〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態に係る反射防止物品を示す図(概念斜視図)である。この反射防止物品1は、全体形状がフィルム形状により形成された反射防止フィルムである。この実施形態に係る画像表示装置では、この反射防止物品1が画像表示パネルの表側面に貼り付けられて保持され、この反射防止物品1により日光、電燈光等の外来光の画面における反射を低減して視認性を向上する。尚、反射防止物品は、その形状を平坦なフィルム形状とする場合に限らず、平坦なシート形状、平板形状(相対的に厚みの薄い順に、フィルム、シート、板と呼称する)とすることもでき、又、平坦な形状に代えて、湾曲形状、立体形状を呈したフィルム形状、シート形状、板形状とすることもでき、更には各種レンズ、各種プリズム等の立体形状のものを用途に応じて適宜採用することができる。
ここで反射防止物品1は、透明フィルムによる基材2の表面に多数の微小突起を密接配置して作製される。尚、本明細書においては、密接配置された複数の微小突起を総称して微小突起群とも言うものとする。ここで基材2は、例えばTAC(Triacetylcellulose)、等のセルロース(纖維素)系樹脂、PMMA(ポリメチルメタクリレート)等のアクリル系樹脂、PET(Polyethylene terephthalate)等のポリエステル系樹脂、PP(ポリプロピレン)等のポリオレフィン系樹脂、PVC(ポリ塩化ビニル)等のビニル系樹脂、PC(Polycarbonate)等の各種透明樹脂フィルムを適用することができる。尚、上述したように反射防止物品の形状はフィルム形状に限らず、種々の形状を採用可能であることにより、基材2は、反射防止物品の形状に応じて、これらの材料の他に、例えばソーダ硝子、カリ硝子、鉛ガラス等の硝子、PLZT等のセラミックス、石英、螢石等の各種透明無機材料等を適用することができる。
反射防止物品1は、基材2上に、微小突起群からなる微細な凹凸形状の受容層となる未硬化状態の紫外線硬化性樹脂からなる層(この層を、以下、紫外線硬化樹脂層4、或いは受容層4と言う)を形成し、受容層4の表面に賦形用金型の賦形面を接触させた状態で該受容層4を硬化させることにより、基材2の表面に微小突起が密接して配置される。反射防止物品1は、この微小突起による凹凸形状により厚み方向に徐々に屈折率が変化するように作製され、モスアイ構造の原理により広い波長範囲で入射光の反射を低減する。
尚、これにより反射防止物品1に作製される微小突起は、隣接する微小突起の間隔dが、反射防止を図る電磁波の波長帯域の最短波長Λmin以下(d≦Λmin)となるよう密接して配置される。この実施形態では、画像表示パネルに配置して視認性を向上させることを主目的とするため、この最短波長は、個人差、視聴条件を加味した可視光領域の最短波長(380nm)に設定され、間隔dは、ばらつきを考慮して100〜300nmとされる。又、この間隔dに係る隣接する微小突起は、いわゆる隣り合う微小突起であり、基材2側の付け根部分である微小突起の裾の部分が接している突起である。反射防止物品1では微小突起が密接して配置されることにより、微小突起間の谷の部位を順次辿るようにして線分を作成すると、平面視において、各微小突起を囲む多角形状領域を多数連結してなる網目状の模様が作製されることになる。間隔dに係る隣接する微小突起は、この網目状の模様を構成する一部の線分を共有する突起である。
尚、微小突起に関しては、より詳細には以下のように定義される。モスアイ構造による反射防止では、透明基材表面とこれに隣接する媒質との界面における有効屈折率を、厚み方向に連続的に変化させて反射防止を図るものであることから、微小突起に関しては一定の条件を満足することが必要である。この条件のうちの1つである突起の間隔に関して、例えば特開昭50−70040号公報、特許第4632589号公報等に開示のように、微小突起が一定周期で規則正しく配置されている場合、隣接する微小突起の間隔dは、突起配列の周期P(d=P)となる。これにより可視光線帯域の最長波長をλmax、最短波長をλminとした場合に、最低限、可視光線帯域の最長波長において反射防止効果を奏し得る必要最小限の条件は、Λmin=λmaxであるため、P≦λmaxとなり、可視光線帯域の全波長に対して反射防止効果を奏し得る必要十分の条件は、Λmin=λminであるため、可視光線帯域の全波長に対して反射防止効果を奏し得る必要十分の条件は、P≦λminとなる。
尚、波長λmax、λminは、観察条件、光の強度(輝度)、個人差等にも依存して多少幅を持ち得るが、標準的には、λmax=780nm及びλmin=380nmとされる。これらにより可視光線帯域の全波長に対する反射防止効果をより確実に奏し得る好ましい条件は、d≦300nmであり、より好ましい条件は、d≦200nmとなる。尚、反射防止効果の発現及び反射率の等方性(低角度依存性)の確保等の理由から、周期dの下限値は、通常、d≧50nm、好ましくは、d≧100nmとされる。これに対して突起の高さHは、十分な反射防止効果を発現させる観点より、H≧0.2×λmax=156nm(λmax=780nmとして)とされる。
しかしながら、本発明の反射防止物品のように、微小突起が不規則に配置されている場合には、隣接する微小突起間の間隔dはばらつきを有することになる。より具体的には、図2に示すように、基材の表面又は裏面の法線方向から見て平面視した場合に、微小突起が一定周期で規則正しく配列されていない場合、突起の繰り返し周期Pによっては隣接突起間の間隔dは規定し得ず、又、隣接突起の概念すら疑念が生じることになる。そこでこのような場合、微小突起間の間隔dは、以下のように算定される。
(1) 即ち、先ず、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope;AFM)又は走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)を用いて突起の面内配列(突起配列の平面視形状)を検出する。尚、図2は、実際に原子間力顕微鏡により求められた拡大写真である。
