JP2014196997A - ミュオン照射による放射性物質およびその製造方法 - Google Patents

ミュオン照射による放射性物質およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 原子炉を用いず放射性物質を提供する。
【解決手段】 本発明のある実施形態においては、負ミュオンをターゲット核種に入射させてミュオン原子核捕獲反応を引き起こすことにより得られた第1放射性核種、または、該第1放射性核種から放射性崩壊を経て得られる子孫核種の少なくとも1種である第2放射性核種、のうちの少なくともいずれかを備える放射性物質が提供される。また、本発明のある実施形態においては、負ミュオンをターゲット核種に入射させてミュオン原子核捕獲反応を引き起こすことにより第1放射性核種を得るミュオン照射工程を含む上記放射性物質の製造方法が提供される。
【選択図】なし

Description

本発明はミュオン照射により得られる放射性物質およびその製造方法に関する。さらに詳細には本発明は、負ミュオンを照射して生じさせたミュオン原子核捕獲反応(nuclear muon capture reactions, NMCR)によって得られる放射性物質およびその製造方法に関する。
従来、量子力学的な確率に従って寿命が定まる放射性同位体(RI)つまり放射性核種を利用して、原子核の放射性崩壊や原子核反応に伴って放出される放射線を利用する技術が各種の用途に利用されている。その用途の典型例の一つが放射性核種を構造の一部に含む物質すなわち放射性物質を利用する核医学である。核医学では、生物体内(in vivo)でのSPECT(Single Photon Emission Computed Tomography、単一光子放射断層撮影)、PET(Positron Emission Tomography)、およびプラナー画像といった放射線を利用した画像化を行なうイメージングが行われる。また核医学では、RI内服薬からの放射線照射を利用する治療や、トレーサーを用いるものの画像化を伴わない生物体外(in vitro)での核医学検査も行われる。これらの核医学の検査、診断、および治療といった分野においては放射性物質とその放射性物質から放出される放射線とが重要な役割を果たしている。核医学以外にも、生物体内(in vivo)での非侵襲でのリアルタイム画像化等の研究の目的のために放射性物質が利用される場合がある。さらに、これら以外にも、種々の分野において放射性物質が利用されている。
これらの放射性物質は、その化学構造に含まれる放射性核種を同一の原子番号の安定同位体により置換した放射性を示さない化合物(非放射性物質)との間で化学的にほとんど区別不可能な振る舞いを示す。その振る舞いが、例えば特定の病巣に集積(accumulate)する、という生体内での作用であれば、生物(ヒトを含む)個体に投与しトレーサーとして放射線の放出源の位置分布や臓器からの代謝量を示す能力を利用して核医学における各種の検査が行われ、投与された個体内の目的の位置付近で放射線を放出する能力を利用して内部照射による治療を行なうことができる。例えば検査としてイメージングを行なう場合、その放射性物質が集積する性質をもつ組織(例えば病巣)の有無、位置、広がりを三次元画像として取得することが可能となる。また、放射線治療を行なう場合、目的の位置(例えば病巣)付近において放射線を放出させることが可能となる。核医学以外の用途においても、非放射性物質と放射性物質との化学的な同一性と、放射線を放出する能力とが、目的の用途に利用される。放射性物質を製造する工程を大きく分ければ、放射性核種に放射性を生じさせる状態にしたり、何らかの手法によって、人工放射性核種または天然放射性核種を生じさせたり、濃縮する工程と、放射性物質の化学構造(放射性核種単体を含む)を目的の構造とする工程と、の二つの工程に区別することができる。本出願においては、前者を含む核反応を含む工程を放射性核種の製造という。なお、本出願にて説明する放射性核種の製造は、従来の放射性核種の製造工程と同様に、化学的処理を含むことができる。
各用途の観点から放射性物質において重要な性質の一つが原子核崩壊の寿命である。寿命は、放射性核種とその原子核の状態ごとに確率的寿命として定まり、そのための指標として半減期が通常用いられる。上記各用途においては、それぞれの用途に適する半減期をもつ放射性核種が選択される。
放射性核種の従来の製造手法は、サイクロトロンまたは原子炉を利用して荷電粒子や中性子を照射したり、核分裂生成物からの抽出を行なうことにより行なわれる。これらのうち、サイクロトロンを利用する製造手法では、サイクロトロンにより非常に高いエネルギーに加速された陽子、重水素核、あるいはα粒子(He核)といった荷電粒子が利用される。サイクロトロンで荷電粒子を照射して製造される放射性核種は、陽子数とのバランス上、中性子が少ない核種、いわば相対的に中性子の不足した核種であり、β崩壊や、EC崩壊(電子捕獲崩壊)をおこす核種が多い。
これに対し原子炉を利用する製造手法では、例えばターゲットを原子炉中の中性子に暴露させ、その後の照射済みターゲットや原子核分裂生成物から有用な核種のみを化学的に分離することにより行なわれる。例えば99mTcを含む放射性物質は使用直前にミルキングと呼ばれる手法により生成され、そのミルキングのための装置(ジェネレータ、またはカウ)には、99mTcを娘核であるとして放射性崩壊により生成するための親核となる99Moが、適当な化学構造の放射性物質(例えば、99MoO 2−)として供給される。上記放射性物質は、ジェネレータ内のカラムにおいて吸着剤に保持されている。その状態で娘核の半減期の数倍程度の時間が経過すると、親核から放射性崩壊により得られた娘核を含む放射性物質(例えば、99mTcO )は、カラム内で放射平衡状態に近い状態となって維持されている。これは、娘核である99mTcの半減期(6.02時間)は親核である99Moの半減期(66.0時間)より十分に短いためである。ミルキングでは、放射平衡状態において娘核を含む放射性物質(99mTcO )は吸着能の違いを利用して、生理的食塩水などに選択的に溶出させる。ミルキングのために供給される99Moは、原子炉中において、高濃縮ウラン(235Uが80%〜90%程度の濃縮度ウラン、以下「HEU」という)の核分裂生成物から抽出されて製造される(以下「核分裂法」という)。一般に原子炉を利用して製造される放射性核種は、陽子数とのバランス上、中性子が過剰な核種、すなわち相対的に中性子に富んだ核種であり、β崩壊をおこす核種が多い。
上述したように互いに補完関係となるサイクロトロンおよび原子炉により製造される放射性核種のうち、特に原子炉を利用する放射性核種は、供給体制が必ずしも万全とはいえない。例えば、核分裂法により放射性核種を安定して製造するためには原子炉を長期間稼働させなくてはならず、放射性核種の製造を手がけている機関は5機関の研究炉に限定される(カナダ・NRU炉、オランダ・HFR炉、ベルギー・BR2炉、フランス・OSIRIS炉、南ア・SAFARI−1炉、およびオーストラリア・OPAL炉)。実際にも日本国は、自国内にて消費される99mTc(99Mo)の供給(以下、背景技術の欄においては単に「99Moの供給」と記す)をヨーロッパやカナダの原子炉に依存している。ところが、放射性核種の製造のために利用されている上記原子炉はすべて40年以上稼働しており、安定的な稼働体制を維持し続けることが難しくなりつつある。2007年および2009年にはカナダ原子力公社の原子炉(NRU炉)がトラブルにより停止し、99Moが一時的に供給されなくなった。なお、NRU炉の後継原子炉の計画をカナダ政府が放棄しており、この状況は改善される見込みはほとんどない。また2010年には、アイスランドの火山噴火による航空輸送の停滞のために、ヨーロッパから日本への99Moの供給が大きな影響を受けた。
日本の3倍以上もの99Mo(99mTc)を消費するアメリカ合衆国においても事情は類似している。合衆国にて消費される99Moはカナダにおいて製造される。ところが、その原料となるHEUは、合衆国以外に輸出される99Moのための分量も含めて、合衆国から供給されている。しかし、核関連物質の拡散防止(以下「核不拡散」と略記する)の観点からHEUの合衆国からの輸出は規制されつつある。現状では、99Moの供給という医学的利用を理由の一つとしてHEUが合衆国からカナダに輸出されているものの、この措置は例外的な取り扱いに過ぎない。今後継続的にHEUがカナダへ供給されることは保証されておらず、合衆国以外に供給されるものも含めて、99Mo(99mTc)を製造するためのHEUがカナダにおいて安定して確保されない懸念がある。なお、HEUに代えて低濃縮ウラン(235U20%程度の濃縮度ウラン、以下「LEU」という)を原料にすることも検討されている。ところが、LEUを原料にする場合には、239Puの生成量がHEUより多く、核不拡散上の懸念がより強くなる。
また、現在の供給上の不安定さや今後の供給上の懸念に対処すべく、日本においては、例えばJAEA(独立行政法人日本原子力研究開発機構、日本)が原子炉からの中性子を利用して99Moを製造する手法の確立を目指している。JAEAでは、モリブデンMoの天然原料に原子炉中での中性子を利用することにより、98Mo(n,γ)99Mo反応、つまり、98Mo元素と中性子nから99Moとγ線を生成する中性子捕獲反応によって99Moを製造する手法(中性子放射化法)が検討されている。
JAEAはさらに、原子炉を利用せず、加速器を利用した手法についても開発を進めている。加速器を利用する手法では、100Mo(n,2n)99Moという反応、つまり、濃縮した100Moに中性子を加速して衝突させて99Moを生成する反応が利用される。また、ターゲットの100Moから、生成後の99mTcを分離または抽出を行なう手法の開発が進められている。世界的に見ると100Moに陽子pを衝突させて100Mo(p,2n)99mTc反応や100Mo(p,p n)99Mo反応で99mTcや99Moを生成する方法や、100Moに二重陽子dを衝突させて100Mo(d,p 2n)99Mo反応で99Moを生成する方法の開発が進んでいる。また、100Moに光子を吸収させて100Mo(γ,n)99Mo光誘起原子核反応で99Moを生成する計画や、LEU標的使用を目指して、光誘起核分裂反応235U(γ,fission)99Moおよび238U(γ,fission)99Mo反応で99Moを生成する計画が進行中である。
上述したもののうち核医学による治療に特に利用される放射性核種が、β線やα線を放射する放射性核種である。これらの核種を例えばペプチドやモノクローナル抗体と結合させ生体に投与することにより生体中のがん細胞に近接させることができれば、その位置から放射線を放出させことができる。β線やα線を放射する放射性核種は高い治療効果を期待できることからRI標的療法(RI標的抗体療法を含む)に用いられており、特にα線を利用するRI標的療法は、TAT(targeted alpha therapy、またはtargeted alpha-radionuclide therapy)とも呼ばれている。RI標的療法への適用においてα線は、β線とは異なる性質を示す。RI標的療法で利用されるα線やそれを放出する核種の代表的な4つの性質は、第1に、短い飛程で高いLET(線エネルギー付与)が得られることである。この性質により、近隣の正常細胞への放射線損傷を防ぎつつ腫瘍細胞に高い選択性をもって放射線の作用を及ぼすことができる。第2の性質は、α線ではDNAの二重鎖の切断が生じやすく高いRBE(生物学的効果比)を示すことである。第3の性質は、酸素増感比(OER)が低く酸素が少ない細胞でも有効性が落ちにくいことである。そして第4の性質は、α放射性の核種それ自体やその核種が属する懐変系列の他の核種のうちに、γ線を放出する核種があることである。放出されるγ線をSPECT等で検出すれば、薬剤の集積分布や移動過程(体外排泄等)をイメージング等により観察することができ有用である。ただし、RI標的療法に利用されるβ放射性核種にもγ線を放出する核種が含まれており、この性質はα線放出核やα線のRI標的療法のみに認められるとは限らない。これらの性質が注目されてTATの臨床適用が進められている。例えば、ラジウム−223(223Ra)にて標識される塩化ラジウム−223(Xofigo(登録商標)、(別名Alpharadin)、Algeta社(ノルウェー))は、フェーズIII臨床試験において、骨移転を有する去勢抵抗性(ホルモン療法抵抗性)前立腺癌の患者の全生存期間を有意に延長することが確認され、2013年5月にFDA(米国食品医薬品局)により承認(approval)を得ている。
このような用途を有するα放射性核種は、供給体制の整備が求められている。例として227Acを取り上げると、現在227AcはOak Ridge National Laboratory (ORNL、アメリカ合衆国)およびInstitute for Transuranium
Elements in Karlsruhe (ITU、ドイツ)等で製造されている。その製造方法は、235Uからの懐変系列核種の崩壊生成に加えて、226Ra(n,γ)227Ra反応で生成された227Raから、順次、227Ac、227Th、そして223Raを製造する手法である。日本国内では、227Thおよび223Raが、JAEA、東北大学、および京都大学(いずれも日本)にて提供されている。また211Atの場合は、大阪大学および放射線医学総合研究所(いずれも日本)において、209Bi(α,2n)211At反応を利用し提供されている。さらに、225Acの場合は、ORNLとITUの2機関において237Npからの懐変系列核種の崩壊生成により225Acが製造されている。加えて加速器を利用して225Acを製造する手法も研究されている。例えば、226Ra(p,2n)225Ac反応が上記ITUおよびオーストラリアにて、232Th(p,X)225Ac反応がLos Alamos National Laboratory
(LANL、アメリカ合衆国)にて研究されている。また、226Ra(γ,n)225Raや226Ra(n,2n)225Raの核反応により得た225Raを崩壊させて225Acを得る手法も検討されている。
オンライン、http://nectar.nd.rl.ac.uk/en/facility/rikenmuon.html(最終確認:2013年2月26日) "Изотопы : Свойства Получение Применение", Под редакциейВ.Ю. Баранова, ИздAT,Москва, 2000 ([in Russian] "Isotopes: Properties, Production, Application",edited by V.Yu.Baranov, IzdAT, Moscow, 2000), p. 644, 646。非特許文献2のこれらの頁の表は、日本語により、オンライン、http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=14-06-01-22 の表2〜4にて提供されている(最終確認:2013年2月26日)。 T. Matsuzaki, K. Ishida, K.Nagamine, I. Watanabe, G.H. Eaton, W.G. Williams, "The RIKEN-RAL pulsed muonfacility", Nucl. Instr. and Meth. A465 (2001) 365.
上記従来の放射性核種のいくつかの製造手法のうち、原子炉を利用する手法は、原子炉を利用するために避けがたい問題を内在させている。まず、原子炉の稼働を前提としていることそれ自体が供給の継続性にとっての足かせとなる。さらに核分裂生成物から放射性核種を抽出するための安全性の確保のためのコストが高い。例えば核分裂生成物からの放射性核種の抽出処理では、99Mo以外の放射性核種が大量に混在した使用済みHEUを扱う必要があり、高線量下での分離・抽出作業が強いられる。さらに、原子炉を稼働し続けることは長寿命の放射性廃棄物が排出され続けることを意味している。しかも、上述したようなHEU等の原材供給、およびLEUにおけるプルトニウムの副生成、といった核不拡散の観点での懸念も拭いきれない。さらには、このような処理を行いうる施設は全世界中をみても限定されており、放射性核種を例えば医学的な用途に利用するとしても、安定した供給体制を維持することは必ずしも容易ではない。
上記従来の放射性核種の製造手法のうち加速器により中性子や陽子を照射するものではこれらの問題からは解放されるものの、量や質の面で十分な放射性核種の製造手法は確立されていない。上記(n,γ)、(n,2n)といった反応を利用する限り、中性子吸収断面積のために、目的とする核種(例えば99Mo)以外の放射性核種も生成されてしまう。また、反応断面積が小さいために放射性核種の製造効率が低く、必要量を製造するために長時間を要する。特に中性子や陽子を照射して生成した99Moを100Moから分離したり抽出しようとすると、化学的性質の差がほとんどない複数の同位体同士を分離する工程が必要となり、困難が予想される。
さらに、TAT等を含む放射線治療などの核医学用途のためにα放射性核種を活用するためには、α放射性核種を安定的に製造したり供給したりする体制が不可欠となる。放射性医薬品を製造する上でα放射性核種の入手は必須である。
本発明は、上記いずれの放射性核種の製造手法とも異なる新規な放射性核種の製造手法を提供する。これにより本発明は、放射性核種を一部に含む放射性物質の安定的な供給や、供給可能な放射性核種の増大に貢献するものである。
本願の発明者は、原子炉における核分裂生成物の生成や、原子炉における中性子の照射、加速器による中性子または陽子の衝突、という従来の放射性核種の製造手法の上記課題を克服し、またはそれらと比肩しうる手法を探索した。そして負ミュオンによる核反応が、放射性物質や放射性核種のための製造手法として、新規かつ有力な手法であると確信するに至った。
すなわち、本発明のある態様においては、負ミュオンをターゲット核種に入射させてミュオン原子核捕獲反応を引き起こすことにより得られた第1放射性核種、または、該第1放射性核種から放射性崩壊を経て得られる子孫核種の少なくとも1種である第2放射性核種、のうちの少なくともいずれかを備える放射性物質が提供される。
また、本発明のある態様においては、負ミュオンをターゲット核種に入射させてミュオン原子核捕獲反応を引き起こすことにより第1放射性核種を得るミュオン照射工程を含んでおり、製造される放射性物質が、該第1放射性核種、または、該第1放射性核種から放射性崩壊を経て得られる子孫核種の少なくとも1種である第2放射性核種、のうちの少なくともいずれかを有しているものである、放射性物質の製造方法が提供される。
負ミュオンとは、レプトンの一種である素粒子である。本発明のいずれかの態様においては、負ミュオンをターゲット核種に入射させてミュオン原子核捕獲反応を引き起こす。ミュオンそれ自体およびミュオン原子核捕獲反応(NMCR)については、実施形態の欄において詳述する。
子孫核種とは、1段階以上の放射性崩壊を経た放射性を示す核種である。典型的には親核から何らかの放射性崩壊により生成された娘核や、さらにその娘核から生成された孫核を含む。本発明のいずれの態様においても、その世代数は限定されない。この子孫核種が生成される放射性崩壊は、例えばネプツニウム系列、トリウム系列、およびアクチニウム系列などのように、複数の放射性核種を順次に生成する放射性崩壊の系列(崩壊系列)も含んでいる。
放射性核種とは、放射性を示す原子核を、必要に応じ核スピンによる状態まで含めて区別して特定するための用語である。本出願において特に第1放射性核種、第2放射性核種といった場合、第1放射性核種はミュオン原子核捕獲反応により直接生成される放射性核種を指している。これに対し、第2放射性核種は、必要に応じ核スピンによる状態まで含めて区別した場合に第1放射性核種とは別のものとなる核種である。第2放射性核種は、それ自体も放射性を示し、第1放射性核種からみると、子孫核種の少なくとも1種となる。なお、子孫核種の定義を適用すれば、第2放射性核種に分類されるべき核種からさらに放射性崩壊により得られる娘核も第2放射性核種に分類されるべきである。
放射性物質とは、放射性核種を含む任意の形態の物質である。その形態の典型的な化学形を示せば、放射性核種単体、放射性核種を化学構造の一部に含む無機有機を問わない化合物(放射性化合物)、および放射性核種または放射性化合物と会合した会合体、ならびにこれらの電離した陽イオンまたは陰イオンなどである。また、放射性物質の物理的形態も特に限定されず、固体、液体、気体のみならず、超臨界流体やプラズマ、希釈物を含めて任意の物理的形態となっていてもよい。本出願における放射性物質の物理的形態は、結晶、非晶性固体、イオン性結晶、分子性結晶、粉体、水溶液、非水溶液、溶液中のイオン、錯体、会合体、低分子、高分子、有機化合物、無機化合物、といった、物質が取りうるすべての物理的形態をとることができる。
本発明のいずれかの態様においては、従来は放射性物質の製造のために活用されてこなかったミュオン原子核捕獲反応により放射性核種を製造することにより、そのような放射性核種を含む放射性物質を製造することが可能となる。また、本発明のいずれかの態様においては、原子炉を稼働させなくては入手が難しかった放射性物質の新たな製造方法が提供され、放射性物質の供給体制の整備および入手性が改善される。さらに、本発明のいずれかの態様は、従来は供給が難しかった放射性物質の供給を可能にするものである。
800MeV陽子ビームラインに設置されているミュオン照射系100を示す平面配置図である。 ミュオン原子軌道を模式的に示す概念図である。 縦軸に原子番号Z、横軸に中性子数を取った核図表の原子核N付近を拡大して示す説明図である。 核図表の54Mn付近の部分を抽出したものである。 ミュオンを利用して54Mnを製造する際に利用される核反応の形式と、Mnの同位体の放射線に関する性質を摘記した、54Mnを生成するための核反応と生成される可能性のある同位体を説明する説明図である。 99mTcを含む質量数A=99の核種間の崩壊図式である。 Ruの天然存在比と、Tcの複数の同位体から始まる核の崩壊の態様とを摘記した説明図である。 99mTcについての情報を摘記する説明図である。 99Tc付近の核図表である NMCRにより固体原料から99mTcを製造する製造プラントの概略構成を示す説明図であり、Tcの昇華性および水溶性を利用するものである。 NMCRにより固体原料から99mTcを製造する製造プラントの概略構成を示す説明図であり、Tcの昇華性を利用するものである。 NMCRにより液体原料を採用して99mTcを製造する製造プラントの概略構成を示す説明図である。 NMCRによりガス原料から99mTcを製造する製造プラントの概略構成を示す説明図である。 99mTcのバッチ製造工程により99mTcを製造する処理の概略を示す説明図である。 99Moを生成する核反応と生成される可能性のあるNbの同位体を説明する説明図である。 99Mo付近を拡大して示す核図表である。 バッチ製造工程を採用するNMCRによって99Moを製造する処理の概略を示す説明図である。 ターゲット原料を固体原料としてMoO、MoOの固形物や粉末を採用した場合に、昇華性と水溶性を利用して99mTcを製造する製造プラントの概略構成を示す説明図である。 ターゲット原料を固体原料としてMoO、MoOの固形物や粉末を採用した場合に、昇華性を利用して99mTc製造する製造プラントの概略構成を示す説明図である。 ターゲット原料として水溶液を採用した場合に99mTcを製造する製造プラントの概略構成を示す説明図である。 ターゲット原料として水溶液を採用した場合に99Nbを回収することにより、実質的に99Moを製造する製造プラントの概略構成を示す説明図である。 18Fについての情報を摘記する説明図である。 32Pおよび33Pについての情報を摘記する説明図である。 35Sについての情報を摘記する説明図である。 45Caについての説明をまとめた特性説明図である 51Crについての情報を摘記する説明図である。 59Feについての情報を摘記する説明図である。 64Cuおよび67Cuについての情報を摘記する説明図である。 67Gaおよび68Gaについての情報を摘記する説明図である。 85mKrについての情報を摘記する説明図である。 86Rbについての情報を摘記する説明図である。 89Srについての情報を摘記する説明図である。 88Y、90Y、および91Yについての情報を摘記する説明図である。 103Pdについての情報を摘記する説明図である。 111Inおよび113mInについての情報を摘記する説明図である。 117mSnについての情報を摘記する説明図である。 123Iおよび125Iについての情報を摘記する説明図である。 131Iおよび132Iについての情報を摘記する説明図である。 133Xeについての情報を摘記する説明図である。 139Ceおよび141Ceについての情報を摘記する説明図である。 153Smについての情報を摘記する説明図である。 186Reおよび188Reについての情報を摘記する説明図である。 201Tlについての情報を摘記する説明図である。 24Naについての情報を摘記する説明図である。 30Pについての情報を摘記する説明図である。 38Clおよび39Clについての情報を摘記する説明図である。 37Arおよび41Arについての情報を摘記する説明図である。 42Kおよび43Kについての情報を摘記する説明図である。 47Scについての情報を摘記する説明図である。 48Vについての情報を摘記する説明図である。 52Mnについての情報を摘記する説明図である。 56Mnについての情報を摘記する説明図である。 57Coについての情報を摘記する説明図である。 69mZnについての情報を摘記する説明図である。 72Asについての情報を摘記する説明図である。 74Asについての情報を摘記する説明図である。 75Seについての情報を摘記する説明図である。 77Brについての情報を摘記する説明図である。 82Brについての情報を摘記する説明図である。 81Rbについての情報を摘記する説明図である。 87mSrについての情報を摘記する説明図である。 94mTcについての情報を摘記する説明図である。 95mTcおよび97mTcについての情報を摘記する説明図である。 103Ruについての情報を摘記する説明図である。 109Pdについての情報を摘記する説明図である。 111Agについての情報を摘記する説明図である。 112Agおよび113Agについての情報を摘記する説明図である。 115Cdについての情報を摘記する説明図である。 115mInについての情報を摘記する説明図である。 159Gdについての情報を摘記する説明図である。 165Dyについての情報を摘記する説明図である。 166Hoについての情報を摘記する説明図である。 169Erについての情報を摘記する説明図である。 170Tmについての情報を摘記する説明図である。 175Ybについての情報を摘記する説明図である。 177Luについての情報を摘記する説明図である。 194Irについての情報を摘記する説明図である。 198Auおよび199Auについての情報を摘記する説明図である。 203Hgについての情報を摘記する説明図である。 22Naについての情報を摘記する説明図である。 31Siについての情報を摘記する説明図である。 38Kについての情報を摘記する説明図である。 47Caについての情報を摘記する説明図である。 55Coについての情報を摘記する説明図である。 65NIについての情報を摘記する説明図である。 61Cuについての情報を摘記する説明図である。 62Cuについての情報を摘記する説明図である。 71mZnについての情報を摘記する説明図である。 72Gaおよび73Gaについての情報を摘記する説明図である。 75Geについての情報を摘記する説明図である。 76Brおよび83Brについての情報を摘記する説明図である。 80mBrおよび85Brについての情報を摘記する説明図である。 83Rbについての情報を摘記する説明図である。 84Rbについての情報を摘記する説明図である。 89Zrについての情報を摘記する説明図である。 95Zrについての情報を摘記する説明図である。 90Nbについての情報を摘記する説明図である。 92mNbについての情報を摘記する説明図である。 95mNbについての情報を摘記する説明図である。 110Inについての情報を摘記する説明図である。 119mSnについての情報を摘記する説明図である。 121Snおよび123mSnについての情報を摘記する説明図である。 121Teについての情報を摘記する説明図である。 125mTeについての情報を摘記する説明図である。 127mTeについての情報を摘記する説明図である。 129mTeについての情報を摘記する説明図である。 124Iについての情報を摘記する説明図である。 126Iについての情報を摘記する説明図である。 133Iについての情報を摘記する説明図である。 127Xeについての情報を摘記する説明図である。 131mXeについての情報を摘記する説明図である。 135Xeについての情報を摘記する説明図である。 167Tmについての情報を摘記する説明図である。 176mLuについての情報を摘記する説明図である。 181Hfについての情報を摘記する説明図である。 191Osおよび191mIrについての情報を摘記する説明図である。 192Irについての情報を摘記する説明図である。 195mPtおよび197Ptについての情報を摘記する説明図である。 195Auについての情報を摘記する説明図である。 196Auについての情報を摘記する説明図である。 ネプツニウム系列の崩壊系列を示す説明図である。 トリウム系列の崩壊系列を示す説明図である。 アクチニウム系列の崩壊系列を示す説明図である。 226Raターゲットと232Thターゲットとによりα放射性核種を製造する際のNMCRの様式と核図表の範囲を摘記した説明図である。 226Raをターゲット核種として各質量数のFr同位体をNMCRにより生成する概要を摘記する説明図である。 232Thをターゲット核種として各質量数のAc同位体をNMCRにより生成する概要を摘記する説明図である。 イオン分離交換法を利用してα放射性核種を製造する製造プラント2700の概略構成を示す説明図である。 イオン分離交換法を利用してα放射性核種を製造する製造プラント2800の概略構成を示す説明図である。
以下、本発明に係る放射性物質の製造に関する実施形態を図面に基づき説明する。当該説明に際し特に言及がない限り、全図にわたり共通する部分または要素には共通する参照符号が付されている。なお、以下の具体例、適用例、各論に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順、要素やそれらの具体例は本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下の具体的記載内容のみに限定されるものではない。
[1 原理]
まず、本実施形態において利用される負ミュオンとミュオンによる核反応である原子核捕獲反応とについて説明する。
[1−1 ミュオンの性質と従来の用途]
ミュオンはレプトンに分類される素粒子であり、その点では電子の仲間といえる。ミュオンは正または負のいずれかの電荷素量の電荷を必ず持ち、それぞれ、正ミュオン(μ)と負ミュオン(μ)と呼ばれる。ミュオンは、例えばカーボンに陽子を照射してパイオン(π中間子)を一旦生成し、そのパイオンを崩壊させて生成される。
正ミュオンμおよび負ミュオンμは、正パイオンπおよび負パイオンπから、次の様式に従って生成される。
つまり、正パイオンπは正ミュオンμとミューニュートリノに、また、負パイオンπは負ミュオンμと反ミューニュートリノに、それぞれ崩壊する。その際の寿命は正パイオンおよび負パイオンともにτ=26nsecである。
[1−2 ミュオンの詳細]
[1−2−1 ミュオンの性質]
式1および2のようにして生成されるミュオンは、質量が陽子の約1/9つまり電子の約207倍である。ミュオン自体も崩壊し、正ミュオンからは、陽電子、電子ニュートリノ、および反ミュオンニュートリノが、また負ミュオンからは、電子、反電子ニュートリノ、およびミュオンニュートリノが、それぞれ生成される。ミュオン自体の崩壊の様式は、
と記される。正ミュオンおよび負ミュオンはともにτ=2.2μsecの寿命を持つ。
正ミュオンはパイオンから生まれる時にスピン(ミュオンスピン)が100%揃っている。また、正ミュオンは、式3に従って崩壊するまでの間、あたかも“軽い陽子”であるかのように振る舞う。これらの性質は、物質中の局所位置での磁場の大きさやその揺らぎを高感度に観測するためにも利用される。特にミュオンスピンは、その時間的変化を測定することにより、物質の性質を調べるために利用される。この手法は、ミュオンスピン回転、緩和、共鳴法(μSR法)とも呼ばれ、新機能物質等の物性研究に応用されている。
これに対し、本出願にかかる発明において核反応のために利用される負ミュオンは、式4に従って崩壊するまでの間、あたかも“重い電子”であるかのように振る舞う。例えば、負ミュオンは物質中において、正の電荷をもつ原子核のポテンシャルに従う軌道(ミュオン原子軌道)に束縛され、通常の原子の207分の1の直径を有するミュオン原子(またはミュオニック原子)を形成する。ミュオン原子となる際には、電子の特性X線と同様の機構によりX線(ミュオン原子X線)を放射する。ただし、そのミュオン原子X線のエネルギーは電子の同形式の遷移の場合の207倍である。負ミュオンと原子核に関係するこれらの性質は、ミュオン触媒d−t核融合研究、原子核物理研究、非破壊元素分析への応用研究に利用されている。
[1−2−2 負ミュオンの生成]
式2に示すように、負ミュオンは負パイオンから生成される。この負パイオンは、加速器により加速した陽子をパイオン生成ターゲット(典型的にはカーボンターゲット)に照射することにより生成される。この負パイオンから負ミュオンを生成するためには、式2のパイオンの寿命τ=26nsecを目安としてある程度の時間を経過させればよい。そのためには、負パイオンを、超伝導マグネットの作るソレノイド磁場に巻き付くようならせん軌道を飛行させる。例えば、英国の国立ラザフォード・アップルトン研究所(Rutherford Appleton Laboratory、RAL)では、この処理により高い強度のミュオンビームを生成することができる(例えば、非特許文献1および非特許文献3参照)。
図1は、英国RALにおいて、800MeV陽子ビームラインに設置されているミュオン照射系100を示す平面配置図である。陽子加速ビーム系102から加速された陽子がパイオン生成ターゲット(カーボンターゲット)104Aに入射される。そこで生成した正負のパイオンは、パイオン入射系104Bによって負パイオンのみが選択されて超伝導電磁石106の作るソレノイド磁場に巻き付きながら飛行する。その飛行中に負パイオンから生まれた負ミュオンは、キッカー電磁石108A、セプタム電磁石108B、静電粒子分離器108Cにてミュオンパルスが選別・整形される。その後、ポートP1〜P4の各ミュオンポートにて、様々な速度(すなわち様々なエネルギー)の負ミュオンが取り出される。なお、パイオンは、パイオン生成ターゲット104Aから陽子ビーム進行方向にその強度が大きくなるような分布で放射される。日本においてはJ−PARC(大強度陽子加速器施設、茨城県)における物質生命科学実験施設が現在稼働中であり、大阪大学核物理研究センター(大阪府)でも同様の施設が建設中である。
[1−3 負のミュオンによる放射性核種の製造]
本実施形態では、負ミュオンを利用してある種の核反応を引き起こすことにより放射性核種が製造される。上記のようにして生成されるミュオンビームを利用して放射性核種が製造されるのは、次に説明するようなメカニズムによるものである。
[1−3−1 ミュオン原子の生成と原子核への捕獲]
図2は、ミュオン原子軌道を模式的に示す概念図である。負のミュオンは、ターゲットとなる原子(以下、「ターゲット核種」という)に入射されると、そのターゲット核種の原子核(「ターゲット原子核」)の作る電磁ポテンシャルの主量子数n=14といった高次の軌道に捕獲される。この捕獲の結果、当該原子核と負ミュオンとを構成要素とするミュオン原子が形成される。その後、オージェ電子の放出過程や、ミュオン原子におけるミュオン軌道間での低エネルギー軌道への負ミュオンの遷移の際のX線放出(ミュオン原子X線放出)を通じてエネルギーを失いながら、主量子数n=1の軌道へ遷移する。主量子数n=1の軌道は電子軌道の場合と同様、1s軌道と呼ばれる。
1s軌道に達した負ミュオンは、1s軌道においてミュオンの自然崩壊により消滅するか、さもなければ、その消滅の前に原子核へ捕獲される。この原子核へ捕獲される現象を、「ミュオン原子核捕獲」と呼ぶ。ミュオンの自然崩壊は上述したようにτ=2.2μsec程度の寿命をもつ現象である。これに対しミュオン原子核捕獲の場合にも、1s軌道から原子核に捕獲されるまでの寿命が想定できる。このミュオンの1s軌道でのミュオン原子核捕獲までの寿命は、ミュオン原子の原子核(つまり、ターゲット原子核)の原子番号Zに依存する。すなわち、Zが7から40程度の範囲では当該寿命はZに反比例し、Zがそれを超えると80〜100×10−9秒程度となる。このことは、原子番号Zが大きいターゲット核種ほど、ミュオン原子核捕獲の確率が高くなることを意味している。
本実施形態において利用するのは、この負ミュオンとターゲット原子核により引き起こされるミュオン原子核捕獲によって当該原子核の変換を伴う核反応(以下、「ミュオン原子核捕獲反応(nuclear muon capture reaction)」といい、NMCRと略記する)である。以下、特に明示しない限り、単にミュオンやμと記す場合には、負ミュオンを表すものとする。
[1−3−2 ミュオン原子核捕獲反応(NMCR)]
ミュオン原子核捕獲反応(NMCR)は、ターゲット原子核がミュオンを捕獲する結果、ターゲット原子核のものより原子番号が1だけ小さい別種元素の原子核が生成される核反応である。NMCRを核反応の様式で表現すると、
と記される。なお、原子番号をZ(すなわち陽子数をZ)、質量数をA(すなわち陽子数と中性子数の和をA)とし、原子番号Zと質量数Aとを指定して決定される一般的な原子核をN、生成される新たな原子核をN´としている。すなわち、ミュオンμがターゲット原子核N(原子番号Z、質量数A)に捕獲されると、原子番号が1だけ小さいZ−1となった同重体の原子核N´が形成され、ニュートリノνが生成される。負のミュオンμの質量エネルギーのほとんどは、ニュートリノνの運動エネルギーに変換される。また、ニュートリノの運動エネルギー以外のエネルギーは、原子核N´の励起エネルギー(15MeV〜20MeV程度)として、一旦原子核N´に蓄積され、原子核N´の励起状態が形成される。なお、この反応に関し、核子にのみ注目して式5の核反応の内容を表現すると、pを陽子、nを中性子として、
