以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。以下の実施の形態で説明するクラッチ装置は、車両の操舵装置に適用することができる。特に、いわゆるステアバイワイヤ型車両操舵装置、すなわち、操舵部に設けられたステアリングホイール等の操作部材に加えられる操舵力によらず、電気的な制御下、転舵部において備える動力源の動力によって、操作部材の操作に応じた車輪の転舵が行われる車両操舵装置に好適である。
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態に係る車両操舵装置の概略構成を示す模式図である。車両操舵装置10は、ハンドル12と、操舵角度センサ14と、トルクセンサ16と、操舵反力モータ18と、インターミディエイトシャフト20と、転舵角度センサ22と、転舵モータ24と、タイヤ26と、ECU28と、クラッチ装置29とを備える。
操舵アクチュエータ30は、操舵角度センサ14と、トルクセンサ16と、操舵反力モータ18とで構成されている。また、転舵アクチュエータ32は、転舵角度センサ22と転舵モータ24とで構成されている。ECU28は、操舵アクチュエータ30および転舵アクチュエータ32が有する各種センサの情報に基づいて、操舵反力モータ18や転舵モータ24を制御する。
ハンドル12は、車室内の運転席側に配置され、運転者が操舵量を入力するために回転させる操舵部材として機能する。
操舵角度センサ14は、運転者が入力した操舵量としてのハンドル12の回転角を検出し、この検出値をECU28に対して出力する。操舵角度センサ14は、ハンドル12の操作量に応じた情報を検出する検出手段として機能する。
トルクセンサ16は、ハンドル12の操舵量に応じたトルクを検出する。操舵反力モータ18は、ECU28の制御に基づいて、操舵角度センサ14が検出したハンドル12の回転角に応じた操舵反力を運転者に感じさせるための反力をハンドル12に作用させる。操舵反力モータ18は、ハンドル12などの操舵側の回転軸を回転させる駆動手段として機能する。
ECU28は、例えばCPU、ROM、RAMおよびそれらを相互に接続するデータバスから構成され、ROMに格納されたプログラムに従い、運転者が入力した操舵量としてのハンドル12の回転角を検出し、この操舵量に基づいた転舵量を演算して、この転舵量に基づいて、転舵モータ24を制御してタイヤ26を転舵する制御を行う制御手段として機能する。
転舵モータ24は、ECU28の制御に基づいて、タイヤ26にタイロッドを介して連結される車幅方向に延びるラックバーを車幅方向に動作させる転舵手段を構成する。
転舵角度センサ22は、転舵手段を構成するラックアンドピニオン機構34のピニオンの回転角を検出して、この検出値をECU28に対して出力する。転舵角度センサ22は、インターミディエイトシャフト20の回転量を検出する回転量検出手段として機能する。
インターミディエイトシャフト20は、ステアバイワイヤシステムが機能しない場合のバックアップ機構の一部として、操舵アクチュエータ30から転舵アクチュエータ32へ操舵力(トルク)を伝達する役割を果たす。メカバックアップ機構は、インターミディエイトシャフト20、クラッチ装置29、ラックアンドピニオン機構34等から構成される。
クラッチ装置29は、2つの回転軸の間のトルクの伝達および遮断の切替えを行う。クラッチ装置29の構造の詳細については後述するが、車両操舵装置10は、システムが正常な場合、クラッチ装置29により操舵アクチュエータ30と転舵アクチュエータ32との接続が分離されており、ステアバイワイヤシステムとして機能する。一方、車両操舵装置10は、システムが異常な場合、クラッチ装置29により操舵アクチュエータ30と転舵アクチュエータ32とが機械的に連結されることで、ハンドル12の操作によりタイヤ26を直接転舵できるようになる。
次に、クラッチ装置29の構造について詳述する。図2は、第1の実施の形態に係るクラッチ装置29の軸に平行な断面図である。図3は、図2に示すクラッチ装置29のA−A断面図である。なお、図2は、図3に示すB−B断面に相当する。
クラッチ装置29は、第1の回転軸である環状のハンドル側ハウジング36と、第2の回転軸である環状のタイヤ側ハウジング38と、タイヤ側ハウジング38の径方向に移動できるようにタイヤ側ハウジング38に設けられている係合部としての複数のロックバー40と、を備える。ハンドル側ハウジング36は、内周面に複数のロック溝42が互いに間隔をもって周方向の形成されている。タイヤ側ハウジング38は、ハンドル側ハウジング36と同軸となるように設けられており、クラッチ装置29の側方から見て少なくとも一部がハンドル側ハウジング36と重なるように配置されている。
ハンドル側ハウジング36は、操舵アクチュエータ30と連結されており、ハンドル12の回転に連動して回転する。また、タイヤ側ハウジング38は、転舵アクチュエータ32と連結されており、タイヤの転舵に連動して回転する。クラッチ装置29は、ロックバー40をロック溝42側に向って径方向へ進退させる進退機構44を更に備える。進退機構44の詳細については後述する。
本実施の形態に係るクラッチ装置29においては、5つのロックバー40が放射状にほぼ等間隔に配置されている。各ロックバー40は、環状のタイヤ側ハウジング38の周面に形成された開口部38aに摺動可能に支持されている。
タイヤ側ハウジング38の図2に示す右側の開口部近傍には、バネ受け部材46が固定されている。バネ受け部材46は、小径部46aの外周面に、各ロックバー40に対応するように複数の凸部46bが放射状にほぼ等間隔で配置されている。凸部46bは、付勢部材であるバネ部材50がずれないようにその一端を支持する。また、バネ部材50の他端は、ロックバー40のバネ受け部材46と対向する部分に形成されている凹部40aにより支持されている。そして、バネ部材50は、図2や図3に示す状態では圧縮されている。バネ部材50は、各ロックバー40をロック溝42側に向かって付勢する付勢手段として機能する。
