以下、本発明に係る半導体発光素子、半導体発光素子モジュール、及び光パルス試験器の実施形態について、図面を用いて説明する。
(第1の実施形態)
まず、本発明の第1の実施形態としての半導体発光素子10の構成について説明する。図1は、第1の実施形態の半導体発光素子10を光の導波方向に沿って切断した断面図である。図2は、半導体発光素子10の上面図である。図3(a)は図2のA−A断面図であり、図3(b)は図2のB−B断面図である。
半導体発光素子10は、図1に示すように、例えば、n型InP(インジウム・リン)からなるn型半導体基板11と、n型半導体基板11上に形成されたn型InPクラッド層12と、n型InPクラッド層12上に形成され、利得帯域Λ1を有するInGaAsP(インジウム・ガリウム・砒素・リン)からなる第1の多重量子井戸型活性層13と、第1の多重量子井戸型活性層13に隣接してn型InPクラッド層12上に形成され、利得帯域Λ2を有するInGaAsPからなる第2の多重量子井戸型活性層14と、第1の多重量子井戸型活性層13及び第2の多重量子井戸型活性層14上に形成されたp型InPクラッド層15と、劈開によって形成された第1の光出射端面10a及び第2の光出射端面10bと、を備える。
第1の多重量子井戸型活性層13と第2の多重量子井戸型活性層14は、光の導波方向に沿って配置され、バットジョイント接合部16において、バットジョイント手法により光学的に結合されている。なお、ここで言う第1の多重量子井戸型活性層13及び第2の多重量子井戸型活性層14は、多重量子井戸(MQW:Multiple Quantum Well)構造とそれを挟む光分離閉じ込め(SCH:Separate Confinement Heterostructure)層を含んでいる。なお、活性層構造は多重量子井戸活性層で説明しているが、バルク構造であってもよい。このことは、後述する第2の実施形態でも同様である。
また、第1の多重量子井戸型活性層13及び第2の多重量子井戸型活性層14は、第1の光出射端面10aから第2の光出射端面10bに向かって利得帯域が短波化する順に配置されている。
本実施形態では、利得帯域Λ1,Λ2として光パルス試験器で用いる波長帯である1.55μm帯、1.3μm帯を例にして説明する。なお、発振波長λ1,λ2は、それぞれ利得帯域Λ1,Λ2に含まれており、例えば1.52≦λ1≦1.58、1.28≦λ2≦1.34の範囲内の値を取る。
あるいは発振波長λ1,λ2は、1.28〜1.34,1.47〜1.50,1.52〜1.55,1.60〜1.65の各波長範囲からの任意の組み合わせであっても良い(ただしλ1>λ2として選択する。単位はμm)。
n型半導体基板11、n型InPクラッド層12、第1の多重量子井戸型活性層13、及びp型InPクラッド層15を含む導波路構造は、第1の利得領域Iを構成する。また、n型半導体基板11、n型InPクラッド層12、第2の多重量子井戸型活性層14、及びp型InPクラッド層15を含む導波路構造は、第2の利得領域IIを構成する。
さらに、第1の利得領域Iにおいては、p型InPクラッド層15の上面に、p型InGaAs(インジウム・ガリウム・砒素)からなるコンタクト層16aが積層されている。一方、第2の利得領域IIにおいては、p型InPクラッド層15の上面に、p型InGaAsからなるコンタクト層16bが積層されている。
また、コンタクト層16a上には第1の利得領域I用の第1の上部電極17a、コンタクト層16b上には第2の利得領域II用の第2の上部電極17bが蒸着形成され、n型半導体基板11の下面には下部電極18が蒸着形成されている。
さらに、図3(a)に示すように、第1の利得領域Iの導波路構造の光の導波方向に直交する幅方向の両側方には、p型InPからなるp型InP埋め込み層19a及びn型InPからなるn型InP埋め込み層19bが形成されている。同様に、第2の利得領域IIの導波路構造の光の導波方向に直交する幅方向の両側方にも、p型InP埋め込み層(図示せず)及びn型InP埋め込み層(図示せず)が形成されている。
なお、上部電極17a,17bを互いに電気的に絶縁するため、図2及び図3(b)に示すように、第1の利得領域Iと第2の利得領域IIの境界部分に、バットジョイント接合された第1の多重量子井戸型活性層13及び第2の多重量子井戸型活性層14を内部に有する橋渡部20と、橋渡部20の光の導波方向に直交する幅方向の両側方に設けられた分離溝21,22と、が形成されている。
この分離溝21,22は、p型InPクラッド層15、n型InP埋め込み層19b及びp型InP埋め込み層19aをエッチングにより貫通するだけでなく、p型InP埋め込み層19aとn型半導体基板11との界面よりも深くエッチング処理することにより形成されている。
なお、コンタクト層16a,16bは、各上部電極17a,17bの下方部分を残してエッチングにより除去され、第1の上部電極17aの下方に第1のコンタクト層16aが、第2の上部電極17bの下方に第2のコンタクト層16bが、それぞれ独立して形成されている。
また、第1の光出射端面10aには高反射(HR)コート23aが、第2の光出射端面10bには低反射(LR)コート23bがそれぞれ施されており、第2の光出射端面10bの反射率が、第1の光出射端面10aの反射率より低くなっている。
ここで、HRコート23aが施された第1の光出射端面10a側の反射率は90%以上、LRコート23bが施された第2の光出射端面10b側の反射率は1〜10%程度とすることが好ましい。
