ところで、上述した特許文献に開示される技術では、アクセルやスロットルの開度に基づき、車両の減速前に一律に二次電池からの放電を行っている。このため、減速時間がごく短い場合など得られる充電量が小さい場合には、放電量が充電量を上回り、結果として充電量に損失が生じる可能性がある。また、車両の電装部品に対して放電しているため、自動車のドライバの意図しない電装部品の駆動が生じ、走行の妨げとなる虞もある。
本発明は、上述した技術的な問題点に鑑み為されたものであり、充電受け入れ性能を向上させ、効果的な充電量の増加を可能とする充電制御装置及び方法を提供することを課題とする。
上記課題を解決するために、本発明の充電制御装置は、二次電池と、車両の減速時の回生エネルギーを用いて前記二次電池を充電可能な充電手段とを備える車両に搭載され、前記二次電池の充電を制御する充電制御装置であって、前記車両の走行状態を検出する車両状態検出手段と、前記二次電池の状態に基づいて放電電流を決定する放電制御手段と、前記充電手段による充電が実行される前に、前記放電電流で前記二次電池を放電させる放電手段とを備える。
本発明の充電制御装置によれば、車両状態検出手段の動作により検出される車両の減速時、より好適には、減速開始後から、二次電池の回生充電が開始される前に、放電制御手段によって決定された所定の放電電流で二次電池の放電が行われる。
本発明の車両は、エンジンを主たる動力源とする自動車であって、二次電池と、該二次電池により動作する電装部品と、エンジンの回生エネルギーを用いて二次電池を充電可能な充電手段とを備える。
車両状態検出手段は、例えば、車両に搭載されるECU(Electronic Control Unit )において検出されるエンジンの回転数、アクセル開度、スロットル開度または車両速度などの情報を取得し、車両の加減速に関わる走行状態を検出する。
放電制御手段は、例えばマイコンなどの処理装置であって、二次電池の状態に基づいて放電手段による二次電池の放電電流を決定する。放電制御手段は、放電によって二次電池に生じている充電分極を解消し、充電受け入れ性能を向上させ、放電後に行った充電によってより多くの充電量が得られるよう、好適な放電電流を決定する。具体的には、二次電池の状態に応じて、充電受け入れ性能を向上可能な放電量を決定し、当該放電量の放電を、回生充電を開始するまでの所定の放電時間の間に実現し得る適切な放電電流を求める。放電電流を決定するための基準となる二次電池の状態とは、二次電池における充電分極の分極量(言い換えれば、分極電圧)など、二次電池において生じている分極に係る状態を定性的または定量的に示す指標である。また、充電受け入れ性能は、二次電池の充電率に応じて変化する傾向があるため、二次電池の充電率SOC(State of Charge)もまた、二次電池の状態として扱われてよい。
放電手段は、車両の電力系統内に形成される電気回路の一種であって、放電制御手段によって決定された放電電流で二次電池を放電させる。放電手段は、車両状態検出手段によって検出された車両の減速時に、回生による充電が開始される前に、充電手段の発電電圧を低減することや、内部のスイッチを切り替えることで、二次電池を放電させる。放電手段は、例えば、車両が備える電装部品などの負荷へと二次電池の放電を行わせる回路構成の他、抵抗素子や、放電された電力を蓄電可能な二次電池などを備えていてもよい。所定の放電時間の放電後、放電手段は、充電手段の発電電圧を増大させることなどにより、二次電池の放電を終了する。なお、二次電池の放電は、車両の減速後に放電を開始してから回生による充電が開始されるまでの間に行われるため、放電時間は、回生へ影響を与えない範囲で決定されることが好ましい。放電制御手段は、二次電池の充電率や分極量に応じて、充電分極を解消して充電受け入れ性能を向上可能な好適な放電量と、回生へ影響を与えない好適な放電時間とを決定し、これらの決定事項に基づいて放電電流を決定する。
このような充電制御装置の動作によれば、車両における二次電池の回生充電が開始する前に、放電により二次電池において生じている充電分極が解消され、充電受け入れ性能が向上する。例えば、二次電池に生じた分極量に応じた適切な放電量を決定することができるため、充電分極の解消と、充電受け入れ性能の向上との点で効果的である。なお、本発明における充電分極の解消とは、必ずしも二次電池において生じている充電分極の影響を完全に取り除くことを意味するものではなく、多少なりと分極量が低減され、二次電池の受け入れ性能が向上することがあれば、充電分極が解消されたとしてもよい。
なお、放電手段は、車両の減速を検出した後に、減速による回生充電が開始するまでのタイミングで放電を実行する。言い換えれば、車両の減速が検出された後、決定された放電量の放電が行われた後に、二次電池の回生充電が行われる。放電手段は、決定された放電量を可能な限り短時間で放電することが好ましく、例えば、1回または複数回のパルス放電により放電を実施する。
本発明の充電制御装置の一の態様は、前記二次電池の分極量を推定する分極推定手段を更に備える。また、前記放電制御手段は、前記二次電池の分極量の推定値に基づいて、前記放電電流を決定する。
この態様によれば、推定される二次電池の分極量に基づくことで、二次電池に生じている充電分極を解消するための適切な放電量を決定し、当該放電量での放電を実現するための放電電流を求めることができる。このため、少量の放電により充電分極を解消しきれないことや、過度な放電により却って二次電池の充電量を失うことなどを防止し、充電分極を解消可能な効果的な放電を実現できる。
分極推定手段を備える態様では、前記二次電池の充電状態を示すSOCを算出するSOC算出手段を更に備えていてもよい。このとき、前記分極推定手段は、あらかじめ取得された、前記二次電池のSOCと該SOCから満充電させた後の充放電が行われていない状態での分極量との関係を示す充電分極情報と、前記二次電池のSOCの算出値とに基づいて、前記二次電池の分極量を推定する。
