JP2015082000A - 弦楽器用板材、弦楽器用板材の製造方法および弦楽器 - Google Patents

弦楽器用板材、弦楽器用板材の製造方法および弦楽器 Download PDF

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Abstract

【課題】効率よく製造でき、素材の歩留まりが高く、しかも、密度のばらつきが小さく、肉厚が部分的に異なり、一方の面側に凸状に湾曲された形状を有し、形状安定性に優れ、優れた音響特性が得られる表板または裏板を構成する弦楽器用板材およびその製造方法を提供する。【解決手段】弦楽器用板材10は、肉厚を部分的に小さくする凹部34が設けられた単板3からなり、単板3は一方の面側に凸状に湾曲されている。単板3の繊維の延在方向が湾曲形状に沿う方向に揃えられていてもよい。【選択図】図1

Description

本発明は、弦楽器用板材、弦楽器用板材の製造方法および弦楽器に関する。
バイオリンの表板および裏板は、良好な音響特性が得られるように、肉厚が部分的に異なっており、一方の面側に凸状に緩やかに湾曲された特有のむくり形状となっている。バイオリン属であるビオラ、チェロ、コントラバスに用いられる表板および裏板も、バイオリンと同様に、肉厚が部分的に異なるむくり形状を有している。
従来、バイオリン属の表板および裏板を製造する際には、ブロック状の無垢の木材を削り出して、肉厚が部分的に異なるむくり形状を形成していた。しかし、ブロック状の木材を削り出して表板および裏板を製造する場合、削り工数が非常に多く手間がかかることや、素材の歩留まりが10%程度で非常に低いことが問題となっていた。
近年、バイオリン属の表板および裏板として、ブロック状の木材よりも厚みの薄い板材に、プレス曲げ加工を行って、板材を部分的に圧縮するとともに湾曲させることにより、肉厚が部分的に異なるむくり形状を形成したものが製造されている(例えば、非特許文献1参照)。
また、バイオリン属の表板および裏板として、複数枚の単板を接着剤を介して積層してなる積層材を、曲げ加工により緩やかに湾曲させてなるものもある。
これらの表板および裏板では、曲げ加工によってむくり形状を形成しているので、むくり形状を形成するための削り工数を削減できる。したがって、ブロック状の木材を削り出して製造したものと比較して、効率よく製造できるし、素材の歩留まりも向上する。
「VIOLIN 楽器の事典 ヴァイオリン」東京音楽社刊、P203
しかし、板材をプレス曲げ加工して形成した表板および裏板では、板材を部分的に圧縮することにより、肉厚を部分的に異ならせて、所定の厚み分布を形成している。このため、圧縮された部分の木材の密度が高くなっており、表板および裏板の密度のばらつきが大きいものとなっている。バイオリン属の表板および裏板は、特有のむくり形状を有するものであっても、密度のばらつきが大きいと、演奏時の振動がバイオリン属特有のものとならない。このため、プレス曲げ加工を用いて形成した表板および/または裏板を備える弦楽器では、良好な音響特性が得られない場合があった。
また、プレス曲げ加工を用いて形成した表板および裏板では、圧縮された木材の復元力によって、製造後に厚み分布やむくり形状が変化しやすい。このため、プレス曲げ加工を用いて形成した表板および裏板を備える弦楽器は、長期間使用すると、音響特性が劣化したり、表板および/または裏板の変形により破損したりする場合があった。
一方、積層材に曲げ加工を行ってむくり形状を形成した表板および裏板は、製造時に積層材を部分的に圧縮していないので、密度のばらつきは小さい。したがって、上述した表板および裏板の密度に起因する問題は生じない。
しかし、この表板および裏板は、肉厚が均一であるため、これを用いた弦楽器では、演奏時の表板および裏板の振動がバイオリン属特有のものとならず、良好な音響特性が得られない場合があった。
また、積層材をプレス曲げ加工することにより、肉厚が部分的に異なるむくり形状を形成することも考えられる。しかし、この場合、プレス曲げ加工により積層材を部分的に圧縮するので、表板および裏板の密度のばらつきが大きくなってしまう。
また、積層材を曲げ加工する前または後に積層材を削り出して、肉厚が部分的に異なるむくり形状を形成することも考えられる。しかし、積層材を削り出すと、表面に積層断面が露出してしまうため、良好な外観が得られない。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、効率よく製造でき、素材の歩留まりが高く、しかも、密度のばらつきが小さく、肉厚が部分的に異なり、一方の面側に凸状に湾曲された形状を有し、形状安定性に優れ、優れた音響特性が得られる表板または裏板を構成する弦楽器用板材を提供することを課題とする。