(2) 続いてこの求められた面内配列から各突起の高さの極大点(以下、単に「極大点」とも言う。)を検出する。尚、極大点を求める方法としては、平面視形状と対応する斷面形状の拡大写真とを逐次対比して極大点を求める方法、平面視拡大写真の画像処理によって極大点を求める方法等、種々の手法を適用することができる。図3は、図2に示した拡大写真に係る画像データの処理による極大点の検出結果を示す図であり、この図において黒点により示す個所がそれぞれ各突起の極大点である。尚、この処理では4.5×4.5画素のガウシアン特性によるローパスフィルタにより事前に画像データを処理し、これによりノイズによる極大点の誤検出を防止した。又、8画素×8画素による最大値検出用のフィルタを順次スキャンすることにより1nm(=1画素)単位で極大点を求めた。
(3) 次に検出した極大点を母点とするドロネー図(Delaunary Diagram)を作成する。ここでドロネー図とは、各極大点を母点としてボロノイ分割を行った場合に、ボロノイ領域が隣接する母点同士を隣接母点と定義し、各隣接母点同士を線分で結んで得られる3角形の集合体からなる網状図形である。各3角形は、ドロネー3角形と呼ばれ、各3角形の辺(隣接母点同士を結ぶ線分)は、ドロネー線と呼ばれる。図4は、図3から求められるドロネー図(白色の線分により表される図である)を図3による原画像と重ね合わせた図である。ドロネー図は、ボロノイ図(Voronoi diagram)と双対の関係に有る。又、ボロノイ分割とは、各隣接母点間を結ぶ線分(ドロネー線)の垂直2等分線同士によって画成される閉多角形の集合体からなる網状図形で平面を分割することを言う。ボロノイ分割により得られる網状図形がボロノイ図であり、各閉領域がボロノイ領域である。
(4) 次に、各ドロネー線の線分長の度数分布、即ち、隣接する極大点間の距離(以下、「隣接突起間距離」とも言う)の度数分布を求める。図5は、図4のドロネー図から作成した度数分布のヒストグラムである。尚、図2、図10、図11に示すように、突起の頂部に溝状等の凹部が存在したり、或いは頂部が複数の峰に分裂している場合は、求めた度数分布から、このような突起の頂部に凹部が存在する微小構造、頂部が複数の峰に分裂している微小構造に起因するデータを除去し、突起本体自体のデータのみを選別して度数分布を作成する。
具体的には、突起の頂部に凹部が存在する微小構造、頂部が複数の峰に分裂している多峰性の微小突起に係る微小構造においては、このような微小構造を備えてい無い単峰性の微小突起の場合の数値範囲から、隣接極大点間距離が明らかに大きく異なることになる。これによりこの特徴を利用して対応するデータを除去することにより突起本体自体のデータのみを選別して度数分布を検出する。より具体的には、例えば、図2に示すような微小突起(群)の平面視の拡大写真から、5〜20個程度の互いに隣接する単峰性の微小突起を選んで、その隣接極大点間距離の値を標本抽出し、この標本抽出して求められる数値範囲から明らかに外れる値(通常、標本抽出して求められる隣接極大点間距離平均値に対して、値が1/2以下のデータ)を除外して度数分布を検出する。図5の例では、隣接極大点間距離が56nm以下のデータ(矢印Aにより示す左端の小山)を除外する。尚、図5は、このような除外する処理を行う前の度数分布を示すものである。因みに上述の極大点検用のフィルタの設定により、このような除外する処理を実行してもよい。
(5) このようにして求めた隣接突起間距離dの度数分布から平均値dAVG及び標準偏差σを求める。隣接突起間距離を計算する。ここでこのようにして得られる度数分布を正規分布とみなして平均値dAVG及び標準偏差σを求めると、図5の例では、平均値dAVG=158nm、標準偏差σ=38nmとなった。これにより隣接突起間距離の最大値を、dmax=dAVG+2σとし、この例ではdmax=234nmとなる。
尚、同様の手法を適用して突起の高さを定義する。この場合、上述の(2)により求められる極大点から、特定の基準位置からの各極大点位置の相対的な高度差を取得してヒストグラム化する。図6は、このようにして求められる突起付け根位置を基準(高さ0)とした突起高さHの度数分布のヒストグラムを示す図である。このヒストグラムによる度数分布から突起高さの平均値HAVG、標準偏差σを求める。ここでこの図6の例では、平均値HAVG=178nm、標準偏差σ=30nmである。これによりこの例では、突起の高さは、平均値HAVG=178nmとなる。尚、図6に示す突起高さHのヒストグラムにおいて、多峰性の微小突起の場合は、頂点を複数有していることにより、1つの突起に対してこれら複数のデータが混在することになる。そこでこの場合麓部が同一の微小突起に屬するそれぞれ複数の頂点の中から高さの最も高い頂点を、当該微小突起の突起高さとして採用して度数分布を求める。
尚、上述した突起の高さを測る際の基準位置は、隣接する微小突起の間の谷底(高さの極小点)を高さ0の基準とする。但し、係る谷底の高さ自体が場所によって異なる場合(例えば、図13について後述するように、谷底の高さが微小突起の隣接突起間距離に比べて大きな周期でウネリを有する場合等)は、(1)先ず、基材2の表面又は裏面から測った各谷底の高さの平均値を、該平均値が収束するに足る面積の中で算出する。(2)次いで、該平均値の高さを持ち、基材2の表面又は裏面と平行な面を基準面として考える。(3)その後、該基準面を改めて高さ0として、該基準面からの各微小突起の高さを算出する。
突起が不規則に配置されている場合には、このようにして求められる隣接突起間距離の最大値dmax=dAVG+2σ、突起の高さの平均値HAVGが、規則正しく配置されている場合の上述の条件を満足することが必要であることが判った。具体的には、反射防止硬化を発現する微小突起間距離の条件は、dmax≦Λminとなる。最低限、可視光線帯域の最長波長において反射防止効果を奏し得る必要最短限の条件は、Λmin=λmaxであるため、dmax≦λmaxとなり、可視光線帯域の全波長に対して反射防止効果を奏し得る必要十分の条件は、Λmin=λminであるため、dmax≦λminとなる。そして、可視光線帯域の全波長に対する反射防止効果をより確実に奏し得る好ましい条件は、dmax≦300nmであり、更に好ましい条件は、dmax≦200nmである。又、反射防止効果の発現及び反射率の等方性(低角度依存性)の確保等の理由から、通常、dmax≧50nmであり、好ましくは、dmax≧100nmとされる。又、突起高度については、十分な反射防止効果を発現する為には、HAVG≧0.2×λmax=156nm(λmax=780nmとして)とされる。
