JP2014052645A - 電圧駆動素子および表示装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】シンプルな構成でシアノ架橋金属錯体の価数制御を可能にすること。
【解決手段】第1の電極部材(2)と、前記第1の電極部材(2)との間で電圧が印加される第2の電極部材(3)と、前記第1の電極部材(2)に電気的に接続され且つシアノ架橋金属錯体により構成された第1の界面層(4)と、前記第2の電極部材(3)に電気的に接続され且つ前記第1の界面層(4)のシアノ架橋金属錯体とは異なる組成のシアノ架橋金属錯体により構成された第2の界面層(6)であって、前記第1の界面層(4)の表面に接触した状態で配置された前記第2の界面層(6)と、を備えた電圧駆動素子(1)。
【選択図】図1

Description

本発明は、電圧が印加されることで駆動される電圧駆動素子および前記電圧駆動素子を利用した表示装置に関し、特に、シアノ架橋金属錯体を使用した電圧駆動素子および表示装置に関する。
現在、シアノ架橋金属錯体は、電池の電極材料や、電圧を印加すると変色するエレクトロクロミック材料、ガスを検出するガスセンサー材料、水素吸蔵材料として、期待されており、精力的な研究が成されている。この研究の結果、シアノ架橋金属錯体の均質な膜が得られている。
前記シアノ架橋金属錯体は、Aをアルカリ金属の少なくとも一種、Mを遷移金属の少なくとも一種、Lを遷移金属の少なくとも一種、xを1以上2以下の数、yを0より大きく1以下の数、nを0より大きく10以下の数とした場合に、化学式AM[L(CN)・nHOで表され、遷移金属M,Lの価数を制御することで、シアノ架橋金属錯体の光学特性や磁性等の物性を大きく変化させることができることが知られている。例えば、遷移金属Fe(鉄)の場合、Fe2+とFe3+を変化させることで、光学特性等が変化することが知られている。
図14は従来のシアノ架橋金属錯体の価数制御方法に関する説明図である。
図14において、前記シアノ架橋金属錯体の価数制御は、電解液槽01内に収容された前記アルカリ金属Aを含む電解液02に、シアノ架橋金属錯体の薄膜が形成された電極03,04を浸した状態で、電源05により電圧を印加することで実現される。これは、シアノ架橋金属錯体の薄膜と電解液02との間で、アルカリ金属Aの出入り(析出や溶解)が発生するためである。
このような電圧の印加によりシアノ架橋金属錯体の光学特性等が変化する現象は、エレクトロクロミズムとして知られている。
(従来技術の問題点)
前記従来のシアノ架橋金属錯体の価数制御方法のように、電圧の印加により材料の特性が変化する現象(エレクトロクロミズム)を利用するには、電解液のような液体を使用する必要があるため、電圧の印加を制御することで価数を可逆的に変化させる素子や装置を構成する際に、装置全体の体積が増加する問題がある。また、電解液の蒸発が発生するため、定期的に電解液を補充する作業も必要となる。さらに、液体を使用するために、装置の微細化や高密度化について大きな妨げとなる問題もある。
前述の事情に鑑み、本発明は、シンプルな構成でシアノ架橋金属錯体の価数制御を可能にすることを技術的課題とする。
前記技術的課題を解決するために、請求項1に記載の発明の電圧駆動素子は、
第1の電極部材と、
前記第1の電極部材との間で電圧が印加される第2の電極部材と、
前記第1の電極部材に電気的に接続され且つシアノ架橋金属錯体により構成された第1の界面層と、
前記第2の電極部材に電気的に接続され且つ前記第1の界面層のシアノ架橋金属錯体とは異なる組成のシアノ架橋金属錯体により構成された第2の界面層であって、前記第1の界面層の表面に接触した状態で配置された前記第2の界面層と、
を備えたことを特徴とする。
前記技術的課題を解決するために、請求項2に記載の発明の表示装置は、
第1の電極部材と、
前記第1の電極部材との間で電圧が印加される第2の電極部材と、
前記第1の電極部材に電気的に接続され且つシアノ架橋金属錯体により構成された第1の界面層と、
前記第2の電極部材に電気的に接続され且つ前記第1の界面層のシアノ架橋金属錯体とは異なる組成のシアノ架橋金属錯体により構成された第2の界面層であって、前記第1の界面層の表面に接触した状態で配置された前記第2の界面層と、