この態様によれば、二次電池のSOCから、該二次電池において生じている充電分極の分極量を比較的簡単な処理で推定することができる。所定のSOCから満充電させた後の充放電が行われていない状態での分極量とは、典型的には、二次電池の所定の充電率SOCに対して、該充電率から満充電を行った後に電極に電流が流れない状態で放置し、該放置状態において算出した分極量である。このため、二次電池のSOCを検出、または他の二次電池の状態量から算出することで、二次電池で生じている分極量を推定することができる。したがって、分極量に応じた放電量及び、当該放電量に基づく放電電流を容易に決定することができるようになる。なお、充電分極情報については、少なくとも充電制御装置の動作前に、実験やシミュレーションなど、何らかの手段により取得される。
SOC算出手段を備える態様では、前記放電制御手段は、前記二次電池のSOC毎に、放電後に所定時間の充電を行った際の収支の充電量が、放電を行わずに前記所定時間の充電を行った際の充電量を上回るよう、前記放電電流の最大値を決定してもよい。
このように決定した放電電流での放電を行った後に充電を行うことで、放電を行わずに充電した場合と比較して、二次電池の充電受け入れ性能を向上させ、より大きな充電量を得ることが可能となる。
また、充電分極情報に基づいて分極量を推定する態様は、前記二次電池の状態に基づいて分極量を算出する分極算出手段と、前記二次電池のSOCの算出値及び前記分極量の算出値に基づいて、前記充電分極情報を補正する補正手段とを更に備えてもよい。
補正手段の動作によれば、SOC算出手段によって算出される二次電池のSOCと、分極算出手段によって算出される二次電池の充電分極量とに基づいて、あらかじめ設定されている充電分極情報を適宜補正することができる。このため、充電分極情報に基づく分極量の推定の精度を向上させることができる。なお、二次電池のSOC及び充電分極量の算出は、好適には、車両の駐車中など、二次電池への電流の出入りがほとんどなく、分極量の時間的な変化が小さい状態で行われる。
本発明の充電制御装置の他の態様では、前記放電制御手段は、前記二次電池の分極量の推定値と所定の閾値とを比較し、(i)前記二次電池の分極量の推定値が前記閾値以下となる場合には、前記二次電池の分極量の推定値に基づいて前記放電電流を決定し、(ii)前記二次電池の分極量の推定値が前記閾値を上回る場合には、前記放電電流をゼロとする。
この態様によれば、閾値と比較して二次電池において生じている充電分極量が低い場合には所定の放電電流での放電が行われ、高い場合には放電が行われない。
一般的に、二次電池の充電分極量とSOCとは負の相関関係にあり、充電分極量が相対的に低い状態では、二次電池のSOCは相対的に高い状態にある。このため、充電分極量が相対的に低い状態では、比較的小さい放電電流での放電で、二次電池において生じている充電分極を解消することができる。このため、二次電池の充電受け入れ性能を向上させ、放電後の充電によって結果的に得られる収支の充電量を極力大きくすることができる。
他方で、充電分極量が相対的に高い状態では、充電前に放電を行うことで充電受け入れ性能を向上させるためには、より大きな放電電流での放電が必要となる。しかしながら、放電電流を増大し、全体的な放電量を大きくすることで、放電後に充電を行った際の収支の充電量が、放電を行わずに充電を行った際の充電量を下回る可能性がある。そこで、放電制御手段は、二次電池における充電分極量の推定値が相対的に高い状態では、放電電流をゼロに設定し、二次電池からの放電を行わずに、充電のみを行う制御を行う。このように制御することで、充電によって得られる充電量を極力大きくすることができる。
この態様において、閾値となる充電分極量は、放電後に所定時間の充電を行った際の収支の充電量が、放電を行わずに同時間の充電を行った際の充電量に対して最も大きくなるSOCに対応する充電分極量となるよう決定されてよい。このような閾値によれば、放電後に充電を行った際の収支の充電量が、放電を行わずに充電を行った際の充電量を上回る充電分極量を適切に決定することができる。
上記、説明した動作によれば、二次電池の状態に応じて、結果的に得られる二次電池の充電量を極力大きくすることができる。
放電制御手段が二次電池の分極量について設定した閾値と分極量の推定値との比較により、放電電流を決定する態様では、前記放電制御手段は、前記二次電池のSOCが第1の充電率を下限とし第2の充電率を上限とする範囲内であり、且つ前記二次電池の分極量の推定値が前記閾値以下となる場合には、前記放電電流を、前記分極量の推定値が小さくなるに従って、ゼロを下限として連続的または断続的に小さくなるように決定してもよい。
二次電池のSOCが十分高く、且つ満充電状態に達するほどではない場合、既に二次電池内には十分な電力が蓄積されているため、比較的小さい放電電流で充電分極を解消することができる。ここに、第1の充電率と第2の充電率とは、二次電池内に十分な電力が蓄積されている状態を規定する閾値であって、例えば、第1の充電率は70%程度、第2の充電率は80%程度である。
このような場合において、分極量の推定値が小さくなるに従って放電電流を連続的に低下していくように決定することで、二次電池のSOCがより大きい状態、言い換えれば、二次電池に生じている充電分極を、より小さい放電電流の放電によって解消することが可能な状態では、放電時の放電電流を小さくするよう決定できる。このような処理の結果、充電分極を効果的に解消するために過剰な放電電流での放電を行うことを抑制することができ、結果的に得られる二次電池の充電量を極力大きくすることができる。
また、この態様では、閾値以下の充電分極量の推定値が所定量小さくなる毎に、分極量の推定値が小さい範囲ほど放電電流が段階的に小さくなるように、分極量の推定値に対する放電電流の関係を決定してもよい。このように処理する場合、例えば、パルス放電時のパルス電流値を段階的に調整することで、決定された放電電流での放電を行うための処理を簡単に行うことができる。
また、放電制御手段が二次電池の分極量について設定した閾値と分極量の推定値との比較により、放電電流を決定する態様では、前記放電制御手段は、前記二次電池のSOCが第2の充電率より高い第3の充電率を下限とし満充電状態を上限とする範囲内であり、且つ前記二次電池の分極量の推定値が前記閾値以下となる場合には、前記放電電流を、前記分極量の推定値が小さくなるに従って、連続的または段階的に大きくなるように決定してもよい。
