは通常11を超えるため、この水溶液をそのまま(炭酸)ヒドロキシアパタイトの合成に用いようとすると、反応系のpHが10を超えてしまう場合があるため、これにあらかじめ適当な酸を加えてリン酸塩を含む水溶液のpHを11以下に低下させることが好ましい。この場合、用いる第三リン酸塩は全てリン酸水素塩もしくはリン酸二水素塩に変化していることから、この場合についての説明は、下記のリン酸水素塩の項に譲ることとする。
本発明に用いることの出来るリン酸塩としてリン酸水素塩を使用した場合について説明する。リン酸水素塩を溶解した水溶液のpHは8〜10の範囲にあるため、これをそのまま反応系に加えて反応を行うことが出来る。例えばリン酸水素塩としてリン酸水素二ナトリウム(NaHPO)を用いた場合、これと前記のカルシウム塩(例として塩化カルシウムの場合を示す)との間で(炭酸)ヒドロキシアパタイトを得るためには、下記のように炭酸塩(ここでは例として炭酸ナトリウムを用いた場合を示す)を添加することで下記のようにヒドロキシアパタイトを生成する反応が進行すると考えられる。
10CaCl + 6NaHPO + 4NaCO + 2H
→ Ca10(PO(OH) +20NaCl +4CO +4H
上記の化学反応式から、カルシウム塩とリン酸水素塩、および炭酸塩の各々のモル比率については、計算上では各々1:0.6:0.4の比率でヒドロキシアパタイトを形成する反応に寄与することが示唆される。一方、リン酸水素塩と炭酸塩は、それぞれ単独で用いてカルシウム塩と反応させた場合、各々リン酸水素カルシウムと炭酸カルシウムを生成する。従って、計算上ではリン酸水素塩と炭酸塩がそれぞれ0.6:0.4の比率で共に含まれている場合に、後者のリン酸水素カルシウム塩や炭酸カルシウム塩を生成することなく、上記の反応式のヒドロキシアパタイトが生成することが期待される。このような推測から、カルシウム塩の存在下で、リン酸水素塩と炭酸塩を同時に混合して反応を行うことが好ましく、その際のリン酸水素塩と炭酸塩のモル比率が重要であると考えられる。但し、実際の反応系に於いては、必ずしも上記のモル比率でのみ上記のような反応が進行するのではなく、モル比率には、各々0.6:0.4の比率の場合を含めて、好ましい範囲が存在することが後述する実施例を含めて、本発明において明らかとなった。
更に、上記の好ましいリン酸水素塩と炭酸塩のモル比率の範囲内に於いて、カルシウム塩は1モル比未満もしくは1モル比を超えて反応系中に存在していても何ら問題はないことが判明した。即ち、カルシウム塩1モル比に対し、リン酸塩および炭酸塩は上記の好ましいモル比率の例として、例えば0.6:0.4の比率を保ったまま、0.6α:0.4α (0.1≦α≦10)で表されるαの実数倍でリン酸塩と炭酸塩が含まれている場合に於いても上記の反応が進行することが明らかとなった。例えば、αが1である場合は、前記の反応式に従ってカルシウム塩とリン酸水素塩および炭酸塩はそれぞれ過不足無く反応に寄与し、最も収率の良好な結果を与えると考えられる。一方、αが1未満である場合には、リン酸塩および炭酸塩に対するカルシウム塩の割合が過剰であるため、反応終了時に過剰のカルシウム塩が反応系に残存することになるが、これは生成する該アパタイトから容易に水洗等の処理で除去することが出来る。但し、αとして0.1未満である場合には、用いるカルシウム塩の90%以上が過剰であるため、収率が低下し、現実的には好ましくない。さらに、αが1を超える場合には、用いるカルシウム塩に対して、リン酸塩及び炭酸塩の両方が過剰となるが、この場合も容易に水洗等の処理で除去することが出来る。但し、αとして10を超える場合には、用いるリン酸塩及び炭酸塩の双方の90%以上が過剰であるため、収率が低下し、現実的には好ましくない。
反応を行う際のカルシウム塩とリン酸水素塩のモル比について、先の反応式においてはカルシウム塩1モル比に対して、少なくとも0.6αモル比含まれていることが必要であると見積もったが、後述する実施例に於いて示すように、実際の実験結果に於いてもこれを裏付ける結果が得られた。但し、リン酸水素塩は0.6αモル比を超えて反応系に添加されていても良く、その上限として1.2αモル比を超えない範囲のモル比である場合に高純度で且つ低結晶性の(炭酸)ヒドロキシアパタイトを高収率で得ることが出来ることを見出した。即ち、カルシウム塩1モル比に対して、リン酸水素塩の用いることの出来るモル比として(0.6〜1.2)αモル比の範囲であることが必要で、この範囲から逸脱した比率で反応を行った場合、アパタイト以外の化合物が副成し、生成物の純度が低下する。
次に、炭酸塩の比率に関しては、前記の化学式からの見積もりでは、カルシウム塩1モル比に対して0.4αのモル比が好ましい範囲に含まれるとしたが、後述する実施例に於いて示すように、実際に様々なモル比に於いて実験を行った結果、前記の好ましいモル比率の範囲内でリン酸水素塩を共に含む反応系に於いて、炭酸塩の用いるべき好ましいモル比の範囲は(0.3〜0.6)αで含まれる場合であって、この場合に於いて本発明の目的とする高純度で且つ低結晶性の(炭酸)ヒドロキシアパタイトを高収率で得ることが出来ることを見出した。以上を整理すると、カルシウム塩1モル比に対して、リン酸水素塩と炭酸塩は各々(0.6〜1.2)αモル比と(0.3〜0.6)αモル比の範囲内でこれらを水中に於いて混合して反応を行った場合に、本発明の目的とする高純度の(炭酸)ヒドロキシアパタイトを高収率で得ることが出来る。
同様に、前記の化学式に於いて炭酸塩に代えて、炭酸水素塩として炭酸水素ナトリウムを用いた場合は次式のようにヒドロキシアパタイトを生成する反応が進行すると考えられる。
10CaCl + 6NaHPO + 8NaHCO + 2H
→ Ca10(PO(OH) +20NaCl +8CO +8H
上記の反応式に於いて、炭酸塩に代えて炭酸水素塩を用いた場合にも、カルシウム塩1モル比に対するリン酸水素塩のモル比率には影響がなく、リン酸水素塩のモル比率として(0.6〜1.2)αであることが判明した。また、カルシウム塩1モル比に対して炭酸水素塩のモル比率の範囲は、炭酸塩を用いた場合の2倍が必要であることが後述する実施例で示すように本発明に於いて明らかとなった。以上を纏めると、カルシウム塩とリン酸水素塩、および炭酸塩または炭酸水素塩を水中に於いて混合し反応を行う際に、カルシウム塩1モル比に対して、リン酸水素塩を(0.6〜1.2)αモル比で、炭酸塩または炭酸水素塩はp(0.3〜0.6)α(炭酸塩の場合p=1,炭酸水素塩の場合p=2)モル比を用いて反応を行った場合に於いて、本発明の目的とする高純度で且つ低結晶性の(炭酸)ヒドロキシアパタイトを高収率で得ることが出来る。