前記第1の電極部材と、前記第2の電極部材との間に接続され、前記第1の電極部材と前記第2の電極部材との間に電圧を印加する電源装置と、
前記第1の電極部材と前記第2の電極部材との間に印加する電圧の正負を制御することで、前記第1の界面層および前記第2の界面層の色を制御する電源制御手段と、
を備えたことを特徴とする。
請求項1に記載の発明によれば、電解液を使用する従来の構成に比べて、シンプルな構成でシアノ架橋金属錯体の価数制御を可能にすることができる。
請求項2に記載の発明によれば、シンプルな構成でシアノ架橋金属錯体の価数制御を可能にすることができ、価数制御による色の変化を利用して画像を表示することができる。
図1は実施例1の電圧駆動素子の説明図である。 図2は実験例1のシアノ架橋金属錯体の説明図であり、第1のシアノ架橋金属錯体の実験前、短絡後、+0.6V印加状態、−0.6V印加状態と、第2のシアノ架橋金属錯体の実験前、短絡後、+0.6V印加状態、−0.6V印加状態の説明図である。 図3は実験例1−1の実験結果の説明図であり、図3Aは横軸に時間を取り且つ縦軸に電圧を取った実験結果のグラフであり、図3Bは横軸に時間を取り且つ縦軸に電流を取った実験結果のグラフである。 図4は実験例1−2の実験結果の説明図であって横軸に時間を取り縦軸に測定された電流および印加電圧を取った説明図であり、図4Aは+0.6Vの電圧を印加した実験結果のグラフ、図4Bは−0.6Vの電圧を印加した実験結果のグラフ、図4Cは+0.6Vと−0.6Vの電圧を交互に印加した実験結果のグラフである。 図5は実験例1の赤外吸収スペクトルの測定結果の説明図であって横軸に波数を取り、縦軸に吸収係数を取ったスペクトルのグラフであり、図5Aは実験前の第1のシアノ架橋金属錯体の赤外吸収スペクトルのグラフ、図5Bは短絡後の第1のシアノ架橋金属錯体の赤外吸収スペクトルのグラフ、図5Cは+電圧印加状態の第1のシアノ架橋金属錯体の赤外吸収スペクトルのグラフ、図5Dは−電圧印加状態の第1のシアノ架橋金属錯体の赤外吸収スペクトルのグラフ、図5Eは実験前の第2のシアノ架橋金属錯体の赤外吸収スペクトルのグラフ、図5Fは短絡後の第2のシアノ架橋金属錯体の赤外吸収スペクトルのグラフ、図5Gは+電圧印加状態の第2のシアノ架橋金属錯体の赤外吸収スペクトルのグラフ、図5Hは−電圧印加状態の第2のシアノ架橋金属錯体の赤外吸収スペクトルのグラフである。 図6は実施例1における電気の流れの説明図であり、図6Aは第1電極部材側から電子が流れ込む場合の説明図、図6Bは第2電極部材側から電子が流れ込む場合の説明図である。 図7は実施例1のシアノ架橋金属錯体の結晶モデルの要部説明図であり、図7Aはシアノ錯体の3次元的な分子モデルの説明図、図7Bは二次元的に記載した結晶モデルの説明図である。 図8は実験例1−3の実験結果のグラフであり、横軸に温度、縦軸に磁化を取ったグラフである。 図9は実験例2のシアノ架橋金属錯体の説明図である。 図10は実験例2の実験結果の説明図であり、実験例1の図4Cに対応する図である。 図11は実験例3のシアノ架橋金属錯体の説明図である。 図12は実験例3の実験結果の説明図であり、実験例1の図4Cに対応する図である。 図13は、実験例3の実験中の電圧駆動素子の色の変化を説明する説明図であり、図13Aは+0.5Vが印加された時刻20秒〜30秒の間の状態の説明図、図13Bは−0.5Vが印加された時刻30秒〜40秒の間の状態の説明図、図13Cは+0.5Vが印加された時刻40秒〜50秒の間の状態の説明図、図13Dは−0.5Vが印加された時刻50秒〜60秒の間の状態の説明図である。 図14は従来のシアノ架橋金属錯体の価数制御方法に関する説明図である。
次に図面を参照しながら、本発明の実施の形態の具体例である実施例を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の図面を使用した説明において、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
図1は実施例1の電圧駆動素子の説明図である。
図1において、本発明の実施例1の電圧駆動素子1は、第1の基板の一例としての第1電極部材2と、第1電極部材2に対向して配置された第2の基板の一例としての第2電極部材3とを有する。実施例1の各電極部材2,3は、導電性基板により構成されており、例えば、透明な導電性ガラスであるITO(Indium Tin Oxide)を使用することが可能である。
