以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上、誇張されて実際の比率とは異なる場合がある。
本実施形態に係るカテーテル用チューブの製造方法により製造されるカテーテル用チューブ10は、図1に示すように、血管、胆管、気管、食道、尿道、またはその他の生体管腔内や体腔内に挿入されて治療や診断等を行うためのカテーテル1に用いられる。カテーテル1は、長尺なカテーテル用チューブ10と、カテーテル用チューブ10の基端に連結されるハブ20と、カテーテル用チューブ10およびハブ20の連結部位に設けられる耐キンクプロテクタ30と、を有している。なお、本明細書では、管腔に挿入する側を「先端」若しくは「先端側」、操作する手元側を「基端」若しくは「基端側」と称することとする。
カテーテル用チューブ10は、図1,2に示すように、可撓性を有する管状の部材であり、所定の外径および内径を有するチューブ基端部11と、チューブ基端部11より小さい外径および内径を有するチューブ先端部12と、チューブ基端部11およびチューブ先端部12の間で外径および内径が軸線方向に向かって徐々に変化するチューブ移行部13と、を有している。カテーテル用チューブ10は、基端から先端にかけて内部にルーメン14が形成されている。ルーメン14は、例えばガイドワイヤー用ルーメンとして機能するものであり、カテーテル1の生体管腔内への挿入時には、ガイドワイヤーが挿通される。また、ルーメン14は、薬液や塞栓物質、造影剤等の通路として用いることもできる。
カテーテル用チューブ10は、複数の層で構成されており、最内層を構成する内層15と、内層15の外側に形成される補強層16と、内層15および補強層16の外側に形成される外層17と、外層17の外側に被覆される親水層18とを備えている。補強層16は、カテーテル用チューブ10の先端側の柔軟性を確保するために、チューブ先端部12における先端側が除去されている。なお、内層15、補強層16、外層17および親水層18の構成および材料は、後述する製造方法にて詳細に説明する。
ハブ20は、カテーテル用チューブ10の基端部が接着剤、熱融着または止具(図示せず)等により液密に固着されている。ハブ20は、ルーメン14内へのガイドワイヤーの挿入口、ルーメン14内への薬液や塞栓物質、造影剤等の注入口等として機能し、また、カテーテル1を操作する際の把持部としても機能する。ハブ20の材料は、特に限定されないが、例えば、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリサルホン、ポリアリレート、メタクリレート−ブチレン−スチレン共重合体等の熱可塑性樹脂が好適に使用できる。
耐キンクプロテクタ30は、カテーテル用チューブ10の周囲を囲むように設けられる弾性材料からなり、カテーテル用チューブ10とハブ20の連結部位におけるカテーテル用チューブ10のキンクを抑制する。耐キンクプロテクタ30の材料は、例えば、天然ゴム、シリコーン樹脂等が好適に使用できる。
次に、本実施形態に係るカテーテル用チューブ10の製造方法について説明する。カテーテル用チューブ10は、長尺な芯線40を準備する芯線準備工程(図3(A))と、芯線40上に内層被覆体51(被覆体)を形成する内層被覆体形成工程(被覆体形成工程)(図3(B))と、内層被覆体51上に補強体52を形成する補強体形成工程(図3(C))と、補強体52の一部を除去する補強体除去工程(図3(D))と、芯線40上に得られる管状連続体60を芯線40の所定の位置で切断して単体チューブ61を切り出す切断工程(図3(E))と、補強体52および内層被覆体51を一体的に被覆して外層被覆体53を形成する外層被覆体形成工程(図3(F))と、芯線40を延伸させる芯線延伸工程(図3(G))と、各単体チューブ61から芯線40を除去する芯線除去工程(図3(H))と、親水性被覆体54を被覆する親水性被覆体形成工程(図3(I))と、を有している。芯線40上に形成される内層被覆体51、補強体52、外層被覆体53および親水性被覆体54は、最終的に、カテーテル用チューブ10の内層15、補強層16、外層17および親水層18となる。
芯線準備工程は、図3(A)に示すように、芯線40を切削、研磨、研削、鍛造、溶接、割りダイスを用いた引抜き延伸等の機械的加工、または、エッチング等の化学的加工により、太径部41、細径部42および移行部43を有するように加工する工程、または、上記のような加工が施された芯線40を購入等により準備する工程である。
