JP2014025139A - 絶縁被膜付き電磁鋼板 - Google Patents

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【課題】絶縁被膜中にクロム化合物を含まずとも絶縁性、耐テンションパッド性、および打抜き性のいずれにも優れた絶縁被膜付き電磁鋼板を提供する。
【解決手段】本発明の絶縁被膜付き電磁鋼板は、水素、アルキル基、およびフェニル基から選ばれた少なくとも1種の非反応性置換基のみからなるトリアルコキシシランおよびジアルコキシシラン、ならびに、テトラアルコキシシランから選択される少なくとも1種(A)と、シランカップリング剤(B)と、シリカ粒子(C)と、水とを含む表面処理剤を電磁鋼板の少なくとも片面に塗布、乾燥して成る絶縁被膜を有し、該絶縁被膜におけるシリカ粒子の割合がSi換算で10〜60%であり、前記絶縁被膜の表面における凝集粒子の平均最大粒子径が3.50μm以下であることを特徴とする。
【選択図】図1

Description

本発明は、絶縁被膜付き電磁鋼板に関する。本発明は特に、絶縁被膜中にクロム化合物を含まずとも絶縁性、耐テンションパッド性、および打抜き性のいずれにも優れた絶縁被膜付き電磁鋼板に関する。
モータや変圧器などに使用される電磁鋼板の絶縁被膜には、重ねた鋼板間の絶縁性能である層間抵抗だけでなく、打抜き性など種々の特性が要求される。電磁鋼板は多様な用途に使用されるため、その用途に応じて種々の絶縁被膜の開発が行われている。例えばコイルのスリットなどを行う場合には、鋼板を押さえるために用いるフェルト状のテンションパッドで鋼板表面をこする際の被膜の剥がれにくさである、いわゆる耐テンションパッド性が求められる。
電磁鋼板の絶縁被膜は、大別して
(1)溶接性、耐熱性を重視し、歪取り焼鈍に耐える無機被膜、
(2)打抜性、溶接性の両立を目指し歪取り焼鈍に耐える樹脂含有の無機被膜(すなわち、半有機被膜)、
(3)特殊用途で歪取り焼鈍不可の有機被膜
の3種に分類されるが、汎用品として歪取り焼鈍に耐えるのは、上記(1),(2)に示した無機成分を含む被膜であり、これらは両者ともクロム化合物を含むものが一般的であった。
しかし、昨今、環境意識が高まり、電磁鋼板の分野においてもクロム化合物を含まない絶縁被膜を有するクロメートフリーの製品が需要家などから望まれている。クロム化合物は含まず、有機成分と無機成分の両方を含む表面処理剤を電磁鋼板表面に塗布して、上記(2)に該当する絶縁被膜を形成する技術には、以下のようなものがある。
特許文献1には、コロイド状シリカ、アルミナゾル、ジルコニアゾルの1種または2種以上よりなる無機コロイド状物質に対して、水溶性またはエマルジョンタイプの樹脂の1種または2種以上からなる有機物を加えた水溶液を表面処理剤として、歪取り焼鈍前の耐食性などに優れた絶縁被膜を形成する技術が記載されている。
特許文献2には、Alの第一リン酸塩溶液を100重量部と、ほう酸1〜20重量部およびコロイダルシリカ1〜50重量部の何れかまたは両方と、粒子径0.3〜3.0μmの有機樹脂エマルジョン1〜300重量部とを主成分とする処理液を表面処理剤として、溶接性、密着性および歪取り焼鈍後の滑り性に優れた絶縁被膜を形成する技術が記載されている。
また、特許文献3には、ポリシロキサンと各種有機樹脂とを共重合したポリシロキサン重合体と、シリカ、シリケート等の無機化合物とからなる絶縁被膜を有する、耐食性、密着性、耐溶剤性、耐スティキング性に優れた電磁鋼板が記載されている。
特開平10−46350号公報 特開平6−330338号公報 特開2007−197820号公報
しかしながら、上記従来の絶縁被膜では、近年の電磁鋼板に求められる様々な特性の一部である絶縁性、耐テンションパッド性、および打抜き性のいずれをもバランス良く得ることはできなかった。具体的には、特許文献1では、被膜密着性には優れるものの、絶縁性は十分に得ることができない。また、特許文献2および特許文献3では、付着量を増やすことで比較的良好な絶縁性は得られるものの、耐テンションパッド性は十分に得ることができない。
そこで本発明は、上記課題に鑑み、絶縁被膜中にクロム化合物を含まずとも絶縁性、耐テンションパッド性、および打抜き性のいずれにも優れた絶縁被膜付き電磁鋼板を提供することを目的とする。
