JP2014062635A - 軸受装置 - Google Patents
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Abstract
【解決策】 本発明は、磁性を有する軸部材の軸部の表面に強磁性の粒状微粒子を満遍なく磁気吸着させ、この強磁性の粒状微粒子が軸受部材のすべり面で滑る全く新たな構成からなる軸受装置であって、この軸受装置によって、従来の転がり軸受ないしはすべり軸受が有する課題を根本的に解決させた。
【選択図】図1
Description
この軸受部材は、転がり軸受とすべり軸受とに大別される。転がり軸受は、ボールベアリングの転がりによる玉軸受と、円筒コロ、円錐コロなどの転がりによるコロ軸受とに大別される。転がり軸受では、転動体と呼ばれる転がる部品が軸部材の回転と荷重とを支持する。この転動体は、内輪と外輪との間に挟み込まれ、保持器によって転動体が保持される構造を有するため、すべり軸受より大型でかつ高価である。また、軸部材の高速回転時には、転動体の慣性力が増大して転動体の保持器に過大の負荷を加える。あるいは、静荷重下でも転動体の軌道面には繰り返し応力が印加される。このため、流体潤滑を利用したすべり軸受に比べると寿命は短い。さらに、転動体の転がりによって、静粛性はすべり軸受より劣る。
含油軸受は、焼結体からなる多孔質材料に潤滑油を真空含浸する。真空含浸された潤滑油は、摺接面の摩擦熱で体積膨張し、自らがすべり面に潤滑油を供給する自己給油性を有する。すべり面に滲みでた潤滑油は、すべり面で油膜を形成する。この油膜の存在によって軸部材との焼付きや凝着を防ぐ。そして、軸部材が回転することで、レイノズルの式に基づいて油膜に圧力分布が形成される。油膜の陽圧部では、すべり面に存在する気孔から軸受部材内に潤滑油が入り込み、反対に油膜の負圧部では、軸受部材の気孔から摺接面に潤滑油が吐き出される。こうして、すべり面で形成される油膜の圧力分布によって、すべり面の気孔を介して、すべり面において潤滑油の自己循環が行われる。また、油膜の陽圧部が軸部材を押し上げ、軸部材が油膜によって支えられる。
しかし、含油軸受は、焼結体に設ける内部気孔の体積は30%余りに制限され、内部気孔に含浸できる潤滑油の量に限りがある。この気孔は、焼結体の内部に潤滑油を真空含浸できる構造と、すべり面における潤滑油の自己循環が行われる構造とを兼備するため、焼結体の表面の気孔がすべり面の気孔と連通した構造であるため通気性を有する。この通気性を有する気孔によって、含油軸受が使用できる負荷の領域に制約がもたらされる。また、含浸された潤滑油の性質、例えば粘性および粘性の温度依存性、蒸気圧および蒸気圧の温度依存性、熱分解による潤滑性の劣化などが、すべり軸受の性質として直接反映される。
しかし、すべり面に存在する通気性の気孔によってすべり面の油圧が逃げ、含油軸受が適応できる軸受面圧Pは1MPaまでであるとされている。さらに、高速回転においては、通気性の気孔によってすべり面に供給される潤滑油が過小になり、含油軸受で適応できる軸部材の滑り速度は300m/minが限度であるとされている。また、自動車に搭載された軸受装置の中には、−40℃における始動性と、すべり面の最高温度250℃における連続動作とが求められる軸受装置がある。低温の始動時には、含浸油がすべり面に滲み出にくいため、すべり面の焼付きや凝着が起こりやすくなる。また、低温の始動時には潤滑油の粘性が大きいため摩擦力が過大となり、軸部材の回転力を低減させる。反対に、高温の連続動作では、含浸油がすべり面に滲み出やすくなり、また、潤滑油の蒸気圧が高まって、含浸油が枯渇し易くなる。あるいは、すべり面における潤滑油の熱分解が進行し、潤滑油の潤滑性が損なわれる。このように、含油軸受が適応できる領域には制約がある。
含油軸受では、軸部材の回転速度Nが低下し軸受面圧Pが増大すると、動作時の摩擦係数μは理想的な摩擦係数μから外れて増大する。つまり、低速回転時に軸受面圧Pが増大すると、気孔の通気性によって軸受面圧Pがリークし易くなり、すべり面に油膜が存在しなくなり、部分的に軸部材と軸受部材とが直接接触する境界潤滑の摩擦が支配的になり、軸受部材のすべり面における焼付や凝着が起こり易くなる。
この境界潤滑が起こる摩擦係数をより小さな摩擦係数の領域まで拡大ナる、つまり、流体潤滑の領域を拡大するため、焼結金属に固体潤滑剤である二硫化モリブデンMoS2や黒鉛を添加することによる事例があるが(例えば、特許文献1から4を参照)、流体潤滑の領域が多少広がる効果はあるが、すべり面の気孔の通気性によって流体潤滑が広がる領域に限界がある。
また、潤滑油をすべり面に吸着しやすい性質とし、この吸着活性が高い無極性潤滑油と吸着活性が高い軸受材料とを組み合わせる事例があるが(例えば、非特許文献1および2を参照)、この事例においても、流体潤滑の領域が多少広がる効果はあるが、すべり面の気孔の通気性によって流体潤滑が広がる領域に限界がある。
こうした含油軸受の課題は、含油軸受におけるすべり軸受の原理と含浸される潤滑油の性質に基づくもので、根本的な解決は困難である。このため、含油軸受が適応できない領域では転がり軸受が用いられている。しかし、産業機器の小型化、低価格化の動向によって、含油軸受の高性能化が求められている。
