以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。なお本発明の説明の順番であるが、その前提として一般的なモータ制御システムの構成と、このシステムの負荷変動に起因する振動や騒音の問題について明らかにしておく。この説明を図1から図12を用いて行い、具体的な本発明の実施例の説明は以降の図13から図28を用いておこなうことにする。
図1に本発明を適用可能な一般的なモータ制御装置の全体構成例を示している。
この図に示されているように、モータ制御システムでは、モータ制御装置1が与える交流の電圧または電流により、電動機6を所望の速度やトルクに制御し、電動機6に結合された負荷9を回転駆動する。
この場合、駆動される側の電動機6としては種々のものが適用可能である。本発明は電動機6の動作原理を限定するものではないが、以下の説明では、電動機6は回転子に永久磁石を有する永久磁石同期モータを用いた例で行うものとする。
また本発明の場合に、電動機6により駆動される負荷9は、例えば回転ロータリー型の圧縮機構であり、その負荷トルクの変動は図4に示す傾向を示すものに適用して好適である。本発明はレシプロ型の圧縮機に適用することも可能であるが、ここでは回転ロータリー型の圧縮機構の例で説明を続ける。なお図4の回転ロータリー型の圧縮機構の負荷特性は、機械角1周期内での負荷トルクの変動が急増後に漸減する傾向を示す。回転ロータリー型の圧縮機構では、この期間内で負荷トルクはトルク方向が一定(正負の変動をしない)であるが、レシプロ型の圧縮機構の場合には減少後に負トルクになることがある。本発明は、負荷トルクの変動が急増する部分を改善するものなので、上記圧縮機構の種別を問わず採用可能である。
図1に示したモータ制御装置1の機能を大別して示すと、モータ制御装置1は、出力電圧指令値を出力する制御部2と、直流電圧源を用いて交流電圧を出力する電力変換回路5と、電動機6あるいは電力変換回路5に流れる電流を検出する電流検出手段7から構成される。なお電力変換回路5の詳細な回路構成例が図2に示され、負荷9として回転ロータリー型圧縮機の事例が図3、図4に示され、制御部2の具体的な回路構成例が図8に示されている。
まず図2を参照して電力変換回路の構成例を説明する。
電力変換回路5は、図2に示すように、インバータ21、直流電圧源20、ゲートドライバ回路23を主たる構成機器として構成されている。インバータ21は、スイッチング素子22(例えば、IGBTやMOS−FETなどの半導体スイッチング素子)によって構成される。これらのスイッチング素子22(22a〜22f)は、2組のスイッチング素子22が直列に接続されて各相の上下アームを構成しており、図の例では22aと22bによりU相、22cと22dによりV相、22eと22fによりW相の上下アームを構成している。
各相の上下アームの接続点は、電動機6へ配線されている。スイッチング素子22(22a〜22f)は、図1の制御部2で生成される3相交流電圧指令値を基に、ゲートドライバ回路23が出力するパルス状のドライブ信号(24a〜24f)に応じてスイッチング動作をする。直流電圧源20をスイッチングして電圧を出力することで、任意の周波数の3相交流電圧を電動機6に印加することができ、これによって電動機を可変速駆動することができる。
なお電力変換回路5の直流側にシャント抵抗25を付加した場合、過大な電流が流れた際にスイッチング素子22を保護するための過電流保護回路や、後述するシングルシャント電流検出方式などに利用できる。
また図2には、図1に示した電流検出手段7の具体的な実現事例が示されている。図2に示す電流検出手段7は、電動機6または電力変換回路5に流れる3相の交流電流の内、U相とW相に流れる電流を検出する。全相の交流電流を検出しても構わないが、キルヒホッフの法則から、3相のうち2相が検出できれば、他の1相は検出した2相から算出できる。
電動機6または電力変換回路5に流れる交流電流を検出する別方式として、例えば、電力変換回路5の直流側に付加されたシャント抵抗25に流れる直流電流から、電力変換回路5の交流側の電流を検出するシングルシャント電流検出方式がある。この方式は、電力変換回路5を構成するスイッチング素子の通電状態によって、電力変換回路5の各相の交流電流と同等の電流がシャント抵抗25に流れることを利用している。シャント抵抗25に流れる電流は時間的に変化するため、ドライブ信号(24a〜24f)が変化するタイミングを基準に適切なタイミングで電流検出する必要がある。図示はしていないが、電流検出手段7に、シングルシャント電流検出方式を用いてもよい。
本発明では、電動機6や負荷9などの機械部分において生じる振動や騒音の問題を解消するものであり、そのために負荷9における具体的な課題を明確にしておく。ここでは、負荷9として使用する圧縮機構について説明する。
図3は本発明を適用するに好適な負荷の事例として回転ロータリー型圧縮機構部を示している。
図3において、下側は回転ロータリー型圧縮機構部の側断面図を示し、上側は側断面図のA−A断面における圧縮機後部の上断面図を示している。側断面図に示すように、圧縮機構部500は電動機6のシャフト502により回転駆動されている。圧縮機構部500は、密閉容器511の内部のシリンダ504内に、電動機6のシャフト502からクランクシャフト503を介して、偏心して接続されたロータリーピストン501を備えている。また上断面図にA−A断面を示すように円筒状のシリンダ504内には偏心回転するロータリーピストン501と、ベーン506を備えており、吸込み口505と吐出口507が形成されている。
上記構成により圧縮機構部500では、電動機6を動力源としてロータリーピストン501を偏心駆動しており、これにより圧縮機としての吸込み、圧縮、吐出、といった一連の工程を行う。なお、電動機6とロータリーピストン501の間の動力伝達は、図3の様に機械的に接続することが多いが、潤滑油の給油の構成や、圧縮あるいは搬送対象(例えば有害ガス)によっては、磁気的に接続された機構を含むことで、安全性やメンテナンス性を上げられるという効果がある。
図3の具体的な圧縮機構の工程では、まずシリンダ504に設けられた吸込み口505から冷媒を吸い込む。その後、電動機6の回転によりロータリーピストン501が回転し、ベーン506の左側の容積が小さくなることで冷媒が圧縮される。さらにロータリーピストン501が回転し、上部に戻るあたりで吐出口507から圧縮した冷媒を吐出する。
吸込み、圧縮、吐出、といった一連の工程において、ロータリーピストン501にかかる圧力が変化する。圧力変化を、ロータリーピストンの駆動電動機6から見ると、周期的に負荷トルクが変化していることを意味する。
