前記課題を解決するためになされた本発明は、送信信号を増幅する第1アンプと、前記第1アンプによって増幅された送信信号を処理する送信回路と、前記送信回路で処理された送信信号を送信するアンテナと、前記第1アンプの活性化と非活性化とを交互に繰り返す制御部と、を備え、前記制御部が前記第1アンプを活性化しているときの前記アンテナから前記送信回路を見たインピーダンスをZonT、前記制御部が前記第1アンプを非活性化しているときの前記アンテナから前記送信回路を見たインピーダンスをZoffT、とするとき、前記送信回路は、前記ZonTを、電圧反射係数Γが0である点を通過する等レジスタンス線または等コンダクタンス線の近傍に遷移させる第1インピーダンス移動回路と、前記ZonTの電圧反射係数Γが0近傍になるように、かつ前記ZoffTの電圧反射係数Γの絶対値が大きくなるように、前記ZonTと前記ZoffTとを遷移させる第1インピーダンス整合回路と、を備えるようにしたものである。
これによって、パワーアンプや低雑音増幅器の特性に依存せず、かつ送信特性及び受信特性を劣化させることなく、無線通信装置の構成要素からアンテナスイッチモジュールを排除して消費電力低減およびコスト低減を達成することができる。
また、本発明は、前記第1インピーダンス移動回路は、複素平面上において、前記ZonTと前記ZoffTとを虚数部の符号が互いに異なる複素平面座標に遷移させるようにしたものである。
これによって、第1インピーダンス移動回路によるインピーダンス操作の後に、第1インピーダンス整合回路がZonTをインピーダンスマッチング状態に遷移させると、同時にZoffTを電圧反射係数Γが大きくなるように遷移させることができる。
また、本発明は、前記第1インピーダンス移動回路は、前記インピーダンス整合回路の前段に設けられ、前記インピーダンス移動回路は、前記インピーダンス整合回路によるインピーダンス遷移が行われることでZonTの電圧反射係数Γが0近傍になるように、予めZonTを電圧反射係数Γが0の点を通過する等レジスタンス線あるいは等コンダクタンス線の近傍に遷移させるよう構成したものである。
これによって、パワーアンプや低雑音増幅器の特性に依存することなく、回路にコンデンサまたはインダクタを直列または並列に接続することで、ZonTをインピーダンスマッチング状態に遷移させることができる。
また、本発明は、前記送信回路は、更に、前記第1インピーダンス整合回路と前記アンテナとの間に、前記ZoffTをハイインピーダンス状態に遷移させる第1位相調整回路を設けたものである。
これによって、パワーアンプや低雑音増幅器の特性に依存せず、ZoffTをハイインピーダンス状態に遷移させることができる。
また、本発明は、前記第1アンプを、シングルエンド出力型としたものである。
これによって、回路構成をより簡素化することが可能となる。
また、本発明は、前記第1インピーダンス移動回路、前記第1インピーダンス整合回路を構成する電気部品を、配線パターンを引き回して形成したものである。
これによって、第1インピーダンス移動回路および第1インピーダンス整合回路にはディスクリート部品が含まれなくなり、低コスト化が実現できる。
また、本発明は、前記第1位相調整回路を構成する電気部品を、配線パターンを引き回して形成したものである。
これによって、第1位相調整回路にはディスクリート部品が含まれなくなり、低コスト化が実現できる。
また、本発明は、前記配線パターンが形成された第1基板と、グラウンドパターンが形成された第2,第3基板と、を備え、前記グラウンドパターンが前記配線パターンと重畳するように、前記第1基板の表裏面に前記第2基板と前記第3基板とを設けたものである。
これによって、送信回路に含まれる第1インピーダンス整合回路、第1位相調整回路を電磁的に外界から遮断し、安定してインピーダンスを遷移させる特性および位相を調整する特性を得ることができる。
また、本発明は、前記第1アンプをその表面に実装した第4基板と、この第4基板と前記第2基板または第3基板とに設けられ、前記第4基板と前記第1基板とを電気的に接続するviaホールを備え、このviaホールを介して、前記第1アンプによって増幅された送信信号を前記送信回路に供給し、前記アンテナで受信した受信信号を前記第2アンプに供給するように構成したものである。
これによって、回路規模が大きく配線パターンの引き回しで構成することができない部品(ディジタル演算処理を実行する部品等)を、簡易に表面実装することができる。
また、本発明は、前記第1位相調整回路は、ZoffT>2×ZonTとなるように、前記送信信号の位相を変化させるようにしたものである。
これによって、アンテナスイッチモジュールを備えることなく、送信時に送信信号が受信回路に流入することや、受信時に受信信号が送信回路に流入することを防止できる。
また、本発明は、送信信号を増幅する第1アンプと、前記第1アンプによって増幅された送信信号を処理する送信回路と、前記送信回路で処理された送信信号を送信するアンテナと、前記アンテナで受信した受信信号を処理する受信回路と、前記受信回路で処理された受信信号を増幅する第2アンプと、前記第1アンプと前記第2アンプとを交互かつ排他的に活性化する制御部と、を備え、前記制御部が前記第1アンプを活性化しているときの前記アンテナから前記送信回路を見たインピーダンスをZonT、前記制御部が前記第1アンプを非活性化しているときの前記アンテナから前記送信回路を見たインピーダンスをZoffT、とし、前記制御部が前記第2アンプを活性化しているときの前記アンテナから前記受信回路を見たインピーダンスをZonR、前記制御部が前記第2アンプを非活性化しているときの前記アンテナから前記受信回路を見たインピーダンスをZoffR、とするとき、前記送信回路は、前記ZonTを、電圧反射係数Γが0である点を通過する等レジスタンス線または等コンダクタンス線の近傍に遷移させる第1インピーダンス移動回路と、前記ZonTの電圧反射係数Γが0近傍になるように、かつ前記ZoffTの電圧反射係数Γの絶対値が大きくなるように、前記ZonTと前記ZoffTとを遷移させる第1インピーダンス整合回路と、を備え、前記受信回路は、前記ZonRを、電圧反射係数Γが0である点を通過する等レジスタンス線または等コンダクタンス線の近傍に遷移させる第2インピーダンス移動回路と、前記ZonRの電圧反射係数Γが0近傍になるように、かつ前記ZoffRの電圧反射係数Γの絶対値が大きくなるように、前記ZonRと前記ZoffRとを遷移させる第2インピーダンス整合回路と、を備える無線通信装置である。
これによって、パワーアンプや低雑音増幅器の特性に依存せず、かつ送信特性及び受信特性を劣化させることなく、無線通信装置の構成要素からアンテナスイッチモジュールを排除して消費電力低減およびコスト低減を達成することができる。
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1(a)は、第1実施形態の無線通信装置の親機100の全体斜視図、(b)は無線通信装置の子機200の全体斜視図である。以降、図1(a)、図1(b)を用いて、第1実施形態に係る無線通信装置の親機100および子機200の概要について説明する。
第1実施形態では、主にDECT(Digital Enhanced Cordless Telecommunications)に準拠したディジタルコードレス電話機を例示して説明する。DECTは2011年に策定されたディジタルコードレス電話機の標準規格であり、1.9GHz帯(1,895,616Hz〜1,902,528kHz)の周波数を使用し、通信方式はTDMA−WB(時分割多元接続方式)を採用している。DECTでは他機器との電波干渉による通信障害を低減できることや、使用する周波数帯である1.9GHzは無線LANや電子レンジと干渉しないので、ファクスや電話による通話品質を維持できるとされている。またDECTは、広帯域の音声/データを通信できる方式として知られ、周波数チャネルの使用状況を常時モニタリングし、装置自身が最適なチャネルを選択することで効率良く周波数帯域を利用できる。
なお、後述する無線部12の特徴的な構成は、DECT方式のみならず、例えば世界的に広く利用されているGSM(登録商標)(Global System for Mobile Communications)方式の携帯電話機、スマートフォン、PHS、WLAN、無線送受信機能を有する携帯情報端末(タブレット)等全般に応用することができ、また、DCS(Digital Cellular System)方式を採用した自動車電話、携帯電話にも応用することができる。
図1(a)において、ユーザは通常の固定電話と同様に、親機100の表示部6と操作部7とを使って通話する相手方の電話番号の呼び出しやキー入力を行い、図示しない公衆回線(有線)と接続された他の電話機との間で音声データをやりとりする。親機100にはマイクロフォン8とスピーカ9とが設けられており、ユーザはいわゆるハンズフリーの状態で相手方と会話をすることができる。
図1(b)において、ユーザは、子機200を用いて親機100を経由して音声データを送受信する。子機200においても、ユーザは表示部14と操作部15とを使って通話する相手方の電話番号をキー入力等する。子機200にも送信すべき音声を取得するマイクロフォン16と、受信信号を復調した音声を出力する通話用スピーカ17と、リンガ用スピーカ18とが設けられている。
親機100はアンテナ(親機アンテナ)5を有し、子機200に備えられたアンテナ13(子機アンテナ)との間で、所定の周波数の搬送波に重畳したディジタル音声データを相互に送受信する。これによって、親機100と子機200との間においてワイヤレスで通話をすることができる。
図2は、無線通信装置の親機100の概略を示すブロック構成図である。親機100は既に説明したユーザインタフェースとしての表示部6、操作部7、マイクロフォン8、スピーカ9の他に、外部インタフェースとして電話回線インタフェース1を備えており、親機100は電話回線インタフェース1を介して公衆回線と接続する。また、親機100にはフラッシュメモリ等で構成された記憶部3が設けられ、例えば、使用頻度の高い接続先の電話番号や、親機100を留守番電話として使用する際に、相手方から送信された音声データをディジタル化して記憶する。
また、親機100には信号処理部10が設けられ、信号処理部10はアナログマルチプレクサ10a、コーデック10b、CPUブロック10f、符号化/復号化部10d、TDD/TDMAプロセッサ10e、CPUブロック10fに搭載されたディジタルスピーチプロセッサ(音声処理装置)10c、アンプモジュール25で構成される。以降、信号処理部10の構成要素について説明する。
