JP2014145126A - 高強度、高耐熱電解銅箔及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】pH4以下の酸性条件において酸化物として存在する金属またはその酸化物と、銅と共析する金属とを含む電解銅箔、及びその製造方法。
【選択図】なし
Description
この要求を満たす銅箔として従来は圧延銅合金箔が使用されている。圧延銅合金箔は300℃程度の温度では焼鈍されにくく、加熱時の寸法変化が小さく、機械的強度変化も少ない。
例えば、Cu−0.2mass%Cr−0.1mass%Zr−0.2mass%Zn(Cu−2000ppmCr−1000ppmZr−2000ppmZn)のような圧延銅合金箔は、TSA法サスペンションの他、HDDサスペンション材としても好適に使用されている。
TAB製品においては、製品のほぼ中央部に位置するデバイスホールに配されるインナーリード(フライングリード)に対し、ICチップの複数の端子を直接ボンディングする。
このときのボンディングは、ボンディング装置(ボンダー)を用いて、瞬間的に通電加熱して、一定のボンディング圧を付加して行う。このとき、電解銅箔をエッチング形成して得られたインナーリードは、ボンディング圧で引っ張られて伸びすぎるという問題がある。
例えば、特許文献1には、プリント配線板用途やリチウム二次電池用負極集電体用途に好適な銅箔として、180℃における伸び率が10.0%以上である低粗面電解銅箔が記載されている。
そして、硫酸−硫酸銅水溶液を電解液とし、ポリエチレンイミン又はその誘導体、活性有機イオウ化合物のスルホン酸塩、濃度20〜120mg/Lの塩素イオン(塩化物イオン)及び所定濃度のオキシエチレン系界面活性剤を存在させることによって、上記の電解銅箔が得られるとしている。
そして硫酸−硫酸銅水溶液を電解液として、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレンイミン、活性有機イオウ化合物のスルホン酸塩、アセチレングリコール、及び濃度20〜120mg/Lの塩化物イオンを存在させて上記の電解銅箔が得られるとしている。
この電着銅箔は、23℃における最大引張強さが87,000〜120,000psi(600MPa〜827MPa)の範囲にあり、180℃における最大引張強さが25,000〜35,000psi(172MPa〜241MPa)である、としている。
そこで本発明者等は、硫酸−硫酸銅電解液中にタングステン若しくはタングステン化合物を加え、さらにニカワと20〜120mg/Lの塩化物イオンを加えた電解液で電析させる実験を繰り返し行って、特許文献4が、目的とする180℃における熱間伸び率が3%以上であり、粗面の粗さが大きく、ピンホール発生の少ない銅箔を製造することができることを追試した。しかし、この銅箔を分析した結果、この電解銅箔中には、タングステンが共析していないことが判明した。即ち、電解銅合金箔(銅−タングステン系銅合金箔)を得ることができなかった(後述する比較例4参照)。
従って、特許文献4に記載の方法では、常態で大きな機械的強度を備え、高温で加熱しても機械的強度が低下しにくい電解銅合金箔を製箔することができない。
この原因等についての見解は後述する。
特許文献6には、硫酸酸性硫酸銅電解液中に、銅イオン、硫酸イオン及び錫イオンと、ポリエチレングリコールなどの有機添加剤とを含有させ、酸素含有ガスでバブリング処理して電解液中にSnO2超微粒子を生成させ、この電解液を用いて前記分散強化型電解銅箔を得ることが記載されている。
特許文献7には、この電解銅箔を、所定濃度の銀イオンを与える銀塩を添加した硫酸酸性硫酸銅電解液を用いて電解銅箔を得ることが記載されている。銀はこの電解銅箔中に共析して存在しているとされている。
有機添加剤は通常は結晶の成長を抑制する効果のあるものが多く、結晶粒界に取り込まれると考えられている。この場合、結晶粒界に取り込まれる有機添加剤の量が多いほど機械的強度が向上する傾向にある(特許文献5参照)。
