(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態の塗膜形成装置を、図1を参照して説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る塗膜形成装置の一部断面図を含む正面図である。
本明細書の各実施形態の塗膜形成装置は、無端状ベルトを含む円筒形状及び円柱形状の被塗装物(以下の説明では、被塗装物の一例として円筒状基体Kを対象としている)の表面へ中空状添加物を配合した塗料Pの塗膜Mの形成を行うものである。この塗膜Mの形成に用いる塗料Pは、シリコーンゴム塗料であって、低熱容量化のために中空状添加物(中空フィラー)を配合している。この中空フィラーの材質として、例えば、アクリルニトリルなどの有機材料を使用している。
図1に示すように、第1実施形態の塗膜形成装置(図中、符号1で示す)は、被塗装物保持部11と、環状塗布槽13と、環状ブレード部14と、環状シール部15と、圧力付加部17と、鉛直方向移動手段19と、塗料供給部51と、を備えている。
被塗装物保持部11は、被塗装物の一例としての円筒状基体Kの軸を鉛直方向に保持する。被塗装物保持部11は、保持手段の一例である。
環状塗布槽13は、例えば、平面視円形状の中空箱状に形成されており、その上壁部13aに内外を貫通する円形の上開口部13bが設けられ、その下壁部13cに内外を貫通する円形の下開口部13dが設けられている。上開口部13bと下開口部13dとは、円筒状基体Kの外径より大きい径に形成され、鉛直方向に互いに重なるように配置されている。環状塗布槽13は、被塗装物保持部11に保持された円筒状基体Kが上開口部13b及び下開口部13dに挿通される。このとき、環状塗布槽13の軸と円筒状基体Kの軸とが鉛直方向と平行な軸線Lと重なり、当該軸線L上に上開口部13bの中心及び下開口部13dの中心が配置される。環状塗布槽13は、内部(具体的には、後述する下側空間E2)に塗料Pを収納する。環状塗布槽13は、塗料収容槽の一例である。上開口部13bは、一方の開口部の一例である。下開口部13dは、他方の開口部の一例である。
環状ブレード部14は、例えば、合成樹脂などを用いて円環板状に形成され、中心が軸線L上に配置されるようにして下開口部13dに設けられている。環状ブレード部14は、内縁部14aが下開口部13dに挿通された円筒状基体Kの外周面との間に、当該外周面に形成する塗膜の厚みに応じた隙間Sを空けて配置される。環状ブレード部14は、環状塗布槽13の軸方向外側(図中下方)へ向かって傾斜している。換言すると、環状ブレード部14の内縁部14aが、当該環状ブレード部14の外縁部14bに対して下方(即ち、環状塗布槽13の移動方向上流側)に配置されている。また、環状ブレード部14は、外縁部14bの厚みより内縁部14aの厚みの方が薄くなるように形成され、当該内縁部14aの該円筒状基体Kに近接する先端部分の軸方向厚さは0.5mmとなっている。この部分が厚すぎると、塗膜は表面の凹凸が多く粗い面となり易くなり、薄い場合と同程度の表面粗さの塗膜を形成するためには、塗装速度を遅く、塗料への付加圧力を大きくする必要がある。また、環状ブレード部14は外縁部14bから外縁部14aに向かうにしたがって徐々に厚みが薄くなっている。環状ブレード部14は、環状ブレード部の一例である。
環状シール部15は、例えば、シリコーンゴムなどの柔軟性を有する材料を用いて円環板上に形成され、中心が軸線L上に配置されるようにして上開口部13bに設けられている。環状シール部15は、内径が円筒状基体Kの外径より若干小さくされており、上開口部13bに挿通された円筒状基体Kと環状塗布槽13との間を水密に保つ。環状シール部15は、環状シール部の一例である。
圧力付加部17は、管路17aと、3ポートバルブ17bと、コンプレッサ17cと、ピストン部17dと、を有している。ピストン部17dは、環状塗布槽13内を上下2つの空間(上側空間E1、下側空間E2)に区画するとともに当該区画した状態を維持しながら上下方向に移動可能なように環状塗布槽13内に収容されている。コンプレッサ17cは、管路17aによって上側空間E1と接続されており、管路17aを介して当該上側空間E1に加圧された空気を供給する。3ポートバルブ17bは、管路17a上に設けられており、上記上側空間E1にコンプレッサ17c又は外部空間(大気)を排他的に接続する。コンプレッサ17cにより上側空間E1に加圧された空気を供給することにより、ピストン部17dが図中下方に押し下げられて、環状塗布槽13内の下側空間E2の容積が小さくなり当該下側空間E2に充填された塗料Pに所望の圧力を加えることができる。圧力付加部17は、加圧手段の一例である。
鉛直方向移動手段19は、例えば、リニアアクチュエータで構成され、環状塗布槽13を鉛直方向に移動させる。鉛直方向移動手段19は、鉛直方向移動手段の一例である。
塗料供給部51は、管路51aと、2ポートバルブ51bと、ポンプ51cと、を有している。ポンプ51cは、管路51aによって環状塗布槽13内の下側空間E2と接続されており、管路51aを介して当該下側空間E2に塗料Pを供給する。2ポートバルブ51bは、管路51a上に設けられており、上記下側空間E2とポンプ51cとの接続を開閉する。
