JP2015048345A - 酸化発色性化合物およびその応用 - Google Patents

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克也 野口
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Yuka Tanaka
由香 田中
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Abstract

【課題】過酸化水素定量等の酸化発色試薬に好適な高感度等の性質に加え、光安定性も優れた新化合物の提供。
【解決手段】式(I)で表される化合物又はその塩。
Figure 2015048345

[R及びRはそれぞれ独立して、4−ジ置換アミノアリール基、RとRのアリール基はS又はOを介して互いに結合してもよく、更にRとRのアリール基の少なくとも1ヶ所がスルホン酸基で置換されていてもよく、Aはアダマンタニレン基、Xは式(X−1)等で示される官能基又は原子団]
【選択図】図7

Description

本発明は、ペルオキシダーゼの存在下に過酸化水素を定量すること等に用いることのできる新規な酸化発色性化合物に関する。
臨床検査の分野においては、酸化発色性化合物から成る試薬を用いてペルオキシダーゼの存在下に過酸化水素を定量することが行われている。
このような酸化発色試薬としては、多くの化合物が案出されており、例えば、o−トリジン(ジメチルベンジジン)、o−フェニレンジアミン、テトラメチルベンジン及びこれらの類縁化合物が挙げられるが、フェノチアジン系構造を有する酸化発色性化合物は、分子吸光係数が高いので高感度の測定が可能であることが期待され注目されている。
特公昭60−33479号公報(特許文献1)には、フェノチアジン系構造を有する酸化発色性化合物の例が開示されているが、この化合物は水溶性に欠ける点において実用には適していなかった。その後、改良が続けられ、特開昭63−246356号公報(特許文献2)には、現在DA−67(和光純薬工業製)として市販されている酸化発色試薬を含む酸化発色性化合物が開示されている。
このDA−67は、下記の化学構造式(A)で表され、高感度の酸化発色試薬として広く使用されているが、光安定性が悪いという問題を抱えている。
Figure 2015048345
特公昭60−33479号公報 特開昭63−246356号公報
本発明の目的は、過酸化水素の定量等のための酸化発色試薬として用いられるのに好適な高い感度を有する等の性質に加えて、光安定性においても優れた新しい化合物を提供することにある。
本発明者は、研究を重ねた結果、フェノチアジン系構造のような色素形成部位の窒素原子を介してカルボニル炭素が結合し、そのカルボニル炭素の隣にアダマンタニレン基を有している特定構造の化合物によって、上述の目的が達成されることを見出した。
かくして、本発明に従えば、下記の式(I)で表される化合物又はその塩が提供される。
Figure 2015048345
式(I)中、R及びRはそれぞれ独立して、4−ジ置換アミノアリール基を表し、RとRのアリール基は硫黄原子または酸素原子を介して互いに結合してもよく、さらにRとRのアリール基の少なくとも1ヶ所がスルホン酸基で置換されていてもよく、Aはアダマンタニレン基を表し、また、Xは下記の式(X−1)から(X−3)のいずれかで表される官能基または原子団を表す。
Figure 2015048345
上記(I)式で表される本発明の化合物又はその塩のうち、特に好ましいのは、下記の式(I−1)で表される化合物又はその塩である。
Figure 2015048345
式(I−1)中、A及びXは、前記の式(I)に関して定義したものと同じである。
本発明の化合物又はその塩は、酸化発色試薬として用いられるのに好適な新規物質である。
本発明の化合物又はその塩は、酸化発色試薬として用いられる場合、感度が高く夾雑物の影響が少ない等の特性に加えて、光安定性がきわめて優れているという効果を奏する。
本発明化合物の例および比較化合物の化学構造式を示す。 本発明の化合物を合成する反応スキームを例示する。 本発明の化合物の過酸化水素添加によるスペクトル変化を例示する。 本発明の化合物を酸化発色試薬として用いた場合のpHの影響を比較化合物と対比して示すものである。 本発明の化合物が酸化発色試薬としてHの定量に用いられることを既存試薬として対比して示すものである。 本発明の化合物が酸化発色試薬として用いられる場合の反応速度を既存試薬と対比して示すものである。 本発明の化合物が酸化発色試薬として用いられる場合の光安定性を既存試薬として対比して示すものである。 本発明の化合物が酸化発色試薬として用いられる場合の夾雑物の影響を既存試薬として対比して示すものである。 本発明の化合物の別の例が酸化発色試薬として用いられる場合の夾雑物の影響を既存試薬と対比して示すものである。
