JP2014077166A - 薄膜超電導線材用の中間層付基板とその製造方法、および薄膜超電導線材 - Google Patents

薄膜超電導線材用の中間層付基板とその製造方法、および薄膜超電導線材 Download PDF

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Abstract

【課題】従来より高い超電導特性を有する薄膜超電導線材を作製することができる技術を提供する。
【解決手段】酸化物超電導層が設けられた薄膜超電導線材を作製する際に使用される薄膜超電導線材用の中間層付基板の製造方法であって、長尺の配向金属基板と対向して配置されたターゲットの表面をスパッタリングしてスパッタ粒子を跳び出させ、跳び出したスパッタ粒子を、配向金属基板とターゲットとの間に平行に配置された衝突・回折部材や雰囲気ガスに衝突させることにより回折させ、配向金属基板上に到達させて、配向金属基板上に中間層を成膜する薄膜超電導線材用の中間層付基板の製造方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、薄膜超電導線材を作製する際に使用される薄膜超電導線材用の中間層付基板とその製造方法、および前記中間層付基板上に酸化物超電導層が設けられた薄膜超電導線材に関する。
液体窒素の温度で超電導性を有する高温超電導体の発見以来、ケーブル、限流器、マグネットなどの電力機器への応用を目指した高温超電導線材の開発が活発に行われている。中でも、基板上に酸化物超電導層が形成された薄膜超電導線材が注目されている。
このような薄膜超電導線材は、一般に、長尺の配向金属基板の表面にセラミックス層を中間層として形成して中間層付基板を作製した後、c軸配向した酸化物超電導体(例えば、REBaCu7−Xで表されるREBCO系の酸化物超電導体)の結晶を前記中間層の上に成長させて酸化物超電導層を設け、さらに保護層や安定化層を積層することにより製造される(例えば特許文献1、2)。
特開2007−80780号公報 特開2007−311234号公報
しかしながら、従来の薄膜超電導線材は、必ずしも設計通りの高い超電導特性が発揮されているとは言えず、より高い超電導特性を有する薄膜超電導線材を提供することが求められていた。
このため、本発明は、従来より高い超電導特性を有する薄膜超電導線材を作製することができる技術を提供することを課題とする。
本発明者は、上記課題の解決を検討するに当たって、従来の薄膜超電導線材において充分な超電導特性が発揮できなかった原因について検討を行った。
その結果、従来の薄膜超電導線材では、結晶配向がばらついた中間層が形成されており、この中間層の結晶配向のばらつきにより、超電導特性の向上が阻害されていることが分かった。
即ち、中間層として形成されるセラミックス層における結晶配向のばらつきは、その上に形成される酸化物超電導層の超電導特性に大きな影響を与えるため、結晶配向のばらつきが小さな中間層が形成された中間層付基板を用いる必要がある。
しかしながら、中間層の形成は、従来、スパッタ法を用いて、ターゲットからスパッタされた原料粒子や荷電粒子(以下、総称して「スパッタ粒子」とも言う)を金属基板表面に到達させることにより行っていたが、このとき、スパッタ粒子が高いエネルギーを持ったまま基板表面に向けて直進して基板表面に直接到達するため、基板表面や既に成膜されていた部分がダメージを受けて欠陥を発生させていることが分かった。
そして、このような欠陥が発生した箇所ではその後の成膜に際して中間層のエピタキシャル成長が妨げられ、中間層表面全体の結晶配向のばらつきを招くため、充分な結晶配向度の酸化物超電導層を形成することができず、超電導特性の向上が阻害される。
そこで、本発明者は、スパッタ法を用いて金属基板表面に中間層を形成するに際して、ターゲットから基板へ直接入射するスパッタ粒子の高エネルギーを低減させることで、膜質の劣化を抑えながら金属基板表面へ中間層を形成する方法について検討を行った。その結果、スパッタ粒子をマスク部材や雰囲気ガスなどに衝突させて回折させながら基板表面に到達させる方法に思い至った。