次に、上述した塗膜形成装置1の動作の一例について説明する。
(1)まず、円筒状基体Kを、その上下に補助円筒23を介して固定チャック部24、駆動チャック部25により被塗装物保持部11に固定して、当該円筒状基体Kの軸が鉛直方向に一致するように塗膜形成装置1にセットする。
(2)次に、2ポートバルブ51bを閉じ、3ポートバルブ17bにより環状塗布槽13内の上側空間E1とコンプレッサ17cとを接続して加圧された空気を当該上側空間E1に送る。これにより、ピストン部17dが、下方に押し下げられて環状塗布槽13内の下側空間E2の塗料Pに圧力が加えられる。
(3)それから、塗料Pに圧力が加えられた状態で環状塗布槽13を鉛直方向移動手段19により下方から上方へ鉛直方向に移動させる。これにより、環状ブレード部14と円筒状基体Kとの間の隙間Sから塗料Pが流れ出て、塗膜Mが当該円筒状基体Kの外周面に下端から上端まで連続して形成される。このとき、環状ブレード部14と円筒状基体Kとの間の隙間Sを通過する塗料Pに加わる圧力が環状塗布槽13外の気圧と同一になるように、圧力付加部17によって環状塗布槽13に収容された塗料Pに圧力を加える。なお、塗膜Mの厚さは、環状塗布槽13の移動速度、環状ブレード部14と円筒状基体Kとの間の隙間Sの大きさ、塗料Pの粘度および圧力等によって決まる。
(4)そして、環状塗布槽13が上方へ移動した後、3ポートバルブ17bを切り換えて環状塗布槽13内の上側空間E1に送られた空気を大気開放する。これにより、環状塗布槽13内の下側空間E2の塗料Pに加えられた圧力が開放される。
(5)さらに、駆動チャック部25を上方へ移動させ、把持機構22により上方の補助円筒23を把持した状態で環状塗布槽13を上方へ逃がし、円筒状基体K、被塗装物保持部11、下方の補助円筒23を装置から外す。その後、上方の補助円筒23を把持した状態で環状塗布槽13を鉛直方向移動手段19により下方へ移動させ、該補助円筒23が固定チャック部24にセットされたところで把持機構22を開放する。このように、環状塗布槽13内側に円筒状基体Kまたは補助円筒23を常に挿入しておくことで環状塗布槽13からの塗料の漏れを防ぐことができる。
(6)最後に、2ポートバルブ51bを開き、使用した分の塗料Pをポンプ51cにより環状塗布槽13内へ供給し、再び2ポートバルブ51bを閉じて次の塗膜形成に備える。
上述した構成では、環状塗布槽13が下方から上方に移動する構成であったがこれに限定されるものではない。例えば、環状ブレード部14を上開口部13bに設け、環状シール部15を下開口部13dに設けて、環状塗布槽13を上方から下方に移動する構成としてもよい。
以上より、本実施形態によれば、被塗装物保持部11が、円筒状基体Kをその軸を鉛直方向として保持する。環状塗布槽13が、中空箱状に形成され、その上壁部13a及び下壁部13cのそれぞれに円筒状基体Kが挿通される上開口部13b及び下開口部13dが鉛直方向に重なるように形成されている。鉛直方向移動手段19が、環状塗布槽13を円筒状基体Kに対して鉛直方向に下方から上方に移動させる。環状シール部15が、環状塗布槽13の上方寄り(移動方向下流側)の上開口部13bに設けられ、当該上開口部13bにおける円筒状基体Kと環状塗布槽13との間を水密に保つ。環状ブレード部14が、環状塗布槽13の下方寄り(移動方向上流側)の下開口部13dに設けられ、内縁部14aが当該下開口部13dに挿通された円筒状基体Kの外周面との間に当該円筒状基体Kに形成する塗膜Mの厚みに応じた隙間Sを空けて配置される。そして、圧力付加部17が、鉛直方向移動手段19によって環状塗布槽13が移動されている際に当該隙間Sを通過する塗料Pに加わる圧力が当該環状塗布槽13外の気圧と同一になるように環状塗布槽13に収容された塗料Pに圧力を加える。
このようにしたことから、環状塗布槽13の上壁部13a及び下壁部13cに形成された上開口部13b及び下開口部13dが、円筒状基体Kの外周面、環状シール部15及び環状ブレード部14によってほぼ塞がれている。そのため、圧力付加部17によって当該環状塗布槽13に収容された塗料Pに圧力を加えることができる。そして、圧力付加部17が、環状ブレード部14と円筒状基体Kの外周面との間の隙間Sを通過する塗料Pに加わる圧力が当該環状塗布槽13外の気圧と同一になるように環状塗布槽13に収容された塗料Pに圧力を加える。そのため、環状ブレード部14と環状塗布槽13の外周面との間の隙間Sを通過する前後で塗料Pに加わる圧力を同一とすることができるので、塗料Pの体積変化量を低減できる。したがって、できるだけ塗料Pを希釈せずに用いて、円筒状基体Kの表面に中空状添加物を配合した塗料の塗膜を高速で形成したときに生じる凹凸を抑制できる。
また、環状ブレード部14の内縁部14aが、当該環状ブレード部14の外縁部14bに対して環状塗布槽13の下方寄り(移動方向上流側)に配置されている。そして、環状ブレード部14の内縁部14aの厚みが、当該環状ブレード部14の外縁部14bの厚みより薄くなっている。このようにしたことから、環状ブレード部14周辺で塗装方向(図中、鉛直方向)へ流れ易くなるため、環状ブレード部14の周辺で発生する塗料Pを引っ張る方向の力を低減することができる。そのため、隙間Sを通過する前後での塗料Pの体積変化量を低減できる。したがって、できるだけ塗料Pを希釈せずに用いて、円筒状基体Kの表面に中空状添加物を配合した塗料の塗膜を高速で形成したときに生じる凹凸をさらに抑制できる。
