JP2014015514A - 多孔質熱可塑性樹脂シート及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 本発明は、シート厚が厚く、かつ平坦性に優れる多孔質熱可塑性樹脂シートの製造方法及び当該製造方法により得られる多孔質熱可塑性樹脂シートを提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明の多孔質熱可塑性樹脂シートの製造方法は、対向する平坦板の間にスペーサーを設置して所定厚みの空間を設けた型の当該空間内に無孔質熱可塑性樹脂シートを設置する工程、無孔質熱可塑性樹脂シートを設置した前記型を高圧容器内に設置する工程、高圧容器内の温度を無孔質熱可塑性樹脂シートの原料である熱可塑性樹脂のガラス転移温度の−30℃〜+20℃に調整し、高圧ガスを無孔質熱可塑性樹脂シートに含浸させる工程、及び高圧容器内の圧力を低下させて無孔質熱可塑性樹脂シート中の高圧ガスを膨張させることにより無孔質熱可塑性樹脂シートを発泡させる工程を含む。
【選択図】 図1
【解決手段】 本発明の多孔質熱可塑性樹脂シートの製造方法は、対向する平坦板の間にスペーサーを設置して所定厚みの空間を設けた型の当該空間内に無孔質熱可塑性樹脂シートを設置する工程、無孔質熱可塑性樹脂シートを設置した前記型を高圧容器内に設置する工程、高圧容器内の温度を無孔質熱可塑性樹脂シートの原料である熱可塑性樹脂のガラス転移温度の−30℃〜+20℃に調整し、高圧ガスを無孔質熱可塑性樹脂シートに含浸させる工程、及び高圧容器内の圧力を低下させて無孔質熱可塑性樹脂シート中の高圧ガスを膨張させることにより無孔質熱可塑性樹脂シートを発泡させる工程を含む。
【選択図】 図1
Description
本発明は、誘電率及び誘電正接が低い多孔質熱可塑性樹脂シート及びその製造方法に関する。当該多孔質熱可塑性樹脂シートは、回路用基板、携帯電話用アンテナなどの高周波回路の材料である低誘電率材料;電磁波シールド、電磁波吸収体などの電磁波制御材;断熱材などの基板材料などに好適に用いられる。
電気絶縁部材は、電力伝送及び電気信号伝送において不可欠なものである。誘電体は電気の導体となり、絶縁性が低下するため、電気絶縁性を得るには低誘電体であることが要求される。従来、ポリエチレンなどの樹脂素材を絶縁材料として用いているが、樹脂素材単独では低誘電化に限界がある。一方、最も低誘電の物質が空気であることは公知である。そのため、樹脂素材に空気相を設けることにより、樹脂素材単独では得難い高い絶縁性、即ち低誘電化が実現できる。通常、樹脂素材に空気相を設ける場合、樹脂素材を多孔化することが行なわれており、様々な材料メーカーから多孔構造を含む絶縁材料が提供されている。
従来、電気絶縁部材は電力伝送に主に用いられていたが、最近は情報伝達および情報処理分野にも適用されており、電気信号伝達の効率化を目的として低誘電材料が用いられている。情報伝達および情報処理分野に用いられる低誘電材料は、従来セラミックスが主流であったが、靭性に乏しく、割れ易い、落下などに対する耐衝撃性が低い、薄層化しにくくモジュール全体の軽量化に対応できない、及び加工性に劣るなどの欠点が露呈してきている。
セラミックスの欠点を克服する手段として、樹脂をマトリクスとした多孔体が注目されている。樹脂はセラミックスと比較して高靭性で破壊しにくい。また、低誘電化を追及し、多孔化を促進すること(一般的に樹脂中の空気相の含有率を空孔率あるいは多孔化率と表現する。多孔化を促進することは空孔率あるいは多孔化率を増大することに等しい。)により、空気相を含まない樹脂マトリクスよりも相対的に大きな柔軟性を付与できるので、耐衝撃性も向上する。その他、空孔率を上げることでシート自体を軽量化できるため、結果的にモジュール全体の軽量化にも貢献できる。
現在は、1つのアンテナでいくつかのアプリケーションを使用する多周波共用アンテナが必要となっている。多周波共用アンテナは、周波数帯の帯域幅を広帯域化することで実現される。平面アンテナを広帯域化する手段としては、無給電放射パッチ素子をマイクロストリップアンテナ放射素子の上部に配置結合したり、給電線に広帯域化整合回路を付加する方法がある。しかし、これら広帯域化手段を用いると、アンテナ装置の構成および設計が複雑化する欠点があった。その他の広帯域化手段としては、アンテナ基板の厚膜化が挙げられる。
