図面を参照して、車両に適用されたエンジン制御装置について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることが可能である。
[1.装置構成]
[1−1.動力伝達系]
本実施形態のエンジン制御装置は、図1に示す車載のエンジン10に適用される。エンジン10の出力は、オートマチックトランスミッションユニット26(自動変速機,以下ATユニットと呼ぶ)を介して車両の駆動輪27に伝達される。ATユニット26には、トルクコンバーター26aと変速機構26bとが内蔵されている。
トルクコンバーター26aは、流体を介してエンジン10の回転を変速機構26b側に伝達しつつ、トルクを増大させる動力伝達装置である。典型的なトルクコンバーター26aは、駆動羽根車(ポンプインペラー),受動羽根車(タービンライナー)及び案内板(ステーター)からなる三種類の羽根車と作動流体とをケーシングの内部に封入した構造を持つ。駆動羽根車の回転軸(トルクコンバーター26aの入力軸)はエンジン10の出力軸に接続され、受動羽根車の回転軸(トルクコンバーター26aの出力軸)は変速機構26b側に接続される。また、案内板は、向かい合わせに配置された駆動羽根車と受動羽根車との間に配置され、ケーシングに対して固定される。
トルクコンバーター26aの作動流体は、駆動羽根車から与えられたトルクを受動羽根車及び案内板に伝達しながらケーシング内を循環する。一般に、案内板に作用するトルクの大きさは、駆動羽根車と受動羽根車との回転速度差が大きいほど増大し、受動羽根車に伝達されるトルクの大きさは、駆動羽根車のトルクと案内板に作用するトルクとの和となる。したがって、トルクコンバーター26aの出力軸の回転速度が入力軸の回転速度よりも小さいときには、変速機構26bに伝達されるトルクがエンジン10のトルクよりも増幅される。
変速機構26bは、トルクコンバーター26aから入力される回転速度を減速して駆動輪27に伝達するための動力伝達装置である。変速機構26bの具体的な構造は任意であり、例えば図示しない遊星歯車機構やCVT機構、クラッチ・ブレーキ機構等を内蔵させることが考えられる。
遊星歯車機構とは、外輪歯車(アウターギヤ)の内側に太陽歯車(サンギヤ)及び複数の遊星歯車(プラネタリギヤ)を内装し、遊星歯車の中心軸同士を遊星キャリアで接続した構造を持つ変速機構である。この遊星歯車機構を備えた変速機構26bの場合には、外輪歯車,太陽歯車及び遊星キャリアの三つの回転要素の回転動作に制限を加えることによって、複数種類の変速比が実現される。
また、CVT機構とは、回転速度を連続的に変更可能な変速機構である。二つのプーリーの円錐面に懸架されたベルトを介して動力を伝達するベルト式CVT機構を備えた変速機構26bの場合には、プーリーの円錐面に対するベルトの懸架位置を移動させることで無段階の変速比が実現される。
クラッチ・ブレーキ機構とは、対向する摩擦係合要素間に生じる摩擦力の大きさを制御し、あるいは摩擦係合要素の移動を拘束することによって動力伝達を断接する機構である。例えば、遊星歯車機構による変速時や車両の停車時等には、クラッチ・ブレーキ機構が切断・固定状態に制御され、駆動輪27側への駆動力の伝達が遮断される。
変速機構26bにおける変速比は、車室内に設けられたセレクトレバーの操作位置(シフトポジション)に応じて変更される。本実施形態では、セレクトレバーの操作位置として「P(パーキング)レンジ」,「R(リバース)レンジ」,「N(ニュートラル)レンジ」,「D(ドライブ)レンジ」の四種類の操作位置が設定されている。上記のレンジのうちPレンジ及びNレンジはともに、車両の停止時に選択されるレンジであり、非走行レンジとも呼ばれる。一方、Dレンジは走行レンジとも呼ばれる。また、Rレンジは、車両の後方に向かって走行させる際に選択されるレンジであり、広義の走行レンジに含まれる。
[1−2.シリンダー構造]
続いて、エンジン10のシリンダー構造を説明する。エンジン10は、例えばガソリンや軽油を燃料とする内燃機関(ガソリンエンジン,ディーゼルエンジン)である。図1では、多気筒のエンジン10に設けられた複数のシリンダーのうち、一つのシリンダーを示す。シリンダー内を往復摺動するピストン16は、コネクティングロッドを介してクランクシャフト17に接続される。クランクシャフト17は、前述のトルクコンバーター26aの駆動羽根車に接続される出力軸である。
シリンダーの頂部には、点火プラグ13がその先端を燃焼室側に突出させた状態で設けられる。また、燃焼室のシリンダーヘッド側の頂面には、吸気ポート11及び排気ポート12が設けられる。
燃焼室の頂面には、吸気ポート11に通ずる開口部を開閉する吸気弁14と、排気ポート12に通ずる開口部を開閉する排気弁15とが設けられる。吸気弁14の開閉駆動により吸気ポート11と燃焼室とが連通又は閉鎖され、排気弁15の開閉駆動により排気ポート12と燃焼室とが連通又は遮断される。
吸気弁14及び排気弁15の上端部はそれぞれ、図示しない可変動弁機構内のロッカアームの一端に接続される。ロッカアームはロッカシャフトに軸支された揺動部材であり、それぞれのロッカアームの揺動により吸気弁14及び排気弁15が上下方向に往復駆動される。なお、可変動弁機構は、吸気弁14及び排気弁15のそれぞれについて、最大バルブリフト量及びバルブタイミングを個別に、又は、連動させつつ変更する機構である。
シリンダーの周囲には、その内部をエンジン冷却水が流通するウォータージャケット19が設けられる。エンジン冷却水はエンジン10を冷却するための冷媒であり、ウォータージャケット19とラジエータとの間を環状に接続する冷却水循環路内を流通している。
[1−3.吸気系]
吸気ポート11内には、燃料を噴射するインジェクター18が設けられる。インジェクター18から噴射される燃料量は、後述するエンジン制御装置1によって電子制御される。また、インジェクター18よりも吸気流の上流側には、インテークマニホールド20(以下、インマニと呼ぶ)が設けられる。このインマニ20には、吸気ポート11側へと流れる空気を一時的に溜めるためのサージタンク21が設けられる。サージタンク21よりも下流側のインマニ20は、複数のシリンダーの吸気ポート11に向かって分岐するように形成され、サージタンク21はその分岐点に位置する。サージタンク21は、各々のシリンダーで発生しうる吸気脈動や吸気干渉を緩和するように機能する。
インマニ20の上流側には、スロットルボディ22が接続される。スロットルボディ22の内部には電子制御式のスロットルバルブ23が内蔵され、インマニ20側へと流れる空気量がスロットルバルブ23の開度(スロットル開度θTH)に応じて調節される。このスロットル開度θTHは、エンジン制御装置1によって電子制御される。
スロットルボディ22のさらに上流側には、吸気通路24が接続される。また、吸気通路24のさらに上流側にはエアフィルタ25が介装される。これにより、エアフィルタ25で濾過された新気が吸気通路24及びインマニ20を介してエンジン10のシリンダーに供給される。
[1−4.検出系]
車両の任意の位置には、アクセルペダルの踏み込み量(アクセル操作量APS)を検出するアクセルストロークセンサー31と、ブレーキ操作量に対応するブレーキ液圧BRKを検出するブレーキ液圧センサー33とが設けられる。アクセル操作量APSは、運転者の加速要求や発進意思に対応するパラメーターであり、言い換えるとエンジン10の負荷(エンジン10に対する出力要求)に相関するパラメーターである。また、通常の車両走行時のブレーキ液圧BRKは、運転者の停止要求に対応するパラメーターであるとともに、車両をクリープ発進させる際の発進要求にも対応するパラメーターである。これらの各センサー31,33で検出されたアクセル操作量APS,ブレーキ液圧BRKの情報は、エンジン制御装置1に伝達される。
ATユニット26のセレクトレバーには、シフトポジションセンサー32(変速レンジ検出手段)が付設されている。シフトポジションセンサー32は、セレクトレバーの操作位置を検出してこれに対応する変速レンジのレンジ信号RNGを出力するセンサーである。ここでは、セレクトレバーがPレンジ,Rレンジ,Nレンジ,Dレンジのどの位置に操作されているかが検出され、各々の操作位置に対応するレンジ信号RNGがエンジン制御装置1に伝達される。
吸気通路24内には、吸気流量QINを検出するエアフローセンサー34(流量検出手段)が設けられる。吸気流量QINは、スロットルバルブ23を通過する実際の空気の流量に対応するパラメーターである。スロットルバルブ23からシリンダーへの吸気流には、いわゆる吸気遅れ(流通抵抗や吸気慣性によって生じる遅れ)が生じるため、ある時刻にシリンダーに導入される空気の流量は、その時点でスロットルバルブ23を通過する空気の流量とは必ずしも一致しない。一方、本実施形態のエンジン制御装置1では、このような吸気遅れを考慮した吸気量の制御が実施される。エアフローセンサー34で検出された吸気流量QINの情報は、エンジン制御装置1に伝達される。
ウォータージャケット19又は冷却水循環路上の任意の位置には、エンジン冷却水の温度(冷却水温WTS)を検出する冷却水温センサー35が設けられる。なお、エンジン10の無負荷損失(エンジン10自体に内在する機械的な損失等)は、例えば冷態始動時のようにエンジン10自体の温度が低温であるほど増大する。また、このエンジン10自体の温度は、ウォータージャケット19内の冷却水温WTSに反映される。そこで本実施形態では、冷却水温WTSをエンジン10の無負荷損失を推定するための指標として用いることとする。冷却水温センサー35で検出された冷却水温WTSの情報は、エンジン制御装置1に伝達される。
クランクシャフト17には、その回転角θCRを検出するエンジン回転速度センサー36が設けられる。回転角θCRの単位時間あたりの変化量(角速度ω)はエンジン10の実回転速度Ne(単位時間あたりの実回転数)に比例する。したがって、エンジン回転速度センサー36は、エンジン10の実回転速度Neを取得する機能を持つ。ここで取得された実回転速度Neの情報は、エンジン制御装置1に伝達される。なお、エンジン回転速度センサー36で検出された回転角θCRに基づき、エンジン制御装置1の内部で実回転速度Neを演算する構成としてもよい。
サージタンク21内には、実インマニ圧PIM(サージタンク21内の圧力に対応するインテークマニホールド圧力)を検出するインマニ圧センサー37が設けられる。また、エンジン制御装置1の内部又は車両の任意の位置には、大気圧PBPを検出する大気圧センサー38と、外気温ATを検出する外気温センサー39とが設けられる。ここで取得された実インマニ圧PIM,大気圧PBP及び外気温ATの各情報はエンジン制御装置1に伝達される。
なお、大気圧PBPは、吸気通路24入口での圧力(エアフィルター25よりも上流側の圧力)としても取扱うことができる。したがって、大気圧PBPに基づいてスロットルバルブ23の上流圧PTHU(スロットルバルブ23よりも上流側の吸気通路24内の圧力)を推定することも可能である。例えば、エンジン10の実回転速度Neや吸気流量QINに応じた吸気通路入口からスロットルバルブ23までの吸気系圧損値をエンジン制御装置1に予め記憶させておき、大気圧PBPから吸気系圧損値を減算することによってスロットルバルブ23の上流圧PTHUを得ることができる。これらの大気圧PBP及び実インマニ圧PIMは、エンジン10の体積効率に準ずる吸気性能の評価指標である体積効率係数KMAPの演算に用いられる。
[1−5.制御系]
この車両には電子制御装置として、エンジン制御装置1(Engine Electronic Control Unit)のほか、変速機ECU51,エアコンECU52,電装品ECU53等が設けられる。これらの電子制御装置は、例えばマイクロプロセッサやROM,RAM等を集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスとして構成され、車両に設けられた車載ネットワーク網の通信ラインを介して互いに通信可能に接続される。
変速機ECU51は、ATユニット26の変速動作を制御するものであり、エアコンECU52は、図示しないエアコン装置(空調装置)の動作を制御するものである。また、電装品ECU53は、車載投光装置や各種照明装置,パワーステアリング装置,パワーウィンドウ装置,ドア施錠装置といったボディ系の各種電装品の動作を制御するものである。これらの各種装置は、エンジン10に対する負荷として働く。