さらに、第2の利得領域IIのn型InPクラッド層12において、第1の多重量子井戸型活性層13と第2の多重量子井戸型活性層14のバットジョイント接合部16近傍に、1.3μmのブラッグ波長λg及び100cm-1以上の結合係数κを有する回折格子24が形成されている。ここで、回折格子24のピッチは約0.2μmである。
ここで、結合係数κとは、回折格子が形成された導波路を光が単位距離だけ伝搬する際に反射される光の割合を示すパラメータである。この結合係数κが大きいと、最大反射率が増大するとともに反射帯域が拡がり、複数の縦モードの発振が生じる。なお、上記のようにκ≧100cm-1である回折格子24においては、回折格子24の光の導波方向の長さが200μm程度あれば反射率は90%以上となる。
なお、図1に示すように、回折格子24の光の導波方向の長さを、第2の多重量子井戸型活性層14の長さよりも短く構成するのが好適である。このように回折格子24の光の導波方向の長さを十分短く構成することにより、回折格子24の波長選択性が低下するとともに、第2の光出射端面10bにおける端面出力を増大させることができる。このため、複数の縦モードの発振が生じやすくなるとともに高出力化が可能となる。
回折格子24は、短波側の利得帯域Λ2に含まれるブラッグ波長及びその近傍の複数の縦モードを反射するようになっている。発振波長は、第1の光出射端面10aと第2の光出射端面10bとで構成される共振器において位相条件を満たし選択されるもの、もしくは回折格子24と第2の光出射端面10bとで構成される共振器により位相条件を満たし選択されるものとする。
また、回折格子24が形成される位置は、図1に示したように第2の多重量子井戸型活性層14の下方であっても良く、あるいは第2の多重量子井戸型活性層14の上方のp型InPクラッド層15内であっても良い(図示せず)。また、第1の利得領域Iの第1の光出射端面10a近傍に1.55μmのブラッグ波長を有する回折格子が同時に形成されていても良い。
図4は、本実施形態の半導体発光素子10の導波路構造の概略構成を示す平面図である。図4に示すように、第1の多重量子井戸型活性層13及び第2の多重量子井戸型活性層14は、一定のストライプ幅を有するストライプ部13a,14aを含む。ここで、ストライプ部13a,14aのストライプ幅とは、光の導波方向に垂直、且つ、n型半導体基板11の表面と平行な方向の幅を意味する。
ストライプ部13a,14aのストライプ幅W1,W2は、長波側の利得帯域Λ1を有する第1の多重量子井戸型活性層13で生成された光が基本横モード導波となるカットオフ幅Wλ1(I),Wλ1(II)以下にそれぞれ設定される。図4に示した例では、W1>W2である。
これにより、半導体発光素子10は、第1の利得領域Iと第2の利得領域IIの全領域に亘って、発振波長λ1に関して基本横モード動作することとなる。
また、ストライプ部14aのストライプ幅W2は、短波側の利得帯域Λ2を有する第2の多重量子井戸型活性層14で生成された光が基本横モード導波となるカットオフ幅Wλ2(II)以下に設定されることが望ましい。
これにより、半導体発光素子10は、第2の利得領域IIにおいて発振波長λ2に関して基本横モード動作することとなる。
さらに、上記の条件の下で、第1の利得領域Iにおいて発振波長λ1で基本横モード導波となるカットオフ幅Wλ1(I)にストライプ幅W1を一致させるとともに、第2の利得領域IIにおいて発振波長λ2で基本横モード導波となるカットオフ幅Wλ2(II)にストライプ幅W2を一致させた場合には、発振波長λ1,λ2の2波長に関して各利得領域で基本横モードとしての最大利得を得ることが可能となる。
また、第2の利得領域IIにおける活性層幅W2としてWλ1(II),Wλ2(II)のうち幅の狭い方を選択することで、発振波長λ1,λ2の2波長に関する全領域での基本横モード動作が確実なものとなる。
さらに、第1の多重量子井戸型活性層13は、ストライプ部13a,14a同士を接続し、長波側の利得帯域Λ1を有する活性層13のストライプ部13aから、短波側の利得帯域Λ2を有する活性層14のストライプ部14aに向かってその幅が連続的に減少するテーパ部13bを含む。
言い換えれば、テーパ部13bは、バットジョイント接合部16に最も幅方向に狭い箇所を有し、隣接する2つの活性層13,14のうち、利得帯域が長波側にある第1の多重量子井戸型活性層13内に最も幅方向に広い箇所を有する。テーパ部13bのサイズは、一例として、光の導波方向に沿った長さが100μm、最大幅がストライプ部13aのストライプ幅W1に等しい3.5μm、最小幅がストライプ部14aのストライプ幅W2に等しい2.5μmである。
これにより、第1の利得領域Iと第2の利得領域IIの全領域に亘って基本横モード動作を可能としつつ、バットジョイント接合部16付近でのスポットサイズの不整合を緩和して、放射損失を低減することが可能となる。
図5に比較例として、利得領域の全領域で活性層のストライプ幅が一定である従来の半導体発光素子の導波路構造を示す。具体的には、比較例の半導体発光素子においては、長波長側の第1の利得領域Iの活性層13'がテーパ部を有しておらず、第1の利得領域Iと第2の利得領域IIの全領域に亘って、活性層13',14'のストライプ幅が等しい一定幅となっている。ここで、活性層13',14'のストライプ幅W1,W2は、いずれも第1の利得領域Iにおいて発振波長λ1で基本横モード導波となるカットオフ幅Wλ1(I)に等しく設定している。