第一に、この部材は、従来の転動体や潤滑油の油膜とは異なる。第二に、この部材は、軸受部材に焼付や凝着を起こさない。第三に、この部材による摩擦力は小さい。第四に、この部材は軸受部材を攻撃しない。第五に、この部材は軸部材から大きな荷重を受けても破壊しない。第六に、この部材は半永久的に軸部材と軸受部材との間隙に存在する。第七に、この部材は軸部材の回転速度の影響を受けない。第八に、この部材は動作温度の影響を受けない。第九に、この部材は、どのような大きさの軸部材ないしは軸受部材に対しても、同様の手段で軸部材の回転と荷重を支持する部材が製造できる。第十に、この部材は安価に製造できる。
この全く新しいコンセプトからなる軸受装置、つまり、磁性を有する軸部材の軸部の表面に満遍なく磁気吸着させた強磁性の粒状微粒子が、軸受部材のすべり面を滑る軸受装置は、次の考えに基づく軸受装置である。前記したように、従来の転がり軸受とすべり軸受とが有する課題は、軸受部材に設けた軸部材の回転と荷重とを支持する部材、つまり、転動体と潤滑油の油膜によって発生した。従って、従来の軸受装置の課題を根本的に解決するには、軸部材の回転と荷重とを支持する部材を、軸受部材から除外するしか手段はない。このため、軸部材の回転と荷重とを支持する部材を、軸受部材から除外し軸部材に設けることによって、従来の軸受装置の課題が根本的に解決できると考えた。この考えを軸受装置として実現するには、軸部材の回転と荷重とを支持する軸部材に設ける新たな部材は、8段落で説明した性質を兼備することが必要となる。これらの性質を兼備させるため、軸部材の軸部の表面に満遍なく強磁性の粒状微粒子を磁気吸着させ、この強磁性の粒状微粒子が軸受部材のすべり面で滑る全く新たな構成からなる軸受装置とした。この軸受装置は、以下に説明するように、8段落で説明した性質を兼備し、従来の転がり軸受とすべり軸受とが持つ課題を根本的に解決することができる。
回転する軸部に磁気吸着した強磁性微粒子が軸受部材のすべり面と接すると、強磁性微粒子は軸部の荷重を、回転する軸部の慣性力の方向の荷重として受ける。この荷重は強磁性微粒子同士の磁気吸着力より大きいが、強磁性微粒子と軸部との磁気吸着力よりは小さい。いっぽう、強磁性微粒子が軸部から受ける荷重は、軸部の回転による慣性力の方向であり、この慣性力は軸部の回転の接線方向であるため、荷重を受けた強磁性微粒子はすべり面で滑る。このため、強磁性微粒子はすべり面を攻撃しない。また、強磁性微粒子が受けた荷重は、強磁性微粒子が滑るエネルギーに変換される。さらに、強磁性微粒子が滑ると、滑る粒子が微粒子であるがゆえに、この強磁性微粒子と隣接した強磁性微粒子が新たにすべり面と接し、回転する軸部の慣性力の方向に荷重を受けて、同様にすべり面で滑る。この新たな強磁性微粒子も、すべり面で滑ることですべり面を攻撃しない。この際、強磁性微粒子が軸部から受けた荷重は、強磁性微粒子が滑ることで滑るエネルギーに変換され、さらに小さな荷重となる。こうした強磁性微粒子がすべり面で滑る連続した現象は、軸部材から受ける荷重が強磁性微粒子同士の磁気吸着力より小さくなるまで連続して起こる。しかし、強磁性微粒子がすべり面で滑ることで、強磁性微粒子はすべり面を攻撃しない。また、強磁性微粒子が滑るため、強磁性微粒子が破壊されることはない。
なお、強磁性微粒子の大きさは、すべり面の面粗さより小さく、サブミクロンより小さい粒状粒子からなる。このため、軸部材から受ける荷重が強磁性微粒子同士の磁気吸着力より小さくなるまで、連続して強磁性微粒子がすべり面と接して滑る。また、強磁性微粒子の大きさは、軸部とすべり面とが形成する間隙に比べて充分に小さい。このため、軸部の表面に満遍なく磁気吸着した強磁性微粒子は、強磁性微粒子がランダムにすべり面と接し、特定の強磁性微粒子が継続的に負荷を受けることはなく、強磁性微粒子は損傷しない。
また、強磁性微粒子はすべり面と接する際に、回転する軸部に作用する慣性力の方向に軸部の荷重を受けるが、強磁性微粒子が粒状の微粒子であるため、荷重を受ける面積が微小である点接触に近い接触で荷重を受ける。さらに、強磁性微粒子が受けた軸部の荷重は、強磁性微粒子が滑るエネルギーに変換される。強磁性微粒子がすべり面と接する際に発生する摩擦力は、接触面積と荷重の大きさに応じて発生するので、摩擦力は小さく、接触による不要な摩耗や熱や音は発生しない。また、強磁性微粒子はすべり面を点接触に近い接触で接触した直後に滑るため、すべり面での焼付や凝着は起きない。
さらに、強磁性微粒子が滑る際に、瞬間的に強磁性微粒子同士の磁気吸着から僅かに離れる。あるいは、軸部材の高速回転時にも、強磁性微粒子は強磁性微粒子同士の磁気吸着から一瞬僅かに離れる。しかし、軸部とすべり面とが形成する間隙は狭く、この狭い間隙には軸部に磁気吸着した無数の強磁性微粒子が発する磁力が常時存在し、また軸部との磁気吸引力とが常時作用するため、磁気吸着から僅かに離れた強磁性微粒子は、瞬時に強磁性微粒子と再び磁気吸着する。このように、強磁性微粒子同士は軸部材の回転速度によらず磁気吸着し、かつ、軸部に磁気吸着した状態を維持するため、強磁性微粒子が継続して軸部材の回転と荷重を支持する。さらに、強磁性微粒子は固体であるため蒸発しない。このため、強磁性微粒子は半永久的に軸部材に磁気吸着する。