因みに、図2〜図6の例により説明するとdmax=232nm≦λmax=780nmとなり、dmax≦λmaxの条件を満足して十分に反射防止効果を奏し得ることが判る。又、可視光線帯域の最短波長λminが380nmであることから、可視光線の全波長帯域において反射防止効果を発現する十分条件dmax≦λminも満たすことが判る。又、平均突起高さHAVG=178nmであることにより、平均突起高さHAVG≧0.2×λmax=156nmとなり(可視光波長帯域の最長波長λmax=780nmとして)、十分な反射防止効果を実現するための突起の高さに関する条件も満足していることが判る。尚、標準偏差σ=30nmであることから、HAVG−σ=148nm<0.2×λmax=156nmとの関係式が成立することから、統計学上、全突起の50%以上、84%以下が、突起の高さに係る条件(178nm以上)の条件を満足していることが判る。尚、なおAFM及びSEMによる観察結果、並びに微小突起の高さ分布の解析結果から、多峰性の微小突起は相対的に高さの低い微小突起よりも高さの高い微小突起でより多く生じる傾向にあることが判明した。
図7は、この反射防止物品1の製造工程を示す図である。この製造工程10は、樹脂供給工程において、ダイ12により帯状フィルム形態の基材2に微小突起形状の受容層4を構成する未硬化で液状の紫外線硬化性樹脂を塗布する。尚、紫外線硬化性樹脂の塗布については、ダイ12による場合に限らず、各種の手法を適用することができる。続いてこの製造工程10は、押圧ローラ14により、反射防止物品の賦型用金型であるロール版13の周側面に基材2を加圧押圧し、これにより基材2に未硬化で液状のアクリレート系紫外線硬化性樹脂を密着させると共に、ロール版13の周側面に作製された微小な凹凸形状の凹部に紫外線硬化性樹脂を充分に充填する。この製造工程は、この状態で、紫外線の照射により紫外線硬化性樹脂を硬化させ、これにより基材2の表面に微小突起群を作製する。この製造工程は、続いて剥離ローラ15を介してロール版13から、硬化した紫外線硬化性樹脂と一体に基材2を剥離する。製造工程10は、必要に応じてこの基材2に粘着層等を作製した後、所望の大きさに切断して反射防止物品1を作製する。これにより反射防止物品1は、ロール材による長尺の基材2に、賦型用金型であるロール版13の周側面に作製された微小形状を順次賦型して、効率良く大量生産される。
図8は、ロール版13の構成を示す斜視図である。ロール版13は、円筒形状の金属材料である母材の周側面に、陽極酸化処理、エッチング処理の繰り返しにより、微小な凹凸形状が作製され、この微小な凹凸形状が上述したように基材2に賦型される。このため母材は、少なくとも周側面に純度の高いアルミニウム層が設けられた円柱形状又は円筒形状の部材が適用される。より具体的に、この実施形態では、母材に中空のステンレスパイプが適用され、直接に又は各種の中間層を介して、純度の高いアルミニウム層が設けられる。尚、ステンレスパイプに代えて、銅やアルミニウム等のパイプ材等を適用してもよい。ロール版13は、陽極酸化処理とエッチング処理との繰り返しにより、母材の周側面に微小穴が密に作製され、この微小穴を掘り進めると共に、開口部に近付くに従ってより大きな径となるようにこの微小穴の穴径を徐々に拡大して凹凸形状が作製される。これによりロール版13は、深さ方向に徐々に穴径が小さくなる多数の微小穴が密に作製され、反射防止物品1には、この微小穴に対応して、頂部に近付くに従って徐々に径が小さくなる微小突起により微小な凹凸形状が作製される。その際に、アルミニウム層の純度(不純物量)や結晶粒径、陽極酸化処理及び/又はエッチング処理の諸条件を適宜調整することによって、本発明特有の微小突起形状とする。
〔陽極酸化処理、エッチング処理〕
図9は、ロール版13の製造工程を示す図である。この製造工程は、電解溶出作用と、砥粒による擦過作用の複合による電解複合研磨法によって母材の周側面を超鏡面化する(電解研磨)。続いてこの工程は、母材の周側面にアルミニウムをスパッタリングし、純度の高いアルミニウム層を作製する。続いてこの工程は、陽極酸化工程A1、…、AN、エッチング工程E1、…、ENを交互に繰り返して母材を処理し、ロール版13を作製する。
この製造工程において、陽極酸化工程A1、…、ANでは、陽極酸化法により母材の周側面に微小な穴を作製し、更にこの作製した微小な穴を掘り進める。ここで陽極酸化工程では、例えば負極に炭素棒、ステンレス板材等を使用する場合のように、アルミニウムの陽極酸化に適用される各種の手法を広く適用することができる。又、溶解液についても、中性、酸性の各種溶解液を使用することができ、より具体的には、例えば硫酸水溶液、シュウ酸水溶液、リン酸水溶液等を使用することができる。この製造工程A1、…、ANは、液温、印加する電圧、陽極酸化に供する時間等の管理により、微小な穴をそれぞれ目的とする深さ及び微小突起形状に対応する形状に作製する。
続くエッチング工程E1、…、ENは、金型をエッチング液に浸漬し、陽極酸化工程A1、…、ANにより作製、掘り進めた微小な穴の穴径をエッチングにより拡大し、深さ方向に向かって滑らか、且つ、徐々に穴径が小さくなるように、これら微小な穴を整形する。尚、エッチング液については、この種の処理に適用される各種エッチング液を広く適用することができ、より具体的には、例えば硫酸水溶液、シュウ酸水溶液、リン酸水溶液等を使用することができる。これらによりこの製造工程では、陽極酸化処理とエッチング処理とを交互にそれぞれ複数回実行することにより、賦型に供する微小穴を母材の周側面に作製する。
〔耐擦傷性の向上〕
