JP2014182020A - 放射性物質付着抑制方法 - Google Patents

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雅人 岡村
Hideji Tsujii
秀二 辻井
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Seiji Yamamoto
誠二 山本
Taemi Sato
妙美 佐藤
Yutaka Uruma
裕 閏間
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Abstract

【課題】除染後の炭素鋼部材にCo−60等の放射性物質が取り込まれることを抑制すること。
【解決手段】軽水炉を用いた原子力発電プラントを構成する炭素鋼部材10を化学除染する工程と、化学除染後の炭素鋼部材10の表面と、シュウ酸およびニッケルイオンを含むシュウ酸−ニッケル混合液とを接触させ、化学除染後の炭素鋼部材10の表面にシュウ酸ニッケル皮膜20を形成する工程と、から成る前処理工程を備える放射性物質付着抑制方法。
【選択図】 図1

Description

本発明は、軽水炉を用いた原子力発電プラントを構成する炭素鋼部材の表面に放射性物質が付着することを抑制する放射性物質付着抑制方法に関する。
沸騰水型軽水炉(BWR)を用いた原子力発電プラントや改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)を用いた原子力発電プラントの定期検査時における作業員の被ばく線量は、CUW系(原子炉浄化係)の炭素鋼配管の点検作業時、特に弁点検作業時に多くなる。このため、作業員被ばく量を低減するためには、CUW系炭素鋼配管、特に弁周辺部の線量を低減することが好ましい。
CUW系炭素鋼配管等の原子力発電プラントの炭素鋼構造材からの線量は、炭素鋼部材からなる炭素鋼構造材の表面に付着したクラッドや炭素鋼構造材の表面に形成された鉄酸化物等の酸化皮膜中に取り込まれた、Co−60やCo−58等の放射性物質によるものである。このため、炭素鋼構造材からの線量を低減する方法としては、化学薬品を用い、放射性物質を取り込んだクラッドや酸化皮膜を炭素鋼部材の表面から除去する化学除染方法が広く用いられている。
化学除染方法としては、化学薬品を用い、還元溶解と酸化溶解とを組み合わせて行う方法が知られている。除染により、炭素鋼部材の表面から、放射性物質を取り込んだクラッドや酸化皮膜が除去されると、炭素鋼部材の清浄な表面が露出する。
しかし、除染後に原子炉を再起動すると、炭素鋼部材の表面に再び放射性物質が付着する。すなわち、除染後の炭素鋼部材の表面が放射性物質を含む280℃程度の高温水に接触すると、炭素鋼部材の表面に放射性物質を取り込んだ酸化皮膜が再び形成される。しかも、除染後の炭素鋼部材の清浄な表面では酸化皮膜の皮膜成長速度が速いため、除染後は除染前よりも炭素鋼部材の放射性物質の取り込み速度が高くなる。以上のように、除染により、炭素鋼部材の表面から、放射性物質を取り込んだクラッドや酸化皮膜を一旦除去しても、除染後の炭素鋼部材の表面では、除染後の短いサイクルで再び線量率が上昇するという課題があった。
これに対し、除染後の炭素鋼部材の表面に酸化皮膜を形成する方法として、特許文献1には、除染後の炭素鋼部材の表面に熱水や水蒸気を接触させる方法、特許文献2には、除染後の炭素鋼部材の表面に高温の酸素やオゾンを接触させる方法、特許文献3には、除染後の炭素鋼部材の表面に鉄イオンを含む薬剤を接触させる方法が、それぞれ記載されている。
また、除染後の炭素鋼部材の表面へのCo−60の付着を抑制する方法として、特許文献4および特許文献5には、除染後の炭素鋼部材の最表面にニッケルフェライト層を形成する方法が記載されている。
