半導体素子などの素子冷却に使用される放熱用熱拡散板に用いられる高熱伝導性材料としては、純アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム系金属素材中に炭素系材料を混合した高熱伝導性複合材料が知られている。熱伝導性の改善に使用される炭素系材料としては、炭素繊維(CF)やカーボンナノチューブ(CNT)、気相成長炭素繊維(VGCF)といった繊維系のものと、グラファイト(黒鉛)やダイヤモンドなどの粉末系のものとが一般的である。カーボンナノチューブも気相成長炭素繊維も共にグラフェンにより構成された極細のチューブ状構成物であり、以下に説明するごとく、積層構造及びこれに伴う繊維径の違いによって区別されている。
グラフェンとは、6個の炭素原子が二次元的に規則的に配列して構成されたハニカム構造のネットであって、炭素六角網面とも呼ばれ、このグラフェンが規則性をもって積層したものはグラファイトと呼ばれる。このグラフェンにより構成された単層又は多層で且つ極細のチューブ状構成物が繊維状の炭素系材料であり、カーボンナノチューブも気相成長炭素繊維も含んでいる。すなわち、カーボンナノチューブは、グラフェンが円筒形状に丸まったシームレスのチューブであり、単層のものと同心円状に積層した複数層のものがある。単層のものは単層カーボンナノチューブと呼ばれ、複数層のものは多層カーボンナノチューブと呼ばれている。
また、気相成長炭素繊維は、グラフェンが円筒形状に丸まった単層又は複数層のグラフェンチューブ、すなわちカーボンナノチューブを芯部に有しており、その芯部を多重に且つ多角形状に取り囲むようにグラファイトがグラフェンチューブの径方向に積層されたものであり、その構造から超多層カーボンナノチューブとも呼ばれる。換言すれば、気相成長炭素繊維の中心部に存在する単層又は多層のカーボンチューブがカーボンナノチューブである。
このような繊維状の炭素系材料や前述した粉末状の炭素系材料を金属やセラミックス、更にはこれらの混合物に含有させて金属やセラミックスの特徴を生かしつつ炭素系材料により熱伝導性の向上を図った複合材料は多々提案されており、その一つが特許文献1に記載された高熱伝導性複合材料である。
特許文献1に記載された高熱伝導性複合材料の一つは、アルミニウム粉末と細かく切り刻んだ繊維状の炭素系材料とを攪拌して得た混合物を板状にプリフォームし、しかるのちに、その板材を板厚方向に加圧しながら板材中のアルミニウム粉末を放電プラズマ焼結して得た混合型複合材料である。このような板状の高熱伝導性複合材料は、焼結の過程で材料中の繊維状の炭素系材料が両表面に平行な方向に配向するので、両表面に平行な方向の熱電導性に優れ、これに垂直な板厚方向の熱電導性が劣るという本質的特性を有する。
このような高熱伝導性複合材料の用途の一つとして、半導体素子の冷却に使用される放熱用熱拡散板があるのは冒頭に述べたとおりである。その使用方法は、板状複合材料の一方の表面に半導体素子を搭載し、他方の表面に空冷フィンや水冷ジャケットを接合することにより、半導体素子から発せられる熱を熱拡散板の両表面に平行な方向に拡散させながら裏面側の空冷フィンや水冷ジャケットに効率よく伝えることにより、半導体素子の冷却を促進するというものである。
しかしながら、特許文献1に記載された混合型高熱伝導性複合材料は、繊維状の炭素系材料が混入することにより、アルミニウム粉末焼結体単体と比べると機械的強度が低い。このため、この複合材料は、素子搭載部を兼ねる放熱用熱拡散板として直接使用することができない制約がある。この制約を取り除くために、アルミニウム粉末焼結体やアルミニウムバルク体からなる一対の薄板部材間に、アルミニウムと炭素系材料との板状複合材料からなる高熱伝導性母材を挟み込んだサンドイッチ構造の高熱伝導板が、特許文献2により提示されている。
