JP2014038042A - 分光計測方法、分光計測器、および変換行列の生成方法 - Google Patents

分光計測方法、分光計測器、および変換行列の生成方法 Download PDF

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Abstract

【課題】分光計測器の個体差や測誤差の影響を受けずに精度良くスペクトルを推定する。
【解決手段】計測スペクトルに変換行列を作用させてスペクトルに変換する。変換行列は次のように決定する。既知光についての計測スペクトル(既知光計測スペクトル)を、基準の計測器による計測スペクトルの主成分ベクトルが構成する線形空間に線形射影して基準既知光計測スペクトルに変換する。この基準既知光計測スペクトルに変換行列を作用させて得られる推定スペクトルと既知光のスペクトル(既知光スペクトル)との偏差と、変換行列の各成分の分散との線形結合によって定義される評価関数が極値となるように決定する。こうすれば、分光計測器の分光特性や感度特性などの計測が不要となるので誤差の混入が抑制され、計測スペクトルからスペクトルを精度良く推定することが可能となる。
【選択図】図12

Description

本発明は、分光計測方法、分光計測器、および変換行列の生成方法に関する。
物体が放射する光のスペクトルは多くの情報を含むことが知られており、スペクトルを解析することで有用な情報を引き出そうとする研究が行われている(例えば特許文献1)。スペクトルから有用な情報を引き出すためには、スペクトルを精度良く計測する必要がある。
また、様々な色彩を表示するために従来から広く用いられてきた方法は、いわゆる光の三原色を用いて色彩を表現する方法であるが、この方法には、モニターなどの機器の違いや、照明光の違いなどによって色彩を正しく表現することができなくなるという弱点がある。そこで今日では、分光反射率によって色彩を表現する技術が注目されている。ここで分光反射率とは、様々な波長での光の反射率を示すデータである。分光反射率を求めるためには、物体に照射した光(照射光)のスペクトルと、物体が反射した光(反射光)のスペクトルとを精度良く計測する必要がある。
光のスペクトルを計測する機器は「分光計測器」と呼ばれている。分光計測器は、計測対象とする光から単一の波長の光を取り出して光強度を検出する操作を、様々な波長で行うことによってスペクトルを計測する。ところが実際には、特別な計測装置を用いない限り、本当の意味でのスペクトルを計測することは困難である。何故なら、計測しようとする波長の光だけを取り出すことは実際には困難であり、周囲の波長の光も一緒に取り出してしまうためである。また、たとえ目的とする波長の光だけを取り出せたとしても、光の強さが弱すぎてSN比を確保することが困難なためである。その結果、ある波長での光強度を計測しようとしても、実際に得られる値は、その波長を含んだある波長幅の中での光強度に重みを付けて積分した値となってしまう。尚、以下では、分光計測器で得られるこのようなスペクトル(ある波長幅での積分値として得られるスペクトル)を「計測スペクトル」と称して、特別な計測装置を用いて計測した本当の意味でのスペクトルと区別する。
そこで分光計測器では、実際に得られる計測スペクトルDから、その分光計測器の分光感度特性Gを用いて(本当の意味での)スペクトルSを推定している(非特許文献1)。尚、D,Sは、複数の波長での値を成分とするベクトルとして表され、Gは、それぞれの波長での計測値に対して、他の波長での光強度が与える影響を示す行列として表される。スペクトルSの推定は次のようにして行う。先ず、計測スペクトルDは、分光感度特性Gの計測器を用いてスペクトルSの光を計測したものである。従って、D=G・Sの関係が成り立つ。そこで、分光感度特性Gを求めておき、G・SとDとの偏差が最も小さくなるように(すなわち、D−G・Sのノルムが最小となるように)Sを決定してやる。いわば、Sの結果として得られたDから、原因であるSを求める逆問題を解くことになる。こうすれば、計測スペクトルDからスペクトルSを推定することができる。
特開2007−108124号公報 村上、「分光画像処理−研究の現状と課題」、日本写真学会誌、2002年、65巻、第4号、p.234−239
しかし、分光計測器で得られた計測スペクトルDから、分光感度特性Gを用いてスペクトルSを推定する従来の方法(いわば逆問題を解く方法)では、推定精度を確保することが難しいという問題があった。何故なら、計測スペクトルDや分光感度特性Gの計測には、多少の誤差の混入が避けられない。また、分光計測器の個体差によって得られる計測スペクトルDが少しずつ異なる影響も現れる。このため、スペクトルSを精度良く且つ安定して推定することが困難なためである。
この発明は、従来の技術が有する上述した課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、分光計測器の個体差や計測誤差の影響を受けることなく、計測スペクトルからスペクトルを精度良く推定することが可能な技術の提供を目的とする。
上述した課題を解決するために、本発明の分光計測方法は次の構成を採用した。すなわち、
光を受光して、第1個数の所定の波長での光強度を表すスペクトルを計測する分光計測方法であって、
受光した光を第2個数の所定の波長である計測波長の光に分光する分光工程と、
前記第2個数の前記計測波長での光強度を検出することによって、前記第2個数の光強度を有する計測スペクトルを生成する計測スペクトル生成工程と、
前記計測スペクトルを前記スペクトルに変換するための変換行列を決定する変換行列決定工程と、
前記計測スペクトルに前記変換行列を作用させることによって、前記計測スペクトルを前記スペクトルに変換する計測スペクトル変換工程と、
を備え、
前記変換行列決定工程は、
予め定められた基準の計測器から得られた前記計測スペクトルを主成分分析して、前記第2個数よりも少ない第3個数の主成分ベクトルを予め選択しておく工程と、
前記スペクトルが既知の光である既知光についての前記計測スペクトルである既知光計測スペクトルを取得する工程と、
前記既知光計測スペクトルを、前記第3個数の主成分ベクトルによって構成される線形空間に線形射影することによって、前記既知光計測スペクトルを基準既知光計測スペクトルに変換する工程と、
前記基準既知光計測スペクトルに前記変換行列を作用させて得られた前記スペクトルである推定スペクトルと前記既知光スペクトルとの偏差と、前記変換行列を構成する各成分の分散との線形結合によって定義される評価関数が極値となる条件に基づいて前記変換行列を決定する工程と、
を備えることを要旨とする。
また、上述した分光計測方法に対応する本発明の分光計測器は、
光を受光すると、第1個数の所定の波長での光強度を表すスペクトルを出力する分光計測器であって、
受光した光を第2個数の所定の波長である計測波長の光に分光する分光手段と、
前記第2個数の前記計測波長での光強度を検出することによって、前記第2個数の光強度を有する計測スペクトルを生成する計測スペクトル生成手段と、
前記計測スペクトルに所定の変換行列を作用させることによって、前記計測スペクトルを前記スペクトルに変換する計測スペクトル変換手段と、
を備え、
前記変換行列は、
前記スペクトルが既知の光である既知光についての前記スペクトルである既知光スペクトルと、前記既知光についての前記計測スペクトルである既知光計測スペクトルとを取得して、
予め定められた基準の計測器から得られた前記計測スペクトルの前記第2個数よりも少ない第3個数の主成分ベクトルが構成する線形空間に前記既知光計測スペクトルを線形射影することによって、該既知光計測スペクトルを基準既知光計測スペクトルに変換し、
前記基準既知光計測スペクトルに前記変換行列を作用させて得られた前記スペクトルである推定スペクトルと前記既知光スペクトルとの偏差と、前記変換行列を構成する各成分の分散との線形結合によって定義される評価関数が極値となる条件に基づいて決定された行列である
ことを要旨とする。