前記第1電極部材2の内面には、第1のシアノ架橋金属錯体により構成された第1の界面層4が形成されており、第2電極部材3の内面には、第1のシアノ架橋金属錯体とは化学的な組成が異なる第2のシアノ架橋金属錯体により構成された第2の界面層6が形成されている。前記第1の界面層4と第2の界面層6とは内側の表面どうしが接触した状態で支持されており、境界面により界面7が構成されている。
実施例1で使用可能なシアノ架橋金属錯体は、Aをアルカリ金属の少なくとも一種、Mを遷移金属の少なくとも一種、Lを遷移金属の少なくとも一種、xを0より大きく2以下の数、yを0より大きく1以下の数、nを0より大きく10以下の数とした場合に、化学式AM[L(CN)・nHOで表される。前記Aのアルカリ金属としては、例えば、Li、Na、K、Rb、Csが挙げられる。また、前記Mの遷移金属としては、Fe、Mn、Ni、Co、Cr、V、Cu、Znが挙げられる。また、Lの遷移金属としては、Fe、Cr、V、Mn、Tiが挙げられる。また、x、y、nは、それぞれ、遷移金属Mの1モルに対するアルカリ金属A、L(CN)、結晶水HOの割合(モル)を示し、シアノ架橋金属錯体では、製法や構造により、xが0〜2、yが0〜1、nが0〜10の値を取りうる。
なお、本願明細書および請求の範囲において、第1のシアノ架橋金属錯体と第2のシアノ架橋金属錯体の組成が異なるとは、前記アルカリ金属A,遷移金属M,遷移金属L,x,yのいずれか1つまたは複数あるいは全てが異なることを意味するものとする。
なお、前記シアノ架橋金属錯体の膜は、スピンキャスト法(スピンコート法)や電解析出法等の従来公知の製膜法で作製することができる。
前記電極部材2、3の間には、電極部材2、3間に電圧を印加する電源装置8が電気的に接続されている。前記電源装置8は、電源制御手段9から入力される制御信号に基づいて、電極部材2、3間に電圧を印加する。
図2は実験例1のシアノ架橋金属錯体の説明図であり、第1のシアノ架橋金属錯体の実験前、短絡後、+0.6V印加状態、−0.6V印加状態と、第2のシアノ架橋金属錯体の実験前、短絡後、+0.6V印加状態、−0.6V印加状態の説明図である。
なお、図2、図9、図11、図13については、現行制度上、出願時の図面としてカラーの図面が添付できないため、本特許出願後に上申書でカラーの図面を参考図として提出する予定となっている。
(実験例)
次に、実施例1の作用、効果を確認するために、実験を行った。
(実験例1)
実験例1では、第1の界面層4を構成する第1のシアノ架橋金属錯体としてNa0.72Ni[Fe(CN)0.68・5.1H0を使用し、図2の右側に示すように第2の界面層6を構成する第2のシアノ架橋金属錯体としてNa0.79Co[Fe(CN)0.90・2.9H0を使用した。各シアノ架橋金属錯体は、電極部材2、3としての導電性の透明ガラス基板であるITO基板表面に、電解析出法で作製している。各膜厚は、0.5μmに設定されている。
なお、この状態では、図2の実験前の状態(図2の一番左側と右から4番目)に示すように、第1のシアノ架橋金属錯体は、半透明の薄い黄緑色をしており、第2のシアノ架橋金属錯体は、紫色をしている。
なお、以下の説明において、わかりやすさのため、第1のシアノ架橋金属錯体および第2のシアノ架橋金属錯体の化学式を、必要に応じて「Na0.72−δ1Ni[Fe(CN)0.68・5.1H0(δ1=0)」および「Na1.60−δ2Co[Fe(CN)0.90・2.9H0(δ2=0.81)」として、δ1、δ2を使用して記載する。ここで、前記δ1は、三価の鉄(Fe3+)のNiに対する割合であり、δ2は三価のコバルト(Co3+)の二価のコバルト(Co2+)と三価のコバルト(Co3+)との合計に対する割合を指す。
(実験例1−1)
実験例1−1では、放電特性について実験を行った。
実験例1の第1の界面層4および第2の界面層6の表面に水を塗布して濡らし、界面層4、6どうしを接合した。水を塗布した理由は、界面7における各界面層4、6表面の微小な凹凸による接触面積の低下を低減して、Naの移動度を増大させると共に、界面層4、6どうしの密着性を高めるために、水膜を形成した。接合された界面層4、6および導電性ガラス製の電極部材2、3の上からテープで固定して電圧駆動素子1を作製した。なお、以下の説明において、この状態を、「実験前」の状態と呼ぶ。
