JP2014214075A - 非晶質酸化物のエレクトライドの薄膜の製造方法 - Google Patents

非晶質酸化物のエレクトライドの薄膜の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】カルシウム原子およびアルミニウム原子を含む非晶質酸化物のエレクトライドの薄膜を容易に製造する方法を提供する。【解決手段】酸化カルシウムおよび酸化アルミニウムを蒸着源の一部または全部として用い、気相蒸着法により、基板上に成膜を行い、カルシウム原子およびアルミニウム原子を含む非晶質酸化物のエレクトライドの薄膜を形成することを特徴とする製造方法。【選択図】なし

Description

本発明は、カルシウム原子およびアルミニウム原子を含む非晶質酸化物のエレクトライドの薄膜の製造方法に関する。
結晶質C12A7は、12CaO・7Al(以下、「C12A7」と称する)で表される代表組成を有し、三次元的に連結された直径約0.4nmの空隙(ケージ)を有する特徴的な結晶構造を持つ。このケージを構成する骨格は、正電荷を帯びており、単位格子当たり12個のケージを形成する。このケージの1/6は、結晶の電気的中性条件を満たすため、酸素イオンによって占められている。しかしながら、このケージ内の酸素イオンは、骨格を構成する他の酸素イオンとは化学的に異なる特性を持つことから、特に、フリー酸素イオンと呼ばれている。結晶質C12A7は、[Ca24Al28644+・2O2−とも表記される(非特許文献1)。
細野らは、結晶質C12A7の粉末あるいはその焼結体を、H雰囲気中で熱処理して、ケージの中にHイオンを包接させ、次いで、紫外光を照射することにより、ケージ中に電子を包接させて、永続的な導電性を室温で誘起できることを見いだした(特許文献1)。この包接された電子は、ケージに緩く束縛されており、結晶中を自由に動くことができる。このため、この結晶質C12A7は、導電性を示すようになる。
このような導電性を有する結晶質C12A7は、特に、結晶質C12A7エレクトライドと呼ばれる。結晶質C12A7エレクトライドは、約2.4eVという極めて低い仕事関数を有することから、冷電子放出源および有機EL素子のための電子注入電極、または化学反応を利用した還元剤等への応用が期待されている。
さらに、細野らは、結晶質C12A7エレクトライドを超高真空下で溶融し、超急冷することで得られたガラスについて、電子密度、ラマンスペクトル、光吸収および電気伝導度などから、非晶質のC12A7エレクトライドが得られることを報告している(非特許文献2)。
国際公開第2005/000741号
F.M.Lea,C.H.Desch,The Chemistryof Cement and Concrete,2nd ed.,p.52,Edward Arnold&Co.,London,1956 Sung Wng Kim, Terumasa Shimoyama、 Hideo Hosono, Science,333,71 (2011)
非特許文献2のように、従来の非晶質C12A7エレクトライドの製造方法は、まず結晶質C12A7エレクトライドを合成し、ついで溶融、超急冷する製造法である。したがって、結晶質C12A7エレクトライドをあらかじめ準備する必要がある。
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、カルシウム原子およびアルミニウム原子を含む非晶質酸化物のエレクトライドの薄膜を容易に製造する方法を提供することを目的とする。
本発明では、以下の製造方法が提供される。
(1)酸化カルシウムおよび酸化アルミニウムを蒸着源の一部または全部として用い、気相蒸着法により、基板上に成膜を行い、カルシウム原子およびアルミニウム原子を含む非晶質酸化物のエレクトライドの薄膜を形成することを特徴とする製造方法。
(2)前記蒸着源を電子ビームにより加熱する、(1)に記載の製造方法。
(3)前記電子ビームを放出する電子銃を2機以上用い、酸化カルシウムの蒸着源と酸化アルミニウムの蒸着源をそれぞれ加熱する、(1)または(2)に記載の製造方法。
(4)成膜時の真空度が1.5×10−3Pa以下である、(1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法。
