JP2014141976A - ベルト式無段変速機のエレメントとベルト - Google Patents

ベルト式無段変速機のエレメントとベルト Download PDF

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Abstract

【課題】摩擦損失を低減すると共に、耐久性を向上させることができるベルト式無段変速機のエレメントを提供すること。
【解決手段】本発明のベルト式無段変速機のエレメントでは、プーリ押し付け力を支えるボディ部4aと、ボディ部4aの幅方向中央部から延在されたネック部4bと、ネック部4bの両側に形成されて一対のリング3,3が挿入される一対のサドル溝4d,4dと、を有し、ボディ部4aは、各サドル溝4dの内側に形成された一対の凹部4h,4hと、各サドル溝4dの開放側端部に形成された一対の凸部4i,4iと、隣接するエレメントに対してベルト周方向の揺動中心となるロッキングエッジ部4gと、ロッキングエッジ部4gよりもイヤー部4c側に形成されると共に、各凸部4iのベルト回転方向の前側面4mに形成された当接面4j,…と、を有する。
【選択図】図3

Description

本発明は、ベルト式無段変速機のプーリに掛け渡されるベルトと、このベルトを構成するエレメントに関するものである。
従来、板状のエレメントをその板厚方向に多数積層し、2組のリングをエレメント両サイドに挟み込むことによって結束して無段変速機用ベルトが構成されている。そして、このベルトによる動力伝達時において、エレメントとリングが相対的に滑ることで生じる摩擦損失を軽減するため、隣接するエレメントに対して、ベルト周方向の揺動中心となるロッキングエッジと、リングの内周面が接触するリング接触面とを、同じ高さにしたエレメントが知られている(例えば、特許文献1参照)。
特開2000-65153号公報
しかしながら、従来のベルト式無段変速機のエレメントにあっては、プーリからエレメントに伝達されるトルクがエレメント両側のフランク部を介して入力した際、この入力トルクにより、ベルト回転方向前側のエレメントに、後側のエレメントの幅方向中央部のみが接触して押す。
すなわち、従来のエレメントは、幅方向両側部に一対のリング接触面が形成され、このリング接触面に挟まれた幅方向中央部にロッキングエッジが形成されている。ここで、リング接触面はロッキングエッジよりも後方に下がっているため、中央部以外の部分が前側のエレメントに接触することはない。これにより、中央部のみが前側エレメントに当接して、後ろ側のエレメントが前側のエレメントを押すことになり、エレメント幅方向中央部に応力が集中してしまう。そして、この応力集中のためにエレメントの耐久性が低下するおそれがあった。
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、エレメントとリングの滑りを抑えて摩擦損失を低減すると共に、応力集中を防止してエレメントの耐久性を向上させることができるベルト式無段変速機のエレメントとベルトを提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、板厚方向に多数積層し、2組のリングにより環状に固定されて無段変速機用ベルトを形成するベルト式無段変速機のエレメントにおいて、ボディ部と、ネック部と、一対のサドル溝と、を有する。
前記ボディ部は、前記ベルト式無段変速機のプーリの溝部に挟まれ、両側のフランク部でプーリ押し付け力を支えると共に、一対の凹部と、一対の凸部と、ロッキングエッジ部と、当接面と、を有する。
前記ネック部は、前記ボディ部の幅方向中央部から延在され、前記ボディ部と前記ボディ部の幅方向に延びるイヤー部を連結する。
前記一対のサドル溝は、前記ネック部の両側に形成され、前記ボディ部の両側方にそれぞれ開放して前記一対のリングがそれぞれ挿入される。
前記一対の凹部は、前記各サドル溝の内側に形成され、前記リングの内周面が接触するリング接触面を有する。
前記一対の凸部は、前記各サドル溝の開放側端部に形成され、前記リング接触面よりも前記イヤー部側に突出する。
前記ロッキングエッジ部は、ベルト回転方向の前側の面に形成され、隣接するエレメントに対して、ベルト周方向の揺動中心となる。
前記当接面は、前記ロッキングエッジ部よりも前記イヤー部側に形成されるとともに、前記各凸部の前記ベルト回転方向の前側の面に形成され、隣接するエレメントのベルト進行方向の後側の面に当接する。