上記目的を達成することが可能な本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
(1)水素、アルキル基、およびフェニル基から選ばれた少なくとも1種の非反応性置換基のみからなるトリアルコキシシランおよびジアルコキシシラン、ならびに、テトラアルコキシシランから選択される少なくとも1種(A)と、シランカップリング剤(B)と、シリカ粒子(C)と、水とを含む表面処理剤を電磁鋼板の少なくとも片面に塗布、乾燥して成る絶縁被膜を有し、
該絶縁被膜におけるシリカ粒子の割合がSi換算で10〜60%であり、
前記絶縁被膜の表面における凝集粒子の平均最大粒子径が3.50μm以下であることを特徴とする絶縁被膜付き電磁鋼板。
(2)前記絶縁被膜の表面における凝集粒子の平均最大粒子径が1.50μm以下である上記(1)に記載の絶縁被膜付き電磁鋼板。
(3)前記絶縁被膜の表面における凝集粒子の平均最大粒子径が0.30μm以上である上記(1)または(2)に記載の絶縁被膜付き電磁鋼板。
本発明によれば、絶縁被膜中にクロム化合物を含まずとも絶縁性、耐テンションパッド性、および打抜き性のいずれにも優れた絶縁被膜付き電磁鋼板を提供することができる。
本発明に従う電磁鋼板(発明例No.5)の絶縁被膜表面を観察したSEM画像である。 本発明に従う他の電磁鋼板(発明例No.20)の絶縁被膜表面を観察したSEM画像である。
以下、本発明の実施の形態を具体的に説明する。
<電磁鋼板>
本発明において、素材である電磁鋼板としては、特に制限はなく、従来から公知のものいずれもが適合する。すなわち、磁束密度の高いいわゆる軟鉄板(電気鉄板)やSPCCなどの一般冷延鋼板、また比抵抗を上げるためにSiやAlを含有させた無方向性電磁鋼板などいずれもが有利に適合する。
<絶縁被膜>
本発明の電磁鋼板の表面に形成される絶縁被膜は、Siに結合する置換基が、水素、アルキル基、およびフェニル基から選ばれた少なくとも1種の非反応性置換基のみからなるトリアルコキシシランおよびジアルコキシシラン、ならびに、テトラアルコキシシランから選択される少なくとも1種(A)と、シランカップリング剤(B)と、シリカ粒子(C)と、水とを含む表面処理剤を電磁鋼板の少なくとも片面に塗布、乾燥して成る。
既述の目的を達成すべく、本発明者らはシランカップリング剤などのシラン系の表面処理剤から得る半有機被膜を種々検討したところ、以下の知見を得た。
まず、本発明に用いる表面処理剤では、有機成分として、トリアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、および、テトラアルコキシシランから選択される少なくとも1種(A)とシランカップリング剤(B)との組み合わせを用いた。このようなシラン化合物(A)とシランカップリング剤(B)とを水中で混合して得た表面処理剤を用いることにより、電磁鋼板上で十分な耐食性を得られることがわかった。
次に、本発明に用いる表面処理剤にはシリカ粒子(C)を含む。本発明者らの検討によれば、上記(A)および(B)のみ含む表面処理剤から得た絶縁被膜の場合、付着量を多くしないと十分な絶縁性、すなわち層間抵抗を得ることができなかった。そこで、シリカ粒子(C)をさらに含む表面処理剤で絶縁被膜を形成し、絶縁被膜にシリカ粒子を含有させたところ、層間抵抗が上昇し、良好な絶縁性を得ることができることを見出した。
表面処理剤の成分(A),(B)に由来するシラン成分のみの絶縁被膜では、鋼板の凸部における膜厚が薄くなること、また鋼板表面が電極と接触する際に圧力により容易に潰れることにより、層間抵抗が下がるものと考えられる。絶縁被膜にシリカ粒子を含有させることにより、鋼板の凸部においてもシリカ粒子のサイズに対応する膜厚が維持できること、鋼板表面に圧力がかかった場合でも絶縁被膜が潰れにくくなることで、層間抵抗が増加するものと、本発明者らは考えている。なお、同様の理由で、鋼板を重ねて加圧焼鈍する際に鋼板同士が接触することで鉄損が上昇すること(スティッキング)のしにくさを現す耐スティッキング性も向上する。
