JP2015016496A - サブマージアーク溶接方法およびその溶接方法によって形成される溶接継手 - Google Patents
サブマージアーク溶接方法およびその溶接方法によって形成される溶接継手 Download PDFInfo
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Abstract
【解決手段】鋼板の下面側を溶接した後に上面側を溶接する両面各一層の多電極サブマージアーク溶接方法であって、鋼板の下面側の溶接における第1電極のアーク電圧を40V以上として溶接するものとし、鋼板の上面側および下面側における溶接金属と溶接熱影響部の境界線の傾斜角度θ1(°)およびθ2(°)について、それぞれ以下の(1)および(2)式を満足させるとともに、鋼板の下面側の溶接入熱と上面側の溶接入熱との合計入熱Q(kJ/cm)について、鋼板の板厚t(mm)との間で以下の(3)式の関係を満足させる。θ1≧15・・・・・・・(1)、θ2≧15・・・・・・・(2)、Q≦1.3×t1.37・・・(3)
【選択図】図1
Description
また、本発明は、上記のサブマージアーク溶接方法によって形成される溶接継手に関するものである。
この両面一層盛り溶接では、下面側の溶接金属と上面側の溶接金属が十分に重なり、未溶融部が生じないように、溶込み深さを確保する必要があるので、1000A以上の大電流を供給して溶接を行うのが一般的である(たとえば特許文献1、2)。
しかしながら、電流や電圧が増加すると、溶接入熱の増大を招き、溶接熱影響部の靭性が劣化するという問題が生じる。このような問題に対して、溶接熱影響部の靭性を向上するために、鋼板の特性を改善する技術(たとえば特許文献3、4、5)、溶接施工にて細径ワイヤを使用する技術(たとえば特許文献6、7)、ビード形状を制御する技術(たとえば特許文献8、9)等が検討されている。
つまり、鋼板の下面側を溶接した際の溶接熱影響部(特に粗粒域)が上面側の溶接によって再び加熱されるので、局所脆化域と呼ばれる靱性劣化領域が生じるが、溶接熱影響部の形状によっては脆化域の寸法や形状が変化するため、靱性にばらつきが生じる。
「サブマージアーク溶接で突合せ溶接を行うに際し、鋼板の下面側を溶接した後に上面側を溶接する溶接方法であって、
下面側溶接金属の溶融境界線と上面側溶接金属の溶融境界線とが交わる会合点と、該会合点から前記鋼板の上表面の方向へ5mmの位置を通り該上表面に平行な第1平行線と前記上面側溶接金属の溶融境界線とが交わる第1交点と、を結ぶ上面側境界直線が、前記第1平行線に垂直な線となす角をθ1(°)とするとき、該θ1が下記の(1)式を満足し、
かつ前記会合点と、前記会合点から前記鋼板の下表面の方向へ5mmの位置を通り該下表面に平行な第2平行線と前記下面側溶接金属の溶融境界線とが交わる第2交点と、を結ぶ下面側境界直線が、前記第2平行線に垂直な線となす角をθ2(°)とするとき、該θ2が下記の(2)式を満足するとともに、
前記鋼板の下面側の溶接入熱と上面側の溶接入熱との合計入熱Q(kJ/cm)が、前記鋼板の板厚t(mm)との間で(3)式の関係を満足することを特徴とするサブマージアーク溶接方法。
記
θ1≧15 ・・・(1)
θ2≧15 ・・・(2)
Q≦1.3×t1.37 ・・・(3)」
を提案した。
また、本発明は、上記のサブマージアーク溶接方法で形成される溶接継手を提供することを目的とする。
なお、本発明では、溶接する鋼板の両面のうち、先に溶接する側の面を下面、その後で溶接する側の面を上面としている。
その結果、鋼板の下面側の溶接における第1電極のアーク電圧を一定以上とすることで、上記したθ1、θ2およびQについて、より容易に所定の関係を満足させることができ、これによって、溶接継手の溶接熱影響部の靭性を一層安定して高められるとの知見を得た。
また、鋼板の上面側の溶接における第1電極のワイヤ径を一定の範囲内に調整することで、θ1を大きくし易くなり、溶接継手の溶接熱影響部の靭性をさらに安定して高められるとの知見を得た。