芯線準備工程において準備される芯線40は、所定の外径を有する太径部41と、太径部41より小さい外径を有する細径部42と、太径部41および細径部42の間で外径が芯線40の軸線方向に向かって徐々に変化する移行部43と、が複数並んで構成されている。細径部42の外径D2に対する太径部41の外径D1の比率(D1/D2)は、1.00を超えて1.31以下であることが好ましく、より好ましくは1.30以下であり、さらに好ましくは1.22以下である。比率(D1/D2)は1より大きい。比率(D1/D2)が1.31以下であることで、芯線延伸工程において細径部42のみならず太径部41も良好に延伸させ、細径部42のみの細りを抑制して、芯線除去工程において芯線40を良好に除去することが可能となり、実使用に耐え得るカテーテル用チューブ10を製造可能となる。比率(D1/D2)が1.22以下であれば、細径部42のみの細りがより確実に抑制されて、芯線除去工程において芯線40をより確実に除去することが可能となり、より良好なカテーテル用チューブ10を製造可能となる。一例として、太径部41の長さL1は1800mm、細径部42の長さL2は150mm、移行部43の長さL3は50mm、太径部41の外径D1は0.55〜0.6mm、細径部42の外径D2は0.45〜0.50mmとすることができるが、寸法はこれに限定されない。
芯線40の材料は、銅線、ステンレス軟線等延伸できる金属、または、ポリアミド(PA)等の樹脂ストランド等を適用でき、その断面は円形に限定されず、楕円、半円、多角形等の任意の形状とすることができる。なお、上記のような芯線40は、購入等により容易に準備することができる。
芯線準備工程の後には、図3(B)に示すように、芯線40上に内層被覆体51を形成する(内層被覆体形成工程)。内層被覆体51の材料は、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等を適用でき、フッ素系樹脂、高密度ポリエチレン(HDPE)等の低摩擦材料等が好ましい。
内層被覆体51には、X線不透過物質を混合してもよい。なお、内層被覆体51をフッ素系樹脂等の低摩摩擦材料で形成する場合には、外側に他の材料を被覆できるように、内層被覆体51の外側表面に、ケミカルエッチング等により粗面化処理を施すことが好ましい。
内層被覆体51の材料に熱可塑性樹脂を用いる場合には、押出成形機にて所定の成形温度(ダイス温度)で所定の引き取り速度で押出成形することができる。これにより、略同一肉厚の押出成形体(内層被覆体51)を得ることができる。一例として、太径部41に対応する部位の内層被覆体51の外径を0.57〜0.76mm、細径部42に対応する部位の内層被覆体51の外径を0.47〜0.53mmとすることができるが、寸法はこれに限定されない。なお、引き取り速度を調整することで、部位に応じて肉厚を変化させることもできる。
押出成形法を概説すれば、図4に示すような一般的な押出成形機100を用いて、芯材W(ここでは、芯線40)上に熱可塑性樹脂の層(ここでは、内層被覆体51)を成形する。押出成形機100は、加熱溶融した材料を押し出す押出機101と、押出機101から押し出された樹脂を押出口102から押し出す金型103と、金型103を貫通して押出口102の中心に位置する芯材Wを引き取る引取機105と、芯材Wが巻回されて保持されるとともに金型103へ芯材Wを供給する供給ロール106と、押出成形が完了した芯材Wを回収する回収ロール107と、を備えている。芯材W上に材料を押出成形する際には、押出機101により加熱溶融した材料を金型103に供給して、供給ロール106から送り出されて押出口102に位置する芯材Wを引取機105により引き取りつつ押出口102から芯材W上に材料を連続的に供給して、芯材W上に材料を被覆させる。材料が被覆された芯材Wは、被覆された材料が固化した後に回収ロール107に巻回されて回収される。引取機105による引き取り速度を変更することで、押し出される成形品の外径を任意に変更することができる。なお、前工程から芯材Wを直接受け取り、後工程へ熱可塑性樹脂が被覆された芯材Wを直接引き渡すのであれば、供給ロール106および回収ロール107は、設けられなくてもよい。また、内層被覆体51の押出成形において、樹脂としてフッ素系樹脂(PTFEなど)を用いる場合、フッ素系潤滑剤を助剤として樹脂粉末と混合したものを押し出しすることができる。