特開2004−294393号公報 特開2002−236191号公報 特開2006−38483号公報 特開2010−229543号公報 特開2011−32551号公報
特許文献4や5に記載された方法では、除染後に、炉水中のニッケルを取り込んでニッケルフェライト皮膜を形成する。
しかし、特許文献4や5に記載された方法では、除染後に、炭素鋼部材の最表面にニッケルフェライト皮膜を形成する際に、ニッケルフェライト皮膜中に炉水中のCo−60が取り込まれることにより、ニッケルフェライト皮膜中の放射線量が増大しやすいという課題があった。
本発明は、上記課題を解決するものであり、除染後の炭素鋼部材にCo−60等の放射性物質が取り込まれることを抑制することを目的とする。
本発明の放射性物質付着抑制方法は、上記課題を解決するためのものであり、軽水炉を用いた原子力発電プラントを構成する炭素鋼部材を化学除染する工程と、化学除染後の前記炭素鋼部材の表面と、シュウ酸およびニッケルイオンを含むシュウ酸−ニッケル混合液とを接触させ、前記化学除染後の炭素鋼部材の表面にシュウ酸ニッケル皮膜を形成する工程と、から成る前処理工程を備えることを特徴とする。
本発明の放射性物質付着抑制方法によれば、除染後の炭素鋼部材にCo−60等の放射性物質が取り込まれることを抑制することができる。
(A)から(D)は炭素鋼部材の表面状態の変化を示す断面図。 実施例1のニッケルフェライト皮膜の表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真の一例。 ニッケルフェライト皮膜のCo−60取り込み抑制効果を示すグラフ。 シュウ酸ニッケル皮膜を作製するときのシュウ酸−ニッケル混合液のニッケルイオン濃度と、ニッケルフェライト皮膜のCo−60取り込み抑制効果との関係を示すグラフ。 ニッケルフェライト皮膜を作製するときの高温水の温度と、ニッケルフェライト皮膜のCo−60取り込み抑制効果との関係を示すグラフ。 ニッケルフェライト皮膜を作製するときの大気酸化の温度と、ニッケルフェライト皮膜のCo−60取り込み抑制効果との関係を示すグラフ。
[放射性物質付着抑制方法]
本発明の放射性物質付着抑制方法には、第1〜第4の抑制方法がある。
第1の抑制方法は、炭素鋼部材を化学除染する工程(化学除染工程)と、炭素鋼部材の表面にシュウ酸ニッケル皮膜を形成する工程(シュウ酸ニッケル皮膜形成工程)とから成る前処理工程を備える方法である。
第2の抑制方法は、第1の抑制方法の化学除染工程およびシュウ酸ニッケル皮膜形成工程から成る前処理工程に加えて、シュウ酸ニッケル皮膜をニッケルフェライト皮膜に変化させる工程(第1のニッケルフェライト皮膜形成工程)を備える方法である。
第3の抑制方法は、第1の抑制方法の化学除染工程およびシュウ酸ニッケル皮膜形成工程から成る前処理工程に加えて、シュウ酸ニッケル皮膜をニッケル酸化物皮膜に変化させる工程(ニッケル酸化物皮膜形成工程)を備える方法である。
第4の抑制方法は、第3の抑制方法の化学除染工程、シュウ酸ニッケル皮膜形成工程およびニッケル酸化物皮膜形成工程に加えて、ニッケル酸化物皮膜をニッケルフェライト皮膜に変化させる工程(第2のニッケルフェライト皮膜形成工程)を備える方法である。
はじめに、第1の抑制方法の化学除染工程およびシュウ酸ニッケル皮膜形成工程から成る前処理工程について説明する。
(第1の抑制方法)
<化学除染工程>
化学除染工程は、軽水炉を用いた原子力発電プラントを構成する炭素鋼部材を化学除染する工程である。
原子力発電プラントを構成する炭素鋼部材としては、たとえば、主蒸気系の主蒸気系配管、給水系の給水系配管、原子炉再循環系の再循環系配管、原子炉冷却材浄化系の冷却材浄化系配管、残留熱除去系の残留熱除去系配管、およびボトムドレン配管等が挙げられる。
