以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
図1,2に、本発明に従った位置調整用治具を含むチャック装置10を示す。図1は、本発明に従った位置調整用治具の一例を含むチャック装置10の正面図である。図2は、図1のII−II線の断面図である。第1実施形態のチャック装置10は、工作機械において加工されるワークを掴むための構成であって、工作機械のうちの例えば旋盤のチャック装置である。なお、第1実施形態のチャック装置10は、工作機械のうちの例えば研磨機等にも用いることができる。
図2に示すように、チャック装置10は、面板7を備える。面板7には、環状のストッパ6が取り付けられる。チャック装置10は、位置調整用治具(以下、治具という)100を含む。治具100は、複数のボルト等の固定部材によって着脱自在に面板7に固定される。治具100は、軸部材の一例としてのメインシャフト30と、複数の可変形部材111,112,113,114と、押圧部とを備える。押圧部は、クランプシャフト40と長尺ボルト8とナット81,82とコイルバネ9とを含む構成を有する。クランプシャフト40には、円盤状のキャップ1が固定される。
図3は、軸部材の一例としてのメインシャフト30の正面図である。図4は、図3のIV−IV線の断面図である。メインシャフト30は、円筒形状を有する胴体部31とフランジ部32とを含む。胴体部31の内部には中空部33が形成されている。チャック装置10に固定された治具100(いずれも図2参照)において、胴体部31は、ワーク2の軸方向と略一致する方向に延びる。つまり、胴体部31が延びる方向、言い換えると、メインシャフト30の軸方向は、チャック装置10(図2参照)における図示しない主軸が延びる方向と略一致する方向である。
フランジ部32は、胴体部31の円周方向の全体において胴体部31から半径方向の外方に突出している。フランジ部32には、複数のボルト孔34が形成されている。複数のボルト孔34は、円周方向に沿って等間隔に並んでいる。フランジ部32の根元は、他の部分よりも軸方向の寸法が大きくなるように、先端36の側に突出している。この突出した部分は、ストッパ面35として機能する。ストッパ面35は、後述するように、可変形部材114とメインシャフト30とが接触する面である(図2参照)。
図5は、押圧部の一部としてのクランプシャフト40の正面図である。図6は、図5のVI−VI線の断面図である。クランプシャフト40は、略円筒形状を有する軸部41とフランジ部42とを含む。軸部41の内部には中空部43が形成されている。中空部43には、長尺ボルト8(図2参照)の形状に沿って、複数の段差が形成されている。これらの段差のうち、フランジ部42から二つ目の段差は、コイルバネ9(図2参照)の一方端の台座45として機能する。なお、コイルバネ9の他方端の台座は、長尺ボルト8の頭部83である(図2参照)。
図2に示すように、クランプシャフト40は、メインシャフト30の中空部33に軸部41が挿入されることによって、メインシャフト30に取り付けられる。軸部41は、胴体部31に対して摺動自在である。クランプシャフト40の中空部43には、長尺ボルト8とコイルバネ9とが収容される。長尺ボルト8のネジ部には、ナット81とナット82とが取り付けられる。ナット81とナット82とは、複数のボルトによってナット81とナット82とが固定されることにより、一体化される。ナット81,82は、図示しない油圧機構の作動に連動する。つまり、当該油圧機構による負荷は、図2の左右方向に長尺ボルト8を移動させるように、ナット81,82および長尺ボルト8に作用する。
メインシャフト30の胴体部31には、可変形部材111,112,113,114が取り付けられる。可変形部材111,112,113,114は、可変形部材111の背面と可変形部材112の背面とが対向し、且つ、可変形部材113の背面と可変形部材114の背面とが対向するように、メインシャフト30に取り付けられる。これら可変形部材111,112,113,114は、略円環形状を有している。そのため、可変形部材111,112,113,114の各内周縁の全体と胴体部31の表面の全体とが対向するように、可変形部材111,112,113,114がメインシャフト30に取り付けられる。可変形部材111,112,113,114は、メインシャフト30の先端36からフランジ部32に向かう方向に沿って、可変形部材111,112,113,114の順に胴体部31に取り付けられる。このとき、可変形部材111は、クランプシャフト40のフランジ部42に接触するように胴体部31に取り付けられる。また、可変形部材114は、メインシャフト30のストッパ面35に接触するように胴体部31に取り付けられる。
メインシャフト30の軸方向に沿って可変形部材112と可変形部材113との間には、ライナ5が配置される。ライナ5は、円筒形状を有する。メインシャフト30は、円環状の可変形部材111,112,113,114と、円筒状のライナ5とを貫通する。ライナ5は、クランプシャフト40のフランジ部42と、可変形部材113,114との間に配置される。また、可変形部材111,112は、クランプシャフト40のフランジ部42と、ライナ5との間に配置される。このような配置により、メインシャフト30に取り付けられた可変形部材111,112,113,114とライナ5とについて、ライナ5は、押圧部の一部としてのクランプシャフト40と、可変形部材111,112,113,114との間に介在する。
治具100においてメインシャフト30のフランジ部32が面板7に固定されることにより、治具100が面板7に取り付けられる。そのため、メインシャフト30は、チャック装置10の面板7とともに移動する。クランプシャフト40を含む押圧部が可変形部材111,112,113,114を押圧するときには、上記の油圧機構の作用によって、長尺ボルト8が図2の右方に引っ張られるような力がナット81,82と長尺ボルト8とに作用する。さらに、圧縮バネとしてのコイルバネ9のバネ力に基づいて、クランプシャフト40が図2の右方に移動する。これにより、クランプシャフト40のフランジ部42は、可変形部材111を押圧する。また、ライナ5を介して、クランプシャフト40のフランジ部42が可変形部材113を押圧する。このとき、メインシャフト30のフランジ部32のストッパ面35は、メインシャフト30に対する可変形部材111,112,113,114およびライナ5の移動を制限するストッパとして機能する。また、ライナ5は、メインシャフト30に対する可変形部材111,112の移動を制限するストッパとして機能する。
続いて、可変形部材111〜114の構成について説明する。図7は、可変形部材113の背面図である。図8は、図7のVIII−VIII線の断面図である。図7に示すように、可変形部材113は、略円環形状を有する。可変形部材113において、半径方向の外側端に位置する外周縁131と、半径方向の内側端に位置する内周縁133とは、円形状を有する。
なお、可変形部材114は、可変形部材113と略同一の形状および構成を有する(図2参照)。可変形部材114としては、可変形部材113と同じものを用いる。可変形部材111と可変形部材112とは、互いに略同一の形状および構成を有し、可変形部材113,114と相似した形状を有する(図2参照)。可変形部材111,112としては、互いに同じものを用いる。可変形部材111と可変形部材112は、可変形部材113,114とは異なる寸法を有するだけであって、同じ構成を有する。
可変形部材113には、円筒部137が形成されている。内周縁133は、円筒部137の内側の縁である。円筒部137からは、傾斜部132が半径方向の外方に向かって延びている。傾斜部132における半径方向の外側端は、外周縁131に連続する。可変形部材113において外周縁131を形成する部分は、円筒部137の軸方向と略平行な方向に延びている。この部分の端面134は、可変形部材113の正面から背面に向かう方向(言い換えると、図8の右方から左方に向かう方向)に沿って、円筒部137の一方の端面136よりも突出している。円筒部137の他方の端面135と、端面136と、端面134とは、円筒部137の軸方向と略直交する方向に沿って延びている。
傾斜部132は、円筒部137の軸方向に略直交する方向に対して傾斜する。メインシャフト30に可変形部材113が取り付けられる場合には、円筒部137の軸方向は、メインシャフト30(図2参照)の軸方向に略一致する。すなわち、円筒部137の軸線(図示せず)を示す直線は、メインシャフト30(図2参照)の軸線(図示せず)を示す直線に略一致する。そのため、メインシャフト30に可変形部材113が取り付けられる場合には、傾斜部132は、メインシャフト30の軸方向に略直交する方向に対して傾斜する。傾斜部132は、好ましくは、メインシャフト30の軸方向に略直交する方向に対して5°以上20°以下の範囲で傾斜する。図8には、円筒部137の軸方向に略直交する方向と傾斜部132が延びる方向との間の角度として、角度δを示す。角度δの好ましい範囲は、5°以上20°以下である。
図7に示すように、可変形部材113は、複数の外側スリット138と、複数の内側スリット139とを有する。複数の外側スリット138と、複数の内側スリット139とは、傾斜部132(図8参照)に形成されている。外側スリット138は、外周縁131から内周縁133に向かって半径方向に沿って延びる。外側スリット138は、外周縁131から円筒部137の外側の縁まで延びている。内側スリット139は、内周縁133から外周縁131に向かって半径方向に沿って延びる。内側スリット139は、可変形部材113の半径方向に沿って、端面134における内側端と略一致する位置まで内周縁133から延びている。
