本発明の実施の一形態について、図面に基づいて説明すれば以下の通りである。なお、本明細書において、数値範囲をA〜Bと表記した場合、その数値範囲に下限Aおよび上限Bの値は含まれるものとする。
本実施形態に係る光学フィルムの製造方法は、互いに直交する長手方向および幅手方向に対して配向方向が傾斜した長尺状の斜め配向フィルム(以下、長尺斜め配向フィルムと称する)を含む長尺状の光学フィルム(以下、長尺光学フィルムと称する)を切断部材によって幅手方向に切断して、個々の光学フィルムを製造する光学フィルムの製造方法である。なお、「フィルムを幅手方向に切断する」とは、幅手方向を含むフィルム断面に沿ってフィルムを切断することを指す。この断面に沿った切断であれば、切断部材の移動方向は幅手方向であってもよいし、幅手方向に垂直な上下方向であってもよい。また、上記断面内での切断部材の回転によってフィルムを切断してもよい。
長尺斜め配向フィルムの配向方向、すなわち、遅相軸の方向は、フィルム面内(厚さ方向に垂直な面内)において、フィルムの幅手方向に対して0°を超え90°未満の角度をなす方向である(自動的にフィルムの長手方向に対しても0°を超え90°未満の角度をなす方向となる)。遅相軸は、通常延伸方向または延伸方向に直角な方向に発現するので、フィルムの幅手方向に対して0°を超え90°未満の角度で延伸を行うことにより、かかる遅相軸を有する長尺斜め配向フィルムを製造しうる。長尺斜め配向フィルムの幅手方向と遅相軸とがなす角度、すなわち配向角は、0°を超え90°未満の範囲で、所望の角度に任意に設定することができる。
本実施形態において、長尺とは、フィルムの幅に対し、少なくとも5倍程度以上の長さを有するものをいい、好ましくは10倍もしくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻回されて保管または運搬される程度の長さを有するもの(フィルムロール)を考えることができる。
長尺光学フィルムは、長尺斜め配向フィルムそのもので構成されてもよいし、長尺斜め配向フィルムに対して、他の長尺状のフィルムが貼り合わされた積層フィルムであってもよい。他の長尺状のフィルムとしては、フィルムの幅手方向に透過軸を有する長尺状の偏光フィルムや、長尺状の保護フィルムを考えることができる。つまり、長尺光学フィルムとしての積層フィルムは、斜め配向フィルムと偏光フィルムとの積層体や、斜め配向フィルムと偏光フィルムと保護フィルムとの積層体などを考えることができる。長尺光学フィルムが斜め配向フィルムと偏光フィルムとを含み、斜め配向フィルムの配向軸と偏光フィルムの透過軸または吸収軸とが所定の角度(例えば45度)をなすように両者を貼り合わせることにより、長尺光学フィルムを円偏光板として機能させることができる。
したがって、本実施形態の光学フィルムの製造方法は、長尺斜め配向フィルムを単体で製造する場合にも適用できるし、長尺斜め配向フィルムを含む長尺状の積層フィルムを製造する場合にも適用できると言える。
長尺斜め配向フィルムを製造する際には、フィルムを連続的に製造することにより、フィルムを所望の長さにすることができる。なお、長尺斜め配向フィルムは、長尺フィルムを製膜した後にこれを一度巻芯に巻き取って巻回体(長尺フィルム原反)とし、この巻回体から長尺フィルムを斜め延伸工程に供給して製造するようにしてもよいし、製膜後の長尺フィルムを巻き取ることなく、製膜工程から連続して斜め延伸工程に供給して製造することもできる。製膜工程と斜め延伸工程とを連続して行うことは、延伸後のフィルムの膜厚や光学値の結果をフィードバックして製膜条件を変更し、所望の長尺斜め配向フィルムを得ることができるので好ましい。
以下、本発明の実施態様を、適宜図面を参照して具体的に説明する。なお、以下での説明において、長尺フィルムと記載した場合は、斜め延伸工程での延伸対象となる長尺状のフィルムのことを指し、斜め延伸後の長尺斜め配向フィルムや、その長尺斜め配向フィルムを含む長尺光学フィルムとは区別されるものとする。
<長尺フィルムについて>
本実施形態の斜め配向フィルムの製造装置(詳細は後述する)にて延伸対象となる長尺フィルムとしては、特に限定されず、熱可塑性樹脂から構成されているフィルムであれば何でも良いが、例えば、延伸後のフィルムを光学用途に使用する場合には、所望の波長に対して透明な性質を有する樹脂からなるフィルムが好ましい。このような樹脂としては、ポリカーボネート系樹脂、ポリエーテルスルフォン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリメチルメタクリレート系樹脂、ポリスルフォン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、脂環構造を有するオレフィンポリマー系樹脂(脂環式オレフィンポリマー系樹脂)、セルロースエステル系樹脂などが挙げられる。
これらの中でも、透明性や機械強度などの観点から、ポリカーボネート系樹脂、脂環式オレフィンポリマー系樹脂、セルロースエステル系樹脂が好ましい。その中でも、光学フィルムとした場合の位相差を調整することが容易である、脂環式オレフィンポリマー系樹脂、セルロースエステル系樹脂が更に好ましい。そこで、以下に、本実施形態において好ましく用いられる脂環式オレフィンポリマー系樹脂、セルロースエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂について説明する。
〔脂環式オレフィンポリマー系樹脂〕
脂環式オレフィンポリマー系樹脂としては、特開平05−310845号公報に記載されている環状オレフィンランダム多元共重合体、特開平05−97978号公報に記載されている水素添加重合体、特開平11−124429号公報に記載されている熱可塑性ジシクロペンタジエン系開環重合体およびその水素添加物等を挙げることができる。
脂環式オレフィンポリマー系樹脂について、より具体的に説明する。脂環式オレフィンポリマー系樹脂は、飽和脂環炭化水素(シクロアルカン)構造や不飽和脂環炭化水素(シクロアルケン)構造のごとき脂環式構造を有するポリマーである。脂環式構造を構成する炭素原子数には、格別な制限はないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個の範囲であるときに、機械強度、耐熱性、およびフィルムの成形性の特性が高度にバランスされ、好適である。
脂環式オレフィンポリマー系樹脂中の脂環式構造を含有してなる繰り返し単位の割合は、適宜選択すればよいが、好ましくは55重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。上記の繰り返し単位の割合がこの範囲にあると、本実施形態の長尺状の斜め配向フィルムより得られる位相差フィルム等の光学材料の透明性および耐熱性が向上するので好ましい。
脂環式オレフィンポリマー系樹脂としては、ノルボルネン系樹脂、単環の環状オレフィン系樹脂、環状共役ジエン系樹脂、ビニル脂環式炭化水素系樹脂、および、これらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン系樹脂は、透明性と成形性が良好なため、好適に用いることができる。
ノルボルネン系樹脂としては、例えば、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との開環共重合体またはそれらの水素化物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との付加共重合体またはそれらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン構造を有する単量体の開環(共)重合体水素化物は、透明性、成形性、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性、および軽量性などの観点から、特に好適に用いることができる。
ノルボルネン構造を有する単量体としては、ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、トリシクロ〔4.3.0.12,5〕デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、7,8−ベンゾトリシクロ〔4.3.0.12,5〕デカ−3−エン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン)、テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、およびこれらの化合物の誘導体(例えば、環に置換基を有するもの)などを挙げることができる。ここで、置換基としては、例えばアルキル基、アルキレン基、および極性基などを挙げることができる。また、これらの置換基は、同一または相異なって複数個が環に結合していてもよい。ノルボルネン構造を有する単量体は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
極性基の種類としては、ヘテロ原子、またはヘテロ原子を有する原子団などが挙げられる。ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、およびハロゲン原子などが挙げられる。極性基の具体例としては、カルボキシル基、カルボニルオキシカルボニル基、エポキシ基、ヒドロキシル基、オキシ基、エステル基、シラノール基、シリル基、アミノ基、ニトリル基、およびスルホン基などが挙げられる。
ノルボルネン構造を有する単量体と開環共重合可能な他の単量体としては、シクロヘキセン、シクロヘプテン、およびシクロオクテンなどのモノ環状オレフィン類やその誘導体;並びにシクロヘキサジエン、およびシクロヘプタジエンなどの環状共役ジエンやその誘導体;などが挙げられる。
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体およびノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との開環共重合体は、単量体を公知の開環重合触媒の存在下に(共)重合することにより得ることができる。
ノルボルネン構造を有する単量体と付加共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、および1−ブテンなどの炭素数2〜20のα−オレフィンやこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、およびシクロヘキセンなどのシクロオレフィンやこれらの誘導体;並びに1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、および5−メチル−1,4−ヘキサジエンなどの非共役ジエンなどが挙げられる。これらの単量体は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、α−オレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。
ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体およびノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との付加共重合体は、単量体を公知の付加重合触媒の存在下に重合することにより得ることができる。
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の水素添加物、ノルボルネン構造を有する単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環共重合体の水素添加物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体の水素添加物、およびノルボルネン構造を有する単量体とこれと共重合可能なその他の単量体との付加共重合体の水素添加物は、これらの重合体の溶液に、ニッケル、パラジウムなどの遷移金属を含む公知の水素添加触媒を添加し、炭素−炭素不飽和結合を好ましくは90%以上水素添加することによって得ることができる。
ノルボルネン系樹脂の中でも、繰り返し単位として、X:ビシクロ〔3.3.0〕オクタン−2,4−ジイル−エチレン構造と、Y:トリシクロ〔4.3.0.12,5〕デカン−7,9−ジイル−エチレン構造とを有し、これらの繰り返し単位の含有量が、ノルボルネン系樹脂の繰り返し単位全体に対して90重量%以上であり、かつ、Xの含有割合とYの含有割合との比が、X:Yの重量比で100:0〜40:60であるものが好ましい。このような樹脂を用いることにより、本実施形態の斜め配向フィルムにより得られる光学材料を、長期的に寸法変化がなく、光学特性の安定性に優れるものにすることができる。
ノルボルネン系樹脂に用いる分子量は使用目的に応じて適宜選定されるが、溶媒としてシクロヘキサン(熱可塑性樹脂が溶解しない場合はトルエン)を用いるゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定したポリイソプレン換算(溶媒がトルエンのときは、ポリスチレン換算)の重量平均分子量(Mw)で、通常10,000〜100,000、好ましくは15,000〜80,000、より好ましくは20,000〜50,000である。重量平均分子量がこのような範囲にあるときに、本実施形態の斜め配向フィルムにより得られる光学材料の機械的強度および成型加工性が高度にバランスされ好適である。
ノルボルネン系樹脂のガラス転移温度は、使用目的に応じて適宜選択されればよいが、好ましくは80℃以上、より好ましくは100〜250℃の範囲である。ガラス転移温度がこのような範囲にあると、本実施形態の斜め配向フィルムにより得られる光学材料を、高温下での使用における変形や応力が生じることがなく耐久性に優れるものにすることができる。
ノルボルネン系樹脂の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は特に制限されないが、通常1.0〜10.0、好ましくは1.1〜4.0、より好ましくは1.2〜3.5の範囲である。
ノルボルネン系樹脂の光弾性係数Cの絶対値は、10×10-12Pa-1以下であることが好ましく、7×10-12Pa-1以下であることがより好ましく、4×10-12Pa-1以下であることが特に好ましい。光弾性係数Cは、複屈折をΔn、応力をσとしたとき、C=Δn/σで表される値である。熱可塑性樹脂の光弾性係数がこのような範囲にあると、フィルムの後述する面内方向のリタデーションRoのばらつきを小さくすることができる。
本実施形態で用いる熱可塑性樹脂は、顔料や染料のごとき着色剤、蛍光増白剤、分散剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、酸化防止剤、滑剤、および溶剤などの配合剤が適宜配合されたものであってもよい。