しかし、本発明者らのさらなる検討によれば、(A)および(B)のみ含む表面処理剤から得た絶縁被膜と比較して、(C)をさらに含む表面処理剤から得た絶縁被膜の場合、耐テンションパッド性が大きく低下する場合があることがわかった。この原因を調査したところ、本発明者らは以下の重要な知見を得た。すなわち、(C)をさらに含む表面処理剤から得た絶縁被膜表面を観察したところ、表面処理剤中のシリカ粒子(一次粒子)より大きなサイズの被膜成分からなる粒子状物質(以下、「凝集粒子」という。)が形成されていた。これは、表面処理剤の成分(A),(B)に由来するシラン成分とシリカ粒子(C)とが凝集して形成された被膜成分の集合体であると考えられる。そして、被膜表面に位置する凝集粒子のサイズが大きいほど、当該凝集粒子がテンションパッドでこすった際の被膜の損傷の起点となることが判明した。
そこで、本発明者らは、絶縁被膜の表面における凝集粒子のサイズを所定値以下とすることにより、高い層間抵抗と良好な耐テンションパッド性を両立させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
トリアルコキシシランの種類は特に限定されず、一般式R1Si(OR’)で示され、それらの1種以上を用いることができる。R1は水素、アルキル基、およびフェニル基から選ばれる非反応性置換基である。R1がアルキル基の場合は、好ましくは炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルキル基であり、更に好ましくは炭素数1〜3の直鎖または分岐のアルキル基である。R’はアルキル基であり、好ましくは炭素数1〜4の直鎖または分岐のアルキル基であり、更に好ましくは炭素数1〜2の直鎖または分岐のアルキル基である。例えば、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、およびこれらの加水分解物などが使用できる。なかでも、電磁鋼板の耐食性がより優れるという観点からアルキル基を有するトリアルコキシシランが好ましい。
ジアルコキシシランの種類は特に限定されず、一般式R2R3Si(OR’’)で示され、それらの1種以上を用いることができる。ここで、R2およびR3は水素、アルキル基、およびフェニル基から選ばれる非反応性置換基であり、好ましくは炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルキル基であり、更に好ましくは炭素数1〜3の直鎖または分岐のアルキル基である。R’’はアルキル基であり、好ましくは炭素数1〜4の直鎖または分岐のアルキル基であり、更に好ましくは炭素数1〜2の直鎖または分岐のアルキル基である。例えば、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、およびこれらの加水分解物などが使用できる。なかでも、電磁鋼板の耐食性がより優れるという観点からアルキル基を有するジアルコキシシランが好ましい。
テトラアルコキシシランの種類は特に限定されず、一般式Si(OR’’’)で示され、それらの1種以上を用いることができる。R’’’はアルキル基であり、好ましくは炭素数1〜4の直鎖または分岐のアルキル基であり、更に好ましくは炭素数1〜2の直鎖または分岐のアルキル基である。例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、およびこれらの加水分解物などが使用できる。なかでも、電磁鋼板の耐食性がより優れるという観点から、テトラエトキシシランおよびテトラメトキシシランが好ましい。
シランカップリング剤(B)の種類は特に限定されず、一般式XSi(R4)(OR)3−n(ここで、nの範囲は0〜2)で示され、それらの1種以上を同時に用いることができる。Xは活性水素含有アミノ基、エポキシ基、メルカプト基およびメタクリロキシ基から選ばれる少なくとも1種の反応性官能基である。R4はアルキル基であり、好ましくは炭素数1〜4の直鎖または分岐のアルキル基であり、更に好ましくは炭素数1〜2の直鎖または分岐のアルキル基である。ORは任意の加水分解性基であり、Rは例えばアルキル基であり、好ましくは炭素数1〜4の直鎖または分岐のアルキル基であり、更に好ましくは炭素数1〜2の直鎖または分岐のアルキル基である。また、Rは例えばアシル基(−COR5)であり、R5は好ましくは炭素数1〜4の直鎖または分岐のアルキル基であり、更に好ましくは炭素数1〜2の直鎖または分岐のアルキル基である。シランカップリング剤(B)として例えば、N−(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、およびこれらの加水分解物などが使用できる。なかでも、電磁鋼板の耐食性がより優れるという観点からアミノ基またはエポキシ基を有するシランカップリング剤が好ましい。
トリアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、および、テトラアルコキシシランから選択される少なくとも1種(A)とシランカップリング剤(B)との質量比(A/B)は特に限定されないが、好ましくは0.05〜1.0の範囲とし、より好ましくは0.1〜0.5の範囲とする。質量比が1.0以下であれば、シランカップリング剤(B)が主成分となるため、絶縁被膜の強靭性を十分に得ることができるため、より十分な耐テンションパッド性を得ることができ、質量比が0.05以上であれば、電磁鋼板のTIG溶接性が十分に得られるからである。
本発明では、絶縁被膜におけるシリカ粒子の割合をSi換算で10〜60%とし、絶縁被膜の表面における凝集粒子の平均最大粒子径を3.50μm以下とする。これらの条件を満足することができれば、表面処理剤中のシリカ粒子(C)の条件は特に限定されない。
シリカ粒子(C)の種類は特に限定されず、コロイダルシリカ、乾式シリカ(気相シリカとも称される)、および板状シリカを用いることができる。例えば、日産化学(株)製のスノーテックスC、N、20、OS、OXS、OL(いずれも商品名)、日本アエロジル(株)製のAEROSIL50、130、200、300、380(いずれも商品名)、および異方性を有する板状のシリカ粒子などが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。また、シリカ粒子の化合物形態は非晶質、結晶質を問わず、製造方法も問わない。シリカ粒子には分散性やシランとの反応性を高めるための表面処理が施されていても良い。
表面処理剤に添加するシリカ粒子(C)の平均粒子径、すなわち絶縁被膜中のシリカ粒子(一次粒子)の平均粒子径は特に限定されないが、異方性のないコロイダルシリカや乾式シリカの場合、10〜300nmの範囲とすることが好ましい。10nm以上であれば、被膜の層間抵抗を向上させる効果が十分に発現するからであり、300nm以下とすれば、シリカ粒子自体が被膜に凸部を作ってしまうこともなく、また、シリカ粒子を起点として凝集粒子が成長しやすくもないため、より良好な耐テンションパッド性を得ることができるからである。また、板状シリカの場合、平均粒子径が0.08〜0.9μmかつアクペクト比が10〜100の範囲であることが好ましく、平均粒子径は0.1〜0.5μm程度、アスペクト比は20〜90とすることがより好ましい。板状シリカ(C)の粒子径が0.9μm以下の場合かつアスペクト比が100以下の場合には、耐テンションパッド性が十分となる。なお、本明細書において「絶縁被膜中のシリカ粒子の平均粒子径」は、走査型電子顕微鏡(SEM)または透過型電子顕微鏡(TEM)にて絶縁被膜を観察したときに観察視野に含まれるシリカ粒子から任意に選択した10個のシリカ粒子の直径の平均値とする。その際、異方性を有する板状シリカ粒子については、板状シリカの厚みに垂直な面における長径を上記「直径」として算出する。また、本明細書において板状シリカの「アスペクト比」とは、SEMにて観察したときの、各粒子についての板状シリカの厚みに垂直な面における長径/最大厚みの比の値を、視野中の10個の粒子について平均した値を意味するものとする。
表面処理剤中のシリカ粒子(C)の含有量(固形分)は、絶縁被膜におけるシリカ粒子の割合を上記範囲に設定するように、適宜選択すればよく、例えば表面処理剤の全固形分に対し10〜45質量%とすればよい。
本発明において絶縁被膜におけるシリカ粒子の割合をSi換算で10〜60%とする意義は以下のとおりである。すなわち、10%未満であると、絶縁被膜中のシリカ粒子が少ないため、十分な層間抵抗を得ることができない。また、60%超えの場合、打抜き性が大幅に低下するため好ましくない。シリカ含有量はこの範囲で重要とする特性、たとえば連続打抜き性などに合わせて調整することができる。