以上に説明したように、本発明の第1特徴構成によれば、8段落で説明した軸部材の回転と荷重とを支持する部材として必要な性質のうち、第1から第7の性質を兼備する軸受装置になる。
なお軸部材の材質は、従来、機械構造用炭素鋼の炭素の含有量が0.25wt%から0.45wt%のS25CからS45Cや、炭素量が0.45wt%以上の炭素鋼ないしはニッケルクロム鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼、クロム鋼、クロムモリブデン鋼などの合金鋼が用いられている。また、耐薬品性が要求される特殊な軸受装置では、軸部材はマルテンサイト系ステンレス鋼が用いられている。これらの軸部材は強磁性の性質を持つので、従来の材質で軸部材を構成すれば、軸部の表面に強磁性微粒子が満遍なく磁気吸着する。また、軸受部材のすべり面を構成する部品の材質は、従来、黄銅、青銅などの銅合金や、バビットメタルと呼ばれる錫銅合金、錫アンチモン銅合金、鉛アンチモン錫合金や、ケルメットと呼ばれる銅鉛合金や、カドミウム合金やアルミニウム合金、ないしは合成樹脂が用いられている。これらの材質は非磁性体であるため、強磁性微粒子がすべり面に磁気吸着することはない。このため、強磁性微粒子の一部がすべり面に移動して磁気吸着し、これによって、軸部に磁気吸着した強磁性微粒子が滑る現象が阻害され、この滑らない強磁性微粒子によってすべり面が攻撃されることはない。従って、従来の材質ですべり面を構成すればよい。このように、軸部材と軸受部材とは、従来の材質から構成すればよく、特段に高価な材質は全く不要である。
さらに、軸部材と軸受部材とのはめあい公差は、すべり面の内径公差がH7で、軸部の外径公差がf6ないしはe6であるため、軸部とすべり面との間には最低でも25μmの隙間が形成される。いっぽう、軸部材の軸部に磁気吸着する強磁性微粒子の大きさは、サブミクロンより小さい。このため、軸部材に軸受部材を組み付ける際に、強磁性微粒子が軸部から剥がれることはない。
なおマグヘマイトは、大気中の450℃以上の温度で酸化鉄(III)のα相であるヘマタイトα−Fe2O3に相転移する。ヘマタイトはフェリ磁性ではなく弱強磁性であるため、ヘマタイト微粒子同士の磁気吸着力と軸部材への磁気吸着力とが低減し、軸部材の稼動時に軸部の表面からヘマタイトが脱落する可能性がある。しかし、軸部材が軸受部材のすべり面と摺接する際の最高温度は250℃程度であるため、マグヘマイトが相転移することはない。
すなわち、熱分解によって酸化鉄(II)FeOを生成する有機鉄化合物を溶媒に分散させ、この分散液に軸部材の軸部を浸漬し、この後溶媒を気化させると、軸部材の軸部の表面に有機鉄化合物が吸着する。この軸部材を大気雰囲気で熱処理する。熱処理温度が有機鉄化合物を構成する有機物の沸点を超えると、有機物と酸化鉄(II)FeOに熱分解する。さらに熱処理温度を上げると、有機物は気化熱を奪って気化する。いっぽう酸化鉄(II)FeOは、2価の鉄イオンFe2+が3価の鉄イオンFe3+になる酸化反応が温度上昇に伴って進む。この2価の鉄イオンFe2+が3価の鉄イオンFe3+になる酸化反応において、酸化鉄(II)FeOを構成する2価の鉄イオンFe2+が3価の鉄イオンFe3+になるためマグネタイトになる。つまり、酸化鉄(II)FeOを構成する2価の鉄イオンFe2+が3価の鉄イオンFe3+になってFe2O3になり、組成式がFeO・Fe2O3のマグネタイトFe3O4になる。こうした2価の鉄イオンFe2+が3価の鉄イオンFe3+になる酸化反応が軸部材の軸部の表面で進行するため、マグネタイトFe3O4は軸部材の軸部の表面に粒状微粒子として満遍なく析出して磁気吸着する。なぜならば、有機鉄化合物を軸部の表面に吸着させたからである。
さらに昇温すると、マグネタイトFeO・Fe2O3を構成するFeOにおける2価の鉄イオンFe2+の全てが3価の鉄イオンFe3+になって酸化鉄(III)Fe2O3を形成する。この酸化鉄(III)Fe2O3は、マグネタイトFe3O4と同様の立方晶系の結晶構造をとるため、酸化鉄(III)Fe2O3はγ相のマグヘマイトγ−Fe2O3になる。こうしたマグネタイトFeO・Fe2O3における2価の鉄イオンFe2+が3価の鉄イオンFe3+になる酸化反応が完了すると、マグヘマイトγ−Fe2O3は軸部の表面に粒状微粒子として満遍なく析出して磁気吸着する。
なお、有機鉄化合物の熱分解で生成されるマグヘマイトは、酸化鉄(II)の酸化によって生成されるため、針状粒子ではなく粒状粒子として析出する。従来技術においては、マグヘマイトγ−Fe2O3は針状粒子として生成される。つまり、硫酸第一鉄ないしは硫酸第二鉄のアルカリ性の水溶液に大気を送って反応させると、針状粒子であるゲータイトと呼ばれる水酸化鉄(III)α−FeOOHが析出する。このゲータイトを、水素ガスの雰囲気で一度脱水させてヘマタイトα−Fe2O3とし、さらに、還元してマグネタイトFe3O4を生成する。この後、マグネタイトを大気中でゆっくりと加熱酸化させると、針状のマグヘマイト粒子が生成される。針状粒子からなるマグヘマイトは、軸受部材のすべり面で滑りにくいため、軸部に磁気吸着させる強磁性微粒子としては適さない。さらに、針状のマグヘマイト粒子を析出する製造工程は、有機鉄化合物の熱処理だけで粒状のマグヘマイト粒子を析出する製造工程に比べ、より多くの複雑な製造工程が必要になるため製造費用が高い。
