(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る表示体100を示す図であって、(a)は平面図を示し、(b)は(a)のA−A線に沿った断面図を示す。この図1(a)及び(b)において、xy方向は、表示体100の面内方向であり、z方向は透明基板20の一方の面20aの法線方向である。
図1(a),(b)に示すように、表示体100の形状は、平板形状である。但し、表示体100は、その形状を平板形状とする場合に限らず、その用途に応じて、平坦なフィルム形状、平坦なシート形状(相対的に厚みの薄い順に、フィルム、シート、板と呼称する)とすることもでき、また平坦な形状に代えて、湾曲形状、立体形状を呈したフィルム形状、シート形状、板形状とすることもできる。
表示体100は、透明基板20と、第1の反射防止層30と、絵柄層40と、を備える。
透明基板20としては、表示体100の形状に応じた形状や、表示体100の用途に応じた厚さ及び強度を有する透明な各種材料が用いられ、例えばソーダ硝子、カリ硝子、鉛ガラス等の硝子、アクリル板、各種透明樹脂、PLZT等のセラミックス、石英、螢石等の各種透明無機材料等が用いられる。
第1の反射防止層30は、所謂モスアイ(moth eye)構造を有している。即ち、第1の反射防止層30は、表面30aに複数の微小突起5(微小突起群とも言う)が密接して配置され、隣接する微小突起5の間隔d(図16参照)が、反射防止を図る電磁波の波長帯域の最短波長Λmin以下(d≦Λmin)である。このような条件を満たしていれば、第1の反射防止層30としては公知のものを用いることができる。
第1の反射防止層30は、裏面30bが透明基板20の一方の面20aに接合されている。
絵柄層40は、第1の反射防止層30の表面30aに設けられて、文字、数字、図形、模様、パターン、柄などの絵柄を表示する。図1(b)の例では、絵柄層40は、図形を表示している。表示体100は、この絵柄により、例えば、商品名、店舗名乃至施設名、各種コード、符号、記号、装飾絵柄、広告、標識、案内などを表示する。絵柄層40は、例えば、インキ、塗料や金属薄膜などを用いて形成されている。
第1の反射防止層30と絵柄層40は、絵柄付きフィルム35を構成している。なお、「絵柄付きフィルム」には、「絵柄付きシート」等と呼ばれ得る部材も含まれる。
図2は、本発明の第1の実施形態に係る表示体100の一変形例を示す断面図である。図2に示すように、絵柄層40は、第1の反射防止層30の裏面30b、即ち図2の例では透明基板20の一方の面20a側に設けられている。図示は省略するが、絵柄層40は、表面30aと裏面30bの両方に設けられても良い。
次に、表示体100の製造方法について説明する。まず、第1の反射防止層30が予めシート状に形成されている場合について説明する。
この場合、まず、絵柄層40を第1の反射防止層30の表面30aと裏面30bの少なくとも何れかに形成して、絵柄付きフィルム35を得る。絵柄層40を第1の反射防止層30の表面30aに形成する場合、微小突起5が損傷しないよう、インキを用いて、インクジェット法などの非接触の印刷法により形成することが好ましい。
絵柄層40を第1の反射防止層30の裏面30bに形成する場合には、非接触の印刷法以外の各種形成方法を用いてもよい。例えば、グラビア印刷、シルクスクリーン印刷、オフセット印刷などの各種印刷法を用いてもよい。また、塗料を塗工してもよく、蒸着やスパッタを用いてアルミニウム、真鍮等の金属薄膜を形成してもよい。尚、絵柄層40を第1の反射防止層30の裏面3b上に印刷する場合に於いても、印刷中に表面30a側の微小突起5が損傷することを防止する為、反射防止總30の微小突起形成側面(表面30a)上に公知の保護フィルム(マスキングフィルム)を假接着した状態で印刷し、印刷後該保護フィルムを剥離除去することが好ましい。
次に、透明基板20を絵柄付きフィルム35上に積層する。斯かる積層は、例えば、絵柄付きフィルム35の裏面30b(微小突起非形成面)上に透明樹脂を有機溶剤に溶解してなる樹脂液を所望の厚みに塗工し、溶剤を乾燥除去して該樹脂液を固化せしめ、該塗膜を透明基板20とせしめる、いわゆるキャスティング法で行う。このようにして、表示体100が得られる。
別の製造方法として、透明基板20上に未硬化で液状の紫外線硬化性樹脂を塗布して樹脂層を形成し、該樹脂層を賦型処理して硬化せしめ、これにより表面30aに微小突起5が密接して配置された第1の反射防止層30を透明基板20上に形成してもよい。
この場合、次に、絵柄層40を第1の反射防止層30の表面30aに、上述した非接触の印刷法により形成する。これにより、表示体100が得られる。
なお、絵柄層40を第1の反射防止層30の裏面30bに形成する場合には、絵柄層40は紫外線硬化性樹脂の塗布前に透明基板20上に形成しておけばよい。
このような表示体100によれば、第1の反射防止層30により、正面方向(z方向)からの入射光に対する屈折率を表示体100の厚み方向(z方向)に連続的に変化させ、これにより屈折率の不連続界面を消失させて反射防止を図ることができる。従って、第1の反射防止層30と空気との界面での周囲光の反射が反射光を視認困難な程度(例えば、約0.5%以下の反射率)にまで低減するので、反射光が絵柄層40の絵柄に重畳することがなく、絵柄が鮮明に視認可能となる。
また、透明基板20の絵柄層40が設けられていない領域は視認され難いので、視覚的効果として、絵柄層40の絵柄が立体的に浮出しているように(空中に浮かんでいるように)視認できる。
絵柄層40は、第1の反射防止層30の表面30aと裏面30bの何れに設けられても、同様の効果が得られる。なお、裏面30bに設けられた絵柄層40は、物体や空気などが接触し難いため、表面30aに設けられた絵柄層40と比較して、劣化し難いという効果もある。
このような表示体100の用途として、例えば、店舗のショーウィンドウ、陳列ケースの窓、店舗や事務所等の窓、天窓、扉、透明な壁乃至間仕切、車輛、船舶、航空機等の乗物の窓、額縁の硝子板、透明な瓶、透明な箱、透明な包装容器等を挙げることができる。
(第2の実施形態)
本実施形態は、反射防止層が透明基板20の両面に設けられている点が、第1の実施形態と異なる。
図3は、本発明の第2の実施形態に係る表示体100を示す断面図である。図4は、本発明の第2の実施形態に係る表示体100の一変形例を示す断面図である。図3,4に示すように、表示体100は、透明基板20の第1の反射防止層30が配置された側とは反対側において、裏面31bが透明基板20の他方の面20bに接合された第2の反射防止層31を備える。第2の反射防止層31は、第1の反射防止層30と同じ構成を有し、即ち表面31aに微小突起が密接して配置され、隣接する微小突起の間隔が、反射防止を図る電磁波の波長帯域の最短波長以下である。
図3の表示体100では、絵柄層40は、第1の反射防止層30の表面30aに設けられ、図4の表示体100では、絵柄層40は、第1の反射防止層30の裏面30bに設けられている。その他の構成は、図1又は図2の第1の実施形態と同一であるため、説明を省略する。
本実施形態の表示体100によれば、透明基板20の両面に第1及び第2の反射防止層30,31が設けられているので、第1の実施形態よりも反射光を低減でき、絵柄がより鮮明に視認可能となる。つまり、第1の実施形態では、第1の反射防止層30が配置されていない透明基板20の他方の面20bでの反射光が生じる可能性があるが、本実施形態では、第2の反射防止層31の存在により、この反射光も低減できる。