二次電池のSOCが十分高く、満充電状態または満充電に近い状態である場合(一例として、SOCが90−100%の場合)、既に二次電池内には十分な電力が蓄積されている。このため、SOCがより満充電に近い場合において放電電流を大きくすることで、充電分極を解消し、充電受け入れ性能を向上することができる。ここに、第3の充電率とは、二次電池内に満充電に近い十分な電力が蓄積されている状態を規定する閾値であって、例えば、90%程度である。
このような場合において、分極量の推定値が小さくなるに従って放電電流を連続的に増加していくように決定することで、二次電池のSOCがより大きい状態において、放電電流が大きくなるよう決定することで、放電後の充電時に得られる充電量を増大することができる。なお、このときの放電電流は、二次電池のSOCが100%の場合に相当する分極量が推定された場合において最大となるよう決定することが好ましい。なお、放電電流の最大値は、二次電池の分極状態に応じて決定される全体的な放電量に応じて決定される。例えば、放電制御手段は、二次電池の放電後に充電を行うことで、充電受け入れ性能を向上させ、放電後に所定時間の充電を行った際の収支の充電量が、放電を行わずに同条件での充電を行った際の充電量を上回るような放電量を決定し、別途決定した放電時間内に当該放電量での放電を実現可能な電流を放電電流の最大値として決定する。
また、この態様では、閾値以下の充電分極量の推定値が所定量小さくなる毎に、放電電流が段階的に大きくなるよう、分極量の推定値と放電電流との間の関係を決定してもよい。このように処理する場合、例えば、パルス放電時のパルス電流値を段階的に調整することで、決定された放電電流での放電を行うための処理を簡単に行うことができる。
本発明の充電制御装置の他の態様は、前記二次電池の充電状態を示すSOCを算出するSOC算出手段を更に備える。このとき、前記放電制御手段は、前記二次電池のSOCに基づいて、前記放電電流を決定する。
この態様によれば、SOCに基づいて放電電流を決定することができる。上述のように、二次電池のSOCと、該SOCの状態から充電を行った際に生じる充電分極量とは一意の関係に表され得るため、SOCに基づいて、二次電池の分極量を推定する処理を行うことなく放電量を直接決定し、適切な放電電流を求めることができる。例えば、放電制御手段は、あらかじめ取得される、二次電池のSOCと、該SOC状態から満充電した後に生じる充電分極を解消し得る放電量との関係を示す情報に基づくことで、放電量を決定することができる。また、放電制御手段は、二次電池のSOCと、該SOCにおいて充電受け入れ性能を向上可能な充電前の放電量及び、当該放電量に基づく放電電流を一意的に決定可能であれば、適宜他の方法を採用してもよい。
本発明の充電制御装置の他の態様では、前記放電手段は、抵抗素子を備え、該抵抗素子に対して前記二次電池を放電させる。
この態様によれば、放電手段は、車両に搭載される電装部品を駆動させることで、車両の走行を妨げることなく、二次電池を放電させることができる。
本発明の充電制御装置の他の態様では、前記車両は、前記二次電池に接続される充放電可能な蓄電手段を更に備え、前記放電手段は、前記蓄電手段を充電するよう、前記二次電池を放電させる。
この態様によれば、放電手段は、放電した二次電池の電力を蓄電手段に保持し、必要に応じて車両の電装部品や二次電池へと供給することができる。このため、放電時の電力の損失をなくすことができる。蓄電手段は、例えばキャパシタや補助用の二次電池など、充電した電力を一時的に保持し、再度放電可能な構成である。なお、蓄電手段を備える構成では、放電手段は、蓄電手段の充電を行うと共に、上述のように車両の電装部品に放電することで、二次電池の放電を行ってもよい。二次電池からの放電電力が多少なりと蓄電手段に蓄電されることで、放電時の電力の損失を低減することが可能となる。
上記課題を解決するために、本発明の充電制御方法は、二次電池と、車両の減速時の回生エネルギーを用いて前記二次電池を充電可能な充電手段とを備える車両に搭載され、前記二次電池の充電を制御する充電制御方法であって、前記車両の走行状態を検出する車両状態検出工程、前記二次電池の状態に応じて放電電流を決定する放電制御工程と、前記充電手段による充電が実行される前に、前記放電電流で前記二次電池を放電させる放電工程とを備える。
本発明の充電制御方法によれば、上述した本発明の充電制御装置の各部が実行する処理と同様の処理が行われるため、同様の効果が得られる。
本発明の充電制御装置によれば、二次電池において発生した充電分極を解消し、充電受け入れ性能を向上させることができる。また、その際に、過度な放電によって充電後の二次電池の充電量を却って低減させることや、不要な車載電装部品を動作させることで車両の走行を妨げることを防止することができる。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
(1)基本的な構成
はじめに、図1を参照して、本発明の二次電池の充電制御装置が搭載される車両の基本的な構成について説明する。図1は、本発明の二次電池の充電制御装置の一実施例である充電制御装置が搭載される車両1を示す概略図である。
図示されるように、車両1は、エンジン10及び電力系統20を備える。エンジン10は、車両1の主たる動力源として、車両1の走行を実現する。
電力系統20は、車両1に搭載されるECUや電装部品、該電装部品に電力を供給する二次電池22及び該二次電池を充電するオルタネータなどを含む電気回路である。また、電力系統20は、本発明の「充電制御装置」の具体例である制御ユニット30を含む。
続いて、車両1の電力系統20の構成について、図2を参照して説明する。図2は、車両1の電力系統20を示すブロック図である。図示されるように、電力系統20は、ECU21、鉛蓄電池22、制御回路23、オルタネータ24、スタータモータ25、負荷26及び電池状態センサ27を含む。なお、本発明の「充電制御装置」の一具体例である制御ユニット30は、ECU21、制御回路23及び電池状態センサ27を含む。