進退機構44は、電気によって駆動するアクチュエータとしてのプル型ソレノイド装置52と、ロックバー40をロック溝42に向かって付勢するバネ部材50と、ロックバー40に作用することでロックバー40の進退を制御するピン54と、ピン54が固定されているアダプタ56と、を有している。
プル型ソレノイド装置52は、通電時(クラッチ装置OFF)には軸52aが引き込まれ、非通電時(クラッチ装置ON)には内部にある戻りバネの作用で軸52aが突出するように構成されている。図2は、プル型ソレノイド装置52の通電時の状態を示している。
ピン54は、ロックバー40の中央部に設けられた貫通孔40bに浸入した状態でロックバー40と係合している。また、ピン54は、図2に示すクラッチ装置OFFの状態でロックバー40の貫通孔40bと当接する第1当接部54aと、後述するクラッチ装置ONの状態でロックバー40の貫通孔40bと当接する第2当接部54bと、第1当接部54aと第2当接部54bとを滑らかにつなぐ傾斜部54cと、を有する。第1当接部54aおよび第2当接部54bは、回転軸Axに沿っており、傾斜部54cは回転軸Axに対して傾斜する。ピン54は、第2当接部54bから第1当接部54aに向かってクラッチ装置29の回転軸Axに近づくように屈曲している。すなわち、第1当接部54aは、第2当接部54bよりロックバー40の根元の凹部40aに近い。なお、第2当接部54bは、必ずしも貫通孔40bの内周壁と当接しなくてもよい。
アダプタ56は、プル型ソレノイド装置52の軸に固定されており、プル型ソレノイド装置52への通電状態に応じて軸方向へ位置が変化する。その際、ピン54も軸方向へ位置が変化する。
次に、クラッチ装置の動作を説明する。図2や図3に示すように、クラッチ装置29がOFFの状態、すなわちプル型ソレノイド装置52に通電されている状態では、ロックバー40とロック溝42とが一切係合しない。そのため、操舵アクチュエータ30と転舵アクチュエータ32とは切り離された状態であり、互いの間でトルクは伝達されない。
より詳細には、プル型ソレノイド装置52に通電されると、プル型ソレノイド装置52の軸とともにアダプタ56が引き込まる。その際、ピン54の第1当接部54aが貫通孔40bの内周壁に当接し、クラッチ装置29がOFFの状態となる位置にロックバー40が規制され、ロック溝42から退避した状態にある
図4は、第1の実施の形態に係るクラッチ装置29(クラッチON状態)の軸に平行な断面図である。図5は、図4に示すクラッチ装置29のC−C断面図である。なお、図4は、図5に示すD−D断面に相当する。
クラッチ装置29は、システムの故障などで通電が解除され非通電な状態となると、プル型ソレノイド装置52の戻りバネの働きで、それまで引き込まれていたアダプタ56が図4の右方向へ移動する。その結果、ロックバー40の貫通孔40bの内部でのピン54の位置が変化し、ピン54の第2当接部54bが貫通孔40bの内部に位置することになる。その結果、ピン54により位置が規制されていたロックバー40は、ハンドル側ハウジング36のロック溝42に向かって移動できるようになる。
このように、各ロックバー40は、バネ部材50の付勢力によってハンドル側ハウジング36のロック溝42側に向かってタイヤ側ハウジング38の径方向に移動する力が働くが、図5に示すように、クラッチ装置29では、すべてのロックバー40がそのままロック溝42に入るようには構成されていない。
つまり、各ロックバー40(以下、適宜ロックバー401〜405と称する場合がある。)と各ロック溝42との位置関係、つまりハンドル側ハウジング36とタイヤ側ハウジング38との位置関係によっては、ロック溝42に入り込むロックバーの組合せは種々変わりうる。図5に示すクラッチ装置29では、ロック溝42に入り込むロックバー401〜403と、ロック溝42に入り込まずにロック溝42同士の間の内周壁部43と当接して止まるロックバー404,405とが存在することになる。つまり、ハンドル側ハウジング36とタイヤ側ハウジング38との任意の回転位相において、ロック溝42に入った状態のロックバー40とロック溝42に入らない状態のロックバー40とが存在する。
図5に示す状態は、クラッチ装置29が完全にクラッチONとなった場合であるが、プル型ソレノイド装置52への通電が解除されたと同時に、常にこの状態に至る訳ではない。以下では、通常のハンドル12の操作によってクラッチ装置29が完全にクラッチONとなるまでの動作について更に詳述する。
図17は、図5に示す状態からハンドル側ハウジング36が矢印R2方向へわずかに回転した位置にあるクラッチ装置の断面図である。例えば、図5に示す状態からハンドル側ハウジング36が矢印R2方向へわずかに回転した位置にある場合(タイヤ側ハウジング38は図5に示す状態のまま)、ロックバー401,402は、ロック溝42に入り込むものの、ロックバー403,404,405は、ハンドル側ハウジング36の内周壁にある突起部43に当接した状態である。また、この場合には、ロック溝42に入り込んだロックバー401,402は、いずれもロック溝42の側面42a,42bに当接していない。そのため、ハンドル側ハウジング36とタイヤ側ハウジング38との間には、回転方向において遊びが存在している。
そして、この状態からハンドル側ハウジング36を矢印R1方向へ回転すると、ロックバー401がロック溝42の一方の側面42aに当接し係合した際に、ロックバー403がロック溝42に入り、ロック溝42の他方の側面42bと係合する。その結果、図5に示すように、ロック溝421に入り込んで一方の側面42aと係合するロックバー401とロック溝423に入り込んで他方の側面42bと係合するロックバー403とにより、ハンドル側ハウジング36とタイヤ側ハウジング38との間の回転方向の遊びがほぼなくなり(ロック状態)、ハンドル側ハウジング36の回転力をタイヤ側ハウジング38へ確実に伝達することができる。
