JP2014034532A - Hsp90阻害剤と抗her2抗体の組み合わせ - Google Patents

Hsp90阻害剤と抗her2抗体の組み合わせ Download PDF

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Abstract

【課題】癌細胞の生存に大きく関与するHSP90を標的とするHSP90阻害剤と他の抗腫瘍剤との併用療法および治療効果増強剤の提供。
【解決手段】下記一般式(1)
Figure 2014034532

で表されるトリアゾール化合物(A)と、抗HER2抗体(B)を組み合わせた抗腫瘍剤。
【選択図】図1

Description

本発明はHSP90阻害活性を有するトリアゾール化合物と、抗HER2抗体を含む抗腫瘍剤に関する。また、前記HSP90阻害活性を有するトリアゾール化合物を含有することを特徴とする、抗HER2抗体の抗腫瘍効果増強剤、並びに抗HER2抗体の抗腫瘍効果を増強させる方法に関する。
悪性腫瘍疾患の治療のため、新たな抗腫瘍化学療法の開発が求められている。近年では、細胞増殖に関与するシグナル伝達に関わる増殖因子や増殖因子受容体、並びにシグナル伝達経路に関わるタンパク質等の各種機能性分子が認知されてきている。そこで、これらの機能性分子を標的として、その機能を抑制させることを作用機作とする分子標的抗腫瘍剤が開発されている。
熱ショックタンパク(Heat Shock Protein;HSP)は細胞内に存在する分子シャペロンであり、その分子量によってHSP90、HSP70、HSP60、HSP40、small HSPsなど、幾つかのファミリーに分類される機能性分子である。分子シャペロンとは、タンパク質の機能的高次構造の形成を促進するため、標的タンパク質と一時的に複合体を形成するタンパク質の総称である。すなわち、分子シャペロンは、タンパク質の折り畳みや会合を助け、凝集を抑止する活性を持つ。
HSP90は、細胞内の全可溶性タンパク質の1〜2%を占める豊富に存在する分子シャペロンであり、細胞質に一様に分布しており、主に二量体として存在する。HSP90は、ATPに依存して、変性又は折り畳み状態ではないタンパク質の折り畳みを行う機能を担う。HSP90は、細胞内のシグナル伝達系に関わる多様なタンパク質と相互作用することが知られている。すなわちHSP90は、多様な標的タンパク質の機能発現に必要な場合が多く、その作用機作は、HSP90が不安定な折り畳み状態にあるタンパク質を特異的に認識して、これと結合して複合体を形成する生化学的特性に基づいている。タンパク質の折り畳みにおけるHSP90単独の活性は弱く、同様の折り畳み活性を持つHSP70、p23など他の分子シャペロン(コシャペロン)と共同で機能している。
癌関連のシグナル伝達に関わる多様な標的タンパク質(ステロイドレセプター、Raf セリンキナーゼ、チロシンキナーゼ類)は、HSP90にその構造構築を依存している。したがって、HSP90が細胞周期の制御、細胞の癌化・増殖・生存シグナルに深く関与していることが明らかになっている。
ヒト腫瘍では多くのシグナル分子の調節が失われており、これらのシグナル分子の機能を維持するために、腫瘍はHSP90を必要としている(非特許文献1)。したがって、HSP90に作用して、その機能を阻害する化合物は、癌関連のシグナル伝達に関わる多様な標的タンパク質の分解を引き起こすことが分かっており、それに基づき癌細胞の増殖を抑制することが知られている。すなわちHSP90阻害剤は、標的タンパク質とHSP90を含むシャペロン複合体の構成を変化させ、該複合体から離脱した標的タンパク質を主にユビキチン・プロテアソ−ム系で分解させる。これにより、HSP90の標的タンパク質量が減少し、それに伴う下流へのシグナル伝達を遮断し、癌細胞の増殖を抑制することにより抗腫瘍効果をもたらす。
特に、癌化する過程では複数の遺伝子異常が蓄積されており、タンパク質の変異が生じている。すなわち癌細胞では、生成した変異タンパク質が多く、正常タンパク質からなる正常細胞と比較して、より多くのシャペロン活性を必要とする。このため、多くの癌細胞ではHSP90の発現量が増加していることが知られている。これらのことから、HSP90阻害剤は、正常細胞ではなく癌細胞に選択的に作用することが期待される。さらに癌細胞は、異常なタンパク質発現が認められる事に加え、低酸素状態、栄養飢餓状態に置かれており、一種のストレス状態下にあるため、HSP90によるシャペロン活性への依存度合いが高いことが考えられる。したがって癌細胞は、HSP90阻害剤に対する感受性が、正常細胞と比較して高いことが期待される。そこでHSP90を標的分子とするHSP90阻害剤の探索的研究、並びにその抗腫瘍効果の検証がなされている。
HSP90阻害剤の探索的研究として、特許文献1には、5−(2,4−ジヒドロキシフェニル)−[1,2,4]トリアゾール−3−オン誘導体が、HSP90阻害活性を備え、且つ癌細胞増殖阻害活性を兼ね備える化合物である事を記載している。該化合物は動物実験においても優れた抗腫瘍効果を示し、制癌剤として有望であることが報告されている。また、特許文献2または特許文献3でも、HSP90阻害活性を有するトリアゾール化合物を報告している。
悪性腫瘍疾患は薬物療法の医療満足度が十分でなく、治療効果を高める事を目的に複数の薬剤を組み合せて用いる併用化学療法が行なわれている。すなわち、抗腫瘍作用の作用機作や副作用の種類が異なる複数の薬剤を組み合わせた併用化学療法が開発されており、治療成績の向上に貢献している。特に近年では、細胞増殖に関与するシグナル伝達に関わる分子を標的とする分子標的抗腫瘍剤が開発され、臨床に供されている。したがって、これら分子標的抗腫瘍剤を用い、更により治療効果の高い併用療法の確立が希求されている。
HSP90阻害剤においても、抗腫瘍効果向上や薬剤耐性腫瘍に対する感受性向上を目的に、他の抗腫瘍剤との併用療法が試みられている(非特許文献2)。HSP90阻害剤は、HSP90と標的タンパク質との複合体形成機能を阻害する事により、癌細胞増殖阻害作用を発揮する。したがって、その標的タンパク質(クライアントタンパク質)の機能阻害を作用機構とする抗腫瘍剤とHSP90阻害剤との併用は、抗腫瘍効果の増強が期待される。HSP90のクライアントタンパク質に、ヒト上皮細胞増殖因子受容体2型(Human Epidermal Growth Factor Receptor Type2;HER2)があり、HSP90阻害と共に、HER2の機能抑制をする事により相乗的な癌細胞増殖抑制効果が期待される。