炭素鋼部材を化学除染する工程で用いられる除染液としては、シュウ酸を含む除染液が好ましい。除染液がシュウ酸を含むと、この除染液にニッケル塩を添加するだけで後述のシュウ酸−ニッケル混合液を調製することができ、作業時間を短縮したり作業コストを低減したりすることができる。
化学除染により、炭素鋼部材の表面に形成された酸化皮膜が除去され、炭素鋼部材の清浄な表面が露出する。
図1は、炭素鋼部材の表面状態の変化を示す断面図である。図1(A)は化学除染工程後の炭素鋼部材の表面状態を示す断面図であり、図1(B)はシュウ酸ニッケル皮膜形成工程後の炭素鋼部材の表面状態を示す断面図であり、図1(C)はニッケル酸化物皮膜形成工程後の炭素鋼部材の表面状態を示す断面図であり、図1(D)は第1のニッケルフェライト皮膜形成工程または第2のニッケルフェライト皮膜形成工程後の炭素鋼部材の表面状態を示す断面図である。
炭素鋼部材10が化学除染工程で化学除染されると、炭素鋼部材の表面に形成された酸化皮膜が除去されることにより、図1(A)に示されるように、清浄な炭素鋼部材10が露出する。
<シュウ酸ニッケル皮膜形成工程>
シュウ酸ニッケル皮膜形成工程は、化学除染後の炭素鋼部材の表面と、シュウ酸およびニッケルイオンを含むシュウ酸−ニッケル混合液とを接触させ、前記化学除染後の炭素鋼部材の表面にシュウ酸ニッケル皮膜を形成する工程である。
ここで、シュウ酸−ニッケル混合液とは、シュウ酸およびニッケルイオンを含む混合液である。シュウ酸−ニッケル混合液は、通常、水溶液である。
[シュウ酸−ニッケル混合液]
シュウ酸−ニッケル混合液は、シュウ酸を、通常0.02質量%(200ppm)以上、好ましくは0.02質量%〜0.5質量%(5000ppm)、さらに好ましくは0.1質量%(1000ppm)〜0.5質量%、より好ましくは0.1質量%(1000ppm)〜0.2質量%(2000ppm)含む。
シュウ酸−ニッケル混合液は、ニッケルイオン(Ni2+)を、通常0.01質量%(100ppm)以上、好ましくは0.01質量%〜0.12質量%(1200ppm)、さらに好ましくは0.01質量%〜0.1質量%(1000ppm)、より好ましくは0.01質量%〜0.03質量%(300ppm)含む。
シュウ酸−ニッケル混合液は、通常20℃以上、好ましくは50℃以上、さらに好ましくは50〜97℃、より好ましくは70〜95℃である。
シュウ酸−ニッケル混合液は、たとえば、水にシュウ酸およびニッケル塩を添加することにより調製することができる。また、化学除染工程で用いた除染液がシュウ酸を含む水溶液である場合、この除染液にニッケル塩を添加することにより、シュウ酸−ニッケル混合液を調製することができる。このため、化学除染工程で用いる除染液がシュウ酸を含む水溶液であると、除染液を有効活用でき、シュウ酸−ニッケル混合液を調製する手間およびコストを低減することができる。
シュウ酸−ニッケル混合液の調製に用いられるニッケル塩としては、たとえば、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、リン酸ニッケル、炭酸ニッケル、水酸化ニッケル、ギ酸ニッケルおよび酢酸ニッケルから選ばれる1種以上のニッケル塩が挙げられる。すなわち、シュウ酸−ニッケル混合液は、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、リン酸ニッケル、炭酸ニッケル、水酸化ニッケル、ギ酸ニッケルおよび酢酸ニッケルから選ばれる1種以上のニッケル塩を含むことができる。
[シュウ酸ニッケル皮膜の形成]
シュウ酸ニッケル皮膜形成工程では、化学除染後の炭素鋼部材の表面と、シュウ酸−ニッケル混合液とを接触させ、化学除染後の炭素鋼部材の表面にシュウ酸ニッケル皮膜を形成する。
化学除染後の炭素鋼部材の表面と、シュウ酸−ニッケル混合液との接触は、たとえば、化学除染後の炭素鋼部材の表面にシュウ酸−ニッケル混合液を通液したり、化学除染後の炭素鋼部材をシュウ酸−ニッケル混合液に浸漬したりすることにより実施される。
