JP2014045008A - 容量素子および共振回路 - Google Patents

容量素子および共振回路 Download PDF

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則孝 佐藤
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正喜 管野
Yukiko Mizuguchi
由紀子 水口
Naoki Koshigaya
直樹 越谷
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Abstract

【課題】容量可変率、及び、クオリティファクターQという両特性がより向上した容量素子を提供する。
【解決手段】誘電体層を構成する誘電体材料が、単純ペロブスカイト構造または複合ペロブスカイト構造または複合-複合ペロブスカイト構造のうち少なくても一種以上の構造の多結晶であり、これら何れかの構造を成す主要な元素の一部が他の陽イオン元素で置換されている。さらに誘電体材料は、希土類元素、および前記陽イオン元素以外の陽イオン元素を含んでいる。また誘電体材料は、前記誘電体層と前記電極層とが積層される面に対して垂直をなす法線方向を含む断面においての前記構造の単位格子における[111]、[-1-1-1]、[11-1]、[-1-11]、[1-11]、[-11-1]、[-111]、および[1-1-1]の各方位の何れかの方位の単位ベクトルが、前記法線方向への投影の大きさの平均値0.88を超える。
【選択図】図55

Description

本技術は、容量素子及びそれを備える共振回路に関し、特に、容量可変性とクオリティファクターQ(損失の逆数。以下、単にQと記すこともあり)との両方がより高い容量素子に関する多結晶誘電体材料の結晶の方向に特徴を有し、その容量素子を備える共振回路が共振周波数の可変周波数範囲と共振回路のQとの両方とがより優れたことを特徴とするものである。
近年、電子機器の小型化、高信頼性化に伴い、その電子機器に用いられる電子部品として、小型化された容量素子の開発が求められている。そして、容量素子の小型化、及び高容量化を可能とするために、誘電体層と内部電極層とが交互に積層された積層誘電体素子本体に外部電極を形成した積層セラミックコンデンサ(以下、MLCCと表記することもあり)が提案されている(下記特許文献1参照)。
下記特許文献1には、製造される積層セラミックコンデンサの積層誘電体素子本体に残留応力が結果的に付与されることにより、誘電率が向上し、取得静電容量の向上を図ることが記載されている。そして、このように、積層セラミックコンデンサにおいて積層誘電体素子本体に残留応力が結果的に付与されることで誘電率の向上が図られるので、より一層の小型化が可能とされている。
しかしながら、この特許文献1に記載の技術は、積層セラミックコンデンサのより小型化かつ大容量化についてだけ志向した技術であり、損失の逆数Qについての考慮は記載されていない。
ところで、小型で大容量の積層セラミックコンデンサが市場へ供されるようになったことにより、その電気的特性、特に容量が使用温度で安定であることが求められるようになった。使用温度とは、積層セラミックコンデンサが用いられる機器が使用される雰囲気温度、および積層セラミックコンデンサの局所的周囲の温度すなわち積層セラミックコンデンサ自身の温度などを挙げられるが、ここでは特に後者の温度のことである。
ここで、コンデンサにおける容量の温度変化、いわゆる温度特性については、ある特定の温度範囲においての容量の変化幅(±%)の許容値が、JIS規格やEIA規格などによって定められている。これらの規格は、クラス1(種類1)、クラス2(種類2)の2種類に大別されている。本願で取り扱うのは後者であり、主に高誘電率系と呼ばれるものである。また本願で特に取り扱うのは、クラス2(種類2)のうちでさらに、温度特性コードがB、X5R、X7R、R、X8R、X6Sのものについてである。例えば、X7Rは、基準温度25℃、温度範囲-55〜125℃、静電容量変化率±15%、と定められている。
温度特性は、誘電体の材料、すなわち化学組成の様々な工夫によって、改善されたことは言うまでもない。積層セラミックコンデンサにおける高誘電率系の誘電体材料としては、チタン酸バリウム(BaTiO:以下単にBTOとも記す)を主成分とするものが多い。BTOセラミックスは、-90℃、5℃、および135℃に結晶型の転移があり、後者2つの温度での転移のため、結晶型の転移に伴う比誘電率の温度変化が、前記の温度特性コードを満たし難くしている主因である。そこで、BTOに対して、いわゆるシフター、デプレッサーとなる各種の元素を添加することにより、上記温度特性を改善することが試みられており、様々な元素が検討されている(下記非特許文献1)。
以上のような誘電体における化学組成の様々な工夫は、温度特性へ影響を与えるのはもちろん、前記の比誘電率に対しても影響を与え、そして耐電圧性や、長期使用での電気特性の安定性すなわち信頼性、そもそも生産性(割れ、初期特性のばらつき、歩留まり)への影響を与える。それらが満たされるよう化学組成について非常に多くの工夫がされて来た。
加えて、誘電体の化学組成は、各種の化学組成の異なる原料物質を混合して成される。原料物質としてはふつう粒子を用いる。それら原料物質の粒子の物理的な調製についても様々な工夫がされてきており、製造工程のうちのノウハウとして蓄積されていることが多い。具体的には原料物質の粒子の粒径、それら粒子の混合時の攪拌分散工程に使用する機器(プロペラ式攪拌機、いわゆるボールミル)の選択、それら粒子を混ぜる順番、その順番での時間間隔などが挙げられる。
製造工程のうち、焼結工程においても、いわゆる焼成温度プロファイル(温度 対 時間)の工夫、そして焼成中での時間に対する雰囲気の調整(還元雰囲気、酸化雰囲気)にも工夫がされてきている。この製造工程についてもノウハウとして蓄積されていることが多い。また、焼結工程での焼結剤の存在、先の誘電体材料の原料の化学組成への焼結剤としての原料物質の添加につても考慮されてきている。多結晶のセラミックとしての物理的な強度および強度信頼性とも、欠くことができないからである。
特許文献1の筆頭発明者が筆頭著者の下記非特許文献2では、BTO主成分としたX7R特性材料の積層セラミックコンデンサにおいては、X腺回折の結果、多層化に伴い積層方向(すなわち電界方向)にBTOのc軸([001]方位)が向く割合が増加していることから、残留応力が発生していると述べられている。なお、(111)のピークは回折角度(いわゆる2θ)のシフトは見られなかったとの報告であった。(111)のピークについて、シフト以外の考察は無かった。そもそも、いわゆるθ-2θ法のX腺回折による測定で、特定の回折ピークの解析は測定手法そのものから得られる情報にやや乏しい。このため、測定する試料にもよるが、ピーク(トップ)強度、ピークの積分強度、ピークの半値幅といった解析は困難になることが多い。c軸([001]方位)が向く割合が増加していると考えられたのも、ピークシフトのモデル(非特許文献2の図8参照)の提案によるものであると、本発明者らは解釈する。
一方、この非特許文献2では、単結晶のBTOにおいてはc軸方向([001])の誘電率はa軸方向([100])の誘電率より低いとも述べられている。このことは、上述した「MLCCでの多層化に伴って電界方向にBTOのc軸([001]方位)の向く割合が増加する」とのデータとは一致しない。一致しない理由としては、MLCCでは多結晶のBTOが用いられているため、結晶性の違いに起因していると考えられていた。
また下記非特許文献3では、X7RのMLCCにおける容量変化(容量エージング)、特にDC電界下の容量の時間変化についての報告がある(以下、図1参照)。コンデンサの電界強度に対する誘電率特性(誘電率)は、BTO部分のそれと、リラクサーライクの誘電体部分のそれとの2つから成ると報告された。DCバイアス印加直後の容量低下は、後者の誘電体部分の誘電率非線形応答(電界強度が大きくなるほど次第に分極量が飽和)が主因で、短時間で飽和完遂すると解釈できる。そして、長時間での容量の減少は、化学組成がほぼ純粋なBTO部分でのドメイン壁の移動(ドメインスイッチング)、すなわちBTOの強誘電性分極ドメインが電界方向へなるべく向くことに起因しているとのことである。そして、DCバイアス印加直後では、その短時間スケールで動き得るドメイン壁が動いた分だけの容量低下も起き、リラクサーライクの誘電体部分の誘電率非線形応答による容量低下と合わさっていることが示されている。
また下記非特許文献4では、MLCCの多層化に伴うより一層の容量増加は、多層化に伴う残留応力が、リラクサーライクの誘電体部分(非特許文献3で報告されたもの)へ影響を及ぼすことが主因であり、純粋なBTO部分への影響はほとんど無いと報告された。尚、ここでの容量増加は、誘電体が同じでも、容量が層数に対して比例関係を上回り、多層になるほど容量がより大きくなる場合を言う。またこの非特許文献4では、非特許文献2を引用しているが、非特許文献2で考えられたc軸の電界方向へ向く割合については触れられていない。
また、下記非特許文献5(インターネット情報)によると、MLCCにおけるBTOの個々のBaTiO結晶の方位には、特定方向への配向はとくに認められないとある。この情報によると、BTOは立方晶で指数付けされている。BTOのMLCCであるとのことだが、上記のようにBTOへは様々な元素が添加されているのがふつうであり、このデータは立方晶で指数付けされるものであったと発明者らは考える。
尚、先の非特許分献4では、分極の電界に対するヒステリシス特性が調べられているが、2種の誘電体部分に対してとも、誘電損失、すなわちQについては、特段には触れられていない。
さらに、非特許文献2〜4では、BTOの化学組成(原材料の仕込みの化学組成)が同じでも、多層化によって残留応力が増し、それによって誘電率がより高くなること、そして残留応力が影響を与えるのは微視的なリラクサーライクの誘電体部分であることまでは明らかにされてきた。
以上のまとめとして、セラミックコンデンサにおける電気特性の向上は、BTOにおける化学組成の工夫、製造工程での工夫、および応力の工夫の、3つの観点で主に検討がなされてきた。しかしながら、これらの3つの観点の検討は既に行なわれており、開発がいわば飽和状態であった。
さて、非特許文献2に関連して、多結晶セラミック圧電体については、下記従来技術による配向性の評価がされている。
[X線回折法]
いわゆるθ-2θ法によるX線回折法を用いることにより、回折角の位置から作製された試料の同定、さらには格子定数の決定が可能となる。
[ロッキングカーブ測定法]
前述したような薄膜試料における集中光学系を用いた2θ/θスキャン法の特徴を積極的に利用した結晶の配向性を評価する測定法である。図2において、2θ角を固定し、θ角を変化させる。2θ角を固定することで、ある特定の回折線、すなわちある結晶の特定の格子面間隔からの回折線のみを検出できることになる。θ角を変化させることで、ブラッグの条件を満足する結晶面は表面に対し、θ ?αBだけ傾くことになる。θの回転により、膜法線方向からの結晶方位のずれが測定できることになり、配向結晶の配向の度合いが評価できることになる。しかし、この測定では本質的に集中光学系からの焦点のずれが起こることになり、厳密な意味での定量評価とはいえない。
[ロットゲーリング法]
ロットゲーリング法により得られた結晶配向セラミックスの結晶配向度F(HKL)は、下記の式(1)によって求める。
上記式(1)において、ΣI(hkl)は、結晶配向セラミックスについて測定されたすべての結晶面(hkl)のX線回折強度の総和であり、ΣI0(hkl)は、結晶配向セラミックスと同一組成を有する無配向のセラミックスについて測定されたすべての結晶面(hkl)のX線回折強度の総和である。また、Σ’I(HKL)は、結晶配向セラミックスについて測定された結晶学的に等価な特定の結晶面(HKL)のX線回折強度の総和であり、Σ’I0(HKL)は、結晶配向セラミックスと同一組成を有する無配向のセラミックスについて測定された結晶学的に等価な特定の結晶面(HKL)のX線回折強度の総和である。
したがって、多結晶体を構成する各結晶粒が無配向である場合には、平均配向度F(HKL)は0%となる。また、多結晶体を構成するすべての結晶粒の(HKL)面が測定面に対して平行に配向している場合には、平均配向度F(HKL)は100%となる。
以上の他にも、多結晶セラミック圧電体における配向性の評価方法としては、極点図測定(Schulzの反射法)、φスキャン測定等の方法が知られている。
従来の技術で、慣例の配向性の評価では、定の結晶方位の平均配向度として定量化できるだけで、ふつうは、結晶方位の角度分布の情報は得ることができない。
また透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)を用いた方法では、観察箇所が、セラミックコンデンサの誘電体層の大きさ(厚さ)に比べ、ごく狭い範囲に限られてしまい、特徴を把握できない。
さて、金属など多結晶体においては、いわゆるグレインや薄膜などで結晶方位の解析に、反射電子回折模様(electron back-scattering pattern:EBSPまたはElectron Back-scatter Diffraction:EBSDとも呼ばれる。以下、単にEBSPと標記)が適用されている。コンデンサ関連の公報においても、金属基板の結晶配向に用いることができるとある(例えば下記特許文献2)。
しかし、特許文献2では、単に「用いられることができる」旨の記載だけで、具体的な評価方法は記載されていない。この文献での金属基板の「結晶配向性はX解回折のφスキャンの半値幅Δφが5°以下」と述べているだけである。また特許文献2は、金属基板に関しての結晶配向のものであり、誘電体の結晶の配向については、金属基板の結晶配向特性から、誘電体が一軸配向を「間接的」にもたらすというものである。また特許文献2の技術志向は、誘電体の粒界(グレインバウダリー)を少なくすることで、漏れ電流を少なくし、Qを上げることである。誘電体そのものについての結晶配向の状態については直接に調べてはいない。誘電体そのものについての結晶配向の状態と誘電特性そのものに関しては考えられていない。
[SEM−EBSPによる結晶方位解析:概要]
上記EBSPは、走査電子顕微鏡(scanning electron microscope:SEM)内での回折現象を利用した局所方位測定法の一種である。尚、大別したもう一種は、結晶に電子線を入射したときに発生する特性X線が、結晶自身によって回折する現象を利用したものがある。
EBSPによる結晶方位の測定、解析の方法は、SEM内で試料表面の1点に電子線を入射させ、これによって生じるEBSPを用いて局所領域の結晶方位や結晶構造を解析できる。尚、このEBSPは、TEMで観察される菊池線と発生原理は全く同じであるが、SEMの反射電子によって得られるものを、TEMで観察されるものとを区別するため、初期の頃はBackscattered Kikuchi Diffraction (BKD)と呼ばれた時期があった。
図2には、菊池線の発生原理の模式図を示す。
図3および図4には、結晶方位マッピングの考え方を示す。