よって、本発明のベルト式無段変速機のエレメントは、エレメントとリングが相対的に滑ることによって生じる摩擦損失を低減しつつ、エレメントの進行方向前側のエレメントを後ろ側のエレメントが押すときに生じる面圧の増大や応力集中を緩和して、エレメントの耐久性を向上することができる。
つまり、凹部を深くして、リング接触面をロッキングエッジに近づければ、リング内周面と揺動中心であるロッキングエッジとのオフセットを小さくなり、そのオフセットによって生じるエレメントとリングの滑りも小さくすることができる。また、凹部を深くして、リング接触面をロッキングエッジに近づけると、ロッキングエッジよりイヤー部側に形成される当接面の面積は、その分、小さくなり、前側のエレメントを押すときに生じる面圧が高くなる。この面圧は、プーリからトルクが入力されるボディ部の両側に近い所がより高くなるため、ボディ部の両端部に近い所から当接部分の摩耗が進むことになり、エレメントに偏った摩耗が生じることなる。これを回避しようとすると従来技術のように、エレメントの中央部のみに当接面を形成することが考えられる。しかし、これは、プーリからトルクが入力される位置と、前側のエレメントを押す位置とが離れることになるため、エレメントに生じる曲げモーメントが大きくなり、それともない応力集中も大きくなる。
これに対し、本発明のエレメントは、凸部に当接面を形成することにより、この応力集中を緩和している。つまり、凸部は、ボディの両側、つまり、プーリから伝達される入力トルクを受けるボディの側端部の近くに形成されるため、ボディの中央部だけに当接面を形成する場合に比べ、プーリから入力トルクが伝達される位置と、前側のエレメントを押す位置とを近くすることができる。このため、ボディに生じる曲げモーメントを小さくして応力集中を緩和し、エレメントの耐久性を向上することができる。
実施例1のエレメントをベルトに適用したベルト式無段変速機で最大減速状態の2組のプーリを示す斜視図である。 実施例1のエレメントを適用した無段変速機用ベルトの一部分を示す拡大斜視図である。 (a)は実施例1のエレメントを無段変速機用ベルトに適用したときの正面図であり、(b)は実施例1のエレメントの側面図であり、(c)は、図3(a)に示すA部の拡大図である。 (a)は第一比較例の無段変速機用ベルトの断面図であり、(b)は第一比較例の無段変速機用ベルトを構成したときのエレメントの側面図である。 積層リングとエレメントの間の滑り発生原理を説明する説明図であり、(a)は小径側を示し、(b)は大径側を示す。 第一比較例の無段変速機用ベルトにおける変速比とエレメント-リング間の滑り量との関係を示す図である。 (a)は第二比較例の無段変速機用ベルトの断面図であり、(b)は図7(a)におけるB−B断面図である。 実施例1のエレメントを適用した無段変速機用ベルトの要部説明図である。 実施例1のエレメントを適用した無段変速機用ベルトの変形例を示す正面図である。
以下、本発明のベルト式無段変速機のエレメント及びベルトを実現する形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
まず、構成を説明する。
図1は実施例1のエレメントをベルトに適用したベルト式無段変速機で最大減速状態の2組のプーリを示す斜視図である。図2は、実施例1のエレメントを適用した無段変速機用ベルトの一部分を示す拡大斜視図である。図3は、(a)は実施例1のエレメントを無段変速機用ベルトに適用したときの正面図であり、(b)は実施例1のエレメントの側面図であり、(c)は、図3(a)に示すA部の拡大図である。
実施例1のエレメントを適用したベルト式無段変速機は、入力側プーリ1と、出力側プーリ2と、両プーリ1,2間に掛け渡された無段変速機用ベルトVと、を有している。ここで、図外のエンジンからのトルクは、トルクコンバータ及び前後進切替機構を通して前記入力側プーリ1に伝わり、無段変速機用ベルトVを介して、前記出力側プーリ2から図外の減速歯車及びドライブシャフトを通じてタイヤに伝わる。
前記入力側プーリ1は、固定プーリ11とスライドプーリ12を有し、入力軸方向に溝幅を可変とする。前記出力側プーリ2は、固定プーリ21とスライドプーリ22を有し、出力軸方向に溝幅を可変とする。前記各プーリ11,12,21,22には、無段変速機用ベルトVと接触するシーブ面11a,12a,21a,22aを形成する。そして、前記スライドプーリ12,22は、ピストン油圧によりベルトを挟持する方向に押し付け力を発生させる。