即ち、マスク部材などの衝突・回折部材や雰囲気ガスに高エネルギーのスパッタ粒子を衝突させることにより、スパッタ粒子の高エネルギーを低減させた状態で回折させながらスパッタ粒子を基板上に到達させるため、基板表面や既に成膜されていた部分へのダメージが抑制される。このためその後の成膜において基板上でスパッタ粒子が充分にエピタキシャル成長し、結晶配向度が良好な中間層が形成されると考えた。
そして、実験の結果、結晶配向度が良好な中間層が形成され、高い超電導特性の薄膜超電導線材を提供できることを確認した。
前記したスパッタ粒子を衝突・回折部材や雰囲気ガスに衝突させて回折させながら基板表面に到達させる具体的な方法としては、例えば、ターゲットと基板との間に複数のスリット穴を設けた複数のマスクを上下にスリット穴が重ならないように配置する方法が考えられる。
マスクが1枚だけの場合には、スリット穴を通過した散乱されていない高エネルギーのスパッタ粒子は、そのまま基板へ向けて直進してしまうため、従来と同様に基板にダメージを与える領域ができる。これに対して、上記のように複数のマスクを用いて、上下のマスクのスリット穴の位置が重ならないように配置した場合には、スパッタ粒子が基板表面に直接到達することが妨げられ、回折部材や雰囲気ガスに衝突してエネルギーが低減された後、回折しながら基板表面に到達するため、基板にダメージを与えることなく成膜することができる。
このとき、各々のマスクに長手方向に規則的に複数のスリット穴が設けられ、2枚のマスクのスリット穴の位置が幅方向において異なるように配置するだけでも良いが、図1に示すように幅方向に異なるだけでなく、長手方向にも異なる位置にスリット穴を配置することにより、幅方向における膜厚ムラの発生を充分に抑制することができる。
マスクの作製にあたっては、1種類のマスクを作製し、このマスクを反転させて片方のマスクとして長手方向に同じ位置または少しずらせて配置することにより、容易に上下にスリット穴の位置が重ならないようにマスクを配置することができる。
各マスクに設けられるスリット穴のパターンは、中間層をできるだけ均一に形成するという観点から長手方向に細かいパターンであることが好ましい。実験の結果、長手方向の長さとして好ましい寸法は、マスクの厚み〜40mm程度であることが分かった。
請求項1〜請求項4に記載の発明は、上記の知見に基づく発明である。
即ち、請求項1に記載の発明は、
酸化物超電導層が設けられた薄膜超電導線材を作製する際に使用される薄膜超電導線材用の中間層付基板の製造方法であって、
長尺の配向金属基板と対向して配置されたターゲットの表面をスパッタリングしてスパッタ粒子を跳び出させ、
跳び出した前記スパッタ粒子を、前記配向金属基板と前記ターゲットとの間に平行に配置された衝突・回折部材や雰囲気ガスに衝突させることにより回折させ、前記配向金属基板上に到達させて、
前記配向金属基板上に中間層を成膜する
ことを特徴とする薄膜超電導線材用の中間層付基板の製造方法である。
そして、請求項2に記載の発明は、
前記衝突・回折部材が、スリット穴の位置が重ならないように配置されたスリット穴を有する2枚以上のマスクにより構成されていることを特徴とする請求項1に記載の薄膜超電導線材用の中間層付基板の製造方法である。
そして、請求項3に記載の発明は、
前記2枚以上のマスクにおいて、隣接する2枚のマスクのスリット穴が長手方向および幅方向において異なる位置に配置されていることを特徴とする請求項2に記載の薄膜超電導線材用の中間層付基板の製造方法である。
そして、請求項4に記載の発明は、
前記スリット穴の長手方向の長さが、マスクの厚み〜40mmであることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の薄膜超電導線材用の中間層付基板の製造方法である。
次に、請求項5に記載の発明は、
前記中間層が、シード層であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の薄膜超電導線材用の中間層付基板の製造方法である。
即ち、薄膜超電導線材の作製に際しては、一般に、中間層は単層ではなく、複数の層で構成される。例えば、基板側から順に、c軸配向したセラミック層を形成させるためのシード層、金属元素の拡散を防止するためのバリア層、配向金属基板を構成する金属と酸化物超電導体との格子定数をマッチングさせるためのキャップ層の3層からなる中間層が設けられる。