ここで、本明細書における「絶縁被膜におけるSi換算でのシリカ粒子の割合」は、絶縁被膜中の全Siに対するシリカ粒子のSiの割合を意味し、具体的には、絶縁被膜を電子マイクロアナライザ(EPMA)で測定し、炭素CとSiの各信号強度から以下のように測定・算出するものとする。まず、シリカ粒子を含まない以外は測定対象の絶縁被膜を得るのに用いた表面処理剤と同じ表面処理剤から得た絶縁被膜について、EPMA測定を行い、CとSiの信号強度の関係から、シリカ粒子を含まずシラン成分を含むこの絶縁被膜中における、シラン成分に起因するSi強度のCに対する割合を求める。次に、シリカを含む測定対象の絶縁被膜のC強度に対して前記割合を乗じて、測定対象の絶縁被膜のシラン成分に起因するSi強度を求める(Isi[シラン])。測定対象の絶縁被膜のSi強度からIsi[シラン]を差し引くことにより、シリカ粒子に起因するSi強度(Isi[シリカ])が得られる。シリカの割合(Si換算)は、100 × Isi[シリカ] /(Isi[シラン]+Isi[シリカ])より求まる。
また、本発明において絶縁被膜の表面における凝集粒子の平均最大粒子径を3.50μm以下とする意義は以下のとおりである。すなわち、本発明者らの検討によれば、凝集粒子の平均最大粒子径が3.50μmを超えると、耐テンションパッド性が著しく低下する。ここで、より良好な耐テンションパッド性を得る観点から、平均最大粒子径は1.50μm以下とすることが好ましい。凝集粒子の平均最大粒子径の下限はとくに規定しない。シリカ粒子の平均粒子径およびシリカ粒子の割合が先に規定した範囲内であれば、電磁鋼板の特性として十分であるからである。しかし、少ない付着量でより高い層間抵抗を得るためには、多少凝集させたほうがある有利ではある。その場合は、凝集粒子の平均最大粒子径を0.30μm以上とすることで効果が現れる。
ここで、本明細書における「凝集粒子の平均最大粒子径」は、以下のようにして求める。まず、凝集粒子の粒子径は、絶縁被膜の表面を真上からSEM観察して求める。異方性を有する凝集粒子は、最大幅を粒子径とする。そして、平均的なサイズの凝集粒子が50個含まれる視野の中で、最も大きい2つの凝集粒子の粒子径の平均を「凝集粒子の平均最大粒子径」とする。なお、SEM観察条件は、特に限定されるものではないが、加速電圧0.1〜5.0kV、および倍率300〜20000倍程度であれば十分に観察できる。具体的には、図1および図2に凝集粒子(例えば矢印箇所)を観察した例を示す。これらの被膜の形成条件は後述するが、図1には3μm程度、図2には300nm程度の粒子径の凝集粒子がそれぞれ形成されていることがわかる。
なお、絶縁被膜には偶発的に平均的なサイズの凝集粒子よりも明らかに大きな凝集粒子がごく僅かに存在する場合がある。しかし、本明細書における「凝集粒子の平均最大粒子径」は、被膜の平均的な状況を表すものであるため、このような偶発的に形成された大きな凝集粒子は含めずに算出している。具体的には、上記観察視野のサイズで複数の視野を観察して平均1個未満でしか存在しないサイズの粒子は含めない。
絶縁被膜における凝集粒子の平均最大粒子径は、表面処理剤中のシリカ粒子の一次粒子のサイズのみならず、表面処理剤中のシリカ粒子の凝集度合いに大きく依存する。このため、凝集粒子の平均最大粒子径は、主に、添加するシリカ粒子の種類を選択すること、および、表面処理剤の撹拌時間を調整することによって、適宜制御することができる。すなわち、コロイダルシリカや板状シリカは、一次粒子の状態で水分散され、ほとんど凝集していない状態の分散液として市販されており、表面処理剤中においても、凝集度合いは小さい。このような場合、絶縁被膜中の凝集粒子も小さくなる傾向がある。一方、乾式シリカは粉末の状態で市販されており、表面処理剤中では大部分が凝集した二次粒子として存在する。このような場合、絶縁被膜中の凝集粒子も大きくなる傾向がある。さらに、凝集粒子の平均最大粒子径は、表面処理剤の撹拌時間にも依存する。表面処理剤の撹拌時間を長くするほど、表面処理剤中のシリカ粒子の凝集度合いが小さくなるため、凝集粒子の平均最大粒子径は小さくなり、撹拌時間が短いほど、表面処理剤中のシリカ粒子の凝集度合いが大きくなるため、凝集粒子の平均最大粒子径も大きくなる。