無段変速機用ベルトVは、図2に示すように、2組の積層リング(リング)3,3と、板厚方向に多数枚重ねたエレメント4,…と、2組のスペーサリング(スペーサ)5,5と、を備えている。そして、この無段変速機用ベルトVは、図2に示すように、2組の積層リング3,3を、各エレメント4,・・・のサドル溝4d,4dにそれぞれ挿入し、2組の積層リング3,3でエレメント4,・・・を両側から挟み込み、多数のエレメント4,・・・を束ねて環状に固定すると共に、積層リング3の外周面の外側にスペーサリング5を挿入することで構成する。そして、この無段変速機用ベルトVを2組のプーリ1,2の間でトルクを伝達する時、エレメント4がプーリ外径方向に拡がろうとする力を積層リング3が支え、2組のプーリ1,2からの押し付け力をエレメント4が支える。
前記積層リング3は、厚さ0.2mmほどのマルエージング鋼相当の最高強度材料の薄板の両端を溶接して帯状のリングとし、僅かに径を異ならせた複数の帯状リングを内から外へ層状に重ね合わせることで構成する。なお、この積層リング3の断面形状は直方体状を呈している。
前記エレメント4は、厚さ2mm程度の鋼板により形成し、図3に示すように、ボディ部4aと、ネック部4bと、イヤー部4c,4cと、サドル溝4d,4dと、ノーズ部4eと、ホール部4fと、ロッキングエッジ部4gと、凹部4h,4hと、凸部4i,4iと、当接面4j,…と、を備えている。
前記ボディ部4aは、2組のプーリ1,2の溝部、つまり、シーブ面11a,12aや、シーブ面21a,22aの間に挟まれる板材である。このボディ部4aは、幅方向両側のフランク面(フランク部)4k,4kがプーリ1,2の各シーブ面11a,12a,21a,22aに接触してプーリ押し付け力を支える。
前記ネック部4bは、エレメント幅方向中央部から、プーリ外径方向に延在して形成される。このネック部4bは、ボディ部4aとイヤー部4c,4cを連結する。なお、このネック部4bは、ボディ部4aからの立ち上がり部分が滑らかなRとなっている。
前記イヤー部4c,4cは、ネック部4bの両側からエレメント幅方向に延在して形成される。なお、各イヤー部4c,4cの先端部は、フランク面4k,4kよりもエレメント内側に位置している。
前記サドル溝4d,4dは、ネック部4bの両側位置に、ボディ部4aとイヤー部4c,4cの間に画成される。そして、サドル溝4d,4dは、それぞれボディ部4aの両側方に開放し、2組の積層リング3,3がそれぞれ挿入される。
前記ノーズ部4eは、ネック部4bの上部中央位置に形成され、ベルト進行(回転)方向に突出する。
前記ホール部4fは、ノーズ部4eが嵌合可能な大きさのへこみであり、ノーズ部4eの設定位置に対応するエレメント背面位置、すなわちベルト進行方向の後側面4nに形成されている。
前記ロッキングエッジ部4gは、ボディ部4aのベルト進行(回転)方向の前側面4mに形成された凸部の頂上エッジ部であり、隣接するエレメント4に対して、ベルト周方向の揺動中心となる。
前記凹部4h,4hは、積層リング3の内周面3aが接触するリング接触面4oを有するへこみであり、各サドル溝4dの内側に形成されている。すなわち、この凹部4hは、ボディ部4aのイヤー部4cに臨む端面のうち、ネック部4bの両側をへこませることで形成されている。各凹部4h内には、それぞれ積層リング3が嵌合する。
前記凸部4i,4iは、リング接触面4oよりもイヤー部4c側に突出した突出部分であり、各サドル溝4dの開放側端部に形成されている。すなわち、この凸部4iは、ボディ部4aのイヤー部4cに臨む上面の両端部をリング接触面4oよりも突出させることで形成されている。なお、この凸部4iのリング接触面4oからの立ち上がり部分は、滑らかなRとなっている。
前記当接面4j,…は、各凸部4i及びネック部4bのベルト進行(回転)方向の前側面4mであって、ロッキングエッジ部4gよりもイヤー部4c側位置に形成されている。各当接面4jは、隣接するエレメント4のベルト進行方向の後側面4nに当接する。
