本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、本体ゴム弾性体の高い設計自由度によって目的とする防振特性や耐久性等を実現しつつ、型成形されたアウタブラケットの筒状部から本体ゴム弾性体が抜け出すのを簡単に防ぐことができる、新規な構造の防振装置を提供することにある。
すなわち、本発明の第一の態様は、インナ軸部材の外周面に本体ゴム弾性体を固着した防振装置本体を、型成形されたアウタブラケットの筒状部に嵌入して、該本体ゴム弾性体の外周面に該筒状部を非接着で嵌合した防振装置において、前記アウタブラケットの前記筒状部には、軸方向一方の側で内周側に突出する第一の抜止め突部が形成されていると共に、軸方向他方の側で内周側に突出する第二の抜止め突部が形成されており、それら第一の抜止め突部と第二の抜止め突部が該筒状部の周上で互いに異なる位置に配置されていると共に、該第一の抜止め突部および該第二の抜止め突部と該本体ゴム弾性体の軸方向端面との当接によって前記防振装置本体の該筒状部に対する軸方向の相対変位量を制限する抜止め手段が構成されていることを、特徴とする。
このような本発明の第一の態様に従う構造とされた防振装置によれば、アウタブラケットの筒状部の軸方向各一方の側に第一の抜止め突部と第二の抜止め突部が設けられており、それら第一の抜止め突部および第二の抜止め突部と本体ゴム弾性体との当接係止によって、防振装置本体とアウタブラケットの軸方向での相対変位量が制限されている。それ故、防振装置本体がアウタブラケットの筒状部に対して非接着で取り付けられていても、防振装置本体が筒状部から抜けることなく保持されて、所期の性能を安定して得ることができる。
しかも、第一の抜止め突部と第二の抜止め突部が、本体ゴム弾性体に対して軸方向外側に外れて配置されて、本体ゴム弾性体の軸方向端面に当接係止されるようになっている。これにより、第一の抜止め突部と第二の抜止め突部の突出寸法や周方向での長さ寸法を大きく設定する等して、第一の抜止め突部および第二の抜止め突部と本体ゴム弾性体との係止面積を充分に確保しても、本体ゴム弾性体の形状が制限されるのを回避できる。従って、防振装置本体と筒状部を軸方向で有効に位置決めしながら、要求される防振特性を高度に実現することができる。
さらに、第一の抜止め突部と第二の抜止め突部は、筒状部の周上で互いに異なる位置に形成されており、軸方向の投影において重なり合うことなく配置されている。それ故、アウタブラケットの型成形時に、筒状部に対して軸方向両側から成形用金型を挿入することで、第一の抜止め突部と第二の抜止め突部を予め筒状部の内周側に突出する形状で形成することができる。その結果、アウタブラケットの成形後には、第一の抜止め突部と第二の抜止め突部を内周側に折り曲げる等の後加工が不要とされており、抜止め突部を備えたアウタブラケットを容易に得ることができる。
本発明の第二の態様は、第一の態様に記載された防振装置において、前記第一の抜止め突部と前記第二の抜止め突部が各複数ずつ形成されており、該複数の第一の抜止め突部が前記筒状部の周上で分散して配置されていると共に、該複数の第二の抜止め突部がそれら複数の第一の抜止め突部の周方向間に分散して配置されているものである。
第二の態様によれば、第一,第二の抜止め突部と本体ゴム弾性体との当接時に、周上の複数箇所で当接することにより応力の分散化が図られて、本体ゴム弾性体の損傷や第一,第二の抜止め突部の変形等が防止される。特に、複数の第一の抜止め突部および第二の抜止め突部をそれぞれ周上で均等に配置すれば、本体ゴム弾性体に及ぼされる当接時の反力が周上で分散して作用することから、防振装置本体の筒状部に対する傾動等も回避される。