本発明は上記の知見に立脚するものである。
1.鋼板の下面側を溶接した後に上面側を溶接する両面各一層の多電極サブマージアーク溶接方法であって、
該鋼板の下面側の溶接における第1電極のアーク電圧を40V以上として溶接するものとし、
下面側溶接金属の溶融境界線と上面側溶接金属の溶融境界線とが交わる会合点と、該会合点から前記鋼板の上表面の方向へ5mmの位置を通り該上表面に平行な第1平行線と前記上面側溶接金属の溶融境界線とが交わる第1交点と、を結ぶ上面側境界直線が、前記第1平行線に垂直な線となす角をθ1(°)とするとき、該θ1が下記の(1)式を満足し、
かつ前記会合点と、前記会合点から前記鋼板の下表面の方向へ5mmの位置を通り該下表面に平行な第2平行線と前記下面側溶接金属の溶融境界線とが交わる第2交点と、を結ぶ下面側境界直線が、前記第2平行線に垂直な線となす角をθ2(°)とするとき、該θ2が下記の(2)式を満足するとともに、
前記鋼板の下面側の溶接入熱と上面側の溶接入熱との合計入熱Q(kJ/cm)が、前記鋼板の板厚t(mm)との間で(3)式の関係を満足することを特徴とするサブマージアーク溶接方法。
記
θ1≧15 ・・・(1)
θ2≧15 ・・・(2)
Q≦1.3×t1.37 ・・・(3)
θ1+θ2≧50 ・・・(4)
を満足することを特徴とする前記1または2に記載のサブマージアーク溶接方法。
図1は、本発明で形成される溶接継手の例を模式的に示す断面図であり、ここで示した溶接継手は、所定の開先形状とした鋼板1同士を突合せ、鋼板1の下面側をサブマージアーク溶接で溶接して溶接金属2(以下、下面側溶接金属という)を得て、次に、鋼板1の上面側をサブマージアーク溶接で溶接して溶接金属3(以下、上面側溶接金属という)を得ることで、形成される。
なお、会合点は2ヶ所に形成されるが、基準としての会合点は板厚中心寄りの点を採用することが望ましい。
なお、会合点6と第1平行線7および第2平行線10との距離は、靭性を評価するためのシャルピー衝撃試験の試験片の採取位置にあわせて、それぞれ5mmに設定したものである。
θ1:15°以上
角度θ1を15°以上とすることにより、溶接熱影響部の靭性が向上する。その理由は、上面側境界直線9が水平に近づくとき裂の伝播経路が複雑化し、き裂が進展する際に必要な伝播エネルギーが高くなるためであると考えられる。
したがって、θ1は以下の(1)式に示すとおり、15°以上とする。しかしながら、θ1が50°を超えるような溶接部を形成するには、多大な溶接入熱が必要となる。そのため、θ1は、15〜50°の範囲とすることが好ましい。より好ましくは30〜50°の範囲である。
θ1≧15 ・・・(1)
角度θ2を15°以上とすることにより、溶接熱影響部の靭性が向上する。その理由は、上述したところと同様で、下面側境界直線12が水平に近づくとき裂の伝播経路が複雑化し、き裂が進展する際に必要な伝播エネルギーが高くなるためであると考えられる。
したがって、θ2も以下の(2)式に示すとおり、15°以上とする。しかしながら、θ2が50°を超えるような溶接部を形成するには、多大な溶接入熱が必要となる。そのため、θ2は、15〜50°の範囲とすることが好ましい。より好ましくは30〜50°の範囲である。
θ2≧15 ・・・(2)
なお、本発明を適用して特に有効な鋼板の板厚は、20〜40mm程度である。
また、θ1とθ2の合計は、以下の(4)式に示すように50°以上とすることが好ましい。θ1+θ2を50°以上とすれば、図2に示すような下面側の溶接によって生じる溶接熱影響部13の靭性が上面側の溶接において再加熱されて劣化する領域、いわゆる靭性劣化領域14の面積を小さくすることができ、その結果、靭性の劣化が抑制されるからである。したがって、θ1+θ2は50°以上とすることが好ましい。一方、θ1+θ2が90°を超えると、溶接入熱が過大となるので、θ1+θ2は90°以下とすることが好ましい。
θ1+θ2≧50 ・・・(4)
Q:1.3×t1.37kJ/cm以下