このような本発明の分光計測方法および分光計測器においては、受光した光を第2個数の計測波長に分光して計測スペクトルを生成し、得られた計測スペクトルに変換行列を作用させてスペクトルに変換する。このとき用いる変換行列は、次のようにして決定される。先ず、予め定められた基準の計測器から得られた計測スペクトルを主成分分析して、第2個数よりも少ない第3個数の主成分ベクトルを予め選択しておく。続いて、既知光についての計測スペクトル(既知光計測スペクトル)を計測すると、第3個数の主成分ベクトルが構成する線形空間に線形射影することによって、既知光計測スペクトルを基準既知光計測スペクトルに変換する。そして、得られた基準既知光計測スペクトルに変換行列を作用させて得られる推定スペクトルと既知光スペクトルとの偏差と、変換行列を構成する各成分の分散との線形結合によって定義される評価関数が極値となる条件に基づいて決定されている。
こうすれば、受光した光を計測波長に分光する際の分光特性や、分光した光の光強度を検出する際の感度特性などの特性を計測することなく、計測スペクトルからスペクトルを推定することができる。このため、これらの特性の計測に伴う誤差の混入が抑制されるので、スペクトルを精度良く推定することができる。また、詳細には後述するが、計測スペクトルを、基準の計測器から得られた主成分ベクトルが構成する線形空間に線形射影することで、基準の計測器に対する特性の違いや計測時に混入した誤差の影響を取り除くことができる。更に、変換行列を決定するための評価関数には、変換行列の各成分の分散も考慮した評価関数を用いているので、既知光計測スペクトルや既知光スペクトルに含まれる計測誤差の影響を抑制した状態で変換行列を決定することができる。このため、分光計測器の個体差や計測誤差の影響を受けることなく、計測スペクトルからスペクトルを精度良く且つ安定して推定することが可能となる。
また、上述した本発明の分光計測方法および分光計測器は、計測スペクトルをスペクトルに変換するための変換行列を生成する方法としても把握することが可能である。すなわち、本発明の変換行列の生成方法は、
第2個数の所定の波長で計測された光強度を表す計測スペクトルを、第1個数の所定の波長での光強度を表すスペクトルに変換する変換行列の生成方法であって、
予め定められた基準の計測器から得られた前記計測スペクトルを主成分分析して、前記第2個数よりも少ない第3個数の主成分ベクトルを予め選択しておく工程と、
前記スペクトルが既知の光である既知光についての前記計測スペクトルである既知光計測スペクトルを取得する工程と、
前記既知光計測スペクトルを、前記第3個数の主成分ベクトルによって構成される線形空間に線形射影することによって、前記既知光計測スペクトルを基準既知光計測スペクトルに変換する工程と、
前記既知光についての前記スペクトルである既知光スペクトルを取得する工程と、
前記基準既知光計測スペクトルに前記変換行列を作用させて得られた前記スペクトルである推定スペクトルと前記既知光スペクトルとの偏差と、前記変換行列を構成する各成分の分散との線形結合によって定義される評価関数が極値となる条件に基づいて前記変換行列を決定する工程と、
を備えることを要旨とする。
このようにして生成した変換行列を用いれば、計測器の個体差や計測時の誤差の影響を受けることなく、計測スペクトルから精度良く且つ安定してスペクトルを推定することが可能となる。
本実施例の分光計測器の大まかな構成を示した説明図である。 分光計測器に搭載された波長可変型の光学フィルターの外観形状を示す断面図である。 波長可変型の光学フィルターの分解組立図である。 波長可変型の光学フィルターの内部構造を示す断面図である。 分光計測器で得られる計測スペクトルのデータを例示した説明図である。 分光計測器で得られる計測スペクトルからスペクトルを推定する方法を比較した説明図である。 計測スペクトルから推定行列を用いてスペクトルを推定する計算式を示した説明図である。 推定行列を決定する前提技術の方法を示した説明図である。 前提技術の推定行列によるスペクトルの推定精度の検証方法を示すブロック図である。 前提技術の推定行列によるスペクトルの推定精度の検証結果を示す説明図である。 基準の固体の主成分ベクトルとの間で同じ主成分数同士の主成分ベクトルの内積値を算出した結果を示した説明図である。 反りの有る固体で得られた計測スペクトルから反りの影響を取り除いた計測スペクトルを再構成した結果を示した説明図である。 推定行列の各成分の分散を考慮した評価関数によって推定行列を求める計算式を示した説明図である。 本実施例の推定行列の決定方法を示した説明図である。 本実施例の推定行列による計測結果とマルチ分光測色計による測色値との色差を示した説明図である。 本実施例の推定行列による波長毎の測定誤差の評価結果を示した説明図である。 本実施例の推定行列Msによる最大色差および最大誤差率の評価結果を示した説明図である。
以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施例を説明する。
A.装置構成:
A−1.分光計測器の構成:
A−2.波長可変型光学フィルター:
B.推定行列:
C.前提技術による推定行列の決定方法:
D.本実施例による推定行列の決定方法:
A.装置構成 :
A−1.分光計測器の構成 :
図1は、本実施例の分光計測器10の大まかな構成を示した説明図である。本実施例の分光計測器10は、大まかには光学系50と、検出部60と、制御部70などがケース80内に収容されて構成されている。光学系50は、透過する光の波長を変更可能な(波長可変型の)光学フィルター100と、光学フィルター100に光を入射させるための入射側レンズ系52と、光学フィルター100を透過した光を検出部60に導くための出射側レンズ系54などから構成されている。光学フィルター100が透過させる光の波長は、制御部70によって制御されている。また、検出部60は、受光した光の光強度に対応する電圧を制御部70に出力する。そして、制御部70は、検出部60から受け取った光強度に関するデータに基づいてスペクトルを出力する。尚、本実施例の光学フィルター100および光学フィルター100の動作を制御する制御部70は、本発明の「分光手段」に対応する。また、本実施例の検出部60および検出部60から光強度を受け取る制御部70は、本発明の「計測スペクトル生成手段」に対応する。更に、本実施例の制御部70は、本発明の「計測スペクトル変換手段」に対応する。
このような本実施例の分光計測器10は、光学フィルター100を透過する光の波長を変更しながら、検出部60で光強度を検出することで、光のスペクトルに関する情報を含んだデータ(前述した計測スペクトル)を計測することができる。たとえば、図1に例示したように、所定の光源200で対象物を照射し、光学フィルター100を透過する光の波長を変更しながら、対象物の表面からの反射光の光強度を検出すれば、反射光のスペクトルに関する情報を含むデータ(反射光の計測スペクトル)を計測することができる。また、光源200からの照射光のスペクトルに関する情報を含んだデータ(反射光の計測スペクトル)も計測しておけば、対象物の表面での分光反射率に関する情報を得ることもできる。もっとも、前述したように計測スペクトルは、スペクトルそのものを表すデータではない。そこで、反射光や照射光のスペクトルを求めたり、分光反射率を求めたりするためには、計測スペクトルからスペクトルを求める必要がある。計測スペクトルからスペクトルを求める方法については後ほど詳しく説明する。
A−2.波長可変型光学フィルター :
図2は、本実施例の分光計測器10に搭載されている波長可変型の光学フィルター100の外観形状を示した斜視図である。図2(a)には、光が入射する側から見た光学フィルター100が示されており、図2(b)には、光が出射する側から見た光学フィルター100が示されている。尚、図中に一点鎖線で示した矢印は、光学フィルター100に入射する光の向き、および光学フィルター100から出射する光の向きを表している。
図2(a)に示されるように、光学フィルター100は、第1基板110と第2基板120とを重ねて構成されている。第1基板110および第2基板120は、シリコン材料(結晶性シリコン、あるいはアモルファスシリコン)や、ガラス材料によって形成されている。第1基板110の厚さは、高々2000μm程度(代表的には100〜1000μm)であり、第2基板120の厚さは、高々500μm程度(代表的には10〜100μm)である。また、第1基板110には、光が入射する側の表面に反射防止膜110ARが形成されている。反射防止膜110ARが形成された表面の一部分(図中では細い破線で囲った部分)から、光学フィルター100の内部に光が入射する。反射防止膜110ARは誘電体多層膜によって構成され、光学フィルター100に入射した光が反射することを防止する機能を有している。