有機添加剤が結晶粒界に取り込まれた特許文献1〜4及び6に記載された電解銅箔の場合、いずれも常態での機械的強度が大きいものの、約300℃といった高温で加熱した場合には著しく機械的強度が低下する。これは、結晶粒界に取り込まれた有機添加剤が約300℃といった高温で加熱した場合には分解してしまい、その結果として機械的強度が低下するものと考えられる。
さらに本発明は、従来は冶金的には銅との合金形成が不可能であった金属を電解銅箔中に取り込ませることによって、高導電率、高抗張力かつ耐熱性に優れた電解銅箔を提供することを別の課題とする。
また、本発明者らは、pH4以下の液中では酸化物として存在する金属の金属塩及び電解銅箔中に銅と共析する金属の金属塩を溶解した水溶液と、硫酸銅水溶液とを混合して得た電解液であって、塩化物イオン濃度を所定の低濃度に調整した電解液を使用して製箔を行なうことで、該金属の酸化物の超微粒子及びその一部が還元された金属の超微粒子、及び銅と共析する金属を電解銅箔に取り込ませて、高導電率、高抗張力かつ耐熱性に優れた電解銅箔が得られることを見出した。
本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
(1)pH4以下の酸性条件において酸化物として存在する金属またはその酸化物と、銅と共析する金属とを含む電解銅箔。
(2)pH4以下の酸性条件において酸化物として存在する金属またはその酸化物を金属として10ppm以上含む請求項1に記載の電解銅箔。
(3)銅と共析する金属を100ppm以上含む請求項1または2に記載の電解銅箔。
(4)pH4以下の酸性条件において酸化物として存在する金属は、W、Mo、Ti、Teのいずれかである請求項1〜4のいずれかに記載の電解銅箔
(5)銅と共析する金属はAg、Biのいずれかである請求項1〜4のいずれかに記載の電解銅箔
(6)300℃加熱処理後の抗張力が900MPa以上である請求項1〜5のいずれかに記載の電解銅箔。
(7)導電率が70%IACS以上である請求項1〜6のいずれかに記載の電解銅箔。
(8)硫酸銅水溶液と、上記金属の金属塩の水溶液と、3mg/L以下の塩化物イオンとを含有してなる電解液を用いて製造された請求項1〜7のいずれか1項に記載の電解銅箔。
(9)硫酸銅水溶液と上記金属の金属塩の水溶液との混合液に、3mg/L以下の塩化物イオン濃度となるように塩酸若しくは水溶性塩素含有化合物を添加して電解液を準備し、前記電解液を用いて電解析出により電解銅箔を製造する請求項1〜8のいずれか1項に記載の電解銅箔の製造方法。
本発明において「pH4以下の酸性条件」とは好ましくは、水溶液中における条件である。また、「pH4以下の酸性溶液中で酸化物として存在する金属」とは、例えば、M.PourbaixのAtlas of electrochemical equilibria in aqueous solutions. Pergamon Press(1966)に示される電位−pH図において、4以下のpHで酸化物として存在する金属成分から選択し、これらの金属成分を添加した電解液についてDLS(動的光散乱法:Dynamic Light Scattering)による粒度分布測定を実施した結果、添加金属成分が固体粒子として検出されたものをいう。
本明細書において、pH4以下の液中では酸化物として存在する金属またはその酸化物を「分散析出金属」ともいい、電解銅箔中に銅と共析する金属を「共析金属」ともいう。また、前記分散析出金属及び共析金属を合わせて、電解銅箔中に取り込まれた金属という。なお、ここで機械的強度とは引張強さ、0.2%耐力等を指す。
この本発明の電解銅箔は、フレキシブルプリント配線板(FPC)やリチウムイオン二次電池用負極集電体などの各種用途に好適に用いることができる。
また、本発明の電解銅箔の製造方法は、簡便な手法で前記電解銅箔を製造する方法として好適なものである。