以下、これらのエンジン制御装置1以外の電子制御装置のことを外部制御システムとも呼び、外部制御システムによって制御される装置のことを外部負荷装置とも呼ぶ。外部負荷装置の作動状態等は、エンジン10の運転状態に関わらず変化しうる。そこで、上記の各外部制御システムは、外部負荷装置がエンジン10に要求するトルクの大きさを随時演算し、これをエンジン制御装置1に伝達する。また、それぞれの外部制御システムがエンジン10に要求するトルクのことを外部要求トルクEXT1,EXT2,EXT3と呼ぶ。なお、外部要求トルクEXT1,EXT2,EXT3の値は、変速機ECU51,エアコンECU52,電装品ECU53といった個々の外部制御システムで演算された後にエンジン制御装置1に伝達されることとしてもよいし、あるいは個々の外部制御システムで収集された情報に基づいてエンジン制御装置1で演算されることとしてもよい。
エンジン制御装置1は、エンジン10に関する点火系,燃料系,吸排気系及び動弁系といった広汎なシステムを制御する電子制御装置であり、エンジン10の各シリンダーに対して供給される空気量,燃料噴射量及び点火タイミングを制御するものである。ここでは、エンジン10に要求されるトルクの大きさを基準としたトルクベース制御が実施される。エンジン制御装置1の具体的な制御対象としては、インジェクター18から噴射される燃料量や噴射時期,点火プラグ13での点火時期,スロットルバルブ23のスロットル開度θTHなどが挙げられる。
本実施形態のトルクベース制御では、エンジン10に要求されるトルクとして、三種類の要求トルクを想定している。第一の要求トルクは運転者の加速要求に対応するものであり、第二の要求トルクは外部負荷装置からの要求に対応するものである。これらの要求トルクはともに、エンジン10に作用する負荷に基づいて算出されるトルクといえる。一方、第三の要求トルクは、エンジン10の実回転速度Neをアイドル回転速度に維持するアイドルフィードバック制御(アイドル制御)のためのものであり、エンジン10に負荷が作用していない無負荷状態であっても考慮される要求トルクである。エンジン制御装置1は、上記の三種類の要求トルクをエンジン10の運転条件に応じて自動的に切り換えながら、エンジン10が出力すべきトルクの目標値である目標トルクを演算し、その目標トルクが得られるように、燃料量や噴射時期,吸気量,点火時期等を制御する。
また、エンジン制御装置1では、車両の走行状態に応じて自動的にエンジン10を停止,再始動させる自動停止制御(アイドルストップ制御)及び再始動制御が実施される。ここでいう自動停止制御とは、エンジン10の運転中に所定の自動停止条件が成立したときに、イグニッションキースイッチの操作位置をオン位置に維持したままの状態で、エンジン10を自動的に停止させる制御である。また、再始動制御とは、自動停止制御によるエンジン10の停止中に所定の再始動条件が成立したときに、エンジン10を自動的に再始動させる制御である。
以下、エンジン制御装置1で実施される制御のうち、エンジン10の始動時や再始動時の制御について説明する。
[2.制御構成]
図1に示すように、エンジン制御装置1の入力側には前述の各種センサーや車内通信網,他の電子制御装置が接続される。また、エンジン制御装置1の出力側には、トルクベース制御の制御対象である点火プラグ13,インジェクター18,スロットルバルブ23等が接続される。
このエンジン制御装置1には、アイドルストップ制御部2,要求トルク演算部3,トルク上限値演算部4,目標トルク演算部5,始動時スロットル開度制限部6及び開度制限解除部7が設けられる。これらの各要素の機能は、電子回路(ハードウェア)によって実現してもよく、ソフトウェアとしてプログラミングされたものとしてもよいし、あるいはこれらの機能のうちの一部をハードウェアとして設け、他部をソフトウェアとしたものであってもよい。
[2−1.アイドルストップ制御部]
アイドルストップ制御部2は、自動停止制御及び再始動制御に係る条件を判定してこれらの制御を実施するものである。自動停止条件が成立するのは、例えば以下の条件1〜5が全て成立したときである。なお、一般的な自動停止制御では、少なくとも車速やアクセル操作量APSに関する所定のアイドル運転条件が成立する状態で、所定のアイドルストップ条件が成立した場合に、自動停止制御が開始される。
本実施形態の自動停止制御も同様であり、以下の条件1〜5のうち、条件1,3,5はそれぞれアイドル運転条件(エンジンがアイドリング状態であると判断するための条件)の一つである。
条件1:操作位置がPレンジかNレンジかDレンジである
条件2:冷却水温WTSが所定温度以上である(エンジン10が暖機済み)
条件3:アクセル操作量APSが0である(アクセルペダル踏み込みなし)
条件4:ブレーキ液圧BRKが所定値以上である(ブレーキペダル踏み込みあり)
条件5:車両が停止している(車速が0である)
また、再始動条件は、例えば以下の条件6〜10の何れかが成立することとする。
条件6:操作位置がRレンジである
条件7:アクセル操作量APSが0でない(アクセルペダル踏み込みあり)
条件8:ブレーキ液圧BRKが所定値未満である(ブレーキペダル踏み込みあり)
条件9:車両が停止していない(車速が0でない)
条件10:外部負荷装置からの始動要求が発生した
上記の条件10の具体例としては、自動停止中におけるバッテリー充電量,バッテリー電圧等の低下により、電装品が要求する電力を確保できなくなったとき(発電が必要になったとき)や、エアコン装置のコンプレッサーを駆動すべくエンジン10を始動させる必要が生じたとき等が挙げられる。つまり、外部負荷の要求によっては、条件6〜9が不成立である場合であっても、エンジン10の再始動制御が実施される。したがって、エンジン10の再始動時におけるレンジ位置は必ずしも条件6に規定されたRレンジであるとは限らず、NレンジやDレンジで再始動する場合がある。また、アクセル操作量APSの大きさやブレーキ液圧BRKの大きさに関しても、エンジン10の再始動時にはあらゆる値を取りうる。
自動停止条件が成立すると,アイドルストップ制御部2は自動停止制御を実施し、例えばインジェクター18を制御して燃料供給を停止させることによってエンジン10を停止させる。一方、自動停止制御によるエンジン10の自動停止中に再始動条件が成立すると、アイドルストップ制御部2は再始動制御を実施し、例えば図示しないセルモーターを駆動するとともに燃料供給を開始させて、エンジン10を再始動させる。
[2−2.要求トルク演算部]
要求トルク演算部3は、変速機ECU51,エアコンECU52,電装品ECU53といった外部制御システムから要求されるトルクと運転者から要求されるトルクとを集約して、エンジン10への要求トルクを設定するものである。ここでは、四種類の要求トルク、すなわち、アイドル要求トルクPi_NeFB,アクセル要求トルクPi_APS,点火制御用要求トルクPi_EXT_SA,吸気制御用要求トルクPi_EXTが演算される。
アイドル要求トルクPi_NeFBは、主にエンジン10の運転状態をアイドル運転状態に維持するのに要求されるトルクである。また、アクセル要求トルクPi_APSは、主に車両の通常運転時に運転者から要求されているトルクである。ここでは、アクセル要求トルクPi_APSに基づいて、点火制御用要求トルクPi_EXT_SAと吸気制御用要求トルクPi_EXTとが演算される。
点火制御用要求トルクPi_EXT_SAは、点火プラグ13の点火制御(点火時期の制御)で用いられるトルクである。点火制御は、実際に制御を実施してからエンジン10でトルクが発生するまでのタイムラグが短く、応答性の高い制御である。ただし、点火制御によって調整可能なトルクの幅は比較的小さい。
一方、吸気制御用要求トルクPi_EXTは、スロットルバルブ23の吸気制御(吸入空気量の制御)で用いられるトルクである。吸気制御は、実際に制御を実施してからエンジン10でトルクが発生するまでのタイムラグが長く、点火制御と比較して応答性にやや劣る制御である。ただし、吸気制御によって調整可能なトルクの幅は、点火制御によるものよりも大きい。
要求トルク演算部3での演算プロセスを図2に例示する。要求トルク演算部3には、目標アイドル回転速度設定部3a,アイドル要求トルク演算部3b,アクセル要求トルク演算部3c及び外部要求トルク演算部3dが設けられる。
目標アイドル回転速度設定部3a(第二設定手段)は、エンジン10がアイドル運転状態のときの目標となる回転速度を目標アイドル回転速度NeOBJ(いわゆる目標アイドル回転数)として設定するものである。アイドル運転状態とは、アイドル運転条件が成立する運転状態のことであり、車速やアクセル操作量APS等に応じて判定される。アイドル運転条件には、例えば上記の条件1,条件3,条件5が含まれる。
目標アイドル回転速度設定部3aは、冷却水温WTSやセレクトレバーの操作位置に応じて、目標アイドル回転速度NeOBJを設定する。ここでは、例えば操作位置がDレンジ,Rレンジのときの目標アイドル回転速度NeOBJが、操作位置がPレンジ,Nレンジのときの目標アイドル回転速度NeOBJよりも小さく設定される。また、冷却水温WTSが高いほど、目標アイドル回転速度NeOBJが小さく設定される。なお、外部負荷装置の作動状態に応じて目標アイドル回転速度NeOBJの大きさを変更する構成としてもよい。ここで演算された目標アイドル回転速度NeOBJの情報は、アイドル要求トルク演算部3b及びトルク上限値演算部4に伝達される。
アイドル要求トルク演算部3bは、設定された目標アイドル回転速度NeOBJに対応するトルク(実回転速度Neを目標アイドル回転速度NeOBJに維持するために要するトルク)をアイドル要求トルクPi_NeFBとして演算するものである。ここで演算されたアイドル要求トルクPi_NeFBは、外部要求トルク演算部3d及び目標トルク演算部5に伝達される。
アクセル要求トルク演算部3cは、運転者のアクセル操作によってエンジン10に要求されているトルクをアクセル要求トルクPi_APSとして演算するものである。ここでは、実回転速度Neとアクセル操作量APSとに基づいてアクセル要求トルクPi_APSが演算される。なお、外部負荷装置の作動状態に応じてアクセル要求トルクPi_APSの大きさを変更する構成としてもよい。ここで演算されたアクセル要求トルクPi_APSの情報は、外部要求トルク演算部3d及び目標トルク演算部5に伝達される。
外部要求トルク演算部3dは、アクセル要求トルク演算部3cで演算されたアクセル要求トルクPi_APSをベースとし、外部制御システムから伝達される外部負荷装置からのトルク要求(EXT1,EXT2,EXT3)等を加味した二種類の要求トルクを演算するものである。第一の要求トルクは点火制御用要求トルクPi_EXT_SAであり、第二の要求トルクは吸気制御用要求トルクPi_EXTである。これらの点火制御用要求トルクPi_EXT_SA及び吸気制御用要求トルクPi_EXTは、互いに独立して外部要求トルク演算部3d内で演算される。ここで演算された各要求トルクは、ともに目標トルク演算部5に伝達される。
[2−3.トルク上限値演算部]
トルク上限値演算部4は、エンジン10の始動時の上限トルクPiLIM_Hを演算するものである。ここでいうエンジン10の始動時とは、手動による始動時や再始動制御による再始動時を意味し、エンジン10の完爆後に実回転速度Neが目標アイドル回転速度NeOBJに収束するまでの期間が含まれる。
一般に、エンジン10の実回転速度Neは、エンジン10の完爆後に急激に上昇したのち、目標アイドル回転速度NeOBJに収束するように制御される。この完爆後の実回転速度Neの上昇のことを「吹け上がり」と呼ぶ。トルク上限値演算部4は、エンジン10の始動性を妨げない範囲内で吹け上がりをできるだけ小さくする(過度に実回転速度Neが上昇しないようにする)ためのトルクの最大値として、上限トルクPiLIM_Hを演算する。また、エンジントルクを上限トルクPiLIM_Hで制限する制御のことを、上限値制御と呼ぶ。
上限値制御は、エンジントルクの上昇を抑制するように機能する制御であるため、例えば上限トルクPiLIM_Hの値を固定値として設定してしまうと、エンジン10の運転条件によっては始動性が低下するおそれが生じる。これに対して本実施形態のトルク上限値制御では、エンジン10の始動時における運転者の発進意思やセレクトレバーの操作位置に応じて上限トルクPiLIM_Hの値を随時設定することで、始動性を確保しつつ吹け上がりを防止している。
トルク上限値演算部4での演算プロセスを図3に例示する。トルク上限値演算部4には、回転速度上限値設定部4a,オフセット量設定部4b,回転速度差演算部4c,上限勾配演算部4d,実変化率演算部4e,勾配差演算部4f,トルク補正量演算部4g,実トルク演算部4h,上限トルク演算部4k,条件判定部4mが設けられる。