図2(b)に示されるように、光学フィルター100の裏側(光が出射する側)の表面(すなわち第2基板120)には、中央に丸く反射防止膜120ARが形成されている。第2基板120に形成された反射防止膜120ARも、第1基板110の反射防止膜110ARと同様に、誘電体多層膜によって構成されている。もっとも第2基板120の反射防止膜120ARは、光学フィルター100から外部に出射しようとする光が、第2基板120の表面で反射して光学フィルター100の内部に戻ることを防止する機能を有している。また、第2基板120には、反射防止膜120ARを取り囲むように細いスリット120sが形成されており、スリット120sは第2基板120を貫通している。更に、第2基板120には、略矩形の引出孔120a、120bも形成されている。
図3は、光学フィルター100の構造を示す分解組立図である。尚、図2を用いて前述したように、光学フィルター100は、光が入射する側(第1基板110)の表面は単なる平面であるが、第1基板110の内側(第2基板120に面する側)は複雑な形状をしている。そこで、第1基板110の内側の形状が分かるように、図3では、光学フィルター100を裏返した状態(図2(b)に示したように第2基板120が第1基板110の上に来るような状態)での分解組立図が示されている。
前述したように第2基板120には、中央の反射防止膜120ARを取り囲むようにスリット120s(図2(b)参照)が形成され、このスリット120sは第2基板120を貫通している。この結果、図3に示されるように第2基板120は、中央の丸い可動部122(反射防止膜120ARが形成されている部分)と、その外側の周辺部126と、可動部122と周辺部126とを連結する複数(図示した例では4つ)の連結部124とに分割されている。
この第2基板120の内側(第1基板110に向いた側)の面には、第2電極128が貼り付けられる。図3に示されるように第2電極128は、円環形状をした駆動電極部128aと、駆動電極部128aから延びる引出電極部128bとによって構成され、肉厚が0.1〜5μm程度の金属箔で形成されている。第2電極128は、円環形状をした駆動電極部128aが、第2基板120の可動部122に対して同心となり、引出電極部128bの端部が第2基板120の引出孔120aの位置に来るように、第2基板120に対して位置合わせされている。
一方、第1基板110の内側(第2基板120に向いた側)の面には、第1凹部112が形成され、更に第1凹部112の中央には、円形の第2凹部114が形成されている。尚、図2(a)中に細い破線で示した領域(光学フィルター100に光が入射する領域)は、第2凹部114の底の部分に対応する。また、第1凹部112の形状は、大まかには、第2基板120の可動部122および連結部124に対応する形状となっている。更に第1凹部112は、第2基板120の引出孔120bに対応する箇所まで延設されている。
この第1凹部112に、第1電極118が貼り付けられる。第1電極118も前述した第2電極128と同様に、円環形状をした駆動電極部118aと、駆動電極部118aから延びる引出電極部118bとによって構成され、肉厚が0.1〜5μm程度の金属箔で形成されている。また、第1電極118は、円環形状をした駆動電極部118aが、円形の第2凹部114に対して同心となるように位置合わせされている。以上のような第2基板120と第1基板110とが貼り合わされることによって、光学フィルター100が構成されている。
図4は、本実施例の光学フィルター100の内部構造を示す断面図である。断面位置は、図2(b)に示したA−A位置である。上述したように、第2基板120には第2電極128が設けられており、第1基板110には、第1凹部112内に第1電極118が設けられている。このため、第2電極128の駆動電極部128aと、第1電極118の駆動電極部118aとの間には、第1凹部112の深さにほぼ相当するギャップg1が形成されている。
また、第1基板110に設けられた第2凹部114の底面には、誘電体多層膜による第1反射膜110HRが形成されている。更に、第2基板120にも、第1反射膜110HRに向き合うようにして、誘電体多層膜による第2反射膜120HRが形成されている。従って、第1反射膜110HRと第2反射膜120HRとの間にもギャップg2が形成されている。第1反射膜110HRおよび第2反射膜120HRは、高い反射率で光を反射する機能を有している。このため、図中に一点鎖線の矢印で示したように光学フィルター100に入射した光は、第2反射膜120HRと第1反射膜110HRとの間で何度も反射を繰り返すこととなり、いわゆるファブリペロー型の干渉系が構成される。その結果、ギャップg2の間隔によって定まる干渉条件を満たさない波長の光は、光の干渉によって、第2反射膜120HRおよび第1反射膜110HRの表面で急激に減衰し、干渉条件を満たす波長の光のみが光学フィルター100から外部に出射される。
また、ギャップg2の間隔は、以下のようにして変更することが可能である。先ず、第2基板120の可動部122には、第2電極128の駆動電極部128aが設けられており、第2電極128の引出電極部128bには、第2基板120に形成された引出孔120aからアクセス可能である。更に、第1基板110には、第2電極128の駆動電極部128aに向かい合うようにして、第1電極118の駆動電極部118aが設けられており、第1電極118の引出電極部118bには、第2基板120の引出孔120bからアクセス可能である(図3参照)。このため、引出孔120a、120bから第2電極128および第1電極118に同じ極性の電圧を印加すると、第2電極128の駆動電極部128aと、第1電極118の駆動電極部118aとを同じ極性に帯電させて、互いに反発力を発生させることができる。そして、第2基板120の可動部122は、細長い連結部124によって周辺部126から支えられているだけなので、第2電極128の駆動電極部128aと、第1電極118の駆動電極部118aとの間に働く反発力で連結部124が変形してギャップg1が広くなり、その結果、ギャップg2も広くなる。印加する電圧を大きくすると反発力も大きくなるので、ギャップg2はより一層広くなる。また、第2電極128の駆動電極部128aと、第1電極118の駆動電極部118aとを逆の極性に帯電させると吸引力が発生するので、ギャップg2を狭くすることができる。
このように、ギャップg2の間隔を変更すると、第2反射膜120HRと第1反射膜110HRとの間の干渉条件が変化して、干渉条件を満たす波長だけを光学フィルター100から出射させることができる。図1に示した分光計測器10の検出部60は、このようにして光学フィルター100から出射した光の光強度に対応する電圧を、制御部70に向かって出力する。また、制御部70は、第2電極128の駆動電極部128aと、第1電極118の駆動電極部118aとに印加する電圧を変更して、ギャップg2の大きさを変更し、光学フィルター100を透過する光の波長を制御する。こうして複数の波長での光強度を検出することによって、計測スペクトルDを検出する。
図5は、分光計測器10で得られる計測スペクトルDの内容を示した説明図である。図5(a)に例示されるように、計測スペクトルDは、種々の波長(図示した例では16点)で得られた光強度のデータ(計測スペクトルD)から構成されている。たとえば、図5(a)中の白丸は、光学フィルター100が透過する光の波長を100nmに設定した時に、検出部60で検出された光強度を表している。尚、計測スペクトルDを構成する複数(図5に示した例では16点)の波長が、本発明における「計測波長」に対応する。仮に、この光強度が波長100nmの光だけを検出したものであれば、そのまま波長100nmでのスペクトルの値として用いることができる。