ノルボルネン系樹脂からなる斜め配向フィルム中の残留揮発性成分の含有量は特に制約されないが、好ましくは0.1重量%以下、より好ましくは0.05重量%以下、さらに好ましくは0.02重量%以下である。揮発性成分の含有量をこのような範囲にすることにより、寸法安定性が向上し、フィルムの面内方向のリタデーションRoや厚み方向のリタデーションRtの経時変化を小さくすることができる。さらには、本実施形態の斜め配向フィルムから得られる位相差フィルムの劣化を抑制でき、これを液晶表示装置の偏光板や有機EL表示装置の円偏光板に適用したときに、長期的にディスプレイの表示を安定で良好に保つことができる。残留揮発性成分は、フィルム中に微量含まれる分子量200以下の物質であり、例えば、残留単量体や溶媒などが挙げられる。残留揮発性成分の含有量は、フィルム中に含まれる分子量200以下の物質の合計として、フィルムをガスクロマトグラフィーにより分析することにより定量することができる。
ノルボルネン系樹脂からなる斜め配向フィルムの飽和吸水率は好ましくは0.03重量%以下、さらに好ましくは0.02重量%以下、特に好ましくは0.01重量%以下である。飽和吸水率が上記範囲であると、リタデーションRo・Rtの経時変化を小さくすることができる。さらには、本実施形態の斜め配向フィルムから得られる位相差フィルムの劣化を抑制でき、これを液晶表示装置の偏光板や有機EL表示装置の円偏光板に適用したときに、長期的にディスプレイの表示を安定で良好に保つことができる。
飽和吸水率は、フィルムの試験片を一定温度の水中に一定時間、浸漬し、増加した質量の浸漬前の試験片質量に対する百分率で表される値である。通常は、23℃の水中に24時間、浸漬して測定される。本実施形態の斜め配向フィルムにおける飽和吸水率は、例えば、熱可塑性樹脂中の極性基の量を減少させることにより、前記値に調節することができるが、好ましくは、極性基を持たない樹脂であることが望まれる。
前記で説明した好ましいノルボルネン系樹脂を用いたフィルムを成形する方法としては、後述する溶液流延法(溶液製膜法)や溶融流延法(例えば溶融押出法)の製造方法が好まれる。溶融押出法としては、ダイスを用いるインフレーション法等が挙げられるが、生産性や厚さ精度に優れる点でTダイを用いる方法が好ましい。
Tダイを用いた押出成形法では、特開2004−233604号公報に記載されているような、冷却ドラムに密着させる時の溶融状態の熱可塑性樹脂を安定な状態に保つ方法により、リタデーションや配向角といった光学特性のバラツキが良好な長尺フィルムを製造できる。
具体的には、1)溶融押出法で長尺フィルムを製造する際に、ダイスから押し出されたシート状の熱可塑性樹脂を50kPa以下の圧力下で冷却ドラムに密着させて引き取る方法;2)溶融押出法で長尺フィルムを製造する際に、ダイス開口部から最初に密着する冷却ドラムまでを囲い部材で覆い、囲い部材からダイス開口部または最初に密着する冷却ドラムまでの距離を100mm以下とする方法;3)溶融押出法で長尺フィルムを製造する際に、ダイス開口部から押し出されたシート状の熱可塑性樹脂より10mm以内の雰囲気の温度を特定の温度に加温する方法;4)溶融押出法で長尺フィルムを製造する際に、ダイス開口部から押し出されたシート状の熱可塑性樹脂に、最初に密着する冷却ドラムの引取速度との速度差が0.2m/s以下の風を吹き付ける方法;が挙げられる。
〔セルロースエステル系樹脂〕
好ましいセルロースエステル系樹脂フィルムとしては、下記式(1)および(2)を満たすセルロースアシレートが挙げられる。また、下記一般式(A)で表される化合物を含有するものが更に好ましい。
式(1) 2.0≦Z1<3.0
式(2) 0≦X<3.0
(式(1)および(2)において、Z1はセルロースアシレートの総アシル置換度を表し、Xはセルロースアシレートのプロピオニル置換度およびブチリル置換度の総和を表す。)
以下、一般式(A)について詳細に説明する。一般式(A)において、L1およびL2は各々独立に単結合または2価の連結基を表す。L1およびL2としては、例えば、下記構造が挙げられる。(下記Rは水素原子または置換基を表す。)
L1およびL2として、好ましくは−O−、−COO−、−OCO−である。
R1、R2およびR3は各々独立に置換基を表す。R1、R2およびR3で表わされる置換基の具体例としては、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、アルキル基(メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基等)、シクロアルキル基(シクロヘキシル基、シクロペンチル基、4−n−ドデシルシクロヘキシル基等)、アルケニル基(ビニル基、アリル基等)、シクロアルケニル基(2−シクロペンテン−1−イル、2−シクロヘキセン−1−イル基等)、アルキニル基(エチニル基、プロパルギル基等)、アリール基(フェニル基、p−トリル基、ナフチル基等)、ヘテロ環基(2−フリル基、2−チエニル基、2−ピリミジニル基、2−ベンゾチアゾリル基等)、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、tert−ブトキシ基、n−オクチルオキシ基、2−メトキシエトキシ基等)、アリールオキシ基(フェノキシ基、2−メチルフェノキシ基、4−tert−ブチルフェノキシ基、3−ニトロフェノキシ基、2−テトラデカノイルアミノフェノキシ基等)、アシルオキシ基(ホルミルオキシ基、アセチルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ステアロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、p−メトキシフェニルカルボニルオキシ基等)、アミノ基(アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、アニリノ基、N−メチル−アニリノ基、ジフェニルアミノ基等)、アシルアミノ基(ホルミルアミノ基、アセチルアミノ基、ピバロイルアミノ基、ラウロイルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等)、アルキルおよびアリールスルホニルアミノ基(メチルスルホニルアミノ基、ブチルスルホニルアミノ基、フェニルスルホニルアミノ基、2,3,5−トリクロロフェニルスルホニルアミノ基、p−メチルフェニルスルホニルアミノ基等)、メルカプト基、アルキルチオ基(メチルチオ基、エチルチオ基、n−ヘキサデシルチオ基等)、アリールチオ基(フェニルチオ基、p−クロロフェニルチオ基、m−メトキシフェニルチオ基等)、スルファモイル基(N−エチルスルファモイル基、N−(3−ドデシルオキシプロピル)スルファモイル基、N,N−ジメチルスルファモイル基、N−アセチルスルファモイル基、N−ベンゾイルスルファモイル基、N−(N’フェニルカルバモイル)スルファモイル基等)、スルホ基、アシル基(アセチル基、ピバロイルベンゾイル基等)、カルバモイル基(カルバモイル基、N−メチルカルバモイル基、N,N−ジメチルカルバモイル基、N,N−ジ−n−オクチルカルバモイル基、N−(メチルスルホニル)カルバモイル基等)が挙げられる。
R1およびR2としては、好ましくは、置換もしくは無置換のフェニル基、置換もしくは無置換のシクロヘキシル基であり、より好ましくは、置換基を有するフェニル基、置換基を有するシクロヘキシル基であり、さらに好ましくは、4位に置換基を有するフェニル基、4位に置換基を有するシクロヘキシル基である。
R3として、好ましくは、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロ環基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、シアノ基、アミノ基であり、さらに好ましくは、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シアノ基、アルコキシ基である。
WaおよびWbは水素原子または置換基を表すが、
(I)WaおよびWbが互いに結合して環を形成してもよく、
(II)WaおよびWbの少なくとも一つが環構造を有してもよく、または
(III)WaおよびWbの少なくとも一つがアルケニル基またはアルキニル基であってもよい。
WaおよびWbで表わされる置換基の具体例としては、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、アルキル基(メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基等)、シクロアルキル基(シクロヘキシル基、シクロペンチル基、4−n−ドデシルシクロヘキシル基等)、アルケニル基(ビニル基、アリル基等)、シクロアルケニル基(2−シクロペンテン−1−イル、2−シクロヘキセン−1−イル基等)、アルキニル基(エチニル基、プロパルギル基等)、アリール基(フェニル基、p−トリル基、ナフチル基等)、ヘテロ環基(2−フリル基、2−チエニル基、2−ピリミジニル基、2−ベンゾチアゾリル基等)、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、tert−ブトキシ基、n−オクチルオキシ基、2−メトキシエトキシ基等)、アリールオキシ基(フェノキシ基、2−メチルフェノキシ基、4−tert−ブチルフェノキシ基、3−ニトロフェノキシ基、2−テトラデカノイルアミノフェノキシ基等)、アシルオキシ基(ホルミルオキシ基、アセチルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ステアロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、p−メトキシフェニルカルボニルオキシ基等)、アミノ基(アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、アニリノ基、N−メチル−アニリノ基、ジフェニルアミノ基等)、アシルアミノ基(ホルミルアミノ基、アセチルアミノ基、ピバロイルアミノ基、ラウロイルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等)、アルキルおよびアリールスルホニルアミノ基(メチルスルホニルアミノ基、ブチルスルホニルアミノ基、フェニルスルホニルアミノ基、2,3,5−トリクロロフェニルスルホニルアミノ基、p−メチルフェニルスルホニルアミノ基等)、メルカプト基、アルキルチオ基(メチルチオ基、エチルチオ基、n−ヘキサデシルチオ基等)、アリールチオ基(フェニルチオ基、p−クロロフェニルチオ基、m−メトキシフェニルチオ基等)、スルファモイル基(N−エチルスルファモイル基、N−(3−ドデシルオキシプロピル)スルファモイル基、N,N−ジメチルスルファモイル基、N−アセチルスルファモイル基、N−ベンゾイルスルファモイル基、N−(N’フェニルカルバモイル)スルファモイル基等)、スルホ基、アシル基(アセチル基、ピバロイルベンゾイル基等)、カルバモイル基(カルバモイル基、N−メチルカルバモイル基、N,N−ジメチルカルバモイル基、N,N−ジ−n−オクチルカルバモイル基、N−(メチルスルホニル)カルバモイル基等)が挙げられる。
上記の置換基は、更に上記の基で置換されていてもよい。
(I)WaおよびWbが互いに結合して環を形成する場合、その環は、含窒素5員環または含硫黄5員環であることが好ましい。また、一般式(A)は、下記一般式(1)または一般式(2)で表される化合物であることが特に好ましい。
一般式(1)において、A1およびA2は各々独立に、−O−、−S−、−NRx−(Rxは水素原子または置換基を表す)または−CO−を表す。Rxで表される置換基の例は、上記WaおよびWbで表わされる置換基の具体例と同義である。Rxとして、好ましくは水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基である。
一般式(1)において、Xは第14〜16族の非金属原子を表す。Xとしては、=O、=S、=NRc、=C(Rd)Reが好ましい。ここでRc、Rd、Reは置換基を表し、例としては上記WaおよびWbで表わされる置換基の具体例と同義である。L1、L2、R1、R2、R3、nは、一般式(A)におけるL1、L2、R1、R2、R3、nと同義である。
一般式(2)において、Q1は−O−、−S−、−NRy−(Ryは水素原子または置換基を表す)、−CRaRb−(RaおよびRbは水素原子または置換基を表す)または−CO−を表す。ここで、Ry、Ra、Rbは置換基を表し、例としては上記WaおよびWbで表わされる置換基の具体例と同義である。
Yは置換基を表す。Yで表わされる置換基の例としては、上記WaおよびWbで表される置換基の具体例と同義である。Yとして、好ましくは、アリール基、ヘテロ環基、アルケニル基、アルキニル基である。
Yで表わされるアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ビフェニル基等が挙げられ、フェニル基、ナフチル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。
ヘテロ環基としては、フリル基、ピロリル基、チエニル基、ピリジニル基、チアゾリル基、ベンゾチアゾリル基等の窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を少なくとも一つ含むヘテロ環基が挙げられ、フリル基、ピロリル基、チエニル基、ピリジニル基、チアゾリル基が好ましい。
これらのアリール基またはヘテロ環基は、少なくとも一つの置換基を有していてもよい。この置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、シアノ基、ニトロ基、炭素数1〜6のアルキルスルフィニル基、炭素数1〜6のアルキルスルホニル基、カルボキシル基、炭素数1〜6のフルオロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜6のアルキルチオ基、炭素数1〜6のN−アルキルアミノ基、炭素数2〜12のN,N−ジアルキルアミノ基、炭素数1〜6のN−アルキルスルファモイル基、炭素数2〜12のN,N−ジアルキルスルファモイル基等が挙げられる。
L1、L2、R1、R2、R3、nは、一般式(A)におけるL1、L2、R1、R2、R3、nと同義である。
(II)一般式(A)において、WaおよびWbの少なくとも一つが環構造を有する場合の具体例としては、好ましくは、下記一般式(3)である。
一般式(3)において、Q3は=N−または=CRz−(Rzは水素原子または置換基)を表し、Q4は第14〜16族の非金属原子を表す。ZはQ3およびQ4と共に環を形成する非金属原子群を表す。
Q3、Q4およびZから形成される環は、更に別の環で縮環していてもよい。Q3、Q4およびZから形成される環は、ベンゼン環で縮環した含窒素5員環または6員環であることが好ましい。
L1、L2、R1、R2、R3、nは、一般式(A)におけるL1、L2、R1、R2、R3、nと同義である。
(III)WaおよびWbの少なくとも一つがアルケニル基またはアルキニル基である場合、それらは置換基を有するビニル基またはエチニル基であることが好ましい。
上記一般式(1)、一般式(2)および一般式(3)で表される化合物のうち、特に、一般式(3)で表される化合物が好ましい。