試料の測定面に対して電子線を走査させることにより、測定面において一定間隔で電子線を照射し、各照射位置における試料の結晶方位を測定する。測定した方位は、電子線を照射した領域(測定点)のみからの情報であり、試料の測定面を連続的に調べたものではない。しかし、隣接する測定点(電子線の照射位置)間の中間までを、その測定結果で代表させることにより、測定面全体の結晶方位の情報を仮定する。電子線の照射間隔(すなわち測定ピッチ)を十分小さくすれば、二次元測定面内の結晶方位の分布をかなり正確にマッピングすることができる。
そもそも、結晶性材料の組織(microstructure)とは、結晶方位が異なる場合の境界(結晶粒界:grain boundary)や、相(すなわち結晶構造)が異なる場合の境界(異相界面:interface)により区切られてできたパターンのことである。結晶方位と結晶構造はともに、菊池線を解析することにより正確に得ることができる。すなわち、ビーム走査により得られたEBSPに基づいた各測定点の結晶方位データを、各測定点の位置情報(二次元座標)とともに蓄積し、それをもとに材料組織を再構築しようというのが方位像顕微鏡(Orientation Imaging Microscopy:OIMTM)の概念である。
EBSP法の第一の利点は、菊池線回折図形を用いることにより、最小0.1°程度の正確な方位測定ができる点にある。近年のコンピューターの発達とあいまって、多量の方位データを含む方位マッピングを、比較的短時間のうちに自動で行なえるようになった。EBSPは方位情報とともに地理的情報を保持している。従って、材料のミクロ組織を再現でき、かつ、注目したい局所領域の結晶方位を正確に知ることができる。また、EBSP法によれば、異なる結晶構造を持つ相の区別ももちろん可能である。
TEMでは試料のごく狭い範囲にで、菊池線を用いて結晶方位の詳細な解析ができる。異種金属の接合面での解析など、特定のごく狭い範囲が特定できていれば有力である。しかし、ごく狭い範囲に限られてしまうので、試料のややマクロ的な結晶方位の解析にはTEMによる方法は適さない。SEM-EBSPは、SEMであり、数〜数100μmというSEMでのマクロ的な観察範囲にて、結晶方位解析ができる特長がある。電子顕微鏡の電子銃の発達、すなわち電界放出型電子銃との組み合わせともあいまって、SEM-EBSPによる結晶方位解析の活用が始まった。
[SEM-EBSPによる結晶方位解析から得られるデータの特徴]
SEM-EBSPによる結晶方位解析により、様々な材料組織が、結晶方位情報を内包した形で視覚的に提示されるようになった。図5に、SEM-EBSPによる結晶方位解析を視覚化した一例を図示する。図5(a)は、28.5at%Ni鋼におけるレンズマルテンサイトの結晶方位を視覚化した図である(参照文献:Mater. Characterization, 54 (2005), 378.)。また図5(b)は、0.2wt%C鋼におけるラスマルテンサイトの結晶方位を視覚化した図である(参照文献:Acta Mater.,54,(2006),1279.)。
上記のように、SEM-EBSPによる結晶方位のデータ(情報)は、図5で例示したような逆極点図マップが代表的なものであり、試料の測定面(正確には試料面から約50nmの深さ)の2次元の位置表示面に、結晶方位をふつう擬似カラーで表したものである(グレースケールで表すこともある)。すなわち、測定時に試料を設置する幾何学配置で定義する直交3軸において、試料の結晶の特定の結晶面(複数)の方位がその幾何学軸へ向いているかを、視覚的に表したものである。
この表示例のように、SEM-EBSPによる結晶方位のデータは、視覚情報で表されることが主たるものである。合金、異種材料などでは、各相の幾何学配置で観察する。この際、必要に応じて、試料の幾何学配置における観察面を複数、例えば、直交座標の2つの軸を含む面、すなわち3つの面で観察する。金属材料分野(鋼材組織、薄膜銅配線、メッキ)などでは、試料における結晶方位の相対関係によって考察され、諸問題の解決の手がかりとなってきた。
SEM-EBSPによる結晶方位のローデータを使って計算処理で求められるものに、逆極点図がある。これは前記の逆極点図マップを1点に集約し、試料の直交3軸の幾何学座標系の3つの軸方向ごとに、平均的に表したようなものである。これも視覚的に表したものである。なお、逆極点図は、次に説明する極点図とはまさしく「逆」のものである。
極点図においては、前記の直交3軸の幾何学座標系のうちの1つの軸方向の無限遠から、結晶の結晶面(複数)のうち特定の結晶面の方位(の単位ベクトル)を見るように(眺めるように)して2次元の円(半径1)へ描いたものである。極点図の数は、ふつう、試料の注目する結晶方位の数に、直交3軸の数を乗じたものとなる。これも視覚的に表したものである。
以上の説明で「視覚的」との表現/記述は「定性的」の意図を込めているが、SEM-EBSP解析による結晶方位解析において(バンドコントラスト粒度分布などは除くの意)、定量的な解析評価として、Multiple Uniform Density(以下、M.U.D. またはMUDと標記する)が知られている。試料の注目する特定の相(注目する物質、そして結晶多形の場合は注目する結晶形)において、対称特性が無い結晶軸方位(正確にはその方位のベクトルが逆向きのベクトルである場合を含めている)についてのその解析/評価が知られているが、国内外文献においての活用は皆無と言える。
定量的に扱うにしても、ふつう、ある基準方向に対する注目する結晶方位の角度のヒストグラムで表される。
ここで、注目している結晶方位が対称特性を有している場合、例えば正方晶ではa軸とb軸とが等価であるため、c軸に適用できたMUDの計算式は適用することができない。MUDの計算にはその結晶方位(結晶軸)の角度分布のランダム分布論理プロファイル(角度分布の論理式)を用いて規格化するからである。
前記のような正方晶でのc軸には対称特性が無く、そのランダム分布はsinθ(θは基準とする方位とc軸とで作る角度のうち、小さい方の角度)が知られていたのである。しかし、正方晶ではa軸とb軸とにおいては、ランダム分布論理プロファイル(角度分布の論理式)を取り扱っている文献は見当たらない。正方晶以外の場合、例えば、立方晶の場合、互いに直交する3つの結晶軸はその格子定数が同一であり、それら3つは等価であり、互いに対称特性を有する。この場合でも、a軸の方位に関する配向性をM.U.D.の考え方を用いて定量的に評価しようにも、その計算方法が知られていない。つまり、立方晶におけるa軸のランダム分布(配向性が全くなし。立方晶の多結晶体のそれぞれの微結晶の結晶方位がランダムの場合の)の論理式が知られていない。
以上まとめると、EBSPによる結晶方位解析は、近年に活用が始まっているものの、試料の制約等によって、結晶方位解析で定性的な解釈に留まり、定量的なデータ解釈にまで至っていない。
WO2005/050679号公報 特開2008−277425号公報
素材物性学誌 pp.37, Vol.11 No.1 (1998) Japanese Journal of Applied Physics Vol.43 No.8A pp.5398 (2004) Japanese Journal of Applied Physics Vol.44 No.9B pp.6989 (2005) Japanese Journal of Applied Physics Vol.49 041505 (2010) "低真空SEM?EBSPによるセラミック材料の結晶方位解析低真空SEM?EBSPによるセラミック材料の結晶方位解析"[online]、JEFテクノリサーチ株式会社ホームページ JFE-TEC News NO.25、[平成24年8月17日検索]、インターネット<URL:1345780200277_1.html>
印加される制御電圧に応じて静電容量が変化する誘電体層を用いた容量素子(可変容量素子)が開発されているが、このような可変容量素子においては、小さな制御電圧に対しても、十分な可変率を確保したいという要望がある。この場合、第一選択肢は、誘電体層の化学組成の選択である。しかしながら、可変性を充分に確保するとQが確保しにくく、可変性と両特性はトレードオフであるとの一般認識があり、両特性を同時に向上する手法の観点が無かった。
上述の点に鑑み、本技術は、静電容量のより大きな容量可変率、及び、より大きなクオリティファクターQという両特性がより向上した容量素子を提供することを目的とする。また本技術は、容量素子を用いた、より特性の優れた共振回路を提供することを目的とする。さらに本技術は、前記課題を解決するにあたり、対称性のある結晶方位の解析方法を提供することを目的とする。
このような目的を達成するための本技術は、誘電体層と、当該誘電体層に積層された電極層とを備えた容量素子であり、この誘電体層を構成する誘電体材料が、単純ペロブスカイト構造または複合ペロブスカイト構造または複合-複合ペロブスカイト構造のうち少なくても一種以上の構造の多結晶であり、前記何れかの構造を成す主要な元素の一部が他の陽イオン元素で置換され、希土類元素、および前記陽イオン元素以外の陽イオン元素を含むと共に、前記誘電体層と前記電極層とが積層される面に対して垂直をなす法線方向を含む断面においての前記構造の単位格子における[111]、[-1-1-1]、[11-1]、[-1-11]、[1-11]、[-11-1]、[-111]、および[1-1-1]の各方位の何れかの方位の単位ベクトルが、前記法線方向への投影の大きさの平均値0.88を超える。
以上説明したように、本技術の容量素子は、誘電体層の化学組成の選択による容量の可変性と、クオリティファクターQとのトレードオフを緩和させることができ、素子構造による容量素子の応力調整および応力付与による可変性向上の限界を超えて、電気特性のさらなる向上を図ることが可能になる。また先に述べた従来での工夫(化学組成、残留応力)に対して、本技術を追加することにより、セラミックコンデンサの電気特性のさらなる向上を図ることが可能になる。
X7RのMLCCにおける容量の時間変化(容量エージング)の原理を示す図である。 菊池線の発生原理の模式図を示す。 結晶方位マッピングの考え方を示す。 SEM-EBSP解析装置のシステム構成を示した図である。 SEM-EBSPによる結晶方位解析を視覚化した図である。 試料における解析面のSEM像である。 EBSPによる結晶方位解析の測定データ処理を説明する図である。 EBSPによる結晶方位解析によって得られた相分布を示す図である。 EBSPによる結晶方位解析によって得られた相分布を示す図(逆極点図マップ)である。 コンデンサの厚さ方向と長さ方向とを含む断面図である。 SEM−EBSPで得られるデータ(誘電体結晶の角度分布)についての模式的な図である。 SEM−EBSPで得られるデータ(誘電体結晶の角度分布) の定量的な扱いのためのデータ処理を説明するための図である。 M.U.D.の計算手順によるc軸<001>の配向性の評価を説明する図である。 BTOセラミックに従来手法としてのMUDの計算手順を適用した場合を説明する図である。 従来のセラミックコンデンサにおける相分布を示す図である。 従来のセラミックコンデンサにおける逆極点図マップである。 従来のセラミックコンデンサにおける正方晶BTOのc軸のMUDである。 セラミックコンデンサMUにおける正方晶BTOのc軸のMUDである。 セラミックコンデンサTYにおける正方晶BTOのc軸のMUDである。 セラミックコンデンサKCにおける正方晶BTOのc軸のMUDである。 作製した比較例1のコンデンサの断面模式図である。 作製した比較例2のコンデンサの断面模式図である。 作製した比較例3のコンデンサの断面模式図である。 作製した比較例4のコンデンサの断面模式図である。 比較例1〜4の電気的特性の評価結果を示すグラフである。 比較例1〜4における正方晶BTOのc軸のMUDである。 正方晶の<111>のランダム分布の導出を説明する図(その1)である。 正方晶の<111>のランダム分布の導出を説明する図(その2)である。 正方晶の<111>のランダム分布の導出を説明する図(その3)である。 電極の無い部分のa軸のMUDの算出(考案した手法)を示す図である。 比較例1〜4における正方晶BTOのa軸のMUDである。 EPSDによる結晶方位解析の結果(結晶方位分布)を示す図である。 擬立方晶におけるa軸のランダム分布の規格化を説明する図(その1)である。 擬立方晶におけるa軸のランダム分布の規格化を説明する図(その2)である。 擬立方晶におけるa軸のランダム分布の規格化を説明する図(その3)である。 擬立方晶におけるa軸のランダム分布の規格化を説明する図(その4)である。 擬立方晶におけるa軸のランダム分布の規格化を説明する図(その5)である。 擬立方晶におけるa軸のランダム分布の規格化を説明する図(その6)である。 擬立方晶におけるa軸のランダム分布の規格化を説明する図(その7)である。 EPSDによる結晶方位解析の結果(結晶配向性)を示す図である。 多結晶における結晶軸方位のランダム性を説明する図である。 擬立方晶における軸方位と<111>方位との関係を示す図(その1)である。 擬立方晶における軸方位と<111>方位との関係を示す図(その2)である。 擬立方晶における軸方位と<111>方位との関係を示す図(その3)である。 擬立方晶における軸方位と<111>方位との関係を示す図(その4)である。 擬立方晶における軸方位と<111>方位との関係の導出を説明する図(その1)である。 擬立方晶における軸方位と<111>方位との関係の導出を説明する図(その2)である。 擬立方晶における軸方位と<111>方位との関係の導出を説明する図(その3)である。 導出した擬立方晶における軸方位と<111>方位との関係を示すグラフである。 従来のセラミックコンデンサ製品についてのEPSDによる結晶方位解析の結果(結晶方位分布)を示す図である。 Pseに対してプロットした比較例1〜4の電気的特性の評価結果を示すグラフである。 比較例1〜4に関して、横軸を容量可変性の指標、縦軸をQとしたグラフである。 比較例1〜4に関して、横軸をPseとし、縦軸をQとしたグラフである。 セラミックコンデンサにおける誘電体層の構成例を示す図である。 本技術による好ましい「使用時電界方向に対する平均構造が正方晶BTOの結晶方位の角度分布(プロファイル:30°以上)」を示す図である。 本技術による、より好ましい「使用時電界方向に対する平均構造が正方晶BTOの結晶方位の角度分布(プロファイル)」を示す図である。 本技術による、さらにより好ましい「使用時電界方向に対する平均構造が正方晶BTOの結晶方位の角度分布(プロファイル)」を示す図である。 本技術による、典型的な「使用時電界方向に対する平均構造が正方晶BTOの結晶方位の角度分布(プロファイル)」を示す図である。 本技術の製造方法の例1を示す図(その1)である。 本技術の製造方法の例1を示す図(その1)である。 合成した板状のチタン酸バリウム(Ba6Ti17O40)粒子を示す図である。 合成した板状のチタン酸バリウム(BaTiO3:BTO)粒子を示す図である。
以下、本技術の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
本技術の容量素子は、その誘電体層が多結晶BTO系誘電体からなり、容量素子の温度特性が少なくてもB特性またはX7Rを満たすような誘電体層の化学組成からなることを特徴とする。
その誘電体層の誘電体グレインは、さらに微視的には、強誘電性を帯びたチタン酸バリウムの部分と、いわゆるリラクサー誘電体と類似の誘電特性の部分とから成ることを特徴とする。具体的には以下の通りである。