また、各種端末内部に用いられる低誘電材料は、基板製造工程中のはんだリフローにおいて高温環境下に暴露される。さらに、端末内部は使用中に高温なるばかりか、長時間の連続稼動も行なわれるため、低誘電材料は絶えず高温環境下に暴露され続ける。したがって、これらの用途において、低誘電材料には高い耐熱性、特に耐熱変形性に優れ、重量減少率が低く、連続使用温度が高いことが求められる。
例えば、耐熱性に優れ、微細なセル構造を有し、しかも相対密度の低い耐熱性ポリマ発泡体であって、耐熱性ポリマからなり、平均気泡径が0.01μm以上、10μm未満の範囲にある耐熱性ポリマ発泡体が提案されている(特許文献1)。また、低吸湿性で、高耐熱性、吸湿寸法安定性、熱寸法安定性および電気的性質に優れた高周波回路基板であって、光学的異方性の溶融相を形成し得る熱可塑性ポリマーからなり、分子配向度が1.3以下であるフィルムを電気絶縁層とする高周波回路基板が提案されている(特許文献2)。
樹脂材料の耐熱性はセラミックスより低い。樹脂材料の耐熱性は、一般に樹脂のガラス転移温度Tgを高くすることにより向上する。薄い多孔質熱可塑性樹脂シートを製造する場合、多孔化剤を含む高Tg樹脂を適当な溶媒に溶解させて溶媒キャスト法により製膜し、その後、加熱または貧溶媒化などの種々の方法により多孔化剤を分離・除去して多孔化する。しかしながら、当該製造方法を厚い多孔質熱可塑性樹脂シートを製造する場合に適用すると以下のような問題が発生する。
(1)溶液の流動性により十分な膜厚を保持できない。厚みもばらつき、平坦性が高い膜が得られない。多孔質熱可塑性樹脂シートをアンテナ基板として実装するとき、シートの歪みにより高密度実装が妨げられる。そのため、多孔質熱可塑性樹脂シートには高い平坦性が要求される。
(2)流動性を抑制すると溶液が高粘度化し、“スジ”の発生などの厚みばらつきによって多孔質熱可塑性樹脂シートの平坦性が低下したり、多孔構造にばらつきが生じる。
(3)溶媒の除去に時間を要する。
(4)乾燥温度を上げると、多孔質熱可塑性樹脂シートの表面に溶媒の突沸によるクレーター状の気泡が発生しやすく、多孔質熱可塑性樹脂シートの多孔構造がばらついたり、膜表面および膜厚が不均一になる。
(5)加熱条件の変化に伴って多孔質熱可塑性樹脂シートの多孔構造が不均一になる。
(1)溶液の流動性により十分な膜厚を保持できない。厚みもばらつき、平坦性が高い膜が得られない。多孔質熱可塑性樹脂シートをアンテナ基板として実装するとき、シートの歪みにより高密度実装が妨げられる。そのため、多孔質熱可塑性樹脂シートには高い平坦性が要求される。
(2)流動性を抑制すると溶液が高粘度化し、“スジ”の発生などの厚みばらつきによって多孔質熱可塑性樹脂シートの平坦性が低下したり、多孔構造にばらつきが生じる。
(3)溶媒の除去に時間を要する。
(4)乾燥温度を上げると、多孔質熱可塑性樹脂シートの表面に溶媒の突沸によるクレーター状の気泡が発生しやすく、多孔質熱可塑性樹脂シートの多孔構造がばらついたり、膜表面および膜厚が不均一になる。
(5)加熱条件の変化に伴って多孔質熱可塑性樹脂シートの多孔構造が不均一になる。
上記理由により、溶媒キャスト法による多孔質熱可塑性樹脂シートの厚膜化と高平坦化の両立は困難であった。
本発明は、シート厚が厚く、かつ平坦性に優れる多孔質熱可塑性樹脂シートの製造方法及び当該製造方法により得られる多孔質熱可塑性樹脂シートを提供することを目的とする。
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討したところ、以下に示す多孔質熱可塑性樹脂シートの製造方法により上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、対向する平坦板の間にスペーサーを設置して所定厚みの空間を設けた型の当該空間内に無孔質熱可塑性樹脂シートを設置する工程、無孔質熱可塑性樹脂シートを設置した前記型を高圧容器内に設置する工程、高圧容器内の温度を無孔質熱可塑性樹脂シートの原料である熱可塑性樹脂のガラス転移温度の−30℃〜+20℃に調整し、高圧ガスを無孔質熱可塑性樹脂シートに含浸させる工程、及び高圧容器内の圧力を低下させて無孔質熱可塑性樹脂シート中の高圧ガスを膨張させることにより無孔質熱可塑性樹脂シートを発泡させる工程を含む多孔質熱可塑性樹脂シートの製造方法、に関する。