本発明の第三の態様は、第二の態様に記載された防振装置において、前記筒状部の軸方向一方の端部には軸直角方向一方向で対向する一対の前記第一の抜止め突部が形成されていると共に、該筒状部の軸方向他方の端部には別の軸直角方向一方向で対向する一対の前記第二の抜止め突部が形成されているものである。
第三の態様によれば、一対の第一の抜止め突部および一対の第二の抜止め突部が、何れも軸直角方向で対向して配置されていることから、少ない第一の抜止め突部および第二の抜止め突部によっても、当接反力が周上で偏って作用するのを効率的に防いで、防振装置本体と筒状部の相対的な傾動を有効に防止することができる。
本発明の第四の態様は、第一〜第三の何れか1つの態様に記載された防振装置において、前記アウタブラケットの前記筒状部には内周側に突出する係止凸部が形成されて、該係止凸部が前記第一の抜止め突部および前記第二の抜止め突部の何れに対しても該筒状部の周上で異なる位置に配置されていると共に、前記本体ゴム弾性体には外周面に開口する係止凹部が形成されており、該係止凸部が該係止凹部に挿入されて該筒状部の周方向で係止されることにより前記防振装置本体の該筒状部に対する周方向の相対回転量を制限する回転制限手段が構成されているものである。
第四の態様によれば、係止凸部が係止凹部に挿入されて、それら係止凸部と係止凹部が筒状部の周方向で係止されることにより、防振装置本体の筒状部に対する相対回転が制限される。これにより、防振装置本体が軸直二方向で相互に異なるばね特性を設定されている場合等において、防振装置本体がアウタブラケットに対して周方向で所定の向きに保持されることにより、目的とする防振特性が有効に発揮される。
また、筒状部の内周側に突出する係止凸部は、筒状部の周上において第一の抜止め突部および第二の抜止め突部の何れとも異なる位置に形成されており、第一の抜止め突部および第二の抜止め突部と係止凸部が軸方向の投影において互いに重なり合うことなく配置されている。それ故、筒状部に係止凸部を形成する場合にも、筒状部に対して軸方向両側から挿入される一組の成形用金型によって、筒状部の内周面を成形することができて、曲げ等の後加工が不要であると共に、成形用金型において、筒状部の内周面を成形するための中子を省略した簡単な構成を採用することができる。
本発明の第五の態様は、第四の態様に記載された防振装置において、前記係止凸部が前記筒状部の軸方向中間部分で内周側に突出していると共に、前記係止凹部が前記本体ゴム弾性体の軸方向中間部分で外周面に開口しており、該係止凸部が該係止凹部に挿入されて該筒状部の周方向および軸方向で係止されることにより前記防振装置本体の該筒状部に対する周方向の相対回転量を制限する回転制限手段と軸方向の相対変位量を制限する変位制限手段とが構成されているものである。
第五の態様によれば、筒状部の軸方向中間で部分的に形成された係止凸部を、本体ゴム弾性体の軸方向中間で部分的に形成された係止凹部に挿入することで、それら係止凸部と係止凹部の周方向での係止による回転制限手段に加えて、軸方向での係止によって防振装置本体と筒状部の軸方向での相対変位量を制限する変位制限手段を、補助的な抜止め手段として構成することができる。
本発明の第六の態様は、第一〜第五の何れか1つの態様に記載された防振装置において、前記本体ゴム弾性体の周上には、外周面に開口して軸方向の全長に亘って延びる肉抜凹溝が形成されているものである。
第六の態様によれば、防振装置本体の筒状部への嵌入によって本体ゴム弾性体が径方向に圧縮されて弾性変形しても、軸方向外側への膨出変形に加えて、肉抜凹溝内への膨出変形も許容されることで、本体ゴム弾性体の歪みが低減される。それ故、比較的に小径の筒状部に対しても、防振装置本体を容易に嵌入して取り付けることができると共に、本体ゴム弾性体の耐久性の向上も図られる。
