本発明のエネルギー変換装置は、電気エネルギーを機械エネルギーへ、および機械エネルギーを電気エネルギーへ相互に変換することが可能な装置であり、上記平面スピーカ、ヘッドフォン、マイクロフォン等に利用できる装置である。
図1は、エネルギー変換装置の1つの構成例を示した図である。このエネルギー変換装置は、少なくとも振動板10と磁石基板11と磁性膜12とを含んで構成される。図1では、これらに加えて非磁性基板13を含んで構成されている。磁石基板11は、強磁性体14との間に引き合うような磁力を発生させ、その磁力により強磁性体14にくっついている。
強磁性体14は、磁界内に置かれると強く磁化し、磁界内から取り除いても磁気を残す物質で、鉄、コバルト、ニッケル、これらの合金、フェライト、サマリウム鉄等を用いることができる。強磁性体14の形状や大きさは、磁石基板11をくっつけることができるのであれば、いかなる形状や大きさであってもよい。
磁石基板11は、強磁性体14との間に引き合うような磁力を発生させ、強磁性体14にくっつき、また、磁性体からなる磁性膜12との間にも引き合うような磁力を発生させ、磁性膜12を引き寄せる。これにより、くっつけるための接着剤が不要となる。
磁石基板11の一方の面は、強磁性体14にくっついて隣接し、その反対側の他方の面は、非磁性基板13の一方の面と隣接するように配置される。非磁性基板13の他方の面には、振動板10の一方の面が隣接し、振動板10の他方の面には、磁性膜12が隣接するように配置される。磁石基板11と磁性膜12との間には、上記の磁力が発生し、磁性膜12が引き寄せられるので、その間にある非磁性基板13と振動板10とが、磁石基板11と磁性膜12とによって挟持される。なお、振動板10は、その磁力により振動可能に挟持される。
従来では、振動板10がバタつかないように、筐体を設け、その筐体に固定していたが、このように挟持する構成を採用することで、筐体を設けることなく、簡単に固定することができる。また、筐体を設けなくてもよいので、安価で提供することが可能となる。
また、従来では、磁石基板11に振動板10等を支持するために、磁石基板11に穴を設け、その穴に支持部材を通して固定していたが、穴を設ける必要がないため、手間がかからず、コストを削減することができる。
磁石基板11は、例えば、正方形の平板状で、全面にわたって帯状のN極とS極とが交互に現れるような平行縞状の帯磁パターンを形成したものとすることができる。このような帯磁パターンは、未焼結の磁石シートを積層一体化して焼結することにより作成することができる。なお、磁石基板11は、正方形の平板状のものに限られるものではなく、円形、楕円形、長方形等であってもよい。
このような帯磁パターンをもつ磁石基板11では、表面に対して垂直な磁界成分は、各極の磁石表面の中央付近が最も大きく、N極とS極の境界付近で最も小さくなる。実際に磁力線は、N極からS極へ向けて円弧状に通り、振動板10を振動させるのに寄与する磁界成分は、磁石表面に対して水平方向の成分となる。この水平方向の成分が最も有効に作用するのは、上記N極とS極の境界付近である。
このため、その境界付近に対応する振動板10の位置に導線パターンからなるコイルの直線部分を設け、コイルに交流電流を流すことで、フレミング左手の法則に従って、振動板10をその厚さ方向へ効率よく振動させることができる。このとき、磁石基板11は、コイルが延びる方向に対して垂直方向に磁界を発生させている。
コイルを構成する導線パターンと帯磁パターンは同じパターン、すなわち帯磁のN極とS極との境界の間隔(帯磁パターンのピッチ)がコイルのピッチと同じであることが望ましい。なお、全く同じでなくとも、近似したパターンであればよい。このように近似したパターンにすることで、磁石基板11の周りに発生する磁界(漏洩磁界)を有効にコイルに伝達することができる。
磁石としては、フェライト磁石、ネオジム磁石、アルニコ磁石、サマリウムコバルト磁石等を挙げることができるが、音圧を大きくするには、磁力の強いネオジム磁石が好ましい。ただし、目的に応じて、その他の磁石を採用することができる。