無孔質熱可塑性樹脂シートの原料である熱可塑性樹脂のガラス転移温度は70℃以上であることが好ましい。熱可塑性樹脂のガラス転移温度が70℃未満の場合には、多孔質熱可塑性樹脂シートが使用中に高温環境下に曝された際に、軟化又は熱収縮が起こりやすくなる。この時、孔の形状が変化(例えば“つぶれ”など)したり、基板から剥離したりするため、高密度実装の精度が低下したり、低誘電性及び電気絶縁性が悪化する傾向にある。
前記平坦板の各内側面はメッシュ部材を有するか、あるいは離型処理が施されていることが好ましい。それにより、多孔質熱可塑性樹脂シートを破損させることなく型から取り出すことができる。
前記型は、平坦板とスペーサーとを多重に積層することによって所定厚みの空間を複数設けたものであることが好ましい。積層タイプの型を用いることにより、1回の製造工程で同品質の多孔質熱可塑性樹脂シートを複数製造することができるため、製造効率に優れるだけでなく、ロット毎の性能のバラツキを抑制することができる。
前記高圧ガスは、二酸化炭素であることが好ましく、特に亜臨界状態又は超臨界状態の二酸化炭素を用いることが好ましい。
前記製造方法により得られる多孔質熱可塑性樹脂シートは、厚みが1mm以上、空孔率が40〜90%、平均孔径が0.1〜25μmであることが好ましい。また、周波数1GHzにおける誘電率は2.0以下であり、周波数1GHzにおける誘電正接は0.02以下であることが好ましい。
本発明の製造方法によると、シート厚が厚く、かつ平坦性に優れる多孔質熱可塑性樹脂シートが得られる。本発明の多孔質熱可塑性樹脂シートはシート厚が厚いため、回路用基板、携帯電話用アンテナなどの高周波回路の材料である低誘電率材料;電磁波シールド、電磁波吸収体などの電磁波制御材;断熱材などの基板材料などに好適に用いられる。また、本発明の多孔質熱可塑性樹脂シートは平坦性に優れるため、基板として実装する際に高密度実装が可能である。さらに、本発明の多孔質熱可塑性樹脂シートは耐熱性に優れており、また空孔率が高いため軽量であり、誘電率及び誘電正接が低いという特徴がある。また、一般的に多孔質樹脂シートは、空孔が存在するために樹脂密度が低く、引張り及び曲げなどの機械的強度、及び破壊電圧(BDV)などの電気絶縁性に劣る傾向がある。しかし、本発明の多孔質熱可塑性樹脂シートは、平均孔径が小さいため機械的強度及び電気絶縁性に優れている。
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の多孔質熱可塑性樹脂シートの製造方法は、対向する平坦板の間にスペーサーを設置して所定厚みの空間を設けた型の当該空間内に無孔質熱可塑性樹脂シートを設置する工程、無孔質熱可塑性樹脂シートを設置した前記型を高圧容器内に設置する工程、高圧容器内の温度を無孔質熱可塑性樹脂シートの原料である熱可塑性樹脂のガラス転移温度の−30℃〜+20℃に調整し、高圧ガスを無孔質熱可塑性樹脂シートに含浸させる工程、及び高圧容器内の圧力を低下させて無孔質熱可塑性樹脂シート中の高圧ガスを膨張させることにより無孔質熱可塑性樹脂シートを発泡させる工程を含む。
無孔質熱可塑性樹脂シートの原料である熱可塑性樹脂は特に限定されないが、ガラス転移温度(Tg)が70℃以上のものを使用することが好ましく、より好ましくはTgが150℃以上のものである。ただし、Tgが高くなりすぎると脆く割れやすくなったり、耐衝撃性が低下する傾向があるため、Tgは300℃以下のものを用いることが好ましい。非限定的な例として、ポリスチレン、ポリスルフィド、ポリビニルアルコール、ポリメチルメタクリレート、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、超高分子量ポリエチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、及び液晶ポリマーなどが挙げられる。これらは単独で又は2種以上混合して使用できる。
