[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態として構造化照明顕微鏡装置(SIM:Structured Illumination Microscopy)を説明する。
先ず、構造化照明顕微鏡装置の構成を説明する。
図1は、構造化照明顕微鏡装置1の構成図である。以下では構造化照明顕微鏡装置1を全反射蛍光顕微鏡(TIRFM:Total Internal Reflection Fluorescence Microscopy)として使用する場合、つまり構造化照明顕微鏡装置1をTIRF−SIMモードで使用する場合も適宜併せて説明する。TIRF−SIMモードは、蛍光性を有した試料(標本)5の表面の極めて薄い層を超解像観察するモードである。
図1に示すとおり構造化照明顕微鏡装置1には、レーザユニット100と、光ファイバ11と、照明光学系10と、結像光学系30と、第1撮像素子351と、第2撮像素子352と、制御装置39と、画像記憶・演算装置40と、画像表示装置45とが備えられる。このうち、照明光学系10と結像光学系30とは、対物レンズ6及びダイクロイックミラー7を共用している。
レーザユニット100には、第1レーザ光源101、第2レーザ光源102、シャッタ1031、1032、ミラー105、ダイクロイックミラー106、レンズ107が備えられる。第1レーザ光源101及び第2レーザ光源102の各々は可干渉光源であって、互いの出射波長は異なる。ここでは、第1レーザ光源101の波長λ1は、第2レーザ光源102の波長λ2よりも長いと仮定する(λ1>λ2)。これらの第1レーザ光源101、第2レーザ光源102、シャッタ1031、1032は、それぞれ制御装置39によって駆動・制御される。
光ファイバ11は、レーザユニット100から射出したレーザ光を導光するために、例えば、偏波面保存型のシングルモードファイバによって構成される。光軸AZの方向におけるファイバ11の出射端の位置は、位置調整機構11Aによって調節可能である。この位置調整機構11Aは、制御装置39によって駆動・制御される。なお、位置調整機構11Aとしては、例えば、ピエゾ素子等が用いられる。
照明光学系10には、光ファイバ11の出射端側から順に、コレクタレンズ12と、偏光板23と、光束分岐部15と、集光レンズ16と、光束選択部24と、レンズ25と、視野絞り26と、フィールドレンズ27と、励起フィルタ28と、ダイクロイックミラー7と、対物レンズ6とが配置される。
光束分岐部15には、回折格子として機能する空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)13と、駆動回路15Aとが備えられ、光束選択部24には、0次光シャッタ200と、1/2波長板17と、高次光カットマスク18と、回動機構200Aと、駆動回路17Aとが備えられる。ここで、空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)とは、入射光束に対して空間的に(その光束の空間内で)所定の分布を付与する機能を有した部材のことをいう。このうち駆動回路15A、回動機構200A、駆動回路17Aは、それぞれ制御装置39によって駆動・制御される。
結像光学系30には、標本5の側から順に、対物レンズ6と、ダイクロイックミラー7と、バリアフィルタ31と、第2対物レンズ32と、第2ダイクロイックミラー35と、が配置される。
標本5は、例えば、平行平板状のガラス表面に配置された蛍光性の細胞(蛍光色素で染色された細胞)や、シャーレ内に存在する蛍光性の生体細胞(蛍光色素で染色された動く細胞)などの細胞である。この細胞には、波長λ1の光によって励起される第1蛍光領域と、波長λ2の光によって励起される第2蛍光領域との双方が発現している。第1蛍光領域は、波長λ1の光に応じて中心波長λ1’の第1蛍光を発生させ、第2蛍光領域は、波長λ2の光に応じて中心波長λ2’の第2蛍光を発生させる。
構造化照明顕微鏡装置1がTIRFM(全反射蛍光顕微鏡)として使用される場合、対物レンズ6は、液浸型(油浸型)の対物レンズとして構成される。つまり、対物レンズ6と標本5のガラスとの間隙は、不図示の浸液(油)で満たされる。
第1撮像素子351、第2撮像素子352の各々は、CCDやCMOS等からなる二次元撮像素子である。第1撮像素子351、第2撮像素子352の各々は、制御装置39によって駆動されると、第1撮像素子351の撮像面361、第2撮像素子352の撮像面362の各々に形成された像を撮像し、画像を生成する。これら第1撮像素子351、第2撮像素子352の各々が生成した画像は、制御装置39を介して画像記憶・演算装置40へ取り込まれる。なお、第1撮像素子351、第2撮像素子352の各々は、所定のフレーム周期で画像生成(撮像)を繰り返すことが可能である。第1撮像素子351、第2撮像素子352の各々のフレーム周期(撮像の繰り返し周期)は、撮像素子の撮像時間(すなわち電荷蓄積及び電荷読出に要する時間)、干渉縞の方向切り換えに要する時間、その他の所要時間のうち、律速によって定められ、例えば、30msec、60msecなどに設定される。
制御装置39は、第1レーザ光源101、第2レーザ光源102、シャッタ1031、1032、位置調整機構11A、駆動回路15A、回動機構200A、駆動回路17A、第1撮像素子351、第2撮像素子352を駆動・制御する。
画像記憶・演算装置40は、第1撮像素子351が生成した画像、第2撮像素子352が生成した画像に対してそれぞれ復調演算を施し、波長毎の超解像画像を生成すると、それらの超解像画像を不図示の内部メモリに格納すると共に、画像表示装置45へ送出する。
次に、構造化照明顕微鏡装置1におけるレーザ光の振る舞いを説明する。
第1レーザ光源101から射出した波長λ1のレーザ光(第1レーザ光)は、シャッタ1031を介してミラー105へ入射すると、ミラー105を反射し、ダイクロイックミラー106へ入射する。一方、第2レーザ光源102から射出した波長λ2のレーザ光(第2レーザ光)は、シャッタ1032を介してビームスプリッタ106へ入射し、第1レーザ光と統合される。ダイクロイックミラー106から射出した第1レーザ光及び第2レーザ光は、レンズ107を介して光ファイバ11の入射端に入射する。
なお、制御装置39は、第1レーザ光源101、第2レーザ光源102、シャッタ1031、1032を制御することにより、レーザユニット100の出射波長、すなわち構造化照明顕微鏡装置1の光源波長を、長い波長λ1と短い波長λ2との間で切り替えたり、長い波長λ1と短い波長λ2との双方からなる混合光に設定したりすることができる。
光ファイバ11の入射端に入射したレーザ光は、光ファイバ11の内部を伝搬して光ファイバ11の出射端に点光源を生成する。その点光源から射出したレーザ光は、コレクタレンズ12によって平行光束に変換され、偏光板23を介してSLM13へ入射すると、各次数の回折光束に分岐される。この各次数の回折光束(以下、「回折光束群」と称す。)は、集光レンズ16に入射すると、集光レンズ16の集光作用を受けて瞳共役面6A’の各位置に集光する。
ここで、瞳共役面6A’は、フィールドレンズ27及びレンズ25に関して対物レンズ6の瞳6A(±1次回折光が集光する位置)と共役な位置のことである。集光レンズ16は、集光レンズ16の焦点位置(後ろ側焦点位置)が瞳共役面6A’と一致するように配置されている。但し、ここでいう「共役な位置」の概念には、当業者が対物レンズ6、フィールドレンズ27、レンズ25の収差、ビネッティング等の設計上必要な事項を考慮して決定した位置も含まれるものとする。
また、光ファイバ11として偏波面保存型のシングルモードファイバを使用した場合、偏光板23は省略することも可能であるが、余分な偏光成分を確実にカットするために有効である。また、レーザ光の利用効率を高めるため、偏光板23の軸は、光ファイバ11から射出したレーザ光の偏光方向に一致していることが望ましい。因みに、光ファイバ11としてマルチモードファイバを使用した場合、偏光板23は必須である。また、SLM13を回折格子として利用する場合は、SLM13に入射する光束の偏光方向を、適切な方向に設定しておく必要がある。
さて、瞳共役面6A’に向かった各次数の回折光束は、瞳共役面6A’の近傍に配置された光束選択部24へ入射する。