[チタン酸バリウム(BTO)系誘電体]
チタン酸バリウム(BaTiO:BTO)は、強誘電体として知られており、比誘電率が高い。このため、BTOの粒子を用いて小型で大容量なコンデンサ(すなわち容量素子)が作られ、各種の電気製品の小型化に役立っている。実用コンデンサの誘電体は、純粋なBTOではなく、各種の添加物を含んでいる。添加物としては、例えばMg、Ca、Sr、Pb、Zn、Co、Zr、Sn、Mn、Si、Cr、Y、Sm、Gd、Dy、Ho、V、Nb、Irが用いられる。
これらの元素は、コンデンサの電気特性(誘電特性)の確保および向上のため、および製造上のために添加される。これらの添加物(元素)のうち、いわゆるピンチング効果(添加元素を固溶させることで、各相転移温度を近づけること)を生じさせる添加物は必須で用いられる。
ここで用いるBTOは、温度特性が少なくともB特性を満たし、−25℃〜+85℃の範囲で±10%である。またBTOは、好ましくは温度特性としてX7R特性を満たし、−55℃〜+125℃の範囲で±15%である。
誘電体の1つ粒子は、分域(ドメイン)が1つ(単結晶)でも複数(マルチドメイン)でも、どちらでもよい。
誘電体は粒子として用いる。つまりセラミック、つまり多結晶とする。それぞれの粒子(分域の概念含む)の結晶方位はランダムとする(ただし、従来のセラミックコンデンサの場合)。
[従来のセラミックコンデンサについて、EBSPによる解析:本発明者ら]
従来の各種の容量素子について、電気特性を評価し、これとともに誘電体層につき、X線回折(X-ray Diffraction:XRD)による残留応力解析や、SEM-EBSPによる結晶方位解析を行なった。従来の容量素子では、誘電率はBTOが室温において正方晶である共通認識であることを考慮し、正方晶における、BTOの自発分極の方位(c軸方位)の誘電率と、その方位に垂直な面の誘電率(a軸方位)とで、結晶方位や電気的特性が考えられて来た(上述済み)。詳しくは後述。
[本技術での考えのポイント]
本発明者らは、温度特性がX7R(以上に優れているものであり、B特も含む)についてはコアシェル構造をとり、シェル(あるいは添加元素の拡散層)の誘電特性の全誘電特性への寄与も少なくはないことを考慮し、その誘電体材料系においてはBTOを立方晶と見なして取り扱い、[111]方位とその誘電特性と関連性とを従来のセラミックコンデンサで見出したことに基づいている。その関連性の強化に注力する考え方が本技術のポイントである。
[EBSP結晶方位データの解析手法の提案:本発明者らによる]
発明者らは、先ずは正方晶におけるa軸(=b軸)に関する評価の方法を提案する。さらに、X7R特性を満たすMLCCの容量素子の誘電体層を成す誘電体材料について、結晶方位の評価の方法について鋭意検討し、BTO系誘電体層において、正方晶に指数付けされたものを、3つの軸を等価に扱うということを考案するに至った。そのデータ解析手法を考案した。すなわち、立方晶の対称特性を有する多結晶体での微結晶のランダム分布の理論式を提案する。
[立方晶における、結晶方位の解析]
EBSPのデータの基本は、試料のSEM画像に対応する画素位置に存在する物質同定(注:想定される物質種と結晶形の事前情報を前提)と、結晶方位のオイラー角(3つ)と、Mean angular deviation(MAD。実際に検出されたEBSPのバンドと理論上のバンドとの角度差を表すもので、値が小さいほど解析結果の精度が良い。前記バンドコントラストと関係した値)である。これらのローデータを用い、各画素においてそれぞれに、オイラー角で回転操作される前の結晶軸方位の単位ベクトルを、オイラー角による回転操作し、それらの軸方位をそれぞれにて直交3次元座標系による座標へ変換する。
この材料系の対称特性を考慮し、試料の解析時の試料の幾何学配置と、試料の解析面での試料、すなわちセラミックコンデンサの誘電体層とそれに加わる電界方向との幾何学配置をも考慮して、直交3次元座標系による座標を電界方向へ揃える。ここでは、直交3次元座標系による座標で表わされる各軸方位を現す単位ベクトルの座標のうち電界方向のY座標が正の値となるようにした。これは、各軸方位は、正の方向と負の方向と2つの方向を示すが、EBSP装置でのオイラー角には、それらの区別がされないようなものになっているからである。
そして、誘電体すなわち、BTOとして指数付けされた画素について、その結晶軸方位を電界方向の方位を基準にした基準方位と、その結晶軸方位とで作る角度のうち小さい方の角度について、基準方位(0°)の角度分布プロファイル(ヒストグラム)を導出する。
[立方晶、あるa軸方位角度における[111]方位が電界方向へ投影される大きさの算出]
立方晶での、あるa軸方位角度における[111]方位を電界方向へ投影させた場合の大きさを、それらの幾何学配置の分布プロファイルを論理的に導出する。そして、とり得る幾何学配置における[111]方位が電界方向へ投影される大きさの平均を論理的に導出した。
そして、立方晶での、a軸方位の角度分布の場合での[111]方位が、電界方向へ投影される大きさの角度平均を論理的に算出し、その大きさを本発明者らは、Pseと呼ぶことと定義した。
[データ処理 着目する結晶方位の角度分布、概要]
次にEBSPで得られるデータの概略を、図面に基づいて説明する。
<座標の定義、EBSP解析試料の調製>
EBSP解析試料は、セラミックコンデンサにおいて使用する電界方向を含む面の断面を考える。本技術においては電極層面が矩形を想定しており、その長手方向を含む断面を想定する。つまり、セラミックコンデンサにおいて、直交三次元座標を次のように想定する。すなわち、X軸方向は、誘電体層の層面方向とする。本技術ではコンデンサを成す部分に対応する電極層面の長手方向とし、通常はセラミックコンデンサ(容量素子)の外形の長さ方向に相応する。またY軸方向は、電界方向、すなわち電極層と誘電体層ともう一方の電極層とが重なっている方向(それら層面の法線方向)とする。通常は、セラミックコンデンサの厚さ方向(積層方向)である。さらにZ軸方向は、誘電体層の層面方向とし、X軸方向とはもちろん直交の方向とする。本技術ではコンデンサを成す部分に対応する電極層面の短手方向とし、通常はセラミックコンデンサの外形の幅方向に相応する。
座標の原点のおよその位置は、セラミックコンデンサを成す全体の体積部分(より正確にはコンデンサを成すセラミックの誘電体層の体積部分)の重心近傍とする。つまり、本技術で想定しているセラミックコンデンサにおいては、X=0は長さのほぼ中央、Y=0は厚さのほぼ中央、Z=0は幅の中央である。厳密に重心でなくてもよく、好ましくはEBSP解析する面範囲がセラミックコンデンサの重心部分を含むような座標定義となるように、観察範囲の面を定める。好ましくは、EBSP解析する面の重心と、前記座標の原点のおおよその位置となる重心とがほぼ一致するようにすることである。観察範囲が必ずしも、セラミックコンデンサの体積部分の重心を含まなくてもよい。極端にはセラミックコンデンサを成している体積部分を観察範囲がカバーしていることが必須とする。好ましくは、セラミックコンデンサを成す全体の体積部分(より正確にはコンデンサを成すセラミックの誘電体層の体積部分)の重心から各軸方向に±20%にあることである。
EBSP解析の範囲は、セラミックコンデンサの内部コンデンサのうち、少なくとも1層の誘電体層を含むことが好ましい。あるいは、1層の誘電体のうち、前記の定義で厚さ方向(積層方向)および幅方向において、内部コンデンサの中央であることが好ましい。
尚、本明細書の各図において図示する座標は、上記の通り、本技術の主旨を満たしたものであり、各図での紙面上で説明そして本明細書を理解しやすいよう便宜的に表記の向き等を変えている。
上記の解析面を調製する方法は、通常のEBSP解析における解析面を調整する方法を採用すればよい。
解析面はこの図で測定箇所と同じことである。EBSP解析面は、ふつうのSEM観察よりもより平滑である必要があることが知られている。表面の凸凹が影響するためである。前述での原理説明のように、EBSP解析はまさしくその面を解析するものではなく、面の下層部分(概して、電子線の進入深さである約50nm程度の部分)の解析である。本技術でもその要求を満たすような解析面を調製する通常の方法が採用される。機械的な研磨については多くの技術分野にて多用されており、説明を省略する。クロスセクションポリッシャはAr+イオンビームを試料へ照射し、スパッタリング現象によって試料を切削(アルゴンミリング)するものである。この加工は、市販されている装置を用いることができる。
必ずしもこれらの前処理の加工方法に限られなくてもよい。機械的研磨に次いで、機械的と化学的との研磨を併用してもよい。具体的には、ダイヤモンド砥粒1μm程度を用いて研磨を行い、次いで、サブμm以下で好ましくは0.04μm程度のコロイダルシリカとエッチング作用としての硝酸とにて酸性(pH3程度)にした研磨液を用いて研磨してもよい。この時、0.02μmのアルミナへコロイダルシリカを併用することが好ましい。これらの物質は半導体用のシリコンウエハの仕上げ用ポリシング用研磨剤として市販されているものを用いることもできる。
セラミックコンデンサの電極層はもちろん電気伝導性を有しているが、誘電体層は電気伝導性に乏しく、SEMにおいてチャージアップをおこしてしまい、SEM像の観察が出来ないことはもちろん、EBSP解析が行なえない。よってふつう、SEM用の試料には解析面に導電性を付与させる。何らかの導電性の物質のごく薄い膜を付着させる。SEM観察では金(Au)が用いられることもあるが、EBSP解析には導電性薄膜の材質とその膜厚とを選ぶ必要があるが、解析面に対する導電性付与のための加工が特に限定されることはない。
このようにして調製した試料をSEM装置とEBSP装置とに供する。ここで用いられる具体例、およびEBSP解析のための条件は、次のようである。
装置 :走査型電子顕微鏡(SEM)…(株)日立ハイテクノロジーズ製SU−70
:Electron Back-scatter Diffraction(EBSD)−System…Oxford Instruments社製AztecHKL
条件 :加速電圧20kV、フィールドフリーモード
倍率調整:視野中央に1層のBTO層が見えるようにサンプリング毎に調整
画素数 :後述の結晶方位解析では、視野画像をX方向に400ピクセル、Y方向に300ピクセル
図6には試料における解析面のSEM像の一例を示す。観察範囲は上述の「EBSP解析の範囲」の条件を満たす一例として示せる。この解析の範囲にて、次に説明するようにしてデータを得た。
先ず、図7に示す各画素毎に、いわゆる菊池パターン様の画像を得た。ここでは図7に示す指数付けにて、解析装置のソフトウェアを使用してBTOの相解析および結晶方位解析を行った。MADが0.5以上は、BTOの正方晶にも立方晶にも一致しないという設定で解析した。座標(x,y)の画素毎に、相の種類を示すデータと、3つのオイラー角[ψ,ψ,ψ]との4つのデータが得られる。
このようにして得られたデータを、上記EBSP解析装置に備えられている解析ソフトウェアで解析した結果として、図8に示す画像が得られる。図8は、ニッケル(Ni)からなる電極層と、BTOを用いた誘電体層とについて、その物質および結晶形毎にグレースケールで示した画像であり、解析面(面積範囲)の相分布を示す。
尚、測定時の試料の温度は、BTOのキュリー温度を超えていないと考える。この場合、BTOは正方晶(tetragonal)であるはずだが、立方晶(cubic)がまばらに見られた。
別途に記したが、このサンプルの誘電体は、BTOへ各種の添加元素を加えたBTO強誘電体である。この誘電体では、添加元素はBTO粒子中に散在していると考える。全体的には正方晶の構造であるが、添加元素が存在しているあたりの領域は、擬立法晶になっていると考えられる。その領域に起因して、立法晶として測定されたと考える。
図8は、相のマッピングである。本技術のセラミックコンデンサでEBSP解析する対象面(解析面、測定面)の相の指数付けの各相、正方晶BTOの相、立方晶BTOの相、Ni(立方晶)の相、およびこれら以外の部分(画素)である。これら以外には、まさしくこれら以外の物質、例えば焼結剤の偏析物、原料物質の未反応物などが考えられる。また、物理的に空隙の可能性もありえる。また、既に述べているように、BTOへ各種の添加元素が進入して固溶体となって、BTO系誘電体グレインのシェル部分または拡散層の格子定数がBTOの前記の2つの格子定数からずれていることが考えられる。
同じく、結晶方位の解析の一例として、図9には各相の逆極点図マップをグレースケールで示す。もちろん、各相での軸方位とグレースケールとの対応図(扇形を3つ)も示してある。結晶方位の着目する方位は、それぞれの結晶形を特徴付けるものである。各相の結晶軸方向をY方向を基準にしてグレースケールで示している。Y方向は誘電体に印加される電界方向と同じ方向である。
前記で概要を記したMUDの求め方の説明に先立って、結晶方位データの取り扱いを説明する。既存(従来)のSEM-EBSP解析装置(含む測定制御&データ解析のソフトウエア)では、オペレーターがデータ解析の内容を意識することなく、MUDの結果を得ることができる。本技術においては、MUDにまつわって、結晶方位データを、既存(従来)のSEM-EBSP解析装置(含む測定制御&データ解析のソフトウエア)に備えられているデータ処理機能では行なえず、オイラー角のローデータを外部出力し、発明者らがデータ処理をし、検討を重ねた賜物であるので、MUDの導出方法および結晶方位データの取り扱いを記載し説明する。
上記のデータ(フレースケール)を用いると説明が複雑となる。そこで、上記のデータのエッセンスを模式的に図10に示す。図10は、コンデンサの厚さ方向と長さ方向とを含む断面図である。ただし誘電体結晶の方向はさまざまな向きである。
電極層、誘電体層、誘電体の粒子(グレイン)、結晶方向を示す。方位は図のように、簡略に示した。結晶方位はこの説明では唯一軸すなわち、正方晶のc軸に着目する。その方位(真逆も)を、両側に矢印で示す。この図はこの紙面の2次元で示しており、XY面の断面での図示を基本とするが、この面外へ向いている結晶軸方位に関しては、Z軸方向の配置は、Z軸方向の遠方から眺めて、XY面に投影して表している。図示の慣例に習って、太い側がZ軸のプラス側に張り出していることを示している。誘電体の粒子の結晶方位のベクトルは、厳密にはSEM-EBSPの解析面の表層から、図示の試料の幾何学配置のZ軸のマイナス方向への約50nmの深部の層の誘電体のものであるが、解析面、すなわちまさしく断面から得られるものとして解釈するのがふつうである。本技術においてもその解釈でよい。よって、この図では結晶方位を表す両側矢印の中心がXY面に存在することになる。
図10に矢印で示した電界方向は、XY面上にだけ存在するものではない。図のY軸と平行の関係であればよい。この模式図においては、前記の結晶方位を表す両側矢印線の配置の解釈を定めたので、電界方向のベクトルはXY面(紙面)上に存在するとして考える。
図10に矢印で示した結晶方向と電界方向との作る角度θは、XY面(紙面)上だけで考えることはできない。電界方向はXY面(紙面)上に存在するが、結晶方向は必ずしもXY面(紙面)上に存在するとは限らない。むしろ、XY面(紙面)上に存在する確立は非常に低いのであることは、結晶の方位がとり得る方向が+Y軸方向を基準として立体角2πステラジアン(ZX面よりも+Y軸側の範囲)であることから、容易に解釈できるであろう。