(第2実施形態)
以下、本発明の第2実施形態の塗膜形成装置を、図2を参照して説明する。
図2は、本発明の第2実施形態に係る塗膜形成装置の一部断面図を含む正面図である。
図2に示すように、第2実施形態の塗膜形成装置(図中、符号2で示す)は、被塗装物保持部11と、環状塗布槽13と、環状ブレード部14と、環状シール部15と、圧力付加部17と、鉛直方向移動手段19と、塗料供給部51と、を備えている。さらに、塗膜形成装置2は、圧力測定手段26と、圧力制御手段27と、を備えている。この第2実施形態の塗膜形成装置2は、上述した第1実施形態の塗膜形成装置1に対して以下の3つの相違点以外は同一の構成であるので、同一の部分には同一の符号を付して説明を省略する。
相違点は以下の(i)〜(iii)である。(i)圧力測定手段26及び圧力制御手段27を追加した点。(ii)環状ブレード部14と環状シール部15とについてそれぞれの配置を入れ換えて環状塗布槽13に取り付けた点。(iii)塗膜Mの形成時における鉛直方向移動手段19による環状塗布槽13の移動方向が上方から下方である点。
圧力測定手段26は、例えば、圧力センサなどで構成されており、環状塗布槽13内の下側空間E2の塗料Pの圧力を測定する。圧力測定手段26は、圧力測定手段の一例である。
圧力制御手段27は、例えば、流量制御弁装置などで構成されており、管路17a上に設けられている。圧力制御手段27は、測定された圧力に基づいて弁開度を調節して、圧力測定手段26によって測定された圧力が所望の圧力となるように、コンプレッサ17cから供給される加圧された空気の流量をフィードバック制御する。圧力制御手段27は、圧力制御手段の一例である。
以上より、本実施形態によれば、被塗装物保持部11が、円筒状基体Kをその軸を鉛直方向として保持する。環状塗布槽13が、中空箱状に形成され、その上壁部13a及び下壁部13cのそれぞれに円筒状基体Kが挿通される上開口部13b及び下開口部13dが鉛直方向に重なるように形成されている。鉛直方向移動手段19が、環状塗布槽13を円筒状基体Kに対して鉛直方向に上方から下方に移動させる。環状シール部15が、環状塗布槽13の下方寄り(移動方向下流側)の下開口部13dに設けられ、当該下開口部13dにおける円筒状基体Kと環状塗布槽13との間を水密に保つ。環状ブレード部14が、環状塗布槽13の上方寄り(移動方向上流側)の上開口部13bに設けられ、内縁部14aが当該上開口部13bに挿通された円筒状基体Kの外周面との間に当該円筒状基体Kに形成する塗膜Mの厚みに応じた隙間Sを空けて配置される。そして、圧力付加部17が、鉛直方向移動手段19によって環状塗布槽13が移動されている際に当該隙間Sを通過する塗料Pに加わる圧力が当該環状塗布槽13外の気圧と同一になるように環状塗布槽13に収容された塗料Pに圧力を加える。
このようにしたことから、環状塗布槽13の上壁部13a及び下壁部13cに形成された上開口部13b及び下開口部13dが、円筒状基体Kの外周面、環状シール部15及び環状ブレード部14によってほぼ塞がれている。そのため、圧力付加部17によって当該環状塗布槽13に収容された塗料Pに圧力を加えることができる。そして、圧力付加部17が、環状ブレード部14と円筒状基体Kの外周面との間の隙間Sを通過する塗料Pに加わる圧力が当該環状塗布槽13外の気圧と同一になるように環状塗布槽13に収容された塗料Pに圧力を加える。そのため、環状ブレード部14と環状塗布槽13の外周面との間の隙間Sを通過する前後で塗料Pに加わる圧力を同一とすることができるので、塗料Pの体積変化量を低減できる。したがって、できるだけ塗料Pを希釈せずに用いて、円筒状基体Kの表面に中空状添加物を配合した塗料の塗膜を高速で形成したときに生じる凹凸を抑制できる。
また、環状ブレード部14の内縁部14aが、当該環状ブレード部14の外縁部14bに対して環状塗布槽13の上方寄り(移動方向上流側)に配置されている。そして、環状ブレード部14の内縁部14aの厚みが、当該環状ブレード部14の外縁部14bの厚みより薄くなっている。このようにしたことから、環状ブレード部14周辺で塗装方向(図中、鉛直方向)へ流れ易くなるため、環状ブレード部14の周辺で発生する塗料Pを引っ張る方向の力を低減することができる。そのため、隙間Sを通過する前後での塗料Pの体積変化量を低減できる。したがって、できるだけ塗料Pを希釈せずに用いて、円筒状基体Kの表面に中空状添加物を配合した塗料の塗膜を高速で形成したときに生じる凹凸をさらに抑制できる。
また、圧力測定手段26が、環状塗布槽13に収容された塗料Pに加わる圧力を測定する。そして、圧力制御手段27が、圧力測定手段26によって測定された圧力に基づいて圧力付加部17(具体的には、管路17aを通る空気の流量)を制御して、塗料Pに加わる圧力を制御する。このようにしたことから、塗料Pの減少等の状態変化などにより塗料Pに加わる圧力が変化した場合でも、当該変化に追従して適切な圧力を塗料Pに加えることができる。そのため、外乱による影響を小さくすることができ、塗膜に生じる凹凸をさらに抑制することができる。
