本発明は、生体適合性に優れ、医療用途に好適に用いることのできる、骨芽細胞の増殖と骨形成を促進する作用を有する材料と、これを用いた、骨芽細胞の増殖と骨形成を促進する作用を有する細胞培養基材および生体活性インプラントに関する。
骨折や骨にかかわる各種疾患とその治療の過程で生じた骨の欠損部の修復に骨移植が行われる。骨移植には患者自身から採取した自家骨を修復に充てることが、修復部の早期の回復を達成するために最も好ましいが、骨採取のための手術が別途必要であるため患者への負担が大きく、また採取可能な骨の量にも限界がある。このため自家骨に代えて人工骨を用いることが好ましいが、その適用には未だ多くの課題が残されている。即ち、人工骨としてハイドロキシアパタイトやリン酸三カルシウムなどのリン酸カルシウム系セラミックスが利用されるが、自家骨が示す積極的に骨を形成する能力(osteogenesis)に欠けることが大きな問題である。現状ゴールドスタンダードである方法として、自家骨を患者から採取し、これを同じ患者に対して移植手術を行った場合、移植した自家骨の表面に骨芽細胞前駆体細胞(骨髄系間葉系幹細胞)が誘導され、自家骨表面でこれの骨芽細胞への分化が誘導されると同時に、細胞が盛んに増殖するとともに骨形成が進行することで、自家骨表面に活発に新生骨が形成されることが自家骨移植の際の特徴である。これに対して、人工骨表面には前駆体細胞を誘導する働きはなく、また細胞の増殖や骨芽細胞への分化を促進する作用も有さないことから、人工骨表面における骨形成は生じがたく、専ら周辺骨からの骨形成の進展により人工骨表面に新生骨の成長端が到達して初めて骨癒合が開始される。従って、実際の臨床での人工骨の適用においては、移植部における人工骨と周辺骨との癒合が十分に進行せず、骨欠損部の修復においては偽関節や移植インプラントの脱転が生じることがしばしば問題となる。したがって、人工骨に対して生体骨と同様な骨芽細胞の増殖を促進させ、骨形成作用を付与することが強く望まれている。
さらに、他の骨癒合が問題となる例として、脊椎インプラントを挙げることができる。脊椎インプラントは脊椎の外傷や、脊椎すべり症、脊椎側弯症および脊椎管狭窄症などの変性疾患に対して、脊椎の矯正を目的に利用される。例えば椎体の変形により神経を圧迫している場合や、脊椎の湾曲が著しい場合などでは、椎体を切除し、欠損部に自家骨を移植するか、あるいはチタン製の人工椎体を用いた椎体間固定術が施される。チタン製インプラントは生体親和性を有し、ある程度、骨伝導性(osteoconduction)を示すが、力学的に生体骨の強度を遥かに上回るため、チタン移植部が荷重を支え、周辺骨に対してストレスシールディング作用を及ぼすことから周辺骨の骨強度が低下し骨萎縮などの弊害を生じることが問題となっている。このため、近年チタンに代わり、より強度的に生体骨に近いプラスチック材料であるポリエーテルエーテルケトン(PEEK)製脊椎ケージ(椎体間スペーサー)が用いられるようになってきた。しかしながらPEEKには骨伝導性や骨形成能など骨と接合するために必要とされる性質が全くないため、移植床との癒合不全による脱転の懸念が付きまとう。
上記の例のように、生体内に埋め込み使用するインプラントの例としての人工骨や脊椎インプラントは、生体親和性とともにその表面で骨芽細胞の増殖を促進し骨形成を増強させることで積極的に骨と癒合する作用が求められている。従来技術では、ハイドロキシアパタイトやチタンなどの骨伝導性を示す材料を各種インプラントの表面にコートすることで、ある程度の骨伝導性を付与する方法が行われてきたが、これら材料には積極的に骨芽細胞を増殖し骨形成を促進させる効果は認められず、移植後に骨癒合が形成されるのに長期間を必要とし、また偽関節や脱転など骨癒合の不完全性に起因する問題がしばしば発生していた。従って、これらとは異なる新たな骨芽細胞の増殖を促進させ骨形成を促進させる材料と、これを利用したインプラントが強く求められている。
これまでの様々な研究報告から、骨形成を促進するための試みとして、例えば骨形成因子2(BMP-2)を利用する方法が挙げられる。BMP-2はTGF-βスーパーファミリーに属し、骨形成誘導活性を示す骨形成因子で200〜400アミノ酸残基から成る前駆体として発現され、110〜140アミノ酸のC末端側ペプチドとしてプロセシングを受けて活性型となるペプチド型のサイトカインである。これをインプラントに利用し骨再生を促進する例として、既存人工骨である多孔質ハイドロキシアパタイトセラミックスに対してBMP-2を添加することで骨形成促進作用を付与することについて報告されている(例えば、非特許文献1を参照。)。この場合、BMP-2と既存人工骨の適切な多孔質構造との組み合わせにおいて骨形成促進作用が発揮されることが示されている。BMP-2は顕著な骨形成促進作用を有しており、その利用に関する検討も従来から盛んに検討されているが、臨床的にこれを利用するためには相当量のBMP-2を必要とし、その入手方法の困難さに由来する量的確保の問題と膨大な経費を必要とすることから、現実的に臨床応用には適さない。さらに、BMP-2を体内に導入した場合、徐放のための制御が困難で、適切な濃度範囲を保った状態で長期間徐放する方法が困難であり、さらには、骨の修復がある程度進行した状態においても、尚且つBMP-2の放出が継続すると、骨の過形成が問題となり、如何にしてBMP-2 を移植部から除去するかが問題となる場合がある。
骨形成を促進させる別の試みとしてハイドロキシアパタイト中に各種のイオンを導入し、導入されたイオンがアパタイト結晶中から徐放されることで持続的にその効果を維持する試みが報告されている。骨芽細胞に作用し、その増殖や活性を高める効果が見出されている無機イオンが知られており、その一つがストロンチウムイオンである。チタン表面にストロンチウムを導入し、表面から徐放されるストロンチウムイオンによる骨芽細胞に対する増殖効果を利用することで、チタン(インプラント)表面における骨形成を促進させる試みが報告されている(例えば、非特許文献2,3を参照。)。ストロンチウムイオンは骨芽細胞を活性化させる一方で、破骨細胞の増殖を抑制することから骨粗鬆症の進行を阻止し、その予防に効果があることが知られているが(非特許文献4を参照)、一方で、生体内における過剰のストロンチウムイオンの存在は骨軟化症を誘発する可能性や心臓疾患への悪影響が懸念されることから(例えば、非特許文献5,6を参照。)、その効果が発揮される濃度範囲において生体に対する安全性が十分に確保される領域で用いる必要がある。
骨形成を促進する効果が認められるもう一つの無機イオンとしてケイ酸イオンが挙げられる。ケイ酸イオンの存在で骨芽細胞への分化と1型コラーゲンの産生が促進されることが示され(非特許文献7を参照)、さらに、ケイ酸イオンを導入したリン酸カルシウムは、他の液性分化誘導因子の介在を必要とせずに前駆体細胞の骨芽細胞への分化を誘導することが報告されている(非特許文献8を参照)。
上記のようなストロンチウムイオンやケイ酸イオンをインプラントに導入することでインプラントに対して骨形成促進効果を付与することが期待されるが、これら各々のイオン単独の効果では、上記に示す骨芽細胞の増殖を促進させ骨形成を増強する作用としては未だ不十分であった。さらに、これらのイオンを材料に導入するための方法として、チタンなどの基材表面に対して、これらのイオンを含む疑似体液を接触させ、疑似体液からからこれらのイオンを合わせて含むハイドロキシアパタイト膜を自発的に析出形成させる方法が知られている(非特許文献9を参照)。非特許文献9ではストロンチウムイオンとケイ酸イオンの両方をドープしたアパタイトコート膜の形成と、それから放出される両イオンの濃度について示されているが、該コート膜に導入可能なイオンの量には制限があり、生体内において持続的に長期間放出を継続させることは困難である。さらに、形成されるアパタイトコート膜は結晶性が低く、また基板との接着性に乏しいことから、生体内で早期に溶解消失することで、その効果が発揮されない場合がある。
骨形成を促進する作用を有する無機イオンを導入したアパタイトの別の形成方法としてあらかじめこれらのイオンを含有するアパタイトを化学的に合成する方法が挙げられる。結晶性を有するストロンチウムアパタイトを合成し、生体内で持続的にストロンチウムイオンを徐放させる方法が従来技術として報告されている(特許文献1を参照)。特許文献1には、結晶性を有するストロンチウムアパタイトの製造方法とこれを微粒子化してコーティングに利用する方法が示されている。さらに、炭酸イオンを導入したストロンチウムアパタイトの製造方法と、これを微粒子化してコーティングに利用する方法が知られている(特許文献2を参照)。これらの方法を利用することで各種インプラントにストロンチウムイオンを導入することが可能である。これらの方法で各種インプラント表面にストロンチウムアパタイトを含む層を形成し、これから放出されるストロンチウムイオンの効果により骨芽細胞の増殖と活性をある程度高めることが示されているが、実際の臨床応用においては未だこれらの示す骨形成促進作用は十分でなく、別の素材が求められていた。
また、ケイ酸イオンを導入したハイドロキシアパタイト(カルシウムアパタイト)が知られている(特許文献2を参照)。これから徐放されるケイ酸イオンの作用により、骨芽細胞における1型コラーゲンの産生が促進され、骨芽細胞の増殖の初期段階においてはその活性を高める好ましい作用が認められるものの、骨形成段階においては十分な効果を認めるに至らず、ケイ酸イオン単独の作用では、目的とする骨芽細胞の増殖や骨形成を促進させる効果は十分ではなかった。さらにこの場合、カルシウムアパタイト中にケイ酸イオンが導入されることで結晶性が顕著に低下しており、生体内において該アパタイトが早期に溶解もしくは吸収消失することで、長期にわたる持続的な作用が確保できない問題があった。
したがって、生体適合性に優れ、医療用途に好適に用いることのできる、骨芽細胞の増殖と骨形成を促進する作用を有する材料と、これを用いた、骨芽細胞の増殖と骨形成を促進する作用を有する細胞培養基材および生体活性インプラントの実現が求められている。
特開2014−180491号公報
特開2015−86081号公報
特表2012−514573号公報
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本発明は、生体適合性に優れ、医療用途に好適に用いることのできる、骨芽細胞の増殖と骨形成を促進する作用を有する材料と、これを用いた、骨芽細胞の増殖と骨形成を促進する作用を有する細胞培養基材および生体活性インプラント、並びに、それらの製造方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決すべく、骨芽細胞の増殖と骨形成を促進する作用を有する材料として、本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイトが提供される。また、本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイトを用いて、骨芽細胞の増殖と骨形成を促進する作用を有する細胞培養基材および生体活性インプラントが提供される。
本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイトは、以下の一般式(I)で表されるケイ酸ストロンチウムアパタイトである。ここで、式(I)中、Mはアルカリ金属、xは0.1≦x≦2の範囲の実数、yは1≦y≦4の範囲の実数、zは1≦z≦4の範囲の実数、nは2≦n≦4の範囲の実数をそれぞれ表す。本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイトは、リン酸基の一部がケイ酸イオンに置換したアパタイト構造を有する化合物である。
(化1)
Sr10-yMz(PO4)6-x(SiOn)x(OH)2 ・・・(I)