しかし実際には、波長100nmの光だけを透過させるような理想的な光学フィルターを実現することは難しい。また、仮に実現できたとしても、検出部60に届く光がたいへんに弱くなってしまうのでSN比が小さくなり、信頼性の高いデータを得ることが困難となる。このため、計測する波長を100nmに設定した場合でも実際には図5(b)中に太い実線で示した感度を有しており、従って、図5(a)中の白丸の光強度は、図5(b)に斜線を付して示した部分の面積に対応する値となっている。このことから、分光計測器10で得られた計測スペクトルDは、そのままではスペクトルSを示すデータとして用いることはできない。換言すれば、分光計測器10で得られた計測スペクトルDからスペクトルSを推定する必要がある。
そこで本実施例の分光計測器10では、推定行列Msを用いて計測スペクトルDからスペクトルSを推定する。ちなみに、この推定行列Msを用いてスペクトルSを推定する方法は、本願の発明者によって開発された方法である。この方法は、その後も改良が続けられ、その結果、光学フィルター100の個体差によって大きな影響を受けることなくスペクトルSを推定可能な推定行列Msの決定方法が開発された。以下では、新たに開発された推定行列Msの決定方法について説明するが、その準備として、推定行列Msについて説明し、その推定行列Msを決定するために用いられていた方法について説明しておく。
B.推定行列 :
図6は、推定行列Msを用いて計測スペクトルDからスペクトルSを推定する方法を示した説明図である。また、参考として、図6(b)には、推定行列Msを用いない従来の推定方法が示されている。説明の都合上、図6(b)に示した従来の推定方法の概略について、始めに説明する。
図6(b)に示すように、スペクトルSの従来の推定方法では、分光計測器10の分光感度特性Gを予め計測しておく。ここで、分光感度特性Gとは、波長に対する光強度の検出感度を示す特性である。分光計測器10は、光強度を計測しようとする中心波長を変更することができるから、図5(b)中に太い実線あるいは細い実線の曲線で示したように、分光感度特性Gは中心波長毎に定められる。
分光計測器10の分光感度特性Gが分かっていれば、あるスペクトルSの光を計測した時に、どのような計測スペクトルDが得られるかを算出することができる。従って、分光感度特性Gを用いて算出した計測スペクトルDが、分光計測器10で得られた計測スペクトルDに、できるだけ近付くようなスペクトルSを決定することができる。従来のスペクトルSの推定方法では、このように、分光計測器10の分光感度特性Gを予め計測しておき、計測スペクトルDおよび分光感度特性GからスペクトルSを推定する。
これに対して、本願の発明者が開発した推定方法では、図6(a)に示したように、スペクトルSが分かった光(スペクトルSが予め計測された光)を分光計測器10で計測して、得られた計測スペクトルDからスペクトルSを推定するための行列(推定行列Ms)を求めておく。その後、未知のスペクトルSを有する光の計測スペクトルDを計測したら、その計測スペクトルDに対して、予め求めておいた推定行列Msを作用させることによって、その光のスペクトルSを推定する。このように推定行列Msを用いる推定方法では、従来の推定法方とは異なり、分光計測器10の分光感度特性Gを計測することなく、計測スペクトルDからスペクトルSを推定することができる。
尚、本実施例の推定方法では、分光感度特性Gを計測する必要はないが、その替わりに、推定行列Msを求めるためにスペクトルSを計測する必要が生じる。しかし、分光計測器10が計測する複数の波長での分光感度特性Gを計測することは、スペクトルSを計測するほどには容易なことではない。これは次の理由による。先ず、光学フィルター100の分光感度特性Gは、広い範囲の波長を有する光(例えば白色光など)を光学フィルター100に入射して、入射光量に対する出射光量の比を波長毎に計測することによって算出する。ここで、光を光学フィルター100のフィルター面に対して完全に垂直に入射させないと、フィルター内を通る光路長が変化して透過光の光量および波長が変わってしまうので、正確な分光感度特性Gを得ることができない。このため、入射光を厳密に平行光にし、且つ、光学フィルター100のフィルター面に対して厳密に垂直に入射しなければならないためである。また、図6(b)に示した従来の推定方法においても、推定したスペクトルSの妥当性を確かめるためには、少なくとも一度はスペクトルSを計測しなければならない。すなわち、スペクトルSの計測が必要な点では、従来の推定方法も本実施例の推定方法と違いはない。このことから、本実施例の推定方法では、従来の推定方法に対して分光感度特性Gの計測が不要となっており、その分だけ誤差の混入の可能性が小さいスペクトルSの推定方法となっている。尚、本実施例の推定行列Msは、本発明の「変換行列」に対応する。
図7は、推定行列Msを用いて、計測スペクトルDからスペクトルSを推定するための計算式を示した説明図である。尚、図7(a)中で、スペクトルSや計測スペクトルDの右肩に表示された「t」は、「転置ベクトル」を表している。本実施例では、計測スペクトルDおよびスペクトルSは「行ベクトル」であるとしているから、これらの転置ベクトルは「列ベクトル」となる。
また、図7(b)には、図7(a)に示したスペクトルSや、推定行列Ms、計測スペクトルDに含まれる要素が判別できるような状態で表示されている。先ず始めに計測スペクトルDについて説明すると、計測スペクトルDは、分光計測器10で計測する波長の数に相当する個数の要素から構成されている。図5に示した例では、16点の波長で計測していることから、図7(b)では、計測スペクトルDがd〜d16の16個の要素から構成されるものとしている。尚、以下では、分光計測器10で計測する波長の数を「バンド数」と呼ぶ。
また、スペクトルSについては、推定しようとする波長の数に相当する個数の要素から構成される。たとえば、380nm〜780nmの波長範囲を5nm間隔の波長でスペクトルSを推定しようとするのであれば、スペクトルSの行ベクトルの要素は81個となる。このことに対応して、図7(b)では、スペクトルSがs〜s81の81個の要素から構成されるものとしている。すると、計測スペクトルDからスペクトルSを推定するための推定行列Msは、図7(b)に示されるように、81行×16列の行列となる。尚、以下では、スペクトルSを構成する要素の数を「スペクトル点数」と呼ぶ。
計測スペクトルDの要素は16個であり、スペクトルSの要素は81個であるから、一組の計測スペクトルDおよびスペクトルSだけでは、81行×16列の推定行列Msを一意的に決定することはできない。そこで、複数のサンプル光についての計測スペクトルDおよびスペクトルSを計測し、それらを用いて推定行列Msを決定する。尚、異なるスペクトルSを有するサンプル光は色が異なるので、以下では、サンプル光の数を「色数」と呼ぶ。
また、本願の推定行列Msの決定方法は、計測スペクトルDをそのまま用いるわけではないが、計測スペクトルDをそのまま用いて推定行列Msを決定する方法が前提となっている。そこで、理解を容易とするために、計測スペクトルDをそのまま用いて推定行列Msを決定する前提技術の方法について始めに説明しておく。尚、前提技術の方法も本願の発明者によって開発された方法であり、既に特許出願済みである。
C.前提技術による推定行列の決定方法 :
図8は、推定行列Msを決定する前提技術の方法を示した説明図である。図8(a)には、推定行列Msを決定するために用いられる色数分のスペクトルSが、行列の形式で表示されている。すなわち、ここでは1つのスペクトルSが81個(=スペクトル点数k)の要素を有するとしており、色数分のスペクトルSを計測するから、スペクトル点数k個の要素が、色数n個だけ並んだ行列Snk(以下では、行列Sと略記する)を考えることができる。尚、この色数分のスペクトルSは本発明の「既知光スペクトル」に対応する。
また、図8(b)には、推定行列Msを決定するために用いられる色数分の計測スペクトルDが、行列の形式で表示されている。すなわち、ここでは1つの計測スペクトルDが16個(=バンド数m)の要素を有するとしており、色数分の計測スペクトルDを計測するから、バンド数mの要素が、色数n個だけ並んだ行列Dnm(以下では、行列Dと略記する)を考えることができる。尚、この色数分の計測スペクトルDは、本発明の「既知光計測スペクトル」に対応する。