また、本発明は、効率よく製造でき、素材の歩留まりが高い弦楽器用板材からなる表板および/または裏板を備え、表板および/または裏板の変形による破損が生じにくく、音質の良好な弦楽器を提供することを課題とする。
本発明の弦楽器用板材は、弦楽器の表板または裏板を構成する弦楽器用板材であって、肉厚を部分的に小さくする凹部が設けられてなる単板からなり、前記単板が一方の面側に凸状に湾曲されていることを特徴とする。
上記の弦楽器用板材は、前記単板の繊維の延在方向が、前記単板の前記湾曲形状に沿う方向に揃えられているものとすることができる。
上記の弦楽器用板材は、前記単板の一方の面または両面に、接着剤を介して化粧材が積層されているものとすることができる。
本発明の弦楽器用板材の製造方法は、弦楽器の表板または裏板を構成する弦楽器用板材の製造方法であって、肉厚を部分的に小さくする凹部を有する単板を用意し、前記単板を一方の面側に凸状に湾曲させる工程を含むことを特徴とする。
上記の弦楽器用板材の製造方法は、前記単板の一方の面または両面に、接着剤を介して化粧材を積層してから、前記単板を一方の面側に凸状に湾曲させる方法とすることができる。
本発明の弦楽器は、上記の弦楽器用板材を備えることを特徴とする。
本発明の弦楽器用板材は、弦楽器の表板または裏板を構成する弦楽器用板材であって、肉厚を部分的に小さくする凹部を有する単板が一方の面側に凸状に湾曲されてなるものである。したがって、肉厚が部分的に異なるものとするために、木材を部分的に圧縮する必要はない。このため、密度のばらつきが小さい弦楽器用板材となる。よって、本発明の弦楽器用板材は、これを弦楽器の表板または裏板として用いた場合に、演奏時にバイオリン属特有の振動が得られるものであり、優れた音響特性を有する。
また、本発明の弦楽器用板材は、肉厚が部分的に異なるものとするために、木材を部分的に圧縮する必要はないため、圧縮された木材の復元力によって、厚み分布や湾曲形状が変化することはない。したがって、本発明の弦楽器用板材は、板材をプレス曲げ加工して形成した従来の表板および裏板と比較して、形状安定性に優れている。
また、本発明の弦楽器用板材は、肉厚を部分的に小さくする凹部を有する単板が一方の面側に凸状に湾曲されてなるものである。したがって、単板が湾曲されることによる変形分を、削り出して形成する場合と比較して、少ない削り工数で製造できる。よって、本発明の弦楽器用板材は、ブロック状の木材を削り出して製造したものと比較して、効率よく製造できるし、素材の歩留まりも向上する。
また、本発明の弦楽器用板材の製造方法は、肉厚を部分的に小さくする凹部を有する単板を一方の面側に凸状に湾曲させる工程を含む方法である。したがって、木材を部分的に圧縮することなく、肉厚が部分的に異なり、密度のばらつきが小さい弦楽器用板材が得られる。また、本発明の弦楽器用板材の製造方法では、単板を湾曲させることによって得られる変形分を、削り出して形成する場合と比較して、少ない削り工数で効率よく製造できる。
また、本発明の弦楽器は、本発明の弦楽器用板材を備えるものであるので、音質の良好なものとなる。また、本発明の弦楽器は、表板および/または裏板の変形による破損が生じにくいものであるため、長期にわたって使用できる。
図1(a)は本発明の第1実施形態に係るバイオリンの表板の幅方向の断面模式図であり、図1(b)は図1(a)に示す表板の平面図である。 図2は、図1に示す表板に用いられる単板の形状を説明するための斜視図である。 図3は、図1に示す表板を製造する際に形成した積層板を示した断面図である。 図4は、本発明の弦楽器の一例であるバイオリンを示した側面図である。
以下、図面を参照して本発明を適用した実施形態について詳細に説明する。
「第1実施形態」
本実施形態においては、本発明の弦楽器用板材の一例として、バイオリンの表板を例に挙げて説明する。図1(a)は、本発明の第1実施形態に係るバイオリンの表板の幅方向の断面模式図である。また、図1(b)は、図1(a)に示す表板の平面図である。図1(a)は、図1(b)に示すA−A’に対応する断面図である。
図1(a)において、符号10はバイオリンの表板を示している。表板10は、図1(a)に示すように、表面(図1においては上面)側に凸状に湾曲され、厚みが緩やかに変化している積層板11からなるものである。
