JP2014098191A - 腐食環境における耐遅れ破壊性に優れた高強度ボルト用鋼および高強度ボルト - Google Patents

腐食環境における耐遅れ破壊性に優れた高強度ボルト用鋼および高強度ボルト Download PDF

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Abstract

【課題】引張強度が1270MPa以上で、大気や風雨に曝される環境下、或いは塩水等による腐食を伴う環境下であっても十分な耐遅れ破壊性を発揮することができるような高強度ボルト用鋼、およびそのようなボルト用鋼から得られる高強度ボルトを提供する。
【解決手段】本発明の高強度ボルト用鋼は、C:0.15〜0.21%、Si:1.5〜2.0%、Mn:2.0%以下(0%を含まない)、Cr:2.5〜5.0%を夫々含有する他、Ca:0.05%以下(0%を含まない)および/またはMg:0.05%以下(0%を含まない)を含有し、且つCaとMgの合計含有量が0.0008%以上であり、残部が鉄および不可避的不純物からなり、ミクロ組織がフェライトとパーライトの混合組織である。
【選択図】なし

Description

本発明は、自動車、輸送機械等の各種産業機械に用いられるボルト用鋼、およびこのボルト用鋼を用いて得られる高強度ボルトに関し、特に引張強度が1270MPa以上であっても、大気や風雨に曝される環境下、或いは塩水等による腐食を伴う環境下において優れた耐遅れ破壊性を発揮する高強度ボルト用鋼、および高強度ボルトに関するものである。
一般のボルト用鋼として、特にSCM435やSCM440等のJIS規格鋼が汎用されている。しかしながら、これらの汎用鋼では、引張強度が1100MPa以上(特に1270MPa以上)になると、一定期間使用した後に突然脆性破壊するいわゆる遅れ破壊が生じ易くなるという問題がある。そこで遅れ破壊に対する特性(耐遅れ破壊性)を改善することを目的として、焼戻し軟化抵抗の向上を図った高強度ボルト用鋼が提案されている。
例えば、特許文献1には、C:0.30%超〜0.55%の中C系の鋼において、Si、Mn、P、S、Al、Cr、Mo、Nb、NおよびSnの含有量を適切に規定することによって、耐遅れ破壊性を改善した高強度ボルト用鋼が提案されている。また、この技術では、熱間加工性を改善するという趣旨から、MgやCaを夫々0.01%以下で含有することが有効であることも示されている。
また、特許文献2には、C:0.3〜0.5%の中C系の鋼において、CrとMnとの関係で、MgやCaの含有量を規定することによって、耐遅れ破壊性を改善した高強度鋼が提案されている。
しかしながら、これらの技術では、特に引張強度が1270MPa以上になると、大気や風雨に曝される環境下、或いは塩水等による腐食を伴う環境下(以下、「腐食環境下」で代表することがある)での耐遅れ破壊性が不十分である。
一方、特許文献3には、C:0.08〜0.35%、Si:1.0%未満の低C、低Si系において、Mn、P、S、Cr、Ca、TiおよびBの含有量を適切に規定することによって、耐遅れ破壊性を改善した高強度ボルト用鋼が提案されている。しかしながら、この技術においても、引張強度が1270MPa以上で、腐食環境下での耐遅れ破壊性が十分に発揮されているとは言えない。
特開2009−293095号公報 特許第4476834号公報 特開平8−291360号公報
本発明は上記のような事情に着目してなされたものであって、その目的は、引張強度が1270MPa以上で、大気や風雨に曝される環境下、或いは塩水等による腐食を伴う環境下であっても十分な耐遅れ破壊性を発揮することができるような高強度ボルト用鋼、およびそのようなボルト用鋼から得られる高強度ボルトを提供することにある。
本発明に係る高強度ボルト用鋼とは、C:0.15〜0.21%(質量%の意味、化学成分組成について以下同じ)、Si:1.5〜2.0%、Mn:2.0%以下(0%を含まない)、Cr:2.5〜5.0%を夫々含有すると共に、Ca:0.05%以下(0%を含まない)および/またはMg:0.05%以下(0%を含まない)を含有し、且つCaとMgの合計含有量が0.0008%以上であり、残部が鉄および不可避的不純物からなり、ミクロ組織がフェライトとパーライトの混合組織である点に要旨を有するものである。
