ところで、断面修復を実施した部分(断面修復済み部分)にひび割れ(クラック)が発生することがある。
クラックが発生する要因としては、例えば、断面修復材を充填した後の硬化時に、断面修復材自体の凝集力によって、断面修復済み部分のコーナー部分に応力が集中することが挙げられる。
従来の断面修復工法は、図17(同図は、施工現場であるコンクリート橋梁C1を模式的に示す図15のa方向から見た模式図である)に示すように、角(コーナー)U32が略直角となる空間(断面修復対象部分を除去した空間)に断面修復材を充填して形成した断面修復済み部分U2Xのコーナー付近に応力が集中する。特に、断面修復材としてモルタルを用いた場合、モルタルの高い接着力によって周囲コンクリート(コンクリート躯体CF)との一体性を実現しているが、一方で、硬化に伴う凝集力とコンクリート躯体CFの拘束力によってモルタル自体に内部引張力が発生し、これが要因となってクラックが発生することも考えられる。
また、断面修復工事を実施している場合にも、コンクリート構造物には外力や構造物自体の重力が作用して、コンクリート躯体CFに撓み変形や振動などの動きが発生し、特に、図15に示すようなコンクリート橋梁C1や橋桁等の断面修復工事は、車両通行中にも施工されるため、図16に示すように、コンクリート躯体CFには車両の通行に伴う撓み変形や振動などの動きが頻繁に連続して発生している。なお、図16では、コンクリート躯体CFであるコンクリート橋桁が車両の通行によって撓み変形している状態を誇張して示している。
このような条件下で施工される断面修復工事では、施工位置によってはかなり大きな変形や振動を伴いながら施工が行われることになり、硬化初期では断面修復材の材料強度が低いことも相俟って、コンクリート躯体CFの撓み変形や振動によって断面修復済み部分U2Xにクラックが発生し易い。特に、図17に示すように、断面修復済み部分U2Xのコーナー部分U32にクラックが生じ易い。図17には、断面修復済み部分U2Xのコーナー部分U32からクラックが発生する方向を模式的に示している。
また、これらのクラックから断面修復材U2(モルタル)の水分蒸発が発生し易くなるので乾燥収縮が進み、断面修復済み部分U2Xに新たなクラックが発生したり、図15の要部拡大模式図である図18に示すように、周辺のコンクリート(コンクリート躯体CF)と断面修復材U2の付着力が低下して、断面修復材U2とコンクリート躯体CFが剥離し易くなり、撓み変形や振動などのコンクリート躯体CFの動きにより断面修復材U2がコンクリート躯体CFから剥離したり、剥落する懸念がある。図18では、コンクリート躯体CFから剥離した状態にある断面修復材U2を破線で模式的に示している。
また、特に車両通行量の多い橋梁や橋桁に対して断面修復工事を行った場合には、断面修復工事完了後においても、車の移動などによる外力によってコンクリート躯体CFに撓み変形や振動が生じ、例えば施工後数日で断面修復済み部分U2Xのうちコーナー部分U32にひび割れが発生することもある。これは、橋桁に作用する剪断力(図17で矢印に示す方向の剪断力)によって、断面修復済み部分U2Xの角を起点として引張応力が発生し、この引張応力度が断面修復材U2の引張強度を超えることに起因してクラックが発生するものと考えられる。
さらに、断面修復工事完了後において断面修復済み部分U2Xにクラックが発生すると、この部分からモルタルの水分が蒸発し、モルタルの水分蒸発が進むと断面収縮が起きて、長期的にはコンクリート躯体CFと断面修復材U2の付着力が低下する。その結果、断面修復工事完了後においても、断面修復材U2とコンクリート躯体CFが剥離し易くなり、撓み変形や振動などのコンクリート躯体CFの動きにより断面修復材U2がコンクリート躯体CFから剥離する事態も生じ得る(図18参照)。
断面修復工事に伴って生じるひび割れは、自己収縮、乾燥収縮、線膨張係数、静弾性係数、下地との付着性等の断面修復材の特性値や、その他に加重作用や施工の良否等が相互に関連して発生すると考えられ、断面修復工事のひび割れ抵抗性については、それらの要因を考慮して総合的に判断する必要がある。しかし、現状ではひび割れ発生のメカニズムについては十分に解明されていない。
このような様々な要因に基づくクラックの発生を防止・抑制可能な断面修復方法を見出すべく、本発明者は鋭意研究を行い、従来の断面修復工法における以下の点に着目した。
先ず、1点目は、断面修復対象部分の四方を周むようにコンクリートカッタなどでコンクリート表面CSに直線部分U31と角(コーナー)U32との組み合わせからなる切り込みU3を入れて、コンクリートの劣化部を除去した状態で形成される除去部分の開口形状がコンクリート表面CS側から見て略矩形状であり、このような除去部分に断面修復材U2を充填して形成した断面修復済み部分U2XのコーナーU32を起点にクラックが生じている点である(図17参照)。特に、コンクリートカッタで直線状にコンクリート表面CSに切り込みU3を入れると、はつり除去した後の除去空間におけるコーナーの外側には、図17に模式的に示すように、交差するL字形のカッタの切り込み跡U33が残存し、新たなクラックが発生する原因となり易い。