ECU21は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)などのメモリを備え、車両1のエンジン10を始めとする各部の動作を制御可能する電子制御ユニットである。
ECU21は、エンジン10における燃料の供給やスロットル開度などを制御することで、エンジン10の動作を制御し、車両1の走行状態を制御する。また、ECU21は、本発明の「車両状態検出手段」の一具体例であって、エンジン10の動作状況などを監視して車両1の走行状態を検出する。具体的には、ECU21は、車両1の速度、アクセル開度、スロットル開度、またはエンジン10の制御信号などを監視して、車両1が減速を行うことを検出した場合、制御回路23へ通知する。
鉛蓄電池22は、本発明の「二次電池」の一具体例であって、例えば、正極(陽極板)に二酸化鉛、負極(陰極板)に海綿状の鉛、電解液として希硫酸を用いた、液式鉛蓄電池である。鉛蓄電池22は、スタータモータ25及び負荷26に対して電力供給が可能な態様で接続され、オルタネータ24に対して充電が可能な態様で接続される。なお、本発明の「二次電池」は、鉛蓄電池22に限られず、リチウムイオン電池など、その他の電池を具体例として採用してもよい。
制御回路23は、電力系統20全体の動作を制御する制御用の回路であって、CPU231及びメモリ232を備えるとともに、該CPU231の制御により動作可能なスイッチや抵抗素子などが直列接続されてなる回路である。
制御回路23は、鉛蓄電池22に対して決定した放電電流及び放電時間で放電させる、本発明の「放電手段」の一具体例としての機能を有する。このため、制御回路23は、放電用の抵抗素子や、負荷26に放電を行うための回路を有する。具体的な制御回路23における、放電用の回路構成については、後に詳述する。
CPU231は、メモリ232に格納されるプログラム及びデータに基づいて、電力系統20の各部の動作を制御する。また、CPU231は、電池状態センサ27から入力される鉛蓄電池22の充電率SOCに基づいて、充電分極量の推定及び放電電流の決定を行い、鉛蓄電池22に放電させる「放電制御手段」及び「放電手段」の一具体例としての機能を有する。
メモリ232は、ROM及びRAMを含む情報記録手段であって、CPU231の動作のためのプログラムの他、あらかじめ格納されるデータや、プログラムの実行により生成されるものなど、各種データを記録する。
オルタネータ24は、例えば、外周面に複数個の永久磁石を有するロータと、回転磁界を形成する三相コイルが巻回されたステータとを備える同期電動発電機であって、エンジン10の動力軸に接続される。オルタネータ24の発電電圧は、制御回路23により制御され、少なくとも鉛蓄電池22の放電電圧を上回る電圧と下回る電圧との2通りの電圧で発電可能に構成される。オルタネータ24は、エンジン10によって駆動され、発生した交流電力を整流回路によって直流電力に変換し供給し、鉛蓄電池22を充電するとともに、負荷26を動作させることもできる。なお、オルタネータ24は、上述した態様に限定されず、他の形式のオルタネータであっても構わない。
スタータモータ25は、例えば、直流回転電機であって、鉛蓄電池22から供給される電力によって回転力を発生し、エンジン10を始動する。
負荷26は、例えば、電動ステアリングモータ、デフォッガ、イグニッションコイル、カーオーディオ、またはカーナビゲーションなど、鉛蓄電池22から供給される電力によって動作する車両1の電装部品である。
電池状態センサ27は、それぞれ不図示のバッテリ状態測定部、演算処理部及び記憶部を含む構成である。バッテリ状態測定部は、鉛蓄電池22の状態を測定するための複数のセンサを含む構成であって、例えば、鉛蓄電池22の放電電圧Vを測定する電圧センサ、鉛蓄電池22に流れる電流Iを測定する電流センサ、鉛蓄電池22の温度Tを測定する温度センサを含んでなる。
演算処理部は、CPUなどの演算装置であって、バッテリ状態測定部により測定される電圧V、電流I及び温度Tなどに基づいて、鉛蓄電池22の充電率SOCを算出する、本発明の「SOC算出手段」の一具体例として機能する。また、演算処理部は、同様に鉛蓄電池22の分極量を算出する、本発明の「分極算出手段」の一具体例として機能する。記憶部は、バッテリ状態測定において測定された測定値、及び演算処理部において算出された算出値を格納するメモリである。
制御回路23は、電池状態センサ27によって算出された充電率SOCとメモリ232に記憶された充電分極情報に基づいて、鉛蓄電池22の分極量を推定し、本発明の「分極推定手段」としての機能を実現する。
なお、上述した構成は一例であって、本発明の「充電制御装置」は、車両1の電力系統20に備わる公知の構成を用いて実現してもよく、また既存の電力系統20に対して、上述した各構成を後発的に取り付けることで実現してもよい。
(2)基本的な動作例
制御ユニット30による充電制御処理について、図を参照して説明する。図3は、制御ユニット30の基本的な動作の流れについて示すフローチャートである。制御ユニット30は、図3のフローチャートに示される処理を車両1の走行中(具体的には、車両1のエンジン10がオンの状態であって、車両の一時停止中をも含む期間)に、実行する。
まず、制御ユニット30は、電池状態センサ27において検出される情報に基づき、鉛蓄電池22の状態を確認する。具体的には、電池状態センサ27は、鉛蓄電池22の放電電圧V、電流I及び温度Tの検出(ステップS101)を行い、検出された放電電圧V及び電流Iに基づいて充電率SOCを算出する(ステップS102)。
次に、制御ユニット30の制御回路23は、算出された充電率SOCに基づき、鉛蓄電池22において生じている充電分極量を推定する(ステップS103)。例えば、制御ユニット30は、あらかじめ取得した、鉛蓄電池22の充電率SOCと充電分極量との関係を示すデータを参照することなどにより、充電分極量を推定する。