このように、本実施の形態に係るクラッチ装置29において、複数のロックバー40は、プル型ソレノイド52を含む進退機構44によって複数のロック溝42に向かって移動した場合、ハンドル側ハウジング36とタイヤ側ハウジング38との回転位相差にかかわらず、複数のロック溝42のうちいずれか一つの第1溝部であるロック溝421に入るロックバー401と、ロックバー401が、ロック溝421に入った状態で左回りの回転方向(図17に示す矢印R2方向)へ移動し、ロック溝421の2つの側面42a,42bのうち一方の回転方向(矢印R2方向)側の側面42aに係合した際に、ロック溝421と異なる第2溝部としてのロック溝423に入るロックバー403と、を有する。ロックバー403は、ロック溝423に入った際に、ロック溝423の2つの側面42a,42bのうち他方の回転方向(矢印R1方向)側の側面42bに係合するように構成されている。
これにより、クラッチ装置29は、進退機構44により各ロックバー40をロック溝42から退避させることで、車両操舵装置10をハンドル側ハウジング36とタイヤ側ハウジング38とのトルクの伝達がない分離状態にできる。一方、クラッチ装置29は、進退機構44によりハンドル側ハウジング36とタイヤ側ハウジング38とが接続されている状態(ロック状態)では、ハンドル側ハウジング36が一方の回転方向(例えば矢印R1方向)に回転した場合は、ロックバー401がロック溝421の2つの側面のうち他方の回転方向(矢印R2方向)側の側面42aに係合しているため、遊びがほとんどない状態でトルクをタイヤ側ハウジング38に伝達できる。また、ハンドル側ハウジング36が他方の回転方向(例えば矢印R2方向)に回転した場合は、ロックバー403がロック溝423の2つの側面のうち一方の回転方向(矢印R1方向)側の側面42bに係合しているため、遊びがほとんどない状態でトルクをタイヤ側ハウジング38に伝達できる。
また、クラッチ装置29は、プル型ソレノイド装置52に通電した際の動作によりバネ部材50の付勢力より大きな力でロックバー40をロック溝42から退避させるとともに、プル型ソレノイド装置52への通電が解除された場合にはバネ部材50の付勢力によりロックバー402やロックバー403がロック溝42に入るように構成されている。これにより、プル型ソレノイド装置52への通電が行われなくなった非常時には、ロックバー402やロックバー403がロック溝42に入ることでハンドル側ハウジング36とタイヤ側ハウジング38との接続が即座に行われる。
次に、ロックバー40とロック溝42との好適な関係について説明する。図6は、ロックバー40とロック溝42の形状を説明するための図である。図7は、図6に示すロックバーとロック溝との関係を直線状に示した模式図である。
図6、図7に示すように、複数のロック溝42の数をn[個]、ロック溝42のピッチをP、複数のロックバー40の数をN[個]、複数のロック溝42に入るロックバー40の数をNx[個]、ロックバー40の幅をW[deg]、ロック溝42の幅をB1[deg]、ロック溝42と隣接するロック溝42との距離(内周壁部43の幅)をB2[deg]、ロック溝42にロックバー40を係合させる際のズレ角度(接続時ズレ角度)をδ[deg]とすると、本実施の形態に係るクラッチ装置29における各パラメータは表1に示すように設定されている。
また、各パラメータは
P=360/n・・・式(1)
B1≒W+(δ×(Nx−1))・・・式(2)
δ=P/N・・・式(3)
の各式を満たすように設定されている。なお、各式の数値は、設計の自由度や部品の公差などによって多少の誤差は許容される。
これにより、ハンドル側ハウジング36とタイヤ側ハウジング38との相対的な位相がどんな場合でも、少なくとも一つのロックバー40は常にロック溝42に入りうる位置になる。また、ハンドル側ハウジング36とタイヤ側ハウジング38との接続(ロック)時のズレ角度δを考慮した設計が可能となる。ここで、接続時のズレ角度δとは、ハンドル側ハウジング36とタイヤ側ハウジング38との相対的な位相がどんな場合であっても、一方を他方に対して接続時ズレ角度δだけ回転させれば、クラッチ装置29においてクラッチON状態(ロック状態)が実現される角度を示すパラメータである。つまり、接続時のズレ角度δを小さく設定すれば、システム異常時においてもわずかなハンドル操作で操舵アクチュエータ30と転舵アクチュエータ32とが機械的に連結されることとなり、車両操舵装置10のフェールセーフの応答性の向上が図られる。
前述のように、車両操舵装置10は、車両を操舵するために回転されるハンドル12と、ハンドル12の操作量に応じた情報を検出する操舵角度センサ14と、タイヤ26を転舵するラックアンドピニオン機構34と、ラックアンドピニオン機構34を駆動する転舵モータ24と、ハンドル12とラックアンドピニオン機構34との間に配置され、ハンドル12とラックアンドピニオン機構34との間のトルクの伝達および遮断の切替えを行うクラッチ装置29と、クラッチ装置29によりトルクが遮断された状態で転舵モータ24を駆動し、操作量に応じた情報に基づいて転舵量を制御するECU28と、を備えている。ハンドル12は、ハンドル側ハウジング36と連結されており、ラックアンドピニオン機構34は、タイヤ側ハウジング38と連結されており、クラッチ装置29は、ハンドル12とラックアンドピニオン機構34との間のトルクが伝達可能な状態で、ハンドル12の操作に応じて車輪の舵角が変化するようにハンドル側ハウジング36とタイヤ側ハウジング38とが機械的に連結されている。
これにより、クラッチ装置29によりトルクが遮断された状態で転舵モータ24を駆動し、ハンドル12の操作量に応じた情報に基づいて転舵量を制御している場合には、ラックアンドピニオン機構34からハンドル12へトルク変動などが伝達されないため、操舵フィーリングを向上できる。