また別の観点によれば、本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイトは、以下の一般式(II)で表されるケイ酸ストロンチウムアパタイトである。式(II)で表されるケイ酸ストロンチウムアパタイトは、ストロンチウムとその他のアルカリ土類金属原子をアパタイト結晶構造中に含む。ここで、式(II)中、Mはアルカリ金属、xは0.1≦x≦2の範囲の実数、yは1≦y≦4の範囲の実数、zは1≦z≦4の範囲の実数、nは2≦n≦4の範囲の実数、aは0<a≦1の範囲の実数、bは0≦b≦1の範囲の実数、cは0≦c<0.15の範囲の実数、dは0≦d≦1の範囲の実数をそれぞれ表し、a+b+c+d =1を満たす。
(化2)
(SraCabMgcBad)10-yMz(PO4)6-x(SiOn)x(OH)2 ・・・(II)
本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイトにおいて、アパタイト結晶構造中に、亜鉛原子を15質量%以下含有することが好ましい。
亜鉛原子がアパタイト結晶構造中にさらに含まれることで、該アパタイトが生体内に移植された際に、該アパタイト表面から亜鉛イオンがごく僅かな濃度(数ppm以下)で徐放されることで、生体に悪影響を及ぼすことなく骨芽細胞の増殖を促進でき、ストロンチウムイオンの骨形成促進効果と相まって、生体適合性に優れ、医療用途に好適に用いることのできる、骨芽細胞の増殖と骨形成を促進できる作用を有する材料として極めて好適に用いることが出来る。
本発明の細胞培養基材は、上述の本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイトを含有する基材である。本発明の細胞培養基材は、上述の本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイトの微粒子が表面コーティングされた基材でもよい。
また、本発明の生体活性インプラントは、上述の本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイトを含有するインプラントである。本発明の生体活性インプラントは、上述の本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイトの微粒子が表面コーティングされたインプラントでもよい。
本発明において、生体活性インプラントとは、生体適合性を有し、かつ骨形成を促進する作用を有するインプラントであり、さらに具体的には、該性質を具備した人工骨、脊椎インプラント、人工関節、人工靱帯、人工軟骨、歯科用インプラントなど生体内に埋設して使用するインプラントを意味する。インプラント表面において骨芽細胞の増殖と骨形成を促進する作用を付与することで、インプラント表面における造骨作用により、これと隣接する生体骨との界面において早期に効率的に骨癒合を完成する効果を有する生体活性であるインプラントを提供する。
次に、本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイトの製造方法、細胞培養基材の製造方法、および生体活性インプラントの製造方法について説明する。
本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイトの製造方法は、リン酸水素ストロンチウムとケイ酸塩とをアルカリ性媒体中で反応させる工程を備える。
また別の観点によれば、本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイトの製造方法は、ストロンチウムとその他のアルカリ土類金属を含むリン酸水素塩と、ケイ酸塩とをアルカリ性媒体中で反応させる工程を備える。
また別の観点によれば、本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイトの製造方法は、上述の式(I)で表されるケイ酸ストロンチウムアパタイトに対して、アルカリ土類金属イオンを溶解した水溶液を加え、アルカリ性条件下、70℃以上で加熱する工程を備える。
本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイトの製造方法において、製造方法で得られたケイ酸ストロンチウムアパタイトに対して、亜鉛イオンを溶解した水溶液を加え、アルカリ性条件下、70℃以上で加熱する工程を更に備えることが好ましい。
亜鉛原子がアパタイト結晶構造中にさらに含まれることで、該アパタイトが生体内に移植された際に、該アパタイト表面から亜鉛イオンがごく僅かな濃度(数ppm以下)で徐放されることで、生体に悪影響を及ぼすことなく骨芽細胞の増殖を促進できる。ケイ酸ストロンチウムアパタイトに対してアルカリ条件下で、かつ70℃以上で加熱することで、該アパタイト結晶構造中に15質量%以下の比率で均一に導入することが出来る。
本発明の生体活性インプラントの製造方法は、上述の本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイトの製造方法で得られたケイ酸ストロンチウムアパタイトをインプラント表面に加熱溶着する工程を備える。
また別の観点によれば、本発明の生体活性インプラントの製造方法は、上述の本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイトをインプラント表面に加熱溶着する工程を備える。
ここで、インプラントとして人工骨を用いることができる。
本発明の細胞培養基材の製造方法は、上述の本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイトを湿式分散処理する工程と、該工程で得られるケイ酸ストロンチウムアパタイト微粒子を基材表面にコーティングする工程を備える。
本発明の生体活性インプラントの製造方法は、上述の本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイトを湿式分散処理する工程と、該工程で得られるケイ酸ストロンチウムアパタイト微粒子をインプラント表面にコーティングする工程を備える。
本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイトによれば、生体適合性に優れ、医療用途に好適に用いられ、骨芽細胞の増殖と骨形成を促進する作用を有するといった効果を有する。また、本発明の細胞培養基材および生体活性インプラントは、骨芽細胞の増殖と骨形成を促進する作用を有するといった効果を有する。
実施例1で得られた生成物(α−リン酸水素ストロンチウム)の広角X線回折パターン
実施例1で得られた生成物(ケイ酸ストロンチウムアパタイト)の広角X線回折パターン
(a)実施例1で得られた生成物(ケイ酸ストロンチウムアパタイト)のフーリエ変換赤外分光(FT−IR)スペクトルチャート,(b)比較例の炭酸ストロンチウムアパタイトのFT−IRスペクトルチャート
実施例1で得られた生成物(ケイ酸ストロンチウムアパタイト)の電界放出型走査電子顕微鏡(FE−SEM)の拡大像(拡大倍率は10万倍)
(a)実施例1で得られた生成物(ケイ酸ストロンチウムアパタイト)のSEM像(拡大倍率は1000倍),(b)〜(f)同じ視野におけるそれぞれの元素((b)ストロンチウム,(c)リン,(d)酸素,(e)ケイ素,(f)ナトリウム)の分布状態図(元素マッピング)
SEM/EDSにより求めたケイ酸ストロンチウムアパタイトの構成元素の割合を示すスペクトル
実施例1で得られた生成物(ケイ酸ストロンチウムアパタイト)の微粒子の粒子径分布曲線グラフ
実施例2で得られた生成物(β−リン酸水素ストロンチウム)の広角X線回折パターン
ケイ酸ストロンチウムアパタイト微粒子を塗布したPETフィルムから溶出するストロンチウムイオン濃度およびケイ酸イオン濃度の経時変化を表すグラフ
実施例5で作製したカルシウムとストロンチウムの両方を含むリン酸水素塩の広角X線回折パターン
実施例5で得られた様々な比率でカルシウムを含むケイ酸ストロンチウムアパタイトの広角X線回折パターン
実施例5で得られた様々な比率でカルシウムを含むケイ酸ストロンチウムアパタイト中に含まれるカルシウムとストロンチウムの元素比率を合成の際の仕込み比に対してプロットしたグラフ
実施例6で得られたマグネシウムを含むケイ酸ストロンチウムアパタイトの広角X線回折パターン
(a)実施例6で得られたマグネシウムを含むケイ酸ストロンチウムアパタイトのSEM像,(b)〜(e)同じ視野におけるそれぞれの元素((b)ストロンチウム,(c)マグネシウム,(d)リン,(e)ケイ素)の分布状態図(元素マッピング)
SEM/EDSにより測定したマグネシウムを含むケイ酸ストロンチウムアパタイトの構成元素の割合を示すスペクトル
実施例7で得られた亜鉛を含むケイ酸ストロンチウムアパタイトの広角X線回折パターン((a)2シータが10度から40度までの範囲,(b)2シータが20度から30度までの範囲)
実施例7で得られた亜鉛を含むケイ酸ストロンチウムアパタイトのSEM像,(b)〜(e)は同じ視野におけるそれぞれの元素((b)ストロンチウム,(c)亜鉛,(d)リン,(e)ケイ素)の分布状態図(元素マッピング)
SEM/EDSにより測定した亜鉛を含むケイ酸ストロンチウムアパタイトの構成元素の割合を示すスペクトル
各種アパタイトを塗布したPETフィルムおよびコントロール上で骨髄間葉系細胞を培養した際の骨芽細胞への分化に伴う分泌オステオカルシンの定量結果を示すグラフ
比較例1で得られたケイ酸ハイドロキシアパタイトの広角X線回折パターン
(a)実施例6で得られたケイ酸ストロンチウムアパタイトを塗布した人工骨のSEM像(拡大倍率は500倍),(b)〜(f)同じ視野におけるそれぞれの元素((b)カルシウム,(c)ストロンチウム,(d)リン,(e)酸素,(f)ケイ素)の分布状態図(元素マッピング)
実施例6のケイ酸ストロンチウムアパタイトを塗布した人工骨表面に存在する元素の割合を示すEDSスペクトル
実施例12で得られたケイ酸ストロンチウムアパタイトの微粒子の水分散物の粒子径分布曲線グラフ
(a)実施例12で得られた固形分濃度を1質量%になるように調整したケイ酸ストロンチウムアパタイト水分散液を塗布した人工骨のSEM像,(b)〜(f)同じ視野におけるそれぞれの元素((b)カルシウム,(c)ストロンチウム,(d)リン,(e)酸素,(f)ケイ素)の分布状態図(元素マッピング)
実施例12で作製したバインダーフリーでケイ酸ストロンチウムを表面にコーティングした人工骨から溶出するストロンチウムイオン濃度(a)およびケイ酸イオン濃度(b)
実施例12の人工骨をラット大腿骨に移植後4週後に摘出した場合の組織像を示すヘマトキシリンエオジン染色の組織像(下段は上段の拡大図。図中で黒く見える部分が新たに形成された骨組織を示す)
実施例12の人工骨をラット大腿骨に移植した際のアルカリフォスファターゼ活性の測定結果を示すグラフ
実施例12の人工骨をラット大腿骨に移植した際の人工骨におけるオステオカルシン含有量の測定結果を示すグラフ
実施例1のケイ酸ストロンチウムアパタイトの作製フロー図
実施例2のケイ酸ストロンチウムアパタイトの作製フロー図
実施例3のケイ酸ストロンチウムアパタイトの作製フロー図
実施例4のケイ酸ストロンチウムアパタイト微粒子のコーティングフロー図
実施例5のCaを含むケイ酸ストロンチウムアパタイトの作製フロー図
実施例6のMgを含むケイ酸ストロンチウムアパタイトの作製フロー図
実施例7のZnを含むケイ酸ストロンチウムアパタイトの作製フロー図
実施例14のBaを含むケイ酸ストロンチウムアパタイトの作製フロー図
本発明者らは、骨芽細胞の増殖と骨形成を促進する作用を有する因子としてストロンチウムイオンとケイ酸イオンを取り上げ、これら両イオンを合わせて含む新規なケイ酸ストロンチウムアパタイトの製造方法により得られるケイ酸ストロンチウムアパタイトとその利用に関する検討を行い、本発明に至った。ストロンチウムイオンは骨芽細胞を活性化する一方で破骨細胞を抑制する効果を示すことが知られている。