また、第1の実施形態のその他の効果も得られる。
なお、絵柄層40は、第1の反射防止層30のみに設けられる図示した例に限らず、さらに第2の反射防止層31の表面31aと裏面31bの少なくとも何れかに設けられてもよい。このような構成によっても、上述した効果が得られる。
(第3の実施形態)
本実施形態は、接着層50,51を備える点が第2の実施形態と異なる。
図5は、本発明の第3の実施形態に係る表示体100を示す断面図である。図6は、本発明の第3の実施形態に係る表示体100の一変形例を示す断面図である。
図5,6に示すように、表示体100は、第1の反射防止層30と透明基板20との間に配置され、第1の反射防止層30と透明基板20とを接着する接着層50と、第2の反射防止層31と透明基板20との間に配置され、第2の反射防止層31と透明基板20とを接着する接着層51と、を備える。本明細書における接着は、粘着や糊付けを含む概念である。接着層50,51を構成する接着剤としては、粘着剤(感圧接着剤)、2液硬化型接着剤、紫外線硬化型接着剤、熱硬化型接着剤、熱熔融型接着剤等の公知の接着形態のものが各種使用出来る。又、これら接着劑の材料としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ゴム等公知の樹脂から選択し、適宜配合とすれば良い。第1の反射防止層30と絵柄層40と接着層50は、絵柄付きフィルム35を構成している。
図5の表示体100では、絵柄層40は、第1の反射防止層30の表面30aに設けられ、図6の表示体100では、絵柄層40は、第1の反射防止層30の裏面30bに設けられている。その他の構成は、図3又は図4の第2の実施形態と同一であるため、説明を省略する。
本実施形態では、絵柄層40が設けられた第1の反射防止層30に対して、裏面30bに予め接着層50を形成して絵柄付きフィルム35を得て、更に該接着層50表面に離型フィルム(離型紙)を剥離可能に積層してなる接着加工品の形態とすることも出来る。かかる形態においては、離型フィルムを剥離除去して接着層50を露出せしめ、該接着層50により所望の物品の所望の表面上に絵柄付きフィルム35を貼り合わせ、積層することが出来、簡便に所望の物品に表示性能及び反射防止性能を付与することが出来る。
また、第2の実施形態のその他の効果も得られる。
なお、第2の反射防止層31と接着層51を設けなくてもよい。また、第1の反射防止層30と接着層50との間、又は、第2の反射防止層31と接着層51との間に、透明な飛散防止フィルムなどの機能層が設けられていてもよい。
(第1から第3の実施形態の変形例)
絵柄層40は、透明インキを用いて形成されてもよい。透明インキとしては、例えば、可視光の透過率が80%程度のものを用いることができる。
この場合、正面方向(z方向)から表示体100を観察した場合、絵柄層40以外の領域は視認し難く、絵柄層40は視認できる。一方、正面方向に対して所定の角度だけ傾斜した方向から表示体100を観察した場合、絵柄層40以外の領域と絵柄層40が同じように視認され、絵柄層40以外の領域と絵柄層40が区別し難くなるため、絵柄層40は視認し難くなる。即ち、絵柄層40を視認可能な方向を限定できる。
この変形例の絵柄層40を用いてQRコード(登録商標)、ISBNコード等を形成してもよい。
(第4の実施形態)
本実施形態は、第1及び第2の反射防止層(以下、反射防止層と称す)30,31が多峰性の微小突起を有する点が、第1から第3の実施形態と異なる。
公知のモスアイ構造に係る反射防止層30,31は、耐擦傷性に実用上未だ不十分な恐れがある。すなわち表示体100の反射防止層30,31は、例えば他の物体が接触等した場合に、微小突起5の損傷により反射防止機能が局所的に劣化し、また接触個所に白濁、傷等が発生して外観不良が発生する恐れがある。
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ね、頂点を複数有する微小突起(多峰性の微小突起と呼ぶ)を反射防止層30,31に設ける、との独自の着想に至った。なお以下において、多峰性の微小突起との対比により、頂点が1つのみの微小突起を単峰性の微小突起と呼ぶ。また多峰性の微小突起、単峰性の微小突起に係る各頂点を形成する各凸部を、適宜、峰と呼ぶ。
図7は、本発明の第4の実施形態に係る反射防止層30,31を示す図(概念斜視図)である。この反射防止層30,31は、全体形状がフィルム形状により形成された反射防止フィルムである。なお、本実施形態においては、反射防止層30,31以外の表示体100の構成は、第1、第2又は第3の実施形態と同一であるため、図示及び説明を省略する。
ここで反射防止層30,31は、透明フィルムによる基材2の表面に多数の微小突起5、5A、5Bを密接配置して作製される。尚、密接配置された複数の微小突起を総称して微小突起群とも呼称する。ここで基材2は、例えばTAC(Triacetylcellulose)、等のセルロース(纖維素)系樹脂、PMMA(ポリメチルメタクリレート)等のアクリル系樹脂、PET(Polyethylene terephthalate)等のポリエステル系樹脂、PP(ポリプロピレン)等のポリオレフィン系樹脂、PVC(ポリ塩化ビニル)等のビニル系樹脂、PC(Polycarbonate)等の各種透明樹脂フィルムを適用することができる。
反射防止層30,31は、基材2上に、微小突起群からなる微細な凹凸形状の受容層となる未硬化状態の樹脂層(以下、適宜、受容層と呼ぶ)4を形成し、該受容層4を賦型処理して硬化せしめ、これにより基材2の表面に微小突起が密接して配置される。この実施形態では、この受容層4に、賦型処理に供する賦型用樹脂の1つであるアクリレート系紫外線硬化性樹脂が適用され、基材2上に紫外線硬化性樹脂層4が形成される。反射防止層30,31は、この微小突起による凹凸形状により厚み方向に徐々に屈折率が変化するように作製され、モスアイ構造の原理により広い波長範囲で入射光の反射を低減する。
なおこれにより反射防止層30,31に作製される微小突起は、隣接する微小突起の間隔dが、反射防止を図る電磁波の波長帯域の最短波長Λmin以下(d≦Λmin)となるよう密接して配置される。本実施形態では、この最短波長は、個人差を加味した可視光領域の最短波長(380nm)に設定され、間隔dは、ばらつきを考慮して100〜300nmとされる。またこの間隔dに係る隣接する微小突起は、いわゆる隣り合う微小突起であり、基材2側の付け根部分である微小突起の裾の部分が接している突起である。反射防止層30,31では微小突起が密接して配置されることにより、微小突起間の谷の部位を順次辿るようにして線分を作成すると、平面視において各微小突起を囲む多角形状領域を多数連結してなる網目状の模様が作製されることになる。間隔dに係る隣接する微小突起は、この網目状の模様を構成する一部の線分を共有する突起である。
なお微小突起に関しては、より詳細には以下のように定義される。モスアイ構造による反射防止では、透明基材表面とこれに隣接する媒質との界面における有効屈折率を、厚み方向に連続的に変化させて反射防止を図るものであることから、微小突起に関しては一定の条件を満足することが必要である。この条件のうちの1つである突起の間隔に関して、例えば特開昭50−70040号公報、特許第4632589号公報等に開示のように、微小突起が一定周期で規則正しく配置されている場合、隣接する微小突起の間隔dは、突起配列の周期P(d=P)となる。これにより可視光線帯域の最長波長をλmax、最短波長をλminとした場合に、最低限、可視光線帯域の最長波長において反射防止効果を奏し得る必要最小限の条件は、Λmin=λmaxであるため、P≦λmaxとなり、可視光線帯域の全波長に対して反射防止効果を奏し得る必要十分の条件は、Λmin=λminであるため、P≦λminとなる。