ここで、構造化照明顕微鏡装置1がTIRFMとして使用される場合、光束選択部24は、入射した回折光束群のうち1対の回折光束のみ(±1次回折光束のみ)を選択的に通過させる。なお、光束選択部24の0次光シャッタ200には、0次回折光束を必要に応じてオン/オフする機能があり、光束選択部24の高次光カットマスク18には、2次以上の高次回折光束を常時遮光する機能がある(詳細は後述)。
光束選択部24を通過した±1次回折光束は、レンズ25によって視野絞り26付近でSLM13と共役な面を形成する。その後、±1次回折光束の各々は、フィールドレンズ27により収束光に変換され、さらに励起フィルタ28を経てからダイクロイックミラー7で反射し、対物レンズ6の瞳面6A上の互いに異なる位置に集光する。
瞳面6A上に集光した±1次回折光束の各々は、対物レンズ6の先端から射出される際には平行光束となり、標本5の表面で互いに干渉し、干渉縞を形成する。この干渉縞が、構造化照明光として使用される。
ここで、構造化照明顕微鏡装置1がTIRFMとして使用される場合、標本5の表面に入射する±1次回折光束の入射角度は、エバネッセント場の生成条件である全反射条件(TIRF条件)を満たす。
このTIRF条件を満たすためには、瞳面6Aにおける±1次回折光束の集光点は、瞳面6Aの最外周における所定の輪帯状領域(TIRF領域)に位置していればよい。この場合、標本5の表面近傍には、干渉縞によるエバネッセント場が生起する。
このような干渉縞により標本5を照明すると、干渉縞の周期構造と標本5における蛍光領域の周期構造との差に相当するモアレ縞が現れるが、このモアレ縞においては、蛍光領域における高周波数の構造が元の周波数より低周波数側にシフトしているため、この構造を示す蛍光は、元の角度よりも小さい角度で対物レンズ6へ向かうことになる。よって、干渉縞により標本5を照明すると、蛍光領域の高周波数の構造情報までもが対物レンズ6によって伝達される。
標本5で発生した蛍光は、対物レンズ6に入射すると、対物レンズ6で平行光に変換された後、ダイクロイックミラー7及びバリアフィルタ31を透過し、第2対物レンズ32を介して第2ダイクロイックミラー35へ入射する。第2ダイクロイックミラー35へ入射した波長λ1’の第1蛍光は、第2ダイクロイックミラー35を反射し、第2ダイクロイックミラー35へ入射した波長λ2’の第2蛍光は、第2ダイクロイックミラー35を透過する。
第2ダイクロイックミラー35を反射した第1蛍光は、第1撮像素子351の撮像面361上に第1蛍光領域の変調像を形成し、第2ダイクロイックミラー35を透過した第2蛍光は、第2撮像素子352の撮像面362上に第2蛍光領域の変調像を形成する。
第1蛍光領域の変調像、第2蛍光領域の変調像は、第1撮像素子351、第2撮像素子352によってそれぞれ画像化され、第1蛍光領域の変調画像と、第2蛍光領域の変調画像とが生成される。
第1蛍光領域の変調画像と、第2蛍光領域の変調画像とは、制御装置39を介して画像記憶・演算装置40へと取り込まれる。さらに、取り込まれた第1蛍光領域の変調画像と、第2蛍光領域の変調画像との各々には、画像記憶・演算装置40において復調演算が施され、第1蛍光領域の超解像画像と、第2蛍光領域の超解像画像とが生成される。そして、これらの超解像画像は、画像記憶・演算装置40の内部メモリ(図示せず)に記憶されるとともに、画像表示装置45へと送出される。なお、復調演算としては、例えば、米国特許8115806号明細書に開示された方法が用いられる。
次に、SLM13を詳しく説明する。
SLM13は、透過型の空間光変調器であって、照明光学系10の光軸AZと垂直な平面内(XY平面内)において互いに直交するX方向及びY方向の各々に亘って液晶素子からなる画素を密に配列した2次元液晶部材を含んでいる。
ここでは、SLM13の2次元液晶部材のX方向における画素サイズとY方向における画素サイズとは共通であり、X方向における画素配列周期とY方向における画素配列周期とは共通であり、X方向における画素数とY方向における画素数とは共通であると仮定する。この場合、SLM13の2次元液晶部材の表示形状は、図2(A1)に示すとおり正方形となる。
駆動回路15A(図1参照)は、SLM13の2次元液晶部材の個々の画素に与える電圧を制御することで、個々の画素に含まれる液晶分子の配向を制御し、個々の画素における光の振幅を維持したまま、個々の画素における光の屈折率(つまり光の位相遅延量)を制御する。この駆動回路15A(図1参照)は、SLM13の2次元液晶部材における位相遅延量の分布パターンを、一方向に亘って周期的な分布パターン(すなわち、格子パターン)に設定することで、位相型回折格子と同様な機能をSLM13の2次元液晶部材で実現する。
なお、SLM13の2次元液晶部材における位相遅延量の分布パターンを格子パターンに設定しても、その格子パターンを目視することはできない。但し、以下では説明の都合上、図2(A1)に示すように相対的に位相遅延量の小さい領域を白画素で表し、相対的に位相遅延量の大きい領域を黒画素で表すことにより、格子パターンを可視化する。また、以下ではSLM13の2次元液晶部材における位相遅延量の分布パターンの切り換わり方を理解しやすくするために、2次元液晶部材における位相遅延量の分布パターンを格子パターンに設定することを、単に「SLM13に格子パターンを形成する」、「SLM13に格子パターンを表示する」などと表現する。
また、ここでは、SLM13を透過型で構成したが、反射型で構成することも可能であることは言うまでもない。
その場合、SLM13の姿勢は、入射面の法線が入射光束の主光線に対して例えば45°の角度を成すように設定されてもよいし、図13において符号Aで示すように、法線と主光線とが0°の角度を成すように設定されてもよい。その場合、例えば、図13に示すとおりレンズ16とSLM13との間にビームスプリッタ101を45°の角度で配置するとよい。このビームスプリッタ101は、レーザユニット100側からの光束を反射してSLM13へ正面から入射させると共に、SLM13で反射した光束(回折光束)を透過してレンズ16へ正面から入射させる。
また、ここではSLM13を位相型回折格子として機能させたが、振幅型回折格子として機能させてもよい。その場合、入射光束を第1の強度の光(相対的に強度が大きい)に変換する画素と、入射光束を第2の強度の光(相対的に強度が小さく、強度0も含む)に変換する画素との繰り返しからなる格子パターンをSLM13に設定する。
その場合、SLM13を2次元液晶部材と偏光素子との組み合わせで構成すればよい。入射光束の偏光状態に応じて2次元液晶部材の各画素の偏光状態を制御し、偏光素子を透過する偏光成分を制限すれば、SLM13から射出する光束に対して所望の強度分布を付与することができる。
例えば、入射光束の偏光方向と、液晶分子の長軸方向とのなす角がθであって、入射光束の偏光方向と偏光素子の透過軸とのなす角が2θとなるように設定することにより、入射光束の偏光方向は、液晶分子に入射することによって2θ回転するので、入射光束は、偏光素子を通過することができる。
一方、入射光束の偏光方向と、液晶分子の長軸方向とのなす角が−θであって、入射光束の偏光方向と偏光素子の透過軸とのなす角が2θとなるように設定することにより、入射光束の偏光方向は、液晶分子に入射することによって−2θ回転するので、入射光束は、偏光素子を通過することができない。
また、SLM13を構成する素子としては、例えばネマティック液晶素子、強誘電性液晶素子、磁気光学型の素子、スピン注入式の素子、マイクロミラー(MEMS,DMD)等の各種の素子を使用することができる。
因みに、SLM13を液晶素子で構成した場合、液晶素子の透明導電層の間に液晶分子が配向される。個々の液晶分子は1本の長軸を持ち、液晶分子の形状は、長軸に対して任意の横断面で円対照な楕円体である。液晶分子の短軸方向の屈折率と長軸方向の屈折率とは異なるため、液晶分子の配向によって入射光の位相が変化し、入射光の偏光状態も変化する。また、液晶分子の配向を変化させるためには、透明導電層に電圧を加えて液晶分子にトルクを与えればよい。SLM13の各画素には複数の液晶分子が分布しており、電圧は画素ごとに制御可能であるため、入射光の位相変調量もSLM13の画素ごとに設定することができる。
液晶素子として例えばネマティック液晶素子を使用した場合、電圧の調整により位相変調量を小刻みに変化させることができる。一方、液晶素子として例えば強誘電液晶を使用した場合、液晶の状態は2状態の何れか一方のみをとるので、液晶の状態を電圧で切り替えることにより、液晶の位相変調量を2つの値の一方と他方との間で切り替えることができる。