一方、ケイ酸イオンは骨芽細胞に対して1型コラーゲンの産生を促進させる効果を有することが知られている。骨形成プロセスは短期間では完了せず、初期の新生骨形成段階からリモデリングによる骨再生の最終段階までには少なくとも数か月以上1年間程度の期間にわたって継続的に骨の再構築が行われる。骨のリモデリングの後半には自然治癒効果が支配的であり、その段階においては治療による介入はさほど必要とされないが、骨移植の最初の段階では早期の骨形成による骨癒合を実現することが好ましく、具体的には1か月から数か月間にわたって持続的に安定した骨形成促進作用を維持することが望ましい。更には、骨修復過程の後期には自然治癒効果を優先させ、それ以外の治療効果の介入は好ましくない場合があり、適当な段階においてストロンチウムイオンやケイ酸イオンなどの促進因子の溶出を抑えることができることが望ましい。
通常行われるDDS(drag delivery system)では、様々なマトリックス中に薬剤を封入し、これから薬剤を徐放させる工夫が行われる。ストロンチウムイオンやケイ酸イオンは水溶性が極めて高いことから、これらは水中に極めて容易に放出されやすいことから、従来の方法では導入の初期にバースト的にイオンが放出され、その溶出濃度の定常的な安定化は極めて困難であることが予想される。
本発明者らは、ストロンチウムイオンおよびケイ酸イオンの安定した生体内環境における溶出を実現するために、これら両イオンを、結晶性を有するアパタイトの結晶格子中に導入することで、均一な組成で定常的にイオンを溶出する材料を実現することを検討し、後述する実施例において示すように、本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイトとこれを利用した細胞培養基材および生体活性インプラントを見出した。
本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイトは、リン酸水素ストロンチウム(SrHPO4)をケイ酸塩とともにアルカリ性媒体中において反応させることで得られる。リン酸水素ストロンチウムは後述する実施例において示すように、例えばストロンチウムイオンを溶解した溶液と、リン酸水素イオンを溶解した溶液を混合して製造することが出来る。リン酸水素ストロンチウムには結晶型の異なるα型、β型およびγ型が知られているが、通常水中において室温程度以下の温度で合成した場合、β型が得られ、それより高い温度で約30℃から100℃までの温度範囲で合成した場合にはα型のリン酸水素ストロンチウムが得られる。いずれの結晶型のリン酸水素ストロンチウムを用いても、本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイトの製造に対して好ましく用いることができる。
上述の特許文献1において示されるように、ケイ酸塩が存在しない条件で、リン酸水素ストロンチウムをアルカリ性媒体中で加熱することで、ストロンチウムアパタイトを合成することが出来る。さらに特許文献2で示されるように、アルカリとして炭酸ナトリウムなどの炭酸塩を用いることで、ストロンチウムアパタイト中に炭酸イオンが導入された炭酸ストロンチウムアパタイトが得られることが知られている。
一方、本発明者らは、リン酸水素ストロンチウムに対してケイ酸塩をアルカリ性媒体中で反応させることで、目的とするストロンチウムイオンとケイ酸イオンの両方を含むケイ酸ストロンチウムアパタイトが得られることを見出した。
リン酸水素ストロンチウム(SrHPO4)として本発明で用いることの出来る化合物はストロンチウム塩と水溶性リン酸塩を用いて、両者を水中で反応させることで得ることが出来る。その場合、ストロンチウム塩として好ましく用いることの出来る化合物としては、塩化ストロンチウムおよびその水和物、臭化ストロンチウムおよびその水和物、ヨウ化ストロンチウムおよびその水和物、酢酸ストロンチウムおよびその水和物、硝酸ストロンチウム、シュウ酸ストロンチウムおよびその水和物、ギ酸ストロンチウムおよびその水和物、水酸化ストロンチウムおよびその水和物、酸化ストロンチウムなどの、10℃の水に対する溶解性が1質量%以上であるストロンチウム塩を好ましく用いることが出来る。
上記で水溶性リン酸塩として好適である原料の例としては、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二リチウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素リチウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸リチウム、リン酸アンモニウムおよびこれら各々の水和物等が特に好ましい例として挙げられる。これらについても、10℃の水に対する溶解性が1質量%以上である水溶性リン酸塩が好ましく用いることが出来る。
両者を水中にて反応させる際、好ましくはストロンチウム塩を含有する水溶液と、水溶性リン酸塩を含有する水溶液を混合して反応を行うことで、リン酸水素ストロンチウム(SrHPO4)が結晶性沈殿物として得られる。反応を行う際のストロンチウム塩とリン酸塩のモル比は0.9:1.1〜1.1:0.9の範囲の比率である場合が好ましく、さらに反応中の混合物のpHが6〜8の範囲にある場合が好ましい。反応温度に関しても0〜100℃の範囲で、より好ましくは20〜70℃の範囲で反応を行うことが好ましい。
本発明で用いることのできるリン酸水素ストロンチウムの別の合成方法として、炭酸ストロンチウムとリン酸二水素塩を反応させて得られるリン酸水素ストロンチウムを用いても良い。この場合のリン酸二水素塩としては、リン酸二水素アンモニウム塩(NH4H2PO4)や、リン酸二水素ナトリウム塩(NaH2PO4)、およびリン酸二水素カリウム塩(KH2PO4)などが好ましく用いることができる。炭酸ストロンチウムとリン酸二水素塩との反応における両者のモル比は炭酸ストロンチウム1モルに対して3モル比のリン酸二水素塩を用いることが好ましく、これより少ない比率でリン酸二水素塩を用いた場合、生成物中に未反応の炭酸ストロンチウムが含まれる場合がある。また3モル比を超えてリン酸二水素塩を用いることも可能であるが、反応に関与しないリン酸二水素塩を反応系に添加することの利点は存在しない。両者を反応させる温度に関しては0〜100℃の範囲で、より好ましくは20〜70℃の範囲で反応を行うことが好ましい。
市販されるリン酸水素ストロンチウム、或いは上記の方法にて得られるリン酸水素ストロンチウムを用いて、これとケイ酸塩を水中にて混合して反応を行うことで本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイトが得られる。本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイトは結晶性を有し、ナノメートルサイズの針状結晶微粒子から構成されることが特徴の一つである。後述する実施例において示すように、走査型電子顕微鏡による高倍率観察像では、該アパタイトは長軸(c軸)方向と短軸(a軸)方向の長さの比が、2≦c/aである異方性の形状を示し、長軸方向の長さとして凡そ100ナノメートルおよびそれ以上であり、短軸方向の径は凡そ30ナノメートルから60ナノメートル前後の長さであることが特徴である。このような形状のナノメートルサイズの一次粒子から構成される本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイトは、後述する湿式分散処理を施すことで、分散したナノメートルサイズの微粒子として利用することが出来る。
さらに、上記の異方性形状とは、結晶面として長軸方向に露出した面はストロンチウム原子が含まれるa面が表出しており、この面に対して酸性タンパク質や核酸等の生体関連物質が強く吸着しやすく、一方、短軸方向はリン酸原子が含まれるc面が表出しており、この面に対して塩基性タンパク質などの塩基性物質が吸着しやすいことが特徴である。本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイトはナノメートルサイズの針状結晶微粒子の集合体として合成されることから、極めて表面積が大きい粉体であり、各種タンパク質や核酸などの吸着、分離担体としても好適に利用することが出来る。
本発明においてリン酸水素ストロンチウムと、ケイ酸塩を水中にて混合して反応を行う際、用いるケイ酸塩としては、メタケイ酸ナトリウムやオルトケイ酸ナトリウム等の10℃の水に対する溶解性が1質量%以上である水溶性の高いケイ酸塩が好ましい。これ以外のオルトケイ酸テトラエチルなどのケイ酸エステル化合物を用いた場合には、生成物中にケイ酸エステル化合物の加水分解により生成する二酸化ケイ素などの副生成物が含まれる場合がある。また、ケイ酸塩として水ガラスのようなケイ酸単位が多数連結した粘性のある重合体を用いた場合には、生成するアパタイト中にケイ酸イオンが含まれない場合がある。
反応の際の条件として室温(25℃付近)もしくは室温以上の温度である場合が好ましく、さらに40℃以上である場合が好ましい。反応の際の温度が室温より低い場合には、リン酸水素ストロンチウムが完全にケイ酸ストロンチウムアパタイトに変換されずに生成物中に残存する場合がある。反応温度の上限としては100℃以下であることが好ましく、より好ましくは90℃以下である場合が好ましい。反応の際のpHに関して好ましい範囲が存在し、pHが9から14の範囲であることが好ましく、さらにはpHが9から13の範囲であることが好ましい。メタケイ酸ナトリウムやオルトケイ酸ナトリウムを用いる場合にはこれらを単独で用いて好ましいpH範囲を保った状態で反応を行うことも好ましく、あるいはこれらに加えて、アンモニアや水酸化ナトリウムなどのアルカリ性化合物を添加して反応系のpHを上記の好ましい範囲に維持することも好ましく行われる。反応系のpHが9を下回る場合には、目的とするアパタイトが生成しない場合がある。さらに、反応系のpHが上記範囲を超えた場合、生成するアパタイト中にアルカリ性化合物が混入し、これを用いて作製した細胞培養基材や生体活性インプラントの利用に際して細胞や生体に対して好ましくない作用を及ぼす場合がある。反応を行う媒体としては水であることが好ましいが、水に対して20質量%を超えない範囲であれば、水と混和性のある有機溶剤として各種アルコール類やアセトンなどの有機溶剤を添加して反応を行ってもよい。
リン酸水素ストロンチウムとケイ酸塩の比率には好ましい範囲が存在する。好ましい範囲として、リン酸水素ストロンチウム1モルに対して、用いるケイ酸塩のモル比は0.1モルから0.5モルの範囲であることが好ましい。この範囲を下回るモル比でケイ酸塩を用いて反応を行った場合、得られるケイ酸ストロンチウムアパタイト中に含まれるケイ酸イオンの割合が低く、その効果が認められない場合がある。あるいは、用いるケイ酸塩のモル比が0.5モルを超えて反応を行った場合、生成物中に二酸化ケイ素などのアパタイト中に含まれないケイ酸化合物が生成物中に含まれる場合がある。
上記に於いて、リン酸水素ストロンチウムからケイ酸ストロンチウムアパタイトへの変換の過程について説明する。水中に於いて、リン酸水素ストロンチウムからケイ酸ストロンチウムアパタイトへ変換するためには、リン酸水素ストロンチウムからリン酸が脱離する過程と、該アパタイト中に含まれるリン酸イオンの一部がケイ酸イオンに置換する二つの過程が必要である。ケイ酸イオンは水中においてオルトケイ酸イオンやこれ以外の様々な構造を有するイオンの混合物であることが知られている。一方で、結晶構造中に含まれるケイ酸イオンの構造については、オルトケイ酸イオンのテトラヘドラル構造以外に、これが複数個連結して形成されるメタケイ酸イオン構造として含まれる場合も知られている。上記の反応に際して、ケイ酸塩としてメタケイ酸塩を用いた場合とオルトケイ酸塩を用いた場合とでは、反応系に含まれるケイ酸イオンとしては同様な構造を示すと考えられるが、後述する実施例において示すようにいずれのケイ酸塩を用いて反応を行っても実質的に同様な組成のケイ酸ストロンチウムアパタイトが得られることが判明した。