なお、内層被覆体形成工程では、内層被覆体51を押出成形により成形するのではなしに、ディップ成形によって成形してもよい。ディップ成形による方法を概説すれば、まず、図5に示すような容器200内に、材料である樹脂を溶剤に溶解した溶液Rまたは希釈剤中に分散させた分散液Rを収容し、容器200の底に設けられて液密性を維持しつつ芯材W(ここでは、芯線40)を挿通可能である柔軟な弁体201を介して、芯材Wが巻回されて保持される供給ロール202から芯材Wを供給し、芯材Wを下方から容器200内に挿入する。そして、容器200内で溶液Rまたは分散液Rに芯材Wをディッピング(浸漬)させた後に、容器200の上方へ引き抜く。これにより、芯材Wの外周面に溶液Rまたは分散液Rを付着させ、芯材Wに付着させた溶液Rまたは分散液Rを熱風やヒータ等によって加熱して乾燥させ、フッ素系樹脂等の分散液Rを用いる場合にはさらに焼結させて、内層被覆体51を形成する。材料が被覆された芯材Wは、被覆された材料が固化した後に回収ロール203に巻回されて回収される。溶剤や希釈剤には、通常用いられているものを適用することができる。容器200からの引き上げ速度を変更することで、芯材Wに付着される溶液Rまたは分散液Rの膜厚を任意に変更し、内層被覆体51の厚さを任意に変更することができる。膜厚は、溶液Rまたは分散液Rの密度、表面張力、粘度、重力および引き上げ速度が相互に作用して決定され、容器200からの引き上げ速度を遅くすると、芯材Wに付着される溶液Rまたは分散液Rの膜厚を増加させることができ、引き上げ速度を速くすると、芯材Wに付着される溶液Rまたは分散液Rの膜厚を減少させることができる。例えば、太径部41よりも細径部42に対応する部位の膜厚を薄くして、移行部43に対応する部位の膜厚を、漸次的に変化させることもできる。
また、溶液Rまたは分散液Rの粘度が高いと、被覆される厚さが不均一となりやすいため、被覆される膜厚が均一となる程度に粘度を低く設定し、ディップ成形を複数回繰り返し行うことで、被覆させる膜厚を徐々に増加させて、被覆厚さを高精度に制御することができる。ディップ成形を繰り返し行う際には、材料が被覆された芯材Wが回収された回収ロール203を、容器200の下方へ移動させて供給ロール202とし、再びディップ成形を行うことができる。ディップ成形を繰り返し行う際には、一回毎に、溶液Rまたは分散液Rを熱風やヒータ等によって加熱して乾燥および焼結させることが好ましい。
また、ディップ成形を複数回繰り返し行う際には、芯線40の同じ方向へ引き上げてディップ成形するのではなしに、少なくとも1回は逆方向へ引き上げてディップ成形することが好ましく、より好ましくは、1回ずつ方向を変えながらディップ成形することが好ましい。少なくとも1回は逆方向からディップ成形することで、引き上げ方向に依存する膜厚の偏りを抑制して膜厚を均一化でき、1回ずつ方向を変えながらディップ成形することで、引き上げ方向による膜厚の偏りを最大限に抑制して、膜厚をより均一とすることができる。特に、外径が変化する芯線40においては、外径が変化する部位において、引き上げ方向に依存する膜厚の偏りが生じやすいことから、太径部41および細径部42が形成される芯線40にディップ成形を施す際に、少なくとも1回は逆方向からディップ成形することで、膜厚の均一化において高い効果が発揮される。
なお、一回のディップ成形のステップごとに乾燥・焼結させることもできるが、乾燥・焼結させることなしに連続して複数回ディップ成形した後、乾燥・焼結させることもできる。このように乾燥・焼結させることなしに連続して複数回ディップ成形することにより、所望の部位での厚みを細かく設定することができる。
また、ディップ成形を繰り返し行う際に、芯線40の部位に応じて繰り返し回数を変化させることができる。このための方法の一例として、繰り返し回数を多くしたい部位を引き上げ、当該部位に被覆される溶液Rまたは分散液Rを乾燥・焼結させた後、上方向へ移動していた芯線40を下方向へ移動させて、繰り返し回数を多くしたい部位を溶液Rまたは分散液R内に浸漬させる。この後、再び芯線40を上方向へ移動させて、繰り返し回数を多くしたい部位を再び引き上げて、溶液Rまたは分散液Rをさらに被覆させることができる。これを繰り返すことで、部位に応じた所望の繰り返し回数のディップ成形を行うことができる。このように、芯線40の移動方向を切り替えながら、ディップ成形の繰り返し回数を部位に応じて適宜設定することができる。したがって、例えば、ディップ成形の繰り返し回数が、移行部>太径部>細径部となるように、または太径部>移行部>細径部となるように設定することができる。なお、A>Bとは、Aにおける繰り返し回数がBにおける繰り返し回数より多いことを意味する。これらのうち、移行部で繰り返し数が最も多くなるようにディップ成形をすると、移行部での厚みを可変的に変化させることができ、好ましい。この方法においても、一回のディップ成形のステップごとに乾燥・焼結させることができるが、乾燥・焼結させることなしに連続して複数回ディップ成形した後、乾燥・焼結させてもよい。