アルミニウムと炭素系材料との板状複合材料からなる高熱伝導性母材の両表面にアルミニウムの薄板部材が接合された放熱用熱拡散板の場合、放熱側の薄板部材表面での放熱性を高めるためには、板面に平行な方向の熱伝導性だけでなく、板厚方向の熱伝導性も重要となる。しかしながら、両側の薄板部材間に挟まれる高熱伝導性母材、すなわちアルミニウムと炭素系材料とからなる高熱伝導性の複合材料は、それに使用する炭素系材料の異方性により、板面に平行な方向の熱伝導性に優れるものの、板厚方向の熱伝導性に劣り、結果的に放熱性能が低下するという傾向が見られる。この傾向は安価な炭素系材料ほど顕著である。
例えば、アルミニウムと混合される炭素系材料のなかでカーボンファイバーは比較的安価であるが、アルミニウムとカーボンファイバーとからなる板状の高熱伝導性複合材料の場合、板面に平行な方向の熱伝導率λxyは350W/mK程度であり、板厚方向の熱伝導率λzは100W/mK程度である。価格がカーボンファイバーと同程度の黒鉛の場合は、板面に平行な方向の熱伝導率λxyは500W/mKに上昇するが、板厚方向の熱伝導率λzは50W/mK程度に低下する。その結果、放熱特性は、炭素系材料がカーボンファイバーの場合より黒鉛の場合の方が若干向上する程度である。炭素系材料がこれらより極端に高価な気相成長炭素繊維の場合は、板面に平行な方向の熱伝導率λxyは500W/mK程度と高く、板厚方向の熱伝導率λzも100W/mK程度と高い。その結果、放熱性能は非常に良好である。
熱伝導率の偏向性を緩和するために、繊維の方向を特定の一方向に揃えたブロック状の高熱伝導性複合材料から繊維の方向を違えた板材を切り出し、これらを並べ替えて組み合わせることによりX−Y−Zの3方向の熱伝導性を高い次元で均等化する技術は特許文献3により提示されている。
しかしながら、この技術では先ず、高熱伝導性複合材料中の繊維の方向を一方向に揃えることが必要となる。その上、一度、作製されたブロックから薄板を切り出し、更にその薄板を再度、拡散接合するという手間も必要となる。これらのために、作製される高熱伝導性複合材料のコストが非常に高くなる。
このようなことから、半導体素子冷却のための放熱用熱拡散板に使用して放熱特性に優れ、しかも経済性に優れた高熱伝導板が求められている。
本発明の目的は、板面に平行な方向の熱伝導性だけでなく、これに垂直な板厚方向の熱伝導性に優れることにより、半導体素子冷却等のための放熱用熱拡散板に使用して優れた素子冷却性能を示し、しかも経済性に優れた高熱伝導板を提供することにある。
上記目的を達成するために、本発明者らは、半導体素子冷却のための放熱用熱拡散板に使用されるサンドイッチ構造の高熱伝導板、すなわち、アルミニウムと炭素系材料との板状複合材料を高熱伝導性母材とし、その高熱伝導性母材の両表面にアルミニウムを主体とする薄板部材が接合された高熱伝導板の、特に放熱特性とコストとの関係に着目した。この関係とは、前述したとおり、高熱伝導性母材の板厚方向の熱伝導率λzが低く放熱特性が劣るものほど、高熱伝導性母材の価格が下がるというものである。
この傾向からすると、安価な高熱伝導性母材を使用した高熱伝導板の板厚方向の熱伝導率λzを、高熱伝導性母材の材質変更によらずに、簡易な物理的手段で改善することができるならば、安価で高性能な高熱伝導板が得られることになる。
本発明者らは、前記高熱伝導板の放熱特性だけでなく、機械的強度等も含めた総合的な性能の向上に取り組んでおり、その一環として、機械的強度、特に高熱伝導性母材の両表面に接合された薄板部材の接合強度を高めることを目的として、両側の薄板部材を、薄板部材と同材料からなる柱状部材により高熱伝導性母材中で連結することを試みた。その結果、高熱伝導性母材の両表面に接合された薄板部材の接合強度が向上するのは当然のことであるが、それ以外にも、当該高熱伝導板の放熱側での放熱特性が向上するという予期せぬ二次的効果の得られることが判明した。また、その二次的効果は、高熱伝導性母材中における柱状部材の配置位置や断面積により影響を受けることも合わせて判明した。