HER2は、分子量185kDaの細胞膜タンパク質であり、同種または他の上皮細胞増殖因子受容体(EGFR)と二量体を形成することにより、EGF、ニューレグリンなどの増殖因子に対する機能的受容体分子を形成する。HER2は乳癌、胃癌、卵巣癌等の一部において癌細胞表面上に過剰発現していることが知られている。したがって、癌細胞表面上のHER2タンパクの過剰発現が、癌細胞の増殖促進に関与していると考えられている。実際、癌組織におけるHER2タンパクの過剰発現は、乳癌患者の無病期間の短縮、術後再発率等の予後不良性と相関している。
抗HER2抗体としてトラスツズマブ(Trastuzumab)が知られている。トラスツズマブは、アミノ酸214個の軽鎖2分子とアミノ酸449個の重鎖2分子の分子量148kDaの糖タンパク質からなる、抗HER2ヒト化マウスモノクローナル抗体である。トラスツズマブは、HER2タンパクの細胞外領域に特異的に結合する性質を有し、腫瘍組織においてナチュラルキラー細胞及び単球を作用細胞とした抗体依存性細胞障害作用を惹起すること、及び直接的細胞増殖抑制作用により腫瘍の増殖を抑制する。トラスツズマブは、HER2過剰発現した乳癌または胃癌を適用症とする抗腫瘍剤として、臨床にて用いられている。
HSP90阻害剤と抗HER2抗体であるトラスツズマブとの併用療法の報告がなされている。非特許文献3には、HSP90阻害剤としてゲルダナマイシン誘導体であるタネスピマイシン(Tanespimycin;17−AAG,KOS−953)とトラスツズマブとの併用第1相臨床試験の報告がされている。また非特許文献4には、ゲルダナマイシン誘導体IPI−504とトラスツズマブとの併用療法の基礎研究が報告されている。また特許文献4に、HSP90阻害活性を有するオキサゾール化合物とトラスツズマブとの併用使用について記載されている。しかしながら、HSP90活性を有するトリアゾール誘導体と抗HER2抗体との併用療法の報告はなされていない。
Hsp90 inhibitors as novel cancer chemotherapeutic agents. Trends in Molecular Medicine.2002, 8:4(Suppl.),S55−61. Hsp90 inhibitors and drug resistance in cancer:The potential benefits of combination therapies of Hsp90 inhibitors and other anti−cancer drugs. Biochemical Pharmacology 2012,83:8, 995−1004. Combination of Trastuzumab and Tanespimycin(17−AAG,KOS−953) is safe and active in Trastuzumab−refractory HER2−overexpressing breast cancer:A Phase I dose−escalation study.Journal of Clinical Oncology.2007,25:34,5410−5417. Antitumor efficacy of IPI−504,a selective heat shock protein 90 inhibitor against human epidermal growth factor receptor2−positive human xenograft models as a single agent and in combination with trastuzumab or lapatinib.Molecuar Cancer Therapeutics.2009,8:8,2131−2141.
国際公開WO2006/095783号 国際公開WO2009/023211号 国際公開WO2007/134678号 特表2012−510443号公報
癌細胞の生存にHSP90が依存することから、HSP90を標的分子とする抗腫瘍剤の開発が進められている。本発明の目的は、このHSP90阻害剤を用いたより治療効果の高い薬物療法として、他の抗腫瘍剤との併用療法を提供することである。すなわちHSP90阻害剤として、5−(2,4−ジヒドロキシフェニル)−[1,2,4]トリアゾール−3−オン誘導体と他の抗腫瘍剤による、優れた治療効果を発揮する併用療法を提供する事を課題とする。
また、別の観点によると、5−(2,4−ジヒドロキシフェニル)−[1,2,4]トリアゾール−3−オン誘導体が、既存の抗腫瘍剤の治療効果増強作用を発揮し、既存の抗腫瘍剤の抗腫瘍効果増強剤としての用途を提供する事にある。
更に別の観点では、悪性腫瘍治療のための抗HER2抗体療法において、更に治療効果を高める併用療法を提供する事を課題とする。
本発明者らは鋭意検討の結果、一般式(1)で示される5−(2,4−ジヒドロキシフェニル)−[1,2,4]トリアゾール−3−オン誘導体と抗HER2抗体の組み合せが、それぞれの単独使用による抗腫瘍効果と比較し、顕著に優れた抗腫瘍効果を発揮する事を見出した。すなわち、本発明は、以下の構成を要旨とする。
(1)下記一般式(1)
Figure 2014034532
[式中、Xは直鎖状または分岐状の炭素数1〜8のアルキル基、炭素数2〜10のアルキニル基、またはハロゲン原子を示し、Yは硫黄原子または酸素原子を示し、mは0〜4の整数を示し、Aは置換基を有するアミノ基を示す]で表されるトリアゾール化合物(A)と、抗HER2抗体(B)を組み合わせた抗腫瘍剤。
(2)別の観点によると、下記一般式(1)
Figure 2014034532
[式中、Xは直鎖状または分岐状の炭素数1〜8のアルキル基、炭素数2〜10のアルキニル基、またはハロゲン原子を示し、Yは硫黄原子または酸素原子を示し、mは0〜4の整数を示し、Aは置換基を有するアミノ基を示す]で表されるトリアゾール化合物(A)を有効成分として含有する事を特徴とする、抗HER2抗体の抗腫瘍効果を増強させる抗腫瘍効果増強剤。
(3)また、癌治療における抗HER2抗体の投与において、下記一般式(1)
Figure 2014034532
