[本願発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施態様の内容を列記して説明する。
(1)本発明の一態様に係る超電導コイル体は、超電導導体が巻回されたコイルを複数個積層して構成される超電導コイルと、超電導コイルのコイル軸方向の少なくとも一方の端部に配置される冷却板と、冷却板を覆うようにコイル軸方向に積み重ねられた磁性体とを備える。
このようにすれば、超電導コイルのコイル軸方向における端部では、磁性体と超電導コイルとの間の磁気吸引力によって冷却板と超電導コイルとの機械的な接触が改善される。これにより、超電導コイルと冷却板との間の熱抵抗を小さくすることができるため、超電導コイルの冷却効率を高めることができる。
また、フランジの撓みを抑えるためにフランジの厚みを厚くすることが不要となることから、フランジの厚みを薄くすることができ、超電導コイル体の小型化および軽量化を実現する。
(2)上記超電導コイル体において、磁性体のコイル軸方向における厚みは10mm以下である。
磁性体の厚みを厚くするほど、磁性体に作用する磁気吸引力が大きくなるため、冷却板と超電導コイルとの接触面に働く応力が大きくなって接触面積が増大する。その一方で、磁性体の厚みを厚くするに従って磁性体の可撓性が低下するため、上記接触面における応力に大きな面内ばらつきを生じさせる。また、磁性体のヒステリシス損失が増える。したがって、冷却板と超電導コイルとの良好な接触を確保するのに好適な応力および可撓性と、磁性体の低損失とを実現するためには、磁性体の厚みが10mm以下とすることが好ましい。
(3)上記超電導コイル体において、磁性体のコイル軸方向における厚みは5mm以下である。
フランジから超電導コイルにかかる締め付け圧力は超電導コイルの外周側ほど高くなる一方で、磁性体と超電導コイルとの間の磁気吸引力は超電導コイルの内周側ほど高くなる。磁性体の厚みを5mm以下にすることにより、上記2つの応力をバランスさせることができるため、冷却板と超電導コイルとの接触面に働く応力の面内ばらつきを低減できる。この結果、冷却板と超電導コイルとの機械的な接触がより一層改善される。また、超電導コイル体のより一層の小型化および軽量化を可能とする。
(4)上記超電導コイル体において、磁性体は、超電導コイルのコイル軸方向における両端部に配置されるフランジの少なくとも一方を構成する。
このようにすれば、フランジと超電導コイルとの間に生じる磁気吸引力を受けて冷却板と超電導コイルとの機械的な接触が実現する。よって、冷却板と超電導コイルとの良好な接触を確保するのに好適な厚みにまでフランジの厚みを薄くすることができるため、超電導コイル体のより一層の小型化および軽量化を可能とする。
(5)上記超電導コイル体において、磁性体は、コイル軸方向における厚みが、コイル径方向の内周側から外周側に向かって大きくなるように形成される。
磁性体の厚みを均一とした場合、磁性体と超電導コイルとの間の磁気吸引力は超電導コイルの内周側に向かうほど大きくなる。磁性体の内周側の厚みを薄くして磁気吸引力を減少させることによって、外周側における磁気吸引力との差を縮めることができるため、冷却板と超電導コイルとの接触面に働く応力の面内ばらつきを低減できる。
(6)上記超電導コイル体において、磁性体には、コイル軸方向に垂直な面内にスリットが形成される。
このようにすれば、磁性体の可撓性が向上するため、磁性体は超電導コイルとの間の磁気吸引力を受けて変形しやすくなる。これにより、冷却板と超電導コイルとの機械的な接触がさらに改善される。
(7)上記超電導コイル体において、磁性体は、コイル軸方向に垂直な面内で分割された複数の磁性片により形成される。
このようにすれば、磁性体の可撓性が向上するため、磁性体は超電導コイルとの間の磁気吸引力を受けて変形しやすくなる。これにより、冷却板と超電導コイルとの機械的な接触がさらに改善される。
(8)上記超電導コイル体において、磁性体は、複数の磁性板をコイル軸方向に積層させることによって形成される。
磁性体として積層板を用いることにより、単層板を用いる場合と比較して磁性体の可撓性が向上する。したがって、冷却板と超電導コイルとの機械的な接触がさらに改善される。
(9)上記超電導コイル体において、複数の磁性板は、超電導コイルのコイル径方向の外周側に配置された第1の磁性板と、第1の磁性板に対してコイル径方向の内周側に配置された部分を含み、コイル軸方向における上記部分の厚みが第1の磁性板の厚みよりも薄い第2の磁性板とを含む。
このようにすれば、積層板からなる磁性体は、コイル軸方向における厚みが、コイル径方向の内周側から外周側に向かって大きくなるように形成される。したがって、超電導コイル体は上記(4)で説明した作用効果を実現する。
(10)上記超電導コイル体において、複数の磁性板の少なくとも1つには、コイル軸方向に垂直な面内にスリットが形成される。
このようにすれば、積層板からなる磁性体の可撓性が向上するため、冷却板と超電導コイルとの機械的な接触がさらに改善される。
(11)上記超電導コイル体において、複数の磁性板の少なくとも1つは、コイル軸方向に垂直な面内で分割された複数の磁性片により形成される。
このようにすれば、積層板からなる磁性体の可撓性が向上するため、冷却板と超電導コイルとの機械的な接触がさらに改善される。
(12)上記超電導コイル体において、磁性体は、超電導コイルの運転温度における電気抵抗率が、1×10−9Ωm以上である。