前記したカルボン酸鉄ないしはアセチルアセトン鉄は、汎用的なカルボン酸ないしは汎用的な有機物と鉄との化合物であるため、合成が簡単で安価な工業用薬品である。安価な工業用薬品を軸部材の軸部に吸着させ、この軸部材を大気中で熱処理するだけで、軸部材の軸部にマグネタイトないしはマグヘマイトの粒状微粒子が磁気吸着するため、安価な製造費用で新たな軸受装置が製造できる。このため、本特徴構成によって、8段落で説明した10項目の全ての性質を兼備する軸受装置が実現できる。
すなわち、第1の製造工程は、有機鉄化合物を容器に充填し、これに有機溶媒を加えて撹拌するだけの工程である。これによって、有機鉄化合物が有機溶媒に分散された分散液が作成できる。第2の製造工程は、容器に軸部材の集まりからなる軸部材の軸部を浸漬するだけの工程である。これによって、軸部に有機鉄化合物の分散液が接触する。第3の製造工程は、容器の温度を有機溶媒の沸点まで昇温するだけの工程である。これによって、全ての軸部材の軸部に有機鉄化合物が吸着する。第4の製造工程は、大気雰囲気において、容器の温度を酸化鉄(II)がマグネタイトないしはマグヘマイトに酸化する反応が進む温度まで昇温するだけの工程である。これによって、容器内にある全ての軸部材の軸部の表面にマグネタイトないしはマグヘマイトからなる粒状微粒子が磁気吸着する。
次に、容器を図1に示した熱処理を連続して行う。最初に、容器は120℃に設定された低温焼成室Aに一定時間入り、有機鉄化合物のn−ブタノール分散液におけるn−ブタノールが気化し、気化したn−ブタノールは回収機Cで回収する。これによって、有機鉄化合物が軸部の表面に吸着する。さらに、容器は高温焼成室Bに入る。高温焼成室Bは、相対的に低い温度に設定される低温焼成部B1と、相対的に高い温度に設定される高温焼成部B2とからなる。低温焼成部B1は、有機鉄化合物を構成する有機物の沸点より若干高い温度まで昇温され、この後一定時間この温度に保持される。容器が低温焼成部B1に入ると、軸部の表面に吸着した有機鉄化合物が有機物と酸化鉄(II)とに熱分解する。これによって、軸部の表面に酸化鉄(II)が析出する。熱分解で生成された有機物は、有機物回収機Dによって回収される。高温焼成部B2は、酸化鉄(II)がマグネタイトないしはマグヘマイトに酸化される温度まで昇温され、この後一定時間この温度に保持される。高温焼成部B2に容器が入ると、酸化鉄(II)がマグネタイトないしはマグヘマイトに酸化され、これによって、マグネタイトないしはマグヘマイトからなる粒状微粒子が軸部の表面に満遍なく磁気吸着する。
以上に説明したように、軸部材の軸部の表面にマグネタイトないしはマグヘマイトからなる粒状微粒子が満遍なく磁気吸着した軸部材を製造する製造工程は、有機鉄化合物のn−ブタノール分散液に軸部材の集まりからなる軸部材の軸部を浸漬させる工程と、この軸部材の集まりを大気雰囲気で熱処理する工程とを連続して行う。また、軸部材を熱処理する工程は3つの連続した熱処理工程からなる。こうした簡単な連続処理で製造するため、軸部材の軸部にマグネタイトないしはマグヘマイトからなる粒状微粒子が満遍なく磁気吸着した軸部材の集まりが、極めて安価な製造費用で製造できる。
図2に、軸部材の軸部の表面に、マグネタイトの粒状微粒子が満遍なく磁気吸着した軸部材を製造する製造工程を示す。最初に、ナフテン酸鉄(II)と軸部材の集まりを用意する(S10工程)。なお、軸部材は構造用炭素鋼の一種で、炭素原子が0.25Vol.%を含むS25Cからなる。軸部材はS25Cに限らず、軸受部材の回転力の大きさに合わせて、炭素量が0.25wt%以上の炭素鋼ないしはニッケルクロム鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼、クロム鋼、クロムモリブデン鋼などの合金鋼を選択すればよい。次に、ナフテン酸鉄(II)をn−ブタノールに対し8重量%の割合になるように秤量し、ナフテン酸鉄(II)をn−ブタノールに混合して撹拌し、ナフテン酸鉄(II)のn−ブタノール分散液を作成し、この分散液を容器に充填する(S11工程)。さらに、ナフテン酸鉄(II)のn−ブタノール分散液に、軸部材の集まりを互いに離間させて軸部を浸漬する(S12工程)。次に、分散液が入った容器を大気雰囲気の熱処理炉に入れる。最初に容器は120℃の低温焼成室Aに5分間入り、n−ブタノールが気化し、気化したn−ブタノールを回収機Cで回収する(S13工程)。これによって、全ての軸受部材の軸部の表面にナフテン酸鉄(II)が吸着する。次に容器は高温焼成室Bに入り、2段階の焼成が行われる。低温焼成部B1は10℃/min.の昇温速度で300℃まで昇温され、300℃に10分間保持される。低温焼成室B1に入った軸部材は、軸部材の軸部に吸着したナフテン酸鉄(II)がナフテン酸と酸化鉄(II)に熱分解し、熱分解によって生成されたナフテン酸が完全に気化し、気化したナフテン酸を回収機Dで回収する(S14工程)。この後、軸部材は高温焼成部B2に入る。高温焼成部B2は300℃から1℃/min.の昇温速度で350℃まで昇温され、350℃に30分間保持される。高温焼成部B2に入った軸部材は、軸部に析出した酸化鉄(II)FeOがマグネタイトFe3O4に酸化され、生成されたマグネタイトFe3O4からなる粒状微粒子は、軸部の表面に満遍なく磁気吸着する(S15工程)。こうして全ての軸部材の軸部の表面は、マグネタイトの粒状微粒子によって満遍なく覆われる。最後に、容器から軸部材の集まりを取り出す(S16工程)。