図4は、機械角1回転における、回転子の回転角度位置θdに対する負荷トルクの変化の例を示している。
図4の特性では、横軸に圧縮機機械軸の1周期(0度から360度)を示し、縦軸に負荷トルクの大きさを示している。但し、ここでは、電動機6として4極電動機の例を示しているため、電気角2周期が機械角1周期に相当する。従って例えば、電動機6が6極の場合は、電気角3周期が機械角1周期に相当することになる。また回転子の位置とピストンとの位置関係は組み付けによって決まるが、図4ではロータリーピストン501が上部にある位置を0°として、ピストン位置に対する負荷トルクの変化を示している。
この図示によれば、圧縮工程が進むにつれ負荷トルクが急激に大きくなり、吐出工程では、負荷トルクが小さくなっており、1回転中において負荷トルクが変動している事が分かる。また回転する度に回転角度位置に応じて負荷トルクが変動するため、電動機6から見ると周期的に負荷トルクが変動していることになる。
つまり図4のパターンのトルク変化が、電動機の回転の都度生じていることになる。但し、例え同じ圧縮機構部500を用いても、電動機6の回転数、吸込み口505や吐出口507の圧力、吸込み口505と吐出口507の圧力差などによって、負荷トルクのピーク値や、ピーク値となる回転角度位置は変化する。
図4は、回転ロータリー型圧縮機の負荷トルク変動を示しているが、レシプロタイプ圧縮機の負荷トルク変動では、後半の負荷トルク減少において、一時負トルクとなる点で相違している。本発明が適用される負荷は、その負荷トルクが図4の前半の急増特性を有するものであればよい。図4の負荷トルクの形状の特徴をごく簡単に表現すると、これは機械角1周期内での負荷トルクの変動が急増後に漸減する傾向を示し、かつこの期間内において負荷トルクはトルク方向が一定(正負の変動をしない)である。この点について、往復動により駆動されるレシプロ型の圧縮機では、その後半において負荷トルクが過渡的に負の値を示す。本発明が適用される負荷は、機械角1周期内においてその圧縮時に負荷トルクが急増するものが対象であり、本発明ではこの部分の改善を図る。したがって、後半部分で負トルクとなるか、否かは問題としていない。
図3の圧縮機構において、負荷トルク変動と電動機6の発生トルクに差が生じると、振動や騒音の原因となる。特に、前述のように負荷トルクの変動が大きい場合は、制御部2の構成によっては、電動機(モータ)6に流れる電流に跳ね上りが生じたり、電動機6の回転速度変動が生じたりする恐れがある。この結果、振動や騒音が発生する場合もある。そのため、負荷トルク変動を考慮して制御部2を構成する必要がある。
したがって、本願の目的の一つは、周期的な負荷変動を抑制し電動機の騒音や振動を低減可能なモータ制御装置を提供することである。
目的の達成のために重要なことは、負荷トルク変動と電動機6の発生トルクを一致させることであり、以下、そのために必要なモータ制御装置1の構成について説明する。
モータ制御装置の説明を行うに当たり、最初に軸の定義を明確にしておく。ここでは、永久磁石同期モータを用いているためにモータ制御装置1で検出、推定、あるいは仮定する制御軸の回転角度位置と、実際の回転子の回転角度位置は、基本的に同期しているとして説明する。但し実際には、加減速時や負荷変動時等の過渡状態において、制御軸の位置と回転子の位置にズレ(軸誤差)が生じる場合がある。軸誤差が生じた場合、電動機6が実際に発生するトルクが減少したり、電動機6に流れる電流に歪みや跳ね上がりが生じたりすることもある。
モータ制御装置1内における処理では、電動機6の回転子の回転角度位置情報を利用する。この点について、本実施例では、回転子の回転角度位置情報は、電動機6に流れる電流および電動機6への印加電圧を入力し電動機6の推定回転角度位置を出力する位置推定手段を用いた位置センサレス制御によって得るものとする。
図5は、モータ制御装置1で検出、推定、あるいは仮定する制御軸の回転角度位置と実際の回転子の回転角度位置の関係を示す図である。
図5において、回転子の永久磁石の主磁束方向の位置をd軸とし、d軸から回転方向に電気的に90度(電気角90度)進んだq軸とからなるd−q軸を定義する。このd−q軸は回転座標系である。
また図5において、回転子の回転角度位置θdは、d軸の位相を示す。このd−q軸(回転座標系)に対し、制御上の仮想回転子位置をdc軸とし、そこから回転方向に電気的に90度進んだqc軸とからなるdc−qc軸を定義する。dc−qc軸も回転座標系である。
本実施例では、この回転座標系である制御軸上で電圧や電流を制御することを基本として説明しているが、電圧の振幅と位相を調整して電動機を制御することも可能である。これらの座標軸の関係が図5に示されている。なお、これ以降の説明において、d−q軸を実軸、dc−qc軸を制御軸、実軸と制御軸のズレである誤差角を軸誤差Δθcと呼ぶ。
図6は、固定座標系である3相軸と回転座標系である制御軸(dc−qc軸)との関係を示した図である。
図6では例えばU相を基準に、dc軸の回転角度位置(推定磁極位置)をθdcと定義する。dc軸は図中の円弧状矢印の方向(反時計方向)に回転している。そのため、回転周波数(後に示す、インバータ周波数指令値ω1)を積分することで、推定磁極位置θdcを得られる。
以上、図5、図6により本発明で使用する軸の定義を明確にした。図1に戻り、電動機6に与える交流の電圧または電流を決定するモータ制御装置1内の制御部2について前記軸の定義に従い詳細に説明する。
図1の制御部2は、モータ制御装置1に接続される負荷9の回転速度を一定に制御するためのトルク電流指令値を作成するトルク電流指令値作成器10と、脈動負荷を抑制するための脈動トルク電流指令値作成器11と、脈動トルク推定器16と、トルク電流指令値作成器10や脈動トルク電流指令値作成器11等の値を基に電力変換回路5の出力電圧値を作成する電圧指令値作成器3と、電圧指令値作成器3で作成した出力電圧指令値を基に電力変換回路5を駆動するドライブ信号を作成するPWM信号作成器33から構成されている。
制御部2における演算結果を受けて、モータ制御装置1は、機械角1周期もしくは機械角1周期の整数倍で負荷が変動する機構部を駆動する電動機6が所望の動作をするように制御する。
制御部2の各構成要素の動作について、以下説明する。なお、モータ制御装置1内の制御部2において、脈動トルク電流指令値作成器11と脈動トルク推定器16は本発明により追加設置されたものである。この説明に入る前に、周辺部分の機能や動作を明らかにしておく。