本発明の第七の態様は、第六の態様に記載された防振装置において、前記本体ゴム弾性体が、前記インナ軸部材から軸直角方向一方向で突出する一対の第一のゴム腕と、それら一対の第一のゴム腕の突出方向に対して直交する軸直角方向で突出する一対の第二のゴム腕とを有しており、それら第一のゴム腕と第二のゴム腕の周方向間にそれぞれ前記肉抜凹溝が形成されているものである。
第七の態様では、本体ゴム弾性体が肉抜凹溝によって実質的に独立した第一のゴム腕と第二のゴム腕との各一対を有しており、それら第一のゴム腕と第二のゴム腕が互いに直交する軸直二方向に突出している。それ故、防振装置本体の軸直二方向での防振特性を、第一のゴム腕のばね特性と、第二のゴム腕のばね特性とをそれぞれ調節することで、何れも容易且つ高度に設定することができる。
しかも、第一のゴム腕と第二のゴム腕は、何れも肉抜凹溝によって周方向両側への膨出変形を許容されており、軸直角方向で圧縮変形された筒状部への嵌入状態においても、第一のゴム腕および第二のゴム腕の歪みが肉抜凹溝内への膨出変形によって緩和される。
本発明によれば、アウタブラケットの筒状部に設けられた第一の抜止め突部と第二の抜止め突部が、本体ゴム弾性体に対して軸方向で当接することにより、防振装置本体とアウタブラケットとの軸方向での相対変位量が制限される。それ故、防振装置本体の筒状部からの抜けが防止されて、所期の性能を安定して得ることができる。特に、第一の抜止め突部および第二の抜止め突部が、本体ゴム弾性体の軸方向外側に配置されて、本体ゴム弾性体の軸方向端面に当接することから、軸方向で有効な位置決め作用を得ながら、本体ゴム弾性体の高い設計自由度によって優れた防振特性を実現することができる。
しかも、第一の抜止め突部と第二の抜止め突部が、筒状部の周上で互いに異なる位置に形成されることにより、内周側に突出する第一の抜止め突部と第二の抜止め突部を備えた筒状部の内周面形状を、型割り数の少ない簡単な金型構成によって成形することができる。それ故、第一の抜止め突部と第二の抜止め突部を成形後に内周側に折り曲げる等の後加工が不要になって、製造が容易であると共に、簡単な金型構成による製造コストの低減等も図られる。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1〜図4には、本発明に従う構造とされた防振装置の第一の実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10は、防振装置本体としてのマウント本体12が、アウタブラケット14に非接着で嵌着された構造を有している。なお、以下の説明において、軸方向とは、原則として、後述するインナ軸部材16および筒状部32の軸方向である図3中の左右方向を言う。また、特に説明がない限り、上下方向とは図2中の上下方向を、左右方向とは図2中の左右方向を言う。
より詳細には、マウント本体12は、図5,図6に示されているように、インナ軸部材16の外周面に本体ゴム弾性体18が加硫接着された構造を有している。インナ軸部材16は、小径の略円柱形状を呈する高剛性の部材であって、略一定の長円形断面で軸方向に貫通する取付孔20を備えている。そして、取付孔20に挿通される図示しない取付ボルトによって、インナ軸部材16が図示しないパワーユニットに取り付けられるようになっている。
また、インナ軸部材16の外周面には、本体ゴム弾性体18が加硫接着されている。本体ゴム弾性体18は、全体として厚肉の略円筒形状とされており、径方向一方向(図6中、上下方向)で両側に突出する一対の第一のゴム腕22,22と、それら一対の第一のゴム腕22,22の突出方向に対して直交する径方向(図6中、左右方向)で両側に突出する一対の第二のゴム腕24,24とを、有している。更に、第一のゴム腕22と第二のゴム腕24の周方向間には、それぞれ鍵穴状断面をもって軸方向に延びる肉抜凹溝26が、本体ゴム弾性体18の外周面に開口して軸方向全長に亘って連続的に形成されており、第一のゴム腕22と第二のゴム腕24が肉抜凹溝26で実質的に分離されている。