すなわち、アルミニウム自体の熱伝導率λは200W/mK強である。これは、アルミニウムと炭素系材料との板状複合材料からなる高熱伝導性母材の板面に平行な方向の熱伝導率λxyより低いが、同方向に垂直な板厚方向の熱伝導率λzに比べると高い。このため、半導体素子搭載位置直下において高熱伝導性母材中をアルミニウムの柱状部材が板厚方向に貫通すると、単に板厚方向の熱伝導率λzが改善されるだけでなく、半導体素子からの発熱が当該柱状部材を通して直接的に裏面側(放熱側)の薄板部材に伝わり、放熱性が向上するのである。そして、この効果は、好都合なことに、板厚方向の熱伝導率λzが低く総じて安価な高熱伝導性母材ほど顕著となる。
その一方、高熱伝導性母材の板面に平行な方向の熱伝導率λxyに着目した場合は、アルミニウムの方が熱伝導率λは低いために、半導体素子搭載位置直下に柱状部材が存在することは、板面に平行な方向の熱伝導率λxyに悪影響を与える問題が懸念される。しかしながら、熱伝導率λxyが受ける悪影響は小さい。その結果、半導体素子搭載位置直下に配置された柱状部材の断面積に、板厚方向の熱伝導率λzに支配される最適値が存在することになる。
本発明の高熱伝導板はかかる知見を基礎として完成されたものであり、アルミニウム系金属と炭素系材料との板状複合材料からなり板面に平行な方向の熱伝導率λxyが板厚方向の熱伝導率λzより高い高熱伝導性母材と、前記高熱伝導性母材の両表面に接合され一方が熱源搭載板、他方が放熱側基板とされたアルミニウム系金属主体の薄板部材と、前記熱源搭載板上の熱源搭載位置直下で前記高熱伝導性母材を板厚方向に貫通し両端が両面側の薄板部材と接合されたアルミニウム系金属主体の柱状部材とを有している。
アルミニウム系金属主体の柱状部材の熱伝導率λは基本的に方向性、配向性のない、いわゆる等方であり、高熱伝導性母材の板面に平行な方向の熱伝導率λxyより小さく、板厚方向の熱伝導率λzより大きくなる。本発明の高熱伝導板においては、この柱状部材が熱源搭載位置直下の高熱伝導性母材中を板厚方向に貫通することにより、熱源からの発熱が直接的に裏面側の放熱側基板に伝わり、炭素系材料が板面に平行な方向に配向することなどによる板厚方向の熱伝導率λzの低下及びこれによる放熱特性の低下が改善される。この効果は、板厚方向の熱伝導率λzが低い高熱伝導性母材ほど顕著である。
柱状部材の配置位置は、熱源側の薄板部材上における熱源搭載位置の直下とする必要がある。熱源搭載位置が複数存在する場合は、全ての熱源搭載位置の各直下に柱状部材を配置するのが望ましいが、熱源の発熱量等によっては少なくとも一つの熱源搭載位置の直下に柱状部材が配置されていればよい。熱源搭載位置の直下に配置された柱状部材は、熱源からの熱を反対側の薄板部材(放熱側基板)へ直接的かつ効率的に伝えるバイパスとして機能し、放熱特性の向上に特に効果的に寄与する。
柱状部材は、熱源搭載位置の直下以外に配置することが可能である。熱源搭載位置の直下以外に配置された柱状部材は、高熱伝導性母材の板厚方向の熱伝導率λzを向上させると共に、当該高熱伝導板の機械的強度の向上に有効であるが、板面に平行な方向の熱伝導に対しては、柱状部材の部分で熱伝導率λxyが低くなり、熱源からの熱が板面に平行な方向に拡散する際の障害となる懸念がある。このため、熱源搭載位置の直下以外に配置される柱状部材の本数及び合計断面積を極度に大きくするのは望ましくない。
熱源搭載位置の直下に配置された柱状部材については、最適な断面積が存在する。すなわち、熱源からの発熱を放熱側基板へ効率的に伝えるためには相応の断面積が必要である。しかし、その断面積が過大になると、熱源搭載位置の直下周辺において柱状部材の材料の影響が支配的となり、複合材料の特質が失われることになり、逆に放熱特性の悪化を招く。そして、この最適な断面積は、熱源位置の面積に対する比率で表して、一定にはならず、高熱伝導性母材の板厚方向の熱伝導率λzを変数とする自然対数式により表される。その自然対数式は数式1に示すとおりであり、その詳細は後で詳しく説明する。数式1中のxは高熱伝導性母材の板厚方向の熱伝導率λz(W/mK)である。またyは柱状部材の最適断面積であり、熱源の面積に対する比率(%)で表されている。