このようにすれば、超電導コイル体の運転時に磁性体に発生する渦損を効果的に抑制することができる。このため、磁性体内部に形成される渦電流の経路を小さくするために磁性体を複数の磁性片に分割したり、磁性体にスリットを設けることが不要となる。したがって、磁性体の構成を簡素化できるとともに、コスト低減についても寄与できる。
(13)本発明の一態様に係る超電導機器は、上記(1)から(12)のいずれかに記載の超電導コイル体を備える。
このようにすれば、小型化および軽量化され、かつ、高い冷却効率を有する超電導コイル体を用いることにより、超電導機器の小型化および軽量化を実現できる。
[本願発明の実施形態の詳細]
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態に係る超電導コイル体および超電導機器の具体例を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
(実施の形態1)
図1は、この発明の実施の形態1による超電導機器の全体構成を概略的に示す断面図である。本実施の形態による超電導機器100は、超電導コイルを冷凍機で冷却する冷凍機冷却型の超電導機器である。
図1を参照して、超電導機器100は、超電導コイル体91と、断熱容器111と、冷凍機121と、ホース122と、コンプレッサ123と、ケーブル131と、電源132とを備える。断熱容器111は超電導コイル体91を収容する。本実施の形態においては、磁場が印加される試料(図示せず)を収容するための磁場印加領域SCが断熱容器111内に設けられている。
図2は、図1における超電導コイル体91の構成を概略的に示す図である。
図2を参照して、超電導コイル体91は、コイル部10と、磁性体13a,13bと、フランジ14a,14bと、固定部材15と、冷却ヘッド20と、伝熱部30と、芯部81とを含む。
コイル部10は、超電導線材が巻回されることによって形成されており、磁束MFを発生するためのものである。コイル部10は、磁束MFが通過する端部(図2における上端および下端)を有する。コイル部10は、複数のダブルパンケーキコイル11を含む。軸方向Aaはダブルパンケーキコイル11の積層方向に対応しており、径方向Arは当該積層方向に垂直な方向(ダブルパンケーキコイル11の中心から外周に向かう方向)に対応している。
冷却ヘッド20は、コイル部10を冷却するためのものであり、冷却可能な端部21と、端部21および冷凍機121(図1)の間を繋ぐ接続部22とを含む。
伝熱部30は、複数の冷却板31からなる冷却板群と、固定具32とを含む。図3は、超電導コイル体91における冷却板31の構成を示す平面模式図である。図2および図3を参照して、複数の冷却板31の各々はコイル部10に取り付けられている。固定具32は冷却ヘッド20の端部に取り付けられている。固定具32は冷却板群を把持している。冷却板群のうち固定具32に把持されている部分において、複数の冷却板31は互いに直接積層されている。このような構造によって、伝熱部30はコイル部10および冷却ヘッド20を互いに繋いでいる。
コイル部10と、冷却板群のコイル部10に取り付けられた部分とは、冷却板31とダブルパンケーキコイル11とが交互に積層された構成を有している。冷却板31の材料は、熱伝導率および可撓性が大きい材料が好ましく、たとえばアルミニウム(Al)または銅(Cu)である。Al(またはCu)の純度は99.9%以上が好ましい。冷却板31は、固定具32まで延びることができるように、折曲部FDを有してもよい。冷却板31には、コイル部10の径方向に沿って、渦損抑制のためのスリット41が形成されている。
固定具32は、部材32a,32bと、ねじ34a,34bとを含む。部材32aおよび32bの間の隙間に冷却板群が挟まれており、かつ、ねじ34aで締め付けることによって、冷却板群が固定具32に把持されている。すなわち、複数の冷却板31がともに固定具32に把持されている。ねじ34bは、部材32a,32bの各々が冷却ヘッド20の端部21の側面を締め付けることができるように設けられている。これにより固定具32は冷却ヘッド20の端部21に取り付けられている。
図4は、図2のダブルパンケーキコイル11の構成を概略的に示す斜視図である。図4を参照して、ダブルパンケーキコイル11は、互いに積層されたパンケーキコイル12a,12bを含む。パンケーキコイル12aにおける超電導線材の巻回し方向Waと、パンケーキコイル12bにおける超電導線材の巻回し方向Wbとは互いに逆である。パンケーキコイル12aの内周側に位置する超電導線材の端部ECiと、パンケーキコイル12bの内周側に位置する超電導線材の端部ECiとは、互いに電気的に接続されている。これにより、パンケーキコイル12aの外周側に位置する端部ECoと、パンケーキコイル12bの外周側に位置する端部ECoとの間で、パンケーキコイル12a,12bは互いに直列に接続されている。
複数のダブルパンケーキコイル11のうち、互いに隣り合うものの各々の端部ECoは互いに電気的に接続されている。これにより、複数のダブルパンケーキコイル11は互いに直列に接続されている。
なお、超電導線材は、帯状面に対して垂直な方向の磁場(垂直磁場)が印加されるほど交流損失が増大するような特性を有する。このため、コイル部10(図2)においては、軸方向Aaにおける端部に位置するダブルパンケーキコイル11(以下、「端部コイル」とも称する。)は、軸方向Aaにおける中央部に位置するダブルパンケーキコイル11(以下、「中央部コイル」とも称する。)に比べて、垂直磁場の強度が大きくなることに起因して発熱が多くなりやすい。したがって、コイル部10の冷却効率を高めるためには、端部コイルに生じる熱を効率良く除去することが必要となる。