エネルギー変換装置は、上記のように、磁石基板11に穴を設ける必要がないため、平面スピーカのように、一方向(片側)にのみ音を出力する機器として利用する場合に有用である。
振動板10は、上記N極とS極の境界付近に対応する位置に導線パターンからなるコイルが形成されたものを用いることができる。振動板10は、可撓性を有する厚さ10〜30μm程度のポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド、ポリエチレンナフタレート(PEN)のような樹脂基板に、上記コイルを密着形成したものを用いることができる。
樹脂基板は、透明性を必要としないが、振動するために、ある程度の剛性が必要とされる。例えば、厚さ25μmのポリイミド基板に厚さ9μmのコイルを密着形成したものを振動板10として用いることができる。ちなみに、ポリイミドの曲げ弾性率は、3100MPaであり、PETおよびPENはほぼ同等で2200MPa程度である。なお、振動面積が大きいほど、振幅が大きくなるので、より大きな機械エネルギーを得ることができる。
コイルは、例えば、銅箔付きのポリイミド基板をウェットエッチングにより密着形成することができる。これに限定されるものではなく、銅ペーストを用い、スクリーン印刷等の印刷方法を利用して形成することも可能である。スクリーン印刷は、均一な厚さ、かつピッチで形成することができる点において望ましい。コイルの幅や長さは、任意の幅や長さではなく、インピーダンスにより規定される幅や長さとされる。また、コイルは、電源に接続するために、両端にプラス端子とマイナス端子が設けられる。
非磁性基板13は、振動板10が振動する際、磁石基板11に衝突して異音を発するのを防止し、振動板10自身の分割振動の発生を防止するために設けられる。エネルギー変換装置をスピーカとして利用する場合、非磁性基板13を磁石基板11と振動板10との間に介在させることにより、音源に忠実な音波以外の発生を抑制することができる。
非磁性基板13は、磁石基板11とコイルとの距離を一定に保持するために厚さが一定で、可撓性を有し、磁石にくっつかない非磁性材料からなる基板であればいかなるものであってもよい。非磁性基板13としては、例えば、紙や和紙、クリーンワイプ等のセルロース繊維等を挙げることができる。非磁性材料であるので、アルミニウム等の非磁性の金属材料であってもよいが、ある程度の可撓性が必要であるので、上記紙等の非金属材料のほうが望ましい。
非磁性基板13の厚さは、例えば、数μmから0.5mm程度の範囲で、漏洩磁界を考慮すると、数十μmから数百μm程度の紙やクリーンルームで使用できるクリーンペーパーが好ましい。クリーンペーパーは、エネルギー変換装置をスピーカとして利用する場合、スピーカ全体を覆う筐体がなくても塵等が出ないので望ましい。非磁性基板13は、厚みによっては磁石基板11の大きさ以下であってもよく、部分的な線状のものを並べたものであってもよい。
磁性膜12は、可撓性を有する透明な基板(透明基板)上に形成することもできるし、振動板10上に直接形成することもできる。磁性膜12として使用可能な材料としては、鉄、コバルト、フェライト、サマリウム鉄等を含む金属磁性材料を挙げることができる。また、酸化鉄にコバルト、ニッケル、マンガン、樹脂等を含有するものであってもよい。樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂等を挙げることができる。なお、磁性膜12は、磁石にくっつく磁性を有する材料であれば、その他いかなる材料であってもよい。