上記の組み合わせで反応を行う場合の反応系のpHは特に制御する必要はなく、使用するリン酸水素塩の水溶液が通常pHが8〜10の範囲であり、これに炭酸塩または炭酸水素塩を加えた水溶液のpHは高々pH11未満の範囲にあることから、これをそのまま反応に用いても、カルシウム塩を溶解した水溶液のpHが6〜7付近であるため、これらを混合した反応系のpH範囲として、pH=5〜10の範囲に保たれたままカルシウム塩と、リン酸水素塩及び炭酸塩または炭酸水素塩を水中で混合し、円滑に反応を進行させることが出来る。
次に、本発明に用いることの出来るリン酸塩としてリン酸二水素塩を使用した場合について同様に説明する。例えばリン酸水素塩としてリン酸二水素ナトリウム(NaHPO)を用いた場合、これとカルシウム塩(例として塩化カルシウムの場合を示す)および炭酸塩(例として炭酸ナトリウムを用いた場合を示す)を添加することで、下式の化学式に従ってヒドロキシアパタイトを生成する反応が進行すると考えられる。
ここで、上述した好ましい添加方法として、リン酸塩と炭酸塩または炭酸水素塩をあらかじめ混合した水溶液を作製し、これとカルシウム塩を溶解した水溶液を混合する方法を述べたが、この場合、リン酸塩としてリン酸二水素塩を用いた場合、炭酸塩または炭酸水素塩と混合することで中和反応が進行し、リン酸二水素塩はリン酸水素塩に変化し、炭酸塩は炭酸水素塩として存在するが、反応における互いのモル比率の関係には変化がないため、反応式としては結果的に下記の式と変わりはないことに触れておく。この場合も、上記のリン酸水素塩を用いる場合と同様に、反応系のpHは特に制御する必要はなく、使用するリン酸二水素塩の水溶液が通常pHが4〜5の範囲であり、これに炭酸塩または炭酸水素塩を加えた水溶液のpHは高々pH11未満の範囲にあることから、これをそのまま反応に用いても、カルシウム塩を溶解した水溶液のpHが6〜7付近であるため、これらを混合した反応系のpH範囲として、pH=5〜10の範囲に保たれたままカルシウム塩と、リン酸水素塩及び炭酸塩または炭酸水素塩を水中で混合し、円滑に反応を進行させることが出来る。
10CaCl + 6NaHPO + 7NaCO + 2H
→ Ca10(PO(OH) +20NaCl +7CO +7H
上記の化学反応式から、カルシウム塩とリン酸二水素塩、および炭酸塩の各々のモル比率については、計算上では各々1:0.6:0.7の比率でヒドロキシアパタイトを形成する反応に寄与することが示唆される。一方、リン酸二水素塩と炭酸塩は、それぞれ単独で用いてカルシウム塩と反応させた場合、各々リン酸二水素カルシウムと炭酸カルシウムを生成する。従って、計算上ではリン酸二水素塩と炭酸塩がそれぞれ0.6:0.7の比率で共に含まれている場合に、後者のリン酸二水素カルシウム塩や炭酸カルシウム塩を生成することなく、上記の反応式のヒドロキシアパタイトが生成することが期待される。このような推測から、カルシウム塩の存在下で、リン酸二水素塩と炭酸塩を同時に混合して反応を行うことが好ましく、その際のリン酸二水素塩と炭酸塩のモル比率が重要であると考えられる。但し、実際の反応系に於いては、必ずしも上記のモル比率でのみ上記のような反応が進行するのではなく、モル比率には、各々0.6:0.7の比率の場合を含めて、好ましい範囲が存在することが後述する実施例を含めて、本発明において明らかとなった。
更に、上記の好ましいリン酸二水素塩と炭酸塩のモル比率の範囲内に於いて、カルシウム塩は1モル比未満もしくは1モル比を超えて反応系中に存在していても何ら問題はないことが判明した。即ち、カルシウム塩1モル比に対し、リン酸二水素塩および炭酸塩は上記の好ましいモル比率の例として、例えば0.6:0.7の比率を保ったまま、0.6α:0.7α (0.1≦α≦10)で表されるαの実数倍でリン酸二水素塩と炭酸塩が含まれている場合に於いても上記の反応が進行することが明らかとなった。例えば、αが1である場合は、前記の反応式に従ってカルシウム塩とリン酸二水素塩および炭酸塩はそれぞれ過不足無く反応に寄与し、最も収率の良好な結果を与えると考えられる。一方、αが1未満である場合には、リン酸二水素塩および炭酸塩に対するカルシウム塩の割合が過剰であるため、反応終了時に過剰のカルシウム塩が反応系に残存することになるが、これは生成する該アパタイト中から容易に水洗等の処理で除去することが出来る。但し、αとして0.1未満である場合には、用いるカルシウム塩の90%以上が過剰であるため、収率が低下し、現実的には好ましくない。さらに、αが1を超える場合には、用いるカルシウム塩に対して、リン酸二水素塩及び炭酸塩の両方が過剰となるが、この場合も生成する該アパタイト中から容易に水洗等の処理で除去することが出来る。但し、αとして10を超える場合には、用いるリン酸塩及び炭酸塩の双方の90%以上が過剰であるため、収率が低下し、現実的には好ましくない。
反応を行う際のカルシウム塩とリン酸二水素塩のモル比について、先の反応式においてはカルシウム塩1モル比に対して、少なくとも0.6αモル比含まれていることが必要であると見積もったが、後述する実施例に於いて示すように、実際の実験結果に於いてもこれを裏付ける結果が得られた。但し、リン酸二水素塩は0.6αモル比を超えて反応系に添加されていても良く、その上限として1.2αモル比を超えない範囲のモル比である場合に高純度の(炭酸)ヒドロキシアパタイトを高収率で得ることが出来ることを見出した。即ち、カルシウム塩1モル比に対して、リン酸二水素塩の用いることの出来るモル比として(0.6〜1.2)αモル比の範囲であることが必要で、この範囲から逸脱した比率で反応を行った場合、アパタイト以外の化合物が副成し、生成物の純度が低下する場合があることが判明した。
次に、炭酸塩の比率に関しては、前記の化学式からの見積もりでは、カルシウム塩1モル比に対して0.7αのモル比が好ましい範囲に含まれるとしたが、後述する実施例に於いて示すように、実際に様々なモル比に於いて実験を行った結果、前記の好ましいモル比率の範囲内でリン酸二水素塩を共に含む反応系に於いて、炭酸塩の用いるべき好ましいモル比の範囲は(0.7〜1.2)αで含まれる場合であって、この場合に於いて本発明の目的とする高純度の(炭酸)ヒドロキシアパタイトを高収率で得ることが出来ることを見出した。以上を整理すると、カルシウム塩1モル比に対して、リン酸二水素塩と炭酸塩は各々(0.6〜1.2)αモル比と(0.7〜1.2)αモル比の範囲内でこれらを水中に於いて混合して反応を行った場合に、本発明の目的とする高純度で且つ低結晶性の(炭酸)ヒドロキシアパタイトを高収率で得ることが出来る。