さらに、このエレメント4では、エレメント4の高さ方向(図3(a)において上下方向)において、リング接触面4oとロッキングエッジ部4gを同じ高さレベルに設けている。また、リング接触面4oは、図3(c)に示すように、イヤー部4c側へ凸となる方向に弧状に僅かに湾曲した鞍形状を呈している。一方、積層リング3もリング接触面4oに沿うように鞍形状となっており、リング接触面4oの中心部とエレメント4の幅方向の中心部とが自動的に幅方向の位置で一致するように調芯可能となっている。
前記スペーサリング5,5は、テフロン製の帯状リングであり、凹部4hに嵌合した積層リング3とイヤー部4cの間に挿入され、この積層リング3とイヤー部4cとの間の寸法調整を行う。このスペーサリング5は、外側面5aがプーリ1,2の各シーブ面11a,12a,21a,22aに接触することで、自身のサドル溝4dからの脱落を防止する。さらに、このスペーサリング5は、内周面に段差部5bを設け、積層リング3及び凸部4iに接触しつつ、イヤー部4cとの間に一定の僅かな間隙H(ここでは0.15mm程度)を保持するようにしている。
次に、作用を説明する。
まず、「ベルト式無段変速機の特性」、「無段変速機用ベルトの課題」の説明を行い、続いて、実施例1のベルト式無段変速機のエレメントにおける作用を、「摩擦損失低減作用」、「エレメント耐久性向上作用」、「エレメント汎用化作用」に分けて説明する。
[ベルト式無段変速機の特性]
図4(a)は第一比較例の無段変速機用ベルトの断面図であり、(b)は第一比較例の無段変速機用ベルトを構成したときのエレメントの側面図である。図5は、積層リングとエレメントの間の滑り発生原理を説明する説明図であり、(a)は小径側を示し、(b)は大径側を示す。図6は、第一比較例の無段変速機用ベルトにおける変速比とエレメント-リング間の滑り量との関係を示す図である。
無段変速機用ベルトは、通常、多数のエレメント100,…と、2組の積層リング200,200と、から構成される。
前記エレメント100は、厚さ2mm前後の鋼板を精密に打ち抜いて形成され、両サイドにプーリと接するフランク面101,101を有している。前記積層リング200は、厚さ0.2mm程度のマルエージング鋼の薄板を円環状にしたリングを層状に重ね合わせて形成される。そして、無段変速機用ベルトにおいては、数百個のエレメント100,…がその板厚方向に重ねられ、各エレメント100の両側に設けられた一対のサドル溝102,102に左右から、2組の積層リング200,200が挿入されて環状に固定される。
ここで、エレメント100の前面、すなわちベルト進行(回転)方向の前側面103は凸状になっている。ベルトが円弧状になったときにはエレメント100も円弧状に配列されなければならないため、エレメント100は、この凸状の前側面103の頂上であるロッキングエッジ部104を支点として、ベルト周方向に揺動する。ここで、プーリ中心からこのロッキングエッジ部104までの長さをベルトのピッチ半径Pと定義する。無段変速機の変速比は、両プーリのピッチ半径Pの比率で決まる。
そして、無段変速機用ベルトにトルクが加わると、隣接するエレメント間には大きな圧縮力が作用し、ロッキングエッジ部104よりも上側の部分がベルト進行(回転)方向前側のエレメントに接触してトルクが伝達される。このとき、エレメント100の表裏には高精度の平行度が要求される。
その高精度の平行度はなるべく広い方が安定するため、エレメント100のロッキングエッジ部104は、エレメント100の幅一杯に設定される。そのため、ロッキングエッジ部104からサドル溝102のリング接触面102aまでの間に、高さ寸法ΔH1ほどの高精度な平面である当接面105が確保される。
しかしながら、この当接面105をエレメント100の幅一杯に確保することで、エレメント100と積層リング200との接触面であるリング接触面102aは、ピッチ半径PよりもΔH1ほどプーリ外径方向にオフセットしてしまう。さらに、積層リング200はΔH2ほどの厚みを有しているため、積層リング200のうち最外周のリングは、ピッチ半径PよりもΔH1+ΔH2ほど、さらに外側にオフセットすることになる。
そして、この積層リング200とピッチ半径Pとの間に生じるオフセットにより、ベルト内部には滑りが発生する。なお、この滑りは、等速変速比以外の変速比であって、プーリに巻き付いたベルトの巻付半径が小径側で発生し、大径側では発生しない。