積層板11は、凹部34を有する単板3を含むものである。単板3の表面3aには、接着剤4を介して表面板1が積層されている。また、単板3の裏面3bには、接着剤4を介して裏面板2が積層されている。表面板1および裏面板2は、均一な厚みを有する単板材からなるものであり、単板3の表面3aまたは裏面3bを覆う化粧材として機能するものである。また、表面板1および裏面板2は、接着剤4とともに単板3を補強し、単板3の変形を防止する機能も有する。
図1(a)に示す表板10では、単板3の繊維の延在方向は、単板3を湾曲させたことによって、単板3の湾曲形状に沿う方向に揃えられている。
また、単板3の裏面3b(図1においては下面)には、底面の深さが段階的に異なっている凹部34が形成されている。凹部34は、単板3の肉厚を部分的に小さくするものであり、表板10の振動板として機能を考慮した所定の形状および深さ分布となっている。
単板3の厚みは、図1(a)に示すように、平面視で凹部34の外側に位置する周縁部13が最も厚くなっている。また、単板3の厚みは、周縁部13と、周縁部13よりも厚みの薄い中央部分12との間に位置する肉薄部14が、最も薄くなっている。単板3の厚みは、図1(a)に示すように、周縁部13から薄い肉薄部14に向かって段々と薄くなっており、肉薄部14から中央部分12に向かって厚くなっている。
なお、単板の厚み分布は、バイオリンの表板または裏板に要求される性能に応じて決定されるものであり、例えば、周縁部を薄くし、中央部を厚くしてもよく、図1(a)に示す単板3の厚み分布に限定されるものではない。
単板3、表面板1および裏面板2に用いられる材料としては、例えば、スプルース、メープル、松、杉、カバ、ブナ、ラワンなどが挙げられる。これらの中でも特に、表板10の振動板としての優れた機能が得られるスプルースを用いることが好ましい。
単板3、表面板1および裏面板2の材料は、全て同じであってもよいし、一部または全部が異なっていてもよい。本実施形態においては、単板3と表面板1と裏面板2の全てを、スプルースを用いて形成することが好ましい。このことにより、表板10としてより優れた機能が得られ、これを用いたバイオリンの音質がより良好なものとなる。
本実施形態の表板10では、表面板1として柾目のスプルース材を用い、繊維の方向を平面視で表板10の長さ方向に揃えて配置することで、より良好な外観が得られる。また、表板10の表面板1は、2枚の単板材の端面を表板10の長さ方向中央部で対向させて接ぐことによって、一体化された連続した平面を有するものであってもよい。このことにより、表板10の表面の長さ方向中央部に、接ぎを有する良好な外観が得られる。
図1(a)に示す表板10では、表面板1および裏面板2の厚みは0.2〜1.0mmであることが好ましい。表面板1と裏面板2の厚みは、異なっていてもよいし、同じであってもよい。表面板1および裏面板2の厚みが0.2mm以上であると、単板3の表面を化粧材として被覆する機能が効果的に得られ、より優れた外観が得られる。また、表面板1および裏面板2の厚みが0.2mm以上であると、表面板1および裏面板2が接着剤4とともに単板3を補強し、単板3の変形を防止する機能が効果的に得られ、表板10の形状安定性が向上する。また、表面板1および裏面板2の厚みが、1.0mm以下であると、単板3の厚みを十分に確保でき、凹部34の深さ分布によって調整できる表板10の厚み範囲を充分に確保できる。
また、表面板1の厚みは、0.3mm以上であることがより好ましい。この場合、積層板11の表面の削り代を充分に確保できる。したがって、例えば、スクレーバーなどを用いて、積層板11の表面を削ることにより、表板10の厚み分布を微調整したり、表板10の表面に凹凸が存在する場合にこれを取り除いたりしても、単板3の表面が露出してしまうことを防止できる。また、表面板1の厚みが0.3mm以上であると、単板3に形成されている凹部34に起因する段差が、表板10の表面に引き継がれて凸部を形成することを防止でき、好ましい。
接着剤4としては、水や有機溶媒などの溶媒を含まないものを用いることが好ましい。具体的には、溶媒を含まない接着剤4として、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、フェノール系接着剤などが挙げられる。接着剤4として溶媒を含まないものを用いることで、積層板11を製造する際に、接着剤4が表面板1および/または裏面板2に染みこむことにより、表面板1および/または裏面板2が変形することを防止できる。したがって、積層板11の厚み分布をより高精度で制御できる。