図5に戻る。このようなクラッチ装置29において、プル型ソレノイド装置52を通電OFFにした状態で長期間放置した場合、錆などの原因によりロックバー40とタイヤ側ハウジング38の開口部38aが固着するおそれがある。ここで図5に示すロックバー404やロックバー405が開口部38aに固着すると、プル型ソレノイド装置52の通電をONした場合に、最初からロック溝42に入っておらず、その他のロックバー40が正常にロック溝42から退避すれば、クラッチ装置29の接続が解除される。このように、最初からロック溝42に入っていないロックバー40の進退動作に異常が生じても、クラッチ装置29は正常に動作する場合があり、異常の検出が難しい。
図2および図4に示すように、クラッチ装置29には、ロックバー40の位置を検出する位置検出部47が設けられる。位置検出部47は、ロックバー40のそれぞれに設けられる。ロックバー40は正常に退避すると、図2に示すようにロックバー40のバネ受け部材46側の端部が位置検出部47に接触する。ロックバー40の端部が位置検出部47に接触した位置をロックバー40の退避位置という。
つまり位置検出部47は、進退機構44により複数のロックバー40を退避させた場合に、複数のロックバー40の位置が退避位置にあるか検出する。位置検出部47は、ロックバー40と接触すると、接触したことを示す信号をECU28に送信する。
なお、変形例の位置検出部は、プル型ソレノイド装置52の軸52aが、図2に示すように引いた退避位置にあるか検出してもよい。つまり、変形例の位置検出部は、進退機構44の位置が退避位置にあるか検出する。また位置検出部は、軸52aの位置を検出するに限らず、ピン54やアダプタ56の位置が退避位置にあるか検出してもよい。
図8は、ECU28の機能ブロックを示す図である。ECU28は、情報取得部102、異常検出部104、指示部106、異常処理部108および操舵制御部110を備える。
情報取得部102は、位置検出部47から各ロックバー40の位置情報を受け取る。情報取得部102は、受け取った各ロックバー40の位置情報を異常検出部104に送出する。指示部106は、クラッチ装置29へ接続または解除するよう指示する指示信号を送る。たとえば指示部106は、車両のイグニッションスイッチがONとなった場合に、クラッチ装置29の接続を解除するよう指示する信号をクラッチ装置29に送り、車両のイグニッションスイッチがOFFとなった場合に、クラッチ装置29を接続するよう指示する信号をクラッチ装置29に送る。クラッチ装置29は、指示部106から接続を解除する指示信号を受け取ると、プル型ソレノイド装置52に通電して各ロックバー40の退避動作を実行する。進退機構44は、ロック溝42に入ったロックバー40および内周壁部43に当接しているロックバー40の全てを同時に退避させる。
異常検出部104は、位置検出部47が検出した位置情報にもとづいて、ロックバー40の進退動作の異常を検出する。異常検出部104は、指示部106によりクラッチ装置29の接続を解除する指示を出した後に、位置検出部47により複数のロックバー40の位置、または、進退機構44の位置が所定の退避位置にないと検出された場合に、ロックバー40の進退動作が異常であると検出する。これにより、ステアバイワイヤシステムの駆動を開始するときに、クラッチ装置29のロックバー40の全ての進退動作を確認できる。
また、異常検出部104は、プル型ソレノイド装置52への通電が停止された状態で、操舵反力モータ18にて所定のトルクをハンドル側ハウジング36に付与し、転舵角度センサ22がタイヤ側ハウジング38に連結するインターミディエイトシャフト20から検出したトルクの情報にもとづいて、各ロックバー40の進退動作の異常を検出する。プル型ソレノイド装置52への通電が停止された状態とは、例えば車両のイグニションスイッチがOFFされた状態である。プル型ソレノイド装置52への通電が停止された状態は、正常であればクラッチ装置29が接続された状態にあるので、一方の回転軸にトルクを付与し、他方の回転軸から付与したトルクが検出できれば、異常検出部104は、ロックバー40の進退動作は正常であるとする。一方の回転軸に付与したトルクが、他方の回転軸から検出できなければ、すなわち一方の回転軸が空転した場合、異常検出部104は、ロックバー40の進退動作が異常であると検出する。このように、クラッチ装置29を接続した状態において、クラッチ装置29にトルクを付与してトルクの伝達を確認することで、ロックバー40の進退動作を確認することができる。
なお、図5に示すように、クラッチ装置29を接続した状態において、トルクの伝達の確認をした場合に、ロックバー401およびロックバー403の進退動作が確認できたものの、他のロックバー40については不明である。しかしながら、少なくともクラッチ装置29の接続は確認されており、他のロックバー40については、クラッチ装置29を解除した際に進退動作を確認すれば各ロックバー40について進退動作を確認できる。
また、操舵反力モータ18にて一方の回転軸にトルクを付与してトルクの伝達を確認する方法に限らず、クラッチ装置29を接続した状態において運転者が操舵した場合に、トルクの伝達を確認してもよい。操舵角度センサ14が運転者の操舵を検出した場合に、操舵角度センサ14で検出した操舵角と、転舵角度センサ22の検出した操舵角を比較してトルクの伝達を確認できる。また転舵モータ24を駆動してトルクを与え、そのトルクがトルクセンサ16にて検出されるか確認してもよい。
操舵制御部110は、操舵アクチュエータ30および転舵アクチュエータ32が有する各種センサの情報に基づいて、操舵反力モータ18や転舵モータ24を制御する。操舵制御部110は、クラッチ装置29の接続が解除され、異常検出部104によりクラッチ装置29が異常であると検出されていなければ、ステアバイワイヤシステムによる操舵制御を実行する。異常処理部108は、ロックバー40の進退動作の異常と判定されると、異常時の処理を実行する。異常処理部108は、表示装置を介して運転者にクラッチ装置29の異常を示す。異常処理部108は、クラッチ装置29の異常を検出するとクラッチ装置29の接続の解除を禁止する。
図9は、接続解除時のロックバー40の進退動作の異常検出処理を示すフローチャートである。車両のイグニッションスイッチがONされると、指示部106は、クラッチ装置29へ接続を解除する指示信号を送る。クラッチ装置29は、接続解除を示す指示信号を受け取ると進退機構44によりロックバー40の退避動作を実行する。