また、芯線40を移動させるのではなしに、図5で示される溶液Rまたは分散液Rの液量Hを変化させて深さを変化させることで、引き上げ位置、引き上げ速度および引き上げ方向(上方向または下方向)を調整することもできる。
また、芯材Wを、芯材Wの軸線を中心に回転させつつ容器200から引き上げることで、芯材Wに被覆される溶液Rまたは分散液Rに遠心力を作用させて、被覆される量を任意に変更することもできる。すなわち、芯材Wの回転速度が速いほど作用する遠心力が増加して、芯材Wに被覆される溶液Rまたは分散液Rの膜厚を減少させることができ、芯材Wの回転速度が遅いほど作用する遠心力が減少して、芯材Wに被覆される溶液Rまたは分散液Rの膜厚を増加させることができる。例えば、太径部41を引き上げる際よりも、細径部42を引き上げる際の回転速度を増加させることで、細径部42に被覆される膜厚を、太径部41に被覆される膜厚よりも薄くすることができる。そして、移行部43を引き上げる際に、芯線40の回転速度を徐々に変化させることで、移行部43における膜厚を、太径部41と細径部42の間で滑らかかつ傾斜的に変化させることができる。これにより、製造されるカテーテル用チューブ10の先端側を基端側よりも柔軟にすることができる。また、芯線40の外径が大きいほど、作用する遠心力が大きくなるため、被覆される溶液Rまたは分散液Rの膜厚を一定にするために、外径が変化する部位において回転速度を調整することも可能である。
本実施形態では、芯材Wが供給ロール202から供給され、回収ロール203に回収されるため、供給ロール202および回収ロール203を、容器200内の芯材Wの軸線を中心に回転させることが好ましいが、容器200内の芯材Wを回転させることが可能であれば、装置の構成は限定されない。
また、芯材Wを回転させつつ容器200から引き上げる際に、溶液Rまたは分散液Rに粒子や繊維等の混合物が混合されている場合には、混合物に配向を与えることができる。
ディップ成形を回転させながら複数回繰り返し行う際には、芯線40を毎回同じ方向へ回転させるのではなしに、少なくとも1回は逆回転させつつディップ成形することが好ましく、より好ましくは、1回ずつ回転方向を逆にしながらディップ成形することが好ましい。少なくとも1回は逆回転させつつディップ成形することで、回転方向に依存する膜厚の偏りを抑制して膜厚を均一化でき、1回ずつ回転方向を変えながらディップ成形することで、回転方向に依存する膜厚の偏りを最大限に抑制して、膜厚をより均一とすることができる。
芯材Wに被覆される溶液Rまたは分散液Rの膜厚を減少させたい場合には、引き上げ速度で制御しようとすると引き上げ速度を遅くする必要があるが、上述のように芯材Wの回転速度で制御すれば、引き上げ速度を遅くすることなしに回転速度を増加させることで調整可能であるため、製造時間を短縮できる。
このように、溶液Rまたは分散液Rの粘度、引き上げ速度、引き上げ方向、引き上げ部位、溶液Rまたは分散液Rの液量(容器200中での深さ)、ディップ成形の繰り返し回数、回転速度および回転方向を調整することで、被覆される内層被覆体51の被覆厚さおよび製造時間を、高精度に制御することができる。
なお、内層被覆体51をディップ成形できるのであれば、上記のような容器200でなくてもよく、例えば、容器200の底から芯材Wを挿通させるのではなしに、容器の上方から芯材Wを溶液Rまたは分散液Rにディッピング(浸漬)させ、芯材Wを湾曲させつつ、再び上方へ引き上げるようにしてもよい。また、芯材Wの外周面に溶液Rまたは分散液Rを付着させた後、所定の内径を有するダイ(図示せず)を通過させて付着される溶液Rまたは分散液Rの量を規制することで、内層被覆体51の外径を調整することもできる。また、前工程から芯材Wを直接受け取り、後工程へ材料が被覆された芯材Wを直接引き渡すのであれば、芯材Wが巻回される供給ロール202および回収ロール203は、設けられなくてもよい。