[式中、Xは直鎖状または分岐状の炭素数1〜8のアルキル基、炭素数2〜10のアルキニル基、またはハロゲン原子を示し、Yは硫黄原子または酸素原子を示し、mは0〜4の整数を示し、Aは置換基を有するアミノ基を示す]で表されるトリアゾール化合物(A)を併用で投与する事を特徴とする、前記抗HER2抗体の抗腫瘍効果を増強させる方法、を包含する。
本発明によると、5−(2,4−ジヒドロキシフェニル)−[1,2,4]トリアゾール−3−オン誘導体と抗HER2抗体を組み合せて使用する事により、治療効果が向上した抗腫瘍薬物療法を提供する事ができる。また、従来臨床治療に用いられている抗HER2抗体療法に、前記トリアゾール誘導体を適用する事により、抗HER2抗体の抗腫瘍効果を増強し、治療効果を向上させることができる。
したがって従来方法による抗腫瘍効果の更なる向上が達成できると共に、抗HER2抗体に対する感受性が低下した悪性腫瘍に対して、十分な腫瘍増殖抑制作用をもたらし治療効果を維持する事ができる。
更に、それぞれ抗腫瘍剤の単独使用と同程度の抗腫瘍効果を得る場合において、各々の抗腫瘍剤の用量を相対的に減量することができ、望ましくない薬理作用の発現を抗腫瘍効果に悪影響を及ぼすことなく軽減する事ができる。
ヒト乳癌細胞MC−19−JCKの皮下移植マウスを用いた、トラスツズマブ(B−1)、トリアゾール化合物(A−1)、及び比較HSP90阻害剤(D)の各単剤療法、並びに、トラスツズマブ(B−1)とトリアゾール化合物(A−1)の併用療法、及びトラスツズマブ(B−1)と比較HSP90阻害剤(D)の併用療法の抗腫瘍効果を示す図である。 ヒト乳癌細胞BT−474の皮下移植マウスを用いた、トラスツズマブ(B−1)、トリアゾール化合物(A−1)、及び比較HSP90阻害剤(D)の各単剤療法、並びに、トラスツズマブ(B−1)とトリアゾール化合物(A−1)の併用療法、及びトラスツズマブ(B−1)と比較HSP90阻害剤(D)の併用療法の抗腫瘍効果を示す図である。
本発明は、一般式(1)で示されるトリアゾール化合物と、抗HER2抗体を組み合せて用いることを特徴とする。以下にその詳細について説明する。
本発明において、HSP90阻害活性を有するトリアゾール化合物(A)は、前記一般式(1)で示されるトリアゾール化合物である。すなわち、該トリアゾール環において、Y基の置換位置を3位とし、A基を有するフェニル基の置換位置を4位とし、X基を有する2,4−ジヒドロキシフェニル基の置換位置を5位とする[1,2,4]トリアゾール誘導体である。
前記一般式(1)で表されるトリアゾール化合物は、ケト−エノール互変異性体が存在し、下記一般式(1K)で示されるケト型異性体構造を取り得る。すなわち本発明において、前記(1)及び(1K)は同一化合物であり、本発明に係るトリアゾール化合物(A)は、一般式(1K)で示される化合物も包含するものである。
Figure 2014034532
一般式(1)のXは、置換基を有していてもよい直鎖状または分岐状の炭素数1〜8のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜10のアルキニル基、またはハロゲン原子である。以下にXの説明をする。
一般式(1)におけるXとして、直鎖状または分岐状の炭素数1〜8のアルキル基が挙げられる。該アルキル基として好ましくは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、2,2−ジメチルプロピル基、n−へキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、シクロヘキシルメチル基、n−オクチル基、シクロヘキシルエチル基、等を挙げることができる。
該アルキル基は置換基を有しても良い。置換基を有する場合の置換基としては、例えば、メルカプト基、水酸基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、炭素環または複素環アリール基、炭素数1〜4アルキルチオ基、アリールチオ基、炭素数1〜4アルコキシ基、アリールオキシ基、脂肪族又は芳香族アミノ基、アシル基、カルボキシル基、等を挙げることができる。Xとして置換基を有する該アルキル基の例としては、2,2,2−トリクロロエチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、トリフルオロメチル−2,2,2−トリフルオロエチル基、N,N−ジメチルアミノメチル基、N,N−ジメチルアミノエチル基、モルホリニルメチル基、ピペリジニルメチル基、ヒドロキシメチル基、1−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシエチル基、1−ヒドロキシ−1−メチル−エチル基、メトキシエチル基、メトキシメチル基、ベンジル基、2−フェニルエチル基、ピリジルメチル基、等を挙げることができる。
Xにおける直鎖状または分岐状の炭素数1〜8アルキル基としては、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、2,2−ジメチルプロピル基が好ましく、イソプロピル基が特に好ましい。
一般式(1)のXとして、炭素数2〜10のアルキニル基が挙げられる。該アルキニル基は、1−アルキニル基または2−アルキニル基である。該アルキニル基としては置換基を有していても良い。置換基を有する場合の置換基としては、ハロゲン原子、炭素環または複素環アリール基、炭素数1〜4アルキルオキシ基、炭素数1〜4アルキルチオ基、脂肪族又は芳香族アミノ基、アシル基、アルキルシリル基、等が挙げられる。好ましい1−アルキニル基としてはエチニル基、3,3−ジメチルブタ−1−イニル基、2−フェニル−エチニル基、2−トリメチルシリル−1−エチニル基、等が挙げられる。2−アルキニル基としては、例えばプロパ−2−イニル基、ブタ−2−イニル基、3−フェニルプロパ−2−イニル基、4,4−ジメチルペンタ−2−イニル基、3−トリメチルシリルプロパ−2−イニル基、等が挙げられる。炭素数2〜10の2−アルキニル基が好ましく、プロパ−2−イニル基またはブタ−2−イニル基が特に好ましい。
一般式(1)のXとして、ハロゲン原子が挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子を示す。ハロゲン原子としては、臭素原子が好ましい。