本発明の電解銅箔は、pH4以下の水溶液などの酸性条件では酸化物として存在する金属(分散析出金属)をその酸化物の超微粒子としてまたは還元された金属の超微粒子として含む。同時に、本発明の電解銅箔は、銅と共析する金属(共析金属)を金属格子中に含む。本発明の電解銅箔は、塩素を10ppm未満(塩素フリー、つまり塩素含有量0ppmの場合も含む)の量で含有することが好ましく、塩素を1ppm未満の量で含有することがさらに好ましい。
まず、前記のpH4以下の酸性条件中、好ましくは硫酸酸性の液中では酸化物として存在する金属(分散析出金属)としては、W、Mo、TiまたはTeの少なくとも1種であることが好ましい。さらに好ましくは、これらの金属種の内のいずれか1種を含む。
電解銅箔中でのこれらの金属の含有量(取り込み量)は、該金属として換算して80〜2610ppmが好ましく、100〜2500ppmがより好ましく、110〜2460ppmがさらに好ましく、210〜2460ppmが特に好ましい。この含有量が少なすぎると、耐熱効果が著しく減少し、例えば300℃で加熱した後の抗張力が常態の抗張力に対する比として80%以下と低くなってしまう。一方、この含有量が多すぎると、前記抗張力の向上効果にそれ以上の改善が見られず、また、導電率が低下する。
電解銅箔中でのこれらの金属の含有量(取り込み量)は、該金属として換算して100ppm以上であることが好ましい。この含有量が少なすぎると、耐熱効果が著しく減少し、例えば300℃で加熱した後の抗張力が常態の抗張力に対する比として80%以下と低くなってしまう。
一定重量の電解銅箔を酸で溶解した後、ICP発光分光分析法により溶液中の析出金属及び共析金属の含有量を求めた。
しかし、本発明の電解銅箔では、2種類の取り込み機構で取り込ませることでそれぞれの取り込み機構の上限いっぱいまで取り込ませることができるため、単一の取り込み機構よりも取り込み量を増やす(耐熱性を向上させる)ことができる。
また、本発明の電解銅箔では、電解析出により超微粒子として金属を取り込み、その超微粒子が周囲の結晶組織に影響して再結晶化の阻害作用を奏する。これにより、分散析出金属は、母材に取り込まれることなく超微粒子のまま結晶粒界にとどまり、常態、加熱後の強度を飛躍的に向上させる。また、本発明の電解銅箔では、共析により母相の格子自体が純銅とは異なるため再結晶に必要なエネルギーを異ならせる作用を奏する。これにより、加熱による熱軟化が生じにくいために、加熱後の強度低下を抑制若しくは強度を向上させる。
上記の作用の相乗効果によって、本発明の電解銅箔は、単一の取り込み機構ではなし得なかった高強度性かつ高耐熱性を有する。
本発明の電解銅箔中では、銅が共析金属とともに合金をなして微細結晶粒として母材をなしており、前記分散析出金属の金属酸化物及びその一部が還元された金属が超微粒子として母材に分散している。
母材である、銅と共析金属とがなす微細結晶粒の粒子サイズ(GS)は、好ましくは5〜500nmであり、さらに好ましくは5〜50nmである。
一方、前記分散析出金属の金属酸化物の超微粒子の粒子径は、好ましくは0.5〜100nmであり、さらに好ましくは0.5〜2nmである。また、前記分散析出金属の金属酸化物の一部が還元された金属が超微粒子として存在する場合、その粒子径は好ましくは0.5〜20nmであり、さらに好ましくは0.5〜2nmである。
銅と共析金属とがなす合金の微細結晶粒の粒子径は、銅箔の研磨した表面をSIM(走査イオン顕微鏡法)により、観察した画像を画像処理して測定して平均粒径を求めることができる。
一方、分散析出金属の粒子径は、小角X線散乱法を用いて測定することができる。小角X線散乱は、バルク試料における1nm〜1μmの物体のサイズや形状、ナノスケールの原子・分子の分布・揺らぎを直接測定する方法である。
q=4πsinθ/λ・・・(1)
以上の測定解析を行い、分散析出金属の粒子径を求めることができる。