また、内層被覆体形成工程において内層被覆体51を形成する方法は、押出成形やディップ成形に限定されず、例えば、樹脂を溶剤に溶解した溶液または希釈剤中に分散させた分散液を、噴霧(スプレー)、塗布、印刷等の公知の方法により芯線40に付着させた後、芯線40に付着させた溶液または分散液を熱風やヒータ等によって加熱して乾燥させ、材料によっては焼結させて、内層被覆体51を形成してもよい。
内層被覆体形成工程の後には、図3(C)に示すように、内層被覆体51上の少なくとも一部を覆うように補強体52を形成する(補強体形成工程)。
補強体52は、内層被覆体51上に、素線を所定の格子間距離の編組で連続的に巻きつけて形成される。補強体52は、同一方向の横巻きや、右巻き・左巻き等、巻き方向を変えながら素線を巻きつけてもよく、また、巻きピッチ、格子間距離、周方向に対する傾斜角度等を位置によって変更してもよく、構成は特に限定されない。
補強体52に用いられる素線は、白金(Pt)・タングステン(W)等の金属線、樹脂繊維、炭素繊維、ガラス繊維等を適用でき、または、これらの素線を複数併用してもよい。
補強体形成工程の後には、図3(D)に示すように、細径部42に対応する部位の補強体52の一部を除去する(補強体除去工程)。除去する部位は、最終的に製造される複数のカテーテル用チューブ10のチューブ先端部12の柔軟性を付与したい先端側に対応して、所定の間隔で設定される。補強体52の除去は、電気分解を用いた電気化学的処理、酸等の薬品を用いた化学的処理、カッター等を用いた機械的処理、またはレーザーを用いた光学的処理等により実施できる。これにより、芯線40上に、内層被覆体51および補強体52からなる管状連続体60が形成される。なお、除去する部位は、最終的に製造される複数のカテーテル用チューブ10のチューブ先端部12の先端側に対応した部位のみならず、他の部位が除去されてもよい。例えば、除去する部位は、細径部42に対応する部位のみ場合と、細径部42および太径部41の両方に対応する部位にわたる場合とがあり得る。
補強体除去工程の後には、図3(E)に示すように、内層被覆体51および補強体52からなる管状連続体60を、所定の位置で芯線40とともに切断する(切断工程)。管状連続体60は、太径部41の一方側の端部に近接する第1切断部63と、移行部43を挟んで第1切断部63と近接する細径部42上の、補強体52が除去された部位に位置する第2切断部64とで切断させる。これにより、太径部41が長く切り出される単体チューブ61と、太径部41が短く切り出される余剰チューブ62とが形成される。単体チューブ61は、1つ分のカテーテル用チューブ10に対応する、カテーテル用チューブ10に至る前の中間体である。余剰チューブ62は、不用部位として取り除かれる。一例として、単体チューブ61は、芯線40の太径部41に対応する部位の長さが1600mmであり、芯線40の細径部42に対応する部位の長さが100mmである。なお、余剰チューブ62を単体チューブ61と同形状となるように、芯線40の太径部41および細径部42を長く設定し、余剰チューブ62をも単体チューブ61として利用することもできる。
切断工程では、例えばシャーリング機械等によって切断刃により切断するが、芯線40および被覆体(内層被覆体51および補強体52)を切断できるものであればどのような切断方法であってもよい。
なお、切断工程は、補強体除去工程よりも後であればどの段階で行われてもよく、例えば外層被覆体形成工程の後に行われてもよい。
切断工程の後には、図3(F)に示すように、単体チューブ61の外面上に、補強体52および内層被覆体51の少なくとも一部を被覆して、外層被覆体53を形成する(外層被覆体形成工程)。一例として、太径部41に対応する部位の外層被覆体53の外径を0.8mm〜1.1mm、細径部42に対応する部位の外層被覆体53の外径を0.6mm〜1.0mmとすることができる。移行部43に対応する部位の外層被覆体53の外径は、漸次的に変化し、0.6mm〜1.1mmである。なお、寸法はこれに限定されない。
外層被覆体53の材料は、例えば、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、或いはこれら二種以上の混合物等)、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマー、ポリイミド、フッ素樹脂等の高分子材料或いはこれらの混合物等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を適用できる。外層被覆体53には、X線不透過物質を混合してもよい。