さらに、本体ゴム弾性体18には、外周面に開口する係止凹部28が形成されている。係止凹部28は、第一のゴム腕22および第二のゴム腕24の周方向および軸方向中間部分において外周面に開口する凹所であって、各第一のゴム腕22および第二のゴム腕24に1つずつ形成されている。本実施形態の係止凹部28は、略角丸矩形の開口を有しており、全周に亘って連続する側壁内面を備えている。
更にまた、図6に示されているように、本体ゴム弾性体18の外周面には、多数の緩衝突起30,30,・・・が形成されている。緩衝突起30は、略小径半球状の突起であって、第一のゴム腕22および第二のゴム腕24の外周端面における係止凹部28を外れた部分に形成されている。なお、図5では、見易さのために、緩衝突起30の図示を省略した。
そして、本体ゴム弾性体18は、インナ軸部材16の軸方向中央部分の外周面に対して加硫接着されており、インナ軸部材16を備えた本体ゴム弾性体18の一体加硫成形品によってマウント本体12が形成されている。このマウント本体12は、図7〜図9に示されたアウタブラケット14に取り付けられている。
アウタブラケット14は、型成形によって形成された高剛性の部材であって、筒状部32と取付け部34を一体で備えている。なお、アウタブラケット14は、鉄やアルミニウム合金の鋳造乃至はダイカスト、合成樹脂の射出成形等の型成形によって形成され得る。
筒状部32は、軸方向に貫通する略円形の嵌着孔36を備えた厚肉大径の筒状を呈しており、本実施形態では、周上の一部において外周側に突出する補強リブ38が軸方向の両端部に一体形成されている。
また、筒状部32の軸方向一方の側には、第一の抜止め突部40が一体形成されている。第一の抜止め突部40は、筒状部32の軸方向一方の端部において内周側に突出するように一体形成されており、本実施形態では周方向に所定の長さで連続して延びる略湾曲板状とされている。更に、第一の抜止め突部40は、複数(本実施形態では2つ)が筒状部32の周上で分散して配置されており、特に本実施形態では、互いに同一形状とされた一対の第一の抜止め突部40,40が、径方向一方向で対向して形成されている。
さらに、筒状部32の軸方向他方の側には、第二の抜止め突部42が一体形成されている。第二の抜止め突部42は、第一の抜止め突部40と略同一形状とされており、筒状部32の軸方向他方の端部において内周側に突出するように一体形成されている。更に、第二の抜止め突部42は、複数(本実施形態では2つ)が筒状部32の周上で分散して配置されており、特に本実施形態では、互いに同一形状とされた一対の第二の抜止め突部42,42が、一対の第一の抜止め突部40,40の対向方向と略直交する径方向で対向して形成されている。
なお、第一の抜止め突部40と第二の抜止め突部42が筒状部32の軸方向各一方の端部に形成されているとは、第一,第二の抜止め突部40,42の軸方向外側の端面が筒状部32の軸方向端面と同一平面上に位置する構造だけに限定されるものではない。即ち、第一,第二の抜止め突部40,42が筒状部32の軸方向各一方の側で内周側に突出していれば、例えば、第一,第二の抜止め突部40,42の軸方向外側の端面が、筒状部32の軸方向端面に対して軸方向内側又は外側に位置していても良い。
更にまた、筒状部32の軸方向中間部分には、4つの係止凸部44,44,44,44が一体形成されている。係止凸部44は、筒状部32の軸方向中央部分において内周側に向かって突出しており、本体ゴム弾性体18の係止凹部28に挿入可能な大きさと形状で形成されている。更に、係止凸部44は、図8に示すように、周方向両側面が傾斜面とされており、突出先端に向かって周方向で次第に狭幅となっている。更にまた、係止凸部44は、図9に示すように、軸方向両側面が基端部に括れ凹部46を有する形状とされており、基端部の軸方向寸法が小さくされていると共に、括れ凹部46よりも上部が円弧状断面をもって軸方向外側に突出する係合部48とされている。なお、本実施形態では、図8に示すように、4つの係止凸部44,44,44,44が周上で等間隔に配置されている。