一般式(3)で表される化合物は、一般式(1)で表される化合物に比べて耐熱性および耐光性に優れており、一般式(2)で表される化合物に比べ、有機溶媒に対する溶解性やポリマーとの相溶性が良好である。
一般式(A)で表される化合物は、所望の波長分散性、および滲み防止性を付与するのに適宜量を調整して含有することができるが、添加量としてはセルロース誘導体に対して、1〜15質量%含むことが好ましく、特には、2〜10質量%含むことが好ましい。この範囲内であれば、上記セルロース誘導体に十分な波長分散性、および滲み防止性を付与することができる。
なお、一般式(A)、一般式(1)、一般式(2)および一般式(3)で表わされる化合物は、既知の方法を参照して得ることができる。具体的には、Journal of Chemical Crystallography(1997);27(9);512−526)、特開2010−31223号公報、特開2008−107767号公報等を参照して合成することができる。
(セルロースアシレートについて)
本実施形態に係るセルロースアシレートフィルムは、セルロールアシレートを主成分として含有する。例えば、本実施形態に係るセルロースアシレートフィルムは、フィルムの全質量(100質量%)に対して、セルロースアシレートを好ましくは60〜100質量%の範囲で含む。また、セルロースアシレートの総アシル基置換度は、2.0以上3.0未満であり、2.2〜2.7であることがより好ましい。
セルロースアシレートとしては、セルロースと、炭素数2〜22程度の脂肪族カルボン酸および/または芳香族カルボン酸とのエステルが挙げられ、特に、セルロースと炭素数が6以下の低級脂肪酸とのエステルであることが好ましい。
セルロースの水酸基に結合するアシル基は、直鎖であっても分岐していてもよく、また環を形成してもよい。さらに別の置換基が置換してもよい。同じ置換度である場合、上述した炭素数が多いと複屈折性が低下するため、炭素数としては炭素数2〜6のアシル基の中で選択することが好ましく、プロピオニル置換度およびブチリル置換度の総和は0以上3.0未満である。前記セルロースアシレートとしての炭素数が2〜4であることが好ましく、炭素数が2〜3であることがより好ましい。
具体的には、セルロースアシレートとしては、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネートブチレートまたはセルロースアセテートフタレートのようなアセチル基の他にプロピオネート基、ブチレート基またはフタリル基が結合したセルロースの混合脂肪酸エステルを用いることができる。なお、ブチレートを形成するブチリル基は、直鎖であっても分岐していてもよい。
本実施形態においては、セルロースアシレートとして、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、またはセルロースアセテートプロピオネートが特に好ましく用いられる。
また、目的に叶う光学特性を得るために、置換度の異なる樹脂を混合して用いてもよい。その際の混合比としては、1:99〜99:1(質量比)が好ましい。
上述した中でも、特にセルロースアセテートプロピオネートが、セルロースアシレートとして好ましく用いられる。セルロースアセテートプロピオネートでは、0≦Y≦2.5であり、かつ、0.5≦X≦3.0である(ただし、2.0≦X+Y<3.0である)ことが好ましく、0.5≦Y≦2.0であり、かつ、1.0≦X≦2.0である(ただし、2.0≦X+Y<3.0である)ことがより好ましい。なお、アシル基の置換度は、ASTM(American Society for Testing and Materials;米国試験材料協会)が策定・発行する規格の一つであるASTM−D817−96に準じて測定されうる。
セルロースアシレートの数平均分子量は、60000〜300000の範囲であると、得られるフィルムの機械的強度が強くなるため、好ましい。より好ましくは、数平均分子量が70000〜200000のセルロースアシレートが用いられる。
セルロースアシレートの重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定される。測定条件は以下の通りである。なお、本測定方法は、本実施形態における他の重合体の測定方法としても使用することができる。
溶媒:メチレンクロライド;
カラム:Shodex K806、K805、K803G(昭和電工株式会社製)を3本接続して使用する;
カラム温度:25℃;
試料濃度:0.1質量%;
検出器:RI Model 504(GLサイエンス社製);
ポンプ:L6000(日立製作所株式会社製);
流量:1.0ml/min
校正曲線:標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー株式会社製)Mw=1000000〜500の13サンプルによる校正曲線を使用する。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いる。
セルロースアシレート中の残留硫酸含有量は、硫黄元素換算で0.1〜45質量ppmの範囲であることが好ましい。これらは塩の形で含有していると考えられる。残留硫酸含有量が45質量ppmを超えると、熱延伸時や熱延伸後でのスリッティングの際に破断しやすくなる傾向がある。なお、残留硫酸含有量は、1〜30質量ppmの範囲がより好ましい。残留硫酸含有量は、ASTM−D817−96に規定の方法により測定することができる。
また、セルロースアシレート中の遊離酸含有量は、1〜500質量ppmであることが好ましい。上記の範囲であると、上記と同様に破断しにくいため、好ましい。なお、遊離酸含有量は、1〜100質量ppmの範囲であることが好ましく、さらに破断しにくくなる。特に1〜70質量ppmの範囲が好ましい。遊離酸含有量はASTM−D817−96に規定の方法により測定することができる。
合成したセルロースアシレートの洗浄を、溶液流延法に用いられる場合に比べて、さらに十分に行うことによって、残留アルカリ土類金属含有量、残留硫酸含有量、および残留酸含有量を上記の範囲とすることができ、好ましい。
セルロースアシレートの原料のセルロースとしては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ、ケナフなどが挙げられる。また、それらから得られたセルロースアシレートは、それぞれ任意の割合で混合使用されうる。
セルロースアシレートは、公知の方法により製造することができる。具体的には、例えば、特開平10−45804号公報に記載の方法を参考にして合成することができる。
(添加剤)
本実施形態の製造方法により得られた長尺斜め配向フィルムは、後述するセルロースエステル以外の高分子成分を適宜混合したものでもよい。混合される高分子成分はセルロースエステルと相溶性に優れるものが好ましく、フィルムにした時の透過率が80%以上、更に好ましくは90%以上、更に好ましくは92%以上であることが好ましい。
ドープ中に添加される添加剤としては、可塑剤、紫外線吸収剤、リタデーション調整剤、酸化防止剤、劣化防止剤、剥離助剤、界面活性剤、染料、微粒子等がある。本実施形態において、微粒子以外の添加剤についてはセルロースエステル溶液の調製の際に添加してもよいし、微粒子分散液の調製の際に添加してもよい。液晶画像表示装置に使用する偏光板には耐熱耐湿性を付与する可塑剤、酸化防止剤や紫外線吸収剤等を添加することが好ましい。
これらの化合物は、セルロースエステルに対して1〜30質量%、好ましくは1〜20質量%となるように含まれていることが好ましい。また、延伸および乾燥中のブリードアウト等を抑制するため、200℃における蒸気圧が1400Pa以下の化合物であることが好ましい。
これらの化合物は、セルロースエステル溶液の調製の際に、セルロースエステルや溶媒と共に添加してもよいし、溶液調製中や調製後に添加してもよい。
(リタデーション調整剤)
リタデーションを調整するために添加する化合物としては、欧州特許911,656A2号明細書に記載されているような、二つ以上の芳香族環を有する芳香族化合物を使用することができる。
また、二種類以上の芳香族化合物を併用してもよい。該芳香族化合物の芳香族環には、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環が含まれていることが特に好ましい。芳香族性ヘテロ環は一般に、不飽和ヘテロ環である。中でも1,3,5−トリアジン環が特に好ましい。
(ポリマーまたはオリゴマー)
本実施形態におけるセルロースエステルフィルムは、セルロースエステルと、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基、アミド基、およびスルホン酸基から選ばれる置換基を有し、かつ、重量平均分子量が500〜200,000の範囲内であるビニル系化合物のポリマーまたはオリゴマーとを含有することが好ましい。当該セルロースエステルと、当該ポリマーまたはオリゴマーとの含有量の質量比が、95:5〜50:50の範囲内であることが好ましい。
(マット剤)
本実施形態では、マット剤として微粒子を斜め配向フィルム中に含有させることができ、これによって、斜め配向フィルムが長尺フィルムの場合、搬送や巻き取りをしやすくすることができる。
マット剤の粒径は10nm〜0.1μmの1次粒子もしくは2次粒子であることが好ましい。1次粒子の針状比は1.1以下の略球状のマット剤が好ましく用いられる。
微粒子としては、ケイ素を含むものが好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。本実施形態に好ましい二酸化珪素の微粒子としては、例えば、日本アエロジル(株)製のアエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されているものを挙げることができ、アエロジル200V、R972、R972V、R974、R202、R812を好ましく用いることができる。ポリマーの微粒子の例としては、シリコーン樹脂、弗素樹脂およびアクリル樹脂を挙げることができる。シリコーン樹脂が好ましく、特に三次元の網状構造を有するものが好ましい。このような樹脂としては、例えば、トスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120および同240(東芝シリコーン(株)製)を挙げることができる。
二酸化珪素の微粒子は、1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/L以上であるものが好ましい。1次粒子の平均径が5〜16nmであることがより好ましく、5〜12nmであることが更に好ましい。1次粒子の平均径が小さいほうが、ヘイズが低く好ましい。見かけ比重は90〜200g/L以上が好ましく、100〜200g/L以上がより好ましい。見かけ比重が大きい程、高濃度の微粒子分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が発生せず好ましい。
本実施形態におけるマット剤の添加量は、長尺斜め配向フィルム1m2当たり0.01〜1.0gが好ましく、0.03〜0.3gがより好ましく、0.08〜0.16gが更に好ましい。
(その他の添加剤)
その他、カオリン、タルク、ケイソウ土、石英、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、アルミナ等の無機微粒子、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属の塩等の熱安定剤を加えてもよい。更に界面活性剤、剥離促進剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、油剤等も加えてもよい。
〔ポリカーボネート系樹脂〕
本実施形態に係るポリカーボネート系樹脂としては、特に限定なく種々のものを使用でき、化学的性質及び物性の点から、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましく、特に、フルオレン骨格を有するポリカーボネートや、ビスフェノールA系ポリカーボネート樹脂が好ましい。その中でも、ビスフェノールAにベンゼン環、シクロヘキサン環、および脂肪族炭化水素基等を導入したビスフェノールA誘導体を用いたものがより好ましい。さらに、ビスフェノールAの中央の炭素に対して、非対称に上記官能基が導入された誘導体を用いて得られた、単位分子内の異方性を減少させた構造のポリカーボネート樹脂が特に好ましい。
このようなポリカーボネート樹脂としては、例えば、ビスフェノールAの中央の炭素の2個のメチル基をベンゼン環に置き換えたもの、ビスフェノールAのそれぞれのベンゼン環の一の水素をメチル基やフェニル基などで中央炭素に対し非対称に置換したものを用いて得られるポリカーボネート樹脂が特に好ましい。具体的には、4,4′−ジヒドロキシジフェニルアルカンまたはこれらのハロゲン置換体からホスゲン法またはエステル交換法によって得られるものであり、例えば、4,4′−ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエタン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルブタン等が挙げられる。また、この他にも、具体的なポリカーボネート系樹脂をあえて例示すれば、例えば、特開2006−215465号公報、特開2006−91836号公報、特開2005−121813号公報、特開2003−167121号公報、特開2009−126128号公報、特開2012−67300号公報、国際公開第2000/026705号等に記載されているポリカーボネート系樹脂が挙げられる。
前記ポリカーボネート樹脂は、ポリスチレン系樹脂、メチルメタクリレート系樹脂、およびセルロースアセテート系樹脂等の透明性樹脂と混合して使用してもよい。また、セルロースアセテート系樹脂を用いて形成した樹脂フィルムの少なくとも一方の面にポリカーボネート系樹脂を含有する樹脂層を積層してもよい。
前記ポリカーボネート系樹脂は、ガラス転移点(Tg)が110℃以上であって、吸水率(23℃水中、24時間の条件で測定した値)が0.3%以下のものであることが好ましい。また、Tgが120℃以上であって、吸水率が0.2%以下のものがより好ましい。
本実施形態で用いることができるポリカーボネート系樹脂フィルムは、公知の方法で製膜することができ、その中でも後述する溶液流延法や溶融流延法を用いて製膜することが好ましい。
<長尺フィルムの製膜法>
上述した樹脂からなる本実施形態の長尺フィルムは、以下に示す溶液流延法、溶融流延法のどちらでも製膜することができる。以下、各製膜法について説明する。なお、以下では、長尺フィルムとして、例えばセルロースエステル系樹脂フィルムを製膜する場合について説明するが、他の樹脂フィルムの製膜についても勿論適用することができる。
〔溶液流延法〕
フィルムの着色抑制、異物欠点の抑制、ダイラインなどの光学欠点の抑制、フィルムの平面性、透明度に優れるなどの観点からは、長尺フィルムを溶液流延法で製膜することが好ましい。
(有機溶媒)