一般式(1)のXとして、炭素数1〜8の直鎖状または分岐状のアルキル基、または炭素数2〜10の2−アルキニル基が好ましい。置換基Xとして特に好ましくは、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、プロパ−2−イニル基またはブタ−2−イニル基である。
一般式(1)において、Aは置換基を有するアミノ基を表す。Aにおける置換基を有するアミノ基としては、脂肪族1級アミノ基または脂肪族2級アミノ基が挙げられる。
脂肪族1級アミノ基としては、炭素数1〜8の直鎖状、分岐状または環状アルキル基を有するN−アルキルアミノ基を挙げることができる。例えばメチルアミノ基、イソプロピルアミノ基、n−ブチルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基、等が挙げられる。脂肪族2級アミノ基としては、炭素数1〜8の直鎖状、分岐状または環状アルキル基を有するN,N−ジアルキルアミノ基、若しくは環状の2級アミノ基が挙げられる。N,N−ジアルキルアミノ基としては、例えばジメチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、N−メチル−N−ブチルアミノ基、N−メチル−N−シクロヘキシルアミノ基、N,N−ジシクロヘキシルアミノ基、等が挙げられる。脂肪族の環状の2級アミノ基としては、モルホリノ基、4−メチルピペラジン−1−イル基、ピペリジン−1−イル基、ピロリジン−1−イル基、等が挙げられる。Aで表される脂肪族アミノ基としては、脂肪族の環状の2級アミノ基が好ましく、モルホリノ基、4−メチルピペラジン−1−イル基、ピペリジン−1−イル基、ピロリジン−1−イル基が好ましい。中でもモルホリノ基または4−メチルピペラジン−1−イル基が特に好ましい。
一般式(1)において、mは0乃至4の整数を表す。中でもmは0または1が好ましい。
すなわち一般式(1)における−(CH−A基としては、mが0または1であり、Aが脂肪族の環状の2級アミノ基が好ましく、モルホリノ基、メチル−モルホリノ基、4−メチルピペラジン−1−イル基、メチル−4−メチルピペラジン−1−イル基、ピペリジン−1−イル基、メチル−ピペリジン−1−イル基、ピロリジン−1−イル基、メチル−ピロリジン−1−イル基が特に好ましい。
本発明における前記トリアゾール化合物(A)として、特に好ましい例を以下に挙げる。
5−(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−4−[4−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−フェニル]−2,4−ジヒドロ−[1,2,4]トリアゾール−3−オン;(A−1)、
4−イソプロピル−6−{5−メルカプト−4−[4−(モルホリン−4−イル)−フェニル]−4H−[1,2,4]トリアゾール−3−イル}−ベンゼン−1,3−ジオール;(A−2)、
4−イソプロピル−6−{5−メルカプト−4−[4−(モルホリン−4−イルメチル)−フェニル]−4H−[1,2,4]トリアゾール−3−イル}−ベンゼン−1,3−ジオール;(A−3)、
4−{5−ヒドロキシ−4−[4−(モルホリン−4−イル)−フェニル]−4H−[1,2,4]トリアゾール−3−イル}−6−イソプロピル−ベンゼン−1,3−ジオール;(A−4)、
4−{5−ヒドロキシ−4−[4−(モルホリン−4−イルメチル)−フェニル]−4H−[1,2,4]トリアゾール−3−イル}−6−イソプロピル−ベンゼン−1,3−ジオール;(A−5)、
5−[5−(ブチン−2−イル)−2,4−ジヒドロキシ−フェニル]−4−[4−(モルホリン−4−イルメチル)−フェニル]−2,4−ジヒドロ−[1,2,4]トリアゾール−3−オン;(A−6)、
4−(ブチン−2−イル)−6−{5−メルカプト−4−[4−(モルホリン−4−イルメチル)−フェニル]−4H−[1,2,4]トリアゾール−3−イル]−ベンゼン−1,3−ジオール;(A−7)、
4−ブロモ−6−{5−メルカプト−4−[4−(モルホリン−4−イル)−フェニル]−4H−[1,2,4]トリアゾール−3−イル}−ベンゼン−1,3−ジオール;(A−8)、
5−[2,4−ジヒドロキシ−5−(プロピン−2−ニル)−フェニル]−4−[4−(モルホリン−4−イルメチル)−フェニル]−2,4−ジヒドロ−[1,2,4]トリアゾール−3−オン;(A−9)
本発明の一般式(1)に係るトリアゾール化合物(A)は、公知の製造方法により製造する事ができる。例えば、国際公開WO2006/095783号に開示される製造方法に従い、合成することができる。例えば、上記5−(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−4−[4−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−フェニル]−2,4−ジヒドロ−[1,2,4]トリアゾール−3−オン;(A−1)は、前記特許文献の実施例2−5にて製造方法が開示されており、その記載の方法に従い合成することができる。その他の誘導体も前述の先行技術文献に開示の方法に従い調製できる。
本発明の前記トリアゾール化合物(A)は酸又は塩基と塩を形成する場合もあり、一般式(1)で表される化合物の塩を用いても良い。酸との塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩等の無機酸塩や、トリフロロ酢酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸との塩を挙げることができる。塩基との塩としては、例えばナトリウム塩等を挙げることができる。これらの塩は、定法によって製造することができる。
本発明の前記トリアゾール化合物(A)は、薬理活性有効成分をそのまま用いても良く、製剤基剤と併せて注射剤、点滴剤、錠剤、カプセル剤、散剤等の通常使用されている製剤を調製して使用して良い。製剤化に当たり、製剤基剤として通常使用されている薬学的に許容される担体、例えば結合剤、滑沢剤、崩壊剤、溶剤、賦形剤、可溶化剤、分散剤、安定化剤、懸濁化剤、保存剤、無痛化剤、色素、香料が使用できる。該トリアゾール化合物(A)は、上記医薬製剤化され、経静脈投与、経動脈投与、皮下投与、経口投与、経粘膜投与、等の周知の投与経路にて投与する事ができる。