(第3実施形態)
以下、本発明の第3実施形態の塗膜形成装置を、図3を参照して説明する。
図3は、本発明の第3実施形態に係る塗膜形成装置の一部断面図を含む正面図である。
図3に示すように、第3実施形態の塗膜形成装置(図中、符号3で示す)は、被塗装物保持部11と、環状塗布槽13と、環状ブレード部16と、環状シール部15と、圧力付加部18と、鉛直方向移動手段19と、塗料供給部51と、を備えている。この第3実施形態の塗膜形成装置3は、上述した第1実施形態の塗膜形成装置1に対して以下の2つの相違点以外は同一の構成であるので、同一の部分には同一の符号を付して説明を省略する。
相違点は以下の(i)〜(ii)である。(i)内縁部14aが角張った環状ブレード部14に代えて、内縁部16aが曲面状に形成された環状ブレード部16を備えている点。(ii)加圧された空気によりピストン部17dを移動させる圧力付加部17に代えて、アクチュエータであるシリンダ28によりピストン部17dを移動させる圧力付加部18を備えている点。
環状ブレード部16は、例えば、合成樹脂などを用いて円環平板状に形成され、中心が軸線L上に配置されるようにして下開口部13dに設けられている。環状ブレード部16は、内縁部16aが下開口部13dに挿通された円筒状基体Kの外周面との間に、当該外周面に形成する塗膜の厚みに応じた隙間Sを空けて配置される。環状ブレード部16は、その内縁部16aの半径方向についての断面形状における環状塗布槽13内側寄りの部分16cが、円弧形状とされている。本実施形態において、環状ブレード部16は厚み5mmに形成され、当該部分16cはR5(半径5mm)の面取り形状となっている。このようにすることで、当該部分16cが角張った(面取りしない形状)に比べて、環状ブレード部16周辺で塗装方向(図では鉛直方向)へ流れ易くなる。そのため、環状ブレード部16の周辺で発生する塗料Pを引っ張る方向の力を低減することができる。環状ブレード部16は、環状ブレード部の一例である。
圧力付加部18は、シリンダ28と、ジョイント30と、ピストン部17dと、を有している。シリンダ28は、ジョイント30を介してピストン部17dと接続されている。シリンダ28により、ピストン部17dが図中下方に押し下げられると、環状塗布槽13内の下側空間E2の容積が小さくなり当該下側空間E2に充填された塗料Pに所望の圧力を加えることができる。圧力付加部18は、加圧手段の一例である。
この圧力付加部18は、加圧された空気に代えて、シリンダ28によってピストン部17dを移動させるものであるが、機能的には上述した圧力付加部17と同一である。即ち、圧力付加部18は、環状塗布槽13が鉛直方向に移動される際に、環状ブレード部16と円筒状基体Kとの間の隙間Sを通過する塗料Pに加わる圧力が環状塗布槽13外の気圧と同一になるように、環状塗布槽13に収容された塗料Pに圧力を加える。
以上より、本実施形態によれば、被塗装物保持部11が、円筒状基体Kをその軸を鉛直方向として保持する。環状塗布槽13が、中空箱状に形成され、その上壁部13a及び下壁部13cのそれぞれに円筒状基体Kが挿通される上開口部13b及び下開口部13dが鉛直方向に重なるように形成されている。鉛直方向移動手段19が、環状塗布槽13を円筒状基体Kに対して鉛直方向に下方から上方に移動させる。環状シール部15が、環状塗布槽13の上方寄り(移動方向下流側)の上開口部13bに設けられ、当該上開口部13bにおける円筒状基体Kと環状塗布槽13との間を水密に保つ。環状ブレード部16が、環状塗布槽13の下方寄り(移動方向上流側)の下開口部13dに設けられ、内縁部16aが当該下開口部13dに挿通された円筒状基体Kの外周面との間に当該円筒状基体Kに形成する塗膜Mの厚みに応じた隙間Sを空けて配置される。そして、圧力付加部18が、鉛直方向移動手段19によって環状塗布槽13が移動されている際に当該隙間Sを通過する塗料Pに加わる圧力が当該環状塗布槽13外の気圧と同一になるように環状塗布槽13に収容された塗料Pに圧力を加える。
このようにしたことから、環状塗布槽13の上壁部13a及び下壁部13cに形成された上開口部13b及び下開口部13dが、円筒状基体Kの外周面、環状シール部15及び環状ブレード部16によってほぼ塞がれている。そのため、圧力付加部18によって当該環状塗布槽13に収容された塗料Pに圧力を加えることができる。そして、圧力付加部18が、環状ブレード部16と円筒状基体Kの外周面との間の隙間Sを通過する塗料Pに加わる圧力が当該環状塗布槽13外の気圧と同一になるように環状塗布槽13に収容された塗料Pに圧力を加える。そのため、環状ブレード部16と環状塗布槽13の外周面との間の隙間Sを通過する前後で塗料Pに加わる圧力を同一とすることができるので、塗料Pの体積変化量を低減できる。したがって、できるだけ塗料Pを希釈せずに用いて、円筒状基体Kの表面に中空状添加物を配合した塗料の塗膜を高速で形成したときに生じる凹凸を抑制できる。