なお波長λmax、λminは、観察条件、光の強度(輝度)、個人差等にも依存して多少幅を持ち得るが、標準的には、λmax=780nm及びλmin=380nmとされる。これらにより可視光線帯域の全波長に対する反射防止効果をより確実に奏し得る好ましい条件は、d≦300nmであり、より好ましい条件は、d≦200nmとなる。なお反射防止効果の発現及び反射率の等方性(低角度依存性)の確保等の理由から、周期dの下限値は、通常、d≧50nm、好ましくは、d≧100nmとされる。これに対して突起の高さHは、十分な反射防止効果を発現させる観点より、H≧0.2×λmax=156nm(λmax=780nmとして)とされる。
しかしながらこの実施形態のように、微小突起が不規則に配置されている場合には、隣接する微小突起間の間隔dはばらつきを有することになる。より具体的には、図8に示すように、基材2の表面又は裏面の法線方向から見て平面視した場合に、微小突起が一定周期で規則正しく配列されていない場合、突起の繰り返し周期Pによっては隣接突起間の間隔dは規定し得ず、また隣接突起の概念すら疑念が生じることになる。そこでこのような場合、以下のように算定される。
(1)すなわち先ず、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope;AFM)又は走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)を用いて突起の面内配列(突起配列の平面視形状)を検出する。なお図8は、実際に原子間力顕微鏡により求められた拡大写真である。
(2)続いてこの求められた面内配列から各突起の高さの極大点(以下、単に極大点と呼ぶ)を検出する。なお極大点を求める方法としては、平面視形状と対応する断面形状の拡大写真とを逐次対比して極大点を求める方法、平面視拡大写真の画像処理によって極大点を求める方法、AFMから得られた微小突起群の高さデータの解析等、種々の手法を適用することができる。図9は、図8に示した拡大写真に対応した高さの面内分布データ(図8のAFM画像濃淡データとも大略対応関係は有り)の処理による極大点の検出結果を示す図であり、この図において黒点により示す個所がそれぞれ各突起の極大点である。なおこの処理では4.5×4.5画素のガウシアン特性によるローパスフィルタにより事前に高さデータを処理し、これによりノイズによる極大点の誤検出を防止した。また8画素×8画素による最大値検出用のフィルタを順次スキャンすることにより1nm(=1画素)単位で極大点を求めた。
(3)次に検出した極大点を母点とするドロネー図(Delaunary Diagram)を作成する。ここでドロネー図とは、各極大点を母点としてボロノイ分割を行った場合に、ボロノイ領域が隣接する母点同士を隣接母点と定義し、各隣接母点同士を線分で結んで得られる3角形の集合体からなる網状図形である。各3角形は、ドロネー3角形と呼ばれ、各3角形の辺(隣接母点同士を結ぶ線分)は、ドロネー線と呼ばれる。図10は、図9から求められるドロネー図(白色の線分により表される図である)を図9による原画像と重ね合わせた図である。ドロネー図は、ボロノイ図(Voronoi diagram)と双対の関係に有る。またボロノイ分割とは、各隣接母点間を結ぶ線分(ドロネー線)の垂直2等分線同士によって画成される閉多角形の集合体からなる網状図形で平面を分割することを言う。ボロノイ分割により得られる網状図形がボロノイ図であり、各閉領域がボロノイ領域である。
(4)次に、各ドロネー線の線分長の度数分布、すなわち隣接する極大点間の距離(以下、隣接突起間距離と呼ぶ)の度数分布を求める。図11は、図10のドロネー図から作成した度数分布のヒストグラムである。なお図8、図16に示すように、突起の頂部に溝状等の凹部が存在したり、あるいは頂部が複数の峰に分裂している場合は、求めた度数分布から、このような突起の頂部に凹部が存在する微細構造、頂部が複数の峰に分裂している微細構造に起因するデータを除去し、突起本体自体のデータのみを選別して度数分布を作成する。
具体的には、突起の頂部に凹部が存在する微細構造、頂部が複数の峰に分裂している多峰性の微小突起に係る微細構造においては、このような微細構造を備えてい無い単峰性の微小突起の場合の数値範囲から、隣接極大点間距離が明らかに大きく異なることになる。これによりこの特徴を利用して対応するデータを除去することにより突起本体自体のデータのみを選別して度数分布を検出する。より具体的には、例えば図8に示すような微小突起(群)の平面視の拡大写真から、5〜20個程度の互いに隣接する単峰性微小突起を選んで、その隣接極大点間距離の値を標本抽出し、この標本抽出して求められる数値範囲から明らかに外れる値(通常、標本抽出して求められる隣接極大点間距離平均値に対して、値が1/2以下のデータ)を除外して度数分布を検出する。図11の例では、隣接極大点間距離が56nm以下のデータ(矢印Aにより示す左端の小山)を除外する。なお図11は、このような除外する処理を行う前の度数分布を示すものである。因みに上述の極大点検用のフィルタの設定により、このような除外する処理を実行してもよい。
(5)このようにして求めた隣接突起間距離dの度数分布から平均値dAVG及び標準偏差σを求める。ここでこのようにして得られる度数分布を正規分布とみなして平均値dAVG及び標準偏差σを求めると、図11の例では、平均値dAVG=158nm、標準偏差σ=38nmとなった。これにより隣接突起間距離dの最大値を、dmax=dAVG+2σとし、この例ではdmax=234nmとなる。
なお同様の手法を適用して突起の高さを定義する。この場合、上述の(2)により求められる極大点から、特定の基準位置からの各極大点位置の相対的な高さの差を取得してヒストグラム化する。図12は、このようにして求められる突起付け根位置を基準(高さ0)とした突起高さHの度数分布のヒストグラムを示す図である。このヒストグラムによる度数分布から突起高さの平均値HAVG、標準偏差σを求める。ここでこの図12の例では、平均値HAVG=178nm、標準偏差σ=30nmである。これによりこの例では、突起の高さは、平均値HAVG=178nmとなる。なお図12に示す突起高さHのヒストグラムにおいて、多峰性の微小突起の場合は、頂点を複数有していることにより、1つの突起に対してこれら複数のデータが混在することになる。そこでこの場合は麓部が同一の微小突起に属するそれぞれ複数の頂点の中から高さの最も高い頂点を、当該微小突起の突起高さとして採用して度数分布を求める。
なお上述した突起の高さを測る際の基準位置は、隣接する微小突起の間の谷底(高さの極小点)を高さ0の基準とする。但し、係る谷底の高さ自体が場所によって異なる場合(例えば、図18について後述するように、谷底の高さが微小突起の隣接突起間距離に比べて大きな周期でウネリを有する場合等)は、(1)先ず、基材2の表面又は裏面から測った各谷底の高さの平均値を、該平均値が收束するに足る面積の中で算出する。(2)次いで、該平均値の高さを持ち、基材2の表面又は裏面と平行な面を基準面として考える。(3)その後、該基準面を改めて高さ0として、該基準面からの各微小突起の高さを算出する。