傾斜部132において、外側スリット138と内側スリット139とは、互いに同じ数だけ形成されている。傾斜部132においては、それぞれ、6本の外側スリット138と内側スリット139とが形成されている。また、傾斜部132において、外側スリット138と内側スリット139とは、可変形部材113の円周方向に沿って互い違いに且つ等間隔に配置されている。
円周方向に沿った外側スリット138の寸法(つまり、外側スリット138の幅)と、円周方向に沿った内側スリット139の寸法(つまり、内側スリット139の幅)とは、略同一である。外側スリット138の幅の値の範囲と、内側スリット139の幅の値の範囲との好ましい例は、0.2mm以上0.3mm以下である。可変形部材113は、例えば、SCM等の鉄鋼材料を研削加工することによって製造される。また、鉄鋼材料の熱処理として、焼入の処理が施されることが好ましい。
続いて、可変形部材111〜114の弾性変形について説明する。クランプシャフト40(図2参照)を含む押圧部は、チャック装置10(図2参照)の図示しない主軸の側に向かって移動することによって、可変形部材111を直接的に押圧する。押圧部が移動することによって、可変形部材111〜114が押圧される。これにより、可変形部材111〜114が弾性変形する。図9は、可変形部材113の外側スリット138の大きさと内側スリット139の大きさとを誇張して示す可変形部材113の正面図である。図10は、可変形部材113が変形した状態を誇張して示す可変形部材113の正面図である。図10においては、可変形部材113が変形した状態として、特に外周縁131の移動を誇張して示す。
押圧される可変形部材113は、外周縁131が半径方向の外方に移動するように、且つ、内周縁133が半径方向の内方に移動するように、弾性変形する(図9と図10とを参照)。このとき、傾斜部132が延びる方向が、円筒部137の軸方向に略直交する方向と平行な方向を向くように、可変形部材113が弾性変形する(図8と図10とを参照)。このような変形とともに、可変形部材113の円周方向に沿って外側と内側との各スリット138,139の先端38,39において各スリット138,139の寸法が拡大するように、可変形部材113が弾性変形する(図9と図10とを参照)。
外側スリット138と内側スリット139とが円周方向に沿って等間隔に配置されていることによって、可変形部材113において隣り合う二つの外側スリット138に挟まれた外周縁131がそれぞれ同心円状に略等量で半径方向に拡大し、且つ、可変形部材113において隣り合う二つの内側スリット139に挟まれた内周縁133がそれぞれ同心円状に略等量で半径方向に縮小する(図9と図10とを参照)。このような変形によって、可変形部材113の外周縁131において半径方向の外方に膨出する部分が、円周方向に沿って等間隔に形成され、且つ、内周縁133において半径方向の内方に膨出する部分が、円周方向に沿って等間隔に形成される。
可変形部材113がこのように変形することにより、可変形部材113の内周縁133は、メインシャフト30(図2参照)を半径方向の内方に向かって強固に締め付け、且つ、円周方向に沿って略均一に締め付ける。また、外周縁131は、半径方向の外方に向かってワーク2(図2参照)を強固に締め付け、且つ、円周方向に沿って略均一に締め付ける。このようにして、可変形部材113は、メインシャフト30を強固に締め付けながら管状のワーク2を支持する。
図2に示すように、治具100には、互いに同じ構成を有する可変形部材113と可変形部材114とが用いられている。また、治具100には、互いに同じ構成を有する可変形部材111と可変形部材112とが用いられている。
図11は、互いに重ねられた二つの可変形部材113,114が変形した状態を誇張して示す図であって、可変形部材113の正面(言い換えると、可変形部材114の背面)から見た図である。図12は、互いに重ねられた二つの可変形部材113,114が変形した状態を誇張して示す図であって、可変形部材114の正面から見た図である。可変形部材114の傾斜部142にも、可変形部材113の傾斜部と同様に、外側スリット148と内側スリット149とが形成されている。メインシャフト30(図2参照)に可変形部材113と可変形部材114とが取り付けられる場合には、可変形部材113における外側スリット138の位置が、隣り合う可変形部材114における内側スリット149の位置に略一致するように、可変形部材113と可変形部材114とが互いに重なっている。
上記のように、可変形部材113が押圧される場合には、可変形部材113の外周縁131において半径方向の外方に膨出する部分が、円周方向に沿って等間隔に形成され、且つ、内周縁133において半径方向の内方に膨出する部分が、円周方向に沿って等間隔に形成される(図11参照)。同様に、可変形部材114が押圧される場合には、外周縁141において半径方向の外方に膨出する部分が、円周方向に沿って等間隔に形成され、且つ、内周縁143において半径方向の内方に膨出する部分が、円周方向に沿って等間隔に形成される(図12参照)。
可変形部材113と可変形部材114とは、可変形部材113における外側スリット138の位置が可変形部材114における内側スリット149の位置に略一致するように、互いに重ねられている。そのため、可変形部材113の外周縁131において半径方向の外方に膨出する部分と、可変形部材114の外周縁141において半径方向の外方に膨出する部分とが、円周方向に沿って交互に等間隔に形成される。また、可変形部材113の内周縁133において半径方向の内方に膨出する部分と、可変形部材114の内周縁143において半径方向の内方に膨出する部分とが、円周方向に沿って交互に等間隔に形成される。このようにして、可変形部材113のみとワーク2とが接触する場合に比べて、可変形部材113,114とワーク2との複数の接触部分の数を倍に増加することができる。さらには、当該接触部分を円周方向に沿ってそれぞれ等間隔に配置することができる。
さらに続いて、可変形部材113,114がそれぞれ押圧される場合における円筒部137,147の軸方向への可変形部材113,114の弾性変形について、図13,14を用いて説明する。図13は、互いに重ねられた二つの可変形部材113,114の一部を模式的に示す側面図である。図14は、互いに重ねられた二つの可変形部材113,114が変形した状態を説明するための図であって、二つの可変形部材113,114を模式的に示す側面図である。
可変形部材113が弾性変形する前には、上記のように、端面134は、図13の左方から右方に向かう方向に沿って、円筒部137の端面136よりも突出している。同様に、可変形部材114が弾性変形する前には、端面144は、図13の右方から左方に向かう方向に沿って、円筒部147の端面146よりも突出している。可変形部材113,114が弾性変形する前、つまり、可変形部材113,114の定常の状態において、端面134と端面144とが互いに接触するときには、円筒部137,147の軸方向に沿って端面136と端面146との間に隙間が生じる。
可変形部材114の端面145は、図2に示すようにメインシャフト30のストッパ面35と接触することによって、軸方向の移動が制限される。押圧部による負荷を可変形部材113,114が受ける場合には、端面144が端面134に押されることによって、これら端面134,144の位置が図13の右方に移動するとともに端面136と端面146との間の隙間が塞がれる(図13と図14とを参照)。そして、円筒部137,147の軸方向に沿ったこれらの端面134,144,136,146の位置が、互いに略一致する。
また、可変形部材113,114がそれぞれ押圧される場合には、傾斜部132,142が延びる方向が、円筒部137,147の軸方向に略直交する方向と平行な方向を向くように、可変形部材113,114が弾性変形する。つまり、可変形部材113が可変形部材114を押しながら傾斜部132,142が起立するように、可変形部材113と可変形部材114とが弾性変形する。これにより、半径方向の外方に外周縁131,141が移動するとともに、図13,14には誇張されて図示されていないとしても内周縁133,143が半径方向の内方に移動する。これにより、可変形部材113,114は、メインシャフト30(図2参照)を締め付けるとともに、ワーク2を締め付けることによって支持することができる。
図2に示すように、治具100においては、半径方向の寸法が可変形部材113,114よりも小さい可変形部材111,112もメインシャフト30に取り付けられている。可変形部材111,112は、可変形部材113,114よりもメインシャフト30の先端36に近い位置に配置されている。このように、可変形部材113,114に加えて可変形部材111,112を用いることにより、治具100は、内周縁に段差が形成された管状のワーク2に対応することができる。
以上のように、治具100は、少なくとも可変形部材113と、メインシャフト30と、クランプシャフト40と、押圧部とを備えている。可変形部材113は、略円環形状を有している。また、可変形部材113は、管状のワーク2を支持するためのものである。メインシャフト30には、可変形部材113が取り付けられる。クランプシャフト40と長尺ボルト8とナット81,82とコイルバネ9とを含む押圧部は、メインシャフト30に取り付けられた可変形部材113を押圧する。可変形部材113は、傾斜部132を有する。傾斜部132は、メインシャフト30の軸方向に略直交する方向に対して傾斜する。傾斜部132には、六つの外側スリット138と、六つの内側スリット139とが形成されている。外側スリット138は、可変形部材113の外周縁131から内周縁133に向かって可変形部材113の半径方向に沿って延びる。内側スリット139は、可変形部材113の内周縁133から外周縁131に向かって半径方向に沿って延びる。