後述する実施例において具体的に例示するように、本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイトは、上述した一般式(I)で表され、リン酸基の一部がケイ酸イオンに置換したアパタイト構造を有する化合物である。但し、一般にアパタイトとして総称される化合物として、カルシウム欠損型ハイドロキシアパタイトの場合のように、ストロンチウム原子やケイ素原子、リン原子および水酸基の比率は一義的に定まるものではなく、上述した一般式(I)に示す組成比を標準として化学量論的に組成比が僅かに異なる化合物も本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイトとして含む。本発明により得られるケイ酸ストロンチウムアパタイトは、後述する実施例に示すように、明確に結晶性を示すケイ酸ストロンチウムアパタイトである。
本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイトには、ストロンチウムとともに他のアルカリ土類金属原子を併せて含むことが出来る。この場合、マグネシウム、カルシウムおよびバリウムから選ばれる任意のストロンチウム以外のアルカリ土類金属原子が、アパタイト結晶中においてストロンチウムが配座する位置に、ストロンチウムを置換する形で含まれていてもよい。特に、カルシウムおよびバリウムが含まれる場合には、ストロンチウム原子との比率は任意の比率で含まれることが出来る。一方、マグネシウムが含まれる場合には、ストロンチウム原子に対してモル比率で15%未満であることが必要で、これを超えてマグネシウム原子を併せて含むケイ酸ストロンチウムアパタイトを合成しようとしても、結晶性が低下し、アパタイト以外の組成を有するマグネシウムを含む別の化合物が生成することがある。このような、ストロンチウムとともに他のアルカリ土類金属原子を併せて含む場合の、本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイトは、上述した一般式(II)で表される。
ストロンチウムとともに他のアルカリ土類金属原子を併せて含むケイ酸ストロンチウムアパタイトを得るためには、その前駆体としてリン酸水素ストロンチウムを合成する際に、ストロンチウムイオンとともにこれ以外のアルカリ土類金属イオンを含む水溶液を用いて、これと水溶性リン酸塩としてリン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二リチウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素リチウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸リチウム、リン酸アンモニウムなどの水溶性リン酸塩を用いて、両者を水中で混合することでストロンチウムと他のアルカリ金属イオンを併せて含むリン酸水素塩を合成することが出来る。この際、水溶性リン酸塩に対するストロンチウムと他のアルカリ金属塩の比率には好ましい範囲が存在し、ストロンチウムと他のアルカリ金属塩のモル数の総和を1とすると、水溶性リン酸塩は0.9以上1.1以下である場合が好ましい。
反応液中の混合物のpHは6〜8の範囲にある場合が好ましい。反応温度に関しても0〜100℃の範囲で、より好ましくは20〜70℃の範囲で反応を行うことが好ましい。次いでこれをケイ酸塩とともにアルカリ性媒体中において反応させることでストロンチウムとそれ以外の他のアルカリ土類金属イオンを併せて含むケイ酸ストロンチウムアパタイトを得ることができるが、これに含まれる各々の金属イオンの比率は、前駆体であるリン酸水素塩に含まれる各々の金属イオンの比率にほぼ等しく、さらに前駆体のリン酸水素塩に含まれる各々の金属イオンの比率は、これを合成する際に用いた各々のイオンを溶解した水溶液のモル比にほぼ等しい。
上記の合成法とは異なる別法として、イオン交換法を利用することができ、これは予め合成したケイ酸ストロンチウムアパタイトを用いて、これを他のアルカリ土類金属イオンを溶解した水溶液中で加熱することでも、アパタイト中のストロンチウム原子が一部他のアルカリ金属イオンに置換したストロンチウムとともに他のアルカリ土類金属原子を併せて含む本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイトを得ることができる。このイオン交換法を利用する場合において、反応系のpHはアルカリ性である場合が好ましく、アンモニアや水酸化ナトリウムなどのアルカリを添加して反応系のpHが9以上である条件で、反応温度として70℃以上の温度で、数時間から数十時間程度加熱撹拌を行うことで、ストロンチウムイオンの一部もしくは大部分が他のアルカリ金属イオンに置換したケイ酸ストロンチウムアパタイトを合成することが出来る。本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイトの結晶構造中に、ストロンチウムに加えて、これ以外にその他のアルカリ土類金属原子を併せて含むことにより、次の効果を奏することができる。例えば、該アパタイトの結晶構造中に、ストロンチウムに加えて、カルシウムを併せて含むことにより、ストロンチウムイオンが徐放される際の濃度を適度な範囲にコントロールすることが可能である。また、該アパタイトの結晶構造中に、ストロンチウムに加えて、マグネシウムを併せて含むことにより、該アパタイトの結晶性を低下させイオンの溶出を促進する効果を有するとともに、マグネシウムイオンの存在は細胞の代謝を活性化することから、骨形成をさらに促進させる作用を有する。さらに、該アパタイトの結晶構造中に、ストロンチウムに加えて、バリウムを併せて含むことにより、X線に対する透過性を減少させ、該アパタイトを用いたインプラントを生体内に移植した際に、X線造影性を高める効果を発揮させることができる。
本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイトには、さらに別の金属原子として亜鉛(Zn)を含むことができる。この場合も、前駆体としてストロンチウムと亜鉛の両方を含むリン酸水素塩を用いて、これをケイ酸塩とともに水中で加熱することで得ることができる。或いは、予め合成した本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイトを用いて、これに亜鉛イオンを溶解した水溶液を加えて加熱することでも、アパタイト中のストロンチウム原子が一部他のアルカリ金属イオンに置換したストロンチウムとともに亜鉛原子を含むケイ酸ストロンチウムアパタイトを得ることができる。この場合にケイ酸ストロンチウムアパタイト中に含まれる亜鉛原子の比率としては、アパタイト結晶構造中に、亜鉛原子を15質量%以下の比率で含むことが可能である。亜鉛原子がアパタイト結晶構造中にさらに含まれることで、該アパタイトが生体内に移植された際に、該アパタイト表面から亜鉛イオンがごく僅かな濃度(数ppm以下)で徐放されることで、生体に悪影響を及ぼすことなく骨芽細胞の増殖を促進するなど、ストロンチウムイオンの骨形成促進効果と相まって生体適合性に優れ、医療用途に好適に用いることのできる、骨芽細胞の増殖と骨形成を促進する作用を有する材料として極めて好適に用いることが出来る。
さらに、別の金属原子として、マンガン、鉄、カドミウム、鉛、アルミニウムなどの金属原子も同様に、ケイ酸ストロンチウムアパタイトの結晶構造中にストロンチウム原子と置換する形で、アパタイト結晶構造中に、当該金属原子を15質量%以下の比率で導入することも可能である。或いは、本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイト中のリン酸基またはケイ酸イオンと置換する形で炭酸イオン(CO3 2−)、硫酸イオン(SO4 2−)、AsO4 2−、VO4 2−などのイオンが含まれていても良い。さらに、本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイトの結晶構造中に含まれる水酸基は、水中でフッ素イオンと容易に置換し、例えばフッ化ナトリウムなどの水溶液中で本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイトを加熱するだけでフッ化ケイ酸ストロンチウムアパタイト(Sr10−yMz(PO4)6−x(SiOn)xF2)を得ることが出来る。
本発明で得られるケイ酸ストロンチウムアパタイトを用いて作製される細胞培養基材としては、各種プラスチック基材表面にこれをコーティングして作製される系として、例えば
フィルムシートや繊維およびこれを加工した不織布、あるいは多孔質フィルムや多孔質セラミックスなどの基材に対してケイ酸ストロンチウムアパタイトをコーティングもしくは内添した例が挙げられる。同じく生体活性インプラントとしては、人工骨、脊椎インプラント、人工関節、人工靱帯、人工軟骨、歯科用インプラントなど生体内に埋設して使用するインプラントに対して、これらの表面にコーティングした場合や、それぞれの基材に内添して用いる場合などを挙げることができる。
本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイトは、これを水媒体と接触することで該アパタイト表面からストロンチウムイオンおよびケイ酸イオンが徐放されることが特徴である。後述する実施例において示すように、該アパタイトを表面にコートしたフィルムや人工骨、人工靱帯などの系において、水中や体液を模した液中に保持すると、定常的にストロンチウムイオンおよびケイ酸イオンが徐放されることが特徴である。しかも徐放される各々のイオン濃度は高々10ppmを超えない濃度で維持され、こうした濃度範囲においては生体に対して何ら悪影響を及ぼさず、かつそれぞれのイオンの前記した骨芽細胞に対する増殖と骨形成を促進させる効果を相乗的に発揮できることが本発明の特徴の一つである。これらのイオンの該アパタイトからの溶出は熱力学的な濃度平衡が成り立っており、該アパタイトが接する局所的空間体積内において数ppmの範囲で維持され、液の拡散等でイオンが系外に持ち出される場合には、該アパタイトから継続してイオンが溶出し、このプロセスはアパタイトに含まれるイオンが消費されるまで継続することが明らかとなった。したがって、インプラントに対して導入する該アパタイトの量を調節することで、生体内におけるイオンの放出持続期間を任意に設定することが可能である。即ち、本発明の効果である骨芽細胞の増殖や骨形成促進効果の持続期間を任意に設定できることになり、本発明の極めて有利な特徴の一つである。
ストロンチウムとともに他のアルカリ土類金属原子或いは亜鉛原子を併せて含むケイ酸ストロンチウムアパタイトを用いた場合には、水中においてこれらの表面から各種アルカリ土類金属イオンや亜鉛イオンなどが同様に徐放されることが可能であり、これらの徐放されるイオンの効果が相乗的に作用し、骨形成を一層促進させることが出来、極めて好適に用いる事が出来る。
本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイトは粉体の性状で得られ、これを圧縮成形してペレットとして利用する方法や、焼結し、さらに成型の際に多孔質構造を付与した顆粒状、ブロック状の成型体として人工骨などの用途に用いることが可能である。或いは、インプラント用に利用される生体適合性を有するポリ乳酸やポリエーテルエーテルケトンなどの各種樹脂に練りこんでインプラントとして利用することも可能である。
本発明では特に微粒子の形状で利用し、微粒子が溶液中で分散した状態でコーティングに利用することで、後述する実施例において説明するように、人工骨や各種インプラント表面にコーティングして用いることが出来る。ケイ酸ストロンチウムアパタイト微粒子の製造方法として特に好ましい方法を以下に説明する。本発明の製造方法で得られるケイ酸ストロンチウムアパタイトを用いて、これをメディアミルなどを使用して、各種媒体中にて湿式分散処理を行うことで、上記用途に好適なケイ酸ストロンチウムアパタイト微粒子を製造出来ることを見出した。
上記のケイ酸ストロンチウムアパタイト微粒子の大きさとしては、体積平均粒子径において10μm以下であることが好ましい。より好ましい大きさは体積平均粒子径に於いて40nmから10μmの範囲にあり、体積平均粒子径が小さいほどコーティング用途に適用した場合、均一性に優れたコーティング膜が形成されることからより好ましい。