アナログマルチプレクサ10aは、電話回線インタフェース1を介して入力された音声信号、マイクロフォン8で受信した音声信号、スピーカ9へ出力される音声信号(音声信号はいずれもアナログ信号)の入出力チャネルから1つのチャネルを選択する。
コーデック10bは、いわゆるオーディオコーデックであり、具体的にはディジタル信号とアナログ信号とを相互に変換するDA変換器およびAD変換器で構成される。コーデック10bによって、電話回線インタフェース1を介して親機100に入力されたアナログ音声信号およびマイクロフォン8で取得されたアナログ音声信号は、AD変換器によってディジタル音声信号に変換される。他方、後に説明するディジタルスピーチプロセッサ10cでディジタル処理を施されたディジタル音声信号は、コーデック10bでDA変換器によってアナログ音声信号に変換され、このアナログ音声信号がスピーカ9から出力される。
CPUブロック10fは図示しないCPU(Central Processing Unit)、制御プログラムを格納したEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)、ワークメモリとしてのRAM(read only memory)、これらを結合するバス等で構成され、親機100全体の動作を制御する。そして、CPUブロック10fには音声信号処理を実行するディジタルスピーチプロセッサ10cが搭載されている。ディジタルスピーチプロセッサ10cはコーデック10bによってAD変換されたディジタル音声信号、または後述の符号化/復号化部10dによって復号されたディジタル音声信号に対して、ノイズやエコーのキャンセルや、特定音声周波数の強調処理、暗号化/復号化等を実行する。なお、これらの音声信号処理は、一般的には畳み込み演算によるフィルタリング処理を基本とすることが多く、これらの信号処理に特化したDSP(Digital Signal Processor)等で処理を行ってもよく、もちろん図示しないCPUとディジタルスピーチプロセッサ10cとを1つのプロセッサで構成してもよい。また、信号処理部10全体を1つのDSPで構成しても構わない。
符号化/復号化部10dは、ディジタルスピーチプロセッサ10cの出力のうちアンテナ5を介して無線通信(送信)に供されるディジタル信号を符号化し、他方、アンテナを介して受信した信号(ここでは、既にディジタル化されている)を復号化する。符号化/復号化部10dは、例えばADPCM(Adaptive Differential Pulse Code Modulation)方式を採用している。
TDD/TDMA(Time Division Duplex/Time Division Multiple Access)プロセッサ10eは、伝送に用いる搬送周波数をタイムスロットと呼ばれる単位に分割して、同一周波数において複数の通信を可能にする(時分割多元接続)。このように同一周波数を共有して、ごく短い間にデータ送受信を行うため、実質的に送信と受信とを同時に実行しているかのように見せることができる。更に、TDMAでは、周波数帯域を分割するFDMA(Frequency Division Multiple Access:周波数分割多元接続)を併用することにより、多数のチャンネルを確保し、かつ周波数の干渉を避けることができる。このようにTDD/TDMAプロセッサ10eは、短時間のうちに送信と受信とを周期的に切り替えている。
以降、図4を併用して説明する。TDD/TDMAプロセッサ10eは、無線部12に設けられ送信信号を増幅するパワーアンプ26(第1アンプ、以降PAと呼称する)および受信信号を増幅するローノイズアンプ36(第2アンプ、以降LNAと呼称する)のON(活性化)とOFF(不活性化)とを交互かつ排他的に繰り返す制御部として機能する。
この活性化と不活性化とは、例えばPA26およびLNA36への電源供給を制御することで実現してもよいし、各アンプの入出力段のいずれかにゲート回路を設ける等の構成としてもよい。これによって、PA26がONのときLNA36は必ずOFFに、LNA36がONのときPA26は必ずOFFになるように制御される。この交互かつ排他的な制御は、例えば100Hz程度で周期的に行なわれる。
なお、TDD/TDMAプロセッサ10eには図示しないDA変換器とAD変換器とが内蔵されている。TDD/TDMAプロセッサ10eは、ディジタルスピーチプロセッサ10cから符号化/復号化部10dを介して入力されたディジタル信号(送信信号)をDA変換器によってアナログ信号に変換してアンプモジュール25に出力し、他方、無線部12のLNA36からアンプモジュール25を介して入力されたアナログ信号(受信信号)をAD変換器によってディジタル信号に変換して符号化/復号化部10dに出力する。このように、TDD/TDMAプロセッサ10eと無線部12との間には、アンプモジュール25を含むアナログ信号のインタフェースが構成されている。
無線部12では、アンプモジュール25が出力した送信信号(アナログ信号)を送信回路37を介してアンテナ5から放出し、他方、アンテナ5によって受信された受信信号(アナログ信号)を受信回路38を介してTDD/TDMAプロセッサ10eに出力する。なお、アンプモジュール25および無線部12に含まれる送信回路37、受信回路38の構成は後に詳述する。
図3は、無線通信装置の子機200の概略を示すブロック構成図である。子機200は、表示部14、操作部15、マイクロフォン16、通話用スピーカ17、記憶部11、リンガ用スピーカ18、アンテナ13、信号処理部10、無線部12とで構成されている。
子機200は一般的に可搬性を持たせるため小型に設計されるが、基本的な機能は図2を用いて説明した親機100と同等である。即ち、子機200の信号処理部10及び無線部12の構成および機能は、親機100で説明した信号処理部10と無線部12とで実質的に同じである(従って、一部同一の符号を付している)。よって、子機200におけるこれらの詳細な説明は省略する。
図4は、信号処理部10に設けられたアンプモジュール25、及び無線部12の概略を示すブロック構成図である。無線部12は送信回路37と受信回路38とで構成され、送信回路37と受信回路38とは接続点39で電気的に接続され、この接続点39がアンテナ13と接続されている。なお、ここでいう「電気的に接続され」とは「送信回路37の出力端と受信回路38の入力端との間に一切の素子が介在しない」ということを意味しない。後に説明するように、送信回路37の出力と受信回路38の入力とがコンデンサを介して接続されているような場合も「電気的に接続され」に含まれる。これはDECTのように使用帯域が高周波の場合、上述の2端点に設けられたコンデンサはDCカットの機能を備える。そして、その一方で高周波の信号を導通させることが可能だからである。
アンプモジュール25はPA(第1アンプ)26とLNA(第2アンプ)36とで構成される。PA26は電力増幅器であり、PA26の入力端Txは信号処理部10のTDD/TDMAプロセッサ10eに接続されている。そして、入力端TxにはTDD/TDMAプロセッサ10eから出力された送信信号(アナログ信号)が入力される。
LNA36は低雑音増幅器であり、受信回路38から出力された受信信号(アナログ信号)が入力され、増幅される。LNA36の出力端RxはTDD/TDMAプロセッサ10eに接続されている。そしてTDD/TDMAプロセッサ10eには増幅された受信信号(アナログ信号)が渡される。なお、アンプモジュール25は主にアナログ回路で構成されており、これを包含する信号処理部10はいわゆるデジアナ混載チップとして構成されている。
また、TDD/TDMAプロセッサ10eはアンプモジュール25に対して図示しないパスを経由して制御信号を出力しており、PA26およびLNA36の活性化(ON)、不活性化(OFF)を制御する。なお、この不活性化の状態には、PA26の全部のみならず一部の電源の遮断、PA26内部回路の遮断、入力/出力信号のゲート回路による遮断等が含まれる。
送信回路37は、第1インピーダンス移動回路30と第1インピーダンス整合回路31と第1位相調整回路32とから構成される。PA26が活性化した状態において、これらのうち第1インピーダンス移動回路30および第1インピーダンス整合回路31は、送信回路37の出力とアンテナ13との間でインピーダンスを整合させ、一方、PA26が不活性化した状態において、送信回路37とアンテナ13との間でインピーダンスを不整合にする。
そして、PA26が活性か不活性かにかかわらず、第1位相調整回路32は、送信回路37の接続点39側で、インピーダンスを一律に回転させ、PA26が活性化しているときはインピーダンスの整合状態を保ち、PA26が不活性化しているときはハイインピーダンス状態に遷移させる。
受信回路38は、第2インピーダンス移動回路35と第2インピーダンス整合回路34と第2位相調整回路33とから構成される。これらの構成要素の機能は、基本的に上述した送信回路37と同じである。即ち、LNA36が活性化した状態において、第2インピーダンス移動回路35および第2インピーダンス整合回路34は、アンテナ13と受信回路38との間でインピーダンスを整合させ、一方、LNA36が不活性化した状態において、アンテナ13と受信回路38との間でインピーダンスを不整合にする。
そして、LNA36が活性か不活性かにかかわらず、第2位相調整回路33は、受信回路38の接続点39側で、インピーダンスを一律に回転させ、LNA36が活性化しているときはインピーダンスの整合状態を保ち、LNA36が不活性化しているときはハイインピーダンス状態に遷移させる。
即ち、複素平面を表すスミスチャート(後に説明するイミタンスチャートを含む)上の円を上下に半分に割った水平線上(この線は純抵抗成分(インピーダンスの実数部)を表しており、以降、実軸と呼称する)に50Ω点(正規化インピーダンスでは1Ωの点を指す、以下「R50点」と呼称する)を設定したとき、PA26が活性化した状態において、第1インピーダンス移動回路30および第1インピーダンス整合回路31は、送信回路37の出力のインピーダンスをR50点の近傍に遷移させ、PA26が不活性化した状態において、送信回路37の出力インピーダンスをR50点から大きく離間する位置に遷移させる。
なお、R50点はスミスチャートの中心を示す。また、スミスチャートでは、実軸と直交する方向はインピーダンスの虚数部を示しており、虚数部の値はチャート外周の円弧に沿って変化する。そして、実軸から上方において虚数部の符号は正であり、下方において虚数部の符号は負となっている。