従って、図5に示した構成において、第2の利得領域IIの活性層14'のストライプ幅W2が、第2の利得領域IIにおいて発振波長λ1で基本横モード導波となるカットオフ幅Wλ1(II)より広い場合には、第2の利得領域IIで発振波長λ1に関して高次横モードの伝搬が生じることを避けられない。
逆に、図5の構成において、活性層13',14'のストライプ幅W1,W2をいずれも第2の利得領域IIにおいて発振波長λ1で基本横モード導波となるカットオフ幅Wλ1(II)に等しく設定した場合には、Wλ1(I)>Wλ1(II)であれば発振波長λ1に関する高次モードの伝搬は第1の利得領域Iと第2の利得領域IIの全領域で抑制される。しかしながら、第1の利得領域Iの光出力は、活性層13'のストライプ幅W1を第1の利得領域Iにおいて発振波長λ1で基本横モード導波となるカットオフ幅Wλ1(I)に設定した場合と比較して低下してしまう。
これに対して、図4に示した本実施形態の構成では、各利得領域でのストライプ幅を長波側の利得帯域Λ1で基本横モード導波となるカットオフ幅Wλ1(I),Wλ1(II)以下に設定しているので、図5の比較例に見られるような発振波長λ1の高次横モードの伝搬を全領域で抑制しつつ、発振波長λ1の高出力動作が可能となる。
図6は、第2の光出射端面10bからの発振波長λ1の出力光について、水平方向の遠視野像(FFP:Far Field Pattern)を測定した結果を示すグラフである。図6(a)は、図4の本実施形態の構成において、λ1=1550nm,λ2=1310nm,W1=Wλ1(I)=3.5μm,W2=Wλ1(II)=2.5μmと設定した場合のFFPの測定結果である。一方、図6(b)は、図5の比較例の構成において、λ1=1550nm,λ2=1310nm,W1=W2=Wλ1(I)=3.5μm,Wλ1(II)=2.5μmと設定した場合のFFPの測定結果である。
図6(b)に示したFFPは、全体的に波形が乱れ、光強度のピークが複峰化し、光強度が最大値の1/2になる角度幅(半値全幅)が20°を超える形状をなしている。
これに対して、図6(a)に示した本実施形態の構成によるFFPは、単峰性で、半値全幅が20°未満であり、図6(b)のFFPと比較して形状が大幅に改善されている。また、半値全幅が20°未満であることから、図5の比較例の構成よりもスポットサイズが大きくなっていることが分かる。
つまり、FFPが単峰性になるとともに、半値全幅が減少したことから、発振波長λ2の第2の利得領域IIにおいて高次横モードの伝搬が消失して基本横モードの伝搬のみに変化したことが確認できる。また、FFPの乱れが低減されたことから、バットジョイント接合部16での放射損失が減少したことが確認できる。
なお、垂直方向のFFPは、テーパ部の有無により変化することなく、ほぼ一定の形状であることを確認している。さらに、発振波長λ1=1550nmのチップ出力がテーパ部の有無に依らずほぼ一定であることも併せて確認しており、発振波長λ1=1550nmの出力を低下させることなく、全域に亘り基本横モード動作させることが可能と分かった(図示せず)。
また、第2の光出射端面10bからの出力光をレンズを介してシングルモード光ファイバに結合したところ、図5の従来の構成では結合効率が約50%に留まったが、図4の本実施形態の構成では発振波長λ1の出力光に関する結合効率が大幅に改善され約80%となることが分かった。また発振波長λ2の出力光に関する結合効率も約80%であった。
なお、第1の利得領域Iにおいて高い光出力を得るためには、テーパ部13bの光の導波方向に沿った長さを極力短くすることが望ましいが、テーパ部13bが短すぎるとバットジョイント接合部16での放射損失が無視できなくなる。
そこで、本願出願人は、図4の本実施形態の構成において、各利得領域のストライプ幅を固定して、テーパ部13bの長さを変化させたときの放射損失を数値計算で求めることにより、低放射損失を実現することが可能なテーパ部13bの長さの範囲を評価した。
ここでは、第1の利得領域Iの第1の多重量子井戸型活性層13の光の導波方向に沿った長さを1mm、第2の利得領域Iの第2の多重量子井戸型活性層14の光の導波方向に沿った長さを1mmとし、テーパ部13bの光の導波方向に沿った長さを20μmから500μmの範囲で変化させている。表1に数値計算に用いたその他のパラメータをまとめる。
上記の数値計算によると、テーパ部13bの長さが20μmから40μmの範囲では、バットジョイント接合部16から放射損失が生じていることが認められた。バットジョイント接合部16での放射損失は、テーパ部13bの長さが60μmまで増加すると大幅に減少し、テーパ部13bの長さが80μm以上になると検出不可能なレベルまで低下した。
即ち、上記の数値計算の条件においては、第1の利得領域Iに占めるテーパ部13bの長さが40μmであれば実用に際しての最低限度を満たし、60μm以上であればバットジョイント接合部16での放射損失が十分に抑制されることが分かった。
以下、本発明に係る半導体発光素子10の製造方法の一例を図1を参照しながら説明する。
まず、有機金属気相成長(MOVPE)法を用いてn型InPからなるn型半導体基板11上に、n型InPクラッド層12をエピタキシャル成長形成する。
次に、フォトレジスト(図示せず)または電子ビームレジスト(図示せず)を第2の利得領域IIのn型InPクラッド層12であって、光の導波方向の所定長さ(例えば200μm)に亘る表面に塗布する。そして、レジストが塗付された第2の利得領域IIに干渉露光法または電子ビーム描画法によって回折格子パターン露光を行い、現像及びウェットエッチングによって高さ0.1μm程度の回折格子24を作製する。ここで、回折格子24のピッチは、利得帯域1.3μm帯に対応する約0.2μmとすれば良い。