図3は実験例1−1の実験結果の説明図であり、図3Aは横軸に時間を取り且つ縦軸に電圧を取った実験結果のグラフであり、図3Bは横軸に時間を取り且つ縦軸に電流を取った実験結果のグラフである。
前記界面層4、6が接合された電圧駆動素子1に対して、電極部材2、3の両端に電圧計を接続すると、図3Aの時間0秒の値から読みとれるように、0.06V程度の起電力が発生した。
次に、両電極部材2、3間に1[kΩ]の抵抗を直列に接続して、両電極部材2、3間を短絡したところ、図3Bに示すように、0.06[mA/cm]程度の電流が流れた。そして、図2に示すように、300秒経過すると起電力が無くなった。なお、この状態を、以下、「短絡後」の状態として説明をする。
したがって、実施例1の電圧駆動素子は、電気を供給可能な電池として使用可能であることが確認された。
このとき、図2の短絡後の状態(図2の左から2番目と右から3番目)で示されるように、第2のシアノ架橋金属錯体(Co−Fe系)では、実験前の状態に比べて、紫色が薄くなった。これは、Coの平均価数が3価(Co3+)から2価(Co2+)に近づいたことを意味する。また、第1のシアノ架橋金属錯体(Ni−Fe系)では、実験前の状態に比べて、半透明の色が黄色に近づいた。これは、Feの価数が2価(Fe2+)から3価(Fe3+)に近づいたことを意味する。
(実験例1−2)
実験例1−2では、電圧の印加制御による価数の制御について実験を行った。
実験例1−1において短絡後の電圧駆動素子1を使用して、電極部材2、3の両端に電源装置8を接続し、電源制御手段9により以下の測定を行った。
(a)+0.6[V]の外部電圧を印加して流れる電流を測定する。
(b)−0.6[V]の外部電圧を印加して流れる電流を測定する。
(c)+0.6[V]の外部電圧と、−0.6[V]の外部電圧を、20秒間ずつ交互に印加して電流を測定する。
実験結果を図4に示す。
図4は実験例1−2の実験結果の説明図であって横軸に時間を取り縦軸に測定された電流および印加電圧を取った説明図であり、図4Aは+0.6Vの電圧を印加した実験結果のグラフ、図4Bは−0.6Vの電圧を印加した実験結果のグラフ、図4Cは+0.6Vと−0.6Vの電圧を交互に印加した実験結果のグラフである。
前記測定(a)では、図4Aに示すように、両電極2、3間に電流が流れた。このとき、図2の左から3番目および右から2番目に示すように、「短絡後」の状態に比べて、第2のシアノ架橋金属錯体は紫色がさらに薄くなると共に、第1のシアノ架橋金属錯体は黄色がさらに濃くなった。なお、この状態を、以下、「+電圧印加」の状態(実験例1では「+0.6V」の状態)として説明する。
そして、測定(a)の後、再び両電極部材2、3を実験例1−1と同様にして短絡すると、前記「短絡後」の状態に戻った。
前記測定(b)でも、図4Bに示すように、両電極2、3間に電流が流れた。このとき、図2の左から4番目および一番右に示すように、「短絡後」の状態に比べて、第2のシアノ架橋金属錯体は紫色が濃くなると共に、第1のシアノ架橋金属錯体は黄色が薄くなった。なお、この状態を、以下、「−電圧印加」の状態として説明する。
そして、測定(b)の後、再び両電極部材2、3を実験例1−1と同様にして短絡すると、「短絡後」の状態に戻った。
前記測定(c)では、図4Cに示すように、電圧の印加(図4Cの破線参照)と共に電流が流れ、電圧の極性が変化すると、流れる電流の極性も変化した。このとき、各界面層4、6の色も、薄い、濃い、すなわち、「+電圧印加」の状態と「−電圧印加」の状態を交互に繰り返した。したがって、印加される電圧の制御により、可逆的にシアノ架橋金属錯体の価数を制御できることが確認された。
図5は実験例1の赤外吸収スペクトルの測定結果の説明図であって横軸に波数を取り、縦軸に吸収係数を取ったスペクトルのグラフであり、図5Aは実験前の第1のシアノ架橋金属錯体の赤外吸収スペクトルのグラフ、図5Bは短絡後の第1のシアノ架橋金属錯体の赤外吸収スペクトルのグラフ、図5Cは+電圧印加状態の第1のシアノ架橋金属錯体の赤外吸収スペクトルのグラフ、図5Dは−電圧印加状態の第1のシアノ架橋金属錯体の赤外吸収スペクトルのグラフ、図5Eは実験前の第2のシアノ架橋金属錯体の赤外吸収スペクトルのグラフ、図5Fは短絡後の第2のシアノ架橋金属錯体の赤外吸収スペクトルのグラフ、図5Gは+電圧印加状態の第2のシアノ架橋金属錯体の赤外吸収スペクトルのグラフ、図5Hは−電圧印加状態の第2のシアノ架橋金属錯体の赤外吸収スペクトルのグラフである。