式(I)で表される本発明の化合物は、式R−NH−Rで示されるジアリール誘導体に、アダマンタンをジカルボニルジクロライドとして反応させることにより合成することができる。さらに、その後、必要に応じて、OSu体(o−スクシンイミジルエステル:活性エステル体)とし、目的の化合物に応じたアミン化合物を反応させる(後述の実施例参照)。
−NH−Rで示されるジアリール誘導体は、一般的には、既知の反応に従い、例えば、アニリン誘導体とフェニレンジアミン誘導体とを酸化重合して色素化合物を合成した後、これを還元することで得られるが、既存の色素として入手できる原料から容易に合成することもできる。
例えば、本発明に従う好ましい化合物である式(I−1)で表される化合物は、メチレンブルーとして知られている色素を水素化ホウ素ナトリウム等で還元することにより、対応するR−NH−Rで示される化合物(フェノチアジン誘導体)を経由して合成することができる。
式(I)の本発明化合物において、R及びRで示される4−ジ置換アミノアリール基の4−ジ置換される置換基としては、一般に、炭素数1〜6の低級アルキル基又は低級アルコキシ基が挙げられ、好ましい例は、メチル基である。また、式(2)の本発明化合物において、R及びRで示される4−ジ置換アミノアリール基のアルール基としては、一般に、フェニル基またはナフチル基が挙げられ、好ましい例はフェニル基である。
かくして、式(I)の本発明化合物に属するものとして、次の構造式で表されるものを挙げることができる。
Figure 2015048345
Figure 2015048345
Figure 2015048345
Figure 2015048345
上記各式中、Aはアダマンタニレン基を表し、また、Xは、既述のように式(X−1)、(X−2)及び(X−3)のいずれかで表される官能基または原子団を表す。
上記式の化合物のうち、原料の入手の点などから合成が容易であり、さらに、酸化発色試薬として用いられた場合に、感度が高いことに加えて光安定性が優れている等の理由から、特に好ましいのは式(I−1)で表される化合物である。
式(I)で表される本発明の化合物は、塩の形態で存在し使用に供されることも多く、それらの塩も本発明の範囲に包含されるものとする。塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などの金属塩、アンモニウム塩などの塩基付加塩、塩酸塩、硫酸塩などの鉱酸塩、p−トルエンスルホン酸などの有機酸塩などを挙げることができるが、これらのうち、特に好ましいものとして一般に用いられるのはナトリウム塩である。
本発明の化合物は、酸化発色試薬として、DA−67のような広く使用されているものと同程度の高い感度を有し夾雑物による影響が低い等の性質を保持しながら、光安定性が大幅に向上しているという特徴を有する。本発明の化合物がこのような特性を発揮する理由は、完全には解明されていないが、カルボニル炭素で色素形成部位と結合し、そのカルボニル炭素の隣が(アダマンタニレン基にある)四級炭素を有しているという独特の構造に因るものと推察される(後述の実施例参照)。
かくして、本発明化合物の酸化発色試薬としての特に好ましい用途として、ペルオキシダーゼが関与する酸化反応の測定が挙げられる。すなわち、被測定サンプル中に本発明の化合物を添加して発色させて吸収スペクトルを測定し、該スペクトルの吸光度から、過酸化水素の濃度を検知したり、あるいは、ペルオキシダーゼの活性を調べることができる。
さらに、本発明の化合物は、酸化性物質により酸化されて発色するので、この性質を利用する他の用途も可能である。例えば、本発明の化合物は、塩素により酸化されて発色するので、水中の残留塩素濃度の測定にも応用される。すなわち、被測定サンプル中に本発明の化合物を添加して発色させて吸収スペクトルを測定し、該スペクトルの吸光度から残留塩素濃度を検知することもできる。
本発明の特徴を更に具体的に説明するために、以下に実施例によって示すが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
実施例1:本発明化合物の合成
本発明に従う化合物として、図1に示す化合物A,B、CおよびDを合成した。
<化合物Aの合成>