異常検出部104は、指示部106からクラッチ装置29の接続を解除する指示が出たか判定する(S10)。クラッチ装置29の接続を解除する指示が出ていない場合(S10のN)、本処理を終了する。クラッチ装置29の接続を解除する指示が出ている場合(S10のY)、異常検出部104は、接続解除指示が出てから所定時間が経過したか確認する(S12)。所定時間は、クラッチ装置29の退避動作が確実に完了する時間であって、数秒以下である。
所定時間経過した後、異常検出部104は、位置検出部47の検出結果を取得し、ロックバー40が所定の退避位置にあるか判定する(S14)。各ロックバー40が所定の退避位置にあれば(S14のY)、異常検出部104はロックバー40が正常であると判定する(S16)。各ロックバー40のいずれか1つでも所定の退避位置になければ(S14のN)、異常検出部104はロックバー40が異常であると判定する(S18)。このように、全てのロックバー40の異常の有無を検出できる。
図10は、接続時のロックバー40の進退動作の異常検出処理を示すフローチャートである。運転者が車両を降りるときなど、イグニッションスイッチがOFFされるとステアバイワイヤシステムを終了し、指示部106は、クラッチ装置29を接続する指示信号をクラッチ装置29に出す。クラッチ装置29は接続を示す指示信号を受け取ると、プル型ソレノイド装置52への通電を停止し、バネ部材50の付勢力によりロックバー40をロック溝42に係合させる。
異常検出部104は、指示部106からクラッチ装置29を接続する指示信号が出たか判定する(S20)。指示部106からクラッチ装置29を接続する指示信号が出ていなけば(S20のN)、本処理を終了する。
指示部106からクラッチ装置29を接続する指示信号が出ていれば(S20のY)、操舵制御部110は操舵反力モータ18を駆動させてハンドル側ハウジング36にトルクを付与する(S22)。異常検出部104は、転舵角度センサ22の検出結果を受け取り、インターミディエイトシャフト20(タイヤ側ハウジング38)においてトルクが所定値以上検出されたか判定する(S24)。なお異常検出部104は、転舵角度センサ22により検出された回転角の変化量からトルクを算出する。この所定値は、操舵反力モータ18にて付与してトルクの大きさにもとづく。
タイヤ側ハウジング38において所定値以上のトルクが検出された場合(S24のY)、異常検出部104はクラッチ装置29が正常に接続されていると判定する(S26)。タイヤ側ハウジング38において所定値以上のトルクが検出されない場合(S24のN)、異常検出部104はクラッチ装置29の接続が異常であると判定する(S28)。このように、クラッチ装置29の接続時に、正常に接続されているか確認することができる。
次に、ロックバー40の進退動作に異常が生じた場合には、おのずとクラッチ装置29が接続された状態となるようにクラッチ装置29を形成する態様について説明する。まず、プル型ソレノイド装置52は、指示部106から複数のロックバー40を退避させるよう指示を受けた場合に、複数のロックバー40を退避する方向に移動させる作動電流と、複数のロックバー40を退避した状態で保持する保持電流と、にもとづいて動作する。保持電流は、作動電流より小さく設定される。作動電流は、数秒用いる一方、保持電流は車両運転中の長い時間用いられるため、保持電流を作動電流より小さく設定することで電力消費を抑えることができる。
クラッチ装置29は、作動電流にてプル型ソレノイド装置52を所定の時間駆動して、バネ部材50に抗してロックバー40を退避させた後、プル型ソレノイド装置52に供給する電流を作動電流から保持電流に切り替え、保持電流にてプル型ソレノイド装置52を駆動してロックバー40を退避させた状態を保持する。作動電流は所定の時間だけプル型ソレノイド装置52に供給される。
このようなクラッチ装置29において、プル型ソレノイド装置52は、保持電流にもとづいて動作した場合、所定の退避位置においてバネ部材50の付勢力に抗してロックバー40を保持する一方、退避位置より手前の溝部側の所定の非退避位置においては50の付勢力より係合部を吸引する力が小さくなるように設定される。つまり、ロックバー40が所定の退避位置まで戻ってない場合に、保持電流をプル型ソレノイド装置52に印加してもバネ部材50の付勢力によりロックバー40がロック溝42側に移動させられ、クラッチ装置29が接続された状態になる。このようなクラッチ装置29であれば、ロックバー40の進退動作に異常が生じても、クラッチ装置29が接続された状態となるため、運転者自身の力により操舵できるように設計できる。
図11は、作動電流および保持電流によるプル型ソレノイド装置52の吸引力およびバネ部材50の反力の関係を説明するための図である。図11の縦軸はプル型ソレノイド装置52の吸引力およびバネ部材50の反力、つまりロックバー40への作用力を示し、横軸はロックバー40の移動量を示す。ロックバー40の移動量は、プル型ソレノイド装置52の軸52aの移動量に対応する。なおバネ部材50の付勢力124は各バネ部材50の付勢力の合わせたものである。
作動電流120は保持電流122より大きく、図11に示すように作動電流120を印加したときのプル型ソレノイド装置52の吸引力(以下、作動電流120による吸引力という)は、保持電流122を印加したときのプル型ソレノイド装置52の吸引力(以下、保持電流122による吸引力という)より大きい。また、作動電流120による吸引力は、付勢力124より常に大きく、作動電流120を印加すればバネ部材50の付勢力124に抗してロックバー40を退避させることができる。
バネ部材50の付勢力124は、ロックバー40の移動量が大きくなるにつれて、すなわちロックバー40が軸心に近づくにつれて強まる。また、プル型ソレノイド装置52においても、ロックバー40の移動量が大きくなるにつれて吸引力が強くなる特性を有し、その移動量に対する吸引力の変化はバネ部材50の付勢力124より大きい。