そして、第1位相調整回路32は、送信回路37の出力端(即ちアンテナ13との接続点39)において、インピーダンスを、R50点を中心とする円上で回転させる。具体的には、第1位相調整回路32は送信信号に位相シフトを生じさせることでインピーダンスの軌跡を回転させる。ここで、第1位相調整回路32はR50点を中心とする円上で、PA26の活性化/不活性化のいかんにかかわらず、一律にインピーダンスを回転させるから、PA26が活性化したときのインピーダンスは(R50点の近傍なので)回転によっても整合状態を保つ。一方のPA26が不活性化したときのインピーダンスは回転によって大きく変化し、回転角(即ち、後に説明する伝送線路長またはフィルタパラメータに基づく送信信号の位相のシフト量)を調整することで、ハイインピーダンス状態に遷移させることができる。
なお、送信回路37における第1インピーダンス移動回路30、第1インピーダンス整合回路31、第1位相調整回路32および、受信回路38における第2インピーダンス移動回路35、第2インピーダンス整合回路34、第2位相調整回路33は第1実施形態において特徴的な構成要素である。
図5は、送信回路37および受信回路38の具体的な構成を示す構成図であり、図6は、送信回路37および受信回路38が形成される多層基板の構成を示す構成図である。
図5において、右上から左下に向かう斜線部分は伝送線路又はインダクタを表し、左上から右下に向かう斜線部分はコンデンサを表している。また、送信回路37及び受信回路38における細線はダミー線であり、構成要素の接続関係のみを示し、長さや幅を持たない。このように、送信回路37および受信回路38は、回路要素として少なくとも伝送線路とインダクタとコンデンサとを含んでいる。
図6に示すように、無線通信装置の電気的要素(電気部品)は4層の多層基板に設けられている。多層基板は上層から下層に向けて第4基板59d、第2基板59b、第1基板59a、第3基板59cの順に積層され、全体の厚みは約1mmとされている。このうち最上層の第4基板59d上にはアンプモジュール25(図示せず)を内蔵した信号処理部10が実装されている。
第2基板59bおよび第3基板59cには、ほぼ全面にグラウンドパターンが形成されている。そして、第1基板59aには、上述してきた送信回路37、受信回路38、電源ライン45等が形成されている。なお、各基板59a〜59dにおいて、配線パターンやグラウンドパターンを構成する銅箔は、例えば基材の上層側のみに形成されている。このように互いのパターンは絶縁体である基材によって分離され、厚み方向の絶縁が維持される。
第1基板59aは、第2基板59bおよび第3基板59cに、その主面を両面から挟まれた構成を有している。そして第2基板59bおよび第3基板59cにおいて、第1基板59aの送信回路37および受信回路38が配置された領域と対応する領域にはグラウンドパターンが形成されており、これによって第1基板59a上に形成された送信回路37の大部分と受信回路38とは電磁シールドによって外部の電磁波から遮断される構成となっている。
更に、第1基板59aにおいて、送信回路37を構成する第1インピーダンス移動回路30、第1インピーダンス整合回路31、第1位相調整回路32、および受信回路38を構成する第2インピーダンス移動回路35、第2インピーダンス整合回路34、第2位相調整回路33の周囲には多数の図示しないviaホールが設けられている。このviaホールは、第1基板59aを挟む第2基板59bと第3基板59cとのグラウンドパターン間を相互に接続しており、送信回路37(第1インピーダンス移動回路30を構成する伝送線路LN1を除く)および受信回路38は、これらが形成された第1基板59aの両主面側のみならず、基板内においても電磁シールドによって保護される。
さて、送信回路37および受信回路38の構成要素の1つであるコンデンサ(回路に並列に接続されたもの)は、第1基板59に形成した配線パターン(銅箔)と、第1基板59aとともに多層基板を構成する第2基板59bおよび第3基板59cのグラウンドパターンとの間で形成されている。つまり、基板の主たる材料であるガラスエポキシ樹脂がコンデンサにおける絶縁層を構成する。これらのコンデンサの一端は回路に並列に接続され、かつその他端はグラウンドパターンそのものであって、接地されている。なお、コンデンサの容量は第1基板59aおよび第2基板59b、第3基板59c上のパターン間距離(即ち基板の厚さ)によって調整することができる。
また、回路に直列に接続されたコンデンサ(例えば、第2インピーダンス移動回路35におけるC11)は、例えば2つの串型電極を向かい合わせて、小さい容量成分を集積して構成できる。これはインターデジタルキャパシタと呼称される。また、回路に並列接続されたコンデンサと同様に多層基板に部分的に設けたパターン(このパターンは接地されていない)とviaホールとを利用して、いわゆるMIM(Metal Insulator Metal)キャパシタを構成することもできる。
また、伝送線路は配線パターンをGNDと対向して這わせることで実現される。即ち、配線パターンは、物理的な長さを持てば全てインダクタになるが、これを同じライン幅でGNDと並走させる限り、インダクタンスLと静電容量Cとで支え合う状態(電荷の受け渡し)は崩れず(L/C=一定(=特性インピーダンス))、フラットな周波数特性を備える伝送線路が得られる。この特性インピーダンス(例えば50Ω,75Ω)は太い線路では低く、細い線路では高くなる。
また、インダクタは、太さ(パターン幅)の異なる(即ち、特性インピーダンスが異なる)線路を繋げることで実現できる。線路の幅に不連続箇所を設けると電圧および電流の比が変わり、行き場を失った電荷が送り出し側に戻ることで、いわゆる反射波が発生する。この反射波により、電圧波および電流波の分布(Z=V/I)が崩れて、電流波が大きいところは磁界のエネルギーが大きいのでインダクタを構成する。なお、逆に電流波が小さいところは、容量性となりコンデンサを構成する。
送信回路37を構成する第1インピーダンス整合回路31、第1位相調整回路32、および受信回路38を構成する第2インピーダンス移動回路35、第2インピーダンス整合回路34、第2位相調整回路33は、第1基板59a上に配線パターンを引き回して形成されている。また、第1インピーダンス移動回路30は、第4基板59d上に配線パターンを引き回して形成されている。
配線パターンが伝送線路、コンデンサ、インダクタのいずれとして振る舞うかは、配線パターンの材質、幅、厚み、形状およびグラウンドパターンとの位置関係(配線に関するパラメータ)によって一意に決定される。逆に上述したパラメータを知ることができれば、それから実際の回路構成を再現し、電気的特性を把握することができる。
このようにディスクリート部品を一切使用しないことでコストを大幅に低減することができる。なお、送信回路37、受信回路38は第1基板59a内においてもグラウンドパターンに取り囲まれている。
以降、送信回路37を構成する個別要素について、送信信号が通過する経路の順に説明する。図5に示すように、PA26は3段の増幅器を備えている。入力端Txから近い側の2つの段には、電源ライン45をレギュレータ29で調整した電力が供給され、主にロジック回路の動作電源として用いられる。送信回路37の入力側に最も近い第3段目の増幅器(最終段増幅器26a)に電源を供給する構成については後述する。
ここで、既に説明したように、最上層の基板である第4基板59d上に実装されている(図6参照)信号処理部10(アンプモジュール25を内蔵する)において、PA26はシングルエンド信号を出力しており、このシングルエンド信号は、第1インピーダンス移動回路30に入力される。
第1インピーダンス移動回路30は、第4基板59d上に配線パターンを引き回して形成された伝送線路LN1を含む。伝送線路LN1はPA26のシングルエンド信号の出力端に直列に接続されている。そして、伝送線路LN1の他端はviaホール43aと接続されている。伝送線路LN1の出力は、viaホール43aを介して、最上層の第4基板59dから3層目の第1基板59aに伝達される。
第1インピーダンス整合回路31は、第1インピーダンス移動回路30の出力を受け持つコンデンサC1で構成される。コンデンサC1は第1基板59aに配線パターンを引き回して形成され、その一端は伝送線路LN1の出力側に接続され、他端は接地されている。
ここで、伝送線路LN1の長さ及びコンデンサC1の容量(これらの要素に印加される信号の周波数、およびこれらが形成された基板上における、配線パターンの長さ、幅(面積)等によって具体的数値が決定される)は、PA26を活性化した状態において、送信回路37とアンテナ13とのインピーダンスマッチングを図るように決定される。具体的には、例えば図7に示す伝送線路LN1を幅0.4mm、長さ7mmとして形成し、コンデンサC1の形状(面積)によって、その静電容量を例えば2.4pFに設定することで、PA26が活性化している際のインピーダンスが調整される。
第1インピーダンス整合回路31の出力は、第1位相調整回路32に入力される。第1位相調整回路32は、第1基板59a上に配線パターンを引き回して形成された伝送線路LN2を含む。伝送線路LN2は、第1インピーダンス整合回路31の出力端に直列に接続されている。そして、伝送線路LN2の他端は第1接続点39aに接続されている。伝送線路LN2は、例えば、幅0.4mm、長さ24mmとされている。
以上述べてきた信号処理を施された送信信号は、第1接続点39aを通過した後にviaホール43eを経由して第1基板59aから最上層の第4基板59dへと送られる。そして第4基板59d上でDCカットコンデンサ46を介して接続されたアンテナ13から空中に放出される。このDCカットコンデンサ46によって電源ライン45に印加された電圧(DCバイアス)はアンテナ13側および受信回路38に漏れることなく、送信信号のみがアンテナに送られる。
なお、第1インピーダンス移動回路30を構成する伝送線路LN1、および第1インピーダンス整合回路31を構成するコンデンサC1、および第1位相調整回路32を構成する伝送線路LN2による、送信回路37のインピーダンス調整過程は、後にスミスチャート(イミタンスチャート)を用いて詳細に説明する。
一般的に、PA26の出力端のインピーダンスは、PA26を活性化したときと不活性化したときとで異なっており、上述した第1インピーダンス移動回路30、第1インピーダンス整合回路31、第1位相調整回路32によってインピーダンスマッチングが図られるのは、あくまでもPA26を活性化した状態においてである。