或いは、上式の炭酸塩に代えて、炭酸水素塩として炭酸水素ナトリウムを用いた場合は下式のようにしてヒドロキシアパタイトを生成する反応が進行すると考えられる。
10CaCl + 6NaHPO + 14NaHCO+ 2H
→ Ca10(PO(OH)+20NaCl+14CO+14H
上記の反応式に於いて、炭酸塩に代えて炭酸水素塩を用いた場合にも、カルシウム塩1モル比に対するリン酸二水素塩のモル比率には影響がなく、リン酸二水素塩のモル比率として(0.6〜1.2)αであることが判明した。また、カルシウム塩1モル比に対して炭酸水素塩の好ましいモル比率の範囲は、(1.4〜2.4)αモル比の範囲であり、カルシウム塩1モル比に対して、リン酸二水素塩と炭酸水素塩は各々(0.6〜1.2)αモル比と(1.4〜2.4)αモル比の範囲内でこれらを水中に於いて混合して反応を行った場合に、本発明の目的とする高純度の(炭酸)ヒドロキシアパタイトを高収率で得ることが出来る。以上を纏めると、カルシウム塩とリン酸二水素塩、および炭酸塩または炭酸水素塩を水中に於いて混合し反応を行う際に、カルシウム塩1モル比に対して、リン酸水素塩を(0.6〜1.2)αモル比で、炭酸塩または炭酸水素塩はp(0.7〜1.2)α(炭酸塩の場合p=1,炭酸水素塩の場合p=2)モル比を用いて反応を行った場合に於いて、本発明の目的とする高純度で且つ低結晶性の(炭酸)ヒドロキシアパタイトを高収率で得ることが出来る。
上記の組み合わせで反応を行う場合の反応系のpHは特に制御する必要はなく、使用するリン酸二水素塩の水溶液が通常pHが4〜5の範囲であり、これに炭酸塩または炭酸水素塩を加えた水溶液のpHは高々pH10未満の範囲にあることから、これをそのまま反応に用いても、カルシウム塩を溶解した水溶液のpHが6〜7付近であるため、これらを混合した反応系のpH範囲として、pH=5〜10の範囲に保たれたままカルシウム塩と、リン酸二水素塩、および炭酸塩または炭酸水素塩を水中で混合し、円滑に反応を進行させることが出来る。
上記した炭酸塩または炭酸水素塩(以下炭酸(水素)塩とも記載)の用いるべきモル比率の範囲に於いて、各々の条件における炭酸(水素)塩のモル比率の下限値に0.1pαを加えたモル比率未満のモル比率において反応を行った場合、生成するヒドロキシアパタイト中には炭酸イオンが含まれないか、含まれている場合であっても該アパタイトに対して高々2質量%未満であり、実質的に炭酸イオンの影響は認められないことからヒドロキシアパタイトとして利用出来ることが明らかとなった。即ち、上述の反応条件に於いて、リン酸塩に対する炭酸(水素)塩のモル比率が、該モル比率の下限値に0.1pαを加えたモル比率未満において反応を行った場合、ヒドロキシアパタイトが選択的に得られる。
一方、炭酸(水素)塩の用いるべきモル比率の範囲に於いて、各々の条件における炭酸(水素)塩のモル比率の下限値に0.1pαを加えたモル比率以上において反応を行った場合、生成するヒドロキシアパタイト中には炭酸イオンが含まれており、この場合、後述する実施例において示すように、炭酸イオンをヒドロキシアパタイト中に効率よく導入出来ることが明らかとなった。ヒドロキシアパタイト中に更に炭酸イオンが導入されることで、その結晶性が低下する場合や、或いは水中或いは生体内における溶解性が増加することが考えられることから、本発明で得られる炭酸ヒドロキシアパタイトは医療用途、特に生体内吸収材料としてとりわけ有用である。
本発明の(炭酸)ヒドロキシアパタイトの製造方法に於いて、カルシウム塩、リン酸塩、および炭酸塩または炭酸水素塩の3成分の内、炭酸塩または炭酸水素塩が上述した上限を超えたモル比率で含まれている場合には、(炭酸)ヒドロキシアパタイト以外に特に炭酸カルシウムが副成する。
更に、本発明の(炭酸)ヒドロキシアパタイトの製造方法に於いて、カルシウム塩、リン酸塩および炭酸塩または炭酸水素塩の3成分の内、リン酸塩が上述した上限を超えたモル比率で含まれている場合には、(炭酸)ヒドロキシアパタイト以外に特にリン酸水素カルシウム或いはリン酸カルシウムが副成する。
上記で得られる(炭酸)カルシウムのアパタイトは微粒状の粉体であるが、それぞれの粉体を走査型電子顕微鏡で観察すると、ナノメートルサイズの微小な微粒子が集合して粉体を形成しており、比表面積の極めて大きな表面多孔質の粉体であることが判明した。これらの(炭酸)ヒドロキシアパタイトは例えばクロマト用カラム用担体や蛋白や様々な物質に対する吸着剤の用途に対して粉体として利用することも出来るが、必要に応じて微粒子集合体の粉砕や微分散を行うことで微粒化を行い、個々の(炭酸)ヒドロキシアパタイト微粒子が単独もしくは複数個凝集して媒体中で分散した分散体としてコーティング用途に好ましく利用することも出来る。
上記微粒化の方法として特に好ましい方法は、媒体中に於いて上記の方法で得られる(炭酸)カルシウムアパタイトの粉体を用いて、これに湿式分散処理を行うことである。こうした湿式分散処理を行うためには、従来から知られている様々な湿式分散処理方法を利用することが出来る。好ましい湿式分散方法としては、メディアミルを利用した湿式分散方式が特に好ましく、具体的には、(炭酸)ヒドロキシアパタイトを導入した媒体中に於いて、通常ガラスビーズやアルミナビーズ、その他のセラミックビーズ等のメディアを加えて振盪や攪拌を行い、(炭酸)ヒドロキシアパタイト粒子と該ビーズが機械的に衝突し、微粉砕されることで微粒化を行う処理方法を利用することが出来る。少量をバッチ方式で処理を行う場合には、メディアミルとしてペイントコンディショナーを使用して数時間に亘る振盪を行うことで湿式分散処理を行うことが出来る。また上記したメディアミルは、ダイノミルのような連続方式での湿式分散処理が可能である装置を用いて、これを複数台用いて直列に配置して1パスで湿式分散処理を行っても良く、或いは1台のメディアミルを用いて複数回処理を繰り返すことも好ましく行うことが出来る。このような湿式分散処理を行うことで、経時により沈降することや、沈殿物や凝集物が発生することが無く、また均一な厚みのコート層が得られるといったコーティング用途に好適な(炭酸)ヒドロキシアパタイト微粒子を得ることが出来る。