次に、n型InPクラッド層12の上面に、利得帯域が1.55μm帯となるInGaAsPからなる第1の多重量子井戸型活性層13を成長形成する。
次に、第1の多重量子井戸型活性層13の上にSiO2またはSiNxからなる絶縁膜(図示せず)をプラズマCVD法等により数10nm堆積し、さらにその上にフォトレジスト(図示せず)を塗布する。
続いて、フォトリソグラフィにより、第2の利得領域II側のレジストを取り除き、エッチング処理により、レジストで覆われていない領域の絶縁膜を除去する。
さらに、残っているレジストを剥離した後、絶縁膜をマスクとするエッチング処理により、絶縁膜に覆われていない領域の第1の多重量子井戸型活性層13を除去する。
次に、上述のようにエッチングによって露出した領域のn型InPクラッド層12の上に、利得帯域が1.3μm帯となるInGaAsPからなる第2の多重量子井戸型活性層14を、第1の多重量子井戸型活性層13と連続するようにバットジョイント成長させる。第1の多重量子井戸型活性層13上には絶縁膜が成長阻害マスクとして存在しているため、第2の多重量子井戸型活性層14は成長阻害マスクの無い領域にのみ選択的に成長形成される。
次に、第1の利得領域Iに残った絶縁膜を剥離してから、全面にp型InPクラッド層15の一部を成長形成する。さらに、新たに絶縁膜(図示せず)をp型InPクラッド層15の上面に堆積させ、その上にフォトレジスト(図示せず)を塗布する。
そして、導波路構造となるメサ構造を作製するために、フォトリソグラフィによりレジストを図4に示した活性層13,14の形状と同様の形状に残し、その両側を除去する。さらに、残ったレジストをマスクとして、絶縁膜の両側をエッチング処理により除去する。
続いて残ったレジストを剥離除去して、絶縁膜をマスクとするエッチングを行い、メサ構造(図示せず)を形成する。こうして、第1の多重量子井戸型活性層13のストライプ部13a、テーパ部13b、第2の多重量子井戸型活性層14のストライプ部14aが連続して形成され、導波路構造のコアとなる。
次に、絶縁膜を成長阻害マスクとして利用して、第1の多重量子井戸型活性層13及び第2の多重量子井戸型活性層14を含むメサ構造の両側にp型InP埋め込み層19aとn型InP埋め込み層19bを順に形成する。この後、絶縁膜を除去して全面に再びp型InPクラッド層15を成長形成し、さらにその上にp型InGaAsからなるコンタクト層を形成する。
そして、同様のフォトリソグラフィ及びエッチング処理により、分離溝21,22が形成される箇所のコンタクト層をエッチング除去して、コンタクト層16a,16bを形成する。
次に、フォトリソグラフィにより形成したレジストをマスクとして、コンタクト層16a上の第1の利得領域Iと、コンタクト層16b上の第2の利得領域IIに、各々Au、Ti、Ptからなる第1の上部電極17aと、第2の上部電極17bを蒸着する。さらに、n型半導体基板11の下面側を研磨してAu、Ge、Ptからなる下部電極18を蒸着する。
そして、第1及び第2の上部電極17a,17b上にレジスト(図示せず)を形成する。このレジストをマスクとするエッチング処理により、レジストに覆われていない領域のp型InPクラッド層15及びp型InP埋め込み層19a、n型InP埋め込み層19b、n型半導体基板11の一部を除去して分離溝21,22を作製する。そして、レジストを除去して半導体ウエハを完成する。
次に、この半導体ウエハを所定位置で劈開し、チップ化する。さらに第1の利得領域I側の第1の光出射端面10aに反射率90%以上の高反射(HR)コート23aを形成し、第2の利得領域II側の第2の光出射端面10bに反射率1〜10%程度の低反射(LR)コート23bを形成する。これで本実施形態の半導体発光素子10が完成する。
既に述べたように、テーパ部13bのサイズは、一例として、光の導波方向に沿った長さが100μm、最大幅がストライプ部13aのストライプ幅W1に等しい3.5μm、最小幅がストライプ部14aのストライプ幅W2に等しい2.5μmであるため、サブミクロンオーダでの加工精度を必要としないことから、再現性良く半導体発光素子10を作製することが可能である。
次に、以上のように構成された本実施形態の半導体発光素子10の動作について説明する。
第1の利得領域I用の第1の上部電極17aと下部電極18との間に駆動電流が注入された場合には、第1の多重量子井戸型活性層13の内部が発光状態となる。
第1の多重量子井戸型活性層13で生成された1.55μm帯の光は、利得帯域が1.3μm帯の第2の多重量子井戸型活性層14では吸収されず、且つ、1.3μmのブラッグ波長λgを有する回折格子24で反射されずに、第1の多重量子井戸型活性層13及び第2の多重量子井戸型活性層14に沿って伝搬する。
従って、第1の多重量子井戸型活性層13で生成された1.55μm帯の光は、第1の光出射端面10aと第2の光出射端面10bで構成された共振器において、1.55μm帯の複数の縦モードで発振し、LRコート23bが形成された第2の光出射端面10bから出射される。
一方、第2の利得領域II用の第2の上部電極17bと下部電極18との間に駆動電流が注入された場合には、第2の多重量子井戸型活性層14の内部が発光状態となる。