すなわち、結晶方向と電界方向との作る角度θは、それら方向のベクトルを含む面における平面角である。そして、それら方向のベクトルを含む面における平面角は、図10における拡大図で示したように、それらの関係は和が角度πラジアン(180°)である。角度が大小の2つの場合は、角度が小さい方を結晶方向と電界方向との作る角度θとし、角度が等しい場合すなわちπ/2ラジアン(90°)の場合は、大小の区別がつかないが、どちらを選んでもπ/2ラジアン(90°)が結晶方向と電界方向との作る角度θとなる。
尚、図10における拡大図では、結晶方向のベクトルがXY面(紙面)上に存在するようにして表している。
図10における拡大図は、誘電体の1つの粒子についての結晶方位の角度θを説明したものとなっているが、解析面の全ての粒子についても同様である。
図11には、SEM−EBSPで得られるデータ(誘電体結晶の角度分布)についての模式的な図を示す。図内の左上に示した各格子はSEM-EBSPの画素の大きさを表す。誘電体粒子(グレイン)と結晶方位とは図10と同様である。
SEM-EBSPの画素の大きさと誘電体粒子(グレイン)との大小関係は、この模式図ではほぼ等しいとして説明する。尚、本技術では、誘電体粒子(グレイン)の大きさに対して、SEM-EBSPの画素の大きさが小さいことが好ましい。ここで言う誘電体粒子(グレイン)の大きさとは、解析面において観察される粒界で現れるものである。というのは、誘電体粒子(グレイン)はもちろん立体的に存在し、SEM-EBSP解析する試料はその立体物を上記のような幾何学配置で断面出ししたものである。ある誘電体粒子(グレイン)からしてみれば、任意の位置で切られて露出した面における粒界が観察されていることになる。立体での誘電体粒子(グレイン)の大きさよりも、断面での誘電体粒子(グレイン)の大きさが、立体の誘電体粒子(グレイン)よりも小さいことは容易に解釈できるであろう。これらの関係は、フルマン法から学ぶことができるがここでは詳細には触れない。
SEM-EBSPの各画素は、その画素から生じた菊池線(の画像)を前述したデータ処理によって、指数付けして得られた相種、オイラー角などのデータを有している。このうち、3つのオイラー角によって表される正方晶BTOの結晶方位のうち、c軸方位と電界方向とで作る角度θのみを、図11における左下に数値マトリックスとして表した。すなわち、図11における左下の各マトリックス(すなわち各画素)に、c軸方位と電界方向とで作る角度θ(単位「°」)で表した。
角度θの求め方は、例えば1つの画素において、c軸[001]方向の単位ベクトルをオイラー角による回転操作にて、その画素を原点とする画素局所の(ローカルな)3次元直交座標で表し、すなわち(sinφ1 * sinφ2,-cosφ1 * sinφ2,cosφ2)の座標で表す。これはその画素を原点とする画素局所の(ローカルな)3次元直交座標の原点からのベクトルであり、その大きさは1である。オイラー角による回転操作では、まさしく回転だけさせるので、拡大や縮小といった操作は全く伴わないことは述べるまでもない(参考資料、[2002年8月17日検索]、インタネット<URL:http://www.mech.tohoku-gakuin.ac.jp/rde/contents/course/robotics/coordtrans.html>)。
この座標表記において、φ1、φ2、φ3(φ3は[001]方位に関しては現れてこない)、それぞれオイラー角の3つであり、回転操作の
Z軸回り:φ1 (φ)
X軸回り:φ2 (θ)
Z軸回り:φ3 (Ψ)
のものを表す。なお、それぞれの角度は上記の括弧内の記号で表されることが多いが、X軸回りの回転操作の角度の標記が、本技術における電界方向と結晶方位とで作る角度θとの混同を招くので、オイラー角による回転操作の順番に従って、φ1、φ2、φ3と標記した。
次いで電界方向をそれと同様の画素局所の(ローカルな)3次元直交座標で(0,0,1)の座標表記において単位ベクトルにて表した。そして、求めたい角度θは、[001]方位と電界方位とが作る角度であり、それら方位を表す単位ベクトルの内積の式にθが含まれることになる。
すなわち、それぞれc軸のベクトル:c、電界方位のベクトル:Eで表すと、単位ベクトルの内積は|c|×|E|×cosθとなり、これらベクトルは単位ベクトルであり大きさは1で、それらベクトルの内積はcosθとなる。
さて、ベクトルの内積の計算は、三次元直交座標系においては、それぞれの座標軸(X、Y、Z)において、それぞれの座標値の積の総和である。三次元直交座標系の座標標記から計算した内積の値は、cosφ2となる。この値は、既に記したように角度θを含む単位ベクトルの内積の値cosθと等しく、cosθ=cosφ2である。
ここで注意せねばならぬことは、必ずしもθ=φ2となるとは限らないのである。余弦(コサイン)は角度0において角度の正負で対称性を有する。本明細書においては、これまでの記述でとりわけ明記していないが、θは0〜π/2ラジアン(0〜90°)の範囲であることを前提としていた。この要件だけからするとθ=|φ2|となる。しかし、この式も必ずしも正しいものとはならない。SEM-EBSPにおける結晶方位解析のソフトウエア次第で、|φ2|がπ/2ラジアン(90°)を超えて求まることがある。よって、θは、θ=cos-1(cosφ2)、ただしθは0〜π/2ラジアン(0〜90°)の範囲である。
各画素において、それぞれ求めたθを、図11の中の左下図のように数値データとしてマトリックスにて表した。この中で「×」で表記されている画素においては、ここで着目している正方晶のBTOに指数付けされなかったものである。なお、0〜π/2ラジアン(0〜90°)を擬似カラーによる画像で表示することもできる。表示における違いであり、本質は2次元面(解析面)でのθの値である。
ここまでは、EBSPデータを2次元の位置情報と関連付けて取り扱ってきた。次いで、これらデータを集計する。すなわち、解析面の2次元の範囲内について、いわば「平均」に関する集計処理を行なう。これはいわゆるヒストグラムによる集計であり、この模式図を図11の右下に示した。この図において横軸はθを10°毎に分けたクラス(階級)、縦軸はそのクラスに入る画素の数(頻度)であり、単位は「個」や「count」などで表記されるものである。この時、2次元の位置情報は含まないものとなる。
このようにして、電界方向に対する着目する結晶方位の角度分布を求めることができる。このヒストグラムでは角度分布のプロファイルを視覚的に表現したものであると言える。すなわち定性的データ(グラフ)と言える。
図12は、SEM−EBSPで得られるデータ(誘電体結晶の角度分布)の定量的な扱いのためのデータ処理を説明するための図である。
図12Aは、図11で示したヒストグラムである。画素数の総和(頻度の総和)を求め、各クラスの画素数(頻度)をこの総和で除することによって規格化し、図12Bの百分率で表したグラフを求める。このグラフの本質はヒストグラムであり、ふつう棒グラフ(柱図表)で表記されるべきものであるが、本明細書においては、折れ線グラフで表記する。
着目する結晶方位を、図12Bのように百分率で表す利点は、多々の試料の間での比較の時に発揮される。多々の試料のSEM-EBSPの解析面において、注目する相に指数付けられた数が、試料によって差がある場合、ヒストグラムの縦軸が度数そのままの表示であれば、縦軸の表示範囲を同一のものでは比較しがたい。上記のように縦軸の規格化の利点は容易に理解できよう。
尚、このようにして一連の処理で得られるデータは、離散数値のθに対応した離散的なものである。そもそも、ヒストグラムで表示しようとするようなデータ処理、すなわち統計処理においては、このような事項は必ず伴うものである。横軸のクラス(階級)の数の設定は、多すぎても、少なすぎてもふさわしくはない。先人(Sturges)によると、適当なクラスの数kは、グループの値の数がnの場合、k=1+3.3lognとのことである。これを目安にしてクラスを決める。ここでの説明では、便宜気的に、その式の値の約2倍の9個とした。なお、後の記述では18個を設定した。
ここでは、1つの試料における結晶方位の角度分布の一例を図12に示しているが、その折れ線グラフ(図12B)の形状には特徴がある。その形は山状の形となっている。両すそのクラスである0〜10°と、40〜50°はともに10%の割合であるが、この値の解釈は同じであるかどうかである。図12Bにおいては、角度分布の特徴を考える際、さらなる規格化が必要である。この規格化における基準は、結晶方位に偏りが無く、多数の結晶の方位があらゆる向きに均等に向いている、すなわちランダムな角度分布を知る必要がある。
次に、このランダム分布、およびその規格化について説明する。図13は、従来から知られているM.U.D.の計算手順によるc軸<001>の配向性の評価を説明する図である。BTOでは、c軸<001>の方位は1種だけ存在する。この場合、M.U.Dという考え方を用いればよい。
図13Aに示すように、結晶方位の単位ベクトルが、ランダムで立体角内に等方的に存在するということは、直交三次元の座標系において、半径1の単位球の面上に、結晶方位の単位ベクトル(の終点座標)が一様に存在していることである。ここでφは図示していないが、y軸回りの角度である。結晶方位の角度θにおいては微小範囲δθが作る円環の面積に、その角度θの方向へ向いている結晶の数が比例する。すると、図13Bに示すようにランダム分布は角度θのサインカーブになることは容易に理解できよう。
次いでこのサインカーブを用いて、先の折れ線表示のヒストグラムを規格化する。この時、サインカーブ自身、すなわち角度0〜π/2ラジアン(0〜90°)の範囲で、積分値が1となるようにしておく。そして、図13Cに示す折れ線表示のヒストグラムのクラスに従ってまとめる。そして、それぞれのクラスごとに、サインカーブから導出された規格化用のヒストグラムの対応するクラスの値で除する。これにより得られた図13Dのヒストグラムが、MUDと呼ばれるものとなる。ここでは説明しやすく、方便を使っている。途中の計算手順は、MUDの先に開示したSEM-EBSP解析装置のソフトウエアの処理とは厳格に見て異なっているかもしれない。
従来知られている結晶方位(正方晶でのc軸方位)での場合を具体的に、すなわち試料が電極層の無いBTOセラミックで例示する。このセラミックスはBTOを主成分とし、バナジウム(V)、ジスプロシウム(Dy)、マンガン(Mg)、亜鉛(Zn)、カルシウム(Ca)、ホウ素(B)、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、ストロンチウム(Sr)を、1.5mol%〜0.01mol%含むものである。
一般に、誘電材料として用いられるセラミックは、その名の通り多結晶体であり、誘電体の個々のグレインにおいては単結晶、もしくはグレイン内の微細構造であるドメインにおいて単結晶である。一般に多結晶体は、巨視的な単結晶体のような揃った結晶性はなく、個々の微細な単結晶は幾何学的配置にてそれぞれ独立して存在すなわち、個々の単結晶のある特定の軸方位(例えば正方晶でのc軸)には統一性は無く、ランダムであるとの一般認識がある。
図14Aには、この試料の正方晶のc軸を表す単位ベクトルと電界方向(Y軸方向)とで作る角度θの0〜π/2ラジアンを、白〜黒のグレースケールで表している。尚、黒はこの指数付けでないもの、前記の「×」を含む。もちろん、データ処理では、90°のと、「×」とのものは区別して取り扱っている。
図14Bは、角度θに対するc軸の存在頻度のヒストグラム(クラス18個)を折れ線で示しており、規格化用のサインカーブはクラスの数をより多くして表示した曲線状としてある。これらを用いて求めた正方晶BTOのc軸のMUDは、図14Cとなる。MUDはほぼ1(±0.2未満)であった。この誘電体材料の多結晶体は、従来のMLCCの製造方法に準じて作ったもので、電極層を誘電体層へ設けることなしで、誘電体層だけを積層して、ふつうのMLCCと外形を同じようにしたものである。このような多結晶体では結晶方位に異方性(配向)は無いと判断する。これは前記の一般的な認識と一致した結果を得た。
次いで、本発明者らは、従来のセラミックコンデンサについて、前記の非特許文献2で示唆された結晶配向性について、SEM-EBSPおよびMUDにて検証すべく解析実験を行なった。セラミックコンデンサは、10μF/6.3V、サイズ2216、t=1.6mm(TDK製、型番C3216JB0J106K)のものである。このセラミックコンデンサTDKはX7Rの温度特性のものである。
図15には、相分布の画像を下図に示す。グレースケールのアサインは、図8と同様である。また図16には、逆極点図マップを下図に示す。擬似カラーのアサインは、図9と同様である。図17には、正方晶BTOのc軸のMUDを示す。
図17に示すように、角度範囲(角度θのクラス)が0〜5°および5〜10°では、MUDが1よりかなり大きい。10〜15°および15〜20°では、MUDが1より小さい。これらのクラスでは、規格化に使用するランダム分布において、値が相対的に小さく(90°のと比べて)、それらに対応するクラスでの実測の頻度(画素数)が少なく、測定のノイズの影響を受けやすいと考える。0°に近い2つのクラスでMUDが大きいことと、それらの次の2つのクラスでは小さいこととを考慮すると、このセラミックコンデンサにおいては、正方晶BTOの結晶方位は、ランダムであると判断した。
さらに、市販されているうち、基本的な仕様が同じ3つのセラミックコンデンサについても同様の解析を行い検証した。結果を図18〜図20に示す。図18はセラミックコンデンサMU(村田製作所社製:GRM31CB10J106K)の結果であり、図19はセラミックコンデンサTY(太陽誘社電社製:JMK316BJ106)の結果であり、図21はセラミックコンデンサKC(京セラ製:CM316B106K)の結果である。
図17に結果を示したセラミックコンデンサとは様相が違って、図18〜図20に結果を示した3種では結晶軸に配向性が確認された。配向の傾向は2つに大別でき、90°方向と、0°方向とへの配向である。それらの方向のうち、前述の非特許文献2で示唆された配向は0°方向へのものである。興味深いのは90°方向へも配向するものが存在するということである。そして、先の図17に結果を示したものは、配向性が無いと判断している。
これらの配向の違いについて考察を進めた。これにあたり、次の問題を認識した。すなわち図17〜図20に結果を示した4種のセラミックコンデンサは、電気的な基本仕様は同じではあるが、誘電体材料に違いがある。この違いは、BTO系の高誘電率のもの、BTOへ添加されている元素や添加量等である。また、セラミックコンデンサの外形は同様ではあるが、内部構造、例えば、誘電体層と内部電極との層数やそれぞれの厚さや面積も異なり、これらの事項が配向性の違いの考察に影響しかねない。
よって、これらをなるべく共通にした比較例1〜4の4種類のコンデンサを作製し、これらの評価を行った。BTO系の誘電体材料は、MUDの説明(多結晶体はランダム)で用いたものを使うことにした。設計値として、誘電体層の厚さは11μmとした。電極層の厚さは2μmとした。外形は3216、t=1.6mmとなるように設計した。誘電体層のシート(後出の製造方法を参照)へ印刷形成する電極層の形は同一のものを用いた。いわゆるこのグリーンシートの積み重ね方や、積み重ねる枚数を変えた各種のセラミックコンデンサを作った。これらのコンデンサは本技術のセラミックコンデンサについての考えを導入したものでは無い。図21〜図24に示すように、ここで作製したコンデンサは比較例1〜4の4種で、層数がおよそ100で共通している。