(製造方法)
本実施形態においては、本発明の弦楽器用板材の製造方法の一例として、図1(a)および図1(b)に示すバイオリンの表板の製造方法を例に挙げて説明する。
図1(a)および図1(b)に示す表板10を製造するには、まず、凹部34を有する単板3(図2参照)を用意する。そして、表面板1と、単板3と、裏面板2とを下から順に接着剤4を介して積層し、図3に示す積層体10aとする。
図2は、図1に示す表板に用いられる単板の形状を説明するための斜視図である。図3は、図1に示す表板を製造する際に形成した積層板を示した断面図である。図3は、図2に示すB−B’に対応する断面図である。
図2に示す単板3は、図1(b)に示す表板10の外形形状よりも大きいものである。単板3には、単板3の肉厚を部分的に小さくする凹部34が形成されている。凹部34は、図2および図3に示すように、底面の深さが段階的に異なるものである。凹部34は、単板3となる単板材を、所定の深さおよび平面形状で削り出す方法などにより形成できる。
凹部34の底面には、図2および図3に示すように、深さの異なる第1底面31と第2底面32と第3底面33とが形成されている。第1底面31、第2底面32、第3底面33は平坦面となっており、各底面の境界部分には段差が形成されている。凹部34において、図1(a)に示す表板10の肉薄部14と平面視で重なる領域には、最も深さの深い第1底面31が設けられている。また、平面視で肉薄部14および中央部分12と重なる領域には、第1底面31の次に深さの深い第2底面32が設けられている。また、第2底面32の外縁を取り囲むように、最も深さの浅い第3底面33が設けられている。
図3に示す積層体10aを形成するために、表面板1、単板3、裏面板2を積層する際には、表面板1、単板3、裏面板2の繊維の方向は、それぞれ異なっていてもよいし、全て同じであってもよい。表板10の振動板としての機能を考慮すると、表面板1、単板3、裏面板2の繊維の方向は、全て表板10の長さ方向に揃えることが好ましい。特に、表板10の振動板としての機能を考慮すると、単板3として柾目材を用い、単板3の繊維の方向が、表板10の長さ方向となるように配置することが好ましい。また、表面板1の繊維の方向は、表板10の外観を考慮すると、表板10の長さ方向にすることが好ましい。また、表面板1、単板3、裏面板2のうち一部の繊維の方向、例えば裏面板2の繊維の方向を、表板10の強度や形状安定性を考慮して、表板10の幅方向としてもよい。
接着剤4としては、上述したように、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、フェノール系接着剤などの溶媒を含まないものを用いることが好ましい。接着剤4としては、熱融着するシート状のものを用いてもよい。
次に、図3に示す積層体10aを一方の面側に凸状に湾曲させる。本実施形態においては、図3に示す積層体10aを金型のキャビティ内に設置し、積層体10aを曲げ加工することにより湾曲させる。金型としては、キャビティの内面形状が、表板10の断面形状に対応する形状を有しているものを用いる。このような金型を用いて、凹部34が形成されている単板3を含む積層体10aを曲げ加工することにより、密度のばらつきが小さく、肉厚が部分的に異なり、一方の面側に凸状に湾曲されたむくり形状を有する積層板11が得られる。
曲げ加工は、表面板1、単板3、裏面板2に圧縮応力が付与されない条件で行うことが好ましい。このことにより、積層板11の密度は、表面板1、単板3、裏面板2を形成している木材本来の密度と近似した均一な密度を有するものとなる。その結果、製造後の表板10の変形をより効果的に抑制できるとともに、木材本来の優れた音響特性を有する表板10を製造できる。
また、曲げ加工の温度条件は、特に限定されるものではなく、使用する接着剤4の種類等に応じて適宜決定できる。例えば、接着剤4として熱硬化するものを用いた場合には、所定の温度に加熱しながら曲げ加工を行って、曲げ加工と同時に接着剤4を硬化させることが好ましい。
続いて、湾曲された積層板11を、単板3の凹部34の輪郭よりも平面視で外側に位置する表板10の外形線(不図示)に沿って、鋸などを用いて切断し、図1(b)に示す所定の外形形状を有する表板10を切り出す。