磁性膜12は、透明基板上にスクリーン印刷等の印刷方法を使用して形成することができる。磁性膜12を印刷方法により形成することは一般的ではないが、例えば、フェライトおよびサマリウム鉄からなる磁性体と、スクリーン印刷用インキとを6:4の割合とした混合物を用いて形成することができる。具体的には、磁性体は、ロッキングミルで粉砕し、ペースト化したものを用いる。厚さ100μmのPET上に、上記混合物をスクリーン印刷にて磁石基板11の帯磁パターンのピッチと導線パターンのピッチに合わせた幅で形成する。その後、120℃の温度で約30分間加熱して硬化させる。これは一例であり、この割合、温度および時間に限定されるものではない。
透明基板としては、上記のPETのほか、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、PEN等のポリエステルから成形されたフィルム等を適当なサイズに切り出したものを用いることができる。
透明基板は、適当なサイズに切り出したフィルム等をそのまま使用してもよいし、磁性膜12を形成した部分以外の少なくとも一部をくり抜く等して穴を設けることもできる。エネルギー変換装置をスピーカとして利用する場合、全面を透明基板で覆ってしまうと音がこもるため、このように穴を設けることにより、音がこもるのを低減あるいはなくすことができる。
なお、穴を設けることに限らず、小さく切り出した複数の透明基板の各々に磁性膜12を形成し、振動板10の少なくとも一部を覆うように任意の部分に隣接させて配置してもよい。このようにすることで、透明基板間に隙間を形成し、その隙間から音を出力させることができる。
振動板10に直接形成する場合、コイルを形成した後、その表面をエタノールにて超音波洗浄し、その後、上記の透明基板上に形成する場合と同様、スクリーン印刷等の印刷方法により形成することができる。
図2は、図1に示したエネルギー変換装置の平面図である。この平面図を参照して、コイル15、磁性膜12について詳細に説明する。磁石基板11、磁性膜12が形成された透明基板、非磁性基板13、コイル15が密着形成された振動板10を用い、エネルギー変換装置を形成する。振動板10以外は全て同じ大きさとすることができるが、図2では、その構造を分かりやすくするために、上側に配置されるにつれてその大きさをわずかに小さく記載している。
矩形の磁石基板11上に矩形の非磁性基板13を配置し、その上に矩形の振動板10を配置し、その上に磁性膜12が形成された矩形の透明基板を磁性基板16として配置し、磁石基板11と磁性膜12との間に磁力を発生させる。その磁力により、磁石基板11と磁性膜12との間にある非磁性基板13と振動板10とを磁石基板11と磁性膜12によって挟持する。
コイル15は、図2に示すように、向かって下側に、電源に接続するための図示しない2つの端子が設けられ、蛇行あるいはパルス状に形成された導線パターンとすることができる。このような形状の導線パターンとして形成することで、磁石基板11に形成された帯磁パターンのN極とS極の各境界付近に一方に長く延びるコイルの部分をそれぞれ設けることができる。
磁性膜12は、振動板10に形成された導線パターンのうち、一方に長く延びたコイル間に位置するように設けられる。また、磁性膜12は、非磁性基板13および振動板10を挟持することができればよいため、図2に示すように、透明基板に向かって左右両側にのみ設けることができる。
図2では、左右両側にそれぞれ2列に磁性膜12を設けているが、これに限られるものではなく、左右両側にそれぞれ1列であってもよいし、中央にも磁性膜12を設けてもよい。
このエネルギー変換装置は、コイル15に交流電流を流すことにより、振動板10の厚さ方向に力が作用し、振動板10をその厚さ方向へ振動させる。この振動により、電気エネルギーから機械エネルギーへ変換することができる。機械エネルギーは、上記のように空気を振動させ、音波として出力することができる。また、このエネルギー変換装置は、音波から振動板10を振動させ、その振動によりフレミング右手の法則に従ってコイル15で交流電流を発生させることにより、機械エネルギーから電気エネルギーへ変換することもできる。前者の変換により、エネルギー変換装置をヘッドフォンやスピーカとして利用することができ、後者の変換により、エネルギー変換装置をマイクロフォンとして利用することができる。