次に本発明における抗HER2抗体(B)について説明する。本発明で用いる抗HER2抗体は、HER2タンパクの細胞外領域に特異的に結合する性質を有し、腫瘍組織においてナチュラルキラー細胞及び単球を作用細胞とした抗体依存性細胞障害作用を惹起すること、及び直接的細胞増殖抑制作用により腫瘍の増殖を抑制する作用を有するモノクローナル抗体を用いる。該モノクローナル抗体は、HER2の細胞外領域を抗原認識する公知の方法により入手する事ができる。一般的には、マウス由来細胞を用いて抗体作成することが知られており、マウス抗体として作成することができる。該モノクローナル抗体をヒトの悪性治療に用いる場合は、抗原性を抑える必要があることから、該抗体をヒト型モノクローナル抗体またはヒト化モノクローナル抗体とする事が好ましい。特に、該モノクローナル抗体の構成アミノ酸において、ヒト由来の構成を高くすることが好ましい事から、ヒト化モノクローナル抗体とすることが望ましい。ヒト化モノクローナル抗体は、該マウス抗体の抗原相補鎖決定領域(complementarity determining region;CDR)のアミノ酸配列を、ヒト抗体分子(例えばIgG等)の相当部分に遺伝子工学的に移植して、ヒト化抗HER2モノクローナル抗体を作成することができる。
本発明における好ましいヒト化抗HER2抗体は、特に限定されるものではないが、トラスツズマブ(trastuzumab)、ペルツズマブ(pertuzumab)、等を挙げる事ができる。また、該ヒト化抗HER2抗体に薬剤を結合させた抗HER2抗体−薬剤コンジュゲート(Antibody−drug conjugate;ADC)も含まれる。本発明の抗HER2抗体としては、トラスツズマブ、ペルツズマブが好ましく、トラスツズマブが特に好ましい。
トラスツズマブ(trastuzumab)は、アミノ酸214個の軽鎖2分子と、アミノ酸449個の重鎖2分子の分子量148kDaの糖タンパク質からなる抗HER2ヒト化モノクローナル抗体である。トラスツズマブは、HER2過剰発現した乳癌または胃癌を適用症とする抗腫瘍剤として、臨床にて用いられており、ハーセプチン(登録商標)として入手可能である。ハーセプチン(登録商標)はトラスツズマブと製剤添加剤を含む凍結乾燥製剤として提供されており、注射用水等の適当な溶解液にて溶液調製し、点滴にて静脈内投与に供される。本発明における抗HER2抗体(B)として、市場流通品であるハーセプチン(登録商標)を用いても良い。
本発明に係る、前記HSP90阻害作用を有するトリアゾール化合物(A)と、抗HER2抗体(B)を組み合わせた抗腫瘍剤とは、該トリアゾール化合物(A)と抗HER2抗体(B)を1人の患者に対して投与される使用態様を含む抗腫瘍剤を表すものである。つまり、該トリアゾール化合物(A)と抗HER2抗体(B)を、悪性腫瘍疾患患者に対して併用で処理することを意図するものである。すなわち1人の患者に、該トリアゾール化合物(A)と抗HER2抗体(B)を同時に、または逐次に、または前後して個別に投与することを含む抗腫瘍剤を指す。したがって、該トリアゾール化合物(A)と抗HER2抗体(B)を含む抗腫瘍剤の態様として、特に限定されるものではなく、これらが併用で投与できる状態であれば良い。例えば、該トリアゾール化合物(A)と抗HER2抗体(B)が別個の製剤であって良い。また該トリアゾール化合物(A)と該抗HER2抗体(B)を混合して、一体に調製された医薬製剤であっても良い。また別の態様として、該トリアゾール化合物(A)を含む製剤型、及び抗HER2抗体(B)を含む製剤型を備え、これらを併用使用することを企図したキットであって良い。また、該トリアゾール化合物(A)を含む製剤型、及び抗HER2抗体(B)を含む製剤型、並びに前記2つの製剤型を含有する容器を含むキットの態様を挙げる事ができる。
本発明において、該トリアゾール化合物(A)と抗HER2抗体(B)は同時投与して用いて良く、該トリアゾール化合物(A)を投与した後、抗HER2抗体(B)を投与しても、その逆であっても良い。該トリアゾール化合物(A)及び抗HER2抗体(B)の前記投与とは、それぞれの薬剤について、単回投与、間歇投与、連日投与、等の医薬品で容認される一般的な投与方法を含むものである。
本発明において、該トリアゾール化合物(A)及び抗HER2抗体(B)のそれぞれの投与量は、適切な臨床試験により抗腫瘍効果と副作用を確認しつつ決められるべきである。好ましくは、抗HER2抗体を至適許容投与量にて、間歇的に投与する設定にて、該トリアゾール化合物(A)を適宜に増量する臨床試験により、該トリアゾール化合物(A)と抗HER2抗体(B)のそれぞれの投与量設定をすることができる。しかしながら本発明は、抗HER2抗体の抗腫瘍効果の増強を達し得ることから、抗HER2抗体の減量を可能とするものである。したがって、抗HER2抗体の至適投与量は適宜増減されるべきである。これらの投与量設定方法は、当業者には自明の試験方法であり、適切な臨床試験方法に基づき、その結果によって直接決定することが出来る。
なお、動物を用いた基礎的抗腫瘍試験結果に基づくと、該トリアゾール化合物(A)の1回当たりの投与量は0.1〜1000mgで用いる事が好ましい。一方、抗HER2抗体の1回当たりの投与量は、公知の薬理活性結果に基づき1〜1000mgで用いる事が好ましく、これらを適宜組み合せて用いることができる。臨床において抗HER2抗体であるハーセプチン(登録商標)は、成人に対して初回投与時に4mg/kg(体重)を点滴静脈内投与し、その後、1週間間隔で2mg/kg(体重)を点滴静脈内投与する用法用量で使用されている。若しくは、初回投与時に8mg/kg(体重)を点滴静脈内投与し、その後、3週間間隔で6mg/kg(体重)を点滴静脈内投与する用法用量で使用されている。本発明において、抗HER2抗体(B)は、臨床推奨投与用量で用いる事が好ましく、推奨投与用量を基準に適宜、増減用量して用いることが好ましい。