化学除染後の炭素鋼部材の表面へのシュウ酸−ニッケル混合液の通液は、たとえば、炭素鋼部材が配管等の、液体の流通または保持が可能な部材または装置である場合、この配管等の部材または装置にシュウ酸−ニッケル混合液を流通させたり貯留したりすることにより行われる。
シュウ酸ニッケル皮膜形成工程で、化学除染後の炭素鋼部材の表面とシュウ酸−ニッケル混合液とが接触すると、シュウ酸−ニッケル混合液中のシュウ酸とニッケルイオンが炭素鋼部材中の鉄等と反応する。これにより、図1(A)に示される状態が、図1(B)に示される状態、すなわち、炭素鋼部材10の表面にシュウ酸ニッケル皮膜20が形成された状態に変化する。
図1(B)に示されるように、炭素鋼部材10の表面にシュウ酸ニッケル皮膜20が形成されると、シュウ酸ニッケル皮膜20の作用により、炉水中のCo−60やCo−58等の放射性物質が、シュウ酸ニッケル皮膜20およびその下地の炭素鋼部材10に取り込まれにくくなる。
<第1の抑制方法の効果>
第1の抑制方法によれば、炉水中のCo−60やCo−58等の放射性物質が、シュウ酸ニッケル皮膜20およびその下地の炭素鋼部材10に取り込まれにくくなる。ここで、取り込まれることが抑制される放射性物質としては、たとえば、Co−60、Co−58等である。
なお、表面にシュウ酸ニッケル皮膜20を形成していない通常の炭素鋼部材10は、280℃程度の高温の炉水(高温水)に接触すると、表面に鉄酸化物等の酸化物皮膜が形成される。そして、この酸化物皮膜中には、通常、高温水等の炉水に含まれるCo−60やCo−58等の放射性物質が取り込まれる。
これに対し、第1の抑制方法によれば、炭素鋼部材10の表面にシュウ酸ニッケル皮膜20が形成されているため、炉水に含まれるCo−60やCo−58等の放射性物質が、シュウ酸ニッケル皮膜20およびその下地の炭素鋼部材10に取り込まれにくくなる。このため、第1の抑制方法によれば、定期検査で業務する作業員の被ばく量を低減することができる。
(第2の抑制方法)
第2の抑制方法は、第1の抑制方法の化学除染工程およびシュウ酸ニッケル皮膜形成工程に加えて、シュウ酸ニッケル皮膜をニッケルフェライト皮膜に変化させる工程(第1のニッケルフェライト皮膜形成工程)を備える方法である。
<第1のニッケルフェライト皮膜形成工程>
第1のニッケルフェライト皮膜形成工程は、シュウ酸ニッケル皮膜20の表面に200℃以上の水を接触させて、シュウ酸ニッケル皮膜20をニッケルフェライト皮膜40に変化させる工程である。
ここで、シュウ酸ニッケル皮膜20の表面に接触させる水としては、炉水、純水等が用いられる。シュウ酸ニッケル皮膜20の表面に接触させる水の温度は、200℃以上、好ましくは250℃以上、好ましくは280℃以上である。
また、シュウ酸ニッケル皮膜20の表面に接触させる水の温度は、通常400℃以下、好ましくは300℃以下である。ジルカロイの耐熱温度より低く、かつ、原子炉の運転中の炉水(高温水)の温度は通常280℃程度であるため、この温度領域の水を用いると作業に係るコストを低減することができるからである。
第1のニッケルフェライト皮膜形成工程で、シュウ酸ニッケル皮膜20の表面に200℃以上の水が接触すると、水中の酸素がシュウ酸ニッケル皮膜20と反応して、シュウ酸ニッケル皮膜20がニッケルフェライト皮膜40に変化する。これにより、図1(B)に示される状態が、図1(D)に示される状態、すなわち、炭素鋼部材10の表面にニッケルフェライト皮膜40が形成された状態に変化する。
なお、ニッケルフェライト皮膜とは、少なくともニッケルフェライトを含む皮膜である。ニッケルフェライト皮膜40は、通常、ニッケルフェライトの結晶粒と鉄酸化物の結晶粒とがランダムに共存する皮膜になっている。
