以下では、図1を用いて、本発明に係る作業車両の駆動制御機構の実施の一形態に係る駆動制御機構10を具備するトラクタ1の全体構成について説明する。
なお、本実施形態においては、駆動制御機構10を具備する作業車両としてトラクタ1を例示するが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、駆動制御機構10を具備する作業車両は、その他の農業車両、建設車両、産業車両等であっても良い。
トラクタ1は、主として前輪2・2、後輪3・3、エンジン4、変速機構5、運転操作部6、キャビン7及び駆動制御機構10を具備する。
トラクタ1の車体の前部はフロントアクスルを介して左右一対の車輪(前輪2・2)に支持される。当該車体の後部はリアアクスルを介して左右一対の車輪(後輪3・3)に支持される。当該車体の前部にはエンジン4が設けられる。当該車体の後部には変速機構5(トランスミッション)が設けられる。
エンジン4の動力は、変速機構5で変速された後、フロントアクスルを経て前輪2・2に伝達可能とされると共に、リアアクスルを経て後輪3・3に伝達可能とされる。エンジン4の動力によって前輪2・2及び後輪3・3が回転駆動され、トラクタ1の走行が行われる。
トラクタ1の車体の前後中途部から後部にかけては、作業者が搭乗してトラクタ1を操作するための運転操作部6が設けられる。運転操作部6には、作業者がトラクタ1の操向操作を行うためのステアリングホイール6a、座席(不図示)等が設けられる。運転操作部6は、キャビン7によって覆われる。
トラクタ1の各部には、駆動制御機構10を構成する各部材が設けられる。
以下では、図1及び図2を用いて、駆動制御機構10の構成について説明する。
駆動制御機構10は、トラクタ1を二輪駆動状態(後輪3・3のみを回転駆動する状態)又は四輪駆動状態(前輪2・2及び後輪3・3を回転駆動する状態)に適宜切り換えるものである。
駆動制御機構10は、主としてアクセルセンサ12、変速位置検出センサ14、ブレーキスイッチ16、前輪切れ角スイッチ18、駆動切換スイッチ20、倍速切換スイッチ21、モード切換スイッチ22、閾値設定ダイヤル24、車軸回転センサ26、傾斜センサ28、GPS受信装置30、変速電磁バルブ32、四輪駆動電磁バルブ34、倍速電磁バルブ35、スリップ報知ブザー36、GPS非受信報知ランプ38、クランク位置センサ40、エンジンECU42及び本機ECU44を具備する。
アクセルセンサ12は、エンジン4の回転数の目標値(目標回転数)を変更操作するためのアクセル操作具(アクセルペダルやアクセルレバー等)の操作位置を検出するものである。前記アクセル操作具は、運転操作部6の作業者が操作可能な位置に設けられる。アクセルセンサ12は、当該アクセル操作具の操作位置を検出可能な位置(例えば、当該アクセル操作具の回動基端部)に設けられる。
なお、前記アクセル操作具が複数設けられる場合には、当該複数のアクセル操作具にそれぞれ対応して複数のアクセルセンサ12が設けられる。
本実施形態においては、状態検出手段、エンジン操作検出手段及び目標回転数検出手段として、アクセルセンサ12を用いている。
変速位置検出センサ14は、変速機構5を変速操作するための変速操作具(主変速レバーや副変速レバー等)の操作位置を検出するものである。前記変速操作具は、運転操作部6の作業者が操作可能な位置に設けられる。変速位置検出センサ14は、当該変速操作具の操作位置を検出可能な位置(例えば、当該変速操作具の回動基端部)に設けられる。
なお、前記変速操作具が複数設けられる場合には、当該複数の変速操作具にそれぞれ対応して複数の変速位置検出センサ14が設けられる。
本実施形態においては、状態検出手段及び変速操作検出手段として、変速位置検出センサ14を用いている。
ブレーキスイッチ16は、トラクタ1を制動するための制動操作具(ブレーキペダルや駐車ブレーキレバー等)が操作されたか否かを検出するものである。前記制動操作具は、運転操作部6の作業者が操作可能な位置に設けられる。ブレーキスイッチ16は、当該制動操作具が操作されたか否かを検出可能な位置(例えば、当該制動操作具の回動基端部)に設けられる。
なお、前記制動操作具が複数設けられる場合には、当該複数の制動操作具にそれぞれ対応して複数のブレーキスイッチ16が設けられる。
前輪切れ角スイッチ18は、前輪2・2の切れ角が所定の値以上になったか否かを検出するものである。前輪切れ角スイッチ18は、フロントアクスルの前輪2(本実施形態においては、左側の前輪2)近傍に設けられる。
本実施形態においては、前輪切れ角検出手段として、前輪切れ角スイッチ18を用いている。
駆動切換スイッチ20は、トラクタ1を四輪駆動状態又は二輪駆動状態に手動で切り換えるための操作具である。駆動切換スイッチ20は、運転操作部6の作業者が操作可能な位置に設けられる。
倍速切換スイッチ21は、所定の場合にトラクタ1を倍速状態に自動的に切り換えることを許可又は禁止するための操作具である。倍速切換スイッチ21は、運転操作部6の作業者が操作可能な位置に設けられる。
ここで、「倍速状態」とは、トラクタ1の前輪2・2を後輪3・3よりも速い対地速度で回転駆動させる状態をいう。トラクタ1を倍速状態に切り換えることによって、容易に旋回することができると共に、接地面(圃場)を荒らし難くすることができる。
モード切換スイッチ22は、後述する本機ECU44による制御モードを手動で切り換えるための操作具である。モード切換スイッチ22は、運転操作部6の作業者が操作可能な位置に設けられる。
閾値設定ダイヤル24は、後述するスリップ率Sの閾値Stを手動で設定するための操作具である。閾値設定ダイヤル24は、運転操作部6の作業者が操作可能な位置に設けられる。
本実施形態においては、閾値変更手段として、閾値設定ダイヤル24を用いている。
車軸回転センサ26は、エンジン4から駆動輪(本実施形態においては、常時回転駆動される後輪3・3)への動力伝達経路における駆動速度を検出するものである。車軸回転センサ26は、トラクタ1の後輪3・3側の差動機構(デフ)へと動力を伝達する車軸に設けられ、当該車軸の駆動速度を検出することができる。
なお、本実施形態においては、車軸回転センサ26は上記車軸の駆動速度を検出するものとしたが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、車軸回転センサ26は、駆動輪(後輪3・3)への動力伝達経路における駆動速度を検出することができるものであれば、その検出位置を限定するものではない。
本実施形態においては、スリップ率検出手段、駆動速度検出手段、状態検出手段及び発進検出手段として、車軸回転センサ26を用いている。
傾斜センサ28は、水平面に対するトラクタ1の前後方向の傾斜角度θを検出するものである。傾斜センサ28は、トラクタ1の適宜の位置に設けられる。
本実施形態においては、傾斜角度検出手段として、傾斜センサ28を用いている。
GPS受信装置30は、GPS衛星からの信号を受信し、トラクタ1の現在位置を検出するものである。GPS受信装置30は、キャビン7の上部に設けられる。
本実施形態においては、スリップ率検出手段及びGPS受信手段として、GPS受信装置30を用いている。
変速電磁バルブ32は、変速機構5に設けられた変速用の油圧クラッチの動作を制御し、ひいては当該変速機構5を変速操作するものである。変速電磁バルブ32は変速機構5の近傍に設けられる。
なお、図中には1つの変速電磁バルブ32を図示しているが、実際には変速機構5に設けられた複数の油圧クラッチにそれぞれ対応して複数の変速電磁バルブ32が設けられる。