また、SLM13を位相型回折格子と振幅型回折格子との何れとして機能させるかは、SLM13に入射する光の偏光状態と偏光子の有無とによって決めればよい。例えば、ネマティック液晶を使用したSLM13を位相型回折格子として機能させるためには、SLM13に入射する光の偏光方向を、液晶分子の長軸に一致させておけばよい。一方、ネマティック液晶を使用したSLM13を振幅型回折格子として機能させるためには、SLM13に入射する光の偏光方向を、液晶分子の短軸及び長軸の双方から外しておけばよい。
また、マイクロミラーを使用したSLM13では、与えられた電圧に応じてミラーの傾き又は距離が変化するため、入射光の振幅又は位相を電圧で変調することができる。
また、カンチレバービーム式SLM13では、与えられた電圧に応じてカンチレバーが下向きに回転してミラーの傾きが変化する。また、膜式SLMでは、金属コートされた高分子膜が電圧印加により下方向にたわむため、膜の距離が変化する。
このように、SLM13の各画素に印加する電圧を制御することで、入射光束の位相分布又は振幅分布を制御し、SLM13を回折格子(位相型回折格子又は振幅型回折格子)として機能させることができる。
ここで、SLM13を位相型回折格子として機能させる場合の補足を行う。
位相型回折格子の位相差Φは、位相遅延量の相対的に小さな画素領域の屈折率と位相遅延量の相対的に大きな画素領域の屈折率との差(位相型回折格子の屈折率差Δn)だけでなく、入射光束の波長λにも依存する。これを式で表すと、以下の式(1)のとおりである。
Φ=2π・Δn・d/λ …(1)
なお、式(1)におけるdは、位相型回折格子の液晶層の光軸AZ方向の厚さ(定数)である。
したがって、位相型回折格子の屈折率差Δnの適正値Δn0は、光源波長λが長い波長λ1であるときと短い波長λ2であるときとで若干異なる。
このため、SLM13を位相型回折格子として機能させる場合、液晶駆動回路15A(図1参照)は、制御装置39(図1参照)の制御下で、SLM13において位相遅延量の相対的に小さな画素領域に与える電圧値と、位相遅延量の相対的に大きな画素領域に与える電圧値との組み合わせを制御することにより、位相型回折格子の屈折率差Δnを適宜に調整することが望ましい。
具体的に、液晶駆動回路15Aは、光源波長λが長い波長λ1であるときには位相回折型格子の屈折率差ΔnをΔn01に設定し、光源波長λが短い波長λ2であるときには位相型回折格子の屈折率差ΔnをΔn02に設定することが望ましい。
但し、Δn01は、光源波長λがλ1であるときに0次回折光束の強度と+1次回折光束の強度と−1次回折光束の強度との比が例えば0.7:1:1となるような適正値である。この適正値Δn01によると、波長λ1の復調画像(超解像画像)のコントラストが最高となる。
一方、Δn02は、光源波長λがλ2であるときに0次回折光束の強度と+1次回折光束の強度と−1次回折光束の強度との比が例えば0.7:1:1となるような適正値である。この適正値Δn02によると、波長λ2の復調画像(超解像画像)のコントラストが最高となる。
因みに、Δn01、Δn02の関係は、以下の式(2)で表される。
Δn01/λ1=Δn02/λ2 …(2)
上述したとおりλ1>λ2であるので、Δn01>Δn02である。
さて、駆動回路15A(図1参照)は、制御装置39(図1参照)の制御下で、前述のようにSLM13に与える電圧分布を切り換えることにより、SLM13に表示される格子パターンの格子線方位θを切り換えることができる。以下、格子パターンの格子線がY軸と成す角度を「格子線方位θ」と称し、設定可能なθの範囲を|θ|<90°と仮定する(SLMの対称性により、SLM13を光軸AZの周りに90°回転させることは、SLMのX方向(第1配列方向)とY方向(第2配列方向)とを入れ替えることに等しいため、設定可能なθの範囲は|θ|<90°で十分である。)。
但し、本実施形態の駆動回路15Aは、格子パターンの格子線をX軸及びY軸の何れに対しても非平行にする。つまり、|θ|≠0°、|θ|≠90°とする。
なぜなら、仮に、格子パターンの格子線がX軸又はY軸に対して平行であると、格子パターンの格子周期(位相遅延量の小さい領域と位相遅延量の大きい領域とを併せた幅)を、画素配列周期の整数倍にする必要があり、しかも、1格子周期内の画素数を、必要な位相数の整数倍にする必要があるので、設定可能な格子周期が著しく制限されてしまうからである。
以下、格子線方位θは、図2(A1)、図2(B1)、図2(C1)に示すとおり、θ=−45°、θ=75°、θ=15°の間で切り換わると仮定する。
θ=−45°(図2(A1))であるとき、格子線方向がY方向とX方向との中間となり、θ=75°(図2(B1))であるとき、格子線方向がY方向よりもX方向に近くなり、θ=15°(図(C1))であるとき、格子線方向がX方向よりもY方向に近くなる。
先ず、θ=−45°であるとき(図2(A1))、SLM13に入射した平行光束は、格子線と垂直な方向V1にかけて分岐した回折光束群に変換される。この回折光束群には、0次回折光束及び±1次回折光束が含まれ、このうち互いの次数が共通である±1次回折光束は、光軸AZに関して対称な方向に進行し、0次回折光束は、光軸AZに沿って進行する。これらの±1次回折光束及び0次回折光束は、瞳共役面6A’の互いに異なる位置に集光する。図2(A2)に符号14aで示すのが0次回折光束の集光点である。この集光点14aは、光軸AZ上に位置する。図2(A2)に符号14b、14cで示すのが±1次回折光束の集光点である。集光点14b、14cは、光軸AZに関して対称である。これら集光点14d、14cの配列方向はV1である。
因みに、光ファイバ11から射出されるレーザ光の波長をλ、SLM13の格子周期をP、レンズ16の焦点距離をfcとすると、光軸AZから集光点14b、14cまでの距離Dは下記の式で表される。
D∝fcλ/P
なお、ここでいう「集光点」とは、最大強度の8割以上の強度を有する領域の重心位置のことである。そのため、本実施形態の照明光学系10は、完全な集光点が形成されるまで光束を集光する必要はない。
次に、θ=75°であるとき(図2(B1))、SLM13に入射した平行光束は、格子線と垂直な方向V2にかけて分岐した回折光束群に変換される。この回折光束群にも、0次回折光束及び±1次回折光束が含まれ、このうち互いの次数が共通である±1次回折光束は、光軸AZに関して対称な方向に進行し、0次回折光束は、光軸AZに沿って進行する。これらの±1次回折光束及び0次回折光束は、瞳共役面6A’の互いに異なる位置に集光する。図2(B2)に符号14c、14bに示すのが±1次回折光束の集光点である。集光点14c、14bは、光軸に関して対称である。これら集光点14c、14bの配列方向はV2であり、集光点14c、14bから光軸までの距離は、θ=−45°であるときの距離(図2(A2)参照)と同じである。
次に、θ=15°であるとき(図2(C1))、SLM13に入射した平行光束は、格子線と垂直な方向V3にかけて分岐した回折光束群に変換される。この回折光束群にも、0次回折光束及び±1次回折光束が含まれ、このうち互いの次数が共通である±1次回折光束は、光軸AZに関して対称な方向に進行し、0次回折光束は、光軸AZに沿って進行する。これらの±1次回折光束及び0次回折光束は、瞳共役面6A’の互いに異なる位置に集光する。図2(C2)に符号14c、14bに示すのが±1次回折光束の集光点である。集光点14c、14bは、光軸に関して対称である。これら集光点14c、14bの配列方向はV3であり、集光点14c、14bから光軸までの距離は、θ=−45°であるときの距離(図2(A2)参照)と同じである。
したがって、本実施形態では、標本5に形成される干渉縞の方位が図2(A3)、図2(B3)、図2(C3)に示すとおり60°の角度周期で切り換わる。
ここで、駆動回路15A(図1参照)は、格子線方位θがθ=−45°、θ=75°、θ=15°の各々にあるとき、SLM13における格子パターンの表示先を適切な方向へシフトさせることにより、その格子パターンの位相をシフトさせる。格子パターンの位相がシフトすると、干渉縞の位相もシフトする(詳細は後述する。)。
次に、0次光シャッタ200を詳しく説明する。
図3(A)は、0次光シャッタ200を説明する図である。図3(A)に示すとおり0次光シャッタ200は、円形の透明基板の一部に円形の遮光部200Cを形成してなる空間フィルタである。