再び図2を参照して、フランジ14a,14bは、コイル部10の軸方向Aaにおける両端部にそれぞれ配置されている。フランジ14a,14bは、例えば真鍮またはSUS(Steel Use Stainless)等の金属材料から構成される。フランジ14a,14bの各々は、ダブルパンケーキコイル11の平面形状より大きいサイズであって、たとえば円形状の平面形状を有していてもよい。フランジ14a,14bは、固定部材15により、コイル部10の上端面および下端面を挟んだ状態で固定されている。
具体的には、固定部材15は、連結用ボルト15aおよびナット15bを含む。フランジ14a,14bの各々にはたとえば外周に沿って複数の貫通孔が形成されている。このフランジ14aの貫通孔とフランジ14bの貫通孔とに連結用ボルト15aが挿入された状態となっている。連結用ボルト15aの先端部には、連結用ボルト15aが貫通孔から抜けないようにするためのナット15bが接続固定されている。ナット15bの締め付け圧力を受けてフランジ14aからコイル部10の上端面に対して面圧が作用するとともに、フランジ14bからコイル部10の下端面に対して面圧が作用する。このようにして、コイル部10は冷却板31とともにフランジ14aおよび14bに把持されている。
ここで、上述したように、コイル部10の冷却効率を高めるためには、発熱が多い端部コイルを効率的に冷却する必要がある。このための単純な方法として、ナット15bを強く締め付けることによって端部コイルと冷却板31との機械的な接触を良くすることが考えられる。しかしながら、ナット15bの締め付け圧力を単純に大きくすると、フランジ14a,14bの内周側が冷却板31から浮き上がる方向にフランジ14a,14bが撓んでしまうため、端部コイルと冷却板31との密着性が損なわれる。その結果、端部コイルの軸方向Aaに垂直な面内で冷却板31と端部コイルとの接触面に働く応力が不均一となり、端部コイルと冷却板31との間の熱抵抗を増加させてしまう(すなわち、熱伝導性を低下させてしまう)。
一方、フランジ14a,14bの撓みを抑制するためにフランジ14a,14bの厚みを厚くすると、超電導コイル体91が重量化し、また超電導コイル体91の熱容量が増大するという問題が生じる。そのため、これに代わる方法として、フランジ14a,14bと冷却板31との間の隙間に詰め物をする、あるいは、フランジ14a,14bと冷却板31との間にたとえばインジウムのような柔軟な熱伝導材料を挟むといった方法が採られている。
本実施の形態1による超電導コイル体91においては、図2に示すように、コイル部10の上端面に配置された冷却板31とフランジ14aとの間に磁性体13aが配置されている。さらに、コイル部10の下端面に配置された冷却板31とフランジ14bとの間に磁性体13bが配置されている。このような構成とすることにより、コイル部10に発生する磁束MFと磁性体13a,13bとの磁気的相互作用によって、磁性体13a,13bとコイル部10との間には吸引力が発生する。超電導コイル体91は、この磁気吸引力を利用して冷却板31を端部コイルに接触させることにより、冷却板31と端部コイルとの密着性を確保する。これにより、冷却板31と端部コイルとの機械的な接触が改善されるため、端部コイルと冷却板31との間の熱抵抗を小さくする(すなわち、熱伝導性を高める)ことができる。
以下、本実施の形態1による超電導コイル体91における磁性体13a,13bの構造を説明する。
図2を参照して、磁性体13aは、コイル部10の上端面に配置された冷却板31を覆うように積み重ねられている。すなわち冷却板31、磁性体13aおよびフランジ14aは、端部コイルの上にこの順で軸方向Aaに積み重ねられている。磁性体13bは、コイル部10の下端面に配置された冷却板31を覆うように積重ねられている。すなわち冷却板31、磁性体13bおよびフランジ14bは、端部コイルの下にこの順で軸方向Aaに積み重ねられている。磁性体13a,13bの材料は、高透磁率を有する材料が好ましく、たとえば、鉄、電磁軟鉄、電磁鋼、パーマロイ合金、またはアモルファス磁性合金である。磁性体13a,13bは、ダブルパンケーキコイル11の平面形状とほぼ同じか又はより大きい形状を有しており、たとえば円形状の平面形状を有していてもよい。
ここで、磁性体13a,13bは、コイル部10との間の磁気吸引力によってコイル部10の中央部に向かって吸引されるのを許容するために、可撓性を有する必要がある。したがって、磁性体13a,13bに作用する磁気吸引力を低下させない限りにおいて、磁性体13a,13bの厚みを薄くすることが望ましい。
磁性体13a,13bの好適な厚みについては、たとえば磁性体13a,13bに作用する磁気吸引力を受けて端部コイルにかかる面応力と、磁性体13a,13bの厚みとの関係を用いて設定することができる。この端部コイルにかかる面応力と磁性体13a,13bの厚みとの関係は、たとえば電磁界解析シミュレータを用いて超電導コイル体91を電磁界解析することにより求めることができる。
図5および図6を用いて、端部コイルにかかる面応力と磁性体13a,13bの厚みとの関係を解析したシミュレーション結果について説明する。図5は、超電導コイル体91のシミュレーションモデルを示す図である。超電導コイル体91は、複数のダブルパンケーキコイル11からなるコイル部10と、コイル部10の上端面および下端面にそれぞれ配置された磁性体13a,13bとを含んでいる。シミュレーションモデルでは、コイル部10の高さをh[mm]とし、外径を2R[mm]とし、内径を2r[mm]とし、磁性体13a,13bの厚みをt[mm]とする。また、ダブルパンケーキコイル11における超電導線材のターン数、ダブルパンケーキコイル11の個数および通電電流[A]、コイル部10の中心軸における中央部に生じる磁場[T]をそれぞれ設定する。