ところで、この陽極酸化処理及びエッチング処理の交互の繰り返しにより微小穴を作製して反射防止物品を作製したところ、上述したように耐擦傷性に改善の余地が見られた。そこで反射防止物品を詳細に観察したところ、従来のこの種の反射防止物品のように、多角錘形状や回転放物面形状のような1つの頂点のみを持つ単峰性の微小突起のみからなり、各頂点の高さも一様に作製されている場合には、例えば他の物体が接触した場合に、広い範囲で微小突起の形状が一様に損なわれ、これにより反射防止機能が局所的に劣化し、又、接触個所に白濁、傷等が発生して外観不良が発生することが判った。しかしながらロール版の製造条件を変更すると、このような耐擦傷性が改善されることが判った。
このような耐擦傷性が改善された反射防止物品の表面形状をAFM(Atomic Force Microscope:原子間力顕微鏡)及びSEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)により観察したところ、多数の微小突起の一部が、相対的に高さの低い1つ微小突起の周囲を相対的に高さの高い複数の微小突起が環囲してなる環状微小突起群を構成していることが判った。尚、ここで微小形状の観察のために、種々の方式の顕微鏡が提供されているものの、微小構造を損なわないようにして反射防止物品の表面形状を観察する場合には、AFM及びSEMが適している。
尚、ここで、各微小突起の高さとは、上述したように、麓(付け根)部を共有するある特定の微小突起について、その頂部に存在する最高高さを有する峰(最高峰)の高さを言う。図10(a)の51、52の如くの単峰性の微小突起の場合は、頂部に於ける唯一の峰(極大点)の高さが該微小突起の突起高さとなる。又、図10(a)の微小突起52Aのような多峰性の微小突起の場合は、頂部に在る麓部を共有する複数の峰のうちの最高峰の高さをもって該微小突起の高さとする。
反射防止物品1において、微小突起の一部は、高さの異なる複数の微小突起を含む一群として環状微小突起群5を構成している(図10(a)、図10(b)、図10(c)参照)。環状微小突起群5とは、相対的に高さの低い内核微小突起51の周囲を環囲する態様で相対的に高さの高い複数、好ましくは4つ以上の外縁微小突起52が配置されることにより構成されている一群の微小突起の集合のことを言うものとする。(尚、以下において、内核微小突起51、外縁微小突起52を併せて、単に「微小突起」とも言う)図10は、複数の微小突起によって構成される環状微小突起群の説明に供する断面図(図10(a))、斜視図(図10(b))、平面図(図10(c))である。尚、この図10は、理解を容易にするために模式的に示す図であり、図10(a)は、その一部が環状微小突起群5を構成している連続する微小突起の頂点を結ぶ折れ線により断面を取って示す図である。この図10(b)及び(c)において、xy方向は、基材2の面内方向であり、z方向は微小突起の高さ方向である。
このように高さが種々に異なる複数の微小突起により構成される環状微小突起群5においては、例えば物体の接触により高さの高い外縁微小突起52の形状が損なわれた場合でも、高さの低い内核微小突起51の形状は維持されることになる。このような環状微小突起群5が構成されていることより、反射防止物品では、反射防止機能の局所的な劣化を低減し、更には外観不良の発生を低減することができ、その結果、耐擦傷性を向上することができる。
又、反射防止物品1の表面の微小突起と物体との間に塵埃が付着すると、当該物体が反射防止物品に対して相対的に摺動した際に、該塵埃が研磨剤として機能して微小突起の磨耗、損傷が促進されることになる。この場合に、反射防止物品1の表面において、環状微小突起群5が構成されている部分については、塵埃は高さの高い外縁微小突起52に強く接触し、これを損傷させる。一方で、高さの低い内核微小突起51との接触は弱まり、高さの低い内核微小突起51については損傷が軽減され、無傷若しくは軽微な傷で残存した内核微小突起51によって反射防止性能が維持される。
又、環状微小突起群5においては、複数の微小突起のうちの外縁微小突起52のみが、例えば反射防止物品1と対向するように配置された各種の部材表面と接触することになる。これにより高さが同一の微小突起のみによる場合に比して格段的に滑りを良くすることができ、製造工程等における反射防止物品の取り扱いを容易とすることができる。尚、このように滑りを良くする観点から、ばらつきは、標準偏差により規定した場合に、10nm以上必要であるものの、50nmより大きくなると、このばらつきによる表面のざらつき感が感じられるようになる。従ってこの高さのばらつきは、10nm以上、50nm以下であることが好ましい。
環状微小突起群5は、その存在により耐擦傷性を向上できるものの、充分に存在しない場合には、この耐擦傷性を向上する効果を十分に発揮できないことは言うまでもない。係る観点より、本発明においては、表面に存在する微小突起のうち、環状微小突起群5を構成する微小突起の割合(以下、この割合を「環状微小突起群構成比率」とも言う)は10%以上とする。特に環状微小突起群5による耐擦傷性を向上する効果を十分に奏する為には、環状微小突起群構成比率は30%以上、好ましくは50%以上とする。
又、上記効果に加えて、反射防止物品1の表面における微小突起の間において、各微小突起の高さに分布(高低差)が有る場合、反射防止性能が広帯域化され、白色光のような多波長の混在する光、或いは広帯域スペクトルを持つ光に対して、全スペクトル帯域で低反射率を実現するのに有利である。これは、かかる微小突起群によって良好な反射防止性能を発現し得る電磁波の波長帯域が、隣接突起間距離dの他に、突起高さにも依存する為である。