本発明の抗腫瘍剤は悪性腫瘍疾患の治療に用いられる。本発明による治療に適用される悪性腫瘍は、特に限定されるものではなく、乳癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、直腸結腸癌、非ホジキンリンパ腫(NHL)、腎細胞癌、前立腺癌、肝細胞癌、胃癌、膵臓癌、軟部組織肉腫、カポジ肉腫、カルチノイド癌腫、頭部及び頸部の癌、メラノーマ、卵巣癌、胆管癌、中皮腫、及び多発性骨髄腫、等広く一般の癌治療に適用することができる。特に、HER2を含めたEGFRの異常発現や活性化が増殖要因として寄与している悪性腫瘍の治療に適する。すなわち、EGFRの過剰発現や変異型EGFRの過剰発現が認められる癌種であり、乳癌、非小細胞肺癌、小細胞癌、膀胱癌、脳腫瘍、頭頸部癌、胃癌、膵臓癌、肝細胞癌、胆管癌、直腸結腸癌、中皮腫、及び多発性骨髄腫に対する治療に適する。特に、乳癌、胃癌、扁平上皮癌でHER2を含めたEGFR多くの変異が認められており、乳癌、胃癌、非小細胞肺癌の治療において本発明の抗腫瘍剤を適用することができる。また、ハーセプチンに対する感受性が低下した乳癌、胃癌に対しても適用することができる。
本発明の該トリアゾール化合物(A)と抗HER2抗体(B)を含有する抗腫瘍剤は、更に他の抗腫瘍剤を組み合せて用いる事もできる。他の抗腫瘍剤は特に限定されるものではなく、抗腫瘍剤として認可されている医薬品を用いる事ができる。すなわち、シクロホスファミド、イホスファミド、マイトマイシンC等のアルキル化剤、シスプラチン、カルボプラチン、オギザリプラチン等の白金錯体、ドキソルビシン、エピルビシン、ピラルビシン、アムルビシン等のアントラサイクリン系抗腫瘍剤、エトポシド、エトポシドホスフェート、テニポシド等のエトポシド類、イリノテカン、ノギテカン等のカンプトテシン類、パクリタキセル、ドセタキセル等のタキサン類、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、ビノレルビン等のビンカアルカロイド類、5―フルオロウラシル、テガフール、テガフール・ウラシル合剤(UFT)、テガフール・ギメラシル・オテラシルカルシウム合剤(S−1)、フルツロン、カペシタビン、ゲムシタビン、シトシンアラビノシド等の核酸代謝拮抗剤、メトトレキサート、ペメトレキセド等の葉酸代謝拮抗剤、プレドニゾロン、デキサメタゾン等のステロイド類、ベバシズマブ等の抗VEGF抗体、エルロチニブ、ラパチニブ、ゲフィチニブ等のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤、を用いることができる。
本発明の特に好ましいトリアゾール化合物(A)と抗HER2抗体(B)の組み合わせ例を挙げる。
該トリアゾール化合物(A)は、5−(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−4−[4−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−フェニル]−2,4−ジヒドロ−[1,2,4]トリアゾール−3−オン;(A−1)を用いる事が好ましいく、前記(A−1)と抗HER2抗体(B)の組み合わせは、乳癌、胃癌、非小細胞肺癌の治療において有効である。すなわち、該(A−1)と抗HER2抗体(B)の各有効用量を投与する事を含む乳癌、胃癌、または非小細胞肺癌の治療方法を提供する事ができる。
また、抗HER2抗体(B)はトラスツズマブ(B−1)が好ましい。したがって、前記(A−1)とトラスツズマブ(B−1)の組み合わせは、乳癌、胃癌、非小細胞肺癌の治療において有効である。すなわち、該(A−1)とトラスツズマブ(B−1)の各有効用量を投与する事を含む乳癌、胃癌、または非小細胞肺癌の治療方法を提供する事ができる。
本願は、抗HER2抗体を用いる癌治療において、前記トリアゾール化合物(A)が抗HER2抗体の抗腫瘍効果を増強する作用を示す事を見出したことに基づき、該トリアゾール化合物(A)が抗HER2抗体の抗腫瘍効果増強剤とする新たな用途発明を開示するものである。
また、本願の更に別の観点では、前記トリアゾール化合物(A)を抗HER2抗体と併用で投与する事による、抗HER2抗体の抗腫瘍効果を増強する方法を開示するものである。
抗HER2抗体の抗腫瘍効果増強を目的に、該トリアゾール化合物(A)を用いるためには、抗HER2抗体の至適許容投与量で単回または間歇的に投与する設定にて、該トリアゾール化合物(A)の至適用量を単回、間歇、または連日投与をする事により達成される。該トリアゾール化合物(A)の成人に対する1回当たりの投与量は0.1〜1000mgで用いる事が好ましい。これを単回投与、若しくは間歇的に投与する事が好ましい。
抗HER2抗体の1回当たりの投与量は、公知の薬理活性結果に基づき1〜1000mgで用いる事が好ましく、これらを適宜組み合せて用いることができる。臨床使用において、抗HER2抗体としてはトラスツズマブ製剤であるハーセプチン(登録商標)が用いられており、成人に対して初回投与時に4mg/kg(体重)を点滴静脈内投与し、その後、1週間間隔で2mg/kg(体重)を点滴静脈内投与する用法用量で使用されている。若しくは、初回投与時に8mg/kg(体重)を点滴静脈内投与し、その後、3週間間隔で6mg/kg(体重)を点滴静脈内投与する用法用量で使用されている。本発明において、抗HER2抗体は臨床推奨投与用量で用いる事が好ましく、推奨投与用量を基準に適宜、増減用量して用いることが好ましい。
すなわち本発明によると、抗HER2抗体による悪性腫瘍治療において、該トリアゾール化合物(A)を併せて使用する事により、抗腫瘍効果の増強作用が発揮され、より高い治療効果を達成できる。若しくは、抗HER2抗体に対する薬剤感受性が低下した悪性腫瘍に対しても、抗HER2抗体の薬剤治療に該トリアゾール化合物(A)を組み合わせることで薬剤感受性を回復させる事ができ、抗HER2抗体による薬物治療を長期に継続させることができる。更に、それぞれ抗腫瘍剤の単独使用と同程度の抗腫瘍効果を得る場合において、各々の抗腫瘍剤の用量を相対的に減量することができ、望ましくない薬理作用の発現を抗腫瘍効果に悪影響を及ぼすことなく軽減する事ができる。
本発明の一般式(1)で表されるトリアゾール化合物(A)と抗HER2抗体(B)を組み合せて用いる事の有用性を実施例にて説明する。
1.供試薬剤