突起が不規則に配置されている場合には、このようにして求められる隣接突起間距離の最大値dmax=dAVG+2σ、突起の高さの平均値HAVGが、規則正しく配置されている場合の上述の条件を満足することが必要であることが判った。具体的には、反射防止効果を発現する微小突起間距離の条件は、dmax≦Λminとなる。最低限、可視光線帯域の最長波長において反射防止効果を奏し得る必要最短限の条件は、Λmin=λmaxであるため、dmax≦λmaxとなり、可視光線帯域の全波長に対して反射防止効果を奏し得る必要十分の条件は、Λmin=λminであるため、dmax≦λminとなる。そして、可視光線帯域の全波長に対する反射防止効果をより確実に奏し得る好ましい条件は、dmax≦300nmであり、更に好ましい条件は、dmax≦200nmである。また反射防止効果の発現及び反射率の等方性(低角度依存性)の確保等の理由から、通常、dmax≧50nmであり、好ましくは、dmax≧100nmとされる。また突起高さについては、十分な反射防止効果を発現する為には、HAVG≧0.2×λmax=156nm(λmax=780nmとして)とされる。
因みに、図8〜図12の例により説明するとdmax=234nm≦λmax=780nmとなり、dmax≦λmaxの条件を満足して十分に反射防止効果を奏し得ることが判る。また可視光線帯域の最短波長λminが380nmであることから、可視光線の全波長帯域において反射防止効果を発現する十分条件dmax≦λminも満たすことが判る。また平均突起高さHAVG=178nmであることにより、平均突起高さHAVG≧0.2×λmax=156nmとなり(可視光波長帯域の最長波長λmax=780nmとして)、十分な反射防止効果を実現するための突起の高さに関する条件も満足していることが判る。なお標準偏差σ=30nmであることから、HAVG−σ=148nm<0.2×λmax=156nmとの関係式が成立することから、統計学上、全突起の50%以上、84%以下が、突起の高さに係る条件(178nm以上)の条件を満足していることが判る。なおAFM及びSEMによる観察結果、並びに微小突起の高さ分布の解析結果から、多峰性の微小突起は相対的に高さの低い微小突起よりも高さの高い微小突起でより多く生じる傾向にあることが判明した。
図13は、この反射防止層30,31の製造工程を示す図である。この製造工程10は、樹脂供給工程において、ダイ12により帯状フィルム形態の基材2に微小突起形状の受容層を構成する未硬化で液状の紫外線硬化性樹脂を塗布する。なお紫外線硬化性樹脂の塗布については、ダイ12による場合に限らず、各種の手法を適用することができる。続いてこの製造工程10は、押圧ローラ14により、反射防止層の賦型用金型であるロール版13の周側面に基材2を加圧押圧し、これにより基材2に未硬化状態で液状のアクリレート系紫外線硬化性樹脂を密着させると共に、ロール版13の周側面に作製された微細な凹凸形状の凹部に紫外線硬化性樹脂を充分に充填する。この製造工程は、この状態で、紫外線の照射により紫外線硬化性樹脂を硬化させ、これにより基材2の表面に微小突起群を作製する。この製造工程は、続いて剥離ローラ15を介してロール版13から、硬化した紫外線硬化性樹脂と一体に基材2を剥離する。製造工程10は、必要に応じてこの基材2に粘着層等を作製した後、所望の大きさに切断して反射防止層30,31を作製する。これにより反射防止層30,31は、ロール材による長尺の基材2に、賦型用金型であるロール版13の周側面に作製された微細形状を順次賦型して、効率良く大量生産される。
図14は、ロール版13の構成を示す斜視図である。ロール版13は、円筒形状の金属材料である母材の周側面に、陽極酸化処理、エッチング処理の繰り返しにより、微細な凹凸形状が作製され、この微細な凹凸形状が上述したように基材2に賦型される。このため母材は、少なくとも周側面に純度の高いアルミニウム層が設けられた円柱形状又は円筒形状の部材が適用される。より具体的に、この実施形態では、母材に中空のステンレスパイプが適用され、直接に又は各種の中間層を介して、純度の高いアルミニウム層が設けられる。なおステンレスパイプに代えて、銅やアルミニウム等のパイプ材等を適用してもよい。ロール版13は、陽極酸化処理とエッチング処理との繰り返しにより、母材の周側面に微細穴が密に作製され、この微細穴を掘り進めると共に、開口部に近付くに従ってより大きな径となるようにこの微細穴の穴径を徐々に拡大して凹凸形状が作製される。これによりロール版13は、深さ方向に徐々に穴径が小さくなる微細穴が密に作製され、反射防止層30,31には、この微細穴に対応して、頂部に近付くに従って徐々に径が小さくなる多数の微小突起により微細な凹凸形状が作製される。その際に、アルミニウム層の純度(不純物量)や結晶粒径、陽極酸化処理及び/又はエッチング処理等の諸条件を適宜調整することによって、本発明特有の微小突起形状とする。
〔陽極酸化処理、エッチング処理〕
図15は、ロール版13の製造工程を示す図である。この製造工程は、電解溶出作用と、砥粒による擦過作用の複合による電解複合研磨法によって母材の周側面を超鏡面化する(電解研磨)。続いてこの工程は、母材の周側面にアルミニウムをスパッタリングし、純度の高いアルミニウム層を作製する。続いてこの工程は、陽極酸化工程A1、…、AN、エッチング工程E1、…、ENを交互に繰り返して母材を処理し、ロール版13を作製する。
この製造工程において、陽極酸化工程A1、…、ANでは、陽極酸化法により母材の周側面に微細な穴を作製し、さらにこの作製した微細な穴を掘り進める。ここで陽極酸化工程では、例えば負極に炭素棒、ステンレス板材等を使用する場合のように、アルミニウムの陽極酸化に適用される各種の手法を広く適用することができる。また溶解液についても、中性、酸性の各種溶解液を使用することができ、より具体的には、例えば硫酸水溶液、シュウ酸水溶液、リン酸水溶液等を使用することができる。この製造工程A1、…、ANは、液温、印加する電圧、陽極酸化に供する時間等の管理により、微細な穴をそれぞれ目的とする深さ及び微小突起形状に対応する形状に作製する。
続くエッチング工程E1、…、ENは、金型をエッチング液に浸漬し、陽極酸化工程A1、…、ANにより作製、掘り進めた微細な穴の穴径をエッチングにより拡大し、深さ方向に向かって滑らか、かつ徐々に穴径が小さくなるように、これら微細な穴を整形する。なおエッチング液については、この種の処理に適用される各種エッチング液を広く適用することができ、より具体的には、例えば硫酸水溶液、シュウ酸水溶液、リン酸水溶液等を使用することができる。これらによりこの製造工程では、陽極酸化処理とエッチング処理とを交互にそれぞれ複数回実行することにより、賦型に供する微細穴を母材の周側面に作製する。
〔耐擦傷性の向上〕
ところでこの陽極酸化処理及びエッチング処理の交互の繰り返しにより微細穴を作製して反射防止層30,31を作製したところ、上述したように耐擦傷性に改善の余地が見られた。そこで反射防止層30,31を詳細に観察したところ、従来のこの種の反射防止層30,31のように、多角錘形状や回転放物面形状のような1つの頂点のみを持つ単峰性の微小突起のみからなり、各頂点の高さも一様に作製されている場合には、例えば他の物体が接触した場合に、広い範囲で微小突起の形状が一様に損なわれ、これにより反射防止機能が局所的に劣化し、また接触個所に白濁、傷等が発生して外観不良が発生することが判った。しかしながらロール版の製造条件を変更すると、このような耐擦傷性が改善されることが判った。