四輪駆動電磁バルブ34は、変速機構5に設けられた前輪駆動用の油圧クラッチの動作を制御し、ひいては四輪駆動状態と二輪駆動状態とを切り換え操作するものである。四輪駆動電磁バルブ34は変速機構5の近傍に設けられる。
本実施形態においては、駆動切換手段として、四輪駆動電磁バルブ34を用いている。
倍速電磁バルブ35は、変速機構5に設けられた倍速用の油圧クラッチの動作を制御し、ひいては倍速状態とその他の状態(二輪駆動状態及び四輪駆動状態)とを切り換え操作するものである。倍速電磁バルブ35は変速機構5の近傍に設けられる。
本実施形態においては、倍速切換手段として、倍速電磁バルブ35を用いている。
スリップ報知ブザー36は、後述するスリップ率Sが閾値Stに近い値まで増加したら、その旨を作業者に報知するためのブザーである。スリップ報知ブザー36は所定の音(警告音)を発することができる。スリップ報知ブザー36は運転操作部6に設けられる。
なお、スリップ報知ブザー36に代えて、報知ランプや液晶画面を用いて作業者に報知する構成とすることも可能である。
GPS非受信報知ランプ38は、GPS受信装置30がGPS衛星からの信号を受信できていない場合に、その旨を作業者に報知するためのランプ(発光器具)である。GPS非受信報知ブザーは所定の光を発することができる。GPS非受信報知ランプ38は運転操作部6に設けられる。
なお、GPS非受信報知ランプ38に代えて、報知ブザーや液晶画面を用いて作業者に報知する構成とすることも可能である。
クランク位置センサ40は、エンジン4のフライホイールの回転位置を検出し、ひいてはエンジン4の実際の回転数(実回転数)を検出するものである。クランク位置センサ40は、エンジン4(より詳細には、エンジン4のフライホイール)の近傍に設けられる。
本実施形態においては、状態検出手段及び実回転数検出手段として、クランク位置センサ40を用いている。
エンジンECU42は、エンジン4のコモンレールシステムの情報を管理すると共に、接続された各機器の動作を制御するものである。エンジンECU42は、トラクタ1の車体の前部に設けられる。エンジンECU42は、記憶部、演算処理部等により構成される。エンジンECU42には、エンジン4のコモンレールシステムを制御するためのプログラムや種々のデータが記憶される。
エンジンECU42はクランク位置センサ40に接続され、エンジン4の実回転数についての情報を受信することができる。
エンジンECU42はエンジン4の各部(より詳細には、サプライポンプ、レール、インジェクタ、各種センサ等(不図示))に接続され、当該エンジン4の動作(回転数等)を制御することができる。
なお、本実施形態に係るエンジン4はコモンレールシステムを備えるものとするが、本発明はコモンレールシステムを備えていないエンジンを有する作業車両にも適用することが可能である。
本機ECU44は、駆動制御機構10の情報を管理すると共に、接続された各機器の動作を制御するものである。本機ECU44は運転操作部6に設けられる。本機ECU44は、記憶部、演算処理部等により構成される。本機ECU44には、駆動制御機構10を制御するためのプログラムや種々のデータが記憶される。
本機ECU44はアクセルセンサ12に接続され、前記アクセル操作具の操作位置についての情報を受信することができる。
本機ECU44は変速位置検出センサ14に接続され、前記変速操作具の操作位置についての情報を受信することができる。
本機ECU44はブレーキスイッチ16に接続され、前記制動操作具が操作されたか否かについての情報を受信することができる。
本機ECU44は前輪切れ角スイッチ18に接続され、前輪2・2の切れ角が所定の値以上になったか否かについての情報を受信することができる。
本機ECU44は駆動切換スイッチ20に接続され、当該駆動切換スイッチ20の操作位置についての情報を受信することができる。
本機ECU44は倍速切換スイッチ21に接続され、当該倍速切換スイッチ21の操作位置についての情報を受信することができる。
本機ECU44はモード切換スイッチ22に接続され、当該モード切換スイッチ22の操作位置についての情報を受信することができる。
本機ECU44は閾値設定ダイヤル24に接続され、当該閾値設定ダイヤル24の操作位置についての情報を受信することができる。
本機ECU44は車軸回転センサ26に接続され、エンジン4から駆動輪への動力伝達経路における駆動速度についての情報を受信することができる。
本機ECU44は傾斜センサ28に接続され、トラクタ1の前後方向の傾斜角度θについての情報を受信することができる。
本機ECU44はGPS受信装置30に接続され、トラクタ1の現在位置についての情報を受信することができる。
本機ECU44は変速電磁バルブ32に接続され、当該変速電磁バルブ32の動作を制御することができる。
本機ECU44は四輪駆動電磁バルブ34に接続され、当該四輪駆動電磁バルブ34の動作を制御することができる。
本機ECU44は倍速電磁バルブ35に接続され、当該倍速電磁バルブ35の動作を制御することができる。
本機ECU44はスリップ報知ブザー36に接続され、当該スリップ報知ブザー36の動作(警告音のON/OFFの切り換え)を制御することができる。
本機ECU44はGPS非受信報知ランプ38に接続され、当該GPS非受信報知ランプ38の動作(発光のON/OFFの切り換え)を制御することができる。
本機ECU44はエンジンECU42に接続され、当該エンジンECU42を介してエンジン4の実回転数についての情報を受信することができる。
本機ECU44はエンジンECU42に接続され、当該エンジンECU42を介してエンジン4に関する各種の情報を受信することができる。
なお、本機ECU44は1体だけでなく、複数体(メインのECUと、サブのECU等)で構成することも可能である。
また、本機ECU44とエンジンECU42を、1体のECUで構成することも可能である。
本実施形態においては、制御手段として、本機ECU44を用いている。
以下では、上述の如く構成された駆動制御機構10の制御態様について説明する。
駆動制御機構10は、トラクタ1を二輪駆動状態又は四輪駆動状態に適宜切り換える制御モードとして、「固定モード」及び「オートモード」を有する。作業者によってモード切換スイッチ22が切り換えられると、本機ECU44は前記制御モードを固定モード又はオートモードのいずれかに切り換える。
以下では、まず、固定モードについて説明する。
固定モードは、作業者が任意にトラクタ1を二輪駆動状態又は四輪駆動状態に切り換えることが可能なモードである。固定モードにおいては、本機ECU44は駆動切換スイッチ20の操作に基づいて、トラクタ1を二輪駆動状態又は四輪駆動状態に切り換える。
すなわち、作業者が駆動切換スイッチ20を操作して二輪駆動状態を選択した場合、本機ECU44は四輪駆動電磁バルブ34の動作を制御し、前輪駆動用の油圧クラッチの接続を解除する。これによって、前輪2・2への動力の伝達を断ち、後輪3・3のみを回転駆動させる二輪駆動状態とすることができる。
また、作業者が駆動切換スイッチ20を操作して四輪駆動状態を選択した場合、本機ECU44は四輪駆動電磁バルブ34の動作を制御し、前輪駆動用の油圧クラッチを接続する。これによって、前輪2・2へ動力を伝達可能とし、前輪2・2及び後輪3・3を回転駆動させる四輪駆動状態とすることができる。
次に、オートモードについて説明する。
オートモードは、作業者による駆動切換スイッチ20の操作によらず、本機ECU44がトラクタ1を二輪駆動状態又は四輪駆動状態に自動的に切り換えるモードである。
以下では、図1から図6までを用いて、オートモードにおける本機ECU44による制御態様の1つ(第一制御態様)について説明する。