本発明の高強度ボルト用鋼には、必要によって、更にTi:0.1%以下(0%を含まない)、Nb:0.1%以下(0%を含まない)およびV:0.1%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上を含有させることも有用であり、これによって、耐遅れ破壊性が更に改善されることになる。
上記のような高強度ボルト用鋼から得られるボルトでは、引張強度が1270〜1600MPaであると共に、ミクロ組織がマルテンサイト:95面積%以上、焼戻し炭化物:1.0面積%以下(0面積%を含まない)である。
また上記のような高強度ボルトを製造するに当たっては、ボルト形状に成形した後、焼入れ後の焼戻し処理を、150〜250℃の温度範囲で、60秒以上、3000秒以下で行うようにすればよい。
本発明では、CaやMgの含有量を適正にしつつ化学成分組成を厳密に規定することによって、耐遅れ破壊性に優れた高強度ボルト用鋼が実現できる。このような高強度ボルト用鋼を所定の焼戻し条件で熱処理することによって、鋼材としての強度を維持したままで、腐食環境下でも十分な耐遅れ破壊性を発揮することができ、このような高強度ボルト用鋼は高強度ボルトの素材として極めて有用である。
図1は、引張試験用試験片の形状を示す模式図である。 図2は、腐食ピット深さを測定するときの状態を模式的に示す断面図である。 図3は、遅れ破壊試験用試験片の形状を示す模式図である。
本発明者らは、ボルト用鋼の耐遅れ破壊性を改善するべく、様々な角度から検討した。主に鋼材の強度が上昇するほど遅れ破壊が生じ易くなり、特に引張強度が1270MPa以上となると耐遅れ破壊性が顕著に悪化することが知られている。加えて、腐食環境下で、優れた耐遅れ破壊性を発揮させることは更に困難である。
本発明者らは、1270MPa以上という高強度でありながら、腐食環境下でも十分な耐遅れ破壊性を発揮できるボルト用鋼、およびボルトについて鋭意研究を重ねた。その結果、C含有量を0.15〜0.21%に抑制すると共に、CaやMgを適切な量で含有させれば、鋼材の強度を維持したまま、腐食環境下での耐遅れ破壊性が著しく改善できたのである。特に、焼入れ焼戻し後のボルトにおいて、焼戻し炭化物を低減したもので、CaやMgを適切な量に調整すれば、これらの相乗効果によって、腐食ピットの抑制効果が発揮されることが判明した。
本発明のボルト用鋼では、上記の通り、C含有量を0.15〜0.21%とし、且つCaおよび/またはMgを所定量含有させることで、腐食環境下での耐遅れ破壊性を向上させることに特徴があるが、ボルトとして必要なその他の特性を確保するためには、下記の通り化学成分組成を満足させる必要がある。
[C:0.15〜0.21%]
Cは、鋼材の強度確保のために必要な元素であるが、その含有量が増大するにつれて鋼材の耐遅れ破壊性が低下する。C含有量が0.15%未満になると、調質後のボルトの強度を安定させることが難しくなる。一方、C含有量が0.21%を超えると、延性の劣化により耐遅れ破壊性が劣化する。尚、C含有量の好ましい下限は0.16%以上(より好ましくは0.17%以上)であり、好ましい上限は0.20%以下(より好ましくは0.19%以下)である。
[Si:1.5〜2.0%]
Siは、強度確保および焼戻し炭化物の抑制のために有効な元素であるが、その含有量が過剰になるとボルト成形性(例えば、冷間鍛造性)が低下する。こうした観点から、Si含有量は1.5%以上、2.0%以下とする必要がある。好ましい下限は、1.6%以上(より好ましくは1.7%以上)である。また好ましい上限は、1.9%以下(より好ましくは1.8%以下)である。
[Mn:2.0%以下(0%を含まない)]
Mnは焼入れ性向上元素であり、高強度を達成するために有用な元素である。このような効果は、その含有量が増加するにつれて増大するが、Mn含有量が過剰になると、鋼材の靭性が低下する。こうした観点から、Mn含有量は2.0%以下に抑える。尚、Mn含有量の好ましい下限は0.1%以上(より好ましくは0.2%以上)であり、好ましい上限は1.8%以下(より好ましくは1.6%以下)である。