作製した4種のコンデンサの電気的特性は、WO2011-013658に記載された方法に準じて測定したが、非特許文献3を参考にして、測定条件を改変した。DCバイアス操引での測定は3回目ではなく、約1,000分(約16時間半)経過のものとした。操引測定の間隔は、初期は1分毎としたが、時間の経過とともにステップ状に延長し、1,000分あたりでは60分(1時間)毎とした。測定条件および電気的特性の評価項目は以下のようである。
測定条件:
1kHz、5乃至500mV、
DCバイアス操引…0〜40V
測定時以外の待ち時間はDCバイアス40V
電気的特性の評価項目:
容量可変性…DCバイアス40Vを1000分印加(ドメインスイッチング進行を飽和)後、DCバイアス操引において電圧0Vのときの容量の50%になる電圧を容量可変性の指数DCB50%とした。そのDC電圧が低いほど可変容量性に優れる。
SEM-EBSPによる結晶方位の解析も、前記と同じくして行なった。また、残留応力をWO2011−013658に記載された方法にて評価した。
図25には、作製した比較例1〜4の4種のコンデンサの電気的特性の評価結果として、厚さ方向の残留応力(値は+であり、引張残留応力)を横軸とし、容量可変性の指標を縦軸としたグラフを示す。尚、4つの試料のプロットの傍らの数字については後述する。
図25のグラフは、引張残留応力が大きいほど、容量可変性が高い傾向があることを示唆している。その傾向をグラフ中における実線矢印で記した。この矢印は右上がりである。
比較例1と比較例3、比較例2と比較例3、との2つの組内で比較では、残留応力が同じくらいでありながら、容量可変性が少々異なった。僅かではあるが、上記の傾向とは異なった。それら組内でのプロットの関連傾向を点線で示した。2つの点線とも左上がりであった。なお、右下がりとも解釈できるが、技術の目的の1つは容量可変性のより増大であるので、本明細書では左上がりの表現をすることにする。
本評価で求めた残留応力が容量可変性へ支配的に影響を与えることが改めて確認されたが、本発明者らは、その他の何らかの因子があるのではないかと考えるに至った。
そこで、作製した比較例1〜4のコンデンサについて、SEM−EBSPによる結晶方位解析を行なった。解析の方法は前記の通りである。図26には、一連のデータ処理により得られたMUDの結果を示す。
この結果から、比較例1〜4のコンデンサは、先の市販のセラミックコンデンサでの傾向と同様なものと判断した。とりわけ、上記の容量可変性との関連性を見出すには至らなかった。
さて、純粋なBTO単結晶では、誘電率がa軸>c軸であることは公知である。本発明者らは、a軸の結晶軸方位について解析を試みた。
EBSPで得られるローデータ、すなわち3つのオイラー角を用いた回転操作にて、c軸はもちろん、a軸とb軸とについても、それら方位の単位ベクトルの直交三次元座標系での座標を求めることができる。先に記したが、正方晶においてはa軸とb軸とは互いに等価で区別できない。a軸と、b軸とで、それぞれをc軸でのMUDの算出は適用できないものと、本発明者らは判断した。問題を整理すると、下記の2点であると考える。
(1)a軸とb軸とが区別できない。等価なので、データ処理の最終段階においてはそれらをまとめて取り扱う必要がある。この際、これらの軸の互いの幾何学配置と対称性とを考慮する。
(2)a軸結晶方位が、ランダム(配向性無。等方的に存在)の分布の論理式が知られてない(本発明者らが調べた範囲。日本特許公報)。そのような定量的な取り扱いが出来るならば、商品化されているSEM-EBSP解析装置のソフトウエアにその機能が装備されているであろう。
本発明者らは、前者については、下記の定義を考案した。すなわち、a軸とb軸(三次元直交座標で表されたそれぞれの単位ベクトル)とで 電界方向(+Y軸)に近い方をa軸とする。ここで「近い方」とは、電界方向の単位ベクトルとa軸方向の単位ベクトルとが作る角度と、電界方向の単位ベクトルとb軸方向の単位ベクトルとが作る角度との2つの角度を比べて小さい角度の方であり、これをa軸とする。a軸の方向としては、[100]方位と、[-100]方位との互いに反対向きの2つがあるが、先のc軸での取り扱いと同様に、オイラー角による回転操作された単位ベクトルが直交三次元座標系において、+Y軸の方とする。b軸についても同様である。
なお、オイラー角による回転操作は、結晶の初期位置(回転操作前)として、Y軸にc軸、X軸にa軸、Z軸にb軸を対応させることが前提である。よって、初期のデータ処理の段階では、a軸とb軸とは区別されている。これは菊池線のデータ処理であり、EBSP解析装置内部での計算処理のため見かけ上生じているものと考える。本質的には等価であるので、どちらかにその計算が収束したものと考える。とりあえず、区別できるものとして、上記の定義にて論理的に考えを進めた。
本発明者らは、後者については、図27に基づいて説明するように、論理的にa軸のランダムの角度分布を導出した。
先ず、a軸とb軸との方位は、互いに直交(π/2ラジアン=90°)である。電界方向すなわち、+Y軸方向とが作る角度θによって、先の定義に当てはまるよう、場合分けした。角度θがπ/4ラジアン(45°)までは、もう一方の等価な軸、すなわちb軸がa軸を法線とする面内に必ず存在するので、b軸方向の単位ベクトルはその単位円上に均等に存在する。このため、a軸とb軸とが自ずとから区別されることになる。
では、電界方向の単位ベクトルとa軸方向の単位ベクトルとが作る角度θ(θa)がπ/4ラジアン(45°)を超える場合を、図28に基づいて説明する。
この場合、b軸の幾何学配置によっては、先に示した、a軸とb軸との区別の定義を必ずしも満たさなくなってしまう。先の定義を満たすようなb軸のとり得る範囲をb軸がとり得る全範囲に対する割合で補正する。この考えを図28A〜Cに図示した。b軸のとり得る全範囲(a軸を法線とする面に存在する単位円)のうち、a軸の単位ベクトルの電界方向(=+Y軸)のY座標のXZ平面に平行な平面が単位球を切り取る面、すなわち、図28A中のY軸に垂直な点線の円環面よりも、b軸の単位ベクトルのY座標の値が超えない配置とすればよい。超えない範囲は、a軸方向の遠方から見た、a軸の単位ベクトルを法線とする面の単位円上で考えるのが容易である。図28Cにおいて、b軸の単位ベクトルがとり得る単位円を点線で示した。先に説明した図28A中点線で示した円環面は、図28C中における直線状の点線に対応する。b軸のとり得る範囲は、図28C中に点線でしめした単位円の円周のうち、角度θの円弧上に限られることは容易に理解できよう。この時、各軸方位のプラスマイナスの方位の対称性を論理的に考慮し、中心角π/2ラジアン=90°にて考えた。図28Aに示した補正係数が求められた。
この補正分を、π/4ラジアン(45°)を超えるサインカーブへ乗じることにより、図29に示すように、a軸の結晶方位のランダム分布を論理的に導出できた。
本発明者らは、このランダムプロファイルが妥当かどうか、前記のc軸のMUDの説明のデータを用いて検証した。
本発明者らは、SEM-EBSP解析装置から、EBSPのローデータ(菊池線の画像データではなく、菊池線から得られた、相、オイラー角)をその装置のデータ外部出力機能を用い、CSV形式でファイル出力し、パソコンにてデータ解析を実施した。この結果を図30に示す。
図30Cに示すように、15°までの3つのクラスではMUDの乱れはあるものの、ほぼ1であると判断した。前記のようc軸がランダムであったこと、このような導出のa軸MUDがほぼ1であることとから、本発明者らが考案した導出による正方晶MUDは妥当であると判断した。
ついで、作製した比較例1〜4の4種類のコンデンサについて、a軸のMUDを求めた。この結果を図31に示す。図31からは、とりわけ、上記の容量可変性との関連性を見出すには至らなかった。
しかしながら本発明者は、以上までの独自の解析を通して、50°付近のMUDがこれら製作したコンデンサはもちろん、市販コンデンサにおいても、ほぼ1であるという共通点があるのではないかと、考えるに至った。
本発明者らは、さらに解析を鋭意進め、a軸とb軸とc軸とを等価に取り扱うデータ処理を試みた。これは、基の結晶形が正方晶ではあるが、それらの格子定数は近い値でXRDによって擬立方晶が示唆された報告があった。前記のようにXRDでは結晶方位に関する解析には限界であるので、EBSP解析の適用で何らかの知見が得られると考えた。
比較例1〜4のコンデンサを含め、製作したセラミックの3軸等価な扱いでの角度分布を図32に示す。
ここでは、電界方向(+Y)と、c軸とb軸とのそれぞれが作る角θ(3つ)のうち、一番小さいθを結晶方位とした。すなわち、擬似的に立方晶として扱い、立方晶のa軸方位の角度分布を求めた。縦軸は、元の正方晶BTO相の画素の合計数で規格化し、単位はパーセント(%)にしてある。どのコンデンサとも、55°〜90°の結晶方位のものは無く、45°近傍の角度に軸方向の割合が多くなっていた。45°の方位に結晶配向しているかどうかは、ランダム分布のプロファイルで規格化して判断する必要がある。計算は、SEM−EBSPの解析装置からローデータ(相種、オイラー角3つ)をCSV形式で電子ファイル出力し、パソコンにて取り込み、画像処理ソフトウェアを使いデータ処理した。
図32に示す角度プロファイルがどのようなことを示唆するのか、やはりランダム分布で規格化する必要がある。3つの軸を等価として取り扱うための、データ処理の方法を考案した。この方法を図33〜図39に基づいて説明する。考え方の本質は、先のそもそも等価であったa軸とb軸での考えと同様である。
そもそも、(擬)立方晶では、a軸<100>と、b軸<010>と、c軸<001>とが同等で区別できないため、よく知られている従来のMUDの計算手法では評価できない。先ずは、ランダム分布を知らねばならない。
このため先ず図33に示すように、a軸のランダム分布を、b軸およびc軸を区別し除外しながら、理論的に導出する。区別の条件は、a軸はよりY軸に近いこと、すなわちθa≦θb、かつθa≦θcとする。尚、θaは、a軸とY軸とで作る角度である。θbは、b軸とY軸とで作る角度である。θcは、c軸とY軸とで作る角度である。尚、図33は、a軸がXY面上に存在する場合の図であり、c軸は示していない。
またa軸とb軸とc軸とは互いに垂直である。このため、b軸およびc軸は、a軸を法線とする面内の半径1の円弧の上に存在する。b軸およびc軸もランダム分布なので、その円弧上に均等に散在する。
さらに0°≦θa≦45°では、かならずθa≦θb、かつθa≦θcとなる。このため、従来の考えを適用できる。また角度θaにおけるa軸の存在量は、sinθaに比例する。
ただし、θaが45°を超える角度範囲では、必ずしもθa≦θb、かつθa≦θcにはならず、考慮が必要となる。
図34に示すように、θaがπ/4(=45°)を超える場合、b軸とc軸とがとり得る配置のうち、θa≦θb、かつθa≦θcを同時に満たさなければならない。
このうち、θa≦θbとなるのは、b軸方位の単位ベクトルが、図34中の中心角φの円弧上に存在するときである。図35には図34の+Y軸側をa軸方向から見た図を示す。±Zは、XY面で対称であるから、その片面だけを考えればよい。図36に示す2つの三角形の相似関係から、中心角φを求める。すなわち[大きな三角形]1:sinθa=[小さな三角形]sinφ:cosθaであり、ゆえに中心角φ=sin-1(1/tanθa)である。
また、図37に示すように、θaがπ/4(=45°)を超える場合、b軸とc軸とがとり得る配置のうち、θa≦θb、かつθa≦θcを同時に満たさなければならない。
このうち、θa≦θcとなるのは、図38に示すように、c軸方位が+Z軸からθc=θaとなる範囲の円弧上に存在する時である。
よって、θa≦θb、かつθa≦θcとなるのは、図38においてb軸方位が中心角=φ'となる円弧上に存在する時である。
これらの2条件を満たす確立は、[φ’/(π/2)=φ*4/π−1]となる。θaにおけるa軸の存在量のsinθaに、この確立を乗じると、ランダム分布の式[sinθa*{sin-1(1/tanθa)*(4/π)−1}]となる。
図39には、上記ランダム分布の式を適用して導出したa軸のランダム分布(角度分布プロファイル)を示す。
また、上記ランダム分布の式を用い、規格化した結果を図40に示す。尚、ランダム分布のプロファイルは次に説明する。図40は、図39の角度分布プロファイルをそのランダム分布のプロファイルで規格化したグラフである。図40によれば、どのコンデンサとも、このプロファイルは0°〜55°でほぼ1であった。このため、配向の傾向は無いと判断できる。従来のここのコンデンサは、擬似的に立方晶として見ると結晶配向は無くランダムであるが、正方晶BTOとしては、3つの軸のうちc軸が配向していると帰納的に判断される。
従来のBTO系誘電体材料から成るセラミックコンデンサについて、これまでの考察をまとめると、次のようである。
(1)室温で多結晶BTOは正方晶であり、結晶軸方位に配向性を確認した。
(2)その配向の傾向についての要因や電気的特性との関連性は見出せなかった。
(3)擬立方晶として見た場合、多結晶BTOの結晶方位はランダムであった。
正方晶から、立方晶へ、キュリー温度のおよそ130℃を超えると転移する。本発明者らは、セラミックの形成、すなわち焼成/焼結時には、多結晶でもちろん立方晶で結晶方位はランダムであると考える。そのキュリー温度から下がって正方晶へ転移すると、何らかの影響で、セラミックコンデンサの個々の個体には正方晶における結晶方位に配向性が生じるものと考える。しかし、本質的には、結晶が立方晶の状態、室温では擬立方晶では結晶方位はランダムであると考えるに至った(図41参照)。
この時、BTO部分はランダムであろうが、温度特性X7Rを満たすBTO系誘電体材料ではリラクサーライクな部分がある。この部分はコアのBTOの格子配列の延長上に形成されていると考えた。するとリラクサーライクな部分(シェルや拡散層)の結晶方位はコア部分(立方晶BTOで指数付けされたもの)と相関があると考えられる。リラクサーライクな部分では誘電特性についての研究例は本発明者らが調べた範囲では皆無に等しかった。BTO系でリラクサーライクな部分だけの誘電体を合成するのは現行技術では困難であると判断する。添加元素をBTO粒子の全体積へ均一に進入させるのは焼結では難しいのであろう。
本発明者らは、リラクサーライク誘電特性を示すBTO系誘電体材料については、BTOの誘電特性についての知見すなわち、a軸方向やc軸方向への誘電率などとは異なった視点で見るべきとの考えに至った。
本発明者らは擬立方晶における[111]cubic(以下、[111]cと略記)方位に着目した。この方位に特化して、従来のセラミックコンデンサのデータを再検討した。
室温においては、[111]cは、BTOは正方晶において、[111]、[-1-1-1]、[11-1]、[-1-11]、[1-11]、[-11-1]、[-111]、[1-1-1]の8つの結晶方位に対応する。正方晶では、これら方位は反対向(プラスマイナス)を同じ方向とすると4種であり、立方晶の対称性を考慮に入れると、[111]の1つに集約される。対称性を考慮すれば、この[111]についてだけに注目して考えを進めればよいと考える。そして、[111]が誘電特性に関与するとすれば、その方位の単位ベクトルが電界方向の成分、すなわち投影量を考えればよい。これを本発明者らはPseという表記にて定義した。