図2の(I)に示す反応スキームに従い、アダマンタンジカルボニルジクロライドを次のように合成した:1Lナスフラスコに、1,3−アンマンタンジカルボン酸50g(0.22mol)、クロロホルム300mlに加え、マグネチックスターラーで撹拌溶解した。次いで、DMFを1ml滴下した。塩化チオニル34ml(0.47mol)を加え、75℃で加熱還流した。溶け残りが無くなっているのを確認後、エバポレーターで減圧濃縮を行った。溶液が乾固し、白色の粉末を得た。真空ラインにつなぎ、一晩減圧下で保存した。
次に、図2の(II)に示す反応スキームに従い、目的の本発明化合物Aを次のように合成した:3Lフラスコに、メチレンブルー181g(484mmol)を投入し、水600mlを加え加温溶解した。クロロホルムを1L加え、NaBH水溶液を滴下した。分液し、クロロホルム層を硫酸ナトリウムで乾燥させた。クロロホルム溶液を反応容器へ移し、トリエチルアミンを68.4ml(0.49mol)、N,N−ジメチルアミノピリジンを1g加え、氷浴にセットした。スターラーで撹拌しながらアダマンタンジカルボニルジクロライドのクロロホルム溶液を少量ずつ滴下した。反応後、反応液を濃縮し、水酸化ナトリウム水溶液でpH12に調整後、カラムクロマトグラフで精製した。カラム精製後、淡青白色粉末82.0gを得た。
同定データ:
NMR(DMSO−d):δppm 1.30−1.62(10H,m,adamantine H), 1.80(2H,s,adamantine H),1.89(2H,s,adamantine H),2.88(12H,s,−N−(CH),6.64−7.33(6H,m,aromatic H) MS:[M−Na+2H]=492
<活性エステル体の合成>
上記のように合成した本発明化合物Aから、図2の(III)に示す反応スキームに従い、次のように活性エステル体を合成した:200mlナスフラスコに化合物A918mg(2.1mmol)、クロホルム50ml加え、氷浴に浸けた。N−ヒドロキシスクシンイミド722mg(6.27mmol)、N,N−ジメチルアミノピリジン39mg(0.31mmol)、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド977μl(6.27mmol)を加え、一晩撹拌した。反応液を濃縮し、カラム精製後、活性エステル体を1.2g得た。
<化合物Dの合成>
図2の(IV)に示す反応スキームに従い、上記のようにして得た活性エステル体から本発明化合物Dを次のように合成した:5mlバイアル瓶に活性エステル体100mg(0.17mmol)、THF2ml、水1.5ml、タウリン21mg(0.17mmol)加え、一晩撹拌拌した。反応液を濃縮し、カラム精製後、化合物Dを52.7mg得た。
<化合物Bの合成>
図2の(V)に示す反応スキームに従い、上記のようにして得た活性エステル体から本発明化合物Bを次のように合成した:5mlバイアル瓶に活性エステル体100mg(0.17mmol)、THF3ml、3,6,9,12−テトラオキサトリデカン−1−アミン35mg(0.17mmol)加え、一晩撹拌した。反応液を濃縮し、カラム精製後、化合物Bを69.4mg得た。
<化合物Cの合成>
図2の(VI)に示す反応スキームに従い、上記のようにして得た活性エステル体から本発明の化合物Cを次のように合成した:5mlバイアル瓶に活性エステル体100mg(0.17mmol)、THF3ml、3,6,9,12,15,18,21,24−オクタオキサペンタコサン−1−アミン65mg(0.17mmol)加え、一晩撹拌した。反応液を濃縮し、カラム精製後、化合物Cを69.9mg得た。
実施例2:発色試験
実施例1で合成した本発明化合物Aについてペルオキシダーゼ存在下における過酸化水素による発色試験を行った。
<過酸化水素添加によるスペクトル変化>
本発明化合物Aの濃度0.1mM、POD(ペルオキシダーゼ)濃度3.3U/mlとし、過酸化水素濃度を変えて、37℃で5分間インキュベーションした後、吸光スペクトルを測定した。
その結果を図3に示す。図に示されるように過酸化水素の濃度に応じて650nm付近に鋭敏な吸光スペクトルが認められた。なお、モル吸光係数は約10万であり、DA−67に匹敵するものであった。
<pHの影響試験>
96ウエルプレートのそれぞれのウエルに、バッファー50μl、超純水50μlを加え、本発明化合物Aまたは比較化合物AもしくはB(図1参照)600μM+POD4U/ml(50μl)を加えた後、60μM Hを50μlを加え、37℃で5分間インキュベーションした後、吸光スペクトルを測定した。
その結果を図4に示す。図4に示されるように、本発明化合物Aは、pHの影響を受けることなく安定である。これに対して、比較化合物AおよびBは、いずれもpHの影響を非常に受けやすいことが示された。