さらに、上記ケイ酸ストロンチウムアパタイト微粒子を分散した分散液において、該微粒子の分散安定性が良好であり、長期間(例えば室温に於いて1週間の保管期間)の保存に際しても微粒子の凝集や沈降が発生しない分散液である場合が好ましい。
上記のケイ酸ストロンチウムアパタイト微粒子の製造方法として特に好ましい方法は、従来から知られている様々な湿式分散処理方法を利用することが出来る。好ましい湿式分散方法としては、メディアミルを利用した湿式分散方式が特に好ましく、具体的には、ケイ酸ストロンチウムアパタイトを導入した媒体中において、通常ガラスビーズやアルミナビーズ、その他のセラミックビーズ等のメディアを加えて振盪や攪拌を行い、ケイ酸ストロンチウムアパタイトと該ビーズが機械的に衝突し、微粉砕されることで微粒化を行う処理方法を利用することが出来る。少量をバッチ方式で処理を行う場合には、メディアミルとしてペイントコンディショナーを使用して数時間に亘る振盪を行うことで湿式分散処理を行うことが出来る。また上記したメディアミルは、ダイノミルのような連続方式での湿式分散処理が可能である装置を用いて、これを複数台用いて直列に配置して1パスで湿式分散処理を行っても良く、或いは1台のメディアミルを用いて複数回処理を繰り返すことも好ましく行うことが出来る。このような湿式分散処理を行うことで、経時により沈降することや、沈殿物や凝集物が発生することが無く、分散安定性に優れたケイ酸ストロンチウムアパタイト微粒子を得ることが出来る。
本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイトを湿式分散するための媒体としては、好ましい有機溶剤として、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル化合物や、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどの各種ケトン類、トルエン、キシレンなどの芳香族溶剤、およびアセトニトリル、ジメチルホルムアミドなどの極性溶剤を挙げることが出来、これらの有機溶剤を単独或いは複数の種類を組み合わせて用いても良い。これらの有機溶剤の内、特にアセトニトリルを用いた場合には、これを用いて作製されるケイ酸ストロンチウムアパタイト微粒子分散液の分散安定性が良好であることに加えて、各種プラスチック基材に対してコーティングを行う際に、アセトニトリルが基材を溶解しないことから均一なストロンチウムアパタイト微粒子のコーティングが可能であるため、極めて好ましく用いることが出来る。
上記の有機溶剤中においてケイ酸ストロンチウムアパタイト微粒子分散液を製造する際に、分散剤としてポリ乳酸共重合体を添加して湿式分散処理を行うことで、生体適合性に優れると同時に、分散安定性に極めて優れたケイ酸ストロンチウムアパタイト微粒子分散液を製造することが出来る。ここで、ポリ乳酸共重合体としては、繰り返し単位中にL−またはD−乳酸単位を20〜80モル%の範囲で含み、該有機溶剤に可溶性のポリ乳酸共重合体であることが好ましい。本発明で用いることの出来るポリ乳酸共重合体の例としては、ポリ乳酸共重合体中の繰り返し単位であるD−乳酸とL−乳酸の両方を含むポリ乳酸共重合体としてのポリ−D,L−乳酸が好ましく、この場合、繰り返し単位中に含まれるD体とL体の比率はモル比で2:8〜8:2の範囲である場合が好ましく、さらにD体とL体の比率が当モルで含まれている場合が最も好ましい。或いは、別の好ましいポリ乳酸共重合体の例として、ポリ乳酸共重合体の繰り返し単位中に、L−またはD−乳酸以外に、グリコール酸、ε−カプロラクトン、トリメチレンカーボネート等の繰り返し単位を併せて含むポリ乳酸共重合体であり、これらの乳酸以外の繰り返し単位の比率が80モル%未満であり、ハロゲンを含まない有機溶剤中において室温で5質量%以上の濃度で溶解するポリ乳酸共重合体である場合に用いることが出来る。
上記のポリ乳酸共重合体を用いてケイ酸ストロンチウムアパタイトの湿式分散処理を行う際の、ケイ酸ストロンチウムアパタイトに対する割合は、質量比でケイ酸ストロンチウムアパタイトに対して5〜200質量%の範囲で含まれることが好ましく、さらに5〜100質量%の範囲で含まれる場合がさらに好ましい。
本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイトを上記のような方法により微粒子を製造し、これを用いてコーティング用として人工骨やその他の各種インプラントにコートして用いることが好ましく行われる。コーティング用に用いる場合には、さらにバインダーとして各種ポリマーを併せて用いることも好ましく行われる。バインダーとして好ましく用いることのできるポリマーの例として、ポリウレタン、ポリエステル、ポリ乳酸、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等を挙げることができるが、これらの中でPMMAを最も好ましく用いることができる。バインダーとしてポリマーを用いる場合、ケイ酸ストロンチウムアパタイトに対して100質量%を超えない範囲で用いることが好ましい。
有機溶剤に代えて、本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイト微粒子の作製に用いることのできる媒体としては水が最も好ましいが、水に対して20質量%未満の添加量であれば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類や、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン等の環状エーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド等の極性溶媒等、水と混和性のある種々の溶剤を添加して用いることも出来る。
前記したメディアを利用してケイ酸ストロンチウムアパタイトの湿式分散処理を行う場合に、使用するメディアはセラミックビーズを用いることが好ましい。特にケイ酸ストロンチウムアパタイトを分散する場合に、ビーズが研磨されるなどしてビーズ由来の不純物が得られるケイ酸ストロンチウムアパタイト微粒子の分散物に混入することを防止することが好ましい。こうした目的で利用できるセラミックビーズとして、具体的にはZrO、立方晶ジルコニア、イットリウム安定化ジルコニア、ジルコニア強化アルミナなどのジルコニアを含有するセラミックビーズを最も好ましく用いることが出来る。また、メディアの平均直径は0.01〜10mmの範囲にあることが好ましく、より好ましくは0.1〜5mmである。こうしたメディアを使用したメディアミルを用いる湿式分散処理の条件は、通常行われる室温での処理であり、特に処理時間や温度等に関する制限は無い。また、パス回数については1回で十分である場合もあるが、2〜7回程度のパス回数で処理を行うことで、より粒子径分布が狭く、かつ分散安定性に優れたケイ酸ストロンチウムアパタイト微粒子の分散物が得られることから好ましく行うことが出来る。
上記のケイ酸ストロンチウムアパタイト微粒子の分散物を製造する際に、分散剤として、各種界面活性剤や無機化合物および各種水溶性ポリマーなどを添加して湿式分散処理を行い、得られるケイ酸ストロンチウムアパタイト微粒子の分散物における体積平均粒子径をより小さくすることが好ましい。
上記の分散剤として用いることの出来るアニオン性界面活性剤としては、ラウリン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム等の高級脂肪酸塩類、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩類、オクチルアルコール硫酸エステルナトリウム、ラウリルアルコール硫酸エステルナトリウム、ラウリルアルコール硫酸エステルアンモニウム等の高級アルコール硫酸エステル塩類、アセチルアルコール硫酸エステルナトリウム等の脂肪族アルコール硫酸エステル塩類、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩類、ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム、イソプロピルナフタレンスルホン酸ナトリウム等のアルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム等のアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩類、ラウリル燐酸ナトリウム、ステアリル燐酸ナトリウム等のアルキル燐酸エステル塩類、ラウリルエーテル硫酸ナトリウムのポリエチレンオキサイド付加物、ラウリルエーテル硫酸アンモニウムのポリエチレンオキサイド付加物、ラウリルエーテル硫酸トリエタノールアミンのポリエチレンオキサイド付加物等のアルキルエーテル硫酸塩のポリエチレンオキサイド付加物類、ノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウムのポリエチレンオキサイド付加物等のアルキルフェニルエーテル硫酸塩のポリエチレンオキサイド付加物類、ラウリルエーテル燐酸ナトリウムのポリエチレンオキサイド付加物等のアルキルエーテル燐酸塩のポリエチレンオキサイド付加物類、ノニルフェニルエーテル燐酸ナトリウムのポリエチレンオキサイド付加物等のアルキルフェニルエーテル燐酸塩のポリエチレンオキサイド付加物類等を挙げることができる。
前記の分散剤として用いることの出来るノニオン性界面活性剤としては、種々の鎖長のポリエチレンオキサイドに、アルキル基やフェニル基およびアルキル置換フェニル基が結合したポリエチレンオキサイドアルキルエーテル、ポリエチレンオキサイドアルキルフェニルエーテルが好ましく用いることが出来、これらの内でも、商品名TWEEN20、同40、同60および同80として知られるソルビタンモノアルキレート誘導体が最も好ましく用いることが出来る。
前記の分散剤として用いることの出来る水溶性ポリマーとしては、例えば、ゼラチン、ゼラチン誘導体(例えば、フタル化ゼラチン等)、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、キサンタン、カチオン性ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、デンプン、各種変性デンプン(例えばリン酸変性デンプン等)等を挙げることが出来る。
前記の分散剤として用いることの出来る無機化合物として各種リン酸塩を挙げることが出来るが、特に好ましい例としてポリリン酸(塩)を挙げることが出来る。この場合、得られる炭酸ストロンチウムアパタイト微粒子の分散物中に含まれる微粒子の大きさが体積平均粒子径にして40〜900nmの範囲にある微粒子に分散され、好ましく用いることが出来る。
上記で用いることの出来るポリリン酸(塩)の例として、ピロリン酸(ナトリウム)、トリポリリン酸(ナトリウム)、テトラポリリン酸(ナトリウム)、直鎖状のポリリン酸(ナトリウム)のような直鎖状のポリリン酸(塩)及びこれらの水和物が挙げられ、或いは環状化合物であるヘキサメタリン酸(ナトリウム)などを含み、実際には高分子化合物であるメタリン酸(ナトリウム)や、或いは、直鎖状骨格のみならず、分岐構造を含むウルトラリン酸(ナトリウム)及びこれらの水和物などを挙げることが出来る。これらの種々のポリリン酸(塩)は複数の種類を任意の割合で混合して用いても良い。なおここでポリリン酸(塩)とは、ポリリン酸あるいはこれらの塩であることを意味する。
上記のような種々の分散剤を用いてケイ酸ストロンチウムアパタイト微粒子を製造する場合には、ケイ酸ストロンチウムアパタイトに対する各種分散剤の比率についても好ましい範囲が存在する。ケイ酸ストロンチウムアパタイト100質量部に対して、用いられる分散剤の量は、5〜100質量部とすることが最も好ましい。
以下に実施例によって本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の百分率は断りのない限り質量基準である。
(α−リン酸水素ストロンチウムの合成)