a軸の結晶方位[100]と[111]との幾何学配置について、論理的に考える。幾何学配置のうちの典型例を下図に示す。各場合のPseは斜視図を参照すれば、図42に示したような値になることは容易に理解できよう。
このほかの典型的な幾何学配置を図43、図44に例示する。これらについても、図を参照すれば解釈できよう。
本発明者らが、導き出さねばならないものは、図45に示すような、a軸方位角度に対するPseの角度分布である。図45には、図42〜図44で示した典型的な幾何学配置はプロットしてある。図45でのθは、電界方向を基準とした角度を一般的に表している。これまでの説明では結晶軸方位のそれに対応する表記と同じ。表記は便宜上同じにした。
この関数をPse(θ)で表記すると定義する。a軸の結晶方位は、ある特定の異なった角度分布をとり得る。この場合、その角度分布にPse(θ)を重み付けし、平均したものが上記で定義したPseになる。この際、多結晶における結晶軸(a軸)方位の角度分布をA(θ)とすると、巨視的なPseは下記式(2)の式で計算できる。
この式は次のことを示している。角度θがとり得る範囲で、角度θにおけるPsの電界方向への投影の大きさPse(θ)へ、角度θをとる結晶軸方位の割合を乗じ、積分し、θのとり得る範囲での平均値である。
論理的に考え、Pse(θ)の式を導出する。導出をなるべく簡素にするため、初期の幾何学配置を図46、図47、下記式(3)〜式(5)に示すように工夫した。
上記式(3)は、「Pseがθとφとの関数である」ことを示すので、「Pse」を「Pse(θ,φ)」と書き改めて下記式(4)とする。
求めたいのは、「θの関数のPse(θ)」である。したがって、下記式(5)に示すように、角度θにおいて、φのとり得る範囲(α〜β)でのPse(θ,φ)の平均値の式を導けばよい。
ここで、φのとり得る範囲(α〜β)は、図48に示すようである。
さらにφのとり得る範囲でのPse(θ,φ)の平均値は、次のように求める。
先に示したようにPse(θ)は、下記式(6)である。尚、式(6)は、上記式(4)と同じである。
この式(6)中の「cosφ−sinφ」における、φがα〜βの範囲の平均値を下記式(7)のようにして求める。
式(7)中において、βは、θに関わらずに−π/4であるから、上記式(7)は下記式(8)のように書き換えられる。
よって、φがとり得る範囲におけるPse(θ,φ)の平均値Pse(θ)は、下記式(9)のように導かれる。
さらに、平均値Pse(θ)をθの値によって場合分けすると、下記式(10a),式(10b)のようになる。
θには上限があり、その上限がcos-1(1/√3)ラジアン(=54.735°)であることを示す式(10a)、式(10b)を導出できた。
また以上のように場合分けしたPse(θ)の論理式を、グラフ化して図49に示す。中央の太線[Pse(平均)]が、Pse(θ)の曲線である。
図49から、Pse(θ)は、θが大きくなるほど大きくなり、π/4ラジアン(45°)にて急峻に増大することが分る。一概には判断しがたいが、θが30°を超えたあたりからの補正係数値のPse(θ)の値の影響が高まり、θが45°を超えると非常に影響力があると判断した。
さて、ここで、先に説明した従来のセラミックコンデンサ(10μF/6.3V)の4製品(KC、MU、TDK、TY)について、a軸とb軸とc軸とを等価に取り扱ったデータ処理の結果を図50に示す。
この角度分布A(θ)とPse(θ)とを用い、それぞれのPseを求めた。その結果、セラミックコンデンサKCはPse=0.8604、セラミックコンデンサMUはPse=0.8678、セラミックコンデンサTDKはPse=0.8598、セラミックコンデンサTYはPse=0.8709であった。なお、Pse(θ)は0.01°毎に数値計算にて求めてから、5°毎にまとめた。
また、同様にして、本発明者らが製作した比較例1〜4のセラミックコンデンサのPseは、前記した容量可変性の指標 対 電体層の厚さ方向の残留応力 のグラフにおける4つの比較例でのプロットの傍らに既に記してあるものである。
Pseに関して、これらの値から演繹的に考え、従来のセラミックコンデンサのPseは0.88を超えないものと本発明者らは判断した。より多くの種類のセラミックコンデンサにてPseを得て、統計計算にて、標本の数nをt−分布を考慮して求める危険率5%での上限を示すのが、説得力があると考える。しかし、手持ちデータのこのn=4ではかなり大きな上限になってしまうと愚考する。
なお、a軸のランダム分布のA(θ)の論理式と、Pse(θ)の論理式とを用い、0.01°毎の数値計算で求めたPseは0.866である。上記の4つのセラミックコンデンサはこの値を挟んで多少のバラつきに収まっていると考える。
では、作製した比較例1〜4の4種のコンデンサの電気的特性の評価結果として、Pseをパラメータ(横軸)とし、容量可変性の指標を縦軸としてプロットしたものを図51に示す。残留応力の値は、それぞれのプロットの近傍に記した。
従来のセラミックコンデンサにおける、残留応力では説明できなかった、比較例の2組のデータは、本技術で提供するPseによって、可変容量性を説明でき得ることを見出した。
また新規パラメータのPseは、可変性可変性だけでなく、Q(クオリティファクター:損失の逆数)とも相関性があり得ることを見出した。図52、図53にこのことを下図に示す。
図52は、横軸を容量可変性の指標、縦軸をQとしたグラフである。一方、図53は、横軸をPseとし、縦軸をQとしたグラフである。図52は、全体的に見て、Qと容量可変性とは互いにトレードオフの関係性を示唆している。これに対して図53では、新しいパラメータPseの値が大きくなるほど、Qが高くなる関係性があり得ると判断される。しかしながら、従来のセラミックコンデンサでは、そのパラメータが無かったため、その値はいわゆるブレの範囲におさまっていて、顕著な電気的特性には至ってなかった。
≪実施形態≫
本技術では、上述した新しいパラメータPseの値を、従来セラミックコンデンサでの値の上限0.88を超えるセラミックコンデンサを提供する。従来技術によるセラミックコンデンサの特性を、より一層に向上させることができる。
本技術で提供するパラメータPseが、可変容量性とQとをより向上させる機構は、推測の域を出ないものの、図54A〜図54Hに示すようなリラクサーライクな誘電特性を示す部分と、BTO部分との結晶格子の整合性であると考えられる。よって、それらが整合していれば良く、図54Aに示す従来のコアシェルの他に、図54B〜図54Hの7つの形態例を示すこともできる。白く示したリラクサーライク誘電物質で構成された部分と、灰色で示した強誘電性誘電部で構成された部分とが接する箇所で、結晶格子が整合しているあるいはほぼ整合していればよい。
<本技術の形態例1>
図55A、図55Bは、本技術による好ましい「使用時電界方向に対する平均構造が正方晶BTOの結晶方位の角度分布(プロファイル:30°以上)」を示す図である。図55Aは、横軸を角度θ、縦軸を軸方向の存在割合とした図である。ここで言う軸方向とは、a軸(対称性で等価なb軸)またはc軸が作る角度θが小さい方の軸の方位を意味する。図55Aには、合わせて、従来のセラミックコンデンサの典型例(ランダム配向)を示した。また図55Bは、本技術の形態例1での[100]cのMUDを示した。この形態の場合、[111]方位の単位ベクトルの電界方向への投影の大きさPseは0.900となった。従来のランダムでのPse(=0.866)と比較し、3.9%も大きい。[111]方位のPNRが電界方向へより向いている。それに起因する誘電特性、電界強度に対する分極の非線形応答が大きくなる。
<本技術の形態例2>
次に本技術のより好ましい形態例2を示す。図56A、図56Bは、本技術による、より好ましい「使用時電界方向に対する平均構造が正方晶BTOの結晶方位の角度分布(プロファイル)」を示す図である。図56Aは、横軸を角度θ、縦軸を軸方向の存在割合とした図である。ここで言う軸方向とは図55Aの説明と同様である。図56Aには、合わせて、従来のセラミックコンデンサの典型例(ランダム配向)を示した。また図56Bは、本技術の形態例2での[100]cのMUDを示した。この形態の場合、[111]方位の単位ベクトルの電界方向への投影の大きさPseは0.921となった。従来のランダムでのPse(=0.866)と比較し、6.4%も大きい。[111]方位のPNRが電界方向へより向いている。それに起因する誘電特性、電界強度に対する分極の非線形応答が大きくなる。
<本技術の形態例3>
次いで、本技術のさらにより好ましい形態例3を示す。図57A、図57Bは、本技術による、さらにより好ましい「使用時電界方向に対する平均構造が正方晶BTOの結晶方位の角度分布(プロファイル)」を示す図である。図57Aは、横軸を角度θ、縦軸を軸方向の存在割合とした図である。ここで言う軸方向とは図55Aの説明と同様である。図57Aには、合わせて、従来のセラミックコンデンサの典型例(ランダム配向)を示した。また図57Bは、本技術の形態例3での[100]cのMUDを示した。この形態の場合、[111]方位の単位ベクトルの電界方向への投影の大きさPseは0.937となった。従来のランダムでのPse(=0.866)と比較し、8.2%も大きい。[111]方位のPNRが電界方向へさらにより向いている。それに起因する誘電特性、電界強度に対する分極の非線形応答が大きくなる。
<本技術の形態例4>
図58には、本技術の典型的な例を示す。図58は、横軸を角度θ、縦軸を軸方向の存在割合とした図である。ここで言う軸方向とは図55Aの説明と同様である。このようなプロファイルになるようなa軸またはb軸またはc軸の結晶方位であれば、どのような結晶方位の配置でもかまわない。本技術のPseは、前記したSEM-EBSPのローデータを用いBTO系誘電体材料の正方晶BTOに指数づけられた相にて、a軸、b軸、c軸とを等価に取り扱い、上記で提供した式にて求めた値は0.961である。この値は、従来のセラミックコンデンサの値より非常に大きなものである。
≪製造方法≫
本技術の容量素子の製造方法として、ここでは変形例を入れて合計で5つの製造方法を例示するが、本技術の容量素子の製造方法は、これらに限られたものでなく、本技術の容量素子の考えを満たせる製造方法であれば、どのような方法でもかまわない。
<製造方法:例1>
本技術の容量素子がMLCC場合、従来のMLCCに対して本技術の考えを付加できるように、原材料または製造工程を改変すればよい。従来の製造方法の例1を図59、図60に示す。
原材料を改変する本技術の容量素子の製造方法として、原材料のBTO粒子が形状異方性および結晶方位異方性とを有するものを用いる。粒子形状は板状が好ましく、かつその板面がBTOの(111)面であることが好ましい。
[板状BTOの板面が(111)面の合成の工程]
板面が (111)面である板状BTOの合成方法としては、フラックス法が挙げられ、板状面がBTOの(111)面となるファセットが出やすい合成条件にする。
または、そのような板状のBTO粒子は、形状異方性と結晶方位異方性とを有した前駆体物質を経由して合成することもできる。2段溶融塩法を用いることができる。具体的には、チタン酸バリウム(BaTiO3)粉体と酸化チタン(TiO2)粉体とを用い、溶融塩化ナトリウム(NaCl)存在のもとでそれら原材料を反応させ、板状のチタン酸バリウム(Ba6Ti17O40)を合成する。図61には合成した板状のチタン酸バリウム(Ba6Ti17O40)粒子を示す。この板状粒子は、その板面がチタン酸バリウム(Ba6Ti17O40)の(001)面、すなわち板面の法線方向が、チタン酸バリウム(Ba6Ti17O40)の[001]方向であり、結晶方位異方性を有している。
次いで、板状粒子のチタン酸バリウム(Ba6Ti17O40)粒子に、炭酸バリウム(BaCO2)を加え、溶融塩化ナトリウム(NaCl)存在のもとでそれらを反応させ、板状のチタン酸バリウム(BaTiO3:BTO)で、板面がBTOの(111)面(=板面の法線方向が[111]方向)を合成できる。図62には、合成した板状のチタン酸バリウム(BaTiO3:BTO)粒子を示す。このような板状BTOで、板面が(111)面の粒子の合成方法は、圧電体としてのBTOを得るために、既知である(参考試料:[平成24年8月17日検索]、インターネット<URL:http://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/download.php?file_id=28153>)。
本技術は、板状BTOと、添加元素を含む物質とを加え、BTOの誘電特性と、リラクサーライクな誘電特性とを合わせ持つ多結晶誘電体の誘電体層から成るセラミックコンデンサを提供することに特徴を有している。特に、板状BTOの結晶方位が、リラクサーライクな誘電特性を示す部分の結晶方位に影響を与えていることに特徴を有している。
本技術の基本的な考え方は、後者の誘電特性を示す部分のBTO系セラミック誘電体の結晶方位を擬立方晶にて、上述したPseの値が従来のセラミックコンデンサのそれを越えるものを提供するというものである。この考えが導入できればよく、必ずしも、本実施形態で例示したような原材料(形状異方性&結晶方位異方性の板状BTO)を用いることは要件とはしない。
この時、必要に応じて各原材料粉、または一部組み合わせの材料粉混合物をエアロゾル化してキャリアガスとともに吹き付けてもよい(参考文献:特開2002-193663:圧電素子向け)。これにより、結晶方位の維持度合いを調整できる。
[誘電体ペーストの調整の工程]
誘電体ペースト(誘電体スラリーまたは誘電体塗料とも呼ばれる)の原材料のBTOとして、従来使われてきた粒状BTOの代わりに、この板状のBTOを用いるのが最も好ましい。または、板状BTOと粒状BTOとを併用することもできる。この場合、板状BTOの粒子サイズと比較して、粒状BTOの粒子サイズが同じか、小さいことが好ましい。そして、板状BTO粒子の配合割合は1〜99%を例示できる。配合割合、粒子サイズ、焼成温度や時間の条件(焼成プロファイル。後述)を加味して、総合的に選ぶ。
そして、BTO以外の原材料で、各種の添加元素を含む原材料物質を添加し、有機物から成るバインダーを添加し、誘電体原材料ペーストを調製する。ふつう添加元素を含む原材料物質は、その金属元素の酸化物または炭酸塩を用いる。各種の添加元素を含む原材料物質の粒子サイズは適宜に選択する。概して、板状BTO粒子サイズより小さいことが好ましい。バインダーは高分子またはオリゴマー等を用いることができ、必要に応じ低分子有機物を添加し、誘電体ペーストの粘性を調整する。
また、親水性のバインダーを用いることもでき、水の添加量にて粘性を調整することもできる。もちろん、両親媒性のバインダー類を用いることもできる。また、予め、無機系原材料のそれら粒子の表面を物理的あるいは化学的に処理し、ペースト中で均質に分散するようにしておくことも適宜行なうとよい。
粘性調整には、いわゆる可塑剤で、フタル酸ジオクチルなどのフタル酸エステル、ポリエチレングリコールなどが用いられる。また各種の無機材料粉を分散させる溶媒としては、酢酸エチルなどのアセテート、アセトン、トルエン、水などをあげられる。