外層被覆体53の材料に熱可塑性樹脂を用いる場合には、図4に示すような前述の押出成形機100を用い、単体チューブ61を芯材Wとして、外層被覆体53を押出成形することができる。
また、外層被覆体形成工程では、外層被覆体53を押出成形により成形するのではなしに、図5に示すような前述の容器200を用い、単体チューブ61を芯材Wとして、外層被覆体53をディップ成形することもできる。なお、外層被覆体形成工程では、芯材Wは連続体ではなくカテーテル用チューブ10の一本分に対応して切断されているため、弁体201から挿入するのではなしに、上方から下降させてディップ成形した後に引き上げることもできる。
また、外層被覆体形成工程において外層被覆体53を形成する方法は、押出成形やディップ成形に限定されず、例えば、樹脂を溶剤に溶解した溶液または希釈剤中に分散させた分散液を、噴霧(スプレー)、塗布、印刷等の公知の方法により補強体52の外周面に付着させた後、付着させた溶液または分散液を熱風やヒータ等によって加熱して乾燥させ、材料によっては焼結させて、外層被覆体53を形成してもよい。
また、外層被覆体形成工程において外層被覆体53を形成するために、加熱することで記憶されている形状に収縮する熱収縮チューブを用いることもできる。熱収縮チューブは、例えばフッ素系樹脂である。熱収縮チューブを用いる場合には、まず、図6(A)に示すように、単体チューブ61の外径よりも大きな内径を有する管体70を準備し、管体70を単体チューブ61に被せた後、図6(B)に示すように、さらにその外側に熱収縮チューブ71を被せる。なお、管体70は、外層被覆体53となる素材である。次に、図6(C)に示すように、熱風やヒータ等によって加熱して管体70を軟化または溶融させつつ熱収縮チューブ71を収縮させて、熱収縮チューブ71の収縮力によって管体70を外層被覆体53として補強体52および内層被覆体51の外周囲に押圧して形成することができる。熱収縮した熱収縮チューブ71は、図6(D)に示すように、管体70を外層被覆体53として補強体52および内層被覆体51の外周囲に形成した後、取り除かれる。なお、図6では、外層被覆体53となる管体70は1つであるが、軸方向に複数に分割して設けられてもよく、この場合、それぞれを異なる材料、特性または寸法で形成することもでき、多様な設計が可能である。
このように、外層被覆体形成工程が、切断工程の後に行われるため、切断していない管状連続体60に外層被覆体53を形成する場合と異なり、外層被覆体53を形成する方法が限定されない。特に、管体70を被せて熱収縮チューブ71を利用して外層被覆体53を形成する方法等は、複数の単体チューブ61が連なった管状連続体60のままでは管体70を被せられないために実施できないのに対し、外層被覆体形成工程が切断工程の後に行われることで、多様な材料、特性または形状の管体70を適用可能となり、設計の自由度が向上される。
外層被覆体形成工程の後には、図3(G)に示すように、切断工程で切断された芯線40の両端の被覆体の一部を除去し、芯線40の両端の一部を露出させてから延伸機に固定し、芯線40の全体を延伸させる(芯線延伸工程)。この後、図3(H)に示すように、太径部41側から芯線40を引き抜く(芯線除去工程)。なお、延伸機により芯線40が細径部42において破断するまで延伸させた後に、太径部41側および細径部42の両側から、破断した芯線40を引き抜いてもよい。また、切断工程の後、外層被覆体形成工程の前に、芯線40を延伸させて引き抜いてもよい。
芯線除去工程の後には、図3(I)に示すように、外層被覆体53の細径部42に対応する部位および太径部41に対応する部位の一部に、親水性高分子物質(親水性材料)を被覆して親水性被覆体54を形成する(親水性被覆体形成工程)。これにより、カテーテル用チューブ10の製造が完了する。カテーテル用チューブ10の外表面の親水性被覆体54(親水層18)は、血液または生理食塩水等の液体に接触したときに潤滑性を発現し、カテーテル用チューブ10の摩擦抵抗が減少して、摺動性が一段と向上し、その結果、挿入の操作性が一段と向上し、押込み性、追従性、耐キンク性および安全性が一段と高まる。