仮に、正しい推定行列Msが得られれば、推定行列Ms・行列Dは、行列Sと一致する筈である。計測スペクトルDやスペクトルSに多少の計測誤差が含まれていたとしても、推定行列Ms・行列Dは、行列Sと非常に近い値となる筈である。そこで、図8(c)に示すように、行列Sと、推定行列Ms・行列Dとの偏差を表す評価関数F(Ms)=|S−Ms・D|を設定して、この評価関数F(Ms)が最小となるように推定行列Msを決定する。評価関数F(Ms)が最小となるための必要条件は、図8(d)に示すように、評価関数F(Ms)を推定行列Msで偏微分した値が0となることである。尚、「評価関数F(Ms)を推定行列Msで偏微分する」とは、評価関数F(Ms)を、推定行列Msの各要素(m1・1、m1・2、m1・3・・・)で偏微分することを行列の形式で表したものである。
その結果、図8(e)に示すように、色数nの計測スペクトルDを示す行列Dnmと、色数nのスペクトルSを示す行列Snkとを用いて、推定行列Msを決定することができる。このような推定行列Msを求めておけば、図7(a)に示した計算式を用いて、計測スペクトルDからスペクトルSを推定することが可能となる。次に、この推定行列Msを用いてスペクトルSを推定する方法の推定精度について実験によって確認した。
図9は、推定行列MsによるスペクトルSの推定精度の確認方法を示したブロック図である。図示した確認方法では、RGBの階調値をほぼ等間隔に振った126色分のカラー画像データ(学習用RGBデータ)を用意しておき、このカラー画像データをカラーモニターで表示する。そして、カラーモニター上に表示された色を、分光計測器10およびマルチ分光測色計で計測する。ここでマルチ分光測色計とは、スペクトルSを直接測定することができる特殊な光学系を搭載した計測器である。マルチ分光測色計では、分光計測器10とは異なり、非常に狭い波長範囲(波長幅で数nm程度)の光のみを取り出すことができるので、マルチ分光測色計で計測した計測スペクトルは、そのまま本当の意味でのスペクトルSを表すと考えて良い。そこで、これら126色分の計測スペクトルDと、126色分のスペクトルSとを用いて、図8の方法によって推定行列Msを決定する。続いて、こうして得られた推定行列Msを用いて、計測スペクトルDからスペクトルSを推定し、マルチ分光測色計で得られたスペクトルSと比較した。尚、以下では、推定行列Msを用いて推定したスペクトルSと、マルチ分光測色計で計測したスペクトルSとを区別する必要がある場合には、マルチ分光測色計で計測したスペクトルSを「基準のスペクトルS」と称し、推定行列Msによって推定したスペクトルSを「推定したスペクトルS」と称することがあるものとする。尚、この「推定したスペクトルS」が、本発明の「推定スペクトル」に対応する。
図10(a)には、推定行列Msを用いて推定したスペクトルSと、マルチ分光測色計による基準のスペクトルSとを比較した結果が示されている。尚、2つのスペクトルSを直接比較したのでは結果が分かり難いので、図10では、それぞれのスペクトルSが表す色間での色差を表している。図示されるように、得られた色差は0.1よりも十分に小さくなった。従って、推定行列Msを決定するために用いた126色分のカラー画像データ(学習用RGBデータ)に対しては、計測スペクトルDから推定行列Msを用いて推定したスペクトルSと、マルチ分光測色計で得られた基準のスペクトルSとは良く一致している。もっとも、計測スペクトルDから推定したスペクトルSと、マルチ分光測色計による基準のスペクトルSとができるだけ一致するように推定行列Msを決定しているので、これは当然のことと言える。
そこで今度は、学習用RGBデータとは異なる200色分のカラー画像データ(未学習RGBデータ)を用意し、このカラー画像データを用いて同様な比較を行った。すなわち、未学習RGBデータをカラーモニター上に表示して、分光計測器10で計測スペクトルDを計測し、その一方でマルチ分光測色計を用いて基準のスペクトルSを計測しておく。そして、別のカラー画像データ(学習用RGBデータ)を用いて求めておいた推定行列Msを用いて、計測スペクトルDからスペクトルSを推定し、マルチ分光測色計で得られた基準のスペクトルSと比較した。図10(b)には、得られた結果が示されている。図10(a)に示した学習用RGBデータに対する比較結果に比べると大きくなっているものの、得られた色差は0.1よりも十分に小さく、学習用RGBデータの場合の比較結果に対しても誤差といえる程の違いしかない。すなわち、未学習RGBデータを用いた場合でも、学習用RGBデータの場合と同じレベルで、精度良くスペクトルSが推定できていることになる。
以上のことから、上述したスペクトルSの推定方法によれば、一度、推定行列Msを決定しておけば、それ以降は、推定行列Msを用いて計測スペクトルDから簡単にスペクトルSを推定することが可能となる(図7(a)を参照)。また、推定行列Msを決定するに際しては、分光計測器10の分光感度特性Gを計測する必要がない。このため、従来の推定方法のように、分光感度特性Gの計測時に混入した誤差の影響でスペクトルSの推定精度が低下することがない。その結果、計測スペクトルDからスペクトルSを精度良く推定することが可能となる。
このように、前提技術の方法によれば、ひとたび推定行列Msを決定しておけば、計測スペクトルDから精度良くスペクトルSを推定することができる。また、分光計測器10を量産する場合などを想定すると、分光計測器10の1つの固体で得られた推定行列Msを、他の固体の推定行列Msとして流用できれば便利である。
ここで、図3および図4を用いて前述したように、本実施例の分光計測器10は波長可変型の光学フィルター100を搭載している。このような分光計測器10では、光学フィルター100の個体差によって波長が微妙にずれることが考えられる。たとえば、光学フィルター100を透過する波長を500nmに設定した時に、ある固体では500.5nmに設定され、ある固体では499.5nmに設定されることが起こり得る。この場合、同じ光を計測した場合でも、得られる計測スペクトルDは、固体によって微妙にシフトする。また、光学フィルター100のギャップg2を構成する第1反射膜110HRと第2反射膜120HRとは平行であることが前提となっているが、可動側の第2反射膜120HRが第1反射膜110HRに対して反りが生じている固体や、傾いている固体も発生し得る。この場合、第1反射膜110HRと第2反射膜120HRとの間のギャップg2が一定にならないので、図5(b)に示した光強度の検出感度のピークが低くなり、同時に幅が広くなる。その結果、同じ光を計測した場合でも、得られる計測スペクトルDは異なったものとなる。従って、ある分光計測器10の固体で得られた推定行列Msを他の固体に流用する場合には、分光計測器10の固体間での計測スペクトルDの違いが、スペクトルSの推定精度に大きな影響を与えないようにしておく必要がある。以下に説明する本実施例の方法によって推定行列Msを決定しておけば、分光計測器10の固体による影響を抑制して精度良くスペクトルSを推定することが可能となる。
D.本実施例による推定行列の決定方法 :
推定行列Msの詳細な決定方法を説明する前に、分光計測器10の固体による影響を抑制可能とする基本的な着想について説明しておく。先ず、分光計測器10によって得られた計測スペクトルDは、計測した光のスペクトルSに関する情報と、分光計測器10の分光感度特性Gに関する情報とを含んでいる。同じ光を計測したのであればスペクトルSは同じであり、また、分光計測器10に個体差があるとはいえ分光感度特性Gがそれほど大きく異なるわけではない。従って、異なる固体で得られたものであっても、計測スペクトルD同士はかなり似通っているものと予想される。
そこで、基準となる特性の分光計測器10と、基準とは異なる特性の分光計測器10とを用意して、それらの固体についての計測スペクトルDを計測した。基準とは異なる特性の分光計測器10としては、基準の分光計測器10よりも波長がブラス側にシフトする特性の分光計測器10と、基準の分光計測器10よりも波長がマイナス側にシフトする特性の分光計測器10と、第1反射膜110HRに対して第2反射膜120HRが反ってしまい、分光感度特性Gのピークが低く且つ幅が広くなった特性の分光計測器10とを用意した。ここで、プラス側にシフトした固体もマイナス側にシフトした固体も、波長のシフト量がほぼ1.3nm程度の固体を選択した。また、反りのある固体は、図5(b)の分光感度特性Gが、基準の固体に対して半値幅で約16nm広がった固体を使用した。