本実施形態に係るセルロースエステル系樹脂フィルムを溶液流延法で製造する場合のドープを形成するのに有用な有機溶媒は、セルロースアセテート、その他の添加剤を同時に溶解するものであれば制限なく用いることができる。
例えば、塩素系有機溶媒としては、塩化メチレン、非塩素系有機溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、アセトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、シクロヘキサノン、ギ酸エチル、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−ヘキサフルオロ−1−プロパノール、1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メチル−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、ニトロエタン等を挙げることができ、塩化メチレン、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトンを好ましく使用し得る。
ドープには、上記有機溶媒の他に、1〜40質量%の炭素原子数1〜4の直鎖または分岐鎖状の脂肪族アルコールを含有させることが好ましい。ドープ中のアルコールの比率が高くなるとウェブがゲル化し、金属支持体からの剥離が容易になり、また、アルコールの割合が少ない時は非塩素系有機溶媒系でのセルロースアセテートの溶解を促進する役割もある。
特に、メチレンクロライド、および炭素数1〜4の直鎖または分岐鎖状の脂肪族アルコールを含有する溶媒に、アクリル樹脂と、セルロースエステル樹脂と、アクリル粒子の3種を、少なくとも計15〜45質量%溶解させたドープ組成物であることが好ましい。
炭素原子数1〜4の直鎖または分岐鎖状の脂肪族アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノールを挙げることができる。これらのうち、ドープの安定性を確保でき、沸点も比較的低く、乾燥性もよいこと等から、エタノールが好ましい。
(溶液流延)
本実施形態に係るセルロースエステル系樹脂フィルムは、溶液流延法によって製造することができる。溶液流延法では、樹脂および添加剤を溶剤に溶解させてドープを調製する工程、ドープをベルト状もしくはドラム状の金属支持体上に流延する工程、流延したドープをウェブとして乾燥する工程、金属支持体から剥離する工程、延伸または幅保持する工程、更に乾燥する工程、仕上がったフィルムを巻き取る工程により行われる。
ドープ中のセルロースアセテートの濃度は高いほうが、金属支持体に流延した後の乾燥負荷が低減できて好ましいが、濃度が高過ぎると濾過時の負荷が増えて、濾過精度が悪くなる。これらを両立する濃度としては、10〜35質量%が好ましく、更に好ましくは、15〜25質量%である。流延(キャスト)工程における金属支持体は、表面を鏡面仕上げしたものが好ましく、金属支持体としては、ステンレススティールベルト若しくは鋳物で表面をメッキ仕上げしたドラムが好ましく用いられる。
流延工程の金属支持体の表面温度は、−50℃〜溶剤が沸騰して発泡しない温度以下に設定される。支持体温度が高いほうがウェブの乾燥速度が速くできるので好ましいが、余り高すぎるとウェブが発泡したり、平面性が劣化する場合がある。
好ましい支持体温度としては、0〜100℃で適宜決定され、5〜30℃が更に好ましい。または、冷却することによってウェブをゲル化させて残留溶媒を多く含んだ状態でドラムから剥離することも好ましい方法である。金属支持体の温度を制御する方法は特に制限されないが、温風または冷風を吹きかける方法や、温水を金属支持体の裏側に接触させる方法がある。温水を用いるほうが、熱の伝達が効率的に行われ、金属支持体の温度が一定になるまでの時間が短くなるため、好ましい。
温風を用いる場合は、溶媒の蒸発潜熱によるウェブの温度低下を考慮して、溶媒の沸点以上の温風を使用しつつ、発泡も防ぎながら目的の温度よりも高い温度の風を使う場合がある。
特に、流延から剥離するまでの間で支持体の温度および乾燥風の温度を変更し、効率的に乾燥を行うことが好ましい。
セルロースエステル系樹脂フィルムが良好な平面性を示すためには、金属支持体からウェブを剥離する際の残留溶媒量が10〜150質量%であることが好ましく、更に好ましくは20〜40質量%または60〜130質量%であり、特に好ましくは、20〜30質量%または70〜120質量%である。ここで、残留溶媒量は、下記式で定義される。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
なお、Mはウェブまたはフィルムを製造中または製造後の任意の時点で採取した試料の質量(g)であり、NはMを115℃で1時間の加熱した後の質量(g)である。
また、セルロース系樹脂フィルムの乾燥工程においては、ウェブを金属支持体より剥離し、更に乾燥し、残留溶媒量を1質量%以下にすることが好ましく、更に好ましくは0.1質量%以下であり、特に好ましくは0〜0.01質量%以下である。
フィルム乾燥工程では、一般にロール乾燥方式(上下に配置した多数のロールにウェブを交互に通し乾燥させる方式)やテンター方式でウェブを搬送させながら乾燥する方式が採られる。
〔溶融流延法〕
溶融流延法は、後述する斜め延伸後のフィルムの厚み方向のリタデーションRtを小さくすることが容易となり、残留揮発性成分量が少なくフィルムの寸法安定性にも優れる等の観点から、好ましい製膜法である。溶融流延法は、樹脂および可塑剤などの添加剤を含む組成物を、流動性を示す温度まで加熱溶融し、その後、流動性のセルロースアセテートを含む溶融物を流延してフィルムを製膜する方法をいう。溶融流延によって形成される方法は、溶融押出(成形)法、プレス成形法、インフレーション法、射出成形法、ブロー成形法、延伸成形法などに分類できる。これらの中で、機械的強度および表面精度などに優れるフィルムが得られる溶融押出法が好ましい。また、溶融押出法で用いる複数の原材料は、通常、予め混錬してペレット化しておくことが好ましい。
ペレット化は、公知の方法で行えばよい。例えば、乾燥セルロースアセテートや可塑剤、その他添加剤をフィーダーで押出し機に供給し、1軸や2軸の押出し機を用いて混錬し、ダイからストランド状に押出し、水冷または空冷し、カッティングすることでペレット化できる。
添加剤は、押出し機に供給する前に混合しておいてもよいし、それぞれ個別のフィーダーで供給してもよい。また、粒子や酸化防止剤等の少量の添加剤は、均一に混合するため、事前に混合しておくことが好ましい。
押出し機は、剪断力を抑え、樹脂が劣化(分子量低下、着色、ゲル生成等)しないようにペレット化可能でなるべく低温で加工することが好ましい。例えば、2軸押出し機の場合、深溝タイプのスクリューを用いて、同方向に回転させることが好ましい。混錬の均一性から、噛み合いタイプが好ましい。
以上のようにして得られたペレットを用いてフィルム製膜を行う。もちろんペレット化せず、原材料の粉末をそのままフィーダーで押出し機に供給し、そのままフィルム製膜することも可能である。
上記ペレットを1軸や2軸タイプの押出し機を用いて、押出す際の溶融温度を200〜300℃程度とし、リーフディスクタイプのフィルターなどで濾過し異物を除去した後、Tダイからフィルム状に流延し、冷却ロールと弾性タッチロールとでフィルムをニップし、冷却ロール上で固化させる。
供給ホッパーから押出し機へ上記ペレットを導入する際は、真空下または減圧下や不活性ガス雰囲気下にして酸化分解等を防止することが好ましい。
押出し流量は、ギヤポンプを導入するなどして安定に行うことが好ましい。また、異物の除去に用いるフィルターは、ステンレス繊維焼結フィルターが好ましく用いられる。ステンレス繊維焼結フィルターは、ステンレス繊維体を複雑に絡み合った状態を作り出した上で圧縮し接触箇所を焼結し一体化したもので、その繊維の太さと圧縮量により密度を変え、濾過精度を調整できる。
可塑剤や粒子などの添加剤は、予め樹脂と混合しておいてもよいし、押出し機の途中で練り込んでもよい。均一に添加するために、スタチックミキサーなどの混合装置を用いることが好ましい。
冷却ロールと弾性タッチロールとでフィルムをニップする際のタッチロール側のフィルム温度は、フィルムのTg(ガラス転移温度)以上Tg+110℃以下にすることが好ましい。このような目的で使用する弾性体表面を有するロールは、公知のロールを使用できる。
弾性タッチロールは挟圧回転体ともいう。弾性タッチロールとしては、市販されているものを用いることもできる。
冷却ロールからフィルムを剥離する際は、張力を制御してフィルムの変形を防止することが好ましい。
なお、上記した各製膜法で製膜される長尺フィルムは、単層若しくは2層以上の積層フィルムであってもよい。積層フィルムは共押出成形法、共流延成形法、フィルムラミネイション法、塗布法などの公知の方法で得ることができる。これらのうち共押出成形法、共流延成形法が好ましい。
<長尺フィルムの仕様>
本実施形態における長尺フィルムの厚さは、1〜400μm、好ましくは20〜400μm、より好ましくは30〜200μmである。また、本実施形態では、後述する延伸ゾーンに供給される長尺フィルムの流れ方向(搬送方向)の厚みムラσmは、後述する斜め延伸テンター入口でのフィルムの引取張力を一定に保ち、配向角やリタデーションといった光学特性を安定させる観点から、0.30μm未満、好ましくは0.25μm未満、さらに好ましくは0.20μm未満である必要がある。長尺フィルムの流れ方向の厚みムラσmが0.30μm以上となると、長尺斜め配向フィルムのリタデーションや配向角といった光学特性のバラツキが顕著に悪化する。
また、長尺フィルムとして、幅方向の厚み勾配を有するフィルムが供給されてもよい。長尺フィルムの厚みの勾配は、後工程の延伸が完了した位置におけるフィルム厚みを最も均一なものとしうるよう、実験的に厚み勾配を様々に変化させたフィルムを延伸することにより、経験的に求めることができる。長尺フィルムの厚みの勾配は、例えば、厚みの厚い側の端部の厚みが、厚みの薄い側の端部よりも0.5〜3%程度厚くなるように調整することができる。
長尺フィルムの幅は、特に限定されないが、500〜4000mm、好ましくは1000〜2000mmとすることができる。
長尺フィルムの斜め延伸時の延伸温度での好ましい弾性率は、ヤング率で表して、0.01MPa以上5000MPa以下、更に好ましくは0.1MPa以上500MPa以下である。弾性率が低すぎると、延伸時・延伸後の収縮率が低くなり、シワが消えにくくなる。また、弾性率が高すぎると、延伸時にかかる張力が大きくなり、フィルムの両側縁部を保持する部分の強度を高くする必要が生じ、後工程のテンターに対する負荷が大きくなる。
長尺フィルムとしては、無配向なものを用いてもよいし、あらかじめ配向を有するフィルムが供給されてもよい。また、必要であれば長尺フィルムの配向の幅手方向の分布が弓なり状、いわゆるボウイングを成していてもよい。要は、長尺フィルムの配向状態を、後工程の延伸が完了した位置におけるフィルムの配向を所望なものとしうるよう、調整することができる。
<斜め配向フィルムの製造方法および製造装置>
次に、上述した長尺フィルムを幅手方向に対して斜め方向に延伸して長尺状の斜め配向フィルムを製造する、斜め配向フィルムの製造方法および製造装置について説明する。
(装置の概要)
図1は、斜め配向フィルムの製造装置1の概略の構成を模式的に示す平面図である。製造装置1は、長尺フィルムの搬送方向上流側から順に、フィルム繰り出し部2と、搬送方向変更部3と、ガイドロール4と、延伸部5と、ガイドロール6と、搬送方向変更部7と、フィルム切断装置8と、フィルム巻き取り部9とを備えている。なお、延伸部5およびフィルム切断装置8の詳細については後述する。
フィルム繰り出し部2は、上述した長尺フィルムを繰り出して延伸部5に供給するものである。このフィルム繰り出し部2は、長尺フィルムの製膜装置と別体で構成されていてもよいし、一体的に構成されてもよい。前者の場合、長尺フィルムを製膜後に一度巻芯に巻き取って巻回体(長尺フィルム原反)となったものをフィルム繰り出し部2に装填することで、フィルム繰り出し部2から長尺フィルムが繰り出される。一方、後者の場合、フィルム繰り出し部2は、長尺フィルムの製膜後、その長尺フィルムを巻き取ることなく、延伸部5に対して繰り出すことになる。
搬送方向変更部3は、フィルム繰り出し部2から繰り出される長尺フィルムの搬送方向を、斜め延伸テンターとしての延伸部5の入口に向かう方向に変更するものである。このような搬送方向変更部3は、例えばフィルムを搬送しながら折り返すことによって搬送方向を変更するターンバーや、そのターンバーをフィルムに平行な面内で回転させる回転テーブルを含んで構成されている。
搬送方向変更部3にて長尺フィルムの搬送方向を上記のように変更することにより、製造装置1全体の幅をより狭くすることが可能となるほか、フィルムの送り出し位置および角度を細かく制御することが可能となり、膜厚、光学値のバラツキが小さい長尺斜め配向フィルムを得ることが可能となる。また、フィルム繰り出し部2および搬送方向変更部3を移動可能(スライド可能、旋回可能)とすれば、延伸部5において長尺フィルムの幅手方向の両端部を挟む左右のクリップ(把持具)のフィルムへの噛込み不良を有効に防止することができる。
なお、上記したフィルム繰り出し部2は、延伸部5の入口に対して所定角度で長尺フィルムを送り出せるように、スライドおよび旋回可能となっていてもよい。この場合は、搬送方向変更部3の設置を省略した構成とすることもできる。
ガイドロール4は、長尺フィルムの走行時の軌道を安定させるために、延伸部5の上流側に少なくとも1本設けられている。なお、ガイドロール4は、フィルムを挟む上下一対のロール対で構成されてもよいし、複数のロール対で構成されてもよい。延伸部5の入口に最も近いガイドロール4は、フィルムの走行を案内する従動ロールであり、不図示の軸受部を介してそれぞれ回転自在に軸支される。ガイドロール4の材質としては、公知のものを用いることが可能である。なお、フィルムの傷つきを防止するために、ガイドロール4の表面にセラミックコートを施したり、アルミニウム等の軽金属にクロームメッキを施す等によってガイドロール4を軽量化することが好ましい。
また、延伸部5の入口に最も近いガイドロール4よりも上流側のロールのうちの1本は、ゴムロールを圧接させてニップすることが好ましい。このようなニップロールにすることで、フィルムの流れ方向における繰出張力の変動を抑えることが可能となる。
延伸部5の入口に最も近いガイドロール4の両端(左右)の一対の軸受部には、当該ロールにおいてフィルムに生じている張力を検出するためのフィルム張力検出装置として、第1張力検出装置、第2張力検出装置がそれぞれ設けられている。フィルム張力検出装置としては、例えばロードセルを用いることができる。ロードセルとしては、引張または圧縮型の公知のものを用いることができる。ロードセルは、着力点に作用する荷重を起歪体に取り付けられた歪ゲージにより電気信号に変換して検出する装置である。