また、カテーテル用チューブ10を血管内へ挿入する際には、カテーテル用チューブ10の基端側を、手に持って操作をする必要がある。このため、カテーテル用チューブ10の基端側は、手で持った際に、滑ると操作性が低下し、好ましくない。このようなことから、カテーテル用チューブ10の長手方向における親水性高分子物質を付与する範囲は、カテーテル用チューブ10の基端から先端方向に向かって所定長さ分(例えば、150〜500mm程度)を除いた領域に、親水性高分子物質を付与することが好ましい。
親水性高分子物質としては、以下のような天然または合成の高分子物質、あるいはその誘導体が挙げられる。特に、セルロース系高分子物質(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース)、ポリエチレンオキサイド系高分子物質(ポリエチレングリコール)、無水マレイン酸系高分子物質(例えば、メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体のような無水マレイン酸共重合体)、アクリルアミド系高分子物質(例えば、ポリアクリルアミド)、水溶性ナイロン(例えば、東レ社製のAQ−ナイロン P−70)は、低い摩擦係数が安定的に得られるので好ましい。この中でも、無水マレイン酸系高分子物質がより好ましく用いられる。また、前記高分子物質の誘導体としては、水溶性のものに限定されず、前記高分子物質を基本構成としていれば、特に制限はなく、不溶化されたものであっても、分子鎖に自由度があり、かつ含水するものであればよい。
このような、親水性高分子物質をカテーテル用チューブ10の外表面に固定するには、外層被覆体53中もしくは外層被覆体53の表面に存在または導入された反応性官能基と共有結合させることにより行うのが好ましい。これにより、持続的な潤滑性表面を得ることができる。
外層被覆体53中または表面に存在しまたは導入される反応性官能基は、前記親水性高分子物質と反応し、結合ないし架橋して固定するものであればいかなるものでもよく、例えば、ジアゾニウム基、アジド基、イソシアネート基、酸クロリド基、酸無水物基、イミノ炭酸エステル基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、水酸基、アルデヒド基等が挙げられる。この中でも、反応性官能基としては、イソシアネート基、アミノ基、アルデヒド基、エポキシ基がより好ましい。
また、親水性被覆体形成工程は、外層被覆体形成工程の後、芯線延伸工程または芯線除去工程の前に行われてもよい。また、親水性被覆体形成工程は、製造されたカテーテル用チューブ10にハブ20や耐キンクプロテクタ30等を連結させた後に行なわれてもよい。また、親水層18は、設けられなくてもよい。
以上のように、本実施形態に係るカテーテル用チューブ10の製造方法は、外径の異なる太径部41および細径部42が予め所定の間隔で連続して形成された芯線40上に樹脂を被覆して内層被覆体51(被覆体)を形成する内層被覆体形成工程(被覆体形成工程)と、被覆体形成工程よりも後に、内層被覆体51の径方向外側に線材からなる補強体52を形成する補強体形成工程と、補強体形成工程よりも後に補強体52の一部を所定の間隔で除去する補強体除去工程と、補強体除去工程よりも後に芯線40上に形成される管状連続体60を、芯線40の太径部41および細径部42の所定の位置で芯線40とともに切断して複数の単体チューブ61を切り出す切断工程と、単体チューブ61から芯線40を除去する芯線除去工程と、を有している。このように、芯線40上の内層被覆体51の径方向外側に形成した補強体52の一部を所定の間隔で除去した後に、管状連続体60を所定の位置で切断して1本毎の単体チューブ61を切り出すため、切断後に補強体52の一部を除去するために切り出された単体チューブ61を再度位置決めする必要がなく、作業を行うための位置決めの回数を減らすことができ、カテーテル用チューブ10の柔軟性を効率よく設定可能である。
また、複数のカテーテル用チューブ10に対応する内層被覆体51および補強体52を管状連続体60として一度に形成するため、生産性に優れている。
製造されるカテーテル用チューブ10は、太径のチューブ基端部11を基端側とし、細径のチューブ先端部12を先端側とすることで、基端側の押込み性、送液特性を損なうことなく先端側が柔軟になり、ガイドワイヤー追従性及び耐キンク性が優れている。