実施例3:既存試薬との比較試験
本発明の化合物の酸化発色試薬としての特性を既存の市販試薬(DA−67:和光純薬工業株式会社製)と比較して調べた。
<H定量性>
96ウエルプレートの各ウエルにバッファー100μlを入れ、次に60μMのHを100μl添加し倍々希釈してHの濃度を変化させた。これに酸化発色試薬(本発明化合物AまたはDA−67)0.2mM+POD(4U/ml)溶液100μlを添加した。38℃で5分間インキュベーションした後、650nmにおける吸収スペクトルを測定した。なお、酸化発色試薬(0.2mM)+POD(4U/ml)の調製は、本発明化合物Aについては、10mM水溶液100μlにPODを加えて水で5mlとし、また、DA−67については5mM水溶液200μlにPODを加えて水で5mlとすることにより行った。
その結果を図5に示す。本発明化合物AはDA−67と同様の感度を示し、POD(ペルオキシダーゼ)存在下の過酸化水素の定量に供し得ることが理解される。
<反応速度>
ペルオキシダーゼ存在下におけるHによる酸化の反応速度を調べた。試験管に10mMの本発明化合物AまたはDA−67を30μl入れ、これに1mMのHを30μl添加した後、2.7mlのバッファー+PODを加えて37℃に保持して5分毎に650nmにおける吸光度を測定した。
その結果を図6に示す。本発明化合物AはDA−67と同程度を反応速度示すことが理解される。
<溶液安定性>
光照射下における溶液安定性を次のように試験した。本発明化合物AおよびDA−67のそれぞれを50mMのMESバッファー(pH6.5)で0.25mMとなるように調製した。調製した各試薬を蛍光灯下に静置して、650nmの吸光度の経時変化を追跡した。
結果を図7に示す。DA−67溶液は時間経過とともに吸光度が急激に変化するのに対して、本発明化合物Aの溶液は経時的に吸光度が変化することなく、光安定性が大幅に向上していることが示されている。
<干渉チェック(夾雑物の影響チェック>
夾雑物としてビリルビン−F(BIL−F)、ビリルビン−C(BIL−C)および溶血ヘモグロビン(Hb)を用いて、その干渉の程度をチェックした。各溶液の調製は次のように行った。
酸化発色試薬(本発明化合物またはDA−67)+POD:酸化発色試薬を50mMBicine500μlで溶解し、酸化発色試薬濃度3mMの溶液を作成した。その溶液にPODを加え、水で4.5mlにした。干渉チェック溶液:1ボトル/2ml水に溶解し、10倍希釈した。
/バッファー溶液:1mMH水溶液300μl/5mバッファーとした。
96ウエルプレートの各ウエルに干渉チェック溶液を入れ、これに酸化発色試薬+POD溶液90μlを加え、さらに、H/バッファー溶液100μlを添加した。37℃で10分間インキュベーションした後、650nmにおける吸光度を測定した。
本発明化合物AとDA−67を比較した測定結果を図8に示す。また、本発明化合物B、本発明化合物C、および本発明化合物DとDA−67を比較した測定結果を図9に示す。本発明の化合物は、いずれも、DA−67と比較して、夾雑物の影響は同程度または若干悪い程度であることが示されている。
以上の結果から、本発明の化合物は、既存試薬と比べて、ペルオキシダーゼ存在下におけるH測定に関して同程度の感度及び反応速度を示し、夾雑物の影響もほぼ同等でありながら、光安定性が大幅に向上していることが理解された。

Claims (4)

  1. 下記の式(I)で表されることを特徴とする化合物又はその塩。
    Figure 2015048345
    〔式(I)中、R及びRはそれぞれ独立して、4−ジ置換アミノアリール基を表し、RとRのアリール基は硫黄原子または酸素原子を介して互いに結合してもよく、さらにRとRのアリール基の少なくとも1ヶ所がスルホン酸基で置換されていてもよく、Aはアダマンタニレン基を表し、また、Xは下記の式(X−1)から(X−3)のいずれかで表される官能基または原子団を表す。〕
    Figure 2015048345
  2. 下記の式(I−1)で表されることを特徴とする請求項1に記載の化合物又はその塩。
    Figure 2015048345
    〔式(I−1)中、A及びXは、前記の式(I)に関して定義したものと同じである。〕
  3. 請求項1又は2に記載の化合物又はその塩を含むことを特徴とする酸化発色試薬。
  4. ペルオキシダーゼが関与する酸化反応の測定に用いられることを特徴とする請求項3に記載の酸化発色試薬。
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