このベルト滑りが発生する原理を以下に示す。無段変速機用ベルトにおいて、図5に示すように、巻付半径大径側でエレメント100、積層リング200の速度が決まる。プーリへのベルト巻付半径が大径側では、エレメント100と最内周リング201の間が滑らないからである。ベルトは、この大径側で決まった速度のまま小径側に巻き付くことになるが、このとき、小径側プーリはエレメント100の速度で回転する。そのため、大径側と半径が異なる小径側のベルトにおいて、上述のオフセットに応じて滑りが発生する。つまり、エレメント100及び積層リング200が大径側で決まった速度のまま小径側で回転し、小径側でも大径側の速度を保つと、エレメント100の移動軌跡であるピッチ半径PよりもΔH1外径側にオフセットした最内周リング201では、大径側の最内周リング201の速度より速度差Xの分だけ速くなる。そのため、小径側でエレメント100と最内周リング201間に滑りが生じる。
さらに、同様に層状の積層リング内でも、リング1枚ごとに板厚分だけ外径方向にオフセットしていくため、リング間でも滑りが生じる。最内周リング201とエレメント100の間はオフセット量がΔH1で計算され、リング間のオフセット量はリング板厚で計算される。しかも、全てのリング積層箇所で滑りが生じるため、リング積層枚数が増加するに従い滑り箇所が多くなる。図6に変速比と滑り量の関係を示す。なお、入力軸回転数は6000rpmである。このとき、ハイ変速比の方がロー変速比よりも滑り量が大きくなることがわかる。
そして、この滑りが発生すると、ベルトを回転させるだけでも摩擦損失が発生してしまうという問題が生じる。
[無段変速機用ベルトの課題]
図7(a)は第二比較例の無段変速機用ベルトの断面図であり、(b)は図7(a)におけるB−B断面図である。
第二比較例の無段変速機用ベルト300では、積層リング200とピッチ半径Pとの間に生じるオフセットによってベルト滑りが発生することに着目し、図7(a)に示すように、エレメント301と積層リング302との接触面であるリング接触面303と、ピッチ半径Pを決定するロッキングエッジ部304を、エレメント301の高さ方向、すなわちプーリ径方向において、同じ高さレベルに設定した。これにより、積層リング302の内周面とピッチ半径Pの間に生じるオフセット量はゼロになり、変速比に拘らずエレメント301と最内リング間に滑りが生じなくなる。そしてこれにより、摩擦損失の低減を図ることができる。
しかしながら、この無段変速機用ベルト300におけるエレメント301では、エレメント301の幅方向両側部に一対のリング接触面303が形成され、このリング接触面303に挟まれた幅方向中央部のみにロッキングエッジ部304が形成されている。ここで、図7(b)に示すように、リング接触面303はロッキングエッジ部304よりもベルト進行方向の後方に下がっている。
そのため、ベルト進行方向前側のエレメント301にリング接触面303が接触することはない。すなわち、ロッキングエッジ部304のみが前側のエレメント301に接触することになる。このため、エレメント幅方向中央部、特にリング接触面303とロッキングエッジ部304を含む当接面との境界部分305にプーリからの伝達応力が集中する。そして、この応力集中により、境界部分305に負担がかかり、エレメント301が変形したり、破損したりするおそれがあった。
[摩擦損失低減作用]
実施例1のベルト式無段変速機のエレメント4では、図3に示すように、ボディ部4aのイヤー部4c側端部に、積層リング3の内周面3aが接触するリング接触面4oを有する一対の凹部4h,4hが形成されている。そして、この凹部4h,4hに2組の積層リング3,3が嵌め込まれることにより、エレメント4の揺動中心となると共に、ピッチ半径Pを決めるロッキングエッジ部4gと積層リング3の内周面3aとのオフセット量を小さくすることができる。
積層リングとピッチ半径との間に生じるオフセットによってベルト滑りが発生するため、このオフセット量を小さくすることで、積層リング3とエレメント4の間に生じる滑りを抑制することができ、この滑りに起因する摩擦損失を小さくすることができる。
特に、実施例1のベルト式無段変速機のエレメント4では、一対の凹部4h,4hのリング接触面4o,4oとロッキングエッジ部4gは、エレメント4の高さ方向において、同じレベルに設けられている。
これにより、エレメント4の揺動中心となるロッキングエッジ部4gと、リング接触面4oに接触する積層リング3の内周面3aとのプーリ径方向のオフセット量はゼロになる。そのため、積層リング3とエレメント4の間に生じる滑りがほとんど生じることがなくなり、この滑りに起因する摩擦損失をさらに小さくすることができる。