制御ユニット30の制御回路23は、推定された充電分極量に基づいて、鉛蓄電池22からの放電電流disを決定する(ステップS104)。具体的には、制御ユニット30は、推定された鉛蓄電池22の充電分極量に応じて、充電前に放電を行うことで、充電のみを行う場合と比較して、充電受け入れ性能を向上させ、より多くの充電量を得られる放電量を、あらかじめ取得したデータを参照することなどにより決定する。そして、決定した放電量と、あらかじめ設定される放電時間とに基づいて、鉛蓄電池22からの放電電流の最大値を決定する。鉛蓄電池22の放電は、車両1の減速の開始を検知した後に、車両1の回生による充電を妨げないよう行われることが好ましく、放電時間は、典型的には数百ミリ秒から2秒程度の範囲に定められる。放電電流の最大値は、決定された放電量を、放電時間内で実現できるよう算出される。このとき、放電時間と放電電流の最大値との組み合わせを複数通り決定し、評価することで最も適切な放電電流の最大値(例えば、最も電流値の少ないもの)を選択してもよい。より詳細な放電電流の決定処理については、後に詳述する。
制御ユニット30は、車両1の走行中に、ECU21により検出される情報を参照して、車両1の走行状態を逐次確認する(ステップS105)。このとき、制御ユニット30は、車両1のエンジン回転数やスロットル開度、アクセル開度などを参照して、車両1が減速することを監視する(ステップS106)。車両1が減速を開始したことを検出した場合(ステップS106:Yes)、制御ユニット30は、鉛蓄電池22の放電を行う。
制御ユニット30の制御回路23は、鉛蓄電池22の放電を実施するためにオルタネータ24の出力電圧が鉛蓄電池22の放電電圧を下回るよう、出力電圧を低減するよう指示する(ステップS107)。オルタネータ24からの出力電圧が低下したため、鉛蓄電池22からの放電が可能となり、制御ユニット30は、先に決定した放電電流dis及び放電時間に応じた、鉛蓄電池22の放電を実施する(ステップS108)。放電終了後、制御ユニット30は、オルタネータ24の出力電圧を低減前の状態にまで復元し、鉛蓄電池22からの放電を終了する(ステップS109)。
放電終了後、制御ユニット30は、車両1の減速時の回生エネルギーを用いて鉛蓄電池22が充電されるよう、オルタネータ25を動作させる(ステップS110)。その後、制御ユニット30は、ECU21から通知される車両1の走行状態を確認し、車両1が加速を開始しない状態において(ステップS111:No)、鉛蓄電池22の充電を実行する。他方で、車両1が加速を開始したことを検出した場合(ステップS111:Yes)、制御ユニット30は、鉛蓄電池22の充電を停止する(ステップS112)。
制御ユニット30は、車両1が駆動している間、ステップS101からS112までの一連の動作を繰り返し実行する。
上述した、制御ユニット30による充電制御処理によれば、車両1の減速時に、回生エネルギーによる鉛蓄電池22の充電が行われる前に、鉛蓄電池22において生じている充電分極量の推定値に基づく放電電流での放電が行われる。
このときの、車両1の速度と、オルタネータ24の発電電圧と、鉛蓄電池22の放電電圧との関係について、図4に示す。
車両1が減速を開始することを検出したタイミング(t1)で、制御ユニット30は、オルタネータ24の発電電圧をV2から一時的に低減させる。発電電圧V2は、車両1の走行時に、オルタネータ24が鉛蓄電池24の回生充電を行っていない状態での発電電圧である。このとき、制御ユニット30は、上述した処理により、放電電流disを決定し、1回または複数回のパルス放電により、鉛蓄電池24を放電させる。
放電終了後(t2)で、制御ユニット30は、オルタネータ24の発電電圧を、鉛蓄電池22を充電可能な十分高い電圧V1まで増大し、鉛蓄電池の回生充電を行う。制御ユニット30は、車両1の加速したことを検出したタイミング(t3)で、オルタネータ24の発電電圧をV2に低減し、回生充電を終了する。
放電時の放電量は、好適には、鉛蓄電池22において生じている充電分極を解消し、少なくとも放電を行わない状態で充電を行った場合よりも充電量が増大するよう、制御回路23によって決定される。したがって、放電を行わないで充電する場合と比較して、充電受け入れ性の向上のため、放電後の充電により得られる充電量(つまり、得られる充電量から放電量を差し引いた収支充電量)が大きくなる。具体的な放電量及び放電電流の決定時の処理の流れについて、以下に説明する。
(3)放電電流の決定処理
以下、放電電流の決定処理について詳細に説明する。制御回路23は、鉛蓄電池22において生じている充電分極を解消するための放電を行う際に、まずは推定される充電分極量に応じた適切な放電量を決定する。
図3のフローチャートに示されるように、制御回路23は、鉛蓄電池22の充電率SOCを算出し、該充電率SOCに基づいて、充電分極量の推定を行っている。
このとき、制御回路23は、あらかじめメモリ232に格納される、充電率SOCと充電分極量との関係を示すデータなどを参照することにより、充電率SOCに基づく充電分極量の推定を行う。このようなデータは、典型的には、鉛蓄電池22の所定の充電率SOCに対して、該充電率から満充電を行った後に電極に電流が流れない状態で放置し、該放置期間中に発生した充電分極量の測定値を示すものである。制御回路23は、充電率SOCに対する充電分極量の関係について、異なる複数の充電率SOCから鉛蓄電池22の満充電を行った場合の充電分極量を測定し、近似式で表したデータをあらかじめメモリ232に格納する。
充電率SOCに対する充電分極量の関係は、例えば図5のグラフに示される通り、充電率SOCが増大して満充電に近づくにつれて充電分極量は低減するという負の相関を有する。このような関係は、例えば、Yを充電分極量とし、a、bを任意の係数とした、以下の近似式により表される。
Y=a×SOC+b ・・・(1)
このようにあらかじめ取得されたデータに基づいて算出される近似式に当てはめることで、比較的簡単な処理で鉛蓄電池22において発生した充電分極量を推定することができる。