このような耐擦傷性が改善された反射防止層30,31の表面形状をAFM(Atomic Force Microscope:原子間力顕微鏡)及びSEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)により観察したところ、多数の微小突起の中に、頂点を複数有する多峰性の微小突起が存在することが判った。なおここで微細形状の観察のために、種々の方式の顕微鏡が提供されているものの、微細構造を損なわないようにして反射防止層30,31の表面形状を観察する場合には、AFM及びSEMが適している。
図16は、この頂点を複数有する多峰性の微小突起の説明に供する断面図(図16(a))、斜視図(図16(b))、平面図(図16(c))である。なおこの図16は、理解を容易にするために模式的に示す図であり、図16(a)は、連続する微小突起の頂点を結ぶ折れ線により断面を取って示す図である。この図16(b)及び(c)において、xy方向は、基材2の面内方向であり、z方向は微小突起の高さ方向である。反射防止層30,31において、多くの微小突起5は、基材2より離れて頂点に向かうに従って徐々に断面積(高さ方向に直交する面(図16においてXY平面と平行な面)で切断した場合の断面積)が小さくなって、頂点が1つの単峰性微小突起として作製される。しかしながら中には、複数の微小突起が結合したかのように、先端部分に溝gが形成され、頂点が2つになったもの(5A)、頂点が3つになったもの(5B)、さらには頂点が4つ以上のもの(図示略)等からなる多峰性微小突起が存在した。なお単峰性の微小突起5の形状は、概略、回転放物面の様な頂部の丸い形状、或いは円錐の様な頂点の尖った形状で近似することができる。一方、多峰性の微小突起5A、5Bの形状は、概略、単峰性の微小突起5の頂部近傍に溝状の凹部を切り込んで、頂部を複数の峰に分割したような形状で近似される。多峰性の微小突起5A、5Bの形状は、或いは、複数の峰を含み高さ方向(図16ではZ軸方向)を含む仮想的切断面で切断した場合の縦断面形状が、極大点を複数個含み各極大点近傍が上に凸の曲線になる代数曲線Z=a2X2+a4X4+・・+a2nX2n+・・で近似されるような形状である。
このような頂点を複数有する多峰性の微小突起は、単峰性の微小突起に比して、頂点近傍の寸法に対する裾の部分の太さが相対的に太くなる。これにより、多峰性の微小突起は、単峰性の微小突起に比して機械的強度が優れていると言える。これにより頂点を複数有する多峰性の微小突起が存在する場合、反射防止層30,31では、単峰性の微小突起のみによる場合に比して、同じ隣接突起間距離(同じ反射防止性能)でも耐擦傷性がより向上するものと考えられる。さらに、具体的に反射防止層30,31に外力が加わった場合、単峰性の微小突起のみの場合に比して、外力をより多くの頂点で分散して受ける為、各頂点に加わる外力を低減し、微小突起が損傷し難いようにすることができ、これにより反射防止機能の局所的な劣化を低減し、さらに外観不良の発生を低減することができる。また仮に微小突起が損傷した場合でも、その損傷個所の面積を低減することができる。更に、多峰性の微小突起の多くは、最高峰高さ(麓が同じ微小突起に属する最も高い峰の高さ)が突起高さの平均値HAVG以上の微小突起に生じる為、外力を先ず各峰部分が受止めて犠牲的に損傷することによって、該微小突起の峰より低い本体部分、及び該多峰性の微小突起よりも高さの低い微小突起の損耗を防ぐ。これによっても反射防止機能の局所的な劣化を低減し、さらに外観不良の発生を低減することができる。
なお上述した図8〜図12に係る測定結果は、本実施形態に係る反射防止層30,31の測定結果であり、図11に示す度数分布においては、隣接突起間距離d(横軸の値)について、20nm及び40nmの短距離の極大値と120nm及び164nmの長距離の極大値との2種類の極大値が存在する。これらの極大値のうちの長距離の極大値は、微小突起本体(頂部よりも下の中腹から麓にかけての部分)の配列に対応し、一方、短距離の極大値は頂部近傍に存在する複数の頂点(峰)に対応する。これにより極大点間距離の度数分布によっても、多峰性の微小突起の存在を見て取ることができる。
なお多峰性の微小突起は、その存在により耐擦傷性を向上できるものの、充分に存在しない場合には、この耐擦傷性を向上する効果を十分に発揮できないことは言うまでもない。係る観点より、本発明においては、表面に存在する全微小突起中における多峰性の微小突起の個数の比率は10%以上とする。特に多峰性の微小突起による耐擦傷性を向上する効果を十分に奏する為には、該多峰性の微小突起の比率は30%以上、好ましくは50%以上とする。
さらにこのような多峰性の微小突起5A、5Bを含む微小突起群(5、5A、5B、・・)を有する反射防止層30,31を詳細に検討したところ、各微小突起の高さが種々に異なることが判った(図12、図16(a)参照)。なおここで各微小突起の高さとは、上述したように、麓(付け根)部を共有するある特定の微小突起について、その頂部に存在する最高高さを有する峰(最高峰)の高さを言う。図16(a)の微小突起5の如くの単峰性の微小突起の場合は、頂部における唯一の峰(極大点)の高さが該微小突起の突起高さとなる。また図16(a)の微小突起5A、5Bのような多峰性の微小突起の場合は、頂部に在る麓部を共有する複数の峰のうちの最高峰の高さをもって該微小突起の高さとする。このように微小突起の高さが種々に異なる場合には、例えば物体の接触により高さの高い微小突起の形状が損なわれた場合でも、高さの低い微小突起においては、形状が維持されることになる。これによっても反射防止層30,31では、反射防止機能の局所的な劣化を低減し、さらには外観不良の発生を低減することができ、その結果、耐擦傷性を向上することができる。
また反射防止層30,31表面の微小突起群と物体との間に塵埃が付着すると、当該物体が反射防止層30,31に対して相対的に摺動した際に、該塵埃が研磨剤として機能して微小突起(群)の磨耗、損傷が促進されることになる。この場合に、微小突起群を構成する各微小突起間に高低差が有ると、塵埃は高さの高い微小突起に強く接触し、これを損傷させる。一方で低高さの微小突起との接触は弱まり、高さの低い微小突起については損傷が軽減され、無傷ないしは軽微な傷で残存した高さの低い微小突起によって反射防止性能が維持される。
またこれに加えて、各微小突起の高さに分布(高低差)の有る微小突起群は、反射防止性能が広帯域化され、白色光のような多波長の混在する光、あるいは広帯域スペクトルを持つ光に対して、全スペクトル帯域で低反射率を実現するのに有利である。これは、かかる微小突起群によって良好な反射防止性能を発現し得る波長帯域が、隣接突起間距離dの他に、突起高さにも依存する為である。
またこの場合には、多数の微小突起のうちの高さの高い微小突起のみが、例えば反射防止層30,31と対向するように配置された各種の部材表面と接触することになる。これにより高さが同一の微小突起のみによる場合に比して格段的に滑りを良くすることができ、製造工程等における反射防止層30,31の取り扱いを容易とすることができる。なおこのように滑りを良くする観点から、ばらつきは、標準偏差により規定した場合に、10nm以上必要であるものの、50nmより大きくなると、このばらつきによる表面のざらつき感が感じられるようになる。従ってこの高さのばらつきは、10nm以上、50nm以下であることが好ましい。
またこのように多峰性の微小突起が混在する場合には、単峰性の微小突起のみによる場合に比して反射防止の性能を向上することができる。すなわち図8、図16、及び図17等に示すような多峰性の微小突起5A、5B等は、隣接突起間距離が同じ場合であっても、また突起高さが同じ場合であっても、単峰性の微小突起と比べて、より光の反射率が低減することになる。その理由は、多峰性の微小突起5A、5B等は、頂部より下(中腹及び麓)の形状が同じ単峰性の微小突起よりも、頂部近傍における有効屈折率の高さ方向の変化率が小さくなる為である。