図2に示す第1のシアノ架橋金属錯体および第2の架橋金属錯体の「実験前」、「短絡後」、「+電圧印加」、「−電圧印加」の各状態において、赤外吸収スペクトルを測定したところ、図5に示す実験結果が得られた。
図5において、Ni−Fe系の第1のシアノ架橋金属錯体では、赤外吸収スペクトルに、[Fe2+(CN)]の錯体のCN伸縮振動モードが2100[cm−1]付近にピークとして観測され、[Fe3+(CN)]の錯体のCN伸縮振動モードが2160[cm−1]にピークとして観測される。そして、この2つのスペクトル強度の相対強度より、δ1を決定することができる(T.Shibata,F.Nakata,H.Kamioka and Y.Moritomo 、Journal of Physical Society of Japan, 77(2008)104714参照)。図5A〜図5Dの実験結果からδ1を計算すると、「実験前」、「短絡後」、「+電圧印加」、「−電圧印加」では、それぞれ、δ1=0,0.15,0.35,0.10であった。
Co−Fe系の第2のシアノ架橋金属錯体では、赤外吸収スペクトルに、[Fe2+(CN)]の錯体のCN伸縮振動モードのみが観測される。そして、その波数k[cm−1]より、δ2を決定することができる(Y.Igarashi,F.Nakada and Y.Moritomo 、Physical Review B, in Press参照)。したがって、図5E〜図5Hの実験結果から、ピークの波数よりδ2を計算すると、「実験前」、「短絡後」、「+電圧印加」、「−電圧印加」では、それぞれ、δ2=0.81,0.37,0.10,0.65であった。
したがって、図5A〜図5Hの実験結果に示すように、短絡や電圧の印加に応じて、価数が変化していることが確認された。
(原理の考察)
図6は実施例1における電気の流れの説明図であり、図6Aは第1電極部材側から電子が流れ込む場合の説明図、図6Bは第2電極部材側から電子が流れ込む場合の説明図である。
実験例1のように起電力が発生するのは、第1電極部材2と第2電極部材3ではNaに対する親和力が異なるためである。例えば、第1電極部材の親和力が高い場合は、界面7を通じて第二電極部材から第1電極部材側へNaが流れ込もうとする。そのため、起電力が発生する。この状態で、二つの電極部材の電極をつなぐと、Naの移動方向と逆方向に電子eが流れる。
電子eが流れると、図6に示すように、第2電極部材2と第1の界面層4との境界部分や、第2電極部材3と第2の界面層6との境界部分で電子eのやりとりが行われ、Fe2+とFe3+あるいはCo2+とCo3+で価数の変化が発生すると共に、界面7の部分でNaが電子eの流れと逆方向に移動することで、電流が流れると共に、色の変化が発生するものと考えられる。このため、実験結果において、価数の変化に伴ってNaが移動し、Naの量に関連するδの値が変化すると共に、価数の変化により色の変化が発生したものと考えられる。
図7は実施例1のシアノ架橋金属錯体の分子モデルの要部説明図であり、図7Aはシアノ錯体の3次元的な結晶モデルの説明図、図7Bは二次元的に記載した結晶モデルの説明図である。
図7において、第1及び第2のシアノ架橋金属錯体の結晶モデルは、図8Aに示すように、遷移金属Feの周囲に6つの配位子[CN]が結合され、各[CN]の先にNi原子が結合したものが連続しており、結晶格子の空所に全体で電気的に中性になるようにNaが満たされているものと考えられている。
そして、図7Bに示すように平面的に記載した場合、界面7では、第1のシアノ架橋金属錯体の[CN]、HOが、それぞれ、第2のシアノ架橋金属錯体のHO、[CN]に結合されるものと考えられる。したがって、界面7では、HOと[CN]による帯状の領域(バリア)7aが形成されるものと考えられる。そして、電子は非占有軌道のエネルギー順位の高いHO分子を通過することができない。これに対して、Naは結晶の隙間を通過するだけであるので、HO分子の存在は問題にならないと考えられる。よって、界面7に水膜が介在してもしなくても同様の現象が発生する。