逆に言えば、PA26を不活性化した状態では、第1インピーダンス整合回路31の出力インピーダンスはスミスチャート上のR50点にはない(即ち、アンテナ13との間でインピーダンスマッチングが図られていないが、ハイインピーダンス状態であるとは限らない)。従って、第1インピーダンス移動回路30および第1インピーダンス整合回路31によって、インピーダンス特性をR50点から離間する状態に遷移させておき、第1位相調整回路32によって送信信号の信号位相を変化させると、PA26を不活性化している際の送信回路37のインピーダンスはR50点を中心として大きく回転(変化)し、信号位相の変化量に応じて、ハイインピーダンス状態に遷移させることができる。
これによって、PA26を活性化している状態(送信時)では、送信回路37の出力端はアンテナ13からみたときにインピーダンスマッチングが図られ、一方でPA26を不活性化している状態(受信時)では、送信回路37の出力端はアンテナ13からみたときにハイインピーダンス状態となって、送信回路37側に受信信号が流入することが防止される。
なお、上述した回路に直列接続された伝送線路LN1(第1インピーダンス移動回路30)および並列接続されたコンデンサC1(第1インピーダンス整合回路31)は、信号周波数との関係でローパスフィルタとしての特性を示す。これによって、送信回路37における信号ノイズが低減される。以下、変形例として更に第1位相調整回路32にローパスフィルタ効果を持たせた例について説明する。
図7(a)は、第1位相調整回路32の変形例を示す構成図、(b)は、その等価回路の説明図である。以降、図7(a),(b)を併用して、第1位相調整回路32の変形例の構成および動作について説明する。
図7(a)に示すように、第1位相調整回路32は入力端の側からインダクタL4、L5を直列に配置し、入力端とインダクタL4との間、インダクタL4とL5との間、インダクタL5と出力端との間にそれぞれコンデンサC3,C4,C5の1端を接続し、他端を接地した構成となっている。このように、第1位相調整回路は少なくともインダクタとコンデンサとを回路要素として含む。
変形例の構成は図7(b)の等価回路に示すように、結果的にΠ型のローパスフィルタを2段直列配置したものとなっており、2つのインダクタL4,L5間のコンデンサC4は、ローパスフィルタの第1段と第2段との間で共用する構成としている。ローパスフィルタには信号位相を遅らせる作用があるため、この構成によってもスミスチャート上において、R50点を中心としてインピーダンスを回転させることができる。ただし、ローパスフィルタの減衰特性を高めようとすると、結果的に信号位相を大きくシフト(遅延)することになり、このときのスミスチャート上の回転は一周を超えたものとなる。
インダクタL4とL5との間に配置されたコンデンサC4は、これを構成する第1段の出力側と第2段の入力側との容量が同一であれば、実質的に任意の容量値を用いてローパスフィルタを構成することができる。そしてコンデンサC4およびインダクタL4,L5の値を調整することで、ローパスフィルタ全体としての減衰量の設定や位相調整を高い自由度で容易に行うことができる。例えば減衰特性を急峻にするのであればC4の値を大きくするとともに、通過帯域で共振状態となるようにL4,L5を減じればよい。なお、一般には、1つの既知の回路があればコンデンサC4の容量とインダクタL4,L5のインダクタンスとを同じ係数で除算してカットオフ周波数を動かすことが可能である。この具体例として、最初に周波数を正規化した各種LPF(バターワース/チェビシェフ等の各種応答特性及び各種段数)の減衰特性、部品定数を予め計算しておき、そのフィルタの周波数を正規化し、計算済みの各種LPFの減衰特性と比較して仕様を満足するものを抽出し、その部品定数を周波数比から使用周波数用に換算する、といった設計手法が挙げられる。
さて、従来ディスクリート素子でローパスフィルタを構成した場合、素子自体による寄生インダクタンス成分や寄生容量成分が発生し、特に高周波領域の減衰特性が不十分となって位相調整が事実上困難であった。第1位相調整回路の変形例では、配線パターンを引き回して位相調整部としてのローパスフィルタを形成し、これを上述したように多層基板を用いてシールド構造とすることで初めて、実用上十分な高周波特性を得ている。
なお、図7に示すように、第1位相調整回路32の入力端に設けたコンデンサC3はW=2.2mm,L=5.0mm(面積=11mm2)とされている。一方の出力端に設けたコンデンサC5はW=2.9mm,L=3.8mm(面積=11.02mm2)とされ、コンデンサC3とコンデンサC5との間で容量を若干異ならせている。このように第1段の入力端と第2段の出力端とのコンデンサの容量値を微小量変化させることで、一般的にローパスフィルタの帯域を拡張することができる。
さて、上述したように、送信回路37の内部においてPA26を活性化した状態では、第1インピーダンス整合回路31の出力インピーダンスは、既にアンテナ13との間でマッチングしている(即ち、スミスチャート上ではR50点近傍のインピーダンス値となっている)。このような整合が図られた状態で信号位相を変化させた場合、R50点を中心とする円上をインピーダンスは遷移する。即ち、もともとインピーダンスが整合した状態においては、インピーダンスは回転中心であるR50点の近傍にあるため、信号位相を変化させても確立した整合が破綻することはない。
理論的にはインピーダンス負荷に直列に接続する伝送線路の長さを調整することで信号位相を変化させることができるが、第1位相調整回路32をローパスフィルタによって構成することで、配線パターンの占める面積を低減できる場合がある。以下、概略を説明する。
DECTで使用される1.9GHz帯において、空間波長λは、
λ=c/f=3×108/1.9×10−9=158mm(但しcは光速)・・・(式1)
と計算される。しかしながら第1基板59aは多層基板を構成する1枚であり、中間層として他の基板(誘電体)に包囲されているため、波長が短縮される。第1実施形態では第1基板59a乃至第4基板59dとして、ガラス繊維の布にエポキシ樹脂をしみ込ませ熱硬化処理を施し板状にした、いわゆるガラスエポキシ基板を採用しており、この基板の誘電率ε=4.2であることから、基板内波長λgは、
λg=λ/√ε=158mm/√4.2=77mm・・・(式2)
となる。そしてλg/4となる伝送線路長(上の例では77/4≒19mm)が配線パターンを設計する際の基本単位となる。
一般的にローパスフィルタにおいて減衰特性を向上させると位相遅れは大きくなるが、これを伝送線路長のみで実現しようとすると、例えば3/4λgの位相遅れを達成するには19mm×3=54mmもの配線長を必要とする。一方、ローパスフィルタであれば2段構成でコンパクトに実現できる。
なお、変形例では、上述したように第1位相調整回路32はローパスフィルタを構成しているが、バンドパスフィルタ特性を持たせるようにしてもよい。
以降、図5、図6に戻って、受信回路38を構成する個別要素について、受信信号が通過する経路の順に説明する。
図5に示すように、アンテナ13で受信された受信信号は、第2接続点39bを通過したのちviaホール43fによって第4基板59dから第1基板59aの受信回路38に送られる。受信信号は、まず第2位相調整回路33に入力される。第2位相調整回路33は、第1基板59a上に配線パターンを引き回して形成された伝送線路LN3を含む。伝送線路LN3は、第2接続点39bを介してアンテナ13に直列に接続されている。そして、伝送線路LN3の他端は第2インピーダンス整合回路34に接続されている。伝送線路LN3は、例えば、幅0.4mm、長さ26mmとされている。
上述した送信回路37では、単に信号位相をシフトするのみならず信号ノイズを除去する必要から(後に説明するように、送信回路37を経由してDC電源の供給を受ける観点からも)、全体としてローパス特性を持たせているが、受信回路38ではLNA36はノイズ源となりにくくフィルタは不要であり、単純にインピーダンス負荷に直列に伝送線路LN3を接続するのみで、LNA36が不活性の状態における受信回路38のインピーダンスを回転させてハイインピーダンス状態に遷移できる。
もちろん、これは第1実施形態で採用したLNA36の特性に適応した構成であって、他のLNA36によっては、線路長がより長くなることもあり得るが、いずれにせよ配線パターン長を調整して容易にハイインピーダンス状態を得ることができる。もちろん、上述した第1位相調整回路32の変形例のように、積極的に信号位相を回転させるフィルタを設けてもよい。
第2位相調整回路33の出力は、第2インピーダンス整合回路34に入力される。第2インピーダンス整合回路34は、コンデンサC10で構成される。コンデンサC10は第1基板59aに配線パターンを引き回して形成され、その一端が第2位相調整回路33の出力に接続され、他端は接地されている。コンデンサC10は、例えば3.8pFに設定されている。第2インピーダンス整合回路34の出力は、第2インピーダンス移動回路35に入力される。
第2インピーダンス移動回路35は、第1基板59a上に配線パターンを引き回して形成されたコンデンサC11を含む。コンデンサC11の一端は、第2インピーダンス整合回路34と接続され、他端は、LNA36のシングルエンド信号の入力端に直列に接続されている。即ち、第2インピーダンス移動回路35は、回路に直列接続されたコンデンサを含む。このコンデンサとしては、例えば上述したインターデジタルキャパシタを用いることができる。
第2インピーダンス移動回路35の出力はviaホール43bを介して第1基板59aから最上層の第4基板59dに送られ、第4基板59dに実装された信号処理部10に含まれるアンプモジュール25のLNA36に入力される。LNA36は受信信号を増幅してTDD/TDMAプロセッサ10eに送出する。
なお、第2インピーダンス移動回路35を構成するコンデンサC11、および第2インピーダンス整合回路34を構成するコンデンサC10、および第2位相調整回路33を構成する伝送線路LN3による、受信回路38のインピーダンス調整過程は、後にイミタンスチャートを用いて詳細に説明する。
一般的に、LNA36の入力端のインピーダンスは、LNA36を活性化したときと不活性化したときで異なっており、上述した第2インピーダンス移動回路35、第2インピーダンス整合回路34、第2位相調整回路33によってインピーダンスマッチングが図られるのは、あくまでもLNA36を活性化した状態においてである。