回転速度上限値設定部4a(第一設定手段)は、実回転速度Neの上限値である上限回転速度NeLIM_H(単位時間あたりの上限回転数)を設定するものである。ここでは、車両の運転状態に関係する様々なパラメーターに基づき、複数個の上限回転速度NeLIM_Hが演算されるとともに、それらの中から適切な上限回転速度NeLIM_Hが運転状態に応じて選択される。ここで選択された最終的な上限回転速度NeLIM_Hは、回転速度差演算部4cに伝達される。
図4に上限回転速度NeLIM_Hの設定手法を模式的に示す。回転速度上限値設定部4aは、アクセル操作量APS,ブレーキ液圧BRK,冷却水温WTSのそれぞれについての上限回転速度NeLIM_Hを設定し、これらの上限回転速度NeLIM_Hと目標アイドル回転速度NeOBJとに基づいて、最終的な上限回転速度NeLIM_Hを設定する。図4中に示すように、回転速度上限値設定部4aには、第一上限値設定部41,第二上限値設定部42,第三上限値設定部43が設けられるとともに、二つの最大値選択部44,45と一つの最小値選択部46とが設けられる。以下、上記の各設定部41〜43で設定された上限値のことを第一上限値〜第三上限値と呼び、二つの最大値選択部44,45で選択された上限値のことを第四上限値,第五上限値と呼ぶ。
第一上限値設定部41は、ブレーキ液圧BRKに基づいて第一上限値を設定するものである。ここには、図5(c)に示すように、ブレーキ液圧BRKが大きいほど上限回転速度NeLIM_Hが低下するような特性がマップ,数式等で予め設定されている。第一上限値設定部41はこれらのマップ,数式等を用いて第一上限値を設定し、ブレーキ操作時の発進意思(ブレーキペダルの踏み込み操作が弱められたときの発進意思)を上限値制御に反映させる。
なお、図5(c)中に示す二点鎖線は、温態時の目標アイドル回転速度NeOBJを示すラインである。第一上限値は、温態時の目標アイドル回転速度NeOBJ以上の範囲で設定される。ただし、冷態始動時の目標アイドル回転速度NeOBJは温態時よりも高く設定されるため、図中の二点鎖線はグラフ上で上方に移動する。したがって、冷態始動時であってブレーキ液圧BRKが比較的大きい場合には、第一上限値が目標アイドル回転速度NeOBJを下回る場合がありうる。
一方、第一上限値設定部41で設定された第一上限値は、目標アイドル回転速度NeOBJとともに最大値選択部44に入力され、これらのうちの大きい何れか一方が第四上限値として選択される。これにより、第四上限値は、目標アイドル回転速度NeOBJ以上の範囲でブレーキ液圧BRKが小さいほど増大することになる。第四上限値が目標アイドル回転速度NeOBJを下回ることはなく、すなわち、どんなに実回転速度Neが強く制限されたとしても、少なくとも目標アイドル回転速度NeOBJは確保される。
第二上限値設定部42は、アクセル操作量APSに基づいて第二上限値を設定するものである。ここには、図5(a)に示すように、アクセル操作量APSが大きいほど上限回転速度NeLIM_Hが上昇するような特性がマップ,数式等で予め設定されている。第二上限値設定部42はこれらのマップ,数式等を用いて第二上限値を設定し、アクセル操作時の発進意思を上限値制御に反映させる。なお、図5(a)中に示す二点鎖線は、温態時の目標アイドル回転速度NeOBJを示すラインである。第二上限値は第一上限値と同様に、温態時の目標アイドル回転速度NeOBJ以上の範囲で設定される。
また、セレクトレバーの操作位置がDレンジであるときには、Dレンジ以外(Pレンジ,Rレンジ,Nレンジ)であるときよりも第二上限値が小さく設定される。ここで設定された第二上限値は、最大値選択部45へと入力される。
第三上限値設定部43は、冷却水温WTSに基づいて第三上限値を設定するものである。ここには、図5(b)に示すように、冷却水温WTSが高いほど上限回転速度NeLIM_H(第三上限値)が低下するような特性がマップ,数式等で予め設定されている。第三上限値設定部43はこれらのマップ,数式等を用いて第三上限値を設定し、エンジン10の暖機の度合いを上限値制御に反映させる。なお、図5(b)中に示す二点鎖線は、目標アイドル回転速度NeOBJを示すラインであり、第三上限値は目標アイドル回転速度NeOBJ以上の範囲で設定される。冷却水温WTSが高いほど目標アイドル回転速度NeOBJが一般に低く設定されるほか、エンジンのフリクションが減少してエンジンの始動性がやや向上するため、その分やや強めに上限値制御をかけることで吹け上がりを効果的に抑制している。
また、第三上限値は、第二上限値と同様に、セレクトレバーの操作位置がDレンジであるときには、Dレンジ以外(Pレンジ,Rレンジ,Nレンジ)であるときよりも小さく設定される。ここで設定された第三上限値は、最大値選択部45へと入力される。
前述の通り、一方の最大値選択部44は、第一上限値と目標アイドル回転速度NeOBJとのうちの何れか大きい一方を第四上限値として選択するものであり、他方の最大値選択部45は、第二上限値と第三上限値とのうちの大きい一方を第五上限値として選択するものである。
第四上限値は、ブレーキ操作量が大きいほど(ブレーキペダルの踏み込み操作が強いほど)上限値制御を強めるように働くパラメーターであるとともに、少なくとも目標アイドル回転速度NeOBJは維持するように働くパラメーターである。
また、第五上限値は、アクセル操作が小さいほど(アクセルペダルの踏み込み操作が弱いほど)、あるいは冷却水温WTSが高いほど、上限値制御を強めるように働くパラメーターである。第二上限値及び第三上限値は目標アイドル回転速度NeOBJ以上の範囲で設定されるため、第五上限値も目標アイドル回転速度NeOBJ以上の値となる。したがって、第四上限値及び第五上限値はともに目標アイドル回転速度NeOBJ以上の範囲で設定されることになる。これらの第四上限値及び第五上限値は、最小値選択部46へと入力される。
最小値選択部46は、第四上限値と第五上限値とのうちの小さい一方を最終的な上限回転速度NeLIM_Hとして選択するものである。ここでは、ブレーキ操作に由来する制御量とアクセル操作に由来する操作量とのうち、強く制限をかけることになる一方が選択される。例えば、ブレーキ操作が無い場合には走行意思があるものとしてブレーキ液圧BRKに対応する第一上限値が大きく設定される(弱い制限となる)ため、アクセル操作量APSに対応する第二上限値や冷却水温WTSに対応する第三上限値によって制限が加えられることになる。一方、ブレーキ操作がある場合には走行意思が低いものとして第一上限値が小さく設定される(強い制限となる)ため、第二上限値や第三上限値よりも低い上限回転速度NeLIM_Hを選択することができ、すなわちより強い制限を加えることができる。
オフセット量設定部4b(オフセット量設定手段)は、冷却水温WTSに基づいて実回転速度Neのオフセット量ΔNeOFSを設定するものである。オフセット量ΔNeOFSとは、上限トルクPiLIM_Hを用いてエンジントルクに制限を加える上限値制御を開始するための条件に関する量であり、上限値制御を実施するための実回転速度Neの変動幅に対応する。すなわち、上限値制御では、(NeLIM_H−ΔNeOFS)≦Neという範囲内で(かつ、Ne<NeLIM_Hであり続けることができるように)、実回転速度Neが制御される。したがって、エンジン10の始動直後であって実回転速度Neが(NeLIM_H−ΔNeOFS)に満たないときには上限値制御が実施されず、実回転速度Neが(NeLIM_H−ΔNeOFS)以上となった時点から上限値制御が開始される。
ここでは、例えば図5(d)に示すように、冷却水温WTSが低いほどオフセット量ΔNeOFSが大きくなるようにその値が設定される。オフセット量ΔNeOFSが大きいほど、エンジンの始動後に上限値制御が開始されやすくなり(エンジン10の始動時刻から上限値制御が開始されるまでの時間が短くなり)、実回転速度Neが比較的低い段階でトルク制限が加えられることになる。ただし、冷却水温WTSが極端に低い極低温下での始動時には、始動性を高めることを優先して、オフセット量ΔNeOFSをやや小さくしてもよい。ここで設定されたオフセット量ΔNeOFSの情報は、条件判定部4mに伝達される。
回転速度差演算部4cは、回転速度上限値設定部4aで設定された上限回転速度NeLIM_Hとエンジン10の実回転速度Neとの回転速度差ΔNeを演算するものである。この回転速度差ΔNeは、実回転速度Neから上限回転速度NeLIM_Hを減じた値であり、ΔNe=Ne-NeLIM_Hである。ここで演算された回転速度差ΔNeは、上限勾配演算部4dに伝達される。
上限勾配演算部4d(上限勾配演算手段)は、回転速度差ΔNeに基づいて、実回転速度Neの変化率の上限勾配dNe_H(実回転速度Neの上限加速度)を演算するものである。この上限勾配演算部4dには、例えば図5(e)に示すように、回転速度差ΔNeと上限勾配dNe_Hとの対応関係が数式やマップ等で予め設定されており、このような対応関係を用いて上限勾配dNe_Hを演算する。ここで演算された上限勾配dNe_Hの値は、勾配差演算部4fに伝達される。
上限勾配dNe_Hは、実回転速度Neがその時点から所定の単位時間が経過するまでの間に変化してもよい最大の変化量に相当し、すなわち将来の変化勾配の最大値に相当する。図5(e)に示す例では、回転速度差ΔNeが負のときに上限勾配dNe_Hが正の値をとり、回転速度差ΔNeが正のときに上限勾配dNe_Hが負の値をとる。つまり、実回転速度Neが上限回転速度NeLIM_Hよりも小さいときには、上限回転速度NeLIM_Hに近づくほど実回転速度Neがそれ以上増大しにくくなるようにその変化勾配が0に近づくことになる。また、実回転速度Neが上限回転速度NeLIM_Hを超えた場合には、実回転速度Neが減少しやすくなるようにその変化勾配が負(減少勾配)となる。このように、上限勾配dNe_Hは、回転速度差ΔNeの絶対値が大きいほど急勾配に、回転速度差ΔNeの絶対値が小さいほど水平に近づくようなグラフ特性を持つ。つまり、回転速度差ΔNeの絶対値が大きいほど、実回転速度Neの変化率dNeの目標値が減少する。
実変化率演算部4eは、エンジン10の実回転速度Neの変化率を実変化率dNe(実加速度)として演算するものである。実変化率dNeとは、その時点までの実回転速度Neの実際の変化勾配に相当する。言い換えると、実変化率dNeが過去から現在までの変化勾配に相当するのに対し、上限勾配dNe_Hは現在から将来にかけての変化勾配の最大値に相当し、つまり制御目標としての変化勾配の最大値に相当する。
ここでは、その行程で検出された実回転速度Ne(n)とk行程前の時点で検出された実回転速度Ne(n-k)とに基づき、例えば以下の式1に従って実変化率dNeが演算される。ここで演算された実変化率dNeの値は、勾配差演算部4f及び条件判定部4mに伝達される。本実施形態ではk=2であり、すなわち二行程前の時点から現在までの期間での実回転速度Neの変化勾配が演算される。
勾配差演算部4f(勾配差演算手段)は、上限勾配演算部4dで演算された上限勾配dNe_Hと、実変化率演算部4eで演算された実変化率dNeとの差を勾配差ΔdNe(加速度差)として演算するものである。勾配差ΔdNeは、例えば以下の式2で与えられる。ここで演算された勾配差ΔdNeの情報は、トルク補正量演算部4gに伝達される。
トルク補正量演算部4gは、将来の実回転速度Neの変化勾配が上限勾配dNe_Hを超えないようにするのに要するトルク補正値PidNe_Hを演算するものである。このトルク補正値PidNe_Hは、勾配差演算部4fで演算された勾配差ΔdNeをトルク値に換算したものである。ここでは、エンジン10のクランク軸周りの慣性モーメントIe,シリンダー容積VENG及び勾配差ΔdNeに基づき、以下の式3に従ってトルク補正値PidNe_Hが演算される。ここで演算されたトルク補正値PidNe_Hは、上限トルク演算部4kに伝達される。
実トルク演算部4hは、エアフローセンサー34で検出された吸気流量QINに基づき、シリンダーに導入された実際の吸気量で生じうるトルクを実トルクPiACTとして演算するものである。実トルクPiACTは、吸気流量QINに対応する量の空気が所定の空燃比で燃焼したときに生じるトルクの推定値である。本実施形態では、実変化率演算部4eでの変化勾配の演算に係る期間に合わせて、二行程前の実トルクPiACTが演算される。ここで演算された実トルクPiACTは、上限トルク演算部4kに伝達される。
上限トルク演算部4kは、実トルク演算部4hで演算された二行程前の実トルクPiACTと、トルク補正量演算部4gで演算されたトルク補正値PidNe_Hとに基づき、上限トルクPiLIM_Hを演算するものである。上限トルクPiLIM_Hは、エンジン10に要求されるトルクの最大値を制限するためのパラメーターである。ここでは、二行程前の実トルクPiACTからトルク補正値PidNe_Hが減算されたものが上限トルクPiLIM_Hとして演算される。すなわち、PiLIM_H=(二行程前のPiACT)-PidNe_Hである。