そして、2点目は、通常コンクリートカッタでコンクリート表面CSに切り込みU3を入れる際、コンクリート表面CSに対して略直角となる角度で切り込みU3を入れ、その切り込み角度θに沿ってコンクリートの劣化部を除去するため、除去した空間を規定する切り込み面(コンクリート表面CSから奥方へ向かう方向の面)が、コンクリート表面CSに対して略直角な面になり、そのような切り込み面に囲まれる空間(除去空間)に断面修復材U2を充填している点である(図18参照)。つまり、このような除去部分に断面修復材U2を充填すれば、コンクリート躯体CFと断面修復材U2の付着面(接触面)は、コンクリート表面CSに対して略直角な面になり、例えば断面修復材U2を充填して形成した断面修復済み部分U2Xにクラックが発生すると、この部分から断面修復材U2の水分が蒸発して、この水分の蒸発量に応じて断面収縮量も大きくなり、コンクリート躯体CFに対する断面修復材U2の付着力が低下し、コンクリート躯体CFから剥離し易くなる。そのような状態下においてコンクリート躯体CFに撓み変形や振動が生じれば、断面修復材U2が、コンクリート躯体CFとの接着面から剥がれる界面剥離現象が生じ、剥落する事態にも陥るおそれがある。
以上の点に着目し、本願発明者は、クラックの発生を防止・抑制できるとともに、断面修復材がコンクリート躯体から剥落する事態を防止・抑制可能なコンクリート構造物の断面修復方法を着想するに至った。
すなわち、本発明は、コンクリート構造物における断面修復対象部分を囲むようにコンクリート表面を切断手段によって略四角形状を基本形状として単一の略四角形状又は複数の略四角形を相互に連結させた形状に切り込み、この切り込みによって囲まれた部分を除去し、その除去した部分に断面修復材を充填することによって新たな断面を形成するコンクリート構造物の断面修復方法において、切り込みのうち辺に相当する直線部分を前記切断手段で切り込む際に、切り込み深さ方向に沿ったコンクリート表面に対する切り込み角度を、切り込み深さ方向における先端が切り込み深さ方向における基端よりも断面修復対象部分から離間するように、コンクリート表面に対して所定角度傾斜させるテーパ形状切り込み工程と、切り込みのうち角を切断手段で切り込む際に、角が部分円弧形状となるように切り込むアール形状切り込み工程とを含むことを特徴としている。
ここで、本発明における「略四角形」とは、「略矩形」は勿論のこと、矩形以外の四角形(例えば平行四辺形や台形)も含む概念である。また、このような略四角形を基本形状とする本発明における「切り込み」には、単一の略四角形状のものと、複数の略四角形を相互に連結させた形状のもの、これら両方が包含される。切り込みが前者の形状(単一の略四角形状)である場合、この切り込み3は、例えば図1に示すように、4つの辺(直線部分)31と、4つの角(より具体的には辺同士が180度未満の角度で交差し得る4つの入隅)32とからなる。一方、切り込みが後者の形状(複数の略四角形を相互に連結させた形状)である場合、この切り込み3は、例えば図2の(a)(b)(c)に代表例を示すように、少なくとも6つ以上の辺31と、少なくとも6つ以上の角32とからなり、角31は、辺31同士が180度未満の角度で交差し得る入隅32(I)と、辺31同士が180度を超えた角度で交差し得る出隅32(O)との両方が存在する。なお、図2では基本形状とする略四角形によって仕切られる部分を相互に異なるパターンを付して示している)また、切り込みのうち、断面修復対象部分を挟んで対向する辺(対辺)同士の線分の長さは同一であってもよいし、異なってもよい。また、「断面修復対象部分」とは、新たな断面に修復すべき部分であり、基本的には、コンクリート構造物における劣化や損傷した部分(劣化部分)とその周辺部分とを合わせた部分を意味するが、劣化部分そのものを断面修復対象部分として捉えることも可能である。さらに、本発明における「切断手段」はコンクリートカッタやドリルなど、コンクリート表面に対する切断処理が可能なものであれば特に限定されず、異なる複数種の切断手段を用いてテーパ形状切り込み工程やアール形状切り込み工程を行うことも可能である。
本発明に係るコンクリート構造物の断面修復方法であれば、アール形状切り込み工程を経ることによって、断面修復部分を除去した空間(除去空間)の角(入隅であるか出隅であるかを問わず全てのコーナー)は略4分の1円の部分円弧形状(以下、アール形状と称す)となり、このような除去空間に充填した断面修復材の硬化時に、修復した断面部分(以下、「断面修復済み部分」と称す)のコーナー部分に断面修復材自体の凝集力が集中することを有効に回避することができる。したがって、例えば断面修復材として高い接着力を発揮するモルタルを用いて、断面修復済み部分とその周囲のコンクリート(健全なコンクリート躯体)との一体性を実現した場合において、モルタルの硬化に伴う凝集力と周囲コンクリートの拘束力によってモルタル自体に内部引張力が発生しても、除去空間の角(コーナー)が直角である場合と比較して、断面修復済み部分のコーナー部分に作用する内部引張力を低減することができ、クラックの発生を防止・抑制することができる。また、アール形状切り込み工程を経る本発明の断面修復工程であれば、切り込みによって規定される除去空間の角(コーナー)の外側に、交差するL字形の切り込み跡が出現することもなく、切り込み跡に起因する新たなクラックの発生を防止することができる。