このように設定された各パラメータの下で、磁性体13a,13bの厚みtのみを変化させながら、コイル部10と磁性体13a,13bとの間に生じる磁気吸引力を算出した。そして、算出された磁気吸引力を用いて端部コイルにかかる面応力を導出した。シミュレーションにおいてはさらに、磁性体13a,13bのヒステリシス損失を導出した。
図6に、端部コイルにかかる面応力と磁性体の厚みとの関係、および磁性体のヒステリシス損失と厚みとの関係を示す。図6に示すグラフのうち、横軸は、磁性体13a,13bの厚み[mm]を示し、縦軸は、端部コイルにかかる面応力[MPa]および磁性体13a,13bのヒステリシス損失[W]を示す。図6に示す関係は、シミュレーションモデル(図5)のコイル部10の高さhを145mm,外径2Rを160mm,内径2rを100mmとしたときのシミュレーション結果に基づいている。
図6を参照して、磁性体13a,13bの厚みが厚くなるほど、コイル部10との間の磁気吸引力が強まるため、端部コイルにかかる面応力が大きくなる。したがって、磁性体13a,13bの厚みを厚くするほど、冷却板31と端部コイルとの接触面に働く応力が大きくなり、接触面積が増えるものと推測される。
ただし、図6の関係によれば、磁性体13a,13bの厚みが10mmを超えると、磁性体13a,13bの厚みが10mm以下のときと比べて、磁性体の厚みの変化に対する面応力の応答性が下がっている。
その一方で、磁性体13a,13bの厚みが厚くなるほど、磁性体13a,13bのヒステリシス損失が大きくなっている。このヒステリシス損失によって磁性体13a,13bが少なからず加熱されるため、磁性体13a,13bを厚くすることによって却って端部コイルの冷却を妨げることが懸念される。
また、磁性体13a,13bの厚みを厚くするに従って磁性体13a,13bの可撓性が低下する。このため、端部コイルにかかる面応力に大きな面内ばらつきが生じてしまう。この結果、冷却板31と端部コイルとの接触面における応力が面内で不均一となり、冷却板31と端部コイルとの機械的な接触を良くすることが困難となる。
そこで、本実施の形態1による超電導コイル体91においては、図6に示す端部コイルにかかる面応力と磁性体の厚みとの関係に基づき、冷却板31と端部コイルとの良好な接触を確保するのに好適な面応力および可撓性と、磁性体の低損失とを実現する観点から、磁性体13a,13bの好適な厚みを10mm以下とする。これは、磁性体13a,13bの厚みが10mmを超えると、磁性体の厚みに対する面応力の応答性が低下することを考慮したものである。
さらに、超電導コイル体91の電磁界解析において、端部コイルにかかる面応力について、軸方向Aaに垂直な面内における分布を解析した。図7にそのシミュレーション結果を示す。シミュレーションにおいては、コイル部10の高さhを145mm,外径2Rを160mm,内径2rを100mm,磁性体13a,13bの厚みtを5mmとし、磁性体13aを径方向Arに3つに分割した。そして、領域ごとに磁気吸引力[kN]および面応力[MPa]を導出した。
図6に示したように、磁性体13a,13bの厚みが5mmのときに端部コイルにかかる面応力は0.9MPaとなる。なお、このときのコイル部10および磁性体13aの間の磁気吸引力は11kNとなる。このときの磁性体13aの領域ごとの磁気吸引力は、図7に示すように、内周側の領域が6.1kNと最も大きく、外周側の領域が2.2kNと最も小さくなっている。その結果、磁性体13aの領域ごとの面応力は、内周側の領域が1.6MPaと最も大きく、外周側の領域が0.47MPaと最も小さくなっている。これにより端部コイルの面全体としては、上述したように0.9MPaという面応力がかかっている。
このように、磁気吸引力によって端部コイルにかかる面応力は、端部コイルの内周側が最も大きく、端部コイルの径方向外方に向かって小さくなる。ここで、非励磁状態での端部コイルにかかる面応力が0.5MPaとなるようにナット15b(図2)を締め付ける場合を想定する。この場合、端部コイルの外周側にかかる締め付け圧力は6.1kNとなる。この締め付け圧力は、励磁状態での端部コイルの内周側に作用する磁気吸引力6.1kNと等しくなっている。したがって、磁性体13a,13bの厚みを5mmとすることにより、磁性体13a,13bを励磁したときに端部コイルにかかる面応力は内周側と外周側とで同等となるため、面応力の面内ばらつきが低減されることが分かる。このように端部コイルにかかる締め付け圧力と磁気吸引力とのバランスを考慮すると、磁性体13a,13bの厚みは5mm以下とすることがより好ましい。
なお、非励磁状態での端部コイルにかかる面応力が2.0MPaとなるようにナット15bを締め付ける場合では、端部コイルにかかる面応力の面内ばらつきを小さくするためには、磁性体13a,13bの厚みを10mm以下とすればよいことが確認されている。
以上のように、磁性体の厚みに対する面応力の応答性、磁性体のヒステリシス損失および可撓性、および端部コイルにかかる締め付け圧力と磁気吸引力とのバランスを考慮すると、磁性体13a,13bの厚みは10mm以下とすることが好ましく、5mm以下とすることがより好ましい。
次に、図8および図9を用いて、磁性体13a,13bの平面形状について説明する。
図8は、超電導コイル体91における磁性体13aの構成を示す平面模式図である。磁性体13bも磁性体13aと同様の構成を有する。