逆に言えば、LNA36を不活性化している状態では、第2インピーダンス整合回路34の入力インピーダンスはスミスチャート上のR50点にはない(即ち、アンテナ13との間でインピーダンスマッチングが図られていないが、ハイインピーダンス状態であるとは限らない)。従って、第2インピーダンス移動回路35および第2インピーダンス整合回路34によって、インピーダンス特性をR50点から離間する状態に遷移させておき、第2位相調整回路33によって送信信号の信号位相を変化させると、LNA36を不活性化している際の受信回路38のインピーダンスはR50点を中心として大きく回転(変化)し、信号位相の変化量に応じて、ハイインピーダンス状態に遷移させることができる。
これによって、LNA36が活性化されている状態(受信時)では、受信回路38の入力端はアンテナ13からみたときにインピーダンスマッチングが図られ、一方でLNA36が不活性化されている状態(送信時)では、受信回路38の入力端はアンテナ13からみたときにハイインピーダンス状態となって、受信回路38側に送信信号が流入することが防止される。
以降、図5を用いて第1実施形態の電源ライン45の構成(電源供給のための構成)について説明する。
図5に示すように、電源ライン(電源)45はコンデンサC21とインダクタL21とを備え、インダクタL21の一端は第1接続点39aで送信回路37の出力端と接続されている。電源ライン45に接続されたコンデンサC21は回路上ではオープンスタブ56を形成している。ここで、スタブ(Stub)とは高周波回路において伝送線路に並列に接続される分布定数線路であり、特に終端負荷の種類により、先端が開放しているものはオープンスタブ(Open stub)と呼称される。第1実施形態ではオープンスタブ56の長さを19mmに設定している。また、オープンスタブ56とインダクタL21との接続点をP1とするとき、第1接続点39aと点P1との間に配置された(即ち、電源ライン45に直列に挿入された)インダクタL21の長さも19mmとされている。この19mmは上述したようにλg/4に相当する。
従って、このように構成すると、電源ライン45のインピーダンスを0とするとき、電源ライン45から見たオープンスタブ56の終端及び送信回路37の出力端(即ち、第1接続点39a)においては、インピーダンスが∞であることを意味する。ここで、回路がインピーダンス=∞として振る舞うのは、あくまでも搬送波である1.9GHzに対してであるから、1.9GHzに変調された送信回路37の出力は電源ライン45に流入することはできない。同様に、アンテナ13で受信された1.9GHzの受信信号が電源ライン45に流入することもできない。従って、この構成によって、送信回路37やアンテナ13から電源にノイズが混入することを確実に防止することができる。
その一方で、電源ライン45からは、第1接続点39aと送信回路37とを経由して、PA26の最終段増幅器26aにDC電源が供給される。DECT規格における送信電力(空中線電力)は平均で10mW程度であるが、この最終段増幅器26aは比較的大きな電力を消費し、かつ数百Hzで活性化(ON)と不活性化(OFF)とを繰り返すためラッシュ電流等によるノイズ源となりやすい。従来の構成では、電源ライン45をアンプモジュール25に直接接続して電源を供給していた。このため最終段増幅器26aで発生したノイズが電源ラインを介して無線通信装置を構成する様々な電気的要素に伝搬する可能性があり、最終段増幅器26aのノイズ対策が課題となっていた。つまり、最終段増幅器26aに直接給電すると、基本波f0の高調波成分(2×f0,3×f0...)の全てを遮断する給電回路が必要となって複雑化してしまうのである。
しかしながら第1実施形態によれば、仮に最終段増幅器26aで発生したノイズが送信信号に重畳したとしても、このノイズは送信回路37を通過することになり、送信回路37のローパス特性(直列接続された伝送線路LN1の持つリアクタンスと並列接続されたコンデンサC1とによるもの、または変形例で説明したローパスフィルタによるもの)によって減衰される。即ち、DECTであれば基本波f0である1.9GHzのみ遮断すれば済む。更に、電源ライン45を介して他のノイズ成分が混入しても、このローパスフィルタによってこのノイズ成分を減衰することができる。即ち、回路要素が構成する単一のローパスフィルタによって、送信信号上のノイズと電源側からのノイズとのいずれをも抑制することができる。
また、第1接続点39aで接続された電源ライン45は、既に説明したλg/4の長さに相当する線路を持つオープンスタブ56とインダクタL21とによって遮断される。従って、搬送波に起因するノイズが電源ライン45に混入することがなくなる。これによって最終段増幅器26aで発生したノイズが電源ライン45を介して、装置全体に伝搬することが防止される。
一方、受信回路38の出力が接続されたLNA36は一般に低消費電力であり、高周波ノイズは発生しないため、電源ライン45から直接的に(信号処理部10を介して)電源供給を受けている(図示せず)。
なお、理論上、第1インピーダンス移動回路30等は、例えば回路にコンデンサを直列接続しても(インピーダンスを整合させるという点において)成立し得る。しかし、第1実施形態では、PA26の最終段増幅器26aは送信回路37を経由してDC電源の供給を受けることから、送信回路37は原則的にローパス特性を備えるべきである。これに対してハイパス特性を備える構成(例えば、送信回路37においてコンデンサを直列接続する構成)を採用すると、別途電源回路が必要となり、また、インダクタを並列接続(他端は接地)すると別途DCカットフィルタ等が必要となって回路構成が複雑化する。
一方、受信回路38には、上述した制約はない。このため、例えば第2インピーダンス移動回路35を直列接続したコンデンサで構成し、第2インピーダンス整合回路34を並列接続したコイルやコンデンサで構成することができる。これによって、受信回路38としてハイパスフィルタ特性が得られ、静電気等の混入を防止することが可能となる。
さて、図5によれば、第1実施形態の構成は、送信回路37の出力と電源ライン45とを接続する第1接続点39aと、アンテナ13と受信回路38の入力とを接続する第2接続点39bを有し、第1接続点39aと第2接続点39bとをコンデンサ(DCカットコンデンサ46)を介して接続している。
より具体的には、電源ライン45と送信回路37の出力端の接続は第1基板59aの第1接続点39aで行われる。この第1接続点39aはviaホール43eを介して第4基板59dに導かれる。一方、受信回路38の入力端はviaホール43fを介して第1基板59aから第4基板59dに導かれ、第4基板59d上でアンテナ13と接続されて第2接続点39bを構成する。そして、第1接続点39aと第2接続点39bとは、第4基板59dに表面実装されたDCカットコンデンサ46を介して接続される。
このように、第1接続点39aと第2接続点39bとは直接接続されているわけではない。しかしながら、上述したように本発明の無線通信装置がとりあつかう、例えば1.9GHzといった高周波帯では、コンデンサは事実上の導通状態であるから、第1接続点39aと第2接続点39bとは電気的に接続された単一の接続点39を構成していると考えてよい。
以降、第1実施形態の無線通信装置のインピーダンスを調整する過程を詳細に説明するが、まず、以降の説明に使用するチャートについて概略を述べる。
図8(a)は、インピーダンスチャートの説明図、(b)は、アドミタンスチャートの説明図、(c)は、イミタンスチャートの説明図である。一般には、図8(a)に示すインピーダンスチャートをスミスチャートと呼称する。図8(b)に示すチャートは、インピーダンスチャートを鉛直軸方向に対して対称にしたものでアドミタンスチャートと呼ばれている。回路に直列にインダクタやコンデンサを接続するときにはインピーダンスチャートを、回路に並列にLやCを接続するときにはアドミタンスチャートを参照して、簡易に回路特性を把握することができる。
通常、高周波回路はLCを直並列に接続するので、インピーダンスチャートにアドミタンスチャートを重ね合わせたイミタンスチャートが使用される。以降の説明も、主にイミタンスチャートに基づいて行う。イミタンスチャートにおいても、チャートを構成する円を上下に半分に割った水平線上が純抵抗成分(実数部)になり、左端が0Ω(短絡)、右端が∞Ω(開放)で中心が50Ωとなり(R50点)、チャートの上下方向が虚数部に対応する。
ここで、「R50点を通過する等レジスタンス線(円)」とは、複素数で表現されるインピーダンスの実数部が50Ωで虚数部の絶対値を変化させた点の集合であり、「R50点を通過する等コンダクタンス線(円)」とは、上記等レジスタンス線の逆数を示す点の集合である。なお、以降の説明において、R50点およびインピーダンス=∞の点の両方を通過する円は、「R50点を通過する等レジスタンス線」に他ならず、R50点およびインピーダンス=0の点の両方を通過する円は、「R50点を通過する等コンダクタンス線」に他ならない。また、R50点では、後述する電圧反射係数Γ=0であるから、「R50点を通過する」は「Γ=0の点を通過する」と同じ意味である。
図9(a),(b)および図10(a)〜(c)は、高周波回路を構成する要素のパラメータを変化させた場合のイミタンスチャート上におけるインピーダンス(アドミタンス)の軌跡を示す説明図である。
図9(a)は、50Ωの負荷に直列にコンデンサを付加した場合のイミタンスチャート上におけるインピーダンスの軌跡を示している。このときインピーダンスは、イミタンスチャートの実軸においてR50点およびインピーダンス=∞の点(実軸∞Ω点、以降「R∞点」と呼称する)を通過する円上を反時計回りに遷移する。
図9(b)は、50Ωの負荷に直列にインダクタを付加した場合のイミタンスチャート上におけるインピーダンスの軌跡を示している。このときインピーダンスは、イミタンスチャートの実軸においてR50点およびR∞点を通過する円上を時計回りに遷移する。
図10(a)は、50Ωの負荷に並列(一端は接地)にコンデンサを付加した場合のイミタンスチャート上におけるインピーダンスの軌跡を示している。このときインピーダンスは、イミタンスチャートの実軸においてR50点およびインピーダンス=0の点(実軸0Ω点、以降「R0点」と呼称する)を通過する円上を時計回りに遷移する。
図10(b)は、50Ωの負荷に並列(一端は接地)にインダクタを付加した場合のイミタンスチャート上におけるインピーダンスの軌跡を示している。このときインピーダンスは、イミタンスチャートの実軸においてR50点およびR0点を通過する円上を反時計回りに遷移する。