そして、一対の第一の抜止め突部40,40と、一対の第二の抜止め突部42,42と、4つの係止凸部44,44,44,44は、筒状部32の周上において、互いに異なる位置に形成されており、図8に示すように、軸方向の投影において互いに重なり合うことなく配置されている。より具体的には、一対の第一の抜止め突部40,40の周方向間の中央にそれぞれ第二の抜止め突部42が配置されていると共に、周上で隣り合って配置された第一の抜止め突部40と第二の抜止め突部42の周方向間にはそれぞれ係止凸部44が配置されている。これにより、筒状部32の内周面(嵌着孔36の壁内面)は、嵌着孔36に軸方向両側から挿入された2つの成形用金型によって、一対の第一の抜止め突部40,40と、一対の第二の抜止め突部42,42と、4つの係止凸部44,44,44,44とを備えた形状に成形される。
なお、第一の抜止め突部40と第二の抜止め突部42と係止凸部44は、アウタブラケット14の型成形時に、筒状部32の内周側に突出した状態で形成されており、成形後には折り曲げ等の加工が不要とされている。更に、第一の抜止め突部40と第二の抜止め突部42と係止凸部44は、何れも車両装着状態での入力荷重に対して充分な変形剛性を備えており、使用時の振動入力による変形は問題にならない。
また、筒状部32の下端部には、軸方向外側に突出する一対の取付け部34,34が一体形成されている。取付け部34は、略板状とされており、厚さ方向(上下方向)に貫通するボルト孔50が貫通形成されている。そして、ボルト孔50に挿通される図示しない取付ボルトによって、アウタブラケット14が図示しない車両ボデーに取り付けられるようになっている。
かくの如き構造とされたアウタブラケット14には、図1〜図4に示すように、マウント本体12が取り付けられる。即ち、マウント本体12は、アウタブラケット14の筒状部32の嵌着孔36に対して、何れかの開口部から軸方向に押し込まれて嵌入される。これにより、本体ゴム弾性体18の外周面に筒状部32が非接着で嵌合されて、マウント本体12がアウタブラケット14に非接着で取り付けられている。なお、筒状部32の径方向内法寸法(嵌着孔36の直径)が本体ゴム弾性体18の外形寸法よりも小さくされており、マウント本体12は、本体ゴム弾性体18が径方向に予圧縮された状態で、アウタブラケット14に取り付けられている。また、本体ゴム弾性体18には、第一のゴム腕22と第二のゴム腕24の周方向間に肉抜凹溝26が形成されており、筒状部32への圧入による本体ゴム弾性体18の歪みが、軸方向への膨出変形に加えて、肉抜凹溝26への膨出変形によっても緩和されている。
また、マウント本体12がアウタブラケット14に取り付けられた状態では、図3に示すように、本体ゴム弾性体18が軸方向で第一の抜止め突部40と第二の抜止め突部42の間に配置されている。そして、本体ゴム弾性体18の軸方向一方の端面の外周端部が、周上で部分的に第一の抜止め突部40と重ね合わされていると共に、本体ゴム弾性体18の軸方向他方の端面の外周端部が、周上で部分的に第二の抜止め突部42と重ね合わされている。これにより、本体ゴム弾性体18は、第一,第二の抜止め突部40,42に対する軸方向での当接係止によって、筒状部32に対して軸方向で位置決めされており、もって、本体ゴム弾性体18ひいてはマウント本体12の筒状部32に対する軸方向での相対変位量を制限する抜止め手段が構成されている。