傾斜部132において、外側スリット138と内側スリット139とは、互いに同じ数だけ形成されている。また、傾斜部132において、外側スリット138と内側スリット139とは、可変形部材113の円周方向に沿って互い違いに且つ等間隔に配置されている。押圧部が可変形部材113を押圧する場合には、可変形部材113の外周縁131が半径方向の外方に移動するように、且つ、可変形部材113の内周縁133が半径方向の内方に移動するように、可変形部材113が弾性変形する。
治具100においては、押圧部が可変形部材113を押圧する場合に、外周縁131が半径方向の外方に移動するように、且つ、内周縁133が半径方向の内方に移動するように、可変形部材113が弾性変形する。このような変形とともに、可変形部材113の円周方向に沿って外側と内側との各スリット138,139の先端38,39において各スリット138,139の寸法が拡大するように、可変形部材113が弾性変形する。各スリット138,139が円周方向に沿って等間隔に配置されていることによって、可変形部材113において隣り合う二つの外側スリット138に挟まれた外周縁131がそれぞれ同心円状に略等量で半径方向の外方に移動し、且つ、可変形部材113において隣り合う二つの内側スリット139に挟まれた内周縁133がそれぞれ同心円状に略等量で半径方向の内方に移動する。これにより、可変形部材113とワーク2とが接触する面を繋ぐことによって仮想的に形成される円柱であって、比較的高い真円度を有する円柱を形成することができる。すなわち、治具100においては、ワーク2の軸心を適切に調整することができる。
また、可変形部材113に複数のスリット138,139が形成されているため、比較的小さいスラスト荷重でも可変形部材113を容易に変形させることができる。比較的小さいスラスト荷重が可変形部材113に掛けられる場合でも、各スリット138,139が円周方向に沿って等間隔に配置されていることによってワーク2に掛かるラジアル荷重が円周方向に沿って等間隔に分割されるため、ワーク2を必要以上に締め付けること無くワーク2の軸心を適切に調整することができる。このように、比較的小さいスラスト荷重によって十分なラジアル荷重を得ることができるため、可変形部材113によってワーク2を必要以上に締め付けるおそれがなく、ワーク2の損傷を防止することができる。
さらに、複数の外側スリット138の数と複数の内側スリット139の数とに応じて、可変形部材113とワーク2との接触部分の数および接触面の面積を増加させることができる。そのため、所定のスラスト荷重から得られるラジアル荷重の重量を稼ぐことができる。このように、可変形部材113を用いて十分なラジアル荷重を得ることができるため、ワーク2の軸心を適切に調整することができる。一方、複数の外側スリット138と複数の内側スリット139とによって、可変形部材113とワーク2との接触部分の数および接触面の面積を稼ぐことができるため、例えば可変形部材113一つでもワーク2を適切に支持することができる。そのため、治具100においては、軸方向の寸法が限定されたワーク2でも適切に支持し且つワーク2の軸心を適切に調整することができる。
このようにすることにより、軸方向の寸法が小さいワーク2を損傷させるおそれがなく、ワーク2の軸心を適切に調整することが可能な可変形部材113を備えた治具100を提供することができる。
治具100は、複数の可変形部材として、可変形部材111,112,113,114を備える。
この構成によれば、メインシャフト30に取り付けられる可変形部材の数に応じて、当該可変形部材とワーク2との接触部分の数および接触面の面積を増加させることができる。そのため、所定のスラスト荷重から得られるラジアル荷重の重量を稼ぐことができる。
治具100において、各可変形部材111,112,113,114のうち、例えば可変形部材113,114における外側スリット138,148の数は、それぞれ同一である。各可変形部材111,112,113,114のうち、例えば可変形部材113,114における内側スリット139,149の数は、それぞれ同一である。また、治具100において、可変形部材113における外側スリット138の位置が隣り合う可変形部材114における内側スリット149の位置に略一致するように、可変形部材113と可変形部材114が互いに重なっている。同様に、可変形部材111における外側スリット(参照番号なし)の位置が隣り合う可変形部材112における内側スリット(参照番号なし)の位置に略一致するように、可変形部材111と可変形部材112が互いに重なっている。
この構成によれば、可変形部材113一つのみを用いる場合と比べて可変形部材113,114とワーク2との複数の接触部分の数を倍に増加することができるとともに、当該接触部分を円周方向に沿ってそれぞれ等間隔に配置することができる。そのため、所定のスラスト荷重から得られるラジアル荷重の重量をより稼ぐことができるとともに、ワーク2の軸心をより適切に調整することができる。
治具100において、例えば可変形部材113の外周縁131は、円形状を有する。
この構成によれば、各可変形部材111,112,113,114の加工性を簡略化することができる。すなわち、円板状の可変形部材111,112,113,114を容易に加工および製造することができる。
治具100において、例えば可変形部材113の傾斜部132は、メインシャフト30の軸方向に略直交する方向に対して5°以上20°以下の範囲で傾斜する。
この構成によれば、可変形部材113を弾性限界の範囲において適切に変形させることができるため、ワーク2の軸心を適切に調整するために例えば可変形部材113を繰り返して使用することができる。
治具100において、メインシャフト30には、押圧部と可変形部材111,112,113,114との間に介在するライナ5が取り付けられる。
この構成によれば、段差が形成されたワーク2、または、軸方向の大きな寸法を有するワーク2に対応することができる。また、可変形部材111,112,113,114を弾性限界の範囲において適切に変形させることができるため、ワーク2の軸心を適切に調整するために可変形部材111,112,113,114を繰り返して使用することができる。
工作機械は、治具100を含むチャック装置10を備えている。このようにすることにより、軸方向の寸法が小さいワーク2を損傷させるおそれがなく、ワーク2の軸心を適切に調整することが可能な工作機械を提供することができる。また、チャック装置10の主軸(図示せず)の側に向かって押圧部が可変形部材111〜114を押圧する場合には、可変形部材111〜114は、半径方向にワーク2を押圧するとともに、周知のチャック装置の構成に倣ってチャック装置10の主軸の側に向かってワーク2を押圧することができる。そのため、ワーク2を確実に支持することができるとともに、ワーク2の軸心を適切に調整することができる。
さらに、治具100においては、可変形部材111,112,113,114が軸方向に比較的小さく移動するだけで可変形部材111,112,113,114の内径と外径とを変化させることができる。そのため、メインシャフト30と可変形部材111,112,113,114との間およびワーク2と可変形部材111,112,113,114との間のクリアランスを余分に設けておく必要が無いため、加工時に発生する切粉によって治具100およびチャック装置10が悪影響を受けることを防止できる。
さらに、この構成によれば、加工されるワーク2の形状に応じて、外周縁と内周縁との半径方向の寸法が調整された可変形部材111〜114をメインシャフト30に取り付けるように、可変形部材111〜114を適宜選択し、且つ、当該工作機械において複数の可変形部材として可変形部材111〜114を用いることができる。
さらに、治具100が取り外し自在にチャック装置10に取り付けられる構成によれば、加工されるワーク2の寸法または形状に応じて、適切な寸法の可変形部材111〜114および治具100を用いることができる。すなわち、加工されるワーク2の寸法または形状に応じて、メインシャフト30に取り付けられる可変形部材111〜114または治具100を適宜取り替えながら使用することができる。
可変形部材111〜114のうち、例えば可変形部材113は、略円環形状を有し、且つ、傾斜部132を含む。傾斜部132は、当該円環の中心を通る軸線に略直交する方向に対して傾斜する。傾斜部132には、複数の外側スリット138と、複数の内側スリット139とが形成されている。複数の外側スリット138は、可変形部材113の外周縁131から内周縁133に向かって可変形部材113の半径方向に沿って延びる。複数の内側スリット139は、可変形部材113の内周縁133から外周縁131に向かって半径方向に沿って延びる。傾斜部132において、外側スリット138と内側スリット139とは、互いに同じ数だけ形成され、可変形部材113の円周方向に沿って互い違いに且つ等間隔に配置されている。