最初に、電圧指令値作成器3とPWM信号作成器33についてその概略を説明する。なお詳細説明は図を用いて後述する。電圧指令値作成器3は、後述するトルク電流指令値作成器10や電圧抑制指令値作成器11の出力である電流指令値を入力し、電動機に印加する3相の正弦波状の電圧指令値を出力する。電圧指令値作成器3のより具体的な構成例とその動作については、図8などを用いて後述する。
PWM信号作成器33は、電圧指令値作成器3で得られた3相の正弦波状の電圧指令値と、例えばキャリア信号として三角波の比較により、電力変換回路5に与えるドライブ信号を作成する。
図7は、電圧指令値と三角波信号とドライブ信号の関係を示す図である。
図7は、電気角360度期間における、1相分の電圧指令値と、三角波キャリア信号と、その結果生成されるドライブ信号Gp、Gnの関係を示している。電圧指令値と三角波キャリア信号を比較し、大小関係により上アームのドライブ信号Gpおよび下アームのドライブ信号Gnを生成する。
なおゲートドライバ回路やスイッチング素子自体の遅れに起因して、上下アームのスイッチング素子が短絡する恐れがあるため、実際には上下アームの両方がスイッチングオフとなるデッドタイム(数マイクロ秒〜十数マイクロ秒程度)を付加して最終的なドライブ信号とする。しかしながら、デッドタイムに関しては本願の目的や効果には全く影響が無いため、本明細書においては理想的なドライブ信号を示している。もちろん、デッドタイムを付加した構成としてもよい。
図8は、図1の制御部の具体的な構成例を示している。
以下、図8を参照して、制御部2の構成要素について詳細に説明する。ここでは、電動機6を駆動する際の基本動作について説明し、その後、圧縮機構など周期的な負荷トルク変動がある場合の課題についてより明確にする。
制御部2は、図8に示すように、3相軸上の交流電流検出値(IuおよびIw)を制御軸上の電流値(IdcおよびIqc)に座標変換する3φ/dq変換器8、制御軸上の電流検出値(IdcおよびIqc)および電動機に印加する電圧指令値(Vd*およびVq*)を用いて実軸と制御軸との軸誤差Δθc(図5に図示)を演算する軸誤差演算器12と、軸誤差Δθcを軸誤差指令値Δθ*(通常はゼロ)に追従させるために電動機6に印加する電圧の周波数(インバータ周波数指令値ω1)を調整するPLL制御器13と、モータ制御装置に接続される負荷9の平均値および周期的に変動する値に応じたトルク電流指令値を作成するトルク電流指令値作成器10と、電圧抑制指令値作成器11と、電圧指令値演算手段34と、dc−qc軸上の電圧指令値(Vd*およびVq*)を制御軸から3相軸へ座標変換するdq/3φ変換器4などから構成される。
なお、図を見やすくするために、一部の信号線は結線していない。同じ記号で示した線(例えば、インバータ周波数指令値ω1)は結線されているのと等価である。
制御部2の多くは、マイコン(マイクロコンピュータ)やDSPなどの半導体集積回路(演算制御手段)によって構成され、ソフトウェアなどで実現している。
駆動方法(基本動作)について説明する。先に述べたように電動機6は例えば永久磁石モータであり、これを駆動するために、前述の通りdc−qc軸(回転座標系)で制御する。回転座標軸上で制御するために3相交流軸から座標変換する必要があるが、回転座標上では電圧や電流を直流量として扱えるという利点がある。
そのため3φ/dq変換器8では、磁極位置θdcを用いて、電流検出手段7で検出した3相交流軸のモータ電流検出値をdc−qc軸に座標変換し、d軸およびq軸の電流検出値(IdcおよびIqc)を得る。
同様にdq/3φ変換器4では、磁極位置θdcを用いて、電圧指令値演算手段34で生成したdc−qc軸上の電圧指令値を3相交流電圧指令値(Vu*、Vv*、Vw*)に座標変換する。
このように、回転座標軸で電動機に流れる電流を界磁成分とトルク成分に分離し、電動機の回転速度あるいはトルクを制御するために、電圧の位相と大きさを制御することを一般的にベクトル制御と呼んでいる。
図9は、電圧指令値演算手段の構成例を示した図である。
電圧指令値演算手段34としては、例えば特開2005−39912号公報に記載の構成がある。これを用いた場合の電圧指令値演算手段34の構成例が図9である。
図9の電圧指令値演算手段34では、上位制御系などから得られるd軸およびq軸電流指令値(Id*およびIq*)と、回転角速度指令値ω*または後述するインバータ周波数指令値ω1を入力し、(1)式、(2)式の様にベクトル演算を行い、d軸電圧指令値Vd*とq軸電圧指令値Vq*を得る。
なお(1)式と(2)式で、Rは電動機6の1相あたりの巻線抵抗値、Ldはd軸のインダクタンス、Lqはq軸のインダクタンス、Keは誘起電圧定数である。
図9は、(1)式と(2)式を実現するための機能ブロックである。この機能ブロック図では、最初に(1)式と(2)式で使用するd軸電流指令値Id**およびq軸電流指令値Iq**をd軸電流制御器14aおよびq軸電流制御器14bで演算している。
図9のd軸電流制御器14aおよびq軸電流制御器14bは、比例器92c、92d、92e、92f、積分器94c、94d、加算器90b、90cで構成されたいわゆる比例積分演算器を構成しており、電流偏差の比例積分演算により、d軸電流指令値Id**およびq軸電流指令値Iq**を算出している。ここでは、減算器91で電流指令値(Id*およびIq*)とその検出値(IdcおよびIqc)の差分を求め、比例器92で差分に所定のゲインを付加し、積分器94で差分を積分し、加算器90で比例分と積分分を加算して比例積分値を求める。この出力がd軸およびq軸電流指令値(Id**およびIq**)である。
Id**およびIq**には乗算器92g、92iにおいて電動機6の1相あたりの巻線抵抗値Rが乗算されて、(1)式と(2)式の右辺の第1項が求められる。
(1)式と(2)式右辺第2項のd軸およびq軸電流指令値(Idf**およびIqf**)は、q軸およびd軸電流指令値(Iq**およびId**)を図9のフィルタ回路98a、98bでフィルタリングして得た値である。Idf**およびIqf**に対しては乗算器92h、92jにおいてq軸のインダクタンスLq、d軸のインダクタンスLdがそれぞれ乗算されるとともに、インバータ周波数指令値ω1も合わせて乗算して(1)式と(2)式右辺の第2項を求める。さらに乗算器92kでは、インバータ周波数指令値ω1にd軸のインダクタンスLdを乗算して(2)式右辺の第3項を求める。
減算器91fでは、乗算器92gの出力から、乗算器92hの出力を差し引くことで、(1)式のd軸電圧指令値Vd*を得る。加算器90dでは、乗算器92iの出力と、乗算器92jの出力と、乗算器92kの出力の和を求めることで、(2)式のq軸電圧指令値Vq*を得る。