本発明の電解銅箔は、次の製造方法によって製造することができる。
まず、硫酸銅水溶液と前記分散析出金属及び共析金属の金属塩の水溶液との混合液に、3mg/L以下の塩化物イオン濃度となるように塩酸若しくは水溶性塩素含有化合物を添加して電解液を準備し、前記電解液を用いて電解析出により電解銅箔を製造する。
1.電解液組成
電解液として、銅イオン濃度50〜120g/L、遊離の硫酸イオン濃度30〜150g/L、塩化物イオン濃度3mg/L以下に調製した硫酸銅含有水溶液を基本の電解液組成とする。ここで、本発明において、塩化物イオンを含まないとは、塩化物イオン濃度が3mg/L以下であることをいう。
銅イオンと遊離の硫酸イオンは、硫酸銅水溶液を前記各イオン濃度を与えるように調整すれば得られる。あるいは、所定の銅イオン濃度を与える硫酸銅水溶液に、追加で硫酸を加えてこれらのイオン濃度を調整してもよい。
塩化物イオンは、塩酸若しくは水溶性塩素含有化合物によって与えればよい。水溶性塩素含有化合物としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウムなどを用いることができる。
2.金属ないし金属塩の添加
前記金属の塩を溶解させた金属塩水溶液をpH4以下の電解液、好ましくは硫酸酸性の電解液に添加することで、金属酸化物の超微粒子を電解液中に分散させ、これを電解析出時に銅箔中に取り込む。
まず、分散析出金属の金属塩としては、水(pHがpH4より高くpH9未満)、アルカリ(pH9以上)、熱濃硫酸などの溶媒中でイオン化し、pH4以下では酸化物となるものであればよく、その種類に特に制限はない。これらの金属塩の例としては、金属がWやMoであれば各々その酸素酸塩を、金属がTiであればその硫酸塩を挙げることができる。例えば、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カリウム、タングステン酸アンモニウムなどのタングステン酸塩、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸アンモニウムなどのモリブデン酸塩、硫酸チタンなどのチタン塩を用いることができる。
また、厳密には金属塩に該当しないが、溶媒中でイオン化し、pH4以下では酸化物となるものであればよい。例えば酸化テルルは、熱濃硫酸中でイオン化するため、本発明に用いることができる。
3.製造条件
電解析出時の条件は以下の通りである。
電流密度30〜100A/dm2
温度30〜70℃
以上の条件で、箔厚が例えば12μmの電解銅箔を製造することができる。
電解液中の塩化物イオンを3mg/L以下の低濃度に抑えるのは、分散析出金属の金属酸化物超微粒子の析出時に塩素が銅表面に特異吸着することによって、金属酸化物超微粒子の吸着を阻害することを防ぐためである。塩化物イオンの濃度が3mg/Lよりも高いと、電解銅箔中への金属の取り込みが減少し、抗張力、耐熱性の向上効果が急激に低下する。
銅箔を含めて金属材料は、再結晶温度以上に加熱することによって再結晶して結晶粒が粗大化し、その結果、強度が低下する。ここで、再結晶過程の起点となるのは転位(格子欠損等の不安定な状態)の移動である。本発明の電解銅箔においては、金属酸化物超微粒子が母相内に分散することによって、該微粒子周囲の転位の移動を阻害する。従って、より高温で加熱しなければ軟化しないので、高い耐熱性が得られる。
本書においては、このことを「転位の阻害効果が高い」という。
本発明の電解銅箔の箔厚には特に制限はなく、使用用途での要求箔厚に応じて調整すればよい。例えば、フレキシブルプリント配線板(FPC)用には3〜20μmとすればよい。一方、リチウムイオン二次電池用負極集電体用には5〜30μmとすればよい。
本発明の電解銅箔は、導電率が55%IACS以上であることが好ましく、65%IACS以上であることがさらに好ましく、70%IACS以上であることが特に好ましい。導電率の上限には特に制限はなく、100%IACSを超える場合もある。