また、環状ブレード部16の内縁部16aの半径方向についての断面形状における環状塗布槽13内側寄りの部分16cが、円弧形状とされている。このようにしたことから、環状ブレード部16周辺で塗装方向(図では鉛直方向)へ流れ易くなるため、環状ブレード部16の周辺で発生する塗料Pを引っ張る方向の力を低減することができる。そのため、隙間Sを通過する前後での塗料Pの体積変化量を低減できる。したがって、できるだけ塗料Pを希釈せずに用いて、円筒状基体Kの表面に中空状添加物を配合した塗料の塗膜を高速で形成したときに生じる凹凸をさらに抑制できる。
(第4実施形態)
以下、本発明の第4実施形態の塗膜形成装置を、図4を参照して説明する。
図4は、本発明の第4実施形態に係る塗膜形成装置の一部断面図を含む正面図である。
図4に示すように、第4実施形態の塗膜形成装置(図中、符号4で示す)は、被塗装物保持部11と、環状塗布槽13と、環状ブレード部14と、環状シール部15と、圧力付加部17と、鉛直方向移動手段19と、塗料供給部51と、を備えている。さらに、塗膜形成装置4は、第1水平方向移動手段32と、第2水平方向移動手段33と、膜厚測定手段34と、を備えている。この第4実施形態の塗膜形成装置4は、上述した第1実施形態の塗膜形成装置1に対して以下の1つの相違点以外は同一の構成であるので、同一の部分には同一の符号を付して説明を省略する。
相違点は以下の(i)である。(i)第1水平方向移動手段32と、第2水平方向移動手段33と、膜厚測定手段34と、を追加した点。
第1水平方向移動手段32は、例えば、リニアアクチュエータで構成され、環状塗布槽13を図中、手前−奥方向の水平方向に移動させる。
第2水平方向移動手段33は、例えば、リニアアクチュエータで構成され、環状塗布槽13を図中左右方向の水平方向に移動させる。第1水平方向移動手段32及び第2水平方向移動手段33は、それぞれ水平方向移動手段の一例である。
膜厚測定手段34は、円筒状基体Kの外周面に形成された塗膜Mの厚みを測定する。この膜厚測定手段34は、円筒状基体Kの周方向に間隔を空けて複数個配置されており、環状塗布槽13の移動に伴って鉛直方向に移動される。本実施形態においては、膜厚測定手段34としてレーザ変位計を用い、円筒状基体Kの周方向に90度毎に4つ配置されている。膜厚測定手段34は、円筒状基体Kの周方向の複数箇所について軸方向に連続して膜厚を測定する。勿論、これは一例であって、膜厚測定手段34として、レーザ変位計に代えて、赤外線により直接膜厚を測定する測定器であってもよい。
これら水平方向移動手段33、34は、鉛直方向移動手段19によって環状塗布槽13が鉛直方向に移動されている際に、膜厚測定手段34によって測定された塗膜Mの膜厚に基づいて、当該膜厚が周方向に均一になるように環状塗布槽13を水平方向に移動させる。環状塗布槽13が水平方向に移動されることにより、環状ブレード部14の内縁部14aと円筒状基体Kとの間の隙間Sの大きさが調整される。
以上より、本実施形態によれば、被塗装物保持部11が、円筒状基体Kをその軸を鉛直方向として保持する。環状塗布槽13が、中空箱状に形成され、その上壁部13a及び下壁部13cのそれぞれに円筒状基体Kが挿通される上開口部13b及び下開口部13dが鉛直方向に重なるように形成されている。鉛直方向移動手段19が、環状塗布槽13を円筒状基体Kに対して鉛直方向に下方から上方に移動させる。環状シール部15が、環状塗布槽13の上方寄り(移動方向下流側)の上開口部13bに設けられ、当該上開口部13bにおける円筒状基体Kと環状塗布槽13との間を水密に保つ。環状ブレード部14が、環状塗布槽13の下方寄り(移動方向上流側)の下開口部13dに設けられ、内縁部14aが当該下開口部13dに挿通された円筒状基体Kの外周面との間に当該円筒状基体Kに形成する塗膜Mの厚みに応じた隙間Sを空けて配置される。そして、圧力付加部17が、鉛直方向移動手段19によって環状塗布槽13が移動されている際に当該隙間Sを通過する塗料Pに加わる圧力が当該環状塗布槽13外の気圧と同一になるように環状塗布槽13に収容された塗料Pに圧力を加える。
このようにしたことから、環状塗布槽13の上壁部13a及び下壁部13cに形成された上開口部13b及び下開口部13dが、円筒状基体Kの外周面、環状シール部15及び環状ブレード部14によってほぼ塞がれている。そのため、圧力付加部17によって当該環状塗布槽13に収容された塗料Pに圧力を加えることができる。そして、圧力付加部17が、環状ブレード部14と円筒状基体Kの外周面との間の隙間Sを通過する塗料Pに加わる圧力が当該環状塗布槽13外の気圧と同一になるように環状塗布槽13に収容された塗料Pに圧力を加える。そのため、環状ブレード部14と環状塗布槽13の外周面との間の隙間Sを通過する前後で塗料Pに加わる圧力を同一とすることができるので、塗料Pの体積変化量を低減できる。したがって、できるだけ塗料Pを希釈せずに用いて、円筒状基体Kの表面に中空状添加物を配合した塗料の塗膜を高速で形成したときに生じる凹凸を抑制できる。
また、環状ブレード部14の内縁部14aが、当該環状ブレード部14の外縁部14bに対して環状塗布槽13の下方寄り(移動方向上流側)に配置されている。そして、環状ブレード部14の内縁部14aの厚みが、当該環状ブレード部14の外縁部14bの厚みより薄くなっている。このようにしたことから、環状ブレード部14周辺で塗装方向(図では鉛直方向)へ流れ易くなるため、環状ブレード部14の周辺で発生する塗料Pを引っ張る方向の力を低減することができる。そのため、隙間Sを通過する前後での塗料Pの体積変化量を低減できる。したがって、できるだけ塗料Pを希釈せずに用いて、円筒状基体Kの表面に中空状添加物を配合した塗料の塗膜を高速で形成したときに生じる凹凸をさらに抑制できる。