本発明では、結晶質C12A7エレクトライドを用いることなく、カルシウム原子およびアルミニウム原子を含む非晶質酸化物のエレクトライドの薄膜を製造することができる。
非晶質酸化物のエレクトライドの概念的な構造を示した模式図である。 本発明の一実施例による、カルシウム原子およびアルミニウム原子を含む非晶質酸化物のエレクトライドの薄膜の光吸収係数の測定結果を示したグラフである。
(非晶質酸化物のエレクトライドの薄膜)
本発明の製法方法において、カルシウム原子およびアルミニウム原子を含む非晶質酸化物のエレクトライドの薄膜が得られる。本願において、「カルシウム原子およびアルミニウム原子を含む非晶質酸化物のエレクトライド」とは、カルシウム原子、アルミニウム原子および酸素原子から構成される非晶質を溶媒とし、電子を溶質とする溶媒和からなる非晶質固体物質を意味する。非晶質酸化物中の電子は、陰イオンとして働く。電子はバイポーラロンとして存在してもよい。
図1に、カルシウム原子、アルミニウム原子および酸素原子を含む非晶質酸化物のエレクトライドの構造を概念的に示す。カルシウム原子、アルミニウム原子および酸素原子から構成される非晶質からなる溶媒2中に、バイポーラロン5と呼ばれる特徴的な部分構造が分散された状態で存在する。バイポーラロン5は、2つのケージ3が隣接し、さらにそれぞれのケージ3に、電子(溶質)4が包摂されて構成されている。
本発明における非晶質酸化物において、アルミニウム原子とカルシウム原子のモル比(Ca/Al)は、0.3〜5.0の範囲が好ましい。0.3以上であると、高い電子密度を保持できる。また、5.0以下であると、膜の耐久性に優れる。0.5〜1.6の範囲がより好ましく、0.6〜1.2の範囲が特に好ましい。薄膜の組成分析は、XPS法、EPMA法またはEDX法等により行うことができる。
本発明における薄膜は、微結晶を含んでいても良い。薄膜内に微結晶が含有されているか否かは、例えば薄膜の断面TEM(透過型電子顕微鏡)写真などから判断される。結晶状態における組成は、Ca12Al14(33−X)(x=0〜1)で表される。
本発明における非晶質酸化物は、バイポーラロンのケージ構造が保持される範囲で、カルシウム原子、アルミニウム原子、酸素原子のほかに、Sr、Mg、Ba、Si、Ge、Ga、In、およびBからなる群から選択される1以上の原子を含んでいても良い。また、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、およびCuからなる群から選択される1以上の原子、Li、Na、およびKからなる群から選択される1以上の原子、またはCe、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、およびYbからなる群から選択される1以上の原子を含んでいても良い、
本発明における非晶質酸化物は、2つのケージに包接されている2つの電子が、他の陰イオンに置換された化合物であっても良い。他の陰イオンとしては、例えば、H、H 、H2−、O、O 、OH、F、Cl、およびS2−からなる群から選択される1以上の陰イオンが挙げられる。
非晶質酸化物のエレクトライドは、半導体的な電気的特性を示し、低い仕事関数を有する。仕事関数は2.4〜4.5eVであっても良く、2.8〜3.2eVであるのが好ましい。
バイポーラロン5は、光子エネルギーが1.55eV〜3.10eVの可視光の範囲では光吸収がほとんどなく、4.6eV付近で光吸収を示す。従って、非晶質酸化物のエレクトライドの薄膜は可視光において透明である。また、サンプルの光吸収特性を測定し、4.6eV付近の光吸収係数を測定することにより、サンプル中にバイポーラロン5が存在するかどうか、すなわちサンプルが非晶質酸化物のエレクトライドを有するかどうかを確認することができる。
本発明で得られる薄膜において、前記4.6eVの位置での光吸収値は、100cm−1以上であっても良い。
また、バイポーラロン5を構成する隣接する2つのケージ3は、ラマン活性であり、ラマン分光測定の際に186cm−1付近に特徴的なピークを示す。膜厚が比較的厚い場合は、ラマン分光測定において、186cm−1付近における特徴的なピークの有無を判定することによっても、薄膜が非晶質酸化物のエレクトライドであるかどうかを確認することができる。