第2の多重量子井戸型活性層14で生成された1.3μm帯の光は、第2の多重量子井戸型活性層14に沿って伝搬する。この1.3μmの光は、1.3μmのブラッグ波長λgを有する回折格子24で90%以上反射されるため、利得帯域が1.55μm帯の第1の多重量子井戸型活性層13における光吸収は抑制される。従って、第2の多重量子井戸型活性層14で生成された1.3μm帯の光は、回折格子24と第2の光出射端面10bで構成された共振器において、1.3μm帯の複数の縦モードで発振し、LRコート23bが形成された第2の光出射端面10bから出射される。
ここで、半導体発光素子10の別の駆動方法について説明する。上記したように、第1の利得領域I用の第1の上部電極17aと下部電極18との間に駆動電流が印加された場合には、第1の多重量子井戸型活性層13の内部が発光状態となる。しかし第1の上部電極17aと第2の上部電極17bの間の分離抵抗が有限であるため、電流の一部は第2の多重量子井戸型活性層14へと漏れてくる。
そこで、第1の利得領域Iを発光させる際に、第2の上部電極17bと下部電極18とをショートさせる。これにより第1の利得領域Iからの漏れ電流が第2の利得領域IIを流れることで生じるキャリアによる光吸収が抑制され、第1の利得領域Iの発光によるレーザ光出力が向上する。
一方、上記したように、第2の利得領域II用の第2の上部電極17bと下部電極18との間に駆動電流が印加された場合には、第2の多重量子井戸型活性層14の内部が発光状態となる。
この場合には第2の多重量子井戸型活性層14で生成された1.3μm帯の光はほとんど第1の多重量子井戸型活性層13へ侵入しないため、第1の上部電極17aをショートした効果は前記の場合に比べて小さくなる。
つまり、半導体発光素子10の別の駆動方法は、一方の上部電極と下部電極との間で駆動電流を印加する際に他方の上部電極を下部電極にショートすることで光出力の飽和を抑制し高光出力化を実現する。特に長波側の光を発振させるときに短波側の上部電極をショートさせることで大きな効果が得られる。なお、この駆動方法は後述する半導体発光素子30にも適用可能である。
以上説明したように、本実施形態の半導体発光素子10は、1.3μm帯及び1.55μm帯の光を同一端面から出射するとともに、長波長側の1.55μm帯の光を基本横モードに保ち高出力動作させることができる。これにより、1.55μm帯の光に関してシングルモード光ファイバとの結合効率を向上させ、高いファイバ出力を実現することができる。
さらに、本実施形態の半導体発光素子10は、テーパ部13bを長波長側の活性層13に設けることで、長波長側の活性層13と短波長側の活性層14の間に存在するバットジョイント接合部16での放射損失を低減し、利得帯域の異なる活性層13,14同士の結合効率を向上させることができる。
(第2の実施形態)
続いて、本発明における第2の実施形態としての半導体発光素子について図面を参照しながら説明する。なお、第1の実施形態と同様の構成及び動作については適宜説明を省略する。
図7は、第2の実施形態の半導体発光素子30を光の導波方向に沿って切断した断面図である。
半導体発光素子10は、図7に示すように、例えば、n型InPからなるn型半導体基板11と、n型半導体基板11上に形成されたn型InPクラッド層12と、n型InPクラッド層12上に形成され、利得帯域Λ1を有するInGaAsPからなる第1の多重量子井戸型活性層31と、第1の多重量子井戸型活性層31に隣接してn型InPクラッド層12上に形成され、利得帯域Λ2を有するInGaAsPからなる第2の多重量子井戸型活性層32と、第2の多重量子井戸型活性層32に隣接してn型InPクラッド層12上に形成され、利得帯域Λ3を有するInGaAsPからなる第3の多重量子井戸型活性層33と、第1の多重量子井戸型活性層31、第2の多重量子井戸型活性層32、及び第3の多重量子井戸型活性層33上に形成されたp型InPクラッド層15と、劈開によって形成された第1の光出射端面30a及び第2の光出射端面30bと、を備える。
第1の多重量子井戸型活性層31、第2の多重量子井戸型活性層32、及び第3の多重量子井戸型活性層33は、光の導波方向に沿ってこの順に配置され、バットジョイント接合部34,35において、バットジョイント手法によりそれぞれが光学的に結合されている。なお、ここで言う第1の多重量子井戸型活性層31、第2の多重量子井戸型活性層32及び第3の多重量子井戸型活性層33は、MQW構造とそれを挟むSCH層を含んでいる。
また、第1の多重量子井戸型活性層31、第2の多重量子井戸型活性層32、及び第3の多重量子井戸型活性層33は、第1の光出射端面30aから第2の光出射端面30bに向かって利得帯域が短波化する順に配置されている。
本実施形態では、利得帯域Λ1,Λ2,Λ3として光パルス試験器で用いる波長帯である1.625μm帯、1.55μm帯、1.3μm帯を例にして説明する。なお、発振波長λ1,λ2,λ3は、それぞれ利得帯域Λ1,Λ2,Λ3に含まれており、例えば1.60≦λ1≦1.65、1.52≦λ2≦1.58、1.28≦λ3≦1.34の範囲内の値を取る。
あるいは発振波長λ1,λ2,λ3は、1.28〜1.34,1.47〜1.50,1.52〜1.55,1.60〜1.65の各波長範囲からの任意の組み合わせであっても良い(ただしλ1>λ2>λ3として選択する。単位はμm)。