温度計および攪拌装置を備えた1リッターパイレックス(登録商標)製丸底フラスコ内に、塩化ストロンチウム六水和物134グラム(0.5モル:和光純薬工業株式会社製)を秤取り、イオン交換水350グラムを加えて室温で溶解し、塩化ストロンチウム水溶液を作製した。これとは別に、500ccのガラスビーカー内にリン酸水素二アンモニウム66グラム(0.5モル)を秤取り、イオン交換水300グラムを加えて30℃の内温で溶解した。作製した塩化ストロンチウム水溶液を導入した丸底フラスコを50℃に調整した水浴上に移し、攪拌しながら、滴下漏斗を用いてリン酸水素二アンモニウムを溶解した上記水溶液を1時間に亘って徐々に滴下した。反応時の反応系のpHは6.5であった。滴下終了後さらに3時間撹拌を続け、その後、水浴上からフラスコを移し、静置した。室温まで冷却した後、グラスフィルターを用いてフラスコの内容物を吸引濾過し、固形分を回収した。フィルター上の白色沈殿を、更に繰り返しイオン交換水で洗浄を行った後、60℃に調節した乾燥器内で1昼夜乾燥を行い、白色の粉体の生成物を得た。
得られた生成物について、広角X線回折装置を用いて解析を行い、図1に示す回折パターンを得た。図1は、得られた生成物の広角X線回折パターンを示す。図1に示すように、生成物の回折パターンは、α−リン酸水素ストロンチウム(α−SrHPO4)の回折パターンを示しており、α−リン酸水素ストロンチウムに由来するピークのみが観察され、それ以外の化合物に起因するピークは認められなかった。収量測定より収率100%で高純度のα−リン酸水素ストロンチウムが得られていることが判った。
(リン酸水素ストロンチウムとケイ酸塩とからケイ酸ストロンチウムアパタイトの合成)
上記で得られたα−リン酸水素ストロンチウムの全量(0.5モル)を温度計および攪拌装置を備えた1リッターパイレックス(登録商標)製丸底フラスコ内へ移し、イオン交換水600グラムを加えて攪拌を行いながら、メタケイ酸ナトリウム九水和物(和光純薬工業株式会社製)を71グラム(0.25モル)添加した。反応系のpHはアルカリ性条件下(pH 13)で行った。これを窒素雰囲気下において、水浴上で攪拌しながら反応系の温度を80℃に上昇し、この温度で3時間加熱攪拌を行った。その後、室温まで冷却し、吸引濾過を行って生成物をグラスフィルター上に回収した。イオン交換水により十分に洗浄を行った後、80℃に調節した乾燥器内で1昼夜、加熱乾燥を行い白色の粉体の生成物を得た。ここで、反応系の温度を80℃に上昇させているが、70℃以上に上昇させることでよい。図29に、本実施例のケイ酸ストロンチウムアパタイトの作製フローを示す。
得られた生成物について、広角X線回折により解析を行った。図2に、得られた生成物の広角X線回折パターンを示す。図2に示すように、生成物の回折パターンは、ケイ酸ストロンチウムアパタイトの回折パターンを示しており、ケイ酸ストロンチウムアパタイト以外の不純物の存在は認められず、高純度で結晶性の良好なケイ酸ストロンチウムアパタイトが得られていることが明かとなった。
生成物について、さらにフーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)を用いて解析を行った。図3(a)には、得られた生成物(ケイ酸ストロンチウムアパタイト)のFT−IRスペクトルチャートを示す。同じく図3(b)には、比較例として、特開2015−86081号公報に示される製造方法に従って得られた炭酸ストロンチウムアパタイトのFT−IRスペクトルチャートを示す。図3(a)および(b)に示すチャートから、両方ともに1000〜1100cm−1付近のリン酸基の伸縮振動に由来するブロードで強い吸収が認められ、(b)ではアパタイト中の炭酸イオンの存在に由来する1460cm−1と1405cm−1および870cm−1の吸収が認められたのに対し、(a)ではこれらの吸収が認められず、ケイ酸イオンの吸収帯はリン酸基の吸収帯に重なっており、生成物はケイ酸ストロンチウムアパタイトであることに矛盾しない結果であった。
生成物のケイ酸ストロンチウムアパタイトを、電界放出型走査電子顕微鏡(FE−SEM)を利用してその微細構造を観察した。図4は、得られた生成物(ケイ酸ストロンチウムアパタイト)を、FE−SEMを利用して倍率10万倍で観察した拡大像を示す。図4に示す像から、得られたケイ酸ストロンチウムアパタイトは、短軸の径が凡そ50ナノメートル前後であり、長軸方向の長さが凡そ100ナノメートル又はそれ以上の長さであり、異方性の針状結晶微粒子からなることが判明した。
得られた生成物(ケイ酸ストロンチウムアパタイト)について、さらにエネルギー分散型X線分光器を備えた走査型電子顕微鏡(SEM/EDS)を用いて分析を行った。図5(a)は、得られた生成物(ケイ酸ストロンチウムアパタイト)の走査型電子顕微鏡(SEM)による拡大像を示す。拡大倍率は1000倍である。図5(b)〜(f)は同じ視野におけるエネルギー分散型X線分光器(EDS)により測定を行った元素の分布状態(元素マッピング)を表す図で、(b)はストロンチウムの分布、(c)はリンの分布、(d)は酸素の分布、(e)はケイ素の分布、(f)はナトリウムの分布を表す。これらの元素の分布はいずれもSEM像で観察された粒子の分布と一致しており、各々の元素は粒子中に均質な状態で存在していることが本測定結果より明らかとなった。
図6はSEM/EDSにより求めたケイ酸ストロンチウムアパタイトの構成元素の割合を示すスペクトルを表す。図中に示すC(炭素)は試料のバックグランドに存在するカーボンテープに由来するもので、ケイ酸ストロンチウムアパタイト粉体中には存在しないことが確認された。また、O(酸素)については試料表面に存在する水和水の影響で存在比が高く観察されている。酸素原子を除く残りの構成元素の比率を求めたところ、表1に示す結果が得られた。表1には測定により求められた各元素の質量比を示し、計算値として構造式Sr7Na3(PO4)6(SiO4)(OH)2に対する構成元素の質量%を示した。この結果より、生成物中にはストロンチウムに対して約2〜3質量%のケイ素が含まれることが判った。
(ケイ酸ストロンチウムアパタイト微粒子の製造方法と評価結果)
得られた生成物(ケイ酸ストロンチウムアパタイト)を用いて、以下のようにしてメディアミルを利用した湿式分散処理を行うことで、ケイ酸ストロンチウムアパタイト微粒子を製造した。即ち、上記で得られた生成物(ケイ酸ストロンチウムアパタイト)20グラムを0.5リットルのポリプロピレン容器に移し、これにポリ−D、L−乳酸(D/L=1/1:重量平均分子量12万)を4グラム添加し、さらにアセトニトリルを116グラムおよび粒径0.3mmのジルコニアビーズを160グラム加えて密閉し、ペイントコンディショナーを使用して連続して激しく振とう(シェイク)しながら6時間湿式分散処理を行った。その後、濾布を使用して分散物からジルコニアビーズを分離した。得られた分散物を用いて、分散しているケイ酸ストロンチウムアパタイト微粒子のサイズを測定した。サイズの測定は、レーザー散乱式粒度分布測定装置を用いて、アセトニトリルに分散液をさらに希釈してバッチ式セル内で測定した。図7は、生成物(ケイ酸ストロンチウムアパタイト)の微粒子の粒子径分布の測定結果を示している。求められた体積平均粒子径は、メジアン径として189nmであった。得られたケイ酸ストロンチウムアパタイト微粒子分散液の分散安定性を評価するために、分散液を透明ガラス製容器内に入れて1ヶ月間室温で静置しておき、静値後の分散物の様子を目視で観察したが、沈殿物や凝集物の発生もなく、安定に分散していることが確認された。
実施例1では、塩化ストロンチウム六水和物を溶解した水溶液中に、リン酸水素二アンモニウム水溶液を添加して反応を行う際に50℃の水浴上で加熱しながら反応を行ったが、本実施例では、氷冷した水浴上にて塩化ストロンチウムを溶解した水溶液の内温が5℃の状態で、リン酸水素二アンモニウム水溶液を徐々に滴下して反応を行った。その後、グラスフィルターを用いて吸引濾過を行った。フィルター上の白色沈殿は更に繰り返しイオン交換水で洗浄を行った後、60℃に調節した乾燥器内で1昼夜乾燥を行い、白色の粉体の生成物を得た。得られた生成物について、広角X線回折装置を用いて解析を行った。図8に、得られた生成物の広角X線回折パターンを示す。図8に示すように、生成物の回折パターンは、β−リン酸水素ストロンチウム(β−SrHPO4)の広角X線回折パターンを示しており、β−リン酸水素ストロンチウムに由来するピークのみが観察され、それ以外の化合物に起因するピークは認められなかった。収量測定より収率100%で高純度のβ−リン酸水素ストロンチウムが得られていることが判った。
得られたβ−リン酸水素ストロンチウムを用いて、実施例1と同様にしてメタケイ酸ナトリウム九水和物を添加して同様に反応を行い、得られた生成物を実施例1と同様にして解析した結果、実施例1と同様に高純度で結晶性の高いケイ酸ストロンチウムアパタイトが生成していることが確認された。すべての解析結果からは実施例2で得られたケイ酸ストロンチウムアパタイトは実施例1と実質的に同一の元素組成および結晶構造であることが確認された。本実施例のケイ酸ストロンチウムアパタイトの作製フローを図30に示す。
実施例1と同様にして合成したリン酸水素ストロンチウム(0.5モル)を用いて、これに実施例1ではメタケイ酸ナトリウム九水和物を71グラム(0.25モル)用いたところを、本実施例ではケイ酸四ナトリウムn水和物(Na4SiO4・nH2O)50グラム(約0.25モル)使用して同様に反応を行い、処理を行った。得られた生成物を広角X線回折およびFT−IRを使用して解析した結果、実施例1と同様に高純度でケイ酸ストロンチウムアパタイトが生成していることが確認された。元素組成についても実質的に実施例1で得られたケイ酸ストロンチウムアパタイトと同一組成であった。本実施例のケイ酸ストロンチウムアパタイトの作製フローを図31に示す。
(ケイ酸ストロンチウムアパタイトの塗布膜の作製とこれから溶出されるイオンの溶解挙動)
実施例1で作製したケイ酸ストロンチウムアパタイトを含む分散液を用いて、これにさらにポリメタクリル酸メチル(シグマアルドリッチ製、重量平均分子量12万)をケイ酸ストロンチウムアパタイトに対して質量比が30%になるように加え、得られた溶液を用いて、これを厚みが175μmである透明ポリエステルフィルム上に乾燥塗布膜厚が約10μmになるよう塗布を行った。乾燥後に塗膜を観察したところ、500nmの可視光に対する透過度が85%である均一な塗布膜が形成されていることが確認された。本実施例のケイ酸ストロンチウムアパタイト微粒子のコーティングフローを図32に示す。
得られた塗布フィルムを直径12mmφの円形ディスク状に裁断し、これを24ウェルの培養プレートのウェル内に塗布面を上面にして設置し、これにカルシウムおよびマグネシウムを含まない疑似体液HBSS(−)(和光純薬工業株式会社製、フェノールレッド不含)を500μL加えて密閉し、37℃の乾燥機内にて加熱しながら保管した。HBSS(−)は2日毎に液交換を行い、交換する直前の液を採取し、含まれるストロンチウムイオンおよびケイ酸イオンの濃度を、原子吸光光度計を利用して定量した。イオン濃度の測定結果を図9に示す。図9は、ケイ酸ストロンチウムアパタイト微粒子を塗布したPETフィルムから溶出するストロンチウムイオン濃度およびケイ酸イオン濃度の経時変化を示す。図9に示すように、塗布フィルムから少なくとも20日以上に亘り、ストロンチウムイオンおよびケイ酸イオンの両方が数ppm程度の濃度で定常的に溶出されることが判った。
(Caを含むケイ酸ストロンチウムアパタイトの合成)
本実施例では、ストロンチウム(Sr)とともに種々の割合でカルシウム(Ca)を含むケイ酸ストロンチウムアパタイトの合成について説明する。具体的な合成は、実施例1において、リン酸水素ストロンチウム塩を合成する際の塩化ストロンチウム六水和物134グラムに換えて、塩化ストロンチウム六水和物とともに塩化カルシウム二水和物を用いて、トータルのモル数を0.5モルに固定し、CaとSrのモル比が2:8,4:6,5:5,6:4,7:3,8:2となるように系統的に変化させた。それぞれの水和物を、温度計および攪拌装置を備えた1リッターパイレックス(登録商標)製丸底フラスコ内に秤取り、イオン交換水350グラムを加えて溶解し水浴上で50℃に調節し撹拌した。これに対して、リン酸水素二アンモニウム66グラム(0.5モル)をイオン交換水300グラムに溶解した溶液を滴下漏斗から1時間に亘って徐々に滴下した。反応時の反応系のpHは6.5であった。滴下終了後、さらに3時間加熱撹拌を続け、その後水浴上からフラスコを移し、静置した。室温まで冷却した後、グラスフィルターを用いてフラスコの内容物を吸引濾過し、固形分を回収した。フィルター上の白色沈殿に対して、更に繰り返しイオン交換水で洗浄を行った後、60℃に調節した乾燥器内で1昼夜乾燥を行い、白色の粉体の生成物を得た。