なお、上限値制御で制限されるトルクの最大値を全開時トルクPiMAXとして予め設定しておき、上限トルクPiLIM_Hの取り得る範囲を全開時トルクPiMAX以下の範囲に制限してもよい。例えば、ここで演算された上限トルクPiLIM_Hと所定の全開時トルクPiMAXとのうちの小さい一方を選択して、これを最終的な上限トルクPiLIM_Hとしてもよい。ここで演算された上限トルクPiLIM_Hは、条件判定部4mに伝達される。
条件判定部4mは、上限値トルク演算部4kで演算された上限トルクPiLIM_Hを用いてエンジントルクを制限する上限値制御の開始条件及び終了条件を判定するものである。上限値制御の開始条件は、以下の条件11〜13が全て成立することである。例えば、アイドルストップ状態からの再始動時や手動操作(イグニッションキー操作)によるエンジン10の始動時に、これらの条件が判定され、全ての条件が成立した場合に上限トルクPiLIM_Hの情報が条件判定部4mから目標トルク演算部5へと伝達される。
条件11:実回転速度Neが、所定の始動完了判定回転速度NeSよりも
大きい(Ne>NeS)
条件12:実回転速度Neが、上限回転速度NeLIM_Hからオフセット量ΔNeOFSを
減じた値を超えている(Ne>NeLIM_H-ΔNeOFS)
条件13:制限対象トルクPiBS_LIMがトルク補正値PidNe_Hを
超えている(PiBS_LIM>PidNe_H)
なお、条件13の制限対象トルクPiBS_LIMは、要求トルク演算部3で演算されたアクセル要求トルクPi_APSや点火制御用要求トルクPi_EXT_SA、その行程での実トルクPiACT等のうち、最も大きいトルクに対応するトルクである。
また、上限値制御の終了条件は、以下の条件14〜17の何れかが成立することである。例えば、制限制御の実施中にこれらの条件の何れかが成立すると、条件判定部4mから目標トルク演算部5への上限トルクPiLIM_Hの情報伝達が遮断され、上限値制御が終了する。
条件14:アイドルフィードバック制御が実施される
条件15:エンジン始動後の経過時間が所定の制限時間を超える
条件16:吸気流量QINのフィルタ値と筒内吸入吸気量の推定値とがほぼ一致する
条件17:実回転速度Neの実変化率dNeが0以下である
上記の条件16は、実際にシリンダー内に導入された筒内吸入空気量の推定値と、エアフローセンサー34で検出された吸気流量QINのフィルタ値(エアフローセンサー34とシリンダーとの間の吸気遅れを模擬したフィルタ値)とがほぼ一致したことを以て、上限値制御を終了するという条件である。
一般に、エンジン10の始動直後には、実インマニ圧PIMがほぼ大気圧PBPに近い状態となっているため、エアフローセンサー34で検出される吸気流量QINよりも多量の空気が一時的にシリンダー内に流入する。つまり、始動直後の実際の筒内吸入空気量は、エアフローセンサー34で検出された吸気流量QINに対応する吸気量よりも大きく、エンジン回転の吹け上がりが生じやすい状態となっている。一方、時間経過とともに実インマニ圧PIMが徐々に低下してくると、筒内吸入空気量と吸気流量QINに対応する吸気量とが一致するようになり、運転状態が安定する。
図6(a),(b)に、エンジン10の始動時における筒内吸入空気量の変化とエアフローセンサー34での検出値に基づく吸気量の変化を例示する。図中の破線はエアフローセンサー34での検出値(生値)に対応する空気量であり、細実線はその生値に対して吸気遅れ分のフィルタ処理を施した吸気量(フィルタ値)であり、太実線は筒内吸入空気量の推定値である。
筒内吸入空気量の初期値は、実インマニ圧PIMが大気圧PBPでありスロットルバルブ23が全開時の吸入空気量に相当し、例えばサージタンク21や吸気通路24の容積等から予め設定しておくことができる。また、筒内吸入空気量の変動はエアフローセンサー34での検出値に対する一次遅れで近似することができる。したがって、例えば図6(a)に示すように、実際の筒内吸入空気量の推定値とセンサー検出値に準拠する吸気量とを随時演算し、両者の差が所定値未満になるまで(ほぼ一致するまで)の期間を上限値制御の実施期間とすることで、吹け上がりが効果的に抑制される。
また、このような実施期間の設定は、上限値制御中にアクセル操作がなされた場合であっても適用可能である。すなわち、図6(b)に示すように、アクセル操作量の増大に伴ってエアフローセンサー34での検出値(破線)が増大すると、吸気量推定値(細実線)はその変動に遅れて追従するように変化する。一方、筒内吸入空気量(太実線)も検出値(破線)に対する一次遅れで近似され、筒内吸入空気量と吸気量推定値との値は徐々に接近する。
なお、図6(a),(b)を比較すると、アクセル操作時には非操作時と比べて、筒内吸入空気量と吸気量推定値とがほぼ一致するまでにかかる時間が短縮されていることがわかる。これは、アクセル操作によってエンジン回転速度が上昇し、吸気回数が増加するためである。しかし、セレクトレバーの操作位置が非走行レンジの場合には、上記の条件16が成立した時点で上限値制御を終了したとしても、十分にエンジン回転の吹け上がりが防止される。また、セレクトレバーの操作位置が走行レンジの場合であっても吹け上がり抑制効果を得ることが可能であるが、必要に応じて上記の条件16の成立時よりも上限値制御の実施期間を延長してもよい。
[2−4.目標トルク演算部]
目標トルク演算部5(上限値制御手段,アイドル制御手段)は、要求トルク演算部3で演算された各種要求トルクと、トルク上限値演算部4で演算された上限トルクPiLIM_Hとに基づき、二種類の制御目標としての目標トルクを演算するものである。ここでは、点火制御用目標トルクPi_TGTと、吸気制御用目標トルクPiETV_STDとが演算される。スロットルバルブ23のスロットル開度θTHや燃料噴射量は、ここで演算された吸気制御用目標トルクPiETV_STDに基づいて制御される。また、点火プラグ13での点火時期は、ここで演算された点火制御用目標トルクPi_TGTに基づいて制御される。
目標トルク演算部5での演算プロセスを図7に例示する。目標トルク演算部5には、吸気用選択部5a,吸気用上限値制限部5b,吸気遅れ補正部5c,点火用第一上限値制限部5d,点火用第二上限値制限部5e及び点火用選択部5fが設けられる。
吸気用選択部5aは、吸気制御用要求トルクPi_EXT,アクセル要求トルクPi_APS及びアイドル要求トルクPi_NeFBの何れか一つを吸気制御用のトルクの目標値として選択するものである。ここでは、例えば外部制御システムからのトルク要求の有無やエンジン10のアイドル運転の要否等といった情報に基づいてトルク値が選択される。ここでアイドル要求トルクPi_NeFBが選択される条件には、前述の条件1,3,5が含まれる。また、本実施形態では、エンジン10の始動直後に実回転速度Neが上昇し、その実変化率dNeが0になったときに、アイドル要求トルクPi_NeFBが選択されることとする。つまり、実変化率dNeがエンジン10の始動後で初めて0以下になった時点から、アイドルフィードバック制御が実施される。ここで選択されたトルク値は、吸気用上限値制限部5bに伝達される。
吸気用上限値制限部5bは、吸気用選択部5aで選択されたトルク値とトルク上限値演算部4で演算された上限トルクPiLIM_Hとのうち、何れか小さい一方を選択するものである。ここで選択された一方のトルクは、吸気遅れ補正部5cに伝達される。吸気用選択部5aで選択されたトルク値よりも上限トルクPiLIM_Hの方が小さければ、その上限トルクPiLIM_Hが優先的に選択されるため、トルクが制限されることになる。一方、吸気用選択部5aで選択されたトルク値よりも上限トルクPiLIM_Hの方が大きければ、選択されたトルクがそのまま吸気遅れ補正部5cに伝達される。
なお、上記の条件14に記載の通り、エンジン10がアイドリングの状態では上限値制御が実施されない。したがって、吸気用選択部5aで選択されたトルクがアイドル要求トルクPi_NeFBである場合には、上限トルクPiLIM_Hとの比較演算を省略し、入力されたアイドル要求トルクPi_NeFBをそのまま吸気遅れ補正部5cに伝達してもよい。
吸気遅れ補正部5cは、スロットルバルブ23を基準とする吸気遅れに応じた補正演算を行うものである。ここでは、エンジン10やスロットルバルブ23の吸気特性に基づき、吸気遅れを考慮したトルク値として、吸気制御用目標トルクPiETV_STDが演算される。具体的な吸気遅れの演算手法は、ここで演算される吸気制御用目標トルクPiETV_STDを用いたスロットルバルブ23の制御態様に応じて種々考えられる。例えば、吸気用選択部5aで選択されたトルク値に対し、運転条件や選択した要求トルクの種類に応じて実際の吸気遅れを模擬した一次遅れ処理,二次遅れ処理を施すことによって、実現したいトルク変動の軌跡を生成してもよい。
点火用第一上限値制限部5dは、アクセル要求トルクPi_APSと上限トルクPiLIM_Hとのうち、何れか小さい一方を選択するものである。同様に、点火用第二上限値制限部5eは、点火制御用要求トルクPi_EXT_SAと上限トルクPiLIM_Hとのうち、何れか小さい一方を選択するものである。これらの選択されたトルクは、点火用選択部5fに伝達される。
点火用選択部5fは、これらの選択された二種類のトルク及びアイドル要求トルクPi_NeFBの中から、何れか一つを点火制御用目標トルクPi_TGTとして選択するものである。ここでは、吸気用選択部5aでの選択と同様に、例えば外部制御システムからのトルク要求の有無やエンジン10のアイドル運転の要否等といった情報に基づいてトルク値が選択される。本実施形態の点火用選択部5fでは、吸気用選択部5aと同様に、エンジン10の始動直後に実変化率dNeが0になったときに、アイドル要求トルクPi_NeFBが選択されるようになっている。
このようにして、エンジン制御装置1では、エンジン10に対する各種出力要求がトルクに換算され、吸気制御用目標トルクPiETV_STDと点火制御用目標トルクPi_TGTとに一元化される。また、これらの吸気制御用目標トルクPiETV_STDと点火制御用目標トルクPi_TGTとに基づき、エンジン制御装置1ではスロットルバルブ23のスロットル開度θTHや燃料噴射量、点火プラグ13での点火時期等が制御される。
[2−5.始動時スロットル開度制限部]
始動時スロットル開度制限部6は、目標トルク演算部5で演算された吸気制御用目標トルクPiETV_STDに基づき、スロットルバルブ23の開度を制御するものである。ここでは、上記の上限値制御とは別個に、スロットル開度θTHの開き具合に制限をかける開度制限制御が実施される。開度制限制御は、上記の上限値制御と同時に(重複して)実施してもよいし、排他的に実施してもよい。排他的に実施する場合には、上限値制御よりも開度制限制御を優先して実施することが好ましい。
重複して実施する場合には、目標トルク演算部5の吸気遅れ補正部5cから出力される吸気制御用目標トルクPiETV_STDに対して、その上限値をさらに制限する制御を実施する。また、排他的に実施する場合には、目標トルク演算部5の吸気用上限値制限部5bに入力される上限トルクPiLIM_Hの値をゼロに変更し、吸気遅れ補正部5cから出力される吸気制御用目標トルクPiETV_STDに対して、その上限値を制限する制御を実施する。
始動時スロットル開度制御部6には、図1に示すように、目標面積算出部6a(開度算出手段)及び上限面積算出部6b(制限手段)が設けられる。目標面積算出部6aは、吸気制御用目標トルクPiETV_STDに対応する目標スロットル面積S(スロットルバルブ23の開口面積)を算出するものである。一方、上限面積算出部6bは、エンジン10の始動時における目標スロットル面積Sの上限値SLIMを算出するものである。
目標面積算出部6aには、図8に示すように、目標空気量算出部6c,目標筒内空気量算出部6d,吸気進み補償部6e,目標流量算出部6f,流速算出部6g及びスロットル面積算出部6hが設けられる。
目標空気量算出部6c(空気量算出手段)は、実回転速度Ne及び標準条件吸気目標トルクPiETV_STDに基づき、目標充填効率EcTGTを算出するものである。目標充填効率EcTGTとは、制御対象のシリンダー内に導入すべき目標空気量に対応する充填効率である。目標空気量算出部6cは、例えば実回転速度Ne及び標準条件吸気目標トルクPiETV_STDと目標充填効率EcTGTとの関係をマップや数式として記憶しており、これを用いて目標充填効率EcTGTを算出する。ここで算出された目標充填効率EcTGTの値は、目標筒内空気量算出部6d及び開度制限解除部7に伝達される。