上記でコーティング用途に好適であるとは、コーティングにより形成されるコート層の厚みに対して、該コート層中に含まれる(炭酸)ヒドロキシアパタイト微粒子の体積平均粒子径が同等かそれ以下であることが必要であり、該コート層の厚みを超えた大きさの微粒子が含まれている場合、該コート層から微粒子が露出し、表面の平滑性が失われる場合がある。本発明で意図するコーティングによって形成されるコート層の厚みは高々10μm以下であることから、従って、本発明で目的とする(炭酸)ヒドロキシアパタイト微粒子の大きさとしては、体積平均粒子径において高々10μm以下であることを意味する。本発明で得られる(炭酸)ヒドロキシアパタイト微粒子としての大きさは体積平均粒子径に於いて40nmから10μmの範囲にあり、本発明では体積平均粒子径が小さいほどコーティング用途に適用した場合、均一性に優れたコーティング膜が形成されることからより好ましいと捉えた。
さらに、本発明に於いてコーティング用途に好適であるための条件として、コーティング用途に用いる本発明で得られる(炭酸)ヒドロキシアパタイト微粒子を分散した分散液において、該微粒子の分散安定性が良好であり、長期間(例えば室温に於いて1週間の保管期間)の保存に際しても微粒子の凝集や沈降が発生しないことが好ましい。
(炭酸)ヒドロキシアパタイトを分散するための媒体としては水が最も好ましいが、水に対して20質量%未満の添加量であれば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類や、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン等の環状エーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド等の極性溶媒等、水と混和性のある種々の溶剤を添加して用いることも出来る。
上記したメディアを利用して(炭酸)ヒドロキシアパタイトの湿式分散処理を行う場合に、使用するメディアはセラミックビーズを用いることが好ましい。特に(炭酸)ヒドロキシアパタイトを分散する場合に、ビーズが研磨されるなどしてビーズ由来の不純物が、得られる(炭酸)ヒドロキシアパタイト微粒子の分散物に混入することを防止することが好ましい。こうした目的で利用できるセラミックビーズとして、具体的にはZrO、立方晶ジルコニア、イットリウム安定化ジルコニア、ジルコニア強化アルミナなどのジルコニアを含有するセラミックビーズなどを最も好ましく用いることが出来る。また、メディアの平均直径は0.01〜10mmの範囲にあることが好ましく、より好ましくは0.1〜5mmである。こうしたメディアを使用したメディアミルを用いる湿式分散処理の条件は、通常行われる室温での処理であり、特に処理時間や温度等に関する制限は無い。また、パス回数については1回で十分である場合もあるが、2〜7回程度のパス回数で処理を行うことで、より粒子径分布が狭く、かつ分散安定性に優れた(炭酸)ヒドロキシアパタイト微粒子の分散物が得られることから好ましく行うことが出来る。
上記の(炭酸)ヒドロキシアパタイト微粒子の分散物を製造する際に、分散剤として、各種界面活性剤や無機化合物および各種水溶性ポリマーなどを添加して湿式分散処理を行い、得られる(炭酸)ヒドロキシアパタイト微粒子の分散物における体積平均粒子径をより小さくすることが好ましい。
上記の分散剤として用いることの出来るアニオン性界面活性剤としては、ラウリン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム等の高級脂肪酸塩類、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩類、オクチルアルコール硫酸エステルナトリウム、ラウリルアルコール硫酸エステルナトリウム、ラウリルアルコール硫酸エステルアンモニウム等の高級アルコール硫酸エステル塩類、アセチルアルコール硫酸エステルナトリウム等の脂肪族アルコール硫酸エステル塩類、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩類、ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム、イソプロピルナフタレンスルホン酸ナトリウム等のアルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム等のアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩類、ラウリル燐酸ナトリウム、ステアリル燐酸ナトリウム等のアルキル燐酸エステル塩類、ラウリルエーテル硫酸ナトリウムのポリエチレンオキサイド付加物、ラウリルエーテル硫酸アンモニウムのポリエチレンオキサイド付加物、ラウリルエーテル硫酸トリエタノールアミンのポリエチレンオキサイド付加物等のアルキルエーテル硫酸塩のポリエチレンオキサイド付加物類、ノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウムのポリエチレンオキサイド付加物等のアルキルフェニルエーテル硫酸塩のポリエチレンオキサイド付加物類、ラウリルエーテル燐酸ナトリウムのポリエチレンオキサイド付加物等のアルキルエーテル燐酸塩のポリエチレンオキサイド付加物類、ノニルフェニルエーテル燐酸ナトリウムのポリエチレンオキサイド付加物等のアルキルフェニルエーテル燐酸塩のポリエチレンオキサイド付加物類等を挙げることができる。
前記の分散剤として用いることの出来るノニオン性界面活性剤としては、種々の鎖長のポリエチレンオキサイドに、アルキル基やフェニル基およびアルキル置換フェニル基が結合したポリエチレンオキサイドアルキルエーテル、ポリエチレンオキサイドアルキルフェニルエーテルが好ましく用いることが出来、これらの内でも、商品名TWEEN20、同40、同60および同80として知られるソルビタンモノアルキレート誘導体が最も好ましく用いることが出来る。
前記の分散剤として用いることの出来る水溶性ポリマーとしては、例えば、ゼラチン、ゼラチン誘導体(例えば、フタル化ゼラチン等)、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、キサンタン、カチオン性ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、デンプン、各種変性デンプン(例えばリン酸変性デンプン等)等を挙げることが出来る。