なお、このように算出された近似式について、例えば、鉛蓄電池22の状態から算出される充電率SOCの算出値と、充電分極量の算出値とに基づいて、適宜補正を行ってもよい。このような補正を行うために、電池状態センサ27は、鉛蓄電池22の状態を測定して、充電率SOCと分極量とを算出する。ここに、分極量の算出とは、検出された鉛蓄電池22の放電電圧V及び電流Iなどに基づいて、鉛蓄電池22において生じている分極量を算出することである。電池状態センサ27は、車両1の駐車中など、鉛蓄電池22への電流の出入りがなく、分極量が大きく変動しない状態において、鉛蓄電池22の充電率SOCと分極量との算出を行う。制御回路23のCPU231は、算出された充電率SOCと分極量とを用いて、図5に示されるグラフを更新し、(1)式において用いられる係数a、bを補正する。このように、車両1の駐車中に、算出された鉛蓄電池22の充電率SOCと分極量とに基づいて近似式の補正を行うことで、充電率SOCに基づく充電分極量の推定を常に精度よく行うことが可能となる。
充電分極量の推定処理後、制御回路23は、鉛蓄電池22の充電率SOCと充電分極量とに基づいて、放電量の最大値を決定する。
具体的には、制御回路23は、あらかじめメモリ232に格納される、充電率SOCと放電量の最大値との関係を示すデータを参照して充電分極量の推定処理を行う。このようなデータは、鉛蓄電池22の充電率SOC毎に、放電を行わない場合の充電量C0を基準として、放電後に充電を行った場合の充電量C1と放電に使用した放電量C2との収支を計算したものである。制御回路23は、各充電率SOCにおいて、C1−C2>C0となる放電量C2を、放電量の最大値として決定する。他方、C1−C2がC0以下となる充電率SOCの場合、制御回路23は、鉛蓄電池22の放電を行わない(言い換えれば、放電量の最大値を0に決定する)。このとき、制御回路23は、C1−C2とC0との比較を、例えば、SOC10%毎など、所定のSOC範囲毎に行い、C1−C2>C0となるC2を求める。
図6は、ある鉛蓄電池22について算出した、充電率SOCと、C0及びC1−C2との関係を表すグラフである。このようなデータを種類の異なる鉛蓄電池22毎にあらかじめ算出し、保持しておくことで、制御回路23は、様々な鉛蓄電池22に対して、放電量の最大値C2を決定することができる。図6のグラフには、充電率SOCに対する、放電後に充電を実施した場合の収支充電量C1−C2(実線)、放電後に充電を実施した場合の充電量C1(点線)、放電を行わずに充電した場合の充電量C0(一点破線)が示される。図示されるように、全てのSOCにおいて、C1がC0を上回っており、また、SOCが高い状態(例えば、83%以上)では、放電後の収支充電量C1−C2が充電のみの充電量C0を上回っている。
制御回路23は、決定された放電量の最大値C2に基づいて、別途決定された放電時間内での放電を実現するための放電電流の最大値dis_maxを決定する。なお、制御回路23は、対象となる鉛蓄電池22の電池種別や充電率などを考慮して、個別に放電量の最大値C2を決定する。また、制御回路23は、C1−C2>C0を満たすC2が複数通り存在する場合には、放電量の最大値C2に基づく放電電流の最大値dis_maxがより小さくなるものを選択してもよい。
放電電流の最大値dis_maxの決定後に、制御回路23は、充電分極量に応じた実際に放電する放電電流disを決定する。このときの充電分極量に対する放電電流disについて、図7のグラフに示す。図7の例では、鉛蓄電池22の充電率SOCにより推定される充電分極量と、閾値となる充電分極量との比較により放電電流disが決定される。具体的には、充電分極量が閾値以下の場合には放電電流disは最大値dis_maxとなり、充電分極量が閾値以上の場合には放電電流disは0となるよう決定される。このように放電電流disを決定することで、放電により効果的に充電分極を解消することが可能となる。
なお、閾値となる充電分極量は、典型的には、上述した(1)式において、放電電流の最大値dis_maxを決定するために用いた充電率SOCに対応する充電分極量である。このようにすれば、充電前の放電により充電受け入れ性能を向上することができる適切な充電分極量の閾値を設定することができる。
充電分極量の推定値に基づく放電電流disの決定においては、鉛蓄電池22の充電率SOCに基づいて、充電分極量と放電電流disとの関係を規定してもよい。
例えば、図8(a)は、充電分極量に対する放電電流disの関係を示すグラフであって、特に、鉛蓄電池22の充電率が70−80%程度の満充電に比較的近い状態で、充電量を更に増加する場合での放電電流disの決定のために用いられるデータである。
満充電に近づくにつれて鉛蓄電池22に生じる充電分極量は低下するため、充電率が70−80%程度であるなど、比較的満充電に近い状態では、比較的小さな放電電流disで放電することで、充電分極を解消して充電受け入れ性能を向上させることができる。このため、図8(a)のグラフでは、推定される充電分極量が小さくなるにつれ、放電電流disが小さくなる様子が示される。
具体的には、所定の充電分極量を閾値とし、充電分極量の推定値が閾値と同値である場合には、放電電流disは最大値dis_maxとなり、充電分極量の推定値が閾値より大きい場合には、放電電流disは0となるよう決定される。充電分極量の推定値が閾値以下の場合の放電電流disは、dis_maxを最大値として、任意の係数c、eを用いた下記の一次式により表される。
dis=c×Y+e ・・・(2)
なお、上述した(1)式を考慮すれば、(2)式は以下の(3)式の形で表される。
dis=c×Y+e=c×(a×SOC+b)+e ・・・(3)
(3)式によれば、充電分極量が低い場合には相対的に低く、閾値に向けて充電分極量が増加するにつれて最大値dis_maxまで次第に増加するように放電電流disを決定することができる。このため、充電分極を解消するための適切な放電電流disを決定することが可能となる。なお、(2)式及び(3)式に用いられる係数c、eについては、好適に充電分極を解消し得る放電電流disが決定できるよう、あらかじめ実験やシミュレーションなどによって決定されることが好ましい。