図10(c)は、あるインピーダンス負荷に直列に伝送線路を接続した場合のイミタンスチャート上におけるインピーダンスの軌跡を示している。このときインピーダンスはR50点を中心とする円上を時計回りに遷移する。このイミタンスチャート上における軌跡の回転は、伝送線路中の信号位相の変化によって発生する。信号の波長をλとするとき、信号位相が1/4λシフトする毎にインピーダンスはイミタンスチャート上を半回転する。即ち、信号位相がλだけシフトする過程で、インピーダンスはイミタンスチャート上を2回転することになる。通常、高周波回路において信号位相をシフトしようとする場合、回路に直列に伝送線路を付加するが、ローパスフィルタを直列に挿入することで、信号位相をシフトさせ(遅らせる)、伝送線路の付加と同じ作用を得ることができる。
図11は、インピーダンスのマッチングおよび分離(ハイインピーダンス状態)の目標範囲を説明する説明図である。図11に示すように、第1実施形態においてはイミタンスチャートの実軸4Ω(ただし、図11の実軸数値は、正規化インピーダンスを示しており、一般的には50Ω×4倍=200Ωの点をいう)よりも外周、即ち実軸上で200Ω以上の高抵抗となる範囲をハイインピーダンス状態としている。一方、実軸0.5〜2Ωの範囲、即ち50×0.5倍〜50×2倍=25〜100Ωの範囲をマッチング状態としている。
なお、R50点を中心として実軸と交差する円を描くと、実軸と円との右交点が直接VSWR(Voltage Standing Wave Ratio:電圧定在波比)の値を示す。PA26あるいはLNA36をONとしたときのインピーダンスをZon、PA26あるいはLNA36をOFFとしたときのインピーダンスをZoffとするとき、このVSWRを用いると、
ZonのVSWR≦2.0
ZoffのVSWR≧4.0
と表すことができる。ZonにおいてVSWR≦2.0とすることで、回路全体の反射損を0.5dB以下とすることができ、ZoffにおいてVSWR≧4.0とすることで、結合時の損失を1dB以下に抑えることができる。
なお、以下の説明で用いる電圧反射係数Γの絶対値は、
abs(Γ)=(VSWR−1)/(VSWR+1)・・・・(式3)
と定義されている(avs()は絶対値を返す関数を意味する)。
また、これまでの説明および以降の説明において、「R50点の近傍」のごとき表現は、R50点を中心としてVSWR≦2.0であることを意味する。また、「R50点を通過する等コンダクタンス線」の近傍、「R50点を通過する等レジスタンス線」の近傍、のごとき表現は、最終的にZonをコンダクタンス線や等レジスタンス線に沿って回転させた結果、インピーダンスが「R50点の近傍」に遷移される状況にあることを意味する。
図12は、PA26が活性化(ON)及び不活性化(OFF)しているときの、PA26の出力(図5のTX1)における実測インピーダンスを示す説明図、図13は、PA26が活性化(ON)及び不活性化(OFF)しているときの、伝送線路LN1(図5のTX2)によるインピーダンス変化を説明する説明図、図14は、PA26が活性化(ON)及び不活性化(OFF)しているときの、第1インピーダンス整合回路31の出力(図5のTX3)のインピーダンス変化を示す説明図、図15は、PA26が活性化(ON)及び不活性化(OFF)しているときの、第1位相調整回路32の出力(図5のTX4)のインピーダンス変化を示す説明図である。
以降、図12〜図15を用いて、第1実施形態の送信回路37のTX1〜TX4(図
5参照)におけるインピーダンスの状態について詳細に説明する。
なお、以降の説明において、PA26が活性化(ON)しているときのアンテナ13から送信回路37を見たインピーダンスをZonT、PA26が非活性化(OFF)しているときのアンテナ13から送信回路37を見たインピーダンスをZoffTと呼称する(第2実施形態において同じ)。
図12は、PA26の出力(図5のTX1)においてPA26が活性化(ON)している場合のインピーダンスZonTと、PA26が不活性化(OFF)している場合のインピーダンスZoffTとを例示するものである。内部を点でハッチングした丸印はPA26が活性化している状況を、内部を斜線でハッチングした丸印はPA26が不活性化している状況を示している。
図12では、これらの2つの丸印は、いずれもR50点からの距離に大きな違いはなく、R50点(電圧反射係数Γ=0)からイミタンスチャートの外周に向かうほど大きくなる電圧反射係数Γに関しては大きな差異はみられない。以降説明するように、第1実施形態の無線通信装置は、初期的な電圧反射係数Γが活性化(ON)時と不活性化(OFF)時とで略同一な増幅器を用いても、活性化時のインピーダンスをマッチング状態に遷移させ、不活性化時のインピーダンスをハイインピーダンス状態にするという従来技術にはない特徴を備える。
図13は、第1インピーダンス移動回路30を構成する伝送線路LN1(図5のTX2)によるインピーダンス変化を示している。回路に直列に伝送線路LN1を付加することで線路内の信号位相がシフトし、図10(c)で説明したようにインピーダンスはR50点を中心とする円上を時計回りに回転する。伝送線路LN1によるインピーダンスの回転はR50点を中心とするものであるから、回転の前後でZonTおよびZoffTの電圧反射係数Γの値が変わることはない。
第1インピーダンス移動回路30において、伝送線路LN1の線路長については、ZonTが「R5を通過する等コンダクタンス線」上(あるいはその近傍位置)に遷移するように決定される。そして、なおかつ、第1インピーダンス移動回路30は、複素平面上を構成するイミタンスチャートにおいて、ZonTとZoffTとを虚数部の符号が互いに異なる複素平面座標に遷移させる。即ち、図13では、ZonTの虚数部の符号は正であり、ZoffTの虚数部の符号は負となっている。即ち、ZonTとZoffTとは実軸を挟んで対向する位置に遷移される。表現を変えると、上述の操作は、送信回路37のZonTとZoffTとを、イミタンスチャートの軸対称(即ち、L/C性)の関係となるように遷移している、ということができる。
なお、図13〜図15では、点でハッチングした実線丸印はPA26がONのときのインピーダンス(遷移後)を、点でハッチングした破線丸印はPA26がONのときのインピーダンス(遷移前)を、斜線でハッチングした実線丸印はPA26がOFFのときのインピーダンス(遷移後)を、斜線でハッチングした破線丸印はPA26がOFFのとのインピーダンス(遷移前)をそれぞれ表している(第2実施形態で説明する図25、図26、図27も同じ)。
図14は、第1インピーダンス整合回路31の出力(図5のTX3)におけるインピーダンスの変化を示している。即ち、図14は、回路に並列に接続されたコンデンサC1によるインピーダンス変化の前後を示すものである。図10(a)で説明したように、並列接続されたコンデンサによってインピーダンスはイミタンスチャート上のR0点に接する円上を時計回りに回転する。ここで、第1インピーダンス移動回路30によって、ZonTは「R50点を通過する等コンダクタンス線」上に遷移されているから、第1インピーダンス整合回路31のコンデンサC1の容量を適宜選定することで、ZonTを必ずR50点、即ちインピーダンスマッチング状態(電圧反射係数Γが小さくなるよう)に遷移させることができる。
一方、第1インピーダンス移動回路30によって、ZoffTはZonTと虚数部の符号が異なるように遷移されているから、等コンダクタンス線上(一般には、この等コンダクタンス線はR50点を通過しないが、通過しても構わない)を時計回りに回転することで、電圧反射係数Γが大きくなるように遷移する。
なお、この操作によって、虚数部が正の領域にあるZonTでは、虚数部が負(逆符号)の電気的要素(ここでは並列接続のコンデンサ)が付加され、正と負とを足すことでリアクタンスが最小化される。そしてこのとき、虚数部が負の領域にあるZoffTでは、負と負とが足されることでリアクタンスが大きくなる(電圧反射係数Γが大きくなる)。
また、第1実施形態では、第1インピーダンス整合回路31を、回路に並列に接続されたコンデンサで構成したが、これを回路に並列に接続されたインダクタで構成してもよい。コンデンサとインダクタとを取り換えたとしても、「R50点を通過する等コンダクタンス線」上をZonTが時計回りに回転するか、反時計回りに回転するかの違い(図10(a)と(b)とを参照)でしかないからである。ただし、第1実施形態では、PA26は送信回路37を経由してDC電源を供給されているから、第1インピーダンス整合回路31を回路に並列に接続されたインダクタで構成した場合は、電流が接地側に流出しないようにDCカットを行う必要がある。
図15は、第1位相調整回路32の出力(即ち、送信回路37の出力。図5のTX4)におけるインピーダンスの変化を示している。第1実施形態における第1位相調整回路32は、上述したように伝送線路LN2(または変形例で説明した2段のローパスフィルタ)を備え、これによって送信信号の信号位相をシフトし、R50点を中心とする円上を時計回りにインピーダンスが回転する。これらによるインピーダンスの回転量は、ZoffTをR∞点に近づけるように(即ち、ハイインピーダンス状態となるよう)設定される。即ち、伝送線路LN2の線路長、またはローパスフィルタのパラメータが決定される。
このように第1位相調整回路32は、ZoffTの電圧反射係数Γを維持したまま、インピーダンスを大きくする。一方、ZonTについては、もともと第1インピーダンス整合回路31によって回転中心であるR50点近傍に遷移されているため、第1位相調整回路32によって回転されても、インピーダンスマッチング状態から外れることはない。
なお、第1位相調整回路32としてローパスフィルタを用いる場合、イミタンスチャート上でインピーダンスが1周を超えて回転するように、信号位相のシフト量を決定するとよい。より具体的には、第1位相調整回路32は上述した第1基板59a内を伝搬する送信信号(基板内波長λg)に対して信号位相を3/4λg弱シフトし、その結果イミタンスチャート上でインピーダンスが約1.5周するようにしている。単に位相調整機能のみを持たせる場合、第1位相調整回路32において1/2λgを超える位相シフトは不要であるが、減衰特性を向上させて、第1位相調整回路32の持つローパスフィルタ機能(送信信号に対するノイズ除去及び電源ライン45からのノイズ混入防止)を強化するには、このように信号位相を大きくシフトすることが望ましい。一方で、位相調整の側面では、第1位相調整回路32は、信号位相を1/4λg弱シフトするのと等価であり、これによって、PA26を不活性化としたときの送信回路37のインピーダンスは、遷移前のR0点近傍から遷移後はR∞点近傍に移動し、ハイインピーダンス状態となる。