第一制御態様は、トラクタ1の走行中にスリップが発生した場合に、当該スリップを適切に解消(スリップ率Sを改善)するための制御である。
まず、主に図3を用いて、第一制御態様における本機ECU44による処理の流れについて説明する。
ステップS101において、本機ECU44は、トラクタ1のスリップ率Sが閾値Stを超えているか否かを判断する。以下、ステップS101の処理について詳細に説明する。
スリップ率Sとは、トラクタ1の駆動輪が圃場等の接地面に対してどの程度スリップしているかを示す値である。スリップ率S(%)は、S=(Vi−Vp)/Vi×100の式に基づいて算出される。ここで、Vpはトラクタ1の実際の走行速度(実走行速度)、Viはトラクタ1の理論走行速度である。
実走行速度Vpは、トラクタ1の接地面に対する実際の走行速度である。実走行速度Vpは、トラクタ1の位置の変化に基づいて本機ECU44によって算出される。具体的には、本機ECU44はGPS受信装置30からトラクタ1の現在位置についての情報を継続して受信する。本機ECU44は、当該トラクタ1の位置の単位時間当たりの変化量から、当該トラクタ1の速度(実走行速度Vp)を算出する。
理論走行速度Viは、駆動輪が接地面に対してスリップしていない場合(理論上)のトラクタ1の走行速度である。理論走行速度Viは、トラクタ1の駆動輪の駆動速度に基づいて本機ECU44によって算出される。具体的には、本機ECU44は車軸回転センサ26から駆動輪への動力伝達経路における駆動速度についての情報を受信する。本機ECU44は、当該駆動速度及び予め記憶される動力伝達経路の減速比に基づいて駆動輪の駆動速度を算出する。本機ECU44は、当該駆動輪の駆動速度及び当該駆動輪の径に基づいて、トラクタ1の理論走行速度Viを算出する。
例えば、トラクタ1が接地面に対して全くスリップせず走行している場合、実走行速度Vpと理論走行速度Viは一致(Vp=Vi)し、スリップ率S=0(%)となる。
また、トラクタ1の駆動輪が接地面に対して完全に空転している場合、実走行速度Vp=0であるため、スリップ率S=100(%)となる。
閾値Stは、本機ECU44がトラクタ1を二輪駆動状態又は四輪駆動状態に自動的に切り換える際の基準となるスリップ率Sの値である。本機ECU44は閾値設定ダイヤル24の操作位置についての情報を受信する。本機ECU44は、当該閾値設定ダイヤル24の操作位置についての情報に基づいて、閾値Stを設定する。すなわち、作業者は閾値設定ダイヤル24を操作することによって、閾値Stを任意に設定することができる。
本機ECU44は、トラクタ1のスリップ率Sが閾値Stを超えていると判断した場合、ステップS102に移行する。
本機ECU44は、トラクタ1のスリップ率Sが閾値Stを超えていないと判断した場合、ステップS107に移行する。
ステップS102において、本機ECU44は、トラクタ1のスリップ率Sが閾値Stを超えていると判断した時点(ステップS101)における、当該トラクタ1の前後方向の傾斜角度θを記憶する。
本機ECU44は、上記処理を行った後、ステップS103に移行する。
ステップS103において、本機ECU44は、トラクタ1を四輪駆動状態に自動的に切り換える。すなわち、この場合、本機ECU44は四輪駆動電磁バルブ34の動作を制御し、前輪駆動用の油圧クラッチを接続する。これによって、前輪2・2へ動力を伝達可能とし、前輪2・2及び後輪3・3を回転駆動させる四輪駆動状態とすることができる。
なお、当該処理(ステップS103)の時点ですでにトラクタ1が四輪駆動状態である場合は、本機ECU44はその状態を維持する。
本機ECU44は、上記処理(ステップS103)を行った後、ステップS104に移行する。
ステップS104において、本機ECU44は、トラクタ1のスリップ率Sが閾値St以下であるか否かを判断する。
本機ECU44は、トラクタ1のスリップ率Sが閾値St以下であると判断した場合、ステップS105に移行する。
本機ECU44は、トラクタ1のスリップ率Sが閾値Stを超えていると判断した場合、ステップS104の処理を再度行う。
ステップS105において、本機ECU44は、トラクタ1が前後方向に略水平であるか否かを判断する。具体的には、本機ECU44は、トラクタ1の前後方向の傾斜角度θが0(°)に近い値(例えば、−1(°)≦θ≦1(°)等)であるか否かを判断する。
本機ECU44は、トラクタ1が前後方向に略水平ではないと判断した場合、ステップS106に移行する。
本機ECU44は、トラクタ1が前後方向に略水平であると判断した場合、ステップS107に移行する。
ステップS106において、本機ECU44は、トラクタ1の前後方向の傾斜角度θが所定の角度θt以下であるか否かを判断する。
ここで、所定の角度θtはステップS102において記憶された傾斜角度θ未満の角度となるように設定される。また、所定の角度θtはステップS102において記憶された傾斜角度θに対して所定の割合となるように設定される。本実施形態においては、所定の角度θtはステップS102において記憶された傾斜角度θの50(%)の値となるように設定される。当該所定の割合は、予め本機ECU44に設定(記憶)される。
なお、上述の傾斜角度θに対する所定の割合は、50(%)に限るものではない。また、当該所定の割合は、トラクタ1に設けられた操作具(ダイヤル等)によって作業者が任意に変更可能となるように構成することもできる。
また、所定の角度θtは、傾斜角度θに対する所定の割合ではなく、一定の値に設定することも可能である。
本機ECU44は、トラクタ1の前後方向の傾斜角度θが所定の角度θt以下であると判断した場合、ステップS107に移行する。
本機ECU44は、トラクタ1の前後方向の傾斜角度θが所定の角度θtを超えていると判断した場合、ステップS104に再度移行する。
ステップS107において、本機ECU44は、トラクタ1を二輪駆動状態に自動的に切り換える。すなわち、この場合、本機ECU44は四輪駆動電磁バルブ34の動作を制御し、前輪駆動用の油圧クラッチの接続を解除する。これによって、前輪2・2への動力の伝達を断ち、後輪3・3のみを回転駆動させる二輪駆動状態とすることができる。
なお、当該処理(ステップS107)の時点ですでにトラクタ1が二輪駆動状態である場合は、本機ECU44はその状態を維持する。
次に、図3から図5までを用いて、第一制御態様の具体的な例を説明する。
図4は、走行中のトラクタ1の駆動状態(二輪駆動状態又は四輪駆動状態)、スリップ率S及び傾斜角度θが時間tの経過と共に変化する様子を示したタイムチャートである。
トラクタ1の走行中における時間t1において、スリップ率Sが閾値Stを超えた場合(図3のステップS101、及び図5(a)参照)、本機ECU44はその時点(時間t1)における傾斜角度θ(本実施形態においては、θ1とする)を記憶する(図3のステップS102参照)。また本機ECU44は、トラクタ1を四輪駆動状態に自動的に切り換える(図3のステップS103、及び図5(b)参照)。これによって、トラクタ1のスリップ率を改善(低減)し、トラクタ1の接地面に対する駆動力を向上させることができる。
トラクタ1のスリップ率Sは、四輪駆動状態に切り換えられた直後(時間t1の直後)に閾値St以下に減少している(図3のステップS104参照)。しかし、トラクタ1は略水平でもなく(図3のステップS105参照)、傾斜角度θも所定の角度θt(本実施形態においては、θ2(=θ1×50(%)/100)とする)以下まで減少していない(図3のステップS106参照)。このため、本機ECU44はトラクタ1を四輪駆動状態に維持する。