そして、断面修復済み部分の角(コーナー)で発生し易いクラックの発生を防止・抑制することが可能な本発明に係る断面修復方法であれば、クラックを通じた断面修復材の水分蒸発を防止・抑制することができ、その結果、水分蒸発に伴う乾燥収縮が原因となる断面修復済み部分における新たなクラックの発生や、クラックに起因する断面修復材とコンクリート躯体との長期的な付着力低下に伴う断面修復材の剥離や剥落の発生を防止・抑制することが可能である。しがたって、本発明の断面修復方法であれば、断面修復工事完了後においても、断面修復材とコンクリート躯体が剥離したり、撓み変形や振動などのコンクリート躯体の動きにより断面修復材がコンクリート躯体から剥離する事態を防止・抑制することが期待できる。
また、本発明の断面修復方法を、特に車両通行量の多い橋梁や橋桁等のコンクリート構造物に対して断面修復工事を行う際に適用すれば、断面修復工事完了後において車両の通過などによる外力によってコンクリート躯体に撓み変形や振動が生じ、コンクリート躯体に作用する剪断力によって、断面修復済み部分のコーナー部分を起点として引張応力が発生したとしても、断面修復済み部分のコーナー部分がアール形状であるため、この引張応力を効果的に低減することができ、引張応力度が断面修復材の引張強度を超えることに起因するクラックの発生を効果的に防止・抑制することができる。
特に、本願発明では、断面修復部分を除去した空間(除去空間)のコーナー部分をアール形状にすることにより、除去空間のコーナー部分が直角である場合として、コーナー部分に断面修復材を充填する際に、コーナー部分の空気が除去空間外へ抜け易くなり、いわゆるエア溜まりが生じ難く、コーナー部分におけるコンクリート躯体に対する断面修復材の密着度が向上し、充填処理後のエア溜まりの存在によって発生し得る断面修復済み部分の剥落や劣化を防止・抑制することができる。
さらに、本発明に係るコンクリート構造物の断面修復方法は、切断手段による切り込み深さ方向に沿ったコンクリート表面に対する切り込み角度を、切り込み深さ方向における先端が切り込み深さ方向における基端よりも断面修復対象部分から離間するように、コンクリート表面に対して所定角度傾斜させるテーパ形状切り込み工程を経るため、このような直線部分によって略矩形状に仕切られる切り込みに沿って除去した部分に断面修復材を充填することで、硬化した断面修復材とコンクリート躯体との付着面(接触面)は、コンクリート表面に対して直角な面ではなく、切り込み深さ方向における先端が切り込み深さ方向における基端よりも断面修復対象部分から離間する方向に所定角度傾斜したテーパ面になる。その結果、例えばコンクリート躯体に対する断面修復材の乾燥収縮や、コンクリート躯体の撓み変形や振動に起因する断面修復材の付着力低下に伴って、断面修復材がコンクリート躯体との接触面から剥がれる界面剥離現象が生じた場合であっても、テーパ面の剪断抵抗によって断面修復材がコンクリート躯体から剥落する事態を防止することができる。
なお、本発明における断面修復方法は、テーパ形状切り込み工程と、アール形状切り込み工程とを同時に行ってよいし、時間差で行ってもよい。
また、本発明のコンクリート構造物の断面修復方法では、テーパ形状切り込み工程において、切断手段による切り込み深さ方向に沿ったコンクリート表面に対する切り込み角度を適宜の値に設定することが可能であるが、発明者らは試験を通じて、特に、切り込み角度が15度以上45度以下である場合に、上述の作用効果を効果的に得ることができることを見出した。とりわけ、テーパ形状切り込み工程における切り込み角度が、25度以上35度以下である場合に、より一層高い効果を得ることが分かった。
また、本発明に係るコンクリート構造物の断面修復方法において、除去した部分に充填した断面修復材のうちコンクリート表面側に露出している面と、この面の周囲にあるコンクリート表面とに亘って、可撓性及び靱性を有する補強材を塗布する補強材塗布工程を経るようにすれば、クラックの発生をさらに効果的に防止・抑制することができるとともに、コンクリート躯体に対する断面修復材の付着力が低下して界面剥離が生じた場合であっても、補強材の可撓性及び靱性によって断面修復材の剥落を防止することが可能である。