図11に示すロックバー40の移動量d1は、ロックバー40が内周壁部43に当接した状態であり、移動量d2は、ロックバー40が所定の退避位置まで退避した状態である。保持電流122による吸引力は、ロックバー40の移動量d2であればバネ部材50の付勢力124より大きい。すなわち、ロックバー40が所定の退避位置まで退避していれば、保持電流122による吸引力が付勢力124に抗して、ロックバー40の退避状態が保持される。
一方、保持電流122による吸引力は、ロックバー40の移動量d1であればバネ部材50の付勢力124より小さい。すなわち、ロックバー40の少なくとも一つが退避しておらず、ロックバー40が内周壁部43に当接した状態であれば、作動電流120から保持電流122に切り替えた場合、バネ部材50の付勢力124によってロックバー40が押し戻され、いずれかのロックバー40がロック溝42に再び入る。これにより、クラッチ装置29の接続状態においてロックバー40がタイヤ側ハウジング38の開口部38aに固着した場合、クラッチ装置29の接続を解除することができないように構成できる。
異常検出部104は、指示部106から複数のロックバー40を退避させる指示を受けて退避動作を実行した後に、クラッチ装置29が接続された状態にあれば、複数のロックバー40の進退動作の異常であると検出する。異常検出部104は、ハンドル側ハウジング36およびタイヤ側ハウジング38の一方の軸にトルクを付与し、ハンドル側ハウジング36およびタイヤ側ハウジング38の他方の軸からトルクが検出されれば、クラッチ装置29が接続された状態にあると判定する。
(第2の実施の形態)
図12は、第2の実施の形態に係るクラッチ装置の断面図である。図12に示すクラッチ装置58は、第1の実施の形態に係るクラッチ装置29と比較して、ロックバーやロック溝の大きさが異なる点が大きな特徴である。クラッチ装置58自体の構造や動作は第1の実施の形態に係るクラッチ装置29とほぼ同じであるため、説明を適宜省略する。
クラッチ装置58におけるロックバー60やロック溝62に関する各種パラメータは、表1に示すとおりである。クラッチ装置29と比較して、クラッチ装置58は、ロックバー40の幅が広く、ロック溝62の幅が狭くなっている。そして、プル型ソレノイド装置52への通電が解除された場合に、5つのロックバー60のうち、いずれかのロック溝62に確実に入るロックバーの数は1個である(第1の実施の形態に係るクラッチ装置29では2個)。
そして、この状態からハンドル側ハウジング64を接続時ズレ角度δまで回転させる間に、もう一つのロックバー60がロック溝62に入り込む。これにより、第1の実施の形態に係るクラッチ装置29と同様の作用効果を奏する。
第2の実施の形態のクラッチ装置58においても、第1の実施の形態のクラッチ装置29と同様の方法でロックバー60の進退動作の異常を検出することができる。また、第1の実施の形態のクラッチ装置29と同様に、保持電流による吸引力とバネ部材の付勢力との関係を設定することで、クラッチ装置58の接続状態においてロックバー60が固着した場合、クラッチ装置58の接続を解除することができないように構成できる。
(第3の実施の形態)
図13は、第3の実施の形態に係るクラッチ装置の断面図である。図13に示すクラッチ装置66は、第1の実施の形態に係るクラッチ装置29や第2の実施の形態に係るクラッチ装置58と比較して、ロックバーやロック溝の数が異なる点が大きな特徴である。クラッチ装置66自体の構造や動作は第1の実施の形態に係るクラッチ装置29とほぼ同じであるため、説明を適宜省略する。
クラッチ装置66におけるロックバー68やロック溝70に関する各種パラメータは、表1に示すとおりである。クラッチ装置29やクラッチ装置58と比較して、クラッチ装置66は、ロックバー68の数が少なく、ロック溝70の数が多くなっている。そして、プル型ソレノイド装置52への通電が解除された場合に、4つのロックバー68のうち、いずれかのロック溝70に確実に入るロックバーの数は1個である(第1の実施の形態に係るクラッチ装置29では2個)。
そして、この状態からハンドル側ハウジング72を接続時ズレ角度δまで回転させる間に、もう一つのロックバー68がロック溝70に入り込む。これにより、第1の実施の形態に係るクラッチ装置29と同様の作用効果を奏する。
第3の実施の形態のクラッチ装置66においても、第1の実施の形態のクラッチ装置29と同様の方法でロックバー60の進退動作の異常を検出することができる。また、第1の実施の形態のクラッチ装置29と同様に、保持電流による吸引力とバネ部材の付勢力との関係を設定することで、クラッチ装置66の接続状態においてロックバー68が固着した場合、クラッチ装置66の接続を解除することができないように構成できる。
(第4の実施の形態)
図14は、第4の実施の形態に係るクラッチ装置74の軸に平行な断面図である。図15は、図14に示すクラッチ装置74のE−E断面図である。なお、図14は、図15に示すF−F断面に相当する。
本実施の形態に係るクラッチ装置74は、アクチュエータとして回転型ソレノイドを備えている点、また、進退機構が、回転型ソレノイドの回転運動を変換してロックバーを進退させる変換機構を備えている点、が第1の実施の形態に係るクラッチ装置29と大きく異なる。
クラッチ装置74は、第1の回転軸である環状のハンドル側ハウジング76と、第2の回転軸である環状のタイヤ側ハウジング78と、タイヤ側ハウジング78の径方向に移動できるようにタイヤ側ハウジング78に設けられている係合部としての複数のロックバー80と、を備える。ハンドル側ハウジング76は、内周面に複数のロック溝82が互いに間隔をもって周方向の形成されている。タイヤ側ハウジング78は、ハンドル側ハウジング76と同軸となるように設けられており、クラッチ装置74の側方から見て少なくとも一部がハンドル側ハウジング76と重なるように配置されている。