(実験例1−3)
図8は実験例1−3の実験結果のグラフであり、横軸に温度、縦軸に磁化を取ったグラフである。
実験例1−3では、自発磁化に関する実験を行った。
実験例1−3では、Ni−Fe系の第2の架橋金属錯体について、「実験前」のものと、「+電圧印加」のものとについて、自発磁化がどのように変化するかを測定した。なお、実験は、液体ヘリウム(沸点4K、融点1K)を使用して冷却して温度と自発磁化の測定とを行った。
図8において、実験例1−3では、「実験前」のものは、3[K]以上で自発磁化は出現しなかったのに対して、「+電圧印加」のものでは11[K]以下で自発磁化が出願することが確認された。
シアノ架橋金属錯体は、価数が異なると、磁気転移温度が異なることが知られているが、実験例1−3により、電圧の印加を制御して、価数を制御することで、磁気転移温度を変化させ、磁性、非磁性を制御することが可能であることが確認された。
(実験例1−4)
実験例1−4では、界面7に水膜が存在しない場合の効果を確認した。
実験例1−4では、実験例1−1と異なり、各界面層4、6に水を塗布せずに接合して、密着性を向上させるために、両電極部材2、3をネジで固定した。そして、実験例1−1と同様の実験を行ったところ、同様に0.06Vの起電力が観測され、短絡させると、同様の色の変化が観測された。なお、実験結果は、実験例1−1と重複したため、図示および詳細な説明を省略する。
したがって、界面7に水膜を形成しても形成しなくても、同様の作用、効果を有することが確認された。
図9は実験例2のシアノ架橋金属錯体の説明図である。
(実験例2)
実験例2では、第1の界面層4を構成する第1のシアノ架橋金属錯体としてNa0.72−δ1Ni[Fe(CN)0.68・5.1H0(δ1=0)を使用し、第2の界面層6を構成する第2のシアノ架橋金属錯体としてNa0.72−δ1Ni[Fe(CN)0.68・5.1H0(δ1=0.45)を使用した。
図9に示すように、図9の左側の第1のシアノ架橋金属錯体は、半透明の薄い黄緑色をしており、右側の第2のシアノ架橋金属錯体は、黄色をしている。
図10は実験例2の実験結果の説明図であり、実験例1の図4Cに対応する図である。
実験例2では、前記実験例1と同様にして、電圧駆動素子1を作製して、実験例1−1と同様に起電圧の測定および短絡を行ったところ、0.05V程度の起電圧が発生し、短絡後に2つのシアノ架橋金属錯体はほぼ同色になった。
そして、実験例1−2と同様に、短絡後の電圧駆動素子1に対して、図10の破線で示すように30秒ごとに+0.6Vと−0.6Vの電圧を交互に印加した時の電流の測定を行うと、図10の実線で示すように、実験例1−2の図4Cと同様に、電圧の印加に応じて電流が流れた。そして、各界面層4、6の赤外吸収スペクトルを測定し、波数2100[cm−1]と2160[cm−1]のスペクトル強度の比から、δ1を各界面層4、6についてそれぞれ導出すると、δ1=0.21と0.24となり、わずかであるが差が確認された。したがって、電圧印加の制御により、可逆的に価数を制御できることが確認された。
(実験例3)
図11は実験例3のシアノ架橋金属錯体の説明図である。
実験例3では、第1の界面層4を構成する第1のシアノ架橋金属錯体として、図11の左側に示す緑色のNa1.60−δ2Co[Fe(CN)0.90・2.9H0(δ2=0)を使用し、第2の界面層6を構成する第2のシアノ架橋金属錯体として、図11の右側に示す黄色のNa0.72−δ1Ni[Fe(CN)0.68・5.1H0(δ1=0.45)を使用した。
そして、実験例3では、前記実験例1と同様にして、電圧駆動素子1を作製して、実験例1−1と同様に起電圧の測定および短絡を行ったところ、0.06V程度の起電圧が発生し、Co−Fe系の第1のシアノ架橋金属錯体の界面層4が緑色から紫色に変化し、Ni−Fe系の第2のシアノ架橋金属錯体の界面層は黄色が薄くなった。
図12は実験例3の実験結果の説明図であり、実験例1の図4Cに対応する図である。
図13は、実験例3の実験中の電圧駆動素子の色の変化を説明する説明図であり、図13Aは+0.5Vが印加された時刻20秒〜30秒の間の状態の説明図、図13Bは−0.5Vが印加された時刻30秒〜40秒の間の状態の説明図、図13Cは+0.5Vが印加された時刻40秒〜50秒の間の状態の説明図、図13Dは−0.5Vが印加された時刻50秒〜60秒の間の状態の説明図である。