図8を参照して、磁性体13aは、冷却板31の平面形状と同じか又はより大きい形状を有しており、たとえば円形状の平面形状を有していてもよい。冷却板31に磁性体13aを直接的に積み重ねる場合には、図8に示すように、磁性体13aには、冷却板31に形成されるスリット41(図3)に重なる位置にスリット50が形成される。これにより、冷却板31から磁性体13aに侵入した磁束によって渦電流の経路が形成されるのを抑制することができる。
さらに、図9(a)〜(d)に示すように、磁性体13aにスリットを形成する、または磁性体13aを複数の磁性片に分割することによって、磁性体13aの可撓性を高めることができる。
具体的には、図9(a)を参照して、磁性体13aは、各々が扇形形状を有する複数の磁性片51〜58により形成される。あるいは、図9(d)に示すように、磁性体13aは、各々が円環形状を有する複数の磁性片61〜65により形成される。また、図9(b)および図9(c)において、磁性体13aには、コイル部10の軸方向に垂直な面内において、中心部から放射状に広がるように複数のスリット60が形成されている。
このようにして磁性体13a,13bの可撓性を高めることによって、磁性体13a,13bはコイル部10との間の磁気吸引力を受けて変形しやすくなるため、端部コイルにかかる面応力の面内ばらつきが低減される。この結果、冷却板31と端部コイルとの機械的な接触がさらに改善されるため、端部コイルと冷却板31との間の熱抵抗をより一層小さくする(すなわち、熱伝導性をより一層高める)ことができる。また、磁性体13a,13bの内部に形成される渦電流の経路が小さくなるため、磁性体13a,13bに発生する渦損を抑制できる。
また、磁性体13a,13bは、単層の磁性板で形成してもよい。あるいは、複数の磁性板を積層することによって形成してもよい。図10には、一例として、磁性体13aを、同一の厚みを有する複数の磁性板13a1〜13a5を積層して形成した構成が示されている。このように磁性体13a,13bとして積層板を用いることにより、単層板を用いる場合と比較して、磁性体13a,13bの可撓性を高めることができる。よって、端部コイルにかかる面応力の面内ばらつきをさらに低減することができる。
なお、複数の磁性板13a1〜13a5の数は、磁性体13aの厚みに応じて調整することができる。また、磁性板13a1〜13a5の厚みを合計した値が磁性体13aの好適な厚みとなっていればよく、磁性板13a1〜13a5の各々の厚みは同一であっても異なっていてもよい。
また、複数の磁性板13a1〜13a5のうちの少なくとも1つに対して、図9(a)〜(d)に示したように、軸方向に垂直な面内にスリットを形成する、または軸方向に垂直な面内で複数の磁性片に分割する構成としてもよい。これにより磁性体13aの可撓性を高めることができる。
ここで、図6に示したように、コイル部10と磁性体13a,13bの間に発生する磁気吸引力(端部コイルにかかる面応力)は磁性体13a,13bの厚みが厚くなるほど大きくなる。したがって、磁性体13a,13bの厚みをコイル部10の径方向において異ならせる構成とすれば、端部コイルにかかる面応力を面内で調整できるため、面応力の面内ばらつきを小さくすることができる。
たとえば、図11を参照して、磁性体13aは、2枚の磁性板13a1,13a2を積層することによって形成される。磁性板13a1,13a2は、磁性板13a1の方が磁性板13a2よりも、厚みが厚く、かつ内径が大きくなるように形成されている。すなわち、磁性板13a2は、磁性板13a1に対して径方向の内周側に配置された部分を含んでおり、軸方向における当該部分の厚みが磁性板13a1の厚みよりも薄くなっている。これにより、磁性体13aは、コイル部10の径方向の内周側から外周側に向かって厚みが大きくなるように形成される。
なお、磁性体13a,13bの厚みをコイル部10の径方向の内周側から外周側に向かって大きくするという構成は、磁性体13a,13bの厚みを段階的に大きくする構成以外に、磁性体13a,13bの厚みを連続的に大きくする構成によっても実現することができる。また、磁性体13a,13bの厚みを段階的に大きくする構成には、図11に示すように、磁性体13a,13bの厚みを、内周側と外周側とで2段階に変化させる構成も含まれる。いずれの構成においても、磁性体13a,13bの厚みを径方向に平均した値が磁性体の好適な厚みとなっていればよい。
図7に示したように、磁性体13aの厚みを均一とした場合、磁性体13aとコイル部10との間の磁気吸引力(端部コイルにかかる面応力)は、端部コイルの内周側が最も大きく、端部コイルの径方向外方に向かって小さくなる。
これに対して、図11に示すように磁性体13aの内周側の厚みを薄くした場合には、磁性体13aの内周側の領域に生じる磁気吸引力が小さくなるため、当該領域にかかる面応力も小さくなる。したがって、内周側の領域にかかる面応力と外周側の領域にかかる面応力とが同等となるように磁性体13aの内周側の厚みを調整することにより、端部コイルにかかる面応力の面内ばらつきを低減することができる。この結果、冷却板31と端部コイルとの機械的な接触が改善されるため、冷却板31と端部コイルとの間の熱抵抗が小さくなる。
以上のように、この発明の実施の形態1によれば、超電導コイル体のコイル部の軸方向における端部に配置される冷却体とフランジとの間に磁性体を配置することにより、磁性体とコイル部との間に発生する磁気吸引力を利用して冷却板と端部コイルとの機械的な接触を良くすることができる。この結果、端部コイルと冷却板との間の熱抵抗が小さくなるため、コイル部の冷却効率を高めることができる。