前記の分散剤として用いることの出来る無機化合物として各種リン酸塩を挙げることが出来るが、特に好ましい例としてポリリン酸(塩)を挙げることが出来る。この場合、得られる(炭酸)ヒドロキシアパタイト微粒子の分散物中に含まれる微粒子の大きさが体積平均粒子径にして40〜900nmの範囲にある微粒子に分散され、実質的に有機物を含まず、高純度で分散安定性に優れた(炭酸)ヒドロキシアパタイト微粒子の分散物が得られることから、極めて好ましく用いることが出来る。本発明により得られる(炭酸)ヒドロキシアパタイト微粒子の分散物をコーティング用途に使用して、例えば前記した生体インプラントへの適用を行った場合、(炭酸)ヒドロキシアパタイト微粒子の分散物中に有機物が含まれている場合、生体に対する安全性が損なわれる場合がある。よって本発明の(炭酸)ヒドロキシアパタイト微粒子の製造方法によって得られる分散物は、有機物を含有しないことが好ましい。尚、本発明において実質的に有機物を含まないとは、(炭酸)ヒドロキシアパタイトに対して有機物が1質量%以下であることを意味する。より好ましくは0.1質量%以下である。
上記で用いることの出来るポリリン酸(塩)の例として、ピロリン酸(ナトリウム)、トリポリリン酸(ナトリウム)、テトラポリリン酸(ナトリウム)、直鎖状のポリリン酸(ナトリウム)のような直鎖状のポリリン酸(塩)及びこれらの水和物が挙げられ、或いは環状化合物であるヘキサメタリン酸(ナトリウム)などを含み、実際には高分子化合物であるメタリン酸(ナトリウム)や、或いは、直鎖状骨格のみならず、分岐構造を含むウルトラリン酸(ナトリウム)及びこれらの水和物などを挙げることが出来る。これらの種々のポリリン酸(塩)は複数の種類を任意の割合で混合して用いても良い。なおここでポリリン酸(塩)とは、ポリリン酸或いはこれらの塩であることを意味する。
上記のような種々の分散剤を用いて(炭酸)ヒドロキシアパタイト微粒子を製造する場合には、(炭酸)ヒドロキシアパタイトに対する各種分散剤の比率についても好ましい範囲が存在する。(炭酸)ヒドロキシアパタイト100質量部に対して、用いられる分散剤の量は、5〜100質量部とすることが最も好ましい。
以下に実施例によって本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の百分率は断りのない限り質量基準である。
(実施例1)(ヒドロキシアパタイトの合成)
塩化カルシウム二水和物(和光純薬工業製試薬)74グラム(0.5モル)を1リットルの三角フラスコ内に秤取り、イオン交換水350グラムを加えて溶解した。この溶液のpHは6.0であった。これとは別に、500mlのガラスビーカー内にリン酸水素二アンモニウム(和光純薬工業製試薬)40グラム(0.3モル)および炭酸ナトリウム(和光純薬工業製試薬)16グラム(0.15モル)を秤取り、イオン交換水300グラムを加えて溶解した。この溶液のpHは9.5であった。上記で作製した塩化カルシウム水溶液を導入した三角フラスコを50℃に調整した水浴上に移し、攪拌しながら滴下漏斗を用いて、リン酸水素二アンモニウムおよび炭酸ナトリウムを溶解した水溶液を1時間に亘って徐々に滴下した。反応中の反応系のpHは5.0であった。滴下終了後さらに1時間加熱攪拌を行った。その後水浴上から三角フラスコを移し、室温まで冷却した後、グラスフィルターを用いて生成した白色沈殿を吸引濾過した。フィルター上の白色沈殿は更に繰り返しイオン交換水で洗浄を行った後、60℃に調節した乾燥器内で1昼夜乾燥を行い、白色の粉体を得た。生成物の収量は、ヒドロキシアパタイトとして計算した理論収量に対してほぼ100質量%の収量であった。
得られた生成物を広角X線回折装置を用いて解析を行い、図1に示す結果を得た。図1には、実施例1で得られたヒドロキシアパタイトの広角X線回折パターンを示した。ヒドロキシアパタイトに由来するピークのみが観察され、それ以外の不純物に起因するピークは認められなかった。尚、回折ピークは非常にブロードで低結晶性のヒドロキシアパタイトの特徴を良く表していた。2θ=26°付近に観察される(002)面からの回折ピークの半値幅は0.36°であった。更に、本実施例で得られた低結晶性ヒドロキシアパタイトを130℃に加熱した乾燥器内で48時間加熱を行い、その後、同様にX線回折測定を行ったが、回折パターンおよび回折ピークの半値幅には変化が認められず、低結晶性のヒドロキシアパタイトとして熱的にも安定であることが確認された。
図2には、実施例1で得られたヒドロキシアパタイトのFT−IRスペクトルチャートを示した。図2より、生成物はヒドロキシアパタイトであり、炭酸イオンは結晶中に含まれておらず高純度のヒドロキシアパタイトが得られていることが明らかとなった。また、ここでは示していないが、実施例1で得られたヒドロキシアパタイトを蛍光X線分析およびEDS(エネルギー分散型X線分光法)を用いてそれぞれの方法で含まれている元素分析を行った結果、99質量%以上の高純度のヒドロキシアパタイトであり、構成元素比率も理論値と良く一致する結果を得た。
(分散剤を使用しない場合のヒドロキシアパタイト微粒子の製造方法と評価結果)
上記で得られたヒドロキシアパタイトを用いて以下のようにしてメディアミルを利用した湿式分散処理を行うことで、ヒドロキシアパタイト微粒子を製造した。即ち、上記で得たヒドロキシアパタイト20グラムを0.2リットルのポリプロピレン容器に移し、さらにイオン交換水80グラムおよび粒径0.3mmのジルコニアビーズを160グラム加えて密閉し、ペイントコンディショナーを使用して6時間湿式分散処理を行った。その後、濾布を使用して分散物からジルコニアビーズを分離した。得られた分散物の固形分濃度は20質量%であった。これを用いて以下のように評価を行った。
上記で得られた分散物を用いて、分散しているヒドロキシアパタイト微粒子の大きさを測定するために、光散乱回折式粒度分布計(堀場製作所製粒度分布測定装置LA−920)を使用して測定した。結果を図3に示す。図3は、実施例1で得られたヒドロキシアパタイトを分散剤を使用せず湿式分散処理を行って得られたヒドロキシアパタイト微粒子分散物の粒子径分布曲線を表す。図3より求められた体積平均粒子径は、メジアン径で2.4μmであり、比較的粒子径分布の狭い微粒子であることが明らかとなった。また上記で得られた分散物に含まれるヒドロキシアパタイト微粒子の分散安定性を評価するために、分散物を透明ガラス製容器内に入れて1週間室温で静置しておき、静置後の分散物の様子を目視で観察したが、沈殿物や凝集物の発生もなく、安定に分散していることが確認された。
(ポリリン酸(塩)を用いた際のヒドロキシアパタイト微粒子の製造方法と評価結果)