なお、軸部材の軸部の表面全体にマグネタイトの微粒子が磁気吸着し、本来必要となる軸受部材のすべり面と摺接する軸部の表面以外にもマグネタイトの微粒子が磁気吸着することが問題になる場合は、不要なマグネタイト微粒子に磁石を近づけ、マグネタイト微粒子を磁気吸着によって取り除けば良い。軸部材の軸部に磁気吸着したマグネタイト微粒子は、サブミクロンの大きさより小さいため、こうした微粒子が軸部材の高速回転時に軸部から脱落しても、軸受装置として問題になることは少ない。
最初に、ナフテン酸鉄(II)と軸部材の集まりを用意する(S10工程に相当)。なお、軸部材は構造用炭素鋼の一種で、炭素原子が0.25Vol.%を含むS25Cからなる。次に、ナフテン酸鉄(II)をn−ブタノールに対し8重量%の割合になるように秤量し、ナフテン酸鉄(II)をn−ブタノールに混合して撹拌し、ナフテン酸鉄(II)のn−ブタノール分散液を作成し、この分散液を容器に充填する(S11工程に相当)。さらに、ナフテン酸鉄(II)のn−ブタノール分散液に、軸部材の集まりを互いに離間させて軸部を浸漬する(S12工程に相当)。次に、分散液が入った容器を大気雰囲気の熱処理炉に入れる。最初に容器は120℃の低温焼成室Aに5分間入り、n−ブタノールが気化し、気化したn−ブタノールを回収機Cで回収する(S13工程に相当)。これによって、全ての軸受部材の軸部の表面にナフテン酸鉄(II)が吸着する。次に容器は高温焼成室Bに入る。低温焼成部B1は10℃/min.の昇温速度で300℃まで昇温され、300℃に10分間保持される。低温焼成室B1に入った軸部材は、軸部材の軸部に吸着したナフテン酸鉄(II)がナフテン酸と酸化鉄(II)に熱分解し、熱分解によって生成されたナフテン酸が完全に気化し、気化したナフテン酸を回収機Dで回収する(S14工程に相当)。この後、容器は高温焼成部B2に入る。高温焼成部B2は300℃から1℃/min.の昇温速度で400℃まで昇温され、400℃に30分間保持される。高温焼成部B2に入った軸部材は、軸部に析出した酸化鉄(II)FeOがマグヘマイトγ−Fe2O3に酸化され、生成されたマグヘマイトγ−Fe2O3からなる粒状微粒子は、軸部の表面に満遍なく磁気吸着する(S15工程に相当)。こうして全ての軸部材の軸部の表面は、マグヘマイトの粒状微粒子によって満遍なく覆われる。最後に、容器から軸部材の集まりを取り出す(S16工程に相当)。
実施形態2で説明したように、軸部材の軸部の表面全体にマグヘマイトの微粒子が磁気吸着し、本来必要となる軸受部材のすべり面と摺接する軸部の表面以外にもマグヘマイトの微粒子が磁気吸着することが問題になる場合は、不要なマグヘマイト微粒子に磁石を近づけ、マグヘマイト微粒子を磁気吸着によって取り除けば良い。
最初に、原料となるナフテン酸鉄(II)と溶媒のn−ブタノールと軸部材を用意する。ナフテン酸鉄(II)は、金属石鹸として市販されているナフテン酸鉄(II)(例えば、東栄化工株式会社の製品)を用いた。n−ブタノールは試薬一級品を用いた。軸部材は構造用炭素鋼の一種で、炭素原子が0.25Vol.%を含むS25Cで構成した。
次に、ナフテン酸鉄(II)をn−ブタノールに対し8重量%の割合になるように秤量し、このナフテン酸鉄(II)をn−ブタノールに混合して撹拌し、ナフテン酸鉄(II)のn−ブタノール分散液を作成した。この分散液を容器に充填し、ナフテン酸鉄(II)のn−ブタノール分散液に軸部材の集まりを互いに離間させて軸部を浸漬させた。なお、円盤状の板に多数の穴が設けられた治具を用意し、この治具の穴に軸部材を配置し、この治具をナフテン酸鉄(II)のn−ブタノール分散液が入った容器に配置することで、軸部材の軸部がナフテン酸鉄(II)のn−ブタノール分散液に浸漬する。
さらに、容器を大気雰囲気の熱処理炉に入れて熱処理を行なった。最初に容器を120℃に5分間放置してn−ブタノールを気化させ、気化したn−ブタノールは回収機で回収した。n−ブタノールが気化した後は、全ての軸部材の軸部の表面にナフテン酸鉄(II)が吸着する。次に、10℃/min.の昇温速度で120℃から300℃まで昇温し、さらに300℃に10分間放置して、ナフテン酸鉄(II)をナフテン酸と酸化鉄(II)FeOに熱分解した。熱分解によって生成されたナフテン酸は気化し、気化したナフテン酸は回収機で回収した。この後、300℃から1℃/min.の昇温速度で350℃まで昇温し、さらに350℃に30分間放置して、熱分解で生成された酸化鉄(II)FeOをマグネタイトFe3O4に酸化させた。最後に、マグネタイト微粒子が磁気吸着した軸部材の集まりを治具から取り出した。