また、磁性体が冷却板と端部コイルとの機械的な接触を確保するため、フランジの撓みを抑えるためにフランジの厚みを厚くすることが不要となる。したがって、フランジの厚みを薄くすることが可能となり、超電導コイル体の小型化および軽量化が実現する。
(実施の形態2)
上述のこの発明の実施の形態1による超電導コイル体では、コイル部の軸方向における端部に配置される冷却板とフランジとの間に磁性体を配置する構成について説明したが、フランジ自体を磁性体で形成することでフランジとコイル部との間に磁気吸引力を発生させる構成としてもよい。この発明の実施の形態2では、フランジ自体を磁性体で形成する構成について説明する。
図12は、この発明の実施の形態2による超電導機器における超電導コイル体91Aの構成を概略的に示す図である。この発明の実施の形態2による超電導機器の全体構成は、超電導コイル体91Aの構成を除いて図1と同様であるので、詳細な説明は繰返さない。
図12を参照して、超電導コイル体91Aは、図2に示す超電導コイル体91において、フランジ14a,14bおよび磁性体13a,13bに代えて、フランジ16a,16bを設けたものである。
フランジ16a,16bは、コイル部10の軸方向Aaにおける両端部にそれぞれ配置されている。フランジ16a,16bの各々は、ダブルパンケーキコイル11の平面形状より大きいサイズであって、たとえば円形状の平面形状を有していてもよい。フランジ16a,16bは、固定部材15により、コイル部10の上端面および下端面を挟んだ状態で固定されている。
具体的には、固定部材15は、連結用ボルト15aおよびナット15bを含む。フランジ16a,16bの各々は、たとえば外周に沿って複数の貫通孔が形成されている。このフランジ16aの貫通孔とフランジ16bの貫通孔とに連結用ボルト15aが挿入された状態となっている。連結用ボルト15aの先端部には、連結用ボルト15aが貫通孔から抜けないようにするためのナット15bが接続固定されている。ナット15bの締め付け圧力を受けてフランジ16aからコイル部10の上端面に対して面圧が作用するとともに、フランジ16bからコイル部10の下端面に対して面圧が作用する。このようにして、コイル部10は冷却板31とともにフランジ16aおよび16bに把持されている。
本実施の形態2による超電導コイル体91Aにおいて、フランジ16a,16bは磁性体から形成されている。フランジ16a,16bの材料は、高透磁率を有する材料が好ましく、たとえば、鉄、電磁軟鉄、電磁鋼、パーマロイ合金、またはアモルファス磁性合金である。
このような構成とすることにより、コイル部10に発生する磁束MFとフランジ16a,16bとの磁気的相互作用によって、フランジ16a,16bとコイル部10との間には吸引力が発生する。超電導コイル体91Aにおいては、この磁気吸引力を利用して冷却板31を端部コイルに接触させることにより、冷却板31と端部コイルとの密着性が確保される。これにより、冷却板31と端部コイルとの機械的な接触が改善されるため、端部コイルと冷却板31との間の熱抵抗を小さくする(すなわち、熱伝導性を高める)ことができる。
ここで、フランジ16a,16bは、コイル部10との間の磁気吸引力によってコイル部10の中央部に向かって吸引されるのを許容するために、柔軟性を有する必要がある。したがって、フランジ16a,16bに作用する磁気吸引力を低下させない限りにおいて、フランジ16a,16bの厚みを薄くすることが望ましい。
フランジ16a,16bの好適な厚みについては、フランジ16a,16bに作用する磁気吸引力を受けて端部コイルにかかる面応力とフランジ16a,16bの厚みとの関係を用いて設定することができる。この端部コイルにかかる面応力とフランジ16a,16bの厚みとの関係については、図6に示した端部コイルにかかる面応力と磁性体の厚みとの関係を用いることができる。すなわち、上述の実施の形態1で説明したように、磁性体の厚みに対する面応力の応答性、磁性体のヒステリシス損失および可撓性、および端部コイルにかかる締め付け圧力と磁気吸引力とのバランスを考慮すると、フランジ16a,16bの厚みは10mm以下とすることが好ましく、5mm以下とすることがより好ましい。
次に、フランジ16a,16bの詳細な構造について説明する。
フランジ16a,16bは、ダブルパンケーキコイル11の平面形状より大きいサイズであって、たとえば円形状の平面形状を有していてもよい。冷却板31にフランジ16a,16bを直接的に積み重ねる場合には、フランジ16a,16bには、冷却板31に形成されるスリット41(図3)に重なる位置にスリットが形成される。これにより、冷却板31からフランジ16a,16bに侵入した磁束によって渦電流の経路が形成されるのを抑制することができる。
また、フランジ16a,16bは、上記の実施の形態1における磁性体13a,13bと同様に、コイル部10の軸方向に垂直な面内にスリットを形成する(図9(b),(c))、またはコイル部10の軸方向に垂直な面内で分割された複数の磁性片により形成する(図9(a),(d))ようにしてもよい。これによりフランジ16a,16bはコイル部10との間の磁気吸引力を受けて変形しやすくなるため、端部コイルにかかる面応力の面内ばらつきが低減される。この結果、冷却板31と端部コイルとの機械的な接触がさらに改善されるため、端部コイルと冷却板31との間の熱抵抗をより小さくする(すなわち、熱伝導性をより高める)ことができる。また、フランジ16a,16bの内部に形成される渦電流の経路が小さくなるため、フランジ16a,16bに発生する渦損を抑制できる。