図1(D)に示されるように、炭素鋼部材10の表面にニッケルフェライト皮膜40が形成されると、ニッケルフェライト皮膜40の作用により、炉水中のCo−60やCo−58等の放射性物質が、ニッケルフェライト皮膜40およびその下地の炭素鋼部材10に取り込まれにくくなる。
<第2の抑制方法の効果>
第2の抑制方法によれば、炉水中のCo−60やCo−58等の放射性物質が、ニッケルフェライト皮膜40およびその下地の炭素鋼部材10に取り込まれにくくなる。ここで、取り込まれることが抑制される放射性物質は、第1の抑制方法と同じである。
なお、表面にニッケルフェライト皮膜40を形成していない通常の炭素鋼部材10は、280℃程度の高温の炉水(高温水)に接触すると、表面に鉄酸化物等の酸化物皮膜が形成される。そして、この酸化物皮膜中には、通常、高温水等の炉水に含まれるCo−60やCo−58等の放射性物質が取り込まれる。
これに対し、第2の抑制方法によれば、炭素鋼部材10の表面にニッケルフェライト皮膜40が形成されているため、炉水に含まれるCo−60やCo−58等の放射性物質が、ニッケルフェライト皮膜40およびその下地の炭素鋼部材10に取り込まれにくくなる。このため、第2の抑制方法によれば、定期検査で業務する作業員の被ばく量を低減することができる。
(第3の抑制方法)
第3の抑制方法は、第1の抑制方法の化学除染工程およびシュウ酸ニッケル皮膜形成工程に加えて、シュウ酸ニッケル皮膜をニッケル酸化物皮膜に変化させる工程(ニッケル酸化物皮膜形成工程)を備える方法である。
<ニッケル酸化物皮膜形成工程>
ニッケル酸化物皮膜形成工程は、シュウ酸ニッケル皮膜20の表面に酸素を含む気体を供給して、シュウ酸ニッケル皮膜20をニッケル酸化物皮膜30に変化させる工程である。
ここで、酸素を含む気体としては、たとえば、空気、酸素等が用いられる。
酸素を含む気体は、シュウ酸ニッケル皮膜20への表面の際の温度が、通常100℃以上、好ましくは300℃以上、好ましくは400℃以上である。また、酸素を含む気体は、シュウ酸ニッケル皮膜20への表面の際の温度が、通常800℃以下、好ましくは500℃以下である。
第1のニッケルフェライト皮膜形成工程で、シュウ酸ニッケル皮膜20の表面に酸素を含む気体が供給されると、酸素を含む気体中の酸素がシュウ酸ニッケル皮膜20と反応して、シュウ酸ニッケル皮膜20がニッケル酸化物皮膜30に変化する。これにより、図1(B)に示される状態が、図1(C)に示される状態、すなわち、炭素鋼部材10の表面にニッケル酸化物皮膜30が形成された状態に変化する。
なお、ニッケル酸化物皮膜30とは、少なくともニッケル酸化物を含む皮膜である。ニッケル酸化物皮膜30は、通常、ニッケル酸化物の結晶粒と鉄酸化物の結晶粒とがランダムに共存する皮膜になっている。
図1(C)に示されるように、炭素鋼部材10の表面にニッケル酸化物皮膜30が形成されると、ニッケル酸化物皮膜30の作用により、炉水中のCo−60やCo−58等の放射性物質が、ニッケル酸化物皮膜30およびその下地の炭素鋼部材10に取り込まれにくくなる。
<第3の抑制方法の効果>
第3の抑制方法によれば、炉水中のCo−60やCo−58等の放射性物質が、ニッケル酸化物皮膜30およびその下地の炭素鋼部材10に取り込まれにくくなる。ここで、取り込まれることが抑制される放射性物質は、第1の抑制方法と同じである。
なお、表面にニッケル酸化物皮膜30を形成していない通常の炭素鋼部材10は、280℃程度の高温の炉水(高温水)に接触すると、表面に鉄酸化物等の酸化物皮膜が形成される。そして、この酸化物皮膜中には、通常、高温水等の炉水に含まれるCo−60やCo−58等の放射性物質が取り込まれる。