ロードセルは、延伸部5の入口に最も近いガイドロール4の左右の軸受部に設置されることにより、走行中のフィルムがロールに及ぼす力、即ちフィルムの両側縁近傍に生じているフィルム進行方向における張力を左右独立に検出する。なお、ロールの軸受部を構成する支持体に歪ゲージを直接取り付けて、該支持体に生じる歪に基づいて荷重、即ちフィルム張力を検出するようにしてもよい。発生する歪とフィルム張力との関係は、予め計測され、既知であるものとする。
フィルム繰り出し部2または搬送方向変更部3から延伸部5に供給されるフィルムの位置および搬送方向が、延伸部5の入口に向かう位置および搬送方向からズレている場合、このズレ量に応じて、延伸部5の入口に最も近いガイドロール4におけるフィルムの両側縁近傍の張力に差が生じることになる。したがって、上述したようなフィルム張力検出装置を設けて上記の張力差を検出することにより、当該ズレの程度を判別することができる。つまり、フィルムの搬送位置および搬送方向が適正であれば(延伸部5の入口に向かう位置および方向であれば)、上記ガイドロール4に作用する荷重は軸方向の両端で粗均等になるが、適正でなければ、左右でフィルム張力に差が生じる。
したがって、延伸部5の入口に最も近いガイドロール4の左右のフィルム張力差が等しくなるように、例えば上記した搬送方向変更部3によってフィルムの位置および搬送方向(延伸部5の入口に対する角度)を適切に調整すれば、延伸部5の入口部の把持具によるフィルムの把持が安定し、把持具外れ等の障害の発生を少なくできる。更に、延伸部5による斜め延伸後のフィルムの幅方向における物性を安定させることができる。
ガイドロール6は、延伸部5にて斜め延伸されたフィルムの走行時の軌道を安定させるために、延伸部5の下流側に少なくとも1本設けられている。
搬送方向変更部7は、延伸部5から搬送される延伸後のフィルムの搬送方向を、フィルム巻き取り部9に向かう方向に変更するものである。
ここで、配向角(フィルムの面内遅相軸の方向)の微調整や製品バリエーションに対応するために、延伸部5の入口でのフィルム進行方向と延伸部5の出口でのフィルム進行方向とがなす角度の調整が必要となる。この角度調整のためには、製膜したフィルムの進行方向を搬送方向変更部3によって変更してフィルムを延伸部5の入口に導く、および/または延伸部5の出口から出たフィルムの進行方向を搬送方向変更部7によって変更してフィルムをフィルム巻き取り部9の方向に戻すことが必要となる。
また、製膜および斜め延伸を連続して行うことが、生産性や収率の点で好ましい。製膜工程、斜め延伸工程、巻取工程を連続して行う場合、搬送方向変更部3および/または搬送方向変更部7によってフィルムの進行方向を変更し、製膜工程と巻取工程とでフィルムの進行方向を一致させる、つまり、図1に示すように、フィルム繰り出し部2から繰り出されるフィルムの進行方向(繰り出し方向)と、フィルム巻き取り部9にて巻き取られる直前のフィルムの進行方向(巻き取り方向)とを一致させることにより、フィルム進行方向に対する装置全体の幅を小さくすることができる。
なお、製膜工程と巻取工程とでフィルムの進行方向は必ずしも一致させる必要はないが、フィルム繰り出し部2とフィルム巻き取り部9とが干渉しないレイアウトとなるように、搬送方向変更部3および/または搬送方向変更部7によってフィルムの進行方向を変更することが好ましい。
上記のような搬送方向変更部3・7としては、エアーフローロールもしくはエアーターンバーを用いるなど、公知の手法で実現することができる。
フィルム巻き取り部9は、延伸部5から搬送方向変更部7を介して搬送されるフィルムを巻き取るものであり、例えばワインダー装置、アキューム装置、ドライブ装置などで構成される。フィルム巻き取り部9は、フィルムの巻き取り位置を調整すべく、横方向にスライドできる構造であることが好ましい。
フィルム巻き取り部9は、延伸部5の出口に対して所定角度でフィルムを引き取れるように、フィルムの引き取り位置および角度を細かく制御できるようになっている。これにより、膜厚、光学値のバラツキが小さい長尺斜め配向フィルムを得ることが可能となる。また、フィルムのシワの発生を有効に防止することができるとともに、フィルムの巻き取り性が向上するため、フィルムを長尺で巻き取ることが可能となる。
このフィルム巻き取り部9は、延伸部5にて延伸されて搬送されるフィルムを一定の張力で引き取る引取部を構成している。なお、延伸部5とフィルム巻き取り部9との間に、フィルムを一定の張力で引き取るための引取ロールを設けるようにしてもよい。また、上述したガイドロール6に上記引取ロールとしての機能を持たせてもよい。
本実施形態において、延伸後のフィルムの引取張力T(N/m)は、100N/m<T<300N/m、好ましくは150N/m<T<250N/mの間で調整することが好ましい。上記の引取張力が100N/m以下では、フィルムのたるみや皺が発生しやすく、リタデーション、配向角のフィルム幅方向のプロファイルも悪化する。逆に、引取張力が300N/m以上となると、配向角のフィルム幅方向のバラツキが悪化し、幅収率(幅方向の取り効率)を悪化させてしまう。
また、本実施形態においては、上記引取張力Tの変動を±5%未満、好ましくは±3%未満の精度で制御することが好ましい。上記引取張力Tの変動が±5%以上であると、幅方向および流れ方向(搬送方向)の光学特性のバラツキが大きくなる。上記引取張力Tの変動を上記範囲内に制御する方法としては、延伸部5の出口側の最初のロール(ガイドロール6)にかかる荷重、すなわちフィルムの張力を測定し、その値が一定となるように、一般的なPID制御方式により引取ロールまたはフィルム巻き取り部9の巻取ロールの回転速度を制御する方法が挙げられる。上記荷重を測定する方法としては、ガイドロール6の軸受部にロードセルを取り付け、ガイドロール6に加わる荷重、すなわちフィルムの張力を測定する方法が挙げられる。ロードセルとしては、引張型や圧縮型の公知のものを用いることができる。
延伸後のフィルムは、延伸部5の把持具による把持が開放されて、延伸部5の出口から排出され、把持具で把持されていたフィルムの両端(両側)がトリミングされた後に、順次巻芯(巻取ロール)に巻き取られて、長尺斜め配向フィルムの巻回体となる。なお、上記のトリミングは、必要に応じて行われればよい。
また、長尺斜め配向フィルムを巻き取る前に、フィルム同士のブロッキングを防止する目的で、マスキングフィルムを長尺斜め配向フィルムに重ねて同時に巻き取ってもよいし、巻き取りによって重なる長尺斜め配向フィルムの少なくとも一方(好ましくは両方)の端にテープ等を貼り合わせながら巻き取ってもよい。マスキングフィルムとしては、長尺斜め配向フィルムを保護することができるものであれば特に制限されず、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルムなどが挙げられる。
(延伸部の詳細)
次に、上述した延伸部5の詳細について説明する。図2は、延伸部5のレールパターンの一例を模式的に示す平面図である。但し、これは一例であって、延伸部5の構成はこれに限定されるものではない。
本実施形態における長尺斜め配向フィルムの製造は、延伸部5として、斜め延伸可能なテンター(斜め延伸機)を用いて行われる。このテンターは、長尺フィルムを、延伸可能な任意の温度に加熱し、斜め延伸する装置である。このテンターは、加熱ゾーンZと、左右で一対のレールRi・Roと、レールRi・Roに沿って走行してフィルムを搬送する多数の把持具Ci・Co(図2では、1組の把持具のみを図示)とを備えている。なお、加熱ゾーンZの詳細については後述する。レールRi・Roは、それぞれ、複数のレール部を連結部で連結して構成されている(図2中の白丸は連結部の一例である)。把持具Ci・Coは、フィルムの幅手方向の両端を把持するクリップで構成されている。
図2において、長尺フィルムの繰出方向D1は、延伸後の長尺斜め配向フィルムの巻取方向D2と異なっており、巻取方向D2との間で繰出角度θiを成している。繰出角度θiは0°を超え90°未満の範囲で、所望の角度に任意に設定することができる。
このように、繰出方向D1と巻取方向D2とが異なっているため、テンターのレールパターンは左右で非対称な形状となっている。そして、製造すべき長尺斜め配向フィルムに与える配向角θ、延伸倍率等に応じて、レールパターンを手動または自動で調整できるようになっている。本実施形態の製造方法で用いられる斜め延伸機では、レールRi・Roを構成する各レール部およびレール連結部の位置を自由に設定し、レールパターンを任意に変更できることが好ましい。
本実施形態において、テンターの把持具Ci・Coは、前後の把持具Ci・Coと一定間隔を保って、一定速度で走行するようになっている。把持具Ci・Coの走行速度は適宜選択できるが、通常、1〜150m/minである。左右一対の把持具Ci・Coの走行速度の差は、走行速度の通常1%以下、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.1%以下である。これは、延伸工程出口でフィルムの左右に進行速度差があると、延伸工程出口におけるシワ、寄りが発生するため、左右の把持具Ci・Coの速度差は、実質的に同速度であることが求められるためである。一般的なテンター装置等では、チェーンを駆動するスプロケットの歯の周期、駆動モータの周波数等に応じ、秒以下のオーダーで発生する速度ムラがあり、しばしば数%のムラを生ずるが、これらは本発明の実施形態で述べる速度差には該当しない。
本実施形態の製造方法で用いられる斜め延伸機において、特にフィルムの搬送が斜めになる箇所において、把持具の軌跡を規制するレールには、しばしば大きい屈曲率が求められる。急激な屈曲による把持具同士の干渉、あるいは局所的な応力集中を避ける目的から、屈曲部では把持具の軌跡が曲線を描くようにすることが望ましい。
このように、長尺フィルムに斜め方向の配向を付与するために用いられる斜め延伸テンターは、レールパターンを多様に変化させることにより、フィルムの配向角を自在に設定でき、さらに、フィルムの配向軸(遅相軸)をフィルム幅方向に渡って左右均等に高精度に配向させることができ、かつ、高精度でフィルム厚みやリタデーションを制御できるテンターであることが好ましい。
次に、延伸部5での延伸動作について説明する。長尺フィルムは、その両端を左右の把持具Ci・Coによって把持され、加熱ゾーンZ内を把持具Ci・Coの走行に伴って搬送される。左右の把持具Ci・Coは、延伸部5の入口部(図中Aの位置)において、フィルムの進行方向(繰出方向D1)に対して略垂直な方向に相対しており、左右非対称なレールRi・Ro上をそれぞれ走行し、延伸終了時の出口部(図中Bの位置)で把持したフィルムを開放する。把持具Ci・Coから開放されたフィルムは、前述したフィルム巻き取り部9にて巻芯に巻き取られる。一対のレールRi・Roは、それぞれ無端状の連続軌道を有しており、テンターの出口部でフィルムの把持を開放した把持具Ci・Coは、外側のレールを走行して順次入口部に戻されるようになっている。
このとき、レールRi・Roは左右非対称であるため、図2の例では、図中Aの位置で相対していた左右の把持具Ci・Coは、レールRi・Ro上を走行するにつれて、レールRi側(インコース側)を走行する把持具CiがレールRo側(アウトコース側)を走行する把持具Coに対して先行する位置関係となる。
すなわち、図中Aの位置でフィルムの繰出方向D1に対して略垂直な方向に相対していた把持具Ci・Coのうち、一方の把持具Ciがフィルムの延伸終了時の位置Bに先に到達したときには、把持具Ci・Coを結んだ直線がフィルムの巻取方向D2に略垂直な方向に対して、角度θLだけ傾斜している。以上の所作をもって、長尺フィルムが幅手方向に対してθLの角度で斜め延伸されることとなる。ここで、略垂直とは、90±1°の範囲にあることを示す。
次に、上記した加熱ゾーンZの詳細について説明する。延伸部5の加熱ゾーンZは、予熱ゾーンZ1、延伸ゾーンZ2および熱固定ゾーンZ3で構成されている。延伸部5では、把持具Ci・Coによって把持されたフィルムは、予熱ゾーンZ1、延伸ゾーンZ2、熱固定ゾーンZ3を順に通過する。本実施形態では、予熱ゾーンZ1と延伸ゾーンZ2とは隔壁で区切られており、延伸ゾーンZ2と熱固定ゾーンZ3とは隔壁で区切られている。
予熱ゾーンZ1とは、加熱ゾーンZの入口部において、フィルムの両端を把持した把持具Ci・Coが、左右で(フィルム幅方向に)一定の間隔を保ったまま走行する区間を指す。
延伸ゾーンZ2とは、フィルムの両端を把持した把持具Ci・Coの間隔が開き出し、所定の間隔になるまでの区間を指す。このとき、上述のような斜め延伸が行われるが、必要に応じて斜め延伸前後において縦方向あるいは横方向に延伸してもよい。
熱固定ゾーンZ3とは、延伸ゾーンZ2より後の、把持具Ci・Coの間隔が再び一定となる区間であって、両端の把持具Ci・Coが互いに平行を保ったまま走行する区間を指す。
なお、延伸後のフィルムは、熱固定ゾーンZ3を通過した後に、ゾーン内の温度がフィルムを構成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg(℃)以下に設定される区間(冷却ゾーン)を通過してもよい。このとき、冷却によるフィルムの縮みを考慮して、予め対向する把持具Ci・Coの間隔を狭めるようなレールパターンとしてもよい。
熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tgに対し、予熱ゾーンZ1の温度はTg〜Tg+30℃、延伸ゾーンZ2の温度はTg〜Tg+30℃、熱固定ゾーンZ3及び冷却ゾーンの温度はTg−30〜Tg+20℃に設定することが好ましい。
なお、予熱ゾーンZ1、延伸ゾーンZ2および熱固定ゾーンZ3の長さは適宜選択でき、延伸ゾーンZ2の長さに対して、予熱ゾーンZ1の長さは通常100〜150%、熱固定ゾーンZ3の長さは通常50〜100%である。
また、延伸前のフィルムの幅をWo(mm)とし、延伸後のフィルムの幅をW(mm)とすると、延伸工程における延伸倍率R(W/Wo)は、好ましくは1.3〜3.0、より好ましくは1.5〜2.8である。延伸倍率がこの範囲にあると、フィルムの幅方向の厚みムラが小さくなるので好ましい。斜め延伸テンターの延伸ゾーンZ2において、幅方向で延伸温度に差を付けると、幅方向厚みムラをさらに良好なレベルにすることが可能になる。なお、上記の延伸倍率Rは、テンター入口部で把持したクリップ両端の間隔W1がテンター出口部において間隔W2となったときの倍率(W2/W1)に等しい。
なお、延伸部5における斜め延伸の手法は、上述した手法に限定されるわけではなく、例えば特開2008−23775号公報に開示されているような、同時2軸延伸によって斜め延伸を行ってもよい。なお、同時2軸延伸とは、供給される長尺フィルムの幅手方向の両端部を各把持具によって把持し、各把持具を移動させながら長尺フィルムを搬送するとともに、長尺フィルムの搬送方向を一定としたまま、一方の把持具の移動速度と他方の把持具の移動速度とを異ならせることにより、長尺フィルムを幅手方向に対して斜め方向に延伸する方法である。その他、特開2011−11434号公報に開示されているような手法で斜め延伸を行ってもよい。
<長尺斜め配向フィルムの品質>