次に、前記した条件で製作した軸部材について軸部の観察を行ない、目的とするマグネタイト微粒子が確実に軸部の表面に満遍なく磁気吸着されているかを観察した。最初に、軸部の表面から軸部の一部を試料として取り出し、試料を電子顕微鏡で観察した。電子顕微鏡は、JFEテクノリサーチ株式会社の極低加速電圧SEMを用いた。この装置は100Vからの極低加速電圧による表面観察が可能で、さらに試料に導電性の被膜を形成せずに直接試料の表面が観察できる特徴を有する装置である。反射電子線の900V〜1kVの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行い、試料表面の凹凸を観察した。極めて多数の40nm〜60nmの大きさからなる粒状の微粒子が、試料の表面全体に満遍なく吸着していることが確認できた。次に、特性X線のエネルギーとその強度を画像処理し、試料表面に吸着した粒状微粒子を構成する元素の種類とその分布状態を分析した。鉄原子、酸素原子の双方が表面に均一に存在し、特段に偏在する箇所が見られなかったため、酸化鉄からなる粒状微粒子が吸着していることが確認できた。さらに極低加速電圧SEMの機能にEBSP解析機能を付加し、結晶構造の解析を行なった。この結果から、試料の表面全体に吸着した粒状微粒子がマグネタイトFe3O4であることが確認できた。なおEBSP解析機能とは、試料に電子線を照射したとき、反射電子が試料中の原子面によって回折されることによってバンド状のパターンを形成し、このバンドの対称性が結晶系に対応し、バンドの間隔が原子面間隔に対応しているため、このパターンを解析することで、結晶方位や結晶系を測定する機能をいう。
以上に説明した試料の電子顕微鏡による観察結果から、軸部材の軸部の表面全体に極めて多数のマグネタイトの粒状微粒子が磁気吸着している事実が確認できた。この結果から、前記で説明した条件でナフテン酸鉄(II)を大気中で熱処理することで、軸部の表面にマグネタイト微粒子が満遍なく磁気吸着することが確認できた。この軸部がすべり面と摺動することで、8段落で説明した10項目の全ての性質を兼備する軸受装置となる。
なお、軸受部材は、軸部材の回転力の大きさに応じて、従来における黄銅、青銅などの銅合金や、バビットメタルと呼ばれる錫銅合金、錫アンチモン銅合金、鉛アンチモン錫合金や、ケルメットと呼ばれる銅鉛合金や、カドミウム合金やアルミニウム合金、ないしは合成樹脂軸からなる部材ですべり面を形成すればよい。また、軸受部材とのはめあい公差は、すべり面の内径公差をH7とし、軸部の外径公差をf6ないしはe6とするため、すべり面の内径と軸部の外径とをはめあい公差に基づいて加工すればよい。これによって、軸部とすべり面との間には最低でも25μmの隙間が形成される。いっぽう、軸部に磁気吸着するマグネタイトの大きさは40nm〜60nmであるため、軸部材に軸受部材を組み付ける際にマグネタイト微粒子が軸部からはがされることはない。
最初に、原料となるナフテン酸鉄(II)と溶媒のn−ブタノールと軸部材を用意する。ナフテン酸鉄(II)は、金属石鹸として市販されているナフテン酸鉄(II)(例えば、東栄化工株式会社の製品)を用いた。n−ブタノールは試薬一級品を用いた。軸部材は構造用炭素鋼の一種で、炭素原子が0.25Vol.%を含むS25Cで構成した。
次に、ナフテン酸鉄(II)をn−ブタノールに対し8重量%の割合になるように秤量し、このナフテン酸鉄(II)をn−ブタノールに混合して撹拌し、ナフテン酸鉄(II)のn−ブタノール分散液を作成した。この分散液を容器に充填し、ナフテン酸鉄(II)のn−ブタノール分散液に軸部材の集まりを互いに離間させて軸部材の軸部を浸漬させた。なお、円盤状の板に多数の穴が設けられた治具を用意し、この治具の穴に軸部材を配置し、この治具をナフテン酸鉄(II)のn−ブタノール分散液が入った容器に配置することで、軸部材の軸部がナフテン酸鉄(II)のn−ブタノール分散液に浸漬する。
さらに、容器を大気雰囲気の熱処理炉に入れて熱処理を行なった。最初に容器を120℃の低温焼成室に5分間放置してn−ブタノールを気化させ、気化したn−ブタノールは回収機で回収した。n−ブタノールが気化した後は、全ての軸部材の軸部の表面にナフテン酸鉄(II)が吸着する。次に、10℃/min.の昇温速度で300℃まで昇温し、さらに300℃に10分間放置して、ナフテン酸鉄(II)をナフテン酸と酸化鉄(II)FeOに熱分解した。熱分解によって生成されたナフテン酸は気化し、気化したナフテン酸は回収機で回収した。この後、300℃から1℃/min.の昇温速度で400℃まで昇温し、さらに400℃に30分間放置して、熱分解で生成された酸化鉄(II)FeOをマグヘマイトγ−Fe2O3に酸化させた。最後に、マグヘマイト微粒子が磁気吸着した軸部材の集まりを治具から取り出した。