また、被膜付着量が少なすぎると絶縁被膜が凝集を起こしやすくなる。よって、被膜付着量を片面当たり0.3g/m以上とすることにより、絶縁被膜がより安定して、粗大な凝集粒子を作りにくくなる。また、被膜形成の前処理として、鋼板表面の脱脂を強化することも凝集を抑制する効果がある。以上の指針に従って、絶縁被膜を作製することで、本発明に従う電磁鋼板を過度の試行錯誤を行なわずに得ることができる。
更に、本発明に使用される表面処理剤には、耐テンションパッド性を向上させるため、潤滑剤(D)を添加することができる。潤滑剤(D)としては、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、酸化ポリプロピレンワックス、カルナバワックス、パラフィンワックス、モンタンワックス、ライスワックス、テフロン(登録商標)ワックス、2硫化炭素、グラファイトなどの固体潤滑剤が挙げられる。また潤滑剤(D)としては、ノニオン性アクリル樹脂を用いてもよい。ノニオン性アクリル樹脂としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレンなどのビニル系モノマーをポリエチレンオキサイドあるいはポリプロピレンオキサイドを構造上にもつノニオン系界面活性剤(乳化剤)の存在下、水中で乳化重合した水系エマルション等、ノニオン性乳化剤で乳化されたアクリル樹脂が挙げられる。これらの固体潤滑剤の中から、1種または2種以上を用いることができる。
本発明に使用される潤滑剤(D)の含有量は、表面処理剤の全固形分に対し1〜15質量%含有することが好ましく、1.5〜13質量%がより好ましい。1質量%以上の場合、耐テンションパッド性をさらに向上させることができ、15質量%以下の場合、十分なTIG溶接性を維持することができる。
表面処理剤は、上記した成分を脱イオン水、蒸留水などの水中で混合することにより得られる。表面処理剤の固形分割合は適宜選択すればよい。また、表面処理剤には、必要に応じてアルコール、ケトン、セロソルブ系の水溶性溶剤、界面活性剤、消泡剤、レベリング剤、pH調整剤、防菌防カビ剤などを添加してもよい。これらを添加することにより、表面処理剤の乾燥性、塗布外観、作業性、意匠性が向上する。ただし、これらは本発明で得られる品質を損なわない程度に添加することが重要であり、添加量は多くても表面処理剤の全固形分に対して5質量%未満である。
先述のとおり、本発明においては、電磁鋼板の表面に表面処理剤を塗布、乾燥、好ましくは加熱乾燥することにより、被膜を形成する。表面処理剤を電磁鋼板に塗布する方法としては、ロールコート法、バーコート法、浸漬法、スプレー塗布法などが挙げられ、処理される電磁鋼板の形状などによって適宜最適な方法が選択される。より具体的には、例えば、電磁鋼板がシート状であればロールコート法、バーコート法またはスプレー塗布法を選択できる。スプレー塗布法は、表面処理剤を電磁鋼板にスプレーしてロール絞りや気体を高圧で吹きかけて塗布量を調整する方法である。電磁鋼板が成型品とされている場合であれば、表面処理剤に浸漬して引き上げ、場合によっては圧縮エアーで余分な表面処理剤を吹き飛ばして塗布量を調整する方法などが選択される。
電磁鋼板の表面に塗布した表面処理剤を、乾燥する際の加熱温度(最高到達板温)は、通常80〜350℃であり、100〜300℃であることがより好ましい。加熱温度が80℃以上であれば被膜中に主溶媒である水分が残存しないため、また、加熱温度が350℃以下であれば被膜のクラック発生が抑制されるため、電磁鋼板の耐食性低下などの問題を生じることがない。また、加熱時間は、使用される電磁鋼板の種類などによって適宜最適な条件が選択される。なお、生産性などの観点からは、0.1〜60秒が好ましく、1〜30秒がより好ましい。
また、電磁鋼板の前処理については特に限定されず、表面処理剤を塗布する前に、必要に応じて、電磁鋼板の油分、汚れ、および酸化膜を除去することを目的とした前処理を電磁鋼板に施してもよい。電磁鋼板は、防錆目的で防錆油が塗られている場合が多く、また、防錆油で塗油されていない場合でも、作業中に付着した汚れや酸化膜などがある。また、これらの塗油、汚れ、および酸化膜は、電磁鋼板の表面の濡れ性を阻害し、均一な被膜を形成する上で支障をきたすが、上記の前処理を施すことにより、電磁鋼板の表面が清浄化され、均一に濡れやすくなる。電磁鋼板の表面上に油分、汚れ、および酸化膜などがなく、表面処理剤が均一に濡れる場合は、前処理工程は特に必要はない。なお、前処理の方法は特に限定されず、例えば湯洗、溶剤洗浄、アルカリなどによる脱脂処理や、塩酸、硫酸、リン酸などによる酸洗処理などの方法が挙げられる。鋼板表面の脱脂を強化することで、凝集粒子のサイズを小さくできることは既述のとおりである。