可変形部材113には、複数のスリット138,139が形成されているため、比較的小さいスラスト荷重でも可変形部材113を容易に変形させることができる。比較的小さいスラスト荷重が可変形部材に掛けられる場合でも、各スリット138,139が円周方向に沿って等間隔に配置されていることによって、可変形部材113に支持されるワーク2に掛かるラジアル荷重が円周方向に沿って等間隔に分割されるため、ワーク2を必要以上に締め付けること無くワーク2の軸心を適切に調整することができる。このように、比較的小さいスラスト荷重によって十分なラジアル荷重を得ることができるため、可変形部材113によってワーク2を必要以上に締め付けるおそれがなく、ワーク2の損傷を防止することができる。
また、複数の外側スリット138の数と複数の内側スリット139の数とに応じて、可変形部材113とワーク2との接触部分の数および接触面の面積を増加させることができる。そのため、所定のスラスト荷重から得られるラジアル荷重の重量を稼ぐことができる。このように、可変形部材を用いて十分なラジアル荷重を得ることができるため、ワーク2の軸心を適切に調整することができる。一方、複数の外側スリット138と複数の内側スリット139とによって、可変形部材113とワーク2との接触部分の数および接触面の面積を稼ぐことができるため、比較的数の少ない可変形部材113でワーク2を適切に支持することができる。そのため、治具100に用いられる例えば可変形部材113によれば、軸方向の寸法が限定されたワーク2でも適切に支持し且つワーク2の軸心を適切に調整することができる。
このようにすることにより、軸方向の寸法が小さいワーク2を損傷させるおそれがなく、ワーク2の軸心を適切に調整することが可能な位置調整用治具に用いられる可変形部材111,112,113,114を提供することができる。
また、略円環形状を有する材料に複数のスリットを形成させるといった比較的簡素な加工によって可変形部材111,112,113,114を製造することができる。また、複数のスリットを形成させることによって、可変形部材111,112,113,114を軽量化することができる。
上記のように、可変形部材111〜114が弾性変形する前の状態において、可変形部材111〜114のうちの例えば可変形部材113の外周縁131は円形状を有し、内周縁133は円形状を有する。ただし、弾性変形前の外周縁131および内周縁133の方が変形後よりも大きな曲率半径を有するように、弾性変形後の状態において、可変形部材111〜114のうちの例えば外周縁131が円形状を有し、且つ、内周縁133が円形状を有するように、可変形部材111〜114が構成されていてもよい。この構成によれば、可変形部材111,112,113,114とワーク2とが接触する面積、および、可変形部材111,112,113,114とメインシャフト30とが接触する面積を増加させることができるため、ワーク2をより強固に支持することができる。また、これらの接触面を結ぶ線を、より真円に近い円形状に形成することができる。
それぞれ6本形成された外側スリット138の数と内側スリット139の数とは、例えば可変形部材113における最も好ましい例であって、例えば可変形部材113において、外側スリット138と内側スリット139とは、2本以上であればよい。
可変形部材111,112,113,114を製造する方法として、研削は、特に好ましい例であって、可変形部材111,112,113,114の製造法は、研削に限定されない。また、可変形部材111,112,113,114の材料として、金属材料のうちの鉄鋼材料は、特に好ましい例であって、可変形部材111,112,113,114の材料は特に限定されない。可変形部材111,112,113,114は、押圧力を受けることによって、傾斜部において円周方向且つ半径方向に略均等に弾性変形するように構成されていればよい。
なお、メインシャフト30のフランジ部32とクランプシャフト40のフランジ部42との軸方向の寸法を拡大させること、または、ライナ5の軸方向の寸法を拡大させること等によって、可変形部材111,112のうちのいずれか一つのみ、および、可変形部材113,114のうちのいずれか一つのみを用いてワーク2の軸心を調整することができる。多数の可変形部材を用いること無くワーク2の軸心を適切に調整することが可能である場合には、比較的安価の冶具100を提供することができるとともに、治具100を軽量化することができる。また、可変形部材111〜114には、複数のスリットが形成されているため、可変形部材111〜114および治具100を軽量化することができる。
なお、本発明に従った治具、および、治具を含むチャック装置は、支持するためのワーク2の形状に応じて、適宜取り替えることができる。図15,16,17には、それぞれ、本発明に従った治具の変形例およびそれを含むチャック装置を示す。また、図18には、本発明に従った治具の変形例を示す。なお、チャック装置10および治具100(いずれも図2参照)と同様の構成については、同符号を付し、以下において説明を省略する。
図15は、本発明に従った位置調整用治具の第1の別の一例(治具100a)を含むチャック装置10aの断面図である。治具100aは、複数のボルト等の固定部材によって面板7に固定される。治具100aは、軸部材の一例としてのメインシャフト3aと、複数の可変形部材113,114と、押圧部とを備える。押圧部は、クランプシャフト4aと長尺ボルト8とナット81,82とコイルバネ9とを含む構成を有する。
メインシャフト3aは、円筒形状を有する。メインシャフト3aの一端部には、フランジ状に突出する部分が形成されている。クランプシャフト4aは、略円筒形状を有する。また、クランプシャフト4aの一端には、フランジ状に突出する部分が形成される。クランプシャフト4aの内部には、長尺ボルト8の形状に沿って、三つの段差が形成されている。
クランプシャフト4aは、メインシャフト3aの内部に挿入されることによって、メインシャフト3aに取り付けられる。クランプシャフト4aは、メインシャフト3aに対して摺動自在である。クランプシャフト4aには、長尺ボルト8とコイルバネ9とが収容される。図示しない油圧機構による負荷は、図15の左右方向に長尺ボルト8を移動させるように、ナット81,82および長尺ボルト8に作用する。
メインシャフト3aには、可変形部材113の背面と可変形部材114の背面とが対向するように、可変形部材113,114が取り付けられる。可変形部材113は、クランプシャフト4aのフランジ状の部分に接触するようにメインシャフト3aに取り付けられる。また、可変形部材114は、メインシャフト3aのフランジ状の部分に接触するようにメインシャフト3aに取り付けられる。
治具100aにおいてメインシャフト3aが面板7に固定されることにより、治具100aが面板7に取り付けられる。メインシャフト3aは、チャック装置10aの面板7とともに移動する。クランプシャフト4aを含む押圧部が可変形部材113,114を押圧するときには、クランプシャフト4aのフランジ状の部分が可変形部材113を直接的に押圧する。また、可変形部材113を介して、クランプシャフト4aが可変形部材114を押圧する。クランプシャフト4aとメインシャフト3aとに挟まれた可変形部材113,114においては、押圧部から負荷を受けることによって内径と外径とがそれぞれ半径方向の内方と外方とに広がるように弾性変形する。このように、治具100aを備えたチャック装置10aによれば、軸方向の寸法が比較的小さいワーク2の軸心を、二つの可変形部材113,114によって適切に調整することができる。なお、メインシャフト3aのフランジ状の部分とクランプシャフト4aのフランジ状の部分との軸方向の寸法を拡大させること等によって、可変形部材113,114のうちのいずれか一つのみを用いてワーク2の軸心を調整することができる。
図16は、本発明に従った位置調整用治具の第2の別の一例(治具100b)を含むチャック装置10bの断面図である。治具100bは、複数のボルト等の固定部材によって面板7に固定される。治具100bは、軸部材の一例としてのメインシャフト3bと、複数の可変形部材111,112,113,114と、押圧部とを備える。押圧部は、ボルト101と座金102とライナ103とを含む構成を有する。
メインシャフト3bは、円筒形状を有する。メインシャフト3bの一端部には、フランジ状に突出する部分が形成されている。メインシャフト3bの他端には、ネジ孔が形成されている。このネジ孔は、ボルト101のネジ部と螺合する。
メインシャフト3bには、可変形部材111の背面と可変形部材112の背面とが対向し、且つ、可変形部材113の背面と可変形部材114の背面とが対向するように、可変形部材111,112,113,114が取り付けられる。また、メインシャフト3bには、ライナ103とライナ5とが取り付けられる。ライナ103とライナ5とは、円筒形状を有する。可変形部材111,112,113,114と、ライナ103と、ライナ5とは、メインシャフト3bのネジ部からフランジ状の部分に向かう方向に沿って、ライナ103、可変形部材111,112、ライナ5、および、可変形部材113,114の順にメインシャフト3bに取り付けられる。メインシャフト3bは、可変形部材111〜114とライナ5とを貫通している。このとき、可変形部材111は、ライナ103に接触するようにメインシャフト3bに取り付けられる。また、可変形部材114は、メインシャフト3bのフランジ状の部分に接触するようにメインシャフト3bに取り付けられる。