高熱伝導性母材の構成材料はアルミニウム系金属と炭素系材料との複合材料であり、より具体的にはアルミニウム系金属の粉末焼結体中に炭素系材料を含有させたものである。ここにおけるアルミニウム系金属は、純アルミニウム又はアルミニウム合金である。炭素系材料は、アルミニウム系金属の粉末焼結体に混合されてその熱伝導性を高める高熱伝導性材料であり、粉末焼結体への混合という観点から繊維状のものと粉末状のものが有利である。繊維状の炭素系材料としてはVGCF(気相成長炭素繊維)、CNT(カーボンナノチューブ)、炭素繊維(CF)等を挙げることができ、炭素繊維(CF)については熱伝導性が高いものほどよく、具体的にはピッチ系炭素材料で黒鉛化処理を行ったものが好ましい。粉末状の炭素系材料としては、例えばグラファイト(黒鉛)を挙げることができる。このグラファイト(黒鉛)については、黒鉛化処理を行い、結晶性を上げたものが熱特性が高く、且つコストも安く望ましい。
なお、ダイヤモンドも粉末状の炭素系材料であるが、グラファイト(黒鉛)の粒が扁平化した鱗片状であるのに対し、ダイヤモンドの粒は扁平化していないために、アルミニウムとの混合粉末焼結体の場合、熱伝導性は方向性、配向性のない等方となる。このため、高熱伝導性母材がこの混合粉末焼結体からなる場合は、板面に平行な方向の熱伝導率λxyも板厚方向の熱伝導率λzも共に350W/mKとなり、アルミニウムの熱伝導率より高いために、柱状部材を使用しても放熱特性は向上せず、機械的強度が向上するのみである。
薄板部材及び柱状部材はアルミニウム系金属を主体としており、具体的にはアルミニウム系金属、すなわち純アルミニウム又はアルミニウム合金の粉末焼結体、アルミニウムのバルク体、アルミニウムとAl−12Siに代表されるAl−Si合金との混合粉末焼結体、アルミニウム若しくはアルミニウム及びAl−Siにセラミックスの一種である炭化硅素(SiC)を加えた混合粉末焼結体などからなり、更にはアルミニウム系金属の粉末焼結体とバルク体との組合せも可能である。炭化硅素の混合は、アルミニウム粉末焼結体の熱膨張率を高熱伝導母材の熱膨張率に近づけるのが有効である。ここにおけるアルミニウム系金属は、高熱伝導性母材中のアルミニウム系金属と同種であることが接合性などの点から望ましい。同様に、薄板部材と柱状部材の構成材料は同種であることが接合性などの点から望ましい。
薄板部材の板厚については、これが薄すぎると放熱板等における基板機能や高熱伝導性母材に対する保護機能が低下し、機械的強度の低下や液相処理での液体含浸の危険性を招来する。反対に厚すぎると、当該熱伝導板における熱伝導性の低下が問題になる。この観点から、薄板部材の板厚は高熱伝導性母材の板厚の0.03〜0.3倍が望ましく、0.1〜0.25倍がより望ましい。
薄板部材は又、板状複合材料からなる高熱伝導性母材の両表面に接合されることを必須とするが、高熱伝導性母材の側面全体に接合され、両表面に接合された薄板部材と一体化されて、高熱伝導性母材の全体を覆うシェルを構成することを妨げない。シェルは、当該高熱伝導板が液層処理を受けたときの高熱伝導性母材中の炭素系材料への液体含浸を阻止すると共に、高熱伝導性母材を機械強度的に補強するのに有効である。
本発明の高熱伝導板は、アルミニウム系金属と炭素系材料との板状複合材料からなり板面に平行な方向の熱伝導率λxyが板厚方向の熱伝導率λzより高い高熱伝導性母材の両表面にアルミニウム系金属主体の薄板部材が接合されると共に、前記熱伝導率λxyとλzの中間的な熱伝導率を有する柱状部材が熱源搭載位置の直下において前記高熱伝導性母材を板厚方向に貫通して両面側の薄板部材と接合する構成により、熱源からの発熱を直接的に放熱側へ伝えるので、安価な高熱伝導性母材の弱点である板厚方向の熱伝導率λzの低さによる放熱特性の低下を簡単かつ効果的に改善し、その経済性を阻害することなく放熱特性の向上を図ることができる。
以下に本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本発明の第1実施形態の高熱伝導板は、半導体素子冷却のための放熱用熱拡散板である。この高熱伝導板は、図1〜図4に示すように、四角形(ここでは正方形)の板材であり、板状のアルミニウム粉末焼結体中に炭素系材料として短い繊維状炭素材料が所定比率で含有された混合物からなる高熱伝導性母材10と、アルミニウム粉末焼結体からなり当該母材10を被覆封入する角箱状のシェル20とを具備している。