目標筒内空気量算出部6dは、目標空気量算出部6cで算出された目標充填効率EcTGTを、シリンダー内に導入される吸気流量(一回の吸気行程での空気量)の目標値Qccaに変換する演算を行うものである。充填効率は標準状態でのシリンダー内の気体体積(単位行程あたりの体積)をシリンダー容積VENGで除算したものである。したがって、標準状態でのシリンダー内の気体体積は、充填効率にシリンダー容積VENGを乗算したものとなる。
本実施形態では、例えば予め設定された目標充填効率EcTGTと目標値Qccaとの対応マップや数式等に基づいて目標値Qccaが求められる。なお、シリンダー内に導入される吸気の圧力及び温度が標準状態と異なる場合を考慮して、吸気温度(外気温AT)や実インマニ圧PIM,吸気の密度等に応じて設定される補正係数を加味した目標値Qccaを演算してもよい。ここで演算された目標値Qccaの値は、吸気進み補償部6eに伝達される。
吸気進み補償部6eは、目標トルク演算部5の吸気遅れ補正部5cで施された遅れ処理とは逆の処理を施すものである。吸気進み補償部6eに入力されるよりも以前の演算内容が、エンジン10の各シリンダーでのトルクや空気量等に関するものであるのに対し、吸気進み補償部6e以降の演算内容は、スロットルバルブ23を通過する吸気に関するものとなる。ここでは、エンジン10やインマニ20,サージタンク21,スロットルバルブ23等に係る吸気特性に基づき、目標値Qccaに対して吸気遅れの逆演算(吸気進み演算)を施した第二目標値Qcca2が演算される。
なお、具体的な吸気進み演算の手法は任意である。例えば、目標値Qccaの過去の変化勾配が今回以降も維持されるものとみなして外挿値を演算する手法を採用することが考えられる。簡便な手法としては、目標値Qccaの前回値から今回値までの変化量に所定のフィルタ係数を乗じたものを、今回値に加算すればよい。ここで演算された第二目標値Qcca2は目標流量算出部6fに伝達される。
目標流量算出部6fは、吸気進み補償部6eから伝達された第二目標値Qcca2に基づき、スロットルバルブ23を通過する吸気の目標流量QTH_TGTを演算するものである。第二目標値Qcca2は一回の吸気行程でスロットルバルブ23を通過させるべき空気量に対応する値である。そのため、ここでは実回転速度Neに基づいて第二目標値Qcca2の値が変換され、単位時間あたりの目標流量QTH_TGTが演算される。ここで演算された目標流量QTH_TGTは、スロットル面積算出部6hに伝達される。
流速算出部6gは、スロットルバルブ23を通過する吸入空気の流速Vを演算するものである。ここでは、スロットルバルブ23の上流圧PTHU(又は大気圧PBP)に対する下流圧PIMの比(PIM/PTHU)に基づいて流速Vが演算される。流速算出部6gは、例えばスロットルバルブ23の前後圧力比による流速Vの変化を規定するマップや数式等を用いて流速Vを演算する。ここで演算された流速Vは、スロットル面積算出部6hに伝達される。
スロットル面積算出部6hは、目標流量算出部6fで演算された目標流量QTH_TGTと流速算出部6gで演算された流速Vとに基づき、スロットルバルブ23の目標スロットル面積Sを演算するものである。目標スロットル面積Sは、例えば図8中に示すように、流速Vに臨界条件(流速Vが音速の条件)における質量流速MMACHを乗じた値で目標流量QTH_TGTを除算して求められる。質量流速MMACHは、温度による空気の密度変化を考慮して算入される値であり、例えば、外気温センサー39で検出された外気温ATと上流圧PTHUとに基づいて設定される。ここで算出された目標スロットル面積Sの値は、開度制限解除部7に伝達される。
一方、上限面積算出部6bは、エンジン始動時における目標スロットル面積Sの上限値SLIMを算出するものである。ここでは、冷却水温WTSに基づいて上限値SLIMが設定される。上限面積算出部6bは、例えば図9に示すように、冷却水温WTSと上限値SLIMとの関係を規定するマップや数式等を用いて、上限値SLIMを算出する。本実施形態では、図9中に実線に示すように、冷却水温WTSが低いほど上限値SLIMの値が大きくなり、冷却水温WTSが高いほど上限値SLIMの値が小さくなるような設定とされる。
また、上限面積算出部6bは、エンジン10のクランキング中と始動後(クランキングによってエンジン10が始動したと判定された後)とで異なる大きさの上限値SLIMを設定する。図9中の破線はクランキング中の上限値SLIM1の設定に対応し、実線は始動後(クランキング後)の上限値SLIM2の設定に対応する。このように、エンジン10の始動後の上限値SLIM2の値(第二上限値)は、クランキング中に設定される上限値SLIM1の値(第一上限値)よりも小さい値に設定される。つまり、目標スロットル面積Sは、クランキング中よりも始動後の方が強く制限される。
ただし、これらの上限値SLIM1,SLIM2のそれぞれの大きさは、エンジン10に求められる始動性や排気性能,回転安定性等に応じて設定されうるものである。したがって、始動後の上限値SLIM2とクランキング中の上限値SLIM1との大小関係は必ずしも一定ではなく、例えば始動後の上限値SLIM2をクランキング中の上限値SLIM1よりも大きく設定してもよい。ここで算出された上限値SLIM1,SLIM2の情報は、開度制限解除部7に伝達される。以下、これらの上限値SLIM1,SLIM2を区別する必要がない場合には、単に上限値SLIMと表記する。
[2−6.開度制限解除部]
開度制限解除部7は、始動時スロットル開度制限部6で算出された目標スロットル面積Sを上限値SLIM以下に制限して、実際のスロットル開度θTHを制御する開度制限制御を実施するものである。開度制限制御は、エンジン10のクランキングを開始したときに開始される。また、開度制限制御の終了条件は、例えば以下に列挙するような条件の組み合わせとする。本実施形態では、条件19及び条件20がともに成立する場合か、条件18,条件21,条件22,条件23の何れかが成立する場合に、開度制限制御が終了する。
条件18:目標充填効率EcTGTを実現するために要する目標インマニ圧PIM_TGTが
実インマニ圧PIM以上である
条件19:実回転速度Neの変化率ΔNeTHが所定変化率ΔNeTH0未満である
条件20:点火時期の進角余裕が所定値以下である
条件21:エンジン10がエンスト中である(エンジン10が停止した状態である)
条件22:センサー故障が検出されている
条件23:始動時からの経過時間CASが所定時間TTHCRKを超えた
条件18は、主に運転者によるアクセル操作に対応する条件である。例えば、アクセルペダルの踏み込み操作によってエンジン10に要求される出力が増大し、その時点の実インマニ圧PIMで導入させうる空気量を超えるような空気量が必要になったときには、開度制限制御を終了して通常の制御へと移行する。また、条件19,条件20は、主にアクセル操作がない状態でエンジン回転速度の上がり具合が悪いとき(実回転速度Neの上昇度合いが小さいときや、実回転速度Neが低下しているとき)に、開度制限制御を終了させるための条件である。
なお、条件21はエンジン10の停止中(例えば、エンジン10の始動前)に対応する条件であり、条件22はエアフローセンサー34やインマニ圧センサー37の故障時を想定した条件である。また、条件23は、クランキング後のエンジン10の始動判定時を基準とした経過時間を判定する条件である。
条件23中の「所定時間TTHCRK」は、手動操作によるエンジン10のキー始動時(あるいは、アイドルストップ状態からの再始動時であって、Dレンジ以外での再始動時等)とアイドルストップ状態からの始動時(例えば、Dレンジでの再始動時)とで異なる時間が設定される。例えば、後者の時間(第一時間)よりも前者の時間(第二時間)が短い時間とされる。つまり、アイドルストップ状態からの始動時には、他の始動時よりも開度制限制御の実施時間を延長する。
なお、アイドルストップ状態からの始動時であっても、例えばNレンジでの始動時には、開度制限制御の実施時間をキー始動時と同一値に設定してもよい。これは、一般的なNレンジでの始動時には、キー始動時と同様に、エンジン10の動力伝達経路が遮断された状態となっている場合が多いからである。しかし、燃費や始動直後の排気性能面でのメリットを考慮して、Nレンジでの始動時であっても開度制限制御の実施時間を延長するような制御構成としてもよい。少なくとも、「アイドルストップ状態からの始動時」における開度制限制御の実施時間よりも、「アイドルストップ状態からの始動時」を除くエンジン10の始動時における開度制限制御の実施時間を短く設定することが好ましい。
開度制限制御では、始動時スロットル開度制限部6で算出された目標スロットル面積S及び上限面積算出部6bで算出された上限値SLIMに基づき、スロットル開度θTHが制御される。まず、エンジン10がエンスト中である(エンジン10が停止した状態である)ときには、目標スロットル面積S及び上限値SLIMのうちの、値の大きい一方が選択され、これが最終的なスロットル開度θTHの目標開口面積とされる。また、エンジン10のクランキング中には、上限値SLIMのみに基づき、スロットル開度θTHが制御される。
一方、クランキングが終了してエンジン10が始動した後には、目標スロットル面積S及び上限値SLIMのうち、値の小さい一方が選択され、これが最終的なスロットル開度θTHの目標開口面積とされる。なお、開度制限制御の終了後には、目標スロットル面積Sが最終的なスロットル開度θTHの目標開口面積とされる。
上記のような条件判定を実施すべく、開度制限解除部7には、図11に示すように、体積効率係数算出部7a,目標圧力算出部7b,実充填効率算出部7c,最大トルク算出部7d,点火効率係数算出部7e及び条件判定部7fが設けられる。
体積効率係数算出部7a(体積効率係数算出手段)は、エンジン10の吸気性能を評価するための指標値である体積効率係数KMAPを算出するものである。体積効率係数KMAPは、吸気系圧力に基づいて体積効率Evを標準化したものであり、例えば、実インマニ圧PIMが大気圧PBPであるとしたときの値に換算したものに相当する。体積効率係数KMAPは、スロットルバルブ23の上流圧PTHUに対する下流圧(実インマニ圧PIM)の比である圧力比RPRSと実回転速度Neとに基づいて算出される。体積効率係数算出部7aは、例えば図10に示すような実回転速度Ne及び圧力比RPRSと体積効率係数KMAPとの対応マップや数式,関係式等に基づき、体積効率係数KMAPを算出する。ここで算出された体積効率係数KMAPの値は、目標圧力算出部7bに伝達される。
目標圧力算出部7b(圧力算出手段)は、体積効率係数算出部7aで算出された体積効率係数KMAPと、目標空気量算出部6cで算出された目標充填効率EcTGTとに基づき、目標充填効率EcTGT相当のインマニ圧である目標インマニ圧PIM_TGTを算出するものである。目標インマニ圧PIM_TGTは、目標充填効率EcTGTに対応する空気量の吸気をシリンダー内に導入したときの実インマニ圧PIMに相当し、例えば以下の式4で与えられる。
実充填効率算出部7cは、シリンダーに実際に導入される(導入された)空気量に対応する充填効率である実充填効率Ecを算出するものである。実充填効率Ecは、スロットルバルブ23を通過した吸気流量QINとエンジン10の実回転速度Neとに基づいて算出される。ここで算出された実充填効率Ecの値は、最大トルク算出部7dに伝達される。
最大トルク算出部7dは、制御対象のシリンダーで生じうる最大のトルクを最大実トルクPiACT_MBTとして演算するものである。最大実トルクPiACT_MBTとは、実充填効率Ecで点火時期をMBT点火時期(単にMBTとも呼ぶ;Minimum spark advance for Best Torque)に設定した場合に発生するトルクである。最大トルク算出部7dは、例えば実充填効率Ec,実回転速度Ne及び理論空燃比で発生するMBTでのトルクの対応関係をマップや数式として記憶しており、これを用いて最大実トルクPiACT_MBTを演算する。ここで算出された最大実トルクPiACT_MBTは、点火効率係数算出部7eに伝達される。