治具100bにおいてメインシャフト3bが面板7に固定されることにより、治具100bが面板7に取り付けられる。メインシャフト3bは、チャック装置10bの面板7とともに移動する。ボルト101を含む押圧部が可変形部材111〜114を押圧するときには、ボルト101をネジ孔に締め付ける。これにより、ライナ103がメインシャフト3bのフランジ状の部分に向かって移動するため、ライナ103が可変形部材111を直接的に押圧する。また、ライナ5を介して、ライナ103が可変形部材113を押圧する。このとき、メインシャフト3bのフランジ状の部分は、メインシャフト3bに対する可変形部材111,112,113,114およびライナ5,103の移動を制限するストッパとして機能する。また、ライナ5は、メインシャフト3bに対する可変形部材111,112の移動を制限するストッパとして機能する。
押圧部のうちのライナ103とメインシャフト3bとに挟まれた可変形部材111〜114においては、押圧部から負荷を受けることによって内径と外径とがそれぞれ半径方向の内方と外方とに広がるように弾性変形する。このように、治具100bを備えたチャック装置10bによれば、ボルト101を含む押圧部を用いることにより、内周縁に段差が設けられたワーク2の軸心を、四つの可変形部材111,112,113,114によって適切に調整することができる。
なお、メインシャフト3bのフランジ状の部分の軸方向の寸法を拡大させること、または、ライナ5もしくはライナ103の軸方向の寸法を拡大させること等によって、可変形部材111,112のうちのいずれか一つのみ、および、可変形部材113,114のうちのいずれか一つのみを用いてワーク2の軸心を調整することができる。
図17は、本発明に従った位置調整用治具の第3の別の一例(治具100c)を含むチャック装置10cの断面図である。以下においては、上記チャック装置10b(図16参照)と同様の構成について、同符号を付し、説明を省略する。治具100cは、軸部材の一例としてのメインシャフト3cと、複数の可変形部材113,114と、押圧部とを備える。
メインシャフト3cは、円筒形状を有する。メインシャフト3cの一端部には、フランジ状に突出する部分が形成されている。メインシャフト3cの他端には、ネジ孔が形成されている。このネジ孔は、ボルト101のネジ部と螺合する。メインシャフト3cは、ネジ孔に対して、チャック装置10bのメインシャフト3b(いずれも図16参照)の軸方向の寸法よりも小さい軸方向の寸法を有するように構成されている。
メインシャフト3cには、可変形部材113の背面と可変形部材114の背面とが対向するように、可変形部材113,114が取り付けられる。可変形部材113,114と、ライナ103とは、メインシャフト3cのネジ部からフランジ状の部分に向かう方向に沿って、ライナ103、可変形部材113,114の順にメインシャフト3cに取り付けられる。このとき、可変形部材113は、ライナ103に接触するようにメインシャフト3cに取り付けられる。また、可変形部材114は、メインシャフト3cのフランジ状の部分に接触するようにメインシャフト3cに取り付けられる。
治具100cにおいてメインシャフト3cが面板7に固定されることにより、治具100cが面板7に取り付けられる。メインシャフト3bは、チャック装置10cの面板7とともに移動する。ボルト101を含む押圧部が可変形部材113,114を押圧するときには、ボルト101をネジ孔に締め付ける。これにより、ライナ103がメインシャフト3cのフランジ状の部分に向かって移動するため、ライナ103が可変形部材113を直接的に押圧する。押圧される可変形部材113は、可変形部材114を押圧する。
押圧部のうちのライナ103とメインシャフト3cとに挟まれた可変形部材113,114においては、押圧部から負荷を受けることによって内径と外径とがそれぞれ半径方向の内方と外方とに広がるように弾性変形する。このように、治具100cを備えたチャック装置10cによれば、ボルト101を含む押圧部を用いることにより、軸方向の寸法が比較的小さいワーク2の軸心を、二つの可変形部材113,114によって適切に調整することができる。なお、メインシャフト3cのフランジ状の部分またはライナ103の軸方向の寸法を拡大させること等によって、可変形部材113,114のうちのいずれか一つのみを用いてワーク2の軸心を調整することができる。
図18は、本発明に従った位置調整用治具の第4の別の一例(治具100d)の断面図である。以下においては、上記の治具100c(図17参照)と同様の構成について、同符号を付し、説明を省略する。治具100dは、上記治具100cと同様に、チャック装置10cの面板7(いずれも図17参照)に取り付けられる。治具100dは、軸部材の一例としてのメインシャフト3dと、複数の可変形部材113,114と、押圧部とを備える。
メインシャフト3dは、円筒形状を有する。メインシャフト3dの一端部には、フランジ状に突出するフランジ部32dが形成されている。メインシャフト3dの他端には、ネジ孔が形成されている。フランジ部32dには、複数のボルト孔(参照番号なし)が形成されている。これらボルト孔は、メインシャフト3dの円周方向に沿って等間隔に並んでいる。フランジ部32dにおいて、可変形部材114と対向する側の面は、メインシャフト3dの軸方向と略直交する方向から傾斜している。
治具100dにおいてメインシャフト3dのフランジ部32dが面板7(図17参照)に固定されることにより、治具100dが面板7に取り付けられる。ボルト101を含む押圧部が可変形部材113,114を押圧するときには、ボルト101をネジ孔に締め付ける。これにより、ライナ103がメインシャフト3dのフランジ部32dに向かって移動するため、ライナ103が可変形部材113を直接的に押圧する。押圧される可変形部材113は、可変形部材114を押圧する。
押圧部のうちのライナ103と、フランジ部32dの根元に形成されたストッパ面35dとに挟まれた可変形部材113,114においては、押圧部から負荷を受けることによって内径と外径とがそれぞれ半径方向の内方と外方とに広がるように弾性変形する。このように、治具100dを備えたチャック装置によれば、ボルト101を含む押圧部を用いることにより、軸方向の寸法が比較的小さいワーク2の軸心を、二つの可変形部材113,114によって適切に調整することができる。なお、治具100dに用いられる二つの可変形部材113,114の外径および内径は、第1実施形態のチャック装置10(図2参照)に用いられる可変形部材113,114の外径および内径よりも小さいことが好ましい。
なお、メインシャフト3dのフランジ部32dまたはライナ103の軸方向の寸法を拡大させること等によって、可変形部材113,114のうちのいずれか一つのみを用いてワーク2の軸心を調整することができる。このように、比較的数の少ない可変形部材だけでも、複数の外側スリット138(図10参照)と複数の内側スリット139(図10参照)とによって例えば可変形部材113とワーク2との接触部分の数および接触面の面積を稼ぐことができるため、ワーク2を適切に支持することができる。すなわち、治具100a,100b,100c,100dにおいては、軸方向の寸法が限定されたワーク2でも、例えば一つの可変形部材113を用いて適切に支持し且つワーク2の軸心を適切に調整することができる。
さらに、多数の可変形部材を用いること無くワーク2の軸心を適切に調整することが可能である場合には、比較的安価の冶具100a,100b,100c,100dを提供することができるとともに、治具100a,100b,100c,100dを軽量化することができる。また、例えば複数のスリット138,139を形成させることによって、可変形部材113および治具100a,100b,100c,100dを軽量化することができる。
なお、例えば可変形部材113の背面が可変形部材114の背面に対向する冶具100a,100b,100c,100dにおいても、治具100(図2参照)と同様に、可変形部材113における外側スリット138の位置が隣り合う可変形部材114における内側スリット149の位置に略一致するように、可変形部材113と可変形部材114とが互いに重なっている(図11,12参照)。
以上のように、治具100a,100b,100c,100dを含むチャック装置10a,10b,10cを備えた工作機械(図示せず)によれば、チャック装置10a,10b,10cにおいて、加工されるワーク2の形状に応じて、メインシャフト3a,3b,3c,3dに取り付けられる可変形部材を適宜選択し、且つ、複数の可変形部材を用いることができる。
さらに、治具100a,100b,100c,100dが取り外し自在にチャック装置10a,10b,10cに取り付けられる構成によれば、加工されるワーク2の寸法または形状に応じて、適切な寸法の可変形部材111〜114および治具100a,100b,100c,100dを用いることができる。すなわち、加工されるワーク2の寸法または形状に応じて、メインシャフト3a,3b,3c,3dに取り付けられる可変形部材111〜114または治具100a,100b,100c,100dを適宜取り替えながら使用することができる。
(第2実施形態)
図19〜図22には、本発明に従った位置調整用治具として、治具200a,200b,200c,200dを含む検査器用または工作機械用のチャック装置を示す。図19〜図22は、本発明に従った検査器の一例に用いられる治具200a,200b,200c,200dの断面図である。第2実施形態のチャック装置は、検査器において支持されるワーク2を掴むための構成である。当該検査器は、例えば検査対象のワーク2の軸心の位置を検査するために用いられる。なお、第2実施形態のチャック装置は、旋盤、研磨機等の工作機械において加工されるワーク2を掴むための構成であってもよい。すなわち、以下に説明するセンタ50は、工作機械の一部であってもよい。