上記の方法を用いて複数層を積層させた中間層を形成する場合、積層する中間層全ての形成に上記の方法を適用しても良いが、一部の中間層に適用するだけでも良い。
この場合、シード層は軟らかい金属基板上に形成されるため、硬いセラミックス層であるシード層の上にバリア層を形成する場合や、バリア層の上にキャップ層を形成する場合に比べ、結晶配向度が良好な中間層を形成するという本発明の効果を特に顕著に発揮させることができる。
請求項6に記載の発明は、
Ar/H雰囲気下、前記スパッタリングを行うことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の薄膜超電導線材用の中間層付基板の製造方法である。
Ar/H雰囲気下でスパッタリングを行うことにより、本発明の効果を顕著に発揮させながら基板の酸化を抑制することができるため好ましい。
請求項7に記載の発明は、
0.1Pa以上の圧力下、前記スパッタリングを行うことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の薄膜超電導線材用の中間層付基板の製造方法である。
0.1Pa以上の圧力下でスパッタリングを行うことにより、本発明の効果を顕著に発揮させながら放電を維持することができるため好ましい。
請求項8に記載の発明は、
3.3W/cm以下のRF電力密度の下、前記スパッタリングを行うことを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の薄膜超電導線材用の中間層付基板の製造方法である。
3.3W/cm以下のRF電力密度の下でスパッタリングを行うことにより、本発明の効果を顕著に発揮させながらアーク放電を抑制して成膜することができるため好ましい。
請求項9に記載の発明は、
前記配向金属基板の移動速度が、1〜20m/hであることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の薄膜超電導線材用の中間層付基板の製造方法である。
配向金属基板の移動速度を、1〜20m/hに制御することにより、本発明の効果を顕著に発揮させながら膜厚を制御することができるため好ましい。
請求項10に記載の発明は、
請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の薄膜超電導線材用の中間層付基板の製造方法を用いて製造されていることを特徴とする薄膜超電導線材用の中間層付基板である。
上記の各製造方法を用いて製造されることにより、結晶配向度が良好な中間層が形成された中間層付基板を提供することができる。
請求項11に記載の発明は、
配向金属基板上に、以下に定義されるΔχが8.3°以下の中間層が形成されていることを特徴とする薄膜超電導線材用の中間層付基板である。
但し、Δχとは、長尺方向に沿いかつ長尺方向と所定の角度θを成すθ方向からX線を測定対象に入射させ、回折したX線が2次元ディテクターで検出されたときのχ方向のピーク半価幅を角度で表した指標をいう。ここで、χ方向はθ方向に対して垂直方向を指す。
中間層等の配向性については、従来より測定対象にX線を入射させ、回折したX線を測定(X線回折法)した値を測定対象の配向性を示す指標としていた。具体的には、測定対象から試料を切り取り、切り取った試料を試料台に載置して入射X線、試料、検出器の位置を動かしながら測定するΔω(面外配向性の指標)や、Δφ(面内配向性の指標)が用いられていた。
しかし、これらの指標の測定に際しては、測定用の試料をサンプリングする(切り取る)必要があり、またサンプリングした箇所の配向性しか分からないため、長尺の中間層付基板における配向性の指標としては必ずしも適切とは言えなかった。
そこで、このような試料のサンプリングを必要とせず、連続的に配向性を測定する方法について検討した。
その結果、前記したX線回折法による測定において、長尺方向に沿いかつ長尺方向と所定の角度θを成すθ方向からX線を測定対象に入射させ、回折したX線が2次元ディテクターで検出されたときのχ方向のピーク半価幅を測定することにより配向性を連続的に適切に測定できることが分かり、このピーク半価幅を角度で表した値をΔχと定義した。ここで、χ方向はθ方向に対して垂直方向を指す。