次に、それぞれの固体の計測スペクトルDを主成分分析して、固体毎に主成分ベクトルを算出した。主成分ベクトルは、主成分数1から、計測スペクトルDのバンド数mに相当する主成分数まで、複数の主成分ベクトルを得ることができる。続いて、それら主成分ベクトルと、基準の固体の主成分ベクトルとの間で、同じ主成分数同士の内積値を算出した。主成分ベクトルの内積値は、2つのベクトル同士がどの程度似ているかを示す指標として用いることができる。すなわち、主成分ベクトルは標準化(規格化と呼ばれることもある)されているから、2つの主成分ベクトルが完全に一致していれば内積値は「1」となる。また、2つの主成分ベクトルの違いが大きくなるほど内積値は小さくなり、完全に異なった状態(直交する関係)になると内積値は「0」となる。
図11は、基準の固体の主成分ベクトルとの間で同じ主成分数同士の主成分ベクトルの内積値を算出した結果を示した説明図である。図示されるように、波長がプラス側にシフトした固体(図中に白丸で表示)も、波長がマイナス側にシフトした固体(図中に白四角で表示)も、反りの有る固体(図中に黒丸で表示)も、主成分数が5までの主成分ベクトルについては、基準の固体の主成分ベクトルとの内積値がほぼ「1.0」となる。このことは、基準の固体に対して波長のシフトや、第1反射膜110HRと第2反射膜120HRとの間に反りが生じた固体で計測スペクトルDを計測した場合でも、主成分数が5までの主成分ベクトルについては、基準の固体で計測した計測スペクトルDとほとんど変わらないことを示している。換言すれば、基準の固体に対して波長がシフトしたことによる影響は、主成分数が7以降の主成分ベクトルに現れているに過ぎず、基準の固体に対して反りが生じたことによる影響は、主成分数が6以降の主成分ベクトルに現れているに過ぎない。
また、主成分分析では、主成分数が大きい主成分ベクトルほど、分析対象のデータに対する寄与度は小さいことが知られている。従って、主成分数が5までの主成分ベクトルを用いて計測スペクトルDを再構成してやれば、元の計測スペクトルDとほぼ同じ計測スペクトルDを再構成することができる可能性がある。しかも、再構成した計測スペクトルDには、主成分数が6以降の主成分ベクトルは含まれないので、波長のシフトや反りによる影響は取り除かれている。加えて、計測スペクトルDの計測時に混入する誤差の影響も主成分数が大きな主成分ベクトルに現れるので、再構成した計測スペクトルDには計測時の誤差も取り除かれる。従って、主成分数が5までの主成分ベクトルを用いて元の計測スペクトルDとほぼ同じ計測スペクトルDを再構成することができるのであれば、波長のシフトや反りのある固体で得た計測スペクトルDを再構成することで、基準の固体で計測した計測スペクトルDに変換できる筈である。そこで、主成分数が5までの主成分ベクトルを用いて、元の計測スペクトルDとほぼ同じ計測スペクトルDを再構成することができるか否かを確認した。
図12は、反りの有る固体で得られた計測スペクトルDから、反りの影響を取り除いた計測スペクトルDを再構成した結果を示した説明図である。図12中に示した白丸は、基準の固体で計測した計測スペクトルDを表している。尚、図5を用いて前述したように、計測スペクトルDは、光強度に対応する出力値がバンド数mに相当する数だけ並んだデータである。このことと対応して、図12では、それぞれのバンド数mでの出力値が示されている。また、図12中に示した黒丸は、反りの有る固体で計測した計測スペクトルDを表している。
白丸のデータ(計測スペクトルD)と黒丸のデータとを比較すると、2つのデータの大まかな形状は似ているが、出力値が少しずつ異なっている。大まかな形状が似ているのは、主成分数が5までの主成分ベクトルが(主成分値も含めて)ほとんど一致していることに対応する。また、出力値が少しずつ異なるのは、主成分数が6以降の主成分ベクトルが違っていることに対応する。更に、図12中に示した白四角は、反りの有る固体で計測した計測スペクトルDを、主成分数が5までの主成分ベクトルによって再構成した計測スペクトルDを表している。図示されるように、再構成した計測スペクトルDを示す白四角は、基準の計測スペクトルDを示す白丸とほとんど一致している。
以上のことから、次のようなことが分かる。たとえ、基準の特性とは異なる特性の光学フィルター100を搭載した分光計測器10で計測した場合でも、得られた計測スペクトルDを上位の主成分数(図12に示した例では5)の主成分ベクトルを用いて再構成してやれば、基準の特性の光学フィルター100を搭載した分光計測器10で計測した場合とほとんど同じ計測スペクトルDを得ることができる。従って、分光計測器10で得られた計測スペクトルDにそのまま推定行列Msを適用するのではなく、再構成した計測スペクトルDに対して推定行列Msを適用してやれば、分光計測器10の個体差に影響されることなく、スペクトルSを精度良く推定することが可能となる筈である。また、主成分ベクトルは互いに直交しているから、「計測スペクトルDの上位の主成分ベクトルを用いて再構成する」という操作は、「計測スペクトルDを、上位の主成分ベクトルによって構成される線形空間に線形射影する」操作に他ならない。従って、上記の着想は、次のように言い換えることができる。すなわち、分光計測器10で得られた計測スペクトルDを、上位の主成分ベクトルで構成される線形空間に線形射影してから推定行列Msを適用すれば、分光計測器10の固体による影響を受けずにスペクトルSを推定可能となる筈である。これが、分光計測器10の固体による影響を受けずにスペクトルSを推定可能とする基本的な着想である。
また、推定行列Msを決定するために用いるスペクトルSや計測スペクトルDには、何某かの誤差が必ず混入している。すると、前述した方法(すなわち、図8(c)の評価関数F(Ms)=|S−Ms・D|が最小となるように推定行列Msを決定する方法)では、誤差を含むDから推定されるS(=Ms・D)を、誤差を含んで計測されたSに強引に合わせ込むような推定行列Msを決定することになる。この結果、推定行列Msを構成する各成分には、非常に大きな値と非常に小さな値とが混在するようになる。実際に、誤差を含んだ計測スペクトルDを用いて決定した推定行列Msには、このような現象が現れることが分かっている。
従って、スペクトルSや計測スペクトルDに必ず誤差が混入していることを前提にすれば、単純に、評価関数F(Ms)=|S−Ms・D|が最小となるようにするのではなく、推定行列Msを構成する各成分の分散も含めた新たな評価関数を考えて、その新たな評価関数が最小となるようにした方がよいと考えられる。
図13(a)には、推定行列Msの各成分の分散も含めた新たな評価関数H(Ms)が示されている。図示されるように新たな評価関数H(Ms)は、図8(c)に示した評価関数F(Ms)に、推定行列Msの各成分の分散に対応する第2項を加算した関数となっている。尚、「λ」は分散の影響をどの程度考慮するかを示すパラメーターである。
この評価関数H(Ms)が最小となるための必要条件は、評価関数H(Ms)を推定行列Msで偏微分した値が0となることであるから、図13(b)に示す式が成り立つ。そして、図13(b)を変形することによって、計測スペクトルDおよびスペクトルSから推定行列Msを求める計算式(図13(c)を参照)を得ることができる。従って、図13(c)の式を用いて推定行列Msを決定すれば、たとえ計測スペクトルDやスペクトルSに小さな誤差(ノイズ)が含まれていても、その影響が推定行列Msに現れることを抑制することができる。
以上のことから、分光計測器10の個体差に依存して発生し、ランダムノイズとは言えない一定の傾向を有する誤差については、前述したように上位の主成分ベクトルで構成される線形空間に線形射影することによって対策し、その上で、計測スペクトルDやスペクトルSに混入する計測誤差については、推定行列Msの分散の項を加えた評価関数G(Ms)を用いることによって対策する。こうすれば、分光計測器10の個体差の影響を受けず、計測スペクトルDやスペクトルSに混入する計測誤差の影響も受けずに、適切な推定行列Msを決定することが可能と考えられる。本実施例の分光計測器10では、このような着想に基づいて推定行列Msを決定する。