板状の高熱伝導性母材10に含有された繊維状炭素材料は、アルミニウム粉末焼結体中に均一に分散しており、且つ両表面に平行な方向(X−Y方向)に配向している。これにより、高熱伝導性母材10の両表面に平行な方向(X−Y方向)の熱伝導率λxyは、アルミニウム粉末焼結体単体の熱伝導率より十分に高くなっており、逆に板厚方向(Z方向)の熱伝導率λzは、両表面に平行な方向(X−Y方向)に配向した繊維状炭素材料の混入により、アルミニウム粉末焼結体単体の熱伝導率より低くなっている。
ちなみに、炭素材料自体の熱伝導率λは、繊維系のVGCF(気相成長炭素繊維)の場合、繊維長手方向では1950W/mK、径方向では20W/mKであり、同じく繊維系の炭素繊維(CF)の場合、繊維長手方向では900W/mK、径方向では20W/mKである。粉末系の黒鉛の場合は、扁平化方向に垂直な方向では1950W/mK、偏平化方向では10W/mKである。
ここにおけるアルミニウム粉末は、純アルミニウム粉末とAl−12Si合金粉末との混合粉末とした。繊維状炭素材料は気相成長炭素繊維(VGCF)とし、アルミニウム粉末と配合比は、体積比でアルミニウム粉末が40%、繊維状炭素材料が60%とした。
角箱状のシェル20は、当該母材10の板厚に比して十分に薄いアルミニウム粉末焼結板からなる金属薄板であり、具体的には、高熱伝導性母材10の両表面11,11に被覆接合された第1の薄板部材21,21と、高熱伝導性母材10の4つの側面12にそれぞれ被覆接合された角枠状の第2の薄板部材22とを一体化することにより構成されている。ここにおけるアルミニウム粉末は、高熱伝導性母材10に使用されたアルミニウム粉末と同じく、純アルミニウム粉末とAl−12Si合金粉末との混合粉末とした。
第1の薄板部材21,21の一方、ここでは上側の薄板部材21は素子搭載板であり、その上面中央部が素子搭載位置29である。他方(下側)の薄板部材21は、放熱フィン等が取付けられる放熱側基板である。第1の薄板部材21,21の各板厚Tは、高熱伝導性母材10の板厚をt(ここでは2mm)として0.03〜0.3tの範囲内の0.5mmに設定されており、第2の薄板部材22の板厚も第1の薄板部材21の層厚Tと同じ0.5mmに設定されている。
高熱伝導性母材10の四隅部には、当該四隅部を切り欠いて4つの角柱状のブロック状補強部23が形成されている。各ブロック状補強部23は、シェル20と同一組成のアルミニウム粉末焼結体からなり、シェル20と一体化されている。4つのブロック状補強部23は、当該高熱伝導板を固定するためのねじ孔加工部を兼ねており、上下の第1スキン層21,21の四隅部と共に板厚方向に貫通形成されたねじ孔25を有している。
高熱伝導性母材10の四隅に囲まれた中央部分には、当該母材10を板厚方向に貫通する1本の柱状部材24が設けられており、柱状部材24はここでは断面円形の円柱形状であり、その位置は、上側の薄板部材21の表面における素子搭載位置29の直下である。円柱状の柱状部材24は、シェル20と同一組成のアルミニウム粉末焼結体からなり、シェル20の特に上下の第1の薄板部材21,21と接合されることにより、素子搭載位置29直下の第1の薄板部材21,21間に伝熱バイパス経路を形成する。
柱状部材24は又、上下の第1の薄板部材21,21を中央部で機械的に連結しており、これにより、シェル20は、この柱状部材24と、四隅部のブロック状補強部23とにより強化されて、内部の高熱伝導性母材10の強化に寄与する。
シェル20を構成する第1の薄板部材21及び第2の薄板部材22、並びにシェル20内のブロック状補強部23及び柱状部材24は、高熱伝導性母材10を構成する混合物から繊維状炭素材料を除いたアルミニウム焼結体単体からなる。このため、シェル20及びシェル20内のブロック状補強部23及び柱状部材24と、シェル20内に封入された高熱伝導性母材10との接合性は良好である。
本実施形態の高熱伝導板の製造方法は以下のとおりである。