[Cr:2.5〜5.0%]
Crは、鋼の耐食性を高める作用があり、腐食環境下での腐食ピットの形成を抑制するのに有用な成分である。こうした効果を十分に発揮させるには、Crを2.5%以上含有させる必要がある。一方、Cr含有量が過剰になると、鋼材の冷間鍛造性が劣化するため、5.0%以下にする必要がある。尚、Cr含有量の好ましい下限は2.8%以上(より好ましくは3.0%以上)であり、好ましい上限は4.5%以下(より好ましくは4.0%以下)である。
[Ca:0.05%以下(0%を含まない)および/またはMg:0.05%以下(0%を含まない)、但し、CaとMgの合計含有量:0.0008%以上]
CaとMgは、腐食ピットの形成を抑制する上で有効な元素であり、これらの元素の1種または2種を含有させることによって、腐食環境下での耐遅れ破壊性を向上させることができる。こうした効果を発揮させるためには、CaとMgの合計含有量で0.0008%以上とする必要がある。一方、これらの含有量が過剰になると、介在物が多くなり、これが破壊の起点となって耐遅れ破壊性を劣化させるので、いずれも0.05%以下とする必要がある。尚、CaとMgの合計含有量の好ましい下限は0.001%以上(より好ましくは0.01%以上)である。Ca、Mgの好ましい上限は、いずれも0.04%以下(より好ましくは0.03%以下)である。
本発明に係る高強度ボルト用鋼における基本成分は上記の通りであり、残部は鉄および不可避的不純物(P,S,Al,N等)であるが、該不可避的不純物として、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる元素の混入が許容され得る。また、本発明の高炭素鋼線材には、必要によって、更にTi:0.1%以下(0%を含まない)、Nb:0.1%以下(0%を含まない)およびV:0.1%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上を含有させることも有用である。
[Ti:0.1%以下(0%を含まない)、Nb:0.1%以下(0%を含まない)およびV:0.1%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上]
Ti,NbおよびVは、耐遅れ破壊性を更に向上させる上で有用な元素である。こうした作用を発揮させるには、いずれか1種以上を0.001%以上含有させることが好ましい。しかしながら、これらの含有量が過剰になると、冷間加工性が悪化するので、いずれも0.1%以下とすることが好ましい。尚、これらの元素のより好ましい下限は、0.005%以上(更に好ましくは0.01%以上)であり、好ましい上限は0.08%以下(より好ましくは0.05%以下)である。
本発明のボルト用鋼は、ボルト成形時における加工性を確保するために、そのミクロ組織は基本的にフェライトとパーライトの混合組織(以下、「フェライト・パーライト」と表示することがある)からなるが、加工性を阻害しない程度(5面積%以下)で他の組織(例えば、ベイナイト等)を含むことは許容できる。
ボルト用鋼において上記のようなミクロ組織にするためには、熱延後に或る程度時間をかけて冷却することが推奨される。具体的には、750〜900℃の温度範囲で巻取った後、60秒以内に、500〜600℃の温度範囲まで冷却し、その温度領域で60秒以上保持してから500℃未満に冷却する方法が例示される。また必要によって、球状化焼鈍を行ってもよい。
本発明の化学成分組成を有するボルト用鋼は、潜在的に優れた強度特性および耐遅れ破壊性を有しているが、この鋼材を用いて強度特性および耐遅れ破壊性が十分に優れた高強度ボルトを得るには、所定のボルト形状に加工後、焼入れ後の焼戻しを適切な条件で行うことが推奨される。