時間t2において、傾斜角度θが所定の角度θt(θ2)以下まで減少した場合(図3のステップS106、及び図5(c)参照)、本機ECU44はトラクタ1を二輪駆動状態に自動的に切り換える(図3のステップS107参照)。
また、時間t3において、スリップ率Sが再度閾値Stを超えた場合(図3のステップS101、及び図5(d)参照)、本機ECU44はその時点(時間t3)における傾斜角度θ(本実施形態においては、傾斜角度θ=0)を記憶する(図3のステップS102参照)。また本機ECU44は、トラクタ1を四輪駆動状態に自動的に切り換える(図3のステップS103、及び図5(e)参照)。これによって、トラクタ1のスリップ率を改善し、トラクタ1の接地面に対する駆動力を向上させることができる。
トラクタ1のスリップ率Sは、四輪駆動状態に切り換えられた後の時間t4において、閾値St以下に減少している(図3のステップS104参照)。また、その時点(時間t4)においてトラクタ1は略水平(傾斜角度θ=0)である(図3のステップS105参照)。よって、本機ECU44はトラクタ1を二輪駆動状態に自動的に切り換える(図3のステップS107、及び図5(f)参照)。
上述の如く、第一制御態様において、本機ECU44は、トラクタ1のスリップ率Sが閾値Stを超えた場合(図3のステップS101)に限り、当該トラクタ1を四輪駆動状態に切り換える(図3のステップS103)。すなわち、本機ECU44は、トラクタ1のスリップ率Sが高くなった時以外は当該トラクタ1を二輪駆動状態とする(図3のステップS101及びステップS107)。
これによって、トラクタ1を極力二輪駆動状態で走行させることができ、燃費の向上を図ることができる。
また、通常、四輪駆動状態では前輪2・2が後輪3・3よりも早く回転する。このため、トラクタ1が四輪駆動状態で圃場を走行すると当該圃場の表面を荒らすことになる。したがって、トラクタ1を極力二輪駆動状態で走行させることで、圃場の表面を荒らすことを抑制することができる。
また、トラクタ1が四輪駆動状態で舗装された道路等を走行すると、前輪2・2と後輪3・3との回転差によって当該前輪2・2及び後輪3・3が磨耗し易くなる。したがって、トラクタ1を極力二輪駆動状態で走行させることで、当該前輪2・2及び後輪3・3の磨耗を抑制することができる。
また、本機ECU44は、トラクタ1のスリップ率Sが閾値St以下に減少する(図3のステップS104)だけでなく、さらに傾斜角度θが所定の角度θt以下に減少する(図3のステップS106)か、トラクタ1が略水平になった場合(図3のステップS105)に初めて当該トラクタ1を二輪駆動状態に戻す(図3のステップS107)。
このように、本機ECU44は、トラクタ1の傾斜角度θが緩くなった状態で当該トラクタ1を二輪駆動状態に戻す。これによって、当該トラクタ1が二輪駆動状態に戻った瞬間にスリップ率Sが再び閾値Stを超え、すぐに四輪駆動状態に切り換えられるのを防止することができ、ひいては二輪駆動状態と四輪駆動状態とが延々と交互に切り換えられる状態を未然に防止することができる。
また、トラクタ1が略水平な状態でスリップ率Sが閾値Stを超えた場合(図3のステップS101)、当該傾斜角度θ(0(°)に近い値)に対して所定の割合となるように設定された所定の角度θt(本実施形態においては、0(°)に近い値のさらに50(%))を傾斜センサ28で検出するのは困難である。すなわち、トラクタ1を二輪駆動状態に戻す際の条件である、傾斜角度θが所定の角度θt以下に減少したこと(図3のステップS106)を検出することが困難となる。しかし、トラクタ1が略水平になった場合(図3のステップS105)にもトラクタ1を二輪駆動状態に戻す(図3のステップS107)構成とすることにより、トラクタ1を適切に二輪駆動状態に戻すことができる。
以上の如く、本実施形態に係るトラクタ1(作業車両)の駆動制御機構10は、
トラクタ1の前輪2・2及び後輪3・3に駆動力を伝達する四輪駆動状態と、後輪3・3にのみ駆動力を伝達する二輪駆動状態と、を切り換える四輪駆動電磁バルブ34(駆動切換手段)と、
接地面に対する車輪のスリップ率Sを検出するスリップ率検出手段と、
トラクタ1の前後方向の傾斜角度θを検出する傾斜センサ28(傾斜角度検出手段)と、
傾斜角度θを検出している際にスリップ率Sが閾値Stを超えた場合、トラクタ1を四輪駆動状態に自動的に切り換え、
トラクタ1が四輪駆動状態に自動的に切り換えられた状態において、スリップ率Sが(閾値St以下に)減少し、かつ傾斜角度θが(トラクタ1を四輪駆動状態に自動的に切り換えた際の傾斜角度θ以下に)減少した場合、トラクタ1を二輪駆動状態に自動的に切り換える本機ECU44(制御手段)と、
を具備するものである。
このように構成することにより、トラクタ1が傾斜していても、適切にスリップを解消することができる。
すなわち、スリップ率Sが減少するだけでなく、傾斜角度θも減少した場合に初めてトラクタ1を二輪駆動状態に戻すことで、再度スリップ率Sが閾値Stを超えてしまうことを防止することができる。これによって、トラクタ1が二輪駆動状態と四輪駆動状態とを延々と交互に切り換えられる状態になるのを防止することができる。
また、本機ECU44は、
傾斜角度θが、トラクタ1を四輪駆動状態に自動的に切り換えた際の傾斜角度θに対して所定の割合(本実施形態においては、50(%))以下に減少した場合に、トラクタ1を二輪駆動状態に自動的に切り換えるものである。
このように構成することにより、スリップ率Sが閾値Stを超えた時の接地面の状態に応じて所定の角度θtが決定されるため、より適切にスリップを解消することができる。
すなわち、所定の角度θtを一定の値に定める場合に比べて、接地面の状態に応じた適切なスリップの解消(スリップ率Sの改善)が期待できる。
また、本機ECU44は、
トラクタ1が四輪駆動状態に自動的に切り換えられた状態において、スリップ率Sが閾値St以下に減少し、かつトラクタ1が略水平になった場合、トラクタ1を二輪駆動状態に自動的に切り換えるものである。
このように、トラクタ1が略水平になった場合には、当該トラクタ1の傾斜角度θがスリップに与える影響はほとんど無くなる。従って、この場合は当該傾斜角度θ(より詳細には、傾斜角度θが所定の角度θt以下に減少したか否か)にかかわらずスリップ率Sにのみ基づいて二輪駆動状態に切り換えることで、より適切にスリップを解消することができる。
また、駆動制御機構10は、
閾値Stを任意に変更することが可能な閾値設定ダイヤル24(閾値変更手段)をさらに具備するものである。
このように構成することにより、接地面の状況や作業内容等に基づいて任意に閾値Stを設定することができる。
また、前記スリップ率検出手段は、
トラクタ1の位置を検出するGPS受信装置30(GPS受信手段)と、
後輪3・3(車輪)への駆動力伝達経路における駆動速度を検出する車軸回転センサ26(駆動速度検出手段)と、
を具備し、
本機ECU44は、
トラクタ1の位置の変化に基づいて算出されるトラクタ1の実走行速度Vpと、
前記駆動速度に基づいて算出されるトラクタ1の理論走行速度Viと、
に基づいてスリップ率Sを算出するものである。
このように構成することにより、GPSを利用してスリップ率Sを算出することができる。特に、元々GPS受信装置30が搭載されているトラクタ1に本発明を適用する場合には、スリップ率Sを算出するためのセンサを別途設ける必要が無いため、コストの削減を図ることができる。
なお、GPS受信装置30が搭載されているトラクタ1としては、精密農業用のトラクタ(GPS機能を用いて作業を行う作業機等を備えるトラクタ)がある。
以下では、上述したオートモードにおける第一制御態様(トラクタ1の走行中にスリップが発生した場合に、当該スリップを適切に解消するための制御)の変形例について説明する。