これに対し、第3の抑制方法によれば、炭素鋼部材10の表面にニッケル酸化物皮膜30が形成されているため、炉水に含まれるCo−60やCo−58等の放射性物質が、ニッケル酸化物皮膜30およびその下地の炭素鋼部材10に取り込まれにくくなる。このため、第3の抑制方法によれば、定期検査で業務する作業員の被ばく量を低減することができる。
(第4の抑制方法)
第4の抑制方法は、第3の抑制方法の化学除染工程、シュウ酸ニッケル皮膜形成工程およびニッケル酸化物皮膜形成工程に加えて、ニッケル酸化物皮膜をニッケルフェライト皮膜に変化させる工程(第2のニッケルフェライト皮膜形成工程)を備える方法である。
<第2のニッケルフェライト皮膜形成工程>
第2のニッケルフェライト皮膜形成工程は、ニッケル酸化物皮膜30の表面に200℃以上の水を接触させて、ニッケル酸化物皮膜30をニッケルフェライト皮膜40に変化させる工程である。
ここで、ニッケル酸化物皮膜30の表面に接触させる200℃以上の水とは、第2の抑制方法の第1のニッケルフェライト皮膜形成工程で用いられる200℃以上の水と、組成や温度が同じであるため、説明を省略する。
第2のニッケルフェライト皮膜形成工程で、ニッケル酸化物皮膜30の表面に200℃以上の水が接触すると、水中の酸素がニッケル酸化物皮膜30と反応して、ニッケル酸化物皮膜30がニッケルフェライト皮膜40に変化する。これにより、図1(C)に示される状態が、図1(D)に示される状態、すなわち、炭素鋼部材10の表面にニッケルフェライト皮膜40が形成された状態に変化する。
なお、ニッケルフェライト皮膜は、第2の抑制方法の第1のニッケルフェライト皮膜形成工程で得られるニッケルフェライト皮膜と同じであるため、説明を省略する。
図1(D)に示されるように、炭素鋼部材10の表面にニッケルフェライト皮膜40が形成されると、ニッケルフェライト皮膜40の作用により、炉水中のCo−60やCo−58等の放射性物質が、ニッケルフェライト皮膜40およびその下地の炭素鋼部材10に取り込まれにくくなる。
<第4の抑制方法の効果>
第4の抑制方法の効果は、第2の抑制方法と同様の効果を奏する。すなわち、第4の抑制方法によれば、定期検査で業務する作業員の被ばく量を低減することができる。
(放射性物質付着抑制方法の効果)
本発明の放射性物質付着抑制方法は、第1〜第4の抑制方法に共通する効果を奏する。すなわち、本発明の放射性物質付着抑制方法によれば、除染後の炭素鋼部材にCo−60等の放射性物質が取り込まれることを抑制することができる。
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに限定されて解釈されるものではない。
[実施例1]
(炭素鋼部材)
STPT410の炭素鋼部材を用意した。
(化学除染工程およびシュウ酸ニッケル皮膜形成工程)
この炭素鋼部材を化学除染した後、シュウ酸2000ppm、ニッケルイオン300ppmで95℃のシュウ酸−ニッケル混合液に1時間浸漬した。浸漬後、炭素鋼部材の表面にはシュウ酸ニッケル皮膜が形成されていた。
(ニッケル酸化物皮膜形成工程)
この表面にシュウ酸ニッケル皮膜が形成された炭素鋼部材を、空気中425℃で2時間焼成した。焼成後の炭素鋼部材の表面には、シュウ酸ニッケル皮膜に代えてニッケル酸化物皮膜が形成されていた。
(第2のニッケルフェライト皮膜形成工程)
この表面にニッケル酸化物皮膜が形成された炭素鋼部材を、ニッケル濃度2.0ppm、Co−60濃度0.015Bq/cm、280℃の高温水中に500時間浸漬した。浸漬後の炭素鋼部材の表面には、ニッケル酸化物皮膜に代えてニッケルフェライト皮膜が形成されていた。
(皮膜中のCo−60量の測定)
浸漬後の試験片について、ニッケルフェライト皮膜中のCo−60量を測定した。図3に測定結果を示す。
(皮膜の分析)
図2に、このニッケルフェライト皮膜の表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真の一例を示す。図2より、ニッケルフェライト皮膜は、正八面体の結晶粒子45と、正八面体以外の結晶粒子46とが混在することが分かった。