本発明で得られる薄膜は、電子密度が2.0×1018cm−3以上2.3×1021cm−3以下の範囲で電子を含むことが好ましい。電子密度は1×1019cm−3以上がより好ましく、1×1020cm−3以上がさらに好ましい。
なお、非晶質酸化物のエレクトライドの薄膜の電子密度は、ヨウ素滴定法により測定することができる。ちなみに、非晶質酸化物のエレクトライド薄膜のバイポーラロンの密度は、測定された電子密度を1/2倍することにより算定することができる。
非晶質酸化物のエレクトライドの薄膜の膜厚は、これに限られるものではないが、例えば、10μm以下であっても良く、2μm以下であっても良い。0.5nm以上であっても良い。
非晶質酸化物のエレクトライドの薄膜は、ケージ中の電子のホッピング伝導により、導電性を有する。薄膜における、室温での直流電気伝導率は、10−11〜10−1S・cm−1であっても良く、また、10−7〜10−3S・cm−1であっても良い。
非晶質酸化物のエレクトライドの薄膜は、多結晶薄膜と比較して、結晶粒界を有さないため、平坦性に優れている。薄膜の表面の自乗平均面粗さ(RMS)は、0.1〜10nmであってもよく、また、0.2〜5nmであってもよい。RMSが2nm以下であると、有機EL素子の層部材として用いたときに、素子の特性が向上するため、より好ましい。また、RMSが10nm以上であると素子の特性が低下するおそれがあるため、研磨行程などを追加する必要が生じる。上記のRMSは、たとえば、原子間力顕微鏡を用いて測定することができる。
(製造方法)
本発明の製造方法においては、酸化カルシウムおよび酸化アルミニウムを蒸着源の一部または全部として用い、気相蒸着法により、基板上に成膜を行い、カルシウム原子およびアルミニウム原子を含む非晶質酸化物のエレクトライドの薄膜を形成する。
酸化カルシウムは、純度99%以上のものが好ましい。
酸化アルミニウムは、α−アルミナ、γ−アルミナ、δ−アルミナなどあるが、α−酸化アルミニウム(アルミナ)が好ましい。
酸化カルシウムおよび酸化アルミニウムは、顆粒または粉末を成型したペレットを蒸着原料として用いることが好ましい。
酸化カルシウムに加えて、または酸化カルシウムに代えて、金属カルシウムを蒸着源として用いても良い。酸化アルミニウムに加えて、または酸化アルミニウムに代えて、金属アルミニウムを蒸着源として用いても良い。さらに、カーボンを蒸着源として用いても良い。成膜時の雰囲気をより還元雰囲気とすることができ、得られる薄膜の電子密度を高くすることができる。
蒸着源として、水酸化カルシウム、フッ化カルシウム、または塩化カルシウムを用いても良い。蒸着源として、水酸化アルミニウム、フッ化アルミニウム、または塩化アルミニウムを用いても良い。
蒸着源として、Sr、Mg、Ba、Si、Ge、Ga、In、B、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、およびYbから選択される一以上の原子の酸化物、水酸化物、フッ化物、または塩化物を用いていても良い。
本願において、「気相蒸着法」とは、物理的気相蒸着(PVD)法を含む蒸着源を気化させてから、蒸着源の原料を基板上に堆積させる成膜方法の総称を意味する。気相蒸着法は、真空蒸着法であるのが好ましい。
本発明の製造方法において、成膜時の真空度は1.5×10−3Pa以下が好ましく、8.0×10−4Pa以下がより好ましい。真空度が低いと、成膜された薄膜の電子密度が高くなる。なお、本明細書において、真空度は、絶対圧を意味するものとする。
本発明における気相蒸着法は、酸化カルシウムと酸化アルミニウムをそれぞれ独立した蒸着源とすることが好ましい。酸化カルシウムと酸化アルミニウムのそれぞれの温度を制御し、基板上に成膜される薄膜のCa/Al比を制御することができる。
本発明における気相蒸着法において、蒸着源を電子ビームにより加熱する方式を採用しても良く、蒸着源を抵抗により加熱する方式を採用しても良い。電子ビームにより加熱する方式と抵抗により加熱する方式を併用しても良い。また、プラズマアシスト蒸着法を併用しても良い。
蒸着源を電子ビームにより加熱する方式において、電子ビームを放出する電子銃を1機用いても、2機以上用いてもよい。1機の電子銃を用いて、酸化カルシウムと酸化アルミニウムのそれぞれの蒸着源に、照射時間を変えて電子ビームを照射しても良い。また、酸化カルシウムと酸化アルミニウムのそれぞれの蒸着源に、別々の電子銃を独立に照射しても良い。