さらに、フランジ16a,16bは、単層の磁性板で形成してもよい。あるいは、複数の磁性板を積層することによって形成してもよい(図10)。なお、複数の磁性板数は、フランジ16a,16bの厚みに応じて調整することができる。また、複数の磁性板の厚みを合計した値がフランジ16a,16bの好適な厚みとなっていればよく、複数の磁性板の各々の厚みは同一であっても異なっていてもよい。
また、複数の磁性板のうちの少なくとも1つに対して、図9(a)〜(d)に示すように、軸方向に垂直な面内にスリットを形成する、または軸方向に垂直な面内で複数の磁性片に分割する構成としてもよい。これによりフランジ16a,16bの可撓性を高めることができる。
さらに、フランジ16a,16bの厚みをコイル部10の径方向において異ならせる構成としてもよい。これによれば、端部コイルにかかる面応力を面内で調整できるため、面応力の面内ばらつきを小さくすることができる。
たとえば、図13を参照して、フランジ16a,16bの各々は、コイル部10の径方向の内周側から外周側に向かって厚みが大きくなるように形成される。このように、磁性体13aの内周側の厚みを薄くすることにより、フランジ16a,16bの内周側の領域に生じる磁気吸引力が小さくなるため、当該領域にかかる面応力も小さくなる。したがって、内周側の領域にかかる面応力が外周側の領域にかかる面応力と等しくなるようにフランジ16a,16bの内周側の厚みを調整することにより、面応力の面内ばらつきを低減することができる。
なお、フランジ16a,16bの厚みをコイル部10の径方向の内周側から外周側に向かって大きくするという構成は、図13に示すようにフランジ16a,16bの厚みを段階的に大きくする構成以外に、フランジ16a,16bの厚みを連続的に大きくする構成によっても実現することができる。また、フランジ16a,16bの厚みを段階的に大きくする構成には、フランジ16a,16bの厚みを、内周側と外周側とで2段階に変化させる構成も含まれる。いずれの構成においても、フランジ16a,16bの厚みを径方向に平均した値がフランジの好適な厚みとなっていればよい。
以上のように、この発明の実施の形態2によれば、超電導コイル体のコイル部の軸方向における端部に配置される冷却体を覆うように、磁性体からなるフランジを配置することにより、フランジとコイル部との間に発生する磁気吸引力を利用して冷却板と端部コイルとの機械的な接触を良くすることができる。この結果、端部コイルと冷却板との間の熱抵抗が小さくなるため、コイル部の冷却効率を高めることができる。
また、冷却板と端部コイルとの良好な接触を確保するのに好適な厚みにまでフランジを薄くすることが可能となり、超電導コイル体の小型化および軽量化が実現する。
なお、上述の実施の形態1および2では、コイル部10の上端面および下端面に配置された冷却板31にそれぞれ対応させて磁性体13a,13bを配置する構成について説明したが、この構成に限られることはなく、コイル部10の少なくとも一方の端部に磁性体が配置されていればよい。
たとえば図14に示す超電導機器においては、2つの超電導コイル体91A1,91A2は、各々のコイル部10の中心軸が一致するように配置されている。このような構成においては、各々の超電導コイル体において、コイル部10の軸方向Aaにおける一方の端部の垂直磁場の強度が、他方の端部の垂直磁場の強度よりも大きくなる。したがって、垂直磁場の強度が大きくなる方の端部にのみ磁磁性体を配置するようにしてもよい。
具体的には、図14を参照して、超電導コイル体91A1におけるコイル部10の上端部に位置するダブルパンケーキコイル11と、超電導コイル体91A2におけるコイル部10の下端部に位置するダブルパンケーキコイル11とは、磁束MFが通過する端部に位置する端部コイルに相当する。そのため、他のダブルパンケーキコイル11に比べて垂直磁場の強度が大きくなり、発熱が多くなる。そこで、これら2つの端部コイルに生じる熱を効率良く除去するために、超電導コイル体91A1において、軸方向Aaの上端側に位置するフランジ16aを磁性体で形成するとともに、超電導コイル体91A2において、軸方向Aaの下端側に位置するフランジ16bを磁性体で形成する。なお、超電導コイル体91A1において、軸方向Aaの下端側に位置するフランジ14bと、超電導コイル体91A2において、軸方向Aaの上端側に位置するフランジ14aとは、例えば真鍮またはSUS等の金属材料から構成されている。
(実施の形態3)
この発明の実施の形態による超電導コイル体において、磁性体には渦損の発生を小さくすることが求められる。これを実現するため、上述の実施の形態1および2では、磁性体を複数の磁性片で構成する(図9(a),(d)参照)、磁性体にスリットを設ける(図9(b),(c)参照)、または複数の磁性板を積層させる(図10)ことにより、磁性体内部に形成される渦電流の経路を小さくする構成について説明した。
この発明の実施の形態3では、磁性体の電気抵抗率を大きくすることにより、渦損を低減させる構成について説明する。
本実施の形態3では、シミュレーション実験を行ない、磁性体の電気抵抗率と磁性体に発生する渦損との関係を調べた。この実験には、フランジを磁性体で形成した超電導コイル体(図12参照)について、コイル部およびフランジの各々を同一形状として、フランジを電気抵抗率が異なる2種類の磁性体で形成した実施例1および実施例2を用いた。