という関係になっている。つまり、陽子pと負のミュオンμが結び付くと、中性子nとニュートリノνが生成される。
実際のNMCRは、反応の際に放出される中性子の数と生成される原子核の核子数との組合せに応じていくつかのバリエーションを含んでいる。第1は、式5により表され、「(μ,ν)反応」とも表現される反応である。第2は、NでもN´でもない原子核をN´´として、
と表現される、中性子nを1つ放出し質量数Aが1だけ減少する反応である。さらに、N´´´をN、N´、N´´のいずれでもない原子核として、
と表現される中性子nを2つ放出し質量数Aが2減少する反応も生じうる。式5、7、8の反応を端的に表すと、
中性子0個放出:(μ,ν)反応:N´((Z−1)、A)の生成
中性子1個放出:(μ,n ν)反応:N´´((Z−1)、(A−1))の生成
中性子2個放出:(μ,2n ν)反応:N´´´((Z−1)、(A−2))の生成
となる。以下同様に、原子番号Zの原子核Nに対しミュオンを衝突させると、その際に放出される中性子と、その中性子の数に応じ、原子番号Z−1が変わらず質量数の違いのみの関係すなわち同位体の関係にあるN´、N´´、N´´´・・・という原子核の系列がNMCRの結果として生成されうる。
なお、実際にどの同位体がどのような比率で生成されるかは、ターゲット原子核と生成された原子核の構造に依存する。また、上述したNMCRの反応は中性子放出を伴う反応として説明したものの、実際には荷電粒子(陽子)を放出するNMCR(以下「陽子放出反応」という)も生じる可能性がある。ただし、ミュオンを捕獲した原子核の励起状態からの、上述した中性子放出と競争する陽子放出反応とを対比すると、陽子放出反応確率は、中性子放出反応確率の高々数%以下となる。また、仮に陽子放出反応が生じたとしても、陽子放出反応で生成される原子核の原子番号は、反応前および中性子放出後の原子核に比べ原子番号Zより2だけ小さいZ−2となる。このため、陽子放出反応による原子核は目的の原子核から化学的性質の違いを利用して容易に除去することができる。
[1−3−3 NMCRの表現]
次に、式5、7、および8等の示す内容を理解する助けとして、NMCRを核図表に基づき説明する。図3は、縦軸に原子番号Z、横軸に中性子数を取った核図表の原子核N付近を拡大して示す説明図である。式5による(μ,ν)反応は、ミュオンμを衝突させるターゲット原子核Nから、核図表上にて1列右、1行下に位置する原子核N´を生成する、経路T1により示される核反応である。これに対し、式7および式8による(μ,n ν)反応および(μ,2n ν)反応などの中性子の放出を伴う反応は、核図表上にてターゲット原子核Nからみた1列右、1行下の位置から、さらに放出される中性子数だけ左に移動した位置の原子核N´´またはN´´´を生成する核反応といえる。これらの核反応は、それぞれ経路T2およびT3により示している。なお、ここでの説明は、核図表中における位置関係を述べるためのみのものである。途中の原子核が順次生成されることは意味せず、例えばN´´は、N´を経由して生成されるわけではない。
[1−3−4 NMCRの特徴]
NMCRの有用な性質の一つが、製造可能な放射性核種の種類に制限が少なく、ほとんどの放射性核種を製造可能であることである。ミュオンが照射されるべきターゲット核種を準備できれば、任意の放射性核種の生成が可能である。NMCRの別の有用な性質として、ミュオン原子を形成しさえすれば非常に高い確率でNMCRを生起させうることも挙げられる。つまり、通常の中性子による原子核反応の際の効率を決める反応断面積(単位:バーン)の考え方に比して桁違いに高い確率で核反応が生じる。これらの性質から、NMCRによる放射性核種の製造は、放射性核種の選択の自由度が高く、しかも、高い効率にて実施することが可能な手法といえる。NMCRは、原子炉を要しないというクリーンさのみならず、核種の製造能力(production capacity)においても有利な手法である。
また、ミュオンを利用する利点には、複数種の原子にミュオンが照射された場合に、原子番号の大きな原子、すなわち陽子数の大きい原子に捕獲されやすい、という実用面で重要な性質も挙げられる。端的には、例えば水素、ヘリウム、炭素、窒素、酸素等の原子番号が小さい元素と原子番号が大きいターゲット核種とが共存する物質中では、原子番号の大きいターゲット核種にて高い確率でNMCRが生じることとなる。このため、ターゲット核種は、そのターゲット核種を含む照射対象の原料(以下、「ターゲット原料」という)において、ターゲット核種より小さな原子番号の元素(「軽元素」)と化合物をなしていたり、軽元素と会合している場合であってもよい。ターゲット核種はまた、ターゲット核種や、ターゲット原料が軽元素のみからなる他の物質と混合されたり、軽元素中に分散されていたり、さらには、軽元素のみの媒体(たとえばヘリウムガスや水)により希釈されていてもよい。その結果、ターゲット原料は、製造上の様々な条件に合わせて製造条件を変更しやすい。典型例としては、ターゲット原料として、ターゲット核種とそれより原子番号の小さい元素との化合物を採用しても、NMCRをターゲット核種にて高い確率により生じさせることができる。別の典型例として、ターゲット原料を流体媒体と接触または混合させ運搬が容易な形態にしてNMCRを生じさせることも容易である。これらの性質は、NMCRを利用する放射性核種や放射性物質の製造の実用性を著しく高めるものである。これらの性質を反映するより具体的な製造手法については、具体例の欄(1−5)および核種ごとの各論の欄(3−1、3−2、3−3、3−4)にて詳述する。また、ターゲット核種と対比させるために、ターゲット核種よりも原子番号が小さくNMCRにおいて影響を受ける可能性が低い軽元素を、「非ターゲット核種」と呼ぶ場合がある。
さらに、生成される放射性核種の放射能量が、生成される放射性核種の半減期により決定されることも、NMCRにおける放射性核種の製造を容易にする有利な性質である。この性質は、同一の放射能量を得るために、半減期の短い放射性核種は短い時間で製造でき、半減期の長い放射性核種には長い時間がかかる、というものである。この点は、「放射性核種の製造の効率」の欄(1−5−3)にてさらに詳述する。
加えて、放射性核種の製造後の分離・回収時には、ターゲット原子と生成後の放射性核種の原子番号が異なることが役立つ。原子番号が異なって物理的または化学的性質が変化すれば、ターゲット原料中のターゲット核種と生成後の放射性核種とを物理的または化学的な手法によって分離することが容易になるからである。この点については、具体例の欄(1−5)にて詳述する。
NMCRにおける放射性核種の製造を容易にする有利な性質には、さらに、適切な搬送装置を利用することによる自動化も容易であること、そして、副産物(不純物)となる放射性物質の量が少ないこと、を挙げることができる。
[1−4 放射性核種の選択]
NMCRを採用することによる放射性核種の選択に対する制約は、「1−3−4 NMCRの特徴」の欄にて上述したとおり、皆無ではないものの大きくはない。それでもNMCRを採用することが有利といえる放射性核種があるため、核種の放射特性や化学特性が用途に適するかどうかの観点から適宜に選択することができる。
[1−4−1 核種の選択基準]
核種の選択基準は、NMCRそれ自体ではなく、ほぼ、用途の観点のみから決定される。すなわち、従来は製造条件の点から供給が難しかった多様な核種がNMCRによって供給可能となるため、そのこと自体が本実施形態の大きな利点である。したがって、核種の選択の制限は従来よりむしろ緩和される。そしてNMCRを採用しても残る核種の選択順を列挙すれば、典型的には、その放射性核種から放射される放射線(種類、エネルギー)が適切であるか、および、その核種の寿命(半減期)が適切であるかどうか、という二つの観点が重視される。以下、特に核医学用途に適用される放射性核種を例示して説明する。核医学用途では、通常、放射線の種類やエネルギーが適切な核種のうち、半減期が検査や治療に適するかどうか、という観点が重視される。特に半減期は例えば数時間から数百日程度のものが選択されることが多い。イメージングや治療の目的のためには、最適なエネルギーのγ線を放出する核種が選択される。また、PETによるイメージングを行なうためには、陽電子崩壊(β崩壊)する放射性核種が選択される。さらに、β線(電子線)を治療に利用する場合には、β崩壊する核種が選択される。そして、α線の示す極短飛程かつ高LETという性質を利用する用途ではα放射性核種が選択される。なお、上記寿命に関し、核医学用途では、上記の放射性核種としての寿命(物理的寿命)と、生体内から放射性物質が代謝される速度を決定する生物学的半減期とが考慮される。
[1−4−2 核種を生成する際の容易性]
上述したNMCRの核反応による核種製造のメカニズム(1−3)が、放射性核種の種類の選択の容易性を高める点について補足する。NMCRを利用する本実施形態の手法においては、従来の原子炉やサイクロトロンを利用する放射性核種および放射性物質の製造手法では入手が難しかった核種を利用することが可能となる。本実施形態における選択範囲の広さを示す具体例は、核種ごとの各論の欄(3−1、3−2、3−3、3−4)を参照すれば容易に把握できる。さらに、原子炉により製造されている放射性核種については、原子炉を利用せずに製造できる点で供給が安定化し、入手性が改善される。また、サイクロトロンを利用して製造されてきた核種についても、供給形態が多様化されることから、入手性は改善される。なお、NMCRでは、原子炉により製造されている核種の方が、サイクロトロンにより製造されている核種に比べて製造が容易である。それは、原子炉中性子による製造とミュオンによる製造における互いの原子核反応過程が似ているためである。具体的には、原子炉中性子を利用する場合、中性子をターゲット原子核に吸収させて放射性原子核が製造される。これに対し、ミュオンを利用する場合、式6に示すように、NMCRのためにターゲット原子核内の陽子が中性子に変わり、あたかも中性子を吸収して陽子を放出したかのような原子核の状態となる。この類似性が、原子炉中性子により製造されている核種がミュオンにおいても効率的に製造できる理由である。
[1−5 ミュオンによる放射性核種の具体例]
つぎに具体例に基づいて本実施形態のNMCRによる放射性核種の製造について説明する。
[1−5−1 放射性核種の生成]
まず、54Mnを製造する場合を取り挙げNMCRによる放射性核種が得られる原子核反応の具体例を説明する。54Mnは、SPECTのために有望な核種の一つである。図3に関連して示したように、ターゲット核種を固定すると、生成される核種は、陽子数(原子番号)が一つ小さい元素のいずれかの同位体であり、NMCRの態様つまり放出される中性子の数の違いに対応して製造される。図3における経路T1、T2、T3は、これらの反応をターゲット核種を固定して一般的に記したものである。逆に、54Mnのように特定の原子核を製造するためのターゲット核種も一種類とは限らず、反応の経路に応じいくつかのターゲット核種を採用することができる。
図4は、核図表の54Mn付近の部分を抽出したものである。太い枠により示す核種は安定核種である。54Mnを生成する原子核反応は鉄(Fe)の天然原料における同位体存在比を考慮すれば、典型的には以下の3種:
54Fe(μ,ν)54Mn
56Fe(μ,2n ν)54Mn
57Fe(μ,3n ν)54Mn
が想定される。
図4における経路T4、T5、T6は、生じうる反応のうちFeの安定核種からの経路として示している。つまり、54Mnの製造のために実用性が高いNMCRを利用する工程は、54Feをターゲット核種とし、(μ,ν)反応を用いるもの、56Feをターゲット核種とし、(μ,2n ν)反応を用いるもの、そして、57Feをターゲット核種とし、(μ,3n ν)反応を用いるもの、の三種である。
[1−5−2 生成された放射性核種の分類]
図5は、ミュオンを利用して54Mnを製造する際に利用される核反応の形式と、Mnの同位体の放射線に関する性質を摘記した、54Mnを生成するための核反応と生成される可能性のある同位体を説明する説明図である。上述したように、54Mnは3種のFe同位体から別々のNMCRにより製造される。製造されるMnの同位体の性質を見ると、質量数が大きい順に57Mn〜56Mnは、比較的短い半減期でβ崩壊し、γ線の放出を伴ってFeの同位体へ放射性崩壊する。55Mnは安定であり非放射性である。なお、天然のMnの存在比(abundance)は55Mnが100%である。54Mnは、半減期が約312日であり、軌道電子捕獲(EC)により100%が54Crに崩壊し、その際に834keVのみのγ線を放出する。53Mnは、半減期は3.7×10年であり、ECにより100%が53Crに崩壊するが、γ線は放出しない。52Mnは5.59日の半減期でECとβ崩壊により52Crに崩壊し、744keV、936keV、および1434keVのγ線を放出する。なお、52Mnの核異性体である52mMnは21分の半減期を持ち、98.25%がECとβ崩壊により52Crに、1.75%が核異性体転移(isometric transition、以下「IT」と略記)により52Mnに転移し、その後にγ線を放出して52Crに崩壊する。
[1−5−3 放射性核種の製造の効率]
図4および5に示したように、Feのいくつかの同位体から54Mnを製造することができる。また、図3に示したように、一般にターゲット核種が1種であっても、複数種のNMCRが生じると、同一の原子番号であり質量数が異なる複数種の同位体が製造される。このため、54Mnを効率良く製造するためには、原料のターゲット核種の存在比の高さに着目すべきであり、さらにNMCRの反応の性質も利用される。
NMCRにおける核種の製造効率を、特に応用面で問題となる放射性核種純度(radionuclidic purity)の観点から一般論として説明する。放射性核種純度とはある核種の放射線量すなわち放射能を指標とした場合の純度であり、端的には半減期の短い核種が原子核の個数の割に強い放射能を示す、という放射能を反映する指標である。NMCRにおける放射性核種の生成量の指標としても放射能による評価は適切である。実際にミュオンの照射時間をTとして、目的の放射性同位体の核種(RI)の生成量を示すと、
となる。ここで、YRI(dps)は、decay per second(すなわちBq)を単位とする放射能であり、Nμはミュオンの単位時間当りの照射数、Pcrは、ミュオンが捕獲されてNMCRが生じる確率すなわち目的核の生成確率、そして、T1/2は生成された放射性核種の半減期である。0.693は、1/eに減衰する寿命を半減期から換算する因子である。なお、生成確率は、通常の核反応であれば核反応断面積を反映する値であるものの、NMCRの反応での生成確率Pcrは、ミュオンがターゲット原子核のミュオン軌道に捕獲されミュオン原子を形成し、ミュオン軌道においてミュオン自体が自然崩壊しないで原子核に捕獲されて目的核種を生成する確率である。ミュオン自体が自然崩壊せずミュオン原子が形成されさえすれば、ターゲット原子核にミュオンが取り込まれてミュオン原子核捕獲反応が生起するからである。NMCRにおけるPcrは数%から数十%の比較的大きい値である。このことは、ターゲット原料に適切にミュオンを照射してミュオンを静止させることさえできれば、必ずミュオン原子が形成され、ミュオンが自然崩壊しない限りは、NMCRを引き起こす、という実験事実を反映するものである。
式9に示されるように、放射能量としての生成量の間の関係を見る限り、生成後の核種が短寿命の核種ほど短時間で製造でき、かつ短時間で飽和に達することがわかる。この性質は、NMCRによって生成される複数種の同位体のうちから目的の同位体を効率よく選択的に製造するために利用することができる。これをMnを例に説明すると、まず、Mnの同位体において、54Feをターゲット核種としてNMCRによってMn同位体を生成すると、54Mn以外にも、53Mnおよび52Mnが生成される。その際にも式9の関係は各同位体に成り立つため、52Mn〜54Mnのうち、生成速度が遅い53Mnが生成される放射能量がまだ少ないうちに54Mnと52Mnを十分な放射能量だけ生成することができる。その後に54Mnと52Mnのうちから54Mnを残すには、52Mnの半減期を目安にその数倍程度の期間を経過させれば良い、ということを示唆している。このように、生成後の核種が複数の同位体となる場合であっても、生成後の核種の半減期やそれに対応する生成速度を目安にして生成速度および崩壊に合わせて照射時間および照射後の経過時間(「冷却時間」という)すなわちタイミングを調節することにより、目的の放射性核種の放射性核種純度を高めることができる。
このようなタイミングの調節が可能であることは、目的の放射性核種の放射性核種純度に影響する点で重要であるばかりか、原料の選択にも影響する。上記具体例では、NMCRのターゲット核種となる54Fe(存在比5.8%)、56Fe(同91.7%)、57Fe(2.2%)の天然存在比の和がほぼ100%である。このため、例えば54Feからは、52Mnも生成され(3−2−8の欄にて詳述)、54Mnのみが生成されるわけではない。しかし、52Mnおよび54Mnは、互いからも、また、これら以外のMn同位体からも半減期が大きく異なっている。このため、濃縮原料ではなくFeの天然原料を採用したとしても、例えば52Mnの半減期(5.59日)の数倍の期間、例えば34日程度の冷却時間を確保することにより、52Mn成分を、それ自体の生成量の1.5%程度まで減衰させることにより、実質的に54Mnのみを残すことができる。こうして54Mnを生成するためのFeは、天然存在比に応じた同位体から構成される天然原料を利用できる可能性が高い。逆に、53Mnは、半減期が長すぎるため、数十日程度の照射期間の範囲では放射能量としてみるとほとんど製造されない。
なお、実際にFeの天然原料を採用できるかどうかは、用途に応じて定まる52Mnや53Mnの許容量により決まる。仮に天然原料において上記タイミングの調整のみで目的とする放射性核種純度が達成されない場合には、ターゲット核種であるFeの同位体比を制御すること、すなわち、濃縮(enrich)された原料を採用することが有用である。
さらに「1−3−1 ミュオン原子の生成と原子核への捕獲」の欄にて上述したように、ミュオンが原子番号の大きい原子核に捕獲されやすいことを利用すれば、ターゲット核種を含む物質や化合物(ターゲット原料)のうち、酸化物やフッ化物といった、軽元素の存在は通常は上記製造効率を低下させることはない。水やヘリウムといった軽元素のみの物質を媒体とする流体化についても同様である。
[1−5−4 具体例(54Mn)についてのまとめ]
以上の54Mnを生成する具体例により説明したように、ターゲット核種からNMCRにより放射性核種を製造することができ、また、その実用性は十分に高い。そして54Mnを具体例として示したように、NMCRによる放射性核種の製造は高い実現性を持っている。
[1−6 原料からの分離・捕集法]
さらに、用途によっては、生成後の放射性核種または放射性物質をターゲット原料から適切に分離できなかったり目的の化学形にて捕集できなければ、実用性が低下することがある。NMCRによる放射性核種の製造においては、典型的には、ターゲット核種と生成後の核種(第1放射性核種または第2放射性核種のいずれか)の原子番号が異なることによる化学的性質の相違が活用される。その分離・捕集には、任意の既知の化学操作を採用することができる。その化学操作を非限定的なリストにより示せば、沈殿法(または共沈法)、ホットアトム法、イオン交換分離法、クロマトグラフ法、溶媒抽出法、蒸留法、電気化学法、ラジオコロイド法、である。なお、沈殿法(共沈法)は、何らかの担体(捕集剤)を加えてRI(放射性物質を含む。本段落において以下同様)の沈殿物を生成することを利用してRIを分離する手法である。ホットアトム法は、反跳原子(ホットアトム)を利用するジラルド・チャルマー(Szilard−Chalmers)反応によるRIの分離手法である。イオン交換分離法は、RIをイオン交換樹脂に吸着させて分離する手法である。クロマトグラフ法は、試料を媒体(ろ紙など)に付着させてその媒体の一端を展開液に浸すことにより、毛管現象において上昇する速度が物質により定まることを利用する手法である。溶媒抽出法は、RIの混合液に有機溶媒を加えることにより、RIを水相と有機相に移行させ、RIを分離する手法である。蒸留法は、蒸留することによって揮発性RIを不揮発性の物質から分離する手法である。電気化学法は、電気分解、またはイオン化傾向の違いを利用して微量RIを分解する手法である。そしてラジオコロイド法は、トレーサー濃度のRIが無担体で水溶液中に存在するとき生成し、コロイド的な性質を示すことを利用する手法である。これらの手法は、基本的には、NMCR以外の核反応により生成された核種における分離方法と変わるところはない。
[1−7 α放射性核種のNMCRによる製造]
(1−3)の欄にて上述したNMCRを利用して核種を製造するメカニズムやその手法の持つ利点は、α放射性核種を製造する場合にも同様に成り立つ。例えば、ターゲット核種と生成されるα放射性核種とが互いに異なる原子番号を有するというNMCRの性質は、化学的、物理的な操作によってターゲット核種からα放射性核種を分離する操作が容易になるという利点につながる。別の例としては、α放射性核種の分離法においても、イオン交換分離法や沈殿法、共沈法を使用できる。
特にα放射性核種を製造するためにNMCRを採用する利点には、さらに次のようなものがある。第1に、崩壊系列に属する核種を製造する場合に、崩壊系列の途中に位置する核種であっても製造しうる点が利点となる。つまり、原子番号がZである核種をターゲット核種として製造することができるα放射性核種のうちには、NMCRにより直接製造される原子番号がZ−1である反応生成原子核や、当該反応生成原子核が属する崩壊系列(ネプツニウム系列、トリウム系列、アクチニウム系列)に従って当該反応生成原子核が崩壊して生成される子孫核種が含まれている。第2に、α放射性核種を製造するためのターゲット核種としては、天然に存在する226Raと232Thを使用することができる。これらはともにターゲット核種であるとともに、それら自体が自然崩壊系列中のα放射性核種でもある。なお、232Thは核燃料物質(nuclear fuel material)に分類される。
そして、特に短寿命のα放射性核種の製造に限れば、NMCRによる製造の効率がよいといえる。なぜなら、NMCRを利用しないで短寿命のα放射性核種の製造をする場合、反応断面積が製造効率を決定するため低い生成効率となり、また、目的核種以外の副産物核種(不純物)が多く生成されるので、複雑な分離作業を必要とする可能性があるからである。さらに、NMCRの場合、生成に必要とするターゲット原料の量を少なくできる利点もある。そして、ミュオン照射によるターゲット原料への入熱が少ないので、ターゲット原料を冷却する必要性が低いことが挙げられる。
[1−8 NMCRによる放射性核種の製造のまとめ]
以上に説明したように、従来は原子炉やサイクロトロンを利用して生成されていた放射性核種が、NMCRを利用して製造することが可能となる。本実施形態のNMCRを利用する放射性核種の製造手法(「本手法」という)の放射性核種製造上の利点は、これまでに強調していないものも含めると、以下の通りである。なお、下記記載の「RI」との表現には放射性物質を含む。本1−8欄において同様である。
・本手法は、大強度陽子加速器で生成する大強度負ミュオンによる新しいRI製造である。なお、RI製造量は負ミュオン強度に比例する。
・本手法は、高濃縮ウランや原子炉を使用しないRI製造方法である。よって、高濃縮ウラン核分裂片の高放射能状態での分離、抽出作業の必要がなくなる。また、長寿命の高レベル放射性廃棄物を作らない方法である。
・本手法では、原子番号(Z)の材料原子核から原子番号(Z−1)のRIが製造される。よって、材料原子核と生成RI原子核の原子番号が異なるので、化学的、物理的な分離抽出が容易になる。また、原子番号(Z−1)のRIのみを製造するので、副産物RIが少ない。
・本手法ではターゲット核種を選択することにより広範囲のRIが製造できる。
・本手法には、中性子や陽子ビーム照射方法と異なり、反応断面積という要素がない。つまりミュオンをターゲット原料の原子核に捕獲さえすれば、1種以上のNMCRがある割合で必ず生起する。この割合とは、xを0、1、2、3、4、5・・・という整数として(μ,xn ν)反応として表現される複数のNMCRのそれぞれが生起する生起確率の相対比であり、分岐比とも呼ばれる。そして「必ず」とは、ミュオンをターゲット原料の原子核に捕獲させると上記表現のNMCRの少なくともいずれかが生じ、その際のNMCRの生起確率の合計が100%である、との意味である。このため、NMCRは製造効率が高く、RI製造に要する照射時間が短くてすむ手法である。なお、x=6以上は、反応確率が小さすぎるので実質的には考えなくて良い。
・本手法のための材料原子核は安定原子核とすることができ、その場合には放射能がないので、製造の準備作業が安全である。
・本手法では自然界に安定に存在する核種をターゲット核種として製造できる場合が多い。また、濃縮原料(特定の質量数の同位体の存在比を高めた原料)をターゲット原料として必要とする場合もあるものの、その化学形状(酸化物、炭酸塩、硝酸塩、フッ素化物、塩素化物、臭素化物、水酸化物、等)に影響なくRI製造が可能である。ミュオンはZの大きい原子核に高い確率で捕獲される。水溶液中のターゲット核種のイオンからRI製造をすることも可能である。
・本手法においてミュオンの入射エネルギーを調整すると、密封容器内部に格納したターゲット原料に照射できる(詳細は後述)。
・ターゲット核種を含むターゲット原料の温度はミュオンが照射されても殆ど上昇しない。このため、ターゲット原料を冷却する必要性が少ない。
・低いエネルギーのミュオンを利用すると、その飛程は短いので、ターゲット原料が少量であっても高い確実性で核種を製造することができる。
・本手法における容器内でのミュオン照射量や照射効率は、ミュオン原子X線を容器外部から測定することにより決定できる。
・本手法におけるミュオンの照射後、その密封容器ごと、化学分離抽出施設に移送することができる(詳細は2−1−4−4にて後述)。
・本手法におけるミュオン照射による容器の放射化や表面汚染は非常に少ない。
・本手法において固体のターゲット原料を採用する場合、ミュオン照射効率を高めるために、原料量に合わせてミュオンビームの大きさ(ビーム口径)や入射エネルギーを調整できる。
・本手法においてはミュオンをより多く利用することにより核種の製造効率を高めることができる。すなわち、陽子ビームを強力にすること以外に、現在利用していない飛行方向へのパイオンをも利用することが有効である。後者を例示すれば、図1にて示したミュオン照射系100においては一方向を中心とする比較的狭い立体角範囲のパイオンのみが利用されているものの、そのような場合に他の方向に飛行するパイオンを収集することが典型である。このような工夫を採用すれば、複数の方向に伝播するパイオンを収集して別々のミュオンビームを生成し、ミュオンビームごとに異なる核種を製造することも可能になる。
特に放射性核種の主要な用途の一つである核医学用途からみた利点は、上述するもののほか、次のようなものである:
・本手法ではミュオン原子核捕獲反応を利用して医科学的に有用な放射性物質(RI)を製造することができる。
・本手法では医療用RI製造が国境を超えずに行え、自給自足体制の構築が可能となる。核種によっては、必要となったRIがその時点から短時間で製造できる供給体制が構築できる。特に99mTcの製造が可能である(詳細は2−1の欄にて後述)。
・本手法では医療用RIの分離抽出方法が単純化され、その作業時間が短くなる。
そしてα放射性核種を製造する場合には、次のような利点も追加される。
・崩壊系列に属する核種を製造する場合に、当該元素自体やその親核が崩壊系列の途中に位置する核種であっても製造することができる。
・α放射性核種の分離法においても、イオン交換分離法や沈殿法、共沈法を使用することにより、α放射性核種をターゲット原料等から容易に分離することができる。
・NMCRでは短寿命のα放射性核種を効率よく生成できる。
このように、本実施形態におけるNMCRにより製造された放射性核種や放射性物質は、原子炉やサイクロトロンといった従来の手法において製造された放射性核種と何ら変わるところのない有用性を有している。
[2 適用例]
次に、適用例を挙げ、本実施形態を具体例に基づいて詳述する。特に本適用例では、現時点までに広く医学用途に適用されている99mTcと、ミルキングを前提にその99mTcを供給するために広く供給されている99Moとを対象に、NMCRによる放射性物質の製造手法の詳細を説明する。
[2−1 適用例1:ミュオンによる99mTcの製造]
次に、上述した原理を利用する具体例の1つとして、99mTcを製造する工程を適用例1として説明する。99mTcは、骨シンチグラフィー、心シンチグラフィー、脳腫瘍、および脳血管障害などの検査のために現在最も多用されている医学用途の放射性核種であり、放射性物質を利用した医学における診断の約80%が99mTcを利用したものである。99mTcが医学用に利用される場合、診断する部位に集積する性質を示す化学物質の化学基の一部として導入された化学形の放射性物質として被験者に注射される。その後、被験者をγ線検出器(ガンマカメラ、シンチグラフィー)により撮影し3次元画像や断層画像が得られる。
[2−1−1 99mTcの放射能の性質]
図6は99mTcを含む質量数A=99の核種間の崩壊図式(decay scheme)である。このうち、医学用途などの応用の際に利用される遷移は、99Tcの準安定状態である99mTcからの遷移である。この遷移において99mTcは、半減期6.02時間で140.5keVのγ線の放出を伴って、基底状態99TcにITにより転移する。その際、140.5keVのγ線が放出されるため、そのγ線が検出される。なお、99Tc(基底状態)はほとんど安定(半減期21.4万年)である。
[2−1−2 NMCRによる99mTcのための核反応]
NMCRを利用する本実施形態において99mTcを製造する場合、Ru(ルテニウム)の同位体がターゲット核種として採用される。図7はRuの天然存在比と、Tcの複数の同位体から始まる核の崩壊の態様とを摘記した説明図である。また、表1には、Ruの各同位体からTcの同位体を生成するためのNMCRの様式を列挙している。表1には、質量数が93から104のTcの同位体(核異性体を含む)それぞれについての生成方法を示している。また図8は、99mTcについての情報を摘記する説明図であり、図9は、99Tc付近の核図表である。
表1から、99mTcをNMCRにより生成するためのターゲット核種となるRuの同位体、および反応を抜き出せば、
99mTcについて:
99Ru(μ,ν)99mTc
100Ru(μ,n ν)99mTc
101Ru(μ,2n ν)99mTc
102Ru(μ,3n ν)99mTc
である。これらの原料のRu同位体はいずれもRuの天然原料に含まれているものである。図7に示したように、Ruの天然原料には、96Ru、98Ru、104Ruも含まれているものの、これらは、99mTcの生成には寄与しない。なお、97mTcおよび95mTcも生成される可能性があり、
97mTcについて:
98Ru(μ,n ν)97mTc
99Ru(μ,2n ν)97mTc
100Ru(μ,3n ν)97mTc
95mTcについて:
96Ru(μ,n ν)95mTc
98Ru(μ,3n ν)95mTc
の核反応が生じうる。97mTc、95mTcについては3−2−19にて後述する。
図7に示されるように、Ruの同位体は96Ru、98Ru〜102Ru、104Ruの範囲で天然原料に存在しており、存在比は最大のものでも31.6%(102Ru)である。そのため、99mTc以外のTc同位体の混在を少なくするためは、102Ru(天然存在比31.6%)、101Ru(同17.0%)、100Ru(同12.6%)、99Ru(同12.7%)の比率を高め、他の同位体の比率を低下させた濃縮原料が最善といえる。その場合、比放射能の高い、carrier free(無担体)に近い99mTcを製造することができる。つまり、天然Ru材料から104Ruと96Ruを除去した濃縮材料を採用すれば99mTcを効率良く製造できると考えられる。なお、この濃縮材料には98Ru(1.88%)が含まれるものの、その影響は少ないと予想している。
ただし、そのような濃縮材料の採用を前提としても、99mTcを生成する観点からいくつか実験にて確認すべき事項がある。その確認手順は次のようなものである。まず、99Ru(12.7%)の原料における(μ,3n ν)反応がどの程度起こるかを決定するためには、96mTcの生成率の実測が重要である。また、96Tcの準安定状態96mTcは短半減期(52分)で減衰し、96Tcの基底状態がβ崩壊するとγ線放出が生じる。準安定状態96mTcや基底状態96Tcの混在量が許容できるかどうかについては一つには用途の観点から調査が必要である。混在量を決定するためには、天然Ru材料にミュオン照射して、表1に列挙した反応成分を測定する。ただし、天然Ru材料を使った99mTc製造時に混在する他のTcの放射性同位体は、ほとんどがRuまたはMoに、一部はRhに崩壊する。なお、93Tc、94Tc、95Tc、96Tc、および97Tcは、陽子過剰核(中性子不足核)であるため中性子を放出する反応確率が低くなり、それらの生成率が抑制される可能性があると予測している。この中性子放出反応は、生成原子核の中性子分離エネルギーに関係する。それら以外にも比放射能が低下することを防止するためには、基底状態の98Tc(4.2×10年)の生成率は、表1の(3)、(4)、(5)の反応ではどれくらいであるかを調査し、また、96mTc、97mTc、98Tcの混在はどこまで許容できるかを調査する、といった検討が行われる。なお、水溶液中では、TcはTcO の陰イオンを形成するため、イオン交換分離法でRuやMoのイオンと分離し、Tcイオンのみを抽出でき、回収は容易である。
このような事情から99mTcを製造するのにとりわけ都合がよいのは100Ruである。また、99mTcを生成するためのNMCRは、(1−3)の欄に示した本実施形態の核変換の原理の通りである。
[2−1−3 99mTcを生成する原子核変換の量的見積]
次に、100RuからNMCRにより99mTcを生成するための手法について、数量的側面も含めて詳細に説明する。NMCRにより99mTcを生成するために採用する負ミュオン照射処理の実現性について、現時点で本願の発明者が想定している条件とその条件において見込める生成率の見積りを行なった。仮定した条件は、比較的現実的といえる数値を含む以下の条件である:
・陽子加速器は、500MeV、5mAの陽子ビームを生成する
(陽子数では、6.2×1018×5/1000=3.1×1016個/秒程度)
・陽子が負ミュオンに変換される係数:0.1
・ミュオン輸送効率:0.01
・負ミュオン個数Nμ:3.1×1016×0.1×0.01=3.1×1013個/秒
・ミュオンすべてがターゲットに静止すると仮定
・負ミュオンが1s状態から原子核捕獲により目的核を生成する確率Pcr:0.1
・目的核の半減期T1/2=6.02時間
・ミュオン照射時間T=12時間
これらの条件を式9に代入して算出すると、NMCRによる99mTcの製造量は、YRI=2.3×1012dpsつまり2.3TBq(=62.5Ci)との値が得られる。生成後の放射能は、半減期6.02時間をもつ指数関数に従って冷却時間とともに減衰する。このため、さらに、
・分離抽出、製品化、輸送、使用に要する時間が12時間である
との仮定を置いたとしても、必要となった時点から照射を開始して約24時間後には十分な量の99mTc製剤を供給することが可能となる。実際、これらの仮定における供給時点(照射開始後24時間経過時点)での放射能は5.8×1011Bq(約16Ci)となり、1回の使用量を600MBq(16mCi)とするときの約1000回分に相当する。この十分な生成量は、100RuからNMCRにより99mTcを生成する手法が実用性を備えていることを補強する一つの証拠である。
[2−1−4 ターゲット原料からの分離を含む99mTcの製造方法]
99mTcを製剤化するためには、典型的にはNMCRにより99mTcを製造した後に、何からかの化学形で99mTcを含んでいる放射性物質を、ターゲット原料から適切に分離する処理が行われる。この分離処理として99mTcの生成法と両立させうる化学的な手法について、Ruをターゲット核種とする場合を例に説明する。その際に利用されるTcおよびRuの性質は、それ自体の価数などの化学的性質や、単体または化合物における、融点、沸点などの物理的性質である。まず、Tcは価数が4価または7価となる。酸化テクネチウムTcは揮発性、黄色固体であり、融点が119.5℃、沸点が310.6℃である。Tcを水に溶解させると、HTcO(過テクネチウム酸)を形成し、TcO (過テクネチウム酸イオン)となる。このTcO は高い水溶性を示し、陰イオン交換樹脂で効率よく吸収できる。
これらに対し、Ruの性質は以下のようなものである。RuO(IV)は、酸化ルテニウムである。この物質は、黒色粉末であり酸には溶けず、加熱して溶融させた水酸化カリウムKOHに溶ける。RuO(IV)は熱にも安定であり、沸点は1200℃程度である。Ruは、RuO(VIII)(四酸化ルテニウム)の化学形も取りうる。RuO(VIII)は、揮発性を示す融点25.4℃、沸点40℃の物質である。RuOは、強い酸化性を有しており、爆発性と分解性とを備えている。このため、気体で存在するRuOは扱いやすい面があるものの、爆発性があるためその対策が必要となる。この代替として固体の[N(C]RuOを使用することも有用である。これは、RuO のイオンが安定なためである。Ru(NO(硝酸ルテニウム溶液)やRuCl(塩化ルテニウム溶液)もRuを含むターゲット原料として利用できる可能性がある。
これらの性質から、99mTcをRuから分離することは容易である。上記知見に加え、さらに製造効率まで視野に入れた99mTcの製造手法について次に詳細に説明する。
[2−1−4−1 固体原料による99mTcの連続製造]
99mTcは固体原料にミュオンを照射しながら連続して製造することができる。なお、本出願における連続して製造とは、連続的またはパルス状のミュオンビームを継続的に照射しながら製造を行うことを指している。その際、NMCRにより99mTcを製造するためのターゲットとして100RuO固体が利用される。また、生成したTcを化学的に分離する手法として採用される原理は主として昇華性である。具体的には、99mTcの固体の昇華温度が310℃と低いのに対し、99mTcの昇華を利用できる温度において100RuOが揮発も昇華もしないことが利用される。つまり、ターゲット原料として100RuO固体を準備し、その100RuO固体にミュオンを照射する。生成された99mTcは、99mTcの化学形の固体としてターゲット原料の100RuO固体中に生成される。そしてこのミュオン照射後のターゲット原料を、310℃を目安の処理基準温度として、例えば400℃程度に昇温すれば、昇華により100RuO固体から99mTcを脱離させて分離することができる。残された100RuO固体はミュオンを照射するターゲット原料としてその後も継続的に利用することができる。