第一制御態様の第一の変形例として、スリップ率Sの閾値Stにヒステリシスを設ける構成とすることも可能である。
すなわち、トラクタ1を二輪駆動状態から四輪駆動状態に切り換える際のスリップ率Sの基準となる閾値St(図3のステップS101)の値(以下、単に「閾値S4」と記す)と、四輪駆動状態から二輪駆動状態に戻す際のスリップ率Sの基準となる閾値St(図3のステップS104)の値(以下、単に「閾値S2」と記す)に差を設ける。具体的には、閾値S2の値が閾値S4の値に対して適宜に小さくなるように設定する。例えば、閾値S4が10(%)である場合に、閾値S2を6(%)に設定する。
このように、閾値S2の値を閾値S4の値に対して若干小さく設定することで、トラクタ1を二輪駆動状態に戻した直後にスリップが再発(スリップ率Sが再び閾値St(S4)を超える)のを防止することができる。
さらに、トラクタ1を四輪駆動状態から二輪駆動状態に戻す際(図3のステップS104)には、スリップ率Sが閾値St(閾値S2)以下の状態で所定の時間が経過することを条件とすることも可能である。
このように、スリップ率Sが低い状態で所定の時間が経過した後に二輪駆動状態に戻すことで、トラクタ1を二輪駆動状態に戻した直後にスリップが再発(スリップ率Sが再び閾値St(S4)を超える)のを防止することができる。
第一制御態様の第二の変形例として、スリップ率Sが閾値Stに近い値Srまで増加した場合にその旨を作業者に報知する構成とすることも可能である。
すなわち、本機ECU44は、トラクタ1のスリップ率Sが閾値Stに近い値Sr(<St)まで増加した場合に、スリップ報知ブザー36から警告音を発生させる。作業者は、当該スリップ報知ブザー36からの警告音を聞くことによって、トラクタ1がスリップしている(スリップ率Sがある程度増加している)ことを知ることができる。
第一制御態様の第三の変形例として、GPS受信装置30がGPS衛星からの信号を受信していない場合に、その旨を作業者に報知すると共にトラクタ1を四輪駆動状態に切り換える構成とすることも可能である。
すなわち、本機ECU44は、GPS受信装置30がGPS衛星からの信号を受信していない場合に、GPS非受信報知ランプ38を発光させる。作業者は、GPS非受信報知ランプ38の発光を視認することによって、GPS機能が使用できないこと、すなわち、スリップ率Sが算出できないことを知ることができる。
またこの場合、本機ECU44は、トラクタ1を四輪駆動状態に切り換える。これによって、スリップ率Sが算出できない場合にはトラクタ1を常時四輪駆動状態に維持し、スリップの発生(スリップ率Sの増加)を未然に防止することができる。
第一制御態様の第四の変形例を図6に示す。なお、図6に示すフローチャートにおいて、上述の図3に示すフローチャートと同様の処理については、同じ符号を付して以下では説明を省略する。
第一制御態様の第四の変形例として、トラクタ1を四輪駆動状態に切り換えてもなおスリップ率Sが閾値St以下に減少しない場合(ステップS104)、変速機構5を変速操作してトラクタ1を減速させる構成とすることも可能である。以下、詳細に説明する。
図5のステップS104において、本機ECU44は、トラクタ1のスリップ率Sが閾値St以下であるか否かを判断する。
本機ECU44は、トラクタ1のスリップ率Sが閾値St以下であると判断した場合、ステップS105に移行する。
本機ECU44は、トラクタ1のスリップ率Sが閾値Stを超えていると判断した場合、ステップS111に移行する。
ステップS111において、本機ECU44は、トラクタ1を減速させる。すなわち、この場合、本機ECU44は変速電磁バルブ32の動作を制御し、変速用の油圧クラッチを切り換える。これによって、変速機構5における変速比(減速比)を、トラクタ1が減速するように切り換える。
本機ECU44は上記処理を行った後、ステップS104に再度移行する。
このように、トラクタ1を四輪駆動状態に切り換えても(ステップS103)なおスリップ率Sが閾値St以下に減少しない場合(ステップS104)、変速機構5を変速操作してトラクタ1を減速させる(ステップS111)。これによって、より確実にスリップを解消することができる。
なお、トラクタ1を減速させてもなおスリップ率Sが閾値St以下に減少しない場合、さらにデフロックを作動(差動機構をロック)させる構成とすることも可能である。これによって、より確実にスリップを解消することができる。
第一制御態様の第五の変形例を図6に示す。第一制御態様の第五の変形例として、トラクタ1を四輪駆動状態に切り換えて(ステップS103)スリップ率Sが閾値St以下に減少した状態で(ステップS104)、傾斜角度θが所定の角度θt以下に減少しない場合(ステップS106)、その状態で所定の時間が経過したならば傾斜角度θにかかわらずトラクタ1を二輪駆動状態に切り換える構成とすることも可能である。以下、詳細に説明する。
図6のステップS106において、本機ECU44は、トラクタ1の前後方向の傾斜角度θが所定の角度θt以下であるか否かを判断する。
本機ECU44は、トラクタ1の前後方向の傾斜角度θが所定の角度θt以下であると判断した場合、ステップS107に移行する。
本機ECU44は、トラクタ1の前後方向の傾斜角度θが所定の角度θtを超えていると判断した場合、ステップS112に移行する。
ステップS112において、本機ECU44は、スリップ率Sが閾値St以下になった状態(ステップS104)で所定の時間が経過したか否かを判断する。
本機ECU44は、スリップ率Sが閾値St以下になった状態で所定の時間が経過したと判断した場合、ステップS107に移行する。
本機ECU44は、スリップ率Sが閾値St以下になった状態で所定の時間が経過していないと判断した場合、ステップS104に再度移行する。
このように、トラクタ1を四輪駆動状態に切り換えて(ステップS103)スリップ率Sが閾値St以下に減少した状態で(ステップS104)、傾斜角度θが所定の角度θt以下に減少しない場合(ステップS106)、その状態で所定の時間が経過したならば(ステップS112)傾斜角度θにかかわらずトラクタ1を二輪駆動状態に切り換える(ステップS107)。これによって、四輪駆動状態を継続する時間をある一定の時間(スリップ率Sが閾値St以下に減少してから所定の時間)に限定し、その後二輪駆動状態に切り換えることで、トラクタ1の燃費の向上を図ることができる。
第一制御態様の第六の変形例として、スリップ率Sの閾値Stを複数設定する構成とすることも可能である。
すなわち、本機ECU44は、圃場の状態、傾斜角度、作業内容等の条件に応じて複数の閾値Stを記憶する。そして、本機ECU44は、実際にトラクタ1が走行する際の条件に応じた閾値Stを、トラクタ1の二輪駆動状態と四輪駆動状態とを切り換える際の基準となるスリップ率Sの値として使用する。
なお、この場合、当該複数の閾値Stをそれぞれ設定するための閾値設定ダイヤル24をトラクタ1に複数設ける構成とすることも可能である。また、設定された複数の閾値Stのうち、どの閾値Stを使用してトラクタ1の制御を行うかを、スイッチ等を用いて作業者が任意に選択できる構成とすることも可能である。
以下では、図1、図2及び図7を用いて、オートモードにおける本機ECU44による制御態様の1つ(第二制御態様)について説明する。
第二制御態様は、トラクタ1の接地面に対する駆動力を向上させることが望ましい場合に、当該駆動力を向上させるための制御である。
以下では、主に図7を用いて、第二制御態様における本機ECU44による処理の流れについて説明する。