こうした観点から、焼入れ後の焼戻し処理を150〜250℃の比較的低温の範囲で、60秒以上、3000秒以下で行うことが推奨される。焼戻し温度が150℃よりも低くなると、焼入れ時に導入された歪みや残留応力が残存し、耐遅れ破壊性が劣化する。焼戻し温度は好ましくは170℃以上(より好ましくは180℃以上)である。一方、焼戻し温度が250℃を超えると、所定の強度(1270〜1600MPa)を得ることができない。焼戻し温度は好ましくは230℃以下(より好ましくは210℃以下)である。尚、上記温度は、いずれも鋼材の表面温度で管理したものである。
焼戻し時間が短いと、材料組織の均一性が不十分になる。こうした観点から、焼戻し時間は、少なくとも60秒以上とするのがよい。焼戻し時間は好ましくは120秒以上であり、より好ましくは180秒以上である。しかしながら、焼戻し時間が長くなり過ぎると、コストが上昇するので、3000秒以下(好ましくは1000秒以下、より好ましくは500秒以下)とするのがよい。
尚、焼入れの際の条件は、通常の条件に従えばよく、例えば880〜920℃程度に加熱した後、油冷または水冷を実施すればよい。
上記のようにして得られるボルトでは、引張強度が1270〜1600MPaであると共に、ミクロ組織がマルテンサイト:95面積%以上である。組織をマンテンサイトにすることで、所定の強度を確保できる。また焼戻し炭化物を1.0面積%以下と少なくすると、腐食ピットを抑制することが可能となり、CaやMgによる腐食ピットの抑制効果と協同して耐遅れ破壊性が向上できる。マルテンサイトの面積率は、好ましくは96面積%以上、より好ましくは97面積%以上である。焼戻し炭化物の面積率は、好ましくは0.8面積%以下、より好ましくは0.6面積%以下である。ミクロ組織の残部は鋼特性に影響を及ぼさないが、通常、ベイナイトおよび残留オーステナイトの少なくともいずれかである。
尚、焼戻しが極端に低温で行われると、焼戻し炭化物が全く析出していないことがある。このような低温焼戻し鋼材(焼戻し炭化物が存在しない鋼材)では、靭性が却って低下する。従って焼戻し炭化物の面積率は、例えば0面積%超、好ましくは0.05面積%以上(より好ましくは0.1面積%以上)とする。
焼戻し炭化物は、焼戻しの際に生成するものであるが(主にFe3C)、その他の炭化物(例えば、焼戻し前から存在する炭化物)とは、走査型電子顕微鏡によって区別できるものである。即ち、焼戻し炭化物は、低温(例えば150℃から250℃)では針状に形成し、高温で焼戻すほどその量は増える。更に高温となると(例えば300℃を超える温度)、結晶粒界に膜状に形成し、耐遅れ破壊性が低下する。一方、他の炭化物では、例えばTiCでは立方体形状となって鋼中にランダムに存在するなど、形状と分布形態が異なる。
本発明では、上記以外の製造条件については限定するものではなく、上記化学成分組成を満たす鋼材を用いて、例えば熱間圧延後、必要に応じて球状化焼鈍を行った後に伸線し、その後冷間鍛造等の冷間加工を行ってボルト形状とすることができる。
より詳細に説明すると、引張強度が1270〜1600MPaとなる高強度ボルトは、通常は球状化焼鈍を実施してからボルト成形を行うが、本発明ではC含有量を0.21%以下とすることによって、球状化焼鈍を実施せずとも、ボルト形状への成形が可能となる。ボルト形状に成形した後には、上記のような焼入れ・焼戻し処理をするに先立ち、転造にてねじ加工が施される。
本発明の高強度ボルトは、優れた耐食性を示す。そして腐食環境において、優れた耐遅れ破壊性も示す。後述する実施例の条件で測定した耐食性(μm)の好ましい範囲は、例えば40μm以下、より好ましくは30μm以下(例えば、20〜30μm程度)である。また後述する実施例の条件で測定した耐遅れ破壊性(破断応力比)の好ましい範囲は、例えば0.60以上、より好ましくは0.7以上(例えば、0.7〜0.9程度)である。
本発明の高強度ボルトは、ハイテンションボルト、トルシア型ボルト、溶融亜鉛めっき高力ボルト、防錆処理高力ボルト、耐火鋼高力ボルト等に適用でき、自動車分野、建築分野、産業機械分野で用いられる高強度で且つ腐食環境下での耐遅れ破壊性に優れたボルトとして最適である。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