図10および図11は、NMCRにより固体原料から99mTcを製造する製造プラント1000および1100の概略構成を示す説明図であり、それぞれ、Tcの昇華性および水溶性を利用し、ならびにTcの昇華性を利用するものである。
図10および図11に示すように、ミュオンビームMBはRuO固体のターゲット原料1002および1102に照射される。ミュオンの照射により生成された99mTcは、RuO固体内のミュオンが静止した位置で生成される。この際、ターゲット原料1002および1102ならびにキャリアガス(ヘリウムガス)1004および1104は例えば400℃に維持されている。Tcの化学形となり400℃では昇華性を示すため、99mTcはキャリアガス1004および1104に希釈されてガス流GSとして運搬される。
キャリアガスに希釈されているTc化合物を捕集するためには典型的には2つの手法を採用することができる。その一つは、図10の製造プラント1000に示すように、Tcを含むガス流を水1012Aまたは1012Bに接触させる手法である。この手法では、Tcが水に溶解しTcO (過テクネチウム酸イオン)となって捕集される。この水溶液を回収するとTcO イオンの形態で、または必要に応じてTcO のなす何らかの塩の形態でTcを回収することができる。Tc化合物を捕集するもう一つの手法は、図11の製造プラント1100に示すように、気体のTcをカラム1112Aまたは1112Bの内部の吸着剤により捕集する手法である。カラム1112Aおよび1112Bは、吸着剤として例えば室温である25℃程度の温度に維持されているキャッチャーフォイルを内蔵している気体捕集用のカラムである。このキャッチャーフォイルにはアルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)等の薄い箔を採用する。吸着されたTcは、イオン分離することによりキャッチャーフォイルから脱離させて回収することができる。ここで、イオン分離とは、例えば酸水溶液中においてイオンの性質の違いを利用して回収する手法である。本例に即してその一例を説明すれば、まず、キャッチャーフォイル(例えばアルミニウム)を、吸着したTcとともに塩酸の水溶液に溶解させる。その水溶液中には、キャッチャーフォイルに由来するアルミニウムの陽イオンと、Tcに由来するTcO イオンとが共存する。その状態から、例えばイオン化傾向の違いを利用する任意の化学操作によって、目的の材質であるTcまたはその化合物を分離する。典型的には、他の陰イオンを除去した後、TcO イオンを陰イオン交換樹脂により回収する。なお、この時点でTcの崩壊生成物のRuが混入しているとしても、Ruは陽イオンとなると考えられるため、陰イオン交換樹脂には吸着されない。また、イオン分離においては必ずしも常に酸が用いられるわけではなく、例えば水酸化ナトリウム水溶液のような塩基性水溶液が利用されることもある。これらが、Tcの昇華性を利用してRuからTcを効率良く分離する典型的な手法である。なお、ガス系統1010Aおよび1010B、ならびにガス系統1110Aおよび1110Bは、気体捕集用の水またはカラムを複数準備し互いに他に対する予備系統となっていることを示している。このような予備系統の構成は、ミュオンの照射をしながらも回収期間を確保して連続的な製造を容易にするための工夫である。図10および図11に示したように、上述した要素以外にも、各プラントには、循環経路中にガス流を生じさせるための適当なポンプ1020および1120や、NMCRに適する温度に制御するための温度調整部1030および1130も備わっている。
Tcの昇華の際にTcの崩壊生成物のRuを含む成分が混入する程度はターゲット原料に依存する。図10の構成と図11の構成とのいずれが選択されるかは、99mTcの放射性核種純度、製造効率などのNMCRに関連する能力のほか、回収後のTcの利用性などから選択される。
[2−1−4−2 液体原料による99mTcの連続製造]
ミュオンの照射により99mTcを連続製造するためには、液体(溶液)原料を採用することも有効である。この場合、NMCRにより99mTcを製造するための液体ターゲット原料として、例えばRuイオンを含む水溶液が採用される。具体的には、その水溶液をターゲット原料としてNMCRを液中で生じさせ、生成されたTcを含む水溶液を運搬して回収する。生成したTcを化学的に分離する手法として採用される原理は、例えばイオンの極性を利用したイオン交換樹脂への吸着性の違いである。
図12は、NMCRにより液体原料を採用して99mTcを製造する製造プラント1200の概略構成を示す説明図である。液体原料を採用する本手法では、NMCRによって生成されたTcを、TcO イオンの形態でカラム1212Aまたは1212Bにより捕集する。この際のカラムは、吸着カラムまたはイオン交換カラムとされる。カラム1212Aおよび1212Bでは、TcO は捕集されるものの、Ruは陽イオンを作るために捕集されない。そのため、生成されたTcはRuの混入を防止ながら効率良く捕集することができる。すなわち、ミュオンの照射位置にあるRuイオンを含む水溶液である液体ターゲット原料1202を、適当なポンプ1220により循環経路中を液流LSとし循環させながらミュオンビームMBを照射すれば、液流LSのうちミュオンの照射位置から流出したもの(照射済み流体)からは、カラム1212Aおよび1212Bを通過する際に生成されたTcが捕集される。さらに、カラム1212Aおよび1212Bにより捕集されないRuが液流LSに残留していたとしても、そのRuは再度ミュオンのターゲット原子としてミュオンビームの照射位置に再配置されると、原料の使用効率がよい。Tcイオン捕集用のカラムを複数配置して互いを予備系統とすることは液体原料を採用する本手法においても有用である。製造プラント1200にも、上述した化学処理を行ったりその作業効率を高めるための要素として、水流系統1210Aおよび1210Bが備わっている。
[2−1−4−3 ガス原料による99mTcの連続製造]
99mTcは、ガス原料にミュオンを照射しながら連続製造することもできる。この場合、RuOのガス(昇華ガス)を含む原料ガスをターゲット原料としてNMCRを気体中で生じさせ、その後にTcを回収する。その際に生成したTcを化学的に分離する手法として採用される原理は昇華温度の違いまたは沸点の違いである。
図13は、NMCRによりガス原料から99mTcを製造する製造プラント1300の概略構成を示す説明図である。この手法で利用する原料ガス1302は、昇華により得られたRuO気体を高温に保ったままヘリウムガスにより希釈したものであり、温度は例えば400℃などに維持されている。なお、RuOは、融点が25.4℃、沸点が40℃である。その原料ガス1302にミュオンビームMBを入射させるとTcが生成されるため、RuOの一部が、99mTcとなって同様にヘリウムガスにより希釈された混合気体となっていることが予想できる。この混合気体を気体捕集用のカラム1312Aまたは1312Bに通すことにより、Tcのみを捕集することができる。なお、気体捕集用のカラム1312Aおよび1312Bは、図11の場合と同様に、キャッチャーフォイルを利用するタイプのものであり、カラムが維持される温度は100℃程度である。キャッチャーフォイルの材質は、Al、Zn、Snなどが候補となる。気体捕集用のカラム1312Aまたは1312Bを回収した後には、Tcは、キャッチャーフォイルの材質からイオン分離される。カラムを通過するRuO気体は、適当なポンプ1320により循環経路中のガス流GSとされており、再び温度調整部1330により加熱されてミュオンの照射のための原料1302ガスとして再配置される。ヘリウムガスはこの処理では特段変化しない。また、反応によって失われる分量のRuを補うためは、図示しない適当な貯留部からRuO気体が適宜追加される。
[2−1−4−4 固体原料による99mTcのバッチ製造]
上述した連続処理と同様にミュオンを継続的に照射してTcを製造する手法として、Ruを含むターゲット原料を採用するバッチ製造工程1400の手法も採用することができる。図14は99mTcのバッチ製造工程1400により99mTcを製造する処理の概略を示す説明図である。この際に採用することができるターゲット原料は、適当な容器1404A〜Dにある単位量だけ収容したRuO(IV)や、(N(C)RuO)の固体や、適当な容器1404A〜Dにある単位量だけ収容した塩化ルテニウム溶液(RuCl)や硝酸ルテニウム溶液(Ru(NO)である。これらの単位量のターゲット原料1402を処理バッチとしてミュオンビームMBを所定の照射量だけ照射する処理は、容器1404A〜Dのように容器ごとターゲット原料1402を取り替えながらの順次の処理に適するとともに、適切な搬送装置を利用する自動化も容易な処理である。照射された固体または液体の単位量のものには、その後に分離処理や製剤化等のための必要な工程を実施することができる。
ここで、容器1404A〜Dを利用するバッチ製造工程1400では、条件を適切に選べば容器がミュオンビームMBの影響を受けないようにすることができる。その条件となるのは、一つには容器1404A〜Dの材質であり、もう一つはミュオンビームMBの入射エネルギーである。容器1404A〜Dの材質は、端的には、ターゲット原子核よりも原子番号が少ない材質の容器を利用することが望ましい。多くのプラスチックはこの用途の材質として最も適している。また、高い密封性が要求される場合は、ステンレス等の金属材料の容器も使用可能である。加えて、容器1404A〜Dではなく、その内部のターゲット原料1402にミュオンを効率よく作用させるために入射エネルギーも選択される。つまり、ミュオンは、その入射エネギーが低いところで、相互作用を増大させて阻止能(stopping power)が増大する性質がある。このため、ミュオンビームの照射は、いわゆるブラッグピークを持つ線エネルギー付与(LET:linear
energy transfer)の特性により説明される。この性質を利用すれば、ミュオンビームの伝播方向におけるミュオンの停止位置を容器1404A〜D内部のターゲット原料1402に定めることが可能となる。その結果、ミュオンのビーム利用効率が高まり、容器壁や容器壁より外の材質に対するNMCRの抑制も達成される。さらに、放射性を示す物質を容器に封入したままNMCRの処理を行うことは、放射性物質の製造方法として実用面からも有用である。例えば、NMCRの後、Tcをターゲット原料から回収したり分離するまで、可能な限り密封したまま輸送することが可能となる。このため、放射線防護の観点からも、バッチ処理のNMCRによる放射性物質の製造手法の実用性は高い。なお、図14の容器1404A〜Dの内部のターゲット原料1402は、固体または液体のいずれを採用することもできる。また、バッチ製造工程1400では、一度に一つの容器(ここでは容器1404B)のみがNMCRの対象となっているものの、複数の容器1404に照射するなど実施上の条件に応じて種々の変更を行うことができる。
[2−1−4−5 バッチ処理による他の製造方法1(水溶液中での沈殿を利用する手法)]
本実施形態の別の手法として水溶液中での沈殿を利用する手法も採用することができる。本手法においてターゲット原料からの化学的分離のために利用される性質は、HTcO(過テクネチウム酸)が、TcO イオンの形で高い水溶性を示すのに対し、塩化ルテニウム水溶液などにおけるRuイオンは、塩基による化学処理によって塩として沈殿させうることである。つまり、ターゲット核種を含む物質や化合物(ターゲット原料)として、100Ruが濃縮されている塩化ルテニウム水溶液を準備する。その水溶液にミュオンを照射すると、水溶液中の100Ruのある割合のものが同水溶液中にて99mTcとなり、TcO のイオンが生成される。ミュオンの照射された後の水溶液に塩基を添加すれば沈殿物として100Ruを回収することができる。また、溶液中に残るTcO は、その後必要な処理を施すことによって単離されたり、または、用途に合わせた形態にて利用される。なお、従来の99mTcジェネレータにおいて99Moからミルキングされる99mTcは99mTcO の形態であるため、本実施形態において製造された溶液中に残るTcO も、従来の99mTcO と同様の態様によって利用することができる。また、100Ruは濃縮原料であっても沈殿物として回収が容易であり、その回収後には、酸による化学処理により塩化ルテニウム水溶液とすることによってターゲット原料として再利用することができる。
[2−1−4−6 バッチ処理による他の製造方法2(固相/液相の相転移を利用する手法)]
本実施形態においてNMCRにより99mTcを生成するさらに他の手法は、100RuO固体を利用するものである。本手法においてターゲット原料からの化学的分離のために利用される性質は、100RuOが低い沸点(40℃)であるのに対し、99mTcの沸点がそれより高い311℃であることである。つまり、ターゲット原料として100RuO固体を準備し、その100RuO固体にミュオンを照射する。生成された99mTcは、原料の100RuO固体中にて99mTcの化学形となる。その後、100RuO固体標的の容器を密封容器全体とともに400℃程度まで昇温すると、100RuO99mTcは気体となって密封容器内に充満する。そして、この容器内部に100℃程度の捕集器を置くと99mTcだけを回収することができる。99mTcを回収した後、密封容器全体を400℃程度に保ったまま、標的容器温度を室温まで下げれば、100RuOを回収することができる。なお、RuOは昇華性や強い酸化性、爆発性を示すため、回収装置の設計やその操作には十分な注意が必要である。
[2−1−4−7 99mTcの生成における従来との相違点]
上述した本実施形態の99mTcの各製造手法は、従来の99mTc(99Mo)を製造する手法とは相違している。まず、本実施形態のいずれの製造手法においても、十分な強度の負ミュオンビーム発生施設が利用される。またそれに併せて濃縮100Ruを含むターゲット原料が利用される。負ミュオンの発生は、図1に示したように、現時点では陽子加速器、陽子からパイオンを得るカーボンなどのターゲット、そしてパイオンからミュオンを得るための超伝導マグネット(ソレノイドコイル)、という構成要素が必要である。他方、原子炉のような厳重な防護は必要なく、また、高濃縮ウラン原料やその核分裂生成物の取り扱いも不要である。しかも、本実施形態の99mTcの製造手法はミュオンの照射とその後の簡単な化学操作による分離法であるため、放射能汚染や作業者の被爆が防止できる。このため、中性子を生成するための原子炉は不要である。さらに、従来の99Moからのミルキングを行なわなくとも、99mTcを供給することができる。
[2−2 適用例2:ミュオンによる99Moの製造]
次に、NMCRを利用して99Moを製造する適用例2について説明する。99Moの製造手法が重要である理由は、99mTcを生成するための原子炉由来の99Moが従来広く供給されており、99Moを扱うための手法が現時点で確立している、という実用面からの要請のためである。99Moは、99mTcをジェネレータによりミルキングを通じて生成する際の親核となる。また、NMCRによる放射性物質の製造手法としては、99Moを製造するためにNMCRにて直接生成される核種が99Moではない点においても注目されるべきである。なお、99mTcは従来、原子炉の核分裂生成物から抽出される99Moからのβ崩壊(半減期66時間)によりミルキングにより生成されている。この99mTcは、親核99Moの娘核として得られ、親核99Moとの間で十分な時間ののちに放射平衡を成り立たせる。以下の説明では、医学用途などに使用される核種が99Moから生成される99mTcである場合を念頭に、NMCRを利用する99Moの製造方法を説明する。
[2−2−1 99Moを生成するための核反応]
図15は、99Moを生成する核反応と生成される可能性のあるNbの同位体とを説明する説明図である。図16は、99Mo付近を拡大して示す核図表である。なお、99Moを系列に含む崩壊図式である図6も併せて参照する。これらの図に示す99Moを形成するために採用される核反応は、表2に示すMoの同位体からNbの同位体を形成する多数のNMCRの核反応のうちから選択される典型的なものである。
図15および図16に示すように、NMCRにより99Moを生成する典型的な手法は2段階の核変換である。第1段階はミュオンを利用する核反応であり、
100Mo(μ,n ν)99Nb
の反応を生じさせる。この反応の結果、100Moのターゲット核種を含むターゲット原料から99Nbの核異性体が主に生成される。第2段階は、その後に生じるβ崩壊である。99Nbの核異性体は短時間(半減期2.6分)のうちにβ崩壊して99Moの基底状態が生成される。その後は、図6に示したように、99Moから99mTcが得られる。また、99Nbの基底状態は非常に低い確率で生成されるものの、短時間(半減期15秒)で99Moにβ崩壊する。
上記第1段階および第2段階を組み合わせて99Moが生成され、かつ最終的な用途で利用される核種が99mTcである場合には、上記第1段階のためのターゲット原料としてMoの天然原料を採用することが可能である。ここで、Moの天然存在比は図15に示している。表2に示すように、Moの天然原料をターゲット核種としてミュオンを照射すると、天然存在比の比率のMo同位体において(μ,ν)、(μ,n ν)、(μ,2n ν)、(μ,3n ν)のNMCRが、それぞれの反応確率で同時に起こる。これらのNMCRのうち、99Mo生成に寄与するものは100Mo(μ,n ν)99Nb反応のみである。このため、生成効率の低さを許容すればMoの天然原料を使用することができる。99Nb(99Mo)以外に生成される同位体は短半減期の放射性同位体であり、それらは最終的には、β崩壊してMoの安定同位体、またはβ崩壊してZrの安定同位体となる。
ここで、長半減期のNbの同位体はそのまま残存する可能性がある。しかし、長半減期のNbの同位体も、後のミルキングによるTcの生成に対して実質的な影響を及ぼさない。つまり、長半減期のNb同位体が存在しても、ミルキングにおいて生成されるTcの放射性同位体は99Moから崩壊して得られる99mTcのみである。その理由は、一つには長半減期のNb同位体の放射性が弱いためである。もう一つの理由は、99mTcイオンはMo、Nb、Zrイオンからイオン分離されるためである。つまり、99Moのミルキング過程により生成された99mTcイオンは、たとえば99Moを吸着しているカラムからのTcイオンの抽出工程、といったMoから分離する工程の際にNbから容易に分離される。このように、99Moのミルキング過程を前提とすれば、Moの天然原料を利用してNMCRを生じさせた場合であっても、比放射能の高い、carrier free(無担体)の99mTcを製造することができる。
また、上記第1段階のNMCRにより反応しなかった100Mo(イオン)は、回収してミュオンの照射ターゲット原料として再利用する。
[2−2−3 ターゲット原料からの分離を含む99Moの製造方法]
ターゲット原料から99Moを製造する手法は、文字通りに99Moを分離する手法に加え、99mTcとして分離する手法も併せて説明する。これは、99Moが実質的に99mTcの形態にて利用される場合がほとんどであるためである。なお、100Moをターゲット核種とする場合であっても、Heなどのキャリアガスや水といった媒体に含まれる軽元素へのミュオンによる影響は非常に少ない。
[2−2−3−1 バッチ処理による99Moの製造]
99Moを製造し、99Moの形態にて分離する手法は、固体や水溶液のターゲット原料に直接ミュオンを照射して行われる。図17は、バッチ製造工程1700を採用するNMCRによって99Moを製造する処理の概略を示す説明図である。採用することができる固体原料は、MoO、MoOの固形物や粉末である。また、水溶液は、モリブデン酸カリウム(KMoO)などの水溶液である。これらのターゲット原料1702は、適当な容器1704A〜Dに密封されている。この容器越しにミュオンビームMBを照射すると、容器1704A〜Dに密閉された状態にてNMCRによりターゲット原料1702の100Moから99Nbが生成され、その99Nbが放射性崩壊することによって99Moが生成される。この間、容器1704の密封は維持されている。図14の99mTcの場合と同様に、バッチ製造工程1700は自動化が容易であり、また、放射性防護の観点での対策も容易である。NMCRと放射性崩壊を通じて製造された99Moは、その後化学分離によって回収される。
なお本具体例の手法において、ターゲット原料1702は100MoまたはMoの天然原料を含む固体または液体のターゲット原料とされ、その内部にて99Moが生成される。このため、100Moから99Moのみを分離して回収することは困難となる場合がある。そのような状況においても可能な限り99Moの割合を高めるためには、長時間、たとえば11日間程度、ミュオン照射を照射することが有効である。この照射期間は99Moの半減期である66時間の約4倍程度である。したがって、式9から、99Moの放射能量はほぼ飽和する。なお、式9の関係は、99Nbと、その99Nbから生成される99Moとの間においても成立する。これは、NMCRにより100Moから直接生成される99Nbの半減期が十分に短く、照射期間のほとんどで99Nbの生成量と崩壊量が釣り合ってしまい、量的な側面だけをみると、あたかも100Moから99Moが生成されているかのような状況と同様といえるためである。
99Moから99mTcを生成するためには従来と同様の99mTcを99Moから生成する公
知の手法、たとえばミルキングを採用することができる。
[2−2−3−2 固体原料による99Mo/99mTcの連続製造(昇華性と水溶性を利用する場合)]
本実施形態には、99Moと99mTcとの性質の違いを利用してターゲット原料から有用な核種を分離することにより放射性物質を製造することも含まれている。99Moを上記2段階の核変換によって製造できるとしても、用途によっては、可能な限り最終的に利用する99mTcおよびそのための99Moのみを残す必要がある場合、つまり、ターゲット原料に由来する100Moが99Moに残留することが許容されにくい場合もあるためである。図18は、ターゲット原料を固体原料としてMoO、MoOの固形物や粉末を採用した場合に、昇華性と水溶性を利用して99mTcを製造する製造プラント1800の概略構成を示す説明図である。ターゲット原料1802においては、上記2段階の核変換により99Nbを経て99Moが生成される。そして、99Moからβ崩壊により生成される99mTcは、図10に関連して2−1−4−1にて説明したように昇華性を示し、さらに水溶性も有している。NbおよびMoの化合物(酸化物)は、99mTcが昇華性を示す温度(311℃以上、たとえば400℃)において昇華しないため、図10と同様に昇華および水溶性を利用することにより、過テクネチウム酸の化学形によってTcを回収することができる。この手法を採用した場合には、100Mo以外のMo同位体が存在するターゲット原料(たとえばMoの天然原料)を採用することが容易になる。このような工程を実施するため、製造プラント1800においては、図10と同様に、ミュオンビームMBが入射する固体ターゲット原料1802である100Mo固体の周囲がキャリアガス(ヘリウムガス)1804で満たされており、ガス流GSが循環している。ガス流GSは、ガス系統1810Aまたは1810Bにおいて水1812Aまたは1812Bに接触している。水1812Aまたは1812BではTcが水に溶解して、TcO (過テクネチウム酸イオン)となって捕集される。この水溶液を回収するとTcO イオンの形態で、または必要に応じてTcO のなす何らかの塩の形態でTcを回収することができる。製造プラント1800には、ガス流GSを生じさせるための適当なポンプ1820や、NMCRに適する温度に制御するための温度調整部1830も備わっている。
[2−2−3−3 固体原料による99Mo/99mTcの連続製造(昇華性を利用する場合)]
本実施形態における99Moと99mTcとの性質の違いを利用する別の手法は、Tc化合物の昇華性を利用する手法である。図19は、ターゲット原料を固体原料としてMoO、MoOの固形物や粉末を採用した場合に、昇華性を利用して99mTc製造する製造プラント1900の概略構成を示す説明図である。製造プラント1900による製造手法は、ターゲット原料1902において生じる核反応、キャリアガス1904によりTcが運搬できること、そしてTcが気体捕集カラム1912Aまたは1912Bにより捕集され、その後にイオン分離により回収される点については、図11に関連して2−1−4−1に説明した通りである。加えて、製造プラント1900には、ガス系統1910Aおよび1910B、ポンプ1920、温度制御部1930が備わっている。製造プラント1900を採用する場合には、100Mo以外のMo同位体が存在するターゲット原料(たとえばMoの天然原料)を採用することが容易になる。これは、前述したように、Moの天然原料にミュオン照射して生成されるTcの同位体が99mTcだけだからである。
[2−2−3−4 液体原料による99Mo/99mTcの連続製造(99mTcを回収する場合)]
本実施形態において99Moと99mTcとの性質の違いを利用する別の手法は、水溶液原料を利用する手法である。図20はターゲット原料として水溶液を採用した場合に99mTcを製造する製造プラント2000の概略構成を示す説明図である。ターゲット原料2002は、MoイオンをMoO 2−イオンの形態で含むモリブデン酸カリウム(KMoO)水溶液などの水溶液である。当該水溶液にミュオンが照射されると、MoO 2−イオンの100Moがターゲット核種となって上記2段階の核変換が生じ、99Moが生成される。この99Moは依然としてMoO 2−イオンの形態にて水溶液中に存在する。その99Moの一部はβ崩壊して99mTcとなって水溶液中にてTcO イオンといった形態となる。このTcO イオンは、図12と同様の手法によって液流LSとして運搬され、カラム2012Aまたは2012Bにより捕集される。これらのカラムは、1価のTcO イオンを吸着するが2価のMoO 2−イオンは吸着しないというイオン価選別性能を有する必要がある。また、モリブデン水溶液の水素イオン濃度指数(pH)を減少させるとMo24 6−の6価イオンが生成する性質を利用し、イオン価選別能力を高めることも可能である。このような方法で、99mTcを含んでいるTcO イオンを選別し回収することができる。このため、液体原料を利用する場合にも、Moの天然原料を採用することができる。製造プラント2000にも、これらの化学処理を行ったりその作業効率を高めるための要素として、水流系統2010Aおよび2010Bが備わり、また、ポンプ2020も装備されている。
[2−2−3−5 液体原料による99Mo/99mTcの連続製造(99Nbを回収する場合)]
本実施形態においては、Moと上記第1段階の反応により生成された99Nbとの性質の違いを利用して99Mo/99mTcを製造することもできる。図21はターゲット原料として水溶液を採用した場合に99Nbを回収することにより、実質的に99Moを製造する製造プラント2100の概略構成を示す説明図である。この場合にも水溶液原料を利用する。ターゲット原料2102は、MoイオンをMoO 2−イオンの形態で含むモリブデン酸カリウム(KMoO)水溶液などの水溶液である。当該水溶液にミュオンが照射されると、MoO 2−イオンの100Moがターゲット核種となって上記第1段階の核反応が生じ、99Nbが生成される。この99NbのJ=1/2−の核異性体は2.6分の半減期で99Moに崩壊するため、その崩壊までの期間中に99Nbを回収するのである。99Nbは、3+、4+または5+の陽イオンとなって水溶液中に存在しうるため、液流LSとして運搬された後、イオン吸着カラムつまりイオン交換樹脂を含むカラム2112Aまたは2112Bにより捕集することができる。製造プラント2100にも、これらの化学処理を行ったりその作業効率を高めるための要素として、水流系統2110Aおよび2110Bが備わり、また、ポンプ2120も装備されている。
イオン吸着カラムつまりイオン交換樹脂を含むカラム2112Aおよび2112Bには、Nbの陽イオンを捕集するもののMoO 2−イオンを捕集しない陽イオン吸着カラムを選定する。さらに、そのカラム2112Aおよび2112Bは、99Nbが崩壊して99Moとなった後であっても99Moを吸着し続けるものでなくてはならない。このようなカラム2112Aおよび2112Bによって99Nbの陽イオンを捕集することができれば、99Moの半減期(66時間)を利用してミルキング用に利用される99Moを吸着した供給用カラムを製造することができる。このようにして、Moの酸化物陰イオンと99Nbの陽イオンとの性質の違いを利用して99Nbを製造することができる。この際にも、核変換を経て生成された99mTcを選択的に捕集することができることから、Moの天然原料を採用することができる。
[2−3 適用例のまとめ]
以上に説明した製造方法により製造された99mTcや99Moは、従来利用されている99mTcや99Moと同様の用途に適用することが可能である。つまり、NMCRを採用することにより、原子炉を動作させず、高濃縮ウラン原料を必要とせず、さらに、原子炉から採取された核分裂生成物を取り扱うこともなく、99mTcや99Moの放射性核種やその放射性核種を含有する放射性物質を製造することが可能となる。
[3 NMCRにより製造可能な核種]
次に、上述した本実施形態の原理に基づいて生成可能な核種について、より一般的に説明する。まず、NMCR以外の核反応を含めて医学用途に選択しうる放射線核種を半減期、線種、放射線エネルギーなどとともに示す非限定的なリストにより示す。表3〜表5はこのリストの一部であり、順に、診断用放射性核種(陽電子放出核を除く)、診断用陽電子放出核種、治療用放射性核種、を示している。表3〜表5は、非特許文献2を参照した。なお、表3〜表5において、半減期の単位は、sは秒、mは分、hは時間、dは日それぞれの略号である。

これらのリストおよびその他の医学文献の開示と、ミュオンによる製造の実現容易性から、本実施形態の原理に基づいて生成可能な核種が、下記核種グループ1〜4に示す核種であると本願の発明者は見込んでいる。
下に掲げる核種グループ1は実現可能性が高く近時の医学文献にて医学用途への適用が試みられている核種の非限定的リストである。核種グループ1の核種は、言うなれば、特に重要な用途が見込めるものといえる。
また、下に掲げる核種グループ2は、核種グループ1のものよりも実現可能性が劣るものの十分に医学利用が見込める核種の非限定的リストである。つまり核種グループ2の核種は、同位体のうち発明者が重要と判断しているものである。
加えて下に掲げる核種グループ3は、核種グループ1にも2にも掲げていないものの医学用途に適用が見込める核種の非限定的リストである。つまり核種グループ3は、発明者が応用を想定しうると予測しているものである。
なお、核種グループ3においてハイフンと括弧により連結されている二つの核種、例えば191Os−(191mIr)は、前者が親核、後者が娘核となって利用されることを強調するための便宜的記載である。ただし、このことは、このように表現されていない核種が、その核種から放射性崩壊して生成される娘核または孫核などの子孫核種により利用されないことの根拠となる記載ではない。
そして、下に掲げる核種グループ4は、α放射性核種として有望であると本願の発明者が考えているα放射性核種の非限定的リストである。
これらはTATへの適用が見込めるばかりか、NMCRにより生成可能な核種である。とりわけ、225Ra、225Ac、224Ra、223Raは、TATの用途において有望な核種である。
以下、核種グループ1〜3の各グループの核種を原子番号順に詳述する。また核種グループ4は崩壊系列に分けて詳述する。説明は、生成のための核反応、核種の製造の際の留意事項、同位体および放射性崩壊の、そして適用用途のそれぞれの非限定的例示を示す。また、おおむね同一原子番号の核種をまとめて、本実施形態において核種を利用するための情報を図示している。図では、中央上部にタイトルとして核種およびその核種の半減期、崩壊様式および利用される放射線、左列に生成のためのNMCRの様式、ターゲット原料、および生成後の回収手法、そして右列に各図の元素(原子番号)の範囲で生成されうる同位体、を示す。
[3−1 放射性核種の各論(核種グループ1)]
[3−1−1 18F]
フッ素(F)の同位体のうち特に重要な用途が見込めるものは18Fである。図22は18Fについての情報を摘記する説明図である。18Fを生成するNMCRは、
20Ne(μ,2n ν)18
である。20Neをターゲット核種とすることができる。生成されうるF同位体は、質量数が17〜20の範囲のものである。このうち、発明者が応用を想定しているのは18Fである。18Fは109.7分の半減期で18Oへβ崩壊およびECにて崩壊する。NMCRのターゲット核種となる20Neの天然存在比が90%程度であること、および、18F以外のF同位体が安定または18Fとは半減期が大きく異なることから、ターゲット原料には濃縮原料ではなくNeの天然原料を採用することができる。なお、Neの原子番号が小さいためNMCRにおける原子核捕獲確率が小さくなるものの、高い確度で18Fを生成することができる。ターゲットにはNeガス循環ターゲットまたはNeガスを冷却して形成した固体Neターゲットが使用できる。Neは希ガスなので水溶液に溶解しないものの、Fはハロゲン元素なので水溶液に溶解する。この性質を利用して、18Fを含むNeガス原料を水溶液中に通し、18Fを水溶液中に回収する。このように、希ガス中のハロゲン元素が生成される場合には、水溶液の形態での回収する手法が有用である。18Fの用途は、主にPETである。
[3−1−2 32Pおよび33P]
リン(P)の同位体のうち特に重要な用途が見込めるものは32Pおよび33Pである。図23は32Pおよび33Pについての情報を摘記する説明図である。32Pを生成するNMCRは、
32S(μ,ν)32
33S(μ,n ν)32
34S(μ,2n ν)32
である。これに対し、33Pを生成するNMCRは、
33S(μ,ν)33
34S(μ,n ν)33
である。生成されうるPの同位体は、質量数が29〜34の範囲のものである。32Pおよび33Pは、それぞれの100%が14.3日および25.3日の半減期で32Sおよび33Sへβ崩壊し、いずれの場合もγ線は放出されない。上記の5種のNMCRのためにはSの天然原料を採用することができる。これは、NMCRのターゲット核種となる32S〜34Sの天然存在比の和がほぼ100%であること、および、32Pおよび33P以外のP同位体が、安定または32Pおよび33Pとは半減期が大きく異なること、による。また、Sの原子番号が小さいことから、NMCRにおける原子核捕獲確率が小さくなるものの、高い確度で32Sまたは33Sのいずれかを生成することができる。そして生成した32Pイオンおよび33PイオンをSイオンから分離するイオン分離を行う。32Pおよび33Pの用途は、放射線治療薬などである。
[3−1−3 35S]
硫黄(S)の同位体のうち特に重要な用途が見込めるものは35Sである。図24は35Sについての情報を摘記する説明図である。35Sを生成するNMCRは、
35Cl(μ,ν)35
37Cl(μ,2n ν)35
である。生成されうるSの同位体は、質量数が32〜37の範囲のものである。35Sは87.5日の半減期で35Clへβ崩壊し、その際γ線を放出しない。NMCRのターゲット核種となる35Clおよび37Clの天然存在比の和は100%であること、および、35S以外のS同位体が安定または35Sとは半減期が大きく異なるため、ターゲット核種は濃縮原料ではなくClの天然原料を採用することができる。また、Clの原子番号が小さいことから、NMCRにおける原子核捕獲確率が小さくなるものの、35Sを生成することができる。ターゲット原料としては、塩素ガス、固体塩素、塩化物水溶液を使用することが
できる。35SイオンはClイオンから分離して回収される。35Sの用途は、放射性検査薬などである。
[3−1−4 45Ca]
カルシウム(Ca)の同位体のうち特に重要な用途が見込めるものは、45Caである。図25は45Caについての情報を摘記する説明図である。45Caを生成するNMCRは、一つには、
45Sc(μ,ν)45Ca
である。この生成方法を採用する場合、45Caイオンは45Scイオンから分離して回収される。別のNMCRによって45Caを生成することもできる。つまり、
46Ca(μ,n ν)45
によって45Kを生成し、その45Kイオンを46Caイオンから分離して回収する。45Kは17.8分の半減期によってβ崩壊して45Caを生成することができるためである。
生成されうるCaの同位体は、質量数が42〜45の範囲のものである。45Caは163日の半減期で45Scへβ崩壊し、その際ほとんどγ線を放出しない。NMCRのターゲット核種となる45Scから生成する場合、天然原料のスカンジウムを採用することができる。なぜなら45Scの天然存在比は100%だからである。また、46Caから生成する場合、46Caの天然存在比は0.004%であるため濃縮原料が必要である。45Caの用途は、放射線治療や放射性検査薬などである。
[3−1−5 51Cr]
クロム(Cr)の同位体のうち特に重要な用途が見込めるものは、51Crである。図26は51Crについての情報を摘記する説明図である。51Crを生成するNMCRは、
54Fe(μ,3n ν)51Mn
である。51Crは、この51Mnが46.2分の半減期でβ崩壊およびEC崩壊することによって生成されるため、51Mnが親核、51Crが娘核の関係となる。親核Mnの生成されうる同位体は、質量数が51〜54の範囲のものである。親核51Mnからの娘核として得られた51Crは、27.70日の半減期により100%がEC崩壊によって、51Vに崩壊する。この際に、320keVのガンマ線の放出を伴う。NMCRのターゲット核種となる54Feは濃縮原料が必要である。なぜなら、54Feの天然存在比が5.8%だからである。54Fe(μ,3n ν)51Mnの反応が実際にどの程度生じるかは、確認が必要である。また、生成後のMnに52Mnが混在する点留意が必要である。ただし、MnとCrのイオンを分離することが可能であればこの点は問題とならない。本手法のためには、51Mnイオンを54Feイオンから分離して回収する手法と、51Crイオンを54Feや51Mnイオンから分離回収する手法とが利用される。51Crの用途は、γカメラを利用するSPECTなどである。
[3−1−6 54Mn]
マンガン(Mn)の同位体のうち特に重要な用途が見込めるものは、54Mnである。54Mnについては、(1−5)の欄に詳述したのでそちらを参照されたい。なお、生成した54MnイオンはFeイオンから分離して回収される。