さらに、本発明の断面修復方向において、テーパ形状切り込み工程が、切り込みのうち角を切断手段で切り込む際に、切り込み深さ方向における先端が前記切り込み深さ方向における基端よりも前記断面修復対象部分から離間するように、前記コンクリート表面に対して所定角度傾斜させる工程を含むようにすれば、切り込みの直線部分のみならず角も切り込み深さ方向に沿って所定角度傾斜したテーパ状となり、このような切り込みに囲まれた部分を除去し、除去した部分に断面修復材を充填することで、硬化した断面修復材とコンクリート躯体との付着面(接触面)の全領域が、コンクリート表面に対して直角な面ではなく、切り込み深さ方向における先端が切り込み深さ方向における基端よりも断面修復対象部分から離間する角度に傾斜したテーパ面になり、たとえ断面修復材がコンクリート躯体との接触面から剥がれる界面剥離現象が生じたとしても、テーパ面の領域増大に伴って、テーパ面の剪断抵抗も大きくなり、断面修復材がコンクリート躯体から剥落する事態をより一層高い確率で防止することができる。
本発明によれば、アール形状切り込み工程を経ることによって、断面修復済み部分のコーナーの丸くすることで、コーナーに集まる力を分散(応力分散)してクラックの発生を防止・抑制することができるとともに、テーパ形状切り込み工程を経ることによって、躯体コンクリートと断面修復材との接着面をコンクリート表面側から切り込み深さ方向の奥方に向かって逆テーパ状にすることで、断面修復材が、コンクリート躯体に保持されてコンクリート躯体から剥落しない構造を実現することができる。
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
本実施形態に係るコンクリート構造物の断面修復方法は、コンクリート構造物においてコンクリート躯体のうち、劣化や損傷している部分(以下、総称して「劣化部分」と称す)とその周囲にある健全な部分を断面修復対象部分として除去し、除去した空間(除去空間)に断面修復材を充填することでコンクリート構造物を元の断面形状に復旧させる場合に適用可能な方法である。
以下では、例えば、図3に示すような複数の橋脚C2を跨ぐ位置に配置され、これら橋脚C2によって支持される橋梁C1(コンクリート構造物)の下向き面CSに出現している劣化部分とその周囲にある健全なコンクリート部分を断面修復対象部分として除去し、この除去した空間に新たな断面(断面修復済み部分1)を形成する際に適用する断面修復方法について説明する。
本実施形態に係るコンクリート構造物の断面修復方法は、コンクリート構造物C1における断面修復対象部分1の四方を囲むようにコンクリート表面CSを切断手段で略四角形状に切り込む切り込み工程と、切り込み工程によって略四角形状に切り込まれた部分を除去する除去工程と、その除去した部分(除去空間S)に断面修復材2を充填する断面修復材充填工程とを経る工法である。そして、本発明の断面修復方法は、切り込み工程において、テーパ形状切り込み工程と、アール形状切り込み工程とを経る点に特徴を有する。
テーパ形状切り込み工程は、図4及び図5(図4は図3のa方向から見た状態を模式的に示す図であり、図5は図3の要部拡大模式図である)に示すように、略四角形状の切り込み3のうち少なくとも辺に相当する直線部分31を、コンクリート表面CS(本実施形態であれば橋梁C1の下向き面CS)に対して直角ではなく、所定角度傾斜させた角度でテーパ状に切り込む処理工程である。本実施形態では、適宜の切断手段によって例えばコンクリート表面CSから奥方に向かって10mm程度切り込むようにしており、その際、少なくとも直線部分31は、図5に示すように、切り込み深さ方向Aに沿った仮想直線とコンクリート表面CSとの相対角度(内角)θが90度未満となるように、換言すれば、コンクリート表面CSに対する切り込み深さ方向Aに沿った仮想直線の切り込み角度θを90度未満となるように切り込む。より具体的に、このテーパ形状切り込み工程は、略四角形状の切り込み3のうち断面修復対象部分1を挟んで対向する直線部分31同士(対辺31同士)の関係において、切り込み深さ方向Aにおける先端311同士の離間寸法が切り込み深さ方向Aにおける基端312同士の離間寸法よりも大きくなる切り込み角度θで、断面修復対象部分1の四方を囲むようにコンクリート表面CSを切り込む処理である。すなわち、テーパ形状切り込み工程は、切り込み深さ方向Aに沿ったコンクリート表面CSに対する切り込み角度を、切り込み深さ方向Aにおける直線部分31の先端が切り込み深さ方向Aにおける直線部分31の基端よりも断面修復対象部分1から離間する(換言すれば、切り込み深さ方向Aにおける直線部分の先端を断面修復対象部分1から外れた位置に位置付ける)ように、コンクリート表面CSに対して所定角度傾斜させる工程である。
さらに、本実施形態におけるテーパ形状切り込み工程では、略四角形状の切り込み3のうち直線部分31のみならず、角32を切り込む際にも、コンクリート表面CS(本実施形態であれば橋梁C1の下向き面CS)に対して直角ではなく、所定角度傾斜させた角度でテーパ状に切り込むように設定している。すなわち、切り込み3の角32を切断手段で切り込む際に、切り込み深さ方向Aにおける角32の先端が切り込み深さ方向Aにおける角32の基端よりも断面修復対象部分1から離間する(換言すれば、切り込み深さ方向Aにおける角32の先端を断面修復対象部分1から外れた位置に位置付ける)ように、コンクリート表面CSに対して所定角度傾斜させるようにしている。