その後、必要に応じて、スクレーバーなどを用いて、積層板11の表面を削ることにより、表板10の厚み分布を微調整したり、表板10の表面に凹凸が存在する場合にこれを取り除いたりする仕上げ工程を行ってもよい。
以上の工程により、図1(a)および図1(b)に示す表板10が得られる。
図1(a)に示す表板10は、肉厚を部分的に小さくする凹部34を有する単板3が一方の面側に凸状に湾曲されてなるものである。したがって、肉厚が部分的に異なるものとするために、木材を部分的に圧縮する必要はない。このため、密度のばらつきが小さい表板10となる。よって、図1(a)に示す表板10は、これを用いたバイオリンの演奏時に、バイオリン属特有の振動が得られるものであり、優れた音響特性を有する。
また、図1(a)に示す表板10は、肉厚が部分的に異なるものとするために、木材を部分的に圧縮する必要はない。このため、圧縮された木材の復元力によって、厚み分布や湾曲形状が変化することはない。したがって、図1(a)に示す表板10は、板材をプレス曲げ加工して形成した従来の表板および裏板と比較して、形状安定性に優れている。
しかも、図1(a)に示す表板10では、表面板1と単板3と裏面板2とが接着剤4を介して積層されており、表面板1と単板3と裏面板2とが接着剤4で固定されている。このため、表板10の変形が抑制される。
また、図1(a)に示す表板10は、凹部34を有する単板3が一方の面側に凸状に湾曲されてなるものである。したがって、単板3が湾曲されることによって得られる変形分を、削り出して形成する場合と比較して、少ない削り工数で製造できる。よって、図1(a)に示す表板10は、ブロック状の木材を削り出して製造したものと比較して、効率よく製造できるし、素材の歩留まりも向上する。
また、図1(a)に示す表板10では、単板3の一方の面に、接着剤4を介して化粧材としての表面板1が積層されている。したがって、表面板1として、意匠性に優れた材料を用いることで、良好な外観が得られる。
また、図1(a)に示す表板10の製造方法は、肉厚を部分的に小さくする凹部34を有する単板を一方の面側に凸状に湾曲させる工程を含む方法である。したがって、木材を部分的に圧縮することなく、肉厚が部分的に異なり、密度のばらつきが小さい表板10が得られる。また、図1(a)に示す表板10の製造方法によれば、単板を湾曲させることによって得られる変形分を、削り出して形成する場合と比較して、少ない削り工数で効率よく製造できる。
「第2実施形態」
本実施形態においては、本発明の弦楽器用板材の一例として、バイオリンの裏板を例に挙げて説明する。
本実施形態に係るバイオリンの裏板が、上述した図1(a)に示す第1実施形態の表板10と異なるところは、単板の凹部の深さ分布および形状が、裏板としての機能を考慮した所定の厚み分布に応じて決定されているところと、表面板、裏面板、単板を形成している単板の材料として、メープルを用いることが好ましいことである。
本実施形態の裏板では、表面板、裏面板、単板の全てをメープルからなるものとすることが、より好ましい。表面板、裏面板、単板の材料の全てをメープルからなるものとすることで、裏板としてより優れた機能が得られ、これを用いたバイオリンの音質がより良好なものとなる。また、本実施形態の裏板では、表面板を形成している単板の材料として、杢のあるメープル材を用いることで、より良好な外観が得られる。
本実施形態のバイオリンの裏板は、上述した第1実施形態の表板10と同様にして製造できる。
また、本実施形態の裏板によれば、上述した第1実施形態の表板10と同様の効果が得られる。すなわち、本実施形態の裏板は、効率よく製造でき、素材の歩留まりが高いものである。しかも、本実施形態の裏板は、密度のばらつきが小さく、肉厚が部分的に異なり、一方の面側に凸状に湾曲された形状を有し、形状安定性に優れ、良好な外観を有し、優れた音響特性が得られる
「弦楽器」
本実施形態においては、本発明の弦楽器の一例として、バイオリンを例に挙げて説明する。図4は、本発明の弦楽器の一例であるバイオリンを示した側面図である。
図4において、符号50はバイオリンを示し、符号10は表板を示し、符号20は裏板を示し、符号30は側板を示し、符号40はネックを示している。
図4に示すバイオリン50では、表板10として、第1実施形態のバイオリンの表板を用いている。図4に示す表板10は、第1実施形態の表板10の所定の位置にf字孔(不図示)を形成したものである。
図4に示すバイオリン50では、裏板20として、第2実施形態のバイオリンの裏板を用いている。