一方、個々の微小突起について更に詳細に検討したところ、反射防止物品1において、多くの微小突起は、基材2より離れて頂点に向かうに従って徐々に断面積(高さ方向に直交する面(図10においてXY平面と平行な面)で切断した場合の断面積)が小さくなって、頂点が1つにより作製されるが、中には、図10及び図11に示すように、複図数の微小突起が結合したかのように、先端部分に溝が形成され、頂点が3つになったもの(52A)、更には頂点が4つ以上のもの(図示略)が存在した。尚、単峰性の微小突起の形状は、概略、回転放物面の様な頂部の丸い形状、或いは円錐の様な頂点の尖った形状で近似することができる。一方、多峰性の微小突起の形状は、概略、単峰性の微小突起の頂部近傍に溝状の凹部を切り込んで、頂部を複数の峰に分割したような形状で近似される。多峰性の微小突起の形状は、或いは、複数の峰を含み高さ方向(図10ではZ軸方向)を含む仮想的切断面で切断した場合の縦断面形状が、極大点を複数個含み各極大点近傍が上に凸の曲線になる代数曲線Z=a2X2+a4X4+・・+a2nX2n+・・で近似されるような形状である。
このような頂点を複数有する多峰性の微小突起は、単峰性の微小突起に比して、頂点近傍の寸法に対する裾の部分の太さが相対的に太くなる。これにより、多峰性の微小突起は、単峰性の微小突起に比して機械的強度が優れていると言える。これにより頂点を複数有する多峰性の微小突起が存在する場合、反射防止物品では、単峰性の微小突起のみによる場合に比して耐擦傷性が向上するものと考えられる。更に、具体的に反射防止物品に外力が加わった場合、単峰性の微小突起のみの場合に比して、外力をより多くの頂点で分散して受ける為、各頂点に加わる外力を低減し、微小突起が損傷し難いようにすることができ、これにより反射防止機能の局所的な劣化を低減し、更に外観不良の発生を低減することができる。又、仮に微小突起が損傷した場合でも、その損傷個所の面積を低減することができる。更に、多峰性の微小突起の多くは、最高峰高さ(麓が同じ微小突起に属する最も高い峰の高さ)が突起高さの平均値HAVG以上の微小突起に生じる為、外力を先ず各峰部分が受止めて犠牲的に損傷することによって、該微小突起の峰より低い本体部分、及び該多峰性の微小突起よりも高さの低い微小突起の損耗を防ぐ。これによっても反射防止機能の局所的な劣化を低減し、更に外観不良の発生を低減することができる。
尚、上述した図2〜図6に係る測定結果は、本発明の実施形態に係る反射防止物品の測定結果であり、図5に示す度数分布においては、隣接突起間距離d(横軸の値)について、20nm及び40nmの短距離の極大値と120nm及び164nmの長距離の極大値との2種類の極大値が存在する。これらの極大値のうちの長距離の極大値は、微小突起本体(頂部よりも下の中腹から麓にかけての部分)の配列に対応し、一方、短距離の極大値は頂部近傍に存在する複数の頂点(峰)に対応する。これにより極大点間距離の度数分布によっても、多峰性の微小突起の存在を見て取ることができる。
又、このように多峰性の微小突起が混在する場合には、単峰性の微小突起のみによる場合に比して反射防止の性能を向上することができる。即ち、図10、及び図11等に示すような微小突起52Aは、隣接突起間距離が同じ場合であっても、又、突起高さが同じ場合であっても、単峰性の微小突起と比べて、より光の反射率が低減することになる。その理由は、多峰性の微小突起52Aは、頂部より下(中腹及び麓)の形状が同じ単峰性の微小突起よりも、頂部近傍における有効屈折率の高さ方向の変化率が小さくなる為である。
即ち、図10において、高さHがzにおいて、Z=z(z=0を高さH=0とおく)に対して高さ方向(Z軸方向)に直交する仮想的切断面Z=zで微小突起51、52を切断したと仮定した場合の面Z=zに於ける微小突起とび周辺の媒質(通常は空気)との屈折率の平均値として得られる有効屈折率nefは、切断面Z=zに於ける周辺媒質(ここでは空気とする)の屈折率をnA=1、微小突起51、52・・の構成材料の屈折率をnM>1とし、又周辺媒質(空気)の断面積の合計値をSA(z)、微小突起51、52、・・の断面積の合計値をSM(z)としたとき、
nef(z)=1×SA(z)/(SA(z)+SM(z))+nA×SM(z)/(SA(z)+SM(z))(式1)
で、表される。これは、周辺媒質の屈折率nA及び微小突起構成材料の屈折率nMを、各々周辺媒質の合計面積SA(z)及び微小突起の合計断面積の合計値SM(z)で比例配分した値となる。
ここで、単峰性の微小突起を基準にして考えたときに、多峰性の微小突起52Aは、頂部近傍が複数の峰に分裂している。そのため、頂部近傍を切断する仮想的切断面Z=zにおいて、多峰性の微小突起52Aは、単峰性の微小突起に比べて相対的に低屈折率である周辺媒質の合計断面積SA(z)の比率が、相対的に高屈折率である微小突起の合計断面積SM(z)の比率に比べて、より増大することになる。
その結果、仮想的切断面Z=zに於ける有效屈折率nef(z)は、多峰性の微小突起52Aの方が単峰性の微小突起に比べて、より周辺媒質の屈折率nAに近くなる。面Z=zに於ける多峰性の微小突起の有效屈折率と周辺媒質の屈折率との差を|nef(z)−nA(z)|multi、単峰性の微小突起の有效屈折率と周辺媒質の屈折率との差を|nef(z)−nA(z)|monoとすると、
|nef(z)−nA(z)|multi<|nef(z)−nA(z)|mono(式2)
と、なる。ここで、nA(z)=1とすると、
|nef(z)−1|multi<|nef(z)−1|mono(式2A)
となる。
これにより、反射防止物品1の表面における微小突起が多峰性の微小突起を含む場合(各微小突起間に周辺媒質を含む)は、単峰性の微小突起のみからなる場合に比べて、その有効屈折率と周辺媒質(空気)の屈折率との差、より詳しくは、微小突起の高さ方向の単位距離当たりの屈折率の変化率をより低減化すること、換言すれば、屈折率の高さ方向変化の連続性をより高めること、が可能になることが分る。
一般に、隣接する屈折率n0の媒質と屈折率n1の媒質との界面に光が入射する場合に、該界面に於ける光の反射率Rは、入射角=0として、
R=(n1−n0)2/(n1+n0)2(式3)
と、なる。この式より界面両側の媒質の屈折率差n1−n0が小さいほど界面での光の反射率Rは減少し、(n1−n0)が値0に近づけばRも値0に近づくことになる。
(式2)、(式2A)、及び(式3)より、反射防止物品1の表面における微小突起中に多峰性の微小突起52Aが混在することによって、単峰性の微小突起のみが存在する場合よりも光の反射率が低減する。