図9の回路構成例では、電圧指令値演算手段34の中に、電流制御器14aおよび14bが電圧演算に直列に入っている点、電動機の電気時定数相当の遮断周波数を有する一次遅れフィルタ(低域通過フィルタ)98aおよび98bがある点が特長である。これらによって電動機の逆モデルを成立させているため、制御部2の演算周期に制約がある場合においても理想的なベクトル制御を実現できる効果がある。
ここでd軸電流指令値について説明する。本実施例の電動機6は、非突極型の永久磁石モータとして説明している。すなわち、d軸とq軸のインダクタンス値は同じである。つまり、d軸とq軸のインダクタンスの差によって発生するリラクタンストルクは考慮していない。したがって、電動機6の発生トルクはq軸を流れる電流に比例する。そのため、本実施例においては、d軸電流指令値Id*はゼロを設定している。
なお、突極型(d軸とq軸のインダクタンスの差がある場合。)の場合は、q軸電流によるトルクの他に、d軸とq軸のインダクタンスの差に起因するリラクタンストルクがある。そのため、リラクタンストルクを考慮してd軸電流指令値Id*を設定することで、同じトルクを小さいq軸電流で発生できる。つまり、消費エネルギー削減の効果がある。
次に位置推定について説明する。前述のように本実施例では、回転子の回転角度位置情報は、電動機に流れる電流および電動機への印加電圧を入力し電動機の推定回転角度位置を出力する位置推定手段40を用いた位置センサレス制御によって得るものとしている。
ただし、電動機の回転角度位置は直接的に推定するのではなく、実軸と制御軸のズレである誤差角(軸誤差Δθc)を推定し、それをゼロに制御することにより、間接的に推定する。
図8の制御部2の構成において、軸誤差演算器12は制御軸上の電流検出値(IdcおよびIqc)および電動機に印加する電圧指令値(Vd*およびVq*)を用いて、(3)式により実軸と制御軸との軸誤差Δθcを演算する。
図10は、PLL制御器の構成例を示している。
PLL制御器13は、軸誤差Δθcが軸誤差指令値Δθ*(通常はゼロ)になるようにインバータ周波数指令値ω1を調整している。軸誤差指令値Δθ*と軸誤差Δθcの差を減算器91aで求め、この誤差に比例ゲインを乗じて比例分を求める比例演算部92aの演算結果と、この誤差に積分ゲインを乗じてから積分制御する積分演算部93a(比例器92bと積分器94bで構成)の演算結果とを加算器90cで加算し、インバータ周波数指令値ω1を出力する。
図8のPLL制御器13の後段に設けた積分器94aによりインバータ周波数指令値ω1を積分する。速度を積分すると位置になるため、同様に、インバータ周波数指令値ω1を積分することで、推定磁極位置θdcを得られる。
負荷トルクの変動が大きい場合の駆動方法について説明する。q軸電流指令値は、上位制御系などから得てもよいと前述したが、本実施例では、速度制御器を用いて回転速度を一定に制御するためのq軸電流指令値を得る構成について説明する。
図11は、速度制御器15の構成例を示す図である。
図11の速度制御器15では、周波数指令値ω*とインバータ周波数指令値ω1の差を減算器91gで求め、これに比例ゲインKp_asrを乗じて比例制御する比例演算部92gの演算結果と、比例器92hで積分ゲインKi_asrを乗じてから積分する積分器94eの演算結果とを加算器90eで加算し、q軸電流指令値Iq*を出力する。
通常、上位制御系等から与えられる周波数指令値ω*は、インバータ周波数指令値ω1に比べると変化の周期は非常に長く、電動機の一回転中においては一定値と見ても良い。
そのため、速度制御器によって、電動機はほぼ一定周波数で回転する。この時、インバータ周波数指令値ω1を積分することで得られる磁極位置θdcは、ほぼ一様に増加する。
図12は、圧縮機駆動時の波形の例として、上記の制御構成を用いて数値解析した結果を示した図である。
図12を用いて、駆動波形の例を説明する。図12では、横軸に時間をとり、縦軸にトルク(p.u)としてモータトルクと負荷トルクを示し、周波数(Hz)として周波数指令値とインバータ周波数指令値を示し、電流としてq軸電流指令値とU相モータ電流を図示している。ここで横軸の時間目盛は、図4で示した機械角1周期が0.04秒の例を示している。
この比較事例によれば、上段のトルク(p.u)は、機械角1周期内での不一致を生じている。モータトルクがこの周期内でほぼ正弦波状に変動して繰り返すのに対し、負荷トルクは前半周期での急増後、後半周期ではやや緩やかな減少を繰り返しており、周期内でのトルク不一致が際立っている。但し回転ロータリー型の圧縮機構の例を示しているので、負荷トルクは負になることはない。2段目の周波数は、周波数指令値が一定であっても、インバータ周波数指令値は正弦波状の変動を繰り返す。また下2段の電流はq軸電流指令値もU相モータ電流値も脈動している。
図12の結果から、1回転中における負荷トルクが変動することによって、モータ発生トルク、電動機の実周波数(電動機の回転数)、電動機に流れる電流等が脈動することが分かる。これは、図10のPLL制御器13、図9の電流制御器14、図11の速度制御器15等のフィードバック制御器に設定可能な応答周波数に制約があるためである。
例えば、図10のPLL制御器13は、電動機の電気定数(例えば、電動機6の1相あたりの巻線抵抗値Rやq軸のインダクタンスLqなど)によって設定可能な応答周波数が決まり、その値はインバータ周波数が低いほど、低い応答周波数を設定する必要がある。言い換えると、電動機6が低速で回転するほど、PLL制御器13の応答周波数を低く設定する必要がある。
一方、図9の電流制御器14は、制御部2の演算時間の制約によって、設定可能な応答周波数が決まる。つまり、電動機が高速で回転するほど電流制御器14の応答周波数を低く設定する必要がある。
速度制御器15は、通常PLL制御器13や電流制御器14よりも外側の制御ループとなる。そのため他の制御器よりも設定可能な応答周波数を低く設定する必要がある。
このように、図9に示したベクトル制御の構成だけでは、広い運転範囲において周期的な負荷変動を抑制することは難しい場合がある。
以上、一般的なモータ制御システムの構成と、このシステムの負荷変動に起因する振動や騒音の問題について明らかにした。次にこれらの見地を基礎として、本発明の実施例について詳細に説明する。
本発明では、負荷変動対応動作を可能とする駆動方法について説明する。ここまでの図1の説明では省略したが、本発明の目的を実現する手段の1つである、図1の脈動トルク電流指令値作成器11と脈動トルク推定器16について説明する。
図13は、トルク変動が軸誤差として現れる過程を説明するための図である。
図13を用いて、脈動トルク推定器16の前提となる、モータ発生トルクτmと負荷トルクτLの差による軸誤差Δθの発生について説明する。