また、アール形状切り込み工程は、図4及び図6(図6は切り込み工程直後の状態を図4に対応して示す図である)に示すように、略四角形状の切り込み3のうち角32を、丸みを帯びた部分円弧形状に切り込む処理工程である。本実施形態では、適宜の切断手段によって例えば半径20mm程度のアール形状となるように角32を切り込むように設定している。ここで、既存のハンディタイプの工具を用いてアール形状切り込み工程を実施すれば、大型の工具を施工現場に固定してアール形状切り込み工程を実施する場合と比較して、施工し易く、作業効率が向上するというメリットを得ることができ、ハンディタイプの工具で施工可能な角32のアール形状は半径20mm程度になる。もちろん、施工が適切に行えるのであれば、角32のアール形状の半径は20mm程度に限定されず、適宜の値に設定しても構わない。ここで、切り込み3が略四角形状である場合、全ての角32は、辺31同士が180度未満(図示例では略90度)で交差し得る入り隅であり、本実施形態に係る断面修復方向では、このような入り隅32をアール形状にしている。
このようなテーパ形状切り込み工程と、アール形状切り込み工程は、同時に行ってもよいし、時間差で行うようにしてもよい。時間差で行う場合、テーパ形状切り込み工程又はアール形状切り込み工程の何れを先に行うかは適宜選択することが可能であり、また、略四角形状の切り込み3の直線部分31と角32を順番に交互に形成する際は、テーパ形状切り込み工程とアール形状切り込み工程とを交互に行えばよい。断面修復作業の効率化という点からは、断面修復対象部分1の角とする位置に先ずハンディタイプのドリル(切断手段)を用いて円形状の孔を穿ち、その際、コンクリート表面CSからコンクリート躯体CFの奥方に向かってドリルで孔を穿つ方向として、ドリルの先端を断面修復対象部分1から外れた位置に位置付けるように、コンクリート表面CSに対して所定角度傾斜させた方向に設定する。次いで、隣接する孔同士の間をつなぐようにコンクリートカッタ(切断手段)を用いて直線的に切り込むテーパ形状切り込み工程を実施すれば、略部分円弧状の角を有する略四角形の切り込み3をコンクリート表面CSに形成することができ、テーパ形状切り込み工程及びアール形状切り込み工程をスムーズ且つ適切に行うことができる。
テーパ形状切り込み工程とアール形状切り込み工程からなる切り込み工程の次に、除去工程を行う。
除去工程は、図7に示すように、切り込み工程によって略四角形状に切り込まれた断面修復対象部分1を除去する処理工程であり、電動ピックやウォータージェットなどの機具を用いて、劣化部分を含む断面修復対象部分1をコンクリート表面CSから所定深さの位置まではつり取り、コンクリート躯体CFのうち健全なコンクリート部分を露出させる工程である。なお、切り込み3の先端311(切り込み深さ方向Aの先端311)よりもさらに奥方の部分をはつり除去する際には、切り込み角度θ(テーパ角度θ)と同一角度ではつり除去するようにしても構わないが、切り込み角度θとは異なる角度ではつり除去するようにしてよい。また、除去工程によって、コンクリート躯体CFのうち切り込み3の切り込み深さ方向Aの先端311よりも切り込み深さ方向A奥方に露出する面は、滑らか面であってもよいし、図7に示すような凹凸のある面であっても構わない。
断面修復材充填工程は、図8に示すように、除去工程で除去した部分(除去空間S)に断面修復材2を充填する処理工程であり、本実施形態では、断面修復材2としてモルタルを適用している。また、本実施形態では、除去工程と断面修復材充填工程との間に、コンクリート躯体CFのうち除去工程後に露出した面にプライマー(吸水調整材)を塗布するプライマー処理や、除去した空間Sに鉄筋Rが出現している場合にはその鉄筋Rに対して防錆処理を行うようにしている(図示省略)。吸水調整材は、除去した空間に充填する断面修復材2とコンクリート躯体CFとの接触面における接着性向上に貢献するものであればよい。
本実施形態では、断面修復材充填工程に引き続いて、図9に示すように、除去空間Sに断面修復材2を充填した部分(断面修復済み部分2X)のうちコンクリート表面CSと略面一となって露出している面(断面修復材露出面2XS)と、コンクリート表面CSのうち断面修復材露出面2XSに連続する面とに亘って、可撓性及び靱性を有する補強材4(例えば可撓性且つ高靱性を有するポリマーセメントモルタル)を塗布する補強材塗布工程を経るようにしている。なお、図3、図4及び図6では説明の便宜上、補強材4を省略している。
以上の各工程を経ることによって、コンクリート躯体CFのうち劣化部分を含む断面修復対象部分1を除去し、その除去した部分に充填した断面修復材2は高い接着力によって周囲のコンクリート躯体CFと一体的に連続する断面を形成することができる(図9参照)。