本発明の電解銅箔は、常態における抗張力の値が500MPa以上であることが好ましく、 600 MPa以上であることがさらに好ましい。常態における抗張力の上限には特に制限はなく、通常1100MPa以下である。
本発明の電解銅箔は、300℃加熱処理後の抗張力の値の常態での抗張力の値に対する比が50%以上であることが好ましく、80%以上であることがさらに好ましく、この比が90%以上であることが特に好ましい。この比の上限には特に制限はなく、100%を超える(つまり、加熱後に抗張力が増加する)場合もある。
ここで、分散析出金属としてタングステンを含有するとは、タングステン酸化物の超微粒子として母材中に分散されて存在することをいう。ただし、タングステンの母材への取り込み過程でタングステン酸化物のごく一部が金属タングステンに還元されて取り込まれている場合もある。本発明において電界銅合金箔がタングステンを含むとは、タングステン酸化物の超微粒子が母材中に分散して存在している場合の他に、このような金属タングステンの超微粒子として母材中に分散して存在している場合も含める意味である。
本書においては、このようなタングステン酸化物の超微粒子と金属タングステンの超微粒子を合わせて、電解銅箔中に含まれるタングステンと称する。
また、共析金属として銀を含有するとは、銀を銅と共析させて金属格子に取り込み(合金化して)存在することをいう。
タングステンの添加量を増加するに従って300℃×1H加熱後の強度の低下は小さくなるが、含有量がある程度多くなるとその効果は飽和してくる。その有効な添加量の上限は2000ppm程度である。
なお、成分の含有量表示に使用した単位「ppm」は、「mg/kg」を意味する。また、0.0001mass%=1ppmである。
電解液に含有されるタングステン塩としては、硫酸−硫酸銅溶液中で溶解するものであればよく、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸カリウム等を挙げることができる。また電解液に含有される銀としては、硝酸銀、塩化銀、酸化銀等を挙げることができる。
また、低塩化物イオン濃度の電解液中の銀イオンが、電析により銅と共析し、銅と銀で母材を形成する。
即ち、本発明の電解銅箔は、低塩化物イオン濃度の硫酸−硫酸銅電解液であってタングステン酸化物及び銀イオンを含む電解液から電解析出により形成する。このタングステン酸化物を含む硫酸−硫酸銅電解液中では、タングステン塩からタングステン酸イオン(WO4 2−或いはWO5 2−等)を経てタングステン酸化物が超微粒子状に形成されていると考えられる。
上述したように、タングステン成分としては、硫酸−硫酸銅電解液中でタングステン酸イオン(WO4 2−或いはWO5 2−等)を経てタングステン酸化物(WO3、W2O5、WO2等)または金属タングステンの各々の超微粒子が形成されると考えられる。この電解液により銅電析を行い銅合金箔を形成すると、タングステン酸化物(WO3、W2O5、WO2等)または金属タングステンの各々の超微粒子がその超微粒子状のまま結晶粒界に吸着される。その結果、結晶核の成長が抑制され、結晶粒が微細化され、常態で大きな機械的強度を備えた電解銅箔が形成される。
また、本実施形態の電解銅箔は、電解析出により、タングステン酸化物(WO3、W2O5、WO2等)または金属タングステンの各々の超微粒子が結晶粒界に取り込まれている。この超微粒子が周囲の結晶組織に影響して再結晶化の阻害作用を奏する。これにより、銅−有機化合物−塩素化合物の場合とは異なり、分散析出金属であるタングステンは、母材に取り込まれることなく、タングステン酸化物(WO3、W2O5、WO2等)または金属タングステンの各々の超微粒子のまま結晶粒界にとどまり、常態、加熱後の強度を飛躍的に向上させる。