さらに、実施例1のベルト式無段変速機のエレメント4では、スペーサリング5とイヤー部4cとの間に一定の僅かな間隙H(ここでは0.15mm程度)を保持しているため、スペーサリング5がエレメント4に接触しにくくなっている。これにより、スペーサリング5による摩擦損失の発生を防止することができる。また、このスペーサリング5はテフロン製であるため、エレメント4に接触した場合であっても、スペーサリング5の耐熱性と低摩擦損失を確保することができる。
そして、実施例1のベルト式無段変速機のエレメント4では、凸部4iのリング接触面4oからの立ち上がり部分が滑らかなRとなっており、断面直方体状の積層リング3の端部が嵌り込まないようになっている。これにより、積層リング3の端部とエレメント4との接触面積を小さくし、摩擦損失の増大を抑制することができる。
[エレメント耐久性向上作用]
また、実施例1のベルト式無段変速機のエレメント4では、図3に示すように、隣接するエレメントのベルト進行方向の後側面に当接する当接面を、一対のサドル溝4d,4dのそれぞれの開放側端部に形成した凸部4i,4i及びネック部4bに対応する位置に形成している。すなわち、当接面4jは、凸部4i,4i及びネック部4bのベルト進行(回転)方向の前側面4mであって、ロッキングエッジ部4gよりもイヤー部4c側位置に形成されている。
これにより、当接面4jは、エレメント4の幅方向中央部だけでなく、プーリ1,2からのトルクが入力されるフランク面4k,4k近傍の幅方向両側部にも形成されることとなる。
そのため、エレメント4に対してトルクが入力される位置、すなわちフランク面4k,4kと、進行方向前側に隣接するエレメントを押す位置、すなわち当接面4jを近づけることができる。
これにより、エレメント4のリング接触面4oを後退させても、図8に示すように、エレメント中央部及び両側部に形成された当接面4j,…によって隣接エレメントを押すことができる。この結果、エレメント幅方向中央部に作用するプーリからの伝達応力を上述の第二比較例の場合よりも小さくすることができ、エレメント4の変形や破損を防止して、エレメント耐久性を高めることができる。
[エレメント汎用化作用]
実施例1のベルト式無段変速機のエレメント4では、各サドル溝4d,4dに、凹部4hに嵌合した積層リング3とイヤー部4cとの間の寸法調整を行うスペーサリング5,5がそれぞれ挿入されている。これにより、凹部4hに挿入された積層リング3のがたつきを抑制し、サドル溝4d,4dから積層リング3が脱落することを防止できる。
また、積層リング3のリング積層数はトルク伝達容量に応じて設定されるものであり、従来では、このリング積層数に合わせてサドル溝4d,4dの大きさを設定していた。すなわち、従来のエレメントは、無段変速機におけるトルク伝達容量に応じてエレメント4を個別に設計する必要があった。これに対し、実施例1のベルト式無段変速機のエレメント4では、積層リング3の積層数が変動し、最外周リングとイヤー部4cの間に生じる間隙の大きさが異なる場合であっても、スペーサリング5の厚みを調整することで対応することができる。つまり、積層リング3の積層数に応じてサドル溝4dの大きさを設定する必要がなくなり、リング積層数に拘らずエレメント4の共通化を図ることができる。このため、無段変速機用ベルトVの製造コストの増大を抑制することができる。
次に、効果を説明する。
実施例1のベルト式無段変速機のエレメントにあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
(1) 板厚方向に多数積層し、2組のリング(積層リング)3,3により環状に固定されて無段変速機用ベルトVを形成するベルト式無段変速機のエレメント4において、ベルト式無段変速機のプーリ1,2の溝部に挟まれ、両側のフランク部(フランク面)4k,4kでプーリ押し付け力を支えるボディ部4aと、前記ボディ部4aの幅方向中央部から延在され、前記ボディ部4aと前記ボディ部4aの幅方向に延びるイヤー部4cを連結するネック部4bと、前記ネック部4bの両側に形成され、前記ボディ部4aの両側方にそれぞれ開放して前記一対のリング3,3がそれぞれ挿入される一対のサドル溝4d,4dと、を有し、前記ボディ部4aは、前記各サドル溝4d