この指標Δχは、前記したΔωやΔφと同様に値が小さいほど配向性が良いことを示しており、ΔωやΔφの測定のように、試料やディテクターを回転させる必要がないため、配向性を容易に的確に把握することができる。また、中間層付基板の長尺方向に搬送しながら測定することによって、100μm以上の大きな結晶粒径を有する配向金属基板でも充分な数の結晶粒を評価することができ、長尺方向に繰り返し測定することにより長尺方向の配向性のばらつきを知ることができる。
そして、このようなΔχを指標として用い、中間層の各層を指標Δχを用いて管理することにより、超電導特性に優れた薄膜超電導線材用の中間層付基板を提供することができる。
本発明者は、Δχが8.3°以下となるように制御して形成された中間層は結晶配向度が良好であり、超電導特性に優れた薄膜超電導線材用の中間層付基板を提供することができることを見出した。そして、このような中間層付基板は、例えば、上記の各製造方法を用いることにより、容易に作成することができる。
請求項12に記載の発明は、
請求項10または請求項11に記載の薄膜超電導線材用の中間層付基板上に、酸化物超電導層が設けられていることを特徴とする薄膜超電導線材である。
結晶配向度が良好な中間層の上に酸化物超電導層を形成することにより、結晶配向度が良好な酸化物超電導層が得られ、優れた超電導特性を有する薄膜超電導線材を提供することができる。
請求項13に記載の発明は、
前記酸化物超電導層の以下に定義されるΔχが、8.3°以下であることを特徴とする請求項12に記載の薄膜超電導線材である。
但し、Δχとは、長尺方向に沿いかつ長尺方向と所定の角度θを成すθ方向からX線を測定対象に入射させ、回折したX線が2次元ディテクターで検出されたときのχ方向のピーク半価幅を角度で表した指標をいう。ここで、χ方向はθ方向に対して垂直方向を指す。
酸化物超電導層は中間層上にエピタキシャル成長して形成されるため、酸化物超電導層の結晶配向度はキャップ層における結晶配向度を引き継いでいる。
前記したように、Δχは結晶配向度の指標として用いることができ、キャップ層におけるΔχを8.3°以下に制御して、酸化物超電導層のΔχを8.3°以下に制御することにより、より結晶配向度が良好な酸化物超電導層が得られ、優れた超電導特性を有する薄膜超電導線材を提供することができる。
本発明によれば、従来より高い超電導特性を有する薄膜超電導線材を作製することができる技術を提供することができる。
本発明の一実施の形態の中間層の形成に用いるマスクの形状を模式的に示す平面図である。 本発明の一実施の形態の中間層の形成方法を説明する斜視図である。 薄膜超電導薄膜線材用の中間層付基板の中間層の一般的な構成を示す断面図である。
以下、実施の形態に基づき、本発明を具体的に説明する。
本実施の形態における中間層付基板の製造は下記の手順により行われる。
1.配向金属基板の準備
はじめに、図3に示す中間層付基板4のうち配向金属基板41を準備する。配向金属基板41としては、例えば、Ni−Fe合金、ステンレス、その他Niを含む合金、Cuや銅合金、これらを複合させたクラッド基板が用いられ、中でもクラッド基板が好ましく、特に、Cuを下地としてその上にNiの層を設けた例えばNi/Cu/SUSクラッド基板が好ましい。
2.中間層の形成
(1)中間層の構成
次に中間層の形成方法について説明する。中間層は、例えば図3で示す3層構造を有しており、シード層42a、バリア層42b、キャップ層42cの各層は、それぞれ例えばY、YSZ、CeOからなり、各層の厚みは50〜300nm、100〜400nm、5〜150nmである。
(2)中間層の形成方法
これらの層はスパッタ法を用いて前記した配向金属基板上に順次成膜され、積層される。図2は本発明の一実施の形態の中間層の形成方法を説明する斜視図である。
図2において、1はマスクであり、2はターゲットホルダーであり、3は基板テーブルであり、Bは配向金属基板(基板)であり、Tはターゲットある。また11、12は上下の各マスクであり、それぞれスリット穴が設けられている。11aは上側に配置されたマスク11に設けられたスリット穴である。
スパッタリング中、配向金属基板Bは基板テーブル3に接触した状態で移動速度1〜20m/hで搬送されながら成膜される。