下記表1、2に示した化学成分組成からなる鋼材(鋼種A〜W、A1〜N1)を溶製し、熱間圧延して直径:12mmの線材とした。熱間圧延後は、700℃で巻き取った後、30秒以内に、600℃まで冷却し、その温度領域で60秒以上保持してから室温(25℃)まで冷却した。熱間圧延および冷却後の材料組織(ボルト用鋼としてのミクロ組織)は、線材断面を観察することで評価した。具体的には、横断試料を表面から軸方向に2mm深さまで、5%ナイタールでエッチングすることで表れた面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。その結果を、下記表1、2に併記する。尚、表1、2において、「−」の欄は添加していないことを意味する。
Figure 2014098191
Figure 2014098191
熱間圧延および冷却した後の線材を、870℃の温度に加熱してから油焼入れを行い、引張強度が1270MPa以上を確保できる範囲で焼戻しを行った後、引張強度の測定、および組織観察で鋼材特性を確認し、耐食性試験、遅れ破壊性試験に供した。各鋼材の焼戻し条件、および引張強度と組織を下記表3、4に示す。尚、比較例として、引張強度が1270MPaを下回る線材も作成した(試験No.24,25)。
このとき引張試験は、図1に示す引張試験用試験片を作製して行った。組織評価では、試料の横断面を軸方向に0.1mmの深さまで、5%ナイタールでエッチングすることで表れた面をSEM観察し、マルテンサイト分率を測定した。また別途ピクリン酸ソーダでエッチングした試料を作製し、SEM観察によって、焼戻し炭化物の面積率を測定した。尚、焼戻し炭化物以外の炭化物として立方体形状のTiC(TiNと混合されていた)が確認されたが、TiCは焼戻し炭化物面積率測定から除いた。これらの結果を、下記表3、4に併記する。
Figure 2014098191
Figure 2014098191
上記で焼入れおよび焼戻し(以下、「焼入れ・焼戻し」と表記することがある)した各線材について、下記の方法で耐食性および耐遅れ破壊性を評価した。
[耐食性評価]
耐食性試験では、円柱状(直径:4mm×長さ:100mm)に切削加工した試験片を用いた。塩乾湿複合サイクル試験機(「CYP−90」(商品名)スガ試験機株式会社製)を使用し、上記試験片を試験機に縦置きで設置した。そして、(1)塩水噴霧工程(35℃の5%NaCl水溶液噴霧×2時間)→(2)乾燥工程(60℃、相対湿度:20〜30%で4時間)→(3)湿潤工程(50℃、相対湿度:95%以上で2時間)を1サイクルとし、これを30サイクル繰り返す腐食試験(CCT試験)を行った。
腐食試験後、試験片上端から20mmの位置の断面を光学顕微鏡で観察し、腐食ピットの深さを測定した。腐食ピットの深さを測定するときの状態を図2(模式的に示す断面図)に示す。ピット深さは、サンプルの観察視野(周方向長さ約1mm)において、凸部と凸部を結んだ直線Aと、凹部最深部までの距離Lを全周に亘って求め、その最大値(全周における最大値)をその鋼種の最大ピット深さとした。試験片全周における最大ピット深さが50μm未満のときに合格とした。
[耐遅れ破壊性の評価]
図3に示すノッチ付き引張試験片(図中の単位はmm)を切削加工により作製して遅れ破壊試験を行った。この試験片での遅れ破壊試験結果は、実ボルトでの遅れ破壊試験結果と良い相関が得られることが知られている。遅れ破壊試験では、上記遅れ破壊試験片を塩乾湿複合サイクル試験機(「CYP−90」(商品名)スガ試験機株式会社製)を使用し、上記試験片を試験機に縦置で設置した。そして、(1)塩水噴霧工程(35℃の5%NaCl水溶液噴霧×2時間)→(2)乾燥工程(60℃、相対湿度:20〜30%で4時間)→(3)湿潤工程(50℃、相対湿度:95%以上で2時間)を1サイクルとし、これを30サイクル繰り返すCCT試験を行った。
上記試験片を、CCT試験後に液体窒素温度に冷却し、低歪速度引張試験(SSRT試験)を実施した。SSRT試験では、上記試験片のねじ部をチャック部として、歪速度:10-6/秒で1軸引張試験を行い、破断応力を測定した。そして、下記(1)式で示される破断応力比Xが0.5よりも大きいときに(X>0.5)、耐遅れ破壊性に優れると評価した。
