JP2014087915A - 表面被覆切削工具 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】
工具基体の表面に形成した硬質被覆層が、
(a)0.5〜1.0μmの平均層厚を有し、
組成式:(Al1−xCrx)N(xはAlとCrの合量に占めるCrの含有割合を示し、原子比で0.25≦x≦0.50)を満足し、ヤング率aが150GPa≦a≦300GPaであるAlとCrとの立方晶複合窒化物層からなる下部層、
(b)0.5〜9.0μmの平均層厚を有し、
組成式:(Al1−yCry)N(yはAlとCrの合量に占めるCrの含有割合を示し、原子比で0.25≦y≦0.50)を満足し、ヤング率bが500GPa≦b≦800GPaであるAlとCrとの立方晶複合窒化物層からなる上部層、
前記(a)および(b)の条件を満たす下部層、上部層からなることにより、前記課題を解決する。
【選択図】図3
Description
したがって、このような要求を満足するべく前記被膜の開発が種々行なわれている。例えば、特許文献1は、そのような被膜としてAlとCrとを含む特定組成の化合物を用いること(所謂AlCr系被膜)を提案している。
また、特許文献2による提案によっても、過酷な切削条件下においては被膜自体の破壊や剥離を十分に防止することができない場合があった。
そこで、本発明が解決しようとする技術的課題、すなわち、本発明の目的は、軟鋼、一般鋼、高硬度鋼等を、高熱発生を伴う高速切削条件で切削した場合においてもすぐれた耐摩耗性および耐欠損性を発揮する被覆工具を提供することである。
その結果、
(1)(Al,Cr)N層は、高硬度な皮膜であり、硬質被覆層に適した材質ではあるが、従来の成膜方法で形成した場合、ヤング率が高くなり、これが原因で、皮膜の靭性が低下し、欠損の発生が増加する。
(2)本発明者らは、(Al,Cr)N層のヤング率は、膜形成時のバイアス電圧と反応雰囲気圧を調整することにより再現性よく、コントロールすることができることを見出したが、(Al,Cr)N層をすべてヤング率が低い層として形成すると、(Al,Cr)N層の有する高硬度であるという特性を生かすことができず、耐摩耗性が低下してしまう。
(3)そこで、本発明者らは、硬質被覆層を低ヤング率の(Al,Cr)N層からなる下部層と高ヤング率の(Al,Cr)N層からなる上部層とから構成することにより、(Al,Cr)N層の有する欠点をヤング率の異なる上部層と下部層とにより補完し合い、従来被覆層にないすぐれた切削性能を有する硬質被覆層を得ることができるという全く新規な知見を得た。
本発明は、このような知見に基づき、上部層、下部層の組成、結晶構造、層厚、ヤング率などと切削性能との関係を詳しく解析した結果得られたものであって、具体的には、以下のような構成からなる。
工具基体の表面に、硬質被覆層としてAlとCrとの合量に占めるCrの含有割合が25〜50原子%となるようにCr成分を含有させたAlとCrの立方晶の複合窒化物層であってヤング率aが150GPa≦a≦300GPaである低ヤング率層(以下、低ヤング率(Al,Cr)N層と示す)を下部層として0.5〜1.0μmの平均層厚で形成し、この上に、AlとCrとの合量に占めるCrの含有割合が25〜50原子%となるようにCr成分を含有させたAlとCrの立方晶の複合窒化物層であってヤング率bが500GPa≦b≦800GPaである高ヤング率層(以下、高ヤング率(Al,Cr)N層と示す)を上部層として0.5〜9.0μmの平均層厚で形成し、下部層の層厚≦上部層の層厚であって、さらに総層厚が1.0〜10μmである層を形成することにより、下部層の低ヤング率(Al,Cr)N層が、すぐれた密着性、耐欠損性、耐摩耗性を示し、上部層を構成する高ヤング率(Al,Cr)N層が、すぐれた耐摩耗性、耐熱性を示すと共に、低ヤング率(Al,Cr)N層と高ヤング率(Al,Cr)N層との接合により、すぐれた耐衝撃性、耐欠損性、耐クラック進展性が奏され、さらに、上部層と下部層がともに立方晶であることにより、層間の密着力が向上し、これらの相乗効果により、すぐれた耐欠損性と耐摩耗性を発揮されるという新規な知見を得て、かかる知見に基づき、本発明を完成するに至った。
「(1) 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に硬質被覆層を形成してなる表面被覆切削工具において、
前記硬質被覆層が、
(a)0.5〜1.0μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:(Al1−xCrx)N(ここで、xはAlとCrの合量に占めるCrの含有割合を示し、原子比で、0.25≦x≦0.50である)を満足し、ヤング率aが150GPa≦a≦300GPaであるAlとCrとの立方晶複合窒化物層からなる下部層と、
(b)0.5〜9.0μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:(Al1−yCry)N(ここで、yはAlとCrの合量に占めるCrの含有割合を示し、原子比で、0.25≦y≦0.50である)を満足し、ヤング率bが500GPa≦b≦800GPaであるAlとCrとの立方晶複合窒化物層からなる上部層、
前記(a)および(b)の条件を満たす下部層、上部層の積層構造からなることを特徴とする表面被覆切削工具。」
を特徴とする。