マスク11、12は配向金属基板Bより幅広であり、本実施の形態においては、マスク11とマスク12のそれぞれのスリット穴11aおよび12aは、それぞれのマスクの長手方向に沿って所定の間隔で複数列(図1では2列)、複数個(図1ではそれぞれの列に各3個)設けられている。
そして図2に示すように、2枚のマスク11、12が、配向金属基板BとターゲットTとの間に所定の間隔を隔てて、配向金属基板B、ターゲットTと重なる位置に配置されている。
図1は本実施の形態における2枚のマスク11、12の形状を模式的に示す平面図であり、それぞれのマスクのスリット穴11a、12aの配置位置を示している。図1に示すように、マスク11と12では長手方向におけるスリット穴の有無が、相互に反転しており、即ちスリット穴11aと12aが重ならないように配置されている。
その結果、ターゲットTから叩き出された原料粒子は直接には配向金属基板Bの表面に到達せずマスク11、12や雰囲気ガスで衝突、回折してエネルギーが低減された状態で配向金属基板Bの表面(図1では下側の面)に到達して堆積する。
特に本実施の形態においては、図1に示すように、各々のマスク11、12において長手方向に複数のスリット穴11a、12aが設けられ、2枚のマスクのスリット穴11a、12aの位置が長手方向および幅方向において相互に反転して現れるように配置することにより、即ちスリット穴11aと12aが重ならないように配置することにより、幅方向における膜厚ムラの発生を充分に抑制することができる。このような方法を採用する場合、1種類のマスクを作製し、片方のマスクを反転させて配置することにより、容易に上下にスリット穴位置が重ならないようにすることができる。
スリット穴11aと12aのマスク11、12の長手方向の長さは、スパッタに際して長すぎると幅方向の膜厚ムラができるため充分に短い長さに設定されていることが好ましい。具体的には長さがマスクの厚み〜40mmの例えば長方形が好適である。
スパッタを行う際の雰囲気は、Ar、Ar/Hなどの雰囲気であって、圧力が0.1Pa以上の雰囲気下で行うことが好ましい。また、RF電力密度は、3.3W/cm以下であることが好ましい。このような条件でスパッタを行うことにより、適切に放電を抑制して、より結晶配向度を小さくすることができる。
本実施の形態の中間層の形成方法は、前記3層のいずれの層の形成にも適用可能であり、3層全ての層の形成に適用することが好ましい。また、いずれか1層または2層に適用する場合は、少なくとも一番最下層、即ちシード層42a(図3参照)の形成に適用することが好ましい。これは、前記した通り、シード層は軟らかい金属基板上に形成されるため、結晶配向度が良好な中間層を形成するという本発明の効果を特に顕著に発揮させることができるからである。
また、形成させた中間層の表面のX線回折ピークの半価幅(Δχ)は、8.3°以下であることが好ましい。
次に、実施例に基づき、本発明をより具体的に説明する。本実施例は、Ni/Cu/SUSクラッド基板上にY層(シード層)、YSZ層(バリア層)、CeO層(キャップ層)の3層からなり、各層の厚みがそれぞれ200nm、200nm、100nmである中間層付基板を製造した実施例である。
1.薄膜超電導線材用の中間層付基板の製造
(1)配向金属基板
まず、Ni層、Cu層、SUS層の厚さがそれぞれ3μm、20μm、150μmのNi/Cu/SUSクラッド基板(幅30mm×長さ5m)を用意した。
(2)中間層の形成
(実施例1〜8)
次に、クラッド基板のNi層上に、以下の条件の下、雰囲気圧力、RF電力密度を変えて、スパッタ法によりY層(シード層)、YSZ(バリア層)、CeO層(キャップ層)を順に形成した。また、これら3層の全ての形成に際しては、上記の実施の形態に記載した図1に示す上下2枚のマスクを使用した。
スパッタ条件
ターゲット材 :CeOおよび、YSZ
マスク :材質SUS製、厚み5mm、
形状は図1、図2の形状であり、幅10cm、長さ40cm
スリット穴の幅15mm、スリット穴の長さ40mm、
スリット穴の幅方向の間隔4mm、長手方向の間隔5mm
配向金属基板と上側マスクとの間隔 :20mm
上下のマスク同士の間隔 :20mm
下側マスクとターゲットとの間隔 :20mm