次に、前記した条件で製作した軸部材の軸部の一部を試料として取り出し、試料の観察を行ない、目的とするマグヘマイト微粒子が確実に軸部の表面に満遍なく磁気吸着されているかを観察した。試料表面は電子顕微鏡で観察した。電子顕微鏡は、JFEテクノリサーチ株式会社の極低加速電圧SEMを用いた。反射電子線の900V〜1kVの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行い試料表面の凹凸を観察した。試料には、極めて多数の40nm〜60nmの大きさからなる粒状の微粒子が、軸部の表面全体に満遍なく形成されていることが確認できた。次に、特性X線のエネルギーとその強度を画像処理し、試料表面に吸着した粒状微粒子を構成する元素の種類とその分布状態を分析した。鉄原子、酸素原子の双方が表面に均一に存在し、特段に偏在する箇所が見られなかったため、酸化鉄からなる粒状微粒子であることが確認できた。さらに極低加速電圧SEMの機能にEBSP解析機能を付加し、結晶構造の解析を行なった。この結果から、試料表面に形成された粒状微粒子がマグヘマイトγ−Fe2O3であることが確認できた。
以上に説明した試料表面の電子顕微鏡による観察結果から、軸部材の軸部の表面にマグヘマイトの粒状微粒子が満遍なく磁気吸着している事実が確認できた。この結果から、前記で説明した条件でナフテン酸鉄(II)を大気中で熱処理することで、軸部の表面にマグヘマイト微粒子が満遍なく磁気吸着することが確認できた。この軸部がすべり面と摺動することで、8段落で説明した10項目の全ての性質を兼備する軸受装置となる。
なお、軸受部材は、軸部材の回転力の大きさに応じて、実施例1で説明した材質ですべり面を形成すればよい。また、すべり面の内径と軸部の外径との加工精度は、実施例1で説明したはめあい公差に基づいて加工すればよい。これによって、軸部とすべり面との間には最低でも25μmの隙間が形成される。いっぽう、軸部に磁気吸着するマグヘマイトの大きさは40nm〜60nmであるため、軸部材に軸受部材を組み付ける際にマグヘマイト微粒子が軸部からはがされることはない。
最初に、原料となるアセチルアセトン鉄(III)とn−ブタノールと軸部材の集まりを用意する。アセチルアセトン鉄(III)は、金属石鹸として市販されているアセチルアセトン鉄(III)(例えば、日本化学産業株式会社の製品であるナーセム第二鉄)を用いた。n−ブタノールは試薬一級品を用いた。軸部材は構造用炭素鋼の一種であるS25Cから構成した。
次に、アセチルアセトン鉄(III)をn−ブタノールに対し8重量%の割合になるように秤量し、このアセチルアセトン鉄(III)をn−ブタノールに混合して撹拌し、アセチルアセトン鉄(III)のn−ブタノール分散液を作成した。この分散液を容器に充填し、この容器に軸部材の集まりを互いに離間させて軸部を浸漬させた。なお、円盤状の板に多数の穴が設けられた治具を用意し、この治具の穴に軸部材を配置し、この治具をアセチルアセトン鉄(III)のn−ブタノール分散液が入った容器に配置することで、軸部材の軸部がアセチルアセトン鉄(III)のn−ブタノール分散液に浸漬する。
さらに、容器を大気雰囲気の熱処理炉に入れて熱処理を行なった。最初に容器を120℃に5分間放置してn−ブタノールを気化させ、気化したn−ブタノールは回収機で回収した。n−ブタノールが気化した後は、全ての軸部材の軸部の表面にアセチルアセトン鉄(III)が吸着する。次に、10℃/min.の昇温速度で120℃から330℃まで昇温し、330℃に10分間放置して、アセチルアセトン鉄(III)をアセチルアセトンと酸化鉄(II)FeOに熱分解した。熱分解で生成されたアセチルアセトンは気化し、気化したアセチルアセトンは回収機で回収した。この後330℃から1℃/min.の昇温速度で350℃まで昇温し、350℃に30分間放置して、熱分解で生成された酸化鉄(II)FeOをマグネタイトFe3O4に酸化させた。最後に、マグネタイト微粒子が磁気吸着した軸部材の集まりを治具から取り出した。
次に、前記した条件で製作した軸部材の軸部の試料について、26段落で説明した観察と同様の観察を行ない、軸部材の軸部の表面に40nm〜60nmの大きさからなるマグネタイトの粒状微粒子が満遍なく磁気吸着している事実を確認した。この結果から、前記で説明した条件でアセチルアセトン鉄(III)を大気中で熱処理することで、軸部の表面にマグネタイト微粒子が満遍なく磁気吸着することが確認できた。この軸部がすべり面と摺動することで、8段落で説明した10項目の全ての性質を兼備する軸受装置となる。
なお、軸受部材は、軸部材の回転力の大きさに応じて、実施例1で説明した材質ですべり面を形成すればよい。また、すべり面の内径と軸部の外径との加工精度は、実施例1で説明したはめあい公差に基づいて加工すればよい。これによって、軸部とすべり面との間には最低でも25μmの隙間が形成される。いっぽう、軸部に磁気吸着するマグネタイトの大きさは40nm〜60nmであるため、軸部材に軸受部材を組み付ける際にマグネタイト微粒子が軸部からはがされることはない。
最初に、原料となるアセチルアセトン鉄(III)とn−ブタノールと軸部材の集まりを用意する。アセチルアセトン鉄(III)は、金属石鹸として市販されているアセチルアセトン鉄(III)(例えば、日本化学産業株式会社の製品であるナーセム第二鉄)を用いた。n−ブタノールは試薬一級品を用いた。軸部材は構造用炭素鋼の一種であるS25Cから構成した。