上記で得たヒドロキシアパタイト20グラムを0.2リットルのポリプロピレン容器に移し、これにピロリン酸ナトリウム十水和物(和光純薬工業製試薬)を4グラム添加し、さらにイオン交換水76グラムおよび粒径0.3mmのジルコニアビーズを160グラム加えて密閉し、ペイントコンディショナーを使用して6時間湿式分散処理を行った。その後、濾布を使用して分散物からジルコニアビーズを分離した。得られた分散物のpHは10.7であり、固形分濃度は22質量%であった。得られた分散物を用いて、分散しているヒドロキシアパタイト微粒子の大きさを先の場合と同様にして測定し、図4に示す結果を得た。図4は、実施例1で得られたヒドロキシアパタイトを分散剤としてポリリン酸(塩)を使用して湿式分散処理を行って得られた低結晶性ヒドロキシアパタイト微粒子分散物の粒子径分布曲線を表す。求められた体積平均粒子径は、メジアン径で380nmであった。ポリリン酸(塩)として使用したピロリン酸ナトリウム十水和物の添加により、粒子径が大幅に低下したnmオーダーの微細なヒドロキシアパタイト微粒子が得られることが明らかとなった。上記で得られた分散物に含まれるヒドロキシアパタイト微粒子の分散安定性を評価するために、分散物を透明ガラス製容器内に入れて1週間室温で静置しておき、静置後の分散物の様子を目視で観察したが、沈殿物や凝集物の発生もなく、安定に分散していることが確認された。
(ヒドロキシアパタイト微粒子のコーティング評価結果)
上記のピロリン酸ナトリウム十水和物を添加して湿式分散処理後に得られた分散物を用いて、これをスライドガラス上に乾燥塗布膜厚が約2μmになるよう塗布を行った。乾燥後に塗膜を観察したところ、ほぼ完全に透明である均一な塗布膜が形成されていることが確認された。
(実施例2)(ヒドロキシアパタイトの合成)
実施例1において、炭酸ナトリウムを19.5グラム(0.19モル)用いた以外は同様にして反応を行い(反応中の反応系のpHは6.0であった)、得られた生成物を実施例1と同様に広角X線回折およびFT−IRを用いて解析を行った。図5には、実施例2で得られたヒドロキシアパタイトの広角X線回折パターンを示した。ヒドロキシアパタイトに由来するピークのみが観察され、それ以外の不純物に起因するピークは認められなかった。尚、回折ピークは非常にブロードで低結晶性のヒドロキシアパタイトの特徴を良く表していた。2θ=26°付近に観察される(002)面からの回折ピークの半値幅は0.39°であった。図6には、実施例2で得られたヒドロキシアパタイトのFT−IRスペクトルチャートを示した。図6より、1400cm−1付近に極小さい炭酸イオンに依ると推測されるピークが認められたが、仮に炭酸イオンとしてもその質量%は1質量%未満であり、実質的には炭酸イオンは結晶中に含まれておらず、本実施例に於いても高純度の低結晶性のヒドロキシアパタイトが得られていることが明らかとなった。
(実施例3)(炭酸ヒドロキシアパタイトの合成)
実施例1において、炭酸ナトリウムを27グラム(0.25モル)用いた以外は同様にして反応を行い(反応中の反応系のpHは7.0であった)、得られた生成物を実施例1と同様に広角X線回折およびFT−IRを用いて解析を行った。図7には、実施例3で得られた低結晶性炭酸ヒドロキシアパタイトの広角X線回折パターンを示した。炭酸ヒドロキシアパタイトに由来するピークのみが観察され、それ以外の不純物に起因するピークは認められなかった。尚、回折ピークは非常にブロードで低結晶性の炭酸ヒドロキシアパタイトの特徴を良く表していた。2θ=26°付近に観察される(002)面からの回折ピークの半値幅は0.43°であった。図8には、実施例3で得られた炭酸ヒドロキシアパタイトのFT−IRスペクトルチャートを示した。図8より、1415cm−1と1450cm−1付近の2カ所に炭酸ヒドロキシアパタイトに特有の吸収ピークが認められた。この1415cm−1の吸光度を1010cm−1付近のリン酸イオンに基づく吸収ピークの吸光度に対してFeathersotone等の方法に従い(J.D.B. Featherstone, Caries Res., 18, 63-66 (1984))炭酸イオンの割合を計算した。その結果、本実施例で得られた生成物は低結晶性炭酸ヒドロキシアパタイトであり、該アパタイト中に含まれる炭酸イオンの割合は質量%で8質量%と計算された。以上の結果より、本実施例では、高純度の低結晶性炭酸ヒドロキシアパタイトが得られていることが明らかとなった。
(実施例4)(炭酸ヒドロキシアパタイトの合成)
実施例1において、炭酸ナトリウムを32グラム(0.3モル)用いた以外は同様にして反応を行い(反応中の反応系のpHは8.0であった)、得られた生成物を実施例1と同様に広角X線回折およびFT−IRを用いて解析を行った。図9には、実施例4で得られた炭酸ヒドロキシアパタイトの広角X線回折パターンを示した。炭酸ヒドロキシアパタイトに由来するピークのみが観察され、それ以外の不純物に起因するピークは認められなかった。尚、回折ピークは非常にブロードで低結晶性の炭酸ヒドロキシアパタイトの特徴を良く表していた。2θ=26°付近に観察される(002)面からの回折ピークの半値幅は0.52°であった。図10には、実施例4で得られた炭酸ヒドロキシアパタイトのFT−IRスペクトルチャートを示した。図10より、1415cm−1と1450cm−1付近の2カ所に炭酸ヒドロキシアパタイトに特有の吸収ピークが認められた。この1415cm−1の吸光度を1010cm−1付近のリン酸イオンに基づく吸収ピークの吸光度に対してFeathersotone等の方法に従い(J.D.B. Featherstone, Caries Res., 18, 63-66 (1984))炭酸イオンの割合を計算した。その結果、本実施例で得られた生成物は低結晶性の炭酸ヒドロキシアパタイトであり、該アパタイト中に含まれる炭酸イオンの割合は質量%で16質量%と計算された。以上の結果より、本実施例では、高純度の低結晶性炭酸ヒドロキシアパタイトが得られていることが明らかとなった。
(実施例5)(ヒドロキシアパタイトの合成)
実施例1において、リン酸水素二アンモニウムを80グラム(0.6モル)用いた以外は同様にして反応を行い(反応中の反応系のpHは8.0であった)、得られた生成物を実施例1と同様に広角X線回折およびFT−IRを用いて解析を行った。図11には、実施例5で得られたヒドロキシアパタイトの広角X線回折パターンを示した。ヒドロキシアパタイトに由来するピークのみが観察され、それ以外の不純物に起因するピークは認められなかった。尚、回折ピークはブロードで低結晶性のヒドロキシアパタイトの特徴を良く表していた。2θ=26°付近に観察される(002)面からの回折ピークの半値幅は0.38°であった。図12には、実施例5で得られたヒドロキシアパタイトのFT−IRスペクトルチャートを示した。図12より、生成物はヒドロキシアパタイトであり、炭酸イオンは結晶中に含まれておらず低結晶性でかつ高純度のヒドロキシアパタイトが得られていることが明らかとなった。
