以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、一実施形態に係る地下構造10の概略構成を示す立断面図である。本実施形態に係る地下構造10は、地下部分を有するビルの建替え時の地下部分の構造である。ここで、地下構造10は帯水層に位置するため、地下構造10には地下水圧による揚圧力が作用する。
地下構造10は、解体されずに残置された既存地下躯体20と、既存地下躯体20の内側に構築された複数の筒状体30と、既存地下躯体20の下方の地盤に打設された複数の新設杭40とを備えている。また、既存地下躯体20は、既存耐圧盤22と、既存壁24と、既存柱26と、既存梁28とを備えている。
新設杭40は、既存耐圧盤22の下方の地盤中における既存柱26及び既存梁28とは平面的に重ならない位置に打設された場所打ち鋼管コンクリートであり、その頭部は鋼管42が埋設されることで補強されている。なお、新設杭40を、既存柱26及び既存梁28と平面的に重なる位置に打設してもよく、その場合には、筒状体30が、地下既存躯体20を補強するように設置された後に、既存柱26及び既存梁28が撤去される。また、新設杭40には、鉄筋籠44(図2参照)が埋設されており、この鉄筋籠44の上部は、鋼管42に挿通されている。さらに、新設杭40は多段拡径杭であり、拡底部40Bと、拡底部40Bより上側に形成された複数段の拡径部40Cとを備えている。
また、筒状体30は、コンクリート壁により矩形筒状に構成された仮設の構造体であり、既存耐圧盤22の上面から水頭(地下水位W.L)よりも高位まで延びるように各新設杭40毎に構築されている。
図2は、新設杭40の頭部と既存耐圧盤22との接合部を示す立断面図である。この図に示すように、既存耐圧盤22には、新設杭40の頭部が貫通する孔22Aが形成されている。この孔22Aの直径は、新設杭40の直径よりも僅かに大きくなっており、孔22Aと新設杭40の頭部との間には泥土モルタル等の遮水材12が充填されている。
また、筒状体30の内径(矩形の中空部の各辺の長さ)は、孔22Aの直径よりも大きくなっており、平面視で筒状体30が孔22Aを囲っている。また、新設杭40の頭部には、平面視で矩形状の余盛り部40Aが形成されている。この余盛り部40Aは、筒状体30の下部までコンクリートを打設することにより構築されている。
ここで、鋼管42の天端は、既存耐圧盤22の天端より上側に配されている。鋼管42の既存耐圧盤22から上側に突出した部分の外周面には、複数のツバ部46が、周方向に所定間隔(例えば、図3に示すように90°間隔)で設けられている。各ツバ部46は、鋼管42の外周面から水平に張り出した矩形板状のフランジ部46Aと、フランジ部46Aの上面と鋼管42の外周面とに結合された一対の三角形状のリブ46Bとを備えている。一対のリブ46Bは互いに平行に配されており、フランジ部46Aを補強している。
フランジ部46Aは、鋼管42の外周面から孔22Aの周縁部まで張り出しており、既存耐圧盤22の上面における孔22Aの周縁部に当接している。即ち、ツバ部46は、既存耐圧盤22の孔22Aの周縁部に上側から係合している。
図1に示すように、地下構造10では、地盤から既存耐圧盤22に作用する揚圧力が、解体されることにより軽量化された既存地下躯体20の重量を上回ることによって、既存耐圧盤22に浮力Pが作用する。それに対して、新設杭40には地盤から引抜き抵抗力Qが生じる。この引抜き抵抗力Qと浮力Pとのバランスが取れるように、新設杭40の径、打設深さ、拡底部40B及び拡径部40Cを設けるか否か、設ける場合にはその寸法等が決められている。
図4〜図9は、地下部分を有するビルの建替えの手順を示す立断面図である。図4に示すように、既存建造物としてのビルの地下部分には、上記既存地下躯体20の既存耐圧盤22、既存壁24、既存柱26及び既存梁28に加えて既存スラブ29が存在する。
まず、図5に示すように、既存スラブ29(図4参照)を解体する。そして、既存地下躯体20の内側に複数の筒状体30を構築する。ここで、筒状体30は、新設杭40の施工位置毎に、既存耐圧盤22から地下水位W.Lを超えて地上まで延びるように構築する。なお、筒状体30を構築した後に既存スラブ29を解体してもよい。
次に、図6に示すように、既存耐圧盤22に新設杭40を貫通させるための孔22Aを空ける。この工程では、筒状体30に全旋回掘削機のケーシング1を挿入し、該ケーシング1を回転させながら既存耐圧盤22に圧入することにより、筒状体30の内側において既存耐圧盤22に孔22Aを空ける。
次に、図7に示すように、孔22Aを通して既存耐圧盤22の天端から下方地盤の所定深さまで、土砂を泥土モルタル等の遮水性のある材料に置換することにより、止水部14を構築する。ここで、止水部14の既存耐圧盤22の天端からの深さは、孔22Aからの地下水の漏出を防止できるように設定する。なお、止水部14が地下水圧で浮き上がることが懸念される場合には、筒状体30内に水又は安定液を入れることで、これを抑止する。
次に、図8に示すように、筒状体30内に安定液を入れてアースドリル工法等により削孔する。この工程では、孔22Aと同軸に止水部14の外周部(上述の遮水材12)が残るように削孔する。なお、新設杭40の打設時の位置決めのためにスタンドパイプが必要な場合には、これを筒状体30内に建て込む。