0次光シャッタ200の遮光部200Cは、0次回折光束の光路(集光点14a)をカバーし、0次光シャッッタ200の非遮光部(透過部200B)は、±1次回折光束の光路となりうる領域(すなわち集光点14b、14cの形成されうる領域)の全体をカバーする。
この0次光シャッタ200は、回動機構200A(図1参照)により、照明光学系10の光軸AZと平行、かつその光軸AZから離れた直線(軸AR)の周りに回動可能である。
なお、回動機構200Aには、例えば、0次光シャッタ200を保持し、かつ軸ARの周りに回転可能な不図示の回動軸と、その回動軸へ回転力を与える不図示のモータ(回転モータ)とが備えられる。このモータが駆動されると、回転軸が回転し、0次光シャッタ200が軸ARの周りに回転する。
0次光シャッタ200の回動角が図3に示した基準角度(0°)に設定されると、遮光部200Cが0次回折光束の光路に挿入され、0次光シャッタ200の回動角が基準角度から外れた所定角度(例えば30°)に設定されると、遮光部200Cが0次回折光束の光路から外れる。
したがって、0次光シャッタ200の回動角を0°と30°との間で切り換えれば、±1次回折光束をオンしたまま0次回折光束をオン/オフすることができる。
但し、0次光シャッタ200の回動角が基準角度(0°)、所定角度(30°)の何れである場合にも、0次光シャッタ200の遮光部200Cは、±1次回折光束の光路を遮ることは無いものとする。
なお、ここでは0次光シャッタ200を回動可能な空間フィルタとしたが、スライド可能な空間フィルタや、固定配置された液晶素子などで0次光シャッタ200を構成してもよい。液晶素子の配向を電気的に制御すれば、液晶素子の屈折率異方性を制御することができるので、液晶素子を0次光シャッタ200として機能させることができる。
次に、高次光カットマスク18を詳しく説明する。
図3(B)は、高次光カットマスク18を説明する図である。図3(B)に示すとおり高次光カットマスク18は、円形の不透明基板(マスク用基板)に、円形の開口部18aと輪帯状の開口部18bとを形成してなる空間フィルタである。
このうち円形の開口部18aは、0次回折光束の光路(集光点14a)をカバーし、 輪帯状の開口部18bの形成先は、±1次回折光束の光路となりうる領域(すなわち集光点14b、14cの形成されうる領域)の全体をカバーしている。
次に、1/2波長板17(図1参照)の機能を詳しく説明する。
1/2波長板17(図1参照)は、標本5へ入射する回折光束の偏光状態をS偏光に制御するために使用される。標本5へ入射する回折光束をS偏光に制御すれば、干渉縞のコントラストを高く維持できるからである。
先ず、図4(A)に示すとおり、回折光束の分岐方向がV1であるときには、回折光束群の偏光方向は、図4(A)に点線矢印で示した方向V1’とされるべきである。この方向V1’は、方向V1を光軸AZの周りに90°だけ回転させた方向である。
次に、図4(B)に示すとり、回折光束の分岐方向がV2であるときには、回折光束群の偏光方向は、図4(B)に点線矢印で示した方向V2’とされるべきである。この方向V2’は、方向V2を光軸AZの周りに90°だけ回転させた方向である。
次に、図4(C)に示すとおり、回折光束の分岐方向がV3であるときには、回折光束群の偏光方向は、図4(C)に点線矢印で示した方向V3’とされるべきである。この方向V3’は、方向V3を光軸AZの周りに90°だけ回転させた方向である。
そこで、本実施形態では、図4に白抜き両矢印で示すとおり偏光板23の軸方向をV2’に固定し、図4に実線の両矢印で示すとおり1/2波長板17の進相軸の方向を駆動回路17A(図1参照)によって切り換える。なお、1/2波長板17の進相軸とは、その軸の方向に偏光した光が1/2波長板17を通過するときの位相遅延量が最小となるような方向のことである。また、本実施形態の1/2波長板17は液晶素子で構成され、この液晶素子の配向を駆動回路17A(図1参照)が電気的に制御すると、1/2波長板17の進相軸の方向が高速に切り換わるものとする。
図4(A)に示すとおり、回折光束の分岐方向がV1であるときには、1/2波長板17の進相軸の方向は、図4(A)に実線の両矢印で示す方向に設定される。この方向は、1/2波長板17へ入射する回折光束が有している偏光方向V2’と、1/2波長板17から射出する回折光束が有しているべき偏光方向V1’とを二等分する方向である。
また、図4(B)に示すとおり、回折光束の分岐方向がV2であるときには、1/2波長板17の進相軸の方向は、図4(B)に実線の両矢印で示す方向に設定される。この方向は、1/2波長板17へ入射する回折光束が有している偏光方向V2’と、1/2波長板17から射出する回折光束が有しているべき偏光方向V2’とを二等分する方向(=V2’)である。
また、図4(C)に示すとおり、回折光束の分岐方向がV3であるときには、1/2波長板17の進相軸の方向は、図4(C)に実線の両矢印で示す方向に設定される。この方向は、1/2波長板17へ入射する回折光束が有している偏光方向V2’と、1/2波長板17から射出する回折光束が有しているべき偏光方向V3’とを二等分する方向である。
なお、本実施形態では、1/2波長板17として液晶素子を使用したが、光軸の周りに回動可能な1/2波長板を使用してもよい。因みに、標本5に入射する回折光束群をS偏光に保つための方法は他にもある(後述)。
次に、格子パターンの位相シフトに関する駆動回路15A(図1参照)の動作を詳しく説明する。
なお、本実施形態では、構造化照明顕微鏡装置1を2D−SIMモードの一種であるTIRF−SIMモードで使用することを想定したので、この位相シフトにおいて必要な位相数Nは、例えば「3」である。2D−SIMモードは、0次光回折光束をオフすることで標本5へ投影される干渉縞を2光束干渉縞とするモードである。因みに、構造化照明顕微鏡装置1を3D−SIMモードで使用する場合(0次光回折光束をオンして標本5へ投影する干渉縞を3光束干渉縞とする場合)は、位相シフトにおいて必要な位相数Nは「3」よりも大きい数、例えば「5」となる。
さて、本実施形態の駆動回路15Aは、格子線方位がX方向に近いとき(45°<|θ|のとき)には、格子パターンをX方向へシフトさせる「横シフト方式」で位相シフトを行い、格子線方位がY方向に近いとき(|θ|<45°のとき)には、格子パターンをY方向へシフトさせる「縦シフト方式」で位相シフトを行い、格子線方位がX方向とY方向との中間であるとき(|θ|=45°のとき)には、横シフト方式又は縦シフト方式で位相シフトを行う。以下、横シフト方式の位相シフト、縦シフト方式の位相シフトを順に詳しく説明する。
(横シフト方式)
先ず、横シフト方式では、SLM13へ表示すべき格子パターンの最小単位である単位格子パターン(以下、「ユニットセル」と称す。)として、図5に示すような横長のユニットセル13aを生成する。なお、図5における個々の正方形枠は横長のユニットセル13aを構成する個々の画素である。
このユニットセル13aにおける左下端の画素Aと、このユニットセル13aの右下端から右方へ突出した画素Bと、このユニットセル13aの上端の一部から上方へ突出した画素Cとは、格子パターンの格子周期及び格子線方位を規定するメイン画素である。
以下、各距離の単位として画素数[pixel]を使用し、これらのメイン画素A、B、Cを詳しく説明する。
先ず、メイン画素Aからメイン画素Bまでの距離は、X方向における実際の格子周期Hを規定している。このX方向の格子周期Hは、X方向における理想的な格子周期Hidealに近い値であって、しかも、以下のとおり必要な位相数Nxの整数倍と同じ値に設定されるべきである。
また、メイン画素Aとメイン画素Cとを通る直線がY軸となす角度θは、実際の格子線方位θを規定している。この方位θは、理想的な格子線方位θidealに近い値に設定されるべきである。
また、メイン画素Bからメイン画素Cまでの距離は、実際の格子周期pを規定している。この格子周期pは、理想的な格子周期pidealに近い値に設定されるべきである。
因みに、理想的な格子周期pidealとは、±1次回折光束の集光点を瞳面6Aの所定領域に収めるための格子周期のことである。TIRF照明を行う場合、この所定領域は、いわゆるTIRF領域である。格子周期をpとおき光源波長をλとおくと、光軸AZから集光点までの高さDはsin(λ/p)に比例するので、この高さDが適正範囲に収まるように理想的な格子周期pidealが決定される。