ステップS201において、本機ECU44は、トラクタ1が制動されている(ブレーキをかけられている)か否かを判断する。具体的には、本機ECU44は、前記制動操作具が操作されている場合、トラクタ1が制動されていると判断する。
本機ECU44は、トラクタ1が制動されていないと判断した場合、ステップS202に移行する。
本機ECU44は、トラクタ1が制動されていると判断した場合、ステップS209に移行する。
ステップS202において、本機ECU44は、エンジン4が追い回しされているか否かを判断する。以下、ステップS202の処理について詳細に説明する。
エンジン4が追い回しされている状態とは、トラクタ1が下り坂等を走行する際に重力によって加速され、エンジン4の実回転数が目標回転数よりも所定の値以上大きくなっている状態を言う。当該「所定の値」は任意に設定することが可能であり、予め本機ECU44に記憶される。
本機ECU44は、エンジン4の実回転数が、前記アクセル操作具の操作位置に基づいて設定されるエンジン4の目標回転数よりも所定の値以上大きくなっていない場合、エンジン4が追い回しされていないと判断し、ステップS203に移行する。
本機ECU44は、エンジン4の実回転数が目標回転数よりも所定の値以上大きくなっている場合、エンジン4が追い回しされていると判断し、ステップS209に移行する。
ステップS203において、本機ECU44は、トラクタ1が発進直後であるか否かを判断する。以下、ステップS203の処理について詳細に説明する。
本機ECU44は、車軸回転センサ26から駆動輪への動力伝達経路における駆動速度についての情報を受信する。本機ECU44は、当該駆動速度が0の状態から変化した際に、トラクタ1が発進したと判断する。
また、本機ECU44は、トラクタ1が発進してから所定の時間が経過するまでを発進直後と判断する。当該「所定の時間」は任意に設定することが可能であり、予め本機ECU44に記憶される。なお、当該「所定の時間」は、トラクタ1が発進してから速度が安定するまでに必要な時間よりも大きい値となるように、実験や数値計算に基づいて設定されることが望ましい。
本機ECU44は、トラクタ1が発進直後でないと判断した場合、ステップS204に移行する。
本機ECU44は、トラクタ1が発進直後であると判断した場合、ステップS207に移行する。
ステップS204において、本機ECU44は、トラクタ1が加減速(加速又は減速)中であるか否かを判断する。以下、ステップS204の処理について詳細に説明する。
本機ECU44は、(1)変速機構5が変速操作された場合、又は(2)エンジン4の目標回転数が変更操作された場合には、トラクタ1が加減速したと判断する。
本機ECU44は、前記変速操作具の操作位置が変更された場合、変速機構5が変速操作されたと判断する。
本機ECU44は、前記アクセル操作具の操作位置が変更された場合、エンジン4の目標回転数が変更操作されたと判断する。
また、本機ECU44は、トラクタ1が加減速してから所定の時間が経過するまでを加減速中と判断する。当該「所定の時間」は任意に設定することが可能であり、予め本機ECU44に記憶される。なお、当該「所定の時間」は、トラクタ1が加減速してから速度が安定するまでに必要な時間よりも大きい値となるように、実験や数値計算に基づいて設定されることが望ましい。
本機ECU44は、トラクタ1が加減速中でないと判断した場合、ステップS205に移行する。
本機ECU44は、トラクタ1が加減速中であると判断した場合、ステップS207に移行する。
ステップS205において、本機ECU44は、トラクタ1にスリップが発生しているか否かを判断する。具体的には、本機ECU44は、トラクタ1のスリップ率Sが閾値Stを超えている場合、トラクタ1にスリップが発生していると判断する。
本機ECU44は、トラクタ1にスリップが発生していないと判断した場合、ステップS206に移行する。
本機ECU44は、トラクタ1にスリップが発生していると判断した場合、ステップS207に移行する。
ステップS206において、本機ECU44は、トラクタ1を二輪駆動状態に自動的に切り換える。すなわち、この場合、本機ECU44は四輪駆動電磁バルブ34の動作を制御し、前輪駆動用の油圧クラッチの接続を解除する。これによって、前輪2・2への動力の伝達を断ち、後輪3・3のみを回転駆動させる二輪駆動状態とすることができる。
なお、当該処理(ステップS206)の時点ですでにトラクタ1が二輪駆動状態である場合は、本機ECU44はその状態を維持する。
ステップS207において、本機ECU44は、トラクタ1が高速で走行しているか否かを判断する。具体的には、本機ECU44は、トラクタ1の実走行速度Vpが閾値Vtを超えている場合には、トラクタ1が高速走行していると判断する。
閾値Vtは、トラクタ1が高速で走行していると判断する際の基準となる実走行速度Vpの値である。閾値Vtは任意に設定することが可能(例えば、20(km/h)等)であり、予め本機ECU44に記憶される。
本機ECU44は、トラクタ1が高速で走行していないと判断した場合、ステップS208に移行する。
本機ECU44は、トラクタ1が高速で走行していると判断した場合、ステップS206に移行する。
ステップS208において、本機ECU44は、トラクタ1が旋回中であるか否かを判断する。具体的には、本機ECU44は、前輪2・2の切れ角が所定の値以上である場合、トラクタ1が旋回中であると判断する。当該「所定の値」は任意に設定することが可能(例えば、30(°)等)であり、前輪切れ角スイッチ18の取り付け位置を変更することで調節することが可能である。
本機ECU44は、トラクタ1が旋回中でないと判断した場合、ステップS209に移行する。
本機ECU44は、トラクタ1が旋回中であると判断した場合、ステップS206に移行する。
ステップS209において、本機ECU44は、トラクタ1を四輪駆動状態に自動的に切り換える。すなわち、この場合、本機ECU44は四輪駆動電磁バルブ34の動作を制御し、前輪駆動用の油圧クラッチを接続する。これによって、前輪2・2へ動力を伝達可能とし、前輪2・2及び後輪3・3を回転駆動させる四輪駆動状態とすることができる。
なお、当該処理(ステップS209)の時点ですでにトラクタ1が四輪駆動状態である場合は、本機ECU44はその状態を維持する。
上述の如く、第二制御態様において、本機ECU44は、トラクタ1が制動されている場合(ステップS201)、トラクタ1の接地面に対する駆動力を向上させることが望ましいと判断し、当該トラクタ1を四輪駆動状態に自動的に切り換える(ステップS209)。これによって、トラクタ1の駆動力を向上させ、当該トラクタ1の姿勢を安定させると共に、当該トラクタ1の制動距離を短くすることができる。
また、本機ECU44は、エンジン4が追い回しされている場合(ステップS202)、トラクタ1の接地面に対する駆動力を向上させることが望ましいと判断し、当該トラクタ1を四輪駆動状態に自動的に切り換える(ステップS209)。これによって、トラクタ1の駆動力を向上させ、当該トラクタ1の姿勢を安定させることができる。
また、本機ECU44は、トラクタ1が発進直後である場合(ステップS203)、トラクタ1の接地面に対する駆動力を向上させることが望ましいと判断し、当該トラクタ1を四輪駆動状態に自動的に切り換える(ステップS209)。これによって、トラクタ1の駆動力を向上させ、当該トラクタ1を速やかに発進させることができる。
また、本機ECU44は、トラクタ1が加減速中である場合(ステップS204)、トラクタ1の接地面に対する駆動力を向上させることが望ましいと判断し、当該トラクタ1を四輪駆動状態に自動的に切り換える(ステップS209)。これによって、トラクタ1の駆動力を向上させ、当該トラクタ1を速やかに加減速させることができる。