また、ニッケルフェライト皮膜の表面をX線回折分析により結晶形態を調べたところ、正八面体の結晶粒子45は主にニッケルフェライトからなり、正八面体以外の結晶粒子46は鉄酸化物からなることが分かった。鉄酸化物からなる結晶粒子46は、母材である炭素鋼部材に由来するものであると考えられる。
また、ニッケルフェライト皮膜の性状を制御すると、Co−60の拡散障壁となり、Co−60が取り込まれるサイトを減少させることができることが分かった。
[比較例1]
実施例1と同じ炭素鋼部材を用意し、実施例1と同じ化学除染工程を行った。
この炭素鋼部材を、ニッケル濃度2.0ppm、Co−60濃度0.015Bq/cm、280℃の高温水中に500時間浸漬した。浸漬後の炭素鋼部材の表面には、 鉄酸化物皮膜が形成されていた。
浸漬後の試験片について、鉄酸化物皮膜中のCo−60量を測定した。図3に測定結果を示す。
図3より、実施例1の方法は、被ばく低減効果を有することが分かった。
[実施例2−1〜2−3]
(炭素鋼部材)
実施例1と同じ炭素鋼部材を用意した。
(化学除染工程およびシュウ酸ニッケル皮膜形成工程)
シュウ酸−ニッケル混合液として、ニッケルイオン濃度を100ppm(実施例2−1)、300ppm(実施例2−2)、1000ppm(実施例2−3)とし、温度を25℃とした以外は、実施例1と同様にして化学除染工程およびシュウ酸ニッケル皮膜形成工程を行った。処理後、炭素鋼部材の表面にはシュウ酸ニッケル皮膜が形成されていた。
(第1のニッケルフェライト皮膜形成工程)
表面にシュウ酸ニッケル皮膜が形成された炭素鋼部材を、ニッケル濃度2.0ppm、Co−60濃度0.015Bq/cm、280℃の高温水中に500時間浸漬した。浸漬後の炭素鋼部材の表面には、シュウ酸ニッケル皮膜に代えてニッケルフェライト皮膜が形成されていた。
(皮膜中のCo−60量の測定)
試験片について実施例1と同様にしてCo−60量を測定した。図4に測定結果を示す。
図4より、シュウ酸−ニッケル混合液のニッケルイオン濃度が多いほうが、Co−60量が少なくなることが分かった。
[実施例3−1および3−2]
(炭素鋼部材)
実施例1と同じ炭素鋼部材を用意した。
(化学除染工程およびシュウ酸ニッケル皮膜形成工程)
シュウ酸−ニッケル混合液として、ニッケルイオン濃度を300ppmとし、温度を25℃(実施例3−1)または95℃(実施例3−2)とした以外は、実施例2−1と同様にして化学除染工程およびシュウ酸ニッケル皮膜形成工程を行った。処理後、炭素鋼部材の表面にはシュウ酸ニッケル皮膜が形成されていた。
(第1のニッケルフェライト皮膜形成工程)
実施例2−1と同様にして第1のニッケルフェライト皮膜形成工程を行った。処理後、炭素鋼部材の表面にはニッケルフェライト皮膜が形成されていた。
(皮膜中のCo−60量の測定)
試験片について実施例1と同様にしてCo−60量を測定した。図5に測定結果を示す。
図5より、シュウ酸−ニッケル混合液での処理温度が高いほうが、Co−60量が少なくなることが分かった。シュウ酸−ニッケル混合液での処理温度が高いほうが、炭素鋼部材の表面により安定した保護皮膜が形成されるからであると考えられる。
[実施例4−1および4−2]
ニッケル酸化物皮膜形成工程において、空気中25℃(実施例4−1)または300℃(実施例4−2)で2時間焼成した以外は実施例1と同様にして炭素鋼部材の表面を処理した。全ての処理後、炭素鋼部材の表面にはニッケルフェライト皮膜が形成されていた。
(皮膜中のCo−60量の測定)
試験片について実施例1と同様にしてCo−60量を測定した。図6に測定結果を示す。なお、図6には、実施例1の試験結果も併記する。