,4dの内側に形成され、前記リング3の内周面3aが接触するリング接触面4oを有する一対の凹部4h,4hと、前記各サドル溝4d,4dの開放側端部に形成され、前記リング接触面4oよりも前記イヤー部4c側に突出する一対の凸部4i,4iと、ベルト回転方向の前側の面(前側面)4mに形成され、隣接するエレメントに対して、ベルト周方向の揺動中心となるロッキングエッジ部4gと、前記ロッキングエッジ部4gよりも前記イヤー部4c側に形成されるとともに、前記各凸部4iの前記ベルト回転方向の前側の面4mに形成され、隣接するエレメントのベルト進行方向の後側の面(後側面)4nに当接する当接面4j,…と、を有する構成とした。
このため、エレメントとリングの滑りを抑えて摩擦損失を低減すると共に、応力集中を防止してエレメントの耐久性を向上させることができる。
(2) 前記各サドル溝4d,4dには、前記凹部4h,4hに嵌合した前記リング3,3の外周面と前記イヤー部4cとの間にスペーサ(スペーサリング)5,5が挿入された構成とした。
このため、積層リング3の積層数を変更してもエレメント4を変更する必要がなくなり、コストダウンを図ることができる。
(3) 前記一対の凹部4h,4hのリング接触面4o,4oと前記ロッキングエッジ部4gは、前記エレメント4の高さ方向において、同じレベルに設けた構成とした。
このため、積層リング3とエレメント4の間のオフセット量をゼロにすることができ、摩擦損失のさらなる低下を図ることができる。
(4) ベルト式無段変速機の入力側プーリ1と出力側プーリ2の間に掛け渡されてトルクを伝達するベルト式無段変速機のベルトVにおいて、前記入力側プーリ1と前記出力側プーリ2の溝部で挟持されるエレメント4と、前記エレメント4を積層した状態で環状に固定すると共に、前記エレメント4に作用するプーリ外径方向の力を支える一対のリング(積層リング)3,3と、前記エレメント4と前記リング3,3の間に挿入される環状のスペーサ(スペーサリング)5,5と、を有し、前記エレメント4は、前記入力側プーリ1と前記出力側プーリ2の溝部で挟まれ、両側のフランク部(フランク面)4k,4kでプーリ押し付け力を支えるボディ部4aと、前記ボディ部4aの幅方向中央部から延在し、前記ボディ部4aと前記ボディ部4aの幅方向に延びるイヤー部4cを連結するネック部4bと、前記ネック部4bの両側に形成され、前記ボディ部4aの両側方にそれぞれ開放して前記一対のリング3,3がそれぞれ挿入される一対のサドル溝4d,4dと、を有し、前記ボディ部4aは、ベルト回転方向の前側の面(前側面)4mに形成され、隣接するエレメントに対して、ベルト周方向の揺動中心となるロッキングエッジ部4gと、前記各サドル溝4d,4dの内側に形成され、前記リング3の内周面3aが接触するリング接触面4oを有する一対の凹部4h,4hと、前記各サドル溝4d,4dの開放側端部に形成され、前記リング接触面4oよりも前記イヤー部4c側に突出した一対の凸部4i,4iと、前記ロッキングエッジ部4gよりも前記イヤー部4c側に形成されるとともに、前記各凸部4iの前記ベルト回転方向の前側の面4mに形成され、隣接するエレメントのベルト回転方向の後側の面(後側面)4nに当接する当接面4j,…と、を有し、前記スペーサ5は、前記リング3の外周面と前記イヤー部4cの間に挿入される構成とした。
このため、エレメントとリングの滑りを抑えて摩擦損失を低減すると共に、応力集中を防止してエレメントの耐久性を向上させることができる。
以上、本発明のベルト式無段変速機のエレメント及びベルトを実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
実施例1では、スペーサリング5の外側面5aがプーリ1,2の各シーブ面11a,12a,21a,22aに接触することで、自身のサドル溝4dからの脱落を防止しているが、これに限らない。
図9に示すスペーサリング6のように、外側面6aが各シーブ面11a,12a,21a,22aに接触しないように、凹部4h,4hに対応する長さに設定されていても良い。この場合、スペーサリング6がサドル溝4d,4dから脱落しないように、内側端部にイヤー部4cの内側のへこみ部4c´に引っ掛かる凸部7を設けている。なお、この場合であっても、スペーサリング6とエレメント4との間には一定の隙間を設けることで、摩擦損失の増大を防止する。