次に、図9に示すように、鉄筋籠44及び鋼管42を杭孔41に挿入して、杭孔41にコンクリートを打設する。ここで、鋼管42のツバ部46を既存耐圧盤22の孔22Aの周縁に上側から係合させる。また、コンクリートを杭孔41の天端まで打設した後、既存耐圧盤22の上まで打設することにより余盛り部40Aを構築する。なお、逆打ち工法を実施する場合には、逆打ち支柱をコンクリートが硬化する前の新設杭40に挿入する。
以上説明したように、本実施形態に係る既存地下躯体20を有するビルの建替え時の地下構造10は、解体されずに地下に残置された既存耐圧盤22と、既存耐圧盤22を貫通するように打設された新設杭(新設場所打ちコンクリート杭)40と、新設杭40の頭部に既存耐圧盤22の貫通孔22Aから突出するように埋設された鋼管42と、鋼管42から外径側に張り出して既存耐圧盤22に上側から係合するツバ部46とを備えている。これによって、既存耐圧盤22に作用する揚圧力が、解体されて軽量化された既存地下躯体20の重量を上回ることにより、既存耐圧盤22に浮力Pが作用した場合に、新設杭40には地盤から引抜き抵抗力Qが生じ、この引抜き抵抗力Qと浮力Pとのバランスが取られる。従って、既存地下躯体20の揚圧力による浮き上がりや、被圧水の水圧による地盤の盤ぶくれ現象を抑えた状態で、最下階まで既存地下躯体20の解体作業と新設躯体の構築作業とを実施できる。
また、地下構造10は、既存耐圧盤22上に余盛り部40Aを囲い地下水位以上まで延びるようにコンクリート壁で構成された筒状体30を備えている。これによって、新設杭40の施工時に地下水が既存耐圧盤22の孔22Aから噴出して飛散することを防止できる。
ここで、筒状体30をコンクリート壁で構成することにより、筒状体30の断面形状や寸法を自由に設計することが可能である。従って、既製品のケーシングよりも大径の新設杭40を設計し、該新設杭40の直径に応じて筒状体30の断面寸法を設計することができる。また、専用品のケーシングを作製する場合に比して施工コストを低減できる。
また、地下構造10では、鋼管42から外径側に張り出すようツバ部46を設け、該ツバ部46を既存耐圧盤22に上側から係合させることによって、新設杭40を既存耐圧盤22に浮力に抵抗できるように一体化させている。これによって、鋼管42を新設杭40の頭部に埋設するという容易な施工によって、新設杭40を既存耐圧盤22に浮力に抵抗できるように一体化させることができる。
図10は、他の実施形態に係る新設杭140の頭部と既存耐圧盤22との接合構造を示す立断面図である。この図10及び図11に示すように、本実施形態では、鋼管142の天端に円環状のフランジ部146が設けられている。このフランジ部146は、鋼管142の天端から孔22Aの周縁部まで張り出しており、既存耐圧盤22の上面における孔22Aの周縁部に当接している。即ち、フランジ部146は、既存耐圧盤22の孔22Aの周縁部に上側から係合している。
図12は、他の実施形態に係る新設杭240の頭部と既存耐圧盤22との接合構造を示す立断面図である。この図12及び図13に示すように、本実施形態では、鋼管242の既存耐圧盤22から上側に突出した部分の外周面に、ツバ部246が設けられている。ツバ部246は、鋼管42の外周面から水平に張り出した円環状のフランジ部246Aと、フランジ部246Aの上面と鋼管42の外周面とに結合された複数の三角形状のリブ46Bとを備えている。複数のリブ46Bは、鋼管242の周方向に所定間隔おきに配されており、フランジ部246Aを補強している。
フランジ部246Aは、鋼管42の外周面から孔22Aの周縁部まで張り出しており、既存耐圧盤22の上面における孔22Aの周縁部に当接している。即ち、ツバ部246は、既存耐圧盤22の孔22Aの周縁部に上側から係合している。
図14は、他の実施形態に係る新設杭340の頭部と既存耐圧盤22との接合構造を示す立断面図である。この図に示すように、本実施形態では、近接して構築する複数の新設杭340に対して1個の筒状体330が構築される。また、複数の新設杭340の余盛り部340Aは一体となっている。ここで、筒状体330をコンクリート壁で構成することで、筒状体330の断面形状や寸法の設計自由度を高めたことにより、複数の新設杭340を近接して構築する場合でも、地下水が噴出して飛散することを防止するための仮設の構造体を設置できる。
図15は、逆打ち工法を実施する場合の新設杭40の頭部と既存耐圧盤22との接合構造を示す立断面図である。この図に示すように、逆打ち工法を実施する場合には、逆打ち支柱2を新設杭40に建て込む。これにより、新設躯体の荷重を押込み力として新設杭40に作用させることができ、より効果的に、既存地下躯体20の揚圧力による浮き上がりや、被圧水の水圧による地盤の盤ぶくれ現象を抑えることができる。
なお、上述の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。例えば、上述の実施形態では、矩形筒状の筒状体30、330を例に挙げて本発明を説明したが、筒状体の断面形状は円形状等の他の形状にしてもよい。