尚、単峰性の微小突起のみからなる場合であっても、隣接突起間距離の最大値dmaxを反射防止を図る電磁波の波長帯域の最短波長λmin以下の十分小さな値にすることによって、十分な反射防止効果を発現することは可能である。但し、その場合、隣接峰間の距離と隣接微小突起間距離とが同一となる為、隣接微小突起間が接触、一体複合化する現象(いわゆるスティッキング)が発生し易くなる。スティッキングを生じると、実質上の隣接突起間距離dは一体複合化した微小突起数の分だけ増加する。
例えば、d=200nmの微小突起が4個スティッキングすると、実質上、スティッキングして一体化した突起の大きさは、d=4×200nm=800nm>可視光線帯域の最長波長(780nm)となり、これにより局所的に反射防止効果を損なうことになる。
一方、多峰性の微小突起52Aを含む微小突起群の場合、頂部近傍の各峰間の隣接突起間距離dPEAKは、麓から中腹にかけての微小突起本体部の隣接突起間距離dBASEよりも小さくなり(dPEAK<dBASE)、通常、dPEAK=dBASE/4〜dBASE/2程度である。その為、各峰間の隣接突起間距離dPEAK≪λminとすることで十分な反射防止性能を得ることができる。但し、多峰性の微小突起の各峰部は、麓部の幅に対する峰部の高さの比が小さく、単峰性の微小突起の麓部の幅に対する頂点の高さの比の1/2〜1/10程度である。従って、同じ外力に対して、多峰性微小突起の峰部は単峰性の微小突起に比べての変形し難い。且つ、多峰性微小突起の本体部自体は峰部よりも隣接突起間距離は大であり、且つ、強度も大である。その為、結局、多峰性の微小突起からなる微小突起群は、単峰性の微小突起からなる突起群に比べて、スティッキングの生じ難さと低反射率とを容易に両立させることができる。
尚、可視光の反射防止用途の他の用途であっても、又は可視光環境下であっても、当該反射防止材料が設置、使用される環境条件に応じて、想定する反射防止波長に応じたモスアイを形成し、高さ分布を持たせる事により、前記の通り、従来のものより耐擦性があり、且つ、プロセス要件等で低硬度の材料を使用した場合においても互いのスティッキングを防止し、光学的必要性能を合わせ持つ反射防止材料を作製する事が可能となる。例えば、380nm前後の紫外領域について反射防止性能を得たい場合はモスアイの高さが約50μmでも可能であり、同様に700nm前後の赤外領域については約150μm〜実用上を考慮し400μmであれば可能である。なお、前記の通りモスアイの配置ピッチについては高さについて飽和するような製作条件を見出し、モスアイの反射率を効果的に操作する事が可能である。更に、モスアイの頂部構造についても、従来の単峰から改良を加える事で高さと反射率を両立し、且つ、物理的にスティッキングを起こしにくく、効果的に反射率を低減する事が可能となっている。
ところで、反射防止物品1において、環状微小突起群5が構成されるためには、個々の微小突起について、その高さに所定範囲のばらつきがあることが必須である。
微小突起の作製に供するロール版では、陽極酸化処理とエッチング処理との交互の繰り返しにより、穴径を拡大しながら微小穴を掘り進め、これにより個々の微小突起の賦型に供する微小穴が作製される。この微小穴の高さのばらつきは、ロール版に作製される微小穴の深さのばらつきによるものであり、このような微小穴の深さのばらつきについては、陽極酸化処理におけるばらつきに起因するものと言える。これにより相対的に高さの低い内核微小突起51と、相対的に高さの高い複数の外縁微小突起52とを混在させるには、陽極酸化処理におけるばらつきを大きくすることにより実現することができる。
又、具体例として、後述する通り、陽極酸化処理における条件を、所定範囲に限定した場合に、微小穴のばらつきが、一定の規則性に基づいてばらつき、反射防止物品1に、一定割合で環状微小突起群5が構成されることが分っている。
尚、多峰性の微小突起は、その頂部に対応する形状の凹部を備えた微小穴により作成されるものであり、このような微小穴は、極めて近接して作製された微小穴が、エッチング処理により、一体化して作製されると考えられる。これにより多峰性の微小突起と単峰性の微小突起とを混在させるには、やはり、陽極酸化処理におけるばらつきを大きくすることにより実現することができる。
これらにより、この実施形態では、ばらつきが大きくなるように、陽極酸化処理における条件を設定し、相対的に高さの低い内核微小突起51と、相対的に高さの高い複数の外縁微小突起52とが混在し、且つ、一定の割合で環状微小突起群を構成された反射防止物品を生産する。
ここで陽極酸化処理における印加電圧(化成電圧)と微小穴の間隔とは比例関係にあり、更に一定範囲より印加電圧が逸脱するとばらつきが大きくなる。これにより濃度0.01M〜0.03Mの硫酸、シュウ酸、リン酸の水溶液を使用して、電圧15V(第1工程)〜35V(第2工程:第1工程に対して約2.3倍)の印加電圧により、微小突起の高さがばらついた反射防止物品生産用のロール版を作製することができる。尚、印加電圧が変動すると、微小穴の間隔のばらつきが大きくなることにより、例えば直流電源によりバイアスした交流電源を使用して印加用電圧を生成する場合等、印加電圧を意図的に変動させてもよい。又、電圧変動率の大きな電源を使用して陽極酸化処理を実行してもよい。
図12は、環状微小突起群5を示す写真であり、図12(a)は、AFMによるものであり、図12(b)は、SEMによるものである。図12(a)(b)では、いずれも、1つの内核微小突起51を5つの外縁微小突起52が環囲している環状微小突起群5を見て取ることができる。尚、この図12は、水温20℃、濃度0.02Mのシュウ酸水溶液を適用し、印加電圧40Vにより120秒、陽極酸化処理を実行したものである。またエッチング処理には、第1工程に同上陽極酸化液、第2工程に水温20℃、濃度1.0Mのリン酸水溶液を適用した。陽極酸化処理とエッチング処理との回数は、それぞれ3(〜5)回である。
又、上記と同条件で陽極酸化処理を実行した場合の、微小突起群の形成面を上方から観察したところ、画像解析により存在を確認できた219個の微小突起のうち、少なくとも8%以上の微小突起が、環状微小突起群を構成していることが確認された。