分散剤としては、いわゆる界面活性剤が用いられ、具体的にあノニオン系、アニオン系、カチオン系、そして両性界面活性剤の何れでもよく、アルキルグリコシド、ポリエチレングリコールやポリビニルアルコールにおいても分散効果を発揮するグレードがある。石鹸として知られる脂肪酸ナトリム塩のような各種脂肪酸(脂環族や芳香族も含む)すなわちカルボン酸塩、硫酸塩であってもよく、高級アルコールもアニオン系と言える。そして、脂肪族(脂環族や芳香族も含む)のアンモニウム塩があげられる。両性界面活性剤としては、分子内にアニオン性部位とカチオン性部位の両方をもっているものであり、上記のそれぞれを組み合わせた構造をもつ、アルキルジメチルアミンオキシドやアルキルカルボキシベタインなどがあげられる。
また、有機溶剤としては、例えばエタノール、メチルエチルエーテル、酢酸ブチル、酢酸エチル、エチルエーテル、キシレンなどが用いられる。なお、必要に応じて、フタル酸、ステアリン酸などの分散剤や燐酸トリフェニル、フタル酸ジエチルなどの可塑剤を添加してもよい。
また、消泡剤(有機物系)を添加することが好ましいことは言うまでもない。または、脱泡の工程を設けることも好ましい。なお、脱法の工程は、各種原材料、ペースト調製用材料の添加時、次記の攪拌時、またはペースト調製の最終段階に随時設けることができる。
前記の各種材料を混合する際、板状BTO粒子の板状形態が機械的に損傷を受けることが多少なりともある。各種材料の混合の際は、なるべく損傷を受けないよう、混合の物理的条件を調整する。各種の原材料粒子と有機系物質とのよく混合し、塗料中のそれらが均一に混合されるようにもする。もちろん、混合する装置もその配慮をもって選択する。いわゆる遊星ミル(攪拌容器が公転と自転)などを例示できる。バッチ式でも連続処理式でも適用できる。また、無機系原料物質のうち、板状BTO粒子以外のものを、ボールミルなどの攪拌混合機によって、良く攪拌混合しておくことも好ましい。これら混合物を用いて、前記のバインダー類を加えペーストにしておくことも好ましい。
なお、誘電体ペーストには原料物質の凝集体が全く無いことは無く、必要に応じてフィルターによって凝集体を除去することも好ましい。
なお、この工程に限らず、他の工程においても、バッチ式でも連続処理式でも適用できる。また、半バッチ式でもかまわない。
[誘電体原材料ペーストの塗布の工程(塗工)]
誘電体原材料ペーストをポリエステルフィルム、より具体的にはPET(ポリエチレンテレフタレート)等のフィルム上に所望の厚さに塗布することによって、フィルムと一体化した誘電体シートが形成される。このフィルムは表面が平滑なことが好ましく、具体的には二次元粗さRaが約40nmや約20nmなどを例示でき、もちろんより小さい値であることが好ましいことは言うまでも無い。このようなフィルとしては市販の離型用フィルムを用いることができ、特にMLCC離型用フィルムのものが好ましい。厚みは5〜100μmくらいから選択するのが好ましい。
塗布の方法としては、ドクターブレード法、ダイコート法、各種の印刷法(いわゆるベタ塗り印刷)を用いることができる。例えば、ドクターブレード法を用いる場合、塗布条件(ギャップ、ブレード圧、フィルム送り速度など)を適宜調整し、BTO板状粒子の板面がフィルム面と平行になるようにする。ロール式にフィルムを送る場合、誘電体塗料が塗布される際、ブレードのギャップにおいて塗料がその送り方向へせん断力を受け、塗料中の板状BTO粒子がその力を受けにくくなるように板状面が送り方向に揃うように塗布条件を調整する。フィルムが固定されてブレードが可動の場合でも同様である。
この時、ギャップが狭いほど、すなわち誘電体層の厚さが薄いほど、板状BTO粒子がフィルム面と平行になる。誘電体層の厚さの選択は、目的とする容量素子に応じるものとなる。
形成した誘電体シートは、誘電体層が軟弱であることが多く、誘電体層中の低分子有機物質を揮発させる工程を必要に応じ設け、誘電体シートがこの後の製造工程に耐えうる機械的強度を確保しておくことが好ましい。
このようにして、誘電体塗膜(誘電体塗布層)が形成されたフィルムを得る。本明細書では、これを誘電体シートとも呼ぶ。
なお、誘電体ペーストの塗布の回数は、もちろん1回を要するが、必要な誘電体層の厚さを得るため、必要に応じて複数回で塗工してもよい。この場合、必要に応じて、カレンダー工程(ローラー等で物理的に誘電体ペーストの塗面を平滑にする工程)を塗布工程(有機物質を揮発させる工程を含んでもよい)へ挿入することも好ましい。
また、1回の塗布の場合においても、塗布した誘電体シートがある程度軟弱なうちに塗布面の全面を適度に圧縮プレスしてもよい。このプレスによって板状BTO粒子が塗布面により平行に近い配置にすることができる。塗布が複数回の場合においても、前回塗布面を平滑にする効能に加えて、板状BTO粒子が塗布面により平行に近い配置にすることも作用も有することは記すまでもない。
なお、カレンダー工程は、一連の本工程の最後に挿入することも好ましく、これによって次工程の内部電極の形成に好ましいくなることは言うまでもない。また、これらの一連の工程を行なう装置として、MLCC印刷機が市販されており、それを用いることができる。
[内部電極の形成の工程]
この工程以降は、従来のMLCCでの製造工程に準じることができる。具体的には、電極形成用のマスクを用いて、誘電体シート上への導電膜を塗布する。ここで、導電膜の塗布は、以下のように行われる。すなわち、Pt、Pd、Pd/Ag、Pb、Pb/Ag、Ni、Ni合金、Cu、Cu合金等の金属粉体をペースト状にした導電ペーストを準備する。金属粉体の粒子サイズは、0.01〜10μmを例示できる。導電ペーストとして、MLCC用に市販されている内部電極ペーストを用いることもできる。なお、導電ペーストには、いわゆる共剤を含んでいることが好ましい。共剤とは誘電体ペースト中の、誘電体層の原材料の化学組成とが同じまたは準拠したものである。
この導電ペーストを、各種の印刷の方法(例えばシルク印刷、グラビア印刷など)によって、必要に応じた形状の内部電極パターンを誘電体シート上へ形成する。スクリーン印刷の場合、スキージのアタック角、圧、そしてクリアランスなどの印刷条件を適宜に選択する。良好な印刷には、これら印刷条件の最適化だけでなく、スクリーンを張り方(張力、バイアスなど)の最適化およびスクリーン自身の材質を含めた最適化や、もちろん、導電ペーストの粘性などを総合的に選択する(参考資料:[平成24年8月17日検索]、インターネット<URL:http://www.e-microtec.co.jp/tech/practice.html>)。
また、必要に応じ、形成した導電ペースト層中の低分子有機物質を揮発させる工程を設けることが好ましい。導電ペーストによって形成された内部電極パターンが設けられた誘電体シートをグリーンシートと呼ぶことが多い。なお、内部電極パターンは設計する容量等の特性に応じてその形状を選択する。
[以降の工程]
グリーンシートから、フィルムを剥離させながら積み重ね、プレス、カット(個々の個体へ)、焼成、外部電極塗布、外部電極焼成、メッキ、測定、出荷検査、様々な梱包形態へ包装と、従来のMLCCと同様または準拠した工程で製造できる。
特にプレス工程は、前記の塗布工程でのプレスと同様に、板状BTO粒子が塗布面すなわち誘電体原材料層面により平行に近い配置にすることも作用も有することは記すまでもない。
また特に、焼成の工程での、いわゆる「焼成プロファイル(時間、温度、雰囲気)」は、本技術の考えに適するよう選択する。従来の焼成工程は、概して3つの段階に分けられる。焼成中の成形体内部ではどのような現象が起きるのか、段階ごとに説明する。
まず始めの昇温の段階では、誘電体原料層と電極層との圧縮体から溶媒やバインダーなどを除去する。その温度で揮発させ、そして酸化雰囲で有機物は酸化させ(燃焼させ、二酸化炭素として)排出させる。それによって原料粒子間の距離が近づき、収縮が起こる。この時、圧縮体の表面と内部との温度差や収縮差ができると切れたり壊れたりしてしまうため、ゆっくりと温度を上げて不良の発生を防ぐ。
次の段階では最高温度まで温度を上げる。より高温にすることで原料粒子同士を結合させ、さらに収縮させる。ここでの昇温速度、最高温度、および保持時間は、機械的強度はもちろん、電気的特性、および素子信頼性などの特性へ影響する。したがってこの段階の焼成条件は、本技術の容量素子にとって最も影響力が大きい。この段階では、電極層の導電体の酸化を防ぐ必要があるので、酸化されないような雰囲気で行うことする。ただし、誘電体材料層においては、還元されて半導体化することを極力抑制せねばならない。両者の現象のバランス雰囲気の調整を行なう。
最後の段階は、降温させ焼成体を冷却する。誘電体層と電極層との線膨張係数の違いで収縮差が生じる。注意深くそれぞれの製品に適した降温速度で温度を下げていく。ふつう、前記の2つ目の段階で誘電体層が多少の還元(酸素欠陥)を受けるので、降温過程で酸化雰囲気として、誘電体層の半導体化をほとんど抑制する。この時の酸化雰囲気で、電極層の導電体が酸化されないような温度を選ぶ。
焼成工程で特記すべきことは、原材料に板状BTO粒子を用いていることである。板状BTO粒子は積層面へ平行、または平行に近いように存在しており、焼結時の固相反応にて板状BTOの板面の結晶面へBTOが成長しそのグレインとなり、いわゆる多結晶(セラミック)となる。BTOグレインは板状という形状異方性は弱まるが、結晶方位異方性は保たれる。誘電体層の積層方向すなわち、誘電体面の法線方向へ(111)面が並んだものとなる。焼成温度や焼成時間のプロファイルによって、いわゆるグレインサイズを制御できる。内部電極の間にはBTOグレインが数個存在することが、漏れ電流を少なくできたり、耐電圧性などの特性および信頼性に貢献できる。そして、この誘電体層はもちろんBTOセラミックではあるものの、各種の添加元素を含む物質とともに焼成し、固相反応させている。よって、グレイン内の微細構造は温特X7Rを満たす従来のMLCCのグレインと似たものとなる。異なるのは、分極ドメインが本技術の好ましい方位(の分布)をとっていることである。
グレイン内の微細構造は、いわゆるコア-シェル構造である。明確なコアシェル構造を示さなくても、グレイン全体としてはBTOであるが、グレイン境界の近傍すなわちグレインの外周に近い部分(この部分は拡散層と呼ばれることがある)は添加元素がBTOへ固溶し、BTOのBaあるいはTiのどちらかあるいは両方において、微視的に一部が置換した状態、あるいは微視的なBTO格子へ添加元素が進入し存在した状態となっている。グレインの中央部分はほぼ純粋なBTOとなっている。その部分のサイズにもよるが、ふつうBTOは正方晶の結晶形をとる。その部分のサイズが非常に小さいと、立方晶をとることもある。そして、その中央部分の周囲のシェルまたは拡散層の結晶格子は、中央のBTO結晶の格子に連続して形成されると考えられる。このため、シェルまたは拡散層の結晶方位は中央部分のBTOの結晶方位に準じたものとなると考える。
本技術でのポイントは、シェルまたは拡散層の結晶方位を、BTO結晶方位を介して本技術による好ましい方位にすることである。
BTOの圧電体の特性向上のため、原料粉物質をBTOにだけで形成したセラミック(焼結剤は含んでもよい)は、本技術の誘電体層のほぼ純なBTO部分と同様なBTO結晶の方位となることが知られている。圧電特性は、BTOの分域(ドメイン)の電界による方向転換、すなわちドメイン壁の移動がポイントとなり、BTOの結晶方位の配向は[110]方向への配向のBTOセラミックが最も圧電定数が高いと報告されている(参考試料:[平成24年8月17日検索]、インターネット<URL:http://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/download.php?file_id=28153>)。この参考資料には、誘電特性は記載されていない。また、BTOへ各種の添加元素(を含む物質)を加えての検討はされていない。
この製造方法をまとめると、BTO原料物質の形状異方性と結晶方位異方性とを工夫し、さらにその粒子サイズや添加物質(添加元素を含む物質)、誘電体ペーストの塗布条件、そして焼成プロファイルを工夫し条件を選択することで、本技術の考えによる好ましいMLCCタイプの容量素子を製造できる(参考試料:[平成24年8月17日検索]、インターネット<URL:http://www.yodogawa.co.jp/companies/ncc/img/mlccprocess_chinese.gif>)。
<製造方法:例1の変形例>
製造方法の例1の変形例として、板状BTOの板面が(111)面の合成の別方法を例示する。
前駆体として、六方晶で(0001)配向のチタン酸バリウムを用いる。六方晶で(0001)配向のチタン酸バリウムを得る方法は、高磁場下の鋳込み成形(スリップキャスティング)である。
先ず、チタン酸バリウムのチタンの一部をマンガンに置換した置換体BaTi0.95Mn0.05O3を用意する。合成方法としては、炭酸バリウムBaCO3、酸化チタンTiO2、二酸化マンガンMnO2の各粉体を固相反応にて得る方法(J.J.A.P. v.40 (2001) 5619)に準じたもので、焼成条件は1250℃、5時間にする。焼成粉体と水と分散剤(polycarboxylic ammonium salt)とでスラリーを作り、マンガンMnと等量(等モル量、等化学量)のニオブNbとなる酸化にニオブNb2O5粉体を混ぜておく。スラリーを板状鋳型(多孔質)へ注ぎ、磁場強度10テスラ(超伝導磁石など)へ水分が失われるまで置き、圧粉体を得る。Mnの磁性のため、一部のマンガン置換のチタン酸バリウムの六方晶(0001)が高磁場に影響を受け、結晶が配向する。
本技術での製造方法では、スラリーの粘性、鋳型の吸水特性(多孔質性)、磁場強度、磁場下での留置時間を調整することで、本技術の考えの配向性を付与できる。
この焼成粉粉成形物(板)を大気雰囲気で焼成する。この時、焼結して固化するまでには至らぬよう、焼成プロファイルを制御する。この焼結過程において、Nbの作用にて、チタン酸バリウムの結晶形が六方晶系から立方晶系へ転移する。この時、前駆体の六方晶[0001]方位が立方晶[111]方位として維持される。つまり、BaTi0.95Mn0.05O3の焼成粉体は形状異方性と結晶方位異方性とを有している。
この焼成粉体を用い、製造方法の例1と同様にして、本技術の容量素子を製造することができる。なお、この焼成粉体にはMnやNbが含まれているので、誘電体原材料ペーストを調製する際は、それらの含有量を考慮して添加元素を含む原材料物質を添加量を調整する。
なお、六方晶BaTi0.95Mn0.05O3の焼成粉体を用い、Nbを含む各種の他の添加元素を含む原材料物質を用いて、誘電体原材料ペーストを調製し、フィルムへ塗布し、高磁場下でBaTi0.95Mn0.05O3を配向させてもよい。この場合、焼結プロファイルにて、前駆体の六方晶[0001]方位が立方晶[111]方位として維持されつつ、添加元素が固溶する固相反応が進むようにする。
<製造方法:例2>
本技術の容量素子がMLCC場合、従来のMLCCに対して本技術の考えを付加できるように、原材料または製造工程を改変すればよい。後者(すなわち製造工程の改変)として製造方法の例2を提示する。
本製造方法では、誘電体スラリーを塗布して、誘電体塗膜が誘電体スラリーと同程度の粘性を有しているうちに、高電界を印加する工程を本技術の容量素子の製造のために設ける。電界はDCでも良いが、好ましくはAC電界とする。電界を印加するには、面状の電極2つを、誘電体塗工フィルムを挟んで対向配置し、高電圧を与える。電界の方向は、誘電体塗工フィルム面の法線を基準(0°)として角度θとする。この電界の方向(角度θ)は、本技術の考えに従って決める。例えば、前記の実施形態によると、角度θは35°〜60°、好ましくは40°〜55°、より好ましくは45〜54°である。