まず、アルミニウム粉末と炭素系材料である短い繊維状炭素材料とを所定比率で混合する。次いで、その混合物により高熱伝導性母材10と同じ平面形状で、厚みが大きい成形体(プリフォームブロック)をプリフォーム型により作製する。必要に応じてバインダーを使用する。バインダーを使用した場合は、焼結前又は焼結中に、そのバインダーを蒸発により除去する。
バインダーとしては、従来、ろう付け分野において刷毛塗り用又は塗布用のろう材の調製に使用されている各種の樹脂を使用することができる。具体的には、ポリビニルブチラール樹脂、酢酸ビニル樹脂などが適当であり、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリエチレンオキサイド樹脂なども使用することができる。バインダー樹脂を軟化させるための溶媒としては、一般に使用されているものでよく、イソプレンアルコール(IPA)が多くのバインダー樹脂と相性がよく作業性もよい。
作製された成形体(プリフォームブロック)は、前述したとおり、高熱伝導性母材10と同じ平面形状を有し、厚みが大きい。成形体の四隅にはブロック状補強部23を形成するための切欠き部が設けられており、四隅の切欠き部に囲まれた中央部分には柱状部材24を形成するための断面円形の貫通孔が設けられている。
アルミニウム粉末と繊維状炭素材料との混合物からなる成形体(プリフォームブロック)の作製が完了すると、まず焼結用ダイ内の下パンチ上に、下側の第1の薄板部材21を形成するためのアルミニウム粉末を層状に敷きつめる。次いで、焼結用ダイ内のアルミニウム粉末層上に前記成形体(プリフォームブロック)を載置する。焼結用ダイの内形(横断面形状)は、製造すべき高熱伝導板の平面形状と同一であるため、成形体(プリフォームブロック)の周囲には四隅の切欠き部による角柱状の空間が形成され、その更に周囲には第2の薄板部材22に対応する角枠状の空間が形成される。そして、前記貫通孔を含むこれらの空間にアルミニウム粉末を充填した後、これらの上に上側の第1の薄板部材21を形成するためのアルミニウム粉末を層状に装填する。
こうして焼結用ダイ内の下パンチ上に装填された材料を、その下パンチと、焼結用ダイ内に上から挿入される上パンチとにより加圧しつつ、パルス電流を流すことにより、放電プラズマ焼結する。焼結用ダイ内の材料は、焼結の過程で厚みが約1/3となる。また、アルミニウム粉末と繊維状炭素材料との混合物からなる成形体(プリフォームブロック)内の繊維状炭素材料が板厚方向(加圧方向)に垂直な方向に配向する。
かくして、図1〜図4に示された本実施形態の高熱伝導板が製造される。具体的には、下ダイ上に敷きつめられたアルミニウム粉末層が下側の第1の薄板部材21となり、アルミニウム粉末と繊維状炭素材料との混合物からなる成形体(プリフォームブロック)が高熱伝導性母材10となる。成形体(プリフォームブロック)の四隅に形成された切欠き内のアルミニウム粉末が角柱状のブロック状補強部23となり、成形体(プリフォームブロック)の中央部の貫通孔内に充填されたアルミニウム粉末が円柱状の柱状部材24となる。これらの周囲の角枠状の空間に充填されたアルミニウム粉末層が、高熱伝導性母材10の側面全体を覆う第2の薄板部材22となり、これらの上に敷きつめられたアルミニウム粉末層が上側の第1の薄板部材21となる。
そして、第1の薄板部材21,21及び第2の薄板部材22が一体化してシェル20が形成され、そのシェル20に対して4つのブロック状補強部23及び1本の柱状部材24が一体化される。
このようにして製造された本実施形態の高熱伝導板に固有の構成、及びその構成による作用効果上の特徴は以下のとおりである。
本実施形態の高熱伝導板は、前述したとおり、半導体素子冷却装置における熱拡散板であり、素子搭載板である上側の第1の薄板部材21上の素子搭載位置29に、発熱体である半導体素子が搭載される。
高熱伝導板の主体は高熱伝導性母材10である。高熱伝導性母材10はアルミニウム粉末と繊維状炭素材料との混合物からなる厚板、より詳しくはアルミニウム粉末焼結体中に繊維状炭素材料が両平面に平行な面内で配向して均一分散した厚板である。このため、高熱伝導性母材20の熱伝導性は、アルミニウム粉末単独の焼結体と比べて、板面(両表面)に平行な方向(X−Y方向)では向上するが、同方向に垂直な板厚方向(Z方向)では低下する。