ハンドル側ハウジング76は、操舵アクチュエータ30(図1参照)と連結されており、ハンドル12の回転に連動して回転する。また、タイヤ側ハウジング78は、転舵アクチュエータ32(図1参照)と連結されており、タイヤの転舵に連動して回転する。クラッチ装置74は、ロックバー80をロック溝82に向かう方向へ進退させる進退機構84を更に備える。進退機構84の詳細については後述する。
本実施の形態に係るクラッチ装置74においては、6つのロックバーが放射状に配置されている。各ロックバー80は、環状のタイヤ側ハウジング78の周面に形成された開口部78aに摺動可能に支持されている。
タイヤ側ハウジング78の図14に示す右側の開口部近傍には、バネ受け部材86が固定されている。バネ受け部材86は、小径部86aの外周面に、各ロックバー80に対応するように複数の凸部86bが放射状に配置されている。凸部86bは、付勢部材であるバネがずれないようにその一端を支持する。また、バネ90の他端は、ロックバー80のバネ受け部材86と対向する部分に形成されている凹部80aにより支持されている。そして、バネ90は、図14や図15に示す状態では圧縮されている。
進退機構84は、電気によって駆動するアクチュエータとしての回転型ソレノイド92と、ロックバー80をロック溝82に向かって付勢するバネ90と、ロックバー80に作用することでロックバー80の進退を制御するピン94と、ピン94が固定されている回転盤96と、を有している。
回転型ソレノイド92は、通電時(クラッチ装置OFF)には軸92aが図15に示す矢印R3方向に回転し、非通電時(クラッチ装置ON)には内部にある戻りバネの作用で図15に示す矢印R4方向に軸92aが回転するように構成されている。図14は、回転型ソレノイド92の通電時の状態を示している。
ピン94は、ロックバー80の中央部から側面に向かって設けられた切り欠き溝80bに浸入した状態でロックバー80と係合している。また、ピン94は、図14に示すクラッチ装置OFFの状態でロックバー80の切り欠き溝80bと当接し、後述するクラッチ装置ONの状態でロックバー80の切り欠き溝80bから退避する。
回転盤96は、回転型ソレノイド92の軸92aに固定されており、回転型ソレノイド92への通電状態に応じて時計回りまたは反時計回りに回転する。その際、ピン54も時計回りまたは反時計回りに回転し、位置が変化する。
位置検出部97は、図14に示すようにロックバー80が退避位置にあるか検出する。位置検出部97は、バネ受け部材86の外周に設けられ、ロックバー80と接触すればロックバー80が退避位置にあると検出する。なお、位置検出部は進退機構84である回転盤96の回転位置や、ピン94の回転位置を検出してもよい。
次に、クラッチ装置の動作を説明する。図14や図15に示すように、クラッチ装置74がOFFの状態、すなわち回転型ソレノイド92に通電されている状態では、ロックバー80とロック溝82とが一切係合しない。そのため、操舵アクチュエータ30(図1参照)と転舵アクチュエータ32(図1参照)とは切り離された状態であり、互いの間でトルクは伝達されない。
より詳細には、回転型ソレノイド92に通電されると、回転型ソレノイド92の軸92aとともに回転盤96が図11に示す矢印R3方向に回転する。その際、ピン94が切り欠き溝80bの側壁80b1に当接しながら切り欠き溝80bの奥側に浸入することで、ロックバー80が徐々にタイヤ側ハウジング78の内側に引き込まれ、最終的にクラッチ装置74がOFFの状態となる位置にロックバー80が規制される。
図16は、第4の実施の形態に係るクラッチ装置74(クラッチON状態)の軸に垂直な断面図である。
クラッチ装置74は、システムの故障などで通電が行われない状態となると、回転型ソレノイド92の戻りバネの働きで、それまでロックバー80を規制していた回転盤96が図16に示す矢印R4方向へ回転する。その結果、ロックバー80の切り欠き溝80bの内部でのピン94の位置が変化し、ピン94が切り欠き溝80bの内部から退避することになる。その結果、ピン94により位置が規制されていたロックバー80は、ハンドル側ハウジング76のロック溝82に向かって移動できるようになる。
このように、各ロックバー80は、バネ90の付勢力によってハンドル側ハウジング76のロック溝82に向かってタイヤ側ハウジング78の径方向に移動する力が働くが、図12に示すように、クラッチ装置74では、すべてのロックバー80がそのままロック溝82に入るようには構成されていない。
つまり、各ロックバー80(以下、適宜ロックバー801〜806と称する場合がある。)と各ロック溝82との位置関係、つまりハンドル側ハウジング76とタイヤ側ハウジング78との位置関係によっては、ロック溝82に入り込むロックバーの組合せは種々変わりうる。図16に示すクラッチ装置74では、ロック溝82に入り込むロックバー801〜803と、ロック溝82に入り込まずにロック溝82同士の間の突起部83と当接しているロックバー804〜806とが存在することになる。
図16に示す状態は、クラッチ装置74が完全にクラッチONとなった場合であるが、回転型ソレノイド92への通電が解除されたと同時に、常にこの状態に至る訳ではない。以下では、通常のハンドル12の操作によってクラッチ装置74が完全にクラッチONとなるまでの動作について更に詳述する。
例えば、図16に示す状態からハンドル側ハウジング76が矢印R4方向へわずかに回転した位置にある場合(タイヤ側ハウジング78は図12に示す状態のまま)、ロックバー802,803は、ロック溝42に入り込むものの、ロックバー801,804〜806は、ハンドル側ハウジング76の内周壁にある突起部83に当接した状態である。また、この場合には、ロック溝82に入り込んだロックバー802,803は、いずれもロック溝82の側面82a,82bに当接していない。そのため、ハンドル側ハウジング76とタイヤ側ハウジング78との間には、回転方向において遊びが存在している。