n型半導体基板11、n型InPクラッド層12、第1の多重量子井戸型活性層31、及びp型InPクラッド層15を含む導波路構造は、第1の利得領域Iを構成する。また、n型半導体基板11、n型InPクラッド層12、第2の多重量子井戸型活性層32、及びp型InPクラッド層15を含む導波路構造は、第2の利得領域IIを構成する。また、n型半導体基板11、n型InPクラッド層12、第3の多重量子井戸型活性層33、及びp型InPクラッド層15を含む導波路構造は、第2の利得領域IIIを構成する。
さらに、第1の利得領域I、第2の利得領域II、及び第3の利得領域IIIにおいては、p型InPクラッド層15の上面に、それぞれp型InGaAsからなるコンタクト層36a,36b,36cが積層されている。
また、コンタクト層36a上には第1の利得領域I用の第1の上部電極37a、コンタクト層36b上には第2の利得領域II用の第2の上部電極37b、コンタクト層36c上には第3の利得領域III用の第3の上部電極37cが、それぞれ蒸着形成され、n型半導体基板11の下面には下部電極18が蒸着形成されている。
さらに、第1の利得領域I、第2の利得領域II、及び第3の利得領域IIIの導波路構造の光の導波方向に直交する幅方向の両側方には、それぞれp型InP埋め込み層とn型InP埋め込み層が形成されている。
また、上部電極37a,37b,37cを互いに電気的に絶縁するため、互いに隣り合う利得領域の境界部分に、バットジョイント接合された第1の多重量子井戸型活性層31及び第2の多重量子井戸型活性層32を内部に有する橋渡部38と、バットジョイント接合された第2の多重量子井戸型活性層32及び第3の多重量子井戸型活性層33を内部に有する橋渡部39と、橋渡部38,39の光の導波方向に直交する幅方向の両側方に設けられた分離溝(図示せず)と、が形成されている。
なお、コンタクト層36a,36b,36cは、各上部電極37a,37b,37cの下方部分を残してエッチングにより除去され、第1の上部電極37aの下方に第1のコンタクト層36aが、第2の上部電極37bの下方に第2のコンタクト層36bが、第3の上部電極37cの下方に第3のコンタクト層36cが、それぞれ独立して形成されている。
また、第1の実施形態と同様に、第1の光出射端面30aにはHRコート23aが、第2の光出射端面30bにはLRコート23bがそれぞれ施されている。
さらに、第2の利得領域IIのn型InPクラッド層12において、第1の多重量子井戸型活性層31と第2の多重量子井戸型活性層32のバットジョイント接合部34近傍に、1.55μmのブラッグ波長λga及び100cm-1以上の結合係数κを有する回折格子40が形成されている。ここで、回折格子40のピッチは約0.24μmである。
同様に、第3の利得領域IIIのn型InPクラッド層12において、第2の多重量子井戸型活性層32と第3の多重量子井戸型活性層33のバットジョイント接合部35近傍に、1.3μmのブラッグ波長λgb及び100cm-1以上の結合係数κを有する回折格子41が形成されている。ここで、回折格子41のピッチは約0.2μmである。
なお、図7に示すように、回折格子40,41の光の導波方向の長さを、それぞれ第2の多重量子井戸型活性層32、第3の多重量子井戸型活性層33の長さよりも短く構成するのが好適である。このように回折格子40,41の光の導波方向の長さを十分短く構成することにより、回折格子40,41の波長選択性が低下するとともに、第2の光出射端面30bにおける端面出力を増大させることができる。このため、複数の縦モードの発振が生じやすくなるとともに高出力化が可能となる。
また、回折格子40,41が形成される位置は、図7に示したように第2の多重量子井戸型活性層32及び第3の多重量子井戸型活性層33の下方であっても良く、第2の多重量子井戸型活性層32及び(または)第3の多重量子井戸型活性層33の上方のp型InPクラッド層15内であっても良い(図示せず)。また、第1の利得領域Iの第1の光出射端面30a近傍に1.625μmのブラッグ波長を有する回折格子が同時に形成されていても良い。
図8は、本実施形態の半導体発光素子30の導波路構造の概略構成を示す平面図である。図8に示すように、第1の多重量子井戸型活性層31、第2の多重量子井戸型活性層32、及び第3の多重量子井戸型活性層33は、一定のストライプ幅を有するストライプ部31a,32a,33aを含む。
ストライプ部31a,32aのストライプ幅W1,W2,W3は、最も長波側の利得帯域Λ1を有する第1の多重量子井戸型活性層31で生成された光が基本横モード導波となるカットオフ幅Wλ1(I),Wλ1(II),Wλ1(III)以下にそれぞれ設定される。図8に示した例では、W1>W2>W3である。
これにより、半導体発光素子30は、第1の利得領域I、第2の利得領域II、及び第3の利得領域IIIの全領域に亘って、発振波長λ1に関して基本横モード動作することとなる。
また、ストライプ部32a,33aのストライプ幅W2,W3は、利得帯域Λ3よりも長波側の利得帯域Λ2を有する第2の多重量子井戸型活性層32で生成された光が基本横モード導波となるカットオフ幅Wλ2(II),Wλ2(III)以下にそれぞれ設定される。
これにより、半導体発光素子30は、第2の利得領域II及び第3の利得領域IIIの全領域に亘って、発振波長λ2に関して基本横モード動作することとなる。
さらに、ストライプ部33aのストライプ幅W3は、最も短波側の利得帯域Λ3を有する第3の多重量子井戸型活性層33で生成された光が基本横モード導波となるカットオフ幅Wλ3(III)以下に設定されることが望ましい。