ここで、X方向の理想的な格子周期Hidealと、理想的な格子線方位θidealと、理想的な格子周期pidealとの関係は、以下の式で表される。
また、メイン画素Aからメイン画素Cまでの理想的な距離didealは、Hideal、pideal、θidealにより以下の式で表される。
また、メイン画素Aを基準としたメイン画素Cの理想的な座標(Xideal、Yideal)は、dideal、θidealにより以下の式で表される。
そこで、横シフト方式では、駆動回路15Aが以下の手順(a)〜(e)を実行する。
(a)理想的な格子周期pidealの値と、理想的な格子線方位θidealの値とを式(1−2)へ代入することにより、X方向における理想的な格子周期Hidealを求める。そして、X方向における理想的な格子周期Hidealに近く、かつ、式(1−1)を満たすような、X方向における実際の格子周期Hを求める。ここでは、必要な位相数Nxが「3」であるので、X方向における実際の格子周期Hの値は、3の整数倍に設定される。そして、メイン画素AからX方向にHだけシフトした位置の画素を、メイン画素Bに選定する。
(b)理想的な格子周期pidealの値と、理想的な格子線方位θidealの値と、X方向における実際の格子周期Hの値とを式(1−3)へ代入することにより、理想的な距離didealの値を求める。そして、理想的な距離didealの値を式(1−4)、(1−5)へ代入することにより、メイン画素Aを基準としたメイン画素Cの理想的な座標(Xideal,Yideal)を求める。そして、その理想的な座標(Xideal,Yideal)に最も近い整数座標(X,Y)に位置する画素を、メイン画素Cに選定する。
(c)手順(a)、(b)により決定されたメイン画素A、B、Cの位置関係に応じて黒画素及び白画素を配列することにより、部分格子パターンからなるユニットセル13aを生成する。
なお、ユニットセル13aにおける黒画素及び白画素の配置パターンは、図5に示すパターンに限定されることはない。例えば、白画素領域と黒画素領域との境界線がX方向、Y方向、あるいはその双方向にシフトしていてもよく、より極端な状態として、白画素領域と黒画素領域とが反転していてもよい。また、図5では、1格子周期内における白画素数と黒画素数との比が1:1となっているが、1:1から外れていても構わない。この比を変えることで、0次回折光束と±1次回折光束との強度比を制御することができる。
なお、生成されたユニットセル13aの実際の格子線方位θ、実際の格子周期pは、メイン画素Cの実際の座標(X,Y)と、メイン画素A、Bで規定される、X方向の実際の格子周期Hとによって、以下の式で表される。
(d)生成した横長のユニットセル13aを、SLM13の各画素領域へ並行に表示することで、SLM13の全域へ格子パターンを表示する。但し、図6(A)、(B)、(C)、…に示すとおり、或るユニットセル13aのメイン画素Cは、隣接するユニットセルのメイン画素Aと重畳し、或るユニットセル13aのメイン画素Bは、別のユニットセルのメイン画素Aと重畳する。つまり、個々のユニットセル13aの表示先の位置関係は、個々のユニットセル13aのメイン画素A、B、Cを基準として適切に決定される。なお、図6では、ユニットセル同士の繋目を解りやすくするためにメイン画素A、B、Cの濃度を他の画素の濃度よりも高く表した。
(e)SLM13における個々のユニットセル13aの表示先を、図7(A)、(B)、(C)に示すとおりX方向にかけてmx[pixel]の変位周期でNx通りに変位させる。これによって、位相数Nxの位相シフトが実現する。図7の例では、位相シフトの位相数Nxを3、X方向の格子周期Hを12[pixel]、ユニットセル13aの表示先の変位周期mxを−4[pixel]とした。この場合、SLM13に表示された格子パターンの位相は、2π/3[rad]の周期で3通りに切り換わる。なお、図7に示した格子線方位θは一例であって、実際の格子線方位と同じとは限らない。
このように、位相シフト方向における格子周期を、必要な位相数の整数倍に設定しておけば、正確な位相シフトが可能となる。
(縦シフト方式)
次に、縦シフト方式では、SLM13へ表示すべき格子パターンの最小単位である単位格子パターン(以下、「ユニットセル」と称す。)として、図8に示すような縦長のユニットセル13bを生成する。なお、図8における個々の正方形枠は縦長のユニットセル13bを構成する個々の画素である。
このユニットセル13bにおける右上端の画素Bと、このユニットセル13bの右下端から下方へ突出した画素Aと、このユニットセル13bにおける左端の一部から左方へ突出した画素Cとは、格子パターンの格子周期及び格子線方位を規定するメイン画素である。
以下、各距離の単位として画素数[pixel]を使用し、これらのメイン画素A、B、Cを詳しく説明する。
先ず、メイン画素Bから基準画素Aまでの距離は、Y方向における実際の格子周期Vを規定している。このY方向の格子周期Vは、Y方向における理想的な格子周期Videalに近い値であって、しかも、以下のとおり必要な位相数Nyの整数倍と同じ値に設定されるべきである。
また、メイン画素Bと基準画素Cとを通る直線がY軸となす角度θは、実際の格子線方位θを規定している。この方位θは、理想的な格子線方位θidealに近い値に設定されるべきである。
また、メイン画素Aから基準画素Cまでの距離は、実際の格子周期pを規定している。この格子周期pは、理想的な格子周期pidealに近い値に設定されるべきである。
因みに、理想的な格子周期pidealとは、±1次回折光束の集光点を瞳面6Aの所定領域に収めるための格子周期のことである。TRIF照明を行う場合、この所定領域は、いわゆるTIRF領域である。格子周期をpとおき光源波長をλとおくと、光軸AZから集光点までの高さDはsin(λ/p)に比例するので、この高さDが適正範囲に収まるように理想的な格子周期pidealが決定される。
ここで、Y方向の理想的な格子周期Videalと、理想的な格子線方位θidealと、理想的な格子周期pidealとの関係は、以下の式で表される。
また、メイン画素Bからメイン画素Cまでの理想的な距離didealは、Videal、pideal、θidealにより以下の式で表される。
また、メイン画素Cを基準としたメイン画素Bの理想的な座標(Xideal、Yideal)は、dideal、θidealにより以下の式で表される。
そこで、縦シフト方式では、駆動回路15Aが以下の手順(a)〜(e)を実行する。
(a)理想的な格子周期pidealの値と、理想的な格子線方位θidealの値とを式(2−2)へ代入することにより、Y方向における理想的な格子周期Videalを求める。そして、Y方向における理想的な格子周期Videalに近く、かつ、式(2−1)を満たすような、Y方向における実際の格子周期Vを求める。ここでは、必要な位相数Nyが「3」であるので、Y方向における実際の格子周期Vの値は、3の整数倍に設定される。そして、メイン画素Bから−Y方向にVだけシフトした位置の画素を、メイン画素Aに選定する。
(b)理想的な格子周期pidealの値と、理想的な格子線方位θidealの値と、Y方向における実際の格子周期Vの値とを式(2−3)へ代入することにより、理想的な距離didealの値を求める。そして、理想的な距離didealの値を式(2−4)、(2−5)へ代入することにより、メイン画素Bを基準としたメイン画素Cの理想的な座標(−Xideal,−Yideal)を求める。そして、その理想的な座標(−Xideal,−Yideal)に最も近い整数座標(−X,−Y)に位置する画素を、メイン画素Cに選定する。
(c)手順(a)、(b)により決定されたメイン画素A、B、Cの位置関係に応じて黒画素及び白画素を配列することにより、部分格子パターンからなるユニットセル13bを生成する。
なお、ユニットセル13bにおける黒画素及び白画素の配置パターンは、図8に示すパターンに限定されることはない。例えば、白画素領域と黒画素領域との境界線がX方向、Y方向、あるいはその双方向にシフトしていてもよく、より極端な状態として、白画素領域と黒画素領域とが反転していてもよい。また、図8では、1格子周期内における白画素数と黒画素数との比が1:1となっているが、1:1から外れていても構わない。この比を変えることで,0次回折光束と±1次回折光束との強度比を制御することができる。