ところで、断面修復材2には硬化に伴う凝集力と周囲のコンクリート躯体CFの拘束力によって内部引張力が発生する。そして、この内部引張力が、断面修復済み部分2Xのうち除去空間Sの入り隅32周辺に充填したコーナー部分に過剰に集中した場合には、クラックが発生するおそれがある。従来の断面修復工法では、劣化部分を含む断面修復対象部分を除去する前の切り込み処理において、図17に示すように、四角形状の切り込みU3のうち角U32が、四角形の辺に該当する直線部分U31同士が直線的に交差した形状になり、この切り込みU3に沿って修復対象部分を除去した空間の角(入隅)は当然尖った角となる。このような除去空間に断面修復材U2を充填した場合、断面修復済み部分U2Xのコーナーに応力が集中してクラックが起こり易い。特に、図16に示すように、車両通行量の多いところ等、コンクリート躯体CFに撓み変形や振動が連続的に生じ得るコンクリート躯体CFには剪断力が過剰に作用し、断面修復済み部分U2Xのうちコーナーを起点として引張応力が発生する。この時に発生する引張応力度が断面修復材U2の引張強度を超えた場合にクラックが発生する。
しかしながら、本実施形態に係る断面修復方法では、アール形状切り込み工程を経ることで、図4及び図6に示すように、略四角形状の切り込み3における角32を、丸みを帯びたアール形状にしているため、このようなアール形状の角(コーナー)が出現する除去空間Sに断面修復材2を充填して形成した断面修復済み部分2Xのうち、各コーナーに集中する内部引張力(引張応力)を分散することができ、断面修復済み部分2Xのうちアール形状のコーナー周辺に作用する引張応力は減少し、クラックの発生を効果的に防止・抑制することができる。
したがって、図10に示すように、コンクリート構造物である橋梁C1を通過する車両の通行量によりコンクリート躯体CFには撓み変形や振動が生じ、このようなコンクリート躯体CFの不規則な動きに起因してクラックが広がるという不具合に対しても、そもそも断面修復材2を充填する除去空間Sを規定する切り込み3の角32がアール形状であることによりクラックが発生しないか、極めて発生し難いため、有効に対処することができる。なお、図10では、コンクリート躯体CFであるコンクリート橋桁が車両の通行によって撓み変形している状態を誇張して示している。
また、クラックが進行した場合には、除去空間Sに充填した断面修復材2の水分蒸発が増加し、断面修復材2自体の乾燥収縮(断面収縮)によりさらにクラックが広がり、長期的にはコンクリート躯体CFと断面修復材2との付着力が低下して断面修復材2の剥落が発生し得るが、このような不具合もまた硬化初期時のクラックの発生自体を防止・抑制可能な本実施形態に係る断面修復方法を採用することによって防止・抑制することが可能である。
さらに、アール形状切り込み工程を経ることにより、コーナー部分32に断面修復材2を充填する際に、コーナー部分が直角である場合として、コーナー部分32の空気が除去空間外へ抜け易くなり、いわゆるエア溜まりが生じ難く、コーナー部分32におけるコンクリート躯体CFに対する断面修復材2の密着性が高まり、充填処理後のエア溜まりの存在がきっかけとなって発生し得る断面修復材2の剥落や劣化を防止・抑制することができる。また、鏝(こて)等の道具を用いて手作業により断面修復材2を角張ったコーナーに充填する場合、このコーナーに断面修復材2を充填する際の圧力(いわゆる鏝圧)を、他の部分に断面修復材2を充填する際の圧力よりもかなり大きくしなければ適切に充填できないという問題があるが、本実施形態のようにアール形状の角32に断面修復材2を充填する際の鏝圧は、角張ったコーナーに断面修復材2を充填する場合よりも小さい圧であっても適切に充填することが可能であり、充填し易さ(塗り易さ)の点で有利であり、作業効率の向上にも貢献する。
加えて、本実施形態に係る断面修復方法によれば、テーパ形状切り込み工程を経ることにより、コンクリート躯体CFのうち劣化部分を含む断面修復対象部分1を除去した際に現れるコンクリート躯体CFの露出面(断面修復材2との接触面)が、コンクリート表面CSに対して90度ではなく、切り込み深さ方向Aにおける切り込み3の先端が切り込み深さ方向Aにおける切り込み3の基端よりも断面修復対象部分1から離間する方向に所定角度傾斜したテーパ面となり、このようなテーパ面に囲まれた空間に断面修復材2を充填することによって、充填硬化後の断面修復材2がコンクリート躯体CFに保持されてコンクリート躯体CFから剥落しない構造を実現することができる。
このように、切り込み深さが深くなるほど開口面積が広がる切り込み3によって仕切られる除去空間Sに断面修復材2を充填して、断面修復材2とコンクリート躯体CFの接触面(接着面)を切り込み深さ方向Aに所定角度傾斜したくさび形状(テーパ形状)にできる本実施形態に係る断面修復工法を採用することによって、断面修復工事完了後に断面修復材2の乾燥収縮やコンクリート躯体CFに作用する外力に起因して断面修復材2とコンクリート躯体CFの接着面において界面剥離が生じた場合であっても、コンクリート躯体CFのくさび形状に起因する剪断抵抗によって断面修復材2がコンクリート躯体CFから剥落する事態を防止することが可能である。
さらに、本実施形態に係る断面修復方法では、断面修復材2を充填後(好ましくは充填直後)に、断面修復済み部分2Xのうち露出している面と、この面に連続するコンクリート躯体CFの表面(コンクリート表面CS)とに亘って可撓性及び靱性を有する補強材4(例えばポリマーセメントモルタル)を塗布しているため、補強材4と断面修復材2との良好な結合状態を確保することができ、仮に断面修復材2がコンクリート躯体CFから剥がれたとしても、補強材4の靱性や可撓性(繊維連結)によって断面修復材2を保持することができる。