[3−1−7 59Fe]
鉄(Fe)の同位体のうち特に重要な用途が見込めるものは59Feである。図27は59Feについての情報を摘記する説明図である。59Feを生成するNMCRは、
59Co(μ,ν)59Fe
である。生成されうるFeの同位体は、質量数が56〜59の範囲のものである。59Feは44.6日の半減期で59Coへβ崩壊し、その際、主に1099keVや1292keVのγ線を放出する。NMCRのターゲット核種となる59Coの天然存在比は100%であること、および、59Fe以外のFe同位体が安定であるため、ターゲット原料は濃縮原料ではなくCoの天然原料を採用することができる。生成した59Feイオンは59Coイオンから分離して回収される。59Feの用途は、SPECTや放射性検査薬などである。
[3−1−8 64Cuおよび67Cu]
銅(Cu)の同位体のうち特に重要な用途が見込めるものは64Cuおよび67Cuである。図28は64Cuおよび67Cuについての情報を摘記する説明図である。64Cuを生成するNMCRは、
64Zn(μ,ν)64Cu
66Zn(μ,2n ν)64Cu
である。これに対し、67Cuを生成するNMCRは、
67Zn(μ,ν)67Cu
68Zn(μ,n ν)67Cu
70Zn(μ,3n ν)67Cu
である。生成されうるCuの同位体は、質量数が61〜70の範囲のものである。64Cuは、12.7時間の半減期でβ崩壊にて64Znに、また、ECおよびβ崩壊にて64Niに崩壊し、1346keVのみのγ線を放出する。これに対し、67Cuは、61.9時間の半減期でβ崩壊にて67Znに崩壊し、その際、主に93keV、91keV、および184keVのγ線を放出する。
64Cuおよび67Cuは、天然の亜鉛をターゲット核種としても、これら以外のCuの同位体から分離することは容易である。これは、64Cuおよび67Cuの半減期がこれら以外のCuの同位体の半減期から大きく異なっているためである。ただし、64Cuおよび67Cuの互いからの分離または作り分けが必要な場合には、NMCRのターゲット核種となる64Znおよび66Znの存在比を高めた濃縮原料のターゲット原料(64Cuについて)と67Zn、68Zn、および70Znの存在比を高めた濃縮原料のターゲット原料(67Cuについて)を採用する。なお、64Cuおよび67Cuを互いから分離する要請は用途に依存する。
ただし、必要であれば、ミュオンの照射時間や冷却時間を調節することにより、64Cuおよび67Cuの比率のバランスを制御することは可能である。また、生成した64Cuおよび67CuイオンはZnイオンから分離して回収される。64Cuおよび67Cuの用途は、SPECTなどである。
[3−1−9 67Ga]
ガリウム(Ga)の同位体のうち特に重要な用途が見込めるものは67Gaである。図29は67Gaおよび68Gaについての情報を摘記する説明図である。なお、68Gaについては、(3−2−11)の欄にて後述する。
67Gaを生成するNMCRは、
70Ge(μ,3n ν)67Ga
である。生成されうるGaの同位体は、質量数が67〜70の範囲のものである。67Gaは、78.3時間の半減期でEC崩壊にて67Znに崩壊し、その際、91keV、93keV、185keV、300keV、および394keVのγ線を放出する。NMCRのターゲット核種となる70Geの天然存在比は20.6%程度である。このため、濃縮原料を利用する必要がある。なお、濃縮原料を利用する場合、72Gaも73Gaも生成されない。また、67Gaと68Gが混在した場合であっても、照射時間および冷却時間の調節により分離できる可能性がある。生成した67Gaイオンは70Geイオンから分離して回収される。67Gaの用途は、SPECTである。
[3−1−10 85mKr]
クリプトン(Kr)の同位体のうち特に重要な用途が見込めるものは85mKrである。図30は85mKrについての情報を摘記する説明図である。85mKrを生成するNMCRは、一つには、
85Rb(μ,ν)85mKr
87Rb(μ,2n ν)85mKr
である。このNMCRを利用する場合には、天然原料のRbを利用することができる。この手法では、Rbターゲットからガスとして放出される85mKrを回収する。なお、85Rbと87Rbの天然存在比は、それぞれ72.17%、および27.83%である。ただし、天然原料のRbを利用するときには、87Krも混在する可能性がある。これが問題となる場合、冷却時間の調節によって85mKrと87Krとを分離できる可能性が高い。
85mKrは85Brを経由することによっても製造することができる。それは、
86Kr(μ,n ν)85Br
のNMCRを利用する場合である。この反応によって85Brを生成すれば、85Brが親核となって半減期2.87分にてβ崩壊することによって娘核85mKrが得られる。この手法では、86Krの循環ガスターゲットを使用し、生成した85Brを含む86Krガスを水溶液中に導き85Brを水溶液中に回収する。さらに、85Brから生成した85mKrを水溶液から回収する。86KrからのNMCRには濃縮原料が必要である。86Krの天然存在比は17.3%だからである。なお、この手法では天然Krのターゲット原料を使用できる可能性を予想している。その理由は、短半減期のBrがβ崩壊して生成するKrのRIは85mKrのみであるためである。83Br(半減期2.40時間)を経由して83mKrが生成される可能性もあるものの、照射時間を調整することにより83mKrの割合を減少させることができる。
生成されうるKr同位体は、質量数が82〜87の範囲のものである。このうち、発明者が応用を想定しているのは85mKrである。85mKrは、4.48時間の半減期で、その21%がITにより85Krに転移し、79%がβ崩壊により85Rbへ崩壊する。これらの崩壊の際、前者の場合は305keV、後者の場合は151keVのγ線が放出される。なお、基底状態である85Krは10.7年の半減期で85Rbへ崩壊する。また、85mKrはガスとして利用されるため、生体の肺の内部構造を撮影する用途に有用である。
[3−1−11 86Rb]
ルビジウム(Rb)の同位体のうち特に重要な用途が見込めるものは86Rbである。図31は86Rbについての情報を摘記する説明図である。86Rbを生成するNMCRは、
86Sr(μ,ν)86Rb
87Sr(μ,n ν)86Rb
88Sr(μ,2n ν)86Rb
である。生成されうるRbの同位体は、質量数が83〜88の範囲のものである。86Rbは、18.7日の半減期で0.005%が86KrにEC崩壊し、99%以上が86Srにβ崩壊する。この際、1076keVのみのγ線が放出される。
本願の発明者は、86RbはSPECTへの応用という点で有望な核種と考えている。また、Srの濃縮原料は必要ない可能性があると考えている。ただし、84Rbが混在する可能性がある。その場合であっても、長半減期である84Rbの生成が遅いこと、および、84Rbの生成に寄与するターゲット核種の天然存在比が小さいことから、混在の程度は限定的である。生成した86Rbイオンは、Srイオンから分離して回収される。
[3−1−12 89Sr]
ストロンチウム(Sr)の同位体のうち特に重要な用途が見込めるものは89Srである。図32は89Srについての情報を摘記する説明図である。89Srを生成するNMCRは、
89Y(μ,ν)89Sr
である。生成されうるSrの同位体は、質量数が86〜89の範囲のものである。89Srは、50.5日の半減期で100%が89Yにβ崩壊し、その際にγ線を放出しない。
本願の発明者は、89Srはがんの骨転移疼痛緩和剤や放射線治療に適用可能な点で有望な核種と考えている。なお、87mSrが生成されるものの、89Srを87mSrから分離するためには、ミュオンの照射時間と生成後の冷却時間を調整することが役に立つ可能性があると考えている。またYの濃縮原料は必要ない。その理由は、89Yの天然存在比が100%だからである。生成した89Srイオンは89Yイオンから分離して回収される。
[3−1−13 90Y]
イットリウム(Y)の同位体のうち特に重要な用途が見込めるものは90Yである。図33は、88Y、90Y、および91Yについての情報を摘記する説明図である。90Yを生成するNMCRは、
90Zr(μ,ν)90
91Zr(μ,n ν)90
92Zr(μ,2n ν)90
である。生成されうるYの同位体は、質量数が87〜92の範囲のものである。90Yは、64.1時間の半減期で90Zrにβ崩壊する。その際、ほとんどγ線を放出しない。
本願の発明者は、90YはRI標識抗体療法を含む放射線治療に適用される点で有望な核種と考えている。なお、90Yを製造するためには、90Zr、91Zr、92Zrの存在比が高められている濃縮原料を利用する。それは、天然存在比が51.45%(90Zr)、11.32%(91Zr)および17.19%(92Zr)であるためである。91Yをできるだけ生成せずに90Yを製造するためには、照射時間を調整することが役に立つことが予想される。生成した90YはZrイオンから分離して回収される。
[3−1−14 99Mo]
モリブデン(Mo)の同位体のうち特に重要な用途が見込めるものは、99Moである。99Moについては、「2−2 適用例2」に説明したのでそちらを参照されたい。
[3−1−15 99mTc]
テクネチウム(Tc)の同位体のうち特に重要な用途が見込めるものは、99mTcである。99mTcについては、「2−1 適用例1」および「2−2 適用例2」に説明したのでそちらを参照されたい。
[3−1−16 103Pd]
パラジウム(Pd)の同位体のうち特に重要な用途が見込めるものは103Pdである。図34は103Pdについての情報を摘記する説明図である。103Pdを製造するためのNMCRは、
106Cd(μ,3n ν)103Ag
である。この反応によって103Agを生成すれば、103Agが親核となって半減期1.10時間にてECおよびβ崩壊することによって娘核として103Pdが得られる。最終的に生成されうるPdの同位体は、質量数が103〜106の範囲のものである。103Pdは17.0日の半減期で100%がEC崩壊で103Rhに崩壊し、その際に39.7keVのみのγ線を放出する。103Rhは安定である。このEC崩壊は、103Pdの基底状態(J=5/2+、半減期17.0日)から103Rhの核異性体103mRh(J=7/2+、半減期56.1分)への遷移であり、これはミルキング(放射平衡)の関係である。103Pdは103mRhのジェネレータのための親核となっている。
本願の発明者は、103Pdは放射線治療やSPECTに適用される点で有望な核種と考えている。なお、103Pdを製造するためには、106Cdの存在比が高められている濃縮原料を利用する。それは、106Cdのの天然存在比が1.25%であるためである。上記NMCRの後に、103Agまたは103Pdイオンを106Cdイオンから化学分離し回収する。さらに、必要があれば、103Pdイオンは103Agイオンから分離して回収される。
[3−1−17 111In]
インジウム(In)の同位体のうち特に重要な用途が見込めるものは111Inである。図35は111Inおよび113mInについての情報を摘記する説明図である。111Inを生成するNMCRは、
112Sn(μ,n ν)111In
である。生成されうるInの同位体は、質量数が109〜112の範囲のものである。111Inは2.83日の半減期で100%がECにより111Cdに崩壊し、その際に171keVおよび245keVのγ線を放出する。
111Inのためのターゲット核種はSnの濃縮原料が必要となる可能性が高い。その理由は、112Snの天然存在比が1.0%であるためである。本願の発明者は、111Inは放射線治療やSPECTに適用できる核種である点で有望な核種と考えている。生成した111Inイオンは、Snイオンから分離して回収される。
[3−1−18 117mSn]
スズ(Sn)の同位体のうち特に重要な用途が見込めるものは117mSnである。図36は117mSnについての情報を摘記する説明図である。117mSnを製造するためのNMCRは、
117Sn(μ,ν)117In
118Sn(μ,n ν)117In
119Sn(μ,2n ν)117In
120Sn(μ,3n ν)117In
である。これらの反応によって117Inを生成すれば、117In(基底状態)が親核となって半減期43.1分でβ崩壊することによって娘核として117mSnが得られる。最終的に生成されうるSnの同位体は、質量数が114〜120の範囲のものである。117mSnは13.6日の半減期で100%が117SnにITにより転移し、その際に156keV、158keVのγ線が放出される。117Snは安定である。なお、117mSn以外の放射性を示すSnの同位体の半減期は117mSnの半減期より長いので、117mSnはSnの他の同位体から照射時間の調節により分離可能である。
本願の発明者は、117mSnはSPECTに適用される点で有望と考えている。なお、117mSnを製造するためには、117Sn、118Sn、119Sn、および120Snの存在比が高められている濃縮原料を利用する。それは、天然存在比が、7.7%(117Sn)、24.3%(118Sn)、8.6%(119Sn)、および32.4%(120Sn)であるためである。117mSnの親核として生成した117Inイオンは、Snイオンから分離して回収される。
[3−1−19 123Iおよび131I]
ヨウ素(I)の同位体のうち特に重要な用途が見込めるものは、123Iおよび131Iである。図37は123Iおよび125Iについての説明をまとめた特性説明図であり、図38は131Iおよび132Iについての情報を摘記する説明図である。123Iを生成するNMCRは、
124Xe(μ,n ν)123
126Xe(μ,3n ν)123
である。131Iを生成するNMCRは、
131Xe(μ,ν)131
132Xe(μ,n ν)131
134Xe(μ,3n ν)131
である。生成されうるIの同位体は、質量数が121〜134の範囲のものである。123Iはほぼ100%が13.2時間の半減期で123TeにECにて崩壊し、主に159keVのγ線を放出する。123Teは安定である。131Iは、8.04日の半減期で、β崩壊により131Xeに崩壊し、その際637keV、364keV、284keV、および80keVのγ線が放出される。131Xeの核異性体131mXeは11.77日の半減期でITにより崩壊し、その際163.9keVのγ線が放出される。
本願の発明者は、123Iおよび131Iは、いずれもSPECTや放射線治療に適用可能である点で有望な核種と考えている。なお、上記5種のNMCRのターゲット原料としては固体Xe原料を採用することができる。ただし、固体Xe原料は124Xe、126Xeの存在比(123Iを生成する場合)、または131Xe、132Xe、134Xeの存在比(131Iを生成する場合)を高めた濃縮原料が必要となる可能性が高い。たとえば124Xeの天然存在比は0.10%であるため、濃縮原料が必要となる。123Iおよび131Iのそれぞれをヨウ素Iの他の放射性核種から分離するためには、照射時間および冷却時間の調整が有効である。なお、ターゲットはXeガスとなるため、生成された123Iまたは131IはXeガス中に生成される。そのガスから123Iまたは131Iを分離するためには、ガスを水溶液(たとえばヨウ化カリウム水溶液)に通せば123Iまたは131Iを当該水溶液中に溶解させ回収することができる。すなわち、(3−1−1)の欄にて18Fを生成する手法として説明したものと同様に、希ガスからハロゲンを抽出する処理が行われる。また、ヨウ素はエタノールによく溶けるので、123Iまたは131Iをエタノール中に溶解させて回収することもできる。
[3−1−20 133Xe]
キセノン(Xe)の同位体のうち特に重要な用途が見込めるものは133Xeである。図39は133Xeについての情報を摘記する説明図である。133Xeを生成するNMCRは、一つには、
133Cs(μ,ν)133Xe
である。このNMCRのターゲット核種である133Csは天然存在比が100%であるため、濃縮原料は必要とならない。Csターゲットから発生する133Xe気体を低温ガス収集装置で回収する。
133Xeを生成するもう一つのNMCRは、
134Xe(μ,n ν)133
である。133Iが親核となって半減期20.8時間でβ崩壊することによって娘核として133Xeが得られる。なお、133Iはハロゲン元素なので、希ガス原料である134Xeから分けてヨウ化カリウム水溶液などの水溶液中に回収することができる。さらに133Iがβ崩壊して生成した133Xe気体を水溶液から回収する。134Xeは天然存在率が10.4%なので、濃縮原料が必要である。
生成されうるXeの同位体は、質量数が130〜133の範囲のものである。133Xeは、5.25日の半減期で133Csにβ崩壊し、その際に主として81keVのγ線が放出される。なお、133mXe(J=11/2−)は、2.19日の半減期で100%がITにより133Xeに転移し、その際に233keVのγ線が放出される。本願の発明者は、133XeはSPECTに適用できる点で有望な核種と考えている。
[3−1−21 139Ceおよび141Ce]
セリウム(Ce)の同位体のうち特に重要な用途が見込めるものは139Ceおよび141Ceである。図40は139Ceおよび141Ceについての情報を摘記する説明図である。139Ceを生成するNMCRは、
141Pr(μ,2n ν)139Ce
である。141Ceを生成するNMCRは、
141Pr(μ,ν)141Ce
である。生成されうるCeの同位体は、質量数が138〜141の範囲のものである。139Ceは100%が137.3日の半減期でEC崩壊により139Laに崩壊し、その際に165keVのみのγ線が放出される。また、141Ceは32.5日の半減期でβ崩壊により141Prに崩壊し、その際に145keVのみのγ線が放出される。
本願の発明者は、139Ceおよび141Ceは、いずれもSPECTに適用される点で有望な核種と考えている。特にNMCRのターゲット核種である141Prは天然存在比が100%であるため、天然原料を利用することができる。また、139Ceおよび141Ceを区別するためには、照射時間および生成後の冷却時間による調整が有用と考えている。生成した139Ce、141Ceイオンは、141Prイオンから分離して回収される。
[3−1−22 153Sm]
サマリウム(Sm)の同位体のうち特に重要な用途が見込めるものは153Smである。図41は153Smについての情報を摘記する説明図である。153Smを生成するNMCRは、一つには、
153Eu(μ,ν)153Sm
である。NMCRのターゲット原料には153Euの天然原料を採用できる。なぜなら、天然には151Euと153Euが47.8%および52.2%の比率で存在しており、151Eu材料からは短半減期のSm同位体が生成されないためである。153Smイオンは153Euイオンから分離して回収される。
もう一つの153Smを生成するNMCRは、
154Sm(μ,n ν)153Pm
である。153Pmが親核となって半減期5.3分でβ崩壊することによって娘核として153Smが得られる。なお、153Pmは化学分離により154Smから分けて回収することができる。154Smは天然存在比が22.7%なので、濃縮原料が必要である。
生成されうるSmの同位体は、質量数が150〜153の範囲のものである。153Smは46.8時間の半減期で153Euにβ崩壊し、その際103keV、70keV等のγ線が放出される。153Sm以外のSmの放射性同位体の示す放射能はごくわずかである。本願の発明者は、153Smは疼痛緩和治療やγ放出源として利用できる点で有望な核種と考えている。
[3−1−23 186Reおよび188Re]
レニウム(Re)の同位体のうち特に重要な用途が見込めるものは186Reおよび188Reである。図42は186Reおよび188Reについての情報を摘記する説明図である。186Reを生成するNMCRは、
186Os(μ,ν)186Re
187Os(μ,n ν)186Re
188Os(μ,2n ν)186Re
189Os(μ,3n ν)186Re
である。188Reを生成するNMCRは、
188Os(μ,ν)188Re
189Os(μ,n ν)188Re
190Os(μ,2n ν)188Re
である。生成されうるReの同位体は、質量数が183〜190の範囲のものである。186Reは90.6時間の半減期でEC崩壊により186Wに崩壊し、その際に122keVのみのγ線が放出される。186Reはさらにβ崩壊により186Osに崩壊し、その際に137keVのみのγ線が放出される。これに対し、188Reは、16.9時間の半減期によりβ崩壊により188Osに崩壊し、その際に主に155keVのγ線が放出される。
本願の発明者は、186Reおよび188Reはいずれも疼痛の緩和やγ放出源として利用される点でともに有望な核種と考えている。また、NMCRのターゲット核種であるOsは天然原料を採用することが可能となると考えている。なお、上述した手法では186Reおよび188Reが混在して生成される可能性がある。この混在が問題になる用途では、ミュオンの照射時間および照射後の冷却時間を調節して186Reおよび188Reの比率を用途からの要求に合わせることが有用である。さらに、Osの天然原料の場合に検討すべき点は、189Reの混在の可能性である。189Reは半減期24.3時間でβ崩壊で189Osに崩壊する。その189Reの約60%は189Osの基底状態に崩壊するが、189Reの残りはβ崩壊に伴い主に217keV、219keV、および245keV等のγ線を放出する。この189Reの混在が許容されない場合は、濃縮原料の使用を検討する。生成した186Reおよび188ReイオンはOsイオンから分離して回収される。
[3−1−24 201Tl]
タリウム(Tl)の同位体のうち特に重要な用途が見込めるものは201Tlである。図43は201Tlについての情報を摘記する説明図である。201Tlを製造するためのNMCRは、
204Pb(μ,3n ν)201Tl
である。生成されうるTlの同位体は、質量数が201〜204の範囲のものである。201Tlは、73.1時間の半減期で100%がECにより201Hgへ崩壊し、その際に167keV、および135keVのγ線が放出される。
本願の発明者は、201TlはSPECTに適用可能な点で有望な核種と考えている。なお、201Tl以外に202Tlも生成される可能性がある。これらが混在することが問題となる用途のためには、ミュオンの照射時間を調節して201Tlの比率を高めることができる。また204Pbの存在比を高めた濃縮原料が必要となる。それは、204Pbの天然存在比が1.4%であるためである。生成した201Tlイオンは204Pbイオンから分離して回収される。
[3−2 放射性核種の各論(核種グループ2)]
[3−2−1 24Na]
ナトリウム(Na)の同位体のうち発明者が重要と判断しているものは24Naである。図44は24Naについての情報を摘記する説明図である。24Naを生成するNMCRは、
24Mg(μ,ν)24Na
25Mg(μ,n ν)24Na
26Mg(μ,2n ν)24Na
である。生成されうるNaの同位体は、質量数が21〜26の範囲のものである。24Naは15.02時間の半減期で24Mgへβ崩壊し、その際に2.75MeV、1.36MeVのγ線が放出される。NMCRのターゲット原料にはMgの天然原料を採用することができる。これは、ターゲット核種となる24Mg〜26Mgの天然存在比の和は100%であるため、および、24Na以外のNa同位体が安定または24Naとは半減期が大きく異なるためである。また、Mgの原子番号が小さいことから、NMCRにおける原子核捕獲確率が小さいながらも、高い確度で24Naを生成することができる。生成した24NaイオンはMgイオンから分離して回収される。24NaはSPECTに適用できる点で有用である。
[3−2−2 30P]
リン(P)の同位体のうち発明者が重要と判断しているものは30Pである。図45は30Pについての情報を摘記する説明図である。30Pを生成するNMCRは、
32S(μ,2n ν)30
33S(μ,3n ν)30
である。生成されうるPの同位体は、質量数が29〜33の範囲のものである。30Pは2.5分の半減期でβおよびECにより30Siへ崩壊する。その際わずかに2.235MeVのγ線が放出される。NMCRのターゲット原料にはSの天然原料を採用することができる。その理由は、ターゲット核種となる32S、33Sの天然存在比の和が95%を超えていること、および、短時間のミュオンの照射により生成される核種は30Pがほとんどとなること、による。また、Sの原子番号が小さいことから、NMCRにおける原子核捕獲確率が小さいながらも、高い確度で30Pを生成することができる。30Pはその半減期は短いものの、PETに適用できる点で有用である。また、生成した30Pイオンは、Sイオンから分離して回収される。
[3−2−3 38Clおよび39Cl]
塩素(Cl)の同位体のうち発明者が重要と判断しているものは38Clおよび39Clである。図46は38Clおよび39Clについての情報を摘記する説明図である。38Clを生成するNMCRは、
38Ar(μ,ν)38Cl
40Ar(μ,2n ν)38Cl
である。これに対し39Clを生成するNMCRは、
40Ar(μ,n ν)39Cl
である。生成されうるClの同位体は、質量数が35〜40の範囲のものである。38Clは、37.3分の半減期で38Arへβ崩壊し、その際1.642MeV、2.167MeVのγ線が放出される。これに対し、39Clは56分の半減期で39Arへβ崩壊し、その際250keV、1267keV、1517keVのγ線が放出される。上記の3種のNMCRのためにはArの天然原料を採用することができる。これは、NMCRのターゲット核種となる38Arおよび40Arの天然存在比の和が99%以上であるためである。38Arの存在比が0.063%であることから、38Arからの生成量は限定的である。また、38Clおよび40Clは半減期が互いに近い値であるため、ミュオンの照射時間やその後の冷却時間を調節してもこれらが混在したままとなる。これらを分離するためには、他の手法(例えば質量分析法)を利用する。また、Arの原子番号が小さいことから、NMCRにおける原子核捕獲確率が小さくなるものの、高い確度で32Sまたは33Sのいずれかを生成することができる。ターゲット原料は、Arのガスターゲットまたは固体ターゲットとすることができる。生成した38Clまたは39Clを含むArガスを水溶液中に通すと38Clまたは39Clは水溶液中に溶解する。つまりこの場合にも、18F(3−1−1の欄)、ならびに123Iおよび131I(3−1−19の欄)に説明したように、希ガス中のハロゲン元素として生成される放射性物質は適切な水溶液中に回収することができる。
38Clおよび39ClはSPECTに適用できる点で有用な核種である。
[3−2−4 37Arおよび41Ar]
アルゴン(Ar)の同位体のうち発明者が重要と判断しているものは37Arおよび41Arである。図47は37Arおよび41Arについての情報を摘記する説明図である。37Arを生成するNMCRは、
39K(μ,2n ν)37Ar
である。41Arを生成するNMCRは、
41K(μ,ν)41Ar
である。
生成されうるArの同位体は、質量数が36〜41の範囲のものである。37Arは35日の半減期で37Clへ100%ECにより崩壊し、その際γ線は放出されない。これに対し、41Arは1.83時間の半減期で41Kへβ崩壊し、その際1.293MeVのγ線が放出される。ターゲット原料のKには濃縮原料ではなく天然原料を採用することができる。これは、NMCRのターゲット核種となる39Kと41Kの天然存在比の和がほぼ100%であるためである。上記NMCRにおいて、ミュオンの照射時間が短く照射後の冷却時間が短い条件では主として41Arが生成され、逆の条件では主として37Arが生成される。また、Kの原子番号が小さいことから、NMCRにおける原子核捕獲確率が小さくなるものの、高い確度で37Arも41Arそれぞれを生成することができる。これらのうち、41ArはSPECTに適用できる点で有用である。これに対し、37Arは37ClにEC崩壊しγ線を放出しないものの、Clの特性KαX線(約2.6keV)を放出する。この特性X線は、放射線治療の目的に適用しうる可能性がある。Kターゲットから発生する37Arや41Ar気体を低温ガス収集装置で回収する。
[3−2−5 42Kおよび43K]
カリウム(K)の同位体のうち発明者が重要と判断しているものは42Kおよび43Kである。図48は42Kおよび43Kについての情報を摘記する説明図である。42Kを生成するNMCRは、
42Ca(μ,ν)42
43Ca(μ,n ν)42
44Ca(μ,2n ν)42
である。これに対し43Kを生成するNMCRは、
43Ca(μ,ν)43
44Ca(μ,n ν)43
である。生成されうるKの同位体は質量数が39〜44の範囲のものである。42Kおよび43Kは、それぞれ12.36時間および22.3時間の半減期で42Caおよび43Caへβ崩壊し、主として1.524MeV(42Kについて)、ならびに617keVおよび373keV(以上43Kについて)のγ線を放出する。42Kおよび43K以外の放射性同位体は短半減期であり42Kおよび43Kへの影響は容易に排除できる。Caのターゲット原料については、天然存在比では40Caが96.94%を占めていて42Caおよび43Caの比率が低くいものの、上記5種のNMCRのためにはCaの天然原料を採用することができる。40Caをターゲット核種とするNMCRに起因する生成核種は42Kおよび43Kの両者の半減期から大きく異なっているためである。ただし42Kおよび43Kの両者は互いの半減期が近い値であるため、ミュオンの照射時間やその後の冷却時間を調節してもこれらが混在したままとなる。これらを分離するためには、他の手法(例えば質量分析法)を利用する。また、Caの原子番号が小さいことから、NMCRにおける原子核捕獲確率が小さくなるものの、高い確度で42Kまたは43Kのいずれかを生成することができる。42Kまたは43KはSPECTに適用できる点で有用である。生成した42Kおよび43KイオンはCaイオンから分離して回収される。
[3−2−6 47Sc]
スカンジウム(Sc)の同位体のうち発明者が重要と判断しているものは47Scである。図49は47Scについての情報を摘記する説明図である。47Scを生成するNMCRは、
47Ti(μ,ν)47Sc
48Ti(μ,n ν)47Sc
49Ti(μ,2n ν)47Sc
50Ti(μ,3n ν)47Sc
である。生成されうるScの同位体は、質量数が44〜50の範囲のものである。47Scは3.42日の半減期で47Tiへβ崩壊し、その際159keVのみのγ線を放出する。47Scを効率良く生成するためには、NMCRのターゲット原料のTiは天然原料ではなく濃縮原料とするのが望ましい。ただし、48Tiの天然存在比が73.8%あるので、Tiの天然原料を採用できる可能性もあると考えている。また、47Scと48Scとが混在する可能性がある。この場合には、ミュオンの照射時間およびその後の冷却時間の調節や濃縮原料を使用することにより、47Scの存在比を高めることができる。47ScはSPECTに適用できる点で有用である。生成した47ScイオンはTiイオンから分離して回収される。
[3−2−7 48V]
バナジウム(V)の同位体のうち発明者が重要と判断しているものは48Vである。図50は48Vについての情報を摘記する説明図である。48Vを生成するNMCRは、
50Cr(μ,2n ν)48
である。生成されうるVの同位体は、質量数が47〜50の範囲のものである。48Vは15.97日の半減期で48Tiへβ崩壊(49.7%)およびEC(50.4%)により崩壊し、その際、主に1.312MeVと984keVのγ線が放出される。NMCRのターゲット原料には、天然原料を採用することができる。ここで、ターゲット核種となる50Crは天然存在比が約4.345%に過ぎない。しかし、48V以外のVの同位体は、48Vに比べて短半減期のものか、または、長半減期のもののみである。そのため、ミュオンの照射時間およびその後の冷却時間の調節により48Vの放射性核種純度を高めることができる。48Vは、PETやSPECTのための核種として有望である。生成した48VイオンはCrイオンから分離して回収される。
[3−2−8 52Mnおよび56Mn]
マンガン(Mn)の同位体のうち、「1−5」にて詳述した54Mn以外に発明者が重要と判断しているものは52Mnおよび56Mnである。図51は52Mnについての情報を摘記する説明図である。また、図52は56Mnについての情報を摘記する説明図である。52Mnを生成するNMCRは、
54Fe(μ,2n ν)52Mn
である。これに対し、56Mnを生成するNMCRは、
56Fe(μ,ν)56Mn
57Fe(μ,n ν)56Mn
58Fe(μ,2n ν)56Mn
である。生成されうるMnの同位体は、質量数が51〜58の範囲のものである。52Mnの基底状態(J=6+)は、5.59日の半減期で72%がECにより、28%がβ崩壊により52Crに崩壊し、その際に744keV、935keV、および1434keVのγ線が放出される。また、52Mnの核異性体52mMn(J=2+)は半減期21.1分で、その1.75%がITで基底状態に崩壊し377keVのγ線を放出する。残りの98.25%はECおよびβ+崩壊により52Crに崩壊し、その際に1434keVのγ線が放出される。NMCRのターゲット原料は天然原料ではなく、54Feの濃縮原料が必要である。それは、54Feの天然存在比が5.8%であるためである。
これに対し、56Mnは、2.6時間の半減期でβ崩壊により56Feに崩壊し、その際に847keV、1811keV、および2113keVのγ線を放出する。NMCRのターゲット原料は、濃縮原料ではなくFeの天然原料を採用することができる可能性がある。Feの天然原料を採用するとMnのいくつかの同位体が生成されるものの、52Mn、54Mn、および56Mnの半減期は、それぞれ以外のものから大きく異なるためである。52Mnおよび56Mnそれぞれを、同時に生成される可能性のある54Mnを含めたそれ自体以外の放射性同位体から分離するには、ミュオンの照射時間およびその後の冷却時間を調節する。例えば短時間のミュオンの照射では、56Mnのみが生成される。52Mnは、PETやSPECTのための核種として有望である。また、56MnはSPECTのための核種として有望である。生成した52Mnイオンまたは56MnイオンはFeイオンから分離して回収される。
[3−2−9 57Co]
コバルト(Co)の同位体のうち発明者が重要と判断しているものは57Coである。
図53は57Coについての情報を摘記する説明図である。57Coを生成するNMCRは、
58Ni(μ,n ν)57Co
である。生成されうるCoの同位体は、質量数が55〜58の範囲のものである。57Coは、271日の半減期で100%がECにより57Feに崩壊し、その際に122keV、136keV、および14keVのγ線が放出される。NMCRのターゲット原料は、濃縮原料ではなくNiの天然原料を採用することができる可能性がある。なお、Niの同位体の天然存在比からは、57Coと58Coが混在する可能性が高い。その混在が問題となる用途に57Coを利用のためには、場合によってはミュオンの照射時間およびその後の冷却時間を調節することができる。生成した57Coイオンは、Niイオンから分離して回収される。57Coは、SPECTのための核種として有望である。
[3−2−10 69mZn]
亜鉛(Zn)の同位体のうち発明者が重要と判断しているものは69mZnである。図54は69mZnについての情報を摘記する説明図である。69mZnを生成するNMCRは、
69Ga(μ,ν)69mZn
71Ga(μ,2n ν)69mZn
である。生成されうるZnの同位体は、質量数が66〜71の範囲のものである。69mZnは14.0時間の半減期でそのほぼ100%が69ZnへITにより転移し、その際、438keVのγ線を放出する。なお、69Znは、56分の半減期で69Gaにβ崩壊し、わずかに318keVγ線を放出する。NMCRのターゲット原料は、濃縮原料ではなくGaの天然原料を採用することができる可能性がある。Gaの天然存在比は、69Gaが約60.1%であり71Gaが約39.9%であることから、69mZn以外に、71Ga(μ,ν)71mZnのNMCRの確率が高ければ71mZnが生成される可能性がある。しかし、69mZnを利用する限りは、濃縮原料は必要ない可能性が高い。その理由は、一つには、69mZn(半減期14.0時間)と71mZn(半減期3.9時間)の違いを利用すれば、ミュオンの照射時間およびその後の冷却時間を調節して適切に分離しうる可能性があるためである。なお、核スピン(J)が9/2+の核異性体が生成されるかどうかについては、実験による確認を要する。69mZnは、SPECTの用途に有望である。また、生成した69mZnイオンはGaイオンから分離して回収される。
[3−2−11 68Ga]
ガリウム(Ga)の同位体のうち発明者が重要と判断しているものは67Ga以外には68Gaである。67Gaおよび68Gaについての説明をまとめた特性説明図である図29を再度参照して説明する。68Gaを生成するNMCRは、
70Ge(μ,2n ν)68Ga
である。68Gaは、68.3分の半減期でβ崩壊(90%)およびEC(10%)にて68Znに崩壊し、その際1077keVおよび1883keVのγ線を放出する。68GaはPETおよびSPECTなどの用途に有望である。
なお、67Gaに関連して(3−1−9)の欄にて上述したとおり、70Geの濃縮原料が必要となる点、また、67Gaの混在が問題となりうる点、その問題が解決可能である点、イオンの分離が利用できる点は、68Gaについても同様である。この場合にも、生成した68Gaイオンは70Gaイオンから分離して回収される。
[3−2−12 72Asおよび74As]
ヒ素(As)の同位体のうち発明者が重要と判断しているものは72Asおよび74Asである。図55は72Asについての説明を、また、図56は74Asについての説明を、それぞれまとめた特性説明図である。72Asを生成するNMCRは、
74Se(μ,2n ν)72As
である。74Asを生成するNMCRは、
74Se(μ,ν)74As
76Se(μ,2n ν)74As
77Se(μ,3n ν)74As
である。生成されうるAsの同位体は、質量数が71〜77の範囲のものである。72Asは26.0時間の半減期で72GeにEC(23%)またはβ(77%)崩壊し、834keVおよび630keVのγ線を放出する。74Asは、17.78日の半減期でEC(37%)またはβ(31%)崩壊により74Geに崩壊し、主に596keVのγ線を放出する。また74Asの32%は、β崩壊により74Seに崩壊し、主に635keVのγ線が放出される。