雰囲気 :Ar/H、圧力は表1に記載の通り
配向金属基板とターゲットのRF電力:表1に記載の通り
(周波数13.56MHz、出力1.2kW)
(実施例9)
層(シード層)の形成に際してのみ2枚のマスクを使用し、YSZ層(バリア層)、CeO層(キャップ層)の形成に際してマスクを使用しなかったこと以外は実施例4と同じ条件で中間層を形成した。
(比較例1)
中間層の形成に際して、マスクを使用しなかったこと以外は実施例1と同じ配向金属基板を用い、同じ条件下で中間層を形成した。
(比較例2)
中間層の各層の形成に際して、図1に示した2枚のマスクのうち1枚のマスクのみを使用したこと以外は、実施例1と同じ条件下で中間層を形成した。
2.薄膜超電導線材用の中間層付基板の評価
(1)評価方法
イ.膜厚ムラ
薄膜X線回折装置により中間層形成後のキャップ層の膜厚を測定し、キャップ層の表面の膜厚ムラの有無を調べた。
ロ.結晶配向度
実施例1〜9、比較例1、2のCeO層(キャップ層)の結晶配向度をΔχにより評価した。各層の成膜後におけるΔχの分布の大きさを基に配向度ムラの有無を調べた。具体的には、X線回折ピークの半価幅(Δχ)を求め、Δχの大きさに基づいて結晶配向度を評価した。
また、併せてY層(シード層)のΔχも求めた。具体的には、X線回折法を用いてキャップ層を10cm区間連続測定して得られたΔχにより評価した。なお、X線源にはCuを用い、θ−2θ法で評価した。ディテクターには球面状のディテクターを用いた。
(2)評価結果
実施例、比較例の評価結果をまとめて表1に示す。
なお、形成されたYBCO酸化物電導層におけるΔχを上記と同様に測定したが、キャップ層におけるΔχと同じであった。
Figure 2014077166
表1より、3層すべての形成に際して2枚のマスクを使用した実施例1〜8は、膜厚ムラ、配向度ムラが共になかった。そして、シード層の形成に際してのみ2枚のマスクを使用した実施例9は、シード層ではΔχが6.2°であったが、キャップ層成膜後は配向度ムラが発生して、Δχが6.5°に増加した。また、実施例1〜9は、Δχが8.3°以下と小さく、結晶配向度が高いことが分かる。
そして、実施例4の条件で移動速度のみを0.1〜20m/hの間で変化させて成膜したところ、0.1〜1m/hで配向度にムラがみられたが、1m/h以上では配向度にムラはみられなかった。
一方、マスクを使用しなかった比較例1は、結晶配向度が低いことが分かる。これは、基板表面や形成中の層に高エネルギー粒子が表面に当ったためである。
また、1枚のマスクを使用した比較例2は、膜厚ムラがあり、Δχは比較例1より小さいが、配向度ムラがあることが分かる。これは、スリット穴に面した部分に局部的に原料粒子が多く堆積すると共に、高エネルギー粒子が表面に当ったためである。
また、実施例1〜9のうちでは雰囲気圧力が0.1Pa以上である実施例2〜9、およびRF電力が3.3w/cm以下である実施例1〜7、9がΔχがより小さく、雰囲気圧力、印加電圧が共に前記範囲内にある実施例2〜7、9がより一層Δχが小さいことが分かる。
また、雰囲気圧力、RF電力が同じ、実施例4と実施例9を比較すると実施例4の方がΔχが小さく、シード層の形成時のみでなく、3層の全ての形成に2枚のマスクを使用した場合にΔχをより小さくできることが分かるが、シード層の形成時のみマスクを使用してもΔχが小さくなることが分かる。
3.薄膜超電導線材の評価
次に、マスクの使用条件の他は同じスパッタリング条件(雰囲気圧力、RF電力)で作製した実施例4、9および比較例1、2の各中間層付基板の中間層上に、FF−MOD法を用いて厚み0.5μmのYBCO酸化物電導層を形成して薄膜超電導線材を作製し、その後、温度77Kにおいて四端子法を用いてJcを測定することにより、各薄膜超電導線材の超電導特性を評価した。
測定の結果、実施例4、9の薄膜超電導線材におけるJcが、それぞれ、2.5MA/cm、2.4MA/cmであったのに対して、比較例1、2の薄膜超電導線材におけるJcは、それぞれ、1.1MA/cm、1.8MA/cmであり、マスクを使用したことによりJcが向上することが分かる。
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることができる。