図4に示すバイオリン50は、表板10として第1実施形態のものを用い、裏板20として第2実施形態のものを用いて、従来公知の方法で製造できる。
具体的には、例えば、裏板20と側板30とをニカワなどの接着剤を用いて接合する。次いで、側板30と表板10とをニカワなどの接着剤を用いて接合してボディを形成する。その後、ボディにネック40を取り付け、表面にニスを塗る。次いで、指板を接着し、魂柱を立てる。その後、駒を設置し、弦を張る。
以上の工程により、図4に示すバイオリン50が得られる。
図4に示すバイオリン50は、表板10として第1実施形態のものを用い、裏板20として第2実施形態のものを用いているので、良好な外観を有し、音質の良好なものとなる。また、図4に示すバイオリン50は、表板10および裏板20の変形による破損が生じにくいものであるため、長期にわたって使用できる。
「他の例」
本発明の弦楽器および弦楽器用板材は、上述した実施形態に限定されるものではない。
例えば、本発明の弦楽器は、バイオリンに限定されるものではなく、バイオリン属であるビオラ、チェロ、コントラバスであってもよい。また、本発明は、肉厚が部分的に異なり、一方の面側に凸状に湾曲されたむくり形状を有する表板および/または裏板を備えたギターなどの弦楽器にも用いることができる。
上述した実施形態においては、単板の凹部の底面に、深さの異なる底面が3段階で形成されている場合を例に挙げて説明したが、底面は連続した曲面であってもよい。また、深さの異なる底面の深さの段階数は限定されるものではなく、2段であってもよいし、上述した実施形態のように3段であってもよいし、4段以上であってもよい。
また、実施形態においては、深さの異なる底面の境界部分には段差が形成されていたが、底面の境界部分に段差を緩和する傾斜面を形成してもよい。
また、図1(a)に示す表板10では、単板3の凹部34を単板3の一方の面に1つ形成したが、凹部は単板の両面に形成してもよいし、凹部は複数であってもよい。
また、図1(a)に示す表板10では、表面板1および裏面板2を有する場合を例に挙げて説明したが、表面板1および/または裏面板2はなくてもよい。また、表面板1および/または裏面板2は、それぞれ2枚以上であってもよい。
弦楽器用板材が表板であって表面板がない場合、単板は、より良好な外観および音質が得られるように、柾目のスプルース材を用いて形成することが好ましい。弦楽器用板材が裏板であって表面板がない場合、単板は、より良好な外観および音質が得られるように、杢のあるメープル材を用いて形成することが好ましい。
また、表面板がない場合、単板は、2枚の単板の端面を表板または裏板の長さ方向中央部で対向させて接ぐことによって、一体化された連続した平面を有するものであってもよい。
1 表面板、2 裏面板、3 単板、3a 表面、3b 裏面、10 表板(弦楽器用板材)、11 積層板、12 中央部分、13 周縁部、14 肉薄部、31 第1底面、32 第2底面、33 第3底面、34 凹部、20 裏板、30 側板、40 ネック、50 バイオリン。

Claims (6)

  1. 弦楽器の表板または裏板を構成する弦楽器用板材であって、
    肉厚を部分的に小さくする凹部が設けられてなる単板からなり、
    前記単板が一方の面側に凸状に湾曲されていることを特徴とする弦楽器用板材。
  2. 前記単板の繊維の延在方向が、前記単板の前記湾曲形状に沿う方向に揃えられていることを特徴とする請求項1に記載の弦楽器用板材。
  3. 前記単板の一方の面または両面に、接着剤を介して化粧材が積層されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の弦楽器用板材。
  4. 弦楽器の表板または裏板を構成する弦楽器用板材の製造方法であって、
    肉厚を部分的に小さくする凹部を有する単板を用意し、前記単板を一方の面側に凸状に湾曲させる工程を含むことを特徴とする弦楽器用板材の製造方法。
  5. 前記単板の一方の面または両面に、接着剤を介して化粧材を積層してから、前記単板を一方の面側に凸状に湾曲させることを特徴とする請求項4に記載の弦楽器用板材の製造方法。
  6. 請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の弦楽器用板材を備えることを特徴とする弦楽器。
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