なお、生成されたユニットセル13bの実際の格子線方位θ、実際の格子周期pは、メイン画素Cの実際の座標(−X,−Y)と、メイン画素A、Bで規定される、Y方向の実際の格子周期Vとによって、以下の式で表される。
(d)生成した縦長のユニットセル13bを、SLM13の各画素領域へ並行に表示することで、SLM13の全域へ格子パターンを表示する。但し、或るユニットセル13bのメイン画素Cは、隣接するユニットセルのメイン画素Bと重畳し、或るユニットセル13aのメイン画素Aは、別のユニットセルのメイン画素Bと重畳する。つまり、個々のユニットセル13bの表示先の位置関係は、個々のユニットセル13aのメイン画素A、B、Cを基準として適切に決定される。
(e)SLM13における個々のユニットセル13aの表示先を、Y方向にかけてmy[pixel]の変位周期でNy通りに変位させる。これによって、位相数Nyの位相シフトが実現する。例えば、位相シフトの位相数Nyを3、Y方向の格子周期Vを12[pixel]、ユニットセル13aの表示先の変位周期myを4[pixel]とする。この場合、SLM13に表示された格子パターンの位相は、2π/3[rad]の周期で3通りに切り換わる。
このように,位相シフト方向における格子周期を、必要な位相数の整数倍に設定しておけば、正確な位相シフトが可能となる。
以下、格子周期誤差及び格子線方位誤差の抑制方法を説明する。
上述した横シフト方式又は縦シフト方式では、メイン画素Cの実際の座標(X,Y)(又は座標(−X,−Y))が一意に決まるとは限らないので、格子周期pと格子線方位θとの組み合わせも一意に決まるとは限らない。
仮に、格子周期pと格子線方位θとの組み合わせの解(p,θ)がj通り存在した場合、それらj通りの解の中から最適な解を1つ選択するためには、ユニットセルの設計誤差の指標であるRMSが最小となるようにメイン画素Cの座標(X,Y)を選定する必要がある。ここで、RMSは、例えば以下のとおり定義される。
なお、RMSpは、格子周期のRMSであって、理想的な格子周期pidealと実際の周期pとの差を理想的な格子周期pidealで除した値の絶対値である。また、RMSθは、格子線方位のRMSであって、理想的な格子線方位θidealと実際の格子線方位θとの差の絶対値である。また、Δθは格子線方位誤差の許容量であり、Δpは格子周期誤差の許容量である。
したがって、上述した横シフト方式及び縦シフト方式の各々では、式(3)で定義されるRMSが最小となるように、格子周期pと格子線方位θとの組み合わせが選定されるものとする。
以下、格子周期誤差を横シフト方式と縦シフト方式との間で比較する。
図9は、格子周期誤差を格子線方位ごとに示した図である。図9の横軸が格子線方位、縦軸が格子周期を示している。図9において菱形マークでプロットしたのが理想的な格子周期pidealであり、三角形マークでプロットしたのが横シフト方式で設定される実際の格子周期pであり、正方形マークでプロットしたのが縦シフト方式で設定される実際の格子周期pである。なお、ここでは理想的な格子周期pidealを10[pixel]と仮定し、許容量Δpを0.02と仮定し、許容量Δθを3[°]と仮定した。
図9によると、格子線方位θの大きさ|θ|が45°より小さいときには、横シフト方式よりも縦シフト方式の方が格子周期誤差(=理想的な格子周期と実際の格子周期との差)及び格子線方位誤差を抑え易いことが解る。
また、図9によると、格子線方位θの大きさ|θ|が45°より大きいときには、縦シフト方式よりも横シフト方式の方が格子周期誤差(=理想的な格子周期と実際の格子周期との差)及び格子線方位誤差を抑え易いことが解る。
すなわち、格子線方向がX軸方向に近いとき(45°<|θ|のとき)に横シフト方式を採用し、格子線方向がY軸方向に近いとき(|θ|<45°)に縦シフト方式を採用すれば、格子周期誤差を抑え易くなるので、前述したRMS(式(3))を抑えること(格子周期誤差及び格子線方位誤差の全体を抑えること)も容易となる。
以下、許容量Δpの大きさを検討する。
SIMにおいて、SLM13に表示される格子パターンの格子周期誤差は、解像力に影響する。なぜなら、格子周期誤差が発生すると、±1次回折光束の回折角度が変化するので、集光点の光軸からの高さDが変化し、超解像効果が変化するからである。因みに、(超解像効果)=(構造化照明光による解像力)/(一様照明光による解像力)=(瞳径+集光点間の距離)/(瞳径)が成り立つ。
特に、TIRF−SIMモードでは、上述したとおり瞳面6AのTIRF領域に集光点を収める必要があるので、格子周期誤差に対する許容量は小さくなる。
例えば、対物レンズ6の開口数NAが1.49であり、標本5の屈折率nSが1.33であった場合、TIRF領域は対物レンズのNAのわずか10%程度となる。
また、照明光学系10はケーラー照明であり、瞳面6Aには光ファイバ11の出射端の像が投影倍率の分だけ拡大されて投影されるため、瞳面6Aにおける集光点の位置ズレ許容量は、よりシビアになる。
このため、TIRF−SIMモードでは、RMSpは0.02未満に抑えられることが望ましく、非TIRFの2D−SIMモード又は3D−SIMモードモードでは、RMSpは0.05未満に抑えられることが望ましい。
よって、TIRF−SIMモードでは、許容量Δpは0.02に設定され、非TIRFの2D−SIMモード又は3D−SIMモードモードでは、許容量Δpは0.05に設定されることが望ましい。
以下、許容量Δθの大きさを検討する。
SIMにおいて、SLM13に表示される格子パターンの格子線方位誤差は、SIMの解像範囲(実質的なOTF)に影響する。
図10は、2D−SIMモードにおける構造化照明顕微鏡装置1が伝達可能な空間周波数範囲(解像範囲)を示す図である。図10において実線で囲った範囲は一様照明光による解像範囲(通常解像範囲)であり、点線で囲った範囲が2D−SIMモードの解像範囲(超解像範囲)である。
上述したとおり本実施形態では、格子パターンの格子線方位θを60°の角度周期で3通りに切り換えるので、干渉縞の方向も60°の角度周期で3通りに切り換わる。よって、解像範囲も60°ずつ異なる3つの方向D1、D2、D3の各々に亘って拡大されている。因みに、拡大方向D1、D2、D3の各々における解像範囲の拡大量は、干渉縞の空間周波数kに応じた値となる。
ところで、この解像範囲は、干渉縞の方位誤差、つまり、格子パターンの格子線方位誤差によって狭まる虞がある。なぜなら、格子線方位誤差が発生すると、解像範囲の拡大方向D1、D2、D3の角度周期が60°から外れ、超解像範囲の外縁の窪みDipが大きくなり、超解像範囲の最小半径(=窪みDipにおける半径)が縮小するからである。
ここで、解像範囲の拡大方向D1、D2、D3の実際の角度周期をΘとおくと、この縮小の程度はcosΘに比例する。よって、通常解像範囲の半径をkrとおき、干渉縞の空間周波数をk(kr≧k )とおくと、超解像範囲の実際の最小半径kDipは、以下の式で表される。
簡単のため、k=krとすると、式(4)は、以下の通り書き換えられる。
ここで、本実施形態における解像範囲の拡大方向D1、D2、D3の理想的な角度周期Θidealは60°であるので、式(5)によると、超解像範囲の理想的な最小半径kDip(Θideal)は、1.732×krとなる。
したがって、本実施形態では、仮に、格子線方位誤差のRMSθを4[°]未満に抑えたならば、超解像範囲の理想的な最小半径kDip(Θideal)と超解像範囲の実際の最小半径kDip(Θ)=kDip(Θideal±RMSθ)との比、すなわちkDip(Θideal±RMSθ)/kDip(Θideal)を、97.9%以上にすることができる。
したがって、2D−SIMモードでは、この比を97.9%以上にするために、許容量Δθを4[°]未満、例えば3[°]に設定することが望ましい。
なお、3D−SIMモードにおいても同様のことが当てはまるので、この比を97.9%以上にするためには、許容量Δθを4[°]未満、例えば3[°]に設定することが望ましい。
以下、本実施形態における制御装置39の動作手順を説明する。
本実施形態の制御装置39は、以下の手順(1)〜(4)を実行することにより、超解像画像の生成に必要なデータ(複数枚の変調画像)を取得する。
(1)制御装置39は、光源波長を2種類の波長λ1、λ2の双方に設定すると共に、0次回折光束をオフする。