本実施形態の製造方法により得られた長尺斜め配向フィルムにおいては、配向角θが巻取方向に対して、例えば0°より大きく90°未満の範囲に傾斜しており、少なくとも1300mmの幅において、幅方向の、面内リタデーションRoのバラツキが3nm以下、配向角θのバラツキが0.5°以下であることが好ましい。また、前記長尺斜め配向フィルムの、波長550nmで測定した面内リタデーション値Ro(550)が、120nm以上160nm以下の範囲にあることが好ましく、130nm以上150nm以下の範囲であることがさらに好ましい。
すなわち、本実施形態の製造方法により得られた長尺斜め配向フィルムにおいて、面内リタデーションRoのバラツキは、幅方向の少なくとも1300mmにおいて、3nm以下であり、1nm以下であることが好ましい。面内リタデーションRoのバラツキを上記範囲にすることにより、長尺斜め配向フィルムを偏光子と貼り合せて円偏光板とし、これを有機EL画像表示装置に適用したときに、黒表示時の外光反射光の漏れによる色ムラを抑えることができる。また、長尺斜め配向フィルムを例えば液晶表示装置用の位相差フィルムとして用いた場合に表示品質を良好なものにすることも可能になる。
また、本実施形態の製造方法により得られた長尺斜め配向フィルムにおいて、配向角θのバラツキは、幅方向の少なくとも1300mmにおいて、0.5°以下であり、0.3°以下であることが好ましく、0.1°以下が最も好ましい。配向角θのバラツキが0.5を超える長尺斜め配向フィルムを偏光子と貼り合せて円偏光板とし、これを有機EL表示装置などの画像表示装置に据え付けると、光漏れが生じ、明暗のコントラストを低下させることがある。
本実施形態の製造方法により得られた長尺斜め配向フィルムの面内リタデーションRoは、用いられる表示装置の設計によって最適値が選択される。なお、前記Roは、面内遅相軸方向の屈折率nxと面内で前記遅相軸に直交する方向の屈折率nyとの差にフィルムの平均厚みdを乗算した値(Ro=(nx−ny)×d)である。
本実施形態の製造方法により得られた長尺斜め配向フィルムの平均厚みは、機械的強度などの観点から、10〜200μm、好ましくは10〜60μm、さらに好ましくは15〜35μmである。また、上記長尺斜め配向フィルムの幅方向の厚みムラは、巻き取りの可否に影響を与えるため、3μm以下であることが好ましく、2μm以下であることがより好ましい。
<円偏光板>
本実施形態の円偏光板は、偏光板保護フィルム、偏光子、λ/4位相差フィルムがこの順で積層されており、λ/4位相差フィルムの遅相軸と偏光子の吸収軸(または透過軸)とのなす角度が45°である。なお、上記の偏光板保護フィルム、偏光子、λ/4位相差フィルムは、それぞれ、図3の保護フィルム313、偏光子312、λ/4位相差フィルム311にそれぞれ対応している。本実施形態においては、長尺状偏光板保護フィルム、長尺状偏光子、長尺状λ/4位相差フィルム(長尺斜め配向フィルム)がこの順で積層して形成されることが好ましい。
本実施形態の円偏光板は、偏光子として、ヨウ素または二色性染料をドープしたポリビニルアルコールを延伸したものを使用し、λ/4位相差フィルム/偏光子の構成で貼合して製造することができる。偏光子の膜厚は、5〜40μm、好ましくは5〜30μmであり、特に好ましくは5〜20μmである。
偏光板は、一般的な方法で作製することができる。アルカリ鹸化処理したλ/4位相差フィルムは、ポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の一方の面に、完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わされることが好ましい。
偏光板は、更に当該偏光板の偏光板保護フィルムの反対面に剥離フィルムを貼合して構成することができる。保護フィルムおよび剥離フィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。
<有機EL画像表示装置>
図3は、本実施形態の有機EL画像表示装置100の概略の構成を示す断面図である。なお、有機EL画像表示装置100の構成は、これに限定されるものではない。
有機EL画像表示装置100は、有機EL素子101上に接着層201を介して円偏光板301を形成することによって構成されている。有機EL素子101は、ガラスやポリイミド等を用いた基板111上に、順に、金属電極112、発光層113、透明電極(ITO等)114、封止層115を有して構成されている。なお、金属電極112は、反射電極と透明電極とで構成されていてもよい。
円偏光板301は、有機EL素子101側から順に、λ/4位相差フィルム311、偏光子312、保護フィルム313を積層してなり、偏光子312がλ/4位相差フィルム311と保護フィルム313とによって挟持されている。偏光子312の透過軸と本実施形態の長尺斜め配向フィルムからなるλ/4位相差フィルム311の遅相軸とのなす角度が約45°(または135°)となるように両者を貼り合わせることで、円偏光板301が構成されている。
上記の保護フィルム313には硬化層が積層されていることが好ましい。硬化層は、有機EL画像表示装置の表面のキズを防止するだけではなく、円偏光板301による反りを防止する効果を有する。更に、硬化層上には、反射防止層を有していてもよい。上記有機EL素子101自体の厚さは1μm程度である。
上記の構成において、金属電極112と透明電極114とに電圧を印加すると、発光層113に対して、金属電極112および透明電極114のうちで陰極となる電極から電子が注入され、陽極となる電極から正孔が注入され、両者が発光層113で再結合することにより、発光層113の発光特性に対応した可視光線の発光が生じる。発光層113で生じた光は、直接または金属電極112で反射した後、透明電極114および円偏光板301を介して外部に取り出されることになる。
一般に、有機EL画像表示装置においては、透明基板上に金属電極と発光層と透明電極とを順に積層して発光体である素子(有機EL素子)が形成されている。ここで、発光層は、種々の有機薄膜の積層体であり、例えばトリフェニルアミン誘導体等からなる正孔注入層と、アントラセン等の蛍光性の有機固体からなる発光層との積層体や、このような発光層とペリレン誘導体等からなる電子注入層との積層体や、これらの正孔注入層、発光層、電子注入層の積層体等、種々の組み合わせをもった構成が知られている。
有機EL画像表示装置は、透明電極と金属電極とに電圧を印加することによって、発光層に正孔と電子とが注入され、これら正孔と電子との再結合によって生じるエネルギーが蛍光物質を励起し、励起された蛍光物質が基底状態に戻るときに光を放射する、という原理で発光する。途中再結合というメカニズムは、一般のダイオードと同様であり、このことからも予想できるように、電流と発光強度は印加電圧に対して整流性を伴う強い非線形性を示す。
有機EL画像表示装置においては、発光層での発光を取り出すために、少なくとも一方の電極が透明でなくてはならず、通常酸化インジウムスズ(ITO)などの透明導電体で形成した透明電極を陽極として用いている。一方、電子注入を容易にして発光効率を上げるには、陰極に仕事関数の小さな物質を用いることが重要で、通常Mg−Ag、Al−Liなどの金属電極を用いている。
このような構成の有機EL画像表示装置において、発光層は、厚さ10nm程度ときわめて薄い膜で形成されている。このため、発光層も透明電極と同様、光をほぼ完全に透過する。その結果、非発光時に透明基板の表面から入射し、透明電極と発光層とを透過して金属電極で反射した光が、再び透明基板の表面側へと出るため、外部から視認したとき、有機EL画像表示装置の表示面が鏡面のように見える。
本実施形態の円偏光板は、このような外光反射が特に問題となる有機EL画像表示装置に適している。
すなわち、有機EL素子101の非発光時に、室内照明等により有機EL素子101の外部から入射した外光は、円偏光板301の偏光子312によって半分は吸収され、残りの半分は直線偏光として透過し、λ/4位相差フィルム311に入射する。λ/4位相差フィルム311に入射した光は、偏光子312の透過軸とλ/4位相差フィルム311の遅相軸とが45°(または135°)で交差するように配置されているため、λ/4位相差フィルム311を透過することにより円偏光に変換される。
λ/4位相差フィルム311から出射された円偏光は、有機EL素子101の金属電極112で鏡面反射する際に、位相が180度反転し、逆回りの円偏光として反射される。この反射光は、λ/4位相差フィルム311に入射することにより、偏光子312の透過軸に垂直(吸収軸に平行)な直線偏光に変換されるため、偏光子312で全て吸収され、外部に出射されないことになる。つまり、円偏光板301により、有機EL素子101での外光反射を低減することができる。
<フィルム切断装置の詳細>
次に、上述した斜め配向フィルムの製造装置1におけるフィルム切断装置8の詳細について説明する。図4は、フィルム切断装置8の一構成例を模式的に示す平面図である。なお、図4では、切断対象となる斜め配向フィルムFの長手方向(フィルム搬送方向)を矢印aで示し、フィルム面内で長手方向に垂直な幅手方向を矢印bで示している。他の図面でも上記と同様に表記するものとする。また、図中の配向方向は、フィルムFの遅相軸の方向を指し、フィルムFの幅手方向と遅相軸方向とのなす角度(配向角)をθ(°)とすると、0°<θ<90°である。
フィルム切断装置8は、長尺状の斜め配向フィルムを含む長尺光学フィルム(以下、フィルムFと称する)を切断するものであり、切断部材10と、配向緩和処理装置20とを有している。なお、ここでは、説明の理解をしやすくするために、長尺光学フィルムが、長尺状の斜め配向フィルムのみで構成されている場合を考える。
切断部材10は、延伸部5にて延伸されたフィルムFにおいて、配向緩和処理装置20にて配向緩和処理(詳細は後述する)が施された領域を、幅手方向を含む断面に沿って切断するものである。切断部材10は、例えばハサミやカッター(スリッター、帯状の刃(トムソン刃)を含む)で構成されるが、これらに限定されるわけではなく、その他にも、回転する丸鋸やレーザー照射装置などで構成することも可能である。また、フィルムFの切断は、フィルムFの幅手方向への切断部材10の移動によって行ってもよいし、フィルム面に垂直な上下方向への切断部材10の移動によって行ってもよいし、幅手方向を含むフィルム断面内での切断部材の移動(回転)によって行ってもよい。
配向緩和処理装置20は、フィルムFの長手方向の一部に対して、幅手方向の全域にわたってフィルムFの配向を緩和させる配向緩和処理を行う装置であり、切断部材10よりもフィルム搬送方向上流側に位置している。配向緩和処理装置20は、搬送されるフィルムFにおいて、切断部材10によって切断すべき領域(例えば図4の領域R)に対してのみ配向緩和処理を行い、フィルムFの他の領域に対しては配向緩和処理を行わない。
ここで、配向を緩和させるとは、分子の配向性を低下させること、言い換えれば、分子の配向方向を不均一化して配向度を弱めたり、分子鎖の絡み合いを解きほぐしたり、分子鎖を短くして配向度(配向方向の強度)を弱めたりすることを指し、これには分子の配向そのものを無くすことも含まれる。このような配向緩和処理は、フィルムFに対して、例えば加熱や溶剤塗布(滴下)を行うことで実現することができる。なお、加熱等による配向緩和処理の詳細については後述する。
フィルムFの長手方向の一部に配向緩和処理を行うことにより、そのような処理が行われた領域Rでは分子の配向性が低下する。これにより、領域Rでは、フィルムFの裂けやすさがフィルム面内のどの方向についてもほぼ同等となり、特定の方向(配向緩和処理前の配向方向(幅手方向に対して斜め方向))に裂けやすかったフィルムFが、上記特定の方向に裂けにくくなる。したがって、領域Rを、切断部材10によって幅手方向に切断することにより、フィルムFが上記特定の方向に裂けて切粉が発生するのを抑えることができる。
また、フィルムFの切断は、配向緩和処理の後であればいつ行われてもよい。例えば、領域Rに対して配向緩和処理を行ってから、その配向緩和処理によるフィルムFの配向緩和が終了し、フィルムFの状態が配向緩和処理前の状態に戻る前までの所定時間内に、領域Rを幅手方向に切断するようにしてもよい。この場合、配向緩和処理が加熱処理であれば、フィルムFの温度が加熱前の温度に戻る前に、フィルムFを切断することになり、配向緩和処理が溶剤塗布処理であれば、溶剤塗布によってフィルムFに浸透した溶剤含有量が、溶剤塗布処理前のフィルムFの溶剤含有量より高い状態で、フィルムFを切断することになる。
上記の切断方法では、フィルムFが配向緩和処理前の状態に戻る前にフィルムFを切断するため、フィルムFが配向緩和処理前の状態に戻った後にフィルムFを切断する場合に比べて、フィルムFの製造(延伸、切断、巻取の各工程を含む)に要する時間を短縮することができる。なお、上記所定時間としては、配向緩和処理の種類によって異なるが、例えば3〜300秒を想定することができる。
また、領域Rに対して配向緩和処理を行ってから、その配向緩和処理によるフィルムFの配向緩和が終了し、所定時間が経過した(フィルムFの状態が配向緩和処理前の状態に戻った)後に、領域Rを幅手方向に切断するようにしてもよい。この場合、配向緩和処理が加熱処理であれば、フィルムFの温度が加熱前の温度に戻った後に、フィルムFを切断することになり、配向緩和処理が溶剤塗布処理であれば、溶剤塗布によってフィルムFに浸透した溶剤含有量が、溶剤塗布処理前のフィルムFの溶剤含有量と同じになった後に、フィルムFを切断することになる。
切断直前に配向緩和処理を行うと(配向緩和が終了する前に切断を行うと)、配向緩和処理によって領域Rが柔らかくなった状態でフィルムFを切断することになるため、切断時にフィルムF(領域R)が変形してしまい、後の巻取工程で巻き不良を発生させる場合がある。上記のように、配向緩和が終了した後にフィルムFを切断することにより、切断時にフィルムFが変形するのを抑えて、巻き不良の発生を低減することができる。
また、フィルムFは、厚さが薄いほど、物性(特に強度)が低下しやすく、幅手方向への切断時に斜め方向に裂けやすいため、切粉が発生しやすい。このことから、上記した本実施形態の切断方法(配向緩和処理+切断)は、特に、フィルムFの厚さが10μm〜60μmと薄膜である場合に非常に有効となる。
また、フィルムFの幅(幅手方向の長さ)が長くなればなるほど、切断部材8aによるカット距離が長くなるため、切粉発生のリスクが増える。このため、本実施形態の切断方法は、特にフィルムFの幅が1000mm以上である場合に非常に有効となる。
次に、配向緩和処理としての加熱処理の詳細について説明する。フィルムFの長手方向の一部を加熱し、分子の配向方向を不均一化して配向度を弱めたりすることにより、加熱された領域の配向性が低下し、フィルムFが配向方向に引き裂かれにくくなる。したがって、フィルムFの加熱された領域を、切断部材10によって幅手方向に切断することにより、配向方向へのフィルムFの裂けによって切粉が発生するのを抑えることができる。
上記の加熱処理は、熱発生装置によって行われることが好ましい。この熱発生装置は、搬送するフィルムFを所定の温度まで加熱できるものであれば特に限定されず、公知のものが使用でき、例えば、赤外線ヒーター、ヒートガン、レーザー式の加熱装置等で構成することができる。配向性を低下させる領域は、狭いことが好ましいことから、加熱スポット径の小さいレーザー式の加熱装置を用いることが好ましい。