熱可塑性樹脂とともに、ゴム成分及び/又は熱可塑性エラストマー成分を用いていてもよい。ゴム成分及び/又は熱可塑性エラストマー成分を用いることで、面方向に柔軟性が付与され、多孔質熱可塑性樹脂シートを折り曲げたりロール状に巻回してもシワが発生しにくくなる。
無孔質熱可塑性樹脂シートは公知の方法(例えば、押出成形法、カレンダー製膜法など)で作製することができる。
無孔質熱可塑性樹脂シートには、必要に応じて各種添加剤を添加していてもよい。添加剤は特に限定されず、例えば、可塑剤、滑剤、着色剤(顔料、染料等)、紫外線吸収剤、酸化防止剤、老化防止剤、充填剤、補強剤、帯電防止剤、界面活性剤、張力改質剤、収縮防止剤、流動性改質剤、クレイ、加硫剤、表面処理剤、難燃剤、分散助剤、及びポリオレフィン用樹脂改質剤などが挙げられる。
無孔質熱可塑性樹脂シートの厚みは特に制限されないが、通常0.5〜6mm程度である。
以下、本発明の多孔質熱可塑性樹脂シートの製造方法を図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の多孔質熱可塑性樹脂シートの製造方法で用いる型の一実施形態を示す概略断面図である。
型1は、対向する2枚の平坦板2の間にスペーサー3を設けたものであり、所定厚みの空間4を有する。
平坦板2及びスペーサー3の材料は特に制限されず、例えば、ステンレススチールなどの金属、ガラスなどが挙げられる。金属の場合には防錆処理を施しておくことが好ましい。また、平坦板2は、高温高圧下で変形せず、平坦性の高いものを用いる。
スペーサー3の設置場所は特に制限されないが、四角形の平坦板2を用いる場合には、平坦板2の四隅に設置することが好ましい。
また、スペーサー3の高さは、無孔質熱可塑性樹脂シートの厚み、及び作製する多孔質熱可塑性樹脂シートの要求厚みを考慮して適宜調整する。
平坦板2の内側面にはメッシュ部材5を設けておくことが好ましい。それにより、作製した多孔質熱可塑性樹脂シートを破損させることなく型から取り出すことができる。メッシュ部材5の材料は特に制限されず、例えば、ステンレススチールなどの金属などが挙げられる。金属の場合には防錆処理を施しておくことが好ましい。メッシュの番手は特に制限されないが、#40以上のものが好ましい。
平坦板2の内側面にメッシュ部材5を設ける代わりに、平坦板2の内側面に離型処理を施してもよい。
本発明の製造方法においては、まず、前記型1の空間4内に無孔質熱可塑性樹脂シート6を設置する。図2は、型1の空間内に無孔質熱可塑性樹脂シート6を設置した状態を示す概略断面図である。無孔質熱可塑性樹脂シート6は、平坦板2の内側面又はメッシュ部材5に密着させた状態で設置してもよく、作製する多孔質熱可塑性樹脂シートの要求厚みを考慮して隙間を設けて設置してもよい。
また、図3に示すように、平坦板2とスペーサー3とを多重に積層することによって所定厚みの空間を複数設けた積層タイプの型1を用い、各空間内に無孔質熱可塑性樹脂シート6を設置してもよい。図3は、無孔質熱可塑性樹脂シート6を5枚設置できる積層タイプの型1の例を示しているが、高圧容器の容積に応じて型1の積層構造を増減させることができる。
次に、無孔質熱可塑性樹脂シート6を設置した前記型1を高圧容器内に設置する。
次に、高圧容器内の温度を無孔質熱可塑性樹脂シートの原料である熱可塑性樹脂のガラス転移温度の−30℃〜+20℃に調整し、高圧ガスを無孔質熱可塑性樹脂シートに含浸させる。
発泡剤として用いる高圧ガスは、使用する熱可塑性樹脂に対して不活性で且つ含浸可能なものであれば特に制限されず、例えば、二酸化炭素、窒素、ヘリウム、空気、低級アルカン類などが挙げられる。これらのガスは混合して用いてもよい。これらのうち、熱可塑性樹脂への含浸量が多く、含浸速度が速く、安価で環境負荷が小さい等の観点から二酸化炭素を用いることが好ましい。