72Asを生成するためには、74Seの濃縮原料が必要となる。なお、74Seの天然存在比は、0.6%である。これに対し74Asを生成するためには、天然原料のSeを使用できる可能性が高い。これは、天然原料のSeに含まれる同位体のうち、NMCRのターゲット核種以外から生成されるAs同位体の半減期が72Asおよび74Asの両半減期から大きく異なるためである。ただし、74Asには、76Asと77Asが生成される可能性がある。76Asと77Asの混在が問題となる用途に74Asを利用のためには、ミュオンの照射時間およびその後の冷却時間を調節することができる。76Asおよび77Asを74Asから分離する要請の程度は用途に依存する。72Asおよび74AsはPETやSPECTのための核種として有望である。生成した72Asイオンや74AsイオンはSeイオンから分離して回収される。
[3−2−13 75Se]
セレン(Se)の同位体のうち発明者が重要と判断しているものは75Seである。図57は75Seについての情報を摘記する説明図である。75Seを生成するNMCRは、
78Kr(μ,3n ν)75Br
である。75Seは、この75Brが1.6時間の半減期でECまたはβ崩壊することによって生成されるため、75Brが親核、75Seが娘核の関係となる。75Seは、118.5日の半減期により100%がECによって75Asに崩壊する。この際に、136keV、121keV、265keV、280keV、および401keV等のガンマ線が放出される。NMCRのターゲット核種となるKrは78Krの濃縮原料が必要である。なぜなら78Krの天然存在比は0.35%にとどまるためである。75Seの用途は、SPECTなどである。75Seのための親核である75Brは、75Brを含んでいる78Krガス原料を水溶液中に通すことにより回収される。この場合にも、希ガスからハロゲン元素を水溶液により回収される。
[3−2−14 77Br]
臭素(Br)の同位体のうち発明者が重要と判断しているものは77Brである。図58は77Brについての情報を摘記する説明図である。77Brを生成するNMCRは、
78Kr(μ,n ν)77Br
80Kr(μ,3n ν)77Br
である。生成後のBrのKrからの回収のためには、希ガスであるKrが水溶性を示さないのに対し、Brが強い水溶性を示すことを利用する。すなわち、NMCRの後の材質を水に接触して通過させることにより生成後のBrを回収することができる。77Brを含む78Krおよび80Krガス原料からは、水溶液中に通すことにより、77Brを水溶液中に溶解させて分離して回収することができる(3−2−13にて説明した75Seのための75Brと同様)。
生成されうるBrの同位体は、質量数が75〜80の範囲のものである。77Brは57.0時間の半減期でβ崩壊(0.74%)とEC(99.26%)によって77Seへ崩壊し、その際に239keVおよび521keV等のγ線が放出される。NMCRのターゲット原料には78Krまたは80Krの少なくともいずれかの存在比が高められた濃縮原料を採用する。これは、ターゲット核種の天然存在比が、0.35%(78Kr)および2.25%(80Kr)に過ぎないためである。77BrはSPECTの用途に適用できる点で有用である。
[3−2−15 82Br]
臭素(Br)の同位体のうち、77Br以外に発明者が重要と判断しているものは82Brである。図59は82Brについての情報を摘記する説明図である。
82Brを生成するNMCRは、
82Kr(μ,ν)82Br
83Kr(μ,n ν)82Br
84Kr(μ,2n ν)82Br
である。生成後の82Brを、それぞれ82Kr、83Krまたは84Krから回収するためには、希ガスであるKrが水溶性を示さないのに対し、Brの強い水溶性により、水に接触して通過させることにより回収することができる。すなわち、生成した82Brを含むKrガス原料を水溶液中に通すことにより、82Brを水溶液中に溶解させて回収することができる。
生成されうるBrの同位体は、質量数が79〜84の範囲のものである。82Brの基底状態は半減期35.3時間で、β崩壊により82Krに崩壊する。その際、554keV、619keV、698keV、776keV、828keVのγ線を放出する。
本願の発明者は、82BrはSPECTのための有用なBr同位体であると考えている。82Brの生成には、82Kr、83Kr、84Krの濃縮原料が必要である。その理由は、Krの天然存在比が0.35%(78Kr)、2.25%(80Kr)、11.6%(82Kr)、11.5%(83Kr)、57.0%(84Kr)、17.3%(86Kr)だからである。一方、82Kr、83Kr、84Kr原料の天然存在比の和が80.1%となるので天然Kr原料が使用できる可能性があると予想している。
[3−2−16 81Rb]
ルビジウム(Rb)の同位体のうち86Rb以外に発明者が重要と判断しているものは81Rbである。図60は81Rbについての情報を摘記する説明図である。81Rbを生成するNMCRは、
84Sr(μ,3n ν)81Rb
である。生成されうるRbの同位体は、質量数が81〜84の範囲のものである。81Rbは4.58時間の半減期で81KrへEC崩壊(73%)およびβ崩壊(27%)し、446keVと81Krの核異性体81mKrのITによる190keVのγ線を放出する。本願の発明者は、81Rbは、PETやSPECTに適用できる点で有望な核種と考えている。NMCRのターゲット原料のSrとしては84Srの濃縮原料が必要となる。それは、84Srの天然存在比が0.56%であるためである。なお、82RbのJ=5−の核異性体が生成される可能性があり、その場合には半減期が近いため82Rbの当該核異性体から81Rbを分離しにくいものの、その核異性体の生成は抑制されると考えている。生成した81Rbイオンは、84Srイオンから分離して回収される。
[3−2−17 87mSr]
ストロンチウム(Sr)の同位体のうち89Sr以外に発明者が重要と判断しているものは87mSrである。図61は87mSrについての情報を摘記する説明図である。87mSrを生成するNMCRは、
89Y(μ,2n ν)87mSr
である。生成されうるSrの同位体は、質量数が86〜89の範囲のものである。87mSrはそのほとんど(99.7%)が2.80時間の半減期でITにより基底状態の87Srへ転移し、その際に388keVのみのγ線が放出される。87Srは安定である。87mSrを得るためにはYの濃縮原料は必要ない。その理由は、89Yの天然存在比が100%だからである。同時に生成される89Srから87mSrを分離するためには、ミュオンの照射時間と生成後の冷却時間を調整することが役に立つ。87mSrはSPECTの用途に有望な核種と考えている。生成した87mSrイオンは、89Yイオンから分離して回収される。
[3−2−18 88Yおよび91Y]
イットリウム(Y)の同位体のうち、90Y以外に発明者が重要と判断しているものは88Yおよび91Yである。再び図33を参照して説明する。88Yを生成するNMCRは、
90Zr(μ,2n ν)88
91Zr(μ,3n ν)88
である。91Yを生成するNMCRは、
91Zr(μ,ν)91
92Zr(μ,n ν)91
94Zr(μ,3n ν)91
である。生成されうるYの同位体は、質量数が87〜94の範囲のものである。88Yは106.6日の半減期で99%以上が88SrにECにより崩壊し、その際に1836keV、898keVのγ線が放出される。これに対し91Yは、58.5日の半減期で91Zrにβ崩壊する。その際、わずかに1205keVのγ線が放出される。それぞれのNMCRのターゲット原料には、順に、90Zr、91Zr、91Zr、92Zr、または94Zrの存在比が高められた濃縮原料を採用する。それは、天然存在比が51.45%(90Zr)、11.32%(91Zr)、17.19%(92Zr)、17.28%(94Zr)であるためである。本願の発明者は、88YはSPECTの用途に適用され、また、91YはSPECTまたは放射線治療の用途に適用される点で有望な核種と考えている。生成した88Yおよび91Yイオンは、90Zr、91Zr、または92Zrイオンから分離して回収される。
[3−2−19 94mTc、95mTc、および97mTc]
テクネチウム(Tc)の同位体のうち99mTc以外に発明者が重要と判断しているものは94mTc、95mTc、および97mTcである。図62は94mTcについての情報を摘記する説明図である。また、図63は95mTcおよび97mTcについての情報を摘記する説明図である。94mTc、を生成するNMCRは、
96Ru(μ,2n ν)94mTc
である。95mTcを生成するNMCRは、
96Ru(μ,n ν)95mTc
98Ru(μ,3n ν)95mTc
である。そして97mTcを生成するNMCRは、
98Ru(μ,n ν)97mTc
99Ru(μ,2n ν)97mTc
100Ru(μ,3n ν)97mTc
である。生成されうるTcの同位体は、質量数が93〜100の範囲のものである。
94mTc(J=2+)は、そのほぼ100%が52分の半減期でβ崩壊(72%)およびEC崩壊(28%)により94Moに崩壊する。94Tcは293分の半減期でβ崩壊(11%)およびEC崩壊(89%)により94Moに崩壊する。その際、前者の崩壊では主に871keV、993keV、および1522keVγ線を放出し、後者の崩壊では850keV、703keV、871keV等のγ線が放出される。
95mTc(J=1/2−)は、半減期61日で、96.1%がEC崩壊(95.8%)およびβ崩壊(0.3%)により95Moに崩壊し、その際に204keV、582keV、786keV、820keV、および835keVのγ線が放出される。また、95mTcの3.9%はITにより95Tcに転移しその際に38.9keVのγ線が放出される。なお、95Tcは20時間の半減期で95MoにECにより崩壊する。その際に766keVおよび1074keVのγ線が放出される。
97mTc(J=1/2−)は半減期90日であり、そのほぼ100%がITにより97Tcに転移し、96.5keVのγ線が放出される。なお、97Tcは、2.6×10年の半減期で100%が97MoへECにより崩壊し、その際にγ線は放出されない。
本願の発明者は、94mTcはPETとSPECTの用途に、95mTcおよび97mTcはSPECTの用途に、それぞれ有望な核種と考えている。なお、94mTcを生成するためのNMCRのターゲット原料においてRuは96Ruの濃縮原料が必要となる。また、94mTcは95Tcと混在した状態となる可能性がある。これらを互いに分離するには、照射時間の調節が有効である。また、95mTc、および97mTcを生成するためのNMCRのターゲット原料においてRuは96Ruまたは98Ruの濃縮原料(95mTcを生成する場合)、または、98Ru、99Ru、または100Ruのいずれかの濃縮原料(97mTcを生成する場合)が必要となる。それは、天然存在比が5.52%(96Ru)、1.88%(98Ru)、12.7%(99Ru)、12.6%(100Ru)であるためである。生成した94mTc、95mTcまたは97mTcイオンはRuイオンから分離して回収される。
[3−2−20 103Ru]
ルテニウム(Ru)の同位体のうち発明者が重要と判断しているものは103Ruである。図64は103Ruについての情報を摘記する説明図である。103Ruを生成するNMCRは、を生成するNMCRは、一つには、
103Rh(μ,ν)103Ru
である。このNMCRを利用する場合には、天然原料の103Rh(100%)を利用することができる。生成した103RuイオンはRhイオンから分離して回収することができる。このNMCRにより生成されうるRu同位体は、質量数が100〜103の範囲のものである。このうち、発明者が応用を想定しているのは103Ruである。103Ruは、39.4日の半減期でβ崩壊により103Rhへ崩壊する。この際、39.7keV、497keV、および610keVのγ線が放出される。このγ崩壊には、103Ruの基底状態(J=5/2+)が103Rhの核異性体103mRh(J=7/2+、半減期56.1分)に遷移している成分(39.7keV)が含まれている。この関係はミルキング(放射平衡)の関係であり、103Ruは103mRhのジェネレータのための親核となっている。
103Ruは103Tcを経由することによっても製造することができる。それは、
104Ru(μ,n ν)103Tc
のNMCRを利用する場合である。103Tcイオンは104Ruイオンから分離して回収することができる。この反応によって103Tcを生成すれば、103Tcが親核となって半減期54.2秒にてβ崩壊することによって娘核103Ruが得られる。104Ruからの上記NMCRには濃縮原料が必要である。それは、104Ruの天然存在比が18.7%であるためである。103RuはSPECTの用途に有望である。
[3−2−21 109Pd]
パラジウム(Pd)の同位体のうち発明者が重要と判断しているものは109Pdである。図65は109Pdについての情報を摘記する説明図である。109Pdを生成するNMCRは、一つには、
109Ag(μ,ν)109Pd
である。このNMCRを利用する場合には、109Agを48.17%の存在比で含む天然原料のAgを利用することができる。このNMCRにより生成されうるPdの同位体は、質量数が106〜109の範囲のものである。このうち、発明者が応用を想定しているのは109Pdである。109Pdは、13.43時間の半減期でβ崩壊により109Agへ崩壊する。この際、88keVのγ線が放出される。このγ崩壊は、109Pdの基底状態(J=5/2+)が109Agの核異性体109mAg(J=7/2+、半減期39.8秒)に遷移し、ITにより基底状態に遷移するγ崩壊である。この関係はミルキング(放射平衡)の関係であり、109Pdは109mAgのジェネレータのための親核となっている。
109Pdは109Rhを経由することによっても製造することができる。それは、
110Pd(μ,n ν)109Rh
のNMCRを利用する場合である。この反応によって109Rhを生成すれば、109Rhが親核となって半減期80秒にてβ崩壊することによって娘核109Pdが得られる。生成した109Rhイオンは、110Pdイオンから化学分離し回収することができる。110Pdからの上記NMCRには濃縮原料が必要である。それは、110Pdの天然存在比が11.72%であるためである。
109Pdは、SPECTの用途に適用しうる点で有望である。
[3−2−22 111Ag、112Ag、および113Ag]
銀(Ag)の同位体のうち発明者が重要と判断しているものは111Ag、112Ag、および113Agである。図66は111Agについての情報を摘記する説明図である。また図67は112Agおよび113Agについての情報を摘記する説明図である。111Agを生成するNMCRは、
111Cd(μ,ν)111Ag
112Cd(μ,n ν)111Ag
113Cd(μ,2n ν)111Ag
114Cd(μ,3n ν)111Ag
である。また112Agを生成するNMCRは、
112Cd(μ,ν)112Ag
113Cd(μ,n ν)112Ag
114Cd(μ,2n ν)112Ag
である。そして113Agを生成するNMCRは、
113Cd(μ,ν)113Ag
114Cd(μ,n ν)113Ag
116Cd(μ,3n ν)113Ag
である。
生成されうるAgの同位体は、質量数が108〜116の範囲のものである。111Agは7.45日の半減期で111Cdにβ崩壊し、その際342keV、245keV、96keVのγ線を放出する。NMCRのターゲット原料はCdの天然原料を採用できる可能性がある。なぜなら、ターゲット原料111Cd、112Cd、113Cd、114Cdの天然存在比の和は約78%となり、生成される111Ag以外の同位体の半減期が大きく異なるためである。また、111Agの放射性核種純度を高めるためには、冷却時間を調節することが有効である。111AgはSPECTや放射線治療の用途に有望な核種である。また、生成した111AgイオンはCdイオンから分離して回収される。
112Agは3.12時間の半減期で112Cdにβ崩壊し、その際617keV、607keV、695keVおよび1387keVのγ線を放出する。また、113Agは5.37時間の半減期で113Cdにβ崩壊し、その際298keV、316keV、および259keVのγ線を放出する。NMCRのターゲット原料はCdの天然原料を採用できる可能性がある。なぜなら、照射時間の調整で112Agと113Agとを効率良く生成できるためである。ここで、112Agと113Agとの両者を区別しない放射性核種純度は、他の放射性同位体とはミュオン照射時間の調節により高めることができるものの、112Agと113Agが混在する可能性が高い。112Ag、113Agは、それぞれが単独で、または両者が混在していても、SPECTの用途に有望である。生成した112Agや113AgイオンはCdイオンから分離して回収される。
[3−2−23 115Cd]
カドミウム(Cd)の同位体のうち発明者が重要と判断しているものは115Cdである。図68は115Cdについての情報を摘記する説明図である。115Cdを生成するNMCRは、一つには、
115In(μ,ν)115Cd
である。このNMCRのターゲット原料はInの天然原料を採用できる可能性が高い。なぜなら、115Inの天然存在比は95.7%である。生成した115CdイオンはInイオンから分離して回収される。このNMCRにより生成されうるCdの同位体は、質量数が112〜115の範囲のものである。
115Cdは115Agを経由することによっても製造することができる。それは、
116Cd(μ,n ν)115Ag
のNMCRを利用する場合である。この反応によって115Agを生成すれば、115Agが親核となって半減期20.0分にてβ崩壊することによって娘核115Cdが得られる。116CdからのNMCRには濃縮原料が必要である。それは、116Cdの天然存在比が7.47%であるためである。また、生成した115Agイオンは化学分離によりCdから回収することができる。
生成されうるCdのうち、発明者が応用を想定しているのは115Cdである。115Cdは、53.4時間の半減期でβ崩壊により115Inへ崩壊する。この際、336keV、527keV、および492keVのγ線が放出される。このβ崩壊では、その63%が115mIn(J=1/2−、半減期4.49時間)に崩壊し、ITにより115Inに崩壊する。その際に336keVγ線を放出する。また、115mInはその5%がβ崩壊で115Snに崩壊し、わずかに497keVγ線を放出する。115Cdと115mInは放射平衡(ミルキング)の関係となっている。115Cdイオンから115mInイオンを分離回収すると後述する[3−2−24 113mInおよび115mIn]の115mInを生成することができる。115CdはSPECTや放射線治療の用途に有望である。
[3−2−24 113mInおよび115mIn]
インジウム(In)の同位体のうち111In以外に発明者が重要と判断しているものは113mInおよび115mInである。113mInについては、図35を再び参照して説明する。また、図69は115mInについての情報を摘記する説明図である。113mInを生成するNMCRは、
114Sn(μ,n ν)113mIn
115Sn(μ,2n ν)113mIn
116Sn(μ,3n ν)113mIn
である。これに対し115mInを生成するNMCRは、
115Sn(μ,ν)115mIn
116Sn(μ,n ν)115mIn
117Sn(μ,2n ν)115mIn
118Sn(μ,3n ν)115mIn
である。これらのNMCRによって生成されうるInの同位体は、質量数が111〜118の範囲のものである。113mInは、99.5分の半減期で100%が113InにITにより転移し、その際に391keVのγ線が放出される。また、115mInは、4.49時間の半減期で95%がITにより115Inに転移する。その際、336keVのγ線が放出される。なお115Inはほぼ安定である。また、115mInの残りの5%はβ崩壊で115Snに崩壊し、わずかに497keVγ線を放出する。生成した113mInイオンおよび115mInイオンは、Snイオンから分離して回収される。
113mInおよび115mInは、Snの天然原料をターゲット核種として利用できる可能性が高い。本願の発明者は、113mInおよび115mInは、ともにSPECTの用途において有望な核種と考えている。
[3−2−25 125Iおよび132I]
ヨウ素(I)の同位体のうち、123Iや131I以外に発明者が重要と判断しているものは125Iおよび132Iである。である。再び図37および図38を参照して説明する。125Iを生成するNMCRは、
126Xe(μ,n ν)125
128Xe(μ,3n ν)125
である。また、132Iを生成するNMCRは、
132Xe(μ,ν)132
134Xe(μ,2n ν)132
である。これらのNMCRにおいて生成されうるIの同位体は、質量数が123〜134の範囲のものである。125Iは60.2日の半減期で100%がECにより125Teに崩壊して35.5keVのみのγ線を放出する。132Iは2.28時間の半減期で132Xeにβ崩壊して668keV、773keV、および523keVのγ線を放出する。
いずれのNMCRのためのターゲット原料もXeの固体原料を利用することができる。またいずれも濃縮原料が必要であり、125Iのためには、126Xeまたは128Xeの濃縮原料が、また、132Iのためには132Xeまたは134Xeの濃縮原料が、それぞれ採用される。その理由は、天然存在比が、0.09%(126Xe)、1.91%(128Xe)、26.9%(132Xe)または10.4%(134Xe)であるためである。また、125Iや132Iの放射性核種純度を高めるためには、ミュオンの照射時間およびその後の冷却時間が調節される。
本願の発明者は、125IはSPECTや放射線治療の用途にて、また、132IはSPECTの用途にて有望と考えている。125Iや132Iは、それらを含むXeのガス原料をヨウ化カリウム水溶液などの水溶液中に通すことにより水溶液中に溶解させて回収される。この場合にも、希ガス中のハロゲン元素として水溶液中に回収されるのである。また、ヨウ素はエタノールによく溶けるので、125Iや132Iをエタノール中に溶解させて回収することもできる。
[3−2−26 159Gd]
ガドリニウム(Gd)の同位体のうち発明者が重要と判断しているものは159Gdである。図70は159Gdについての情報を摘記する説明図である。159Gdを生成するNMCRは、一つには、
159Tb(μ,ν)159Gd
である。このNMCRにより生成されうるGdの同位体は、質量数が156〜159の範囲のものである。159Gdは18.6時間の半減期で159Tbにβ崩壊し、その際363keV、58keVのγ線が放出される。NMCRのターゲット原料にはTbの天然原料を採用できる。なぜなら、天然のTbは159Tbのみだからである。159Gdイオンは159Tbイオンから分離して回収される。
また、159Gdは159Euを経由することによっても製造することができる。それは、
160Gd(μ,n ν)159Eu
のNMCRを利用する場合である。この反応によって159Euを生成すれば、159Euが親核となって半減期18.1分にてβ崩壊することによって娘核159Gdが得られる。160GdからのNMCRには濃縮原料が必要である。それは、160Gdの天然存在比が21.86%であるためである。159Euイオンは化学分離により回収することができる。
159GdはSPECTや放射線治療の用途に適用しうる点で有望である。
[3−2−27 165Dy]
ジスプロシウム(Dy)の同位体のうち発明者が重要と判断しているものは165Dyである。図71は165Dyについての情報を摘記する説明図である。165Dyを生成するNMCRは、
165Ho(μ,ν)165Dy
である。生成されうるDyの同位体は、質量数が162〜165の範囲のものである。165Dyは2.33時間の半減期で165Hoにβ崩壊し、その際94.7keVのγ線が放出される。NMCRのターゲット原料にはHoの天然原料を採用できる。なぜなら、天然のHoは165Hoのみだからである。165DyはSPECTの用途に有望である。生成した165Dyイオンは165Hoイオンから分離して回収される。
[3−2−28 166Ho]
ホルミウム(Ho)の同位体のうち発明者が重要と判断しているものは166Hoである。図72は166Hoについての情報を摘記する説明図である。166Hoを生成するNMCRは、
166Er(μ,ν)166Ho
167Er(μ,n ν)166Ho
168Er(μ,2n ν)166Ho
である。生成されうるHoの同位体は、質量数が163〜168の範囲のものである。166Hoは26.8時間の半減期で166Erにβ崩壊し、その際80.6keVのみのγ線を放出する。NMCRのターゲット原料にはErの天然原料を採用できる。なぜなら、ターゲット原料の天然存在比の和が83.3%であり、生成される166Ho以外の同位体の半減期が大きく異なるためである。166HoはSPECTや放射線治療の用途に有望である。生成した166HoイオンをErイオンから分離して回収される。
[3−2−29 169Er]
エルビウム(Er)の同位体のうち発明者が重要と判断しているものは169Erである。図73は169Erについての情報を摘記する説明図である。169Erを生成するNMCRは、一つには、
169Tm(μ,ν)169Er
である。NMCRのターゲット原料にはTmの天然原料を採用できる。なぜなら、169Tmの存在比は100%だからである。169Erイオンは169Tmイオンから分離して回収される。
169Erは169Hoを経由することによっても製造することができる。それは、
170Er(μ,n ν)169Ho
のNMCRを利用する場合である。この反応によって169Hoを生成すれば、169Hoが親核となって半減期4.6分にてβ崩壊することによって娘核169Erが得られる。生成した169Hoイオンは170Erイオンから化学分離される。170ErからのNMCRには濃縮原料が必要である。それは、170Erの天存在比が14.9%であるためである。
生成されうるErの同位体は、質量数が166〜169の範囲のものである。169Erは9.40日の半減期で169Tmにβ崩壊し、その際8.4keVのみのγ線が放出される。169Erは放射線治療の用途に適用しうる点で有望である。
[3−2−30 170Tm]
ツリウム(Tm)の同位体のうち発明者が重要と判断しているものは170Tmである。図74は170Tmについての情報を摘記する説明図である。170Tmを生成するNMCRは、
170Yb(μ,ν)170Tm
171Yb(μ,n ν)170Tm
172Yb(μ,2n ν)170Tm
173Yb(μ,3n ν)170Tm
である。生成されうるTmの同位体は、質量数が167〜173の範囲のものである。170Tmは128.6日の半減期で170Ybに主にβ崩壊し、その際84.3keVのみのγ線が放出される。また、わずかに(0.144%)ECで170Erへ崩壊する。NMCRのターゲット原料にはYbの天然原料を採用できる可能性がある。なぜならターゲット原料の天然存在比の和は55.4%だからである。ただし、170Tmに168Tmまたは171Tmが混在する可能性がある。用途によっては、170Yb、171Yb、172Yb、または173Ybのいずれかの存在比が高められた濃縮原料が必要となる可能性もある。170TmはSPECTや放射線治療の用途に有望である。生成した170TmイオンはYbイオンから分離して回収される。
[3−2−31 175Yb]
イッテルビウム(Yb)の同位体のうち発明者が重要と判断しているものは175Ybである。図75は175Ybについての情報を摘記する説明図である。175Ybを生成するNMCRは、例えば、
175Lu(μ,ν)175Yb
176Lu(μ,n ν)175Yb
である。NMCRのターゲット原料にはLuの天然原料を採用できる。なぜなら、存在比は、175Luが97.4%、175Luが2.6%だからである。175Ybイオンは、175Luおよび176Luイオンから分離して回収される。生成されうるYbの同位体は、質量数が172〜176の範囲のものである。175Ybは4.19日の半減期で175Luにβ崩壊し、その際396keV、283keV、および114keVのγ線が放出される。
175Ybは175Tmを経由することによっても製造することができる。それは、
176Yb(μ,n ν)175Tm
のNMCRを利用する場合である。この反応によって175Tmを生成すれば、175Tmが親核となって半減期15.2分にてβ崩壊することによって娘核175Ybが得られる。生成した175Tmイオンは176Ybイオンから化学分離される。175LuからのNMCRには濃縮原料が必要である。それは、176Ybの天然存在比が12.7%であるためである。
175YbはSPECTや放射線治療の用途に有望である。
[3−2−32 177Lu]
ルテチウム(Lu)の同位体のうち発明者が重要と判断しているものは177Luである。図76は177Luについての情報を摘記する説明図である。177Luを生成するNMCRは、
177Hf(μ,ν)177Lu
178Hf(μ,n ν)177Lu
179Hf(μ,2n ν)177Lu
180Hf(μ,3n ν)177Lu
である。生成されうるLuの同位体は、質量数が174〜180の範囲のものである。177Luは6.71日の半減期で177Hfにβ崩壊し、その際208keV、113keVのγ線を放出する。NMCRのターゲット原料にはHfの天然原料を採用できる。なぜなら、生成されるLuの同位体は短半減期のものか長半減期のものだからである。177LuはSPECTや放射線治療の用途に適用可能である点で有望である。
[3−2−33 194Ir]
イリジウム(Ir)の同位体のうち発明者が重要と判断しているものは194Irである。図77は194Irについての情報を摘記する説明図である。194Irを生成するNMCRは、
194Pt(μ,ν)194Ir
195Pt(μ,n ν)194Ir
196Pt(μ,2n ν)194Ir
である。生成されうるIrの同位体は、質量数が191〜196の範囲のものである。194Irは19.2時間の半減期で194Ptにβ崩壊し、その際328keVおよび294keV等のγ線を放出する。NMCRのターゲット原料にはPtの天然原料を採用できるであろう。なぜなら、194Irは、他のIrの同位体からミュオンの照射時間およびその後の冷却時間を調節することにより分離できる可能性が高いからである。194IrはSPECTや放射線治療の用途に適用可能である点で有望である。生成した194IrイオンはPtイオンから分離して回収される。
[3−2−34 198Auおよび199Au]
金(Au)の同位体のうち発明者が重要と判断しているものは198Auおよび199Auである。図78は198Auおよび199Auについての情報を摘記する説明図である。198Auを生成するNMCRは、
198Hg(μ,ν)198Au
199Hg(μ,n ν)198Au
200Hg(μ,2n ν)198Au
201Hg(μ,3n ν)198Au
である。また、199Auを生成するNMCRは、
199Hg(μ,ν)199Au
200Hg(μ,n ν)199Au
201Hg(μ,2n ν)199Au
202Hg(μ,3n ν)199Au
である。生成されうるAuの同位体は、質量数が195〜202の範囲のものである。198Auの核異性体である198mAuは、J=(12−)であるので生成確率は低いと考えられるものの、2.3日の半減期で基底状態198AuにITでγ崩壊する。その際、115keV、180keV、204keV、97keV、および215keVのγ線が放出される。その基底状態198Auも、半減期2.7日でβ崩壊により198Hgに崩壊する。その際412keV、676keVのγ線が放出される。
199Auは、3.14日の半減期でβ崩壊により199Hgに崩壊し、その際、208keV、49.8keV、158keVのγ線が放出される。
本願の発明者は、198Auおよび199Auは、ともにSPECTや放射線治療の用途で、有望な核種と考えている。NMCRのターゲット原料には、Hgの天然原料を採用することができる。ただし、198Auと199Auは混在する可能性がある。また、196Au(半減期6.18日)の混在の可能性もあるものの、その生成量は少ないと予想している。これら以外のAuの同位体は放射性を示すものは短半減期か長半減期である。生成した198Auイオンや199AuイオンはHgイオンから分離して回収される。
[3−2−35 203Hg]
水銀(Hg)の同位体のうち発明者が重要と判断しているものは203Hgである。図79は203Hgについての情報を摘記する説明図である。203Hgを生成するNMCRは、
203Tl(μ,ν)203Hg
205Tl(μ,2n ν)203Hg
である。生成されうるHgの同位体は、質量数が200〜205の範囲のものである。
203Hgは203Auを経由することによっても製造することができる。それは、
204Hg(μ,n ν)203Au
のNMCRを利用する場合である。この反応によって203Auを生成すれば、203Auが親核となって半減期53秒にてβ崩壊することによって娘核203Hgが得られる。生成した203Auイオンは204Hgイオンから化学分離される。204HgからのNMCRには濃縮原料が必要である。それは、204Hgの天然存在比が6.8%であるためである。203Hgは46.8日の半減期で203Tlにβ崩壊し、その際279keVのみのγ線を放出する。NMCRのターゲット核種となるTlは天然原料を採用できる。なぜなら、天然存在比が203Tlと205Tlの合計で100%だからである。また、205Hgが生成されたとしても、ミュオンの照射後の冷却時間を調節することにより203Hgのみとすることができる。203HgはSPECTの用途に適用しうる点で有望である。生成した203Hgイオンを203Tl、205Tlイオンから分離して回収される。
[3−3 放射性核種の各論(核種グループ3)]
[3−3−1 22Na]
ナトリウム(Na)の同位体のうち発明者が応用を想定しうると予測しているものは22Naである。図80は22Naについての情報を摘記する説明図である。22Naを生成するNMCRは、
24Mg(μ,2n ν)22Na
25Mg(μ,3n ν)22Na
である。NMCRのターゲット核種となるMgは天然原料を採用できる。なぜなら、天然存在比が78.99%(24Mg)、10.00%(25Mg)、11.01%(26Mg)だからである。また、Mgの原子番号が小さいことから、NMCRにおける原子核捕獲確率が小さくなるものの、高い確度で22Naを生成することができる。
生成されうるNaの同位体は、質量数が21〜25の範囲のものである。22Naは2.6年の半減期でβ崩壊(90.5%)およびEC(9.5%)により22Neに崩壊し、その際1.275MeVのみのγ線を放出する。22Naは半減期が長いという難点があるものの、PETやSPECTの用途に有望である。生成した22Naイオンは、Mgイオンから分離して回収される。
[3−3−2 31Si]
ケイ素(Si)の同位体のうち発明者が応用を想定しうると予測しているものは31Siである。図81は31Siについての情報を摘記する説明図である。31Siを生成するNMCRは、
31P(μ,ν)31Si
である。このNMCRのターゲット原料にはPの天然原料が使用できる。なぜなら、31Pの天然存在比が100%だからである。また、Pの原子番号が小さいことから、NMCRにおける原子核捕獲確率が小さくなるものの、高い確度で31Siを生成することができる。
生成されうるSiの同位体は、質量数が28〜31の範囲のものである。31Siは、2.62時間の半減期でその99.93%がβ崩壊により31Pの基底状態へ崩壊する。残りのβ崩壊(0.07%)でわずかに1266keVのみのγ線が放出される。31Siは放射線治療やSPECTの用途に適用しうる点で有望である。生成した31Siイオンは31Pイオンから分離して回収される。
[3−3−3 38K]
カリウム(K)の同位体のうち42K、43K以外に発明者が応用を想定しうると予測しているものは38Kである。図82は38Kについての情報を摘記する説明図である。38Kを生成するNMCRは、
40Ca(μ,2n ν)38
である。このNMCRのターゲット原料にはCaの天然原料が使用できる可能性が高い。なぜなら、40Caの天然存在比が96.941%だからである。また、Caの原子番号が小さいことから、NMCRにおける原子核捕獲確率が小さくなるものの、高い確度で38Kを生成することができる。
生成されうるKの同位体は、質量数が37〜40の範囲のものである。38Kは、7.61分の半減期でβ崩壊により48Arへ崩壊する。その際、主に2.167MeVのγ線が放出される。38KはPETやSPECTの用途に適用しうる点で有望である。生成した38KイオンはCaイオンから分離して回収される。
[3−3−4 47Ca]
カルシウム(Ca)の同位体のうち45Ca以外に発明者が応用を想定しうると予測しているものは47Caである。図83は47Caについての情報を摘記する説明図である。47Caは47Kを経由して生成される。47Kを生成するNMCRは、
48Ca(μ,n ν)47
である。この反応によって47Kを生成すれば、47Kが親核となって半減期17.5秒にてβ崩壊することによって娘核として47Caが得られる。この47Caイオンは、47Kイオンから化学分離により回収される。48Ca(μ,3n ν)45K 反応で生成する45Kが、半減期17.8分でβ崩壊して45Caを生成する可能性があるものの、その量は限定的と予想している。なお、48CaからのNMCRのターゲット原料には48Caの濃縮原料が必要となる。なぜなら、48Caの天然存在比が0.187%に過ぎないからである。また、Caの原子番号が小さいことから、NMCRにおける原子核捕獲確率が小さくなるものの、高い確度で47K、そして47Caを生成することができる。
生成されうるCaの同位体は、質量数が45〜48の範囲のものである。47Caは、4.54日の半減期でβ崩壊により47Scへ崩壊する。その際1297keV、489keV、および808keVのγ線が放出される。さらに47Scは3.42日の半減期でβ崩壊により47Tiに崩壊する。その際、159keVのみのγ線放出をする。ここでは47Caは47Scの親核となっている。47CaはSPECTや放射性検査薬の用途に適用しうる点で有望である。生成した47Kイオンを48Caイオンから分離して回収することにより、47Caが製造される。
[3−3−5 55Co−(55Fe)]