図19に示すように、治具200aは、センタ50よって図示しない検査器または工作機械に固定される。治具200aは、軸部材の一例としてのメインシャフト60と、可変形部材113と、押圧部とを備える。押圧部は、ボルト201とカラー202とライナ51とを含む構成を有する。カラー202は、円環形状を有する。ライナ51は、円筒形状を有する。
メインシャフト60は、円柱形状を有する胴体部60aとフランジ部60cとを含む。フランジ部60cは、メインシャフト60の軸方向の一端部に形成されている。軸方向の両側からセンタ50に固定された治具200aにおいて、胴体部60aは、ワーク2の軸方向と略一致する方向に延びる。メインシャフト60の軸方向の他端部には、ネジ部60bが形成されている。ネジ部60bは、ボルト201と螺合する。カラー202は、ネジ部60bに取り付けられる。
フランジ部32は、胴体部60aの円周方向の全体において胴体部60aから半径方向の外方に突出している。フランジ部60cにおけるネジ部60bの側の面は、ストッパ面60dとして機能する。ストッパ面60dは、可変形部材113における端面134,136とメインシャフト60とが接触する面である。
メインシャフト60には、可変形部材113の背面がストッパ面60dに対向するように、可変形部材113が取り付けられる。また、ライナ51が可変形部材113に接触するように胴体部60aに取り付けられる。可変形部材113と、カラー202と、ライナ51とは、メインシャフト60のネジ部60bからフランジ部60cに向かう方向に沿って、カラー202、ライナ51、および、可変形部材113の順にメインシャフト60に取り付けられる。
ボルト201を含む押圧部が可変形部材113を押圧するときには、ボルト201をネジ部60bに締め付ける。これにより、カラー202とライナ51とがフランジ部60cに向かって移動するため、ライナ51が可変形部材113を直接的に押圧する。このとき、フランジ部60cのストッパ面60dは、メインシャフト60に対する可変形部材113およびライナ51の移動を制限するストッパとして機能する。
押圧部のうちのライナ51と、フランジ部60cとに挟まれた可変形部材113においては、押圧部から負荷を受けることによって内径と外径とがそれぞれ半径方向の内方と外方とに広がるように弾性変形する。このように、治具200aを備えたチャック装置においては、可変形部材113一つのみが用いられている。治具200aを備えたチャック装置によれば、ボルト201を含む押圧部を用いることにより、ワーク2の軸心を調整することができる。このように、比較的数の少ない可変形部材だけでも、複数の外側スリット138(図10参照)と複数の内側スリット139(図10参照)とによって可変形部材113とワーク2との接触部分の数および接触面の面積を稼ぐことができるため、ワーク2を適切に支持することができる。すなわち、治具200aにおいては、軸方向の寸法が限定されたワーク2でも、一つの可変形部材113を用いて適切に支持し且つワーク2の軸心を適切に調整することができる。
なお、メインシャフト60のフランジ状の部分の軸方向の寸法を縮小させること、または、ライナ51もしくはカラー202の軸方向の寸法を縮小させること等によって、二つの可変形部材として、可変形部材113,114、または、可変形部材111,112を用いてワーク2の軸心を調整することができる。
図20には、本発明に従った位置調整用治具として、治具200bを含む検査器用または工作機械用のチャック装置を示す。治具200bにおいては、ライナ51(図19参照)の軸方向の寸法よりも小さい軸方向の寸法を有するライナ52が、メインシャフト60に取り付けられている。
メインシャフト60には、可変形部材113の背面が可変形部材114の背面に対向するように、可変形部材113,114が取り付けられる。また、ライナ52が可変形部材113に接触するように胴体部60aに取り付けられる。可変形部材113,114と、カラー202と、ライナ52とは、メインシャフト60のネジ部60bからフランジ部60cに向かう方向に沿って、カラー202、ライナ52、および、可変形部材113,114の順にメインシャフト60に取り付けられる。
ボルト201を含む押圧部が可変形部材113,114を押圧するときには、ボルト201をネジ部60bに締め付ける。これにより、カラー202とライナ52とがフランジ部60cに向かって移動するため、ライナ52が可変形部材113を直接的に押圧する。押圧される可変形部材113は、可変形部材114を押圧する。このとき、フランジ部60cのストッパ面60dは、メインシャフト60に対する可変形部材113,114およびライナ52の移動を制限するストッパとして機能する。
押圧部のうちのライナ52と、フランジ部60cのストッパ面60dとに挟まれた可変形部材113,114においては、押圧部から負荷を受けることによって内径と外径とがそれぞれ半径方向の内方と外方とに広がるように弾性変形する。このように、治具200bを備えたチャック装置によれば、ボルト201を含む押圧部を用いることにより、軸方向の寸法が比較的小さいワーク2の軸心を、二つの可変形部材113,114によってより適切に調整することができる。
治具200bにおけるその他の構成については、上記の治具200a(図19参照)と同様の構成であるため、同符号を付して説明を省略する。
なお、冶具200bにおいても、治具100(図2参照)と同様に、可変形部材113における外側スリット138の位置が隣り合う可変形部材114における内側スリット149の位置に略一致するように、可変形部材113と可変形部材114とが互いに重なっている(図11,12参照)。
図21には、本発明に従った位置調整用治具として、治具200cを含む検査器用または工作機械用のチャック装置を示す。治具200cは、軸部材の一例としてのメインシャフト61と、可変形部材111,112,113,114と、押圧部とを備える。押圧部は、ボルト201とカラー203とライナ53,59とを含む構成を有する。カラー203は、円環形状を有する。ライナ53とライナ59とは、円筒形状を有する。
メインシャフト61は、メインシャフト60(図20参照)の軸方向の寸法よりも大きい軸方向の寸法を有する。メインシャフト61は、円柱形状を有する胴体部61aとフランジ部61cとを含む。フランジ部61cは、メインシャフト61の軸方向の一端部に形成されている。メインシャフト61の軸方向の他端部には、ネジ部61bが形成されている。ネジ部61bは、ボルト201と螺合する。カラー203は、ネジ部61bに取り付けられる。
メインシャフト61には、可変形部材111の背面が可変形部材112の背面に対向し、且つ、可変形部材113の背面が可変形部材114の背面に対向するように、可変形部材111〜114が取り付けられる。ライナ59は、可変形部材111に接触するようにメインシャフト61に取り付けられる。また、ライナ59が可変形部材112と可変形部材113とに接触するように胴体部61aに取り付けられる。可変形部材111〜114と、カラー203と、ライナ53と、ライナ59とは、メインシャフト61のネジ部61bからフランジ部61cに向かう方向に沿って、カラー203、ライナ59、可変形部材111,112、ライナ53、および、可変形部材113,114の順にメインシャフト61に取り付けられる。
ボルト201を含む押圧部が可変形部材111〜114を押圧するときには、ボルト201をネジ部61bに締め付ける。これにより、カラー203とライナ59とがフランジ部61cに向かって移動するため、ライナ59が可変形部材111を直接的に押圧する。また、ライナ59と可変形部材111,112とを介して、ライナ53が可変形部材113を押圧する。このとき、フランジ部61cのストッパ面61dは、メインシャフト61に対する可変形部材111,112,113,114およびライナ59,53の移動を制限するストッパとして機能する。また、ライナ59は、メインシャフト61に対する可変形部材111,112の移動を制限するストッパとして機能する。
押圧部のうちのライナ59と、フランジ部61cとに挟まれた可変形部材111〜114においては、押圧部から負荷を受けることによって内径と外径とがそれぞれ半径方向の内方と外方とに広がるように弾性変形する。このように、治具200cを備えたチャック装置によれば、ボルト201を含む押圧部を用いることにより、内周縁に段差が設けられたワーク2の軸心を、四つの可変形部材111,112,113,114によって適切に調整することができる。
なお、ライナ59またはライナ53の軸方向の寸法を拡大させること等によって、可変形部材111,112のうちのいずれか一つのみ、および、可変形部材113,114のうちのいずれか一つのみを用いてワーク2の軸心を調整することができる。
なお、冶具200cにおいても、治具100(図2参照)と同様に、可変形部材113における外側スリット138の位置が隣り合う可変形部材114における内側スリット149の位置に略一致するように、可変形部材113と可変形部材114とが互いに重なっている(図11,12参照)。同様に、可変形部材111における外側スリット(参照番号なし)の位置が隣り合う可変形部材112における内側スリット(参照番号なし)の位置に略一致するように、可変形部材111と可変形部材112とが互いに重なっている。
図22には、本発明に従った位置調整用治具として、治具200dを含む検査器用または工作機械用のチャック装置を示す。治具200dにおいては、治具200c(図21参照)における可変形部材112とライナ53と可変形部材113との代わりに、メインシャフト61にライナ54が取り付けられている。ライナ54は、略円筒形状を有している。ライナ54の外表面には、段差が形成されている。ライナ54の内表面は、胴体部61aの形状に沿った管の内表面の形状を有している。ライナ54の端面54a,54bは、ライナ54の軸方向と略直交する方向に延びることによって、メインシャフト61の軸方向に対向する。