電界を印加する装置構成として、対向面電極の代わりに、連続式のドクターブレードを用いた塗布では、ブレードの主要部材を電導性にして一方の電極とし、所定の角度θの対向位置にもう一方の電極として同様な電極を設ける構成とすることを例示する。もちろん、前記の装置構成と併用してもよく、併用するのが好ましい。
また、塗布がベタ塗り印刷の場合、連続式に送られるフィルムへ誘電体塗料が塗布される部分では、それを挟むようにローラーが配置されているので、それらローラーの主要部材を電導性にして対向電極にすることもできる。もちろん、前記の装置構成と併用してもよく、併用するのが好ましい。
角度θの傾き方向は、任意の方位角度φでよい。方位角度φは、誘電体塗工フィルム面の進行方向を基準(φ=0°)にしたものである。フィルムの進行方向に対する方位角度φのプラスマイナスはどちらでもよい。
方位角度φはある任意の角度でもよいが、全角度に均一であることが好ましい。すなわち、誘電体塗工フィルム面の法線を中心としてコーン状の電界、すなわち回転電界を印加することが好ましい。例えば、電極対を機械的に回転、あるいは、両側の電極を複数に分割し、それらへ電圧を順次切り替え調節して回転電界を作るなどを例示できる。
電界によって、電界方向へBTO粒子の平均的な結晶構造の正方晶のa軸が向くよう、BTO粒子が固化前の塗層中で動く。BTO単結晶では比誘電率がa軸(約4000)でc軸(約400)のより大きく、a軸の方が印加される電界に対する応答がよいと考えられる。もし、a軸よるもc軸が電界に対してよく応答しても構わない。本技術の考えでは製造完成の容量素子の誘電体層におけるBTO系誘電体において互いに直交する3つの結晶軸を等価として取り扱うからである。また、原料のBTO粒子が概して1μmよりも小さくなると比誘電率が小さくなるいわゆるサイズ効果が知られている。この場合でも、1つの粒子全体において、直交する3つの結晶軸のうち何れか1つが電界に応答すれば構わない。
さらに粒子が小さくなると、粒径140nm付近で誘電率が極大(約5,000)になる現象についての研究報告がある。
BTOは粒子の形状であることがふつうで、BTOの純度が高い場合、その粒子の微視的な内部構造は、中央部分が正方晶、表層の20〜30nmが立方晶で、それらの間には格子傾斜層(Gradient-Lattice-Strain Layer, GLSL)であることが示唆されている(参考資料:J. Am. Ceram. Soc. Vol89, p.1337 (2006)、日本結晶学会雑 第51巻 第5号 頁300 (2009))。BTO粒子サイズが小さくなると、そのBTO粒子の誘電特性は、その表層の立方晶の部分の影響が大きくなり支配的となってくる。このような場合は、BTO粒子は、平均的にはほぼ立方晶となる。よって、互いに直交する3つの結晶軸は、ほぼ等価となり、配向工程において、どの結晶軸が電界に対して応答しても構わない。
また、格子傾斜層は中央部分(正方晶)や表層(立方晶)よりも大きな誘電率を有する。このようなBTO粒子の場合、印加電界に対するBTOの応答が大きな誘電率の格子傾斜層が支配的になっても構わない。中央部分の正方晶の結晶格子構造から表層の立方晶へと格子定数が連続的に変化し、その過程が格子傾斜層であると上記論文では報告されている。その論文の図4を参照すると、粒子内において結晶方位は整合していることが示されている。格子定数が連続的に変化していると報告されている。図4では粒子の水平方向に粒子中心から半径つまり粒子の外表までの図示となっており、どの半径方向、すなわち立体角4πステラジアンにおいて格子定数の変化があることを示している。
なお、電界が印加される塗布面積幅(フィルム送り方向の幅)は、ベースフィルムの送り方向の速度、すなわち電界印加の塗布面積(フィルム送り方向の幅)に対して、適切に選ぶ。
<製造方法:例3>
本技術の容量素子がいわゆる薄膜コンデンサである場合においても、従来の薄膜コンデンサに対して本技術の考えを付加できるように、原材料または製造工程を改変すればよい。この場合の原材料の改変として、製造方法の例3を記す。
従来の薄膜コンデンサの製造方法の中で、誘電体の塗布工程がスピンコートの場合、上記の製造方法の例1に倣って、原材料のBTO粒子が形状異方性と結晶方位異方性とを有するものを用いる。板状BTOは製造方法の例1に倣って用意する。なお、スピンコートとは、平滑な基材を高速回転させる事により遠心力で薄膜を構成することである。回転速度が速いほど、生成される薄膜は薄くなる。また、誘電体スラリーの粘性も膜厚へ影響することは言うまでもない。工業的には1回のスピンコートで得られる円基板から、目的(設計値)とする膜厚の採れる素子数が多いほど好ましいため、中心と周辺で膜厚を均質にすることが努められる。概して、溶液の粘性が高すぎれば誘電体原材料スラリーの動き難くなるので、中心の方が厚くなり、逆に粘性が低すぎれば、中心から一気に端に移動するので中心の方が薄くなる。このため、必要に応じて、界面活性剤にて誘電体スラリーの表面張力を調整する。回転数と表面張力との条件を適切に決める。その条件を決めるには、中心から端に向かって数点を測定する。
さらに、本技術の考えを満たすように条件を加味する。基板面とスラリーとの界面でのせんだん応力による回転の半径方向へスラリー応力(いわゆる遠心力)が働く際、せんだん応力に対して板状誘電体粒子が基板面に水平に近くなるような配置で誘電体原材料スラリーが塗布されるような条件も加味する。一例として、塗布時の基板の回転を一定速度ではなく、誘電体原材料スラリーを基板の中央に垂らす時と、誘電体原材料スラリー回転で振り切る時とで基板の回転数を変えて調整することを例示できる。
なお、誘電体原材料スラリーを基板の中央に垂らす方法のほか、ノズルから噴射する方法にしてもよい。
この他の製造工程は、従来の薄膜コンデンサの製造工程に準じたものでよい。
<製造方法:例3の変形例>
以上説明した製造方法の例3は、製造方法の例1の変形例を適用して変形できる。
<製造方法:例4>
本技術の容量素子がいわゆる薄膜コンデンサ場合においても、従来の薄膜コンデンサに対して本技術の考えを付加できるように、製造工程を改変してもよい。
この場合、誘電体などの原材料によるスラリーは従来の薄膜コンデンサと同様なものを用いることができる。そして、誘電体原材料スラリーをスピンコートによって塗布した後、上述した製造方法の例2に準じて電界を印加する。電界の印加はスピンコートの最中に行なってもよい。スピンコートの最中そして、スピンコートの後の両方で行なってもよい。
<製造方法:例5>
本技術の容量素子がいわゆる薄膜コンデンサ場合において、誘電体膜を形成する基板へ誘電体膜の形成方法として、物理的堆積(スパッタリング)、あるいは化学的堆積を用いる製造方法を例示する。
先ず、基板に電極層(電極層パターン)を形成しておき、その上へBTOの(111)面に整合し得る結晶面を薄膜にて形成する。
≪実施形態:共振回路≫
本技術の容量素子を用いて、例えばWO2011/013658の実施形態7と同様の共振回路を構成することができる。共振回路は、本技術の容量素子を共振容量素子として用い、この共振容量素子に接続された共振インダクタンス素子を有する。この共振回路は、共振容量素子と共振インダクタンス素子との接続が並列である、並列共振回路であってもよい。またこの共振回路は、共振容量素子と共振インダクタンス素子との接続が直列である、直列共振回路であってもよい。
また本技術は、以下の構成をとることができる。
(1)
誘電体層と、当該誘電体層に積層された電極層とを備え、
前記誘電体層が、
単純ペロブスカイト構造または複合ペロブスカイト構造または複合-複合ペロブスカイト構造のうち少なくても一種以上の構造の多結晶であり、
前記何れかの構造を成す主要な元素の一部が他の陽イオン元素で置換され、
希土類元素、および前記陽イオン元素以外の陽イオン元素を含み、
前記誘電体層と前記電極層とが積層される面に対して垂直をなす法線方向を含む断面においての前記構造の単位格子における[111]、[-1-1-1]、[11-1]、[-1-11]、[1-11]、[-11-1]、[-111]、および[1-1-1]の各方位の何れかの方位の単位ベクトルが、前記法線方向への投影の大きさの平均値0.88を超える
容量素子。
(2)
前記各構造を成す主要な元素が、前記誘電体層に含まれる全ての陽イオン元素に対し、50at%以上である
(1)に記載の容量素子。
(3)
前記各構造を成す主要な元素が、バリウム(Ba)とチタン(Ti)とである
(1)または(2)に記載の容量素子。
(4)
前記置換された陽イオン元素が、4価または2価の少なくてもどちらかである
(1)〜(3)の何れかに記載の容量素子。
(5)
前記4価の陽イオン元素が、マンガン(Mn)、スズ(Sn)、およびジルコニウム(Zr)の少なくても何れか一種以上である
(4)に記載の容量素子。
(6)
前記2価の陽イオン元素が、鉛(Pb)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)、カドミウム(Cd)、およびマグネシウム(Mg)の少なくても何れか一種以上である
(4)に記載の容量素子。
(7)
前記希土類元素が、イットリウム(Y)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、サマリウム(Sm)、ガドリニウム(Gd)、ランタン(La)、ネオジウム(Nd)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ユウロピウム(Eu)、およびテルビウム(Tb)の何れか一種以上である
(1)〜(6)の何れかに記載の容量素子。
(8)
前記置換された陽イオン元素以外の前記誘電体層に含まれる陽イオン元素が、コバルト(Co)、ジルコニウム(Zr)、シリコン(Si)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、およびイリジウム(Ir)の何れか一種以上である
(1)〜(7)の何れかに記載の容量素子。
(9)
誘電体層と当該誘電体層に積層された電極層とを備えた共振容量素子と、
前記共振容量素子に接続された共振インダクタンス素子とを有し、
前記誘電体層が、
単純ペロブスカイト構造または複合ペロブスカイト構造または複合-複合ペロブスカイト構造のうち少なくても一種以上の構造の多結晶であり、
前記何れかの構造を成す主要な元素の一部が他の陽イオン元素で置換され、
希土類元素、および前記陽イオン元素以外の陽イオン元素を含み、
前記誘電体層と前記電極層とが積層される面に対して垂直をなす法線方向を含む断面においての前記構造の単位格子における[111]、[-1-1-1]、[11-1]、[-1-11]、[1-11]、[-11-1]、[-111]、および[1-1-1]の各方位の何れかの方位の単位ベクトルが、前記法線方向への投影の大きさの平均値0.88を超える
共振回路。
(10)
前記共振容量素子と前記共振インダクタンス素子との接続が並列である
(9)に記載の共振回路。
(11)
前記共振容量素子と前記共振インダクタンス素子との接続が直列である
(9)に記載の共振回路。

Claims (11)

  1. 誘電体層と、当該誘電体層に積層された電極層とを備え、
    前記誘電体層を構成する誘電体材料が、
    単純ペロブスカイト構造または複合ペロブスカイト構造または複合-複合ペロブスカイト構造のうち少なくても一種以上の構造の多結晶であり、
    前記何れかの構造を成す主要な元素の一部が他の陽イオン元素で置換され、
    希土類元素、および前記陽イオン元素以外の陽イオン元素を含むと共に、
    前記誘電体層と前記電極層とが積層される面に対して垂直をなす法線方向を含む断面においての前記構造の単位格子における[111]、[-1-1-1]、[11-1]、[-1-11]、[1-11]、[-11-1]、[-111]、および[1-1-1]の各方位の何れかの方位の単位ベクトルが、前記法線方向への投影の大きさの平均値0.88を超える
    容量素子。
  2. 前記各構造を成す主要な元素が、前記誘電体層に含まれる全ての陽イオン元素に対し、50at%以上である
    請求項1に記載の容量素子。
  3. 前記各構造を成す主要な元素が、バリウム(Ba)とチタン(Ti)とである
    請求項1記載の容量素子。
  4. 前記置換された陽イオン元素が、4価または2価の少なくてもどちらかである
    請求項1記載の容量素子。
  5. 前記4価の陽イオン元素が、マンガン(Mn)、スズ(Sn)、およびジルコニウム(Zr)の少なくても何れか一種以上である
    請求項4に記載の容量素子。
  6. 前記2価の陽イオン元素が、鉛(Pb)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)、カドミウム(Cd)、およびマグネシウム(Mg)の少なくても何れか一種以上である
    請求項4に記載の容量素子。
  7. 前記希土類元素が、イットリウム(Y)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、サマリウム(Sm)、ガドリニウム(Gd)、ランタン(La)、ネオジウム(Nd)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ユウロピウム(Eu)、およびテルビウム(Tb)の何れか一種以上である
    請求項1に記載の容量素子。
  8. 前記置換された陽イオン元素以外の前記誘電体層に含まれる陽イオン元素が、コバルト(Co)、ジルコニウム(Zr)、シリコン(Si)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、およびイリジウム(Ir)の何れか一種以上である
    請求項1に記載の容量素子。
  9. 誘電体層と当該誘電体層に積層された電極層とを備えた共振容量素子と、
    前記共振容量素子に接続された共振インダクタンス素子とを有し、
    前記誘電体層を構成する誘電体材料が、
    単純ペロブスカイト構造または複合ペロブスカイト構造または複合-複合ペロブスカイト構造のうち少なくても一種以上の構造の多結晶であり、
    前記何れかの構造を成す主要な元素の一部が他の陽イオン元素で置換され、
    希土類元素、および前記陽イオン元素以外の陽イオン元素を含むと共に、
    前記誘電体層と前記電極層とが積層される面に対して垂直をなす法線方向を含む断面においての前記構造の単位格子における[111]、[-1-1-1]、[11-1]、[-1-11]、[1-11]、[-11-1]、[-111]、および[1-1-1]の各方位の何れかの方位の単位ベクトルが、前記法線方向への投影の大きさの平均値0.88を超える
    共振回路。
  10. 前記共振容量素子と前記共振インダクタンス素子との接続が並列である
    請求項9に記載の共振回路。
  11. 前記共振容量素子と前記共振インダクタンス素子との接続が直列である
    請求項9に記載の共振回路。
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