加えて、本実施形態の電解銅箔においては、母材として、銀イオンが銅と共析して金属格子に取り込まれている。その共析により母相の格子自体が純銅とは異なるため再結晶に必要なエネルギーを異ならせる作用を奏する。これにより、加熱による熱軟化が生じにくいために、加熱後の強度低下を抑制若しくは強度を向上させる。
上記の作用の相乗効果によって、本発明の電解銅箔は、単一の取り込み機構ではなし得なかった高強度性かつ高耐熱性を有する。
従って、常態の機械的強度が大きく、300℃程度の高温で加熱した後でも機械的強度の低下が小さく、これまでの有機添加剤を用いた硫酸−硫酸銅系の電解液により製造された電解銅箔には見られない優れた特徴を有する。
上記の実施形態はタングステンと銀とを用いた例であるが、本発明においては、他の分散析出金属と共析金属とを用いた場合も同様である。
前述のようにFPCの場合は、ポリイミドをキャスト或いは加熱ラミネートした後に一定以上の強度が必要である。
また、リチウムイオン二次電池用負極集電体では、バインダーにポリイミドを使用した場合、ポリイミドを硬化させるため負極に加熱処理を行う。この加熱後に銅箔が軟化して、その強度が小さくなりすぎると、充電放電時に活物質の膨張収縮の応力が銅箔に加わり、銅箔に変形が起こる場合がある。さらに著しい場合には銅箔が破断が発生する場合がある。従って負極集電体用銅箔は、加熱後に一定以上の強度が必要である。
このように、フレキシブルプリント配線板(FPC)とリチウムイオン二次電池用負極集電体のいずれの場合でも、ポリイミドの加熱硬化には300℃位の温度で加熱が行われる。従って、銅箔は300℃×1H程度の温度で加熱されても、その後に一定以上の強度が必要である。
本発明の電解銅箔においては、これらの機械的機特性の合格レベルの目安は、各項目について以下の通りである。180℃加熱後の引張強さがTS≧310MPa、0.2%耐力がYS≧200MPa、伸びがEl≧1.5%である。300℃×1H加熱後の引張強さがTS≧280MPa、0.2%耐力がYS≧150MPa、伸びがEl≧2.5%である。また、300℃×1H加熱後の抗張力の常態での抗張力に対する比(%)は、60%以上である。
[電解液の調製]
銅濃度50〜120g/L、フリーの硫酸濃度30〜150g/L、塩化物イオン濃度3mg/L以下に調製した硫酸銅溶液を基本溶液とした。
この基本溶液を基に、下記のとおり実施例1〜10及び比較例1〜8の試料を作成するための電解液を調製した。
タングステン(IV)酸二ナトリウムを純水に溶解し、タングステンとして150mg/Lとなるように基本浴に添加した。硝酸銀を銀として10mg/Lとなるように基本浴に添加し、実施例1の電解液とした。
タングステン(IV)酸二ナトリウムを純水に溶解し、タングステンとして30mg/Lとなるように基本浴に添加した。硝酸銀を銀として10mg/Lとなるように基本浴に添加し、実施例2の電解液とした。
タングステン(IV)酸二ナトリウムを純水に溶解し、タングステンとして200mg/Lとなるように基本浴に添加した。硝酸銀を銀として10mg/Lとなるように基本浴に添加し、実施例3の電解液とした。
タングステン(IV)酸二ナトリウムを純水に溶解し、タングステンとして150mg/Lとなるように基本浴に添加した。硝酸銀を銀として1mg/Lとなるように基本浴に添加し、実施例4の電解液とした。
タングステン(IV)酸二ナトリウムを純水に溶解し、タングステンとして150mg/Lとなるように基本浴に添加した。硝酸銀を銀として200mg/Lとなるように基本浴に添加し、実施例5の電解液とした。
タングステン(IV)酸二ナトリウムを純水に溶解し、タングステンとして150mg/Lとなるように基本浴に添加した。酸化ビスマスをビスマスとして500mg/Lとなるように基本浴に添加し、実施例6の電解液とした。
タングステン(IV)酸二ナトリウムを純水に溶解し、タングステンとして150mg/Lとなるように基本浴に添加した。酸化ビスマスをビスマスとして50mg/Lとなるように基本浴に添加し、実施例7の電解液とした。