含浸速度を高める観点から、高圧ガス(特に、二酸化炭素)は、亜臨界状態又は超臨界状態の流体であることが好ましい。亜臨界状態又は超臨界状態では、熱可塑性樹脂へのガスの溶解度が増大し、高濃度の含浸が可能である。また、ガスを高濃度で含浸させた場合、含浸後の急激な圧力降下時において気泡核の発生が多くなり、その気泡核が成長してできる気泡の密度が空孔率が同じであっても大きくなるため、非常に微細な気泡を得ることができる。
高圧容器内の温度は、無孔質熱可塑性樹脂シートの原料である熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)の−30℃〜+20℃に調整することが必要であり、好ましくはTgの−10℃〜+15℃の範囲である。高圧容器内の温度が熱可塑性樹脂のTgの−30℃よりも低い場合には、高圧ガスの含浸速度及び含浸量が極端に低下し、多孔質熱可塑性樹脂シートの空孔率が低くなったり、無孔質熱可塑性樹脂シートが全く発泡しないなどの問題が生じる。長時間高圧ガスを含浸させれば要求する空孔率を達成できる可能性はあるが、生産性が極端に低下するため実際の製造においては採用できない。一方、高圧容器内の温度が熱可塑性樹脂のTgの+20℃よりも高い場合には、無孔質熱可塑性樹脂シートが変形しやすくなったり、後の発泡工程においてガスがシート中から抜けやすくなるため、要求する形状及び空孔率の多孔質熱可塑性樹脂シートが得られない。なお、ガスを高圧容器内に導入する際のガス温度は20℃以上で任意に調整する。また、ガスの導入は連続的に行ってもよく不連続的に行ってもよい。
高圧ガスを無孔質熱可塑性樹脂シートに含浸させるときの圧力は、ガス及び熱可塑性樹脂の種類、目的とする多孔質熱可塑性樹脂シートの平均孔径及び空孔率、並びに操作性等を考慮して適宜選択できるが、通常、7.4〜100MPa程度であり、好ましくは20〜50MPaである。
高圧ガスを無孔質熱可塑性樹脂シートに含浸させる時間は、目的とする多孔質熱可塑性樹脂シートの空孔率、及び生産性を考慮して適宜選択できるが、通常、1〜60分程度であり、好ましくは5〜30分である。
その後、高圧容器内の圧力を低下させて無孔質熱可塑性樹脂シート中の高圧ガスを膨張させることにより無孔質熱可塑性樹脂シートを発泡させて(気泡核を発生させて)、多孔質熱可塑性樹脂シートを製造する。
減圧速度は特に制限されないが、均一な微細気泡を得るため、好ましくは5〜300MPa/s程度である。
必要に応じて、加熱することによって気泡核を成長させる加熱工程を設けてもよい。気泡核を成長させる際の加熱方法としては、ウォーターバス、オイルバス、熱ロール、熱風オーブン、遠赤外線、近赤外線、及びマイクロ波などの公知の方法を採用できる。加熱工程における加熱温度は、例えば、40〜250℃(好ましくは60〜250℃)程度である。また、加熱工程を設けずに、室温で気泡核を成長させてもよい。気泡を成長させた後、必要により冷水などにより急激に冷却し、形状を固定化させて多孔質熱可塑性樹脂シートを製造してもよい。
本発明の製造方法により得られる多孔質熱可塑性樹脂シートは単層である。単層とは、シートの厚さ方向全体にわたって同一の材料によって1つの層が形成されていることを意味しており、同一の材料からなる複数の層を接着剤等により貼り合せたものは含まない。
本発明の多孔質熱可塑性樹脂シートの厚みは1mm以上であり、好ましくは1.2mm以上であり、より好ましくは1.3mm以上である。厚みの上限は特に制限されないが、通常3mm程度である。多孔質熱可塑性樹脂シートの厚みが1mm以上であれば、アンテナ特性において反射特性が低い方向にシフトして広帯域化するという利点が得られる。厚みが1mm未満の場合には、反射特性が大きくなったり、広帯域化し難くなる。
本発明の製造方法により得られる多孔質熱可塑性樹脂シートは、厚みばらつきが小さいという特徴があり、厚みばらつきは通常10μm以下であり、好ましくは8μm以下である。厚みばらつきが10μmを超えると、シートに反り又は歪みが生じ、基板として実装する際に高密度実装が困難になる。なお、厚みばらつきの測定方法は実施例の記載による。
多孔質熱可塑性樹脂シートの空孔率は40〜90%であることが好ましく、より好ましくは50〜80%である。空孔率が40%未満の場合には、誘電率及び誘電正接を低くすることが難しく、また軽量化を図ることも難しい。一方、空孔率が90%を超える場合には、シートの強度が低下する傾向にある。