また、本発明による製造方法において、非晶質酸化物のエレクトライドの薄膜の成膜速度は、0.05nm/秒以上であってもよい。成膜速度は、0.1nm/秒以上が好ましい。成膜が短時間で完了するため生産効率を高くできる。
本発明の製造方法においては、基板温度は、特に限られず、室温〜例えば700℃までの範囲の、いかなる基板温度を採用しても良い。特に、本発明の実施例では、基板を必ずしも「積極的に」加熱する必要はないことに留意する必要がある。ただし、蒸着源の輻射熱によって、基板温度が「付随的に」上昇する場合はあり得る。例えば、基板温度は、500℃以下であっても良く、200℃以下であっても良い。
基板を「積極的に」加熱しない場合、基板の材料として、例えばガラスのような、700℃を超える高温側で耐熱性が低下する材料を使用することが可能になる。
なお、基板には、いかなる寸法および形状のものを使用しても良い。
本発明の製造方法においては、基板をチャンバーの円周方向に公転させてもよい。公転させることで、被膜の均一性が向上する。公転の回転速度は5rpm以上でもよい。より好ましくは10rpm以上である。
本発明により得られる薄膜は、例えば、有機EL素子の電極層もしくは電子注入層、放電電極、または化学合成用の触媒等として適用することができる。
以下、本発明の実施例について説明する。
(例1)
以下のように、酸化カルシウムと酸化アルミニウムをそれぞれ蒸着源とした2元の電子ビーム蒸着法により、基板上に成膜し、サンプル1を得た。
成膜装置として、2元の電子ビーム蒸着装置を用いた。蒸着源はそれぞれに電子銃を備えており、蒸着源に照射される電流量によって、酸化カルシウムおよび酸化アルミニウムのそれぞれの温度を制御した。チャンバーはバッチ式であり、拡散ポンプによって排気した。蒸着源と基板の距離は約1メートルであった。基板はチャンバーの円周方向に25rpmで公転させた。膜厚計はそれぞれの蒸着源付近と基板付近の3か所に設置されていた。
基板として、直径30mmφ、厚さ2mmの石英基板を使用した。
酸化カルシウムの蒸着原料として、粉末状の試薬(関東化学製、純度99.9%)をプレス成型したペレットを用いた。酸化アルミニウムの蒸着原料として、真空蒸着用のアルミナ顆粒を用いた。
上記蒸着原料と基板をチャンバー内に設置し、排気した。
酸化アルミニウムに電子線を照射し、成膜速度を0.35nm/秒とした。また、酸化カルシウムに電子線を照射し、成膜速度を0.72nm/秒とした。その後、シャッターを開き、成膜を開始した。加速電圧はどちらも6kVとした。蒸着時の真空度(絶対圧)は8.0×10−4Paであった。これにより、基板上に薄膜が形成され、サンプル1が得られた。
サンプル1の薄膜に対して、XPS法によりカルシウム/アルミニウムのモル比(Ca/Al)を測定したところ、1.5であった。
サンプル1の薄膜の光吸収係数を測定した結果を図2に示す。
以上の評価から、サンプル1の薄膜は、カルシウム原子およびアルミニウム原子を含む非晶質酸化物のエレクトライドの薄膜であることが確認された。
本発明の薄膜の製造方法は、例えば、有機EL素子の電極層および電子注入層、放電電極、ならびに化学合成用の触媒等の製造方法に適用することができる。
2 溶媒(非晶質)
3 ケージ
4 電子(溶質)
5 バイポーラロン

Claims (4)

  1. 酸化カルシウムおよび酸化アルミニウムを蒸着源の一部または全部として用い、気相蒸着法により、基板上に成膜を行い、カルシウム原子およびアルミニウム原子を含む非晶質酸化物のエレクトライドの薄膜を形成することを特徴とする製造方法。
  2. 前記蒸着源を電子ビームにより加熱する、請求項1に記載の製造方法。
  3. 前記電子ビームを放出する電子銃を2機以上用い、酸化カルシウムの蒸着源と酸化アルミニウムの蒸着源をそれぞれ加熱する、請求項1または2に記載の製造方法。
  4. 成膜時の真空度が1.5×10−3Pa以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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