このように、マウント本体12のアウタブラケット14からの抜けを防止する抜止め手段が、本体ゴム弾性体18を軸方向外側に外れた位置に設けられた第一,第二の抜止め突部40,42が本体ゴム弾性体18の軸方向端面に当接係止されることで構成されている。それ故、第一,第二の抜止め突部40,42の内周側への突出寸法や周方向の長さ寸法等を調節することで、本体ゴム弾性体18の形状やゴムボリューム等を制限することなく、第一,第二の抜止め突部40,42と本体ゴム弾性体18との係止面積を充分に大きく確保することができる。従って、本体ゴム弾性体18の高い設計自由度に基づいて目的とする防振特性を実現しつつ、マウント本体12の筒状部32に対する相対的な軸方向変位と、それに伴う抜けを効果的に制限することができる。
本実施形態では、本体ゴム弾性体18が、上下に延びる一対の第一のゴム腕22,22と、左右に延びる一対の第二のゴム腕24,24とを備えていると共に、肉抜凹溝26によってそれら第一のゴム腕22と第二のゴム腕24が実質的に独立している。それ故、第一のゴム腕22のばねがエンジンマウント10の上下方向のばね特性に対して支配的に作用すると共に、第二のゴム腕24のばねがエンジンマウント10の左右方向のばね特性に対して支配的に作用して、上下方向と左右方向で要求される異なるばね特性を、それぞれ高度に実現することができる。
さらに、本実施形態では、一対の第一の抜止め突部40,40が筒状部32の径方向で対向して配置されていると共に、一対の第二の抜止め突部42,42が筒状部32の他の径方向で対向して配置されている。これにより、マウント本体12が筒状部32に対して軸方向に相対変位すると、本体ゴム弾性体18が第一の抜止め突部40又は第二の抜止め突部42に対して、径方向で対向する両側において当接係止される。それ故、本体ゴム弾性体18と第一の抜止め突部40又は第二の抜止め突部42への当接時に応力の分散化が図られると共に、本体ゴム弾性体18の筒状部32に対する傾動も抑えられる。
また、図4に示すように、アウタブラケット14の筒状部32の内周面に突設された係止凸部44が、本体ゴム弾性体18の外周面に開口する係止凹部28に挿入されており、係止凸部44の側壁面が係止凹部28の側壁内面に対して周方向で重ね合わされている。これにより、本体ゴム弾性体18は、係止凸部44と係止凹部28との周方向での当接係止によって、筒状部32に対して周方向で位置決めされており、もって、本体ゴム弾性体18ひいてはマウント本体12の筒状部32に対する周方向の相対回転量を制限する回転制限手段が構成されている。
しかも、本実施形態では、図3に示すように、係止凸部44の側壁面と係止凹部28の側壁内面とが軸方向においても重ね合わされており、係止凸部44と係止凹部28との軸方向での当接係止によって、本体ゴム弾性体18ひいてはマウント本体12の筒状部32に対する軸方向での相対変位量を制限する変位制限手段が、補助的な抜止め手段として構成されている。
加えて、本体ゴム弾性体18が径方向に圧縮された状態でアウタブラケット14の筒状部32に取り付けられることで、本体ゴム弾性体18が、係止凸部44の括れ凹部46に入り込んで、係合部48と径方向で係合している。これにより、係止凸部44が係止凹部28への挿入状態に保持されて、周方向での回転制限作用や軸方向での補助的な抜止め作用を安定して得ることができる。
このように、マウント本体12とアウタブラケット14が非接着で取り付けられるエンジンマウント10において、マウント本体12がアウタブラケット14の筒状部32に対して、軸方向において抜止め手段で位置決めされていると共に、周方向において回転制限手段で位置決めされている。従って、マウント本体12がアウタブラケット14に対して所期の取付け状態に保持されて、目的とする防振特性を安定して得ることができる。
図10には、本発明に係る防振装置の第二の実施形態としてのエンジンマウントを構成するアウタブラケット60が示されている。なお、以下の説明において、第一の実施形態と実質的に同一の部材および部位については、同一の符号を付すことで説明を省略する。また、本実施形態および後述する第三の実施形態のアウタブラケット60,70に対して、第一の実施形態と同様のマウント本体12が組み付けられることで、本発明に係る防振装置が構成されるようになっている。