(2)制御装置39は、1/2波長板17の進相軸の方向を図4(A)の方向に設定する。そして、制御装置39は、理想的な格子線方位θidealが−45°である格子パターンをSLM13へ表示すると共に、その格子パターンの位相をシフトさせ、各位相の下で、第1蛍光領域の変調画像及び第2蛍光領域の変調画像を並列に(同時に)に取得する。但し、|θ|=45°であるこの位相シフトでは、横シフト方式又は縦シフト方式が採用される。また、この位相シフトでは、理想的な格子周期pidealは例えば10[pixel]に設定され、必要な位相数Nx又はNyは、例えば3に設定され、許容量Δpは例えば0.02に設定され、許容量Δθは例えば3[°]に設定される。
(3)制御装置39は、1/2波長板17の進相軸の方向を図4(B)の方向に設定する。そして、制御装置39は、理想的な格子線方位θidealが75°である格子パターンをSLM13へ表示すると共に、その格子パターンの位相をシフトさせ、各位相の下で、第1蛍光領域の変調画像及び第2蛍光領域の変調画像を並行に取得する。但し、45°<|θ|であるこの位相シフトでは、縦シフト方式ではなく横シフト方式が採用される。一方、この位相シフトでは、pideal、Nx、Δp、Δθの値は手順(2)におけるそれと同じに設定される。
(4)制御装置39は、1/2波長板17の進相軸の方向を図4(C)の方向に設定する。そして、制御装置39は、理想的な格子線方位θidealが15°である格子パターンをSLM13へ表示すると共に、その格子パターンの位相をシフトさせ、各位相の下で、第1蛍光領域の変調画像及び第2蛍光領域の変調画像を並行に取得する。但し、|θ|<45°であるこの位相シフトでは、横シフト方式ではなく縦シフト方式が採用される。一方、この位相シフトでは、pideal、Ny、Δp、Δθの値は手順(2)、(3)におけるそれと同じに設定される(以上、手順(4))。
以上説明したとおり手順(2)、(3)、(4)では、格子パターンの格子線をX方向及びY方向の何れに対しても非平行に設定するので、格子周期を画素周期の整数倍にするという制約が無くなり、正確な位相シフトを実現しつつ、格子パターンの作成自由度を向上することができる。
しかも、手順(2)、(3)、(4)によると、格子線の方向がX方向に近いとき(45°<|θ|のとき)には横シフト方式が適用され、格子線の方向がY方向に近いとき(|θ|<45°のとき)には縦シフト方式が適用されるので、格子周期誤差及び格子線方位誤差の双方を確実に抑制しつつ、位相シフトの正確性を維持することができる。
したがって、本実施形態の制御装置39は、復調演算に必要な複数枚の変調画像を、高精度に取得することができる。
したがって、本実施形態の画像記憶・演算装置39は、それら複数枚の変調画像に基づく超解像画像の生成を、高精度に行うことができる。
なお、本実施形態の制御装置39は、手順(1)〜(4)からなる一連の処理を繰り返し、本実施形態の画像記憶・演算装置40は、その一連の処理が完了する度に超解像画像の生成(更新)を行ってもよい。
但し、一連の処理を繰り返す場合、2回目以降の処理では、制御装置39は上述した手順(1)を省略することができる。
[各実施形態の補足]
なお、上述した実施形態では、横シフト方式と縦シフト方式との何れを採用するかを駆動回路15Aが判断したが、この判断の機能は制御装置39の側に搭載されてもよい。また、駆動回路15Aの他の機能の一部又は全部は制御装置39の側に搭載されてよい。
また、上述した実施形態では、格子線方位θを−45°、75°、15°の間で切り換えたが、他の3方位の間で切り換えてもよい。また、上述した実施形態では、格子線方位θの数(方位数)を「3」としたが、「2」又は「4以上」としてもよいことは言うまでもない。
但し、何れの場合も、格子線方位θは|θ|≠0°、|θ|≠90°とされる。なぜなら、|θ|が0°又は90°である場合(つまり格子線がX軸又はY軸と平行である場合)は、格子周期pを画素周期の整数倍にせざるを得ないので、格子周期pの設計自由度が著しく低下するからである。
なお、方位数を3とした場合は、3方位の間の角度周期Θを60°に設定することが望ましく、方位数を2とした場合は、2方位の間の角度周期Θを90°に設定することが望ましく、方位数を4とした場合は、4方位の間の角度周期Θを45°に設定することが望ましい。方位数を5とした場合は、5方位の間の角度周期Θを36°に設定することが望ましい。つまり、方位間の角度周期Θは、超解像範囲(図10参照)がなるべく大きくなるように設定されることが望ましい。
因みに、図11、図12に示すのは、方位数を5とし、5方位の間の角度周期Θを36°に設定した場合の例である。格子線方位θは、例えば、図11に示すとおりθ=2°、θ=38°、θ=74°、θ=−70°、θ=−34°の間で切り換わり、超解像範囲は、図12に示すとおり36°ずつ異なる5つの方向D1、D2、D3、D4、D5の各々に亘って拡大される。
また、上述した実施形態では、構造化照明顕微鏡装置1を2D−SIMモードとして使用するために、0次光回折光束をオフして標本5へ投影する干渉縞を2光束干渉縞としたが、0次光回折光束をオンすれば、標本5へ投影する干渉縞を3光束干渉縞とすること(すなわち、構造化照明顕微鏡装置1を3D−SIMモードで使用すること)も可能である。
このように、3つの回折光束の干渉(3光束干渉)によって生成される干渉縞は、標本2の表面方向だけでなく、標本5の深さ方向にも空間変調されている。よって、この干渉縞によると、標本5の深さ方向にも超解像効果を得ることができる。
但し、構造化照明顕微鏡装置1を3D−SIMモードで使用する場合には、0次回折光束と±1次回折光束との間の強度バランスを調整する必要が生じる。なぜなら、OTFを最適化するための強度バランスは、2D−SIMモードと3D−SIMモードとの間で異なるからである。そこで、構造化照明顕微鏡装置1を3D−SIMモードで使用する場合には、1格子周期内における白画素数と黒画素数との比を、1:1から変化させることが望ましい。あるいは、一部の回折光束の光路へ、適切な透過率の減光フィルタ(NDフィルタ)を配置することが望ましい。
また、2D−SIMモードと3D−SIMモードとの間では、画像記憶・演算装置40が実行すべき復調演算の内容が異なる。なぜなら、2D−SIMモードで生成される変調画像には、互いに分離すべき3つの成分が重畳されているのに対して、3D−SIMモードで生成される変調画像には、互いに分離すべき5つの成分が重畳されているからである。
また、2D−SIMモードと3D−SIMモードとの間では、変調画像に重畳する変調成分の数が異なるので、制御装置43が取得すべき変調画像のフレーム数(=必要な位相数N)なども異なる。
因みに、2D−SIMモードでは、必要な位相数Nを「3」に設定したが、3D−SIMモードでは、必要な位相数Nをそれよりも大きな数、例えば「5」などに設定することが望ましい。
また、上述した実施形態では、光源波長の数を2としたが、1としてもよく、また、2以上に拡張してもよい。
また、上述した実施形態では、互いに波長の異なる複数枚の変調画像を並列に(同時に)取得したが、直列に(時系列順に)取得してもよい。その場合、光源波長λの切り換えに応じて理想的な格子周期pidealを調整すれば、光軸AZから集光点までの高さを光源波長λに依らず一定に保ち、前述した超解像効果を光源波長λに依らず一定に保つことができる。
また、波長の異なる複数枚の変調画像を順次に取得する場合は、第1撮像素子351及び第2撮像素子352の何れか一方と第2ダイクロイックミラー35とを省略してもよい。
また、上述した実施形態では、標本5に入射する±1次回折光束をS偏光に保つために、進相軸の方向を切り換え可能な1/2波長板17を使用したが、1/2波長板の代わりに、2枚の1/4波長板を使用すると共に、一方の1/4波長板の進相軸の方向を切り換え可能としてもよい。
また、上述した実施形態では、干渉縞(2D−SIMモードの2光束干渉縞又は3D−SIMモードの3光束干渉縞)を形成するための回折光として、±1次回折光及び0次回折光の組み合わせを用いたが、他の組み合わせを用いてもよい。3光束干渉縞を形成するためには、回折次数の間隔が等間隔な3つの回折光による3光束干渉を生起させればよいので、例えば、0次回折光、1次回折光、2次回折光の組み合わせ、±2次回折光及び0次回折光の組み合わせ、±3次回折光及び0次回折光の組み合わせ、などを用いることが可能である。