磁性膜12は、磁化されていてもよいが、磁石基板11との間に引き合うような磁力を発生させるために、磁性膜12からの漏洩磁界は、磁石基板11の最小漏洩磁界よりも小さいものとされる。
磁石基板11は、振動板10が配置される側への漏洩磁界と、その裏側である強磁性体14側への漏洩磁界とが同じ強さになるように帯磁を行うことができる。また、振動板10が配置される側への漏洩磁界が、その裏側への漏洩磁界より強くなるように帯磁を行うことができる。
帯磁は、磁性体を磁化させることをいい、磁化は、例えば、電磁石を用いて外部磁場を加えることにより行うことができる。この帯磁を、磁性体の片面のみで行うことにより、帯磁しない側も磁化されるが、帯磁した側の方を強く磁化させることができる。
磁石基板11の両側の漏洩磁界を同じ強さになるように帯磁を行うと、両側が強い漏洩磁界となるので、強磁性体14に付けた際、取り外すのが困難になる。その一方、上記のように片面のみを帯磁させると、その裏面からの漏洩磁界は比較的弱いので、簡単に付けることができ、かつ取り外すのも容易となる。このため、取り扱いが容易になる。
図1および図2に示した実施形態では、振動板10も、磁石基板11も、平板状のものとされているため、スピーカとして利用する場合、高音は出るが、低音が出ない、あるいは出にくいという欠点がある。低音は、大きな振動を必要するが、平板状のものでは非磁性基板13とコイルとの間の距離が短く、大きな振動を得にくいためである。
そこで、図3に示すように、振動板10の形状を、断面形状が波形形状のものとすることができる。この波形形状の振動板10の非磁性基板13から最も離間した各頂部にコイル15を密着形成し、非磁性基板13に最も近い各溝部に断面が略U字形の磁性膜12を配置することができる。このように、非磁性基板13とコイル15との間に空隙を設けてその距離を長くすることで、大きな振動を得ることが可能となる。なお、磁性膜12と磁石基板11との間には、引き合うような磁力を発生させ、振動板10および非磁性基板13を挟持させることができる。
振動板10は、以下のように形成するのが望ましい。コイル15の導線パターンのピッチを、磁石基板11のN極とS極とが交互に現れる帯磁パターンのピッチより広く形成する。導線パターンのピッチと帯磁パターンのピッチが同程度で、断面形状が波形形状になるように、型に入れ、押圧する等して成形する。
導線パターンのピッチと帯磁パターンのピッチを同程度にし、導電パターンの一方に長く延びた部分間の中央にN極とS極の境界が位置するように配置することで、漏洩磁界を大きくし、充分な音圧の低音を出力することができる。
磁性膜12は、断面形状が波形形状を有する振動板10に隣接させて配置することができるように、断面形状が波形形状の透明基板上の各溝部に形成することもできるし、振動板10上に直接形成することもできる。
振動板10上に直接形成する場合、コイルを密着形成した後、表面をエタノールにて超音波洗浄し、その後、磁性膜12をスクリーン印刷により形成することができる。磁性膜12は、振動板10の表面全体を覆ってしまうと出力される音がこもってしまうので、振動板10の両端に1列ずつ、もしくは2列ずつ、または両端と中央の3列に形成することができる。これらは一例であり、両端に3列ずつ形成する等してもよい。
エネルギー変換装置をスピーカとして利用し、各種試験を行った。図4は、その試験条件を示したテーブルである。スピーカは、平面スピーカであり、図1および図2に示すような構造および構成のものである。平面スピーカは、各々が矩形の磁石基板11、非磁性基板13、振動板10、磁性膜12を備える磁性基板16から構成されている。