また、(3)式及び図8(a)のグラフに示されるように放電電流disを決定する場合、代わりに図8(b)に示されるように、充電分極量を複数の範囲に区切り、範囲毎に段階的に増大する値を放電電流disとするよう決定してもよい。図8(b)のグラフには、(3)式及び図8(a)のグラフに基づき、閾値以下の充電分極量を複数の範囲に区切り、範囲毎に所定の放電電流disが規定される様子が示される。範囲毎の放電電流disは、例えば図8(a)のグラフに示されるものと同様に、放電電流の最大値dis_maxを最大値として、分極量の推定値が増大する毎に段階的に増大する値に設定される。
このような決定方法に基づく場合でも、充電分極量の推定値が低い場合には相対的に低く、閾値に向けて充電分極量の推定値が増加するにつれて、次第に増加するように放電電流disを決定することができる。また、このように、放電電流disがあらかじめ設定した複数段階の電流値となるように充電分極量の範囲との関係を定めることで、充電分極量の推定値に対する放電電流disを逐一算出する必要が無く、比較的簡単な処理で放電電流disを決定することができる。
また、鉛蓄電池22の充電率SOCが90−100%程度あるなど、満充電に近い状態では、図6のグラフに示されるように、大きな放電電流を流すことで、放電後の充電受け入れ性能をより向上させることができる。このため、満充電に近い状態では、充電分極量が低下するにつれて、放電電流disは大きくなるよう、決定される。
図9(a)は、鉛蓄電池22の充電率が90−100%程度の満充電に比較的近い状態で、充電量を更に増加する場合での放電電流disの決定のために用いられる、充電分極量に対する放電電流disの関係を示すグラフである。図9(a)のグラフでは、推定される充電分極量が小さくなるにつれ、放電電流disが大きくなる様子が示されている。
具体的には、所定の充電分極量を閾値とし、充電分極量の推定値が閾値以上である場合には、放電電流disは0となるよう決定される。充電分極量の推定値が閾値以下の場合の放電電流disは、充電分極量の推定値が小さい場合には、放電電流disは、最大値dis_maxとなり、充電分極量の推定値が閾値に向けて増加するにつれて、放電電流disは0に向けて低下する。このときの充電分極量と放電電流disとの関係は、f、gを任意の係数とする下記の一次式により表される。
dis=f×Y+g ・・・(4)
なお、上述した(1)式を考慮すれば、(4)式は以下の(5)式の形で表される。
dis=f×Y+g=f×(a×SOC+b)+g ・・・(5)
(5)式を用いれば、充電分極量の推定値が低い場合には最大値dis_maxであり、閾値に向けて充電分極量の推定値が増加するにつれて0に向けて低下するように放電電流disを決定することができる。なお、(4)式及び(5)式に用いられる係数f、gについては、好適に充電分極を解消し得る放電電流が決定できるよう、あらかじめ実験やシミュレーションなどによって決定されることが好ましい。
また、(5)式及び図9(a)のグラフに示されるように放電電流disを決定する場合、代わりに図9(b)に示されるように、充電分極量を複数の範囲に区切り、範囲毎に段階的に減少するように放電電流disとするよう決定してもよい。図9(b)のグラフには、(5)式及び図9(a)のグラフに基づき、閾値以下の充電分極量を複数の範囲に区切り、範囲毎に段階的に放電電流disが減少する様子が示される。範囲毎の放電電流disは、例えば図9(a)のグラフに示されるものと同様、放電電流の最大値dis_maxを最大値として、分極量が増大するごとに段階的に減少する値に設定される。
このような決定方法に基づく場合でも、充電分極量の推定値が低い場合には相対的に高く、閾値に向けて充電分極量の推定値が増加するにつれて、次第に低下するように放電電流disを決定することができる。また、上述したように、充電分極量の推定値に対する放電電流disを逐一算出する必要が無く、比較的簡単な処理で放電電流disを決定することができる。
以上、説明した放電電流の決定処理によれば、鉛蓄電池22において発生している充電分極を解消し、充電受け入れ性能を向上し得る、適切な放電電流disを決定することができる。このため、充電前に放電を行うことで、結果的に得られる鉛蓄電池22の充電量を増大することが可能となる。
なお、上述した放電電流の決定処理では、鉛蓄電池22の充電率SOCに基づいて、充電分極量の推定値に対する放電電流disの関係を変更することができる。例えば、制御回路23は、鉛蓄電池22が満充電状態に近い場合には、放電電流disを相対的に小さく設定する。このような状態では、大きな放電電流での放電を行わなくても充電分極を十分解消し得るため、過度な放電により却って二次電池の充電量を失うことなく、結果的に得られる充電量を増大することができる。
また、制御回路23は、鉛蓄電池22の放電後の充電時に、オルタネータ24の発電電圧を、鉛蓄電池22を充電するために必要な電圧と比較してより高くなるよう設定してもよい。発電電圧を相対的に高くすることで、鉛蓄電池22への充電量をより増大することが可能となる。
なお、上述のフローチャートを参照した説明では、放電電流disの決定処理(図3、ステップS101からステップS104までの各処理)は、制御ユニット30が車両1の減速を検出する前に行っている。
しかしながら、制御ユニット30は、電池状態センサ27を動作させて、それぞれのパラメータについて異なるタイミングで検出または算出してもよい。例えば、制御ユニット30は、車両1の走行中、電池状態センサ27において所定の周期毎に放電電圧V及び電流Iの検出(図3、ステップS101)と、検出されたパラメータに基づいて充電率SOCの算出(図3、ステップS102)とを行ってもよい。他方で、制御ユニット30は、車両1の駐車時(例えば、走行終了後のエンジン10のオフ時)に充電分極量の算出を行い、メモリ232に格納してもよい。このような処理を行う場合、制御ユニット30は、鉛蓄電池22の放電電流disの決定のための処理時に、あらかじめ算出した鉛蓄電池22の充電分極量を読み取り、算出された充電率SOCと併せて、放電電流disの計算に用いてもよい。