本発明の一般式(1)で表されるトリアゾール化合物(A)として、5−(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−4−[4−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−フェニル]−2,4−ジヒドロ−[1,2,4]トリアゾール−3−オン;(A−1)を用いた。当該(A−1)は、国際公開WO2006/095783号の実施例2−5に開示される製造方法に従い合成した。また、比較例として既存のHSP90阻害剤である5−(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−4−(4−モルホリン−4−イルメチル−フェニル)−イソオキサゾール−3−カルボン酸エチルアミド(化合物D:NVP−AUY−922)を用いた。該比較HSP90阻害剤(化合物D)は、J.Med.Chem.,51(2),196−218(2008)に記載の方法に従い合成し、定法によりメタンスルホン酸塩を調製して試験に供した。抗HER2抗体(B)としてトラスツズマブ(B−1)を採用し、ハーセプチン(登録商標)をそのまま用いた。
トラスツズマブ(B)は日本薬局方生理食塩液に溶解して投与に供した。HSP90阻害剤であるトリアゾール(A−1)、及び比較HSP90阻害剤(化合物D;NVP−AUY−922)は日本薬局方ブドウ糖注射液に溶解して投与に供した。
2.移植腫瘍
ヒト乳癌細胞株であるMC−19−JCKは公益財団法人実験動物中央研究所より供与されたものを用いた。凍結保存していた腫瘍片を溶解し、スキッドマウス皮下に移植した。腫瘍が増殖したのち、腫瘍を取り出して腫瘍片を作成し、スキッドマウス皮下へ套管針を用いて移植した。同様の操作で移植を繰り返し、腫瘍を維持させ、移植腫瘍を調製した。
また、ヒト乳癌細胞株であるBT‐474(ATCCカタログナンバー、HTB−20)を、10μg/mLインシュリン、10%FBSを添加したRPMI1640メディウム中で増殖させた。増殖させたBT−474細胞は、1×10個程度をHBSSにて懸濁し、マトリゲル(日本BD社製)と混合してNOGマウスの皮下に注射した。細胞が腫瘍を形成したのち、腫瘍を取り出して腫瘍片を作成し、スキッドマウス皮下へ套管針を用いて移植した。同様の操作で移植を繰り返し、腫瘍を維持させ、移植腫瘍を調製した。
3.腫瘍皮下移植マウスによる抗腫瘍試験
スキッドマウスで継代維持したヒト乳癌腫瘍であるMC−19−JCKまたはBT−474を、各スキッドマウスの背側部皮下に套管針を用いて移植した。腫瘍体積が概ね100〜150mmに達したときに、供試薬剤の投与を開始した。腫瘍の計測は,投与開始日から観察期間終了まで週2回行い、腫瘍の長径(L)と短径(W)をノギスを用いて測定した。計測した腫瘍の長径と短径を用いて,腫瘍体積を式(L×W×1/2)から算出した。
[試験例1]
ヒト乳癌腫瘍MC−19−JCK皮下移植スキッドマウスをヒト乳癌異種移植片モデルとして用いて、本発明に係るトリアゾール化合物(A−1)とトラスツズマブ(B−1)を組み合わせた抗腫瘍効果を、トリアゾール化合物(A−1)、トラスツズマブ(B−1)、及び比較HSP90阻害剤(化合物D:NVP−AUY−922)の各単独投与、並びに比較HSP90阻害剤(D)とトラスツズマブ(B−1)の併用投与による抗腫瘍効果と比較した。
各薬剤の投与量及び用法は、トリアゾール化合物(A−1)はMC−19−JCK腫瘍に対して10mg/kg以上の投与量では単独投与で腫瘍退縮となり、併用効果比較が困難となるため、退縮効果とならない3mg/kgの用量で週1回を3回、尾静脈内に投与した。トラスツズマブ(B−1)は1mg/kgの用量で2回/週、3週間腹腔内に投与した。比較HSP90阻害剤(D)は、該トリアゾール化合物(A−1)と同等の抗腫瘍効果となる15mg/kgの用量で、週1回を3回、尾静脈内に投与した。併用投与は、本発明に係るトリアゾール化合物(A−1)とトラスツズマブ(B−1)の併用投与は、該トリアゾール化合物(A−1)を3mg/kgの用量で週1回を3回、尾静脈内に投与すると共に、トラスツズマブ(B−1)を1mg/kgの用量で2回/週、3週間腹腔内投与した。また、比較HSP90阻害剤(D)とトラスツズマブ(B−1)の併用投与は、該比較HSP90阻害剤(D)を15mg/kgの用量で週1回を3回、尾静脈内投与すると共に、トラスツズマブ(B−1)を1mg/kgの用量で2回/週、3週間腹腔内投与した。
各薬剤投与群(5群)に無投与群(コントロール群)を加えて、異種移植片モデル各群4匹にて抗腫瘍試験を行なった。投与開始から21日目における各群腫瘍体積を、無投与群の相対腫瘍体積を100とした相対腫瘍体積(T/C(%))を表1に示した。T/C(%)は、式(投与群相対腫瘍体積/無投与群相対腫瘍体積×100)により算出した。また、投与開始日の腫瘍体積を1とした相対腫瘍体積を算出した経時的腫瘍増殖曲線を図1に示した。
[表1]ヒト乳癌腫瘍MC−19−JCK皮下移植スキッドマウスによる抗腫瘍効果試験結果
Figure 2014034532
表1及び図1から明らかなように、投与開始後から21日目において、トラスツズマブ(B−1)は無投与群に対して53%の腫瘍増殖抑制をもたらした。トリアゾール化合物(A−1)の単独投与は47%の増殖抑制をもたらした。これに対し、該トリアゾール化合物(A−1)とトラスツズマブ(B−1)を組み合わせて投与すると、腫瘍増殖抑制作用が98%と強力に増強された抗腫瘍効果がもたらされた。一方、比較HSP90阻害剤(D)の単独投与は43%と該トリアゾール化合物(A−1)と同程度の増殖抑制を示した。これに対し、比較HSP90阻害剤(D)とトラスツズマブ(B−1)の併用投与は77%の増殖抑制作用を示し、本発明に係るトリアゾール化合物(A−1)とトラスツズマブ(B−1)の併用投与による抗腫瘍効果より劣る結果であった。したがって、本発明に係るトリアゾール化合物(A−1)とトラスツズマブ(B−1)の併用投与が、比較HSP90阻害剤(D)とトラスツズマブ(B−1)の併用投与と比較して、顕著に優れた抗腫瘍効果を奏する事が示された。
以上の結果から、本発明に係るトリアゾール化合物(A)と抗HER2抗体(B)を組み合わせて投与する薬物治療が、既存のHSP90阻害剤と抗HER2抗体の組み合わせよりも優れた抗腫瘍効果が得られることが明らかとなった。
[試験例2]
ヒト乳癌腫瘍BT−474皮下移植スキッドマウスをヒト乳癌異種移植片モデルとして用いて、本発明に係るトリアゾール化合物(A−1)とトラスツズマブ(B−1)を組み合わせた抗腫瘍効果を、トリアゾール化合物(A−1)、トラスツズマブ(B−1)及び比較HSP90阻害剤(化合物D:NVP−AUY−922)の各単独投与、並びに比較トHSP90阻害剤(D)とトラスツズマブ(B−1)の併用投与による抗腫瘍効果と比較した。