点火効率係数算出部7eは、目標トルク演算部5で演算された点火制御用目標トルクPi_TGTと最大トルク算出部7dで算出された最大実トルクPiACT_MBTとの比を点火効率係数KIGNとして演算するものである。ここでは、エンジン10で生成されうる最大実トルクPiACT_MBTに対して、点火制御用目標トルクPi_TGTがどの程度の割合を占めているのかが演算される。なお、本実施形態の点火効率係数算出部7eでは、最大実トルクPiACT_MBTを超えるような過剰な点火制御用目標トルクPi_TGTが要求されても、点火時期がMBT点火時期よりも進角することがないように、点火効率係数KIGNの値が1以下の範囲(0≦KIGN≦1)でクリップされる。ここで演算された点火効率係数KIGNの値は条件判定部7fに伝達される。
条件判定部7f(解除手段,制御手段)は、上記の条件18〜23の成否判定に基づき、スロットルバルブ23の開度制限制御を実施するものである。例えば、条件18は、目標圧力算出部7bで算出された目標インマニ圧PIM_TGTが実インマニ圧PIM以上であるときに成立するものと判断される。また、前述の勾配差演算部4fで演算された勾配差ΔdNeを条件19の変化率ΔNeTHとして用いてもよいが、より単位時間を短くした変化率(例えば、前回の演算周期で得られた実回転速度Neとの差など)を用いることが好ましい。条件19は、実回転速度Neの単位時間あたりの変化率ΔNeTHが所定変化率ΔNeTH0未満であるときに成立するものと判断される。また、条件20は、点火効率係数算出部7eで算出された点火効率係数KIGNを1.0から減じた値(1.0-KIGN)が所定値K0以下であるときに成立するものと判断される。
条件判定部7fは、クランキングが開始されると開度制限制御を実施し、その終了条件が成立するまでの間は、目標スロットル面積Sを上限値SLIM以下に制限する。ここでは、上限値SLIMに応じたスロットル開度θTHを実現するためのスロットル目標開度電圧ELがスロットルバルブ23に出力される。また、開度制限制御の終了条件が成立した後は、目標スロットル面積Sに応じたスロットル開度θTHを実現するためのスロットル目標開度電圧ELがスロットルバルブ23に出力される。
[3.上限値制御の作用]
[3−1.再始動〜アイドリング]
図12(a)は、アイドルストップ状態からの再始動時に上限値制御が実施されたときのエンジン10の実回転速度Neの変動を示し、図12(b),(c)はそれぞれ目標トルク,点火時期の変動を示す。時刻t0のときには、車両が信号待ちの状態でアイドルストップ制御が実施されており、セレクトレバーの操作位置がDレンジであり、アクセルペダルの踏み込み量が0であり、ブレーキペダルがフルストロークで踏み込まれているものとする。
時刻t0に外部負荷装置からの始動要求が発生し、上記の条件10が成立すると、図12(a)に示すようにエンジン10の再始動制御が実施され、クランキングが開始される。その後、エンジン10が初爆,完爆を経て時刻t1に始動すると、実回転速度Neが上昇する。一方、トルク上限値演算部4のオフセット量設定部4bでは、冷却水温WTSに基づいてオフセット量ΔNeOFSが設定される。
条件判定部4mでは、上記の条件11〜13が成立するか否かが判定される。条件11は、実回転速度Neが始動完了判定回転速度NeSを超えない限り成立しないため、実回転速度Neが始動完了判定回転速度NeSに満たない不安定な回転状態では、上限値制御は開始されない。また、条件12は、上限回転速度NeLIM_Hからオフセット量ΔNeOFSを減じた値を基準として、実回転速度Neがこの基準を超えない限り成立しない。オフセット量ΔNeOFSは冷却水温WTSに応じて変更されるため、上限値制御の開始条件は冷却水温WTSにも左右されることになる。図5(d)に示すように、冷却水温WTSが上昇するに連れてオフセット量ΔNeOFSが小さく設定された場合には、冷却水温WTSが高いほど、上限値制御の開始条件を満たす実回転速度Neが上昇する。
条件13は、その時点でエンジン10に要求されるトルクが、実回転速度Neの将来の変化勾配の最大値に相当する上限勾配dNe_Hをトルクに換算した値(すなわち、トルク補正値PidNe_H)よりも大きくなければ成立しない。言い換えれば、上限勾配演算部4dで演算される上限勾配dNe_Hを超えるような回転速度変動を与えるトルクが要求されると、条件13が成立する。
時刻t2に条件11〜13が全て成立すると、上限値制御が実施される。回転速度上限値設定部4aでは、アクセル操作量APS,ブレーキ液圧BRK,冷却水温WTSのそれぞれについて、実回転速度Neのとりうる最大値(第一上限値,第二上限値,第三上限値)が設定され、図12(a)中に一点鎖線で示すように、上限回転速度NeLIM_Hが設定される。
上限値制御で設定される上限回転速度NeLIM_Hは、例えば図5(a),(b)に示すように、セレクトレバーの操作位置に応じた大きさに設定され、Dレンジが選択されている状態では他のレンジのときよりも上限回転速度NeLIM_Hがより小さく設定される。つまり、Dレンジでのエンジン始動時には、図12(a)中の一点鎖線がより下方に設定されることになり、実回転速度Neの抑制作用が強められる。
上限値制御では、上限回転速度NeLIM_Hと実回転速度Neとの回転速度差ΔNeに応じた上限勾配dNe_Hが演算され、すなわち上限勾配dNe_Hを超えるような回転速度変動を抑制するようにエンジン10の目標トルクが減少方向に補正される。勾配差演算部4fでは、上限勾配dNe_Hと実変化率dNeとの勾配差ΔdNeが演算され、トルク補正量演算部4gではトルク補正値PidNe_Hが演算される。さらに、上限トルク演算部4kでは上限トルクPiLIM_Hが演算される。
なお、上限回転速度NeLIM_Hは、目標アイドル回転速度NeOBJ以上の大きさに設定される。したがって、目標アイドル回転速度NeOBJと上限回転速度NeLIM_Hとの幅が、実回転速度Neに許容される回転速度の変動幅となる。
トルク上限値演算部4で演算された上限トルクPiLIM_Hは目標トルク演算部5に伝達され、吸気制御用目標トルクPiETV_STDと点火制御用目標トルクPi_TGTとのそれぞれの上限値として反映される。これにより、例えば図12(c)に示すように、点火プラグ13での点火時期が時刻t2以降で大きくリタードし、エンジントルクが減少するように制御される。また、図12(b)中に実線で示すように、エンジントルクの目標値(目標トルク)は時刻t2以降で大きく削減される。このような制御により、例えば図12(a)中に破線で示すように、始動直後に実回転速度Neが急増するようなことがなくなり、エンジン回転の吹け上がりが確実に抑えられる。
時刻t2の直後には、実回転速度Neがさらに上限回転速度NeLIM_Hに接近し、回転速度差ΔNeが減少する。これにより、上限勾配演算部4dで演算される上限勾配dNe_Hが小さくなり、実回転速度Neに許容される回転速度変動の幅が減少する。つまり、実回転速度Neが上限回転速度NeLIM_Hに近づくほど、回転速度変動を抑制しようとする働きが強化される。
一方、回転速度変動が抑制されるに連れてエンジン回転速度の実変化率dNeが小さくなり、上限勾配dNe_Hに対する実変化率dNeの勾配差ΔdNeも減少する。時刻t3に上限勾配dNe_Hと実変化率dNeとが一致すると、勾配差ΔdNeが0となり、トルク補正量演算部4gで演算されるトルク補正値PidNe_Hも0となる。したがって、時刻t3以降はトルクが実質的には制限されていない状態となる。このときエンジン10の目標トルクは、図12(b)に示すように、上限トルクPiLIM_H以下となる。しかし、上限値制御はその終了条件が成立するまでは継続されるため、例えば、時刻t3以降に再びエンジン10の実回転速度Neが上昇した場合には、その回転速度変動が抑制される。
時刻t4に実変化率dNeが0になると、目標トルク演算部5の吸気用選択部5a及び点火用選択部5fでアイドル要求トルクPi_NeFBが選択され、アイドルフィードバック制御が開始される。これにより、エンジン10の実回転速度Neが目標アイドル回転速度NeOBJに向かって滑らかに収束するように、トルクが制御される。すなわち、アイドル要求トルクPi_NeFBに基づいて、吸気制御用目標トルクPiETV_STDと点火制御用目標トルクPi_TGTとが演算され、スロットル開度θTHや燃料噴射量,点火時期等が制御される。
[3−2.再始動〜クリープ発進]
図13は、アイドルストップ状態で運転者のブレーキ操作が緩められることによってエンジン10が再始動したときの上限値制御の制御作用を例示するものであり、図13(a)はブレーキ操作量(ブレーキ液圧BRK)の変動を示し、図13(b)は実回転速度Neの変動を示す。
時刻tAにブレーキ操作が緩められてブレーキ液圧BRKが所定値未満になると、上記の条件8が成立し、再始動制御が実施されてクランキングが開始される。また、時刻t5にエンジン10が始動したのち、時刻t6に条件11〜13が全て成立すると、上限値制御が実施される。回転速度上限値設定部4aでは、図5(c)に示すように、ブレーキ液圧BRKが低下するに連れて、これに対応する第一上限値が上昇するように設定される。
これにより、図13(b)中に一点鎖線で示すように、ブレーキペダルの踏み込み操作が緩められるほど、上限回転速度NeLIM_Hが高く設定される。つまり、運転者による発進意思が大きいほど上限回転速度NeLIM_Hが大きく設定され、逆に発進意思が小さいほど上限回転速度NeLIM_Hが小さく設定される。上限回転速度NeLIM_Hの経時変化の勾配が変化する時刻tBは、ブレーキ操作量の経時変化の勾配が変化する時刻tBに一致する。なお、時刻tCにブレーキ操作量が0になると、上限回転速度NeLIM_Hの上昇率も0となる。
このように、ブレーキ操作が緩められるほど上限回転速度NeLIM_Hが高く設定されるため、実回転速度Neが上昇しやすくなる。ただし、実回転速度Neの変動はあくまでも上限回転速度NeLIM_H以下の範囲内に制限される。したがって、クリープ走行に要求されるトルクが確保されるとともに、エンジン10の始動性が損なわれることがなく、かつ吹け上がりが抑制される。なお、エンジン始動後の経過時間が所定の制限時間となる時刻t7を超えると上限値制御は終了し、通常のトルク制御がこれに継続される。
[3−3.再始動〜アクセル発進]
図14は、アイドルストップ状態からエンジン10が再始動した直後に、アクセルペダルが踏み込まれたときの上限値制御の制御作用を例示するものであり、図14(a)はブレーキ操作量(ブレーキ液圧BRK)の変動,図14(b)はアクセル操作量APSの変動,図14(c)は実回転速度Neの変動をそれぞれ示す。
時刻tDにブレーキ操作が緩められてブレーキ液圧BRKが所定値未満になると、上記の条件8が成立し、再始動制御が実施されてクランキングが開始される。また、時刻t8にエンジン10が始動したのち、時刻t9に条件11〜13が全て成立すると、上限値制御が実施される。
回転速度上限値設定部4aでは、ブレーキ液圧BRKが低下するほど高い第一上限値が設定される。また、時刻tEにブレーキ操作量が0となり、アクセルペダルが踏み込まれ始めると、回転速度上限値設定部4aでは、図5(a)に示すように、アクセル操作量APSが上昇するに連れてこれに対応する第三上限値も上昇するように設定される。
これにより、図14(c)中に一点鎖線で示すように、ブレーキペダルの踏み込み操作が緩められるほど、またアクセルペダルの踏み込み操作が強められるほど、上限回転速度NeLIM_Hが高く設定される。上限回転速度NeLIM_Hの経時変化の勾配が変化する時刻tE,tF,tGはそれぞれ、ブレーキ操作量やアクセル操作量の経時変化の勾配が変化する時刻tE,tF,tGに一致する。なお、時刻tGにアクセル踏み込み操作量が最大になると、上限回転速度NeLIM_Hの上昇率も0となる。
このように、上限回転速度NeLIM_Hが高く設定されることで実回転速度Neが上限回転速度NeLIM_H以下の範囲内で上昇しやすくなる。つまり、運転者の発進意思に応じて実回転速度Neが増大しやすくなり、アクセル要求トルクPi_APSが確保されやすくなる。なお、エンジン始動後の経過時間が所定の制限時間となる時刻t10を超えると上限値制御は終了する。
[4.開度制限制御のフローチャート]
図15は、エンジン制御装置1で実施される開度制限制御の手順を例示するフローチャートである。ステップA10では、アイドルスイッチがオンである(例えば、アクセルペダルの踏み込みがない,アクセル操作量APSがゼロである)か否かが判定される。ここで、アイドルスイッチがオフの場合には、アクセルペダルが踏み込まれているため、条件18の判定を行うステップA20へ進み、アイドルスイッチがオンの場合にはステップA30に進む。