これにより、半導体発光素子30は、第3の利得領域IIにおいて発振波長λ3に関して基本横モード動作することとなる。ここで、第2の利得領域IIにおける活性層幅W2としてWλ1(II),Wλ2(II)のうち幅の狭い方を選択し、且つ、第3の利得領域IIIにおける活性層幅W3としてWλ1(III),Wλ2(III),Wλ3(III)のうち幅の最も狭いものを選択することで、発振波長λ1,λ2,λ3の3波長に関する全領域での基本横モード動作が確実なものとなる。
さらに、第1の多重量子井戸型活性層31は、ストライプ部31a,32a同士を接続し、最も長波側の利得帯域Λ1を有する活性層31のストライプ部31aから、短波側の利得帯域Λ2を有する活性層32のストライプ部32aに向かってその幅が連続的に減少するテーパ部31bを含む。
同様に、第2の多重量子井戸型活性層32は、ストライプ部32a,33a同士を接続し、利得帯域Λ3よりも長波側の利得帯域Λ2を有する活性層32のストライプ部32aから、短波側の利得帯域Λ3を有する活性層33のストライプ部33aに向かってその幅が連続的に減少するテーパ部32bを含む。
言い換えれば、テーパ部31bは、バットジョイント接合部34に最も幅方向に狭い箇所を有し、隣接する2つの活性層31,32のうち、利得帯域が最も長波側の第1の多重量子井戸型活性層31内に最も幅方向に広い箇所を有する。同様に、テーパ部32bは、バットジョイント接合部35に最も幅方向に狭い箇所を有し、隣接する2つの活性層32,33のうち、利得帯域が長波長側の第2の多重量子井戸型活性層32内に最も幅方向に広い箇所を有する。
これにより、第1の利得領域I、第2の利得領域II、及び第3の利得領域IIIの全領域に亘って基本横モード動作を可能としつつ、バットジョイント接合部34,35付近でのスポットサイズの不整合を緩和して、放射損失を低減することが可能となる。
次に、以上のように構成された本実施形態の半導体発光素子30の動作について説明する。
第1の利得領域I用の第1の上部電極37aと下部電極18との間に駆動電流が注入された場合には、第1の多重量子井戸型活性層31の内部が発光状態となる。
第1の多重量子井戸型活性層31で生成された1.625μm帯の光は、利得帯域が1.55μm帯の第2の多重量子井戸型活性層32及び利得帯域が1.3μm帯の第3の多重量子井戸型活性層33では吸収されず、且つ、1.55μmのブラッグ波長λgaを有する回折格子40及び1.3μmのブラッグ波長λgbを有する回折格子41で反射されずに、第1の多重量子井戸型活性層31、第2の多重量子井戸型活性層32及び第3の多重量子井戸型活性層33に沿って伝搬する。
従って、第1の多重量子井戸型活性層31で生成された1.625μm帯の光は、第1の光出射端面30aと第2の光出射端面30bで構成された共振器において、1.625μm帯の複数の縦モードで発振し、LRコート23bが形成された第2の光出射端面30bから出射される。
一方、第2の利得領域II用の第2の上部電極37bと下部電極18との間に駆動電流が注入された場合には、第2の多重量子井戸型活性層32の内部が発光状態となる。
第2の多重量子井戸型活性層32で生成された1.55μm帯の光は、1.55μmのブラッグ波長λgaを有する回折格子40で90%以上反射されるため、利得帯域が1.625μm帯の第1の多重量子井戸型活性層31における光吸収は抑制される。また、第2の多重量子井戸型活性層32で生成された1.55μm帯の光は、利得帯域が1.3μm帯の第3の多重量子井戸型活性層33では吸収されず、且つ、1.3μmのブラッグ波長λgbを有する回折格子41で反射されずに、第2の多重量子井戸型活性層32及び第3の多重量子井戸型活性層33に沿って伝搬する。
従って、第2の多重量子井戸型活性層32で生成された1.55μm帯の光は、回折格子40と第2の光出射端面30bで構成された共振器において、1.55μm帯の複数の縦モードで発振し、LRコート23bが形成された第2の光出射端面30bから出射される。
一方、第3の利得領域III用の第3の上部電極37cと下部電極18との間に駆動電流が注入された場合には、第3の多重量子井戸型活性層33の内部が発光状態となる。
第3の多重量子井戸型活性層33で生成された1.3μm帯の光は、1.3μmのブラッグ波長λgbを有する回折格子41で90%以上反射されるため、利得帯域が1.625μm帯の第1の多重量子井戸型活性層31及び利得帯域が1.55μm帯の第2の多重量子井戸型活性層32における光吸収は抑制される。
従って、第3の多重量子井戸型活性層33で生成された1.3μm帯の光は、回折格子41と第2の光出射端面30bで構成された共振器において、1.3μm帯の複数の縦モードで発振し、LRコート23bが形成された第2の光出射端面30bから出射される。
以上説明したように、本実施形態の半導体発光素子30は、1.3μm帯、1.55μm帯及び1.625μm帯の波長帯の光を同一端面から出射するとともに、1.625μm帯及び1.55μm帯の波長帯の光を基本横モード動作させることができる。これにより、1.625μm帯及び1.55μm帯の光に関してシングルモード光ファイバとの結合効率を向上させ、高いファイバ出力を実現することができる。
さらに、本実施形態の半導体発光素子30は、テーパ部31b,32bを長波長側の活性層31,32に設けることで、バットジョイント接合部34,35での放射損失を低減し、利得帯域の異なる活性層31,32,33同士の結合効率を向上させることができる。
(第3の実施形態)
続いて、本発明における第3の実施形態としての半導体発光素子モジュールについて図面を参照しながら説明する。なお、第1及び第2の実施形態と同様の構成及び動作については適宜説明を省略する。