コバルト(Co)の同位体のうち57Co以外に発明者が応用を想定しうると予測しているものは55Coである。図84は55Coについての情報を摘記する説明図である。なお、55Coを親核として娘核として生成される55Feについても併せて説明する。55Coを生成するNMCRは、
58Ni(μ,3n ν)55Co
である。ターゲット原料には、Niの天然原料を採用することができる可能性がある。なお、58Niの天然存在比は68.27%である。また、55Co以外の放射性同位体も生成される可能性があるものの、ミュオン照射時間およびその後の冷却時間を調節して55Coの比率を用途からの要求に合わせられる可能性がある。また、特に58Niの存在比を高めた濃縮原料を採用することと、短時間のみ照射することとを組み合わせれば、55Coの放射性核種純度をより高めることができるであろう。
生成されうるCoの同位体は、質量数が55〜58の範囲のものである。55Coは、17.5時間の半減期でEC(23%)およびβ(77%)崩壊により55Feへ崩壊する。その際931keV、477keV、および1408keVのγ線が放出される。55Feは、2.7年の半減期で100%がECにより55Mnへ崩壊する。この崩壊の際にはγ線は放出されないものの、Mnからは約5.9keVの特性KαX線が放出される。
55CoはPETやSPECTの用途に有望である。また、55Coは、55Feを生成する親核としても有用である。この55Feは、その半減期が長いことが難点であるものの、特性X線を利用した放射線治療や放射性検査薬への応用の可能性を予想している。生成した55CoイオンはNiイオンから分離して回収される。
[3−3−6 65Ni]
ニッケル(Ni)の同位体のうち発明者が応用を想定しうると予測しているものは65Niである。図85は65Niについての情報を摘記する説明図である。65Niを生成するNMCRは、
65Cu(μ,ν)65Ni
である。ターゲット原料には、Cuの天然原料を採用することができる。Cuの天然存在比が、69.17%(63Cu)および30.83%(65Cu)であるものの、63Cuから出発するNMCRからは、63Ni(半減期100年)以外の放射性核種が生成されないためである。
生成されうるCuの同位体は、質量数が62〜65の範囲のものである。65Niは、2.52時間の半減期でβ崩壊にて65Cuへ崩壊する。その際1481keV、1115keV、および366keVのγ線が放出される。65NiはSPECTの用途に適用されうる点で有望である。生成した65NiイオンはCuイオンから分離して回収される。
[3−3−7 61Cu]
銅(Cu)の同位体のうち64Cuおよび67Cu以外に発明者が応用を想定しうると予測しているものの一つが61Cuである。図86は61Cuについての情報を摘記する説明図である。61Cuを生成するNMCRは、
64Zn(μ,3n ν)61Cu
である。ターゲット原料には、64Znの濃縮原料が必要である。それは、64Znの天然存在比は48.6%であるためである。その場合であっても、61Cu、62Cu、64Cuが混在する可能性がある。この混在が問題となる用途では、ミュオン照射時間およびその後の冷却時間を調節して61Cuの比率を用途からの要求に合わせることが有用である。
生成されうるCuの同位体は、質量数が61〜64の範囲のものである。61Cuは、3.41時間の半減期でEC(38%)およびβ(62%)崩壊にて61Niに崩壊し、その際283keV、656keV、67keV、および1186keVのγ線が放出される。61CuはPETやSPECTの用途に有望である。生成した61Cuイオンは64Znイオンから分離して回収される。
[3−3−8 62Cu]
銅(Cu)の同位体のうち上述したもの以外に発明者が応用を想定しうると予測しているものの一つが62Cuである。図87は62Cuについての情報を摘記する説明図である。62Cuを生成するNMCRは、
64Zn(μ,2n ν)62Cu
である。ターゲット原料には、64Znの濃縮原料が必要である。それは、64Znの天然存在比が48.6%であるためである。
生成されうるCuの同位体は、質量数が61〜64の範囲のものである。62Cuは、9.73分の半減期でEC(2.2%)およびβ(97.8%)崩壊にて62Niに崩壊し、その際1173keVおよび876keVのγ線が放出される。62CuはPETやSPECTの用途に適用しうる点で有望である。生成した62Cuイオンは64Znイオンから分離して回収される。
[3−3−9 71mZn]
亜鉛(Zn)の同位体のうち69mZn以外に発明者が応用を想定しうると予測しているものは71mZnである。図88は71mZnについての情報を摘記する説明図である。71mZnを生成するNMCRは、
71Ga(μ,ν)71mZn
である。ターゲット原料には、Gaの天然原料を利用することができる。その理由は、Gaの天然存在比が60.1%(69Ga)および39.9%(71Ga)だからである。なお、69mZnが混在する可能性があるものの、照射時間の調整で、その混在を少なくすることができる。
生成されうるZnの同位体は、質量数が68〜71の範囲のものである。71Znは、J=9/2+の核異性体71mZnが、3.9時間の半減期で71Gaにβ崩壊し、その際に386keV、487keV、および620keV等のγ線が放出される。基底状態(J=1/2−)の71Znは、2.4分の半減期で71Gaにβ崩壊し、その際に512keV、910keV、および390keVのγ線が放出される。本願の発明者は、71mZnはSPECTの用途に適用しうる点で有望であると考えている。生成した71mZnイオンはGaイオンから分離して回収される。
[3−3−10 72Ga、73Ga]
ガリウム(Ga)の同位体のうち67Ga、68Ga以外に発明者が応用を想定しうると予測しているものは72Gaおよび73Gaである。図89は72Gaおよび73Gaについての情報を摘記する説明図である。72Gaを生成するNMCRは、
72Ge(μ,ν)72Ga
73Ge(μ,n ν)72Ga
74Ge(μ,2n ν)72Ga
である。また、73Gaを生成するNMCRは、
73Ge(μ,ν)73Ga
74Ge(μ,n ν)73Ga
76Ge(μ,3n ν)73Ga
である。これらのターゲット原料には、Geの天然原料を利用することができる。その理由は、Geの天然存在比が20.5%(70Ge)、27.4%(72Ge)、7.8%(73Ge)、36.5%(74Ge)、7.8%(76Ge)だからである。
生成されうるGaの同位体は、質量数が69〜76の範囲のものである。72Gaは、14.1時間の半減期で72Geへβ崩壊し、その際に834keV、630keV等のγ線が放出される。73Gaも、4.86時間の半減期で73Geへβ崩壊し、その際に53keV、297keV、および326keVのγ線が放出される。
本願の発明者は、72Gaおよび73Gaは、ともにSPECTの用途にて有望であると考えている。なお、天然のGeをターゲットとする場合には、72Gaと73Gaとが混在する可能性がある。その場合には、ミュオン照射時間およびその後の冷却時間を調節して72Gaおよび73Gaの比率を用途からの要求に合わせることが有用である。生成した72Gaイオンおよび73Gaイオンは、Geイオンから分離して回収される。
[3−3−11 75Ge]
ゲルマニウム(Ge)の同位体のうち発明者が応用を想定しうると予測しているものは75Geである。図90は75Geについての情報を摘記する説明図である。75Geを製造するためのNMCRは、一つには、
75As(μ,ν)75Ge
である。この反応の原料にはAsの天然原料を採用することができる。なぜなら、Asの天然存在比は75Asが100%だからである。75Geは75Gaを経由することによっても製造することもできる。それは、
76Ge(μ,n ν)75Ga
のNMCRを利用する場合である。生成された75Gaは化学分離により回収する。この反応によって75Gaを生成すれば、75Gaが親核となって半減期2.1分にてβ崩壊することによって娘核75Geが得られる。ターゲット原料には、76Geの濃縮原料が必要である。それは、76Geの天然存在比が7.8%であるためである。
最終的に生成されうるGeの同位体は、質量数が72〜75の範囲のものである。75Geは、82.8分の半減期でβ崩壊により75Asに崩壊する。その際、265keVおよび199keV等のγ線が放出される。本願の発明者は、75GeはSPECTの用途に適用しうる点で有望と考えている。生成した75Geイオンは75Asイオンから分離して回収される。
[3−3−12 76Brおよび83Br−(83mKr)]
臭素(Br)の同位体のうち、77Brおよび82Br以外に発明者が応用を想定しうると予測しているものは76Brおよび83Brである。図91は76Brおよび83Brについての情報を摘記する説明図である。76Brを生成するNMCRは、
78Kr(μ,2n ν)76Br
である。これに対し、83Brを生成するNMCRは、
83Kr(μ,ν)83Br
84Kr(μ,n ν)83Br
86Kr(μ,3n ν)83Br
である。生成後の76Brおよび83Brを、それぞれ78Krや83Kr、84Kr、86Krから回収するためには、希ガスであるKrが水溶性を示さないのに対し、Brの強い水溶性により、水に接触して通過させることにより回収することができる。すなわち、生成した76Brおよび83Brを含むKrガス原料を水溶液中に通すことにより、76Brおよび83Brを水溶液中に溶解させて回収することができる。
生成されうるBrの同位体は、質量数が75〜86の範囲のものである。76Brは半減期16.1時間で、β崩壊(57%)およびEC(43%)で76Se(安定)に崩壊する。その際、559keV、563keV、および657keVのγ線を放出する。83Brは半減期2.39時間で、β崩壊により83Krに崩壊し、その98.6%が83Krの核異性体83mKr(J=1/2−)に崩壊する。83mKrは、半減期は1.83時間で、ITにより83Kr(安定)に崩壊する。その際、32keVと9keVのγ線を放出する。73Brは83mKrの親核となっていて、83Brと83mKrとはミルキング(放射平衡)の関係になっている。
本願の発明者は、76Brおよび83Brも有望なBr同位体であると考えている。76Brは、PETやSPECTのための有用な核種となる。また83Brは、SPECTの用途に有望な83mKrを生成するための親核となる点で有用である。76Brおよび83Brの生成には、78Kr、83Kr、84Kr、86Krの濃縮原料が必要である。その理由は、Krの天然存在比が0.35%(78Kr)、2.25%(80Kr)、11.6%(82Kr)、11.5%(83Kr)、57.0%(84Kr)、17.3%(86Kr)だからである。一方、83Brの場合は、83Kr、84Kr、86Krの天然存在比の和が75.8%となるので、天然Kr原料が使用できる可能性があると予想している。
[3−3−13 80mBr、85Br−(85mKr)]
臭素(Br)の同位体のうち、76Br、77Br、82Br、83Br以外に発明者が応用を想定しうると予測しているものは80mBrおよび85Brである。図92は80mBrおよび85Brについての情報を摘記する説明図である。80mBrを生成するNMCRは、
80Kr(μ,ν)80mBr
82Kr(μ,2n ν)80mBr
である。これに対し、85Brを生成するNMCRは、
86Kr(μ,n ν)85Br
である。生成後の80mBrおよび85Brを、それぞれ82Krおよび80Kr、ならびに86Krから回収するためには、希ガスであるKrが水溶性を示さないのに対し、Brの強い水溶性により、水に接触して通過させることにより回収することができる。すなわち、生成した80mBrおよび85Brを含むKrガス原料を水溶液中に通すことにより、80mBrおよび85Brを水溶液中に溶解させて回収することができる。
生成されうるBrの同位体は、質量数が77〜86の範囲のものである。80Brの核異性体である80mBrは半減期4.42時間で、その100%が基底状態へITにより遷移する。その際、49keVおよび37keVのγ線を放出する。80Brの基底状態は半減期17.6分で、その8.3%がβ崩壊およびEC崩壊により80Seに崩壊し、666keVのγ線を放出する。80Brの基底状態の残りの91.7%はβ崩壊により80Krに崩壊し、その際に616keVのγ線を放出する。85Brは2.9分の半減期で85mKrにβ崩壊する。85mKr(J=1/2−)は、4.48時間の半減期であり、その21%がITにより85Kr(J=9/2+、半減期10.7年)に転移し、305keVのγ線が放出される。85mKrの79%はβ崩壊により85Rbに崩壊する。その際、151keVのγ線が放出される。
本願の発明者は、有望なBr同位体が80mBrおよび85Brであると考えている。80mBrは、PETやSPECTのための核種となる。また85Brは、SPECTの用途に有望な85mKrを生成するための親核となる点で有用である。80mBrおよび85Brを生成するNMCRには、80Kr、82Kr、86Krの濃縮原料が必要である。その理由は、Krの天然存在比が0.35%(78Kr)、2.25%(80Kr)、11.6%(82Kr)、11.5%(83Kr)、57.0%(84Kr)、17.3%(86Kr)だからである。
[3−3−14 83Rb]
ルビジウム(Rb)の同位体のうち発明者が応用を想定しうると予測しているものの一つが83Rbである。図93は83Rbについての情報を摘記する説明図である。83Rbを生成するNMCRは、
84Sr(μ,n ν)83Rb
である。生成されうるRbの同位体は質量数が81〜84の範囲のものである。83Rbは、86.2日の半減期で100%が83KrにEC崩壊して32keV、520keV、530keV、および553keVのγ線を放出する。このγ崩壊で83Krの核異性体83mKr(J=1/2−)が生成され、その半減期は1.83時間である。83mKrはITで32keVと9keVのγ線を放出して83Krに崩壊する。83Rbと83mKrはミルキング(放射平衡)の関係となっている。分離した83Rbから発生する83mKr気体を低温収集装置等で回収すると83mKrが生成できる。
本願の発明者は、83RbはSPECTの用途として有望な核種と考えている。また、84Srの存在比を高めた濃縮原料が必要であると考えている。これらの理由は、84Srの天然存在比が0.56%だからである。生成した83Rbイオンは84Srイオンから分離して回収される。
[3−3−15 84Rb]
ルビジウム(Rb)の同位体のうち81Rb、83Rb、86Rb以外に発明者が応用を想定しうると予測しているものは84Rbである。図94は84Rbについての情報を摘記する説明図である。84Rbを生成するNMCRは、
84Sr(μ,ν)84Rb
86Sr(μ,2n ν)84Rb
である。生成されうるRbの同位体は、質量数が81〜86の範囲のものである。84Rbは、32.9日の半減期で97%が84KrにEC(75%)およびβ(22%)崩壊して主として881keVのγ線を放出し、84Rbの3%がγ線を放出せずに84Srにβ崩壊する。
本願の発明者は、84RbはPETやSPECTの用途に有望な核種と考えている。また、Srの濃縮原料が必要となると考えている。その理由は、天然存在比が、0.56%(84Sr)、9.86%(86Sr)、7.00%(87Sr)、82.58%(88Sr)だからである。ただし、86Rb(半減期18.7日)が混在する可能性がある。生成した84Rbイオンは、84Srイオンまたは86Srイオンから分離して回収される。
[3−3−16 89Zr]
ジルコニウム(Zr)の同位体のうち発明者が応用を想定しうると予測しているものの一つが89Zrである。図95は89Zrについての情報を摘記する説明図である。89Zrは、89Nbを経由して生成される。89Nbを生成するNMCRは、
92Mo(μ,3n ν)89Nb
である。この反応によって89Nbを生成すれば、89Nbが親核となって半減期2.0時間にてβおよびEC崩壊することによって娘核として89Zrが得られる。この89Zrは、化学分離により回収される。なお、92MoからのNMCRには92Moの濃縮原料が必要である。なぜなら、その天然存在比が14.84%だからである。
生成されうるZrの同位体は、質量数が89〜92の範囲のものである。89Zrは78.4時間の半減期でEC(77.7%)およびβ(22.3%)崩壊により89Yに崩壊し、その際に909keVのγ線が放出される。なお、89Yは安定である。本願の発明者は、89ZrはPETやSPECTの用途に有望な核種であると考えている。生成した89Nbイオンは92Moイオンから分離し回収される。その89Nbから89Zrが生成される。または、89Zrイオンを92Moイオンから分離し回収することもできる。
[3−3−17 95Zr]
ジルコニウム(Zr)の同位体のうち、89Zr以外に発明者が応用を想定しうると予測しているものは95Zrである。図96は95Zrについての情報を摘記する説明図である。95Zrは、95Yを経由して生成される。95Yを生成するNMCRは、
96Zr(μ,n ν)95
である。この反応によって95Yを生成すれば、95Yが親核となって半減期10.3分にてβ崩壊することによって娘核として95Zrが得られる。この95Yは、化学分離により回収される。なお、96ZrからのNMCRには96Zrの濃縮原料が必要である。なぜなら、その天然存在比が2.76%だからである。
生成されうるZrの同位体は、質量数が93〜96の範囲のものである。95Zrは64.0日の半減期でβ崩壊により95Nbに崩壊し、その際に757keVおよび724keVのγ線が放出される。その95Nbはさらに35.0日の半減期でβ崩壊により95Moに崩壊し、その際に766keVのみのγ線が放出される。なお、95Moは安定である。生成した95Yイオンは96Zrイオンから分離して回収されることにより、95Zrが製造される。
本願の発明者は、95ZrはSPECTの用途に有望な核種であると考えている。95Zrと娘核95Nbとはミルキング(放射平衡)により95Nbを製造しうる関係となっている。ただし、95Zrの半減期が64.0日と長いことから、時間をおいて複数回ミルキングする際の時間間隔を短くすると95Nbの放射能が回復しにくいという難点がある。なお、上記NMCRは、95Nbを生成する手法としても有用である。この点については、3−3−20にて後述する。
[3−3−18 90Nb]
ニオブ(Nb)の同位体のうち発明者が応用を想定しうると予測しているものの一つが90Nbである。図97は90Nbについての情報を摘記する説明図である。90Nbを生成するNMCRは、
92Mo(μ,2n ν)90Nb
である。生成されうるNbの同位体は、質量数が89〜92の範囲のものである。90Nbは、14.6時間の半減期でEC崩壊(47%)およびβ崩壊(53%)により90Zrに崩壊し、その際に多数種のエネルギーのγ線(141keV、1129keV、2319keV等)が放出される
NMCRのターゲット核種となる92Moは天然存在比が14.84%であり、濃縮原料を採用する必要がある。89Nbが同時に生成されるものの、冷却時間を調整して減衰させることができる。本願発明者は、90NbがPETやSPECTに利用することができると考えている。生成した90Nbイオンは92Moイオンから分離回収される。
[3−3−19 92mNb]
ニオブ(Nb)の同位体のうち90Nb以外に発明者が応用を想定しうると予測している別のものは92mNbである。図98は92mNbについての情報を摘記する説明図である。92mNbを生成するNMCRは、
92Mo(μ,ν)92mNb
94Mo(μ,2n ν)92mNb
である。生成されうるNbの同位体は、質量数が89〜94の範囲のものである。92mNb(J=2+)は、10.15日の半減期により、99.94%がECにて92Zrに崩壊し、その際に、935keV、912keV、1847keVのγ線が放出される。なお、基底状態である92Nbは、3.6×10年程度の半減期を有し十分に安定である。
NMCRのターゲット核種となる92Moおよび94Moはそれぞれの天然存在比が14.84%および9.25%であり、濃縮原料が必要となる可能性が高い。本願発明者は、92mNbはSPECTの用途に有望であると考えている。生成した92mNbイオンは92Moイオンまたは94Moイオンから分離して回収される。
[3−3−20 95mNb]
ニオブ(Nb)の同位体のうち90Nb、92mNb以外に発明者が応用を想定しうると予測しているものは95mNbである。図99は95mNbについての情報を摘記する説明図である。95mNbを生成するNMCRは、
95Mo(μ,ν)95mNb
96Mo(μ,n ν)95mNb
97Mo(μ,2n ν)95mNb
98Mo(μ,3n ν)95mNb
である。生成されうるNbの同位体は、質量数が92〜98の範囲のものである。95mNb(J=1/2−)は、86.6時間の半減期により、97.5%がITにて95Nbに崩壊し、236keVのγ線を放出する。また、その残りの2.5%がβ崩壊で95Moに崩壊し、204keVのγ線を放出する。また、基底状態である95Nbは、34.97日の半減期で、β崩壊により95Moに崩壊し、766keVのみのγ線を放出する。Moは天然原料を採用することができる可能性が高い。同時に生成されるNb同位元素は短半減期か長半減期であるため、95mNbの生成効率を高めることができるためである。
本願発明者は、95mNbはSPECTの用途に有望であると考えている。生成した95mNbイオンはMoイオンから分離して回収される。
上記NMCR以外にも、(3−3−17 95Zr)の欄にて説明した95Zrの娘核として95Nbの生成を行うこともできる。すなわち、95Y−95Zr−95Nb−95Moという放射性崩壊の系列を利用するのである。興味あることは、95Zrと95Nbとの関係がミルキング(放射平衡)により95Nbを製造しうる関係となっていることである。ただし(3−3−17)の欄にて上述したとおり、95Nbを生成する効率は95Zrの半減期が64.0日と長いことから必ずしも高くない。
なお、上記95Y−95Zr−95Nb−95Moの放射性崩壊系列のうち、95Yについては、10.3分と半減期が短く、例えば医学目的に適用しうる用途は限定的なものと本願の発明者は推測している。
[3−3−21 110In]
インジウム(In)の同位体のうち111In、113mInおよび115mIn以外に発明者が応用を想定しうると予測しているものは110Inである。図100は110Inについての情報を摘記する説明図である。110Inを生成するNMCRは、
112Sn(μ,2n ν)110In
である。このNMCRによって生成されうるInの同位体は、質量数が109〜112の範囲のものである。110In(J=2+)は、69分の半減期で100%がβおよびEC崩壊により110Cdへ転移し、その際に主に657keVのγ線が放出される。生成した110Inイオンは、112Snイオンから分離して回収される。
110Inの生成には112Snの濃縮原料をターゲットが必要である。それは、112Snの天然存在比が1.0%であるためである。本願の発明者は、110InはPETやSPECTの用途において有望な核種と考えている。
[3−3−22 119mSn]
スズ(Sn)の同位体のうち、117mSn以外に発明者が応用を想定しうると予測しているものの一つが119mSnである。図101は119mSnについての情報を摘記する説明図である。119mSnを製造するためのNMCRは、一つには、
121Sb(μ,2n ν)119mSn
である。119mSnイオンは121Sbイオンから分離して回収される。
119mSnは119Inを経由することによっても製造することができる。それは、
120Sn(μ,n ν)119In
のNMCRを利用する場合である。生成された119Inイオンは120Snイオンから分離して回収される。この反応によって119In(基底状態、J=9/2+)を生成すれば、119Inが親核となって半減期2.1分にてβ崩壊することによって娘核119mSnが得られる。
生成されうるSnの同位体は、質量数が118〜121の範囲のものである。119Snの基底状態(J=1/2+)は安定であるものの、119mSn(J=11/2−)は、250日の半減期で100%が119SnにITにより転移する。その際、66keVおよび24keVのγ線が放出される。
本願の発明者は、119mSnはSPECTに適用されうる点で有望と考えている。なお、119mSnをNMCRにより直接製造する場合には、Sbの天然原料を採用することができる。その理由は一つにはSbの天然存在比が、57.3%(121Sb)および42.7%(123Sb)だからである。もう一つ、後述する121Snおよび123mSnが同時に生成されるものの、冷却時間の調節によりこれらによる放射線は減衰させることができるからである。
また、119Inを経由して119mSnを製造するためのターゲット原料として120Snの濃縮原料が必要である。それは、120Snの天然存在比が32.4%であるためである。
[3−3−23 121Snおよび123mSn]
スズ(Sn)の同位体のうち発明者が応用を想定しうると予測している別のものは121Snおよび123mSnである。図102は121Snおよび123mSnについての情報を摘記する説明図である。一方の121Snを製造するためのNMCRは、
121Sb(μ,ν)121Sn
123Sb(μ,2n ν)121Sn
である。121SnイオンはSbイオンから分離して回収される。
121Snは121Inを経由して製造することもできる。それは、
122Sn(μ,n ν)121In
のNMCRを利用する場合である。生成された121Inイオンは122Snイオンから分離して回収される。この反応によって121Inを生成すれば、121In(J=1/2−)が親核となって半減期3.8分にてβ崩壊することによって娘核121Snが得られる。
他方の123mSnを製造するためのNMCRは、一つには、
123Sb(μ,ν)123mSn
である。123mSnイオンもSbイオンから分離して回収される。
123mSnも123Inを経由して製造することもできる。それは、
124Sn(μ,n ν)123In
のNMCRを利用する場合である。生成された123Inは化学分離により回収する。この反応によって123Inを生成すれば、123In(J=1/2−)が親核となって半減期48秒にてβ崩壊することによって娘核123mSnが得られる。
最終的に生成されうるSnの同位体は、質量数が118〜123の範囲のものである。121SnはJ=3/2+の基底状態から、27.1時間の半減期で121Sbにβ崩壊する。その際にγ線は放出されない。また、J=3/2+の核異性体である123mSnが40.1分の半減期でβ崩壊によって123Sbに崩壊し、その際に160keVのγ線が放出される。なお、123Snの基底状態(J=11/2−)は、半減期が129日で123Sbにβ崩壊し、その際にはγ線を殆ど放出しない。
本願の発明者は、121Snは放射線治療に適用される点で、また、123mSnはSPECTや放射線治療に適用される点で有望と考えている。なお、121Snまたは123mSnをNMCRにより直接製造する場合には、Sbの天然原料を採用することができる。その理由は一つにはSbの天然存在比が、57.3%(121Sb)および42.7%(123Sb)だからである。もう一つは、先述した119mSnが同時に生成されるものの、その生成速度が遅いため、ミュオン照射時間の調節により119mSnの生成は抑制できるためである。ただし、その場合であっても、121Snと123mSnとが混在する可能性があるので、照射時間と冷却時間の調整をする。また、121Snまたは123mSnを、それぞれ、121Inまたは123Inを経由して製造するためのターゲット原料には、Snの濃縮原料が必要である。それは、122Snおよび124Snの天然存在比が、4.6%および5.6%であるためである。
[3−3−24 121Te]
テルル(Te)の同位体のうち発明者が応用を想定しうると予測しているものは121Teである。図103は121Teについての情報を摘記する説明図である。121Teは、121Iを経由して生成される。121Iを生成するNMCRは、
124Xe(μ,3n ν)121
である。この反応によって121Iを生成すれば、121Iが親核となって半減期2.12時間にてECおよびβ崩壊することによって娘核として121Teが得られる。121Teには核異性体(J=11/2−)があるものの、121IのECおよびβ崩壊では生成されない。121Iはハロゲン元素なので、希ガス原料である124Xeから分けて水溶液中に回収することができる。なお、124XeからのNMCRには124Xeの濃縮原料が必要である。なぜなら、Xe同位体の天然存在比は124Xeが0.10%だからである。
生成されうるTeの同位体は、質量数が121〜124の範囲のものである。121Teは100%が16.8日の半減期でEC崩壊により121Sbに崩壊し、その際に、573keV、508keV、および470keVのγ線が放出される。本願の発明者は、121TeはSPECTの用途に有望な核種であると考えている。
[3−3−25 125mTe]
テルル(Te)の同位体のうち121Te以外に発明者が応用を想定しうると予測している一つのものは125mTeである。図104は125mTeについての情報を摘記する説明図である。125mTeを生成するNMCRは、
127I(μ,2n ν)125mTe
である。125Teそれ自体は安定であり放射性を示さないものの、その核異性体125mTe(J=11/2−)が、その100%が半減期57.4日でITにより125Teに転移し、その際109keVおよび35keVのγ線が放出される。
NMCRのターゲット原料のためには天然のIを利用することができる。なぜなら、127Iの天然存在比は100%だからである。なお、J=11/2−の127Teの核異性体は、原料原子核127Iの基底状態がJ=5/2+であることから、生成される可能性が高いと考えている。
本願の発明者は、125mTeはSPECTの用途に有望な核種と考えている。生成した125mTeイオンは127Iイオンから分離して回収される。
[3−3−26 127mTe]
テルル(Te)の同位体のうち121Te、125mTe以外に発明者が応用を想定しうると予測しているもう一つのものは127mTeである。図105は127mTeについての情報を摘記する説明図である。127mTeを生成するNMCRは、
127I(μ,ν)127mTe
である。127Teの核異性体127mTe(J=11/2−)は半減期109日で放射性を示す。つまり、127mTeの97.6%がITにより127Teに転移し、その際88keVのγ線が放出される。また127mTeの2.4%はβ崩壊により127Iへ崩壊し、その際に57keVのみのγ線が放出される。また、基底状態の127Te(J=3/2+)も放射性を示し、半減期9.4時間にてβ崩壊により127Iに崩壊し、その際に、418keVなどのγ線が放出される。
また、127mTeは127Sbを経由して製造することもできる。それは、
128Te(μ,n ν)127Sb
のNMCRを利用する場合である。生成された127Sbは化学分離により回収する。この反応によって127Sbを生成すれば、127Sbが親核となって半減期3.85日にてβ崩壊することによって娘核127mTeが得られる。127Sbの基底状態はJ=7/2+なので、127Teの核異性体127mTe(J=11/2−)が高い確率で生成されると予想している。128Teの天然存在比は31.69%であるものの、ターゲット原料には128Teの濃縮原料が必要と予想している。
NMCRのターゲット原料のためには天然のIを利用することができる。なぜなら、127Iの天然存在比が100%だからである。なお、J=11/2−の127mTeの核異性体は、原料原子核127Iの基底状態がJ=5/2+であることから、生成される可能性が高いと考えている。生成した127mTeイオンは127Iイオンから分離して回収される。本願の発明者は、127mTeはSPECTの用途に有望な核種と考えている。
[3−3−27 129mTe]
テルル(Te)の同位体のうち121Te、125mTe、127mTe以外に発明者が応用を想定しうると予測しているものは129mTeである。図106は129mTeについての情報を摘記する説明図である。129mTeは129Sbを経由して製造する。それは、
130Te(μ,n ν)129Sb
のNMCRを利用する。生成された129Sbは化学分離により回収する。この反応によって129Sbを生成すれば、129Sbが親核となって半減期4.4時間にてβ崩壊することによって娘核129mTeが得られる。130Teの天然存在比は33.80%であるものの、ターゲット原料には130Teの濃縮原料が必要と予想している。
129Teの核異性体129mTe(J=11/2−)は半減期33.5日で放射性を示す。つまり、129mTeの63%がITにより129Teに転移し、その際106keVのγ線が放出される。また129mTeの37%はβ崩壊により129Iへ崩壊し、その際に主に696keVのγ線が放出される。また、基底状態の129Te(J=3/2+)も放射性を示し、半減期69分にてβ崩壊により129Iに崩壊し、その際に、28keVや460keVなどのγ線が放出される。この方法では129Sbの基底状態が(J=7/2+)であるので、129Teの核異性体(J=11/2−)が高い確率で生成されると予想している。
生成した129Sbイオンは130Teイオンから分離して回収される。本願の発明者は、129mTeはSPECTの用途に有望な核種と考えている。
[3−3−28 124I]
ヨウ素(I)の同位体のうち123I、125I、131I、132I以外に発明者が応用を想定しうると予測しているものは124Iである。図107は124Iについての情報を摘記する説明図である。124Iを生成するNMCRは、
124Xe(μ,ν)124
126Xe(μ,2n ν)124
である。生成されうるIの同位体は、質量数が121〜126の範囲のものである。124Iは4.15日の半減期でEC(75%)およびβ(25%)崩壊により124Teに崩壊し、その際に603keV、1691keV、および723keVのγ線が放出される。
NMCRのターゲット原料のためには124Xeまたは126Xeの濃縮原料が必要である。なぜなら、これらの天然存在は、0.10%(124Xe)、および0.09%(126Xe)だからである。また、ターゲット原料には、固体Xe原料を利用することができる。
本願の発明者は、124IはPETやSPECTの用途に有望な核種と考えている。生成した124Iを含んでいる124Xeまたは126Xeの原料ガスを水溶液中に通すと124Iはヨウ化カリウム水溶液などの水溶液中に溶解する。つまり、124Iは希ガス中のハロゲン元素を水溶液中に溶解させて回収することができる。また、ヨウ素はエタノールによく溶けるので、124Iをエタノール中に溶解させて回収することもできる。
[3−3−29 126I]
ヨウ素(I)の同位体のうち123I、124I、125I、131I、132I以外に発明者が応用を想定しうると予測しているものは126Iである。図108は126Iについての情報を摘記する説明図である。126Iを生成するNMCRは、
126Xe(μ,ν)126
128Xe(μ,2n ν)126
129Xe(μ,3n ν)126
である。生成されうるIの同位体は、質量数が123〜129の範囲のものである。126Iの基底状態は半減期13.0日で、その54%がβ崩壊(1.0%)およびEC崩壊(53%)により126Teに崩壊し666keVや754keVのγ線を放出する。126Iの基底状態の残りの46%はβ崩壊により126Xeに崩壊し、その際に388keVのγ線を放出する。
NMCRのターゲット原料のためには126Xe、128Xeまたは129Xeの濃縮原料が必要である。なぜなら、これらの天然存在は、0.09%(126Xe)、1.91%(128Xe)、および26.4%(129Xe)だからである。また、ターゲット原料には、固体Xe原料を利用することができる。
本願の発明者は、126IはSPECTの用途に有望な核種と考えている。生成した126Iを含んでいる126Xe、128Xeまたは129Xeの原料ガスを水溶液中に通すと126Iはヨウ化カリウム水溶液などの水溶液中に溶解する。つまり、126Iは希ガス中のハロゲン元素を水溶液中に溶解させて回収することができる。また、ヨウ素はエタノールによく溶けるので、126Iをエタノール中に溶解させて回収することもできる。
[3−3−30 133I]
ヨウ素(I)の同位体のうち、123I、124I、125I、126I、131I、132I以外に発明者が応用を想定しうると予測しているものは133Iである。である。図109を参照して説明する。133Iを生成するNMCRは、
134Xe(μ,n ν)133
136Xe(μ,3n ν)133
である。これらのNMCRにおいて生成されうるIの同位体は、質量数が131〜136の範囲のものである。133Iは20.9時間の半減期でβにより133Xeに崩壊して530keVと875keVのγ線を放出する。さらに、133Xeの基底状態は、5.25日の半減期で133Csにβ崩壊し、その際に主として81keVのγ線が放出される。ここで、133Iは133Xeのジェネレータのための親核となっている。133Iのβ崩壊では、133Xeの核異性体133mXe(J=11/2−)がわずかに生成する可能性があるものの、133mXeは2.19日の半減期で100%がITにより133Xeに転移し、その際に233keVのγ線を放出する。
このNMCRのためのターゲット原料もXe固体原料を利用することができる。また134Xeと136Xeの濃縮原料が必要である。それは、天然存在比が10.4%(134Xe)と8.9%(136Xe)であるためである。135Iが混在する可能性があるものの、その場合は冷却時間を調整して135Iを減衰させることができる。
本願の発明者は、133IはSPECTの用途にて有望であり、また、133Xeのジェネレータのための親核としても有用であると考えている。133Iはそれを含むXeガス原料を水溶液中に通すことによりヨウ化カリウム水溶液などの水溶液中に溶解させて回収される。この場合にも、希ガス中のハロゲン元素として水溶液中に回収されるのである。また、ヨウ素はエタノールによく溶けるので、133Iをエタノール中に溶解させて回収することもできる。
[3−3−31 127Xe]
キセノン(Xe)の同位体のうち133Xe以外に発明者が応用を想定しうると予測しているもの一つが127Xeである。図110は127Xeについての情報を摘記する説明図である。127Xeは、127Csを経由して生成される。127Csを生成するNMCRは、
130Ba(μ,3n ν)127Cs