つまり、断面修復材2と補強材4が一体化され、何らかの原因で断面修復済み部分2Xにクラックが発生した場合においても、断面修復材2と一体化した補強材4(ポリマーセメントモルタル)の靱性と繊維の結合性によって断面修復材2の形状を保持することができ、断面修復材2の剥落を防止することができる。したがって、仮にクラックが生じた断面修復部分であっても周囲のコンクリート躯体CFとの連続した外観形状を維持することが可能である。
さらに、本実施形態において、補強材塗布工程を断面修復材充填工程直後に実施可能とすることで、断面修復材2と補強材4を相互に強固に結合し、一体化することができるとともに、従来であれば断面修復工事とは別工程で施工せざるを得ないコンクリート剥落防止工事を、断面修復工法の一工程として処理することができ、この点においても有利である。
このように、本実施形態に係るコンクリート構造物の断面修復方法を採用することによって、施工後の早期クラックの発生を防止・抑制することができるとともに、コンクリート躯体CFと断面修復材2との付着力低下に伴って断面修復材2が接着面(接触面)を境界にコンクリート躯体CFから剥離しても、構造的にコンクリート躯体CF内に留めることができる。
また、可撓性と靱性を有するポリマーセメントモルタル等の補強材4を断面修復済み部分2Xの露出面2XSと及びその周辺CSに亘って塗布することで、断面修復済み部分2X及び断面修復済み部分2Xを囲むコンクリート躯体CFを保護することができるとともに、仮に断面修復済み部分2Xが劣化したり、鉄筋Rの腐食膨張で断面修復材2が剥がれても、補強材4が断面修復済み部分2Xの落下を防止する機能を発揮する。
本発明者は、本実施形態の断面修復方法のうちテーパ形状切り込み工程において、コンクリート表面CSに対する切り込み角度(テーパ角度θ)として、より一層有効な角度を検証すべく以下に示す試験を行った。
試験方法は、縦300mm、横300mm、厚さ20mmの型枠の中心に、外周面がテーパ形状である鋼材T1をセットした状態で、型枠内にモルタルを打設し、板状に硬化したモルタル(以下、「モルタル板T2」と称す)の圧縮強度が40N/mm2に達した状態のモルタル板T2及び鋼材T1を型枠から抜き出したものを試験体Tとし、この試験体Tに対して押し抜き試験を実施した。その際、図11に示すように、鋼材T1の上面に第1加圧板T3を載置し、その第1加圧板T3を第2加圧板T4によって上方から押圧し、第1加圧板T3の上面に配置したロードセルT5によって計測した。ここで、試験体Tのうち、鋼材T1が断面修復済み部分2Xに相当し、モルタル板T2がコンクリート躯体CFに相当し、モルタル板T2の下向き面T21がコンクリート表面CSに相当する。なお、試験体Tは、アムスラー式モルタル圧縮試験機の架台T6の上向き面に配置した受け台T7上に載置している。
そして、鋼材T1のテーパ面の角度(より具体的には、図12に示すように、モルタル板T2の水平な下向き面T21に対する鋼材T1のテーパ角度θのうち鋭角の角度であり、以下では「テーパ角度θ」と称す)をそれぞれ15度、25度、35度、45度に設定した4種類の試験体Tについて試験を行った。ここで、テーパ角度θが15度未満の試験体Tについて試験を行わなかった理由は、テーパ角度θが15度未満であれば、有効な剪断抵抗を得られず、くさび作用が発揮され難いことによって剥落防止効果を期待できないからである。また、テーパ角度θが45度を超える試験体Tについて試験を行わなかった理由は、テーパ角度θが45度を超えると、コンクリート躯体CFに相当するモルタル板T2に作用する垂直方向の力が過度に大きくなり、モルタル板T2を破壊する要因として作用すると考えられるからである。
また、鋼材T1の押し抜きによるモルタル板T2自体の割れを考慮し、試験体Tごとに、モルタル板T2の外周に鋼材T1を張り付けて試験体Tを拘束する「拘束あり」と、拘束しない「拘束なし」の2態様でそれぞれ試験を行った。
試験結果は、図13に示す通りである。図13に示す試験結果から、テーパ角度θが45度の試験体Tが、拘束有無に関わらず一番高い押し抜き強さを有することが判明した。ただしテーパ角度θが大きいため、拘束なしの試験体Tにおいて押し抜き荷重による撓み変形がモルタル板T2に発生した。したがって、実際の断面修復工事中又は断面修復工事完了後においてコンクリート躯体CFに何らかの片荷重が作用した場合に、45度のテーパ角度θで得られる剪断抵抗が、断面修復済み部分2Xの周囲にある健全なコンクリート(コンクリート躯体CF)を部分的に破壊する要因として作用し、断面修復材2がコンクリート躯体CFから剥落する危険を新たに増やす可能性がある。したがって、テーパ角度θを45度に設定することは、高い剪断抵抗による有効なくさび効果を得られるものの、最適な角度であるとはいえない。