また、膜厚測定手段34が、円筒状基体Kの外周面の塗膜Mの厚みを測定する。第1水平方向移動手段32、第2水平方向移動手段33が、膜厚測定手段34によって測定された塗膜Mの厚みに基づいて、円筒状基体Kの外周面の塗膜Mの厚みが周方向にわたって均一になるように環状塗布槽13を円筒状基体Kに対して水平方向に移動させる。このようにしたことから、塗膜Mの厚みに応じて環状ブレード部14と円筒状基体Kとの間の隙間Sを調整して、周方向の厚みを均一にできる。したがって、円筒状基体Kの周方向全体にわたって塗膜Mの凹凸を抑制することができる。
(第5実施形態)
以下、本発明の第5実施形態の塗膜形成装置を、図5を参照して説明する。
図5は、本発明の第5実施形態に係る塗膜形成装置の一部断面図を含む正面図である。
図5に示すように、第5実施形態の塗膜形成装置(図中、符号5で示す)は、被塗装物保持部11と、環状塗布槽13と、環状ブレード部16と、環状シール部21と、圧力付加部18と、鉛直方向移動手段19と、塗料供給部51と、を備えている。さらに、塗膜形成装置5は、環状シール部移動手段35を備えている。この第5実施形態の塗膜形成装置5は、上述した第1実施形態の塗膜形成装置1に対して以下の2つの相違点以外は同一の構成であるので、同一の部分には同一の符号を付して説明を省略する。
相違点は以下の(i)〜(ii)である。(i)加圧された空気によりピストン部17dを移動させる圧力付加部17に代えて、アクチュエータであるシリンダ28によりピストン部17dを移動させる圧力付加部18を備えている点。(ii)環状塗布槽13に固定された環状シール部15に代えて、可動式の環状シール部21及び環状シール部21を鉛直方向に移動させる環状シール部移動手段35を備えている点。
圧力付加部18は、シリンダ28と、ジョイント30と、ピストン部17dと、を有している。シリンダ28は、ジョイント30を介してピストン部17dと接続されている。シリンダ28により、ピストン部17dが図中下方に押し下げられると、環状塗布槽13内の下側空間E2の容積が小さくなり当該下側空間E2に充填された塗料Pに所望の圧力を加えることができる。圧力付加部18は、加圧手段の一例である。
この圧力付加部18は、加圧された空気に代えて、シリンダ28によってピストン部17dを移動させるものであるが、機能的には上述した圧力付加部17と同一である。即ち、圧力付加部18は、環状塗布槽13が鉛直方向に移動される際に、環状ブレード部16と円筒状基体Kとの間の隙間Sを通過する塗料Pに加わる圧力が環状塗布槽13外の気圧と同一になるように、環状塗布槽13に収容された塗料Pに圧力を加える。
環状シール部21は、例えば、合成樹脂を用いて形成され、内径が円筒状基体Kの外径と略同一でかつ外径が環状塗布槽13の上開口部13bと略同一の円筒状本体部21aと、円筒状本体部21aの上方の端部に一体に連接されたフランジ部21bと、を有している。円筒状本体部21aの下方の端部は、先細りのテーパ状に形成されている。環状シール部21は、中心が軸線L上に配置されている。環状シール部21は、その内側に円筒状基体Kが挿通される。環状シール部21は、円筒状基体Kと環状塗布槽13との間を水密に保つ。また、環状塗布槽13の上開口部13bには、環状パッキン13eが設けられており、環状シール部21と環状塗布槽13との間の水密を高めている。環状シール部21は、環状シール部の一例である。
環状シール部移動手段35は、シリンダ36と、ジョイント37と、を有している。シリンダ36は、ジョイント37を介して環状シール部21のフランジ部21bの上面に接続されている。シリンダ36によって、環状シール部21は鉛直方向に移動される。環状シール部移動手段35は、塗膜形成時は環状シール部21を上方に押し上げて、環状シール部21によって環状塗布槽13の上開口部13bのみ封止する。これにより、環状ブレード部14の内縁部14aと円筒状基体Kとの隙間Sから塗料が流出する。また、環状シール部移動手段35は、塗膜形成時以外は環状シール部21を下方に押し下げて、環状塗布槽13の上開口部13b及び下開口部13d(隙間S含む)を封止する。これにより、隙間Sからの塗料の流出が抑制される。
次に、上述した塗膜形成装置5の動作の一例について説明する。
(1)塗装開始前は、環状シール部移動手段35により環状シール部21が下方へ押し下げられており、該環状塗布槽13からの塗料Pの漏れを防いでいる。この状態で、円筒状基体Kを、固定チャック部24、駆動チャック部25により被塗装物保持部11に固定して、当該円筒状基体Kの軸が鉛直方向に一致するように塗膜形成装置5にセットする。
(2)次に、環状シール部移動手段35により環状シール部21を上方へ移動し、円筒状基体Kと環状塗布槽13内の塗料Pとを接液させる。そして、2ポートバルブ51bを閉じ、圧力付加部18のシリンダ28を、ピストン部17dを下方に押し下げるように駆動する。これにより、ピストン部17dが、下方に押し下げられて環状塗布槽13内の下側空間E2の塗料Pに圧力が加えられる。