である。この反応によって127Csを生成すれば、127Csが親核となって半減期6.25時間にてECおよびβ崩壊することによって娘核として127Xeが得られる。130Baのターゲット原料から気体となって放出される127Xeを回収する。なお、130BaからのNMCRには130Baの濃縮原料が必要である。なぜなら、Baの同位体の天然存在比は130Baが0.106%だからである。
生成されうるXeの同位体は、質量数が127〜130の範囲のものである。127Xeは36.41日の半減期で100%がECにより127Iに崩壊し、その際に203keV、172keV、および145keVのγ線が放出される。本願の発明者は、127XeはSPECTの用途に有望な核種であると考えている。
[3−3−32 131mXe]
キセノン(Xe)の同位体のうち133Xe、127Xe以外に発明者が応用を想定しうると予測しているものは131mXeである。図111は131mXeについての情報を摘記する説明図である。131mXeを生成するNMCRは、
133Cs(μ,2n ν)131mXe
である。生成されうるXeの同位体は、質量数が130〜133の範囲のものである。安定である基底状態131Xeの核異性体131mXe(J=11/2−)は100%が11.77日の半減期でITにより131Xeへ転移し、その際に164keVのγ線を放出する。
なお、「3−1−19 123Iおよび131I」で記載したように、131mXeは131Iのβ崩壊でも生成できる可能性がある。
本願の発明者は、131mXeはSPECTの用途に有望な核種と考えている。NMCRのターゲット核種である133Csは天然存在比が100%であるため、濃縮原料は必要とならない。また、ターゲット核種である133Csは核スピンJ=7/2+を有する安定核種であるため、131Xeの核異性体131mXe(J=11/2−)が生成されやすいと考えている。ただし、133Cs(μ,ν)133Xe反応で生成する133Xeが混在する可能性がある。生成した131mXeは133Csターゲットから気体として放出されるので回収することができる。
[3−3−33 135Xe]
キセノン(Xe)の同位体のうち127Xe、131mXe、133Xe以外に発明者が応用を想定しうると予測しているものは135Xeである。図112は135Xeについての情報を摘記する説明図である。135Xeを生成するNMCRは、
136Xe(μ,n ν)135
である。135Iが親核となって半減期6.61時間でβ崩壊することによって娘核として135Xeが得られる。なお、135Iはハロゲン元素なので、希ガス原料である136Xeから分けて水溶液中に回収することができる。さらに135Iがβ崩壊して生成した135Xe気体を水溶液から回収する。136Xe原料は天然存在率が8.9%なので、濃縮原料が必要である。
生成されうるXeの同位体は、質量数が133〜136の範囲のものである。135Xeは、9.10時間の半減期で135Csにβ崩壊し、その際に主として250keVと608keVのγ線が放出される。135Csの半減期は3×10年である。本願の発明者は、135XeはSPECTに適用できる点で有望な核種と考えている。
[3−3−34 167Tm]
ツリウム(Tm)の同位体のうち170Tm以外に発明者が応用を想定しうると予測しているものは167Tmである。図113は167Tmについての情報を摘記する説明図である。167Tmを生成するNMCRは、
168Yb(μ,n ν)167Tm
170Yb(μ,3n ν)167Tm
である。生成されうるTmの同位体は、質量数が165〜170の範囲のものである。167Tmは9.25日の半減期で、100%がECで167Erに崩壊し、その際57keV、208keV、および532keVのγ線が放出される。NMCRのターゲット原料には168Ybおよび170Ybの濃縮原料が必要である。なぜなら、168Ybおよび170Ybの天然存在比は、0.13%および3.05%であるためである。なお、167Tmに165Tmや166Tmが混在する可能性があるものの、その混在した同位体は冷却時間を調整することで減衰させることができる。167TmはSPECTや放射線治療の用途に有望である。生成した167Tmイオンは168Ybイオンや170Ybイオンから分離して回収される。
[3−3−35 176mLu]
ルテチウム(Lu)の同位体のうち発明者が応用を想定しうると予測しているものは176mLuである。図114は176mLuについての情報を摘記する説明図である。176mLuを生成するNMCRは、
176Hf(μ,ν)176mLu
177Hf(μ,n ν)176mLu
178Hf(μ,2n ν)176mLu
179Hf(μ,3n ν)176mLu
である。生成されうるLuの同位体は、質量数が173〜179の範囲のものである。基底状態の176Luは安定であるものの、J=1−の核異性体である176mLuは3.68時間の半減期で176Hfにβ崩壊し、その際88keVのみのγ線を放出する。NMCRのターゲット原料にはHfの天然原料を採用できる。なぜなら、ターゲット核種となる176Hf〜179Hfの天然存在比の和は64.6%だからである。しかし、天然原料の場合は179Lu(半減期4.6時間)が混在する可能性があるので、必要があればHfの濃縮原料を使用する。176mLuはSPECTや放射線治療の用途に有望である。生成した176mLuイオンはHfイオンから分離して回収される。
[3−3−36 181Hf]
ハフニウム(Hf)の同位体のうち発明者が応用を想定しうると予測しているものは181Hfである。図115は181Hfについての情報を摘記する説明図である。181Hfを生成するNMCRは、
181Ta(μ,ν)181Hf
である。生成されうるHfの同位体は、質量数が178〜181の範囲のものである。181Hfは42.4日の半減期でβ崩壊により181Taに崩壊し、その際に、133keV、136keV、346keV、および482keVのγ線が放出される。本願の発明者は、181HfはSPECTの用途に有望な核種と考えている。NMCRのターゲット原料には、Taの天然原料が利用可能である。なぜなら、天然のTaの存在比は、181Taが99.988%であり、180Taが0.012%のみ含まれているだけだからである。生成した181HfイオンはTaイオンから分離して回収される。
[3−3−37 191Os−(191mIr)]
オスミウム(Os)の同位体のうち発明者が応用を想定しうると予測しているものは191Osである。図116は191Osおよび191mIrについての情報を摘記する説明図である。なお、191Osは、それ自体の放射性が利用される場合と、191Osを親核とする娘核である191mIrの放射性が利用される場合との二つの利用形態を採用することができる。191Osを生成するためのNMCRは、一つには、
191Ir(μ,ν)191Os (式10)
193Ir(μ,2n ν)191Os (式11)
である。このNMCRを利用する場合には、天然原料のIrを利用することができる。なお、191Irと193Irの天然存在比は、それぞれ、37.3%および62.7%である。ただし、天然原料のIrを利用するときには193Osも混在する可能性がある。これが問題となる場合、照射時間と冷却時間の調節によって191Osと193Osとを分離できる可能性が高い。生成した191OsイオンはIrイオンから分離して回収される。
191Osは191Reを経由して製造することもできる。それは、
192Os(μ,n ν)191Re (式12)
のNMCRを利用する場合である。この反応によって191Reを生成すれば、191Reが親核となって半減期9.8分にてβ崩壊することによって娘核として191Osが得られる。192OsからのNMCRには濃縮原料が不要となる可能性が高い。なぜなら、第1に、Osの同位体の天然存在比は192Osが41.0%である。また、第2に、192Os以外のOs同位体原料からは一旦Reの放射性や安定の同位体ができるものの、放射性同位体はβ崩壊でOs同位体に、または、β崩壊でW同位体に遷移する。この結果、低い確率で長半減期の184Re(半減期:38日)が生成される可能性があるものの、191Os以外の放射性Os同位体は生成されない。よって、生成効率は落ちるものの、天然Os原料を採用しうると考えられる。
生成されうるOsの同位体は、質量数が188〜193の範囲のものである。このうち、191Osの基底状態は、15.4日の半減期で、その100%が191Irの核異性体191mIr(J=11/2−)へ崩壊する。191mIrは4.9秒の半減期で、191IrにITにより転移し、その際に129keVおよび42keVのγ線が放出される。なお、191Osの核異性体191mOs(J=3/2−)は、13.1時間の半減期で191OsにITにより転移し、その際に74keVのγ線が放出される。
上記崩壊の態様において利用される可能性のある放射線は、191mOsからITする際に放出される74keVγ線、そして、191mIrが191IrへITする際の129keVおよび42keVのγ線である。ここで、β線または74keVのγ線を利用する際には、191Osを含む放射性物質が利用される。この場合には、式10、式11は191Osを直接生成するためのNMCRを示しており、式12は191Osが娘核となる親核である191Reを生成するためのNMCRを示している。これに対し、129keVおよび42keVのγ線を利用する際にそのγ線を直接放出する放射性物質は、191mIrを含んでいる。この191mIrからみると、式10および式11は、親核である191Osを生成するためのNMCRを示しており、式12は、191mIrにとっての親核のさらに親核となる191Reを生成するためのNMCRを示している。このように、本実施形態において、NMCRは、最終的に利用される放射性核種(「利用核種」)を直接生成するためにも、利用核種を娘核とする親核を生成するためにも、また、利用核種が娘核のさらに娘核(孫核)となる核種を生成するためにも、利用される。ただし、利用核種は、NMCRにより生成される核種にとって孫世代までの範囲には限定されない。利用核種は、NMCRにより製造された放射性核種(第1放射性核種)それ自体と、それから放射性崩壊により生成される任意数の世代の核種(「子孫核種」、第2放射性核種)のいずれとすることもできるのである。
なお、191mIrの適用可能性について補足する。191Osおよび191mIrは、ともにSPECTの用途に適用しうる点で有用である。特に、191Osと191mIrとの間の関係は、99Mo−99mTcの関係に類似した関係にあり、ミルキング(放射平衡)により生成しうる関係、すなわち、191Osは半減期15.4日で191mIrを生成するためのジェネレータのための親核となる。しかも、99Mo−99mTcの類似点は他にもあり、191mIrからのγ線(129keVおよび42keV)は、99mTcからのγ線(140.5keV)と比較的近いエネルギーを持つ。半減期は191mIrの場合4.9秒であり短いことを除けば、本願の発明者は、1910s−191mIrが99Mo−99mTcの代替用途も果たすこと、つまり、191mIrがSPECTに多用される可能性もありうると考えている。
[3−3−38 192Ir]
イリジウム(Ir)の同位体のうち発明者が応用を想定しうると予測しているものは192Irである。図117は192Irについての情報を摘記する説明図である。192Irを生成するNMCRは、
192Pt(μ,ν)192Ir
194Pt(μ,2n ν)192Ir
195Pt(μ,3n ν)192Ir
である。生成されうるIrの同位体は、質量数が189〜195の範囲のものである。192Irは、74.2日の半減期で95.4%がβ崩壊により192Ptに崩壊し、その際に317keV、468keV、308keV、および604keV等のγ線が放出され、残りの4.6%がECにより192Osに崩壊し、その際に、206keVおよび485keVのγ線が放出される。本願の発明者は、192IrはSPECTや放射線治療の用途に有望な核種と考えている。NMCRのターゲット原料には、192Pt、194Pt、または195Ptの存在比が高められた濃縮原料が必要である。天然存在比は、192Ptが0.79%、194Ptが32.9%、195Ptが33.8%である。一方では、192Pt、194Ptまたは195Ptの天然存在比の和が67.5%となるので天然Pt材料が使用できる可能性があると予想している。生成した192IrイオンはPtイオンから分離して回収される。
[3−3−39 195mPtおよび197Pt]
白金(Pt)の同位体のうち発明者が応用を想定しうると予測しているものは195mPtおよび197Ptである。図118は195mPtおよび197Ptについての情報を摘記する説明図である。一方の195mPtを生成するNMCRは、
197Au(μ,2n ν)195mPt
である。生成した195mPtイオンはAuイオンから分離して回収される。また195mPtは、195mIrを経由する別のNMCRにより製造することもできる。それは、
196Pt(μ,n ν)195mIr
のNMCRを利用する場合である。この反応によって195Irの核異性体(J=11/2−)である195mIrを生成すれば、195mIrが親核となって半減期3.8時間にてβ崩壊することによって娘核195mPtが得られる。親核195mIrは化学分離することにより回収する。なお、いずれの製造手法であっても、195Ptにて利用するのはJ=13/2+の核異性体である195mPtである。この195mPtが効率よく生成されるための実験条件を採用することが有利である。
他方の197Ptを生成するNMCRは、一つには、
197Au(μ,ν)197Pt
である。生成した197PtイオンはAuイオンから分離して回収される。また197Ptは、197Irを経由する別のNMCRにより製造することもできる。それは、
198Pt(μ,n ν)197Ir
のNMCRを利用する場合である。この反応によって197Irを生成すれば、197Irが親核となって半減期9.8分にてβ崩壊することによって娘核197Ptが得られる。親核197Irは化学分離することにより回収する。
生成されうるPtの同位体は、質量数が194〜197の範囲のものである。195Ptは、その状態(J=1/2−)自体は基底状態であるものの、J=13/2+の核異性体である195mPtの100%が、4.02日の半減期でITにより195Pt(J=1/2−)に転移し、その際に、130keV、31keV、99keVのγ線が放出される。197Ptは、18.3時間の半減期で197Auへβ崩壊し、その際に、77keV、191keV、269keVのγ線が放出される。
195mPtおよび197Ptともに、197Auから生成する場合には、NMCRのターゲット原料として天然原料のAuを採用することができる。なぜなら、Auの天然存在比は197Auが100%であるからである。さらに、198Ptおよび196PtをNMCRのターゲット原料とする場合には、それぞれ、198Ptおよび196Ptの存在比を高めた濃縮原料が必要である。天然存在比は、198Ptが7.2%、196Ptが25.3%である。
本願の発明者は、195mPtおよび197Ptは、ともにSPECTの用途に適用可能である点で有用な核種と考えている。
[3−3−40 195Au]
金(Au)の同位体のうち、198Auおよび199Au以外に発明者が応用を想定しうると予測しているものは195Auである。図119は195Auについての情報を摘記する説明図である。195Auを生成するNMCRは、
196Hg(μ,n ν)195Au
198Hg(μ,3n ν)195Au
である。生成されうるAuの同位体は、質量数が193〜198の範囲のものである。195Auは183日の半減期で100%がEC崩壊およびγ崩壊により基底状態の195Ptに崩壊し、その際に、130keV、99keV、31keVのγ線が放出される。
本願の発明者は、195AuはSPECTの用途に有望な核種と考えている。NMCRのターゲット原料には、196Hgまたは198Hgの存在比が高められた濃縮原料が必要である。天然存在比は、196Hgが0.15%、198Hgが10.1%である。生成した195Auイオンを196Hgまたは198Hgイオンから分離して回収される。
[3−3−41 196Au]
金(Au)の同位体のうち195Au、198Au、199Au以外に発明者が応用を想定しうると予測しているものは196Auである。図120は196Auについての情報を摘記する説明図である。196Auを生成するNMCRは、
196Hg(μ,ν)196Au
198Hg(μ,2n ν)196Au
である。生成されうるAuの同位体は、質量数が193〜198の範囲のものである。196Auには2つの核異性体がある。第1の核異性体は、J=(12−)であり、9.7時間の半減期で基底状態196Auにγ崩壊する。その際、175keV、188keV、148keV、および85keVのγ線が放出される。しかし、このJ=(12−)核異性体はNMCRでの生成確率は低いと予想している。第2の核異性体は、J=(5+)であり、8.2秒の半減期で基底状態196Auにγ崩壊する。その際、85keVのγ線が放出される。その基底状態196Auも、半減期6.18日で、その93%がECにより、196Ptに崩壊し、356keVおよび333keVのγ線を放出する。そして、基底状態196Auの残りの7%はβ崩壊により196Hgに崩壊し、その際に426keVのみのγ線が放出される。
本願の発明者は、196AuはSPECTや放射線治療の用途で有望な核種と考えている。NMCRのターゲット原料には、196Hgまたは198Hgの濃縮原料を使用する。196Hgと198Hgの天然存在比は、それぞれ、0.15%と10.1%だからである。生成した196Auイオンは196Hgイオンまたは198Hgイオンから分離して回収される。
[3−4 放射性核種の各論(核種グループ4)]
つぎに核種グループ4としてTAT等に適用されNMCRによって製造可能なα放射性核種について説明する。α放射性核種は、核種グループ1〜3のものに比べて概して原子番号が大きい。α放射性核種は、崩壊系列(decay series)をなす核種群に分けることができる。つまり、nを自然数として質量数が4n+1で表現される核種群を含むネプツニウム系列、4nで表現される核種群を含むトリウム系列、4n+3で表現される核種群を含むアクチニウム系列、という崩壊系列別の核種群に属するα放射性核種が利用される。なお、4n+2で表現される核種群を含むウラン系列に属する核種については、核医学用の有力な放射性核種は提案されていない。NMCRによって製造可能なα放射性核種は、原子番号順に、ネプツニウム系列核種が、213Bi、225Ra、225Ac、トリウム系列核種が212Pb、212Bi、224Ra、228Th、そしてアクチニウム系列核種が223Ra、227Ac、227Thである。以下、各α放射性核種を、ネプツニウム系列、トリウム系列、アクチニウム系列ごとに説明する。以下、核種の半減期を括弧内に適宜併記する。
図121〜図123は、それぞれ、ネプツニウム系列、トリウム系列、およびアクチニウム系列の崩壊系列を示す説明図である。各図は、それぞれの崩壊系列を複数の核種の連なりによって示しており、核種それぞれに半減期を併記している。崩壊系列は、紙面の上方から下方に向かって大きな質量数の核種から小さなものと並ぶように描かれ、紙面の左右は、原子番号が1だけ大きい核種がβ崩壊によって生成される場合にのみその核種を右側に置くように描かれている。核種間に示す矢印には放射線種およびエネルギーを明示し、崩壊系列が複数の経路をとる場合には相互の比率も示している。なお、図面の都合により、β崩壊を斜めに描いたところが一部ある。また崩壊系列の一部のみを示した図もある。また、各図には、最終的に安定核種となるまでに放出される放射線の総エネルギーも記入している。
図121に一部を示すネプツニウム系列は、237Np(図示しない)から209Biまでの崩壊系列であり、そのうち225Ra(14.8日)、225Ac(10.0日)、213Bi(45.6分)が核医学用途、特にTAT用途に有望である。図121にも示すように、例えば、225Raは、崩壊系列の最終の崩壊生成物である209Biまでにおいて、4粒子のα線と3粒子のβ線を放出し、その際の全てのα線の合計のエネルギーは27.6MeVである。225Acは4粒子のα線と2粒子のβ線を放出し、全α線の合計のエネルギーは27.6MeVである。213Biは1粒子のα線と2粒子のβ線を放出し、α線のエネルギーは8.4MeVである。本崩壊系列の途中にRn(ラドン)のような希ガス元素は含まれていない。これは、実用面で都合が良い性質である。なぜなら、反応性が低くイオン化もしにくい希ガスの状態を経ることがなく、標識される分子や到達先組織から離脱等して生体中に拡散してしまう可能性を考慮する必要がないことを意味するためである。
図122に示すトリウム系列は、232Th(図示しない)から208Pbまでの崩壊系列であり、そのうち228Th(1.9年)、224Ra(3.6日)、212Pb(10.6時間)、212Bi(60.6分)が核医学用途、特にTAT用途に有望である。228Thは、半減期が長いため、それ自体からの崩壊を利用するのではなく、224Raをジェネレータにより生成するための親核となる。224Raは、崩壊系列の最終の崩壊生成物である208Pbまでにおいて、4粒子のα線と2粒子のβ線を放出し、全α線の合計のエネルギーは27.9MeVである。212Pbは1粒子のα線と2粒子のβ線を放出し、α線のエネルギーは8.8MeVである。212Biは1粒子のα線と1粒子のβ線を放出し、α線のエネルギーは8.8MeVである。
図123に示すアクチニウム系列は、235U(図示しない)から207Pbまでの崩壊系列であり、そのうち227Th(18.7日)および223Ra(11.4日)が核医学用途、特にTAT用途に有望である。227Thは、崩壊系列の最終の崩壊生成物である207Pbまでにおいて、5粒子のα線と2粒子のβ線を放出し、全α線の合計のエネルギーは32.4MeVである。223Raは4粒子のα線と2粒子のβ線を放出し、全α線の合計のエネルギーは26.5MeVである。
図121〜123に示したように、NMCRにより各系列にて生成される核種のうちには、複数のα粒子を放出するように短時間で多段階に崩壊する核種もある。
[3−4−1 天然原料による核種グループ4の核種の製造]
核種グループ4に属する上述したα放射性核種をNMCRによって製造する際には、天然原料により製造することが有利である。ここでは、226Raターゲットと232Thターゲットとを利用してNMCRによりα放射性核種を製造する手順について概要を説明する。図124は226Raターゲットと232Thターゲットとによりα放射性核種を製造する際のNMCRの様式と核図表の範囲を摘記した説明図である。226RaターゲットからはFr同位体が、また232ThターゲットからはAc同位体がそれぞれNMCRにより生成される。核図表に示したように、NMCRにより生成される核種は、ターゲット核種から原子番号を1だけ小さくした核種である。xを0,1,2,3,4,5・・・という整数として(μ,xn ν)の反応形式のいずれを経るかによって生成される核種の中性子数が異なる。質量数が異なる核種が生成される相対比は各反応への分岐比に従う。そして、図121〜123に関連して説明した崩壊系列を導くNMCRには図124において下線を付している。
[3−4−1−1 NMCRと核種]
[3−4−1−1−1 226RaターゲットによるNMCRと核種]
226Raターゲットを利用すれば、上述したネプツニウム系列、トリウム系列、およびアクチニウム系列のいずれの崩壊系列に属するα放射性核種も製造することができる。なお、説明のためウラン系列の核種についても説明する。図125は、226Raをターゲット核種として各質量数のFr同位体をNMCRにより生成する概要を摘記する説明図である。図125に示すように、226Raをターゲット核種とした場合には、異なる質量数のFrが同時に生成される。つまり、226Ra原子核それぞれにおいて、分岐比に従う確率にしたがっていずれかのNMCRが生起する。
226Raから(μ,ν)のNMCRにより生成される226Frは半減期48秒でβ崩壊により再び226Raに戻る。このため、(μ,ν)のNMCRはα放射性核種の製造に直接寄与しない。
226Raから(μ,n ν)のNMCRにより生成される225Frは、半減期3.9分で225Raにβ崩壊する。図121に示すように225Raはネプツニウム系列に含まれる。その225Raは半減期14.8日で、225Acにβ崩壊する。225Acの半減期は10.0日である。そして、225Acは、221Fr(4.8分)、217At(32ミリ秒)、213Bi(45.6分)へと順にα崩壊する。さらに、213Biの98%が213Bi−213Po(4.2マイクロ秒)−209Pb(3.3時間)のルートで崩壊し、213Biの残りの2%は213Bi−209Tl(2.2分)−209Pb(3.3時間)のルートで崩壊する。213Biから209Pbまでの崩壊がいずれのルートを取ったとしても、α線およびβ線をそれぞれ1粒子放射する。そして、209Pbは209Bi(安定)へβ崩壊する。
ネプツニウム系列に含まれるα放射性核種のうち有望な核種が、崩壊の順に、225Ra(14.8日)、225Ac(10.0日)、213Bi(45.6分)である。これらはいずれも、安定核種である209Biに崩壊するまでにα線およびβ線を放出するため、TAT等の放射線治療に適する核種である。つまり、図121に示した225Acは、そこから崩壊した後の核種が225Acの半減期よりも短い半減期を持つことから、209Biに崩壊するまでに225Acの半減期で複数粒子のα線とβ線を放出する。その各段階をみると、225Acは、221Fr、217At、213Biを子孫核種とするジェネレータのための親核(2世代以上離れたものも含む)として機能している。子孫核種である221Fr、217At、213Biは、それ自体もα線を放出して崩壊する。このため、用途がTAT等のα線を放出することを利用するものである場合、親核である225Ac以外の221Fr、217At、213Biも当該用途に寄与する核種となる。ただし実用上は、半減期がある程度長い核種、つまり225Raを含め、225Ac、213Biが利用しやすい。225Raは、225Acおよび213Biを供給するジェネレータのための親核となる。同様に、225Acは213Biを供給するジェネレータのための親核となる。225Ra、225Ac、213Biを利用するためには、イオン交換分離法により捕集することができる。この点については、ターゲット核種別に後述する(3−4−2−1の欄)。
225Raは、TAT等の用途のために生体に投与されたとしても同様にネプツニウム系列に従う崩壊は生じるため、その子孫核種として225Ac、221Fr、217At、および213Bi等を当該生体内で生成し、それら子孫核種も同様に当該用途に寄与する。この意味において、225Raはジェネレータのための親核と同様の役割を生体内で果たす。つまり、225Raは225Ac、221Fr、217At、および213Bi等にとってのin vivo generatorとして機能しうる。225Ac、213Biも同様である。この例における225Raのように、in vivo generatorとして機能する核種は、少ない投与物質量(原子数)でも高い治療効果を期待することができる。
再び図125を参照すると、図122にも合わせて示すように、226Raから(μ,2n ν)のNMCRにより生成される224Frは、半減期3.3分で224Raにβ崩壊する。これにより、トリウム系列に従う崩壊が開始される。224Raの半減期は3.6日である。トリウム系列に含まれるα放射性核種については、3−4−1−1−2にて後述する。
図125に示す226Raから(μ,3n ν)のNMCRにより生成される223Frからは図123にも合わせて示すように、アクチニウム系列が開始される。223Frの半減期は21.8分である。アクチニウム系列に含まれるα放射性核種については、3−4−1−1−2にて後述する。
図125に示す226Raから(μ,4n ν)のNMCRにより生成される222Frは、14.4分の半減期でβ崩壊により222Raとなる。なお、222Ra(図示しない)は半減期が38秒と短いため、222Frを実用に供するのは難しい。
図125に示す226Raから(μ,5n ν)のNMCRにより生成される221Frは、4.8分の半減期を有している。これにより、図121に示すようにネプツニウム系列が開始される。ただし、221Frは半減期が短いため、221Frを実用に供するのは難しい。
[3−4−1−1−2 232ThターゲットによるNMCRと核種]
232Thターゲットを利用すれば、上述したトリウム系列、およびアクチニウム系列のいずれの崩壊系列に属するα放射性核種も製造することができる。なお、ネプツニウム系列のα放射性核種を232ThターゲットからはNMCRにより製造するのは難しい。図126は、232Thをターゲット核種として各質量数のAc同位体をNMCRにより生成する概要を摘記する説明図である。
図126に示す232Thから(μ,ν)のNMCRにより生成される232Acは半減期119秒でβ崩壊により再び232Thに戻る。このため、(μ,ν)のNMCRはα放射性核種の製造に直接は寄与しない。
図126に示す232Thから(μ,n ν)のNMCRにより生成される231Acは、半減期7.5分で231Thにβ崩壊する。これによりアクチニウム系列が一旦開始される。231Thは、半減期25.5時間で231Paにβ崩壊する。しかし、図123にも合わせて示すように、231Paの半減期は3.276×10年であるため、アクチニウム系列の放射性崩壊はこの231Paの段階で停滞する。
図126に示す232Thから(μ,2n ν)のNMCRにより生成される230Acは、半減期122秒で230Thにβ崩壊する。この230Thは、ウラン系列の核種であるものの、半減期は7.54×10年である。このため、ウラン系列の崩壊は230Thの段階で停滞する。
図126に示す232Thから(μ,3n ν)のNMCRにより生成される229Acは半減期62.7分で、229Thにβ崩壊する。229Thは図121にも合わせて示すようにネプツニウム系列の核種であるものの、半減期は7,340年であるためネプツニウム系列はこの段階で停滞する。
図126に示す232Thから(μ,4n ν)のNMCRにより生成される228Acは、半減期6.13時間で228Thにβ崩壊する。この228Thは図122にも合わせて示すようにトリウム系列の核種であり、半減期1.913年である。これによりトリウム系列が開始される。228Thは半減期1.9年で224Raにα崩壊し、さらに、224Raは半減期3.6日で220Rn(55.6秒)、216Po(0.15秒)、212Pb(10.6時間)へと順にα崩壊する。そして、212Pbは212Bi(60.6分)へβ崩壊する。さらに、212Biの64%は212Bi−212Po(0.3マイクロ秒)−208Pb(安定)のルートで崩壊し、212Biの残りの36%は212Bi−208Tl(3.1分)−208Pb(安定)のルートで崩壊する。212Biから208Pbまでの崩壊がいずれのルートを取ったとしても、α線およびβ線をそれぞれ1粒子放射する。
トリウム系列に含まれるα放射性核種のうち有望な核種が、崩壊の順に、228Th(1.9年)、224Ra(3.6日)、212Pb(10.6時間)、212Bi(60.6分)である。これらはいずれも、最終的な安定核種である208Pbに崩壊するまでにα線およびβ線を放出するため、TAT等の放射線治療に適する核種である。つまり、図122に示した228Th(1.9年)は、そこから崩壊した後の核種が228Thの半減期よりも短い半減期を持つことから、208Pbに崩壊するまでに228Thの半減期で複数粒子のα線とβ線を放出する。その各段階をみると、228Thは、224Ra、220Rn、216Po、212Pb、212Biを子孫核種とするジェネレータのための親核(2世代以上離れたものも含む)として機能している。子孫核種である224Ra、220Rn、216Po、212Pb、212Biは、それ自体もα線を放出して崩壊する。このため、親核である228Th以外の224Ra、220Rn、216Po、212Pb、212Biも親核にとっての用途に寄与する核種となる。ただし実用上は、半減期がある程度長い核種、つまり228Thも含め、224Ra、212Pb、212Biが利用しやすい。228Thは224Ra、212Pb、212Biを供給するジェネレータのための親核となる。同様に、224Raは212Pb、212Biを供給するジェネレータのための親核となり、212Pbは212Biを供給するジェネレータのための親核となる。228Th、224Ra、212Pb、212Biを利用するためには、イオン交換分離法により捕集することができる。224Ra、212Biは放射線治療に利用される。また、224Ra、212Pb、212Biは、in vivo generatorのための親核として機能させることもできる。
再び図126に示す232Thから(μ,5n ν)のNMCRにより生成される227Acは、図123にも示すようにアクチニウム系列の核種であり、これによりアクチニウム系列が開始される。227Acは半減期21.77年でその殆どが227Thにβ崩壊する。この227Thは、半減期は18.72日であり、223Raに崩壊する。227Acの残りは223Frにα崩壊する。223Frは半減期21.8分で223Raにβ崩壊する。223Raの半減期は11.4日でα崩壊により219Rn(3.96秒)、215Po(1.78ミリ秒)、211Pb(36.1分)へと順にα崩壊する。そして、211Pbは211Bi(2.13分)にβ崩壊する。さらに、211Biの殆どは211Bi−207Tl(4.77分)−207Pb(安定)のルートで崩壊し、211Biの残りは211Bi−211Po(0.516秒)−207Pb(安定)のルートをたどる。211Biから207Pbまでの崩壊がいずれのルートを取ったとしても、α線およびβ線をそれぞれ1粒子放射する。
アクチニウム系列に含まれるα放射性核種のうち有望な核種が、崩壊の順に、227Ac(21.8年)、227Th(18.7日)、223Ra(11.4日)である。227Ac、227Th、223Raは、最終的な安定核種である207Pbに崩壊するまでにいずれもα線およびβ線を放出するため、TAT等の放射線治療に適する核種である。つまり、図123に示した227Ac、227Th、223Raは、そこから崩壊した後の核種がそれぞれの半減期よりも短い半減期を持つことから、207Pbに崩壊するまでに227Ac、227Th、223Raは、それぞれの半減期で複数粒子のα線とβ線を放出する。このため、227Acは、227Th、223Ra、219Rn、215Po、211Pb、211Biを子孫核種とするジェネレータのための親核(2世代以上離れたものも含む)として機能している。子孫核種である227Th、223Ra、219Rn、215Po、211Pb、211Biは、それ自体もα線を放出して崩壊する。このため、親核である227Ac以外の227Th、223Ra、219Rn、215Po、211Pb、211Biも親核にとっての用途に寄与する核種となる。ただし実用上は、半減期がある程度長い核種、つまり227Acも含め、227Th、223Raが利用しやすい。227Acは227Thおよび223Raを供給するジェネレータのための親核となる。同様に、227Thは223Raを供給するジェネレータのための親核となる。227Ac、227Th、223Raを利用するためには、イオン交換分離法により捕集することができる。227Th、223Raは放射線治療に利用される。また、227Th、223Raは、in vivo generatorのための親核として機能させることもできる。
[3−4−1−2 核種グループ4の核種の製造のための天然原料]
上述したように核種グループ4の核種は226Raターゲットと232Thターゲットから製造される。ここでこれらのターゲットとなる材料の性質について説明する。
[3−4−1−2−1 226Ra]
ラジウム(Ra)の同位体は、222Ra(38秒)、223Ra(11.4日)、224Ra(3.63日)、225Ra(14.8日)、226Ra(1600年)、227Ra(42.2分)等である。このうち、天然には226Raが存在しており、ウラン鉱石1000kg中に0.32g存在している。Raはアルカリ土類に分類され、イオン価数+2(Ra2+)であり化学的な性質はBa2+に類似している。また、RaはCaにも似た性質をもち、生体内では骨に分布する。226Raターゲットとなりうる226Raの化合物は、水溶液ターゲットとなる物質が、臭化ラジウム(RaBr)、塩化ラジウム(RaCl)、水酸化ラジウム(Ra(OH))、および硝酸化ラジウム(Ra(NO)等である。また226Raの固体ターゲットとして利用される物質が、臭化ラジウム(RaBr)、塩化ラジウム(RaCl)、水酸化ラジウム(Ra(OH))、窒化ラジウム(Ra(NO)、硫化ラジウム(Ra(SO))、炭酸ラジウム(Ra(CO))、およびアジ化ラジウム(Ra(N)等である。例えば、塩化ラジウム(RaCl)はモル質量296.094g/molの固体、または、水溶液であり、その溶解度は19.6g/100mL(20℃)である。
226RaターゲットのためにRaを取出す化学操作は、まずウラン鉱石をHF、HNO、HSO等の酸で溶解してウラン成分を採取した残りの水溶液に、さらに、BaClやHSOを加える操作によってBaSOとともにRaを沈殿(すなわち共沈)させる。その後、RaとBaを含む沈殿物を塩酸等に溶解して、イオン交換分離法によって、陽イオン分離カラムに吸着し、その後、最適なpH値やモル濃度を備えた硝酸水溶液(HNO)等でRaを分離することができる。この場合、このような化学操作によって硝酸化ラジウム水溶液等の形態でラジウムのみ抽出することもできる。
[3−4−1−2−2 232Th]
トリウムの同位体は、226Th(31分)、227Th(18.72日)、228Th(1.913年)、229Th(7,340年)、230Th(75,400年)、231Th(25.5時間)、232Th(140億年)、233Th(22.3分)、234Th(24.10日)、235Th(7.1分)等である。232Thは天然に存在しており、地殻中に0.0007%含有され、この値はウランの含有量の約5倍である。トリウムは、トーライト(トール石)、トリアナイト、モナザイト(モナズ石)などの鉱物として産出する。トリウムのイオン価数は+4(Th4+)である。なお、イオン価数は+2,+3も取りうるが不安定である。Th4+イオンは陽イオン交換体に著しい吸着性を示し、シュウ酸やクエン酸などと錯塩を形成するために、これらの試薬は陽イオン交換体からの溶離液となる。また、最適なpH値とモル濃度をもつ塩酸水溶液でも溶離することができる。232Thターゲットとなりうる化合物は、水溶液ターゲットとなる物質が、硝酸トリウム(Th(NO)、水酸化トリウム(Th(OH))等であり、固体ターゲットとなる物質が二酸化トリウム(ThO)等である。例えば二酸化トリウム(ThO)は粉末形状で入手可能である。硝酸トリウム水和物(Th(NO・4HO)は水やアルコールに可溶である。水酸化トリウム(Th(OH))や塩化トリウム(ThCl)も水溶性を示す。なお、トリウムは、それ自体は核分裂をしないが中性子を照射すれば核分裂する233Uとなるため、トリウムおよびその化合物は通常は核燃料物質として取り扱われる。