そして、この状態からハンドル側ハウジング76を矢印R3方向へ回転すると、ロックバー803がロック溝82の一方の側面82aに当接し係合した際に、ロックバー801がロック溝82に入り、ロック溝82の他方の側面82bと係合する。その結果、図16に示すように、ロック溝821に入り込んで他方の側面82bと係合するロックバー801とロック溝823に入り込んで一方の側面82aと係合するロックバー803とにより、ハンドル側ハウジング76とタイヤ側ハウジング78との間の回転方向の遊びがほぼなくなり(ロック状態)、ハンドル側ハウジング76のトルクをタイヤ側ハウジング78へ確実に伝達することができる。
このように、本実施の形態に係るクラッチ装置74において、複数のロックバー80は、回転型ソレノイド92を含む進退機構84によって複数のロック溝82に向かって移動した場合、ハンドル側ハウジング76とタイヤ側ハウジング78との回転位相差にかかわらず、複数のロック溝82のうちいずれか一つの第1溝部としてのロック溝823に入るロックバー803と、ロックバー803が、ロック溝823に入った状態で左回りの回転方向(図16に示す矢印R4方向)へ移動し、ロック溝823の2つの側面82a,82bのうち一方の回転方向(矢印R4方向)側の側面82aに係合した際に、ロック溝823と異なる第2溝部としてのロック溝821に入るロックバー801と、を有する。ロックバー801は、ロック溝821に入った際に、ロック溝821の2つの側面82a,82bのうち他方の回転方向(矢印R3方向)側の側面82bに係合するように構成されている。
これにより、クラッチ装置74は、進退機構84により各ロックバー80をロック溝82から退避させることで、車両操舵装置10をハンドル側ハウジング76とタイヤ側ハウジング78とのトルクの伝達がない分離状態にできる。一方、クラッチ装置74は、進退機構84によりハンドル側ハウジング76とタイヤ側ハウジング78とが接続されている状態(ロック状態)では、ハンドル側ハウジング76が一方の回転方向(例えば矢印R3方向)に回転した場合は、ロックバー803がロック溝823の2つの側面のうち他方の回転方向(矢印R4方向)側の側面82aに係合しているため、遊びがほとんどない状態でトルクをタイヤ側ハウジング78に伝達できる。また、ハンドル側ハウジング76が他方の回転方向(例えば矢印R4方向)に回転した場合は、ロックバー801がロック溝821の2つの側面のうち一方の回転方向(矢印R3方向)側の側面82bに係合しているため、遊びがほとんどない状態でトルクをタイヤ側ハウジング78に伝達できる。
また、クラッチ装置74は、回転型ソレノイド92に通電した際の動作によりバネ90の付勢力より大きな力でロックバー80をロック溝82から退避させるとともに、回転型ソレノイド92に通電されていない場合にはバネ90の付勢力によりロックバー802やロックバー803がロック溝82に入るように構成されている。これにより、回転型ソレノイド92への通電が行われなくなった非常時には、ロックバー802やロックバー803がロック溝82に入ることでハンドル側ハウジング76とタイヤ側ハウジング78との接続が即座に行われる。
また、クラッチ装置74は、回転型ソレノイド92の回転運動を変換してロックバー80を進退させているため、クラッチ装置の軸方向の長さを抑えることができる。
第4の実施の形態のクラッチ装置74において、ピン94がロックバー80に固着すると回転盤96が回転しなくなり、全てのロックバー80が退避位置に戻らなくなる。そのため、退避指示に応じてクラッチ装置74に通電した場合に、位置検出部97がロックバー80が退避位置にないと検出すれば、ロックバー80の進退動作の異常と検出される。このようにロックバー80の位置検出部97をもとにロックバー80の進退動作の異常を検出できる。また、第1の実施の形態のクラッチ装置29と同様に、保持電流による吸引力とバネ部材の付勢力との関係を設定することで、クラッチ装置74の接続状態においてロックバー80が固着した場合、クラッチ装置74の接続を解除することができないように構成できる。
上述の各実施の形態に例示したように、各クラッチ装置は、アクチュエータへの通電が解除された段階で少なくとも一つのロックバーがロック溝に入り込む。そして、クラッチ装置は、接続時ズレ角度δ以下の回転操作により少なくとも一つのロックバーがロック溝と確実に係合するとともに、そのタイミングでもう一つのロックバーが他のロック溝に入り込むように構成されている。そして、2つのロックバーで異なる2つのロック溝の側面を挟むことで遊びがほとんどないロック状態が実現される。
また、各クラッチ装置は、摩擦式クラッチのように高いトルクで分離状態となることはない。また、各クラッチ装置は、複数のロックバーの移動を一つのアクチュエータの動きに連動させて達成できるため、各ロックバーの同期が容易である。また、各クラッチ装置は、クラッチ解除時(クラッチOFF)は、アクチュエータですべてのロックバーの位置を拘束することで、ロックバーの安定固定ができる。一方、クラッチ接続時(クラッチON)は、アクチュエータによるロックバーの位置規制を解除することで、ロックバーがバネにより個々に動かされるため、ロック溝に入るロックバーとロック溝に入らないロックバーとの個別の動きが可能となる。
以上、本発明を上述の各実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の各実施の形態に限定されるものではなく、各実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて各実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を各実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
上述の各実施の形態では、ハンドル側ハウジングの内周にロック溝が設けられ、タイヤ側ハウジングにロックバーが設けられているクラッチ装置について説明したが、ハンドル側ハウジングにロックバーが設けられ、タイヤ側ハウジングの外周にロック溝が設けられているクラッチ装置であってもよい。