また、テーパ角度θが15度の試験体Tは、拘束の有無に関わらず、有効な押し抜き強さを有することも判明した。しかしながら、テーパ角度θが15度の試験体Tは、テーパ角度θが25度の試験体Tと比較すると、テーパ角度θの小ささに起因してモルタル板T2から抜け落ちる可能性が低くないと考えられる。
そして、テーパ角度θが25度である試験体Tの押し抜き強度が、拘束あり、拘束なしの何れの態様においてもテーパ角度θが15度の試験体T及びテーパ角度θが35度の試験体Tよりも高いことがわかった。したがって、テーパ角度θを25度付近(25度±5度程度)に設定することで、モルタル板T2の撓み変形を招来することなく、高い押し抜き強度を得ることができ、剥落防止の効果を期待できる。
また、テーパ角度θが35度である試験体Tの押し抜き強度は、テーパ角度θを25度に設定した試験体Tと比較すると低いものの、テーパ角度θを15度に設定した試験体Tよりも高く、剥落防止の効果を期待できる。
以上の考察より、有効なくさび効果を得られるテーパ角度θは15度以上45度以下であること、及びそのうち特に優れたくさび効果を得られるテーパ角度θは25度付近から35度付近(試験結果に基づいて厳密に言えば25度以上35度以下)であることが判明した。
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、切断手段による切り込みの形状が、図2や図14に示すように、複数の略四角形を相互に連結させた形状であってもよい。このような形状の切り込みを採用する理由は、共通のコンクリート表面CSにおいて、相互に離間した位置で発生している劣化部分をそれぞれ個別の略矩形の切り込みで囲んだ場合、各切り込みによって囲まれた部分を除去して形成される除去空間もまたそれぞれ相互に独立した空間となり、このような個別の除去空間にそれぞれ断面修復材を充填する工法よりも、近接する切り込みによって囲まれた部分同士を連結し、これら連結した部分を除去した共通の空間に断面修復材を充填する工法の方が作業効率及び断面修復工事完了後のコンクリート表面の平滑度を向上させることができるからである。
このような複数の略四角形を相互に連結させた形状の切り込み3は、辺に相当する直線部分31と、この切り込み3によって囲まれる部分(断面修復対象部分1)から見て直線部分31同士が180度未満で交差し得る入隅である角(以下「入隅角32(I)」と称す)と、直線部分31同士が180度を超えて交差し得る出隅である角(以下「出隅角32(O)」と称す)とからなる。
そして、切断手段を用いて直線部分31及び全ての角(入隅角32(I)及び出隅角32(O))を切り込む際に、切り込み深さ方向Aに沿ったコンクリート表面CSに対する切り込み角度を、切り込み深さ方向Aにおける切り込み3の先端が切り込み深さ方向Aにおける切り込み3の基端よりも断面修復対象部分1から離間する(切り込み深さ方向Aにおける切り込み3の先端が断面修復対象部分1から外れる)ようにコンクリート表面CSに対して所定角度傾斜させるテーパ形状切り込み工程と、切断手段を用いて角を切り込む際に、全ての角(入隅角32(I)及び出隅角32(O))が部分円弧形状となるように切り込むアール形状切り込み工程と、除去した部分に充填した断面修復材2のうちコンクリート表面CS側に露出している面及びこの面の周囲にあるコンクリート表面CSとに亘って可撓性及び靱性を有する補強材4を塗布する補強材塗布工程とを経るようにすれば、上述した実施形態で述べた作用効果と同様の作用効果を得ることができる。なお、図14に示す切り込み3の形状は、「複数の略四角形を相互に連結させた形状」の一例であり、複数の略四角形を相互に連結させるパターン及びそのパターンによって規定される切り込みの形状は同図や図2に示す形状に限定されないことはいうまでもない。
また、本発明におけるテーパ形状切り込み工程は、切り込みのうち直線部分の切り込みを形成する際に切り込み深さ方向に沿ったコンクリート表面に対する切り込み角度を、切り込み深さ方向における切り込みの先端が切り込み深さ方向における切り込みの基端よりも断面修復対象部分から離間するように、コンクリート表面に対して所定角度傾斜させる工程であれば十分であり、角(コーナー)を切断手段で切り込む際、切り込み深さ方向に沿ったコンクリート表面に対する切り込み角度を従来のように略90度に設定しても構わない。
また、断面修復材としてモルタル以外のものを適用したり、補強材としてポリマーセメントモルタル以外のものを適用することも可能である。断面修復材の他の例としては、コンクリート、無収縮モルタル等のグラフト材、一般的に補修材として用いられる有機系又は無機系の剥落防止材を挙げることができる。
また、本発明に係る断面修復方法は、橋梁以外のコンクリート構造物の補修時にも当然適用することができる。また、切断手段で切り込むコンクリート表面が、コンクリート構造物の下向き面ではなく、側面(起立面)や、上向き面であっても構わない。
その他、各工程の具体的な処理についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。