より詳細には、アウタブラケット60の筒状部32には、軸方向一方の端部に1つの第一の抜止め突部62が一体形成されて、内周側に突出している。第一の抜止め突部62は、周方向に半周弱の長さで延びており、第一の実施形態の第一の抜止め突部40に比して周方向長が大きくされている。
さらに、アウタブラケット60の筒状部32には、軸方向他方の端部に1つの第二の抜止め突部64が一体形成されて、内周側に突出している。第二の抜止め突部64は、周方向に半周弱の長さで延びており、第一の実施形態の第二の抜止め突部42に比して周方向長が大きくされている。
そして、第一の抜止め突部62と第二の抜止め突部64は、筒状部32の周上において径方向一方向(図10中、上下方向)で対向する部分に形成されており、筒状部32の周上で互いに外れた位置に形成されている。なお、筒状部32の軸方向中央部分には、筒状部32の内周側に突出する係止凸部44が形成されて、第一の抜止め突部62と第二の抜止め突部64の周方向間に配置されており、一対の係止凸部44,44が筒状部32の径方向で対向している。
このような本実施形態のアウタブラケット60のように、第一の抜止め突部62と第二の抜止め突部64は、各1つずつが形成されていても良い。特に本実施形態では、第一の抜止め突部62と第二の抜止め突部64の周方向での長さ寸法が、第一の実施形態の第一の抜止め突部40と第二の抜止め突部42に比して大きくされており、第一の抜止め突部62と第二の抜止め突部64が各1つずつだけであっても、本体ゴム弾性体18との係止面積が充分に確保されている。
図11には、本発明に係る防振装置の第三の実施形態としてのエンジンマウントを構成するアウタブラケット70が示されている。
より詳細には、アウタブラケット70の筒状部32には、軸方向一方の端部に3つの第一の抜止め突部72が一体形成されて、内周側に突出している。本実施形態では、周方向の長さ寸法が小さい第一の抜止め突部72aと、周方向の長さ寸法が大きい2つの第一の抜止め突部72b,72bが形成されており、筒状部32の周上で分散して配置されている。
さらに、アウタブラケット70の筒状部32には、軸方向他方の端部に3つの第二の抜止め突部74が一体形成されて、内周側に突出している。本実施形態では、周方向の長さ寸法が小さい第二の抜止め突部74aと、周方向の長さ寸法が大きい2つの第二の抜止め突部74b,74bが形成されており、筒状部32の周上で分散して配置されている。
そして、第一の抜止め突部72と第二の抜止め突部74は、筒状部32の周上で互いに外れた位置に形成されており、軸方向の投影において相互に重なり合うことなく配置されている。具体的には、第一の抜止め突部72aと第一の抜止め突部72bの周方向間に第二の抜止め突部74bが配置されていると共に、2つの第一の抜止め突部72b,72bの周方向間に第二の抜止め突部74aが配置されている。なお、筒状部32の軸方向中央部分には、筒状部32の内周側に突出する係止凸部44が形成されて、第一の抜止め突部72bと第二の抜止め突部74bの周方向間に配置されており、一対の係止凸部44,44が筒状部32の径方向で対向している。
このような本実施形態のアウタブラケット70において示されているように、複数の第一の抜止め突部72(第二の抜止め突部74)が設けられている場合には、それら複数の第一の抜止め突部72(第二の抜止め突部74)が相互に異なる形状とされていても良い。また、複数の第一の抜止め突部72(第二の抜止め突部74)を筒状部32の周上で分散して配置することにより、本体ゴム弾性体18と第一,第二の抜止め突部72,74との当接時に応力の分散化が図られて、本体ゴム弾性体18の損傷や第一,第二の抜止め突部72,74の変形等が防止される。