以上の構成によれば、微小突起の高さに分布を持たせることにより、1つの内核微小突起を複数の外縁微小突起が環囲している環状微小突起群を構成させて、従来に比して反射防止物品の耐擦傷性、及び、滑り性を向上することができる。
〔他の実施形態〕
以上、本発明の実施に好適な具体的な構成を詳述したが、本発明は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上述の実施形態の構成を種々に変更し、更には従来構成と組み合わせることができる。
即ち、上述の実施形態では、陽極酸化処理とエッチング処理との繰り返し回数をそれぞれ3(〜5)回に設定する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、繰り返し回数をこれ以外の回数に設定してもよく、又、このように複数回処理を繰り返して、最後の処理を陽極酸化処理とする場合にも広く適用することができる。
又、上述の実施形態では、反射防止物品を液晶表示パネル、電場発光表示パネル、プラズマ表示パネル等の各種画像表示パネルの表側面に配置して視認性を向上する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば液晶表示パネルの裏面側に配置してバックライトから液晶表示パネルへの入射光の反射損失を低減させる場合(入射光利用効率を増大させる場合)にも広く適用することができる。尚、ここで画像表示パネルの表面側とは、該画像表示パネルの画像光の出光面であり、画像観察者側の面でもある。又、画像表示パネルの裏面側とは、該画像表示パネルの表面の反対側面であり、バックライト(背面光源)を用いる透過型画像表示裝置の場合は、該バックライトからの照明光の入光面でもある。
又、上述の実施形態では、賦型用樹脂にアクリレート系の紫外線硬化性樹脂を適用する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、エポキシ系、ポリエステル系等の各種紫外線硬化性樹脂、或いはアクリレート系、エポキシ系、ポリエステル系等の電子線硬化性樹脂、ウレタン系、エポキシ系、ポリシロキサン系等の熱硬化性樹脂等の各種材料及び各種硬化形態の賦型用樹脂を使用する場合にも広く適用することができ、更には例えば加熱した熱可塑性の樹脂を押圧して賦型する場合等にも広く適用することができる。
又、上述の実施形態では、図1に示す通り、基材2の一方の面上に受容層(紫外線硬化性樹脂層)4を積層してなる積層体の該受容層4上に微小突起群を賦形し、該受容層4を硬化せしめて反射防止物品1を形成している。層構成としては2層の積層体となる。但し、本発明は、かかる形態のみに限定される訳では無い。本発明の反射防止物品1は、図示は略すが、基材2の一方の面上に、他の層を介さずに直接、微小突起群を賦形した単層構成であってもよい。或いは、基材2の一方の面に1層以上の中間層(層間の密着性、塗工適性、表面平滑性等の基材表面性能を向上させる層。プライマー層、アンカー層等とも呼称される。)を介して受容層4を形成し、該受容層表面に微小突起群を賦形した3層以上の積層体であってもよい。
更に、上述の実施形態では、図1にも示す通り、基材2の一方の面上にのみ(直接或いは他の層を介して)微小突起群を形成しているが、本発明はかかる形態には限定されない。基材2の両面上に(直接或いは他の層を介して)各々微小突起群を形成した構成であってもよい。又、図示は略すが、図1等に示す通り、本発明の反射防止物品1において、基材2の微小突起群形成面とは反対側の面(図1においては基材2の下側面)に各種接着剤層を形成し、更に該接着剤層表面に離型フィルム(離型紙)を剥離可能に積層してなる接着加工品の形態とすることも出来る。かかる形態においては、離型フィルムを剥離除去して接着剤層を露出せしめ、該接着剤層により所望の物品の所望の表面上に本発明の反射防止物品1を貼り合わせ、積層することが出来、簡便に所望の物品に反射防止性能を付与することが出来る。接着剤としては、粘着劑(感圧接着剤)、2液硬化型接着剤、紫外線硬化型接着剤、熱硬化型接着剤、熱熔融型接着剤等の公知の接着形態のものが各種使用出来る。
又、図示は略すが、図1等に図示するような本発明の反射防止物品1において、微小突起群形成面上に剥離可能な保護フィルムを仮接着した状態で保管、搬送、売買、後加工若しくは施工を行い、しかる後に適時、該保護フィルムを剥離除去する形態とすることも出来る。かかる形態においては、保管、搬送等の間に微小突起群が損傷若しくは汚染して反射防止性能が低下することを防止することが出来る。
又、上述の実施形態では、図1、図10(a)に示すように、各隣接微小突起間の谷底(高さの極小点)を連ねた面は高さが一定な平面であったが、本発明はこれに限らず、図13に示すように、各微小突起間の谷底を連ねた包絡面が、可視光線帯域の最長波長λmax以上の周期D(即ち、D>λmaxである)でうねった構成としてもよい。又該周期的なうねりは、基材2の表裏面に平行なXY平面(図10、図12参照)における1方向(例えばX方向)のみでこれと直交する方向(例えばY方向)には一定高さであってもよいし、或いはXY平面における2方向(X方向及びY方向)共にうねりを有していてもよい。D>λmaxを満たす周期Dでうねった凹凸面6が多数の微小突起からなる微小突起群に重畳することによって、微小突起群で完全に反射防止し切れずに残った反射光を散乱し、殘留反射光、とくに鏡面反射光を更に視認し難くし、以って、反射防止効果を一段と向上させることができる。
尚、係る凹凸面6の周期Dが前面に渡って一定では無く分布を有する場合は、該凹凸面について凸部間距離の度数分布を求め、その平均値をDAVG、標準偏差をΣとしたときの、
DMIN=DAVG―2Σ
として定義する最小隣接突起間距離を以って周期Dの代わりとして設計する。即ち、微小突起群の殘留反射光の散乱効果を十分奏し得る条件は、
DMIN>λmax
である。通常、D又はDMINは1〜200μm、好ましくは10〜100μmとされる。