可変形部材111,114と、カラー203と、ライナ59,54とは、メインシャフト61のネジ部61bからフランジ部61cに向かう方向に沿って、カラー203、ライナ59、可変形部材111、ライナ54、および、可変形部材114の順にメインシャフト61に取り付けられる。可変形部材111は、ライナ54の端面54aに対向するように、胴体部61aに取り付けられる。可変形部材114は、ライナ54の端面54bに端面144,146が対向するように、胴体部61aに取り付けられる。
ボルト201を含む押圧部が可変形部材111,114を押圧するときには、ボルト201をネジ部61bに締め付ける。これにより、カラー203とライナ59とがフランジ部61cに向かって移動するため、ライナ59が可変形部材111を直接的に押圧する。押圧される可変形部材111は、ライナ54を介して可変形部材114を押圧する。このとき、フランジ部61cのストッパ面61dは、可変形部材114の端面145と接触しながらメインシャフト61に対する可変形部材111,114およびライナ54の移動を制限するストッパとして機能する。
押圧部のうちのライナ59と、ライナ54とに挟まれた可変形部材111、および、ライナ54とストッパ面61dとに挟まれた可変形部材114においては、押圧部から負荷を受けることによって内径と外径とがそれぞれ半径方向の内方と外方とに広がるように弾性変形する。このように、治具200dを備えたチャック装置によれば、ボルト201を含む押圧部を用いることにより、内周縁に段差が設けられたワーク2の軸心を、二つの可変形部材111,114によって適切に調整することができる。軸方向の寸法が比較的小さいワーク2の軸心を、二つの可変形部材113,114によってより適切に調整することができる。
治具200dにおけるその他の構成については、上記の治具200c(図21参照)と同様の構成であるため、同符号を付して説明を省略する。
なお、冶具200dにおいても、治具100(図2参照)と同様に、可変形部材111における外側スリット(参照番号なし)の位置が可変形部材114における内側スリット149の位置に略一致するように、可変形部材111と可変形部材114とがライナ54を介して互いに重なっている。
なお、冶具200dは、ワーク2の軸方向の寸法に応じて、ライナ54の代わりに可変形部材112,113を用いられていてもよい。この場合には、可変形部材112と可変形部材113との間には、円環状のカラーが配置されていてもよい。ライナ54の代わりに可変形部材112,113を用いた構成においても、治具100(図2参照)と同様に、好ましくは、可変形部材111における外側スリット(参照番号なし)の位置が可変形部材112における内側スリット(参照番号なし)の位置に略一致するように、可変形部材111と可変形部材112とが互いに重なっている。また、好ましくは、可変形部材113における外側スリット138の位置が可変形部材114における内側スリット149の位置に略一致するように、可変形部材113と可変形部材114とが互いに重なっている(図11,12参照)。
以上のように、治具200a,200b,200c,200dを含むチャック装置を備えた検査器または工作機械の構成によれば、軸方向の寸法が小さいワークを損傷させるおそれがなく、ワーク2の軸心を適切に調整することが可能な検査器または工作機械を提供することができる。
また、治具200a,200b,200c,200dは、センタ50によって取り外し自在に検査器または工作機械に取り付けられる。
この構成によれば、検査もしくは測定対象のワーク2、または、加工対象のワーク2の寸法または形状に応じて、適切な寸法の可変形部材111〜114および治具200a,200b,200c,200dを用いることができる。すなわち、ワーク2の寸法または形状に応じて、メインシャフト60,61に取り付けられる可変形部材111〜114または治具200a,200b,200c,200dを適宜取り替えながら使用することができる。
(第3実施形態)
図23には、本発明に従った位置調整用治具として、機器20のアライメント調整に用いられる治具300を示す。図23は、機器20のアライメント調整に用いられる位置調整用治具としての治具300の断面図である。なお、図23において、図23の左右方向は鉛直上下方向であって、図23の上下方向は水平方向である。つまり、治具300は、好ましくは、下記のメインシャフト330の軸方向が略鉛直上下方向に延びるように、且つ、治具300が機器20を略鉛直上方に向かって支持するように使用される。
ワークとしての機器20には、管状の部分としての孔が形成されている。治具300は、図示しない油圧機構の作動に連動するように構成されている。治具300は、軸部材の一例としてのメインシャフト330と、可変形部材113,114と、押圧部とを備える。押圧部は、圧縮バネ309と、キャップ303と、クランプシャフト320とを含む構成を有する。キャップ303は、円柱形状を有する脚部と、円板形状を有する蓋部とを有する。これら脚部と蓋部とは、一体である。蓋部の中心部には、孔が形成されている。ボルト301は、この孔を貫通する。
メインシャフト330は、略円柱形状を有する。つまり、メインシャフト330の内部は、中空状に形成されている。メインシャフト330は、軸部331と、フランジ部332と、基部334とを含む。フランジ部332は、メインシャフト330の軸方向の中心部に形成されている。メインシャフト330の軸方向の両端には、開口が形成されている。メインシャフト330において、軸部331とフランジ部332と基部334とは、メインシャフト330の軸方向に沿って、軸部331、フランジ部332、および、基部334の順に配置される。フランジ部332と基部334との境界付近に形成された溝には、Oリング329が取り付けられる。
フランジ部332は、軸部331の円周方向の全体において軸部331から半径方向の外方に突出している。フランジ部332には、複数のボルト孔が形成されている。複数のボルト孔は、円周方向に沿って等間隔に並んでいる。フランジ部332の根元は、他の部分よりも軸方向の寸法が大きくなるように、軸部331の側に突出している。この突出した部分は、ストッパ面335として機能する。ストッパ面335は、可変形部材114における端面145とメインシャフト330とが接触する面である。
クランプシャフト320は、略円柱形状を有する軸部321とネジ部322とフランジ部323とを含む。ネジ部322には、ボルト301のネジ部と螺合する。クランプシャフト320は、メインシャフト330の内部に配置されるように、メインシャフト330に取り付けられる。メインシャフト330の基部334とクランプシャフト320のフランジ部323との間には、Oリング328が配置される。メインシャフト330の内部において、メインシャフト330とクランプシャフト320とによって囲まれる領域には、中空部333が形成されている。中空部333には、圧縮バネ309が収容される。
クランプシャフト320は、メインシャフト330に対して摺動自在である。また、クランプシャフト320は、図示しない油圧機構の作動に連動する。つまり、当該油圧機構による負荷は、図23左右方向にクランプシャフト320を移動させるように、フランジ部323に作用する。
メインシャフト330の軸部331には、可変形部材113,114が取り付けられる。可変形部材113,114は、可変形部材113の背面と可変形部材114の背面とが対向するように、メインシャフト330に取り付けられる。なお、冶具300においても、治具100(図2参照)と同様に、可変形部材113における外側スリット138の位置が可変形部材114における内側スリット149の位置に略一致するように、可変形部材113と可変形部材114とが互いに重なっている(図11,12参照)。
可変形部材113,114は、メインシャフト330の軸方向における軸部331から基部334に向かう方向に沿って、可変形部材113,114の順に軸部331に取り付けられる。可変形部材113は、キャップ303の脚部に接触するように軸部331に取り付けられる。また、可変形部材114は、メインシャフト330のストッパ面335に端面145が接触するように軸部331に取り付けられる。可変形部材113,114が取り付けられたメインシャフト330には、キャップ303が軸部331を覆うように取り付けられる。さらに、キャップ303を貫通するボルト301が、クランプシャフト320のネジ部322に螺合する。キャップ303は、ボルト301を介してクランプシャフト320に固定される。
クランプシャフト320を含む押圧部が可変形部材113,114を押圧するときには、上記の油圧機構の作用によって、先ず、クランプシャフト320が図23の左方に押されるような力がフランジ部323に作用する。次に、上記の油圧機構の負荷が解除される場合に、メインシャフト330の軸方向に沿った上記の油圧機構に対するメインシャフト330の位置が固定される。さらに、圧縮バネ309のバネ力に基づいて、クランプシャフト320がメインシャフト330に対して図23の右方(つまり、略鉛直下方)に移動する。これにより、クランプシャフト320に固定されたキャップ303は、可変形部材113を押圧する。さらに、押圧される可変形部材113は、可変形部材114を押圧する。