得られた各々の生成物について、広角X線回折装置を用いて解析を行い、図10に示す回折パターンを得た。図10は、得られた生成物(CaとSrのモル比が2:8,4:6,5:5,6:4,7:3,8:2で含まれるリン酸水素塩)の広角X線回折パターンを示す。図10に示すように、各々生成物の回折パターンは、α−リン酸水素ストロンチウム(α−SrHPO4)の回折パターンの特徴を示しており、それ以外の化合物に起因するピークは認められなかった。収量測定より収率100%で高純度のα−リン酸水素ストロンチウムが得られていることが判った。
次いで、上記で得られたカルシウムとストロンチウムの両方を含むリン酸水素塩を全量用いて、実施例1と同様にしてメタケイ酸ナトリウム九水和物(和光純薬工業株式会社製)を71グラム(0.25モル)添加し80℃で3時間加熱攪拌を行った。その後、室温まで冷却し、吸引濾過を行って生成物をグラスフィルター上に回収した。イオン交換水により十分に洗浄を行った後、80℃に調節した乾燥器内で1昼夜加熱乾燥を行って、いずれの場合も白色の粉体の生成物を得た。本実施例のCaを含むケイ酸ストロンチウムアパタイトの作製フローを図33に示す。
得られた各々の生成物について、広角X線回折により解析を行った。図11は、得られた各々の生成物、すなわち、様々な比率でカルシウムを含むケイ酸ストロンチウムアパタイトの広角X線回折パターンを示す。図11に示す回折パターンより、ケイ酸ストロンチウムアパタイト以外の不純物の存在は認められず、高純度で結晶性の良好なケイ酸ストロンチウムアパタイトが得られていることが明かとなった。さらに、ストロンチウム原子をカルシウム原子に置換するにしたがって、ピーク位置の2シータの数値が増加する傾向が認められ、イオン半径の大きさ(Sr>Ca)が減少するに従い結晶格子間隔が減少する様子が観察された。
得られた生成物(様々な比率でカルシウムを含むケイ酸ストロンチウムアパタイト)について、さらにエネルギー分散型X線分光器を備えた走査型電子顕微鏡(SEM/EDS)を用いて分析を行った。図12は、様々な比率でカルシウムを含むケイ酸ストロンチウムアパタイト中に含まれるカルシウムとストロンチウムの元素比率を、合成の際の仕込み比に対してプロットした結果を示す。これより、ほぼ理論的に予想される比率でカルシウムを含むケイ酸ストロンチウムアパタイトが得られていることが判明した。
(Mgを含むケイ酸ストロンチウムアパタイトの合成)
本実施例では、ストロンチウム(Sr)とともにさらにマグネシウム(Mg)を含むケイ酸ストロンチウムアパタイトの合成について説明する。具体的な合成の仕方は、実施例1で得られたケイ酸ストロンチウムアパタイト27グラムを300mL三角フラスコ内に入れ、塩化マグネシウム六水和物16.2グラムを加えてイオン交換水200mL中に懸濁しながら、さらに20%アンモニア水24グラムを加えて90℃で3時間加熱撹拌を行った。その後、反応系を熱時ろ過し、フィルター上の生成物をイオン交換水で十分洗浄後、乾燥機で乾燥を行い、生成物を得た。本実施例のMgを含むケイ酸ストロンチウムアパタイトの作製フローを図34に示す。
得られた生成物を広角X線回折により解析を行った。図13に得られた生成物の広角X線回折パターンを示す。図13に示すように、生成物の回折パターンには、ケイ酸ストロンチウムアパタイト以外の不純物の存在は認められず、高純度で結晶性の良好なマグネシウムを含むケイ酸ストロンチウムアパタイトが得られていることが明かとなった。
得られたマグネシウムを含むケイ酸ストロンチウムアパタイトについて、さらにエネルギー分散型X線分光器を備えた走査型電子顕微鏡(SEM/EDS)を用いて分析を行った。図14(a)は、得られた生成物(マグネシウムを含むケイ酸ストロンチウムアパタイト)の走査型電子顕微鏡による拡大像を示す。拡大倍率は、1000倍である。図14(b)〜(e)は同じ視野におけるEDSにより測定を行った元素の分布状態(元素マッピング)を表し、(b)はストロンチウムの分布、(c)はマグネシウムの分布、(d)はリンの分布、(e)はケイ素の分布を表す。これらの元素の分布はいずれもSEM像で観察された粒子の分布と一致しており、各々の元素は粒子中に均質な状態で存在していることが本測定結果より明らかとなった。
また、図15は、SEM/EDSにより測定した生成物(マグネシウムを含むケイ酸ストロンチウムアパタイト)の構成元素の割合を示すスペクトルを表す。これより、生成物中にはストロンチウムに対して約2モル%のマグネシウムが含まれることが判った。
(Znを含むケイ酸ストロンチウムアパタイトの合成)
本実施例では、ストロンチウム(Sr)とともにさらに亜鉛(Zn)を含むケイ酸ストロンチウムアパタイトの合成について説明する。具体的な合成は、実施例1で得られた生成物(ケイ酸ストロンチウムアパタイト)27グラムを300mL三角フラスコ内に入れ、塩化亜鉛10.9グラムを加えてイオン交換水200mL中に懸濁しながら20%アンモニア水24グラムを加えて90℃で3時間加熱撹拌を行った。その後、反応系を熱時ろ過し、フィルター上の生成物をイオン交換水で十分洗浄後、乾燥機で乾燥を行った。得られた生成物を広角X線回折により解析を行った。図16は、得られた生成物(亜鉛を含むケイ酸ストロンチウムアパタイト)の広角X線回折パターンを示す。図16において、(a)は2シータが10度から40度までの範囲を表し、(b)は2シータが20度から30度までの範囲を表す。比較例として亜鉛を含まない実施例1で得られた生成物(ケイ酸ストロンチウムアパタイト)のX線回折パターンとの比較を表す。
図16に示す回折パターンより、ケイ酸ストロンチウムアパタイト以外の不純物の存在は認められず、高純度で結晶性の良好な亜鉛を含むケイ酸ストロンチウムアパタイトが得られていることが明かとなった。本実施例のZnを含むケイ酸ストロンチウムアパタイトの作製フローを図35に示す。
本実施例で得られた生成物(亜鉛を含むケイ酸ストロンチウムアパタイト)は、さらにエネルギー分散型X線分光器を備えた走査型電子顕微鏡(SEM/EDS)を用いて分析を行った。図17(a)は、得られた生成物(亜鉛を含むケイ酸ストロンチウムアパタイト)の走査型電子顕微鏡による拡大像を示している。拡大倍率は1000倍である。図17(b)〜(e)は同じ視野におけるEDSにより測定を行った元素の分布状態(元素マッピング)を表し、(b)はストロンチウムの分布、(c)は亜鉛の分布、(d)はリンの分布、(e)はケイ素の分布を表す。これらの元素の分布はいずれもSEM像で観察された粒子の分布とほぼ一致しており、各々の元素は粒子中に均質な状態で存在していることが本測定結果より明らかとなった。
また、図18は、SEM/EDSにより測定した生成物(亜鉛を含むケイ酸ストロンチウムアパタイト)の構成元素の割合を示すスペクトルを表す。これより、生成物中にはケイ酸ストロンチウムアパタイト結晶構造中において約4質量%の亜鉛が含まれることが判った。
(細胞培養試験)
実施例4で作製したケイ酸ストロンチウムアパタイト(SrSiP)を塗布したPETフィルムを円形ディスク状に裁断した試料を用いて、この表面を用いて、以下に示すようにして細胞培養試験を実施した。比較例として、塗布を行わないPETフィルム(コントロール)および、ハイドロキシアパタイト(HAP)、炭酸ストロンチウムアパタイト(SrCAP)およびケイ酸ハイドロキシアパタイト(CaSiP)を、実施例4と同様にして塗布したフィルム試料を用いて細胞培養試験を行った。尚、ハイドロキシアパタイトは特開2014−65653号公報に記載される方法に従って得られたハイドロキシアパタイトを、実施例1および実施例4で示される方法に従って分散させ調整した溶液を用いて試料を作製した。炭酸ストロンチウムアパタイトは特開2015−86081号公報に示される製造方法に従って得られた炭酸ストロンチウムアパタイトを用いて同様に塗布し、試料を作製した。ケイ酸ハイドロキシアパタイトは、後述の比較例1で示す製造方法を用いて作製したケイ酸イオンを含有するハイドロキシアパタイトを用いて同様に試料を作製した。
F344ラットの大腿骨より骨髄を採取し14日の初期培養後、付着細胞を骨髄間葉系細胞として採取した。12ウェルプレート底面にセットしたアパタイトコートディスク上に、1×104cell/cm2の細胞密度で播種した(n=10)。骨分化誘導因子(β−グリセロリン酸、アスコルビン酸およびデキサメタゾン)を添加したMEM培地で14日間培養し、培地中の分泌オステオカルシンをエライザ法で測定することで、骨分化の相対的な進行の様子を評価した。測定結果を図19に示す。図19は、各種アパタイトを塗布したPETフィルムおよびコントロール上で骨髄間葉系細胞を培養した際の骨芽細胞への分化に伴う分泌オステオカルシンの定量結果を表している。図19より、ケイ酸ストロンチウムアパタイトを塗布したPETフィルム上で、顕著な骨分化促進効果が認められ、ストロンチウムイオン単独(SrCAP)の場合や、ケイ酸イオン単独(CaSiP)の場合と比較して、ストロンチウムイオンとケイ酸イオンの両方の効果が相乗的に作用して、骨形成を大幅に促進する効果が発揮できることが明らかとなった。
(比較例1:ケイ酸ハイドロキシアパタイト(CaSiP)の製造例)
リン酸水素カルシウム二水和物(和光純薬工業株式会社製)86グラム(0.5モル)をイオン交換水300グラムに懸濁し、内温40℃に調節し、これにメタケイ酸ナトリウム九水和物71グラム(0.25モル)を加えて1時間攪拌を行った。次いで、内温を85℃に昇温してこの温度で3時間加熱攪拌を行った。室温まで冷却後、反応系に対して吸引濾過を行って生成物をグラスフィルター上に回収した。イオン交換水により十分に洗浄を行った後、80℃に調節した乾燥器内で1昼夜加熱乾燥を行い白色の粉体の生成物を得た。得られた生成物について、広角X線回折により解析を行った。図20は、比較例1で得られた生成物(ケイ酸ハイドロキシアパタイト)の広角X線回折パターンを示す。図20に示すように、生成物は結晶性の低下したハイドロキシアパタイトである特徴的なX線回折パターンを示すことが判った。
得られた生成物について、さらにSEM/EDSを利用して元素分析を行った。酸素原子を除く残りの構成元素の比率を求めたところ、下記表2に示す結果が得られた。下記表2には測定により求められた各元素の質量比を示し、計算値として構造式Ca7Na3(PO4)6(SiO3)(OH)2に対する構成元素の質量%を示した。これより、生成物中にはカルシウムに対して約8質量%のケイ素が含まれることが判った。
(人工骨に対するケイ酸ストロンチウムアパタイトの塗布加工とこれから溶出するストロンチウムイオンおよびケイ酸イオンの測定)
実施例1で作製したケイ酸ストロンチウムアパタイトを含む分散液を用いて、実施例4と同様に、これにさらにポリメタクリル酸メチル(シグマアルドリッチ製、重量平均分子量12万)をケイ酸ストロンチウムアパタイトに対して質量比が30%になるように加え、アセトニトリルを加えて固形分濃度が2質量%になるように溶液を調整した。得られた溶液を用いて、インプラント人工骨としてスーパーポア(HOYA Technosurgical株式会社製、多孔質TCP人工骨、5mmφ)を用いて、これを得られた溶液中に浸漬し、人工骨表面にケイ酸ストロンチウムアパタイトを塗布した人工骨試料を作製した。得られた人工骨試料を、エネルギー分散型X線分光器を備えた走査型電子顕微鏡(SEM/EDS)を用いて分析を行った。図21(a)は、得られた人工骨試料の走査型電子顕微鏡による拡大像を示す。拡大倍率は500倍である。図21(b)〜(f)は同じ視野におけるEDSにより測定を行った元素の分布状態(元素マッピング)を表し、(b)はカルシウムの分布、(c)はストロンチウムの分布、(d)はリンの分布、(e)は酸素の分布、(f)はケイ素の分布を表す。これらの元素の分布はいずれもSEM像で観察された粒子の分布と一致しており、各々の元素は人工骨表面に均一に分布して存在していることが本測定結果より明らかとなった。