鋼板1の下面側と上面側を溶接する際の溶接入熱は、鋼板1の板厚に応じて設定する必要がある。というのは、板厚が大きい鋼板、特に板厚が25.4mm以上の厚鋼板では、入熱が増大し、溶接熱影響部の靭性が劣化しやすいからである。
したがって、鋼板の下面側の溶接入熱と上面側の溶接入熱との合計入熱Q(kJ/cm)が鋼板1の板厚tに対して以下の(3)式を満たす範囲内で、溶接を行うものとする。
Q≦1.3×t1.37 ・・・(3)
ただし、厚鋼板のサブマージアーク溶接においては、Qがt1.37 kJ/cm未満では、十分な溶込み深さと溶着量を確保するのが困難になる。そのため、このような厚鋼板、特に板厚が25.4〜40mmの厚鋼板のサブマージアーク溶接では、Qはt1.37〜1.3×t1.37kJ/cmの範囲内とすることが好ましい。
なお、本発明は、鋼板の下面側を溶接した後に上面側を1パスで溶接する両面各一層の多電極サブマージアーク溶接方法であるが、電極数は上面側、下面側とも2電極以上、好ましくは3電極以上とする。より好ましくは3電極または4電極である。
まず、本発明の溶接方法において、鋼板の下面側の溶接における第1電極のアーク電圧を40V以上とすることに至らしめた実験について説明する。
後述する実施例で示す溶接記号3、4、5および6の条件をベースとして、鋼板の下面側の溶接における第1電極のアーク電圧を種々変化させて、両面各一層のサブマージアーク溶接を行い、種々の溶接継手を形成した。
測定した吸収エネルギーVE-30(J)を、鋼板の下面側の溶接における第1電極のアーク電圧に対してプロットしたものを図3に示す。なお、ここでは、鋼板の上面側の溶接における第1電極のワイヤ直径毎に、測定した吸収エネルギーVE-30(J)をプロットしている。
発明者は、上記の実験結果に基づき、鋼板の下面側の溶接における第1電極のアーク電圧を40V以上とすることに想到したのである。
一方、電圧が高すぎると、溶接入熱が増大するため良好な靭性を得られず、さらには溶接電流が不安定化し溶接欠陥が生じるおそれがある。このため、鋼板の下面側の溶接における第1電極のアーク電圧の上限は60Vとすることが好ましい。より好ましくは50V以下である。
なお、鋼板の上面側の溶接では、第1電極のアーク電圧は特に限定されることはないが、例えば30〜38V程度とすれば、上記のθ1、θ2およびQを適正範囲内に好適に制御することができる。
また、鋼板の上面側の溶接における第1電極には、直径:2.0〜3.2mmのワイヤを使用することが好ましい。直径:3.2mm以下のワイヤを使用することで、アークが狭くなり、図1に示すような深い溶け込みが鋼板の上面側の溶接で得られるため、θ1を大きくすることが容易になる。一方、ワイヤ直径が2.0mm未満になると、アーク幅が狭くなり過ぎ、上面側の溶融境界線が先鋭になって、却ってθ1が小さくなる。加えて、ワイヤ径に対して溶接電流が過大になるため、ジュール発熱によるワイヤ溶融が不安定になり、結果としてアーク長が不安定になる。したがって、鋼板の上面側の溶接における第1電極のワイヤ直径は2.0〜3.2mmの範囲とすることが好ましい。より好ましくは2.0〜2.4mmの範囲である。
なお、鋼板の下面側の溶接における第1電極で使用するワイヤ直径は特に限定する必要はないが、3電極以上で溶接を行う場合には、鋼板の上面側の溶接における第1電極のワイヤ直径以上とすることが好ましい。
なお、溶接に供する鋼材については、特に限定されることはないが、とりわけ低炭素の高強度鋼等が有利に適合する。
表4中の極間距離は、鋼板1の表面(下面または上面)での各電極におけるワイヤ先端の間隔(mm)であり、母材−電極間距離は、鋼板1の表面(下面または上面)とコンタクトチップ下面との間隔(mm)である。また、電極角度は、鋼板に垂直な線とワイヤとがなす角であり、前進角(°)を正、後退角(°)を負としている。
ここで、前進角は、ワイヤ先端がトーチよりも溶接進行方向の前方に位置するようにワイヤを傾斜させた場合における、鋼板に垂直な線とワイヤのなす角であり、後退角は、ワイヤ先端がトーチよりも溶接進行方向の後方に位置するようにワイヤを傾斜させた場合における、鋼板に垂直な線とワイヤのなす角である。