なお、上述した例では、初期的なPA26のインピーダンスの状態を図12として説明したが、第1インピーダンス移動回路30は、様々な状態にあるPA26のインピーダンスを、一旦図12の状態を経由して、図13の状態に遷移させる構成要素を含んでいてもよい。即ち、第1インピーダンス移動回路30を、複数の電気的要素で構成してもよい(具体的な構成は第2実施形態を参照)。そして、その電気的要素によってZonTを遷移した結果が、上述したように、「R50点を通過する等コンダクタンス線」の近傍となるように構成されていればよい。
なお、以上の説明では、第1インピーダンス移動回路30は、ZonTを「R50点を通過する等コンダクタンス線」上、あるいはその近傍に遷移させるものとして説明したが、第1インピーダンス移動回路30は、ZonTを「R50点を通過する等レジスタンス線」上、あるいはその近傍に遷移させるものであってもよい。この場合は、第1インピーダンス整合回路31は、ZonTを等レジスタンス軸に沿って(時計回り/反時計回りのいずれでもよい)回転させる操作を行う(図9(a),(b)を参照)。
図16は、LNA36が活性化(ON)及び不活性化(OFF)しているときの、LNA36の入力(図5のRX1)における実測インピーダンスを示す説明図、図17は、LNA36が活性化(ON)及び不活性化(OFF)しているときの、コンデンサC11(図5のRX2)によるインピーダンス変化を説明する説明図、図18は、LNA36が活性化(ON)及び不活性化(OFF)しているときの、第2インピーダンス整合回路34の入力(図5のRX3)のインピーダンス変化を示す説明図、図19は、LNA36が活性化(ON)及び不活性化(OFF)しているときの、第2位相調整回路33の入力(図5のRX4)のインピーダンス変化を示す説明図である。
以降、図16〜図19を用いて、第1実施形態の受信回路38のRX1〜RX4(図5参照)におけるインピーダンスの状態について詳細に説明する。
なお、以降の説明において、LNA36が活性化(ON)しているときのアンテナ13から受信回路38を見たインピーダンスをZonR、LNA36が非活性化(OFF)しているときのアンテナ13から受信回路38を見たインピーダンスをZoffRと呼称する。
図16は、LNA36の入力(図5のRX1)においてLNA36が活性化している場合およびLNA36が不活性化している場合のインピーダンスを例示するものである。内部を点でハッチングした丸印はLNA36が活性化している状況を、内部を斜線でハッチングした丸印はLNA36が不活性化している状況を示している。
図16では、これらの二つの丸印は、いずれもR50点から殆ど等距離にあって、電圧反射係数Γに関しては殆ど同じである。
図17は、第2インピーダンス移動回路35を構成するコンデンサC11(図5のRX2)によるインピーダンス変化を示している。回路に直列にコンデンサC11を付加することで、図9(a)で説明したように、インピーダンスはR∞点に接する円上(等レジスタンス円)を反時計回りに回転する。
第2インピーダンス移動回路35において、コンデンサC11の容量については、ZonRが「R5を通過する等コンダクタンス線」上(あるいはその近傍位置)に遷移するように決定される。図17に示す例では、ZonRとZoffRとは当初から虚数部の符号が互いに異なっているが、これが同じ符号であれば、第2インピーダンス移動回路35は、(上述した、第1インピーダンス移動回路30による操作と同様に)これらの符号を異ならせるように、ZonRとZoffRとを遷移させる。
なお、図17〜図19では、点でハッチングした実線丸印はLNA36がONのときのインピーダンス(遷移後)を、点でハッチングした破線丸印はLNA36がONのときのインピーダンス(遷移前)を、斜線でハッチングした実線丸印はLNA36がOFFのときのインピーダンス(遷移後)を、斜線でハッチングした破線丸印はLNA36がOFFのとのインピーダンス(遷移前)をそれぞれ表している。
図18は、第2インピーダンス整合回路34の入力(図5のRX3)におけるインピーダンスの変化を示している。即ち、図18は、回路に並列に配置されたコンデンサC10によるインピーダンス変化の前後を示すものである。図10(a)で説明したように、並列接続されたコンデンサによってインピーダンスはイミタンスチャート上のR0点に接する円上を時計回りに回転する。ここで、第2インピーダンス移動回路35によって、ZonRは「R50点を通過する等コンダクタンス線」上に遷移しているから、第2インピーダンス整合回路34のコンデンサC10の容量を適宜選定することで、ZonRを必ずR50点、即ちインピーダンスマッチング状態(電圧反射係数Γが小さくなるよう)に遷移させることができる。
一方、ZoffRとZonRとでは虚数部の符号が異なっているから、ZoffRは等コンダクタンス線上(図18に示すように、この等コンダクタンス線はR50点を通過しない)を時計回りに回転することで、電圧反射係数Γが大きくなるように遷移する(R0点に近づくほど、電圧反射係数Γは大きくなる)。
図19は、第2位相調整回路33の出力(即ち、受信回路38の入力。図5のRX4)におけるインピーダンスの変化を示している。第2位相調整回路33は伝送線路LN3を備え、これによって受信信号の信号位相をシフトし、ZoffRはR50点を中心とする円上を時計回りに回転する。これらによるインピーダンスの回転量は、ZoffRをR∞点に近づけるように(即ち、ハイインピーダンス状態となるよう)設定される。即ち、伝送線路LN2の線路長が決定される。このとき、ZonRは、既にR50点の近傍に遷移されているので、第2位相調整回路33では、実質的にZoffRのみが遷移することになる。
図20(a)は、PA26が活性化しているときのアンテナ13からみたインピーダンスの状態を示す説明図、(b)は、LNA36が活性化しているときのアンテナ13からみたインピーダンスの状態を示す説明図である。
図20(a)に示すように、PA26がON(かつLNA36がOFF)のとき、送信回路37の出力インピーダンスはアンテナ13とマッチングしており、アンテナ13から電波が放出される。一方、受信回路38の入力インピーダンスはハイインピーダンス状態となっており、送信回路37の出力信号が受信回路38に流入することが防止される。
他方、図20(b)に示すように、PA26がOFF(かつLNA36がON)のとき、送信回路37の出力インピーダンスはハイインピーダンス状態となり、受信回路38の入力インピーダンスはアンテナ13とマッチングしており、アンテナ13で受信された電波は受信回路38にのみ送られ、送信回路37は何ら影響を受けない。
図21(a)は、ハイインピーダンス状態における電流フローを示す説明図、(b)は、図21(a)の等価回路である。
以降、図21(a),(b)に、図11を併用して、送信回路37および受信回路38のハイインピーダンス状態について具体的に説明する。
第1実施形態では、既に説明したように、イミタンスチャートの実軸上で200Ω以上の高抵抗となる範囲をハイインピーダンス状態としている(図11参照)。図21(a)は、送信回路37の出力とアンテナ13とのインピーダンスマッチングが図られ、受信回路38の入力はハイインピーダンス状態となっている状態を示している。このとき送信回路37の出力インピーダンスZsおよびアンテナ13のインピーダンスZL1はいずれも50Ωである。一方、受信回路38の入力はハイインピーダンス状態であり、その入力インピーダンスZL2=200Ωである。このとき、図21(a)に示すように送信回路37から電流iが流出し、これがアンテナ13に電流i1、受信回路38に電流i2として分流する。この等価回路を描くと図21(b)のようになる。
この等価回路について、まず反射損を評価する。ZL1とZL2とから構成される並列回路の全抵抗をZLと表すと、電圧反射係数Γは
Γ=(ZL−Zs)/(ZL+Zs)・・・・(式4)
と表される。ここで全抵抗ZL=1/(1/200+1/50)=40Ωだから、ハイインピーダンス状態を200Ωとしたときの電圧反射係数Γは、
Γ=(40−50)/(40+50)=−0.11となる。
反射損失RLは、
RL=1−Γ2・・・・(式4)
と定義されるから、
RL=1−0.112=0.987となり、これは−0.05dBに相当する。
次に分流に伴う損失を計算する。
アンテナ13のインピーダンスZL1、受信回路38のインピーダンスZL2とすると、アンテナ13側に流入する電流i1は、{200/(200+50)}iとなる。ここで、
P=v×i1・・・・(式5)より
P={200/(200+50)}v×i1=0.8v×i1
これは−0.97dBに相当する。
即ち、全体損失=反射損失+分流損失=−0.05−0.97=−1.02dBとなることがわかる。
図22は、PA26を活性化、LNA36を不活性化したときの受信回路38の入力インピーダンスと全損失との関係を示すグラフである。
図22は、図21(b)においてZs=ZL1=50Ωに固定して、受信回路38の入力インピーダンスを変化させたときの損失(上述の反射損失および分流に伴う損失の合計)をグラフにしたものである。従来、アンテナスイッチモジュールとディスクリート部品とを用いてRF回路を構成した場合、経験上、約−1.0dBの損失であれば、同時送受信における音質には問題がないとされている。従って、−1.0dBの損失は、一般的に回路設計の際の設計目標とされる。このように、第1実施形態の構成によっても設計目標は達成されることが分かった。
また、発明者等が行った評価によれば、損失が約−1.5dBより大きくなると無線の飛距離等について劣化が認められることから、この−1.5dBの損失は許容損失と考えられている。図22によれば、このときの受信回路38の入力インピーダンスは約112Ωである。
即ち、送信回路37のPA26または受信回路38のLNA36が不活性化されると、アンテナ13からみたとき送信回路37の出力インピーダンスまたは受信回路38の入力インピーダンスはハイインピーダンス化されるが、ハイインピーダンス化された際の具体的なインピーダンス値Zとしては、最低限の値としてZ≧112Ω(50Ωとの対比ではr=2.24倍)、望ましくはZ≧200Ω(同r=4倍)とするのが望ましい。
このように、ZonTは50Ωであるから、第1位相調整回路32はZoffT>2×ZonTとなるように、送信信号の位相を変化させている。なお、図22では具体的数値として112Ωを挙げているが、ここで重要なのは当該数値そのものではなくZoffT/ZonTの比である。即ち、図22ではZonT=50Ωに調整された例を説明しており、仮にZonT=100Ωであれば、ZoffT>2×ZonTより、ZoffT>200Ωとなるように遷移させるべきである。なお、上述したように、第1実施形態ではインピーダンス遷移のゴールとして、ZonはVSWR≦2.0、ZoffはVSWR≧4.0に遷移させており、結果的にZoffT/ZonT>2となるが、電波の飛距離等の総合性能を考慮するとZoffT/ZonT>3とするのが望ましい。