特に、安価な高熱伝導性母材10の場合は、板面に平行な方向(X−Y方向)の熱伝導率λxyが高く、板厚方向(Z方向)の熱伝導率λzの低い傾向が強く、その結果、上側の第1の薄板部材21における素子搭載位置29に搭載された半導体素子からの発熱は、高熱伝導性母材10中を主に板面に平行な方向(X−Y方向)に拡散する傾向が強く、放熱側基板である下側の第1の薄板部材21へ伝わり難い傾向がある。
しかしながら、本実施形態の高熱伝導板においては、上側の第1の薄板部材21における素子搭載位置29の直下に位置して、アルミニウム粉末焼結体からなる柱状部材24が設けられている。柱状部材24は、高熱伝導性母材10を板厚方向(Z方向)に貫通し、両端は第1の薄板部材21,21と接合されている。そして、柱状部材24の熱伝導率λは、高熱伝導性母材10の板面に平行な方向(X−Y方向)の熱伝導率λxyより低いが、同高熱伝導性母材10の板厚方向(Z方向)の熱伝導率λzよりは高い。
このため、素子搭載位置29に搭載された半導体素子から発せられた熱の相当部分が柱状部材24を介して、放熱側基板である裏側の薄板部材21に伝わる。残りの熱は高熱伝導性母材10中を主に板面に平行な方向(X−Y方向)に拡散しつつ、裏側(放熱側)の薄板部材21に伝わる。かくして、当該高熱伝導板の放熱特性が向上する。この効果は、高熱伝導性母材10の板厚方向の(Z方向)の熱伝導率λzが低いほど顕著となり、且つ柱状部材24の断面積についても、この板厚方向の(Z方向)の熱伝導率λzに支配される最適値が存在する。
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態の熱伝導板は、図5に示すように、基本構造は本発明の第1実施形態の熱伝導板と同じである。第1実施形態の熱伝導板と異なるのは、柱状部材24の本数及び断面形状、並びに熱源搭載位置29の数である。
すなわち、第2実施形態の高熱伝導板では、熱源搭載位置29は、当該高熱伝導板表面の中心点を挟むX−X方向の対称位置に2箇所設定されている。柱状部材24の断面形状は、熱源搭載位置29の形状と同じ正方形であり、その配置位置は、2箇所の熱源搭載位置29,29の各直下と、これをX−Y面内で90°回転させた、高熱伝導板表面の中心点を挟むY−Y方向の2箇所の計4箇所である。
他の構成は、第1実施形態の熱伝導板と実施同一である。
第2実施形態の熱伝導板は、第1実施形態の熱伝導板と比べて柱状部材24の本数が増えたので機械的強度に優れる。熱源搭載位置29の直下以外に配置された2本の柱状部材24は、放熱特性に与える影響が小さく、柱状部材24の最適断面積付近では、特にその影響が小さいことを確認している。
以下に、高熱伝導性母材10の板面に平行な方向(X−Y方向)の熱伝導率λxy、及び板厚方向の(Z方向)の熱伝導率λz、並びに柱状部材24の断面積が当該高熱伝導板の放熱特性に与える影響度について熱解析を行った結果を説明する。
熱解析モデルとしては、図5に示された第2実施形態の高熱伝導板を用いた。高熱伝導板の寸法は66mm×66mm×3mmであり、このうち高熱伝導性母材は64mm×64mm×2mmの板材であり、シェル20を構成する第1の薄板部材21,21及び第2の薄板部材22の板厚Tは、高熱伝導性母材の板厚tの1/4に相当する0.5mmとした。また、熱源搭載位置は16mm角、ブロック状補強部23は10mm角である。
高熱伝導性母材の材質はアルミニウムと各種炭素系材料との複合材料を想定しており、その板面に平行な方向の熱伝導率λxyと板厚方向の熱伝導率λzは、炭素系材料の種類及びアルミニウムと炭素系材料との配合比の違いにより、15種類の組み合わせとした。具体的には、高熱伝導性母材の板面に平行な方向の熱伝導率λxyは500W/mK,1000W/mK,2000W/mKの3種類、板厚方向の熱伝導率λzは6.25W/mK,12.5W/mK,25W/mK,50W/mK,100W/mKの5種類である。