モリブデン(IV)酸二ナトリウムを純水に溶解し、モリブデンとして20mg/Lとなるように基本浴に添加した。硝酸銀を銀として50mg/Lとなるように基本浴に添加し、実施例8の電解液とした。
硫酸チタンを純水に溶解し、チタンとして5g/Lとなるように基本浴に添加した。硝酸銀を銀として30mg/Lとなるように基本浴に添加し、実施例9の電解液とした。
酸化テルルを熱濃硫酸中で溶解し、テルルとして10g/Lとなるように基本浴に添加した。硝酸銀を銀として30mg/Lとなるように基本浴に添加し、実施例9の電解液とした。
タングステン(IV)酸二ナトリウムを純水に溶解し、タングステンとして150mg/Lとなるように基本浴に添加し、比較例1の電解液とした。
モリブデン(IV)酸二ナトリウムを純水に溶解し、モリブデンとして20mg/Lとなるように基本浴に添加し、比較例2の電解液とした。
硫酸チタンを純水に溶解し、チタンとして5g/Lとなるように基本浴に添加し、比較例3の電解液とした。
酸化テルルを熱濃硫酸中で溶解し、テルルとして10g/Lとなるように基本浴に添加し、比較例4の電解液とした。
特許文献6の実施例に基づいて比較例5の電解液を作成した
硝酸銀を銀として200mg/Lとなるように基本浴に添加し、比較例6の電解液とした。
特許文献7の実施例に基づいて比較例7の電解液を作成した。
酸化ビスマスをビスマスとして500mg/Lとなるように基本浴に添加し、比較例8の電解液とした。
電流密度=30〜100A/dm2
温度=30〜70℃
本実施例における銅合金箔の機械的機特性の合格レベルの目安は、各測定項目について以下の通りである。常態での引張強さ(抗張力)がTS≧500MPaである。300℃×1H加熱後の引張強さ(抗張力)がTS≧280MPaである。また、300℃×1H加熱後の抗張力の常態での抗張力に対する比(%)は、60%以上である。導電率は、50%IACS以上である。
また、実施例8の電解銅箔は、比較例2の電解銅箔と比較して、同じMoを金属酸化物としてほぼ同程度に取り込んでいても、上記と同様に加熱後の強度及び導電率がともに優れていた。実施例9の電解銅箔と比較例3の電解銅箔との比較、実施例10の電解銅箔と比較例4の電解銅箔との比較においても同様であった。
14 入射X線
15 シャッター
17 モノクロメーター
19 第1ピンホール
21 第2ピンホール
23 減衰器
25 第3ピンホール
27 試料
29 透過X線
31 散乱X線
33 ビームストッパー
35 検出器
Claims (9)
- pH4以下の酸性条件において酸化物として存在する金属またはその酸化物と、銅と共析する金属とを含む電解銅箔。
- pH4以下の酸性条件において酸化物として存在する金属またはその酸化物を金属として10ppm以上含む請求項1に記載の電解銅箔。
- 銅と共析する金属を100ppm以上含む請求項1または2に記載の電解銅箔。
- pH4以下の酸性条件において酸化物として存在する金属は、W、Mo、Ti、Teのいずれかである請求項1〜4のいずれかに記載の電解銅箔
- 銅と共析する金属はAg、Biのいずれかである請求項1〜4のいずれかに記載の電解銅箔
- 300℃加熱処理後の抗張力が900MPa以上である請求項1〜5のいずれかに記載の電解銅箔。
- 導電率が70%IACS以上である請求項1〜6のいずれかに記載の電解銅箔。
- 硫酸銅水溶液と、上記金属の金属塩の水溶液と、3mg/L以下の塩化物イオンとを含有してなる電解液を用いて製造された請求項1〜7のいずれか1項に記載の電解銅箔。
- 硫酸銅水溶液と上記金属の金属塩の水溶液との混合液に、3mg/L以下の塩化物イオン濃度となるように塩酸若しくは水溶性塩素含有化合物を添加して電解液を準備し、前記電解液を用いて電解析出により電解銅箔を製造する請求項1〜8のいずれか1項に記載の電解銅箔の製造方法。
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