ここで、フィルムFに含有される熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTg(℃)とすると、加熱処理における加熱温度は、Tg以上であることが好ましい。Tg未満に加熱してフィルムFを切断すると、配向性を低下させる効果が十分に得られないため、切断時のフィルムFの裂けを抑えることができない場合がある。
また、レーザー式の加熱装置は、レーザー光の照射方向に垂直な方向の断面形状が円形となるレーザー光を照射することができるものであることが好ましい。また、レーザー光の照射方向の前方に焦点を設けて、この焦点に向けて前記円形の径を縮径させてレーザー光を照射し得るもの等も好ましく用いられる。このレーザー光の円形の径を縮径する手段は、特に限定されるものではなく、例えば、レンズ、プリズム、ミラーなどによる一般に用いられている手段を用いることができる。
用いるレーザー光としては特に限定はなく、公知のものを使用できる。例えば、CO2(炭酸ガス)レーザー、YAGレーザー、UVレーザー等が挙げられる。また、レーザー光を照射する際において、レーザー光の照射時間、照射強度、スポット径は特に制限されない。フィルムFにおいてレーザー光の照射部(加熱部)が溶けたり、変形したりしない範囲で、適宜レーザー照射条件を設定すればよい。また、フィルムFの加熱は、1回のレーザー照射で行ってもよいし、複数回のレーザー照射で行ってもよい。レーザー照射時の出力は、例えば1W〜300Wであり、好ましくは5W〜50Wである。
また、レーザー光の照射によって粉塵が発生する場合、レーザー照射しながら粉塵を吸引して回収してもよい。すなわち、レーザー光照射装置によってレーザー光を照射しながら、気体供給管によるレーザー光照射部への気体の吹き付け、および気体吸引管による粉塵や蒸発気体の回収を同時に行ってもよい。
次に、配向緩和処理としての溶剤塗布処理の詳細について説明する。フィルムFの長手方向の一部を溶剤(例えば有機溶剤)で溶かすことにより、分子の配向方向を不均一化させることができるため、分子の配向性を低下させることができる。したがって、フィルムFの溶剤で溶かした領域を、切断部材10によって幅手方向に切断することにより、配向方向へのフィルムFの裂けによって切粉が発生するのを抑えることができる。
用いる溶剤としては、溶質である熱可塑性樹脂に対して可溶であれば良く、特に限定されるものでない。例えばジクロロメタン、シクロヘキサンなどの溶質に対して良好な溶解性を有する有機溶媒(良溶媒)のみであってもよいし、良溶媒と貧溶媒との混合溶剤であってもよい。なお、貧溶媒とは、単独では溶質に対する溶解性を有していない溶媒を指し、メタノール、エタノール、ブタノール、イソブタノール、イソプロパノール、アセトン、トルエン等が挙げられる。良溶媒と貧溶媒との混合溶剤を用いる場合、貧溶媒の比率は、0〜90重量%の範囲が好ましい。
フィルムFに対する溶剤の滴下処理は、インクジェット方式を用いたインクジェットヘッドを用いることが好ましい。インクジェット方式を用いることにより、溶剤の吐出液滴を小さくでき、かつ均一に散布することができる。なお、インクジェットヘッド方式には、加熱により管内のインクに気泡を発生させてインクを噴射するサーマル方式、電圧印加によるピエゾ素子(圧電素子)の変形を利用してインクを噴射するピエゾ方式などがあるが、どのような方式のものを用いてもよい。ここでは、例として、サーマル方式のインクジェットヘッドについて説明する。
図5(a)および図5(b)は、配向緩和処理装置20としてのインクジェットヘッド21の断面図および底面図をそれぞれ示している。インクジェットヘッド21は、基板22と、筐体23と、ヒーター24と、ヒーター電源25と、伝熱部材26とを有している。
筐体23は、基板22に貼り合わされて内部にインク室23aを形成するものである。この筐体23は、インク室23a内の溶剤を外部に(フィルムFに向かって)吐出するためのノズル孔27aが形成されたノズルプレート27を有している。また、筐体23には、図示しないタンクからインク室23aに溶剤を供給するための供給孔23bが形成されている。ヒーター24は、ヒーター電源25からの電力供給により発熱するものである。
ヒーター24にて発生した熱は、伝熱部材26を介して筐体23に伝達され、これにより、筐体23の内部の溶剤に気泡が発生する。この気泡がノズル孔27a近傍の溶剤を押すことで、溶剤が液滴28となってノズル孔27aから吐出され、フィルムFの方向に飛翔する。フィルムFに着弾した溶剤の液滴28は、周辺に濡れ広がり、フィルムFに湿潤していく。フィルムFが湿潤した領域では、分子の配向方向が不均一化されるため、分子の配向性が低下することになる。
溶剤がフィルムF上に滴下されてから、切断部材10によって切断を開始するまでの時間は、3秒以上であることが好ましく、5秒以上であることがより好ましい。上記時間が3秒よりも短い場合は、滴下した液が乾燥されず、切断部材10による切断時に樹脂(フィルムF)が変形してしまい、後の巻取工程で巻き不良を発生させる原因となる。
なお、図5(b)では、インクジェットヘッド21のノズル孔27aは、千鳥状、すなわち、フィルムFの搬送方向(長手方向)に2列設けられて、各列のノズル孔27aが幅手方向に半ピッチずれて形成されているが、ノズル孔27aは、搬送方向に3列以上設けられてもよく、また、搬送方向に平行に(幅手方向に並列に)設けられてもよい。また、インクジェットヘッド21とフィルムFとの距離は、0.2〜100mmであることが好ましい。
なお、ピエゾ方式のインクジェットヘッドでは、ピエゾ素子に印加する電圧を増減させることにより、液滴先端の速度V1を一般に0.1〜20m/sの範囲で制御できる。液滴先端の速度V1の好ましい範囲は、1〜20m/sであり、さらに好ましい下限は、5m/sである。また、ピエゾ方式における溶剤の吐出時間は、ピエゾ素子に印加する電圧の制御条件に応じて、3μs〜1msに設定されればよい。ピエゾ素子に印加する電圧の制御条件は、安定的に液滴を吐出できるように、波形制御条件、液滴の表面張力や粘度等に応じて設定される。また、ピエゾ素子の変形量を制御することで、液滴サイズを多様な大きさに制御することができる。
上述したインクジェットヘッド21は、多数のノズル孔27aをフィルムFの幅手方向全体にわたって(ライン状または千鳥状に)配置して、該インクジェットヘッド21を固定して溶剤を吐出するラインヘッド方式であるが、インクジェットヘッド21をフィルムFの幅手方向に移動させながら溶剤を吐出するシリアルヘッド方式であってもよい。本実施形態では、生産性の観点から、ラインヘッド方式が好ましい。
以上では、配向緩和処理として、加熱処理および溶剤塗布処理を例に挙げて説明したが、その他に、例えば、フィルムFの一部を加湿することによって配向を緩和させる加湿処理を用いることもできる。このような加湿処理は、特にフィルムFがセルロースエステルフィルムである場合に有効である。
以上では、フィルムFが長尺斜め配向フィルム単層で構成される場合について説明したが、フィルムFは、長尺斜め配向フィルムに長尺状の偏光フィルムが貼り合わされた積層フィルムであってもよく、また、この積層フィルムがさらに保護フィルムを含んでいてもよい。このような積層フィルムを長尺光学フィルムとして用いた場合でも、長尺光学フィルムの長尺斜め配向フィルムに対して、上述した本実施形態の配向緩和処理を行い、長尺光学フィルムを幅手方向に切断することにより、本実施形態と同様の効果を得ることができる。
<実施例>
以下、本実施形態における斜め配向フィルムの製造に関する具体例な実施例について、比較例も挙げながら説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。以下の実施例では、長尺フィルムとしての熱可塑性樹脂フィルムを成膜後、図2で示した製造装置1(図1参照)の延伸部5によって熱可塑性樹脂フィルムを延伸し、長尺斜め配向フィルムを作製した後、配向緩和処理装置20によって配向緩和処理を施し、切断部材10によって長尺斜め配向フィルムを切断して個々の斜め配向フィルムを製造した。以下、より具体的に説明する。なお、以下では、「部」あるいは「%」の表記を用いるが、特に断らない限り、これらは「質量部」あるいは「質量%」を表すものとする。
(シクロオレフィンフィルムの製造)
窒素雰囲気下、脱水したシクロヘキサン500部に、1−ヘキセン1.2部、ジブチルエーテル0.15部、トリイソブチルアルミニウム0.30部を室温で反応器に入れ混合した後、45℃に保ちながら、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン(ジシクロペンタジエン、以下、DCPと略記)20部、1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレン(以下、MTFと略記)140部、および8−メチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−ドデカ−3−エン(以下、MTDと略記)40部からなるノルボルネン系モノマー混合物と、六塩化タングステン(0.7%トルエン溶液)40部とを、2時間かけて連続的に添加し重合した。重合溶液にブチルグリシジルエーテル1.06部とイソプロピルアルコール0.52部を加えて重合触媒を不活性化し重合反応を停止させた。
次いで、得られた開環重合体を含有する反応溶液100部に対して、シクロヘキサン270部を加え、さらに水素化触媒としてニッケル−アルミナ触媒(日揮化学社製)5部を加え、水素により5MPaに加圧して撹拌しながら温度200℃まで加温した後、4時間反応させ、DCP/MTF/MTD開環重合体水素化ポリマーを20%含有する反応溶液を得た。濾過により水素化触媒を除去した後、軟質重合体(クラレ社製;セプトン2002)、および酸化防止剤(チバスペシャリティ・ケミカルズ社製;イルガノックス1010)を、得られた溶液にそれぞれ添加して溶解させた(いずれも重合体100部あたり0.1部)。
次いで、溶液から、溶媒であるシクロヘキサンおよびその他の揮発成分を、円筒型濃縮乾燥器(日立製作所製)を用いて除去し、水素化ポリマーを溶融状態で押出機からストランド状に押出し、冷却後ペレット化して回収した。重合体中の各ノルボルネン系モノマーの共重合比率を、重合後の溶液中の残留ノルボルネン類組成(ガスクロマトグラフィー法による)から計算したところ、DCP/MTF/MTD=10/70/20でほぼ仕込み組成に等しかった。この開環重合体水素添加物の、重量平均分子量(Mw)は31,000、分子量分布(Mw/Mn)は2.5、水素添加率は99.9%、Tgは134℃であった。得られた開環重合体水素添加物のペレットを、空気を流通させた熱風乾燥器を用いて70℃で2時間乾燥して水分を除去した。
次いで、前記ペレットを、コートハンガータイプのTダイを有する短軸押出機(三菱重工業株式会社製:スクリュー径90mm、Tダイリップ部材質は炭化タングステン、溶融樹脂との剥離強度44N)を用いて溶融押出成形してシクロオレフィンポリマーフィルムを製造した。押出成形は、クラス10,000以下のクリーンルーム内で、溶融樹脂温度240℃、Tダイ温度240℃の成形条件にて長尺の未斜め配向フィルムAを得た。未斜め配向フィルムAはロールに巻き取った。
上記にて得られたノルボルネン系樹脂の長尺の未斜め配向フィルムAを、本実施形態の製造装置1の延伸部5(図4等参照)により、以下に示す方法で延伸して、長尺斜め配向フィルムA’を得た。
まず、フィルムの繰り出し方向と巻き取り方向とがなす角度(旋回角)を47°とした。そして、フィルム繰り出し装置から送られてくる未斜め配向フィルムAの両端を、第1クリップ(レールの内周側)および第2クリップ(レールの外周側)で把持した。なお、未斜め配向フィルムAを把持する際には、第1、第2クリップのクリップレバーを、クリップクローザーにより動かすことにより未斜め配向フィルムAを把持する。また、クリップ把持時の際は、未斜め配向フィルムAの両端を同時に第1、第2クリップで同時に把持し、かつフィルムの横方向に平行な軸に対して、両端の把持位置を結ぶ線が並行となるように把持する。
次いで、把持した未延伸のフィルムを上記第1、第2クリップにより、加熱ゾーン内の予熱ゾーン、延伸ゾーンおよび熱固定ゾーンを通過させることにより加熱し、幅方向に延伸し、長尺斜め配向フィルムA’を得た。なお、加熱および延伸する際におけるフィルム搬送速度を10m/分とし、延伸温度を141℃とした。また、延伸前後におけるフィルムの延伸倍率を2倍とし、延伸後のフィルムの厚みが50μm、幅が1800mmとなるようにした。
以上の工程によって得られた長尺斜め配向フィルムA’を構成するシクロオレフィンポリマーフィルムのことを、COPフィルムとも称する。
(セルロースエステルフィルムの製造)
《糖エステル化合物1の合成》
以下の工程により、糖エステル化合物1を合成した。
撹拌装置、還流冷却器、温度計および窒素ガス導入管を備えた四頭コルベンに、ショ糖34.2g(0.1モル)、無水安息香酸180.8g(0.6モル)、ピリジン379.7g(4.8モル)を仕込み、撹拌下に窒素ガス導入管から窒素ガスをバブリングさせながら昇温し、70℃で5時間エステル化反応を行った。次に、コルベン内を4×102Pa以下に減圧し、60℃で過剰のピリジンを留去した後に、コルベン内を1.3×10Pa以下に減圧し、120℃まで昇温させ、無水安息香酸、生成した安息香酸の大部分を留去した。最後に、分取したトルエン層に水100gを添加し、常温で30分間水洗後、トルエン層を分取し、減圧下(4×102Pa以下)、60℃でトルエンを留去させ、化合物A−1、A−2、A−3、A−4およびA−5の混合物を得た。
得られた混合物をHPLCおよびLC−MASSで解析したところ、A−1が1.3質量%、A−2が13.4質量%、A−3が13.1質量%、A−4が31.7質量%、A−5が40.5質量%であった。平均置換度は5.5であった。このときのHPLC−MASSの測定条件は、以下の通りである。
1)LC部
装置:日本分光(株)製カラムオーブン(JASCO CO−965)、ディテクター(JASCO UV−970−240nm)、ポンプ(JASCO PU−980)、デガッサ−(JASCO DG−980−50)
カラム:Inertsil ODS−3 粒子径5μm 4.6×250mm(ジーエルサイエンス(株)製)
カラム温度:40℃
流速:1ml/min
移動相:THF(1%酢酸):H2O(50:50)
注入量:3μl
2)MS部
装置:LCQ DECA(Thermo Quest(株)製)
イオン化法:エレクトロスプレーイオン化(ESI)法
Spray Voltage:5kV
Capillary温度:180℃
Vaporizer温度:450℃
《エステル化合物1の合成》
1,2−プロピレングリコール251g、無水フタル酸278g、アジピン酸91g、安息香酸610g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.191gを、温度計、撹拌器、緩急冷却管を備えた2Lの四つ口フラスコに仕込み、窒素気流中230℃になるまで、撹拌しながら徐々に昇温した。15時間脱水縮合反応させ、反応終了後200℃で未反応の1,2−プロピレングリコールを減圧留去することにより、エステル化合物1を得た。エステル化合物1は、1,2−プロピレングリコール、無水フタル酸およびアジピン酸が縮合して形成されたポリエステル鎖の末端に安息香酸のエステルを有する。エステル化合物1の酸価は0.10、数平均分子量は450であった。