ステップA20では、目標インマニ圧PIM_TGTが実インマニ圧PIM未満であるか否かが判定される。ここで、PIM_TGT<PIMが成立する場合にはステップA30に進む。一方、PIM_TGT<PIMが不成立の場合、すなわちPIM_TGT≧PIMが成立する場合には、上記の条件18が成立することになるため、ステップA70に進んでスロットル開度θTHの制限が解除される。つまりこのステップでは、最終的なスロットル開度θTHの目標開口面積が目標スロットル面積Sに設定され、開度制限制御が終了する。その後、上述の上限値制御を実施してもよいし、上限値制御を実施することなく、通常のトルク制御やアイドルフィードバック制御等へと移行させてもよい。
ステップA30以降では、上記の条件19以降に対応する条件が判定される。まず、ステップA30では、エンジン10の実回転速度Neの変化率ΔNeTHが所定変化率ΔNeTH0以上であるか否かが判定される。ここで、ΔNeTH≧ΔNeTH0が成立する場合にはステップA50に進み、不成立の場合にはステップA40に進む。
ステップA40では、点火効率係数KIGNを1.0から減じた値(1.0−KIGN)が所定値K0を超えているか否かが判定される。ここで、(1.0−KIGN)>K0が成立する場合には、条件20が不成立となることからステップA50に進む。一方、(1.0−KIGN)>K0が不成立の場合には条件20が成立し、ステップA70に進む。この場合にも、最終的なスロットル開度θTHの目標開口面積が目標スロットル面積Sに設定され、開度制限制御が終了する。
また、ステップA50では、始動時からの経過時間CASが所定時間TTHCRK以下であるか否かが判定される。ここで、CAS≦TTHCRKが成立する場合にはステップA60に進み、不成立の場合にはステップA70に進んで開度制限制御が終了する。なお、アイドルストップ状態からのDレンジでの再始動時には、Nレンジでの再始動時やキー始動時よりも所定時間TTHCRKが長く設定される。したがって、アイドルストップ状態からのDレンジでの再始動時には、開度制限制御が比較的長い時間、実施されうる。
ステップA60では、センサー故障が未検出であるか否かが判定される。ここで、開度制限制御に関するセンサー類に故障が発生していない場合にはステップA90に進む。一方、例えばエアフローセンサー34やインマニ圧センサー37の故障が検出されている場合には、ステップA70に進み、開度制限制御が終了する。
ステップA90では、エンジン10がエンスト中であるか否かが判定される。ここで、エンスト中であればステップA100に進み、目標スロットル面積S及び上限値SLIMのうち、値の大きい一方が選択され、これが最終的なスロットル開度θTHの目標開口面積とされる。このステップでは、実質的には開度制限制御が解除されている。一方、エンスト中でない場合にはステップA110に進む。
ステップA110では、エンジン10がクランキング中であるか否かが判定される。ここで、クランキング中であればステップA120へ進み、そうでなければステップA130へ進む。ステップA120では、上限値SLIMが最終的なスロットル開度θTHの目標開口面積とされ、スロットル開度θTHが制限される。一方、ステップA130に進んだ場合には、目標スロットル面積S及び上限値SLIMのうち、値の小さい一方が選択され、これが最終的なスロットル開度θTHの目標開口面積とされる。
[5.開度制限制御の作用]
図16(a)〜(e)を用いて、開度制限制御による作用を説明する。ここでは、車両が信号待ちで一時停止しており、自動停止制御によりエンジン10が停止した状態であるものとする。
図16(a)に示すように、時刻t11にブレーキペダルの踏み込みが解除されてブレーキ操作量が所定値未満になると、再始動条件が成立する。このとき、図16(c)に示すように、エンジン10を再始動させるためのクランキングが開始されるとともに、開度制限制御が開始される。スロットル開度θTHの目標スロットル面積Sは、図16(e)に示すように、上限面積算出部6bで設定されたクランキング中の上限値SLIM1に固定され、エンジン出力が抑制される。
また、エンジン10が初爆,完爆を経て、時刻t12に再始動すると、上限面積算出部6bで設定される上限値SLIM2の値がクランキング中の上限値SLIM1よりもさらに小さくなり、目標スロットル面積Sがより強く抑制される。これにより、例えば図16(c)に破線で示すような始動直後の吹け上がりの発生が回避され、穏やかに実回転速度Neが上昇する。
一方、図16(b)に示すように、エンジン10が再始動した直後の時刻t13にアクセルペダルが踏み込まれると、そのアクセル操作量APSに応じてアクセル要求トルクPi_APSが増大する。アクセル要求トルクPi_APSは、点火制御用目標トルクPi_TGT及び吸気制御用目標トルクPiETV_STDに反映されることになり、エンジン10の実回転速度Neは徐々に上昇する。しかし、開度制限制御の終了条件が成立しない限り、目標スロットル面積Sは上限値SLIM2以下に制限されたままの状態となり、出力過多や排ガス悪化が抑制される。
また、実回転速度Neの上昇に伴い、実インマニ圧PIMが徐々に低下する。これに対して、開度制限解除部7の目標圧力算出部7bで算出される目標インマニ圧PIM_TGTは、目標充填効率EcTGTが増加するにつれて上昇する。目標インマニ圧PIM_TGTの上昇量は、目標充填効率EcTGTが増加するほど、あるいは体積効率係数KMAPが減少するほど大きくなる。したがって、図16(d)に示すように、エンジン10の始動直後からの運転状況に応じて、実インマニ圧PIMと目標インマニ圧PIM_TGTとが徐々に接近し、時刻t14に目標インマニ圧PIM_TGTが実インマニ圧PIM以上となる。
このとき、上記の条件18が成立することになり、開度制限制御が終了する。図16(e)に示すように、目標スロットル面積Sの制限が解除され、吸気制御用目標トルクPiETV_STDに基づいて算出されるスロットル面積Sとなるようにスロットル開度θTHが制御される。また、スロットルバルブ23が開放された結果、実インマニ圧PIMは徐々に目標インマニ圧PIM_TGTに漸近し、実インマニ圧PIMと目標インマニ圧PIM_TGTとが一致した状態となる。
目標インマニ圧PIM_TGTは、目標充填効率EcTGTを実現するために要する圧力値であることから、実インマニ圧PIMが目標インマニ圧PIM_TGTを超えている状態では、たとえ開度制限制御を継続したとしても、運転者のアクセル要求に対応するエンジン出力が維持される。つまり、上記の制御では、エンジン出力が足りなくなるような運転状態になったときに、開度制限制御を終了させている。これにより、エンジン10のクランキングから始動後にかけての始動安定性や環境性能が保たれるとともに、始動直後にアクセル操作がなされたとしても、車両の発進性や加速性が確保される。
[6.上限値制御による効果]
このように、本実施形態のエンジン制御装置1によれば、以下のような効果が得られる。
(1)上記のエンジン制御装置1では、エンジン10の実回転速度Neが上限回転速度NeLIM_Hを超えないように制御した上で、発進意思が小さいほど上限回転速度NeLIM_Hが小さく設定される。例えば、図5(a)や図5(b)に示すように、アクセル操作量APSが小さいほど、あるいはブレーキ液圧BRKが高いほど、それぞれに対応する第一上限値や第二上限値が小さく設定され、これらの値が最終的に選択される上限回転速度NeLIM_Hに反映される。これにより、エンジン10の始動直後に生じうる実回転速度Neの急上昇(吹け上がり)を抑制することができ、不要な走り出し感を減少させることができる。逆に、発進意思が大きいほど上限回転速度NeLIM_Hが大きく設定されるため、その発進意思に応じた十分な加速を得ることができる。
また、図12(a)に示すように、上限値制御では、アイドルフィードバック制御の目標アイドル回転速度NeOBJを減少させるのではなく、目標アイドル回転速度NeOBJを大きく超えるような実回転速度Neの吹け上がりを抑制している。これにより、エンジン10の始動性を確保しながら、回転速度変動やトルク変動を減少させることができる。
(2)また、アクセル操作量APSやブレーキ液圧BRKといった運転者の発進意思に対応するパラメーターに基づく上限回転速度NeLIM_Hの設定に関して、上記のエンジン制御装置1では、最終的な上限回転速度NeLIM_Hの値が最小値選択部46で選択された最小値に設定される。例えば、図4に示すように、最終的に選択される上限回転速度NeLIM_Hは、第四上限値と第五上限値とのうち、制限の強い一方となる。したがって、ブレーキペダルの踏み戻し操作とアクセルペダルの踏み込み操作とが同時に実施されたような場合には、より強い制限をかけることのできる上限値を用いて上限値制御を実施することができ、発進意思に応じた加速性を満足しながらエンジン回転の急上昇(吹け上がり)を抑制することができ、不要な走り出し感を減少させることができる。
(3)また、実回転速度Neの変化勾配について、制御目標である上限勾配dNe_Hと実変化率dNeとの勾配差ΔdNeをトルクに換算してトルク補正値PidNe_Hを演算することで、実回転速度Neを上限勾配dNe_Hに沿って精度よく変化させることができ、実回転速度Neの急変や吹け上がりを抑制することができる。
(4)上限回転速度NeLIM_Hが目標アイドル回転速度設定部3aで設定される目標アイドル回転速度NeOBJ以上の大きさに設定されるため、実回転速度Neが過度に抑制されることがなく、始動直後に実回転速度Neを目標アイドル回転速度NeOBJの近傍まで立ち上げることができる。このように、エンジン10の始動直後の回転安定性を確保しながら、吹け上がりを抑制することができる。
(5)上記のエンジン制御装置1では、エンジン10の始動後の実回転速度Neの実変化率dNeが初めて0以下になった時点から、アイドルフィードバック制御が実施される。これにより、例えば始動後の経過時間に従ってアイドルフィードバック制御を実施するような従来の制御と比較して、実回転速度Neを滑らかかつ迅速に目標アイドル回転速度NeOBJまで収束させることができる。また、エンジン10のアイドル回転が安定化するまでにかかる時間を短縮することができる。
(6)さらに、上記のエンジン制御装置1では、運転者による発進意思の一つとして、ブレーキ操作を参照しており、ブレーキ操作量が小さくなるほど発進意思が大きいものと判断して、上限回転速度NeLIM_Hを大きく設定している。このような制御により、エンジン10の始動直後の吹け上がりを抑制しつつ、要求されるクリープトルクを確保することができる。特に、アイドルストップ制御からの再始動時における車両の始動安定性及び発進安定性をともに向上させることができる。
(7)同様に、上記のエンジン制御装置1では、運転者による発進意思の一つとして、アクセル操作を参照しており、アクセル操作量が大きくなるほど発進意思が大きいものと判断して、上限回転速度NeLIM_Hを大きく設定している。このような制御により、エンジンの始動直後の吹け上がりを抑制しつつ、加速性を向上させることができる。特に、アイドルストップ制御からの再始動時における車両の始動安定性及び機動性をともに向上させることができる。
(8)上記のエンジン制御装置1では、図5(b)に示すように、冷却水温WTSが高いほど上限回転速度NeLIM_Hが小さく設定される。つまり、十分に暖機された状態ではエンジン10の駆動に係るフリクションが減少して吹け上がりが発生しやすくなるため、上限値制御の抑制作用を強化している。これにより、エンジン10の始動直後の吹け上がりをより適切に抑制することができ、不要な走り出し感やトルクショックを減少させることができる。また、フリクションを考慮して上限値制御による制限の大きさを設定することで、クリープ走行時のクリープトルクの大きさを適正化することができる。
(9)上記のエンジン制御装置1では、図5(e)に示すように、エンジン10の実回転速度Neが上限回転速度NeLIM_Hに接近するほど上限勾配dNe_Hが0に近づくように、将来の変化勾配が設定される。このような設定により、実回転速度Neの増大速度や増加量が急激であったとしても、実回転速度Neの上昇に大きな制限を加えて上限回転速度NeLIM_H以下の範囲にコントロールすることができる。また、実回転速度Neの増大速度や増加量が緩慢であれば、比較的小さな制限を加えることで安定的に実回転速度Neを上昇させることができる。したがって、実回転速度Neの吹け上がりを抑制しつつ、適切な実回転速度Neでエンジン10を始動させることができる。
(10)上記のエンジン制御装置1では、トルク補正量演算部4gでトルク補正値PidNe_Hを演算している。このトルク補正値PidNe_Hとは、将来の実回転速度Neの変化勾配を上限勾配dNe_H以下にするのに減らさなければならないトルクであって、勾配差ΔdNeをトルクに換算したものである。このようなトルク換算値を用いてトルクベース制御を実施することで、実回転速度Neを目標値の勾配(上限勾配dNe_H)に沿って精度よく変化させることができる。