また、第1の薄板部材及び第2の薄板部材、並びに柱状部材はアルミニウムを想定しており、その熱伝導率λは230W/mK(等方)とした。熱源は96W×2=192Wとし、放熱側基板である第1の薄板部材からの放熱量は、通常の空冷フィンを想定して500W/m2 Kとした。周囲温度及び初期温度はいずれも25℃とした。柱状部材の断面は表1に示すように0mm角(柱状部材なし)から32mm角までの9種類とし、熱源位置(16mm角)に対する面積比も合わせて表1に示した。
解析結果を図6〜図10に示す。図6〜図10は高熱伝導性母材の板面に平行な方向の熱伝導率λxyをパラメータとして柱状部材の断面積と放熱量との関係を表したものであり、図6は高熱伝導性母材の板厚方向の熱伝導率λzが6.25W/mKの場合、図7は同熱伝導率λzが12.5W/mKの場合、図8は同熱伝導率λzが25W/mKの場合、図9は同熱伝導率λzが50W/mKの場合、図10は同熱伝導率λzが100W/mKの場合をそれぞれ表している。柱状部材の断面積(縦軸)は一辺の長さ(柱太さmm)で表されており、熱源位置(16mm角)の面積に対する比率は表1に示されている。また、放熱量(横軸)は熱源温度の最小値に対する上昇量(℃)で表されている。
高熱伝導性母材の板厚方向の熱伝導率λzが何れの場合も、柱状部材を太くしていくにしたがって熱源温度が下がり、特定太さを超えると、逆に柱状部材を太くしていくにしたがって熱源温度が上がる。その結果、熱源温度上昇量(放熱量)については、柱状部材の太さに最適値が存在することになる。その理由は、前述したとおり、簡単には、熱源での発熱を反対側へ伝達するためには相応の太さ(断面積)が必要であること、その太さ(断面積)が大きすぎると、熱源位置直下で高熱伝導性母材の占有率が低下し、高熱伝導性母材の機能が阻害されることである。
柱状部材の最適太さを定量的に説明すると、高熱伝導性母材の板厚方向の熱伝導率λzが6.25W/mKの場合は16mm角であり(図6)、熱源位置の面積に対する比率で100%である(表1)。同熱伝導率λzが12.5W/mKの場合は12mm角であり(図7)、熱源位置の面積に対する比率で56%である(表1)。同熱伝導率λzが25W/mKの場合も12mm角であり(図8)、熱源位置の面積に対する比率で56%である(表1)。同熱伝導率λzが50W/mKの場合は8mm角であり(図9)、熱源位置の面積に対する比率で25%である(表1)。同熱伝導率λzが100W/mKの場合は4mm角であり(図10)、熱源位置の面積に対する比率で6%である(表1)。
すなわち、柱状部材を太くしていくにしたがって熱源温度が下がる傾向は、高熱伝導性母材の板厚方向の熱伝導率λzが小さいほど顕著であり、高熱伝導性母材の板厚方向の熱伝導率λzが小さいほど熱源温度低下量が大きく、柱状部材の最適太さが大きくなる。一方、高熱伝導性母材の板面に平行な方向の熱伝導率λxyについては、柱状部材の太さが小さい領域、特に最適太さに至るまでの領域では熱源温度低下量に与える影響が小さく、高熱伝導性母材の板厚方向の熱伝導率λzが小さいほど小さい。その結果、柱状部材の最適太さは、高熱伝導性母材の板厚方向の熱伝導率λzを変数とする簡単な自然対数式で表されることになる。その自然対数式が数式1であり、図11である。
柱状部材の太さ(断面積)が、熱源面積との比率との関係において、数式1の範囲内にあるときに、熱源温度低下量が特に大きくなり、放熱特性が特に優れることになる。図11で説明するならば、プロットが最適太さであり、その近似曲線が、実線で示す−35ln(x+2)+160である。また、二点鎖線で示す−35ln(x+9)+160が最適範囲の下限、破線で示す−35ln(x−5)+160が最適範囲の上限である。
高熱伝導性母材の板面に平行な方向の熱伝導率λxyの影響については、大きいほど熱源温度上昇量、すなわち放熱特性は向上するが、その大小は柱状部材の最適太さには影響しない。これに対し、高熱伝導性母材の板厚方向の熱伝導率λzについては、小さいほど熱源温度上昇量が顕著に大きくなって放熱特性が低下し、柱状部材の存在、太さの影響も大きくなり、放熱特性への寄与度が高くなる。