図6より、空気の温度が高いほうが、Co−60量が少なくなることが分かった。このように大気酸化の際の空気の温度の高低により、Co−60等の放射性物質の付着抑制作用を制御できるため、付着抑制作用の要求の大きさに応じて、大気酸化の際の空気の温度を決めることができ、作業の低コスト化が可能になる。すなわち、線量が高い箇所には高温処理によりCo−60等の放射性物質の付着抑制作用を強くするとともに、線量が低い箇所には低温処理によりCo−60等の放射性物質の付着抑制作用を弱くすることにより、コストの低減を図ることができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
10 炭素鋼部材
20 シュウ酸ニッケル皮膜
30 ニッケル酸化物皮膜
40 ニッケルフェライト皮膜
45 正八面体の結晶粒子
46 正八面体以外の結晶粒子

Claims (10)

  1. 軽水炉を用いた原子力発電プラントを構成する炭素鋼部材を化学除染する工程と、
    化学除染後の前記炭素鋼部材の表面と、シュウ酸およびニッケルイオンを含むシュウ酸−ニッケル混合液とを接触させ、前記化学除染後の炭素鋼部材の表面にシュウ酸ニッケル皮膜を形成する工程と、
    から成る前処理工程を備えることを特徴とする放射性物質付着抑制方法。
  2. 前記シュウ酸ニッケル皮膜の表面に酸素を含む気体を供給して、前記シュウ酸ニッケル皮膜をニッケル酸化物皮膜に変化させる工程、をさらに備えることを特徴とする請求項1記載の放射性物質付着抑制方法。
  3. 前記酸素を含む気体が300℃以上であることを特徴とする請求項2記載の放射性物質付着抑制方法。
  4. 前記シュウ酸ニッケル皮膜の表面に200℃以上の水を接触させて、前記シュウ酸ニッケル皮膜をニッケルフェライト皮膜に変化させる工程、をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の放射性物質付着抑制方法。
  5. 前記ニッケル酸化物皮膜の表面に200℃以上の水を接触させて、前記ニッケル酸化物皮膜をニッケルフェライト皮膜に変化させる工程、をさらに備えることを特徴とする請求項2または3に記載の放射性物質付着抑制方法。
  6. 前記シュウ酸−ニッケル混合液は、シュウ酸を0.02質量%以上含むことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の放射性物質付着抑制方法。
  7. 前記シュウ酸−ニッケル混合液は、ニッケルイオンを0.01質量%以上含むことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の放射性物質付着抑制方法。
  8. 前記シュウ酸−ニッケル混合液は、50℃以上であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の放射性物質付着抑制方法。
  9. 前記シュウ酸−ニッケル混合液は、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、リン酸ニッケル、炭酸ニッケル、水酸化ニッケル、ギ酸ニッケルおよび酢酸ニッケルから選ばれる1種以上のニッケル塩を含むことを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載の放射性物質付着抑制方法。
  10. 前記炭素鋼部材を化学除染する工程で用いられる除染液はシュウ酸を含み、この除染液にニッケル塩を添加して前記シュウ酸−ニッケル混合液を調製することを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載の放射性物質付着抑制方法。
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