また、本機ECU44は、トラクタ1にスリップが発生している場合(ステップS205)、トラクタ1の接地面に対する駆動力を向上させることが望ましいと判断し、当該トラクタ1を四輪駆動状態に自動的に切り換える(ステップS209)。これによって、トラクタ1の駆動力を向上させ、当該トラクタ1のスリップを解消することができる。
また、本機ECU44は、トラクタ1が発進直後である場合(ステップS203)、加減速中である場合(ステップS204)又はスリップが発生している場合(ステップS205)であっても、当該トラクタ1が高速で走行している場合(ステップS207)には、当該トラクタ1を二輪駆動状態に自動的に切り換える(ステップS206)。これによって、四輪駆動状態に比べて容易に操向操作を行うことができる。
また、本機ECU44は、トラクタ1が発進直後である場合(ステップS203)、加減速中である場合(ステップS204)又はスリップが発生している場合(ステップS205)であっても、当該トラクタ1が旋回中である場合(ステップS208)には、当該トラクタ1を二輪駆動状態に自動的に切り換える(ステップS206)。これによって、四輪駆動状態に比べてトラクタ1の旋回半径を小さくすると共に、接地面(圃場)が荒れるのを防止することができる。
以上の如く、本実施形態に係るトラクタ1(作業車両)の駆動制御機構10は、
トラクタ1の前輪2・2及び後輪3・3に駆動力を伝達する四輪駆動状態と、後輪3・3にのみ駆動力を伝達する二輪駆動状態と、を切り換える四輪駆動電磁バルブ34(駆動切換手段)と、
トラクタ1の接地面に対する駆動力を向上させることが望ましい状態を検出する状態検出手段と、
前記駆動力を向上させることが望ましい場合、トラクタ1を四輪駆動状態に自動的に切り換える本機ECU44(制御手段)と、
を具備するものである。
このように構成することにより、トラクタ1の接地面に対する駆動力を向上させることが望ましい場合における当該トラクタ1のスリップの発生を抑制し、ひいては当該トラクタ1の駆動力を迅速に向上させることができる。
また、前記状態検出手段は、
トラクタ1の発進を検出する車軸回転センサ26(発進検出手段)を含み、
本機ECU44は、
トラクタ1が発進した直後に、トラクタ1を四輪駆動状態に自動的に切り換えるものである。
このように構成することにより、トラクタ1が発進した直後における当該トラクタ1のスリップの発生を抑制し、ひいては当該トラクタ1の駆動力を向上させることができる。
これによって、当該トラクタ1を速やかに発進させることができる。
また、前記状態検出手段は、
トラクタ1の変速機構5が変速操作されたことを検出する変速位置検出センサ14(変速操作検出手段)を含み、
本機ECU44は、
変速機構5が変速操作された際に、トラクタ1を四輪駆動状態に自動的に切り換えるものである。
このように構成することにより、トラクタ1の変速機構5が変速操作された際における当該トラクタ1のスリップの発生を抑制し、ひいては当該トラクタ1の駆動力を向上させることができる。
これによって、当該トラクタ1を速やかに加減速させることができる。
また、前記状態検出手段は、
トラクタ1のエンジン4の目標回転数が変更操作されたことを検出するアクセルセンサ12(エンジン操作検出手段)を含み、
本機ECU44は、
前記目標回転数が変更操作された際に、トラクタ1を四輪駆動状態に自動的に切り換えるものである。
このように構成することにより、トラクタ1のエンジン4の目標回転数が変更操作された際における当該トラクタ1のスリップの発生を抑制し、ひいては当該トラクタ1の駆動力を向上させることができる。
これによって、当該トラクタ1を速やかに加減速させることができる。
また、前記状態検出手段は、
トラクタ1のエンジン4の目標回転数を検出するアクセルセンサ12(目標回転数検出手段)と、
エンジン4の実回転数(実際の回転数)を検出するクランク位置センサ40(実回転数検出手段)と、
を含み、
本機ECU44は、
エンジン4の前記実回転数が前記目標回転数よりも所定の値以上大きくなった際に、トラクタ1を四輪駆動状態に自動的に切り換えるものである。
このように構成することにより、エンジン4の実回転数が目標回転数よりも所定の値以上大きくなった際(いわゆる、エンジン4の追い回しが発生している状態)におけるトラクタ1の駆動力を向上させることができる。
これによって、当該トラクタ1の姿勢を安定させることができる。
以下では、上述したオートモードにおける第二制御態様の変形例について説明する。
第二制御態様の変形例を図8に示す。なお、図8に示すフローチャートにおいて、上述の図7に示すフローチャートと同様の処理については、同じ符号を付して以下では説明を省略する。
第二制御態様の変形例として、トラクタ1が旋回中である場合には、当該トラクタ1をその他の状態に優先して倍速状態に切り換える構成とすることも可能である。以下、詳細に説明する。
作業者によって倍速切換スイッチ21が切り換えられ、所定の場合にトラクタ1を倍速状態に自動的に切り換えることが許可されると、本機ECU44は図7に示す制御に代えて、図8に示す制御を行う。
図8のステップS211において、本機ECU44は、トラクタ1が旋回中であるか否かを判断する。具体的には、本機ECU44は、前輪2・2の切れ角が所定の値以上である場合、トラクタ1が旋回中であると判断する。当該「所定の値」は任意に設定することが可能(例えば、40(°)等)であり、前輪切れ角スイッチ18の取り付け位置を変更することで調節することが可能である。
本機ECU44は、トラクタ1が旋回中でないと判断した場合、ステップS201に移行する。
本機ECU44は、トラクタ1が旋回中であると判断した場合、ステップS212に移行する。
ステップS212において、本機ECU44は、トラクタ1を倍速状態に自動的に切り換える。すなわち、この場合、本機ECU44は倍速電磁バルブ35の動作を制御し、倍速用の油圧クラッチを接続する。これによって、前輪2・2へ通常(四輪駆動状態)よりも速い駆動速度の動力を伝達可能とし、前輪2・2を後輪3・3よりも速い対地速度で回転駆動させる倍速状態とすることができる。
なお、当該処理(ステップS212)の時点ですでにトラクタ1が倍速状態である場合は、本機ECU44はその状態を維持する。
このように、トラクタ1が旋回中である場合(ステップS211)、他の制御(ステップS201からステップS209まで)に優先して当該トラクタ1を倍速状態に切り換える(ステップS212)。これによって、旋回中には前輪2・2を後輪3・3よりも速い対地速度で回転駆動させることができ、容易に旋回することができると共に、接地面を荒らし難くすることができる。
以上の如く、本実施形態に係るトラクタ1の駆動制御機構10は、
前輪2・2の切れ角が所定の値以上になったことを検出する前輪切れ角スイッチ18(前輪切れ角検出手段)と、
前輪2・2を後輪3・3よりも速い対地速度で回転させる倍速状態に切り換える倍速電磁バルブ35(倍速切換手段)と、
をさらに具備し、
本機ECU44は、
前輪2・2の切れ角が所定の値以上になった場合、トラクタ1を四輪駆動状態に自動的に切り換える制御(図8のステップS201からステップS209まで)に優先して、トラクタ1を倍速状態に自動的に切り換えるものである。
このように構成することにより、前輪2・2の切れ角が所定の値以上になった場合には優先してトラクタ1を倍速状態に切り換えることにより、容易に旋回することができると共に、接地面を荒らし難くすることができる。