図1の制御システムによれば、図11に示した速度制御器15により、平均速度は上位制御系等から与えられる指令値と一致する。しかし、瞬時速度としては(4)式のように速度変動Δωが生じる。
ここで、τmは電動機の発生トルク、τLは瞬時負荷トルク、Jは電動機の慣性モーメントである。つまり、モータ発生トルクτmと負荷トルクτLの差によって、速度変動が生じる。速度変動が生じるということは、すなわち位置誤差も生じていることを意味している。
トルク差が軸誤差Δθに至るまでのこれらの現象をブロック線図として示したのが図13である。モータ発生トルクτmと負荷トルクτLの差トルクΔτL(減算器91h)に慣性モーメントJの逆数を掛けて積分(積分器94f)することで、電動機の回転子の回転速度ωr(機械角)が得られる。次いで電動機の回転速度ωr(機械角)に電動機6の極対数(=極数/2)をかける(乗算器92i)ことにより、電動機の回転速度ω1(電気角)が得られる。さらに回転速度ω1(電気角)を積分(積分器94g)することにより、回転子の回転角度位置(θd)が得られる。回転角度位置の指令値(θd*)から回転子の回転角度位置(θd)を減算(減算器91i)することにより、その角度誤差(軸誤差Δθd)が得られる。
図13の模式図のような過程を経て、トルク差が軸誤差Δθに至ると考えることができる。このことは逆に言えば、検知可能な軸誤差Δθからトルク差を推定可能であることを意味している。前述の通り、本実施例では、位置センサレス制御による構成としている。そのため、軸誤差Δθdは直接得られない。そこで、本実施例で検出あるいは推定が可能な値を用いることとする。
図14は、検知可能な軸誤差Δθからトルク差を推定する機能ブロック図を示した図である。
ブロック線図の特徴として、矢印の方向(すなわち、演算方向)を逆にする場合、乗算は除算に、積分は微分に、それぞれ置き換えることで、等価な関係を維持したまま入出力関係を変えることができる。
図14に示したブロック図は、軸誤差から差トルクを得られるように、図13の矢印の方向を逆にし、かつ、本実施例で検出あるいは推定が可能な値を用いるように等価変換した結果である。図14に示したブロック図の演算を行うことにより、軸誤差演算値Δθdcを入力し、差トルク推定値Δτm^を得られる。
つまり、図13の積分器94gを図14では微分器95aに、乗算器92iの逆数を乗算器92jでは与え、かつ図13の積分器94fを図14では微分器95bに変更している。
図15は図14の等価変換手順を纏めて示した図である。周期トルク推定手段16の構成例を示す図である。
図15では、機械角の1周期あるいは複数周期で変化する脈動負荷トルクに注力しているため、図14のブロック図の微分(s)をjωrと置き換えて整理し、脈動トルク推定器16を構成する演算回路92kを得たものである。jは複素数の虚部を示す虚数単位であり、2乗すると(−1)となる。そのため、図14でΔθdcについていた負号が無くなる。このように、図15の脈動トルク推定器16は、図8および(3)式で示した軸誤差演算器12によって得られる軸誤差Δθcを入力し、差トルク推定値Δτm^を出力することができる。
図16は、脈動トルク電流指令値作成器の具体的な構成例を示している。
図15の周期トルク推定手段16により推定された差トルク推定値Δτm^は、図12の最上段に示すモータトルクτmと負荷トルクτLの差分に相当する時間変動成分として求められている。これに対し、図16に示した脈動トルク電流指令値作成器11では、図15の脈動トルク推定器16によって得た差トルク推定値Δτm^を、単相座標変換器32を用いて機械角周波数ωmで回転する座標系に座標変換を行う。
例えば、電動機6の回転子の磁極の数が4極の場合、電気角2周期が機械角1周期に相当する。そのため、周波数指令値ω*(電気角)を電動機6の極対数(=極数/2)で除算すれば、機械角周波数ωmを得られる。
なお、本実施例では、機械角周波数を求めるために周波数指令値ω*を用いているが、インバータ周波数指令値ω1でも構わない。
図16に示した脈動トルク電流指令値作成器11で実施することは、要するに図4に示した負荷トルクの波形を極力忠実に、かつ簡便に再現することである。図16の脈動トルク電流指令値作成器11の具体的な構成と動作の説明に入る前に、ここで実施することの概念を明確にしておく。
図17は、負荷トルク波形の模擬手法を説明するための図である。
図17に点線で示す負荷トルクτmの波形31は、図4の波形を拡大して示したものであり、この波形の特徴は、機械角1周期内での負荷トルクの変動が急増後に漸減する傾向を示していることである。但し図17には回転ロータリー型の圧縮機構の波形を示しているので、この期間内での負荷トルクはトルク方向が一定(正負の変動をしない)である。
本発明では、この負荷トルク波形の最大値と最小値の中間値をゼロ点とする正弦波W1を想定する。想定した正弦波W1は負荷トルクτmの後半の漸減する傾向をよく模擬しているが、負荷トルクτmの前半の急増する傾向を模擬できていない。そこで負荷トルクτmの前半部分に第2高調波形W2を重ねてみる。正弦波W1の前半部分に第2高調波形W2の負の部分を重ねると、負荷トルクτmの急増する波形に近い波形が得られる。但し、第2高調波形W2の1周期波形が負荷トルクτmの再現に貢献するわけではないので、第2高調波形W2を重ね合わせる期間を限定する。この重畳期間をパルス状波形Pにより定める。
図18は、模擬された負荷トルク波形を示した図である。
負荷トルクの模擬を忠実に再現するためには、第2高調波の位相、大きさ、重ね合わせる期間などを調整すればよい。図16の脈動トルク電流指令値作成器11は、負荷トルク波形を機械角上で模擬するためのものであり、この機能は、主に3つの機能ブロックから構成されている。正弦波W1を作成する機能ブロック31と、その前半部分に印可される第2高調波形W2を作成する機能ブロック31aと、正弦波W1に第2高調波形W2を重ね合わせる期間を定めるパルス状波形Pを作成する機能ブロック35である。
なお図16では、機能ブロック31aと機能ブロック35を一体にして高次トルク電流指令値作成器17と呼んでいる。また以降、機能ブロック31、31aを周期変動抑制器と呼ぶことにする。機能ブロック31と31aは、高調波次数が相違する(1と2)のみで基本的には同じ処理を実行している。このため以下の説明では、周期変動抑制器31を主体に説明し、周期変動抑制器31aと相違する部分のみ別途説明することにする。