すなわち図16において、z=0を高さH=0とおき、高さ方向(Z軸方向)に直交する仮想的切断面Z=zで微小突起5、5A等を切断したと仮定した場合の面Z=zにおける微小突起と周辺の媒質(通常は空気)との屈折率の平均値として得られる有効屈折率nefは、切断面Z=zにおける周辺媒質(ここでは空気とする)の屈折率をnA=1、微小突起5、5A、・・の構成材料の屈折率をnM>1とし、又周辺媒質(空気)の断面積の合計値をSA(z)、微小突起5、5A、・・の断面積の合計値をSM(z)としたとき、
nef(z)=1×SA(z)/(SA(z)+SM(z))+nA×SM(z)/(SA(z)+SM(z))(式1)
で表される。これは、周辺媒質の屈折率nA及び微小突起構成材料の屈折率nMを、各々周辺媒質の合計断面積SA(z)及び微小突起の合計断面積の合計値SM(z)で比例配分した値となる。
ここで、単峰性の微小突起5を基準にして考えたときに、多峰性の微小突起5A、5B、・・は、頂部近傍が複数の峰に分裂している。そのため、頂部近傍を切断する仮想的切断面Z=zにおいて、多峰性の微小突起5A、5B、・・は、単峰性の微小突起5、・・に比べて相対的に低屈折率である周辺媒質の合計断面積SA(z)の比率が、相対的に高屈折率である微小突起の合計断面積SM(z)の比率に比べて、より増大することになる。
その結果、仮想的切断面Z=zにおける有効屈折率nef(z)は、多峰性の微小突起5A、5B、・・の方が単峰性の微小突起5、・・に比べて、より周辺媒質の屈折率nAに近くなる。面Z=zにおける多峰性の微小突起の有効屈折率と周辺媒質の屈折率との差を|nef(z)−nA(z)|multi、単峰性の微小突起の有効屈折率と周辺媒質の屈折率との差を|nef(z)−nA(z)|monoとすると、
|nef(z)−nA(z)|multi<|nef(z)−nA(z)|mono(式2)
となる。ここでnA(z)=1とすると、
|nef(z)−1|multi<|nef(z)−1|mono(式2A)
となる。
これにより頂部近傍において、多峰性の微小突起を含む微小突起群(各微小突起間に周辺媒質を含む)については、単峰性の微小突起のみからなる突起群に比べて、その有効屈折率と周辺媒質(空気)の屈折率との差、より詳細に言えば、微小突起の高さ方向の単位距離当たりの屈折率の変化率をより低減化すること、換言すれば、屈折率の高さ方向変化の連続性をより高めること)が可能になることが判る。
一般に、隣接する屈折率n0の媒質と屈折率n1の媒質との界面に光が入射する場合に、該界面における光の反射率Rは、入射角=0として、
R=(n1−n0)2/(n1+n0)2(式3)
となる。この式より界面両側の媒質の屈折率差n1−n0が小さいほど界面での光の反射率Rは減少し、(n1−n0)が値0に近づけばRも値0に近づくことになる。
(式2)、(式2A)及び(式3)より、多峰性の微小突起5A、5B、・・を含む微小突起群(各微小突起間に周辺媒質を含む)については、単峰性の微小突起5、・・のみからなる突起群に比べて光の反射率が低減する。
なお単峰性の微小突起5のみからなる微小突起群を用いても、隣接突起間距離の最大値dmaxを反射防止を図る電磁波の波長帯域の最短波長λmin以下の十分小さな値にすることによって、十分な反射防止効果を発現することは可能である。但し、その場合、隣接峰間の距離と隣接微小突起間距離とが同一となる為、隣接微小突起間が接触、一体複合化する現象(いわゆるスティッキング)が発生し易くなる。スティッキングを生じると、実質上の隣接突起間距離dは一体複合化した微小突起数の分だけ増加する。
例えば、d=200nmの微小突起が4個スティッキングすると、実質上、スティッキングして一体化した突起の大きさは、d=4×200nm=800nm>可視光線帯域の最長波長(780nm)となり、これにより局所的に反射防止効果を損なうことになる。
一方、多峰性の微小突起5A、5B、・・からなる微小突起群の場合、頂部近傍の各峰間の隣接突起間距離dPEAKは、麓から中腹にかけての微小突起本体部の隣接突起間距離dBASEよりも小さくなり(dPEAK<dBASE)、通常、dPEAK=dBASE/4〜dBASE/2程度である。その為、各峰間の隣接突起間距離dPEAK≪λminとすることで十分な反射防止性能を得ることができる。但し、多峰性の微小突起の各峰部は、麓部の幅に対する峰部の高さの比が小さく、単峰性の微小突起の麓部の幅に対する頂点の高さの比の1/2〜1/10程度である。従って、同じ外力に対して、多峰性微小突起の峰部は単峰性の微小突起に比べての変形し難い。且つ、多峰性微小突起の本体部自体は峰部よりも隣接突起間距離は大であり、且つ強度も大である。その為、結局、多峰性の微小突起からなる微小突起群は、単峰性の微小突起からなる突起群に比べて、スティッキングの生じ難さと低反射率とを容易に両立させることができる。
なお可視光の反射防止用途の他の用途であっても、又は可視光環境下であっても、当該反射防止材料が設置、使用される環境条件に応じて、想定する反射防止波長に応じたモスアイ構造を形成し、高さ分布を持たせる事により、前記の通り、従来のものより耐擦性があり、かつ、プロセス要件などで低硬度の材料を使用した場合においても互いのスティッキングを防止し、光学的必要性能を合わせ持つ反射防止材料を作製する事が可能となる。例えば、380nm前後の紫外領域について反射防止性能を得たい場合はモスアイの高さが約50μmでも可能であり、同様に700nm前後の赤外領域については約150μm〜実用上を考慮し400μmであれば可能である。なお、前記の通りモスアイの配置ピッチについては高さについて飽和するような製作条件を見出し、モスアイの反射率を効果的に操作する事が可能である。さらに、モスアイの頂部構造についても、従来の単峰から改良を加える事で高さと反射率を両立し、かつ物理的にスティッキングを起こしにくく、効果的に反射率を低減する事が可能となっている。
ところでこのような微小突起の作製に供するロール版では、陽極酸化処理とエッチング処理との交互の繰り返しにより、穴径を拡大しながら微細穴を掘り進め、これにより微小突起の賦型に供する微細穴が作製される。多峰性の微小突起は、係る構造の頂部に対応する形状の凹部を備えた微小穴により作成されるものであり、このような微小穴は、極めて近接して作製された微細穴が、エッチング処理により、一体化して作製されると考えられる。これにより多峰性の微小突起と単峰性の微小突起とを混在させるには、陽極酸化により作製される微細穴の間隔を大きくばらつかせることにより実現することができ、陽極酸化処理におけるばらつきを大きくすることにより実現することができる。
また微細穴の高さのばらつきは、ロール版に作製される微細穴の深さのばらつきによるものであり、このような微細穴の深さのばらつきについても、陽極酸化処理におけるばらつきに起因するものと言える。
これらによりこの実施形態では、ばらつきが大きくなるように、陽極酸化処理における条件を設定し、頂点が複数の微小突起と単峰性の微小突起とが混在し、かつ微小突起の高さがばらついた反射防止層30,31を生産する。