また、絶縁被膜付電磁鋼板は、歪取り焼鈍を施して、例えば、打抜き加工による歪みを除去することができる。好ましい歪取り焼鈍雰囲気としては、N雰囲気、DXガス雰囲気などの鉄が酸化されにくい雰囲気が適用される。ここで、露点(Dp)を高く、例えばDp:5〜60℃程度に設定し、表面および切断端面を若干酸化させることで耐食性をさらに向上させることができる。また、好ましい歪取り焼鈍温度としては700〜900℃、より好ましくは700〜800℃である。歪取り焼鈍温度の保持時間は長い方が好ましく、例えば2時間以上とする。
電磁鋼板の被膜付着量は特に限定しないが、片面当たり0.05〜5g/m程度とすることが好ましい。付着量、すなわち本発明の絶縁被膜の全固形分質量は、アルカリ剥離による被膜除去後の重量減少から測定することができる。また、付着量が少ない場合には、アルカリ剥離法によって測定した付着量既知の標準試料を蛍光X線分析により測定し得た検量線から測定することができる。付着量が0.05g/m以上であれば、耐食性と共に絶縁性を満足することができ、一方5g/m以下であれば、被膜密着性が向上するだけでなく、加熱乾燥時にふくれが発生することがない。より好ましくは0.1〜3.0g/mである。絶縁被膜は鋼板の両面に形成することが好ましいが、目的によっては片面のみでもよく、他面は他の絶縁被膜としても構わない。被膜付着量で凝集粒子のサイズを制御しようとする場合、被膜付着量を片面当たり0.3g/m以上とすることが好ましいことは既述のとおりである。
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
(1)素材
板厚:0.5mmの電磁鋼板〔A230(JIS C 2552(2000))〕を供試材として使用した。
(2)表面処理剤
表1に示す成分(A)と、3官能のエポキシ系でSiO比率が27%のシランカップリング剤(B)(3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)を、質量比で1:4とし、表1に示す成分(C)のシリカを表1に示す添加量で水中で混合し、表1に示す時間だけ撹拌を行い、表面処理剤を得た。以下に、表1で使用した化合物について説明する。
<トリアルコキシシラン/ジアルコキシシラン/テトラアルコキシシラン>
A1:テトラメトキシシラン
A2:メチルトリメトキシシラン
A3:ジメチルジメトキシシラン
A4:フェニルトリメトキシシラン
<シリカ粒子>
表1に示す表面処理剤中のシリカの平均粒子径のうち、コロイダルシリカの平均粒子径は、市販の分散液(日産化学工業株式会社製)で粒子径として表示されている値である。また、板状シリカの粒子径は、表面処理剤中に分散させ、レーザー回折により測定したメジアン径を表1に示した。また、アスペクト比は20のものを用いた。乾式シリカは一次粒子として(日本アエロジル社製)のAEROSILグレード300を用いて、平均粒子径は、表面処理剤の中で凝集した2次粒子の平均粒子径を示した。なお、表1中「乾式シリカ」は、粉末状の乾式シリカを添加して表面処理剤としたもの、「乾式シリカ(水分散)」は、粉末状の乾式シリカを予め水分散させた後、この水分散液を添加して表面処理剤としたもの、を意味する。
(3)処理方法
連続焼鈍ラインにおいて所定の材質を得るための焼鈍を行った後、鋼板が冷却された段階でロールコーター塗装にて表面処理剤を添付し、オーブンにて最高到達板温が140℃となる様にして乾燥させ、表1に示される片面当たりの付着量の絶縁被膜を試験板の両面に形成させた。被膜付着量は蛍光X線装置でSiのK線を測定することで評価した。ロールコーター条件としては、3ロールでフルリバース方式とした。なお、乾燥温度は試験板表面の到達温度を示す。
(絶縁被膜の構造の評価)
(1)シリカ粒子の割合(Si換算)
電子マイクロアナライザ(日本電子株式会社製、JXA-8200)を用いて既述の方法により求めた。結果を表1に示す。
(2)シリカ粒子の平均粒子径