(3)それから、塗料Pに圧力が加えられた状態で環状塗布槽13を鉛直方向移動手段19により下方から上方へ鉛直方向に移動させる。これにより、環状ブレード部14と円筒状基体Kとの間の隙間Sから塗料Pが流れ出て、塗膜Mが当該円筒状基体Kの外周面に下端から上端まで連続して形成される。このとき、環状ブレード部14と円筒状基体Kとの間の隙間Sを通過する塗料Pに加わる圧力が環状塗布槽13外の気圧と同一になるように、圧力付加部18によって環状塗布槽13に収容された塗料Pに圧力を加える。なお、塗膜Mの厚さは、環状塗布槽13の移動速度、環状ブレード部14と円筒状基体Kとの間の隙間Sの大きさ、塗料Pの粘度および圧力等によって決まる。
(4)そして、環状塗布槽13が上方へ移動した後、圧力付加部18のシリンダ28を、ピストン部17dを上方に移動するように駆動する。これにより、環状塗布槽13内の下側空間E2の塗料Pに加えられた圧力が開放される。同時に、環状シール部移動手段35により環状シール部21を下方へ押し下げて、環状塗布槽13の上開口部13b及び下開口部13dを封止して塗料Pの流出を止める。
(5)さらに、駆動チャック部25を上方へ移動させ、円筒状基体K及び被塗装物保持部11を装置から外す。その後、環状塗布槽13を鉛直方向移動手段19により下方へ移動させる。このように、環状塗布槽13内側を封止する機構を設けることで、第1実施形態等のように補助円筒23を用いずとも、環状塗布槽13からの塗料の漏れを防ぐことができる。
(6)最後に、2ポートバルブ51bを開き、使用した分の塗料Pをポンプ51cにより環状塗布槽13内へ供給し、再び2ポートバルブ51bを閉じて次の塗膜形成に備える。
以上より、本実施形態によれば、被塗装物保持部11が、円筒状基体Kをその軸を鉛直方向として保持する。環状塗布槽13が、中空箱状に形成され、その上壁部13a及び下壁部13cのそれぞれに円筒状基体Kが挿通される上開口部13b及び下開口部13dが鉛直方向に重なるように形成されている。鉛直方向移動手段19が、環状塗布槽13を円筒状基体Kに対して鉛直方向に下方から上方に移動させる。環状シール部21が、環状塗布槽13の上方寄り(移動方向下流側)の上開口部13bにおける円筒状基体Kと環状塗布槽13との間を、水密に保つ。環状ブレード部14が、環状塗布槽13の下方寄り(移動方向上流側)の下開口部13dに設けられ、内縁部14aが当該下開口部13dに挿通された円筒状基体Kの外周面との間に当該円筒状基体Kに形成する塗膜Mの厚みに応じた隙間Sを空けて配置される。そして、圧力付加部18が、鉛直方向移動手段19によって環状塗布槽13が移動されている際に当該隙間Sを通過する塗料Pに加わる圧力が当該環状塗布槽13外の気圧と同一になるように環状塗布槽13に収容された塗料Pに圧力を加える。
このようにしたことから、環状塗布槽13の上壁部13a及び下壁部13cに形成された上開口部13b及び下開口部13dが、円筒状基体Kの外周面、環状シール部21及び環状ブレード部14によってほぼ塞がれている。そのため、圧力付加部18によって当該環状塗布槽13に収容された塗料Pに圧力を加えることができる。そして、圧力付加部18が、環状ブレード部14と円筒状基体Kの外周面との間の隙間Sを通過する塗料Pに加わる圧力が当該環状塗布槽13外の気圧と同一になるように環状塗布槽13に収容された塗料Pに圧力を加える。そのため、環状ブレード部14と環状塗布槽13の外周面との間の隙間Sを通過する前後で塗料Pに加わる圧力を同一とすることができるので、塗料Pの体積変化量を低減できる。したがって、できるだけ塗料Pを希釈せずに用いて、円筒状基体Kの表面に中空状添加物を配合した塗料の塗膜を高速で形成したときに生じる凹凸を抑制できる。
また、環状ブレード部14の内縁部14aが、当該環状ブレード部14の外縁部14bに対して環状塗布槽13の下方寄り(移動方向上流側)に配置されている。そして、環状ブレード部14の内縁部14aの厚みが、当該環状ブレード部14の外縁部14bの厚みより薄くなっている。このようにしたことから、環状ブレード部14周辺で塗装方向(図では鉛直方向)へ流れ易くなるため、環状ブレード部14の周辺で発生する塗料Pを引っ張る方向の力を低減することができる。そのため、隙間Sを通過する前後での塗料Pの体積変化量を低減できる。したがって、できるだけ塗料Pを希釈せずに用いて、円筒状基体Kの表面に中空状添加物を配合した塗料の塗膜を高速で形成したときに生じる凹凸をさらに抑制できる。
以上、本発明について、好ましい実施形態を挙げて説明したが、本発明の塗膜形成装置は上記実施形態の構成に限定されるものではない。
例えば、上述した第1実施形態、第3実施形態、第4実施形態及び第5実施形態の構成では、環状塗布槽13が下方から上方に移動する構成であり、第2実施形態では、環状塗布槽13が上方から下方に移動する構成であったが、これらに限定されるものではない。各実施形態において、環状ブレード部と環状シール部とについてそれぞれの配置を入れ換えて、環状塗布槽13の移動方向を反転(例えば、下方から上方へ移動する構成であれば、上方から下方へ移動する構成)させた構成としてもよい。