なお、第一〜第三の実施形態のアウタブラケット10,60,70から明らかなように、第一の抜止め突部と第二の抜止め突部は、各1つ以上が形成されていれば、形成数は特に限定されない。第一,第二の抜止め突部の形成数が少ない場合には、第一,第二の抜止め突部の周方向長さを大きくする等して、マウント本体12のアウタブラケットからの抜け効力を大きく設定することが好ましい。
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、第一,第二の抜止め突部の突出寸法や周方向長さ寸法、軸方向厚さ寸法等は、要求される軸方向の耐荷重性等に応じて、任意に設定される。
さらに、第一の抜止め突部と第二の抜止め突部は、突出高さや周長などの形状が互いに異なっていても良いし、形成数が互いに異なっていても良い。例えば、アウタブラケットからの抜け方向(軸方向)でマウント本体12に作用する外力が、軸方向一方側と他方側とで異なる場合には、第一の抜止め突部と第二の抜止め突部の形状(大きさ)や形成数を相互に異ならせることにより、第一の抜止め突部と第二の抜止め突部との軸方向投影での重なり合いを回避しつつ、軸方向両側の抜け抗力を最適に設定することが可能となる。
また、筒状部32の周上における第一の抜止め突部および第二の抜止め突部の配置は、それら第一の抜止め突部と第二の抜止め突部が周上で互いに外れて配置されていれば特に限定されるものではなく、例えば、第一,第二の抜止め突部が各一対形成される場合に、それら各一対の抜止め突部が筒状部32の軸直角方向で対向して配置されている必要はない。
また、第一の抜止め突部と第二の抜止め突部の両方が、本体ゴム弾性体の軸方向端面に対して、振動の非入力状態で予め当接していても良いし、振動の非入力状態では、第一の抜止め突部と第二の抜止め突部の少なくとも一方が、本体ゴム弾性体の軸方向端面から離隔しており、振動の入力によって当接するようになっていても良い。
また、係止凹部28は、前記第一の実施形態のように、本体ゴム弾性体18の軸方向中間において部分的に開口していることが望ましいが、例えば、軸方向の全長に亘って連続する溝状とされていても良く、これによって係止凸部44を容易に挿入可能となる。更に、係止凹部が軸方向に延びる溝状とされている場合には、係止凸部を軸方向に延びる凸条形状とすることで、係止凸部と係止凹部の周方向での係止面積を大きく確保することもできる。なお、回転制限手段としては、例えば、アウタブラケットの筒状部の軸方向端部で内周側に突出する係止凸部が、本体ゴム弾性体の軸方向端部で外周面に開口する係止凹部に挿入されて、それら係止凸部と係止凹部が挿入係止されることによっても、構成され得る。
また、アウタブラケットは、マウント本体12が嵌入される筒状部32を備えていれば、取付け部34や補強リブ38等の構造は特に限定されない。更に、筒状部32は、円筒形状に限定されるものではなく、例えば、長円筒状や多角筒状、異形筒状等、各種の筒形状が任意に採用され得る。
また、本体ゴム弾性体としては、例えば、一対の第一のゴム腕22,22が省略されて上下に一対の肉抜凹溝が形成された扁平な形状のものも採用され得る。更に、本体ゴム弾性体において肉抜凹溝は必須ではなく、例えば、筒状部32が本体ゴム弾性体の外周面に全周に亘って嵌合されていても良いし、本体ゴム弾性体の径方向中間部分を軸方向に貫通する肉抜孔等を設けても良い。
本発明の適用範囲は、エンジンマウントに限定されるものではなく、サスペンションメンバマウントやボデーマウント、デフマウント、サスペンションブッシュ、トルクロッド用ブッシュ等にも適用され得る。更に、本発明は、自動車に用いられる防振装置だけでなく、自動二輪車や鉄道用車両、産業用車両等に用いられる防振装置にも好適に適用される。