実施例1〜7および比較例1はいずれも、強磁性体14側への漏洩磁界を±24mT、振動板10側への漏洩磁界を±95mTとし、振動板10側を強くなるように形成した。実施例8のみ、両側の漏洩磁界を同じ±95mTとなるように形成した。実施例2、4、6について、非磁性基板13の厚さをその他の実施例および比較例1の2倍の0.2mmとした。実施例3、4について、コイル15の厚みをその他の実施例および比較例より5μm程厚くして35μmとし、実施例5、6について、10μm程厚くして40μmとした。実施例7、8について、コイル15のピッチを他の実施例および比較例1の2倍の6mmとした。
実施例1、3、5、7、8は、磁性膜12の材質をフェライト、そのサイズを15mm×115mm、本数を2本とした。実施例2、4、6は、磁性膜12の材質をSmFe(サマリウム鉄)、そのサイズを20mm×115mm、本数を3本とした。磁性膜12は、東レ株式会社製の厚さ100μmのルミラー(登録商標)上に、上記の印刷方法により形成した。フェライトは、DOWAエフテック株式会社製のOP−56、SmFeは、日亜化学工業株式会社製のJ16、スクリーン印刷用インキは、太陽インキ製造株式会社製の低温硬化接着剤RCA(登録商標)−2000を用いた。磁性膜12の硬化は、120℃で30分加熱することにより行った。
試験結果を図5に示す。実施例1〜8はいずれも、磁性膜12を備えているので、振動板10をスピーカ内に保持でき、絶対音圧1〜5kHzにおいて良好な音圧を得ることができた。また、強磁性体14にもくっつけることが可能であった。実施例8については、両側の漏洩磁界を同じにし、しかも±95mTと強いので、容易に取り外すことはできなかった。なお、比較例1については、磁性膜12がないので、振動板10を固定することができず、音を出力することもできなかった。
この結果から、磁石基板11と磁性膜12との間に非磁性基板13と振動板10とを挟み込み、それらの間に発生した磁力により挟持しただけの構造および構成であるが、良好な音響特性が得られることを見出すことができた。また、振動板10を挟み込むだけで簡単に固定することができ、強磁性体14側の漏洩磁界を弱くすることで、容易に取り外しが可能となることを見出すことができた。
実施例1〜6と実施例7とを比較してみると、導線パターンのピッチと帯磁パターンのピッチとが同じ3mmである実施例1〜6のほうが、絶対音圧が大きく、音響特性がより良好であることを見出すことができた。また、非磁性基板の厚み、コイルの厚み、磁性膜12の材質および本数、サイズ等によっては絶対音圧があまり影響を受けないことが見出された。
以上のことから、磁性膜12と磁石基板11との間に振動板10を挟み込み、その間に発生する磁力により挟持する構成とすることで、簡単に振動板10を固定でき、かつ良好な音響特性を得ることができる。磁石基板11の振動板10側への漏洩磁界を、その裏側の強磁性体14側への漏洩磁界より強く形成することが、容易に取り外しができる点で好ましい。また、導線パターンのピッチと帯磁パターンのピッチを同程度にすることが、より音圧を大きくできる点で好ましい。
次に、図3に示すような構造および構成の平面スピーカを用いて実施した試験の試験条件を、図6に示す。平面スピーカは、各々が矩形の磁石基板、非磁性基板、振動板、磁性膜を備える透明基板から構成されている。
実施例1〜6はいずれも、振動板10として断面形状が波形形状の振動板を使用し、比較例1〜3は平面状の振動板を使用した。ちなみに、比較例2、3は、振動板の形状による違いを比較するために、図1に示す構成の平面スピーカを使用して実施した。実施例1〜6および比較例1、2はいずれも、強磁性体14側への漏洩磁界を±24mT、振動板10側への漏洩磁界を±95mTとし、振動板10側を強く形成した。比較例3のみ、両側の漏洩磁界を同じ±95mTとなるように形成した。実施例2、4、6について、非磁性基板13の厚さをその他の実施例および比較例1の2倍の0.2mmとした。実施例3、4について、コイル15の厚みをその他の実施例および比較例より5μm程厚くして35μmとし、実施例5、6について、10μm程厚くして40μmとした。