(実施例6)(ヒドロキシアパタイトの合成)
実施例1において作製した塩化カルシウム水溶液と、リン酸水素二アンモニウムおよび炭酸ナトリウムを共に溶解した水溶液を用いて、実施例1と同様にして塩化カルシウム水溶液中に、リン酸水素二アンモニウムおよび炭酸ナトリウムを共に溶解した水溶液の半分のみを1時間に亘って滴下した(反応中の反応系のpHは6.0であった)。得られた生成物を実施例1と同様に広角X線回折およびFT−IRを用いて解析を行った。その結果、生成物は実施例1と同様のヒドロキシアパタイトの回折パターンを示し、それ以外の不純物に起因するピークは認められなかった。尚、回折ピークはブロードで低結晶性のヒドロキシアパタイトの特徴を良く表していた。2θ=26°付近に観察される(002)面からの回折ピークの半値幅は0.36°であった。また、FT−IRスペクトルからは、炭酸イオンは結晶中に含まれておらず低結晶性でかつ高純度のヒドロキシアパタイトが得られていることが明らかとなった。
(実施例7)(ヒドロキシアパタイトの合成)
実施例1において、リン酸水素二アンモニウムに代えてリン酸二水素ナトリウム二水和物(和光純薬工業製試薬)を47グラム(0.3モル)を用い、炭酸ナトリウムを37グラム(0.35モル)用いた以外は同様にして反応を行い(反応中の反応系のpHは6.0であった)、得られた生成物を実施例1と同様に広角X線回折およびFT−IRを用いて解析を行った。その結果、生成物は実施例1と同様のヒドロキシアパタイトの回折パターンを示し、それ以外の不純物に起因するピークは認められなかった。尚、回折ピークはブロードで低結晶性のヒドロキシアパタイトの特徴を良く表していた。2θ=26°付近に観察される(002)面からの回折ピークの半値幅は0.40°であった。また、FT−IRスペクトルからは、炭酸イオンは結晶中に含まれておらず低結晶性でかつ高純度のヒドロキシアパタイトが得られていることが明らかとなった。
(実施例8)(炭酸ヒドロキシアパタイトの合成)
実施例1において、リン酸水素二アンモニウムに代えてリン酸二水素ナトリウム二水和物(和光純薬工業製試薬)を47グラム(0.3モル)を用い、炭酸ナトリウムを64グラム(0.6モル)用いた以外は同様にして反応を行い(反応中の反応系のpHは6.5であった)、得られた生成物を実施例1と同様に広角X線回折およびFT−IRを用いて解析を行った。図13には、実施例8で得られた炭酸ヒドロキシアパタイトの広角X線回折パターンを示した。炭酸ヒドロキシアパタイトに由来するピークのみが観察され、それ以外の不純物に起因するピークは認められなかった。尚、回折ピークは非常にブロードで低結晶性の炭酸ヒドロキシアパタイトの特徴を良く表していた。2θ=26°付近に観察される(002)面からの回折ピークの半値幅は0.54°であった。図14には、実施例8で得られた炭酸ヒドロキシアパタイトのFT−IRスペクトルチャートを示した。図14より、1415cm−1と1450cm−1付近の2カ所に炭酸ヒドロキシアパタイトに特有の吸収ピークが認められた。この1415cm−1の吸光度から、該アパタイト中に含まれる炭酸イオンの割合は質量%で13質量%と計算された。以上の結果より、本実施例では、低結晶性でかつ高純度の炭酸ヒドロキシアパタイトが得られていることが明らかとなった。
(実施例9)(ヒドロキシアパタイトの合成)
実施例1において、炭酸ナトリウムに代えて炭酸水素ナトリウムを25グラム(0.3モル)用いた以外は同様にして反応を行い(反応中の反応系のpHは6.5であった)、得られた生成物を実施例1と同様に広角X線回折およびFT−IRを用いて解析を行った結果ヒドロキシアパタイトに由来するピークのみが観察され、それ以外の不純物に起因するピークは認められなかった。尚、回折ピークはブロードで低結晶性のヒドロキシアパタイトの特徴を良く表していた。2θ=26°付近に観察される(002)面からの回折ピークの半値幅は0.40°であった。またFT−IRによる測定では炭酸イオンの存在は認められなかった。以上の結果より、本実施例では、低結晶性でかつ高純度のヒドロキシアパタイトが得られていることが明らかとなった。
(実施例10)(炭酸ヒドロキシアパタイトの合成)
実施例1において、炭酸ナトリウムに代えて炭酸水素ナトリウムを50グラム(0.6モル)用いた以外は同様にして反応を行い(反応中の反応系のpHは7.5であった)、得られた生成物を実施例1と同様に広角X線回折およびFT−IRを用いて解析を行った結果炭酸ヒドロキシアパタイトに由来するピークのみが観察され、それ以外の不純物に起因するピークは認められなかった。尚、回折ピークは非常にブロードで低結晶性のヒドロキシアパタイトの特徴を良く表していた。2θ=26°付近に観察される(002)面からの回折ピークの半値幅は0.50°であった。またFT−IRによる測定から、1415cm−1と1450cm−1付近の2カ所に炭酸ヒドロキシアパタイトに特有の吸収ピークが認められた。この1415cm−1の吸光度から、該アパタイト中に含まれる炭酸イオンの割合は質量%で20質量%と計算された。以上の結果より、本実施例では、低結晶性でかつ高純度の炭酸ヒドロキシアパタイトが得られていることが明らかとなった。
(実施例11)(ヒドロキシアパタイトの合成)
実施例8において、炭酸ナトリウムに代えて炭酸水素ナトリウムを60グラム(0.7モル)用いた以外は同様にして反応を行い(反応中の反応系のpHは6.5であった)、得られた生成物を実施例1と同様に広角X線回折およびFT−IRを用いて解析を行った結果ヒドロキシアパタイトに由来するピークのみが観察され、それ以外の不純物に起因するピークは認められなかった。尚、回折ピークは非常にブロードで低結晶性のヒドロキシアパタイトの特徴を良く表していた。2θ=26°付近に観察される(002)面からの回折ピークの半値幅は0.37°であった。またFT−IRによる測定では、該アパタイト中には炭酸イオンは含まれておらず、実施例1で得られたヒドロキシアパタイトと同一の構造を有していることが明らかとなり、本実施例では、高純度の炭酸ヒドロキシアパタイトが得られていることが明らかとなった。
(実施例12)(炭酸ヒドロキシアパタイトの合成)