押圧部のうちのキャップ303と、フランジ部332とに挟まれた可変形部材113,114においては、押圧部から負荷を受けることによって内径と外径とがそれぞれ半径方向の内方と外方とに広がるように弾性変形する。半径方向の内方と外方とに内径と外径とが広がることによって、メインシャフト330を半径方向の内方に締め付けながら機器20を半径方向の外方に締め付けることができる。このように、治具300を用いることによって、機器20のアライメント調整を実施することができる。
なお、キャップ303の脚部の軸方向の寸法を縮小させること、または、円筒形状を有するライナを軸部331に取り付けること等によって、可変形部材113,114のうちのいずれか一方を用いて機器20のアライメント調整を実施することができる。なお、治具300においては、調整の対象の機器20の形状等に応じて、メインシャフト330の軸部331の軸方向の寸法を適宜改変等することにより、用いる可変形部材について、可変形部材111〜114のうちのいずれか(一つまたは複数を問わず)を適宜選択することができる。
以上のように、本発明の位置調整用治具を、機器20のアライメント調整に用いることができる。
(第4実施形態)
図24には、本発明に従った位置調整用治具としての治具400を含むチャック装置を示す。図24は、棒状のワーク2を支持するための可変形部材413,414を備えた治具400を含むチャック装置の一例の断面図である。当該チャック装置は、工作機械において加工されるワーク2を掴むための構成であって、工作機械のうちの例えば旋盤のチャック装置である。
当該チャック装置は、面板407を備える。面板407には、円柱状のストッパ406が取り付けられる。治具400は、複数のボルト405等の固定部材によって着脱自在に面板407に固定される。治具400は、軸部材の一例としての筒403と、それぞれ二つの可変形部材413,414と、押圧部とを備える。押圧部は、環状の面板402と複数のボルト405とナット401とを含む構成を有する。
チャック装置の主軸408は、図示しない油圧機構を含む送り装置または機械式の送り装置に連結されている。主軸408には、支持板409が固定されている。面板402の軸方向の中心線と、筒403の軸方向の中心線と、主軸408の軸方向の中心線とが互いに一致するように、面板402と筒403とが複数のボルト405によって面板407に取り付けられる。複数のボルト405は、面板402と筒403と面板407と支持板409とを貫通する。面板402から突出するボルト405の端部には、ナット401が螺合する。支持板409から突出するボルト405の端部には、ナット404が螺合する。
筒403の内部には、円筒形状を有するライナ451,452と、略円環形状を有する可変形部材413,414が配置される。ライナ451,452の外周縁と可変形部材413,414の外周縁433,443とが筒403の内周縁に対向するように、ライナ451,452と、可変形部材413,414とが筒403に取り付けられる。可変形部材413,414と、ライナ451,452とは、軸方向に沿って筒403に対して摺動自在である。
可変形部材413と可変形部材414とは、互いに同じ構成を有する。可変形部材413,414は、可変形部材413の背面と可変形部材414の背面とが対向するように、筒403に取り付けられる。可変形部材413,414は、略円環形状を有している。そのため、可変形部材413,414の外周縁433,443の全体と筒403の内表面の全体とが対向するように、可変形部材413,414が筒403に取り付けられる。可変形部材413,414が弾性変形する前の状態においては、端面436と端面446との間には隙間が生じている。
可変形部材413,414と、ライナ451,452とは、筒403の軸方向における面板402から面板407に向かう方向に沿って、可変形部材413,414、ライナ451、可変形部材413,414、および、ライナ452の順に配置される。一つの可変形部材413は、端面435が面板402に接触するように、筒403に配置される。また、一つの可変形部材414は、ライナ451に端面445が接触するように筒403に取り付けられる。さらに、もう一つの可変形部材413は、端面435がライナ451に接触するように、筒403に配置される。また、もう一つの可変形部材414は、ライナ452に端面445が接触するように筒403に取り付けられる。
可変形部材413,414においては、第1実施形態のチャック装置10(図2参照)に用いられる図7,8に示す可変形部材113とは異なり、円筒状の部分が半径方向の外側に位置し、当該円筒状の部分の外側の縁によって外周縁433,443が形成されている。可変形部材413,414において、半径方向の外側端に位置する外周縁433,443と、半径方向の内側端に位置する内周縁431,441とは、円形状を有する。
可変形部材413,414は、傾斜部432,442を有する。傾斜部432,442は、筒403に可変形部材413,414が取り付けられる場合には、筒403の軸方向に略直交する方向に対して傾斜する。図示されていないが、傾斜部432,442には、それぞれ、複数の外側スリットと、複数の内側スリットとが形成されている。外側スリットは、外周縁433,443から内周縁431,441に向かって半径方向に沿って延びる。内側スリットは、内周縁431,441から外周縁433,443に向かって半径方向に沿って延びる。
傾斜部432において、外側スリットと内側スリットとは、互いに同じ数だけ形成されている。また、傾斜部442において、外側スリットと内側スリットとは、互いに同じ数だけ形成されている。傾斜部432,442においては、それぞれ、例えば6本の外側スリットと内側スリットとが形成されている。また、傾斜部432において、外側スリットと内側スリットとは、可変形部材413の円周方向に沿って互い違いに且つ等間隔に配置されている。傾斜部442において、外側スリットと内側スリットとは、可変形部材414の円周方向に沿って互い違いに且つ等間隔に配置されている。
なお、冶具400においても、治具100(図2参照)と同様に、可変形部材413における外側スリットの位置が可変形部材414における内側スリットの位置に略一致するように、可変形部材413と可変形部材414とが互いに重なっている。
治具400において、ナット401をボルト405に対して回転させることによって、面板402が筒403および面板407に対して主軸408の軸方向に移動する。これにより、面板402によって面板402に近い側に位置する可変形部材413が押圧される。押圧される可変形部材413によって、可変形部材414と、面板407に近い側に位置する可変形部材413,414とが押圧される。
押圧される可変形部材413,414は、外周縁433,443が半径方向の外方に移動するように、且つ、内周縁431,441が半径方向の内方に移動するように、弾性変形する。このとき、傾斜部432,442が延びる方向が、筒403の軸方向に略直交する方向と平行な方向を向くように、可変形部材413,414が弾性変形する。このような変形とともに、可変形部材413,414の円周方向に沿って外側と内側との各スリットの先端において各スリットの寸法が拡大するように、可変形部材413,414が弾性変形する。
押圧部による負荷を可変形部材413,414が受ける場合には、可変形部材413の端面435が面板402に押圧される。また、押圧される可変形部材413によって、端面436が端面446を押圧し、且つ、端面434が端面444を押圧する。このとき、これら端面434,444,436,446の位置が、互いに略一致する。
可変形部材413,414がこのように変形することにより、可変形部材413,414の内周縁431,441は、ワーク2を半径方向の内方に向かって強固に締め付け、且つ、円周方向に沿って略均一に締め付ける。また、外周縁433,443は、半径方向の外方に向かって筒403を強固に締め付け、且つ、円周方向に沿って略均一に締め付ける。このようにして、可変形部材413,414は、筒403を強固に締め付けながら棒状のワーク2を締め付けることによって支持する。
なお、治具400においては、加工されるワーク2の形状等に応じて、筒403の軸方向の寸法を適宜改変等することにより、用いる可変形部材について、可変形部材413,414のうちのいずれか(一つまたは複数を問わず)を適宜選択することができるとともに、寸法の異なる可変形部材を適宜組み合わせて用いることができる。これにより、段差が設けられた外表面を有するワークについても、適切に支持し、且つ、当該ワークの軸心を適切に調整することが可能である。
以上のように構成された治具400においては、第1実施形態のチャック装置10(図2参照)と同様の作用効果を発揮することができる。また、治具400に用いられる例えば可変形部材413,414においては、第1実施形態の例えばチャック装置10(図2参照)の治具100に用いられる可変形部材111〜114と同様の作用効果を発揮することができる。
なお、棒状のワーク2を支持するための本発明に従った治具は、旋盤、研磨機等の工作機械に用いられる治具に限定されない。図19〜22に示す検査器、または、図23に示す機器20のアライメント調整に用いられる治具についても、半径方向の内方に向かって棒状のワーク(または機器)を支持するように構成されていてもよい。
以上に開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は、以上の実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正と変形を含むものである。