ここで陽極酸化処理における印加電圧(化成電圧)と微細穴の間隔とは比例関係にあり、さらに一定範囲より印加電圧が逸脱するとばらつきが大きくなる。これにより濃度0.01M〜0.03Mの硫酸、シュウ酸、リン酸の水溶液を使用して、電圧15V(第1工程)〜35V(第2工程:第1工程に対して約2.3倍)の印加電圧により、多峰性の微小突起と単峰性の微小突起とが混在し、かつ微小突起の高さがばらついた反射防止層30,31生産用のロール版を作製することができる。なお印加電圧が変動すると、微細穴の間隔のばらつきが大きくなることにより、例えば直流電源によりバイアスした交流電源を使用して印加用電圧を生成する場合等、印加電圧を意図的に変動させてもよい。また電圧変動率の大きな電源を使用して陽極酸化処理を実行してもよい。
図17は、頂点が複数の微小突起を示す写真であり、図17(a)は、AFMによるものであり、図17(b)及び(c)は、SEMによるものである。図17(a)では、溝g及び3つの頂点を有する微小突起、及び溝g及び2つの頂点を有する微小突起を見て取ることができ、図17(b)では、溝g及び4つの頂点を有する微小突起、及び溝g及び2つの頂点を有する微小突起を見て取ることができ、図17(c)では、溝g及び3つの頂点を有する微小突起、溝g及び2つの頂点を有する微小突起を見て取ることができる。なおこの図17は、水温20℃、濃度0.02Mのシュウ酸水溶液を適用し、印加電圧40Vにより120秒、陽極酸化処理を実行したものである。またエッチング処理には、第1工程に同上陽極酸化液、第2工程に水温20℃、濃度1.0Mのリン酸水溶液を適用した。陽極酸化処理とエッチング処理との回数は、それぞれ3(〜5)回である。
以上の構成によれば、頂点が複数からなる多峰性の微小突起と頂点が1つの単峰性の微小突起とを混在させることにより、従来に比して反射防止層30,31の耐擦傷性を向上することができる。
またさらに微小突起の高さに分布を持たせることにより、滑り性を向上することができる。
その上、表示体100において、第1、第2又は第3の実施形態と同様に絵柄が鮮明に視認可能となる。
(他の実施形態)
以上、本発明の実施に好適な具体的な構成を詳述したが、本発明は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上述の実施形態の構成を種々に変更し、さらには従来構成と組み合わせることができる。
すなわち上述の第4の実施形態では、陽極酸化処理とエッチング処理との繰り返し回数をそれぞれ3(〜5)回に設定する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、繰り返し回数をこれ以外の回数に設定してもよく、またこのように複数回処理を繰り返して、最後の処理を陽極酸化処理とする場合にも広く適用することができる。
また上述の第4の実施形態では、賦型用樹脂にアクリレート系の紫外線硬化性樹脂を適用する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、エポキシ系、ポリエステル系等の各種紫外線硬化性樹脂、或いはアクリレート系、エポキシ系、ポリエステル系等の電子線硬化性樹脂、ウレタン系、エポキシ系、ポリシロキサン系等の熱硬化性樹脂等の各種材料及び各種硬化形態の賦型用樹脂を使用する場合にも広く適用することができ、さらには例えば加熱した熱可塑性の樹脂を押圧して賦型する場合等にも広く適用することができる。
また、賦型用樹脂として次に説明するような材料を用いてもよい。
以上で例示したショーウィンドウ等に使用する様な用途においては、反射防止層30,31の表面への汚れ、また室内等であっても観察時あるいは作業時における触接の指紋による油性汚れなどは避ける事が困難である。
通常、防汚性、指紋ふき取り性を改善するには材料にフッ素系等の防汚剤を添加する手法や、最表面に防汚層を形成する手法が一般に用いられる。これは表面の濡れ性を制御するものであり、汚れをつきにくくする効果がある。しかしこれらの手法は平滑な表面に対しては一定の効果を発揮するものの、本反射防止機能を有するモスアイ(反射防止層30,31)においては、その微細な凹凸形状及びそれに由来する高い比表面積に起因して、汚れが微細凹凸の隙間に付着しやすく除去しにくいという本質的な課題が存在する。
ここで、汚れが付着してもきれいにふき取ることができれば実使用での不具合を大幅に軽減することができるが、微細凹凸に入り込んだ汚れを乾拭きでふき取ることは難しく、通常はアルコールなどを含んだクリーナー等でふき取ることが多い。しかし乾拭きできることへの要望は高い。
この汚れのふき取りにくさは表面形状に起因するため、一般的な防汚剤を材料に添加しても防汚効果は小さく、またモスアイ表面に追加で防汚剤層を形成する場合には、微細凹凸表面上に均一な防汚剤の層を形成するのが難しいという課題がある。
しかしながら、ふき取る際にモスアイ表面に一定の圧力がかかることに着目すると、ふき取る際の力で微細凹凸が変形して突起間の溝が広がる乃至溝が埋まるような材料設計にすることにより、溝に詰まった汚れを機械的に掻き出しやすくすることが可能である。このような材料としては、ふき取る程度の圧力で変形し、かつ塑性変形を起こさず弾性復元する特性が必要であり、例えばゴム弾性を持った樹脂、高復元樹脂、などが使用可能である。単純に変形しやすい(軟らかい)樹脂であるだけでは、モスアイの凹凸が圧力で潰れたりスティッキングしたりしやすく乾拭きの痕が残ってしまうため、材料の形状復元性が重要である。
復元性を持った材料としては活性エネルギー線硬化性樹脂として、例えば分子中にジエン等のゴム構造を有した成分や、トリデシルアクリレート、ドデシルアクリレート等の長鎖アルキル基を含むアクリレート成分を有したものなどが使用可能であるが、もちろんこれらに限定されない。硬化後の樹脂の物性は硬化条件に多分に影響されるため、実際には硬化した後の材料物性が重要である。
上記の復元性樹脂による汚れのふき取りやすさ向上はモスアイ形状起因のふき取りにくさを改善するものであるため、一般的な防汚対策で用いられているような、表面の濡れ性(表面エネルギー)制御による防汚効果と複合させることもできる。例えば材料の濡れ性を悪くすることで、汚れを溝から掻き出しやすくする設計にもでき、汚れに対して濡れ易く調整することで、汚れを効果的に薄く押し広げて目立たなくさせる設計にもできる。
例えば、好ましい形態の1例として、反射防止層30、31の少なくとも微小突起群の部分を、分子中に炭素数10以上の長鎖アルキル基を含むアクリレート系活性エネルギー線硬化性樹脂を含む硬化物から構成し、微小突起群を有する表面30a、31aを、水に対する接触角を50度以上、且つn−ヘキサデカンに対する接触角を10度以下となる所謂撥水新油性とする形態を挙げることが出来る。此の形態は、特に、指紋の易拭取性を向上させる效果が期待出来る。
濡れ性の調整は添加剤や樹脂組成の変更で行うのが一般的であるが、微細突起の機械物性を損なわない範囲でモスアイ構造形成後に表面処理をしてもよい。また、モスアイ版(賦型用金型)からの離型性を改善するために離型剤を添加してもよい。
また、上述の第4の実施形態では、図7に図示の如く、基材2の一方の面上に受容層(紫外線硬化性樹脂層)4を積層してなる積層体の該受容層4上に微小突起群5、5A、5B、・・を賦形し、該受容層4を硬化せしめて反射防止層30,31を形成している。層構成としては2層の積層体となる。但し、本発明は、かかる形態のみに限定される訳では無い。第4の実施形態の反射防止層30,31は、図1等に示したように、基材2の一方の面上に、他の層を介さずに直接、微小突起群5、5A、5B、・・を賦形した単層構成であっても良い。或いは、図示は略すが、基材2の一方の面に1層以上の中間層(層間の密着性、塗工適性、表面平滑性等の基材表面性能を向上させる層。プライマー層、アンカー層等とも呼称される。)を介して受容層4を形成し、該受容層表面に微小突起群5、5A、5B、・・を賦形した3層以上の積層体であっても良い。