尚、推定行列Msを決定するための基本的な着想についての説明の最後に、計測スペクトルDを再構成する際に用いる主成分数の設定、およびλ(推定行列Msの分散を考慮する程度を示すパラメーター)の設定について補足して説明しておく。
上位の主成分ベクトルで構成される線形空間に線形射影して分光計測器10の個体差の影響を排除するという着想は、上位の複数個の主成分ベクトルによって、元の計測スペクトルDが有する情報を十分に表現できることが前提となっている。上位から多くの主成分ベクトルを用いるほど、元の計測スペクトルDが有する情報をより正確に表現することが可能となる。しかし、下位の主成分ベクトルには、分光計測器10の固体差の影響も多く含まれているので、下位の主成分ベクトルを用いるほど個体差の影響を受け易くなる。このことから、再構成に用いる主成分ベクトルの数は、幾つかの値で実際に再構成してみて、最も良い結果が得られる値を選択する。このとき、いわゆる累積寄与率を参考にすることができる。一般には、プリンターやディスプレーなどの再現色を測る場合は、再現に用いられている原色数よりも多い数が必要となることが多い。たとえば、ディスプレーなどでは経験的には4あるいは5の値を用いることが多く、プリンターなどでは原色数が4色〜12色まで様々な種類のプリンターがあるので、より多くの主成分ベクトルの数が必要となることが多い、また、自然界に存在している色であれば、6〜8程度の場合が多い。
また、λについても、試行錯誤によって適切な値を設定することになるが、経験的には、0.1〜5程度の値を用いることができる。尚、基準の特性を有する分光計測器10が、本発明における「基準の計測器」に対応する。また、計測スペクトルDを再構成する際に用いる主成分数が、本発明における「第3個数」に対応する。
図14は、本実施例の推定行列Msの決定方法を示した説明図である。本実施例の推定行列Msの決定方法では、基準の特性を有する分光計測器10を用いて、前述した学習用RGBデータの126色数分の計測スペクトルDを計測する。尚、以下では、基準の特性を有する分光計測器10で得られた計測スペクトルDを「基準の計測スペクトルDo」と称する。そして、色数分の計測スペクトルDoに対して主成分分析を行って、主成分ベクトルvoと、その主成分ベクトルvoに対する主成分値aoとを求める。ここで、主成分分析は、学習用RGBデータから得られた基準の計測スペクトルDoに対して行っている。しかし、基準の特性を有する分光計測器10で得られた計測スペクトルDの主成分ベクトルvoが分かれば十分なので、学習用RGBデータではないRGBデータから得られた基準の計測スペクトルDoに対して主成分分析を行うこともできる。もっとも、実際には、学習用RGBデータから得られた計測スペクトルDoを用いた方が良い結果を得ることができる。
計測スペクトルDoを主成分分析すると、計測スペクトルDoのバンド数mに相当する主成分数までの主成分ベクトルvoを求めることができる。また、主成分ベクトルvoに対する主成分値aoは、基準の計測スペクトルDoの数(色数)分だけ求められる。図14(a)には、このような、計測スペクトルDoと、主成分値aoおよび主成分ベクトルvoとの関係が、行列の形式で示されている。すなわち、前述した行列Do(バンド数m個の要素が色数n個だけ並んだ行列Donk)は、i個(最大でm個)分の主成分値aoが色数n個だけ並んだ行列aonj(以下では、行列aoと略記する)と、i個分の主成分ベクトルvoを表す行列vojm(以下では、行列voと略記する)とを乗算した行列となる。
次に、基準の分光計測器10とは異なる固体の分光計測器10を用いて、学習用RGBデータに対応する計測スペクトルDを計測する。この計測スペクトルDは、基準の分光計測器10に対する個体差の影響が含まれている。以下では、個体差の影響を含んだ計測スペクトルDを「計測スペクトルDn」と称する。続いて、この計測スペクトルDnを、基準の計測スペクトルDoから得られた主成分ベクトルvoを用いて表現する。この操作は、次のように考えればよい。先ず、計測スペクトルDnについても、複数の計測スペクトルDnを計測して主成分分析すれば、複数の主成分ベクトルを用いて表現することができる筈である。このことは、複数の主成分ベクトルが構成する線形空間の座標として計測スペクトルDnを表したことに相当する。そして、このような線形空間の座標として表現できるのであれば、線形射影を行うことによって、別の主成分ベクトル(基準の主成分ベクトルvo)が構成する線形空間の座標に変換することができる。
図14(b)には、個体差を含んだ計測スペクトルDnを、基準の主成分ベクトルvoを用いて表した式が、行列の形式で示されている。そして、基準の主成分ベクトルvoのうち、上位からj個までの主成分ベクトルvoを用いて計測スペクトルDを再構成してやれば、前述したように分光計測器10の個体差による影響や、計測時に混入した誤差を取り除いた計測スペクトルDを得ることができる。再構成に用いるj個の値は、予め適切な値(ここでは4)に決めておく。尚、以下では、上位からj個の主成分ベクトルvoを用いて再構成した計測スペクトルDを「計測スペクトルDp」と称する。この計測スペクトルDpが、本発明における「基準既知光計測スペクトル」に対応する。図14(c)には、上位からj個の主成分ベクトルvoを用いて再構成した計測スペクトルDpが、行列の形式で表されている。
あとは、図14(c)に示した式の単なる変形となる。すなわち、図14(b)に示した式から、行列ao=行列Dn・行列vo−1となる。ここで、行列aoは色数分の主成分値aoを表す行列であり、行列Dnは色数分の計測スペクトルDnを表す行列であり、行列voは上位からj個の主成分ベクトルvoを示す行列である。また、行列vo−1は行列voの逆行列を表す。従って、この行列aoを図14(c)に代入し、更に、行列voは直交行列であるから逆行列は転置行列と等しくなることを利用すると、補正後の(すなわち、分光計測器10の個体差や計測誤差の影響を含まない)計測スペクトルDpは、図14(d)に示した(1)式によって求めることができる。そして、この計測スペクトルDpを用いて推定行列Msを決定する。すなわち、前提技術の推定行列Msを求める図13(c)の式の計測スペクトルDを、補正後の計測スペクトルDpに変更する。こうすれば、図14(e)に示すように、新たな推定行列Msを決定することができる。このようにして決定した本実施例の推定行列Msを用いれば、計測スペクトルDに含まれる個体差や誤差の影響や、スペクトルSに含まれる誤差の影響を受けることなく、スペクトルSを精度良く推定することが可能となる。
このようにして得られた本実施例の推定行列MsによるスペクトルSの推定精度を確認するために、以下のような確認試験を行った。先ず、32色分のカラー画像データを用意して、カラーモニターに表示し、本実施例の方法によって推定行列Msを決定する。また、比較のために、本実施例の方法の前提となった方法(図8(e)によって推定行列Msを決定する方法)や、個体差の影響だけを排除する方法(図14(d)による計測スペクトルDpを図8(e)の式に適用して推定行列Msを決定する方法)によっても、それぞれ推定行列Msを決定した。尚、以下では、前提となった方法によって決定した推定行列Ms(図8(e)によって求めた推定行列Ms)を、「参考例1の推定行列Ms」と呼び、個体差の影響だけを排除して決定した推定行列Ms(図14(d)による計測スペクトルDpを図8(e)の式に適用して推定行列Ms)を、「参考例2の推定行列Ms」と呼ぶ。そして、その32色分のカラー画像を、2日間に亘って、34回(推定行列Msの決定時を含めれば35回)繰り返して計測し、マルチ分光測色計で得られた測色値と比較した。
図15は、32色の計測結果とマルチ分光測色計で得られた測色値との色差(ΔE94)を示した説明図である。図15(a)には、平均色差(ΔE94)が示されており、図15(b)には最大色差(ΔE94)が示されている。図中に示した白丸は、本実施例の推定行列Msによる測定結果を表しており、黒丸は参考例1の推定行列Ms(前提となった技術による推定行列Ms)による測定結果を、そして四角印は参考例2の推定行列Ms(前提となった技術による推定行列Ms)による測定結果を表している。また、上述したように2日間に亘って35回計測しているから、35回分の平均色差(ΔE94)および最大色差(ΔE94)が表示されている。