多孔質熱可塑性樹脂シートの平均孔径は0.1〜25μmであることが好ましく、より好ましくは0.1〜15μmである。平均孔径が0.1μm未満の場合は、十分な空孔率を得難い傾向にある。一方、平均孔径が25μmを超える場合は、シートの強度が低下したり、表面処理加工等でピンホールが生じやすくなって絶縁性が低下する傾向にある。
多孔質熱可塑性樹脂シートの空孔率及び平均孔径は、熱可塑性樹脂、高圧ガスなどの種類に応じて、例えば、ガス含浸工程における温度、圧力、時間などの操作条件、減圧工程における減圧速度、温度などの操作条件、減圧後の加熱工程における加熱温度などを適宜調整することにより目的の範囲に調整することができる。
多孔質熱可塑性樹脂シートの誘電率(ε)は、周波数1GHzにおいて2.0以下であることが好ましく、より好ましくは1.5以下である。誘電率が2.0以下であれば、同じ厚みの誘電体に比べて広域帯幅が広がるという利点がある。誘電率が2.0を超える場合には、広域帯幅が狭くなるためシート厚を厚くしなければならないが、単にシート厚を厚くすると、基板への加工が困難になったり、モジュールの小型化及び軽量化が困難になる。
多孔質熱可塑性樹脂シートの誘電正接(tanδ)は、周波数1GHzにおいて0.02以下であることが好ましく、より好ましくは0.01以下であり、特に好ましくは0.005以下である。誘電正接が0.02を超えると、誘電損失が増大し、信号の伝達効率が低下する。
多孔質熱可塑性樹脂シートは、その片面または両面に粘着剤層を設けることができる。上記粘着剤層を形成するための粘着剤は、特に制限されず、例えば、ウレタン系粘着剤、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ポリアミド系粘着剤、エポキシ系粘着剤、ビニルアルキルエーテル系粘着剤、フッ素系粘着剤などの公知の粘着剤が挙げられる。これらのうち、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤が好ましい。これらの粘着剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、粘着剤の形態は特に限定されず、例えば、水系粘着剤、溶剤型粘着剤、熱溶融型粘着剤(ホットメルト型粘着剤)、UV硬化型粘着剤などが挙げられる。また、粘着剤層は、単層、多層のいずれであってもよい。
多孔質熱可塑性樹脂シートには、予め導電層を設けることができる。導電層は多孔質熱可塑性樹脂シートの少なくとも片面に銅又はニッケルなどをめっき処理することで形成することができる。あるいは、フィルム面に銅、銀又はアルミニウムなどを蒸着させた蒸着フィルム、銅箔又はアルミ箔などの金属箔などを導電層として多孔質熱可塑性樹脂シートに貼着することもできる。
以下、本発明を実施例を上げて説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[測定、評価方法]
(ガラス転移温度の測定)
レオメーター(ティーエー・インスツルメント社製、ARES)を用い、熱可塑性樹脂の損失弾性率の温度変化を測定し、そのピーク値をガラス転移温度(Tg)とした。
(ガラス転移温度の測定)
レオメーター(ティーエー・インスツルメント社製、ARES)を用い、熱可塑性樹脂の損失弾性率の温度変化を測定し、そのピーク値をガラス転移温度(Tg)とした。
(平坦性の評価)
作製した多孔質熱可塑性樹脂シートを目視にて観察し、下記基準で平坦性を評価した。
○:湾曲、歪み、及びシワがない。
×:湾曲、歪み、又はシワがある。
作製した多孔質熱可塑性樹脂シートを目視にて観察し、下記基準で平坦性を評価した。
○:湾曲、歪み、及びシワがない。
×:湾曲、歪み、又はシワがある。
(厚みばらつきの測定)
作製した多孔質熱可塑性樹脂シートを縦25mm×横25mmに切断して測定用サンプルを得た。サンプルの面内を25mm2(5mm×5mm)毎に区分した25区画について、マイクロメータを用いて膜厚を測定した。膜厚の最大値と最小値の差を厚みばらつき(μm)とした。