また、上述した各実施形態では、被塗装物保持部11を固定し、環状塗布槽13を鉛直方向移動手段19によって鉛直方向に移動させる構成であったが、これに限定されるものではない。例えば、環状塗布槽を固定し、被塗装物保持部を鉛直方向に移動させる鉛直方向移動手段を設けた構成としてもよい。即ち、塗料収容槽を被塗装物に対して鉛直方向に相対的に移動させるものであれば、鉛直方向移動手段は、塗料収容槽又は被塗装物のいずれを移動させてもよい。また、水平方向移動手段についても同様である。
なお、前述した実施形態は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、実施形態に限定されるものではない。即ち、当業者は、従来公知の知見に従い、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。かかる変形によってもなお本発明の塗膜形成装置の構成を具備する限り、勿論、本発明の範疇に含まれるものである。
次に、本発明者らは、以下の実施例1及び比較例1〜4の塗膜形成装置を用いて円筒状基体の外表面に塗膜を形成して、本発明の効果を確認するための評価を行った。
(実施例1)
塗膜形成装置として、図1に示す第1実施形態の塗膜形成装置を用いた。
(比較例1)
塗膜形成装置として、図7に示す浸漬塗布法に用いられる塗膜形成装置を用いた。
(比較例2)
塗膜形成装置として、図8に示す環状カーテン塗布法に用いられる塗膜形成装置を用いた。
(比較例3)
塗膜形成装置として、図9に示す環状ブレード法塗布法に用いられる高速型の塗膜形成装置を用いた。
(比較例4)
塗膜形成装置として、図9に示す環状ブレード法塗布法に用いられる低速型の塗膜形成装置を用いた。
これら、実施例1及び比較例1〜4の塗膜形成装置を用いて、厚さ50μm、内径φ40mm、軸長380mmのステンレス製の円筒状基材の外周面に、中空フィラー(松本油脂製薬)を2質量%配合した膜厚110μmのシリコーンゴム塗料(東レ・ダウコーニング社製)の塗膜を形成した。そして、以下の評価内容、評価基準で評価を行った。
(環境負荷)
溶剤で希釈していない塗料、及び、溶剤で希釈した塗料を用意し、各塗布方法に適したものを用いた。ここで、「溶剤で希釈していない塗料」とは、通常の希釈状態の塗料(固形分が60質量%、溶剤が40質量%)である。「溶剤で希釈した塗料」とは、通常の希釈状態の塗料に対して溶剤をさらに加えて希釈度合いを高めた塗料(固形分が40質量%、溶剤が60質量%)である。溶剤としてトルエンを用いている。
○・・・溶剤で希釈していない塗料を用いた。
×・・・溶剤で希釈した塗料を用いた。
(表面形状)
目視での凹凸確認をした。さらに、レーザ変位計を用いて円筒状基体Kの塗布始端部、中央部、塗布終端部の軸方向3カ所において周方向に90度間隔で4カ所の計12カ所について、軸方向に長さ40mmの測定を行い、それぞれの測定箇所における表面粗さRaを求めた。
○・・・目視にて確認できる凹凸がなく、且つ、12カ所の測定全てにおいて表面粗さRaが0.5μm以下である。
×・・・目視にて確認できる凹凸がある、又は、12カ所の測定のいずれかにおいて表面粗さRaが0.5μm超である。
(膜厚精度)
円筒状基体Kから塗膜Mをはがし、ダイヤルゲージを用いて円筒状基体Kの塗布始端部、中央部、塗布終端部の軸方向3カ所において周方向に45度間隔で8カ所の計24カ所について、膜厚の測定を行った。
○・・・24カ所の測定全てにおいて膜厚が110μm±20μm以内である。
×・・・24カ所の測定のいずれかにおいて膜厚が90μm未満又は130μm超である。
(塗装速度)
各塗布方法に適した塗装速度(環状塗布槽の相対移動速度)で塗布を行った。
○・・・塗装速度が10mm/秒以上である。
×・・・塗装速度が10mm/秒未満である。
(総合評価)
○・・・環境負荷、表面形状、膜厚精度及び塗装速度の結果が全て良好(○)である。
×・・・環境負荷、表面形状、膜厚精度及び塗装速度の結果に不良(×)を含む。
これら結果を表1に示す。
比較例1〜4の塗膜形成装置で作製した塗膜は、環境負荷、表面形状、膜厚精度及び塗装速度の各項目うちのいずれかにおいて、良好な結果を得ることができなかった。一方、本発明に係る実施例1の塗膜形成装置で作製した塗膜は、全ての項目において良好な結果を得ることができた。このことから、本発明によれば、中空フィラーが配合されたような高圧縮性高粘度塗料について、塗料を希釈することなく、表面に凹凸が少なく滑らかで均一な塗膜を高速に形成することができる。つまり、できるだけ塗料を希釈せずに用いて、被塗装物の表面に中空状添加物を配合した塗料の塗膜を高速で形成したときに生じる凹凸を抑制できることが、評価結果からも明らかとなった。
また、実施例1の塗膜形成装置を用いて、塗装速度と付加圧力を変化させて前述の塗膜を形成したときの塗装速度と塗料に加える圧力との関係の一例を図6に示す。この図6の斜線領域において、塗料を希釈して用いる比較例1の浸漬塗布法の塗膜形成装置で塗膜を形成したときの表面粗さと同程度の表面粗さを有する塗膜を得ることができた。このことからも、本発明によれば、塗料を希釈することなく、表面に凹凸が少なく滑らかで均一な塗膜を高速に形成することができる。つまり、できるだけ塗料を希釈せずに用いて、被塗装物の表面に中空状添加物を配合した塗料の塗膜を高速で形成したときに生じる凹凸を抑制できることが明らかとなった。