なお、上記実施形態においては、オートモードにおける本機ECU44による制御態様を第一制御態様と第二制御態様に分けて説明した。しかし、本機ECU44はオートモードにおいて第一制御態様と第二制御態様の2つの制御を並行して行うことも可能である。
この場合、例えば、第二制御態様におけるトラクタ1にスリップが発生した場合に四輪駆動状態に切り換える制御(図6のステップS205及びステップS209)に代えて、第一制御態様(図3)を適用することが可能である。
また、上記実施形態においては、オートモードにおける第二制御態様の変形例として、本機ECU44がトラクタ1を倍速状態に自動的に切り換える制御を行うものとした。しかし、本機ECU44は、固定モードにおいてトラクタ1が旋回中である場合にも、当該トラクタ1を倍速状態に切り換える制御を行う構成とすることも可能である。
また、上記実施形態においては、状態検出手段としてアクセルセンサ12、変速位置検出センサ14、車軸回転センサ26及びクランク位置センサ40を用いるものとしたが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、状態検出手段は、トラクタ1の接地面に対する駆動力を向上させることが望ましい状態を検出することができるものであれば良い。例えば、トラクタ1の接地面(圃場)の状態を検出するセンサや、トラクタ1が行う作業内容(トラクタ1が装着する作業機の種類)を検出するセンサであっても良い。
また、上記実施形態においては、エンジン操作検出手段としてアクセルセンサ12を用いるものとしたが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、エンジン操作検出手段は、トラクタ1のエンジン4の目標回転数が変更操作されたことを検出することができるものであれば良い。例えば、前記アクセル操作具と連結されたリンク機構が動いたことを検出するセンサや、エンジン4の動作を制御するエンジンECU42自身であっても良い。
また、上記実施形態においては、目標回転数検出手段としてアクセルセンサ12を用いるものとしたが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、目標回転数検出手段は、トラクタ1のエンジン4の目標回転数を検出することができるものであれば良い。例えば、前記アクセル操作具と連結されたリンク機構の操作位置を検出するセンサや、エンジン4の動作を制御するエンジンECU42自身であっても良い。
また、上記実施形態においては、変速操作検出手段として変速位置検出センサ14を用いるものとしたが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、変速操作検出手段は、トラクタ1の変速機構5が変速操作されたことを検出することができるものであれば良い。例えば、前記変速操作具と連結されたリンク機構が動いたことを検出するセンサや、変速電磁バルブ32を制御して変速機構5を変速操作する本機ECU44自身であっても良い。
また、上記実施形態においては、前輪切れ角検出手段として前輪切れ角スイッチ18を用いるものとしたが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、前輪切れ角検出手段は、前輪2・2の切れ角が所定の値以上になったことを検出することができるものであれば良い。例えば、前輪2・2の切れ角を検出可能なポテンショメータ等であっても良い。また、前輪2・2の切れ角を直接検出するものに限らず、ステアリングホイール6aの回動角度等を検出し、間接的に前輪2・2の切れ角を検出するものであっても良い。
また、上記実施形態においては、閾値変更手段として閾値設定ダイヤル24を用いるものとしたが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、閾値変更手段は、閾値Stを任意に変更することが可能なものであれば良い。例えば、その他各種スイッチ(スライドスイッチ、トグルスイッチ等)や、タッチパネルであっても良い。
また、上記実施形態においては、スリップ率検出手段として車軸回転センサ26及びGPS受信装置30を用いるものとしたが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、スリップ率検出手段は、接地面に対する車輪のスリップ率Sを検出することができるものであれば良い。例えば、対地センサ等のその他のセンサを用いて実走行速度Vpを算出し、当該実走行速度Vpからスリップ率Sを検出する構成であっても良い。また、前輪2・2と後輪3・3の駆動速度(回転数)をそれぞれ検出するセンサを用いて、当該前輪2・2と後輪3・3の駆動速度の差からスリップ率Sを検出する構成であっても良い。
また、上記実施形態においては、駆動速度検出手段として車軸回転センサ26を用いるものとしたが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、駆動速度検出手段は、車輪への駆動力伝達経路における駆動速度を検出することができるものであれば良い。例えば、エンジン4の実回転数及び動力伝達経路の減速比に基づいて当該駆動速度を検出する構成であっても良い。
また、上記実施形態においては、発進検出手段として車軸回転センサ26を用いるものとしたが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、発進検出手段は、トラクタ1の発進を検出することができるものであれば良い。例えば、トラクタ1の車輪への動力の伝達の可否を切り換えるクラッチの状態(接続されているか、当該接続を解除されているか)を検出するセンサや、前記アクセル操作具及び前記変速操作具の操作位置を検出するセンサ(アクセルセンサ12及び変速位置検出センサ14)であっても良い。
また、上記実施形態においては、傾斜角度検出手段として傾斜センサ28を用いるものとしたが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、傾斜角度検出手段は、トラクタ1の前後方向の傾斜角度を検出することができるものであれば良い。例えば、トラクタ1を撮影した画像から、当該トラクタ1の前後方向の傾斜角度を検出する構成(画像処理手段)であっても良い。
また、上記実施形態においては、駆動切換手段として四輪駆動電磁バルブ34を用いるものとしたが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、駆動切換手段は、トラクタ1の前輪2・2及び後輪3・3に駆動力を伝達する四輪駆動状態と、後輪3・3にのみ駆動力を伝達する二輪駆動状態と、を切り換えることができるものであれば良い。例えば、変速機構5に設けられた前輪駆動用のクラッチの動作を制御するための他のアクチュエータであっても良い。
また、上記実施形態においては、実回転数検出手段としてクランク位置センサ40を用いるものとしたが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、実回転数検出手段は、エンジン4の実際の回転数を検出することができるものであれば良い。例えば、エンジン4の燃料噴射管の脈動を検出するセンサや、オルタネータの回転数を検出するセンサであっても良い。
また、上記実施形態においては、制御手段として本機ECU44を用いるものとしたが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、制御手段は、駆動制御機構10全体を制御することができるものであれば良い。例えば、本機ECU44とは別個設けられたECUや、トラクタ1の外部に設けられ無線(又は有線)によって駆動制御機構10を制御可能なECUであっても良い。