次に、実験例1−2と同様にして、短絡後の電圧駆動素子1に対して、電極部材2、3の両端に電源8を接続し、電源制御手段9により、図5の破線で示すように、+0.5Vと−0.5Vの電圧を、10秒ごとに切り替えて印加し、流れる電流を計測したところ、図12の実線で示すように電流が流れた。
また、このときの電圧駆動素子1の色の変化を観察すると、+0.5Vが印加された時刻20秒〜30秒の間の状態(図12中の符号Aの期間)では、図13Aに示すように電圧駆動素子1の色が少し緑がかった黄色、すなわち、第1のシアノ架橋金属錯体の初期の色である緑色と、第2のシアノ架橋金属錯体の黄色とが混ざった色になった。次に、−0.5Vが印加された時刻30秒〜40秒の間の状態(図12中の符号Bの期間)では、図13Bに示すように、電圧駆動素子1の色が赤みがかった紫色、すなわち、第1のシアノ架橋金属錯体が変色した紫色と、第2のシアノ架橋金属錯体の薄い黄緑に近づいた黄色とが混ざった色になった。そして、再び、+0.5Vが印加されると(時刻40秒〜50秒、図12中の符号Cの期間参照)では、図13Cに示すように電圧駆動素子1の色が少し緑がかった黄色に戻り、−0.5Vが印加されると(時刻50秒〜60秒、図12中の符号Dの期間参照)では、図13Dに示すように、電圧駆動素子1の色が赤みがかった紫色となった。
したがって、電圧の印加により、価数を制御することで、可逆的に色が変化することが確認された。
したがって、前記実験結果及び原理の説明から、実施例1の電圧駆動素子1は、互いに異なる組成の第1および第2のシアノ架橋金属錯体の薄膜を接触させた初期状態で起電圧が発生する。したがって、電源8に換えて、例えば、電球等の電子部品、電子機器を接続することで、電子部品等に電力を供給することができる。この結果、異なる組成のシアノ架橋金属錯体の薄膜どうしを接触させただけで、電解液を必要としないシンプル且つ小さい構成で、電池として使用できることできる。特に、電解液のような液体を使用せず、固体のみで構成することが可能であるため、取り扱いや電解液の補充のようなメンテナンスが容易になると共に、電解液を使用する場合に比べて、単位体積当たりの蓄電機能を高くすることができる。さらに、界面の表面積を大面積化することも、液体を使用する場合に比べて比較的容易にでき、大きな電力の充電・放電が可能になる。
また、電極部材2、3間を短絡したり、電圧を印加することで、シアノ架橋金属錯体の遷移金属の価数が変化することが確認され、電圧の印加や非印加(短絡)で価数を可逆的に制御することが可能である。
さらに、価数の制御にともなって、色の変化が発生することを利用して、表示素子、表示装置として使用できる。すなわち、多数の表示素子を配列して、正極の電圧と、負極の電圧を切り替えることで、表示する色を切り替えることができ、画像を表示することができる。
また、価数を制御する際に、電圧の極性の正負を切り替えることで、可逆的に制御することが可能であるため、短絡時に電流が流れる方向と逆方向の電圧を印加することで、電力を蓄える、すなわち、電流が流れた後の電池に対して充電を行うことができる。したがって、実施例1の電池は、二次電池(充電池)として使用することができる。特に、実施例1の構成では、充電・放電時に化学反応が発生せず、物質の移動(Na)の移動で充電、放電がされるので、老廃物を発生させることなく充放電ができる。
さらに、プルシャンブルー型のシアノ錯体(Fe系のシアノ錯体)では、アルカリ金属A(実験例ではNa)の濃度がx=1になると反転対称性を失うことが知られている。したがって、電圧の印加により、価数制御を行うことで、xが1より大きい状態とxが1より小さい状態を制御して、シアノ架橋金属錯体の反転対称性の有無を切り替え(スイッチ)することができる。したがって、レーザー光源から出力されたレーザー光を透過するフィルターとして電圧駆動素子1を使用した場合、反転対称性を無くして二次高調波を出力させたりする等、電極部材2、3間に印加する電圧を制御することで、高調波の効率を可逆的に制御することができる。すなわち、実施例1の電圧駆動素子1は、界面層4、6の反転対称性を制御する反転対称性制御装置として使用することができる。