作製した多孔質熱可塑性樹脂シートを縦25mm×横25mmに切断して測定用サンプルを得た。サンプルの面内を25mm2(5mm×5mm)毎に区分した25区画について、マイクロメータを用いて膜厚を測定した。膜厚の最大値と最小値の差を厚みばらつき(μm)とした。
(平均孔径の測定)
低真空走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジー社製、S−3400N)を用いて、作製した多孔質熱可塑性樹脂シートの任意範囲の拡大画像を取り込み、画像解析ソフト(三谷商事株式会社製、Win ROOF)を用いて画像解析することにより、任意の気泡400個の平均孔径(μm)を求めた。
低真空走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジー社製、S−3400N)を用いて、作製した多孔質熱可塑性樹脂シートの任意範囲の拡大画像を取り込み、画像解析ソフト(三谷商事株式会社製、Win ROOF)を用いて画像解析することにより、任意の気泡400個の平均孔径(μm)を求めた。
(空孔率の測定)
作製した多孔質熱可塑性樹脂シートの比重X、及び多孔質化する前の無孔質熱可塑性樹脂シートの比重Yを比重計を用いてそれぞれ測定し、下記式により空孔率を算出した。なお、無孔質熱可塑性樹脂シートの比重Yは、原料である熱可塑性樹脂の比重に相当する。
空孔率(%)={(比重Y−比重X)/比重Y}×100
作製した多孔質熱可塑性樹脂シートの比重X、及び多孔質化する前の無孔質熱可塑性樹脂シートの比重Yを比重計を用いてそれぞれ測定し、下記式により空孔率を算出した。なお、無孔質熱可塑性樹脂シートの比重Yは、原料である熱可塑性樹脂の比重に相当する。
空孔率(%)={(比重Y−比重X)/比重Y}×100
(誘電率の測定)
作製した多孔質熱可塑性樹脂シートを幅2mm×長さ70mmに切断して評価用サンプルとし、空洞共振器摂動法(アジレントテクノロジー社製、ベクトルネットワークアナライザー8722A、関東電子応用開発製空洞共振器)を用いて、1GHzでの誘電率(ε)の値を測定した。
作製した多孔質熱可塑性樹脂シートを幅2mm×長さ70mmに切断して評価用サンプルとし、空洞共振器摂動法(アジレントテクノロジー社製、ベクトルネットワークアナライザー8722A、関東電子応用開発製空洞共振器)を用いて、1GHzでの誘電率(ε)の値を測定した。
(誘電正接の測定)
作製した多孔質熱可塑性樹脂シートを幅2mm×長さ80mmに切断して評価用サンプルとし、空洞共振器摂動法(アジレントテクノロジー社製、ベクトルネットワークアナライザー8722A、関東電子応用開発製空洞共振器)を用いて、1GHzでの誘電正接(tanδ)の値を測定した。
作製した多孔質熱可塑性樹脂シートを幅2mm×長さ80mmに切断して評価用サンプルとし、空洞共振器摂動法(アジレントテクノロジー社製、ベクトルネットワークアナライザー8722A、関東電子応用開発製空洞共振器)を用いて、1GHzでの誘電正接(tanδ)の値を測定した。
実施例1
熱可塑性樹脂としてポリエーテルイミド(SABIC社製、商品名「ウルテム1000」、Tg:217℃、比重:1.27)を用いた。Tダイを設けた二軸押出機を用い、340℃でポリエーテルイミドを混練し、押出成形して無孔質ポリエーテルイミドシート(厚みt:0.96mm、縦l:35.9mm、横w:35.7mm)を作製した。
熱可塑性樹脂としてポリエーテルイミド(SABIC社製、商品名「ウルテム1000」、Tg:217℃、比重:1.27)を用いた。Tダイを設けた二軸押出機を用い、340℃でポリエーテルイミドを混練し、押出成形して無孔質ポリエーテルイミドシート(厚みt:0.96mm、縦l:35.9mm、横w:35.7mm)を作製した。