走査型電子顕微鏡(Carl Zeiss社製:SUPRA55VP)を用いて、加速電圧0.5kVで絶縁被膜表面を観察した画像から、段落[0032]で既述の方法により求めた。結果を表1に示す。
(3)凝集粒子の平均最大粒子径
走査型電子顕微鏡(Carl Zeiss社製:SUPRA55VP)を用いて、加速電圧0.5kVでチャンバー検出器を用いて絶縁被膜表面を観察した画像から、既述の方法により求めた。結果を表1に示す。なお、図1は発明例No.5、図2は発明例No.20の絶縁被膜表面を観察したSEM画像である。
(評価方法)
(1)層間抵抗
接触子を有する市販の層間抵抗試験機を用いてJIS C2550に準拠して測定した。10点測定の平均値が1.5Ω/cm/枚以上を合格とした。
(2)耐テンションパッド性(ラビング被膜残存率)
面積が10mm×10mmのテンションパッドを用い、太平理化工業(株)製ラビングテスターにて、24.5N(2.5kgf)の荷重をかけ試験板表面を100往復擦った。擦った部分とその近傍の付着量測定を行い、100往復後の絶縁被膜残存率を算出した。絶縁被膜の付着量はSiの蛍光X線強度を測定し、付着量既知の標準板により得られた検量線から求めた。被膜残存量が65%以上を使用可能、85%以上を良好とした。
(3)打抜き性
試験板に対して、15mmφスチールダイスを用いて、かえり高さが50μmに達するまで打ち抜きを行い、その打ち抜き数で評価した。
(判定基準)
○:100万回以上
△:30万回以上、100万回未満
×:30万回未満
各発明例および比較例の絶縁被膜付き電磁鋼板について、上記の評価を行った結果を表1に示す。
表面処理剤にシリカ粒子を含まない比較例(No.1,24,33,40)やシリカ粒子の添加量が少ない比較例(No.13)では、十分な層間抵抗が得られなかった。また、比較例No.9〜11,21,29は絶縁被膜中に10%以上の割合でシリカ粒子を含むため、層間抵抗には優れるものの、凝集粒子の平均最大粒子径が大きく、ラビング被膜残存率が低い。すなわち、耐テンションパッド性に劣る。さらに、比較例No.18,28は絶縁被膜中におけるシリカ粒子の割合がSi換算で60%超えであるため、打抜き性に劣る。
一方、全ての発明例では、絶縁被膜中におけるシリカ粒子の割合がSi換算で10〜60%であり、絶縁被膜表面の凝集粒子の平均最大粒子径を3.50μm以下に制限したため、高い層間抵抗(1.5Ω/cm/枚以上)と良好な耐テンションパッド性(被膜残存量が65%以上)を両立できた。特に、凝集粒子の平均最大粒子径1.50μm以下の発明例は、ラビング被膜残存率が85%以上と明らかに高く、特に優れた耐テンションパッド性を有することがわかる。また、凝集粒子の平均最大粒子径が0.30μm以上の発明例は、0.3μm未満の発明例よりもさらに層間抵抗が高い傾向にあることがわかる。
以上のように、本発明によれば、層間抵抗、耐テンションパッド性、打抜き性に優れた電磁鋼板を提供できる。また、耐食性など他の性能に従来技術と比較して著しく劣る部分はなく、特に耐スティッキング性では従来技術より高い値を示した。
本発明によれば、絶縁被膜中にクロム化合物を含まずとも絶縁性、耐テンションパッド性、および打抜き性のいずれにも優れた絶縁被膜付き電磁鋼板を提供することができる。

Claims (3)

  1. 水素、アルキル基、およびフェニル基から選ばれた少なくとも1種の非反応性置換基のみからなるトリアルコキシシランおよびジアルコキシシラン、ならびに、テトラアルコキシシランから選択される少なくとも1種(A)と、シランカップリング剤(B)と、シリカ粒子(C)と、水とを含む表面処理剤を電磁鋼板の少なくとも片面に塗布、乾燥して成る絶縁被膜を有し、
    該絶縁被膜におけるシリカ粒子の割合がSi換算で10〜60%であり、
    前記絶縁被膜の表面における凝集粒子の平均最大粒子径が3.50μm以下であることを特徴とする絶縁被膜付き電磁鋼板。
  2. 前記絶縁被膜の表面における凝集粒子の平均最大粒子径が1.50μm以下である請求項1に記載の絶縁被膜付き電磁鋼板。
  3. 前記絶縁被膜の表面における凝集粒子の平均最大粒子径が0.30μm以上である請求項1または2に記載の絶縁被膜付き電磁鋼板。
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