実施例8において、炭酸ナトリウムに代えて炭酸水素ナトリウムを68グラム(0.8モル)用いた以外は同様にして反応を行い(反応中の反応系のpHは6.5であった)、得られた生成物を実施例1と同様に広角X線回折およびFT−IRを用いて解析を行った結果炭酸ヒドロキシアパタイトに由来するピークのみが観察され、それ以外の不純物に起因するピークは認められなかった。尚、回折ピークはブロードで低結晶性のヒドロキシアパタイトの特徴を良く表していた。2θ=26°付近に観察される(002)面からの回折ピークの半値幅は0.49°であった。またFT−IRによる測定では1415cm−1と1450cm−1付近の2カ所に炭酸ヒドロキシアパタイトに特有の吸収ピークが僅かに認められた。この1415cm−1の吸光度から、該アパタイト中に含まれる炭酸イオンの割合は質量%で4質量%と計算された。以上の結果より、本実施例では、低結晶性でかつ高純度の炭酸ヒドロキシアパタイトが得られていることが明らかとなった。
(実施例13)(炭酸ヒドロキシアパタイトの合成)
実施例8において、炭酸ナトリウムに代えて炭酸水素ナトリウムを100グラム(1.2モル)用いた以外は同様にして反応を行い(反応中の反応系のpHは7.5であった)、得られた生成物を実施例1と同様に広角X線回折およびFT−IRを用いて解析を行った結果炭酸ヒドロキシアパタイトに由来するピークのみが観察され、それ以外の不純物に起因するピークは認められなかった。尚、回折ピークは非常にブロードで低結晶性のヒドロキシアパタイトの特徴を良く表していた。2θ=26°付近に観察される(002)面からの回折ピークの半値幅は0.58°であった。またFT−IRによる測定1415cm−1と1450cm−1付近の2カ所に炭酸ヒドロキシアパタイトに特有の吸収ピークが認められた。この1415cm−1の吸光度から、該アパタイト中に含まれる炭酸イオンの割合は質量%で18質量%と計算された。以上の結果より、本実施例では、低結晶性でかつ高純度の炭酸ヒドロキシアパタイトが得られていることが明らかとなった。
(比較例1)
実施例1においてリン酸水素二アンモニウムを33グラム(0.25モル)用いた以外は同様にして反応を行い白色の粉体を得た(反応中の反応系のpHは6.0であった)。実施例1と同様にして得られた生成物を広角X線回折を用いて解析を行い、図15に示す結果を得た。図15は比較例1で得られたヒドロキシアパタイトの広角X線回折パターンを示す。尚、回折ピークはブロードで低結晶性のヒドロキシアパタイトの特徴を良く表していたが、生成物にはヒドロキシアパタイト以外の成分として炭酸カルシウムが顕著に含まれていることが判明し、高純度のヒドロキシアパタイトは得られなかった。
(比較例2)
実施例1において炭酸ナトリウムを43グラム(0.40モル)用いた以外は同様にして反応を行い白色の粉体を得た(反応中の反応系のpHは8.0であった)。実施例1と同様にして得られた生成物を広角X線回折を用いて解析を行い、図16に示す結果を得た。図16は比較例2で得られた(炭酸)ヒドロキシアパタイトの広角X線回折パターンを示す。尚、回折ピークはブロードで低結晶性のヒドロキシアパタイトの特徴を良く表していたが、生成物にはヒドロキシアパタイト以外の成分として炭酸カルシウムが含まれていることが判明し、高純度の低結晶性ヒドロキシアパタイトは得られなかった。
(比較例3)
実施例1において、リン酸水素二アンモニウムに代えてリン酸三ナトリウム十二水和物(和光純薬工業製試薬)を115グラム(0.3モル)用いた以外は同様にして反応を行い(反応中の反応系のpHは12.0であった)、得られた生成物を実施例1と同様に広角X線回折およびFT−IRを用いて解析を行った。その結果、生成物はリン酸カルシウムであり、目的とするヒドロキシアパタイトは得られなかった。
(比較例4)
実施例8において、炭酸ナトリウム(和光純薬工業製試薬)を70グラム(0.66モル)用いた以外は同様にして反応を行い(反応中の反応系のpHは7.5であった)、得られた生成物を同様に広角X線回折およびFT−IRを用いて解析を行った。その結果、生成物中には炭酸カルシウムが顕著に含まれていることが判明した。
以上の結果より明らかなように、本発明によって、一段階の反応により低結晶性の(炭酸)ヒドロキシアパタイトを高純度で得るための、簡便で生産性の良好な(炭酸)ヒドロキシアパタイトの製造方法が与えられることが明らかとなり、更には本発明で得られた(炭酸)ヒドロキシアパタイトをメディアミルを使用して湿式分散処理を行うことで、コーティング用途に好適な低結晶性の(炭酸)ヒドロキシアパタイト微粒子の製造方法を与えることが出来ることが明らかとなった。
本発明の製造方法で得られる(炭酸)ヒドロキシアパタイトはクロマトグラフィー用カラム用担体や各種吸着剤として利用可能である。或いは、各種生体活性インプラントとしての利用も可能である。更には、フィルムや繊維への表面処理を行うことで生体に親和性を有する各種親水性材料を提供することが可能である。

Claims (5)

  1. 水中に於いて、カルシウム塩とリン酸塩、および炭酸塩または炭酸水素塩を混合し、反応を行う(炭酸)ヒドロキシアパタイトの製造方法であって、カルシウム塩のモル比率をA、リン酸塩のモル比率をB、および炭酸塩または炭酸水素塩のモル比率をCとした場合、下記(i)もしくは(ii)の要件を満たし、かつ反応系のpHが5〜10の範囲にある(炭酸)ヒドロキシアパタイトの製造方法。
    (i)リン酸塩がリン酸水素塩の場合
    A:B:C=1:(0.6〜1.2)α:p(0.3〜0.6)α。
    (ii)リン酸塩がリン酸二水素塩の場合
    A:B:C=1:(0.6〜1.2)α:p(0.7〜1.2)α。
    式中、αは0.1≦α≦10の実数を表す。pは係数を表し、炭酸塩の場合は1、炭酸水素塩の場合は2を表す。
  2. 炭酸塩または炭酸水素塩のモル比率が、前記した炭酸塩または炭酸水素塩のモル比率の下限値に0.1pαを加えたモル比率未満である、前記請求項1記載のヒドロキシアパタイトの製造方法。
  3. 炭酸塩または炭酸水素塩のモル比率が、前記した炭酸塩または炭酸水素塩のモル比率の下限値に0.1pαを加えたモル比率以上である、前記請求項1記載の炭酸ヒドロキシアパタイトの製造方法。
  4. 前記請求項1〜3の何れかに記載の製造方法により得られた(炭酸)ヒドロキシアパタイトを、メディアミルを使用して湿式分散処理を行う(炭酸)ヒドロキシアパタイト微粒子の製造方法。
  5. 前記湿式分散処理を行う際に、ポリリン酸(塩)を加えて湿式分散処理を行う、前記請求項4に記載の(炭酸)ヒドロキシアパタイト微粒子の製造方法。
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