コイル15のピッチは、実施例1〜6および比較例2は、帯磁パターンのピッチの2倍の6mmに形成し、実施例1〜6については、波形にすることにより、コイル15のピッチを帯磁パターンのピッチと同じ3mmとした。
実施例1、3、5および比較例2、3は、磁性膜12の材質をフェライト、そのサイズを15mm×115mm、本数を2本とした。実施例2、4、6は、磁性膜12の材質をSmFe(サマリウム鉄)、そのサイズを20mm×115mm、本数を3本とした。磁性膜12は、東レ株式会社製の厚さ100μmのルミラー(登録商標)上に、上記の印刷方法により形成した。フェライトは、DOWAエフテック株式会社製のOP−56、SmFeは、日亜化学工業株式会社製のJ16、スクリーン印刷用インキは、太陽インキ製造株式会社製の低温硬化接着剤RCA(登録商標)−2000を用いた。磁性膜12の硬化は、120℃で30分加熱することにより行った。
試験結果を図7に示す。実施例1〜6および比較例2、3はいずれも、磁性膜12を備えているので、振動板10をスピーカ内に保持でき、絶対音圧1〜5kHzにおいて良好な音圧を得ることができた。また、強磁性体14にもくっつけることが可能であった。
比較例3については、両側の漏洩磁界を同じにし、しかも±95mTと強くしたので、容易に取り外すことはできなかった。比較例3は、高音域に関して実施例1〜6より大きい充分な音圧が得られたが、低音域に関して約半分の音圧しか得られなかった。比較例2も、高音域に関して実施例1〜6より大きい充分な音圧が得られたが、低音域に関して約半分の音圧しか得られなかった。
比較例1については、磁性膜12がないので、振動板10を固定することができず、音を出力することもできなかった。
この結果から、磁石基板11と磁性膜12との間に非磁性基板13と振動板10とを挟み込み、それらの間に発生した磁力により挟持しただけの構造および構成であるが、良好な音響特性が得られることを見出すことができた。それに加えて、振動板10を断面形状が波形形状になるように形成することで、より良好な音響特性が得られることを見出すことができた。
また、アコー株式会社製の測定用マイク(Type4152)を使用してスピーカから出力された音を測定した。音源は、音楽用CDを用い、同じ時間帯のピーク値を採用した。その結果、断面形状が波形形状の振動板10を用いることで、平面状のものと比較し、特に700Hzから3kHzまでの低音域の音が大きくなったことを確認できた。
このことから、振動板10は、断面形状が平面状である、単なる平板であってもよいが、断面形状が波形形状のものが望ましい。また、磁石基板11の振動板10側への漏洩磁界を、その裏側の強磁性体14側への漏洩磁界より強く形成することが、容易に取り外しができる点で好ましい。さらに、導線パターンのピッチと帯磁パターンのピッチを同程度にすることが、より音圧を大きくできる点で好ましい。
密閉型やコーン型のスピーカの設計では、音質を決める共振周波数を、単純なインピーダンスやインダクタンスから決定することができる。従来、磁石基板11を振動板10の片側のみに配置した構成を採用するスピーカ(片面フリーなスピーカ)の設計では、その振動板の固定の仕方が難しいため、単純なインピーダンス等から共振周波数を決定することはできなかった。しかしながら、磁性膜12により面内方向への変位を規制しつつ簡単に固定することができるため、インピーダンス等から共振周波数を決定することができる。このため、片面フリーなスピーカでも、良好な音響特性を得ることができる。
これまで本発明を、エネルギー変換装置として上述した実施の形態をもって説明してきたが、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではない。本発明は、他の実施の形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
したがって、本発明は、エネルギー変換装置を利用した平面スピーカ、ヘッドフォン、マイクロフォン等としても提供することができるものである。