各薬剤の投与量及び用法は、トリアゾール化合物(A−1)はBT−474腫瘍に対し、10mg/kg以上の投与量では単独投与で腫瘍退縮となり、併用効果比較が困難となるため、退縮効果とならない3mg/kgの用量で週1回を3回、尾静脈内に投与した。トラスツズマブ(B−1)を5mg/kgの用量で2回/週、3週間腹腔内に投与した。比較HSP90阻害剤(D)は、該トリアゾール化合物(A−1)と単独投与で同等の効果となる15mg/kgの用量を、週1回を3回、尾静脈内に投与した。併用投与は、本発明に係るトリアゾール(A−1)とトラスツズマブ(B−1)の併用投与は、該トリアゾール化合物(A−1)を3mg/kgの用量で週1回を3回、尾静脈内に投与すると共に、トラスツズマブ(B−1)を5mg/kgの用量で2回/週、3週間腹腔内投与した。また、比較HSP90阻害剤(D)とトラスツズマブ(B−1)の併用投与は、該比較HSP90阻害剤(D)を15mg/kgの用量で週1回を3回、尾静脈内投与すると共に、トラスツズマブ(B−1)を5mg/kgの用量で2回/週、3週間腹腔内投与した。
各薬剤投与群(5群)に無投与群(コントロール群)を加えて、異種移植片モデル各群4匹にて抗腫瘍試験を行なった。投与開始から21日目における各群腫瘍体積を、無投与群の相対腫瘍体積を100とした相対腫瘍体積(T/C(%))を表1に示した。T/C(%)は、式(投与群相対腫瘍体積/無投与群相対腫瘍体積×100)により算出した。また、投与開始日の腫瘍体積を1とした相対腫瘍体積を算出した経時的腫瘍増殖曲線を図1に示した。
[表2]ヒト乳癌腫瘍BT−474皮下移植スキッドマウスによる抗腫瘍効果試験結果
Figure 2014034532
表2及び図2から明らかなように、投与開始後から21日目において、トラスツズマブ(B−1)は無投与群に対して57%の腫瘍増殖抑制をもたらした。トリアゾール化合物(A−1)の単独投与は54%の増殖抑制をもたらした。これに対し、該トリアゾール化合物(A−1)とトラスツズマブ(B−1)を組み合わせて投与すると、腫瘍増殖抑制作用が83%と強力に増強された抗腫瘍効果がもたらされた。一方、比較HSP90阻害剤(D)の単独投与は46%と、トリアゾール(A−1)と同程度の増殖抑制を示した。これに対し、該比較HSP90阻害剤(D)とトラスツズマブ(B−1)の併用投与は62%の増殖抑制作用を示し、本発明に係るトリアゾール化合物(A−1)とトラスツズマブ(B−1)の併用投与による抗腫瘍効果より劣る結果となった。本試験はトラスツズマブ低感受性腫瘍であるにも関わらず、トリアゾール化合物(A−1)をトラスツズマブ(B−1)に組み合わせることにより、十分な抗腫瘍効果を達成できた。したがって、本発明に係るトリアゾール化合物(A−1)とトラスツズマブ(B−1)の併用投与が、比較HSP90阻害剤とトラスツズマブの併用投与と比較して、顕著に優れた抗腫瘍効果を示す事が明らかとなった。
以上の結果から、本発明に係るトリアゾール化合物(A)と抗HER2抗体(B)を組み合わせて投与する薬物治療が、既存のHSP90阻害剤と抗HER2抗体(B)の組み合わせよりも優れた抗腫瘍効果が得られることが明らかとなった。

Claims (9)

  1. 一般式(1)
    Figure 2014034532
    [式中、Xは直鎖状または分岐状の炭素数1〜8のアルキル基、炭素数2〜10のアルキニル基、またはハロゲン原子を示し、Yは硫黄原子または酸素原子を示し、mは0〜4の整数を示し、Aは置換基を有するアミノ基を示す]で表されるトリアゾール化合物(A)と、抗HER2抗体(B)を組み合わせた抗腫瘍剤。
  2. 前記一般式(1)において、Xがエチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、2,2−ジメチルプロピル基、2−プロピニル基、2−ブチニル基、ハロゲン原子である請求項1に記載の抗腫瘍剤。
  3. 前記一般式(1)において、mが0または1であり、Aがモルホリノ基、4−メチルピペラジン−1−イル基、ピペリジン−1−イル基、ピロリジン−1−イル基である請求項1に記載の抗腫瘍剤。
  4. 一般式(1)
    Figure 2014034532
    [式中、Xは直鎖状または分岐状の炭素数1〜8のアルキル基、炭素数2〜10のアルキニル基、またはハロゲン原子を示し、Yは硫黄原子または酸素原子を示し、mは0〜4の整数を示し、Aは置換基を有するアミノ基を示す]で表されるトリアゾール化合物(A)を有効成分として含有する事を特徴とする、抗HER2抗体の抗腫瘍効果を増強させる抗腫瘍効果増強剤。
  5. 前記一般式(1)において、Xがエチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、2,2−ジメチルプロピル基、2−プロピニル基、2−ブチニル基、ハロゲン原子である請求項4に記載の抗腫瘍効果増強剤。
  6. 前記一般式(1)において、mが0または1であり、Aがモルホリノ基、4−メチルピペラジン−1−イル基、ピペリジン−1−イル基、ピロリジン−1−イル基である請求項4に記載の抗腫瘍効果増強剤。
  7. 癌治療における抗HER2抗体の投与において、一般式(1)
    Figure 2014034532
    [式中、Xは直鎖状または分岐状の炭素数1〜8のアルキル基、炭素数2〜10のアルキニル基、またはハロゲン原子を示し、Yは硫黄原子または酸素原子を示し、mは0〜4の整数を示し、Aは置換基を有するアミノ基を示す]で表されるトリアゾール化合物(A)を併用で投与する事を特徴とする前記抗HER2抗体の抗腫瘍効果を増強させる方法。
  8. 前記一般式(1)において、Xがエチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、2,2−ジメチルプロピル基、2−プロピニル基、2−ブチニル基、ハロゲン原子である、請求項7に記載の抗HER2抗体の抗腫瘍効果を増強させる方法。
  9. 前記一般式(1)において、mが0または1であり、Aがモルホリノ基、4−メチルピペラジン−1−イル基、ピペリジン−1−イル基、ピロリジン−1−イル基である、請求項7に記載の抗HER2抗体の抗腫瘍効果を増強させる方法。
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