また、前記実験例1−3で確認されたように、シアノ架橋金属錯体では、価数が異なると、磁気転移温度が変化することが知られている。したがって、電圧の印加を制御して価数を制御することで、シアノ架橋金属錯体の磁性・非磁性を可逆的に制御することができる。特に、磁気転移温度の比較的高い(室温程度)の錯体であるV−Cr系錯体(AV[Cr(CN)・nHO)を使用すれば、室温で磁性・非磁性のスイッチを可逆的に制御することができる。これにより、例えば、電圧の制御で、磁気シールドのオン・オフをしたり、磁石に対して、吸着・非吸着を制御することができる。すなわち、電圧駆動素子1は、界面層4、6の磁性・非磁性を制御する磁性制御装置として使用することができる。
(変更例)
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、種々の変更を行うことが可能である。本発明の変更例(H01)〜(H04)を下記に例示する。
(H01)前記実施例において、例示した具体的な数値については、例示した値に限定されず、設計や仕様、用途等に応じて、適宜変更可能である。
(H02)前記実施例において、電極部材2、3として、透明な導電性材料であるITO基板を使用することが望ましいが、この構成に限定されず、例えば、絶縁性の基板表面にシアノ架橋金属錯体の膜を形成し、基板表面のシアノ架橋金属錯体に直接電極端子を接続して電気的に接続するように構成することも可能である。
(H03)前記実施例において、第1のシアノ架橋金属錯体と第2のシアノ架橋金属錯体とは、実験例に例示した組み合わせに限定されず、任意の組成のシアノ架橋金属錯体を使用可能である。このとき、表示装置として使用する場合、全く異なる系統の色のシアノ架橋金属錯体、例えば、価数の増加で赤くなるCo−Fe系の錯体(ACo[Fe(CN)・nHO)と、青くなるFe−Fe系の錯体(AFe[Fe(CN)・nHO)を使用することで、電圧の正負を制御することで二色(赤と青、あるいは混ざった色)の表示を切り替えることができる。他にも、電圧の正負で、半透明と着色との間で制御できる場合(実験例1の第1のシアノ架橋金属錯体参照)、電圧を印加していない状態で文字が表示されず、電圧が印加されると文字が浮き出すような表示も可能である。
(H04)前記実施例において、電極部材2、3表面に直接界面層4、6を形成する構成を例示したが、この構成に限定されず、例えば、電極部材2、3と界面層4、6との間に1つ以上の中間層を設けることも可能である。このとき、中間層は導電性材料で構成することが好ましく、電極部材2、3と界面層4、6とを電気的に接続する必要がある。
1…電圧駆動素子,表示装置、
2…第1の電極部材、
3…第2の電極部材、
4…第1の界面層、
6…第2の界面層、
8…電源装置、
9…電源制御手段。

Claims (2)

  1. 第1の電極部材と、
    前記第1の電極部材との間で電圧が印加される第2の電極部材と、
    前記第1の電極部材に電気的に接続され且つシアノ架橋金属錯体により構成された第1の界面層と、
    前記第2の電極部材に電気的に接続され且つ前記第1の界面層のシアノ架橋金属錯体とは異なる組成のシアノ架橋金属錯体により構成された第2の界面層であって、前記第1の界面層の表面に接触した状態で配置された前記第2の界面層と、
    を備えたことを特徴とする電圧駆動素子。
  2. 第1の電極部材と、
    前記第1の電極部材との間で電圧が印加される第2の電極部材と、
    前記第1の電極部材に電気的に接続され且つシアノ架橋金属錯体により構成された第1の界面層と、
    前記第2の電極部材に電気的に接続され且つ前記第1の界面層のシアノ架橋金属錯体とは異なる組成のシアノ架橋金属錯体により構成された第2の界面層であって、前記第1の界面層の表面に接触した状態で配置された前記第2の界面層と、
    前記第1の電極部材と、前記第2の電極部材との間に接続され、前記第1の電極部材と前記第2の電極部材との間に電圧を印加する電源装置と、
    前記第1の電極部材と前記第2の電極部材との間に印加する電圧の正負を制御することで、前記第1の界面層および前記第2の界面層の色を制御する電源制御手段と、
    を備えたことを特徴とする表示装置。
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