図15は、超電導コイル体91Aのシミュレーションモデルを示す図である。図15を参照して、超電導コイル体91Aは、複数のダブルパンケーキコイル11からなるコイル部10と、コイル部10の上端面および下端面にそれぞれ配置されたフランジ(磁性体)16a,16bとを含んでいる。シミュレーションモデルでは、コイル部10の高さをh[mm]とし、外径を2R[mm]とし、内径を2r[mm]とする。また、フランジ16a,16bの厚みをt[mm]とし、外径をφ[mm]とし、内径を2r[mm]とする。
図16は、実施例1および実施例2の各々についてのパラメータを示す図である。図16を参照して、実施例1と実施例2とは、コイル部10およびフランジ16a,16bの各々が同一形状であり、フランジ16a,16bを形成する磁性体のみが異なっている。実施例1では、フランジ16a,16bは純鉄から形成されている。実施例2では、フランジ16a,16bはSUS416(クロム含有量13重量%)から形成されている。
シミュレーションでは、実施例1および実施例2の各々に対して、超電導コイル体の運転温度を20[K]とし、コイル部10に周波数0.02[Hz]かつ最大値250[A]の交流電流を流したときにフランジ16a,16bに発生する渦損を算出した。さらに、フランジ16a,16bにかかる面圧を算出した。
図17は、実施例1および2で用いた磁性体の電気抵抗率の温度依存性を示すグラフである。図17において、横軸は磁性体の温度[K]を示し、縦軸は磁性体の電気抵抗率[Ωm]を示す。図17を参照して、SUS416(実施例2)は純鉄(実施例1)に比べて電気抵抗率が高く、超電導コイル体の運転温度である20[K]では、SUS416の電気抵抗率は純鉄の電気抵抗率の約1000倍となっている。なお、純鉄は温度の低下とともに電気抵抗率が減少するが、SUS416については温度による電気抵抗率の変化はわずかである。
図18は、実施例1および2の各々についてのシミュレーション結果を示す図である。図18によれば、実施例2は、実施例1に比べて、フランジに発生する渦損が1/1000程度に低減されていることが分かる。また、実施例2は、実施例1に比べて、面圧が約4/5倍に減少していることが分かる。
磁性体に発生する渦損は、磁性体の電気抵抗率に反比例する。超電導コイル体の運転温度(20[K])においては、図17に示したように、実施例2は実施例1に比べてフランジの電気抵抗率が約1000倍となっており、この結果、フランジに発生する渦損が約1/1000に低減している。
一方、フランジにかかる面圧は、フランジおよびコイル部間の磁気吸引力の大きさを示しており、フランジの透磁率が高くなるとともに磁気吸引力は増加する。SUS416は純鉄に比べて透磁率が低い。そのため、実施例2は実施例1に比べて面圧が小さくなっている。なお、実施例2の面圧は、コイル部の冷却効率を高めるという本発明の効果に影響を及ぼすものではない。
上記のシミュレーション結果から、超電導コイル体のフランジを、電気抵抗率が大きい磁性体を用いて形成することにより、フランジに発生する渦損を低減できることが確認された。なお、冷却板とフランジとの間に磁性体を配置する構成(図2参照)においても同様の効果が得られることが確認されている。
ここで、磁性体の好適な電気抵抗率については、超電導コイル体の運転温度に応じて、所望の渦損となるように求めることができる。たとえば、超電導コイル体の有効な運転温度の範囲を30[K]以下とする場合、鉄の電気抵抗率は10−10Ωmのオーダーとなる。そこで、当該温度範囲において1×10−9Ωm以上の電気抵抗率を有する磁性体を用いる構成とすれば、フランジの材料として鉄を用いる超電導コイル体に比べて渦損を小さくすることができる。なお、従来技術では、運転温度範囲を77[K]以下として、フランジが鉄で形成された超電導コイル体が普及している。当該温度範囲において、鉄の電気抵抗率は7×10−9Ωm以下となる。したがって、本実施の形態による超電導コイル体においては、当該温度範囲において8×10−9Ωm以上の電気抵抗率を有する磁性体を用いることにより、従来技術に比べて渦損を低減させることができる。
このような磁性体の材料としては、たとえば、フェライト系ステンレスおよびマルテンサイト系ステンレス(SUS400番台)が好適である。また、高い電気抵抗率と高い透磁率とを兼ね備えた材料として、たとえばパーメンジュールなどを好適に利用することができる。
以上のように、この発明の実施の形態3によれば、フランジを構成する磁性体または冷却体とフランジとの間に配置される磁性体の電気抵抗率を大きくすることにより、当該磁性体に発生する渦損を低減させることができる。なお、磁性体の電気抵抗率は、30[K]以下の運転温度範囲において1×10−9Ωm以上であることが好ましく、77[K]以下の運転温度範囲において8×10−9Ωm以上であることがより好ましい。これによれば、フランジの材料として鉄を用いる従来の超電導コイル体に対して、渦損の低減という効果が奏される。
さらに、この発明の実施の形態3によれば、渦損を低減するために、磁性体を複数の磁性片で構成したり、磁性体にスリットを設けることが不要となる。これにより、磁性体の構成を簡素化できるとともに、コスト低減についても寄与できる。なお、磁性体を複数の磁性片で構成したり、磁性体にスリットを設ける構成についても、磁性体の電気抵抗率を大きくすることによって、各々の構成を簡素化できる点について確認的に記載する。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の説明は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。