図16において、まず、図16の上部にある機械角1次成分の脈動トルク電流指令値(Iqs1*)を求める周期変動抑制器31の動作について説明する。なお、周期変動抑制器31と31aは、いずれも負荷トルクτmと周波数指令値ω*(電気角)を入力している。
最初に、単相座標変換器32では、(5)(6)式を用いて、差トルク推定値Δτm^を座標変換する。
(5)(6)式により、推定負荷トルクΔτm^の内、機械角周波数ωm(機械角1次成分)の余弦成分(Δτmc)と正弦成分(Δτms)が抽出される。図17では、正弦値cosθrと余弦値sinθrは、周波数指令値ω*(電気角)に乗算器92cで極数の逆数2/Pを乗じ、積分器94iで積分したのち、余弦演算器96と正弦演算器97を介して求めている。
なお、この部分の処理について周期変動抑制器31aとの相違は、第2高調波とするために乗算器92pを設け、正弦値cos2θrと余弦値sin2θrを得た点のみである。乗算器92c、積分器94iが乗算器92q、積分器94jに対応する。また(5)(6)式の結果として機械角周波数ωm(機械角1次成分)の余弦成分(Δτmc2)と正弦成分(Δτms2)を得ている。
図16の処理において、負荷トルクの変動の高次成分を除去したい場合や、電流検出値のノイズを除去したい場合には、定域通過フィルタ(LPF)(98c、98dおよび周期変動抑制器31aでは98e、98f)を追加する。
またこれらの値がゼロになるように制御することで、機械角周波数ωm(機械角1次成分)成分のトルク変動を抑制できる。本実施例では、積分器94(94g、94hおよび周期変動抑制器31aでは94k、94i)で構成される積分制御を行う。すなわち、機械角周波数ωm(機械角1次成分)の余弦成分(Δτmc)、正弦成分(Δτms)と、それぞれの指令値(Δτmc*=0、Δτms*=0)の差を減算器(91j、91kおよび周期変動抑制器31aでは91l、91m)で求め、これに比例器(92l、92mおよび周期変動抑制器31aでは92r、92s)で積分ゲインKi_atr2を乗じて積分演算部(94g、94hおよび周期変動抑制器31aでは94k、94l)で積分制御し、機械角1次成分の脈動トルク電流指令値Iqs1*の余弦成分Iqs1s*および正弦成分Iqs1c*を演算する。
この後、再度、単相座標逆変換器37で、次式を用いて座標変換を行う。
この座標変換により、差トルク推定値Δτm^の機械角周波数ωmの成分(Δτmm^)を抑制するためのq軸電流指令値が得られる。適宜乗算器92hでゲイン(Ktrq)乗算することで、機械角1次成分の脈動トルク電流指令値(Iqs1*)を得る。
ここで改めて、図4に示した負荷トルクの変動に注目する。負荷トルクは前半周期での急増後、後半周期ではやや緩やかな減少となっている。これに、適当な振幅と位相を持った正弦波を併せて図示すると、図17のようになる。
図17は、図16の上部にある機械角1次成分の脈動トルク電流指令値(Iqs1*)を求める周期変動抑制器31で制御した場合を模擬している。2つの波形を比較すると、後半周期は非常に波形が一致しているものの、前半周期では差が生じている。このことから、前半周期の負荷が増加する期間において工夫することにより、より差トルクを小さくすることができことが分かる。つまり、本発明の目的をより達成するためには、前半周期の負荷が増加する期間に動作する制御器を追加するのが良いと言える。
そこで、脈動トルク電流指令値作成器11に、周期変動抑制器31a(図16の下部に図示)を構成する。基本的な構成は、上述した周期変動抑制器31と同じだが、入力する周波数が異なる点と、定域通過フィルタ(LPF)の遮断周波数や積分制御のゲインを異なる値にする場合があるため、図番を31aとしている。
さらに、脈動トルク電流指令値作成器11に、周期変動抑制器31aの出力である、差トルク推定値Δτm^の機械角2次周波数2ωmの成分を抑制するための機械角2次成分の脈動トルク電流指令値(Iqs2*)を使用する期間を変化させる機械角位相算出器36を構成する。
機械角位相算出器35は、機械角位相θmを入力し、所定の角度の間において、1を出力し、その他の期間ではゼロを出力する。機械角位相算出器35の出力は、乗算器92uで周期変動抑制器31aの出力と乗算するため、機械角2次成分の脈動トルク電流指令値(Iqs2*)を機械角1次成分の脈動トルク電流指令値(Iqs1*)に加算する期間を変化させることができる。
再度、図4に示した負荷トルクの変動と、適当な振幅と位相を持った1次の正弦波に所定の期間2次の正弦波を加えた波形を図示すると、図18のようにすることができる。図17と比較すると、高次(本実施例では2次)の正弦波を負荷が増加する前半期間に重畳することにより、負荷トルク波形に非常に一致することが分かる。負荷トルクと電動機の発生トルクが一致すると、速度変動が抑制できるため、本実施例の周期変動抑制器31を用いることにより、本発明の目的が達成できることが分かる。
本実施例の周期変動抑制器31を用いて圧縮機駆動時の波形の例として、数値解析した結果を図19に示す。
図12と同様に、横軸に時間をとり、モータトルクτmと負荷トルクτL、周波数指令値とインバータ周波数指令値、q軸電流指令値とU相モータ電流を図示している。ここで横軸の時間目盛は、図4で示した機械角1周期が0.04秒の例を示している。
この比較事例によれば、負荷トルクτLに相当するq軸電流指令値が出力されることにより、差トルクが小さくなり、その結果、インバータ周波数指令値は周波数指令値に非常に近い値で一定となる。すなわち、1回転中における負荷トルクτmの変動に追従するようにモータ発生トルクを制御することにより、電動機の実周波数(電動機の回転数)が一定となる。そのため、本発明の目的である電動機の騒音や振動を低減可能なモータ制御装置を提供することができる。
モータトルクτmが以上のように制御されているということは、制御装置が与えた電圧指令の波形が、圧縮機の吸い込み、圧縮、吐出に至る機械角1周期の期間において正弦波状に変化するとともに、その一部期間において高次周波数成分も含んでいることを意味している。このように本発明では、負荷トルクの圧縮時の急増を模擬した電圧指令とすることで、負荷トルク波形を模擬したモータトルクτmを得ている。
図16のようにして脈動トルク電流指令を定めたということは、圧縮機の負荷トルクが増加する期間に高次周波数成分を加算器において加算したことである。そして、結果として定まる電圧指令が高次周波数成分も含んでいる期間は、電動機に流れる電流振幅に応じて変化させたことを意味する。また電圧指令が高次周波数成分を含んでいる期間は、圧縮機の吸込または吐出の圧力に応じて変化させたことを意味する。
図20は、周期変動抑制器の別の構成例として、高次トルク電流指令値作成器の別な構成を示している。