(第2実施形態)
以下、本発明の第2実施形態について図面を参照しながら説明する。
なお、無線通信装置の親機100および子機200の構成、動作、機能等、送信回路37等を構成する電気的要素が形成される多層基板の構造や、電気的要素が配線パターンを引き回して形成される点等は第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
図23は、第2実施形態に係る送信回路37の構成を示すブロック構成図である。図23に示すように、第2実施形態における送信回路37は、第1インピーダンス移動回路30と第1インピーダンス整合回路31とで構成されており、第1実施形態と比較して、第1位相調整回路32(図5参照)が省略された構成となっている。
その一方で、第2実施形態における第1インピーダンス移動回路30は、PA26の出力端に直列に接続された伝送線路LN10と、伝送線路LN10の他端に一端を接続されて他端が接地されたコンデンサC10とで構成される。即ち、第2実施形態の構成では、イミタンスチャート上において2回の遷移を経て、ZonTを「R50点を通過する等レジスタンス線」あるいは「R50点を通過する等コンダクタンス線」の近傍に遷移させる。
なお、第2実施形態では、伝送線路LN10は幅0.4mm、線路長4.3mm、コンデンサC10の容量は1.9pF、インダクタL10のインダクタンスは4nHとしている。
第1インピーダンス移動回路30の出力は、第1インピーダンス整合回路31に入力される。第2実施形態において、第1インピーダンス整合回路31は回路に直列に挿入されたインダクタL10から構成されている。インダクタL10は、ZonTをR50点近傍に遷移させ、インピーダンスマッチング状態とする一方で、ZoffTをハイインピーダンス状態に遷移させる。第2実施形態では、第1インピーダンス整合回路31が第1実施形態で説明した第1位相調整回路32の機能を併せ持つ。
図24は、PA26が活性化(ON)及び不活性化(OFF)しているときの、PA26の出力(CX1)における実測インピーダンスを示す説明図、図25は、PA26が活性化(ON)及び不活性化(OFF)しているときの、伝送線路LN10(CX2)によるインピーダンス変化を説明する説明図、図26は、PA26が活性化(ON)及び不活性化(OFF)しているときの、第1インピーダンス移動回路30の出力(CX3)のインピーダンス変化を示す説明図、図27は、PA26が活性化(ON)及び不活性化(OFF)しているときの、第1インピーダンス整合回路31の出力(CX4)のインピーダンス変化を示す説明図である。
以降、図24〜図27を用いて、第2実施形態の送信回路37のCX1〜CX4(図
23参照)におけるZonTおよびZoffTの変化について詳細に説明する。
図24は、PA26の出力(CX1)においてPA26が活性化(ON)している場合のインピーダンスZonTと、PA26が不活性化(OFF)している場合のインピーダンスZoffTとを例示するものである。内部を点でハッチングした丸印はPA26が活性化している状況を、内部を斜線でハッチングした丸印はPA26が不活性化している状況を示している。
図25は、第1インピーダンス移動回路30を構成する伝送線路LN10(CX2)によるインピーダンス変化を示している。回路に直列に伝送線路LN10を付加することで線路内の信号位相がシフトし、図10(c)で説明したようにインピーダンスはR50点を中心とする円上を時計回りに回転する。伝送線路LN10によるインピーダンスの回転はR50点を中心とするものであるから、回転の前後でZonTおよびZoffTの電圧反射係数Γの値が変わることはない。
さて、ここで、ZonTに着目する。伝送線路LN10の線路長を調整することで、1つの電気的要素によってZonTを「R50点を通過する等レジスタンス線」上(例えば、△Px1や△Px2として示す点)に遷移させることが可能であるが、第2実施形態ではそのようにしていない。以下、その理由を説明する。
仮に、ZonTを△Px1まで遷移させた場合、「R50点を通過する等レジスタンス線」上を経由して、ZonTをPx1からR50点に遷移させるには、図9(a)に示すように、回路にコンデンサを直列に接続する必要がある。しかしながら、第1実施形態で説明したようにPA26は送信回路37を経由して外部からDC電源を供給されているから、回路にコンデンサを直列接続すると、電源供給ができなくなって、DCバイパス回路の付与が必要となるのである。
また仮に、ZonTを△Px2まで一気に遷移させようとすると、伝送線路LN10の線路長が長くなってしまい、これを第4基板59d(図6参照)上に形成することが実質的に困難となる。
そこで、第2実施形態では、第1インピーダンス移動回路30を2つの電気的要素で構成して、この課題を解決している。
図26は、第1インピーダンス移動回路30の出力(CX3)におけるインピーダンスの変化を示している。即ち、図26は、回路に並列接続されたコンデンサC10によるインピーダンス変化の前後を示すものである。図10(a)で説明したように、回路に並列接続されたコンデンサによってインピーダンスはイミタンスチャート上のR0点に接する円上を時計回りに回転する。このようにすることで、ZonTは「R50点を通過する等レジスタンス線」上の点Px3に遷移する。
そして、ここで注意すべきは、遷移後のZonTとZoffTとで虚数部の符号が異なる位置関係となるように、コンデンサC10の容量を選定すべき点である。具体的には、図26において、ZonTの虚数部は負の値、ZoffTの虚数部は正の値となるように遷移される。このようにすることで、図27を用いて説明する調整過程において、「R50点を通過する等レジスタンス線」上において、ZonTをR50点に近づくように回転させると、ZoffTは必ず電圧反射係数Γが大きい状態に遷移する。
図27は、第1インピーダンス整合回路31の出力(CX4)におけるインピーダンスの変化を示している。即ち、図27は、回路に直列接続されたインダクタL10によるインピーダンス変化の前後を示すものである。図9(b)で説明したように、直列接続されたインダクタによってインピーダンスはイミタンスチャート上のR∞点に接する円上を時計回りに回転する。ここで、第1インピーダンス移動回路30によって、ZonTは「R50点を通過する等レジスタンス線」上に遷移されているから、第1インピーダンス整合回路31のインダクタL10のインダクタクスを適宜選定することで、ZonTを必ずR50点、即ちインピーダンスマッチング状態(電圧反射係数Γが小さくなるよう)に遷移させることができる。
一方、第1インピーダンス移動回路30によって、ZoffTはZonTと虚数部の符号が異なるように遷移されているから、等インダクタンス線上(一般には、この等インダクタンス線はR50点を通過しない)を時計回りに回転することで、ZoffTは電圧反射係数Γが大きくなるように遷移する。そして、第2実施形態では、第1インピーダンス整合回路31によってZonTとZoffTとが等レジスタンス線上を回転するため、ZonTがR50点に近づく場合、ZoffTはR∞点近傍(即ちハイインピーダンス状態)に遷移することになる。
即ち、第2実施形態で示す構成のように、等レジスタンス線上を回転させてZonTのインピーダンスを整合させる構成では、第1位相調整回路32(図5参照)を省略できる場合がある。もちろん、第1位相調整回路32を用いてZoffTをハイインピーダンス状態に遷移させても構わない。例えば、図27の状態において、第1インピーダンス整合回路31の出力端に直列に伝送線路を付加することで、ZoffTを更にR∞点(ハイインピーダンス状態)に近づけることが可能となる。
なお、第2実施形態においても、送信回路37は全体としていわゆるT型のローパスフィルタを構成している。
また、第2実施形態では、第1インピーダンス整合回路31を、回路に直列に接続されたインダクタで構成したが、これを回路に並列に接続されたコンデンサで構成してもよい。インダクタとコンデンサとを取り換えても、「R50点を通過する等レジスタンス線」上をZonTが時計回りに回転するか、反時計回りに回転するかの違い(図9(b)と(a)とを参照)でしかないからである。ただし、PA26が送信回路37を経由してDC電源を供給される場合、第1インピーダンス整合回路31を回路に直列に接続されたコンデンサで構成した場合は、電流をPA26に供給するためのDCパス回路が別途必要となる。
なお、第1実施形態、第2実施形態ともに、PA26、LNA36をシングルエンド型として説明したが、本発明は差動入出力端子を備えるアンプについても応用することができる。差動入出力型のアンプの場合、例えば第1インピーダンス整合回路31と第1位相調整回路32との間で差動信号をシングルエンド信号に変換する。この変換には例えばバランが用いられるが、このバランによって、アンテナ13からみた送信回路(受信回路)のインピーダンスは1/2となる。
ここで、既に説明した第1インピーダンス移動回路30によって、「実軸100Ω点を通過する等コンダクタンス線」あるいは「実軸100Ω点を通過する等レジスタンス線」上にZonTを遷移し、第1インピーダンス整合回路31によって、ZonTを「実軸100Ω点」に遷移すれば、その後段に設けられたバランによって、ZonTについては実軸上のインピーダンスが半減され、最終的にZonTはR50点に遷移して、インピーダンスマッチングが図られる。そして、バランの後段に第1位相調整回路32を配置すれば、ZoffTをハイインピーダンス状態に遷移させることができる。
以上、本発明に係る無線通信装置について特定の実施形態に基づいて詳細に説明したが、これらの実施形態はあくまでも例示であって、本発明はこれらの実施形態によって限定されるものではない。
例えば、各実施形態においては、電気的要素として一端を回路に接続され、他端が接地されたコンデンサ(即ち、回路に並列に接続されたコンデンサ)を利用しているが、これに替えて、例えば並列接続されたスタブ、インダクタを用いてもよい。また、インダクタやコンデンサを回路に直列接続しても、本発明の効果を奏する場合が理論的にあり得る。なお、上記実施形態に示した各構成要素は必ずしも全てが必須ではなく、少なくとも本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜取捨選択することが可能である。