各微小突起の谷底を連ねた包絡面形が、D(又はDMIN)>λmax、なる凹凸面6を呈する樣な微小突起群を形成する具体的な製造方法の一例を挙げると以下の通りである。即ち、ロール版13の製造工程において、円筒(又は円柱)形状の母材の表面にサンドブラスト又はマット(つや消し)メッキによって凹凸面6の凹凸形状に対応する凹凸形状を賦形する。次いで、該凹凸形状の面上に、直接或いは必要に応じて適宜の中間層を形成した後、アルミニウ層を積層する。その後、該凹凸形状表面に対応した表面形状を賦形されたアルミニウム層に上述の実施形態と同様にして陽極酸化処理及びエッチング処理を施して環状微小突起群5を含む微小突起群を形成する。
又、上述の実施形態では、ロール版を使用した賦型処理によりフィルム形状による反射防止物品を生産する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、反射防止物品の形状に係る透明基材の形状に応じて、例えば平板、特定の曲面形状による賦型用金型を使用した枚葉の処理により反射防止物品を作成する場合等、賦型処理に係る工程、金型は、反射防止物品の形状に係る透明基材の形状に応じて適宜変更することができる。
又、上述の実施形態では、画像表示パネルの表側面、或いは、照明光の入射面にフィルム形状による反射防止物品を配置する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、種々の用途に適用することができる。具体的には、画像表示パネルの画面上に間隙を介して設置されるタッチパネル、各種の窓材、各種光学フィルタ等による表面側部材の裏面(画像表示パネル側)に配置する用途に適用することができる。なおこの場合には、画像表示パネルと表面側部材との間の光の干渉によるニュートンリング等の干渉縞の発生の防止、画像表示パネルの出光面と表面側部材の入光面側との間の多重反射によるゴースト像の防止、更には、画面から出光されてこれら表面側部材に入光する画像光について、反射損失の低減等の効果を奏することができる。
又、店舗のショウウインドウや商品展示箱、美術館の展示物の展示窓や展示箱等に使用する硝子板表面(外界側)、或いは表面及び裏面(商品又は展示物側面)の両面に配置するようにしてもよい。なおこの場合、該硝子板表面の光反射防止による商品、美術品等の顧客や観客に対する視認性を向上することができる。
又、眼鏡、望遠鏡、写真機、ビデオカメラ、銃砲の照準鏡(狙撃用スコープ)、双眼鏡、潜望鏡等の各種光学機器に用いるレンズ又はプリズムの表面に配置する場合にも広く適用することができる。この場合、レンズ又はプリズム表面の光反射防止による視認性を向上することができる。又、更に書籍の印刷部(文字、写真、図等)表面に配置する場合にも適用して、文字等の表面の光反射を防止し、文字等の視認性向上することができる。又、看板、ポスター、其の他各種店頭、街頭、外壁等に於ける各種表示(道案内、地図、或いは禁煙、入口、非常口、立入禁止等)の表面に配置して、これらの視認性を向上することができる。又、更に白熱電球、発光ダイオード、螢光燈、水銀燈、EL(電場発光)等を用いた照明器具の窓材(場合によっては、拡散板、集光レンズ、光学フィルタ等も兼ねる)の入光面側に配置するようにして、窓材入光面の光反射を防止し、光源光の反射損失を低減し、光利用効率を向上することができる。又、更に時計、其の他各種計測機器の表示窓表面(表示観察者側)に配置して、これら表示窓表面の光反射を防止し、視認性を向上することができる。
又、更に、自動車、鉄道車両、船舶、航空機等の乗物の操縦室(運転室、操舵室)の窓の室内側、室外側、或いはその両側の表面に配置して窓における室内外光を反射防止して、操縦者(運転者、操舵者)の外界視認性を向上することができる。又、更に、防犯等の監視、銃砲の照準、天体観測等に用いる暗視装置のレンズ若しくは窓材表面に配置して、夜間、暗闇での視認性を向上することができる。
又、更に、住宅、店舗、事務所、学校、病院等の建築物の窓、扉、間仕切、壁面等を構成する透明基板(窓硝子等)の表面(室内側、室外側、あいはその両側)の表面に配置して、外界の視認性、或いは採光効率を向上することができる。
又、更に、上述の実施形態においては、反射防止を図る電磁波の波長帯域を、専ら、可視光線帯域(の全域又は一部帯域)としたが、本発明はこれに限らず、反射防止を図る電磁波の波長帯域を赤外線、紫外線等の可視光線以外の波長帯域に設定してもよい。その場合は前記の各条件式中において、電磁波の波長帯域の最短波長Λminを、それぞれ、赤外線、紫外線等の波長帯域に於ける反射防止効果を希望する最短波長に設定すればよい。例えば、最短波長Λminが850nmの赤外線帯域の反射防止を希望する場合は、隣接突起間距離d(若しくは其の最大値dmax)を850nm以下、例えば、d(dmax)=800nmと設計すればよい。尚、この場合は、可視光線帯域(380〜780nm)においては反射防止効果は期待し得ず、専ら波長850nm以上の赤外線に対しての反射防止効果を奏する反射防止物品が得られる。
以上例示の各種実施形態において、硝子板等の透明基板の表面、裏面、或いは表裏両面に本発明のフィルム状の反射防止物品を配置する場合、該透明基板の全面にわたって配置、被覆する以外に、一部分の領域にのみ配置することも出来る。かかる例としては、例えば、1枚の窓硝子について、其の中央部分の正方形領域において、室内側表面にのみフィルム状の反射防止物品を粘着剤で貼着し、その他領域には反射防止物品を貼着し無い場合を挙げることが出来る。透明基板の一部分の領域にのみ反射防止物品を配置する形態の場合は、特別な表示や衝突防止柵等の設置無しでも、該透明基板の存在を視認し易くして、人が該透明基板に衝突、負傷する危険性を低減する効果、及び室内(屋内)の覗き見防止と該透明基板の(該反射防止物品の配置領域における)透視性とが両立出来ると言う効果を奏し得る。
又、上記と同条件で陽極酸化処理を実行した場合の、微小突起群の形成面を上方から観察したところ、画像解析により存在を確認できた219個の微小突起のうち、少なくとも8%以上の微小突起が、環状微小突起群の内核微小突起であり、環状微小突起群構成比率が10%以上あることが確認された。