図20の構成例では、前半周期の負荷が増加する期間において、機械角1次成分の脈動トルク電流指令値(Iqs1*)に高次の正弦波(図20では2次として図示)を加算する構成である。なお18は、正弦波重畳型高次トルク電流指令値作成器であり、例えば関数発生器などにより高次の正弦波とその印可期間を決定する。この構成例では、積分器を用いないため、本発明の目的である電動機の騒音や振動を低減に加え、制御部2の消費メモリ抑制や演算時間短縮といった効果が得られる。
図20の高次トルク電流指令値作成器17を用いて圧縮機駆動時の波形の例として、数値解析した結果を図21に示す。
図12と同様に、横軸に時間をとり、モータトルクと負荷トルク、周波数指令値とインバータ周波数指令値、q軸電流指令値とU相モータ電流を図21に図示する。ここで横軸の時間目盛は、図4で示した機械角1周期が0.04秒の例を示している。
この比較事例によれば、負荷トルクの増加と減少の変化の特性が異なる場合に置いてもそれぞれの期間に置いて差トルクを小さくすることができ、その結果、インバータ周波数指令値は周波数指令値に非常に近い値で一定となる。すなわち、1回転中における負荷トルクの変動に追従するようにモータ発生トルクを制御することにより、電動機の実周波数(電動機の回転数)が一定となる。そのため、本発明の目的である電動機の騒音や振動を低減可能なモータ制御装置を提供することができる。
高次トルク電流指令値作成器の別な構成について、図22を用いて説明する。この構成例では、前半周期の負荷が増加する期間において、速度偏差に基づき比例制御を行う。この構成例では、高次トルク電流指令作成のための参照データを最小限にすることができるため、本発明の目的である電動機の騒音や振動を低減に加え、制御部2の消費メモリや記憶容量の抑制、演算時間短縮、といった効果が得られる。
この構成例の高次トルク電流指令値作成器19は、図11に例示した速度制御器15の入力と同様に、周波数指令値ω*とインバータ周波数指令値ω1の差を減算器91nで求め、これに比例ゲインKp_pasrを乗じて比例制御する比例演算部92vの演算結果を出力する。比例演算部92vの演算結果は、乗算器92wで機械角位相算出器36の出力の出力と乗算するため、高次トルク電流指令値作成器19による脈動トルク電流指令値(Iqs1*)を使用する期間を変化させることができる。
図12と同様に、横軸に時間をとり、モータトルクと負荷トルク、周波数指令値とインバータ周波数指令値、q軸電流指令値とU相モータ電流を図23に図示する。ここで横軸の時間目盛は、図4で示した機械角1周期が0.04秒の例を示している。
この比較事例によれば、負荷トルクの増加と減少の変化の特性が異なる場合においてもそれぞれの期間において差トルクを小さくすることができ、その結果、インバータ周波数指令値は周波数指令値に非常に近い値で一定となる。すなわち、1回転中における負荷トルクの変動に追従するようにモータ発生トルクを制御することにより、電動機の実周波数(電動機の回転数)が一定となる。そのため、本発明の目的である電動機の騒音や振動を低減可能なモータ制御装置を提供することができる。
以上説明した本発明装置を、他の構成例に適用することについて説明する。まず本発明の電動機により駆動される圧縮機について、圧縮機の一工程での吸込み圧力Psと吐出圧力Pdは、圧縮機が接続されるシステム(例えば、冷凍サイクル)の状態によって変化するが、いずれにしても一工程における負荷トルク変動は発生し、なおかつ、ほとんどの事例で負荷トルクの増加と減少の変化の特性が異なる。そのため、負荷トルク変動を推定し、負荷トルクが増加する期間と減少する期間で異なるq軸電流指令値を与えることにより、様々な負荷特性のモータ制御装置へ適用可能である。
なお、圧縮機だけでなく、周期的に変動する負荷トルク特性を有するモータ制御装置(例えば、ポンプなど)にも適用可能で、同様の効果があることは言うまでもない。
本実施例では、高次成分として機械角の2次成分を与える例について説明したが、2次に限らない。また、高次成分は複数の成分を重畳しても同様の効果が得られる。
本実施例では、負荷トルクが増加する期間に注目し、高次トルク電流指令値作成器を付加する構成としたが、負荷トルクの特性によっては、機械角位相算出器の出力値を調整して負荷トルクが減少する期間に、機械角の高次成分が重畳される構成としても何ら問題ない。
本実施例では、圧縮機構部500のロータリーピストン501は、回転することで圧縮する動くロータリー式を例に説明しているが、圧縮機構の別な方式として、ピストンが直線的に動くレシプロ式や、渦巻状の旋回翼からなるスクロール式などがある。
それぞれの圧縮方式によって周期的な負荷変動の特性は異なるものの、いずれの圧縮方式においても圧縮工程に起因する負荷変動がある。これらの負荷トルク変動特性はそれぞれ異なるが、前述の手段を備えるモータ制御装置は圧縮機構が異なる場合にも同様に適用でき、いずれにおいても本発明の目的を達成可能である。つまり、例えばレシプロ式の場合、急増後に緩やかに減少して一時負のトルクを発生するが、急増の部分で本発明の波形模擬が有効である。
以上の説明では、電動機6のシャフトは、クランクシャフト503を介して圧縮機構部500のロータリーピストン501に接続されている例を用いた。そのため、圧縮機としての一連の工程は機械角1周期となり、その結果、負荷トルクの変動も機械角1周期であった。例えば、電動機6のシャフトとクランクシャフト503の間に、ギアを追加した場合、負荷トルクの変動は、機械角1周期の整数倍で変動する。この場合も、負荷トルクの変動周期があらかじめ分かっていれば、本実施例に記載の内容を適用可能で、同様の効果を得られる。
図24は、モータ制御装置を用いた流体機械302を示す構成図の例である。
なお、既に説明した実施例1に示された同一の符号を付された構成と、同一の機能を有する部分については、説明を省略する。
流体機械302は、動力源である電動機6と圧縮機構部500が、密閉容器511の中に配置されている。電動機6の回転子に接続されているシャフト502とロータリーピストン501は、クランクシャフト503を介して接続されている。これにより、電動機6の回転に応じてロータリーピストン501が偏心して回転し、吸込み、圧縮、吐出、といった一連の工程を行う。吸込みパイプ508は吸込み口505に、吐出パイプ509は吐出口507に、それぞれ接続されており、流体機械302に接続される外部のシステムと冷媒を循環する。
シャフト502の一方は、軸受け510によって支持されている。密閉容器511の底部には潤滑油が貯溜されており、軸受け510および圧縮機構部500に潤滑される。シャフト502の他方には、バランスウェイト512が付加されており、ロータリーピストン501の偏心による重量のアンバランスを緩和している。