1、11、12 マスク
2 ターゲットホルダー
3 基板テーブル
4 中間層付基板
11a、12a スリット穴
41 配向金属基板
42a シード層
42b バリア層
42c キャップ層
B 配向金属基板
T ターゲット

Claims (13)

  1. 酸化物超電導層が設けられた薄膜超電導線材を作製する際に使用される薄膜超電導線材用の中間層付基板の製造方法であって、
    長尺の配向金属基板と対向して配置されたターゲットの表面をスパッタリングしてスパッタ粒子を跳び出させ、
    跳び出した前記スパッタ粒子を、前記配向金属基板と前記ターゲットとの間に平行に配置された衝突・回折部材や雰囲気ガスに衝突させることにより回折させ、前記配向金属基板上に到達させて、
    前記配向金属基板上に中間層を成膜する
    ことを特徴とする薄膜超電導線材用の中間層付基板の製造方法。
  2. 前記衝突・回折部材が、スリット穴の位置が重ならないように配置されたスリット穴を有する2枚以上のマスクにより構成されていることを特徴とする請求項1に記載の薄膜超電導線材用の中間層付基板の製造方法。
  3. 前記2枚以上のマスクにおいて、隣接する2枚のマスクのスリット穴が長手方向および幅方向において異なる位置に配置されていることを特徴とする請求項2に記載の薄膜超電導線材用の中間層付基板の製造方法。
  4. 前記スリット穴の長手方向の長さが、マスクの厚み〜40mmであることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の薄膜超電導線材用の中間層付基板の製造方法。
  5. 前記中間層が、シード層であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の薄膜超電導線材用の中間層付基板の製造方法。
  6. Ar/H雰囲気下、前記スパッタリングを行うことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の薄膜超電導線材用の中間層付基板の製造方法。
  7. 0.1Pa以上の圧力下、前記スパッタリングを行うことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の薄膜超電導線材用の中間層付基板の製造方法。
  8. 3.3W/cm以下のRF電力密度の下、前記スパッタリングを行うことを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の薄膜超電導線材用の中間層付基板の製造方法。
  9. 前記配向金属基板の移動速度が、1〜20m/hであることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の薄膜超電導線材用の中間層付基板の製造方法。
  10. 請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の薄膜超電導線材用の中間層付基板の製造方法を用いて製造されていることを特徴とする薄膜超電導線材用の中間層付基板。
  11. 配向金属基板上に、以下に定義されるΔχが8.3°以下の中間層が形成されていることを特徴とする薄膜超電導線材用の中間層付基板。
    但し、Δχとは、長尺方向に沿いかつ長尺方向と所定の角度θを成すθ方向からX線を測定対象に入射させ、回折したX線が2次元ディテクターで検出されたときのχ方向のピーク半価幅を角度で表した指標をいう。ここで、χ方向はθ方向に対して垂直方向を指す。
  12. 請求項10または請求項11に記載の薄膜超電導線材用の中間層付基板上に、酸化物超電導層が設けられていることを特徴とする薄膜超電導線材。
  13. 前記酸化物超電導層の以下に定義されるΔχが、8.3°以下であることを特徴とする請求項12に記載の薄膜超電導線材。
    但し、Δχとは、長尺方向に沿いかつ長尺方向と所定の角度θを成すθ方向からX線を測定対象に入射させ、回折したX線が2次元ディテクターで検出されたときのχ方向のピーク半価幅を角度で表した指標をいう。ここで、χ方向はθ方向に対して垂直方向を指す。
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