X=σH/TS …(1)
但し、TS:CCT・SSRT試験前の材料の引張強度、σH:SSRT試験後の破断応力
これらの結果を、下記表5、6に示す。尚、下記表5、6において、材料特性評価については、耐食性および耐遅れ破壊性の両特性が良好なときに合格(「○」で示す)、耐食性および耐遅れ破壊性の少なくともいずれかの特性が悪いときには不合格(「×」で示す)とした。
Figure 2014098191
Figure 2014098191
これらの結果から、次のように考察することができる.試験No.1〜23は、本発明で規定する要件を満足するものであり、1270MPa以上の高強度を示すと共に、腐食環境下での耐遅れ破壊性にも優れていることが分かる。これに対し、試験No.24〜37は、本発明で規定するいずれかの要件を満足しない例であり、いずれかの特性が劣化している。
試験No.24は、25は、C含有量が少ないために、1270MPa以上の引張強度を確保することができない(他の特性は評価せず)。試験No.26は、C含有量が多すぎるため、強度が高くなり過ぎて、耐遅れ破壊性が劣化している。
試験No.27は、C含有量が多すぎるため、強度を適正な値にするために焼戻し温度を設定したが、焼戻し炭化物が過剰に析出するため、耐遅れ破壊性が劣化している。試験No.28は、Si含有量が少ないため、焼入れの際に炭化物の析出を抑制する効果が不足し、適正な温度で焼戻しを行っても、焼戻し炭化物が過剰に析出するため、耐遅れ破壊性が劣化している。
試験No.29は、Mn含有量が過剰であるため、鋼材の靭性が低下したことによって耐遅れ破壊性が劣化した。試験No.30は、Cr含有量が少ないため、耐食性が劣化し、腐食ピットが抑制できない状態となっている。
試験No.31〜33は、CaおよびMgの合計含有量が不十分なため、腐食ピットが抑制できない状態である。試験No.34は、Ca含有量が過剰なため、Ca酸化物が過剰な介在物となり、耐遅れ破壊性が劣化した。試験No.35は、Mg含有量が過剰なため、Mg酸化物が過剰な介在物となり、耐遅れ破壊性が劣化した。
試験No.36は、鋼材の化学成分組成は適正であるが、焼戻し温度が低すぎるために、強度が高くなりすぎ、耐遅れ破壊性が劣化している。試験No.37は、鋼材の化学成分組成は適正であるが、焼戻し温度が高過ぎるために、焼戻し炭化物が過剰に析出し、耐遅れ破壊性が劣化した。

Claims (4)

  1. C :0.15〜0.21%(質量%の意味、化学成分組成について以下同じ)、
    Si:1.5〜2.0%、
    Mn:2.0%以下(0%を含まない)、
    Cr:2.5〜5.0%を夫々含有すると共に、
    Ca:0.05%以下(0%を含まない)および/またはMg:0.05%以下(0%を含まない)を含有し、且つCaとMgの合計含有量が0.0008%以上であり、残部が鉄および不可避的不純物からなり、ミクロ組織がフェライトとパーライトの混合組織であることを特徴とする腐食環境における耐遅れ破壊性に優れた高強度ボルト用鋼。
  2. 更に、Ti:0.1%以下(0%を含まない)、Nb:0.1%以下(0%を含まない)およびV:0.1%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上を含むものである請求項1に記載の高強度ボルト用鋼。
  3. 請求項1または2に記載の高強度ボルト用鋼から得られるボルトであって、引張強度が1270〜1600MPaであると共に、ミクロ組織がマルテンサイト:95面積%以上、焼戻し炭化物:1.0面積%以下(0面積%を含まない)であることを特徴とする腐食環境における耐遅れ破壊性に優れた高強度ボルト。
  4. 請求項3に記載の高強度ボルトを製造するに当たり、ボルト形状に成形した後、焼入れ後の焼戻し処理を、150〜250℃の温度範囲で、60秒以上、3000秒以下で行うことを特徴とする高強度ボルトの製造方法。
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