図15(a)から明らかなように、マルチ分光測色計で得られた測色値に対する平均色差(ΔE94)は、白丸で示した本実施例の推定行列Msによる測定結果は、黒丸で示した参考例1の推定行列Ms(前提となった技術による推定行列Ms)に対して大幅に改善されている。また、四角印で示した参考例2の推定行列Ms(図14(d)による計測スペクトルDpを図8(e)の式に適用して個体差の影響を排除して決定した推定行列Ms)に対しても、改善の程度は大きくはないが明らかに改善されている。尚、四角印で示した参考例2の推定行列Msでも、黒丸で示した参考例1の推定行列Msに対してかなりの改善効果が得られていることから、平均色差(ΔE94)の改善効果は、主成分ベクトルを用いて計測スペクトルDを再構成したことによる寄与が大きいものと考えられる。
また、マルチ分光測色計で得られた測色値との最大色差(ΔE94)については、図15(b)に示されるように、白丸で示した本実施例の推定行列Msを用いた場合は、黒丸で示した参考例1の推定行列Msを用いた場合に比べて、大幅に改善されている。また、四角印で示した参考例2の推定行列Msを用いた場合も、黒丸で示した参考例1の推定行列Msを用いた場合に比べて改善されている。しかし、白丸で示した本実施例の推定行列Msと比べれば、改善効果は十分ではない。従って、最大色差(ΔE94)の改善効果は、推定行列Msの分散を考慮して推定行列Msを決定したことによる寄与が大きいものと考えられる。
また、本実施例の推定行列Msによって得られたスペクトルSの波長毎の測定誤差も評価した。波長の測定誤差の評価には以下の計算式で算出した誤差率を使用し、推定行列Msの決定に用いた32色(学習色)を計測したときの誤差率の最大値と、学習色とは別に設定した130色(未学習色)を測定したときの誤差率の最大値とを評価した。
誤差率=100×(推定行列Msによる推定値とマルチ分光測色計による測色値との偏差)/スペクトルのレンジ幅
図16(a)には、32色の学習色に対する最大誤差率が示されており、図16(b)には、130色の未学習色に対する最大誤差率が示されている。学習色および未学習色の何れに対しても、最大誤差率は1%未満の小さな値に収まっている。
図17には、本実施例の推定行列Msによる最大色差(ΔE94)および最大誤差率の評価結果が示されている。図示されるように、本実施例の方法による推定行列Msでは、最大色差(ΔE94)および最大誤差率の何れも十分に小さな値となり、このことは、推定行列Msを決定するために用いた学習色に対してだけでなく、未学習色に対しても同様に成り立っている。従って、本実施例の方法を用いて推定行列Msを決定してやれば、高い再現性と計測精度とを有する分光計測器10を実現することが可能となる。
以上、本発明の分光計測器10、および分光計測方法について、各種の実施例を用いて説明したが、本発明は上記の実施例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。
たとえば、上述した各種実施例の光学フィルター100は、ファブリペロー型干渉系の干渉条件を変更することによって透過する光の波長を変更するフィルターであるものとして説明した。しかし、波長可変型の光学フィルター100であれば、このような形式のフィルターに限らず、どのような形式のフィルターであっても構わない。
10…分光計測器、 50…光学系、 52…入射側レンズ系、
54…出射側レンズ系、 60…検出部、 70…制御部、
80…ケース、 100…光学フィルター、 110…第1基板、
110AR…反射防止膜、 110HR…第1反射膜、 112…第1凹部、
114…第2凹部、 118…第1電極、 118a…駆動電極部、
118b…引出電極部、 120…第2基板、 120a…引出孔、
120b…引出孔、 120s…スリット、 120AR…反射防止膜、
120HR…第2反射膜、 122…可動部、 124…連結部、
126…周辺部、 128…第2電極、 128a…駆動電極部、
128b…引出電極部、 200…光源、 g1…ギャップ、
g2…ギャップ

Claims (3)

  1. 光を受光して、第1個数の所定の波長での光強度を表すスペクトルを計測する分光計測方法であって、
    受光した光を第2個数の所定の波長である計測波長の光に分光する分光工程と、
    前記第2個数の前記計測波長での光強度を検出することによって、前記第2個数の光強度を有する計測スペクトルを生成する計測スペクトル生成工程と、
    前記計測スペクトルを前記スペクトルに変換するための変換行列を決定する変換行列決定工程と、
    前記計測スペクトルに前記変換行列を作用させることによって、前記計測スペクトルを前記スペクトルに変換する計測スペクトル変換工程と、
    を備え、
    前記変換行列決定工程は、
    予め定められた基準の計測器から得られた前記計測スペクトルを主成分分析して、前記第2個数よりも少ない第3個数の主成分ベクトルを予め選択しておく工程と、
    前記スペクトルが既知の光である既知光についての前記計測スペクトルである既知光計測スペクトルを取得する工程と、
    前記既知光計測スペクトルを、前記第3個数の主成分ベクトルによって構成される線形空間に線形射影することによって、前記既知光計測スペクトルを基準既知光計測スペクトルに変換する工程と、
    前記基準既知光計測スペクトルに前記変換行列を作用させて得られた前記スペクトルである推定スペクトルと前記既知光スペクトルとの偏差と、前記変換行列を構成する各成分の分散との線形結合によって定義される評価関数が極値となる条件に基づいて前記変換行列を決定する工程と、
    を備えることを特徴とする分光計測方法。
  2. 第2個数の所定の波長で計測された光強度を表す計測スペクトルを、第1個数の所定の波長での光強度を表すスペクトルに変換する変換行列の生成方法であって、
    予め定められた基準の計測器から得られた前記計測スペクトルを主成分分析して、前記第2個数よりも少ない第3個数の主成分ベクトルを予め選択しておく工程と、
    前記スペクトルが既知の光である既知光についての前記計測スペクトルである既知光計測スペクトルを取得する工程と、
    前記既知光計測スペクトルを、前記第3個数の主成分ベクトルによって構成される線形空間に線形射影することによって、前記既知光計測スペクトルを基準既知光計測スペクトルに変換する工程と、
    前記既知光についての前記スペクトルである既知光スペクトルを取得する工程と、
    前記基準既知光計測スペクトルに前記変換行列を作用させて得られた前記スペクトルである推定スペクトルと前記既知光スペクトルとの偏差と、前記変換行列を構成する各成分の分散との線形結合によって定義される評価関数が極値となる条件に基づいて前記変換行列を決定する工程と、
    を備えることを特徴とする変換行列の生成方法。
  3. 光を受光すると、第1個数の所定の波長での光強度を表すスペクトルを出力する分光計測器であって、
    受光した光を第2個数の所定の波長である計測波長の光に分光する分光手段と、
    前記第2個数の前記計測波長での光強度を検出することによって、前記第2個数の光強度を有する計測スペクトルを生成する計測スペクトル生成手段と、
    前記計測スペクトルに所定の変換行列を作用させることによって、前記計測スペクトルを前記スペクトルに変換する計測スペクトル変換手段と、
    を備え、
    前記変換行列は、
    前記スペクトルが既知の光である既知光についての前記スペクトルである既知光スペクトルと、前記既知光についての前記計測スペクトルである既知光計測スペクトルとを取得して、
    予め定められた基準の計測器から得られた前記計測スペクトルの前記第2個数よりも少ない第3個数の主成分ベクトルが構成する線形空間に前記既知光計測スペクトルを線形射影することによって、該既知光計測スペクトルを基準既知光計測スペクトルに変換し、
    前記基準既知光計測スペクトルに前記変換行列を作用させて得られた前記スペクトルである推定スペクトルと前記既知光スペクトルとの偏差と、前記変換行列を構成する各成分の分散との線形結合によって定義される評価関数が極値となる条件に基づいて決定された行列である
    ことを特徴とする分光計測器。
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