《微粒子添加液1の調整》
微粒子(アエロジル R972V 日本アエロジル(株)製)11質量部、エタノール89質量部をディゾルバーで50分間攪拌混合した後、マントンゴーリンで分散を行い、微粒子分散液1を調整した。
続いて、メチレンクロライド99質量部を入れた溶解タンクを十分攪拌しながら、微粒子分散液1、1質量部をゆっくりと添加した。更に、二次粒子の粒径が所定の大きさとなるようにアトライターにて分散を行った。これを日本精線(株)製のファインメットNFで濾過し、微粒子添加液1を調製した。
《主ドープの調整》
メチレンクロライド、エタノール、セルロースアセテートプロピオネート、下記の化合物(B)、前述した糖エステル化合物1、エステル化合物1、微粒子添加液1を下記記載の組成となるようドープ液を密閉容器に投入し、攪拌しながら溶解してドープ液を調製した。
メチレンクロライド 340質量部
エタノール 64質量部
セルロースアセテートプロピオネート(アセチル基置換度1.39、プロピオニル基置換度0.50、総置換度1.89) 100質量部
化合物(B) 5.0質量部
糖エステル化合物1 5.0質量部
エステル化合物1 2.5質量部
微粒子添加液1 1質量部
続いて、無端ベルト流延装置を用い、上記ドープ液をステンレススティールベルト支持体上に均一に流延した。ステンレススティールベルト支持体上で、流延(キャスト)したフィルム中の残留溶媒量が75%になるまで溶媒を蒸発させ、ステンレススティールベルト支持体上から剥離した。
剥離したセルロースエステルフィルムを、横延伸テンターにて幅方向に1.1倍延伸した。そのときの横延伸テンターオーブンの温度条件としては、予熱ゾーンは160℃、延伸ゾーンは165℃、保持ゾーンは172℃、冷却ゾーンは110℃に調整した。
次いで、フィルム両端部のテンタークリップ痕部をトリミングし、乾燥温度は130℃で、長尺フィルムを多数のロールを用いて乾燥ゾーン内を搬送させながら乾燥を終了させた後、巻取工程において巻回体として巻き取った。以上のようにして、ロール状の長尺フィルム(長尺フィルム原反)を得た。
上記にて得られたセルロース系樹脂の長尺フィルムを、図2に示した延伸部5を用いて斜め延伸し、長尺斜め配向フィルムB’を得た。このとき、フィルムの移動速度を10m/分、予熱ゾーンZ1の温度を187℃、延伸ゾーンZ2の温度を186℃、熱固定ゾーンZ3の温度を170℃、延伸倍率を2.0倍として、厚みが52μm、トリミング処理を施した後の最終的なフィルム幅が1800mmとなるようにした。それ以外は、上述したシクロオレフィンフィルムの製造方法と同様の条件で長尺斜め配向フィルムB’を製造した。
(ポリカーボネートフィルムの製造)
温度計、撹拌機、還流冷却器付き反応器(容器)に、まず、イオン交換水152400質量部、25質量%水酸化ナトリウム水溶液84320質量部を入れた。その後、前記容器に、HPLC分析で純度99.8質量%の9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(ビスクレゾールフルオレン)34848質量部、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)9008質量部、及びハイドロサルファイト88質量部を入れ、これらを前記容器内の液体に溶解させた。
その後、前記容器に、塩化メチレン178400質量部をさらに加えた後、撹拌下15〜25℃でホスゲン18248質量部を、60分間かけて吹き込んだ。ホスゲンの吹き込みが終了した後、前記容器内に、p−tert−ブチルフェノール177.8質量部を塩化メチレン2640質量部に溶解した溶液、及び25質量%水酸化ナトリウム水溶液10560質量部を加え、乳化させた。その後、トリエチルアミン32質量部を前記容器に加えて、28〜33℃で1時間撹拌した。そうすることにより、容器内の内容物が反応した。
反応終了後、生成物を塩化メチレンで希釈して水洗した後、塩酸酸性にして水洗し、水相の導電率がイオン交換水と殆ど同じになったところで、塩化メチレン相を濃縮、脱水してポリカーボネート濃度が20%の溶液を得た。この溶液から溶媒を除去して得たポリカーボネート(共重合体A)は、ビスクレゾールフルオレンとビスフェノールAとの構成単位の比がモル比で70:30であった(ポリマー収率97%)。また、このポリマーの極限粘度は、0.674であり、Tgは、226℃であった。
次に、エタノール4質量部含む、メチレンクロライドとエタノールとの混合溶媒75質量部に対して、前記ポリカーボネート25質量部を25℃で攪拌しながら溶解して、透明で粘ちょうなドープを得た。
このドープを、乾燥空気を送風して露点を12℃以下に制御したステンレスベルト上に流涎し、剥離した。そのときの残留溶媒濃度は、35質量%だった。その後、残留溶媒濃度が2質量%のとき、幅保持をして乾燥させた。その後、残留溶媒濃度が1質量%以下になるまで乾燥させた。そうすることによって、ポリカーボネートフィルム(長尺フィルムC)を得た。
次いで、把持した未延伸のフィルムを上記第1、第2クリップにより、加熱ゾーン内の予熱ゾーン、延伸ゾーンおよび熱固定ゾーンを通過させることにより加熱し、幅方向に延伸し、長尺斜め配向フィルムC’を得た。なお、加熱および延伸する際におけるフィルム搬送速度を10m/分とした。また、延伸前後におけるフィルムの延伸倍率を2倍とし、延伸後のフィルムの厚みが51μm、幅が1800mmとなるようにした。
以上の工程によって得られた長尺斜め配向フィルムC’を構成するポリカーボネートフィルムのことを、PCフィルムとも称する。
<実施例1>
実施例1では、配向緩和処理装置として、CO2レーザー光照射装置(波長10.6μm、レーザ光出力30W)を用い、COPフィルムからなる長尺斜め配向フィルムA’に対して、長手方向の一部でかつ幅手方向の全体にわたって、レーザー光照射による加熱を行い、長尺斜め配向フィルムA’の分子の配向を緩和させた。そして、長尺斜め配向フィルムA’において、配向緩和処理を行ってから(レーザー光の照射を開始してから)配向緩和が終了するまでに所定時間(例えば5分)を要する場合、実施例1では、配向緩和処理を行ってから上記所定時間内に(例えば10秒が経過する前に)、切断部材により、配向緩和処理された領域(レーザー光が照射された領域)を幅手方向に切断した。そして、切断されたフィルムを巻き取って、ロール状の斜め配向フィルムとした。
(円偏光板の作製)
次に、厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムを、一軸延伸し(温度110℃、延伸倍率5倍)、ヨウ素0.075g、ヨウ化カリウム5g、水100gからなる水溶液に60秒間浸漬し、次いでヨウ化カリウム6g、ホウ酸7.5g、水100gからなる68℃の水溶液に浸漬した。浸漬後のフィルムを水洗、乾燥し、偏光子を得た。
続いて、上記のように配向緩和処理されて切断された斜め配向フィルムを、ポリビニルアルコール5%水溶液を粘着剤として、上記偏光子の片面に貼合した。その際、偏光子の透過軸と斜め配向フィルムの遅相軸とが45°の向きになるように貼合した。そして、偏光子のもう一方の面に、アルカリケン化処理をしたコニカミノルタタックフィルムKC6UA(コニカミノルタオプト(株)製)を、同様に貼り合わせて長尺状の円偏光板(例えば長さ10m)を作製した。
<実施例2>
実施例2では、長尺斜め配向フィルムA’において、配向緩和処理を行ってから上記所定時間が経過した後に(例えば5分経過後に)、切断部材により、配向緩和処理された領域を幅手方向に切断し、ロール状の斜め配向フィルムを得た。それ以外は、円偏光板の作製方法も含めて、実施例1と同様である。
<実施例3>
実施例3では、配向緩和処理装置として図5(a)(b)と同様のインクジェットヘッドを用い、長尺斜め配向フィルムA’に対して、インクジェットヘッドから有機溶剤を滴下して配向緩和処理を行い、配向緩和処理を行ってから上記所定時間内にフィルムを切断した。それ以外は、円偏光板の作製方法も含めて、実施例1と同様である。このとき、滴下液(溶剤)としては、メチレンクロライドとメタノールとの混合溶液を用いた。また、インクジェットヘッドは、ノズル径が3.5μmのものを用いた。
<実施例4>
実施例4では、長尺斜め配向フィルムA’において、配向緩和処理を行ってから上記所定時間が経過した後に、切断部材により、配向緩和処理された領域を幅手方向に切断し、ロール状の斜め配向フィルムを得た。それ以外は、円偏光板の作製方法も含めて、実施例3と同様である。
<実施例5>
実施例5では、セルロースエステルフィルムからなる長尺斜め配向フィルムB’に対して、レーザー光照射による配向緩和処理を行い、配向緩和処理を行ってから上記所定時間内に、切断部材により、配向緩和処理された領域を幅手方向に切断した。それ以外は、円偏光板の作製方法も含めて、実施例1と同様である。
<実施例6>
実施例6では、長尺斜め配向フィルムB’において、配向緩和処理を行ってから上記所定時間が経過した後に、切断部材により、配向緩和処理された領域を幅手方向に切断した。それ以外は、円偏光板の作製方法も含めて、実施例5と同様である。
<実施例7>
実施例7では、配向緩和処理装置としてインクジェットヘッドを用い、長尺斜め配向フィルムB’に対して、インクジェットヘッドから有機溶剤を滴下して配向緩和処理を行い、配向緩和処理を行ってから上記所定時間内にフィルムを切断した。それ以外は、円偏光板の作製方法も含めて、実施例5と同様である。
<実施例8>
実施例8では、長尺斜め配向フィルムB’において、配向緩和処理を行ってから上記所定時間が経過した後に、切断部材により、配向緩和処理された領域を幅手方向に切断した。それ以外は、円偏光板の作製方法も含めて、実施例7と同様である。
<実施例9>
実施例9では、PCフィルムからなる長尺斜め配向フィルムC’に対して、レーザー光照射による配向緩和処理を行い、配向緩和処理を行ってから上記所定時間内に、切断部材により、配向緩和処理された領域を幅手方向に切断した。それ以外は、円偏光板の作製方法も含めて、実施例1と同様である。
<実施例10>
実施例10では、長尺斜め配向フィルムC’において、配向緩和処理を行ってから上記所定時間が経過した後に、切断部材により、配向緩和処理された領域を幅手方向に切断した。それ以外は、円偏光板の作製方法も含めて、実施例9と同様である。
<実施例11>
実施例11では、配向緩和処理装置としてインクジェットヘッドを用い、長尺斜め配向フィルムC’に対して、インクジェットヘッドから有機溶剤を滴下して配向緩和処理を行い、配向緩和処理を行ってから上記所定時間内にフィルムを切断した。それ以外は、円偏光板の作製方法も含めて、実施例9と同様である。
<実施例12>
実施例12では、長尺斜め配向フィルムC’において、配向緩和処理を行ってから上記所定時間が経過した後に、切断部材により、配向緩和処理された領域を幅手方向に切断した。それ以外は、円偏光板の作製方法も含めて、実施例11と同様である。
<比較例1>
比較例1では、COPフィルムからなる長尺斜め配向フィルムA’に対して、配向緩和処理を行うことなく、切断部材により、長尺斜め配向フィルムA’を幅手方向に切断し、ロール状の斜め配向フィルムを得た。そして、この斜め配向フィルムを用い、実施例1と同様の手法で円偏光板を作製した。
<比較例2>
比較例2では、セルロースエステルフィルムからなる長尺斜め配向フィルムB’に対して、配向緩和処理を行うことなく、切断部材により、長尺斜め配向フィルムB’を幅手方向に切断し、ロール状の斜め配向フィルムを得た。そして、この斜め配向フィルムを用い、実施例1と同様の手法で円偏光板を作製した。
<比較例3>
比較例3では、PCフィルムからなる長尺斜め配向フィルムC’に対して、配向緩和処理を行うことなく、切断部材により、長尺斜め配向フィルムC’を幅手方向に切断し、ロール状の斜め配向フィルムを得た。そして、この斜め配向フィルムを用い、実施例1と同様の手法で円偏光板を作製した。
<輝点の評価>
実施例1〜12、比較例1〜3にて得られた円偏光板を鏡の上に設置した。このとき、円偏光板の偏光子よりも斜め配向フィルムが鏡側となるように、円偏光板を設置した。そして、円偏光板に対して上方(鏡とは反対側)から光を当てて、反射光の漏れを示す輝点を目視にて観察した。このとき、輝点がなく、反射光の漏れがない場合は、全面均一な黒表示となる。
上記のような輝点観察を、実施例1〜12、比較例1〜3で得られた円偏光板10枚について繰り返し行い、輝点評価を以下の基準に基づいて行った。
A:10枚全ての円偏光板において、斜め配向フィルムの長手方向の先頭および最後尾に相当する部分で輝点が全く観察されなかった。
B:10枚中の1枚の円偏光板において、斜め配向フィルムの長手方向の先頭および最後尾に相当する部分で輝点が1〜3個観察された。
C:10枚中の2〜5枚の円偏光板において、斜め配向フィルムの長手方向の先頭および最後尾に相当する部分で輝点が1〜10個観察された。
D:10枚中の6〜9枚の円偏光板において、斜め配向フィルムの長手方向の先頭および最後尾に相当する部分で輝点が1〜15個観察された。
E:10枚全ての円偏光板において、斜め配向フィルムの長手方向の先頭および最後尾に相当する部分で輝点が観察された。
表1は、実施例1〜12および比較例1〜3の円偏光板について、輝点の評価の結果を示している。
表1より、比較例1〜3の円偏光板では、輝点評価がDまたはEであり、輝点が多く発生している。これは、円偏光板に用いられる長尺斜め配向フィルムの切断前に配向緩和処理が行われておらず、配向方向に裂けやすいという特性が残ったまま長尺斜め配向フィルムが幅手方向に切断されるため、切断時の配向方向への裂けによって切粉が発生しているためと考えられる。これに対して、実施例1〜12の円偏光板では、輝点評価がAまたはBであり、輝点の発生がほとんど抑えられている。これは、配向緩和処理によって長尺斜め配向フィルムの分子の配向性が低下し、この状態で長尺斜め配向フィルムを切断するため、切断時に配向方向への裂けが生じにくく、フィルムの裂けによる切粉の発生が抑えられているためと考えられる。
以上、実施例1〜12によれば、長尺斜め配向フィルムに対して配向緩和処理を行い、配向緩和処理が施された領域を切断部材によって幅手方向に切断することにより、輝点の原因となる切粉の発生を抑えることができる。
なお、各実施例では、長尺斜め配向フィルムを単体で幅手方向に切断しているが、長尺斜め配向フィルムに長尺偏光フィルムを貼り合わせて長尺状の円偏光板を先に形成し、この円偏光板を幅手方向に切断しても、上記と同様の評価結果が得られることがわかった。
なお、各実施例では、長尺斜め配向フィルムとして、シクロオレフィンポリマーフィルム、セルロースエステルフィルム、ポリカーボネートフィルムを用いているが、他の樹脂材料(例えばアクリル)からなるフィルムを用いた場合でも、配向緩和処理を行った後にフィルムを切断することで、上記と同様の評価結果が得られることがわかった。