(11)上記のエンジン制御装置1では、トルク上限値演算部4のオフセット量設定部4bにおいて、冷却水温WTSに基づいてオフセット量ΔNeOFSが設定されている。このオフセット量ΔNeOFSは、例えば条件12に規定された通り、上限値制御の開始条件を判定するためのパラメーターであり、冷却水温WTSが低いほどオフセット量ΔNeOFSが大きくなるようにその値が設定される。これにより、冷却水温WTSが低いときの上限値制御を早期に開始させることができ、実回転速度Neの吹け上がりを効果的に抑制することができる。一方、図5(d)に示すように、冷却水温WTSが極端に低い極低温下での始動時には、オフセット量ΔNeOFSがやや小さく設定されるため、上限値制御の開始を遅らせることができ、始動性を優先した制御とすることができる。
(12)トルクコンバーター26aを内蔵するATユニット26を搭載した車両では、エンジン10のアイドルストップ制御時に変速レンジをDレンジの状態で保持するものがある。このような車両では、アイドルストップ状態からの再始動制御時に、Dレンジのままエンジン10が再始動するため、実回転速度Neの吹け上がりに伴ってトルクショックが発生する場合がある。
一方、上記のエンジン制御装置1を搭載した車両では、図5(a),(b)に示すように、セレクトレバーの操作位置がDレンジのときに設定される上限回転速度NeLIM_Hが、Dレンジ以外のときに設定される上限回転速度NeLIM_Hよりも小さく設定される。つまり、エンジントルクがATユニット26に入力されうる状況での始動時には、実回転速度Neの吹け上がりがより小さいレベルで治まるように、トルクの抑制作用がより強化される。これにより、エンジン回転の吹け上がりが効果的に抑制されることになり、エンジン10の出力軸からATユニット26へと入力される始動時のトルク変動が弱められる。したがって、車両の不要な走り出し感を減少させることができる。
(13)一般的なエンジンの始動時にはスロットルバルブが全開ではないものの、吸気通路内の圧力がほぼ大気圧PBPと同一であることから、実際にシリンダーに導入される筒内吸入空気量の初期値は、スロットルバルブが全開の時に流量検出手段で検出される流量に相当する。つまり、エンジン始動直後の筒内吸入空気量は、流量検出手段で検出される流量よりも大きい値となり、時間が経過するに連れて流量検出手段で検出される流量に漸近するように変動する。
このような筒内吸入空気量の変動特性に鑑み、上記のエンジン制御装置1では、上限値制御の終了条件の一つとして、吸気流量QINのフィルタ値と筒内吸入吸気量の推定値とがほぼ一致することを判定している。例えば、図6(a),(b)に示すように、筒内吸入空気量の推定値(太実線)とエアフローセンサー34での検出値のフィルタ値(細実線)とが一致するまでの間、上限値制御が実施される。これにより、吸気通路内の圧力が定常的に負圧となって安定するまでの間のエンジン回転の吹け上がりを効果的に抑制することができる。
[7.開度制限制御による効果]
(1)上記のエンジン制御装置1では、エンジン10の始動時におけるスロットルバルブ23の目標スロットル面積Sを上限値SLIM以下に制限することで、出力過多や排ガス悪化を抑制できる。一方、実インマニ圧PIMの大きさに基づいてこの制限を解除することで、運転者による始動直後の出力要求を吸気量に即座に反映させることができる。したがって、始動安定性や環境性能を維持しながら加速性を向上させることができ、始動時のドライバビリティを向上させることができる。
(2)また、上記のエンジン制御装置1では、条件19に示すように、実インマニ圧PIMだけでなくエンジン10の実回転速度Neの変化率ΔNeTHに基づいて開度制限制御を解除する構成を備えている。これにより、実回転速度Neの上昇がやや遅い場合にスロットル開度θTHを開放方向に制御しやすくすることができ、エンストを抑制することができ、回転安定性を向上させることができる。一方、実回転速度Neの変化率ΔNeTHが大きいときには開度制限制御が継続されるため、排気エミッションを悪化させることなく、過度な吹け上がりやトルクの出過ぎを抑制することができる。このように、エンジン始動直後の実回転速度Neの上昇度合いを吸気量の制御量に即座に反映させることができ、万一の吸気量不足によるエンジン回転速度の低下リスクを回避しつつ、始動安定性や環境性能を維持することができ、始動時のドライバビリティを向上させることができる。
(3)さらに、上記のエンジン制御装置1では、条件19とともに判定される条件20に示すように、実回転速度Neの変化率ΔNeTHだけでなく、点火時期の進角余裕に基づいて開度制限制御を解除する構成を備えている。これにより、点火時期を調節しても実回転速度Neを制御しきれない場合に限り、開度制限制御を解除することができる。したがって、エンストをより効率的に抑制することができる。
一方、進角余裕があるときには、点火時期を変更することで実回転速度Neを安定化することができ、制限を継続することができる。これにより、スロットル開度θTHが比較的小さく制限された状態を長く維持することができ、意図しない回転上昇やトルクの出過ぎを抑制する効果を高めることができる。
また、実回転速度Neの変化率ΔNeTHと点火時期の進角余裕とに基づいてスロットル開度θTHの制限を解除することで、アクセルペダルの踏み込みのないエンジン始動時における回転速度低下やエンストを効率的に抑制することができる。特に、フリクションが比較的大きい冷態始動時において、開度制限制御の効き過ぎによる実回転速度Neの低下を抑制することができる。
(4)また、上記のエンジン制御装置1では、アクセル操作量に応じた大きさとなる目標インマニ圧PIM_TGTが実インマニ圧PIMの実測値以上のときに、開度制限制御が解除される。これにより、エンジン始動直後の吸気性能の変動に対して、精度よくスロットル開度θTHを制御することができる。例えば、アイドルストップ条件が成立してエンジン10が一時停止し、実インマニ圧PIMが大気圧PBP近傍まで上昇した状態で再始動したような場合であっても、実インマニ圧PIMに応じてスロットル開度θTHの状態を適切に制御することができる。すなわち、運転者の要求する空気量に対して実インマニ圧PIMが十分に高い状態であれば、開度制限制御を継続することができ、エンジン出力の出過ぎや排ガスの悪化を抑制することができる。一方、運転者の要求する空気量に対して実インマニ圧PIMが不足する状態であれば、開度制限制御を解除することができ、スロットル開度θTHを大きく開放して、加速要求に迅速に応えることができる。
(5)また、上記のエンジン制御装置1では、体積効率係数KMAPを用いて目標インマニ圧PIM_TGTを算出しているため、エンジン10のシリンダーへの空気(吸気)の入りやすさを適切に評価することができる。これにより、目標吸気系圧力を正確に求めることができ、目標開度の制限を解除するタイミングを精度よく制御することができる。
なお、エンジン10の体積効率Evは、実インマニ圧PIMが低下するほど小さい値となる。しかし、体積効率Evと実インマニ圧PIMとの関係は必ずしも線形ではなく、実インマニ圧PIMを変化させたときの体積効率Evの変化量(変化勾配)は実インマニ圧PIMが低下するほど大きくなる。これは、体積効率Evの値が実インマニ圧PIMで決まる吸入空気のシリンダーへの押し込みやすさだけでなく、可変動弁機構等の作動状態等に応じて決まる吸入空気のシリンダーへの入り込みやすさの影響を受けて変化するためである。
一方、体積効率係数Kmapは体積効率Evを吸気系圧力で標準化したものであり、例えば実インマニ圧PIMが大気圧PBPであるときの値に体積効率Evを換算した値であることから、実インマニ圧PIMによる吸入空気の押し込みやすさの影響をほとんど受けない。したがって、体積効率Evの代わりに体積効率係数Kmapを用いることで、エンジン10の吸気性能に対する評価から吸気系圧力の影響を取り除くことが可能となり、吸入空気のシリンダーへの入り込みやすさを客観的に把握することができる。したがって、スロットル開度θTHの制御性を向上させることができる。
(6)また、図9に示すように、冷却水温WTSに基づいて上限値SLIMを設定しているため、例えば温度によるフリクションの影響や、エンジン10に要求される排ガス性能の温度特性等に応じて、スロットル開度θTHに適切な制限を与えることができる。
(7)さらに、エンジン1のクランキング中と始動後とで異なる上限値SLIMを設定しているため、エンジン回転の安定性に応じたスロットル制御が可能となり、始動性を確保しつつ排ガス性能を向上させることができる。例えば、図16(e)に示すように、始動後の上限値SLIM2をクランキング中の上限値SLIM1よりも低く設定することで、クランキング中(例えば初爆,完爆まで)の始動性を向上させつつ、クランキング後の始動時における出力過多や排ガス悪化を抑制することができる。
(8)また、上記のエンジン制御装置1では、キー始動時における開度制限制御の実施時間がアイドルストップ状態からの再始動時よりも短く設定される。つまり、エンジン10が比較的低温のときには早めに開度制限制御を解除することができ、フリクションによる実回転速度Neの低下を抑制することができ、回転安定性を向上させることができる。一方、すでに暖機状態であるアイドルストップ状態からの再始動時には、開度制限制御をやや長めに継続することで、意図しない実回転速度Neの上昇を抑制することができるとともに、始動直後の排ガス性能を向上させることができる。
(9)また、上記のエンジン制御装置1では、エンジン10を停止した状態(エンスト状態)での開度制限制御を解除することで、例えば車両整備時や点検時にスロットル開度θTHの通常動作を確認することができ、整備性を向上させることができる。
[8.変形例]
上記のエンジン制御装置10で実施される上限値制御の変形例は、多種多様に考えられる。例えば、上述の実施形態では、回転速度上限値設定部4aでの上限回転速度NeLIM_Hの設定に際し、アクセル操作量APS,ブレーキ液圧BRK,冷却水温WTSのそれぞれについての上限回転速度NeLIM_Hを設定した上で、その中からただ一つを最終的な上限回転速度NeLIM_Hとして選択する構成を例示したが、最終的な上限回転速度NeLIM_Hの設定手法はこれに限定されない。アクセル操作量APS,ブレーキ液圧BRK,冷却水温WTSのそれぞれについての個々の上限回転速度NeLIM_Hの平均値を最終的な上限回転速度NeLIM_Hとしてもよいし、あるいは個々の上限回転速度NeLIM_Hの関数を定義して最終的な上限回転速度NeLIM_Hを演算してもよい。
また、上述の実施形態では、エンジン10に要求されるトルクの大きさを基準としたトルクベース制御を実施するエンジン制御装置1に対して上限値制御を組み込んだものを例示したが、トルクベース制御が必須の要素ではない。上限値制御においては、少なくとも、運転者の発進意思に応じて実回転速度Neの上限値を制御する構成を備えたものであれば、エンジン10の始動直後に生じうる実回転速度Neの急上昇(吹け上がり)を抑制しながら、発進意思に応じた加速を得ることができる。また、開度制限制御においても同様であり、少なくともエンジン10の吸気系圧力、又は、点火時期の進角余裕に基づいて、スロットル開度の制限を解除するものであれば、上述の実施形態と同様の効果を奏するものとなる。
また、上述の実施形態における開度制限制御では、上限面積算出部6bで算出された上限値SLIMに基づいてスロットル開度θTHを制限するものを例示したが、具体的な制限の付与手法はこれに限定されない。例えば、1.0未満の値を持つ開度制限係数を設定し、これを目標スロットル面積Sに乗じることによってスロットル開度θTHを制限してもよい。あるいは、上記の目標スロットル面積S及び上限値SLIMのうちの小さい一方を選択する代わりに、これらの値の中間値や平均値を用いてスロットル開度θTHを制限してもよい。また、制限を加える対象となるパラメーターは目標スロットル面積Sのみに限定されない。少なくとも、スロットル開度θTHの制御目標値となるパラメーター、又はこれに相関するパラメーターに対して制限を加えることで、上述の実施形態と同様の効果を奏するものとなる。
また、上述の実施形態に記載されたアイドルストップ条件やアイドル運転条件,再始動条件,上限値制御の開始条件及び終了条件は、実施の形態に応じて適宜変更してもよい。
なお、上述の実施形態では、主にアイドルストップ状態からの再始動時の制御作用を説明したが、上記の上限値制御の適用対象はこれに限定されず、例えば手動操作によるエンジン10のキー始動時にも実施可能である。