なお、カテーテル用チューブを製造する方法としては、管体に熱間延伸加工を施して、基端側から先端側にかけて内外径を縮径させる熱間延伸加工が一般的に行われているが、熱間延伸加工を施すと、ソフトチップや造影マーカーを取り付ける場合等の熱溶融加工時に、熱間延伸加工による残留歪が影響し、溶融部近傍の内外径が太くなるため寸法精度が悪くなり、結果的に歩留まりを低下させる等の問題がある。これに対し、本実施形態に係る製造方法によれば、熱間延伸加工を施さないため、延伸による歪が無く、加工性が向上し、結果的に低コストとなる。また、延伸により補強体52の巻きピッチ(編組の場合の格子間距離)が拡大することが無いため、先端側の柔軟性及び耐キンク性に優れている。
また、補強体除去工程において、補強体52の細径部42に対応する部位の少なくとも一部を除去するため、製造されるカテーテル用チューブ10の先端側のチューブ先端部12に、効率よく柔軟性を与えることができる。
また、切断工程の後に、補強体52よりも径方向外側に樹脂を被覆して外層被覆体53を形成する外層被覆体形成工程を有するため、複数の層からなる多層構造のカテーテル用チューブ10を、連続的に連なる管状連続体60を用いて効率的に製造できる。
また、外層被覆体形成工程よりも後に、芯線除去工程を有するため、外層被覆体53を被覆する際に、芯線40によって内層被覆体51および補強体52の形状を容易に維持でき、加工精度および作業性が向上する。
また、芯線40が、太径部41および細径部42の間に細径部42から太径部41へ向かって外径が拡がる移行部43を有するため、製造されるカテーテル用チューブ10の剛性が軸線に沿って滑らかかつ傾斜的に変化し、局所的な曲がりが抑制されて、押込み性および耐キンク性に優れたカテーテル用チューブ10を製造できる。
また、カテーテル用チューブの連続体65が、外径の異なる太径部41および細径部42が所定の間隔で連続して形成された芯線40と、芯線40上に樹脂を被覆して形成された内層被覆体51(被覆体)と、内層被覆体51よりも径方向外側に配置され、各々の単体チューブ61に対応して所定の間隔で部分的に除去された線材からなる補強体52と、を有している。このように、連続体65において補強体52の一部が既に除去されているため、切断後に補強体52の一部を除去するために切り出された単体チューブ61を再度位置決めする必要がなく、作業を行うための位置決めの回数を減らすことができ、カテーテル用チューブ10の柔軟性を効率よく設定可能である。
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。例えば、図7に示す変形例としての芯線80のように、太径部81と細径部82の間の移行部83が、太径部81の一端側にのみ設けられてもよい。これにより、切断後に取り除かれる余剰チューブ(図3(D)の余剰チューブ62を参照)の長さが短くなり、コストの削減、製造エリアの省スペース化を図ることができる。
また、図8に示す他の変形例としての芯線90のように、芯線90の軸線に沿う断面における移行部93の外周面の形状の少なくとも一部が曲線で形成されてもよい。これにより、製造されるカテーテル用チューブの剛性が軸線に沿って滑らかかつ傾斜的に変化し、局所的な曲がりが抑制されて、押込み性および耐キンク性に優れたカテーテル用チューブを製造できる。図8では、芯線90の軸線に沿う断面における移行部93の外周面の傾斜角度Xが、細径部92から太径部91へ向かうにしたがって徐々に大きくなり、移行部93の略中央部で最大となり、太径部91へさらに近づくにしたがって徐々に小さくなっている。このような形状とすることで、太径部91と細径部92の間の軸線に沿う剛性をより滑らかかつ傾斜的に変化させることができ、より押込み性および耐キンク性に優れたカテーテル用チューブを製造できる。
また、内層被覆体51および補強体52の間、または外層被覆体53および補強体52の間、または外層被覆体53の上に、X線不透過性のマーカーを配置してもよい。また、外層被覆体53および親水性被覆体54の各々は、設けられなくてもよい。
また、内層被覆体51および外層被覆体53の少なくとも一方に、電子線またはガンマ線を照射し、材料を架橋させて硬度を高める硬化処理を施してもよい。また、内層被覆体51および外層被覆体53の少なくとも一方に、酸またはアルカリを用いて硬度を低下させる軟化処理を施してもよい。
また、カテーテル用チューブ10の軸直交断面における断面形状は、円形でなくてもよく、例えば楕円形等であってもよい。また、カテーテル用チューブ10内のルーメン14は、軸直交断面における断面形状が円形でなくてもよく、例えば、楕円形や半円形等であってもよい。また、カテーテル用チューブ10は、ルーメンが複数設けられてもよい。