シャルピー衝撃試験片は、JIS Z 3111に規定する4号試験片として、各溶接継手から20個ずつ(すなわち溶接記号ごとに100個ずつ)採取した。シャルピー衝撃試験片は、ノッチが鋼板の板厚方向に平行となり、かつ会合点6を含む面(鋼板1の表面に平行な面)が試験片の板厚方向中央となるように採取した。そのノッチの位置は、ノッチ底における溶接金属と溶接熱影響部の比率が50%ずつとなる位置とした。
その結果を表5に示す。ここで、表5中の吸収エネルギーVE-30は、溶接記号ごとに100個のシャルピー衝撃試験片に対するシャルピー衝撃試験で得られた測定値のうち、最も低い値を示している。
なお、この値が56J以上であれば、溶接熱影響部において優れた靭性が安定して得られていると言える。
また、断面マクロ試験片は、各溶接継手から3個ずつ(すなわち溶接記号ごとに15個ずつ)採取した。それぞれの断面マクロ試験片から角度θ1(°)とθ2(°)を測定した結果を表5に示す。なお、表5中のθ1、θ2は、溶接記号ごとに15個の試験片を測定したときの平均値である。
特に、鋼板の上面側の溶接における第1電極のワイヤ直径が2.0〜2.4mmの範囲である溶接記号3、4、8、9では、いずれもθ1+θ2が(4)式を満足し、86J以上の高い靭性が安定して得られた。
また、溶接記号2、7は、θ1がいずれも15°未満であるから、溶接熱影響部において優れた靭性が安定して得られなかった。
2 下面側溶接金属
3 上面側溶接金属
4 下面側の溶融境界線
5 上面側の溶融境界線
6 会合点
7 第1平行線
8 第1交点
9 上面側境界直線
10 第2平行線
11 第2交点
12 下面側境界直線
13 下面側の溶接によって生じる溶接熱影響部
14 靭性劣化領域
15 試験片採取位置
Claims (6)
- 鋼板の下面側を溶接した後に上面側を溶接する両面各一層の多電極サブマージアーク溶接方法であって、
該鋼板の下面側の溶接における第1電極のアーク電圧を40V以上として溶接するものとし、
下面側溶接金属の溶融境界線と上面側溶接金属の溶融境界線とが交わる会合点と、該会合点から前記鋼板の上表面の方向へ5mmの位置を通り該上表面に平行な第1平行線と前記上面側溶接金属の溶融境界線とが交わる第1交点と、を結ぶ上面側境界直線が、前記第1平行線に垂直な線となす角をθ1(°)とするとき、該θ1が下記の(1)式を満足し、
かつ前記会合点と、前記会合点から前記鋼板の下表面の方向へ5mmの位置を通り該下表面に平行な第2平行線と前記下面側溶接金属の溶融境界線とが交わる第2交点と、を結ぶ下面側境界直線が、前記第2平行線に垂直な線となす角をθ2(°)とするとき、該θ2が下記の(2)式を満足するとともに、
前記鋼板の下面側の溶接入熱と上面側の溶接入熱との合計入熱Q(kJ/cm)が、前記鋼板の板厚t(mm)との間で(3)式の関係を満足することを特徴とするサブマージアーク溶接方法。
記
θ1≧15 ・・・(1)
θ2≧15 ・・・(2)
Q≦1.3×t1.37 ・・・(3) - 前記鋼板の上面側の溶接における第1電極として、直径:2.0〜3.2mmのワイヤを使用することを特徴とする請求項1に記載のサブマージアーク溶接方法。
- 前記θ1と前記θ2とが、次式(4)
θ1+θ2≧50 ・・・(4)
を満足することを特徴とする請求項1または2に記載のサブマージアーク溶接方法。 - 前記鋼板の上面側の溶接入熱が、前記鋼板の下面側の溶接入熱よりも大きいことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のサブマージアーク溶接方法。
- 前記鋼板の下面側および上面側の溶接を、それぞれ3電極以上で行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のサブマージアーク溶接方法。
- 請求項1〜5のいずれか一項に記載のサブマージアーク溶接方法で形成されたことを特徴とする溶接継手。
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