図9は、バタフライ型の半導体発光素子モジュール50の構成を示す側断面図である。半導体発光素子モジュール50は、第1の実施形態の半導体発光素子10と、半導体発光素子10の第2の光出射端面10bから出射された光を集光するレンズ51と、内部が中空の直方体状であり、半導体発光素子10及びレンズ51を格納するパッケージ(筺体)52と、パッケージ52に接続され、レンズ51により集光された光をパッケージ52の外部に導くシングルモード光ファイバとしての光ファイバ53と、を主に備える。なお、半導体発光素子モジュール50は、半導体発光素子10の代わりに、第2の実施形態の半導体発光素子30を備えるものであっても良い。
パッケージ52の内部には、半導体発光素子10及びレンズ51に加え、戻り光を防止するアイソレータ54と、半導体発光素子10の第1の光出射端面10aからわずかに出射される光を受光して半導体発光素子10の動作をモニタする受光素子55と、が格納されている。
半導体発光素子10はサブマウント56上に載置され、レンズ51はレンズホルダ57に保持され、受光素子55はPDサブマウント58上に載置されている。サブマウント56、レンズホルダ57、PDサブマウント58、及びアイソレータ54は、基板59上に固定されている。
パッケージ52の内部の底面には、ペルチェ素子60が固定されている。このペルチェ素子60上に基板59が固定されている。
パッケージ52の正面側の壁面には、半導体発光素子10から出射されるレーザ光を外部に導くための円形の出射口が形成されており、その手前側には窓ガラス61が取り付けられている。光ファイバ53の先端部分に取り付けられた円筒状のフェルール62が、スリーブ63によってパッケージ52の正面側の壁面に固定され、さらにフェルール62の全体及び光ファイバ53の一部を取り囲む円筒状のカバー64が、正面側の壁面に固定されている。
上記の構成により、半導体発光素子10から出射されたレーザ光は、レンズ51、アイソレータ54及び窓ガラス61を通ってパッケージ52の正面側の壁面に達し、光ファイバ53の一方の端部に入射する。そして、光ファイバ53に入射したレーザ光は、光ファイバ53内を伝搬して、他方の端部から出射される。
なお、上記の説明では、半導体発光素子モジュールとしてバタフライ型を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば半導体発光素子モジュールが同軸型であっても良い。
このように形成された本実施形態の半導体発光素子モジュール50は、半導体発光素子10の第2の光出射端面10bからの出力光をレンズ51を介してシングルモード光ファイバである光ファイバ53に結合することにより、半導体発光素子10と光ファイバ53を約80%の高い結合効率で光結合することができる。
(第4の実施形態)
続いて、本発明における第4の実施形態としての光パルス試験器について図面を参照しながら説明する。なお、第1〜3の実施形態と同様の構成及び動作については適宜説明を省略する。
複数の異なる波長帯の光を複数の縦モードで発振可能な第1または第2の実施形態の半導体発光素子10,30は、光パルス試験器の光源として用いることができる。以下、半導体発光素子10または半導体発光素子30を用いた光パルス試験器の実施形態について図面を用いて説明する。
図10に示すように、第4の実施形態の光パルス試験器70は、光パルスを被測定光ファイバ3に向けて出力する発光部1と、被測定光ファイバ3からの光パルスの戻り光を電気信号に変換する受光部4と、受光部4によって変換された電気信号に基づいて被測定光ファイバ3の損失分布特性を解析する信号処理部5と、を主に備える。
発光部1は、第3の実施形態の半導体発光素子モジュール50と、半導体発光素子モジュール50が備える半導体発光素子10(または半導体発光素子30)に上記光パルスを発するためのパルス状の駆動電流を注入する発光素子駆動回路2と、を有する。
なお、信号処理部5は、発光素子駆動回路2が半導体発光素子10にパルス状の駆動電流を注入するタイミングを制御する。
さらに、本実施形態の光パルス試験器70は、発光部1からの光パルスをバンドパスフィルタ(BPF)6に出力するとともに、被測定光ファイバ3からの戻り光を受光部4に出力する光カプラ7と、被測定光ファイバ3と光結合する光コネクタ8と、信号処理部5の処理結果を表示する表示部9と、を備える。
次に、以上のように構成された本実施形態の光パルス試験器70の動作を説明する。なお、以下の説明においては、本実施形態の光パルス試験器70は半導体発光素子10を備えているものとする。
まず、発光素子駆動回路2によって、半導体発光素子10の第1の利得領域I(または第2の利得領域II)にパルス状の駆動電流が注入されることにより、発光部1から1.55μm帯(または1.3μm帯)の光パルスが出力される。
そして、発光部1から出力された光パルスが、光カプラ7、BPF6、光コネクタ8を経て、被測定光ファイバ3に入射される。被測定光ファイバ3に入射された光パルスは、戻り光となって光カプラ7を介して受光部4に受光される。
戻り光は、受光部4によって電気信号に変換され、信号処理部5に入力される。そして、信号処理部5によって、被測定光ファイバ3の損失分布特性が算出される。算出された損失分布特性は表示部9に表示される。
以上説明したように、本実施形態の光パルス試験器70は、1つの素子で複数の異なる波長帯の光を複数の縦モードで発振可能な半導体発光素子を備えるため、小型化及び低価格化を実現できる。