また、図示は略すが、図7等に図示の如き第4の実施形態の反射防止層30,31に絵柄層40を設けて絵柄付きフィルム35を形成しておき、微小突起群5、5A、5B、・・形成面上に剥離可能な保護フィルムを仮接着した状態で保管、搬送、売買、後加工乃至施工を行い、しかる後に適時、該保護フィルムを剥離除去する形態とすることも出来る。かかる形態においては、保管、搬送等の間に微小突起群が損傷乃至は汚染して反射防止性能が低下することを防止することが出来る。
また、上述の第4の実施形態では、図7、図16(a)に示すように、各隣接微小突起間の谷底(高さの極小点)を連ねた面は高さが一定な平面であったが、本発明はこれに限らず、図18に示すように、各微小突起間の谷底を連ねた包絡面が、可視光線帯域の最長波長λmax以上の周期D(すなわちD>λmaxである)でうねった構成としてもよい。又該周期的なうねりは、基材2の表裏面に平行なXY平面(図16、図18参照)における1方向(例えばX方向)のみでこれと直交する方向(例えばY方向)には一定高さであっても良いし、或いはXY平面における2方向(X方向及びY方向)共にうねりを有していても良い。D>λmaxを満たす周期Dでうねった凹凸面6が多数の微小突起からなる微小突起群に重畳することによって、微小突起群で完全に反射防止し切れずに残った反射光を散乱し、殘留反射光、とくに鏡面反射光を更に視認し難くし、以って、反射防止効果を一段と向上させることができる。
尚、係る凹凸面6の周期Dが前面に渡って一定では無く分布を有する場合は、該凹凸面について凸部間距離の度数分布を求め、その平均値をDAVG、標準偏差をΣとしたときの、
DMIN=DAVG―2Σ
として定義する最小隣接突起間距離を以って周期Dの代わりとして設計する。即ち、微小突起群の殘留反射光の散乱効果を十分奏し得る条件は、
DMIN>λmax
である。通常、D又はDMINは1〜200μm、好ましくは10〜100μmとされる。
各微小突起の谷底を連ねた包絡面形が、D(又はDMIN)>λmax、なる凹凸面6を呈する樣な微小突起群を形成する具体的な製造方法の一例を挙げると以下の通りである。即ち、ロール版13の製造工程において、円筒(又は円柱)形状の母材の表面にサンドブラスト又はマット(つや消し)メッキによって凹凸面6の凹凸形状に対応する凹凸形状を賦形する。次いで、該凹凸形状の面上に、直接或いは必要に応じて適宜の中間層を形成した後、アルミニウム層を積層する。その後、該凹凸形状表面に対応した表面形状を賦形されたアルミニウム層に上述の実施形態と同様にして陽極酸化処理及びエッチング処理を施して微小突起5、5A、5Bを含む微小突起群を形成する。
また上述の第4の実施形態では、ロール版を使用した賦型処理により帯状フィルム形状による反射防止層30,31を生産する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、反射防止層30,31の形状に係る透明基材の形状に応じて、例えば平板、特定の曲面形状による賦型用金型を使用した枚葉の処理により反射防止層30,31を作成する場合等、賦型処理に係る工程、金型は、反射防止層30,31の形状に係る透明基材の形状に応じて適宜変更することができる。
またさらに、上述の第1から第4の実施形態においては、反射防止を図る電磁波の波長帯域を、専ら、可視光線帯域(の全域又は一部帯域)としたが、本発明はこれに限らず、反射防止を図る電磁波の波長帯域を赤外線、紫外線等の可視光線以外の波長帯域に設定しても良い。その場合は前記の各条件式中において、電磁波の波長帯域の最短波長Λminを、それぞれ、赤外線、紫外線等の波長帯域における反射防止効果を希望する最短波長に設定すれば良い。例えば、最短波長Λminが850nmの赤外線帯域の反射防止を希望する場合は、隣接突起間距離d(乃至は其の最大値dmax)を850nm以下、例えば、d(dmax)=800nmと設計すれば良い。尚、この場合は、可視光線帯域(380〜780nm)に於いては反射防止効果は期待し得ず、專ら波長850nm以上の赤外線に対しての反射防止効果を奏する反射防止層30,31が得られる。
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。この実施例は、第3の実施形態に対応する。この実施例では、反射防止層30,31を反射防止フィルムと称する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
[反射防止フィルム製造用金型の作製]
純度99.50%の圧延されたアルミニウム板を、小さいうねりとして表面粗さRzが30nm、大きいうねりが1μmとなるように研磨後、0.02Mシュウ酸水溶液の電解液中で、化成電圧40V、20℃の条件にて120秒間、陽極酸化を実施した。次に、第一エッチング処理として、陽極酸化後の電解液で60秒間エッチング処理を行った。続いて、第二エッチング処理として、1.0Mリン酸水溶液で150秒間孔径処理を行った。さらに、上記処理を繰り返し、これらを合計5回追加実施した。これにより、アルミニウム基板上に陽極酸化アルミニウム膜が形成された。最後に、フッ素系離型剤を塗布し、余分な離型剤を洗浄することで、反射防止フィルム製造用金型を得た。
[反射防止フィルム用樹脂の作製]
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)20重量部、アロニックスM―260(商品名;東亜合成社製)70重量部、ヒドロキシエチルアクリレート10重量部、及び、光開始剤としてルシリン(商品名;TPO社製)3重量部を溶解させ、活性エネルギー線硬化性組成物(紫外線硬化型樹脂組成物)を得た。
[反射防止フィルムの作製]
紫外線硬化型樹脂組成物を、上記で得られた反射防止フィルム製造用金型の表面が覆われ、厚さ20μmとなるように塗布・充填し、その上に光透過性基板(基材2)として厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルム(富士フィルム社製)を斜めから貼り合わせた後、貼り合わせられた貼合体をゴムローラーで10N/cmの加重で圧着した。金型全体に均一な組成物が塗布されたことを確認し、フィルム側から2000mJ/cm2のエネルギーで紫外線を照射して紫外線硬化型樹脂組成物を硬化させた。その後、金型より剥離し反射防止フィルムを得た。
[絵柄の作製]
市販のインクジェットプリンターを用いて、反射防止フィルムの表面または裏面に所定の絵柄の絵柄層40を印刷した。
[ガラスまたはアクリル板への貼合]
ノンキャリア粘着シート(接着層50)としてゲルポリ(パナック社製、登録商標)を使用し、反射防止フィルムをガラス及びアクリル板(透明基板20)に貼り合わせたものを各々1枚ずつ作成した。これにより、表示体100を得た。
(実施例2)
反射防止フィルムの作製の際、使用する光透過性基板(基材2)を厚さ125μmのポリエチレンテレフタラートフィルム(東レ社製)、貼り合わせ時の加重を25N/cmに変更した以外は実施例1と同様にして、表示体100を得た。
(実施例3)
反射防止フィルムの作製の際、使用する光透過性基板(基材2)を厚さ125μmのアクリルフィルム(三菱レイヨン社製)、貼り合わせ時の加重を25N/cmに変更した以外は実施例1と同様にして、表示体100を得た。
上記実施例1から実施例3において得られた表示体100を観察した結果、絵柄が鮮明に視認可能であった。また、絵柄が立体的に浮出して視認できた。