下部層を構成する(Al,Cr)N層の構成成分であるAl成分には硬質被覆層における高温硬さを向上させ、同Cr成分には高温強度を向上させる作用があるが、Crの含有割合を示すx値がAlとの合量に占める割合(原子比、以下同じ)で0.25未満になると、相対的にAlの含有割合が増加することによって、結晶構造が立方晶から六方晶へ変化し、皮膜硬さが低下するので、少なくとも所定の皮膜硬さを保持するためには、その結晶構造を立方晶とする必要がある。そのためには、Crの含有割合を示すx値がAlとの合量に占める割合(原子比、以下同じ)で0.25以上とする必要がある。一方、Crの含有割合を示すx値が同0.50を越えると、相対的にAlの含有割合が減少し、高速切削加工で必要とされる高温硬さを確保することができず、チッピングの発生を防止することが困難になることからx値を0.25〜0.50と定めた。
さらに、下部層を構成する(Al,Cr)N層のヤング率が150〜300GPaである低ヤング率とすることで外部応力が加わった際の皮膜の変形量が増加し、クラック等の発生を阻止するため、耐欠損性を向上させることができる。ここで、前記ヤング率を150〜300GPaに限定した理由は、ヤング率を150GPaよりも下げることは、耐摩耗性の低下が著しいため好ましくなく、一方、300GPaより大きくなると皮膜靭性の低下による耐欠損性が低下してしまうため、皮膜の崩壊や剥離が起こりやすくなる。したがって、下部層の奏する機能をより効果的に発揮させるために、ヤング率を150〜300GPaに限定した。
上部層を構成する(Al,Cr)N層は、すぐれた耐酸化性、耐熱性を有するとともに、その構成成分であるCr成分によって、すぐれた潤滑性を備えるようになり、また、Al成分によって、高温硬さを補完する。そのため、高温切削条件下でも低摩擦係数が維持され、すぐれた耐熱性を発揮するようになるが、Crの含有割合を示すy値がAlとの合量に占める割合(原子比、以下同じ)で0.25未満になると、潤滑性を確保することができないために耐溶着性を期待することはできず、一方、Crの含有割合を示すy値が0.50を越えると、相対的にAlの含有割合が減少し、高速切削加工で必要とされる高温硬さ確保することができないばかりか、耐摩耗性も低下し、チッピング発生を防止することが困難になることから、y値を0.25〜0.50(原子比、以下同じ)と定めた。さらに、上部層を構成する(Al,Cr)N層の結晶構造を下部層と同じ立方晶とすることにより、層間の密着性が向上し、層間剥離による寿命劣化の問題が解消される。
(b)まず、装置内を排気して0.1 Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつAl−Cr合金(カソード電極)とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって工具基体表面をボンバード洗浄し、
(c)次に、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して0.5〜1.0Paの反応雰囲気とすると共に、回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−20〜−30Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ、カソード電極の前記Al−Cr合金とアノード電極との間に120Aの電流を流してアーク放電を発生させ、工具基体の表面に、表3に示される目標組成、目標層厚の下部層としての(Al,Cr)N層を蒸着形成した後、カソード電極(蒸発源)とアノード電極との間のアーク放電を停止し、
(d)引き続いて装置内雰囲気を3.0〜9.0Paの窒素雰囲気に保持して、回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−50〜−150Vの直流バイアス電圧を印加し、カソード電極(蒸発源)であるAl−Cr合金電極とアノード電極との間に120Aの電流を流してアーク放電を発生させて、表3に示される目標組成、目標層厚の上部層としての(Al,Cr)N層を蒸着形成した。
前記(a)〜(d)により工具基体上に硬質被覆層を蒸着形成し、本発明被覆工具としての表面被覆インサート(以下、本発明被覆インサートと云う)1〜16をそれぞれ製造した。
各層のヤング率の制御は、 前述のようにバイアス電圧と窒素分圧を制御することにより行った。すなわち、下部層の形成は、低バイアス電圧、低窒素分圧、上部層の形成は、高バイアス電圧、高窒素分圧とすることで、下部層の(Al,Cr)N層のヤング率を低ヤング率に、上部層の(Al,Cr)N層のヤング率を高ヤング率に制御することができる。各層の形成条件(バイアス電圧、窒素分圧)を同じく表3に示す。
また、ヤング率の測定は、ナノインデンター(MTSシステムズ社の商標)を用いてナノインデンテーション法による測定を行った。さらに本発明被覆インサート1〜16の上部層および下部層について、X線回折装置を用いて、その結晶構造を特定した。それらの結果を同じく表3に示した。
被削材:JIS・S10C(HB200)の丸棒、
切削速度: 240m/min.、
切り込み: 2.5mm、
送り: 0.35mm/rev.、
切削時間: 8分、
の条件(切削条件A)での炭素鋼の乾式高速高送り切削加工試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、200m/min.、0.3mm/rev.)、
被削材:JIS・SCM415(HB280)の丸棒、
切削速度: 220m/min.、
切り込み: 2.5 mm、
送り: 0.3mm/rev.、