また、上述した実施形態の照明光学系10は、対物レンズ6による落射照明光学系で構成されたが、これに限られず、対物レンズ6に代えてコンデンサレンズによる透過・反射照明光学系で構成されてもよい。その場合、集光点が形成されるのは、コンデンサレンズの瞳面である。
[実施形態の作用効果]
以上、本実施形態の構造化照明装置(照明光学系10)は、光源(レーザユニット100)からの射出光束を複数の光束に分岐する分岐部(光束分岐部15)と、前記複数の光束による干渉縞を標本に形成する光学系と、前記分岐部を制御する制御部(駆動回路15A)とを備え、前記分岐部(光束分岐部15)は、第1配列方向(X方向)及び第2配列方向(Y方向)に配列された単位素子群(画素群)からなる部材を含む空間光変調器(SLM13)を有し、前記制御部(駆動回路15A)は、第1の位相遅延量を前記射出光束に対して付与する領域と第2の位相遅延量を前記射出光束に対して付与する領域との繰り返しからなる周期領域(格子パターン)を前記空間光変調器(SLM13)内に設定する駆動信号、或いは、前記射出光束を第1の強度の光に変換する領域と前記射出光束を第2の強度の光に変換する領域との繰り返しからなる周期領域(格子パターン)を前記空間光変調器(SLM13)内に設定する駆動信号を、前記単位素子群(画素群)のうちの所定の各単位素子(各画素)へ出力し、前記周期領域(格子パターン)の繰り返し方向(格子線と垂直な方向)が前記第1配列方向(X方向)及び前記第2配列方向(Y方向)の双方から外れるように前記駆動信号を前記単位素子群(画素群)のうちの前記所定の各単位素子(各画素)へ出力すると共に、前記周期領域(格子パターン)の繰り返し方向(格子線と垂直な方向)が前記第2配列方向(Y方向)より前記第1配列方向(X方向)に近い方向と、前記第1配列方向(X方向)より前記第2配列方向(Y方向)に近い方向との間で切り換わるように、前記駆動信号を切り換える。
このようにすれば、前記周期領域(格子パターン)の繰り返し方向(格子線と垂直な方向)が前記第1配列方向(X方向)及び前記第2配列方向(Y方向)から意図的に外され、前記周期領域(格子パターン)の周期を画素配列周期の整数倍にするという制約が無くなるので、正確な位相シフトを実現しつつ、前記周期領域(格子パターン)の作成自由度を向上することが可能となる。
また、前記制御部(駆動回路15A)は、前記周期領域(格子パターン)の繰り返し方向(格子線と垂直な方向)が前記第1配列方向(X方向)より前記2配列方向(Y方向)に近いとき、すなわち、格子パターンの格子線方向が前記第2配列方向(Y方向)より前記第1配列方向(X方向)に近いときには、前記周期領域が前記第1配列方向(X方向)に沿って所定量シフトするような前記駆動信号を前記所定の単位素子へ出力し、前記周期領域(格子パターン)の繰り返し方向(格子線と垂直な方向)が前記第2配列方向(Y方向)より前記第1配列方向(X方向)に近いとき、すなわち、格子パターンの格子線方向が前記第1配列方向(X方向)より前記第2配列方向(Y方向)に近いときには、前記周期領域が前記第2配列方向(Y方向)に沿って所定量シフトするような前記駆動信号を前記所定の単位素子へ出力する。
このように、前記繰り返し方向(格子線と垂直な方向)が前記第2配列方向(Y方向)に近いとき(45°<|θ|のとき)と、前記第1配列方向(X方向)に近いとき(|θ|<45°のとき)とで、前記駆動信号を適切に切り換えれば、前記周期領域(格子パターン)の周期誤差及び方位誤差の双方を抑制しつつ、位相シフトの正確性を維持することができる。
また、前記制御部(駆動回路15A)は、前記周期領域の繰り返し方向(格子線と垂直な方向)が前記第1配列方向(X方向)より前記第2配列方向(Y方向)に近いときには、必要な位相数Nxと、前記第1配列方向(X方向)における前記周期領域(格子パターン)の周期Hとの関係を、H[pixel]=Nx×mx[pixel]に設定し(但し、mx:整数)、前記周期領域の繰り返し方向(格子線と垂直な方向)が前記第2配列方向(Y方向)より前記第1配列方向(X方向)に近いときには、必要な位相数Nyと、前記第2配列方向(Y方向)における前記周期領域(格子パターン)の周期Vとの関係を、V[pixel]=Ny×my[pixel]に設定する(但し、my:整数)。
また、前記制御部(駆動回路15A)は、前記周期領域の繰り返し方向(格子線と垂直な方向)が前記第1配列方向(X方向)より前記第2配列方向(Y方向)に近いときには、前記周期領域がmx[pixel]の周期で前記第1配列方向にシフトするような前記駆動信号を出力し、前記周期領域の繰り返し方向(格子線と垂直な方向)が前記第2配列方向(Y方向)より前記第1配列方向(X方向)に近いときには、前記周期領域がmy[pixel]の周期で前記第2配列方向にシフトするような前記駆動信号を出力する。
ここで、非特許文献1では、前記周期方向(格子線と垂直な方向)を切り換える場合、前記周期領域(格子パターン)の周期誤差が抑えられないという問題が発生し得るが、前記制御部(駆動回路15A)のように、前記駆動信号を前記周期方向(格子線と垂直な方向)に応じて適切に切り換えれば、この問題を確実に回避できる。
また、前記制御部(駆動回路15A)は、前記周期領域の繰り返し方向(格子線と垂直な方向)が前記第1配列方向(X方向)より前記第2配列方向(Y方向)に近いときには、前記第1配列方向(X方向)に長い部分周期領域(単位格子パターン13a)を形成するための前記駆動信号を、前記空間光変調器(SLM13)の前記所定の単位素子へ同時に出力することにより、前記周期領域(格子パターン)の全体を形成し、前記周期領域の繰り返し方向(格子線と垂直な方向)が前記第2配列方向(Y方向)より前記第1配列方向(X方向)に近いときには、前記第2配列方向(Y方向)に長い部分周期領域(単位格子パターン13b)を形成するための前記駆動信号を、前記空間光変調器(SLM13)の前記所定の単位素子へ同時に出力することにより、前記周期領域(格子パターン)の全体を形成する。
したがって、前記制御部(駆動回路15A)は、前記周期領域の繰り返し方向(格子線と垂直な方向)に依らず簡単に前記周期領域(格子パターン)を前記空間光変調器(SLM13)へ形成することができる。
また、前記制御部(駆動回路15A)は、前記周期領域の繰り返し方向(格子線と垂直な方向)を、前記第1配列方向(X方向)及び前記第2配列方向(Y方向)の双方から外れ、かつ約60°ずつずれた3つの方向の間で切り換える(図2参照)。
また、前記制御部(駆動回路15A)は、前記周期領域の繰り返し方向(格子線と垂直な方向)を、前記第1配列方向(X方向)及び前記第2配列方向(Y方向)の双方から外れ、かつ約36°ずつずれた5つの方向の間で切り換える(図11参照)。
また、前記空間光変調器(SLM13)は、液晶素子を備え、前記空間光変調器(SLM13)の前記周期領域(格子パターン)は、前記第1の位相遅延量を前記射出光束に対して付与する領域と前記第2の位相遅延量を前記射出光束に対して付与する領域との繰り返しからなる。
この場合、前記空間光変調器(SLM13)は位相型回折格子として機能する。
或いは、前記空間光変調器(SLM13)は、液晶素子と偏光子とを備え、前記空間光変調器(SLM13)の前記周期領域(格子パターン)は、前記射出光束を前記第1の強度の光に変換する領域と前記射出光束を前記第2の強度の光に変換する領域との繰り返しからなる。
この場合、前記空間光変調器(SLM13)は振幅型回折格子として機能する。
また、本実施形態の構造化照明顕微鏡装置(1)は、本実施形態の構造化照明装置(照明光学系10)と、照明された前記標本の像である変調像を撮像する撮像素子(351、352)とを備える。
したがって、本実施形態の構造化照明顕微鏡装置(1)は、前記標本(5)の超解像に必要な複数枚の変調画像を高精度に取得することができる。
また、本実施形態の構造化照明顕微鏡装置(1)は、前記撮像素子(351、352)が生成する画像に基づき前記標本の復調像を生成する演算手段(画像記憶・演算装置40)を更に備える。
したがって、本実施形態の構造化照明顕微鏡装置(1)は、超解像画像を高精度に取得することができる。
[その他]
なお、上述の各実施形態の要件は、適宜組み合わせることができる。また、一部の構成要素を用いない場合もある。また、法令で許容される限りにおいて、上述の各実施形態及び変形例で引用した装置などに関する全ての公開公報及び米国特許の開示を援用して本文の記載の一部とする。