次に、アセチルアセトン鉄(III)をn−ブタノールに対し8重量%の割合になるように秤量し、このアセチルアセトン鉄(III)をn−ブタノールに混合して撹拌し、アセチルアセトン鉄(III)のn−ブタノール分散液を作成した。この分散液を容器に充填し、この容器に軸部材の集まりを互いに離間させて軸部を浸漬させた。なお、円盤状の板に多数の穴が設けられた治具を用意し、この治具の穴に軸部材を配置し、この治具をアセチルアセトン鉄(III)のn−ブタノール分散液が入った容器に配置することで、軸部材の軸部がアセチルアセトン鉄(III)のn−ブタノール分散液に浸漬する。
さらに、容器を大気雰囲気の熱処理炉に入れて熱処理を行なった。最初に容器を120℃に5分間放置してn−ブタノールを気化させ、気化したn−ブタノールは回収機で回収した。n−ブタノールが気化した後は、全ての軸部材の軸部の表面にアセチルアセトン鉄(III)が吸着する。次に、10℃/min.の昇温速度で120℃から330℃まで昇温し、330℃に10分間放置して、アセチルアセトン鉄(III)をアセチルアセトンと酸化鉄(II)FeOに熱分解した。熱分解によって生成されたアセチルアセトンは気化し、気化したアセチルアセトンは回収機で回収した。この後、330℃から1℃/min.の昇温速度で430℃まで昇温し、430℃に30分間放置して、熱分解で生成された酸化鉄(II)FeOをマグヘマイトγ−Fe2O3に酸化させた。最後に、マグヘマイト微粒子が磁気吸着した軸部材の集まりを治具から取り出した。
次に、前記した条件で製作した軸部材の軸部の試料について、27段落で説明した観察と同様の観察を行ない、軸部材の軸部に40nm〜60nmの大きさからなるマグヘマイトの粒状微粒子が満遍なく磁気吸着している事実を確認した。この結果から、前記で説明した条件でアセチルアセトン鉄(III)を大気中で熱処理することで、軸部の表面にマグヘマイト微粒子が満遍なく磁気吸着することが確認できた。この軸部がすべり面と摺動することで、8段落で説明した10項目の全ての性質を兼備する軸受装置となる。
なお、軸受部材は、軸部材の回転力の大きさに応じて、実施例1で説明した材質ですべり面を形成すればよい。また、すべり面の内径と軸部の外径との加工精度は、実施例1で説明したはめあい公差に基づいて加工すればよい。これによって、軸部とすべり面との間には最低でも25μmの隙間が形成される。いっぽう、軸部に磁気吸着するマグヘマイトの大きさは40nm〜60nmであるため、軸部材に軸受部材を組み付ける際にマグヘマイト微粒子が軸部からはがされることはない。
Claims (6)
- 回転する軸部材と、該軸部材の軸部が摺動可能なすべり面を有するすべり軸受部材とからなる軸受装置について、磁性を有する軸部材の軸部の表面に強磁性の粒状微粒子を満遍なく磁気吸着させた軸部材と、前記強磁性の粒状微粒子がすべり軸受部材のすべり面を滑るすべり軸受部材とから構成することを特徴とする軸受装置。
- 請求項1における磁性を有する軸部材の軸部の表面に磁気吸着させる強磁性の粒状微粒子は、マグネタイトないしはマグヘマイトのいずれかの材質からなる粒状微粒子で構成することを特徴とする請求項1に記載した軸受装置。
- 請求項2におけるマグネタイトないしはマグヘマイトのいずれかの材質からなる粒状微粒子は、磁性を有する軸部材の軸部に熱分解によって酸化鉄(II)を生成する有機鉄化合物を吸着させ、該有機鉄化合物が吸着した軸部材を大気中で熱処理し、前記有機鉄化合物の熱分解で酸化鉄(II)を前記軸部材の軸部の表面に析出させ、さらに昇温して、前記酸化鉄(II)をマグネタイトないしはマグヘマイトに酸化し、これによって、前記軸部材の軸部の表面にマグネタイトないしはマグヘマイトのいずれかの材質からなる粒状微粒子が満遍なく磁気吸着する構成とすることを特徴とする請求項2に記載したマグネタイトないしはマグヘマイトのいずれかの材質からなる粒状微粒子。
- 請求項3における熱分解で酸化鉄(II)を生成する有機鉄化合物は、鉄イオンが酸素イオンと配位結合する有機鉄化合物で構成することを特徴とする請求項3に記載した熱分解で酸化鉄(II)を生成する有機鉄化合物。
- 請求項4における鉄イオンが酸素イオンと配位結合する有機鉄化合物は、酢酸鉄、安息香酸鉄、カプリル酸鉄、ナフテン酸鉄のうちのいずれかのカルボン酸鉄ないしはアセチルアセトン鉄の有機鉄化合物で構成することを特徴とする請求項4に記載した鉄イオンが酸素イオンと配位結合する有機鉄化合物。
- 請求項1から請求項4のいずれの請求項に係わる磁性を有する軸部材の軸部の表面に満遍なく磁気吸着する強磁性の粒状微粒子の製造方法は、有機鉄化合物を有機溶媒に分散させて分散液を作成する第1の製造工程と、前記有機鉄化合物の分散液に軸部材の集まりからなる軸部材の軸部を浸漬して該軸部の表面に前記有機鉄化合物の分散液を接触させる第2の製造工程と、前記分散液を昇温して前記有機溶媒を気化させて前記有機鉄化合物を前記軸部に吸着させる第3の製造工程と、前記軸部材の集まりを大気中で熱処理する第4の製造工程とからなる4つの製造工程によって、前記軸部材の集まりからなる軸部材の軸部の表面に満遍なく磁気吸着する強磁性の粒状微粒子を製造する製造方法であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれの請求項に係わる磁性を有する軸部材の軸部の表面に満遍なく磁気吸着する強磁性の粒状微粒子の製造方法。
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