PID制御の温調機、断熱材、及び温度センサーを備えた、容量990ccの高圧容器内に図1記載の金型(金属板:厚さ8mm、縦80mm、横80mm、金属スペーサー:厚さ1.6mm、縦50mm、横10mm、金属メッシュ:#40)を入れ、高圧容器内を220℃に加熱した。220℃に安定した後、前記金型の空間部分に前記無孔質ポリエーテルイミドシートを設置した。高圧容器を密閉した後、25MPa、25℃の二酸化炭素を高圧容器内に注入した。高圧容器内に二酸化炭素が注入されると二酸化炭素の圧力が瞬間的に低下するので、高圧容器内の二酸化炭素の圧力が25MPaになるまで二酸化炭素の充填を行った。その後、15分間保持して、二酸化炭素を無孔質ポリエーテルイミドシートに含浸させた。その後、高圧容器内を急速減圧して、無孔質ポリエーテルイミドシート中の二酸化炭素を膨張させて(発泡させて)、多孔質ポリエーテルイミドシート(厚みt:1.34mm、縦l:43.2mm、横w:42.7mm)を作製した。
実施例2〜5、比較例1及び2
表1記載の寸法の無孔質ポリエーテルイミドシートを用い、表1記載の高圧容器内の温度及び含浸時間(保持時間)を採用した以外は実施例1と同様の方法で多孔質ポリエーテルイミドシートを作製した。
表1記載の寸法の無孔質ポリエーテルイミドシートを用い、表1記載の高圧容器内の温度及び含浸時間(保持時間)を採用した以外は実施例1と同様の方法で多孔質ポリエーテルイミドシートを作製した。
実施例1〜5の多孔質ポリエーテルイミドシートは、シート厚が厚く、かつ平坦性に優れるものであった。また、要求される空孔率、誘電率、及び誘電正接をすべて満たしていた。一方、比較例1の多孔質ポリエーテルイミドシートは、歪みが発生し、空孔率は非常に小さかった。比較例2では、無孔質ポリエーテルイミドシートが全く発泡しなかった。
本発明の多孔質熱可塑性樹脂シートは、回路用基板、携帯電話用アンテナなどの高周波回路の材料である低誘電率材料;電磁波シールド、電磁波吸収体などの電磁波制御材;断熱材などの基板材料などに好適に用いられる。
1:型
2:平坦板
3:スペーサー
4:空間
5:メッシュ部材
6:無孔質熱可塑性樹脂シート
2:平坦板
3:スペーサー
4:空間
5:メッシュ部材
6:無孔質熱可塑性樹脂シート
Claims (10)
- 対向する平坦板の間にスペーサーを設置して所定厚みの空間を設けた型の当該空間内に無孔質熱可塑性樹脂シートを設置する工程、無孔質熱可塑性樹脂シートを設置した前記型を高圧容器内に設置する工程、高圧容器内の温度を無孔質熱可塑性樹脂シートの原料である熱可塑性樹脂のガラス転移温度の−30℃〜+20℃に調整し、高圧ガスを無孔質熱可塑性樹脂シートに含浸させる工程、及び高圧容器内の圧力を低下させて無孔質熱可塑性樹脂シート中の高圧ガスを膨張させることにより無孔質熱可塑性樹脂シートを発泡させる工程を含む多孔質熱可塑性樹脂シートの製造方法。
- 前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度が70℃以上である請求項1記載の多孔質熱可塑性樹脂シートの製造方法。
- 前記平坦板の各内側面はメッシュ部材を有する請求項1又は2記載の多孔質熱可塑性樹脂シートの製造方法。
- 前記平坦板の各内側面は離型処理が施されている請求項1又は2記載の多孔質熱可塑性樹脂シートの製造方法。
- 前記型は、平坦板とスペーサーとを多重に積層することによって所定厚みの空間を複数設けたものである請求項1〜4のいずれかに記載の多孔質熱可塑性樹脂シートの製造方法。
- 前記高圧ガスが、二酸化炭素である請求項1〜5のいずれかに記載の多孔質熱可塑性樹脂シートの製造方法。
- 前記二酸化炭素が、亜臨界状態又は超臨界状態である請求項6記載の多孔質熱可塑性樹脂シートの製造方法。
- 請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法により得られる多孔質熱可塑性樹脂シート。
- 厚みが1mm以上、空孔率が40〜90%、平均孔径が0.1〜25μmである請求項8記載の多孔質熱可塑性樹脂シート。
- 周波数1GHzにおける誘電率が2.0以下であり、周波数1GHzにおける誘電正接が0.02以下である請求項8又は9記載の多孔質熱可塑性樹脂シート。
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- 2012-07-06 JP JP2012152698A patent/JP2014015514A/ja active Pending
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