一般的に、鉛蓄電池22の充電分極量は、車両1の駐車中など電池における電流の出入りのない状態では、時間経過とともに分極が解消され減少していくものの、直ちに大きく変動することはない。このため、車両1の駐車期間中にあらかじめ算出しておくことでも、比較的精度の高い値を得ることができ、また、放電電流disの決定のための処理を低減することができるとの利点もある。他方で、鉛蓄電池22の充電率SOCについては、車両1の走行中に生じる充放電によって変動することが考えられるため、走行中にも逐次算出されることが好ましい。
(4)放電の態様
制御回路23は、鉛蓄電池22の充電開始前に、上述の処理によって決定された放電電流disを放電する。このときの放電の態様について、説明する。図10は、図2に示される電力系統20のうち、鉛蓄電池22及び制御回路23を含む放電に係る部位について抜粋した図である。図10(a)ないし(c)は、それぞれ異なる態様で放電を行うための制御回路23の変形例、制御回路23aないし23cについて示すものである。
図10(a)に示される制御回路23aは、内部にスイッチ23aaと、抵抗23abとを備え、鉛蓄電池22とスイッチ23aaと抵抗23abとが直列に接続される閉回路を形成する。
このような制御回路23aにおいては、オルタネータ24の出力電圧を鉛蓄電池22の放電電圧より低減した状態で、スイッチ23aaを閉じることで、鉛蓄電池22から抵抗23abへと電流が供給され、放電が行われる。
他の例として、図10(b)に示される制御回路23bは、鉛蓄電池22と負荷26とを接続する回路内にスイッチ23baを備える。
このような制御回路23bによれば、オルタネータ24の出力電圧を鉛蓄電池22の放電電圧より低減した状態で、スイッチ23baを閉じることで、鉛蓄電池22から負荷26へと電流が供給され、放電が行われる。このとき、電流の供給を受ける負荷26は、車両1の電装部品の中でも、デフォッガやミラーヒータなど、動作をしても走行の安全を妨げないものであることが好ましい。
他の例として、図10(c)に示される制御回路23cは、内部にスイッチ23caと、キャパシタ23cbと、ダイオード23ccとを備える。制御回路23cは、スイッチ23caを介して、鉛蓄電池22とキャパシタ23cbが接続される回路を形成する。更に、制御回路23cにおいて、キャパシタ23cbは、スイッチ23caの接続方向において分岐し、鉛蓄電池22及び負荷26に対して電流を供給できるよう、ダイオード23ccを介して負荷26に接続される。キャパシタ23ccの、スイッチ23ca及びダイオード23ccと接続される端子の他方の端子は接地される。
このような制御回路23cによれば、オルタネータ24の出力電圧を鉛蓄電池22の放電電圧より低減した状態で、スイッチ23caを閉じることで、鉛蓄電池22からキャパシタ23cbへと電流が供給され、放電が行われる。放電により、キャパシタ23cbへ充電された電荷は、鉛蓄電池22または負荷26へ供給することができる。このため、制御回路23cは、充電開始前の放電時の電力を一時的に貯蔵し、鉛蓄電池22の再充電や、負荷26の動作に用いることができる。このため、放電による鉛蓄電池22の充電量の損失を低減させることが可能となる。
なお、更なる変形例として、制御回路23cは、キャパシタ23cbの代わりに、鉛蓄電池などの二次電池を備えていてもよい。このような構成でも、放電時の電力を一時的に貯蔵し、鉛蓄電池22の再充電や、負荷26の動作に用いることができる。このため、放電による鉛蓄電池22の充電量の損失を低減させることが可能となる。
制御回路23の構成については、上述した例以外でも、鉛蓄電池22の放電を実施可能な態様であれば適宜採用されてよく、好適には、車両1の走行を妨げることなく、鉛蓄電池22の放電を実施可能な回路構成である。
(5)放電電流の決定処理の変形例
放電電流の決定処理の変形例として、制御回路23は、算出された鉛蓄電池22の充電率SOCに基づいて放電電流disを決定してもよい。
具体的には、制御回路23は、例えば、あらかじめメモリ232に格納される、鉛蓄電池22の充電率SOCに対する効果的な放電電流を示すデータを参照して放電電流を決定する。
図11は、充電率SOCに対する放電電流disを示すグラフの一例である。図11に示されるように、充電率SOCが相対的に低い状態からの満充電後の充電分極量は、充電率SOCが相対的に高い状態からの満充電後の充電分極量と比較して相対的に高くなる傾向がある。このため、充電率SOCに対する放電電流disは、充電率SOCが相対的に低い状態では高く、充電率SOCが相対的に高い状態では低くなる。
上述のデータにおいて放電電流disは、充電率SOC毎、または所定の充電率SOCの範囲毎に一意的に決定される。例えば、図11のグラフに示される例では、充電率SOCが0%から20%の間では一定であった放電電流disが、充電率SOCの増大に伴って、低減していく様子が示される。なお、充電率SOCと放電電流disとの関係を示すデータは、例えばあらかじめ行われた実験やシミュレーションによって取得されることが好ましい。
このように放電電流を決定することで、鉛蓄電池22の充電率SOCから充電分極量を推定する必要がなくなり、上述のデータを参照することで比較的簡単な処理で放電電流disを決定することができる。したがって、放電電流の決定処理に要する時間を短縮した上で、上述した放電電流の決定処理と同様の利点を得ることが可能となる。
なお、実施形態においては、放電電流disを決定する基準となる鉛蓄電池22の状態として、鉛蓄電池22の充電率SOCや、生じている分極量の推定値を用いている。しかしながら、鉛蓄電池22に生じている充電分極を解消し得る適切な放電電流を決定することが可能であれば、鉛蓄電池22の状態を定性的または定量的に示すその他何らかの指標を用いてもよい。
本発明は、上述した実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う充電制御装置及び方法もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。