また、図22は、EDSにより求めた実施例9のケイ酸ストロンチウムアパタイトを塗布した人工骨表面に存在する元素の割合を示すEDSスペクトルを示している。これより求めたカルシウム原子に対するストロンチウム原子の質量比は0.04となり、人工骨表面において約4質量%のケイ酸ストロンチウムアパタイト粒子が塗布されていることが明らかとなった。
上記で作製した人工骨を24ウェルの培養プレートのウェル内に設置し、これにカルシウムおよびマグネシウムを含まない疑似体液HBSS(−)(和光純薬工業株式会社製、フェノールレッド不含)を500μL加えて密閉し、37℃の乾燥機内にて加熱しながら保管した。HBSS(−)は2日毎に液交換を行い、交換する直前の液を採取し、含まれるストロンチウムイオンおよびケイ酸イオンの濃度を原子吸光光度計を利用して定量した。その結果、2週間にわたって各々4ppmおよび2ppm前後の濃度で両イオンが溶出されることが明らかとなった。
(人工靭帯に対するケイ酸ストロンチウムアパタイトの塗布加工とこれから溶出するストロンチウムイオンおよびケイ酸イオンの測定)
実施例1で作製したケイ酸ストロンチウムアパタイトを含む分散液を用いて、実施例4と同様に、これにさらにポリメタクリル酸メチル(シグマアルドリッチ製、重量平均分子量12万)をケイ酸ストロンチウムアパタイトに対して質量比が30%になるように加え、アセトニトリルを加えて固形分濃度が2質量%になるように溶液を調整した。得られた溶液を用いて、インプラントとして人工靱帯(カイロス社製The Leeds−Keio Artificial Ligaments II,15mm×500mm)を用いて、これを上記の溶液中に浸漬し、人工靭帯表面にケイ酸ストロンチウムアパタイトを塗布した人工骨試料を作製した。得られた人工骨試料を、エネルギー分散型X線分光器を備えた走査型電子顕微鏡(SEM/EDS)を用いて先の実施例と同様に分析を行った。分析の結果、ケイ酸ストロンチウムアパタイトは人工靭帯表面に均一に分布して存在していることが明らかとなった。さらに作製した人工靭帯を10mm角に裁断し、実施例9と同様にしてHBSS(−)中に溶出するストロンチウムイオンおよびケイ酸イオン濃度を測定した結果、2週間にわたって各々4ppmおよび2ppm前後の濃度で両イオンが溶出されることが明らかとなった。
(脊椎インプラントに対するケイ酸ストロンチウムアパタイトの塗布加工とこれから溶出するストロンチウムイオンおよびケイ酸イオンの測定)
実施例1で作製したケイ酸ストロンチウムアパタイトを含む分散液を用いて、実施例4と同様に、これにさらにポリメタクリル酸メチル(シグマアルドリッチ製、重量平均分子量12万)をケイ酸ストロンチウムアパタイトに対して質量比が30%になるように加え、アセトニトリルを加えて固形分濃度が2質量%になるように溶液を調整した。得られた溶液を用いて、インプラントとして樹脂製脊椎インプラント(ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)製)を想定し、市販されるPEEKフィルム表面にケイ酸ストロンチウムアパタイトを塗布した脊椎インプラントモデル試料を作製した。得られた脊椎インプラントモデル試料を、エネルギー分散型X線分光器を備えた走査型電子顕微鏡(SEM/EDS)を用いて先の実施例と同様に分析を行った。分析の結果、ケイ酸ストロンチウムアパタイトはPEEKフィルム表面に均一に分布して存在していることが明らかとなった。さらに作製したモデル試料を10mm角に裁断し、実施例9と同様にしてHBSS(−)中に溶出するストロンチウムイオンおよびケイ酸イオン濃度を測定した結果、2週間にわたって各々4ppmおよび2ppm前後の濃度で両イオンが溶出されることが明らかとなった。
(人工骨に対するバインダーフリーでのケイ酸ストロンチウムアパタイトの塗布溶着加工とこれから溶出するストロンチウムイオンおよびケイ酸イオンの測定)
実施例1で得られたケイ酸ストロンチウムアパタイト20グラムを0.3リットルのポリプロピレン容器に移し、これにピロリン酸ナトリウム10水和物を1グラム添加し、さらにイオン交換水40グラムおよび粒径0.3mmのジルコニアビーズを160グラム加えて密閉し、ペイントコンディショナーを使用して連続して激しく振とう(シェイク)しながら6時間湿式分散処理を行った。その後、濾布を使用して分散物からジルコニアビーズを分離した。得られた分散物を用いて、分散しているケイ酸ストロンチウムアパタイト微粒子のサイズを測定した。サイズの測定は、レーザー散乱式粒度分布測定装置を用いて、イオン交換水に分散液をさらに希釈してバッチ式セル内で測定した。図23は測定結果を示す。図23は、得られたケイ酸ストロンチウムアパタイトを、湿式分散処理を行って得られたケイ酸ストロンチウムアパタイト微粒子の水分散物の粒子径分布曲線を表す。求められた体積平均粒子径は、メジアン径として189nmであった。得られたケイ酸ストロンチウムアパタイト微粒子の水分散液の分散安定性を評価するために、分散液を透明ガラス製容器内に入れて1ヶ月間室温で静置しておき、静値後の分散物の様子を目視で観察したが、沈殿物や凝集物の発生もなく、安定に分散していることが確認された。
上記で作製したケイ酸ストロンチウムアパタイト水分散液を用いて、これにイオン交換水を加え、固形分濃度が1質量%、5質量%および10質量%になるように溶液を調整した。得られた溶液を用いて、インプラント人工骨として、実施例9と同様にスーパーポアを用いて、これを上記の3種類の濃度の溶液中に浸漬し、人工骨表面にケイ酸ストロンチウムアパタイトを塗布した人工骨試料を作製した。得られた人工骨試料を300℃に調節した乾燥機内で1週間加熱処理を行った後、冷却し、以下の測定に用いた。即ち、エネルギー分散型X線分光器を備えた走査型電子顕微鏡(SEM/EDS)を用いて表面に存在するケイ酸ストロンチウムアパタイトの分布に関する分析を行った。図24(a)は、得られた固形分濃度を1質量%になるように調整したケイ酸ストロンチウムアパタイト水分散液を塗布した人工骨の走査型電子顕微鏡による拡大像を示す。拡大倍率は500倍である。図21(b)〜(f)は同じ視野におけるEDSにより測定を行った元素の分布状態(元素マッピング)を表し、(b)はカルシウムの分布、(c)はストロンチウムの分布、(d)はリンの分布、(e)は酸素の分布、(f)はケイ素の分布を表す。これらの元素の分布はいずれもSEM像で観察された粒子の分布と一致しており、各々の元素は人工骨表面に均一に分布して存在していることが本測定結果より明らかとなった。他の5質量%および10質量%になるように調整したケイ酸ストロンチウムアパタイト水分散液を塗布した人工骨についても同様に、均一に表面がケイ酸ストロンチウムアパタイトで覆われており、さらに細孔を封止することなく細孔内部にも同様にコーティングされていることが明らかとなった。
上記のケイ酸ストロンチウムアパタイトから溶出されるストロンチウムイオン濃度とケイ酸イオン濃度を測定した結果を図25に示す。図25(a)は作製したバインダーフリーでケイ酸ストロンチウムを表面にコーティングした人工骨から溶出するストロンチウムイオン濃度であり、図25(b)はケイ酸イオン濃度を表す。表面コーティングした人工骨から溶出する各々の濃度は、洗浄を繰り返すに従い徐々に減少する傾向が認められたが、凡そ数ppmの濃度で安定的に徐放されることが確認された。
(バインダーフリーでケイ酸ストロンチウムアパタイトの塗布溶着加工した人工骨を用いたラットへの移植実験)
実施例12で作製した3種類の人工骨および比較例としてケイ酸ストロンチウムアパタイトをコーティングしない元の人工骨を使用して、以下のような方法でラットに対する移植実験を行った。即ち、F344ラットの大腿骨より骨髄を採取し14日の初期培養後、付着細胞を骨髄間葉系細胞として採取した。1×106 cell/mLの細胞浮遊液を作り、これにアパタイトをコーティングした3種類の人工骨とコーティングしない元の人工骨をそれぞれ浸漬して、骨髄間葉系細胞を搭載した。これらの骨髄間葉系細胞搭載人工骨をF344ラットの背部皮下に移植し、4週後に摘出して、骨形成を組織像で観察した。
図26は、ヘマトキシリンエオジン染色の組織像であるが、弱拡大と強拡大で骨組織形成を評価したところ、非コーティング群に比べて3種類のコーティングで骨組織が顕著に観察できた。コーティング人工骨群の中心部に近い気孔内でも骨組織が観察でき、気孔間の連通性が保たれていることが確認できた。摘出したサンプルのアルカリフォスファターゼ活性の測定とオステオカルシン含有量を測定した。
図27は、アルカリフォスファターゼ活性の測定結果を示し、図28は、オステオカルシン含有量を示す。アパタイトをコーティングした3種類の人工骨群は、コーティングしない元の人工骨群に比較していずれの値も高かった(図27および図28)。以上の結果から、ケイ酸ストロンチウムアパタイトを人工骨にコーティングすることによって、ストロンチウムイオンとケイ酸イオンの両方の効果が相乗的に作用して、骨形成を大幅に促進する効果が発揮できることが明らかとなった。
(Baを含むケイ酸ストロンチウムアパタイトの合成)
本実施例では、ストロンチウム(Sr)とともにさらにバリウム(Ba)を含むケイ酸ストロンチウムアパタイトの合成について説明する。具体的な合成について説明する。500ミリリットルパイレックス(登録商標)製三角フラスコ内に、塩化ストロンチウム六水和物66.7グラム(0.125モル)および塩化バリウム二水和物(和光純薬工業株式会社製)30.5グラム(0.125モル)を秤取り、イオン交換水300グラムを加えて室温で溶解した。これとは別に、500ccのガラスビーカー内にリン酸水素二アンモニウム33グラム(0.25モル)を秤取り、イオン交換水100グラムを加えて30℃の内温で溶解した。作製した塩化バリウム水溶液を導入したフラスコを50℃に調整した水浴上に移し、攪拌しながら、滴下漏斗を用いてリン酸水素二アンモニウムを溶解した上記水溶液を1時間に亘って徐々に滴下した。反応時の反応系のpHは6.5であった。滴下終了後さらに3時間撹拌を続け、その後水浴上からフラスコを移し、静置した。室温まで冷却した後、グラスフィルターを用いてフラスコの内容物を吸引濾過し、固形分を回収した。フィルター上の白色沈殿は更に繰り返しイオン交換水で洗浄を行った後、60℃に調節した乾燥器内で1昼夜乾燥を行い、白色の粉体の生成物を得た。得られた生成物の全量を再び三角フラスコ内へ移し、イオン交換水300グラムを加えて攪拌を行いながら、メタケイ酸ナトリウム九水和物(和光純薬工業株式会社製)を35.5グラム(0.125モル)添加した。反応系のpHはアルカリ性条件下(pH13)であった。これを窒素雰囲気下において水浴上で攪拌しながら反応系の温度を80℃に上昇し、この温度で3時間加熱攪拌を行った。その後、室温まで冷却し、吸引濾過を行って生成物をグラスフィルター上に回収した。イオン交換水により十分に洗浄を行った後、80℃に調節した乾燥器内で1昼夜加熱乾燥を行い白色の粉体の生成物を得た。本実施例のBaを含むケイ酸ストロンチウムアパタイトの作製フローを図36に示す。
得られた生成物について、広角X線回折により解析を行った。解析の結果、高純度で結晶性の良好なバリウムを含むケイ酸ストロンチウムアパタイトが得られていることが明かとなった。エネルギー分散型X線分光器を備えた走査型電子顕微鏡(SEM/EDS)を用いて分析を行った結果、生成物にはバリウムとストロンチウムがほぼ等モル含まれているケイ酸アパタイトであることが明らかとなった。
本発明のケイ酸ストロンチウムアパタイトは、細胞培養基材および各種インプラントに有用である。更には、これを微粒子として表面コーティングすることにより、表面にDNAを吸着できる遺伝子導入用のベクターとして、或は、クロマトグラフィー用の吸着担体としての利用が可能である。