[3−4−1−3 核種グループ4のための反応生成核種]
(3−4−1−1)の欄にて上述したように、核種グループ4として利用される核種は、226Raターゲットおよび232ThターゲットのNMCRで生成されるものである。その際、フランシウム(Fr)同位体およびアクチニウム(Ac)同位体が一旦生成される。以下、これらについて元素別に説明する。
[3−4−1−3−1 Fr同位体]
フランシウム(Fr)の天然に存在する最も長寿命の同位体は223Fr(21.8分)である。Frには合計18種の同位体が存在するものの、223Fr以外の核種の半減期は20分以下である。例えば、220Frは半減期27.4秒でα崩壊し、以下同様に、221Fr(4.9分、α崩壊)、222Fr(14.2分、主にβ崩壊)、223Fr(21.8分、主にβ崩壊)、224Fr(3.3分、β崩壊)、225Fr(3.9分、β崩壊)、226Fr(48秒、β崩壊)等である。Frはアルカリ金属元素であり化学的性質はセシウム(Cs)に類似している。原子価は+1、ほとんど全てのFr塩は水溶性である。また、セシウム塩と共沈させることができる。担体としての他のアルカリ金属なしにFrを分離する方法もある。Frは、セシウムの溶離に使われる塩化アンモニウム(NHCl)溶液等で陽イオン交換により分離することができる。また、Frは沈殿により分離することができる。例えば、FrイオンとCsイオンを含む濃HCl溶液中にケイタングステン酸を加えると白色沈殿を生じ、Csとともに分離濃縮することができる。これを水に溶かし、さらに陽イオン交換カラムに通すことで、担体であるCsからの分離も可能になる。Frは、溶媒抽出法により分離抽出することもできる。例えばpH5としたクエン酸とカルシウムを含むFrの水溶液に、Na−TPBを加えベンゼン抽出を行うと、有機相にCsやTlとともにFrを抽出することができる。
[3−4−1−3−2 Ac同位体]
アクチニウム(Ac)の天然に存在する最も長寿命の同位体は227Ac(21.77年)である。これを含めAcの同位体は合計25種あり、例えば、232Ac(119秒、β崩壊)、231Ac(7.5分、β崩壊)、230Ac(122秒、β崩壊)、229Ac(62.7分、β崩壊)、228Ac(6.13時間、主にβ崩壊)、227Ac(21.77年、主にβ崩壊)等である。Acの化学的性質はランタン(La3+)や希土類元素に類似しており、Acの原子価は3+である。Acは酸化物や水酸化物は塩基性が強く、錯塩をつくりやすい性質を持つ。金属Acは水と反応すると水素ガスを放出し、酸化アクチニウム(Ac)となる。Acの分離方法の一つは、陽イオン交換樹脂によるイオン交換分離である。陽イオン交換カラムに吸着されたAcは最適なpH値やモル濃度をもつ塩酸水溶液(HCl)等で溶出できる。また、共沈法による濃縮、電気泳動法、溶媒抽出法、抽出クロマトグラフィ等の分離法を採用することができる。
[3−4−2 α放射性核種の具体的製造法]
次に、液体原料および固体原料を利用してNMCRによりα放射性核種を製造する製造工程について説明する。
[3−4−2−1 α放射性核種等のイオン交換分離法による製造]
次に、α放射性核種等の製造法方法に採用されるイオン交換分離法による製造法について説明する。イオン交換分離法は、希土類元素を分離する陽イオン交換クロマトグラフィ法から発展した手法である。ここで、陽イオン交換クロマトグラフィ法では、まず、陰イオンを持った樹脂を分離カラムに充填し、希土類元素の陽イオン溶液を分離カラムに流入し、陽イオンを静電的にいったん分離カラムに吸着結合させる。その後、陰イオン性化合物溶液を分離カラム上部から流入させ、樹脂に結合している希土類元素を、その化合物溶液と結合しやすいものから順々に分離カラムから溶出させる方法である。イオン交換分離法は、この原理を利用することにより、分離カラムに吸着結合されている元素を、その元素のみ脱離させることができる化合物溶液や酸または塩基性溶液を用いて溶離する方法である。目的の核種のみを溶離するためには、これらの溶液(溶離液)のph値およびモル濃度を調整するだけでなく、最適な溶離液の量も予め決定しておき、分離カラム上部から溶離液を流入させる。こうして、目的の核種の元素(イオン)のみを分離(溶離)する。
[3−4−2−1−1 225Ra、225Ac、213Bi、および212Pbの製造]
図127は、イオン分離交換法を利用してα放射性核種を製造する製造プラント2700の概略構成を示す説明図である。製造プラント2700は、ターゲット原料液リザーバ2702、標的容器2704、第1溶離液容器2712、第2溶離液容器2714、および第3溶離液容器2716を含んでいる。これらは、イオン分離カラム2720の上方ポートにバルブを介して接続される。製造プラント2700は、イオン分離カラム2720の下方ポートにバルブを介して接続される原料ドレイン容器2730、第1溶出ドレイン容器2742、第2溶出ドレイン容器2744、および第3溶出ドレイン容器2746をさらに含んでいる。製造プラント2700における標的容器2704にはミュオンビームMBが照射可能になっている。
225Ra、225Ac、213Bi、および212Pbを製造するためには、全バルブを閉位置にしておいて、ターゲット原料液リザーバ2702に226Raを含む塩化ラジウム(RaCl)水溶液等のターゲット原料溶液を入れておく。また、第1溶離液容器2712にはRaイオン溶離液を、第2溶離液容器2714にはAcイオン溶離液をそれぞれ入れておく。そして、イオン分離カラム2720には陽イオン交換樹脂を充填してFr分離カラムとしておく。製造プラント2700を225Ra、225Ac、213Bi、および212Pbを製造するために利用する場合、第3溶離液容器2716と第3溶出ドレイン容器2746とは使用しない。
まず、バルブ操作によりターゲット原料液リザーバ2702のターゲット原料溶液を標的容器2704に供給する。そして、標的容器2704越しにターゲット原料溶液にミュオンビームMBを照射する。この際、主に生成される225Frの半減期が3.9分であるため、その4倍程度を目安にして照射時間が決定され、例えば15分間照射される。なお、この照射により直接的に引き起こされ有望な核種が生成されるNMCRは、226Ra(μ、2n ν)224Frおよび226Ra(μ、n ν)225Frである。
ミュオンの照射を停止した後、標的容器2704の下部にあるバルブを開くと照射済み226Ra原料液(照射済み流体)がイオン分離カラム2720に注入され、自然流下する。イオン分離カラム2720ではFrイオンが吸着されるのに対し、Raイオンは吸着されずに原料ドレイン容器2730に排出される。イオン分離カラム2720の下方のバルブを閉じ、その状態で冷却時間として例えば30分程度放置する。この冷却時間の間に、イオン分離カラム2720では224Frおよび225Frが崩壊して224Raおよび225Raが生成され、224Raの一部は212Pbになり、225Raの一部は225Acになる。なお、上述した短時間の照射では、それより長い半減期の生成物、例えば223Fr(21.8分)の生成は抑制される。そして例えば223Frの混入を最小とするためには、上記照射時間や、上記冷却時間が調整される。なお、原料ドレイン容器2730への排出液には、226Raが残存しているため、ターゲット原料液リザーバ2702に再配置してターゲット原料溶液として再使用される。
次に、イオン分離カラム2720に吸着されている224Raおよび225Raを、第1溶離液容器2712からのRaイオン溶離液で溶出させ、第1溶出ドレイン容器2742に流出させる。この操作により、224Raイオンおよび225Raイオンが他から分離される。この際223Raも混入するがその量は少ない。
同様に、イオン分離カラム2720に吸着されている225Acを第2溶離液容器2714からのAcイオン溶離液で溶出させ、第2溶出ドレイン容器2744に流出させる。この操作により、225Acイオンが他から分離される。
そして第1溶出ドレイン容器2742の224Raイオンおよび225Raイオンは、直接利用することができる。ただし、これらを互いに他から分離することは通常は難しい。また、第1溶出ドレイン容器2742の液中の224Raイオンおよび225RaイオンをRa吸着カラム(図示しない)に注入して吸着させると、そのRa吸着カラムにおいては、224Raおよび225Raを親核とする崩壊生成核種である212Pbおよび225Acが生成される。つまり、Ra吸着カラムにイオンとして吸着された224Raおよび225Raは、212Pbおよび225Acを生成するためのジェネレータのための親核となる。また、224Raや212Pbが不要な場合には、Ra吸着カラムを30日程度冷却すると224Ra(半減期3.6日)は崩壊し225Raのみが残留する。このため、その30日程度冷却した後にRa吸着カラムの225Raは、崩壊を待たずそのまま利用することができる。さらに、当該Ra吸着カラムにイオンの形で吸着された225Raは、225Acを生成するジェネレータのための親核ともなる。
もう一方の第2溶出ドレイン容器2744の225Acイオンも、崩壊を待たずそのまま利用することができる。また、第2溶出ドレイン容器2744の液中の225AcイオンをAc吸着カラム(図示しない)に注入して吸着させると、そのAc吸着カラムから225Acを崩壊を待たずそのまま利用することができる。さらに、当該Ac吸着カラムにイオンの形で吸着された225Acは、213Biを生成するジェネレータのための親核ともなる。
[3−4−2−1−2 223Raの製造]
223Raを製造するためにも製造プラント2700を用いることができる。この場合、第3溶離液容器2716と第3溶出ドレイン容器2746とを使用する。
223Raを製造するためにも、例えば全バルブを閉位置にしておいて、226Raを含む塩化ラジウム(RaCl)水溶液等のターゲット原料溶液をターゲット原料液リザーバ2702に入れる。また、イオン分離カラム2720には陽イオン交換樹脂を充填してFr分離カラムとしておく。第1溶離液容器2712にはRaイオン溶離液を、第2溶離液容器2714にはAcイオン溶離液をそれぞれ入れておく。223Raを製造する場合には、さらに、第3溶離液容器2716にFrイオン溶離液を入れておく。
まず、バルブ操作により原料液リザーバ2702のターゲット原料溶液を標的容器2704に供給する。そして、標的容器2704越しにターゲット原料溶液にミュオンビームMBを照射する。この際、223Frの半減期が21.8分であるため、その6倍程度を目安にして照射時間が決定され、例えば120分間照射される。この照射において直接的に引き起こされ有望な核種が生成されるNMCRは、226Ra(μ、3n ν)223Fr、226Ra(μ、2n ν)224Fr、および226Ra(μ、n ν)225Frである。
ミュオンの照射を停止した後、標的容器2704の照射済み226Raのターゲット原料溶液(照射済み流体)がイオン分離カラム2720に注入され、自然流下する。イオン分離カラム2720では、223Fr、224Fr、225Frイオンが吸着されるのに対し、Raイオンは吸着されず原料ドレイン容器2730に排出される。イオン分離カラム2720の下方のバルブを閉じ、その状態で冷却時間として例えば20分程度放置する。この冷却時間の間に、イオン分離カラム2720では224Fr(半減期3.3分)および225Fr(半減期3.9分)が崩壊して224Raおよび225Raが生成され、その224Raの一部は212Pbに、また、225Raの一部は225Acになる。冷却時間終了後、イオン分離カラム2720に保持されるFrは223Frのみとなる。ただし、冷却期間の間に保持されていた223Fr(半減期21.8分)の約半量は、223Raへ崩壊する。なお、原料ドレイン容器2730への排出液には、226Raが残存しているため、原料液リザーバ2702に再配置してターゲット原料溶液として再使用される。
次に、イオン分離カラム2720に吸着されている223Frイオンを、第3溶離液容器2716のFrイオン溶出液で第3溶出ドレイン容器2746に流出させる。この際、RaイオンおよびAcイオンはイオン分離カラム2720に保持されたままとなる。第3溶出ドレイン容器2746では、溶液中で223Frが崩壊して223Raが生成される。これにより、223Raが他から分離されたこととなる。
また、イオン分離カラム2720に吸着している223Ra、224Ra、225Raは、第1溶離液容器2712からのRaイオン溶離液で溶出させ、第1溶出ドレイン容器2742に流出させる。この操作により、223Raイオン、224Raイオン、および225Raイオンが他から分離される。
同様に、イオン分離カラム2720に吸着されている225Acを第2溶離液容器2714からのAcイオン溶離液で溶出させ、第2溶出ドレイン容器2744に流出させる。この操作により、225Acイオンが他から分離される。
そして第3溶出ドレイン容器2746で生成された223Raイオンは、直接利用することができる。必要に応じ、223RaイオンはRa吸着カラム(図示しない)に注入して吸着させることもできる。
また、第1溶出ドレイン容器2742の223Raイオン、224Raイオン、および225Raイオンは直接利用することができる。ただし、これらを互いに他から分離することは通常は難しい。また、第1溶出ドレイン容器2742の液中の223Raイオン、224Raイオン、および225Raイオンを上述したものとは別のRa吸着カラム(図示しない)に注入して吸着させる。この別のRa吸着カラムを30日間冷却すると、224Ra(半減期3.6日)は、そのほとんど全量が崩壊して208Pbになるため、223Raおよび225Raのみが残存する。この30日程度冷却した上記別のRa吸着カラムから、223Raおよび225Raは、崩壊を待たずそのまま利用することができる。さらに、当該別のRa吸着カラムにイオンの形で吸着された225Raは、225Acおよび213Biを生成するジェネレータのための親核ともなる。
さらに、第2溶出ドレイン容器2744の225Acイオンも、崩壊を待たずそのまま利用することができる。また、第2溶出ドレイン容器2744の液中の225AcイオンをAc吸着カラム(図示しない)に注入して吸着させると、そのAc吸着カラムから225Acは崩壊を待たずそのまま利用することができる。さらに、当該Ac吸着カラムにイオンの形で吸着された225Acは、213Biを生成するジェネレータのための親核ともなる。
[3−4−2−1−3 228Th、224Ra、212Pb、および212Biの製造、ならびに227Ac、227Th、および223Raの製造]
228Th、224Ra、212Pb、および212Bi、ならびに227Ac、227Th、および223Raを製造するためには、図128に示すイオン分離交換法を利用する製造プラント2800を利用する。製造プラント2800は、ターゲット原料液リザーバ2802、標的容器2804、第1溶離液容器2812、および第2溶離液容器2814を含んでいる。これらは、イオン分離カラム2820Aおよびイオン分離カラム2820Bの上方ポートにバルブを介して接続される。製造プラント2800は、イオン分離カラム2820の下方ポートにバルブを介して接続される原料ドレイン容器2830、第1溶出ドレイン容器2842、および第2溶出ドレイン容器2844をさらに含んでいる。製造プラント2800における標的容器2804にはミュオンビームMBが照射可能になっている。
上記製造核種を製造するためには、全バルブを閉位置にしておいて、原料液リザーバ2802に232Thを含む硝酸トリウム(Th(NO)水溶液等のターゲット原料溶液を入れておく。また、第1溶離液容器2812にはThイオン溶離液を、第2溶離液容器2814にはAcイオン溶離液をそれぞれ入れておく。そして、イオン分離カラム2820Aおよび2820Bは陽イオン交換樹脂を充填してAc分離カラムとしておく。なお、イオン分離カラム2820Aおよび2820Bの2系統を示すのは、複数の系統のカラムにより製造効率を高めること、特に冷却と照射で処理時間に相違が生じても複数の系統によりミュオンを中断させることなく継続的に照射しながら製造を続行できることを例示するためである。
まず、バルブ操作により原料液リザーバ2802のターゲット原料溶液を標的容器2804に供給する。そして、標的容器2804越しにターゲット原料溶液にミュオンビームMBを照射する。この際、生成される228Acの半減期が6.13時間であるため、その4倍程度を目安にして照射時間が決定され、例えば24時間照射される。この照射において直接的に引き起こされ有望な核種が生成されるNMCRは、232Th(μ、4n ν)228Ac、および232Th(μ、5n ν)227Acである。
ミュオンの照射を停止した後、標的容器2804の照射済みターゲット原料溶液(照射済み流体)がイオン分離カラム2820Aに注入され、自然流下する。イオン分離カラム2820AではAcイオンが吸着されるのに対し、Thイオンは吸着されずに原料ドレイン容器2830に排出される。イオン分離カラム2820Aの下方のバルブを閉じ、その状態で冷却時間として例えば48時間程度放置する。この冷却時間の間に、イオン分離カラム2820Aでは228Ac(6.13時間)が崩壊して228Thが生成し、227Ac(21.8年)はほとんど崩壊せずそのまま存在し続ける。なお、標的容器2804にターゲット原料溶液を再充填することによりミュオンビームMBの照射を継続して処理を続行することができるものの、その場合、上述した照射時間(24時間)が冷却時間(48時間)の1/2となる処理時間の相違が問題となる。その場合には、イオン分離カラム2820Aの冷却時間中であってもイオン分離カラム2820Bを利用して同様の処理を行うことができる。なお、原料ドレイン容器2830への排出液に232Thが残存している。この排出液は、原料液リザーバ2802に再配置してターゲット原料溶液として再使用される。
次に、冷却期間終了後にイオン分離カラム2820AまたはBに吸着されている228Thを、第1溶離液容器2812からのThイオン溶離液で溶出させ、第1溶出ドレイン容器2842に流出させる。この際、227Acイオンはイオン分離カラム2820AまたはBに残存する。この操作により、228Thイオンが他から分離される。
同様に、イオン分離カラム2820AまたはBに吸着されている227Acイオンを第2溶離液容器2814からのAcイオン溶離液で溶出させ、第2溶出ドレイン容器2844に流出させる。この操作により、227Acイオンが他から分離される。
そして第1溶出ドレイン容器2842の228Thイオンは、直接利用することができる。また、第1溶出ドレイン容器2842の液中の228ThイオンをTh吸着カラム(図示しない)に注入して吸着させると、そのTh吸着カラムにおいては、228Thを親核とする崩壊生成核種である224Ra、212Pb、および212Biが生成される。つまり、Th吸着カラムにイオンとして吸着された228Thは、224Ra、212Pb、および212Biを生成するためのジェネレータのための親核となる。
もう一方の第2溶出ドレイン容器2844の227Acイオンも、崩壊を待たずそのまま利用することができる。また、第2溶出ドレイン容器2844の液中の227Acイオンは、Ac吸着カラム(図示しない)に注入して吸着させると、そのAc吸着カラムから227Acを崩壊を待たずそのまま利用することができる。さらに、当該Ac吸着カラムにイオンの形で吸着された227Acは、227Thおよび223Raを生成するジェネレータのための親核ともなる。
[3−4−2−1−4 α放射性核種のイオン交換分離法による製造の補足]
なお、図128に関連して説明した複数系統を利用することによる処理時間の相違を克服する手法は、図127にて説明した製造プラント2700にも容易に適用することができる。
[3−4−2−2 α放射性核種の密封容器による製造]
次に、密封容器を利用してα放射性核種を製造する手法について説明する。この場合の工程は、図14に示したバッチ製造工程1400と同様の工程となるため、ここでは図14を参照して説明する。ターゲット核種として226Raを利用する場合、この際に採用することができるターゲット原料は臭化ラジウム(RaBr)や、塩化ラジウム(RaCl)等である。また、ターゲット原料として232Thを利用する場合、この際に採用することができるターゲット原料は二酸化トリウム(ThO)や、硝酸トリウム(Th(NO)等である。また、これらの固体や水溶液が、適当な容器1404A〜Dにある単位量だけ収容される。そしてこれらの単位量のターゲット原料1402を処理バッチとしてミュオンビームMBを所定の照射量だけ照射する。この際、容器越しに照射するミュオンの入射エネルギーを調整すればターゲット原料部分だけにミュオン照射することができる。照射後、容器1404A等の照射後の容器を搬出して後続する化学分離処理を行なう。この後続する処理として採用できる処理は任意の化学分離処理であり、例えば、上記3−4−2−1にて説明したイオン交換分離法による処理のほか、例えば、沈殿法(共沈法)による分離処理を採用することができる。
225Ac(半減期10.0日)の製造にはバッチ法も適用できる。225Acの親核225Ra(半減期14.8日)は、226Ra(μ, n ν)225FrのNMCRで生成する225Fr(半減期3.9分)のβ崩壊により生成し、その225Raがβ崩壊すると225Acが生成される。226RaのNMCRで生成する225Ra以外のRa同位体は全てRnの同位体へα崩壊するので、Ac同位体は225Acのみが生成される。ミュオン照射済みの226Raターゲット原料を15日間程度(225Raの半減期程度)冷却し、ターゲット原料中に生成した225Acをイオン交換分離法や沈殿法(共沈法)で分離回収できる。また、処理後のターゲット原料には225Raがまだ残存しているので、さらに冷却および分離工程を行うことで225Acを数回製造することができる。
バッチ製造工程1400では、一度に一つの容器(ここでは容器1404B)のみがNMCRの対象となっているものの、複数の容器1404に同時にミュオン照射するなど実施上の条件に応じて種々の変更を行うことができる。このようなバッチ処理は、ミュオン照射の処理に自動化手法を導入することに適するものである。
[3−4−2−3 沈殿法および共沈法]
なお、本実施形態において採用できる沈殿法(共沈法を含む)は通常の化学的分離に利用される手法と同様である。例えば、金属イオンを含む水溶液に塩酸を添加することにより塩化物を沈殿させ、残りの溶液に硫化水素ガス(HS)を通気させて硫化物を沈殿さる。その後、煮沸してHSを脱気してNHClとBr水を加え、さらにNH水を加えて水酸化物を沈殿させる。さらに(NHSまたはNHアルカリ水溶液にHSを通気させて硫化物を沈殿させる。そして、NHCl存在下で(NHCO溶液を添加して炭酸塩を沈殿させる。共沈とは、類似した性質の元素の化合物を沈殿させる化学操作により、本来はその操作では沈殿しないはずの元素の化合物までが沈殿する現象である。これらの沈殿または共沈を組み合わせることによって、目的のα放射性核種を沈殿物の形態で、または沈殿物の形で不要な物質が除去された溶液の形態で得ることができる。そして、沈殿物(共沈物)として得られれば、α放射性核種をさらに事後の処理に適する化学形とすることも、公知の任意の化学操作や物理操作の手法を採用することができる。
[3−4−3 量的見積]
次に、実用性に影響する数量的側面に着目し、上述したα放射性核種の生成手法によって、α放射性核種がどの程度の分量だけ製造可能であるかを見積もった結果を説明する。なお、以下の説明において、加速器やミュオンについての条件は、(2−1−3)の欄と同様に仮定した。より詳細には、陽子加速器の陽子ビームの条件、陽子が負ミュオンに変換される係数、ミュオン輸送効率、これらに基づく負ミュオン個数Nμは欄(2−1−3)と同様とした。大きな原子番号をもつ226Raや232Thをターゲット核種とするNMCRでは、ほぼ100%の確率で、ミュオン原子形成とミュオン原子核捕獲が起こる。従って、式9のPcrは、それぞれの226Raや232Thをターゲット核種とするNMCRの分岐比と等しいと見積もることができる。
[3−4−3−1 ターゲット核種が226Raである場合]
まず図127に示した構造の製造プラント2700を利用してターゲット核種が226Raである場合における核種の製造量を見積もった。各NMCRの分岐比は、
226Ra(μ, ν)226Fr反応:0.05
226Ra(μ, n ν)225Fr反応:0.45
226Ra(μ,2n ν)224Fr反応:0.25
226Ra(μ,3n ν)223Fr反応:0.15
226Ra(μ,4n ν)222Fr反応:0.10
であると仮定した。これは、209Bi(μ、xn ν)(x=0、1、2、3、4)の実際の分岐比から類推して適用したものである。これらのうち、図121〜123に関連して説明した崩壊系列を導くNMCR、つまり図124において下線を付した反応について以下説明する。
放射性壊変の式に上記条件を代入することにより、各反応に適するミュオン照射時間を採用することにより、表6の推定値を得た。
ただし、NRIは、生成される核種数(個)、またARIは生成される核種のみによる放射能であり、dps(すなわちBq)を単位としている。この放射能は、子孫核種の放射能を含まず、また、NRIとARIには、T1/2を半減期として、ARI=(0.693/T1/2)NRIの関係が成立する。
さらに、より実際的な生成量の見積もりも行った。具体的には、図127の製造プラント2700において、標的容器2704に対応する容器を単位として上記ミュオン照射時間だけ照射した後に次のターゲット原料溶液のバッチに取り替える、というバッチ処理を繰り替えした。この見積もりの仮定として、225Frと224FRの生成では、15分間ミュオン照射、30分間冷却を1工程(1時間とする)とし、この工程を1日に24回繰り返すと仮定した。223Frの生成では、120分間ミュオン照射、20分間冷却を1工程(2時間とする)とし、この工程を1日12回繰り返すと仮定した。これらの仮定の下で、上記Fr同位体それぞれの子孫核種として生成される各崩壊系列の核種の製造量を、上記処理を24時間継続した時点での放射能により見積もった(表7)。
なお、表7において、子孫核種毎の放射能量の見積もり値は時々刻々変化するため、各処理バッチにおけるミュオン照射停止後の冷却時間を必要に応じ明示している。また、放射能にて示す推定生成量が算出された経時的な条件を必要に応じ併記している。さらにミルキングが可能となる核種にはその旨およびミルキングの間隔を明示している。
表7に示した子孫核種の生成量はいずれも十分な物といえる。例えば、既にFDAより承認を獲得した223Raを含むXofigoの場合、体重60kgの患者への投与量は1回160μCi程度であり、表7に示した24時間分の製造量はその約5900回分に相当する。
[3−4−3−2 ターゲット核種が232Thである場合]
次に図128に示した構造の製造プラント2800を利用してターゲット核種が232Thである場合における核種の製造量を見積もった。各NMCRの分岐比は、
232Th(μ, ν)232Ac反応:0.05
232Th(μ, n ν)231Ac反応:0.40
232Th(μ,2n ν)230Ac反応:0.25
232Th(μ,3n ν)229Ac反応:0.15
232Th(μ,4n ν)228Ac反応:0.10
232Th(μ,5n ν)227Ac反応:0.05
であると仮定した。ここに示した分岐比は、209Bi(μ、xn ν)(x=0、1、2、3、4、5)の実際の分岐比から、類推し適用したものである。この際の分岐比は、226Raをターゲット核種とする場合(3−4−3−1参照)から値を変更している。具体的には、226Raのものよりも(μ,n ν)反応の分岐比を0.05だけ小さく、また、(μ,5n ν)反応の分岐比を0.05と見積もった。これは、ターゲット核である232Thの質量数が226Raより大きいことに起因して、放出中性子数分布が、放出される中性子数の多い側にずれると考察したからである。これらのうち、図121〜123に関連して説明した崩壊系列を導くNMCR、つまり図124において下線を付した反応について以下説明する。
放射性壊変の式に上記条件を代入することにより、各反応に適するミュオン照射時間を採用することにより、表8の推定値を得た。
さらに、より実際的な生成量の見積もりも行った。具体的には、図128の製造プラント2800において、24時間ミュオン照射、48時間冷却を1工程とし、イオン分離カラム2820Aおよび2820Bを交互に使用する処理を繰り替えしながらミュオンビームMBを中断させることなく継続的に照射する、という製造の条件を仮定した。その仮定の下で、上記Ac同位体それぞれの子孫核種として生成される各崩壊系列の核種の製造量を、上記処理を24時間継続した時点での放射能により見積もった(表9参照)。
なお、表9において、各処理バッチにおけるミュオン照射停止後の冷却時間を必要に応じ明示している。また、放射能にて示す推定生成量が算出された経時的な条件を必要に応じ併記している。さらにミルキングが可能となる核種にはその旨およびミルキングの間隔を明示している。
表9に示した24時間分の223Raの製造量(1.6mCi)は、223Raを含むXofigoを体重60kgの患者へ投与する分量(1回160μCi)の約10回分に相当する。しかも223Raを得るために必要な227Acは半減期が長く、長期間223Raを生成することも可能となる。
[3−4−4 α放射性核種を製造する他の手法]
本出願におけるα放射性核種は、上述した226Raターゲットと232Thターゲット以外の原料から製造することも考えられる。例えば、Thの同位体に230Th(半減期75,400年)がある。濃縮230Thを相当量得ることができれば、
230Th(μ,2n ν)228Ac
230Th(μ,3n ν)227Ac
の反応によって、それぞれ、228Ac(トリウム系列)および227Ac(アクチニウム系列)を製造することができる。具体的には、230Thの濃縮ターゲット原料を利用することができれば、232Thのターゲット原料を利用する場合に比べ、227Acの生成率は2.5倍程度、228Acの生成率は3.0倍程度高くなることが期待される。その理由は、228Acおよび227Acを生成する効率がNMCRの分岐比に比例して高くなるためである。実際、232Thと同様に232Thをターゲットとする場合の各NMCRの分岐比は、
230Th(μ, ν)230Ac反応:0.05
230Th(μ, n ν)229Ac反応:0.40
230Th(μ,2n ν)228Ac反応:0.25
230Th(μ,3n ν)227Ac反応:0.15
230Th(μ,4n ν)226Ac反応:0.10
230Th(μ,5n ν)225Ac反応:0.05
程度となることが期待できる。その結果、3−4−3−2にて説明した232Thターゲットの場合の232Th(μ,4n ν)228Ac反応や232Th(μ,5n ν)227Ac反応の分岐比に比べ、230Thターゲットから228Acや227Acを生成する効率が高まるのである。
以上、本発明の実施形態を具体的に説明した。上述の各実施形態および具体例、適用例、そして核種の各論やその製造方法は、発明を説明するために記載されたものであり、本出願の発明の範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきものである。また、各実施形態の他の組合せを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。
本発明の放射性物質またはその製造方法は、放射性物質を利用する任意の装置や任意の分析手法に利用可能である。
100 ミュオン照射系
102 陽子加速ビーム系
104A パイオン生成ターゲット(カーボンターゲット)
104B パイオン入射系
106 超伝導電磁石
108A キッカー電磁石
108B セプタム電磁石
108C 静電粒子分離器
P1〜P4 ミュオンポート
1000、1100、1200、1300、1800 製造プラント
1900、2000、2100、2700、2800 製造プラント
1400、1700 バッチ製造工程
1002、1102、1202、1302、1402 ターゲット原料
1702、1802、1902、2002、2102 ターゲット原料

Claims (22)

  1. 負ミュオンをターゲット核種に入射させてミュオン原子核捕獲反応を引き起こすことにより得られた第1放射性核種、または、該第1放射性核種から放射性崩壊を経て得られる子孫核種の少なくとも1種である第2放射性核種、のうちの少なくともいずれかを備える放射性物質。
  2. 負ミュオンが照射されるターゲット原料は、前記ターゲット核種と、該ターゲット核種よりも原子番号が小さい元素である非ターゲット核種とを含んでおり、
    前記第1放射性核種が、前記ターゲット原料における前記ターゲット核種と負ミュオンとのミュオン原子核捕獲反応により得られたものである、請求項1に記載の放射性物質。
  3. 前記ターゲット原料が、前記ターゲット核種と前記非ターゲット核種とが化学結合した原料化合物であり、
    前記ターゲット核種から生成された前記第1放射性核種または前記第2放射性核種を含む生成化合物が、該第1放射性核種または該第2放射性核種のうちの該生成化合物に含まれるものと前記ターゲット核種との化学的性質の差異によって前記原料化合物から化学的に分離可能となるものである、請求項2に記載の放射性物質。
  4. 前記第1放射性核種または前記第2放射性核種のいずれかが、99mTcまたは99Moである、請求項1に記載の放射性物質。
  5. 前記第1放射性核種または前記第2放射性核種のいずれかが、225Ra、225Ac、224Ra、223Raからなる群から選択される少なくとも1種の核種である、請求項1に記載の放射性物質。
  6. 前記第1放射性核種または前記第2放射性核種のいずれかが、下記核種グループである第1の核種グループから選択される少なくとも1種の核種である、請求項1に記載の放射性物質。
  7. 前記第1放射性核種または前記第2放射性核種のいずれかが、下記核種グループである第2の核種グループから選択される少なくとも1種の核種である、請求項1に記載の放射性物質。
  8. 前記第1放射性核種または前記第2放射性核種のいずれかが、下記核種グループである第3の核種グループから選択される少なくとも1種の核種である、請求項1に記載の放射性物質。
  9. 前記第1放射性核種または前記第2放射性核種のいずれかが、下記核種グループである第4の核種グループから選択される少なくとも1種の核種である、請求項1に記載の放射性物質。
  10. 負ミュオンをターゲット核種に入射させてミュオン原子核捕獲反応を引き起こすことにより第1放射性核種を得るミュオン照射工程
    を含んでおり、製造される放射性物質が、該第1放射性核種、または、該第1放射性核種から放射性崩壊を経て得られる子孫核種の少なくとも1種である第2放射性核種、のうちの少なくともいずれかを有しているものである、放射性物質の製造方法。
  11. 前記ターゲット核種と、該ターゲット核種よりも原子番号が小さい元素である非ターゲット核種とを含んでいるターゲット原料を準備する工程
    を前記ミュオン照射工程より前にさらに含み、
    前記ミュオン照射工程において前記ターゲット核種から得た前記第1放射性核種が、前記ターゲット原料における前記ターゲット核種と負ミュオンとのミュオン原子核捕獲反応により得られたものである、請求項10に記載の放射性物質の製造方法。
  12. 前記ミュオン照射工程にて負ミュオンが入射される照射位置にある前記ターゲット原料が、前記ターゲット核種よりも原子番号が小さい種類の元素のみを含む流体媒体と接触されまたは混合されている、請求項10に記載の放射性物質の製造方法。
  13. 前記ミュオン照射工程において前記ターゲット核種から得た前記第1放射性核種または前記第2放射性核種と前記流体媒体とを含む照射済み流体を、前記流体媒体を移動させることにより前記照射位置から搬出する搬出工程と、
    前記照射済み流体から前記第1放射性核種または前記第2放射性核種を選択的に捕集する捕集工程と
    をさらに含む請求項12に記載の放射性物質の製造方法。
  14. 前記捕集工程を経た前記照射済み流体を、前記流体媒体を移動させることにより前記照射位置に再配置する再配置工程
    をさらに含む請求項13に記載の放射性物質の製造方法。
  15. 前記流体媒体が前記照射位置を通る循環経路を移動されるものである、請求項14に記載の放射性物質の製造方法。
  16. 前記ミュオン照射工程が継続的に実行されながら、前記搬出工程、前記捕集工程、および前記再配置工程が並行して実行される請求項14または請求項15に記載の放射性物質の製造方法。
  17. 前記流体媒体が気体であり、
    前記ミュオン照射工程は、負ミュオンが照射されることとなるターゲット原料がある処理基準温度より高い温度に維持されて実行されるものであり、
    該処理基準温度は、前記第1放射性核種または前記第2放射性核種のいずれかを含む放射性物質を該ターゲット原料から昇華して脱離させる温度である、請求項14に記載の放射性物質の製造方法。
  18. 前記捕集工程は、生成する放射性物質を溶解させうる溶媒または水溶液に接触させて前記照射済み流体を通過させることにより、該照射済み流体に気体として含まれる前記放射性物質を選択的に捕集するものである、請求項17に記載の放射性物質の製造方法。
  19. 前記捕集工程は、前記放射性物質に対して接触させて前記照射済み流体を通過させることにより、該照射済み流体に気体として含まれる前記放射性物質を選択的に捕集するものである、請求項17に記載の放射性物質の製造方法。
  20. 前記気体が希ガスを含んでいるものである、請求項18または請求項19に記載の放射性物質の製造方法。
  21. 前記流体媒体が液体であり、
    前記捕集工程は、前記照射済み流体である該液体に含まれる前記放射性物質またはそのイオンを選択的に吸着して捕集するものである、請求項14に記載の放射性物質の製造方法。
  22. 希ガス元素の核種を前記ターゲット核種として含んでいる該希ガス元素のターゲット原料を準備する工程
    を前記ミュオン照射工程より前にさらに含み、
    前記ミュオン照射工程において前記ターゲット核種から得た前記第1放射性核種が、ハロゲン元素の核種であり、
    該第1放射性核種を、前記ハロゲン元素のイオンの水溶液として回収する工程
    を前記ミュオン照射工程より後にさらに含む請求項10に記載の放射性物質の製造方法。
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