バランスウェイト512の重量を重くすると、慣性モーメントが大きくなり、電動機の発生トルクと負荷トルクの差による速度変動も小さくできる。その反面、電動機の加減速に要する時間もエネルギーも増加する。
したがって、本発明の目的の一つは、周期的な負荷変動を抑制し電動機の騒音や振動を低減可能なモータ制御装置を提供することに加え、バランスウェイトの使用量削減、慣性モーメント減により起動特性を改善することである。起動特性を改善すると、短時間で吸込パイプと吐出パイプに圧力差を生じさせることができ、流体機械の理想に近づく。
実施例1で説明した機能を有するモータ制御装置301は、配線ケーブル310によって電動機6と接続されている。モータ制御装置301は、負荷トルクの増加と減少の変化の特性が異なる場合においても、それぞれの期間において差トルクを小さくすることができ、その結果、インバータ周波数指令値は周波数指令値に非常に近い値で一定となる。すなわち、1回転中における負荷トルクの変動に追従するようにモータ発生トルクを制御することにより、電動機の実周波数(電動機の回転数)が一定となる。そのため、本発明の目的である電動機の騒音や振動を低減可能な流体機械を提供することができる。
次に本発明をエアコンに適用した事例につい説明する。本発明に関わるモータ制御装置および流体機械の第3の実施形態について、図25を用いて説明する。図25は、本発明によるモータ制御装置301および流体機械302をエアコン300(空気調和器)に適用した際の模式図である。
エアコンは、室内機303と室外機304の構成となっており、室内機303と室外機304は配管305で接続され、配管内を冷媒が流れる。室内機303は、熱交換器306と送風機307がある構成となっており、室外機304には熱交換器308、送風機309、流体機械302、モータ制御装置301の構成となっている。モータ制御装置301と流体機械302は、配線ケーブル310で接続されている。エアコンは、室内機303と室外機304の間を冷媒が流れ、室内機303の熱交換器306により、冷風または温風を室内に送り込んでいる。
このような構成において、流体機械302には、機械角1回転毎、または負荷の特性によって生じる脈動トルクが存在する。
エアコンにおいては、地球温暖化や電気代削減のために、省エネ化が強く望まれている。そのため、圧縮機をインバータで駆動して可変速することで、冷凍サイクルの起動停止によるロスを削減することが一般的となっている。さらに、住宅の断熱性能の向上により、一旦室内の温度が設定値になったら、後はエアコンの能力を最小化して動作し続けることが望まれている。つまり、モータ制御装置および流体機械に対しては、より低速で駆動することが望まれている。
流体機械を構成する電動機の回転子が高速で駆動している場合は、慣性モーメントの効果により、電動機の発生トルクと負荷トルクに差があっても、振動や騒音への影響は比較的小さい。しかしながら、低速で駆動する場合には、電動機の発生トルクと負荷トルクの差が振動や騒音に与える影響が大きい。流体機械が搭載されるエアコンの室外機は、その名の通り室外に設置されるが、居住空間に近いところに設置されることも多いため、振動や騒音は極力削減するする必要がある。そこで、周期的な負荷変動を抑制し電動機の騒音や振動を低減可能なモータ制御装置を提供することが本発明の目的の一つである。
エアコンに適用して好適な機械角位相算出器の別な構成について説明する。機械角位相算出器の別な構成例として、図26のような構成がある。すなわち、機械角位相算出器35aに、機械角位相θmに加え、室内機303、室外機304、流体機械302、あるいはいずれかの箇所の冷媒の温度を入力する構成とする。入力した温度によって、機械角位相算出器から1を出力する機械角位相を変更する。
このように、入力温度によって機械角位相算出器から1を出力する機械角位相を変更することによって、結果として、機械角2次成分の脈動トルク電流指令値(Iqs2*)を使用する期間を変化させることになる。圧縮機の負荷トルク特性は、冷媒の温度条件によっても影響を受けるため、図26のような構成により、負荷トルクの増加と減少の変化の特性をより正確に追従することが可能となる。その結果、電動機の実周波数(電動機の回転数)が一定となる。そのため、本発明の目的である電動機の騒音や振動を低減可能なモータ制御装置および流体機械を提供することができる。
機械角位相算出器の別な構成例として、図27のような構成がある。この構成例では、機械角位相算出器36aに、機械角位相θmに加え、流体機械の吸込みまたは吐出、あるいはいずれかの箇所の冷媒の圧力を入力する構成とする。圧縮機の負荷トルク特性は、冷媒の圧力条件によっても影響を受けるため、図26のような構成により、負荷トルクの増加と減少の変化の特性をより正確に追従することが可能となる。そのため、本発明の目的である電動機の騒音や振動を低減可能なモータ制御装置および流体機械を提供することができる。
機械角位相算出器の別な構成例として、図28のような構成がある。この構成例では、機械角位相算出器36aに、機械角位相θmに加え、電動機に流れる電流値あるいはq軸電流値を入力する構成とする。圧縮機の負荷トルク特性は、電動機に流れる電流に略比例するため、図27のような構成により、負荷トルクの増加と減少の変化の特性をより正確に追従することが可能となる。そのため、本発明の目的である電動機の騒音や振動を低減可能なモータ制御装置および流体機械を提供することができる。
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手続き等は、それらの一部または全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現しても良い。また、上記の各構成や機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現しても良い。
モータは、永久磁石モータとして説明したが、その他の電動機(例えば、誘導機、同期機、スイッチトリラクタンスモータ、シンクロナスリラクタンスモータなど)を用いても構わない。その際、電動機によっては電圧指令値作成器での演算方法が変わるが、それ以外については同様に適用でき、本願の目的を達成可能である。
上記の実施例では、フィードバック制御を前提として記載した。そのため、周期的な負荷変動を検出して制御する方式について記載したが、例えば、図4に示した負荷トルクの変化を予めデータとして制御部2に保存し、その情報を基に脈動トルク電流指令値を演算しても、本願の目的を達成可能である。