切削時間: 6分、
の条件(切削条件B)での合金鋼の乾式高速高切込切削加工試験(通常の切削速度および切込は、それぞれ、190m/min.、2.0mm.)、
被削材:JIS・SCM420H(HRC61)の丸棒、
切削速度: 70m/min.、
切り込み: 0.3mm、
送り: 0.15mm/rev.、
切削時間: 4分、
の条件(切削条件C)での焼入鋼の乾式高速高切込・高送り切削加工試験(通常の切削速度、切込および送りは、それぞれ、60 m/min.、0.2mm.、0.1mm/rev.)、
を行い、いずれの高速切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表5、表6に示した。
つぎに、本発明被覆エンドミル1〜10および比較被覆エンドミル1〜5について、
被削材−平面寸法:100 mm×250 mm、厚さ:50 mmのJIS・S10C(HB200)の板材、
切削速度: 250m/min.、
溝深さ(切り込み):5.0mm、
テーブル送り: 1600mm/min.、
の条件(切削条件D)での炭素鋼の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度およびテーブル送りは、それぞれ、200m/min.、1400mm/min.)、
被削材−平面寸法:100mm×250 mm、厚さ:50mmのJIS・SCM415(HB280)の板材、
切削速度: 180m/min.、
溝深さ(切り込み):3.0mm、
テーブル送り: 1500mm/min.、
の条件(切削条件E)での合金鋼の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度およびテーブル送りは、それぞれ、150m/min.、1400mm/min.)、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SCM420H(HRC61)の板材、
切削速度: 70m/min.、
溝深さ(切り込み):1.0mm、
テーブル送り: 230mm/min.、
の条件(切削条件F)での焼入鋼の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度およびテーブル送りは、それぞれ、50m/min.、210mm/min.)、
をそれぞれ行い、いずれの高速溝切削加工試験でも切刃部の外周刃の逃げ面摩耗幅が使用寿命の目安とされる0.1mmに至るまでの切削溝長を測定した。この測定結果を同じく表7、表8にそれぞれ示した。
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・S10C(HB200)の板材、
切削速度: 130m/min.、
送り: 0.35mm/rev.、
穴深さ: 6mm、
の条件(切削条件G)での炭素鋼の乾式高速穴あけ加工試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、100m/min.、0.3mm/rev.)、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SCM415(HB280)の板材、
切削速度: 100m/min.、
送り: 0.3mm/rev.、
穴深さ: 6mm、
の条件(切削条件H)での合金鋼の乾式高速穴あけ加工試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、80m/min.、0.25mm/rev.)、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SCM420H(HRC61)の板材、
切削速度: 35m/min.、
送り: 0.15mm/rev.、
穴深さ: 6mm、
の条件(切削条件I)での焼入鋼の乾式高速穴あけ加工試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、30m/min.、0.12mm/rev.)、
をそれぞれ行い、いずれの乾式高速穴あけ加工試験でも先端切刃面の逃げ面摩耗幅が0.3mmに至るまでの穴あけ加工数を測定した。この測定結果を同じく表9、表10にそれぞれ示した。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に硬質被覆層を形成してなる表面被覆切削工具において、
前記硬質被覆層が、
(a)0.5〜1.0μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:(Al1−xCrx)N(ここで、xはAlとCrの合量に占めるCrの含有割合を示し、原子比で、0.25≦x≦0.50である)を満足し、ヤング率aが150GPa≦a≦300GPaであるAlとCrとの立方晶複合窒化物層からなる下部層と、
(b)0.5〜9.0μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:(Al1−yCry)N(ここで、yはAlとCrの合量に占めるCrの含有割合を示し、原子比で、0.25≦y≦0.50である)を満足し、ヤング率bが500GPa≦b≦800GPaであるAlとCrとの立方晶複合窒化物層からなる上部層、
前記(a)および(b)の条件を満たす下部層、上部層の積層構造からなることを特徴とする表面被覆切削工具。
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