実施例1では、エンジン車のベルト式無段変速機に適用されるベルトを構成するエレメントの例を示したが、本発明は、ハイブリッドや電気自動車等の他の車両に搭載されるベルト式無段変速機に適用されるベルトを構成するエレメントに対しても適用することができる。
V 無段変速機用ベルト
1 入力側プーリ
11a,12a シーブ面
2 出力側プーリ
21a,22a シーブ面
3 積層リング(リング)
3a 内周面
4 エレメント
4a ボディ部
4b ネック部
4c イヤー部
4d サドル溝
4e ノーズ部
4f ホール部
4g ロッキングエッジ部
4h 凹部
4i 凸部
4j 当接面
4k フランク面(フランク部)
4m 前側面
4n 後側面
4o リング接触面
5 スペーサリング(スペーサ)

Claims (4)

  1. 板厚方向に多数積層し、2組のリングにより環状に固定されて無段変速機用ベルトを形成するベルト式無段変速機のエレメントにおいて、
    前記ベルト式無段変速機のプーリの溝部に挟まれ、両側のフランク部でプーリ押し付け力を支えるボディ部と、
    前記ボディ部の幅方向中央部から延在され、前記ボディ部と前記ボディ部の幅方向に延びるイヤー部を連結するネック部と、
    前記ネック部の両側に形成され、前記ボディ部の両側方にそれぞれ開放して前記一対のリングがそれぞれ挿入される一対のサドル溝と、を有し、
    前記ボディ部は、
    前記各サドル溝の内側に形成され、前記リングの内周面が接触するリング接触面を有する一対の凹部と、
    前記各サドル溝の開放側端部に形成され、前記リング接触面よりも前記イヤー部側に突出する一対の凸部と、
    ベルト回転方向の前側の面に形成され、隣接するエレメントに対して、ベルト周方向の揺動中心となるロッキングエッジ部と、
    前記ロッキングエッジ部よりも前記イヤー部側に形成されるとともに、前記各凸部の前記ベルト回転方向の前側の面に形成され、隣接するエレメントのベルト進行方向の後側の面に当接する当接面と、
    を有することを特徴とするベルト式無段変速機のエレメント。
  2. 請求項1に記載されたベルト式無段変速機のエレメントにおいて、
    前記各サドル溝には、前記凹部に嵌合した前記リングの外周面と前記イヤー部との間にスペーサが挿入されたことを特徴とするベルト式無段変速機のエレメント。
  3. 請求項1又は請求項2に記載された無段変速機のエレメントにおいて、
    前記一対の凹部のリング接触面と前記ロッキングエッジ部は、前記エレメントの高さ方向において、同じレベルに設けたことを特徴とするベルト式無段変速機のエレメント。
  4. ベルト式無段変速機の入力側プーリと出力側プーリの間に掛け渡されてトルクを伝達するベルト式無段変速機のベルトにおいて、
    前記プーリの溝部で挟持されるエレメントと、
    前記エレメントを積層した状態で環状に固定すると共に、前記エレメントに作用するプーリ外径方向の力を支える一対のリングと、
    前記エレメントと前記リングの間に挿入される環状のスペーサと、を有し、
    前記エレメントは、
    前記プーリの溝部で挟まれ、両側のフランク部でプーリ押し付け力を支えるボディ部と、
    前記ボディ部の幅方向中央部から延在し、前記ボディ部と前記ボディ部の幅方向に延びるイヤー部を連結するネック部と、
    前記ネック部の両側に形成され、前記ボディ部の両側方にそれぞれ開放して前記一対のリングがそれぞれ挿入される一対のサドル溝と、を有し、
    前記ボディ部は、
    ベルト回転方向の前側の面に形成され、隣接するエレメントに対して、ベルト周方向の揺動中心となるロッキングエッジ部と、
    前記各サドル溝の内側に形成され、前記リングの内周面が接触するリング接触面を有する一対の凹部と、
    前記各サドル溝の開放側端部に形成され、前記リング接触面よりも前記イヤー部側に突出した一対の凸部と、
    前記ロッキングエッジ部よりも前記イヤー部側に形成されるとともに、前記各凸部の前記ベルト回転方向の前側の面に形成され、隣接するエレメントのベルト回転方向の後側の面に当接する当接面と、
    を有し、
    前記スペーサは、前記リングの外周面と前記イヤー部の間に挿入されることを特徴とするベルト式無段変速機のベルト。
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